(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】付加製造装置用水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/345 20060101AFI20240814BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240814BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240814BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240814BHJP
C04B 14/30 20060101ALI20240814BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20240814BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20240814BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20240814BHJP
B22C 1/18 20060101ALI20240814BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240814BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C04B7/345
B28B1/30
C04B22/08 Z
C04B24/26 B
C04B14/30
C04B14/04 Z
B22C1/00 B
B22C1/10 A
B22C1/18 Z
B33Y70/10
C04B20/00 B
(21)【出願番号】P 2020103127
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026841(WO,A1)
【文献】特開2019-116095(JP,A)
【文献】特開2018-002587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28B 1/00- 1/54
B22C 1/00- 3/02
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記砂、下記無機結合材、ポリビニルアルコール、および下記無機粉体(ただし、当該無機粉体は砂を含まない。)を少なくとも含み、下記(1)~(
4)の条件をすべて満たす、付加製造装置用水硬性組成物。
(1)砂/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比が3~8である。
(2)ポリビニルアルコール/無機結合材の質量比が0.08~0.40である。
(3)無機結合材のブレーン比表面積が1500~4000cm
2/gである。
(4)無機粉体/無機結合材の質量比が2.33~4である。
(A)無機結合材
必須成分として下記カルシウムアルミネート類から選ばれる1種以上を含み、さらに、任意成分として下記速硬セメントおよび下記セメントを含む。
[カルシウムアルミネート類]
3CaO・Al
2O
3、2CaO・Al
2O
3、12CaO・7Al
2O
3、5CaO・3Al
2O
3、CaO・Al
2O
3、3CaO・5Al
2O
3、およびCaO・2Al
2O
3
のカルシウムアルミネート;2CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3、および4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3
のカルシウムアルミノフェライト;カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶または置換した3CaO・3Al
2O
3・CaF
2、および11CaO・7Al
2O
3・CaF
2
のカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート;8CaO・Na
2O・3Al
2O
3、および3CaO・2Na
2O・5Al
2O
3
のカルシウムナトリウムアルミネート;カルシウムリチウムアルミネート;アルミナセメント;さらに、これらにNa、K、Li、Ti、Fe、Mg、Cr、P、F、および
Sの微量元素(酸化物等を含む。)が固溶した鉱物から選ばれる1種以上である。
[速硬セメント]
JIS R 5210に準拠して測定した凝結(始発)が30分以内である速硬セメント、または止水セメントである。
[セメント]
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびセメントクリンカー粉末から選ばれる1種以上である。
(B)無機粉体
平均粒径(メディアン径、D50)が10~60μmであって、珪酸ジルコニウム、ムライト、アルミナ、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、疎水性フュームドシリカ、珪石微粉末、および石灰石粉
末から選ばれる1種以上である。
(C)砂
