(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ヒトノロウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
A01N 33/08 20060101AFI20240814BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/133 20060101ALI20240814BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240814BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240814BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240814BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240814BHJP
【FI】
A01N33/08
A01P1/00
A61K31/133
A61P31/12
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/14
(21)【出願番号】P 2020027045
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】野田 恵
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
(72)【発明者】
【氏名】八城 勢造
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060787(JP,A)
【文献】特開2018-127401(JP,A)
【文献】特開2018-027916(JP,A)
【文献】特許第6165953(JP,B1)
【文献】特開2019-112342(JP,A)
【文献】特開2016-210807(JP,A)
【文献】国際公開第2015/078496(WO,A1)
【文献】American Journal of Infection Control,2010年,38(1),26-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)総炭素数
2のモノアルカノールアミン[以下(a)成分という]を有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤であって、
水並びに
クエン酸及び
その塩
から選ばれる成分を含有し、
(a)成分の含有量が
1.1質量%以上10質量%以下、
(b)陽イオン性殺菌剤[以下(b)成分という]の含有量が0.1質量%未満、
(c)エタノール[以下(c)成分という]の含有量が10質量%未満、であり、
(a)成分の含有量と
クエン酸及び
その塩
から選ばれる成分の含有量との質量比である(a)/(
クエン酸及び
その塩から選ばれる成分)が3以上37.5以下であり、
25℃におけるpHが10以上14以下である、ヒトノロウイルス不活化剤。
【請求項2】
(d)(d1)界面活性剤[ただし(b)成分を除く][以下(d1)成分という]及び(d2)有機溶剤[ただし(c)成分を除く][以下(d2)成分という]から選ばれる1種以上の成分を含有する請求項1に記載の不活化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヒトノロウイルス不活化剤を、ヒトノロウイルスが存在する対象物に接触させ、所定時間放置するヒトノロウイルス不活化方法
(但し、対象物としてヒトは除く)。
【請求項4】
前記所定時間は、1分以上300分以下である請求項3記載のヒトノロウイルス不活化方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のヒトノロウイルス不活化剤を対象物に付着させ、前記対象物にヒトノロウイルスを不活化する部分を形成する、対象物の処理方法
(但し、対象物としてヒトは除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトノロウイルス不活化剤、ヒトノロウイルス不活化方法、及び対象物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されているエンベロープ(膜状構造)を持たないRNAウイルスであり、酸性(胃酸)に対して強い抵抗力を有し、少量(10~100個程度)で感染することが知られている。
現状では、ノロウイルスに対するワクチンや治療薬は存在しないことから、ウイルスが付着し得る調理器具、衣服、手指等を洗浄・消毒することによる除ウイルスやウイルス不活性化により感染を予防することが重要である。
【0003】
