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特許7537860電気光学移相器のための温度フィードバック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】電気光学移相器のための温度フィードバック
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/015 20060101AFI20240814BHJP
   G02F 1/025 20060101ALI20240814BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20240814BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G02F1/015 502
G02F1/025
G01S7/481 A
G01S7/497
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019007003
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2019128597
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】62/619,156
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ニクラス カスパース
(72)【発明者】
【氏名】ベーナム ベーローズプア
(72)【発明者】
【氏名】ペドラム ラジェヴァルディ
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-061556(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0315424(US,A1)
【文献】特開2012-058432(JP,A)
【文献】特開2005-158917(JP,A)
【文献】特開平08-195528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0124251(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0003767(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131615(US,A1)
【文献】Pedro Andrei Krochin Yepez et al.,Novel Measures for Thermal Management of Silicon Photonic Optical Phased Arrays,IEEE Photonics Journal,IEEE,2019年08月,Vol. 11, No. 4,pp. 6602415-1 - 6602415-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
1/21 - 7/00
G01S 7/48 - 7/51
17/00 -17/95
H01S 5/00 - 5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から光を受信するために前記光源に接続されており、前記光を出力部に伝搬するように構成されている導波路と、
前記導波路に組み込まれており、電気接点を有する移相器であって、当該移相器における前記導波路の屈折率を変化させるように制御可能である移相器と、
前記電気接点において前記移相器に電気的に接続されており、前記屈折率を変化させるために前記移相器に印加される電流及び/又は電圧を制御するように動作可能である移相制御部と、
同じ前記電気接点において前記移相器に電気的に接続されており、前記移相器の温度を表す信号を生成するように動作可能である温度検出コンポーネントと、
前記移相制御部及び前記温度検出コンポーネントに接続されている制御装置であって、前記移相制御部によって前記移相器に印加される電流及び/又は電圧を、前記温度検出コンポーネントによって生成された信号に基づいて調整するように動作可能である制御装置と、
を備えている光送信機であって、
前記導波路の前記移相器は、PN接合部を含み、
前記電気接点は、前記PN接合部にあり、
前記制御装置は、前記移相制御部の動作を中断し、前記移相制御部の動作が中断されている間に前記温度検出コンポーネントを動作させる温度検出モードで動作可能であるように構成されている、光送信機。
【請求項2】
前記温度検出コンポーネントは、絶対温度比例(PTAT)回路である、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記制御装置は、所定の期間にわたって前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記移相制御部の動作中に所定の間隔で前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記所定の間隔で所定の期間にわたって前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項4に記載の光送信機。
【請求項6】
前記制御装置は、前記移相制御部の動作を中断することなく前記温度検出コンポーネントを動作させる温度検出モードで動作可能である、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項7】