平均粒径(メディアン径、D50)が60μmを超えるものであって、珪砂、オリビン砂、ジルコン砂、クロマイト砂、アルミナ砂、および人工砂から選ばれる1種以上である。
【請求項2】
さらに、(砂+無機粉体)/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比が3~11である、請求項1に記載の付加製造装置用水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デパウダー性、曲げ強度発現性、および成型時の寸法精度に優れた、付加製造装置(3Dプリンタ)用水硬性組成物(以下、「水硬性組成物」と、簡潔に記載することもある。)に関する。
ここで、デパウダー性とは、成形後に残った水硬性組成物の未硬化の粉末を、成形体から除去する作業の容易性をいう。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、溶融した金属を鋳型に注入して鋳物を製造する伝統的な金属加工法である。この鋳造に用いる自硬性鋳型は、使用する結合材(粘結材)に応じて有機系と無機系があり、このうち無機系は、主に水ガラス系とセメント系がある。ただし、セメント系自硬性鋳型は、金属の鋳込み温度によっては、結合材に含まれる石膏が熱分解してガスが発生し、鋳物に欠陥が生じ、美観と機能が損なわれる。また、この鋳型の製造は、模型や木型の作製が前工程として必須であるが、この前工程には時間とコストがかかる。
そこで、鋳物の美観等が損なわれず、該前工程が不要な鋳型の製造手段が望まれる。
【0003】
ところで、最近、付加製造装置が、迅速かつ精密な成形手段として注目されている。この付加製造装置のうち、例えば、粉末積層成形装置は、粉末を平面の上に敷きならした後、該粉末に水性バインダを噴射して粉末が硬化した硬化物を、垂直方向に順次積層して成形する装置である。この装置の特徴は、3次元CAD等で作成した立体成形体のデータを多数の水平面に分割し、これらの水平面の形状を順次積層して、成形体を製造する点にある。
そこで、前記装置を用いて成形体を製造できれば、前記の前工程は不要になり、作業時間とコストを削減できる。
【0004】
例えば、特許文献1には、結合材噴射法(粉末積層成形法)に適した水硬性組成物として、珪砂、オリビン砂、および人工砂等の耐火砂に、速硬セメントを15~50%配合して混練(混合)した材料に、水性バインダを加えて固化および積層して成形体を得る技術が開示されている。ここで、結合材噴射法とは、積載台(台座)の上に置いた粉体材料の所定の範囲に、インクジェット等のノズルを通して成形液を滴下または噴霧して固化し、逐次、固化した層を積層して所望の形状を成形する方法である。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の材料を用いて作製した成形体は、早期強度発現性、特に曲げ強度が十分でないため欠損し易く、付加製造装置による成形技術の特徴である微細形状の付与や、微細形状を有する製品の安定供給が難しい場合がある。
また、該材料を用いて複雑な形状の鋳型等の成形体を製造した場合、製造後に収縮や膨張などの寸法変化が起きると、ひび割れが生じる場合があり、また、成形体の寸法が異なると、寸法を調整する作業が必要になる。
さらに、成形後に残った水硬性組成物の未硬化の粉末を、成形体から除去する作業(デパウダー)が、容易であることが望まれる。
そこで、本発明者は、特許文献2において、早期の曲げ強度発現性、寸法精度、およびデパウダー性に優れた水硬性組成物として、特定のCaO/Al2O3のモル比を有するカルシウムアルミネートを50~100質量%、および、特定の珪酸カルシウムの含有率を有するセメントを0~50質量%を、少なくとも含む結合材100質量部に対し、砂を100~400質量部含有する水硬性組成物を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-51010号公報
【文献】特開2018-2587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、デパウダー性、曲げ強度発現性、および寸法精度が高い、特に、前記特許文献2の水硬性組成物では用いた疎水性シリカを用いずに、デパウダー性が向上した水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を解決するために鋭意検討した結果、砂/(無機結合材+ポリビニルアルコール)が特定の質量比等を有する水硬性組成物は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記の構成からなる付加製造装置用水硬性組成物である。
【0009】
[1]下記砂、下記無機結合材、ポリビニルアルコール、および下記無機粉体(ただし、当該無機粉体は砂を含まない。)を少なくとも含み、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、付加製造装置用水硬性組成物。
(1)砂/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比が3~8である。
(2)ポリビニルアルコール/無機結合材の質量比が0.08~0.40である。
(3)無機結合材のブレーン比表面積が1500~4000cm2/gである。
