(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用レバー脱進機組立体
(51)【国際特許分類】
G04B 15/08 20060101AFI20240814BHJP
G04B 15/14 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G04B15/08
G04B15/14 A
G04B15/14 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020104707
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-02-20
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】520032996
【氏名又は名称】マニュファクチュール ドルロジュリー オーデマ ピゲ エスアー
【氏名又は名称原語表記】Manufacture d’Horlogerie Audemars Piguet SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221899
【氏名又は名称】高倉 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】ジュリオ パピ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-90366(JP,A)
【文献】特開2002-228767(JP,A)
【文献】特開2000-304873(JP,A)
【文献】米国特許第3462942(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/00 - 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンクル(10)と、つば(24)と、前記つば(24)に固定される振り石(32)とを含み、使用位置において、ノッキングに対して安全でありながら、互いにおよびがんぎ車(2)と協働するように意図されるレバータイプ脱進機(1)の組立体であって、
前記アンクル(10)は、ケン先を有さず、一方では、前記がんぎ車(2)と交互に協働するように意図される入爪石(6)と出爪石(8)とを含み、他方では、前記振り石(32)および前記つば(24)と協働するように意図されるアンクルフォークを含み、アンクルフォーク入口を区切る第1および第2のクワガタ(16、18)を含み、
前記つば(24)は、前記つば(24)の厚さ方向において、少なくとも部分的に前記振り石(32)と同じ高さに位置し、前記つば(24)は、前記振り石(32)に隣接する領域に切欠部(26)が形成される円筒全体形状のオーバーバンク防止壁を有し、
前記アンクル(10)、前記つば(24)および前記振り石(32)は、前記使用位置において、前記オーバーバンク防止壁が前記第1および第2のクワガタ(16、18)の当接部を画定することができるように、適合され、および寸法決めされ、
前記アンクル(10)、前記つば(24)および前記振り石(32)は、さらに、前記使用位置において、前記振り石(32)が前記アンクルフォークの入口内に少なくとも部分的に位置しているときにのみ、前記第1および第2のクワガタ(16、18)の各々が前記切欠部(26)の内部に入り込めるように、適合され、および寸法決めされることを特徴とする、レバータイプ脱進機(1)の組立体。
【請求項2】
前記アンクルフォークの前記第1および第2のクワガタ(16、18)の各々は、
前記アンクルフォークの入口を区切る内壁(36)と、
ノッキング状態において、前記クワガタ(16、18)の外壁(38)上の前記振り石(32)の接触点と、前記内壁(36)に最も近い外壁(38)の端部(40)との間の距離が、前記振り石(32)と、前記オーバーバンク防止壁および前記クワガタ(16、18)に最も近い前記切欠部(26)の間の接合点(42)との間の距離よりも大きくなるように適合され、および寸法決めされる前記外壁(38)と、
を有することを特徴とする、請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
前記アンクル(10)は、
前記入爪石(6)と前記出爪石(8)とを前記アンクルフォークに連結し、前記使用位置において、前記アンクル(10)の最大移動角度を画定する2つの端位置の間で枢動可能である、レバー(14)を含み、
前記第1および第2のクワガタ(16、18)の各々の前記外壁(38)が、前記内壁(36)に最も近い端部(40)から、
安全面を画定し、かつ、第1の部分(38a)が前記オーバーバンク防止壁に面しているときに、前記安全面が前記オーバーバンク防止壁に対して実質的に接戦方向にあるように、前記レバー(14)に対して平均角度を有する前記第1の部分(38a)と、
前記レバー(14)に対して0~45°のオーダーの角度であり、ノッキング状態において、少なくとも前記外壁(38)上の前記振り石(32)の接触点まで延在する第2部分(38b)と、