前記光源から光を受信するビームスプリッタをさらに備えており、
前記ビームスプリッタは、前記光を複数の導波路に分割し、前記複数の導波路の各々は、前記PN接合部における前記移相器及び前記電気接点を含み、
前記移相制御部は、前記複数の導波路の各々の前記電気接点に電気的に接続されており、
前記温度検出コンポーネントは、前記複数の導波路の各々の前記電気接点に電気的に接続されている単一の温度検出コンポーネントである、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項8】
前記制御装置は、前記複数の導波路の各々の前記移相器の間で前記温度検出コンポーネントを多重化するように前記温度検出モードで動作可能である、
請求項に記載の光送信機。
【請求項9】
光源から光を受信するために前記光源に接続される導波路であって、
前記光を出力部に伝搬するように構成されているp型ドープ半導体層及びn型ドープ半導体層と、
前記p型ドープ半導体層と前記n型ドープ半導体層との間のPN接合部に組み込まれており、前記PN接合部における電気接点を有する移相器であって、当該移相器における前記導波路の屈折率を変化させるように構成されている移相器と、
前記電気接点において前記移相器に電気的に接続されており、前記屈折率を変化させるために前記移相器の前記PN接合部に印加される電流及び/又は電圧を制御するように動作可能である移相制御部と、
同じ前記電気接点において前記移相器に電気的に接続されており、前記PN接合部における前記移相器の温度を表す信号を生成するように動作可能である温度検出コンポーネントと、
前記移相制御部及び前記温度検出コンポーネントに接続されている制御装置であって、前記移相制御部によって前記PN接合部に印加される電流及び/又は電圧を、前記温度検出コンポーネントによって生成された信号に基づいて調整するように動作可能である制御装置と、
を備えている導波路であって、
前記制御装置は、前記移相制御部の動作を中断し、前記移相制御部の動作が中断されている間に前記温度検出コンポーネントを動作させる温度検出モードで動作可能であるように構成されている、導波路。
【請求項10】
前記温度検出コンポーネントは、絶対温度比例(PTAT)回路である、
請求項9に記載の導波路。
【請求項11】
前記制御装置は、所定の期間にわたって前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項9に記載の導波路。
【請求項12】
前記制御装置は、前記移相制御部の動作中に所定の間隔で前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項9に記載の導波路。
【請求項13】
前記制御装置は、前記所定の間隔で所定の期間にわたって前記温度検出モードで動作可能であるように構成されている、
請求項12に記載の導波路。
【請求項14】
前記制御装置は、前記移相制御部の動作を中断することなく前記温度検出コンポーネントを動作させる温度検出モードで動作可能である、
請求項9に記載の導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2018年1月19日に出願された米国仮特許出願第62619156号明細書(U.S. Provisional Application No. 62/619,156)からの実用新案出願であって、その優先権を主張するものであり、その全開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
光フェーズドアレイ(optical phased-array:OPA)においては、低電力消費量及び高速などといった光フェーズドアレイの性能を測定するために電気光学移相器が好まれている。しかしながら、所望の移相を引き起こすために必要とされる電圧は、典型的には温度に依存しているので、好ましい動作範囲外の温度においては、電気光学移相器の性能に影響が及ぼされる可能性がある。従って、移相器の材料及び構造によっては、周囲温度の変動が電気光学移相器の精度を阻害するおそれがある。OPAは、デジタルカメラ、MRI、CT、及び、精度が重要である任意の適当な撮像装置を含む光学撮像装置、及び、ライダ(light detection and ranging)装置において使用されることが多い。所望の移相のために必要とされる電圧における、温度に起因した如何なるわずかな偏差も、印加電圧が調整されない限り、カメラ又はライダの性能を著しく劣化させる可能性がある。移相器のコンポーネントを含む、これらの撮像装置及びライダ装置のコンポーネントの、温度に起因した性能の劣化を回避する必要がある。本開示は、電気光学移相器に関する上記の問題に対して、移相器を製造するプロセスに対する如何なる変更も必要とせず、電子制御回路を使用するのみである改善策を提供するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
開示の概要
電気光学移相器を使用する光フェーズドアレイにおける、好ましい動作範囲外の温度を考慮するための光学装置及び方法が提供される。特に、本明細書に開示された装置及び方法は、導波路の屈折率を制御するために、電子チップ回路又はフォトニックチップ回路に既に接続されている、半導体導波路内の電気光学移相器の既存の接点を利用する。本開示の1つの特徴によれば、PTAT回路のような温度測定コンポーネントが電子チップ又はフォトニックチップに組み込まれ、移相器の既存の接点に接続される。別の特徴においては、測定コンポーネントによる温度測定を、温度測定機能が移相機能と干渉しないようにチップ及び移相器の通常動作と多重化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】例示的なライダ又は3Dカメラシステムを示す図である。
