(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】エアフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 46/52 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B01D46/52 A
(21)【出願番号】P 2020056458
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019210815
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】関 和也
(72)【発明者】
【氏名】林 嗣郎
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-262424(JP,A)
【文献】特開平08-187411(JP,A)
【文献】特開2009-247963(JP,A)
【文献】特開2014-217814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 46/00-46/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の微粒子を捕集する濾材と、前記濾材を周状に囲む枠体とを備えるエアフィルタであって、
前記枠体の少なくとも一部の周上の部分と、前記部分と向き合う前記濾材の部分との間をシールするシール材であって、200~500℃の温度範囲での前記枠体の線膨張係数に対する前記温度範囲での前記シール材の線膨張係数の割合が10~200%であるセラミック材料から構成されるシール材と、
前記シール材と前記枠体との間に介在して配置され、前記シール材が前記枠体に沿って膨張又は収縮することを許容する
、繊維質材料からなる緩衝材と、を備え、
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記緩衝材の厚さに対する、前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記シール材の厚さの比は1~5であることを特徴とするエアフィルタ。
【請求項2】
前記緩衝材は、
グラスウール又はロックウールである、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記セラミック材料は、結晶性シリカを含まず、非結晶性シリカ及びアルミナを含み、室温における粘度が20000~50000mPa・sであるペースト状の材料を焼結してなる、請求項1又は2に記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記緩衝材の厚さは、1~15mmである、請求項1から3のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【請求項5】
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記シール材の厚さは、3~20mmである、請求項1から4のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【請求項6】
前記温度範囲での前記シール材の線膨張係数は、前記温度範囲での前記枠体の線膨張係数の10%以上90%未満である、請求項1から
5のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【請求項7】
200~500℃の気体を通過させるための、請求項1から
6のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【請求項8】
前記濾材は、ジグザグ形状をなすようプリーツ加工されており、
前記シール材及び前記緩衝材は、プリーツの折り目が延びる方向に沿った前記濾材の両端部と、前記両端部それぞれと向き合う前記枠体の部分との間に配置されている、請求項1から
7のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の気体を清浄化するためのエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
高温の清浄化された空気を用いて、乾燥や滅菌の処理を行うために、耐熱性を有するエアフィルタ(耐熱フィルタ)が用いられている。エアフィルタは、例えば、プリーツ加工された濾材の山折りされた部分の内側にセパレータを配置してなるフィルタパックと、フィルタパックを周状に取り囲む枠体と、を備えている。このタイプのエアフィルタでは、濾材の折り目が延びる方向のフィルタパックの両端部と、両端部それぞれと向き合う枠体との間は、耐熱性を有する材料からなるシール材で封止されている。これにより、フィルタパックと枠体との間を気体が通過してしまうことが防止される。
