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特許7537900ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス接合基板の製造方法
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  • 特許-ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス接合基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20240814BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240814BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20240814BHJP
   B23K 35/40 20060101ALI20240814BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B23K35/22 310A
B23K35/30 310B
C22C5/06 Z
B23K35/40 340F
C04B37/02 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020061887
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159926
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 歩
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013651(WO,A1)
【文献】特開2018-145047(JP,A)
【文献】特開2000-246482(JP,A)
【文献】特開平09-188582(JP,A)
【文献】特開平11-029371(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105734(WO,A1)
【文献】特開2008-208013(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002407(WO,A1)
【文献】特開2014-090144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22
B23K 35/30
C22C 5/06
B23K 35/40
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径(D50)が5μm以上且つ20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体と、ビヒクルとを含むことを特徴とする、ペースト状のろう材。
【請求項2】
前記粉体における前記チタン粉の量が0.9~1.8質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のろう材。
【請求項3】
前記粉体における前記銅粉の量が5~13質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載のろう材。
【請求項4】
前記粉体としてさらに1.0質量%以下の酸化チタン粉を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載のろう材。
【請求項5】
平均粒径(D50)が5μm以上且つ20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体を準備し、前記粉体とビヒクルを混練してペースト状にすることを特徴とする、ペースト状のろう材の製造方法。
【請求項6】
前記粉体における前記チタン粉の量が0.9~1.8質量%であることを特徴とする、請求項に記載のろう材の製造方法。
【請求項7】
前記粉体における前記銅粉の量が5~13質量%であることを特徴とする、請求項5または6に記載のろう材の製造方法。
【請求項8】
前記粉体としてさらに1.0質量%以下の酸化チタン粉を含むことを特徴とする、請求項のいずれかに記載のろう材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のペースト状のろう材を使用して、金属板とセラミックス基板を接合することを特徴とする、金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記セラミックス基板の一方の主面に前記ろう材を塗布し、塗布されたろう材に前記金属板を接触配置させ、真空雰囲気で加熱して接合することを特徴とする、請求項に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項11】
さらに前記セラミックス基板の他方の主面に前記ろう材を塗布し、塗布されたろう材に金属板を接触配置させ、真空雰囲気で加熱して接合することを特徴とする、請求項10に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項12】
前記金属板が銅または銅合金であることを特徴とする、請求項11のいずれかに記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項13】