を含む、請求項2に記載の組立体。
【請求項4】
前記振り石(32)は、支持体(28)によって前記つば(24)に固定され、前記支持体(28)は、前記つば(24)と一体になって形成されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項5】
前記振り石(32)は、支持体によって前記つば(24)に固定され、前記支持体がテン輪であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項6】
がんぎ車(2)に関連する請求項1から5のいずれか一項に記載の組立体を含む、レバータイプ脱進機(1)。
【請求項7】
前記使用位置において、前記アンクル(10)の回転軸と前記つば(24)の回転軸との間の距離が、前記アンクル(10)の回転軸と前記がんぎ車(2)の回転軸との間の距離の少なくとも2倍に等しいように配置されることが意図されていることを特徴とする、請求項6に記載のレバータイプ脱進機(1)。
【請求項8】
前記使用位置において、前記がんぎ車(2)の回転軸と、前記アンクル(10)の回転軸と、前記つば(24)の回転軸とが同一平面状にあるように配置されることが意図されていることを特徴とする、請求項6または7に記載のレバータイプ脱進機(1)。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載のレバータイプ脱進機(1)を含む、時計ムーブメント。
【請求項10】
前記アンクル(10)のそれぞれの反対側に配置され、前記アンクル(10)の最大移動角度を画定するドテピン(20、22)を含む、請求項9に記載の時計ムーブメント。
【請求項11】
請求項9または10に記載の時計ムーブメントを含む、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンクル(pallet)と、つば(roller)と、つばに固定される振り石(pin)と、を含み、使用位置において、オーバーバンクに対して安全でありながら、互いにおよびがんぎ車(escape wheel)と協働するように意図される、レバー脱進機(lever escapement)のための組立体に関するものであり、アンクルはケン先(guard pin)を有さず、一方では、がんぎ車と交互に協働するように意図される入爪石と出爪石とを含み、他方では、振り石およびつばと協働するように意図されるアンクルフォーク(pallet fork)を含み、アンクルフォーク入口を区切る第1および第2のクワガタ(horn)を含み、つばは、つばの厚さ方向において、少なくとも部分的に振り石と同じ高さに位置し、つばは、振り石に隣接する領域に切欠部(notch)が形成される円筒全体形状のオーバーバンク防止壁を有し、アンクル、つばおよび振り石は、使用位置において、オーバーバンク防止壁が第1および第2のクワガタのための当接部を画定することができるように、適合され、および寸法決めされる。
【背景技術】
【0002】
上記の構成を有する組立体を含む脱進機は、先行技術においてずっと前に開示された。
【0003】
実際に、1909年に発行された特許文献1には、アンクルフォーク上にケン先がないために、従来の脱進機と比較して厚さの薄い、この種の脱進機が記載されており、ケン先は、典型的には、従来の脱進機におけるアンクルフォークのクワガタとは異なるレベルに配置される。
【0004】
全体的な大きさの点でそのような利点があるにもかかわらず、上記のタイプの脱進機は市場を征服せず、ケン先を含む従来のスイスレバー脱進機は、数十年にわたって最も広く普及してきた。
【0005】
本出願人は、脱進機の幾何学的形状に関して徹底的な研究を行い、上述の脱進機の欠点を実証することができた。実際に、前述の特許文献1に記載されているような脱進機は、テン輪(balance wheel)が回転方向を変えたときに、つば振り石が当接するクワガタが、つばの切欠部内に入り込みやすいことから、ノッキングが発生した場合に誤動作を起こすおそれがある。その場合、脱進機が突然停止し、ひいては対応する時計ムーブメントが停止するおそれがあり、アンクルを損傷するおそれさえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、従来の脱進機と比較して全体サイズが縮小された、信頼性の高い脱進機の製造を可能にする組立体を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、より具体的には、上記に示すタイプの組立体に関するものであり、アンクル、つばおよび振り石は、さらに、使用位置において、振り石がアンクルフォークの入口内に少なくとも部分的に位置しているときにのみ、クワガタの各々が切欠部の内部に入り込めるように、適合され、および寸法決めされることを特徴とする。
【0009】
