(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】荷落下防止装置およびホイスト
(51)【国際特許分類】
B66D 5/04 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B66D5/04
(21)【出願番号】P 2022522543
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012317
(87)【国際公開番号】W WO2021229923
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2020083466
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】100120101
【氏名又は名称】畑▲崎▼ 昭
(72)【発明者】
【氏名】城田 明典
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-052197(JP,A)
【文献】特開2010-111464(JP,A)
【文献】実開昭52-030587(JP,U)
【文献】特開昭58-156732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンが掛け回されたロードシーブの巻下げ方向への回転を止めて荷の落下を防止する荷落下防止装置であって、
前記ロードシーブに設けられ、ロードシーブの軸方向に伸延して設けられている伸張部と、
前記伸張部に設けられ、外周面から凹状に凹んでいる収納凹部と、
前記収納凹部に収納されているストッパ部材と、
前記ロードシーブの回転速度による遠心力が規定値よりも小さい場合には前記ストッパ部材を保持して前記収納凹部に収納されている状態を維持すると共に、前記遠心力が前記規定値以上となる場合には前記ストッパ部材の保持を解除する保持手段と、
前記ロードシーブを回転自在な状態で前記伸張部を挿通させる挿通孔を有する
と共に回転不能なフレームに固定されている係止用プレートと、を備え、
前記係止用プレートには、
前記挿通孔の内壁から凹んでいると共に、前記遠心力により前記収納凹部から突出した前記ストッパ部材が入り込む係止凹部と、
前記係止凹部の巻下げ方向の端部である一端側に設けられ、前記ストッパ部材が衝突することで前記ロードシーブの回転を停止させる係止壁と、
が形成されていることを特徴とする荷落下防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷落下防止装置であって、
前記保持手段は、保持用磁石を備えていて、前記保持用磁石は前記収納凹部に形成された磁石取付穴に取り付けられていると共に、
前記保持用磁石は磁力によって前記ストッパ部材を保持して前記収納凹部に収納されている状態を維持する、
ことを特徴とする荷落下防止装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の荷落下防止装置であって、
前記係止凹部の巻上げ方向の端部である他端側には、前記ロードシーブの径方向に対して前記係止壁よりも大きな傾斜角度で傾斜しているテーパ壁が設けられていて、
前記テーパ壁は、前記収納凹部から突出した前記ストッパ部材を当接させた状態で前記ロードシーブを巻上げ方向に回転させることで、当該ストッパ部材が前記収納凹部の内部に復帰する、
ことを特徴とする荷落下防止装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷落下防止装置であって、
前記ストッパ部材のうち前記係止凹部と対向する側にはストッパ用磁石が取り付けられている、
ことを特徴とする荷落下防止装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の荷落下防止装置を備えることを特徴とするホイスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷落下防止装置およびホイストに関する。
【背景技術】
【0002】