ノロウイルスは、物理化学的抵抗性が強いため、ノロウイルスの不活化には、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム等)やヨード剤(ポビドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)、過酢酸製剤等が使用されている。しかし、塩素系消毒剤等では繊維の色柄等を漂白する作用があり、繊維製品や衣類への使用においては制限が生じるという問題がある。また、多くの細菌類に対して有効であるエタノールやカチオン界面活性剤を含む消毒剤等もノロウイルスに対しては一般的な使用法において十分な効果を得られない場合がある。このため安全で且つより効率的なノロウイルス不活化技術が求められている。
【0004】
特許文献1、2には、第四級アンモニウム塩型界面活性剤とアルカリ剤とを含有する所定の水性除菌剤が、所定の繊維を含む基材シートに含浸された、除ウイルス性ないしウイルス不活化効果を有する清掃用シートが開示されている。
また、特許文献3には、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、前記ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸塩、炭酸水素塩、アルカノールアミンから選ばれた1種以上と、を水に溶解させて成り、前記1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であるウイルス不活性化組成物が開示されている。
また、特許文献4には、(A)エタノールを50~70重量%、並びに、(B)有機酸及び/又は有機酸塩と、エタノールアミン類とを合計0.05~4.50重量%含み、pHが6~12であり、前記エタノールアミン類は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、及び、モルホリンからなる群から選ばれた少なくとも1種である、ノロウイルス用消毒液が開示されている。
また、特許文献5には、(A)ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド及びアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの少なくとも一方である第四級アンモニウム塩、(B)アルカリ剤、及び(C)キレート剤を所定の割合で含有し、0.1質量%水溶液の25℃におけるpHが10.0~12.0の範囲であり、非エンベロープウイルスに対する不活化性を有する洗濯用液体殺菌洗浄剤組成物が開示されている。
【0005】
ところで、従来、ヒトに感染するノロウイルス(以下、ヒトノロウイルス)は、実験室における培養系が確立されていなかったため、ノロウイルスの不活化効果を評価するために、その代替ウイルスとして、同じカリシウイルス科のネコカリシウイルスや、マウスノロウイルスが用いられていた。しかしながら、ネコカリシウイルスは下痢症感染症でなく呼吸器感染症を引き起こすウイルスであり酸やアルカリに弱く、ヒトノロウイルスとの違いも多数報告されている。また、マウスノロウイルスはヒトノロウイルスを初めとする他のエンベロープウイルスと比較してアルコールに著しく弱いことが報告されている(非特許文献1)。実際に、非特許文献2では昨今確立されたヒトノロウイルスの培養系において、一部の代替ウイルスにおいて効果があるように思われてきたアルコールはヒトノロウイルスの不活化には不十分であることが報告された。すなわち、代替ウイルスで効果が確認された剤が実際にヒトノロウイルスを不活化できるかは定かではないことが近年判明してきている。そのため、ヒトノロウイルスに対するより確度の高い不活化技術が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cromeans Theresa et al., Appl. Environ. Microbiol. 80.18 (2014): 5743-5751.
【文献】Costantini, Veronica, et al. "Human norovirus replicationin human intestinal enteroids as model to evaluate virus inactivation."Emerging infectious diseases 24.8 (2018): 1453.
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-112342号公報
【文献】特開2018-27916号公報
【文献】特開2018-127401号公報
【文献】特開2016-210807号公報
【文献】特開2016-60787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒトノロウイルスの不活化効果が高く取り扱い性にも優れた、新たなヒトノロウイルス不活化剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)アルカノールアミンを有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤に関する。
【0010】
また、本発明は、アルカノールアミンを有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤を、ヒトノロウイルスが存在する対象物に接触させ、所定時間放置するヒトノロウイルス不活化方法に関する。