【0003】
耐熱フィルタのシール材には、例えば、シリコーン樹脂系材料や、セラミック材料が用いられている。このうち、セラミック材料は、シリコーン樹脂系材料と比べ耐熱性が高く、より高温の空気を清浄化するための耐熱フィルタに用いるのに適している。
【0004】
従来、耐熱フィルタを高温で使用したときに、枠体とセラミック材料との熱膨張量差に起因してシール材が破損してしまうことを抑制するために、ステンレス鋼製フレームの線熱膨張係数と同じ線膨張係数になるように調整されたセラミック材料でシール材を構成した高温用フィルタが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記高温用フィルタでは、線膨張係数がステンレス鋼製フレームと同じであるセラミック材料だけを用いるので、シール材の材料選択の自由度が制限される。また、ある温度では線膨張係数が同じ材料同士であっても、別の温度では線熱膨張係数が異なる場合があるため、結局は、熱膨張量差の発生を抑えられない場合がある。
ところで、線膨張係数が枠体の線膨張係数と異なるセラミック材料をシール材として用いると、エアフィルタを高温で使用したときに、シール材の表面に割れが表れ、割れた部分からシール材の微粒子が離脱し、下流側に流れる場合があることがわかった。
【0007】
本発明は、濾材と枠体の間にセラミック材料のシール材が配置されたエアフィルタにおいて、シール材からの発塵を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
セラミック材料からなるシール材は、一般に、ペースト状のセラミック材料を濾材に塗布し、焼結させて得られる。本発明者は、セラミック材料の焼結時にシール材の割れが発生し、これに起因して、使用中にセラミック材料からの発塵が起きることを突き止めた。
【0009】
本発明の一態様は、気体中の微粒子を捕集する濾材と、前記濾材を周状に囲む枠体とを備えるエアフィルタであって、
前記枠体の少なくとも一部の周上の部分と、前記部分と向き合う前記濾材の部分との間をシールするシール材であって、200~500℃の温度範囲での前記枠体の線膨張係数に対する前記温度範囲での前記シール材の線膨張係数の割合が10~200%であるセラミック材料から構成されるシール材と、
前記シール材と前記枠体との間に介在して配置され、前記シール材が前記枠体に沿って膨張又は収縮することを許容する、繊維質材料からなる緩衝材と、を備え、
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記緩衝材の厚さに対する、前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記シール材の厚さの比は1~5であることを特徴とする。
【0010】
前記緩衝材は、グラスウール又はロックウールであることが好ましい。
【0011】
前記セラミック材料は、結晶性シリカを含まず、非結晶性シリカ及びアルミナを含み、室温における粘度が20000~50000mPa・sであるペースト状の材料を焼結してなることが好ましい。
【0012】
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記緩衝材の厚さは、1~15mmであることが好ましい。
【0013】
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記シール材の厚さは、3~20mmであることが好ましい。
【0014】
前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記緩衝材の厚さに対する、前記枠体と前記濾材とが向き合う方向に沿った前記シール材の厚さの比は1以上であることが好ましい。
【0015】
前記温度範囲での前記シール材の線膨張係数は、前記温度範囲での前記枠体の線膨張係数の10%以上90%未満であることが好ましい。
【0016】
前記エアフィルタは、200~500℃の気体を通過させる場合に好適である。
【0017】
前記濾材は、ジグザグ形状をなすようプリーツ加工されており、
前記シール材及び前記緩衝材は、プリーツの折り目が延びる方向に沿った前記濾材の両端部と、前記両端部それぞれと向き合う前記枠体の部分との間に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上述の態様によれば、濾材と枠体の間にセラミック材料のシール材が配置されたエアフィルタにおいて、シール材からの発塵を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のエアフィルタを示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のエアフィルタについて説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態が含まれる。