前記セラミックス基板がアルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素から選ばれる1つを主成分とすることを特徴とする、請求項12のいずれかに記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス接合基板の製造方法に関し、金属板をセラミックス基板に接合する際に用いられる活性金属を含有するろう材とその製造方法、またこのろう材を使用して金属板をセラミックス基板に接合する金属-セラミックス接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械などに用いられる大電力を制御するためにパワーモジュールが使用されている。このようなパワーモジュール用の絶縁回路基板として、セラミックス基板の一方の面に接合されたチップ部品や端子の半田付けがなされる金属(回路)板と、セラミックス基板の他方の面に接合された放熱板を半田付けなどの方法で接合・形成するための(放熱板形成用)金属板からなる、金属-セラミックス接合基板が使用されている。
【0003】
金属-セラミックス接合基板では、金属回路板や放熱板形成用金属板の材料として電気伝導率、熱伝導性の高い銅やアルミニウムが用いられることが多く、また、セラミックス基板として絶縁性の高いアルミナ基板や窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などが用いられる。このような金属板をセラミックス基板に接合する際、活性金属を含有するろう材を介して真空中で加熱して接合する方法、いわゆる活性金属法による接合が広く用いられている。
【0004】
パワーモジュールは電車などの車両に用いられ、またパワー半導体チップの特性向上等により、高密度化、スイッチング速度の高速化が進むとともに、さらに高電圧の領域に適用されるようになってきた。金属-セラミックス接合基板に高電圧が負荷されると、接合界面に存在するボイドなどの欠陥から部分放電(コロナ放電)が発生し、それが繰り返し発生すると金属-セラミックス接合基板に絶縁破壊が生じ、パワーモジュールが壊れる恐れがある。また、前記ボイド等の(接合)欠陥は金属-セラミックス接合基板の放熱性を劣化させる恐れもある。
【0005】
特許文献1には、セラミックス基板と、その少なくとも一方の面に接合された金属板とからなり、上記接合層のボイドが直径0.65mm以下であることを特徴とする金属-セラミックス接合基板が開示されており、コロナ放電を抑制し耐電圧が4kV以上となる金属-セラミックス接合基板について記載されている。
【0006】
特許文献2には、セラミックス基板の主面上に接合した金属板上の半導体搭載部分の接合界面におけるボイドを面積率で1.5%以下とするセラミックス-金属複合回路基板が開示されている。また、セラミックス基板のとしてアルミナ基板を用いる旨が開示されている。接合界面のボイドが少なくなることで放熱性が改善されるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-48671号公報
【文献】特開平9-283671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電車などの車両に用いられるパワーモジュールに使用される金属-セラミックス接合基板においては、1つの金属-セラミックス接合基板の金属回路板に搭載するチップの数が増え、比較的大面積で且つ接合欠陥の少ない金属-セラミックス接合基板が求められている。
【0009】
しかしながら本発明者らの調査によると、特許文献1、2の金属-セラミックス接合基板およびその製造方法では、金属-セラミックス接合基板の(接合部の)面積が例えば20cmを超える大面積のものを接合した場合は、ボイドや未接合などの接合欠陥を十分に抑制することが困難であるという課題があることがわかってきた。また、一般的に接合領域が大面積である金属とセラミックス(特にセラミックスが窒化物系である場合など)においては、小面積のものと比較すると接合欠陥を低減することは困難であることが知られている。
【0010】
本発明は、このような接合領域の面積が大きい大型の金属-セラミックス接合基板においても、接合欠陥を十分に低減することを可能とする、ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
平均粒径(D50)が20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体と、ビヒクルとを含むことを特徴とする、ペースト状のろう材である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記チタン粉の平均粒径(D50)が5μm以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
前記粉体における前記チタン粉の量が0.9~1.8質量%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記粉体における前記銅粉の量が5~13質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記粉体としてさらに1.0質量%以下の酸化チタン粉を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の態様は、