【0011】
また、本発明は、アルカノールアミンを有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤を対象物に付着させ、前記対象物にヒトノロウイルスを不活化する部分を形成する、対象物の処理方法に関する。
【0012】
以下、(a)アルカノールアミンを(a)成分として説明する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヒトノロウイルスの不活化効果が高く取り扱い性にも優れた、新たなヒトノロウイルス不活化剤、及びヒトノロウイルス不活性化方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不活化剤は、有効成分として、(a)成分のアルカノールアミンを含む。(a)成分は、従来、pH調整等を目的として種々の製剤に用いられている。また、特許文献3では、(a)成分を特定のウイルス不活性化成分の抗力増強剤として用いることを提案している。しかしながら、(a)成分そのものがヒトノロウイルスに対して不活化効果を有することは、当業界では知られていなかった。本発明では、後述の実施例のように実際にヒトノロウイルスを用いて効果を確認しており、(a)成分によるヒトノロウイルスに対する不活化効果が、従来の技法と比べてより正確に示されている。
【0015】
アルカノールアミンとしては、炭素数1以上9以下のアルカノールアミンが挙げられる。
【0016】
アルカノールアミンとしては、モノアルカノールアミンが好ましい。更に、ヒトノロウイルスの不活化効果の観点から、炭素数1以上6以下のモノアルカノールアミン、更に炭素数2のモノエタノールアミンが好ましい。
アルカノールアミンは単独で用いてもよいし、複数を用いてもよい。
【0017】
本発明の不活化剤は、(a)成分をヒトノロウイルスの不活化に有効な量で含有する。ここで本発明の有効量とは、例えば、後述する実施例の方法で試験開始から7日後の薬剤処理群のヒトノロウイルス量が薬剤未処理群のヒトノロウイルス量に比べて1Log以上減少、好ましくは2Log以上減少、特に検出限界にまで不活化する量である。例えば、本発明の不活化剤は、不活化効果の観点から(a)成分を、0.5質量%以上、更に0.8質量%以上、更に1.1質量%以上、更に1.5質量%以上、そして、匂いや刺激性の観点から10質量%以下、更に5質量%以下含有する。なお、(a)成分の含有量はアミンとしての量で算出する。
【0018】
不活化剤のpHは、(a)成分の種類や量、及び必要に応じて、(a)成分以外のアルカリ化合物で調整することができる。アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機炭酸塩、ケイ酸ナトリウム等の無機ケイ酸塩、等が挙げられる。
【0019】
本発明の不活化剤は、水を含有することができる。本発明の不活化剤は、(a)成分及び水を含有する不活化剤であってよい。
【0020】
本発明の不活化剤が水を含む場合は、25℃におけるpHが、好ましくは10以上、より好ましくは10.5以上、そして、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。pHはガラス電極法で測定することができる。
【0021】
本発明の不活化剤は、(b)陽イオン性殺菌剤[以下(b)成分という]の含有量が少なくても優れたヒトノロウイルス不活化効果が発現する。本発明の不活化剤は、(b)成分の含有量が0.1質量%未満、更に0.05質量%未満、更に0.01質量%未満、更に0質量%であってよい。
【0022】
(b)成分としては、第4級アンモニウム塩型殺菌剤、及びピリジニウム塩型殺菌剤から選ばれる陽イオン性殺菌剤を挙げることができる。すなわち、本発明では、第4級アンモニウム塩型殺菌剤、及びピリジニウム塩型殺菌剤から選ばれる陽イオン性殺菌剤の含有量が前記範囲であってよく、この陽イオン性殺菌剤を含有しないものであってよい。第4級アンモニウム塩型殺菌剤としては、第4級窒素に結合する基のうち1つ又は2つが炭素数8以上14以下のアルキル基であり、残りが炭素数1以上3以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基又はベンジル基である第4級アンモニウム塩が挙げられる。ピリジニウム塩型殺菌剤としては、セチルピリジニウム塩、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジ塩を挙げることができる。それぞれの塩の対陰イオンはハロゲン化物イオン、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオンである。
【0023】