荷物を昇降および引き寄せたり、荷物をスリング等で固定する(荷締めする)等の作業のために、レバーホイストが広く用いられている。このレバーホイストは、手で操作レバーを操作することで、チェーンの巻上げ(巻取り)および巻下げ(巻戻し)を行える。このようなレバーホイストとしては、たとえば特許文献1に示すものがある。特許文献1に示すレバーホイストでは、従来からあるブレーキ機構(メカニカルブレーキ)の他に、フレーム(2B)よりも操作ハンドル(12)側に、2つの遠心力部材(31)およびその遠心力部材(31)を収納するハウジングリング(35)が設けられている。この遠心力部材(31)は、遠心力の作用によって、ハウジングリング(35)の内周面に押し付けられる。それにより、ブレーキ機構が正常に作用しない場合にも荷が落下する速度を低下させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホイスト類(レバーホイストやチェーンブロック)の巻上げに際して、外周に多数のラチェット歯が形成された爪車と、このラチェット歯と噛み合う爪部材を備えたラチェット機構を有するブレーキ機構に、例えば爪車のラチェット歯と爪部材との噛み合いの不具合や損傷が発生すると、メカニカルブレーキが機能しなくなる虞がある。メカニカルブレーキが機能しなくなると、荷の荷重の作用によってチェーンを巻き取るロードシーブが勢い良く回転(逆転)し始め荷を落下させてしまう虞がある。
【0005】
ここで、メカニカルブレーキが故障した場合、特許文献1に開示の構成では、遠心力の作用によって、遠心力部材(31)がハウジングリング(35)の内周面に押し付けられることで、荷の落下速度(すなわち、爪車の回転速度)を遅くすることはできる。しかしながら、荷が落下するのを停止させることはできない。また、特許文献1に開示の構成では、仮に減速ギヤが破損した場合には、荷の落下速度を減速させることもできない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、ブレーキ機構が正常に機能しない場合にも、荷の落下を防止することが可能であると共に、減速ギヤが破損しても荷の落下を防止することが可能な荷落下防止装置およびホイストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、チェーンが掛け回されたロードシーブの巻下げ方向への回転を止めて荷の落下を防止する荷落下防止装置であって、ロードシーブの軸方向に伸延して設けられている伸張部と、伸張部に設けられ、外周面から凹状に凹んでいる収納凹部と、収納凹部に収納されているストッパ部材と、ロードシーブの回転速度による遠心力が規定値よりも小さい場合にはストッパ部材を保持して収納凹部に収納されている状態を維持すると共に、遠心力が規定値以上となる場合にはストッパ部材の保持を解除する保持手段と、ロードシーブを回転自在な状態で伸張部を挿通させる挿通孔を有する係止用プレートと、を備え、係止用プレートには、挿通孔の内壁から凹んでいると共に、遠心力により収納凹部から突出したストッパ部材が入り込む係止凹部と、係止凹部の巻下げ方向の端部である一端側に設けられ、ストッパ部材が衝突することでロードシーブの回転を停止させる係止壁と、が形成されていることを特徴とする荷落下防止装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、保持手段は、保持用磁石を備えていて、保持用磁石は収納凹部に形成された磁石取付穴に取り付けられていると共に、保持用磁石は磁力によってストッパ部材を保持して収納凹部に収納されている状態を維持する、ことが好ましい。
【0009】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、係止凹部の巻上げ方向の端部である他端側には、径方向に対して係止壁よりも大きな傾斜角度で傾斜しているテーパ壁が設けられていて、テーパ壁は、ストッパ部材を当接させた状態でロードシーブを巻上げ方向に回転させることで、当該ストッパ部材が収納凹部の内部に復帰する、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、ストッパ部材のうち係止凹部と対向する側にはストッパ用磁石が取り付けられている、ことが好ましい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によると、上述の発明に係る荷落下防止装置を備えることを特徴とするホイストが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ブレーキ機構が正常に機能しない場合にも、荷の落下を防止することが可能であると共に、減速ギヤが破損しても荷の落下を防止することが可能な荷落下防止装置およびホイストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のレバーホイスト用動力伝達装置が取り付けられるレバーホイストの構成の一例を示す正面図である