図2】ライダシステムにおいて使用されるような例示的な送信機の概略図である。
図3図2に示すシステムのための移相器アレイにおいて使用される電気光学移相器を示す図である。
図4】本開示の1つの実施形態によるPTATを組み込んだ電気光学移相器を示す図である。
図5図2に示す例示的な送信機に組み込まれた本開示の電気光学移相器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
詳細な説明
以下においては、本開示の原理の理解を促進する目的で複数の実施形態が参照され、これらの実施形態を図面に図示し、以下の明細書において説明する。これによって本開示の範囲を限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本開示が、例示された実施形態に対する任意の変更及び修正を含み、本開示に関連する当業者が通常想到するであろう、本明細書に開示された原理のさらなる応用を含むことをさらに理解すべきである。
【0006】
図1には、ライダシステム又は3Dカメラの一般的な構成が示されている。3Dカメラは、送信機TXを含み、この送信機TXは、レーザのような光源からの光の振幅を一連のパルスに変調するように動作可能であり、この場合には、光は、適当な光学素子を用いてシーンに分配される。カメラはさらに、受信機RXを含み、この受信機RXにおいては、シーンからの反射光が集光され、CMOSチップ上のフォトダイオードアレイのようなセンサアレイ上に結像される。TX光の元々の変調波形に対する、各々のセンサ素子によってRX光に応答して生成された電気波形(例えばフォトダイオード電流)の時間遅延が、電子回路を使用して測定され、これによってソースTXから受信機RXへの光信号の飛行時間(time-of-flight)が決定される。特定の用途においては、送信機TXは、シーン又はオブジェクトを走査するなどのためにTX光の方向を制御するビーム操舵回路を含む。
【0007】
図2は、図1に示すライダ又はカメラシステムにおける送信機の概略図を示す(ただし、他の用途においては、他のシステムが同様のシステムを使用する場合がある)。このシステムは、当技術分野において公知のように、ビームスプリッタ、導波路アレイ、移相器アレイ、及び、アンテナアレイを含む。ビームスプリッタは、1つの入力光ビームを複数の光ビームに分割するために使用され、これらの複数の光ビームは、光導波路アレイ内の導波路によって画定された複数の光路に沿って伝搬する。移相器アレイは、典型的には導波路アレイのプラットフォーム上に構築されており、伝搬する光ビームのうちの特定の1つの光ビームに位相遅延を引き起こす。アンテナアレイは、ソリッドステートライダからの光ビームを結合して、観察対象のオブジェクト又はシーンに向けて送信する。移相器アレイによって引き起こされた位相遅延を用いて、出力光ビームを種々の角度に操舵することができ、このことは、ソリッドステートカメラ又はライダが種々の方向から情報を収集することを可能にする。
【0008】
特定のライダ又は3Dカメラシステムにおいては、移相器アレイは、材料中のキャリア濃度に対する材料の屈折率の依存性に基づいて動作する電気光学移相器を含む。1つの実施形態においては、電気光学移相器12は、図3に示すように半導体導波路10におけるPN接合部の形態をとることができる。図3の従来の移相器は、フォトニック半導体チップ上の半導体導波路10を含み、このフォトニック半導体チップは、導波路の片側を画定するp型ドープ半導体層11aと、反対側を画定する隣り合うn型ドープ半導体層11bとを含む。当技術分野において公知のように、半導体導波路のp型ドープ層11a及びn型ドープ層11bはそれぞれ、導波路を電子制御回路に組み込むために各層間の接合部(PN接合部)に電気接点14を含む。PN接合部に順方向バイアス電流を印加して電流のレベルを変化させることによって、又は、PN接合部に逆方向バイアス電圧を印加して電圧のレベルを変化させることによって、PN接合部におけるキャリアの濃度を制御することができ、それによって導波路の屈折率を変化させることができる。これらの方法-順方向電流制御又は逆方向電圧制御-は、両方とも電気光学移相器の実装において一般的に使用されており、例えばA. Liu,L. Liao,D. Rubin,H. Nguyen,B. Ciftcioglu,Y. Chetrit,N. Izhaky 及び M. Paniccia著の“High-speed optical modulation based on carrier depletion in a silicon waveguide”Optics Express,vol. 15,no. 2,第660-668頁,2007年に開示されており、その全開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0009】
