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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】脱硝装置及び脱硝方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/08 20060101AFI20240814BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C02F11/08 ZAB
B01D53/56 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019114523
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021000590
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】川口 正人
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄大
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-313965(JP,A)
【文献】特開2005-246215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/70-1/78
C02F11/00-11/20
B09B1/00-5/00
B09C1/00-1/10
B01D53/34-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解部を備え、前記分解部が1つの分解槽を有し、前記分解槽の処理温度が水の臨界温度以上500℃以下であって、前記分解槽における、前記含窒素有機物に含まれる窒素元素1モルに対する、前記窒素酸化物に含まれる窒素元素の物理量を0.6~1.0モルである脱硝装置。
【請求項2】
含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解工程を備え、
前記分解工程が1つの分解槽で行われ、前記分解槽の処理温度が水の臨界温度以上500℃以下であって、前記含窒素有機物に含まれる窒素元素1モルに対する、前記窒素酸化物に含まれる窒素元素の物理量を0.6~1.0モルとする脱硝方法。
【請求項3】
前記分解工程における処理温度が水の臨界温度~450℃であり、かつ、処理圧力が5~20MPaである、請求項2に記載の脱硝方法。
【請求項4】
前記分解工程は、前記含窒素有機物の完全酸化に必要な化学量論酸素量に対して、1.0倍以上の酸素の存在下で行う、請求項2又は3に記載の脱硝方法。
【請求項5】
前記分解工程における処理時間が5~15分である、請求項2~4のいずれか一項に記載の脱硝方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝装置及び脱硝方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や廃棄物焼却場、火力発電所等から排出される排ガス中には窒素酸化物(NOx)が含まれており、日々NOxの排出削減対策がとられている。
その対策の一つとして、排煙脱硝技術がある。現在は、乾式法の選択接触還元法が多く採用されており、90%以上の脱硝率を可能としている。
一方、無触媒選択還元法は、触媒が不要であるため設備コストやランニングコストが安価であるという利点がある。しかし、無触媒選択還元法は、脱硝率が30~50%程度であり、選択接触還元法に比べて脱硝率が低いといった問題がある。加えて、無触媒選択還元法の最適な温度域は、850~1,000℃であり、選択接触還元法に比べて高いといった問題もある。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、燃焼溶融室と二次燃焼室で二段燃焼を行うことにより燃焼排ガスの脱硝を無触媒選択還元法の最適な温度域で行う排ガス脱硝装置が提案されている。特許文献1の発明では、脱硝用還元剤を二次燃焼室に吹き込んで効率よく脱硝を行うことが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-270814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、二次燃焼室の温度を850~1,000℃に保持して脱硝を行っており、環境負荷が大きい。また、特許文献1の発明では、充分な脱硝率を実現できていない。