【
図2】
図1に示すレバーホイストの構成を示す断面図である。
【
図3】
図1に示すレバーホイストのうち、ブレーキ装置付近を拡大して示す部分的な断面図である。
【
図4】
図1に示すレバーホイストのうち、伸張部および係止用プレート付近の構成を示す断面図である。
【
図5】
図4に示す伸張部の収納凹部および係止用プレート付近を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係る、ホイストとしてのレバーホイスト10について、図面に基づいて説明する。
【0015】
<レバーホイストの全体構成について>
以下の説明においては、X方向は、ギヤボックス34と早回しニギリ60(以下「遊転ニギリ」という。)の間に配置される駆動軸の軸線方向とし、X1側は遊転ニギリ60が取り付けられる側とし、X2側はそれとは逆のギヤボックス34側とする。また、Z方向はレバーホイスト10の懸吊状態における鉛直方向(懸吊方向;巻上げ下げ方向)とし、Z1側は懸吊状態における上側とし、Z2側は懸吊状態における下側とする。
【0016】
図1はレバーホイスト10の構成の一例を示す正面図である。
図2は、
図1に示すレバーホイスト10の構成を示す断面図である。
【0017】
図2に示すように、レバーホイスト10が備える一対のフレーム11,12の間には、チェーンC1を掛け回すロードシーブ20が回転自在な状態で支持されている。このロードシーブ20には、後述する減速ギヤ30の小径ギヤ部32と噛み合うロードギヤ21が一体的に成型されている。なお、ロードシーブ20の構成の詳細については、後述する。
【0018】
また、ロードシーブ20には、軸方向(X方向)に貫く挿通孔20aがあり、この挿通孔20aには、駆動軸25が挿通されている。駆動軸25の中途の外周には後述するメネジ部材35と噛み合う雄ネジ部26が設けられると共に、駆動軸25の他端側(X2側)には減速ギヤ30の大径ギヤ部31に噛み合うピニオンギヤ27が設けられている。また、減速ギヤ30には、上述したロードギヤ21と噛み合う小径ギヤ部32も一体的に設けられている。
【0019】
なお、フレーム11にはケーシング13が取り付けられ、上述した減速ギヤ30やロードギヤ21等の駆動部位を保護している。また、上述した雄ネジ部26は、メネジ部材35の雌ネジ部36と噛み合っている。このメネジ部材35には、雌ネジ部36の他に、下方位置(Z2側)で切換爪40と噛み合い可能な切換歯車37もその周縁部に設けられている。切換爪40は、たとえば一方側と他方側に1つずつ操作レバー50に設けられているラチェット爪であり、この切換爪40が切換歯車37と噛み合った状態で後述する操作レバー50を回動させることで、メネジ部材35に駆動力を伝達させる。
【0020】
また、切換爪40と同軸となる状態で切換ツマミ45が取り付けられ、その切換ツマミ45の切り換え操作によって、メネジ部材35への駆動力の伝達を、巻上げ方向とするか、または巻下げ方向とするかを切り換え可能となっている。たとえば、切換ツマミ45の下側(Z2側)を
図1において左側に倒すと巻上げ用の切換爪40が切換歯車37と噛み合う。それにより、操作レバー50を回動させる動作を繰り返した場合、切換歯車37は巻上げ方向には回転するが巻下げ方向には回転しない。このとき、チェーンC1の巻上げ状態に対応する。
【0021】
また、駆動軸25には、該駆動軸25に対して回転不能な状態でカム部材55が取り付けられ、さらにカム部材55よりも軸方向(X方向)の一端側(X1側)に遊転ニギリ60と呼ばれる部材も駆動軸25に取り付けられている。この遊転ニギリ60は、巻上げ時および巻下げ時には、
図2に示すように、軸方向(X方向)の他方側(X2側)に向かって押し込まれている。しかしながら、中立位置(中立状態)では、軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出すことができる。遊転ニギリ60を軸方向(X方向)の一方側(X1側)に引き出した場合、レバーホイスト特有のブレーキ解除状態(遊転状態)となり、手等でチェーンC1を把持しながら巻上げ側および巻下げ側のいずれの方向にも引き出すことができる。