(4)無機粉体/無機結合材の質量比が2.33~4である。
(A)無機結合材
必須成分として下記カルシウムアルミネート類から選ばれる1種以上を含み、さらに、任意成分として下記速硬セメントおよび下記セメントを含む。
[カルシウムアルミネート類]
3CaO・Al2O3、2CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、5CaO・3Al2O3、CaO・Al2O3、3CaO・5Al2O3、およびCaO・2Al2O
3
のカルシウムアルミネート;2CaO・Al2O3・Fe2O3、および4CaO・Al2O3・Fe2O
3
のカルシウムアルミノフェライト;カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶または置換した3CaO・3Al2O3・CaF2、および11CaO・7Al2O3・CaF
2
のカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート;8CaO・Na2O・3Al2O3、および3CaO・2Na2O・5Al2O
3
のカルシウムナトリウムアルミネート;カルシウムリチウムアルミネート;アルミナセメント;さらに、これらにNa、K、Li、Ti、Fe、Mg、Cr、P、F、およびSの微量元素(酸化物等を含む。)が固溶した鉱物から選ばれる1種以上である。
[速硬セメント]
JIS R 5210に準拠して測定した凝結(始発)が30分以内である速硬セメント、または止水セメントである。
[セメント]
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびセメントクリンカー粉末から選ばれる1種以上である。
(B)無機粉体
平均粒径(メディアン径、D50)が10~60μmであって、珪酸ジルコニウム、ムライト、アルミナ、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、疎水性フュームドシリカ、珪石微粉末、および石灰石粉末から選ばれる1種以上である。
(C)砂
平均粒径(メディアン径、D50)が60μmを超えるものであって、珪砂、オリビン砂、ジルコン砂、クロマイト砂、アルミナ砂、および人工砂から選ばれる1種以上である。
[2]さらに、(砂+無機粉体)/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比が3~11である、前記[1]に記載の付加製造装置用水硬性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の付加製造装置用水硬性組成物は、デパウダー性、曲げ強度発現性、および寸法精度が高く、特に、デパウダー性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】デパウダーの容易さ(デパウダーの深さ)を評価するために用いる成形体、およびデパウダー性の評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記のとおり、砂、無機結合材、およびポリビニルアルコールを少なくとも含む付加製造装置用水硬性組成物である。以下、本発明について、砂、無機結合材、およびポリビニルアルコール等に分けて、詳細に説明する。
【0013】
1.砂
本発明で用いる砂は、耐火砂であれば、特に制限されず、珪砂、オリビン砂、ジルコン砂、クロマイト砂、アルミナ砂、および人工砂等から選ばれる1種以上が挙げられ、その平均粒径(メディアン径、D50)は60μmを超えるものである。
また、本発明の水硬性組成物中の、砂/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比は3~8である。該比が3未満では、水硬性組成物の敷きならしが困難な場合があり、8を超えると水硬性組成物の硬化体の曲げ強度が低下し、また、付加製造装置の粉体貯蔵部からの粉漏れを抑制できない場合がある。なお、該比は、好ましくは3~7、より好ましくは3~6である。
【0014】
2.無機結合材
前記無機結合材は、必須成分として下記カルシウムアルミネート類から選ばれる1種以上を含み、さらに、任意成分として速硬セメント等を含む無機系の結合材である。次に、カルシウムアルミネート類、および速硬セメント等に分けて詳細に説明する。
【0015】
(1)カルシウムアルミネート類
前記カルシウムアルミネート類は、3CaO・Al2O3、2CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、5CaO・3Al2O3、CaO・Al2O3、3CaO・5Al2O3、およびCaO・2Al2O3等のカルシウムアルミネート;2CaO・Al2O3・Fe2O3、および4CaO・Al2O3・Fe2O3等のカルシウムアルミノフェライト;カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶または置換した3CaO・3Al2O3・CaF2、および11CaO・7Al2O3・CaF2等のカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート;8CaO・Na2O・3Al2O3、および3CaO・2Na2O・5Al2O3等のカルシウムナトリウムアルミネート;カルシウムリチウムアルミネート;アルミナセメント;さらに、これらにNa、K、Li、Ti、Fe、Mg、Cr、P、F、およびS等の微量元素(酸化物等を含む。)