【0006】
そこで、本発明は、環境負荷をより低減し、かつ、脱硝率をより高められる脱硝装置及び脱硝方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解部を備え、前記分解部が1つの分解槽を有し、前記分解槽の処理温度が水の臨界温度以上500℃以下であって、前記分解槽における、前記含窒素有機物に含まれる窒素元素1モルに対する、前記窒素酸化物に含まれる窒素元素の物理量を0.6~1.0モルである、脱硝装置。
【0008】
[2]含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解工程を備え、前記分解工程が1つの分解槽で行われ、前記分解槽の処理温度が水の臨界温度以上500℃以下であって、前記含窒素有機物に含まれる窒素元素1モルに対する、前記窒素酸化物に含まれる窒素元素の物理量を0.6~1.0モルとする脱硝方法。
[3]前記分解工程における処理温度が水の臨界温度~450℃であり、かつ、処理圧力が5~20MPaである、[2]に記載の脱硝方法。
[4]前記分解工程は、前記含窒素有機物の完全酸化に必要な化学量論酸素量に対して、1.0倍以上の酸素の存在下で行う、[2]又は[3]に記載の脱硝方法。
[5]前記分解工程における処理時間が5~15分である、[2]~[4]のいずれか一項に記載の脱硝方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱硝装置及び脱硝方法によれば、環境負荷をより低減し、かつ、脱硝率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る脱硝装置の模式図である。
図2】含窒素有機物を亜臨界水酸化処理した場合のアンモニア性窒素としての発生率の一例を示すグラフである。
図3】含窒素有機物を亜臨界水酸化処理した場合の窒素成分のアンモニア、亜酸化窒素への転化率に対する圧力、時間の影響の一例を示すグラフである。
図4】含窒素有機物を亜臨界水酸化処理した場合のアンモニア性窒素としての発生率の一例を示すグラフである。
図5】含窒素有機物を亜臨界水酸化処理した場合のアンモニア性窒素としての発生率の一例を示すグラフである。
図6】含窒素有機物を亜臨界水酸化処理した場合のアンモニア性窒素としての発生率の一例を示すグラフである。
図7】比較例1、実施例1、実施例2の残存窒素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、水の亜臨界条件は、水の臨界温度(374℃)未満かつ水の臨界圧力(22MPa)未満で水が気体(水蒸気)として存在している状態、又は水の臨界温度以上かつ水の臨界圧力未満のいずれをも含む。
本明細書では、上記の水の亜臨界条件での含窒素有機物の酸化分解を亜臨界水酸化処理という。
【0012】
<脱硝装置>
本発明の脱硝装置は、含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解部を備える。
以下に、本発明の脱硝装置の一実施形態について、図1に基づき詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の脱硝装置1は、汚泥供給部10と、排ガス供給部12と、分解部20とを備える。
汚泥供給部10と分解部20とは、配管L1によって接続されている。排ガス供給部12と分解部20とは、配管L2によって接続されている。
【0014】
分解部20は、分解槽21と、ヒーター22と、測定部23と、高圧ポンプP1と、圧力調整バルブB1とを備える。分解槽21には、測定部23が接続されている。分解槽21には、配管L3が接続されている。高圧ポンプP1は、配管L1に設けられている。圧力調整バルブB1は、配管L3に設けられている。
【0015】
汚泥供給部10は、含窒素有機物を分解部20の分解槽21に供給する。汚泥供給部10としては、含窒素有機物を供給できればよく、下水処理施設の配水管の一部や有機汚泥を一時貯留することができるタンクや、有機汚泥を積載する車両等が挙げられる。
【0016】
排ガス供給部12は、窒素酸化物を含む気体(排ガス)を分解部20の分解槽21に供給する。排ガス供給部12としては、排ガスを供給できればよく、廃棄物焼却場等から排出された排ガスを一次貯留することができるタンクや、排ガスが通流する配管等が挙げられる。
【0017】
分解槽21としては、例えば、ステンレスやニッケル合金等の金属製の耐圧容器が挙げられる。
【0018】