【0022】
<ブレーキ装置70について>
図3は、
図1に示すレバーホイストのうち、ブレーキ装置70(メカニカルブレーキ)付近を拡大して示す部分的な断面図である。
図2および
図3に示すように、ロードシーブ20と連動する駆動軸25には、ブレーキ装置70が配置されている。ブレーキ装置70は、駆動軸25の雄ネジ部26、メネジ部材35、ブレーキ受け71、ブレーキ板72a,72b、爪車80、爪部材90、爪軸91、ブッシュ92等を主要な構成要素としている。
【0023】
ブレーキ受け71は、フランジ部71aと、中空ボス部71bとを有している。フランジ部71aは、中空ボス部71bよりも大径に設けられている部分であり、ブレーキ板72aを受け止めることが可能となっている。
【0024】
中空ボス部71bは、フランジ部71aよりもメネジ部材35側(X1側)に位置し、ブッシュ92を介して爪車80を軸支する。なお、中空ボス部71bの内周側は、キー結合またはスプライン結合等によって駆動軸25と噛み合うことで、駆動軸25とブレーキ受け71とが一体的に回転する。
【0025】
また、フランジ部71aと爪車80との間、及びメネジ部材35と爪車80との間には、それぞれブレーキ板72a,72bが中空ボス部71bに軸支されている。ブレーキ板72a,72bは、たとえば所定の材料を焼結等して形成された摩擦材である。
【0026】
また、
図3に示すように、ブレーキ受け71の中空ボス部71bの外周側には、ブッシュ92が設けられ、そのブッシュ92の外周側には爪車80が設けられている。
【0027】
また、フレーム12には爪軸91が取り付けられていて、その爪軸91には爪部材90が回動可能に支持されている。また、爪軸91には、ねじりばね93のコイル部93aが取り付けられていて、爪部材90が爪車80のラチェット歯83に押し付けられる向きの付勢力をねじりばね93が与えている。なお、爪部材90は一対設けられていて、爪車80の周方向において、駆動軸25の中心軸に対して互いに点対称に配置されている。
【0028】
<ロードシーブ20および荷落下防止装置100について>
次に、ロードシーブ20および荷落下防止装置100について説明する。なお、荷落下防止装置100は、伸張部23、収納凹部24、ストッパ部材110、保持用磁石120および係止用プレート130を主要な構成要素としている。
【0029】
図4は、荷落下防止装置100付近の構成を示す断面図である。
図5は、
図4に示す荷落下防止装置100付近の構成のうち、ストッパ部材110および係止凹部132付近の構成を拡大して示す部分的な断面図である。
【0030】
本実施の形態では、ロードシーブ20には、チェーンC1が嵌まり込むポケット部22よりも軸方向(X方向)において遊転ニギリ60側(操作レバー50が配置される側)に延伸している円筒状の伸張部23が設けられている。この伸張部23には、その外周面から径方向の中央に向かって凹んでいる収納凹部24が設けられていて、その収納凹部24にはストッパ部材110が収納されている。ストッパ部材110は、
図5に示すように、外観がたとえば直方体状に設けられたブロック体である。
【0031】
また、収納凹部24の底面24aには、磁石取付穴24bが設けられていて、その磁石取付穴24bには、保持用磁石120が取り付けられている。さらに、ストッパ部材110にも磁石取付穴111が設けられていて、その磁石取付穴111は底面24aと対向する面から凹むように設けられている。この磁石取付穴111にも、ストッパ用磁石113が取り付けられている。なお、ストッパ用磁石113および保持用磁石120は、保持手段に対応する。なお、保持用磁石120を取り付けるための磁石取付穴24bは、収納凹部24の底面24aに形成されていても良く、収納凹部24の側面に形成されていても良い。
【0032】
ここで、保持用磁石120とストッパ用磁石113の間には、互いに引き合う向きの力が作用している。このため、ロードシーブ20の回転速度が小さく規定値以上の遠心力がストッパ部材110に作用しない状態では、ストッパ部材110は、収納凹部24に収納されている。加えて、保持用磁石120とストッパ用磁石113の間の磁力の作用により、ストッパ部材110が収納凹部24に収納されている状態のとき、ストッパ部材110の外周面は、伸張部23の外周面よりも径方向の外側には突出しない。このため、規定値以上の遠心力が作用しない状態では、ストッパ部材110によっては、ロードシーブ20の回転は妨げられない状態となっている。