しかしながら、そのような移相器は、導波路媒体における熱変動の影響を受けやすく、その結果、移相器の屈折率及び移相器の全体的な性能に対して著しい影響を及ぼし得る。この問題に対処するための1つの方法は、導波路の温度を測定し、導波路に印加される制御電圧又は制御電流をベースライン温度からの導波路温度の偏差に関連して変化させることにより、導波路の熱変動を補償することである。典型的な電子システム及び集積回路の設計においては、温度測定は、いわゆる絶対温度比例(proportional-to-absolute-temperature:PTAT)回路を用いて実施され、例えばM. P. Timko著の“A Two-Terminal IC Temperature Transducer”IEEE Journal of Solid-State Circuits,Vols. SC-11,no. 6,第784-788頁,1976年に記載されており、その全開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。これらの従来の回路は、ダイオードの接合部温度の関数であるダイオードのI-V曲線に依存しており、即ち、
【数1】
であり、ここで、Idiodeはダイオード電流、Vdiodeはダイオード電圧、kはボルツマン定数、qは電子電荷、Tはケルビン単位の絶対温度である。PTATは、実質的にベースライン温度に対する回路の温度差を求めるために、基準信号又は基準量と比較可能な信号又は量を生成することができる。この温度差を、PN接合部に印加される電圧又は電流を較正して、所望の移相を提供するために使用することができる。例示的なPTAT装置は、Analog Devices, Inc.社により販売されているAD590シリーズの表面実装型温度検出変換器を含み、又は、1978年10月31日にMichael Timkoに対して発行された米国特許第4123698号明細書(U.S. Patent No. 4,123,698)及び2013年3月26日にSeiko Instruments, Inc.社に対して発行された米国特許第8403559号明細書(U.S. Patent No. 8,403,559)に開示された装置を含み、その全開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。特定のPTAT装置は、較正された温度依存性の電流源として動作し、従って、出力電流は、導波管又はPN接合部のベースライン温度に対する温度差を表す。
【0010】
そのような技術を使用して移相器の温度を測定するために、ダイオードがフォトニックチップ上に導波路に近接して配置されており、従って、このダイオードのI-V曲線を使用して、移相器の近傍の局所的な温度を測定することができる。しかしながら、このアプローチは問題となり得る。第一に、光フェーズドアレイ(OPA)のような用途においては、各移相器に同じ電圧又は電流が印加されたときに、対応する光ビームに対して各移相器が引き起こす各移相間における相関関係を保証するために、各移相器を相互に近接して配置することが望ましい。さらに、OPAのほとんどの用途においては、チップ搭載デバイスのためのスペース要求が存在するので、移相器と他のコンポーネントとができるだけ近接して一緒に詰め込まれ、このことはつまり、追加的なコンポーネントのためのスペースが残っていないことを意味する。ダイオード及び移相器を電子制御チップに接続するために、温度測定のためのダイオードを別個の接触パッドと一緒に移相器に近接して配置することは、この制約を満たすことを困難にする。第二に、シーン全体を視覚化するためのシステムにおいて生じ得るように、何千もの移相器を有するアレイの場合には、各移相器のための専用のダイオードによって、フォトニックチップと電子チップとの間の接続部の数が2倍になることとなり、このことは、システム全体のコストの点で危機的な要因となりうる。
【0011】
本開示によれば、温度を測定するために、別個のダイオードではなく移相器のPN接合部そのものが使用される。本開示によれば、半導体導波路20は、図4に示すようにp型ドープ半導体層21a及びn型ドープ半導体層21bによって形成されており、各層間のPN接合部に移相器22を含む。PN接合部における接点24は、移相制御部30に接続されており、この移相制御部30は、PN接合部における電流又は電圧を制御することによって、導波路20の内部における移相を制御するように動作可能である。移相制御部は、参照により組み込まれる上述したLiuの論文に開示されている回路のような、又は、2017年10月5日にST Microelectronics SA社の名で公開された米国特許出願公開第2017/0288781号明細書(U.S. Published Application No. 2017/0288781)に開示されているような回路のような、電子チップ又はフォトニックチップ上の従来の半導体回路の形態とすることができる。
【0012】
本開示の1つの態様においては、PN接合部における接点24は、図4に示すように、電子チップの温度を検出するための電子チップ上の温度検出コンポーネント32にも接続されている。温度検出コンポーネントは、PTAT回路とすることができ、このPTAT回路は、PN接合部が実質的にダイオードとして使用されるように、上述したように構成されている。
【0013】
移相器が通常動作モードにある場合には、移相制御部30によって所望の逆方向電圧又は順方向電流を印加して、導波路の屈折率、ひいては導波路を通って伝搬する光の移相を制御することができる。本開示の1つの態様においては、移相制御部30の通常動作は、PTAT回路32による温度測定のためにPN接合部を使用するために、所定の期間にわたって所定の間隔で中断される。この中断のタイミング及び持続時間は、特定のシステムにおける温度挙動の力学に基づくことができる。PN接合部の電気接点24は、通常動作中に移相の制御を提供するために移相制御部30に既に接続されているので、PTAT回路32へのPN接合部の接続を、実質的にフォトニックチップに変更を加えることなく、即ち、チップに追加的なダイオード又は接続パッドを加えることなく、実現することができる。