ヒーター22としては、分解槽21の内部を加熱可能なヒーターであればよく、高温の水蒸気を通流させるスチームヒーターや、ガスボイラー等が挙げられる。
【0019】
測定部23としては、分解槽21の内部の温度、圧力、窒素酸化物の濃度等を測定できればよく、公知の温度計、圧力計、濃度測定計等を例示できる。
【0020】
高圧ポンプP1は、汚泥供給部10から含窒素有機物を分解部20の分解槽21へと圧送できればよく、高圧送液ポンプやコンプレッサー等が挙げられる。
【0021】
圧力調整バルブB1としては、公知のバルブや圧力調整弁等を例示できる。圧力調整バルブB1は、開閉バルブとしての機能を有していてもよい。
【0022】
ヒーター22、測定部23、高圧ポンプP1、圧力調整バルブB1は、外部に設けられた制御部(不図示)によって、ON、OFF、開閉等を一括して制御することが好ましい。
【0023】
配管L1としては、ステンレス等の金属製の配管等が挙げられる。
配管L2、L3としては、配管L1と同様の配管が挙げられる。配管L2と配管L3とは、異なっていてもよく、同じでもよい。また、配管L2、L3は、それぞれが配管L1と異なっていてもよく、同じでもよい。
【0024】
<脱硝方法>
本発明の脱硝方法は、含窒素有機物と、窒素酸化物を含む気体とを共存させ、これを水の亜臨界条件とし、前記含窒素有機物を酸化分解し、かつ、前記窒素酸化物を還元分解する分解工程を備える。
脱硝装置1を用いた脱硝方法について、図1に基づいて説明する。
【0025】
(分解工程)
まず、含窒素有機物を含む廃棄物と水とのスラリー混合物(有機汚泥、汚泥ともいう。)を汚泥供給部10から高圧ポンプP1を介して、分解槽21に供給する。
次に、窒素酸化物を含む気体(排ガスともいう。)を排ガス供給部12から分解槽21に供給する。
この結果、分解槽21には、有機汚泥と排ガスとが共存する。
分解槽21に有機汚泥及び排ガスを供給する順序は特に限定されない。分解槽21に排ガスを先に供給してもよく、分解槽21に有機汚泥と排ガスとを同時に供給してもよい。
【0026】
有機汚泥と排ガスとの割合は、例えば、有機汚泥に含まれる窒素元素の物質量と、排ガスに含まれる窒素元素の物質量との比率(以下、「共存割合」ともいう。)で表される。共存割合は、例えば、有機汚泥に含まれる窒素元素1モルに対する排ガスに含まれる窒素元素の物質量で表される。排ガス中の窒素酸化物(NOxともいう。)と、有機汚泥に由来するアンモニア(NH)との還元反応は、以下のいずれかの式で表される。
4NO+4NH+O → 4N+6HO ・・・(1)
NO+NO+2NH → 2N+3HO ・・・(2)
6NO+8NH → 7N+12HO ・・・(3)
有機汚泥に含まれる窒素元素1モルに対する排ガスに含まれる窒素元素の物質量は、例えば、0.6~1.0モルが好ましく、0.6~0.75モルがより好ましい。有機汚泥に含まれる窒素元素1モルに対する排ガスに含まれる窒素元素の物質量が上記下限値以上であると、残存するアンモニア量を増やさず、充分な物質量の窒素酸化物を脱硝でき、効率的である。有機汚泥に含まれる窒素元素1モルに対する排ガスに含まれる窒素元素の物質量が上記上限値以下であると、NOxを還元するためのアンモニア量が充分であり、脱硝率の低下を抑制できる。
【0027】
窒素酸化物とは、窒素の酸化物の総称である。窒素酸化物としては、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素、NO)、三酸化二窒素(N)等が挙げられる。
本明細書において、硝酸性窒素は、水の亜臨界条件でガス化することによりNOに変化し、NOは、冷却することにより水に溶解する。さらに、下記のように水と反応することにより、NOは、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素となる。
3NO+HO → 2HNO+NO ・・・(4)
2NO+HO → HNO+HNO ・・・(5)
【0028】
分解工程では、含窒素有機物の酸化反応及び窒素酸化物の還元反応(以下、単に「反応」ともいう。)が起こる。
本明細書において、脱硝率は、下記式(6)で表される。
脱硝率(%)=100-{(反応後の硝酸性窒素の質量(mg)+反応後の亜硝酸性窒素の質量(mg))/(反応前の硝酸性窒素の質量(mg)+反応後の亜硝酸性窒素の質量(mg))}×100・・・(6)
硝酸性窒素の質量は、例えば、イオンクロマトグラフィー等により求められる。
亜硝酸性窒素の質量は、例えば、イオンクロマトグラフィー等により求められる。
【0029】
硝酸性窒素とは、硝酸イオン(NO )の形で存在する窒素をいう。