【0033】
また、伸張部23の外周を覆うように、係止用プレート130が設けられている。係止用プレート130は、ストッパ部材110が衝突してロードシーブの回転を止めるためにフレーム12に固定された強度部材であり、かつ、磁力吸引が可能な磁性材(軟磁性材)を材質として形成されている。この係止用プレート130には挿通孔131が設けられていて、その挿通孔131の内壁面131aと伸張部23の外周面との間には、若干の隙間が設けられている。それにより、伸張部23は、挿通孔131に対して回転自在な状態となっている。
【0034】
また、係止用プレート130には、係止凹部132が設けられている。係止凹部132は、ロードシーブ20の回転中心に対し挿通孔131の内壁面131aよりも径方向の外側に凹むと共に周方向に所定の長さだけ設けられている。この係止凹部132は、上述したストッパ部材110の一部が入り込む深さの凹部である。
【0035】
なお、係止凹部132は、ストッパ部材110が入り込むことが可能なように十分な長さに設けられている。このため、ロードシーブの回転速度が大きくなりストッパ部材110に規定以上の遠心力が作用すると、この係止凹部132に収納凹部24から突出したストッパ部材110の一部(ストッパ部材の径方向厚さの1/3~半分程度)が入り込む。
【0036】
この係止凹部132の周方向の一端側には、係止壁133が設けられている。係止壁133は、ストッパ部材110が衝突することでロードシーブ20の回転を停止させるための壁面である。
【0037】
また、係止凹部132の周方向の他端側には、テーパ壁134が設けられている。テーパ壁134は、たとえばレバーホイスト10を落下させる等によってストッパ部材110が不用意に飛び出してしまった場合に、ストッパ部材110を収納凹部24の内部に収納させる(復帰させる)ための斜面である。このため、テーパ壁134は、径方向に対して比較的大きな傾斜角度に設けられている。なお、上記のような比較的大きな傾斜角度としては、たとえば45度以上が好ましく、60度以下がより好ましい。
【0038】
ここで、テーパ壁134が設けられる位置は、次のように設定することができる。まず、正常な状態では、荷落下防止装置100が働くよりも前に、ブレーキ装置70が作動するので、荷落下防止装置100が作動する場合、(1)ブレーキ装置70に何等かの不具合があるか、または(2)レバーホイスト10を持ち運んでいる場合に落下させてしまった場合等が考えられる。
【0039】
ここで、上記(1)のように、荷を吊り下げている状態で、荷落下防止装置100が作動して係止壁133にストッパ部材110が衝突した状態を考える。この場合、上記のようにブレーキ装置70に何等かの不具合があってブレーキ装置70が作動しないので、少しだけ操作レバー50を操作しただけでストッパ部材110が収納凹部24に復帰してしまうと、荷が再び落下してしまう虞がある。一方、荷を吊り下げている状態で、操作レバー50を半回転以上連続して操作することは、非常に困難である。しかしながら、上記の(2)のように、レバーホイスト10を持ち運んでいる場合には、荷を吊り下げていないので、操作レバー50を半回転以上操作することは容易である。
【0040】
したがって、係止壁133にストッパ部材110が衝突している場合において、操作レバー50を半回転以上操作したときに、ストッパ部材110が収納凹部24に復帰するような位置に、テーパ壁134を設けるようにすることが好ましい。ここで、減速ギヤ30による減速比を考慮すると、たとえばロードシーブ20と駆動軸25との減速比が1:7の場合、180~360/7=26~51度程度、係止壁133から周方向に離れた位置に、テーパ壁134を設けることが好ましい。
【0041】
なお、係止凹部132に入り込んだストッパ部材110を保持するために、係止凹部132のうち、伸張部23から離れる底部側に磁石(係止側磁石)を配置するようにしても良い。この場合、係止凹部132の底部で係止壁133付近に磁石取付穴を設け、この磁石取付穴に係止側磁石を取り付けるようにしても良い。なお、係止側磁石は、ストッパ用磁石113と共に設けても良く、ストッパ用磁石113に代えて設けるようにしても良い。
【0042】