一般的にノロウイルスの不活化剤としてはエタノールが知られている。例えば非特許文献2にはエタノールが50~70%含有するものが記載されているが、ヒトノロウイルスを完全には不活化できていない。加えてエタノールは揮発性が高く刺激臭があり、しかも引火点が存在するため非常に取り扱いが難しい。本発明は、(c)エタノール[以下(c)成分という]の含有量が少なくても、又は含有しなくても優れたヒトノロウイルス不活化効果を発現することができる。本発明の不活化剤は、(c)成分の含有量が10質量%未満、更に5質量%以下、更に0質量%であってよい。
【0024】
本発明の不活化剤は、洗浄剤に応用することが可能である。その目的から、本発明の不活化剤は、(d)(d1)界面活性剤[ただし(b)成分を除く][以下(d1)成分という]及び(d2)有機溶剤[ただし(c)成分を除く][以下(d2)成分という]から選ばれる1種以上の成分[以下(d)成分という]を含有することができる。
ヒトノロウイルスを不活化させる対象物、例えば嘔吐物などには、夾雑物質が多量に共存するものが多いため、それらを除去する観点から(d)成分を含有することが好ましい。
【0025】
(d1)成分の界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤等が挙げられる。
非イオン界面活性剤としては炭素数10以上18以下のアルキル基を有するアルキルアルコキシレート型界面活性剤(アルコキシレートはエトキシレートもしくはプロポキシレートから選ばれる1種以上であり、平均付加モル数は3~20である)、炭素数10以上18以下のアルキル基を有するアルキルグリコシド型界面活性剤から選ばれるものが好ましい。両性界面活性剤としては炭素数10以上18以下のアルキル基を1つ、炭素数1以上3以下のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基を2つ有するアミンオキサイド型界面活性剤、カルボベタイン型界面活性剤、又はスルホベタイン型界面活性剤が好ましい。陰イオン界面活性剤としては炭素数8以上18以下の脂肪酸塩、炭素数8以上18以下のアルキル基を有するアルキル硫酸塩、炭素数8以上18以下のアルキル基を有するアルキルエーテル硫酸塩、炭素数8以上18以下のアルキル基を有するアルキルアリールスルホン酸から選ばれるものが好適である。
【0026】
(d1)成分を含有する場合、その含有量は、本発明の不活化剤中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0027】
(d2)成分の有機溶剤としては、1価又は多価アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤が挙げられる。1価又は多価アルコール系溶剤としてはプロパノール、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールが好ましい。グリコールエーテル系溶剤としては、炭素数1以上6以下のアルキル基を有しエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドの付加モル数が1以上3以下であるグリコールエーテル系溶剤等、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0028】
(d2)成分を含有する場合、その含有量は、本発明の不活化剤中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
【0029】
本発明の不活化剤は、その他に、任意成分として、pH調整剤、色素、香料、キレート剤、分散剤、安定化剤、防腐剤等の成分((a)~(d)成分を除く)を含有することができる。
本発明の不活化剤は、任意成分として、例えば、
(1)クエン酸、エチレンジアミン4酢酸、コハク酸、フマル酸、メチルイミノジ酢酸、イミノジコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸、タウリンジ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、β-アラニンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、メチルグリシンジ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギンジ酢酸、セリンジ酢酸などの多価カルボン酸、及びそれらの塩(塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい)
(2)リン酸、ホウ酸、炭酸、ケイ酸及びそれらの塩などの無機酸、及びそれらの塩(塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい)
(3)トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ジエチルバルビツル酸などの非カルボン酸系の含窒素化合物
などを含有することができる。本発明の不活化剤は、(1)の多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる成分を含有することが好ましく、クエン酸又はその塩を含有することがより好ましい。
【0030】