これらの構成のおかげで、作動時に、クワガタがつばの切欠部内に入り込める本発明による組立体の唯一の構成は、そのクワガタが固定センターの両側でアンクルフォークを正常に枢動させることを可能にするために、切欠部内に入らなければならないということである。これにより、動作が確実に信頼できる減肉(厚さがより薄い)脱進機が得られる。
【0010】
アンクルフォークのクワガタの各々は、好ましくは、アンクルフォークの入口を区切る内壁と外壁とを有し、外壁は、ノッキング状態において、当該クワガタの外壁上の振り石の接触点と、内壁に最も近い外壁の端部との間の距離が、振り石と、オーバーバンク防止壁および当該クワガタに最も近い切欠部との間の接合点との間の距離よりも大きくなるように、適合され、および寸法決めされる。
【0011】
これらの特定の幾何学的特性のおかげで、各クワガタは、ノッキング状態においてつばの切欠部内に入ることができないが、振り石が少なくとも部分的にアンクルフォーク内に位置している場合にのみ、その中に入り込むことができるような形状および寸法を有する。
【0012】
好ましい実施形態によれば、アンクルは、使用位置において、入爪石と出爪石とをアンクルフォークに連結し、アンクルの最大移動角度を画定する2つの端位置の間で枢動可能であるレバーを含み、クワガタの各々の外壁が、好都合には、内壁に最も近いその端部から、安全面を画定し、かつ、第1の部分がオーバーバンク防止壁に面しているときに、安全面がオーバーバンク防止壁に対して実質的に接線方向にあるように、レバーに対して平均角度を有する第1の部分と、次いで、レバーに対して0~60°のオーダーの角度、好ましくは45°未満、例えば30°の角度であり、ノッキング状態において少なくとも外壁上の振り石の接触点まで延在する、第2の部分と、を含む。
【0013】
特定の変形実施形態では、振り石は、つばと一緒に製造される支持体によってつばに固定されてもよい。
【0014】
さらに、または代替的に、振り石は、テン輪によって直接担持されてもよい。
【0015】
一般的に言えば、本発明はまた、がんぎ車に関連して上述の構成を有する組立体を含む脱進機に関する。
【0016】
好ましい実施形態によれば、この脱進機は、使用位置において、アンクルの回転軸と、つばの回転軸との間の距離が、アンクルの回転軸と、がんぎ車の回転軸との間の距離の少なくとも2倍に等しいように、配置されることが意図されてもよい。
【0017】
脱進機は、好ましくは、使用位置において、がんぎ車の回転軸と、アンクルの回転軸と、つばの回転軸とが、同一平面上にあるように配置されることが意図されてもよい。
【0018】
本発明はまた、上記の構成を有し、アンクルのそれぞれの反対側に配置され、アンクルの最大移動角度を画定するドテピン(banking pin)を含むことができる脱進機を含む時計ムーブメントと、この種の時計ムーブメントを含む時計と、に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】従来のスイスレバータイプの、時計ムーブメントのための組合せの上方からの同じ簡略図を表す。
【
図1b】本発明の好ましい実施形態による、時計ムーブメントのための組合せの上方からの同じ簡略図を表す。
【
図2a】
図1aからの組合せの一部の同じ簡略側面図を表す。
【
図2b】
図1bからの組合せの一部の同じ簡略側面図を表す。
【
図3】
図3a~nは、連続する異なる構成において、
図1bに表すような、本発明の好ましい実施形態による組合せの一部の上方からの同じ簡略図を表す。
【
図4a】第1の先行技術の構造による、ノッキング状態における時計ムーブメントのための組合せの一部の上方からの同じ簡略図を表す。
【
図4b】第2の先行技術の構造による、ノッキング状態における時計ムーブメントのための組合せの一部の上方からの同じ簡略図を表す。
【
図4c】
図1bに示すような本発明の好ましい実施形態による、ノッキング状態における時計ムーブメントのための組合せの一部の上方からの同じ簡略図を表す。
【
図5】本発明の異なるそれぞれの変形実施形態による、複数のアンクル組立体の上方からの概略図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の他の構成および利点は、非限定的な例として提供される添付の図面を参照して与えられる、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことにより、より明らかになるであろう。
【0021】
図1a、
図1bおよび
図2a、
図2bはそれぞれ、従来のスイスレバータイプの、および本発明の好適な実施形態による、時計ムーブメントのための組合せの、一方では上方から、他方では部分もしくは側面からの簡略図を示す。これらの異なる図を比較検討することにより、本発明による構成要素の組立体を、最も商業的に広く普及している先行技術による構成要素の組立体と区別する、構造的構成を強調することが可能になる。
【0022】
公知の方法では、