平均粒径(D50)が20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体を準備し、前記粉体とビヒクルを混練してペースト状にすることを特徴とする、ペースト状のろう材の製造方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の態様であって、
前記チタン粉の平均粒径(D50)が5μm以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明の第8の態様は、第6または第7の態様に記載の態様であって、
前記粉体における前記チタン粉の量が0.9~1.8質量%であることを特徴とする。
【0019】
本発明の第9の態様は、第6~第8のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記粉体における前記銅粉の量が5~13質量%であることを特徴とする。
【0020】
本発明の第10の態様は、第6~第9のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記粉体としてさらに1.0質量%以下の酸化チタン粉を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の第11の態様は、 第1~第5のいずれかの態様に記載のペースト状のろう材を使用して、金属板とセラミックス基板を接合することを特徴とする、金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0022】
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の態様であって、
前記セラミックス基板の一方の主面に前記ろう材を塗布し、塗布されたろう材に前記金属板を接触配置させ、真空雰囲気で加熱して接合することを特徴とする。
【0023】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の態様であって、
さらに前記セラミックス基板の他方の主面に前記ろう材を塗布し、塗布されたろう材に金属板を接触配置させ、真空雰囲気で加熱して接合することを特徴とする。
【0024】
本発明の第14の態様は、第11~第13のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記金属板が銅または銅合金であることを特徴とする。
【0025】
本発明の第15の態様は、第11~第14のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記セラミックス基板がアルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素から選ばれる1つを主成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、金属-セラミックス接合基板の接合欠陥を十分に低減することを可能とする、ろう材およびその製造方法並びに金属-セラミックス基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に実施の形態となる金属-セラミックス接合基板の上面図(a)および断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のペースト状のろう材は、平均粒径(D50)が20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体と、ビヒクルとを含むことを特徴とする。また、本発明のペースト状のろう材の製造方法は、平均粒径(D50)が20μm以下であるチタン粉を0.7~2.0質量%、銅粉を3~15質量%、残部として銀粉を含む粉体を準備し、前記粉体とビヒクルを混練してペースト状にすることを特徴とする。
【0029】
(チタン粉)
本発明のろう材は、平均粒径(D50)が20μm以下であるチタン粉を(粉体の総量に対して)0.7~2.0質量%とする。このような微細な粒径のチタン粉を用いることにより、ペースト状のろう材をセラミックス基板に塗布したときに、平均粒径(D50)が20μmを超えるチタン粉と比べて粒径が小さいために、ろう材の塗布領域において面積当たりの(接合に寄与する)チタン粉の個数密度が高くなり、より均一にチタン粉を分布させることができ、金属板とセラミックス基板が接合される際にムラなく接合して金属-セラミックス接合基板の接合欠陥を低減することができると考えられ、また十分な接合強度を得ることができる。また、取り扱いにおける安全性の問題から、平均粒径(D50)の下限として5μm以上、さらには10μm以上とすることが好ましい。本発明においてチタン粉とは、チタン粉または水素化チタン粉を意味する。
【0030】
また、チタン粉と銅粉と銀粉等を含む粉体の総量を100質量%としたときに、チタン粉の量を0.7~2.0質量%とする。チタン粉の量が少なすぎると、金属-セラミックス接合基板を作製したときに、必要な接合強度が得られず、量が多すぎると接合欠陥は低減する傾向であるが、耐熱衝撃性が低下するおそれがある。粉体に対するチタン粉の量は0.9~1.8質量%であることが好ましい。
【0031】
なお、前記粉体中にチタン粉、銅粉、銀粉以外の、例えば1.0質量%以下のSn粉、In粉等の他の粉体或いは不純物成分を、本発明の効果を奏する範囲で含有してもよい。
【0032】
(銅粉)