本発明では、多価カルボン酸及びそれらの塩を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。また、本発明では、(a)成分の含有量と多価カルボン酸及びそれらの塩の含有量との質量比である、(a)/(多価カルボン酸及びそれらの塩)が、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、より更に好ましくは6以上、そして、好ましくは300以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは37.5以下である。
【0031】
本発明の不活化剤は、ヒトノロウイルスに対して優れた不活化効果を示す。ヒトノロウイルスは、国際ウイルス分類委員会の分類によるカリシウイルス科、ノロウイルス属、ノーウォークウイルス種に属するものであってよい。
【0032】
本発明の不活化剤は、消毒剤、洗浄剤、消臭剤等に配合してもよい。例えば、本発明の不活化剤を硬質表面用の洗浄剤に配合して、ヒトノロウイルスに対する不活化効果を有する硬質表面用洗浄剤組成物を得ることができる。対象物に接触させて用いる、接触型のヒトノロウイルス不活化剤は、本発明の好適な態様である。
【0033】
本発明により、有効量のアルカノールアミンをヒトノロウイルスに適用する、ヒトノロウイルスの不活化方法が提供される。有効量は、適用によりヒトノロウイルスの不活化が認められる量であってよく、例えば、後述の実施例の評価法において、ヒトノロウイルスを接触時よりも減少させる量であってよい。具体的には、本発明により、(a)成分を有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤を、ヒトノロウイルスが存在する対象物に接触させ、所定時間放置するヒトノロウイルス不活化方法が提供される。
【0034】
前記対象物は、物品、人体からの排出物等から選択されてよい。
物品は、例えば、(1)衣類、手袋、帽子、寝具、カーテン等の繊維製品、(2)トイレ、洗面台、浴槽、テーブル、椅子、食器、冷蔵庫、カバン、電子機器、ドアノブ、スイッチ等の硬質物品、(3)床、壁、天井、柱、窓等の構造物、等が挙げられる。
また、人体からの排出物は、例えば、ヒトノロウイルス感染者の排泄物や嘔吐物等が挙げられる。
【0035】
本発明の不活化剤は、塗布、浸漬、噴霧等の方法で対象物に接触させることができる。例えば、本発明の不活化剤を噴霧して対象物に接触させる場合、トリガースプレーやディスペンサー等の汎用の容器に本発明の不活化剤を収容して用いることができる。
また、対象物に本発明の不活化剤を適用する場合、例えば、本発明の不活化剤を担持させた基材シートでふき取ることにより対象物のヒトノロウイルス不活化が可能である。基材シートの素材としては、再生繊維、合成繊維、植物繊維やこれらの混合繊維よりなる不織布、織布、網布等が例示できる。
【0036】
また、例えば、ヒトノロウイルスに感染した患者の排泄物や嘔吐物を清掃する際に用いた衣類、使い捨てマスク、使い捨て手袋、布製品等を廃棄する際に、本発明の不活化剤を噴霧したビニール袋等に密閉することもできる。
【0037】
本発明の不活化剤を対象物に接触させて放置する前記所定時間は、1分以上、更に3分以上、更に5分以上、そして、300分以下、更に60分以下、更に30分以下とすることができる。
【0038】
本発明の不活化剤で処理した部分は、ヒトノロウイルスが付着したとしても不活化されて増殖を抑えることができる。従って、本発明の不活化剤は、ヒトノロウイルスの感染予防にも有用である。本発明により、例えば、アルカノールアミンを有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤を対象物に付着させ、前記対象物にヒトノロウイルスを不活化する部分を形成する、対象物の処理方法が提供される。
【実施例】
【0039】
<評価法>
(1)Human Intestinal Enteroid(HIE)の培養
HIEは48ウェルプレート上でマトリゲル(Corning、356231)に包埋し三次元培養した。培地はIntestiCult Organoid Growth Medium(Human)(STEMCELL Technologies、ST-06010)を用いた。培地交換・継代・96ウェルプレートを用いた単層化の手技はユーザーマニュアルに従った。トリプシン処理後2日間はアノイキスを阻害するために培地に終濃度10μMとなるようにROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤であるCultureSure Y-27632(富士フィルム和光純薬、036-24023)を添加した。500mLのAdvanced DMEM/F12(Gibco、12634010)に5mLのGlutaMAX I(100×)(Gibco、35050-061)、5mLの1M HEPES(Gibco、15630080)、5mLのPenicillin-Streptomycin(Gibco、15140122)を添加することで基本培地を作製した。基本培地とIntestiCult Organoid Growth MediumのコンポーネントAとを等量混合することで分化培地を作製した。96ウェルプレートで単層化させた細胞に分化培地を1wellあたり200μLずつ2日間隔で交換しながら計6日間分化を誘導した。