また、ストッパ用磁石113による吸着力を調節する目的で、磁石取付穴111の底部に磁力調整孔114を設けるようにしてもよい。この磁力調整孔114は、ストッパ用磁石113と磁石取付穴111の底部との接触面積を減らすなどして、磁力調整を行うための孔である。なお、磁力調整孔114は、丸孔であることが好ましい。磁力調整孔114が丸孔である場合には、その孔径の製造上の管理が容易となる。また、製造上の管理が容易となることから、磁気による吸着力を精度良く微調整することが可能となる。なお、磁力調整孔114は、丸孔に限られるものではなく、長孔や矩形孔等、種々の形状を採用することができ、また非貫通の穴形状とすることも可能である。
【0043】
<作用効果について>
以上のような構成の荷落下防止装置100およびホイスト(レバーホイスト1)は、ロードシーブ20に設けられ、ロードシーブ20の軸方向に伸延して設けられている伸張部23と、伸張部23に設けられ、外周面から凹状に凹んでいる収納凹部24と、収納凹部24に収納されているストッパ部材110と、ロードシーブ20の回転速度による遠心力が規定値よりも小さい場合にはストッパ部材110を保持して収納凹部24に収納されている状態を維持すると共に、遠心力が規定値以上となる場合にはストッパ部材110の保持を解除する保持手段(ストッパ用磁石113および保持用磁石120)を備える。また、荷落下防止装置100およびレバーホイスト10は、ロードシーブ20を回転自在な状態で伸張部23を挿通させる挿通孔131を有する係止用プレート130を備える。この係止用プレート130には、挿通孔131の内壁から凹んでいると共に、遠心力により収納凹部24から突出したストッパ部材110が入り込む係止凹部132と、係止凹部132の巻下げ方向の端部である一端側に設けられ、ストッパ部材110が衝突することでロードシーブ20の回転を停止させる係止壁133と、が形成されている。
【0044】
このように構成する場合には、ロードシーブ20(伸張部23)が回転し、ストッパ部材110に作用する遠心力が規定値以上となると、ストッパ部材110に作用する遠心力により、保持手段(ストッパ用磁石113および保持用磁石120)によるストッパ部材110の保持が解除される。それにより、ストッパ部材110が収納凹部24から突出して、係止凹部132に入り込む。そして、係止凹部132に入り込んだストッパ部材110が係止壁133に衝突することで、ロードシーブ20(伸張部23)の回転が停止させられる。
【0045】
このため、ブレーキ装置70または減速機構が破損してロードシーブ20が荷の重さにより急回転しても、遠心力を利用して、ロードシーブ20の回転を停止させることができる。したがって、荷の落下を防止することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、ロードシーブ20と一体的な伸張部23の伸張部23に収納凹部24を設けていて、その収納凹部24にストッパ部材110を収納している。このため、規定値以上の遠心力がロードシーブ20およびストッパ部材110に作用する場合には、収納凹部24からストッパ部材110を突出させて、該ストッパ部材110を係止凹部132に入り込ませることで、ロードシーブ20の回転を直接停止させることができる。このため、仮に減速ギヤ30のいずれかで破損が生じた場合でも、ロードシーブ20の回転を停止させることができる。したがって、一層安全性の高い荷落下防止装置100およびレバーホイスト10とすることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、保持手段は、保持用磁石120を備えていて、保持用磁石120は収納凹部24に形成された磁石取付穴24bに取り付けられていると共に、保持用磁石120は磁力によってストッパ部材110を保持して収納凹部24に収納されている状態を維持している。
【0048】
このように、保持用磁石120を用いてストッパ部材110を収納凹部24内に保持させるので、どの程度の遠心力が作用した際にストッパ部材110が収納凹部24内から突出するのかを管理し易くなる。すなわち、保持手段がバネにより突出するプランジャを備える場合と比較して、面倒なバネ力の管理(トルク管理)の必要が不要となる。なお、磁石取付穴24bは収納凹部24の底面全体に広がっているものでも良い。この場合、保持用磁石120が収納凹部24の底面全体に広がる平板状のものでも良く、複数の保持用磁石120を、収納凹部24の底面全体に広がる磁石取付穴24bに取り付けるようにしても良い。