が固溶した鉱物から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらのカルシウムアルミネート類の中でも、強度発現性が高く、鋳型として使用する際にガスの発生が少ないことから、好ましくはカルシウムアルミネート、特に好ましくは非晶質カルシウムアルミネートである。非晶質カルシウムアルミネートは、原料を溶融した後、急冷して製造するため、実質的に結晶構造は存在せず、通常、そのガラス化率は80%以上である。ガラス化率が高い程、早期強度発現性は高いため、非晶質カルシウムアルミネートのガラス化率は、好ましくは90%以上である。
【0016】
カルシウムアルミネート類のCaO/Al2O3のモル比は、好ましくは1.5~3.0、より好ましくは1.7~2.4である。該モル比が1.5以上で水硬性組成物の早期強度発現性が高く、3.0以下で水硬性組成物の硬化体の耐熱性が高い。
また、カルシウムアルミネート類のブレーン比表面積(JIS R 5201に規定する粉末度)は、好ましくは1500~4000cm2/gである。該ブレーン比表面積が1500cm2/g未満では曲げ強度が低くなるおそれがあり、4000cm2/gを超えるとデパウダー性が低下するおそれがある。なお、該ブレーン比表面積は鋳型の曲げ強度とデパウダー性をより高めるために、より好ましくは2000~3600cm2/gである。
【0017】
(2)速硬セメント
前記無機結合材は、早期強度発現性のさらなる向上のため、速硬セメント(超速硬セメントともいう。)を任意成分として含むことができる。前記速硬セメントは、好ましくは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結(始発)が30分以内である速硬セメント、または止水セメントである。なお、速硬セメント等の市販品は、スーパージェットセメント(太平洋セメント社製)、ジェットセメント(住友大阪セメント社製)、ライオンシスイ(登録商標、住友大阪セメント社製)、またはデンカスーパーセメント(デンカ社製)が挙げられる。なかでも、石膏を含有する速硬セメントは、少量の石膏の含有で、早期強度発現性が向上するため好ましい。
無機結合材中の速硬セメントの含有率は、早期強度発現性を向上させ、鋳型として使用する際にガスの発生を少なくするため、無機結合材全体を100質量%として、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0018】
(3)無機結合材中のその他の任意成分
前記無機結合材は、その他の任意成分としてセメントを含んでもよい。該セメントは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結(始発)が3時間30分以内であれば、成形から3時間後の早期強度発現性が高いため好ましく、凝結(始発)は1時間以内がより好ましい。無機結合材中のセメントの含有率は、早期強度発現性の向上のため、無機結合材全体を100質量%として、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは0~20質量%である。
前記セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびセメントクリンカー粉末から選ばれる1種以上が挙げられる。なお、本発明では、セメントクリンカー粉末もセメントに含める。
また、セメント中の珪酸カルシウムの含有率は、セメント全体を100質量%として、好ましくは25質量%以上である。該含有率が25質量%以上あれば、材齢1日以後の強度発現性が高い。また長期強度発現性が必要な場合、該含有率は、好ましくは45質量%以上である。
【0019】
3.ポリビニルアルコール
本発明で用いるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物または完全ケン化物であり、ケン化度は、より高い早期強度発現性が得られるため、好ましくは85~90モル%である。
本発明の水硬性組成物において、ポリビニルアルコール/無機結合材の質量比は、0.08~0.40である。該比が前記範囲にあれば、デパウダー性が高い。なお、該比は、好ましくは0.10~0.35、より好ましくは0.15~0.30である。
また、前記ポリビニルアルコールの平均粒径(メディアン径、D50)は、高い曲げ強度が得られるため、好ましくは10~150μm、より好ましくは30~90μmである。また、ポリビニルアルコールは、無機結合材と混合粉砕して粒度を調整すれば、より細かくなって均質に混合でき、水硬性組成物の早期強度発現性がより高まる。
さらに、前記ポリビニルアルコールは、粉体の状態で無機結合材および砂と混合して用いるか、または、後述の水に溶解して用いてもよい。
【0020】
4.無機粉体
本発明で用いる無機粉体は、無機結合材以外の無機物の粉体であり、珪酸ジルコニウム、ムライト、アルミナ、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、疎水性フュームドシリカ、珪石微粉末、および石灰石粉末等から選ばれる1種以上である。