亜硝酸性窒素とは、亜硝酸イオン(NO )の形で存在する窒素をいう。
アンモニア性窒素とは、アンモニウムイオン(NH )の形で存在する窒素をいう。
硝酸性窒素と亜硝酸性窒素とアンモニア性窒素との合計を無機態窒素という。
【0030】
有機汚泥と排ガスとを分解槽21に供給した後、ヒーター22で分解槽21を加熱し、かつ、高圧ポンプP1を加圧し、有機汚泥と排ガスとを水の亜臨界条件とする。
有機汚泥と排ガスとを共存させ、これ(有機汚泥と排ガスと)を水の亜臨界条件とすることで、アンモニアが発生する。アンモニアの存在下で、水の亜臨界条件とすることで、窒素酸化物が還元され(脱硝)、窒素、水、二酸化炭素を含む混合流体となる。
なお、有機汚泥と排ガスとは、一定量ごとに分解槽21に供給されてもよく、連続的に分解槽21に供給されてもよい。
発生したアンモニアは、分離されて、エネルギーキャリアやエネルギー源として用いられてもよい。
【0031】
分解工程における分解槽21の内部温度(以下、処理温度ともいう。)は、測定部23により測定できる。
処理温度は、水の臨界温度(374℃)以上であり、374℃以上500℃以下が好ましく、400℃以上450℃以下がより好ましい。処理温度が上記下限値以上であると、含窒素有機物を充分に酸化分解することができる。処理温度が上記上限値以下であると、アンモニアへの転化率を向上しやすく、ヒーター22で加熱する際のエネルギーを節約しやすい。このため、環境負荷をより低減しやすい。
好ましい処理温度は、後述する実験例の結果から推定できる。
【0032】
分解工程における分解槽21の内部圧力(以下、処理圧力ともいう。)は、測定部23により測定できる。
処理圧力は、水の臨界圧力(22MPa)未満であり、5MPa以上20MPa以下が好ましく、10MPa以上20MPa以下がより好ましく、10MPa以上15MPa以下がさらに好ましい。処理圧力が上記下限値以上であると、含窒素有機物を充分に酸化分解することができる。処理圧力が上記上限値以下であると、分解槽21にかかる負荷を低減しやすい。
好ましい処理圧力は、後述する実験例の結果から推定できる。
【0033】
含窒素有機物とは、窒素成分を含む有機物を指す。含窒素有機物としては、メタン発酵工程から排出されるアンモニア含有消化液、食品廃棄物、家畜排泄物、下水の濃縮汚泥や消化汚泥、有機汚泥等のバイオマス廃棄物等が挙げられる。
【0034】
含窒素有機物は水分を含んでおり、通常、脱水してから焼却等が行われる。
本実施形態の脱硝装置1では、分解槽21を高温高圧にして含窒素有機物を水の亜臨界条件にて酸化分解するため、事前の脱水工程が不要である。
なお、分解工程で生成する含窒素有機物の固形分は、排出ポンプ(不図示)を用いて、水蒸気を含むガス成分と分離して、分解槽21の外部へと排出できる。この場合、脱水工程と焼却工程とが不要になる。
【0035】
含窒素有機物の含水率は、90質量%以上が好ましい。含窒素有機物の含水率が上記下限値以上であると、汚泥供給部10から分解槽21への流動性に優れ、脱硝装置1を連続して運転できるため、脱硝率をより高めやすい。
【0036】
分解工程では、酸化剤として空気、空気中の酸素、過酸化水素水等が利用可能である。酸化剤は、含窒素有機物の酸化分解反応に必要な酸素量よりも過剰に酸素を供給し、含窒素有機物を完全に酸化分解することが好ましい。
分解工程は、含窒素有機物の完全酸化に必要な化学量論酸素量に対して、1.0倍以上の酸素の存在下で行うことが好ましい。ここで、含窒素有機物の完全酸化に必要な化学量論酸素量に対する酸素の比率を「酸素比」という。酸素比は、1.0以上が好ましく、1.2以上2.5以下がより好ましく、1.2以上2.0以下がさらに好ましく、1.2以上1.5以下が特に好ましい。酸素比が上記下限値以上であると、有機汚泥に含まれるアンモニア性窒素への転化率(アンモニア性窒素の発生率)を向上しやすい。このため、排ガス中の窒素酸化物を還元しやすく、脱硝率をより高めやすい。酸素比が上記上限値以下であると、酸化剤の余剰な供給を抑制できる。
分解工程における好ましい酸素比は、後述する実験例の結果から推定できる。
【0037】
分解工程における加熱加圧時間(以下、処理時間ともいう。)は、1分以上30分以下が好ましく、1分以上20分以下がより好ましく、1分以上15分以下がさらに好ましい。処理時間が上記下限値以上であると、含窒素有機物を充分に酸化分解することができる。処理時間が上記上限値以下であると、有機汚泥に含まれるアンモニア性窒素への転化率を向上しやすく、脱硝率をより高めやすい。加えて、処理時間が上記上限値以下であると、ヒーター22で加熱する際のエネルギーを節約しやすく、環境負荷をより低減しやすい。