本発明のろう材は、銅粉の量が(粉体の総量に対して)3~15質量%であることを特徴とする。銅粉の量が少なすぎる或いは多すぎると接合欠陥が増加する恐れがある。銅粉の量は5~13質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、銅粉と銀粉によって、銅と銀の融体が形成される。この融体には、ろう材の溶融温度(接合温度)を下げる作用があり、金属-セラミックス接合基板の耐熱衝撃性を向上させる効果があると考えられる。
【0034】
本発明のろう材の製造方法に用いる銅粉の平均粒径(D50)は40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。銅粉はチタン粉と異なり、金属板とセラミックス基板の接合界面に(チタンがセラミックス基板の成分と反応生成物を形成するように)反応生成物を形成しないと考えられるため、すなわち直接的には接合に寄与しないためチタン粉と比べて粒径の影響は小さいと考えられる。ただし、ろう材をスクリーン印刷などで塗布する際に、粒径が大きいと目詰まりする恐れがあるので上記粒径のものを使用するのが好ましい。銅粉の平均粒径(D50)は、さらに好ましくは0.1~10μmである。
【0035】
(銀粉)
本発明のろう材は、(粉体の総量に対して)チタン粉と銅粉を除いた残部として銀粉を含むことを特徴とする。前述の通り、銅粉と銀粉によって、銅と銀の融体が形成される。この融体には、ろう材の溶融温度(接合温度)を下げる作用があり、金属-セラミックス接合基板の耐熱衝撃性を向上させる効果があると考えられる。
【0036】
本発明のろう材の製造方法に用いる銀粉の平均粒径(D50)は40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、0.1~10μmであることがさらに好ましい。銀粉はチタン粉と異なり、金属板とセラミックス基板の接合界面に(チタンがセラミックス基板の成分と反応生成物を形成するように)反応生成物を形成しないと考えられるため、すなわち直接的には接合に寄与しないためチタン粉と比べて粒径の影響は小さいと考えられる。
【0037】
(ビヒクル)
本発明のろう材は前記粉体とビヒクルとからなり、ビヒクルと前記粉体を混錬してペースト状のろう材を作製する。ビヒクルはバインダーと溶剤からなり、一般に用いられている有機系のバインダーとそれを溶解する溶剤を使用すればよい。
【0038】
例えば、主にアクリル系バインダーやセルロース系バインダー等の有機バインダーと、α-テルピネオールやジブチルフタレート等の有機溶剤とを含むヒヒクルが挙げられ、ろう材ペースト中の金属粉末を粘結してペースト状となす作用をなす。
【0039】
アクリル系バインダーとしては、例えばポリメチルメタアクリレートやポリイソブチルメタアクリレート・ポリノルマルブチルメタアクリレート等が、セルロース系バインダーとしては、エチルセルロースやメチルセルロース・ニトロセルロース等が例示できる。
【0040】
このようなビヒクルの含有量等は、ペースト状のろう材に適当なチキソ性および粘度を付与するように適宜調整すればよい。例えば前記粉末の総量を100重量部としたときビヒクルを7~15重量部添加したものを、一般的な混錬手法である乳鉢や3本ロールミル、プラネタリーミキサー等を用いて混錬し、ペースト状のろう材を作製することができる。
【0041】
なお、ビヒクル中のバインダーは40~60質量%、残部が溶剤であるのが好ましい。
【0042】
(酸化チタン粉)
前記粉体を100質量%としたときに、前記粉体中に1.0質量%以下の酸化チタン粉を含んでもよい。酸化チタン粉を添加することにより、耐熱衝撃性の改善が見込まれるが、添加量が多いと接合欠陥が増大するので前記範囲内とするのが好ましい。酸化チタン粉の添加は粉体に対して0.1~0.6質量%としてもよい。
【0043】
酸化チタン粉の平均粒径(D50)は、ろう材をスクリーン印刷などで塗布する際に、粒径が大きいと目詰まりする恐れがあることを考慮し、平均粒径(D50)が50μm以下であることが好ましい。
【0044】
(金属-セラミックス接合基板の製造方法)
本発明の金属-セラミックス接合基板の製造方法は、前述のペースト状のろう材を使用して、金属板とセラミックス基板を接合することを特徴とする。
【0045】
金属板は電子回路や放熱目的で使用されるため、導電率や熱伝導率に優れた銅または銅合金であることが好ましい。また、セラミックス基板は金属-セラミックス接合基板として回路用に用いることから絶縁性に優れたアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素から選ばれる1種を主成分とすることが好ましい。金属板、セラミックス基板ともに市販されているものを使用することができる。
【0046】
以下、図1を参照し金属-セラミックス接合基板の製造方法を説明する。
【0047】
セラミックス基板10の一方の主面および他方の主面のほぼ全面或いは金属板20を接合する部分に対応するセラミックス基板10の表面に、前述のペースト状のろう材30をスクリーン印刷法等の方法で塗布する。
【0048】
ろう材の組成にもよるが、ろう材の単位面積当たりの塗布重量は概ね0.08~0.50mg/cmの範囲とすることが好ましく、また塗布するろう材の厚さは概ね5~35μmとすることが好ましい。これよりも単位面積当たりのろう材の塗布重量が軽い、あるいはろう材が薄いと金属板とセラミックス基板の接合強度が小さくなり、単位面積当たりのろう材の塗布重量が重い、あるいはろう材が厚いとヒートサイクル特性などの耐熱衝撃性が悪くなる恐れがある。さらに好ましいろう材の単位面積当たりの塗布重量は0.12~0.40mg/cm、ろう材の厚さは10~30μmである。