【0021】
図1は、本実施形態のエアフィルタ1を示す外観斜視図である。
図2は、エアフィルタ1を分解して示す図である。
エアフィルタ1は、濾材2と、セパレータ3と、枠体4と、シール材6と、緩衝材8と、を備えている。
【0022】
濾材2は、気体中の微粒子を捕集する部材である。
濾材2は、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、あるいはこれらの混合繊維からなる繊維体であり、例えば、不織布、ペーパ、綿、あるいはマットの形態を有している。濾材2の具体例として、ガラス繊維からなる、ガラス不織布、ガラス濾紙、グラスウール等が挙げられる。濾材2には、繊維同士を接着するバインダが含まれていてもよい。また、濾材2は、耐熱性を有する2枚の通気性支持材(例えば金網)の間に挟み込まれ、支持されていてもよい。
【0023】
図1に示す例において、濾材2は、プリーツ加工され、山折りと谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状を有している。
【0024】
セパレータ3は、濾材2の山折り、谷折りされた部分の内側のスペースのそれぞれに挿入され、プリーツの隣り合う間隔を保持する機能を有する。セパレータ3は、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属を材質とする薄板状の部材が波形状をなすようコルゲート加工されてなる。
図1に示す例において、セパレータ3は、気体がエアフィルタ1を通過する方向(気流方向、X方向)に折り目が延びるよう配置されている。
【0025】
枠体4は、濾材を周状に取り囲む部材である。
枠体4は、
図1に示す例において、気流方向に見て、矩形状の外形を有しており、四辺のそれぞれに沿って延びる、上面部41、下面部43、及び側面部45,47を有している。枠体4は、例えば、これら各部41,43,45,47と対応する複数の板材を組み合わせて作製される。板材の材質は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、あるいはセラミックである。ステンレスは、亜鉛又はアルミニウムでめっきされたものであってもよい。また、板材は、アルマイト処理、クロメート処理等により形成された皮膜を含むものであってもよい。
【0026】
シール材6は、枠体4の少なくとも一部の周上の部分と、この部分と向き合う濾材2の部分との間をシールする。
図1に示す例において、シール材6は、上面部41及び下面部43と、濾材2との間をシールする。
図1に示す例において、濾材2は、側面部45,47に対し、セパレータ3に押圧されて面接触することができるのに対し、上面部41及び下面部43に対しては面接触しないため、上面部41及び下面部43と濾材2との間のリークを防止するために、上面部41及び下面部43と濾材2との間に設けられることが好ましい。シール材6を備えることで、枠体4と濾材2の間に緩衝材8だけが配置されている場合と比べ、高いリーク防止効果が得られる。
【0027】
シール材6は、200~500℃の温度範囲での枠体4の線膨張係数(JIS Z2285:2003)に対する上記温範囲でのシール材6の線膨張係数(JIS R1618:2002)の割合が10~200%であるセラミック材料から構成される。セラミック材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等を含む材料が挙げられる。また、発がん性物質を含まないようにする観点から、セラミック材料に、結晶性シリカ(例えばクリストバライト)が含まれないことが望ましい。シール材6は、例えば、ペースト状あるいは液状のセラミック材料を焼結させることで形成される。このようなシール材6は、セラミック材料の焼結時に発生した割れ(クラック)を内部に有している場合がある。割れ自体は、シール材6内部の応力を緩和し、使用時に新たに割れが発生することを抑止する効果があるとともに、割れがシール材6の表面に達していなければ、使用中の発塵は起きないため、シール材6に、このような割れが内在していても、エアフィルタ1は使用可能である。
【0028】