【0040】
(2)ヒトノロウイルス(HNV)含有糞便の10%乳剤の作製
糞便の10%乳剤はGII.4型のHNV罹患者糞便から作製した。プロテアーゼ阻害剤であるComplete protease inhibitor cocktail tablets(Sigma-Aldrich、11697498001)1錠を50mLのD-PBS(-)に懸濁した。糞便1gに対して10mLのComplete含有D-PBS(-)で懸濁し、試験管ミキサーでよく混合した。4℃で20分間静置した後に、2000×g 4℃で10分間遠心した。上清を新たなチューブに回収し、感染実験に供するまで-80℃に保存した。
【0041】
(3)HNVの不活化処理と分化HIEへの感染
HNV含有10%糞便乳剤を分化培地で10倍に希釈し、1mLのシリンジとMillex HV Filter unit (Millipore、SLHVR04NL)を用いて濾過した。PA微量遠心チューブ(Beckman coulter、357448)中で濾過した糞便溶液5μLに、表1、2に示すヒトノロウイルス不活化剤45μLを混合し、25℃で20分間接触させた。次いでこの薬剤処理された糞便溶液に、56℃で30分間非働化処理を行ったFBS(Fetal bovine serum;BIOWEST社)1.45mLを添加した。遠心チューブを固定角ロータTLA-55(Beckman coulter)にセットしOptima MAX-TL(Beckman coulter)を用いて最大回転半径(Rmax)において186047×gの遠心力(55000rpm相当)で1.5時間超遠心した後に上清を除去した。沈殿物に対し、再度、56℃で30分間非働化処理を行ったFBS1.45mLを添加し、懸濁させ、同一の条件で超遠心した後に上清を除去した。
ペレットを100μLの分化培地で懸濁し、ウェル中の既存の培地を除去した分化誘導後のHIEにアプライした。インキュベートは37℃で3時間実施した。300μLの基本培地で3回洗浄した後に、終濃度が125ppmとなるようにブタ胆汁抽出物(Sigma-Aldrich、B8631-100G)を加えた分化培地を250μL添加し37℃、5%CO2の条件下でサンプリングのタイミングまで培養した。前記ペレットの懸濁物をHIEにアプライしたタイミングを試験開始として、試験開始から7日後(day 7)に10μLの上清を回収した。回収した上清はRT-qPCRに供するまで-80℃で保存した。また、ヒトノロウイルス不活化剤を接触させない糞便溶液を用いて同様に7日間培養したサンプルを「薬剤未処理群」として上清を回収した。
【0042】
(4)RT-qPCR
回収した上清中のHNV genome copy数の定量にはノロウイルス検出キットG1/G2(東洋紡、FIK-273)を用いた。操作はプロトコールに従った。PCR増幅とデータ測定はLightCycler480II(Roche)を用いた。測定されたヒトノロウイルス量に基づき、試験開始から7日後の薬剤処理群のヒトノロウイルス量と薬剤未処理群のヒトノロウイルス量の差を算出し、ヒトノロウイルス減少量の違いによって下記の4段階で評価した。結果を表1、2に示した。
A:HNVを検出下限にまで不活化
B:HNVが検出されるが、「薬剤未処理群」と比較してHNVが2log以上減少
C:「薬剤未処理群」と比較してHNVが2log未満1log以上減少
D:「薬剤未処理群」と比較してHNVの減少量が1log未満
【0043】
【0044】
表1中、第4級アンモニウム塩は、塩化ベンザルコニウム(炭素数12~16の混合アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、花王(株)製サニゾールC)である。
表1中、引火点の「あり」は、95℃未満に引火点があるという意味であり、「なし」は、95℃未満に引火点がないという意味である。
表1中、刺激臭の「あり」は、臭気の判定に熟練したパネラー1名の評価で、使用時に使用者が不快なにおいを感じるという意味であり、「なし」は、同じ評価で、不快なにおいを感じないという意味である。
【0045】
表1の結果から、エタノールの含有量が多いと引火点が低くまた刺激臭があるため、取り扱い性の点ではエタノールを含まない方が望ましいことがわかる。また、第4級アンモニウム塩を用いてもモノエタノールアミンの量が少ないあるいは含まない場合は、HNVに対する不活化効果は発現しないことがわかる。
【0046】
【0047】
表2中、脂肪酸は、花王株式会社製「ルナックL-55A」である。
表2中、アミンオキシドは、花王株式会社製「アンヒトール20N」である。
【0048】
表2のヒトノロウイルス不活化剤は、(d)成分を含有しており、洗浄剤として使用できる。これらにおいても、本発明の(a)成分を含有することで、HNVに対する不活化効果が発現することがわかる。
【0049】
<配合例>
表3に、本発明のヒトノロウイルス不活化剤の配合例を示した。
【0050】