図1aおよび2aに示すスイスレバー脱進機100は、がんぎ小歯車(escape pinion)104に締結され、アンクル真(pallet-staff)112上で枢動することを意図するアンクル110の入爪石106および出爪石108と協働するように適合される、がんぎ車102を含む。レバー114は、爪石106、108を、その入口が2つのクワガタ116によって区切られるアンクルフォークに連結する。アンクルフォークは、オーバーバンクに対して安全となるように意図される、ケン先118によって覆われている。入ドテピン120および出ドテピン122は、典型的には、アンクル110の回転の振幅を制限するために設けられる。アンクルは、二重つばと協働して、特に、がんぎ車から受け取るエネルギーの一部をテン輪(見えない)に再伝達して、その振動を維持するように意図される。この目的のために、二重つばは、円筒状の周囲がケン先118との協働によりオーバーバンク防止壁を画定する小つば124を含み、この壁にケン先118のための通路を画定するための十分な空間を設けることにより、固定センターの両側のアンクル110の回転を可能にすることを意図する切欠部126が設けられる。小つば124は、一般的に、内筒(bush)130によって大つば128に固定されており、大つば128は振り石132を担持し、振り石132は、一方では、第1のクワガタ116に適切な力を加えることによって各交互にアンクル110の回転を誘発し、他方では、アンクルフォークを出る前にクワガタ116の他方からの衝撃を受けるように、アンクル110のアンクルフォークと協働するように意図される。
【0023】
図2aの図は、より具体的に、先に記載した組立体の厚さを強調することを可能にする。
【0024】
本発明の好ましい実施形態による脱進機1は、
図1bおよび
図2bに非限定的な例として示されている。これらの図から、この脱進機はがんぎ車2を含み、がんぎ車2は、がんぎ小歯車4に締結され、アンクル真12の上で枢動するように意図されるアンクル10の入爪石6および出爪石8と協働するように適合されることが明らかになる。レバー14は、爪石6、8を、その入口が2つのクワガタ16、18によって区切られるアンクルフォークに接続する。以下に明らかになるように、クワガタ16、18は、これらの従来の機能とは別に、ここではオーバーバンクに対して安全になるよう意図される。入ドテピン20および出ドテピン22は、典型的には、アンクル10の回転の振幅を制限するために設けられる。
【0025】
アンクル10は、従来の二重つばと比較して、厚さの薄いつば24と協働するように意図される。つば24は、クワガタ16、18との協働によりオーバーバンク防止壁を画定する円筒状の周囲を有し、この壁には、クワガタ16、18の通路を画定するための十分な空間を設けることにより、固定センターの両側でアンクル10の回転を可能にすることを意図する切欠部26が設けられている。つば24は、
図3a~3nの記載において以下に与えられる記載からより明らかになるように、アンクル10のアンクルフォークと協働するように意図される振り石32のための支持体を画定する、小さな半径方向突出部28を担持する。
【0026】
したがって、アンクル10がケン先を有していないという事実は、
図2aおよび
図2bの比較検討から明らかなように、その厚さおよびつばの厚さを薄くすることを可能にする。
【0027】
しかしながら、同時に、クワガタ16、18は、オーバーバンク防止機能の観点からケン先に取って代わり、ケン先の典型的な幅よりも大きい幅を有することに留意すべきである。したがって、つば24内の切欠部26は、従来の脱進機と比較して拡大されなければならず、つば24自体もまた、このために拡大されなければならない。これらの変更は、特に
図1aおよび1bの比較検討から非常に明らかなように、アンクルフォークがアンクル10の移動角度を変更することなくより大きなムーブメントを行うことができるように、従来のスイスレバー脱進機と比較して、がんぎ車2が変化しない状況において、レバー14を伸ばすことを意味する。
【0028】
本発明のこの好ましい実施形態による脱進機1の動作は、ここで、
図3aから
図3nを参照して記載されるが、これらの図は、脱進機1の動作における一連の構成を、上方から見た同じ簡略図で示しており、がんぎ車2は表されていない。
【0029】
図3aは、テン輪(見えない)が下降加算角位相にあり、アンクル10およびがんぎ車が静止しているときの脱進機組立体を表す。この構成では、アンクル10のレバー14が出ドテピン22に対して圧接し、アンクル10の出爪石8ががんぎ車2の歯に対して圧接する。
【0030】
この段階で直ちに留意すべきことは、対応する時計ムーブメントがこの構成で、がんぎ車がアンクル10を解放するような衝撃を受けた場合、クワガタ16がつば24の壁のすぐ近くに配置されていることを考えると、アンクル10は枢動できず、したがって、つば24はオーバーバンク防止壁の役割を果たすことである。
【0031】
図3bは、つば24の振り石32が、まだクワガタ18に面して位置している状態で、アンクルフォークに入る点にある構成を表している。この構成では、クワガタ16は、部分的につば24の切欠部26に面して位置しているが、まだオーバーバンク防止壁の近傍に留まっており、したがって、アンクル10のオーバーバンクに対して安全にし続ける。