シール材6のセラミック材料は、結晶性シリカを含まず、非結晶性シリカ及びアルミナを含み、室温(23℃)における粘度が20000~50000mPa・sであるペースト状のセラミック材料を焼結してなることが好ましい。結晶性シリカ(結晶質シリカともいう)は、SiO2の結晶構造を有するシリカであり、非結晶性シリカ(非晶質シリカともいう)は、SiO2の結晶構造を有しないシリカである。このようなセラミック材料は、結晶性シリカを含まず、非結晶性シリカまたはアルミナを含むことで、シール材6の熱膨張係数を調整しやすい。また、このようなセラミック材料は、室温での粘度が上記範囲にあることで、焼結前において緩衝材8の内部に入り込み難いので、焼結後のシール材6の膨張又は収縮を許容する緩衝材8の後述する作用が良好に発揮される。また、室温での粘度が上記範囲にあるセラミック材料は、枠体4に沿って均一な厚さになるよう塗布しやすいので、焼結したシール材6に、厚さのムラが生じたり、孔があいたりすることを抑えられる。ペースト状のセラミック材料の水分を除いた成分全体は、50質量%以上の非結晶性シリカ及びアルミナを含むことが好ましい。室温における上記粘度は、好ましくは25000~45000mPa・sである。
【0029】
200~500℃という温度範囲は、エアフィルタ1が使用されうる雰囲気の温度範囲である。上記温度範囲は、好ましくは、300~400℃である。なお、エアフィルタ1の使用中の雰囲気温度は、最高温度が上記温度範囲内にあればよく、例えば使用開始時等に200℃未満であってもよい。上記した、枠体4の線膨張係数に対するシール材6の線膨張係数の割合は、上記温度範囲内の同じ温度における枠体4及びシール材6の線膨張係数を用いて計算される。本実施形態では、上記割合が10~200%であることで、枠体4及びシール材6の組み合わせを選択する自由度が高くなっている。上記割合が200%を超えると、シール材6の枠体4に沿った(シール材6の長手方向の)熱膨張が側面部45,47によって規制されて圧縮応力が大きくなり、破損するおそれがある。上記割合が10%未満であると、枠体4の熱膨張量が大きすぎて、緩衝材8が設けられていてもシール材6が引っ張られてしまい、シール材6に内在する割れが進展してシール材6の表面に表れるおそれがある。シール材6の表面に割れが存在していると、エアフィルタ1の使用中に、割れたシール材6の部分の壁面から、シール材6の微粒子が離脱し、エアフィルタ1を通過した下流側の気体が汚染されてしまう。上記割合は、好ましくは50~150%である。
【0030】
シール材6の線膨張係数は、枠体4の線膨張係数より大きくてもよく、枠体4の線膨張係数と等しくてもよく、枠体4の線膨張係数より小さくてもよいが、枠体4の線膨張係数より大きいと、
図1に示す例において、シール材6の長手方向(Y方向)への熱膨張は、側面部45,47によって適度な力で規制されることでシール材6の割れは進展し難くなる点で、一実施形態によれば、シール材6の線膨張係数は、枠体4の線膨張係数より大きいことが好ましい。
【0031】
緩衝材8は、シール材6と枠体4との間に介在して配置された部材である。具体的に、緩衝材8は、シール材6及び枠体4の互いに向き合う表面に接して配置されている。緩衝材8は、シール材6の枠体4に沿った膨張又は収縮を許容する機能を有している。枠体4に沿った膨張又は収縮とは、シール材6と向き合う枠体4の表面の面内方向と平行な方向への膨張又は収縮を意味する。
図1に示す例において、緩衝材8は、上面部41とシール材6との間、及び、下面部43及びシール材6との間の2箇所に配置されている。緩衝材8がシール材6と枠体4との間に配置されていることにより、エアフィルタ1の使用中に、シール材6が、枠体4に拘束されることなく、あるいは、枠体4に引っ張られることなく、膨張又は収縮することができる。本実施形態では、上述したように枠体4及びシール材6の組み合わせの選択の自由度が高い反面、選択した枠体4及びシール材6の組み合わせによっては、両者の熱膨張量差が大きくなる場合があるが、シール材6は、枠体4に対し相対的に膨張又は収縮することができるため、シール材6に内在する割れの進展は抑制される。これにより、発塵が効果的に抑制される。
【0032】
エアフィルタ1は、下記説明する製造方法によって製造することができる。
この製造方法は、気体中の微粒子を捕集する濾材と、濾材を周状に囲む枠体とを備えるエアフィルタの製造方法である。この製造方法は、シール材を形成するステップと、緩衝材を配置するステップと、を備える。
シール材を形成するステップでは、枠体の少なくとも一部の周上の部分と、この部分と向き合う濾材の部分との間をシールするシール材であって、200~500℃の温度範囲での枠体の線膨張係数に対するこの温度範囲でのシール材の線膨張係数の割合が10~200%であるセラミック材料から構成されるシール材を形成する。
緩衝材を配置するステップでは、シール材の枠体に沿った膨張又は収縮を許容する緩衝材を、シール材と枠体との間に介在させるよう配置する。
【0033】