前記無機粉体の平均粒径(メディアン径、D50)は、好ましくは10~60μmである。平均粒径が前記範囲にあれば、強度発現性およびデパウダー性が高い。なお、該平均粒径は、より好ましくは15~50μm、さらに好ましくは20~45μmである。
また、本発明の水硬性組成物において、(砂+無機粉体)/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比は、好ましくは3~11である。該質量比が前記範囲にあれば、強度発現性およびデパウダー性が高い。また、無機粉体/無機結合材の質量比は、好ましくは1~4である。該質量比が前記範囲であれば、強度発現性およびデパウダー性が高い。なお、当該質量比は、より好ましくは1.5~3.5質量部、さらに好ましくは2~3質量部である。
【0021】
5.水(水性バインダ)
本発明で用いる水は、特に制限されず、上水道水、および蒸留水等が挙げられる。本発明の水硬性組成物において、水/(無機結合材+ポリビニルアルコール)の質量比は、好ましくは0.4~1.4である。該質量比が0.4未満では曲げ強度が低い傾向にあり、1.4を超えると曲げ強度と寸法精度が低くなるおそれがある。なお、該質量比は、鋳型の曲げ強度と寸法精度をより高めるため、より好ましくは0.5~1.3、さらに好ましくは0.6~1.2である。前記水はグリセロールを溶解した水溶液でもよい。
【0022】
6.成形体の製造方法等
該製造方法は、付加製造装置と前記水硬性組成物を用いて成形体を製造する方法である。付加製造装置は特に限定されず、粉末積層型付加製造装置等の市販品が使用できる。また、水を含む前の水硬性組成物は、前記の水硬性組成物の成分を市販の混合機または手作業で混合して調製する。なお、無機結合材として複数の材料を用いる場合、該材料を予め市販の混合機や手作業で混合したり、粉砕機で同時に粉砕してもよい。
また、成形体の養生方法は、気中養生単独、気中養生した後に続けて水中養生する方法、または、表面含浸剤養生等がある。これらの中でも、早期強度発現性の向上と、鋳物の製造時に発生する水蒸気を抑制するため、気中養生単独が好ましい。また、カルシウムアルミネート類およびポリビニルアルコール等による強度の増進のため、気中養生の温度は、好ましくは10~100℃、より好ましくは30~80℃である。また、気中養生の相対湿度は、充分な強度発現と生産効率の向上のため、好ましくは10~90%、より好ましくは15~80%、さらに好ましくは20~60%である。さらに、気中養生の時間は、充分な強度発現性と生産効率の向上のため、好ましくは1時間~1週間、より好ましくは2時間~5日間、さらに好ましくは3時間~4日間である。
【0023】
成形体のデパウダー性は、好ましくは、後掲の
図1に示すデパウダー性を評価するための成形体を用いて所定の風量、風速、および時間でエアブローしてデパウダーできたスリット内の深さが10mm以上である。
成形体の曲げ強度は、好ましくは、破損せずに使用できる強度である、材齢24時間で1.5N/mm
2以上である。さらに成形体を鋳型として用いる場合、、設計値と鋳型の寸法差は、好ましくは100±5%の範囲内である。
また、成形体を鋳型として用いる場合、該成形体の材齢3日の強熱減量は、好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。強熱減量が6.5質量%以下であれば、鋳物にブローホール等の欠陥が生じることはない。ここで、前記強熱減量は、鋳型として用いるときのガスの発生量の指標であり、該ガスは水分や硫黄分等を含む。また、強熱減量は、成形体を鋳型として用いる場合、養生終了時に測定してもよいが、より厳しく管理する場合は、好ましくは3日間養生後に、より好ましくは3時間養生後に、成形体を乾燥や粉砕することなく、そのまま1400℃で恒量になるまで加熱して、加熱前後の成形体の質量を測定して、加熱前後の成形体の質量の差×100/加熱前の成形体の質量の式に基づき算出する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用した材料
(1)カルシウムアルミネート類(略号:CA)
非晶質カルシウムアルミネートで、CaO/Al2O3のモル比は2.2、ガラス化率は95%以上、ブレーン比表面積は2200cm2/g、2700cm2/g、および3400cm2/g、並びに、密度は2.94cm3/gで、試製品である。
(2)速硬セメント(略号:SJC)
商品名 スーパージェットセメント
ケイ酸カルシウムの含有率は47質量%、無水石膏の含有率は14質量%、凝結(始発)は30分、ブレーン比表面積は4700cm2/g、および密度は3.01cm3/gで、太平洋セメント社製である。
(3)砂
(i)商品名 エスパール♯180L(略号:EP)
アルミナ系、D50は75μm、および密度は2.92cm3/gで、山川産業社製である。
(ii)商品名 ナイガイセラビーズ#1450(略号:SB)
アルミナ系、D50は125μm、および密度は2.85cm3/gで、伊藤忠セラテック社製である。
(iii)ジルコンサンド(略号:ZS)
ジルコニア系、D50は100μm、および密度は4.5cm3/gで、ハクスイテック社製である。
(4)無機粉体(略号:IP)