好ましい処理時間は、後述する実験例の結果から推定できる。
【0038】
分解工程で生成した流体(混合流体)は、圧力調整バルブB1を開とすることにより、配管L3を介して脱硝装置1の外部へ解放される。
【0039】
本実施形態の脱硝装置1によれば、亜臨界水酸化処理によって速やかに含窒素有機物に含まれる窒素成分をアンモニア性窒素へと転化できる。アンモニア性窒素は、排ガス中の窒素酸化物に対して還元剤として機能する。このため、排ガスの脱硝率をより高めやすい。
脱硝装置1によれば、水の亜臨界条件において脱硝を行うため、常法(例えば850℃)よりも低温で排ガスを脱硝できる。このため、環境負荷をより低減できる。
脱硝装置1は、一つの分解槽で有機汚泥と排ガスとを処理できる。このため、設備投資にかかる負担を低減でき、効率的に有機汚泥と排ガスとを処理できる。
【0040】
以上、本発明の脱硝装置及び脱硝方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、汚泥供給部の前段で含窒素有機物の全部又は一部を酸化分解物にしてから、分解部に供給してもよい。
例えば、分解部の後段に混合流体をさらに脱硝できる反応槽を設け、より清浄な流体にできるようにしてもよい。
汚泥供給部は、一つではなく、二つ以上であってもよい。
排ガス供給部は、一つではなく、二つ以上であってもよい。
【0041】
本実施形態の分解工程では、処理温度は水の臨界温度以上で、かつ、処理圧力は水の臨界圧力未満であるが、水の亜臨界条件を満たす処理温度、かつ、処理圧力であってもよい。水の亜臨界条件を満たす温度と圧力の組合せとしては、処理温度が水の臨界温度未満で、かつ、処理圧力が水の臨界圧力未満の組合せが挙げられる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実験例1]
下水の消化汚泥(有機汚泥)を温度400℃、圧力10MPa(水の亜臨界条件)、酸素比1.2とした場合のアンモニア性窒素としての発生率を測定した。アンモニア性窒素としての発生率は、亜臨界水酸化処理を行った後のアンモニウム性窒素の質量を、亜臨界水酸化処理を行う前の有機汚泥に含まれる窒素成分の総質量(液分の有機態窒素と無機態窒素、固形分の窒素成分の合計)で除することにより求めた。
液分の全窒素の質量は、全有機炭素計(TOC-V/TN、(株)島津製作所製)で、濃度を測定することにより求めた。
液分の無機態窒素の質量は、イオンクロマトグラフィー(Dionex ICS-1600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で、濃度を測定することにより求めた。液分の有機態窒素の質量は、全窒素の質量から無機態窒素の質量を差し引くことで求めた。
固形分中の窒素成分の質量は、全自動元素分析装置(2400II、パーキンエルマー社製)で、濃度を測定することにより求めた。
処理時間0分~15分までの亜臨界水酸化処理を行い、アンモニア性窒素の発生率を測定した。結果を図2に示す。
【0044】
図2に示すように、処理時間5分までは、アンモニア性窒素の発生率は増加している。アンモニア性窒素の発生率は、処理時間5~10分では大きく変わらず、処理時間15分でやや減少している。
【0045】
図3に特許第4838013号公報に記載の図6を示す。
図3に示すように、450℃、圧力10MPa、酸素比1.5の処理条件において、処理時間20分以降は、アンモニアへの転化率が減少している。
図2及び図3から、処理時間を長くすると、アンモニア性窒素としての発生率が減少すると考えられる。
【0046】
[実験例2]
実験例1と同じ試料について、圧力条件を変更して亜臨界水酸化処理(温度400℃、処理時間5分、酸素比1.2)を行った。アンモニア性窒素としての発生率を図4に示す。
図4に示すように、処理圧力5~20MPaでアンモニア性窒素としての発生率が80%以上であった。処理圧力が10MPaのときにアンモニア性窒素としての発生率が最大値(87%)であった。
【0047】
[実験例3]
実験例1と同じ試料について、温度条件を変更して亜臨界水酸化処理(圧力10MPa、処理時間5分、酸素比1.2)を行った。アンモニア性窒素としての発生率を図5に示す。
図5に示すように、処理温度が350~450℃の場合、処理温度が400℃のときにアンモニア性窒素としての発生率が最大値(87%)であった。
【0048】
[実験例4]
実験例1と同じ試料について、酸素比を変更して亜臨界水酸化処理(温度400℃、圧力10MPa、処理時間5分)を行った。アンモニア性窒素としての発生率を図6に示す。