【0049】
セラミックス基板10に塗布したろう材30を、例えば50~150℃で乾燥させた後、金属板20をセラミックス基板の両面に形成されたろう材30の表面に配置する。このように配置することにより、セラミックス基板10にろう材30を介して金属板20が接触しているサンドイッチ状の積層体が得られ、この状態で真空炉に挿入する。
【0050】
真空炉に挿入した前記積層体の上に必要に応じて重りを載せ、真空雰囲気で加熱してろう材30を介して金属板20とセラミックス基板10を接合する。加熱(接合)温度は770~900℃に設定することが好ましく、790~860℃に設定してもよい。接合温度での保持時間は10~120分程度であり、工業的には15~60分とすることが生産性と接合の安定性(接合欠陥小、接合強度大)を考慮すると好ましい。また、接合温度まで昇温する途中に例えば500~700℃で30~60分保持して、ろう材30中の有機物を除去する脱バインダーを行ってもよい。
【0051】
このようにして接合した後、真空炉から積層体を取り出し、金属板20とセラミックス基板10がろう材30を介して接合された、金属-セラミックス接合基板を得ることができる。
【0052】
なお、本発明の効果を有効に利用するためには、接合面積を大きくなるとボイドや未接合などの接合欠陥が発生しやすくなるので、接合面積が25cm以上であるのが好ましく、さらには36cm以上であるものに適用するのが好ましい。
【0053】
その後、回路が形成された金属-セラミックス接合基板を得るために、従来の方法により回路を形成してもよく、必要に応じて金属板の表面にNiめっきや防錆処理等の表面処理をしてもよい。
【0054】
例えば、前述のようにセラミックス基板10の全面にろう材30を塗布した上に金属板20を接合したときに、金属板20の上に所定の回路形状などのエッチングレジストパターンを形成し、塩化銅と過酸化水素水を含む薬液等によるエッチング処理を行うことで、銅板などの金属板20を除去し、さらにフッ化水素やキレート剤などを含むろう材30除去用の薬液を用いてろう材30を除去して、金属板20を回路形状等としてもよい。
【0055】
また、例えば表面処理において、無電解Ni-Pめっき或いは電気Niめっきなどで金属板20の表面にNiめっきを形成してもよいし、防錆処理剤を用いて金属板20を防錆処理してもよい。
【実施例
【0056】
以下、本発明によるろう材およびろう材の製造方法並びに金属-セラミックス接合基板の製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0057】
[実施例1]
セラミックス基板として縦68mm、横68mm、厚さ0.6mmの大きさの窒化アルミニウム基板(株式会社トクヤマ製)を準備した。
【0058】
また、1.7質量%の市販のチタン粉(純度99.9質量%以上)と、10質量%の市販の銅粉(電解銅粉)と、0.5質量%の市販の酸化チタン粉(酸化チタン(IV)ルチル型)と、87.8質量%(残部)の市販の銀粉からなる粉末100gに、アクリル系のバインダーと溶剤からなるビヒクルを13.8g添加して、乳鉢および三本ロールミルを用いて混練し、ペースト状の(活性金属含有)ろう材を作製した。
【0059】
なお、チタン粉は平均粒径(メジアン径D50)が26.902μmである市販のチタン粉末を粉砕して粒径を細かくしたのち篩い分け(分級)したものを用い、その平均粒径D50は12.130μmであった。
【0060】
銅粉の平均粒径(D50)は7.3μm、酸化チタン粉の平均粒径(D50)は45μmのものを用いた。
【0061】
銀粉は、平均粒径(D50)が0.5μmのものを用いた。
【0062】
なお、上記平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(株式会社セイシン企業製、レーザーマイクロンサイザーLMS-3000)を用いて、分散媒は純水として、体積基準により測定したものである。
【0063】
このペースト状の活性金属含有ろう材を、乳剤厚10μmのスクリーン印刷版を使用して、前記窒化アルミニウム基板の表と裏の面のそれぞれ全面に、スクリーン印刷機によりスクリーン印刷することにより塗布した。なお、ろう材中の活性金属であるチタンの単位面積あたりの塗布量は0.271mg/cmであった。
【0064】
次いで、窒化アルミニウム基板の表裏のそれぞれの面に塗布されたろう材を乾燥させた後、縦70mm、横70mm、厚さ0.25mmの銅板をそれぞれ窒化アルミニウム基板の表裏の主面の全部が覆われるように接触配置させた積層体を作製して真空炉に挿入し、この積層体に200gの重りを載せて真空中(真空度1.0×10-4torr以下)において835℃で40分加熱・保持することで接合し、窒化アルミニウム基板の両面にろう材を介して銅板が接合された金属-セラミックス接合基板を58個作製した。
【0065】
(接合欠陥率)
このようにして得られた金属-セラミックス接合基板58個について、超音波探傷機(株式会社日立パワーソリューションズ製 超音波映像装置FS100II)により、プローブ周波数を50MHzとして接合領域(活性金属ろう材を塗布した領域)に対する接合欠陥領域(ボイド部、未接合部)を面積率(接合欠陥率という)としてそれぞれ算出した。その結果、接合欠陥率の平均は0.321面積%で接合欠陥が非常に少なく良好であった。
【0066】