(i)ジルコシルNo.1(略号:ZI)
D50は25μm、および密度は4.5cm3/gで、ハクスイテック社製である。
(ii)ムライト1(略号:MU1)
前記ナイガイセラビーズをボールミルで粉砕した粉体であり、D50は24μmである。
(iii)ムライト2(略号:MU2)
前記ナイガイセラビーズをボールミルで粉砕した粉体であり、D50は41μmである。
(5)ポリビニルアルコール(略号:PVA)
品番 22-88 S1(PVA217SS)、および密度は1.2cm3/gで、クラレ社製である。
ケン化度は87~89%、平均粒径(メディアン径、D50)は60μmで、94μmより大きい粒子の含有率は29質量%、および77μmより大きい粒子の含有率は47質量%であり、10%径(D10)は25μm、および90%径(D90)は121μmである。
なお、前記砂および無機粉体の粒径はすべて、エタノールを媒質に用いてマイクロトラック・ベル製MT3300EX IIにより測定した。また、前記ポリマーの粒径はすべて、シリコーンオイルを媒質に用いて島津製作所製SALD-2000Jにより測定した。また、前記カルシウムアルミネート類等の密度はすべて、島津製作所製アキュピックII 1340-100CCにより測定した。
(6)水(水性バインダ)(略号:W)
3質量%のグリセロール水溶液で、商品名 ProJet660Pro用バインダ液、および密度は1.0g/cm3で、スリーディシステムズ社製である。
【0025】
2.水硬性組成物の作製、およびそのデパウダー性の評価試験
前記砂、カルシウムアルミネート類、速硬セメント、砂、無機粉体、およびポリビニルアルコールを、表1に示す配合に従い混合して、水硬性組成物を作製した。
次に、該水硬性組成物と、付加製造装置として結合剤噴射式粉末積層成形装置(商品名: ProJet660Pro スリーディシステムズ社製)を用いて、20℃、相対湿度60%の条件下で、結合剤噴射法により、
図1に示すスリット(幅1.0mm)を有する、デパウダー性を評価するための成形体、および断面の寸法が縦10mm、横16mm、および長さ80mmの曲げ強度および寸法精度を評価するための成形体を作製した。なお、前記装置による成形体の製造では、前記装置の水量設定値を、表1に示すように、外部(Shell)と内部(Core)で調整して、水硬性組成物の外部と内部にノズルから水を噴射し、水硬性組成物を固化した。
なお、表1中のW/(IB+PVA)の質量比は、下記(i)~(iv)の手順に従い算出した。
(i)寸法が縦10mm、横16mm、および長さ80mmの成形体を作製する際のWの質量を、装置の水量設定値から計算した。
装置の機構から、Wの噴射量(cm
3/cm
3)は、shellでは、0.239172cm
3/cm
3×水量設定値(%)(=aとする)、coreでは、0.11896cm
3/cm
3×水量設定値(%)(=bとする)である。
shellは該成形体の最表面から内側2mmまでであり、該成形体においてshellは4.064cm
3、coreは8.736cm
3である。
従って、該成形体に対して噴射されるWの体積(cm
3)は、a×4.064+b×8.736である。これから、shellの水量設定値が88%でcoreの水量設定値が122%のとき、該成形体に噴霧されるWの体積は2.12cm
3である。また、shellの水量設定値が65%でcoreの水量設定値が90%のとき、該成形体に噴霧されるWの体積は1.57cm
3である。Wの密度は1.0g/cm
3のため、該成形体に噴霧されるWの質量はそれぞれ2.12g、1.57gである。
(ii)付加製造装置による敷きならしを受けた後の水硬性組成物のかさ密度を、ポロシティ(空隙率)を50%として、使用した材料の密度から計算した。
(iii)前記(ii)から寸法が縦10mm、横16mm、および長さ80mmの成形体中のIB+PVAの質量を計算で求めた。
(iv)前記(i)と(iii)の値からW/(IB+PVA)を計算した。
【0026】
デパウダー性を評価するための成形体は10個作成し、成形後に40℃で24時間養生した後、エアブローを用いて一定の風量および風速でスリットの隙間に詰まった粉体を1分間除去して、デパウダーできたスリット内の深さを測定した。測定したデパウダーの深さの平均値を表1に示す。
すべての実施例において、デパウダーできた深さは、表1に示すように12mm(実施例1)~18mm(実施例14)であり、すべての実施例において、良好なデパウダー性を表す10mm以上であった。
【0027】
【0028】
また、曲げ強度および寸法精度を評価するための成形体を16個作成し、成形完了後に40℃で24時間養生した後、寸法を測定し、曲げ強度試験機(型番:MODEL-2257、アイコーエンジニアリング社製)により3点曲げ試験を行った。その結果、すべての実施例において、曲げ強度(平均値)は、破損せずに使用できる強度である1.5MPa以上であり、また、成形体の設計(目標)寸法からの誤差(平均値)は100±5%の範囲内と、製品として充分な寸法精度を有していた。
これらに対し、比較例の曲げ強度は、比較例6、8では1.5MPa未満であり、比較例7では付加製造装置の粉体貯蔵部からの粉漏れにより成形できないため評価できなかった。また、比較例の寸法精度は、比較例5、6では100±5%の範囲外であった。