この製造方法において、濾材、枠体、セパレータ、エアフィルタ、シール材、緩衝材は、上記実施形態の濾材2、枠体4、セパレータ3、エアフィルタ1、シール材6、緩衝材8と同様に構成される。
【0034】
シール材を形成するステップ及び緩衝材を配置するステップは、例えば、下記(1)あるいは(2)の要領で行うことができる。
(1)枠体4の下面部43の上面に緩衝材8を配置し、配置した緩衝材8に、ペースト状のシール材を塗布し、フィルタパックの濾材2及びセパレータ3を、塗布したシール材に付着させる。このとき、側面部45,47は、下面部43に接合されていることが好ましい。次いで、上面部41を、使用時に下面部43の側を向く表面を上に向けて、この表面に別の緩衝材8を配置し、配置した緩衝材8に、ペースト状のシール材を塗布し、下面部43及び下面部43上に配置した上記緩衝材8に付着させた上記濾材2及びセパレータ3の側と反対側の端部を、塗布したシール材に付着させる。このとき、側面部45,47と上面部41を接合する。次いで、得られた未焼成のエアフィルタを、例えば炉内に配置し、シール材を焼結させる。
(2)枠体4の下面部43と向き合う濾材2及びセパレータ3の部分にペースト状のシール材を塗布し、塗布したシール材の上に緩衝材8を載置し、その上に下面部43を配置する。これを上下反転させ、上面部41と向き合う濾材2及びセパレータ3の部分にペースト状のシール材を塗布し、塗布したシール材の上に別の緩衝材8を配置し、その上に上面部41を配置する。上面部41には、側面部45,47を接合していることが好ましい。次いで、得られた未焼成のエアフィルタを、例えば炉内に配置し、シール材を焼結させる。
【0035】
緩衝材8は、例えば、上面部41、下面部43の内壁(エアフィルタ1の内側を向く表面)全体に沿って配置されることが好ましい。シール材6は、緩衝材8からはみ出さない大きさであることが好ましい。
【0036】
シール材を形成するステップでは、ペースト状あるいは液状のシール材を、自然乾燥させてもよいが、高温で焼結させることが好ましい。焼結は、例えば、100~200℃の乾燥雰囲気下で行われる。このとき、シール材の割れの発生を抑えるために、3~16℃/分の昇温速度で焼結温度まで昇温させることが好ましい。ペースト状のシール材は、上述したように、結晶性シリカを含まず、非結晶性シリカ及びアルミナを含み、室温(23℃)における粘度が20000~50000mPa・sであることが好ましい。
【0037】
一実施形態によれば、緩衝材8は、繊維質材料からなることが好ましい。繊維質材料からなる緩衝材8は、容易に伸縮するので、枠体4に沿ったシール材6の膨張又は収縮を許容する効果(緩衝作用ともいう)が大きい。また、繊維質材料からなる緩衝材8は、枠体4に密着しないため、枠体4に対する滑りやすさが確保される。さらに、緩衝材8を、シール材6と枠体4の間に圧縮した状態で配置することで、繊維質材料の反発力によってシール材6と枠体4の間のシール性が得られる。繊維質材料は、例えば、ガラス、セラミック、鉱物を材質とする。加えて、繊維質材料からなる緩衝材8は、シール材6の焼結時に、シール材6とともに収縮することができるため、焼結時のシール材6の割れの発生を抑える効果も得られる。シール材6の焼結時は、シール材6が収縮する一方で、枠体4は膨張するため、焼結時に、シール材6と枠体4との間に緩衝材8が介在している場合は効果的である。
【0038】
セラミックは、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等を含む材料である。なお、緩衝材8にバインダが含まれていると、使用中に溶けあるいは分解して下流側に流れるおそれがあるため、バインダは含まれていないことが好ましい。繊維質材料を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、0.01~10μmである。緩衝材8の形態は、例えば、綿状、スポンジ状(多孔質状)である。好ましい緩衝材8の例として、グラスウール、ロックウールを挙げることができる。
【0039】
一実施形態によれば、緩衝材8とシール材6との間に、別の部材が配置されていないことが好ましい。別の部材とは、例えば、濾紙、不織布等のシート状の繊維体である。このような部材が緩衝材8とシール材6との間に介在していると、シール材6の焼結時に割れが発生することを抑える効果が弱まる場合がある。
【0040】
一実施形態によれば、シール材6の厚さは、3~20mmであることが好ましい。シール材6の厚さは、好ましくは5~15mmである。シール材6の厚さは、乾燥状態(焼結後の状態)での厚さを意味する。シール材6は、薄いほど、焼結時に割れを発生させやすいことがわかった。その理由は、焼結時にシール材6から水分が抜けるときにシール材6が収縮することでシール材6には大きな内部応力が発生するが、薄いシール材6だと、その大きさに耐えられないためと考えられる。一方、シール材6の厚さが厚すぎると、エアフィルタ1を軽量化できない。