金属-セラミックス接合基板の、一方の銅板の表面に回路形状のエッチングレジストインクを塗布し、他方の銅板の表面に長方形の放熱板接合用金属板を形成するためにセラミックス基板の外周端部から1mmの部分を除いた領域にエッチングレジストインクをスクリーン印刷により塗布した。その後、紫外線を照射して塗布したエッチングレジストインクを硬化し、薬液によりエッチングレジストが形成されていない領域の不要な銅板とろう材を除去し、エッチングレジストを除去して、金属-セラミックス接合回路基板を得た。
【0067】
(耐熱衝撃性)
ガス:Hガス=4:1(体積比)の還元雰囲気のバッチ炉に前記金属-セラミックス接合回路基板を投入し、金属-セラミックス接合回路基板の投入から最高温度に到達するまでの時間を6分、最高温度380℃、最高温度での保持時間10分、最高温度から炉内温度が50℃になるまでの降温時間を5分とするヒートサイクルを1回とする通炉を行い、10回通炉した後にセラミックス基板の表面のクラックの発生の有無を実体顕微鏡で観察した。その結果、クラックの発生はなく耐熱衝撃性は良好であった。この耐熱衝撃性のことを通炉耐量ともいう。
【0068】
(接合強度)
また、金属-セラミックス接合回路基板の銅板を窒化アルミニウム基板から引き剥がしたときの接合強度を90°ピール試験により測定した結果、160N/cmであり良好であった。
【0069】
[実施例2]
ろう材の前記粉末の総量に対するチタン粉が1.0質量%、銅粉が6.0質量%、酸化チタン粉が0.5質量%、銀粉が92.5質量%であり、チタン粉は篩い分け(分級)により細かい粒子を選択してD50粒径が17.644μmのものを用い、チタンの単位面積あたりの塗布量が0.163mg/cmである以外は実施例1と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0070】
得られた金属-セラミックス接合基板および金属-セラミックス接合回路基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は0.339面積%で非常に小さく、10回通炉後のセラミックス基板へのクラックの発生はなく耐熱衝撃性は良好で、接合強度は196N/cmで良好あった。
【0071】
[実施例3]
ろう材の前記粉末の総量に対するチタン粉が1.7質量%、銅粉が6.0質量%、酸化チタン粉が0.5質量%、銀粉が91.8質量%であり、チタンの単位面積あたりの塗布量が0.277mg/cmである以外は、実施例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板および金属-セラミックス接合回路基板を作製した。
【0072】
得られた金属-セラミックス接合基板および金属-セラミックス接合回路基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は0.337面積%で非常に小さく、10回通炉後のセラミックス基板へのクラックの発生はなく耐熱衝撃性は良好で、接合強度は247N/cmで良好あった。
【0073】
[比較例1]
チタン粉として粒径(メジアン径D50)が26.902μmである市販のチタン粉末を(粉砕することなく)用い、チタンの単位面積あたりの塗布量が0.270mg/cmである以外は実施例1と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0074】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は1.659面積%であり欠陥面積が大きく良好でなかった。
【0075】
[比較例2]
チタン粉として粒径(メジアン径D50)が26.902μmである市販のチタン粉末を(粉砕することなく)用いた以外は、実施例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0076】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は63面積%であり欠陥面積が非常に大きく(接合していない領域が大きく)金属-セラミックス接合基板の製品としては使用できないレベルであった。
【0077】
[比較例3]
チタン粉として粒径(メジアン径D50)が26.902μmである市販のチタン粉末を(粉砕することなく)用い、チタンの単位面積あたりの塗布量が0.282mg/cmである以外は、実施例3と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0078】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は0.855面積%であり欠陥面積が大きく良好ではなかった。
【0079】
[比較例4]
ろう材の前記粉末の総量に対するチタン粉が1.7質量%、銅粉が16.0質量%、酸化チタン粉が0.5質量%、銀粉が81.8質量%である以外は、実施例3と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0080】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様の方法で評価したところ、接合欠陥率は0.869面積%であり欠陥面積が大きく良好ではなかった。
【0081】
以上のろう材および金属-セラミックス接合基板の評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【符号の説明】
【0083】
10 セラミックス基板
20 金属板
30 ろう材
図1