図6に示すように、酸素比が大きくなるにつれてアンモニア性窒素としての発生率が増加する傾向があった。酸素比が1.2以上であると、アンモニア性窒素としての発生率が頭打ちとなり、酸素比が1.2のとき、アンモニア性窒素としての発生率が87%であった。
【0049】
以上の実験例1~4の結果より、含窒素有機物として下水の有機汚泥の場合、アンモニア性窒素としての発生率を高めるための好適な条件としては、処理温度350~450℃、処理圧力5~20MPa、酸素比1.0以上、処理時間5~15分が挙げられる。アンモニア性窒素としての発生率を高めるためのより好適な条件としては、処理温度380~420℃、処理圧力5~15MPa、酸素比1.2~1.5、処理時間5~10分が挙げられる。
【0050】
[比較例1、実施例1~2]
排ガス由来のNOx(NO)のみが存在する状態に見立てて、硝酸ナトリウム(約1,000mg-N/L)を亜臨界水酸化処理(温度400℃、圧力10MPa、処理時間5分)して、亜臨界水酸化処理を行う前後の窒素濃度(mg-N/L)を求めた。同時に、亜臨界水酸化処理を行う前後の窒素成分の態様(硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、又はアンモニア性窒素それぞれの窒素濃度(mg-N/L))を求めた(比較例1)。
窒素濃度は、イオンクロマトグラフィー(Dionex ICS-1600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で測定することにより求めた。
【0051】
含窒素有機物由来のアンモニア性窒素と排ガス由来のNOx(NO)とが共存する状態に見立てて、硝酸アンモニウム(約2,000mg-N/L)を比較例1と同じ条件の亜臨界水酸化処理(含窒素有機物由来のアンモニア性窒素の物質量:排ガス由来の窒素元素の物質量=1:1)して、比較例1と同様に亜臨界水酸化処理を行う前後の窒素濃度及び窒素成分の態様を求めた(実施例1)。
【0052】
含窒素有機物由来のアンモニア性窒素と排ガス由来のNOx(NO)とが共存する状態に見立てて、硝酸アンモニウム(約2,000mg-N/L)と消化汚泥(含窒素有機物)の脱離液(アンモニア性窒素が約1,200mg-N/L)を1:1の割合(窒素の物質量の比)で混合し、その混合溶液を比較例1と同じ条件の亜臨界水酸化処理(含窒素有機物由来のアンモニア性窒素の物質量:排ガス由来の窒素元素の物質量=2:1)して、比較例1と同様に亜臨界水酸化処理を行う前後の窒素濃度及び窒素成分の態様を求めた(実施例2)。
【0053】
比較例1、実施例1~2の結果を図7に示す。
図7に示すように、硝酸ナトリウムについて亜臨界水酸化処理を行った場合(比較例1)、硝酸性窒素由来の窒素成分の濃度はほとんど変化していないことが分かった。すなわち、含窒素有機物との共存下でない場合、脱硝されないことが確認できた。
【0054】
硝酸アンモニウムについて亜臨界水酸化処理を行った場合(実施例1)、残存している窒素濃度が大きく減少した。これは、硝酸アンモニウム中の硝酸性窒素由来のNOxがアンモニアによって還元され、窒素ガスに変化したことによるものと考えられる。実施例1の脱硝率は、73%であった。
【0055】
消化汚泥の脱離液と硝酸アンモニウムとの混合溶液について亜臨界水酸化処理を行った場合(実施例2)、残存している窒素濃度が減少した。これは、混合溶液中の硝酸性窒素由来のNOxがアンモニアによって還元され、窒素ガスに変化したことによるものと考えられる。実施例2の脱硝率は、86%であった。
また、図7に示すように、実施例2では、硝酸性窒素由来の窒素成分はほとんど残存していなかった。
【0056】
以上の結果から、排ガス由来のNOxと含窒素有機物由来のアンモニアとの共存下では、従来の無触媒選択還元法の脱硝率(30~50%)に比べて、低い処理温度でありながら、脱硝率を高められていることが分かった。
以上より、含窒素有機物を亜臨界水酸化処理する場合、窒素酸化物を含む気体(排ガス)を導入することで、含窒素有機物に由来するアンモニア性窒素を用いて、排ガスの窒素酸化物をより効率よく脱硝できることが分かった。
【符号の説明】
【0057】
1…脱硝装置、10…汚泥供給部、12…排ガス供給部、20…分解部、21…分解槽、22…ヒーター、23…測定部、P1…高圧ポンプ、B1…圧力調整バルブ、L1~L3…配管
図1
図2
図3
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図5
図6
図7