【0014】
送信機TX(図1)には、PTAT回路32及び移相制御部30に接続されている制御装置40を組み込むことができる。TX制御装置40は、特定のPN接合部における温度、相対温度、又は、温度差を検出するために、移相制御部を中断してPTAT回路を動作させる温度検出モードで動作可能である。TX制御装置は、温度検出コンポーネントがPN接合部の温度を検出するために十分な所定の期間の経過後に、移相制御部を再動作させる。関連する導波路の所望の屈折率と、関連する導波路を通って伝搬する光の対応する移相とを達成するために、TX制御装置は、PTAT信号を解釈し、移相制御部によってPN接合部に印加される電圧又は電流のために必要な変化を決定するように動作可能である回路及び/又はソフトウェアを有する。従って、TX制御装置40は、導波路20に適当な移相が適用されるように温度変更された電圧又は電流を、移相器22のPN接合部に印加するために、移相制御部30を動作させかつ制御するように構成されており、かつ、そのように動作可能である。
【0015】
温度測定は、特定のシステムの熱挙動によって必要とされる任意のレートで実施することができる。例えばシステムが、1kHzのレートでかなりの熱変動を有する傾向にある場合には、起こり得る温度変化の捕捉を保証するために、2kHz以上のレートで温度測定を実施するようにPTAT回路32を動作させるように、TX制御装置40を構成することができる。温度測定の持続時間は、使用される電子回路と所望の精度とに依存しており、その一方で、移相器の通常動作を阻害しないようにするために適当に短く維持される。1つの特定の実施形態においては、TX制御装置40は、1乃至5μ秒の間、移相制御部を中断するように構成されており、この1乃至5μ秒の時間の間に温度検出コンポーネント32が動作させられ、温度測定値が得られる。
【0016】
移相制御部30が移相器22のPN接合部に順方向バイアス電流を印加する別の実施形態においては、温度測定を、移相器の通常動作と同時に移相器の機能を中断することなく実施することができる。この実施形態における温度測定は、移相制御部の動作のように連続的とすることができ、又は、上述したように周期的とすることができる。
【0017】
複数の移相器が一緒に動作するOPAのような用途の場合には、電子チップ又はフォトニックチップ上の温度測定のために使用されるPTAT回路を、図5に示すように複数の移相器要素に接続することができ、時間多重化を使用して動作させることができる。図5に示すように、複数の導波路20が1つの温度検出コンポーネント32’及び1つの移相制御部30’に接続されている。1つの実施形態においては、TX制御装置40’は、各々の導波路のPN接合部に印加される電圧又は電流を制御するために移相制御部を多重化するように構成されている。これに代えて、それぞれの導波路ごとに1つの別個の移相制御部30’を設けてもよい。この実施形態の1つの態様においては、TX制御装置40’は、上で説明したように移相制御部の各動作間に温度測定が割り込まれた状態で、各々の導波路20のPN接合部における温度を測定するためにPTAT32’を多重化するように構成されている。上述したように温度検出モードにおいては、TX制御装置40’は、複数の導波路のために単一の移相制御部が設けられている場合であっても、各々の導波路のために専用の移相制御部が設けられている場合であっても、移相制御部30’を中断して、単一の温度検出コンポーネント又はPTAT32’を動作させることができる。
【0018】
例えばOPAにおいて隣り合う移相器同士の温度が非常に近接している別の実施形態においては、参照により組み込まれる上述したTimkoの参考文献において議論されているように、温度測定のために複数のPN接合部に依存している回路構成を、隣り合う移相器同士を同じPTAT回路に接続することによって使用することができる。
【0019】
本開示は、特性的に例示するためのものであり、限定するためのものではないとみなされるべきである。特定の実施形態のみが提示されており、本開示の趣旨の範囲内にある全ての変更、修正、及び、別の用途が保護されることが望まれることを理解すべきである。
【0020】
例えば、上述した温度測定回路は、半導体導波路における電気光学移相器のPN接合部における電気接点に接続されている。しかしながら、ドープシリコンのようなドープ半導体材料を利用する、別の形態の導波路移相器が考えられる。この電気光学移相器は、複数のドープ領域を、これらの領域に対する複数の電気接点と共に利用することができる。複数のドープ領域は、少なくとも1つのp型ドープ領域と、少なくとも1つのn型ドープ領域とを含むことができると考えられる。本開示は、電気光学移相器を移相回路に接続するために設けられている既存の電気接点を、温度測定回路のための電気接点として使用することを企図するものである。複数のドープ領域を利用する移相器の場合には、温度測定回路を、これらの領域のうちの1つ又は複数のための電気接点に接続することができる。既存の電気光学移相器を本開示に即して温度測定のために使用することは、特定の幾何学的形状の移相器に限定されているものではなく、その代わりに、電気光学移相器が使用するドープ半導体領域に対する一般的な電気接点を必要とするだけである。
図1
図2
図3
図4
図5