【0049】
また、本実施の形態では、係止凹部132の巻上げ方向の端部である他端側には、径方向に対して係止壁133よりも大きな傾斜角度で傾斜しているテーパ壁134が設けられていて、このテーパ壁134は、ストッパ部材110を当接させた状態でロードシーブ20を巻上げ方向に回転させることで、ストッパ部材110が収納凹部24の内部に復帰する。
【0050】
このように構成する場合には、操作レバー50の操作によってロードシーブ20を巻上げ方向に回転させ、ストッパ部材110はテーパ壁134を摺動させることで、ストッパ部材110を収納凹部24の内部に収納させる(復帰させる)ことができる。このため、たとえばレバーホイスト10を落下させる等によってストッパ部材110が不用意に飛び出してしまった場合に、レバーホイスト10を分解することなく、ストッパ部材110を収納凹部24内に収納させる(復帰させる)ことが可能となる。
【0051】
また、本実施の形態では、ストッパ部材110のうち係止凹部132と対向する側にはストッパ用磁石113が取り付けられている。このため、規定値以上の遠心力がストッパ部材110に作用して、ストッパ部材110が突出して係止凹部132に入り込んだ場合に、ストッパ用磁石113が係止凹部132の底面に磁力吸引される。このため、ストッパ部材110が収納凹部24に戻らず突出した状態を維持できるので、ロードシーブ20の不意な回転(巻下げ方向への回転)を停止させることができる。
【0052】
<変形例>
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0053】
上述の実施の形態では、荷落下防止装置100が、レバーホイスト10に適用された場合について説明している。しかしながら、上記のブレーキ装置は、たとえばチェーンブロック等のような、レバーホイスト以外の巻上機に適用しても良い。
【0054】
また、上述の実施の形態では、ストッパ用磁石113および保持用磁石120を保持手段として説明している。しかしながら、保持手段は、ストッパ用磁石113および保持用磁石120には限られない。たとえば、保持手段は、プランジャと、プランジャを突出させるバネとが、収納凹部24の側面に形成された穴部に格納された構成であっても良い。
【0055】
また、上述の実施の形態では、保持手段は、ストッパ用磁石113および保持用磁石120から構成されている。しかしながら、ストッパ部材110が磁性材(軟磁性材)から構成される場合には、ストッパ用磁石113および保持用磁石120のいずれか1つのみを備える構成であっても良い。
【0056】
また、ストッパ部材は、矩形以外の形状であっても良い。たとえば、
図4に示すような断面図においてストッパ部材を台形状に設け、その台形の平行な2辺のうち長さの短い側を底面24aに位置させるようにしても良い。また、ストッパ部材は、ピンを支点として回転するように構成しても良い。
【0057】
また、ロードシーブの伸張部は、遊転ニギリ側に延伸している例が示されているが、ロードギヤ側に延伸させた伸張部でも良い。また、駆動軸がロードシーブの中心部を貫通しないホイストでは、円筒状ではなく中実の軸状の伸張部であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…レバーホイスト、11…フレーム、12…フレーム、13…ケーシング、20…ロードシーブ、20a…挿通孔、21…ロードギヤ、22…ポケット部、23…伸張部、24…収納凹部、24a…底面、24b…磁石取付穴、25…駆動軸、26…雄ネジ部、27…ピニオンギヤ、30…減速ギヤ、31…大径ギヤ部、32…小径ギヤ部、34…ギヤボックス、35…メネジ部材、36…雌ネジ部、37…切換歯車、40…切換爪、45…切換ツマミ、50…操作レバー、55…カム部材、60…遊転ニギリ、65…フランジ部、70…ブレーキ装置、71…ブレーキ受け、71a…フランジ部、71b…中空ボス部、72a…ブレーキ板、72b…ブレーキ板、80…爪車、83…ラチェット歯、90…爪部材、91…爪軸、92…ブッシュ、93…ねじりばね、93a…コイル部、100…荷落下防止装置、110…ストッパ部材、111…磁石取付穴、113…ストッパ用磁石(保持手段の一部に対応)、120…保持用磁石(保持手段の一部に対応)、130…係止用プレート、131…挿通孔、131a…内壁面、132…係止凹部、133…係止壁、134…テーパ壁、C1…チェーン