【0041】
一実施形態によれば、緩衝材8の厚さは、1~15mmであることが好ましい。緩衝材8の厚さは、好ましくは3~10mmである。
【0042】
濾材2とセパレータ3の間では、
図1の上下方向への膨張量又は収縮量の差が大きい場合がある。この場合に、緩衝材8の厚さが厚すぎると、緩衝材8は、枠体4に沿った方向と直交する方向(縦方向、Z方向)にも伸縮するため、濾材2及びセパレータ3のそれぞれから力を受けると、シール材6に内在する割れが縦方向に進展し、シール材6の表面に達しやすくなる。このため、発塵しやすくなる。特に、シール材6の厚さが厚い場合は、割れたシール材6の部分の壁面が大きいため、発塵箇所が多くなる。また、緩衝材8の厚さが厚すぎると、シール材6が自重により緩衝材8を枠体4との間でさらに圧縮するように下方に移動することで、その反対側の、上面部41と対向する緩衝材8と上面部41との間に隙間があいて、リークが発生するおそれがある。この問題は、特に、シール材6の厚さが厚い場合に顕著となる。これらの観点から、一実施形態によれば、緩衝材8の厚さに対するシール材6の厚さの比は1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
【0043】
一方、緩衝材8の厚さが薄すぎると、ペースト状のシール材6を塗布したときに、局所的にシール材6が枠体4に達し枠体4と接してしまう場合がある。このため、緩衝材8による緩衝作用が制限され、シール材6の割れの進展を十分に抑えることができない場合がある。また、緩衝材8の厚さが薄すぎると、シール材6と枠体4との間で圧縮された場合の反発力が弱く、シール材6と枠体4との間に隙間があいてリークする場合がある。これらの観点から、一実施形態によれば、上記比は、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0044】
緩衝材8の厚さは、緩衝材8をシール材6と枠体4の間に配置した状態で、長手方向(Y方向)に沿って複数(3箇所以上)の位置で測定した厚さの平均値をいう。緩衝材8の厚さは、例えばノギスを用いて測定できる。
【0045】
一実施形態によれば、シール材6の線膨張係数は、200~500℃の温度範囲での枠体4の線膨張係数の10%以上90%未満であることも好ましい。シール材6の線膨張係数が枠体4の線膨張係数より小さいと、シール材6の長手方向への熱膨張が側面部45,47によって適度に規制されることで割れの進展を抑える上述した効果が得られ難くなる点で不利であるが、シール材6と枠体4との間には、上述したように、緩衝材8が介在して配置されているため、シール材6の熱膨張が側面部45,47によって規制されなくても、割れの進展を抑制する効果は得られる。ここで、枠体4の材質のうち、例えばステンレスは、高温域での線膨張係数が、低温域と比べ高く、エアフィルタ1の使用時の枠体4の熱膨張量は、焼結時と比べ大きい。このため、シール材6が枠体4に接していると、シール材6が枠体4に大きく引っ張られ、シール材6の割れが容易に進展し、発塵しやすい。しかし、この実施形態によれば、このようなステンレスを枠体4の材質として選択しつつ、ステンレスより線膨張係数の小さい種々のセラミック材料をシール材6として選択でき、そのような場合にも、シール材6の割れの進展を抑制し、発塵を抑えることができる。
【0046】
エアフィルタ1は、例えば、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタの性能を有している。HEPAフィルタは、定格風量で粒径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集効率を有し、かつ初期の圧力損失が245Pa以下であるフィルタである。
【0047】
エアフィルタ1は、高温で気体を清浄化する種々の用途に用いることができる。例えば、焼却炉から排出される排ガスの清浄化、半導体製造プロセスで扱う部品の乾燥を行う乾燥炉や、医療器具等の滅菌を行う滅菌炉内の空気の清浄化、等に用いられる。エアフィルタ1は、例えば、焼却施設、半導体製造施設、病院、研究施設等の上記各炉と接続された気流の流路の途中の部分に設置される。
【0048】
以上、本発明のエアフィルタについて詳細に説明したが、本発明のエアフィルタは上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0049】
1 エアフィルタ
2 濾材
3 セパレータ
4 枠体
6 シール材
8 緩衝材
41 上面部
43 下面部
45,47 側面部