【0032】
図3cおよび
図3dは、ケン先32がクワガタ16と接触し、アンクル10を枢動させるように作用する間の係合解除位相を表し、その組立体は、その後、その当接位置を終了する。同時に、アンクル10は、従来の方法で、がんぎ車2によって衝撃を受け始める。
【0033】
衝撃位相は、
図3eに示す固定センターを通過する
図3gの構成まで続き、アンクル10は、
図3gに示す固定センターと衝撃位相の端部との間で、つば24の振り石32を介してがんぎ車2から受け取るエネルギーの一部をテン輪に伝達する。この段階で、アンクル10は、がんぎ車2が入爪石6を引っ張ることによって、入ドテピン20に対して係止される。
【0034】
次いで、
図3hに表すように、振り石32はアンクルフォークから出て、テン輪は上昇加算角位相を開始する。この図では、アンクルフォークから出る振り石32が、クワガタ18がつば24のオーバーバンク防止壁のすぐ近くに到達する瞬間と一致し、それによってアンクル10が
図3iの図からも明らかなように、表される位置に係止されることがわかる。
【0035】
図3jは、反対方向の次の係合解除位相を開始するために、振り石32が既にアンクルフォークの入口に入り込み、クワガタ18に接触している間に、次の下降加算角位相の端部に対応する構成を表す。振り石32はアンクルフォークの入口に位置しており、つばの切欠部26はクワガタ18に対向して配置され、
図3jの図においてアンクル10を反時計回り方向に枢動させることができる。
【0036】
図3k、3lおよび3mは、それぞれ、係合解除位相の継続、固定センター通過、次いで次の衝撃位相を表す。
【0037】
図3nは、次の上昇加算角位相の開始を示し、その次の下降加算角位相は、再び
図3aの図示に対応する。
図3nに示される構成は、振り石32がアンクルフォークから離れたばかりの瞬間に対応し、その後、クワガタ16が再びつば24のオーバーバンク防止壁のすぐ近くに位置することが分かる。
【0038】
図4a、4bおよび4cは、ノッキング状態における3つの異なるタイプの脱進機を表し、それらの比較検討は、本発明の特定の構成を強調することを可能にする。
【0039】
図4aは、上記特許文献1に記載されているような先行技術の脱進機のノッキング状態を示し、動作の信頼性の観点から、その脱進機の限界を示すことができる。上述したように、本出願人は、この脱進機は、ノッキングの際に振り石232がちょうど当接するアンクルフォークのクワガタ216が、つば224の切欠部226の内部に入り込み、つば224の回転を妨げ、ひいては対応する時計ムーブメントの動作を妨げるという点で、ノッキングの際に詰まってしまうおそれが高いことを見出した。
【0040】
図4bは、従来のスイスレバー脱進機の場合のノッキング状態を示しており、この場合、クワガタ116およびケン先118は、つば124およびその切欠部126に対して、つば124のオーバーバンク防止壁に対してケン先118が当接するために、クワガタ116がノッキング状態において切欠部126内に入り込めないように適合されている。
【0041】
図4cから、アンクル10のアンクルフォークは、つば24の周壁との相互作用の性質を最適化することを目的として、従来のアンクルフォーク4の典型的な形状とは著しく異なる形状を有することが明らかになる。
【0042】
実際は、アンクルフォークのクワガタ16、18の各々は、アンクルフォークの入口を区切る内壁36と、外壁38とを有し、外壁38は、ノッキング状態において、当該クワガタ(
図4cに示す構成ではクワガタ16)の外壁38上の振り石32の接触点と、内壁36に最も近い外壁38の端部40との間の距離が、振り石32と、オーバーバンク防止壁および当該クワガタに最も近い切欠部26の間の接合部42との距離よりも大きくなるように、適合され、および寸法決めされる。この種の幾何学的配置のおかげで、クワガタ16、18は、
図4aおよび
図4cの比較検討から明らかなように、上述の先行技術の場合のように、ノッキング状態において、切欠部26内に入り込むことができない。
【0043】
さらに、クワガタ16、18の各々の外壁38は、内壁36に最も近いその端部40から、第1の部分38aと第2の部分38bとを有する。第1の部分38aは、安全面を画定し、かつ第1の部分38aがオーバーバンク防止壁に対抗して位置しているとき(すなわち、アンクル10が休止位相にいるとき)、安全面がオーバーバンク防止壁に対して実質的に接線方向にあるように、アンクル10のレバー14に対して平均角度を有する。次いで、第2の部分38bは、レバー14に対して0~60°のオーダーの角度、好ましくは45°未満、例えば30°の角度を有し、ノッキング状態において、少なくとも外壁38上の振り石32の接触点まで延在する。したがって、つば24のオーバーバンク防止壁に接触可能な第1の部分38aは、つば24との接触領域を提供し、摩擦が限定される。さらに、この幾何学的形状は、先行技術のクワガタの幅よりも大きい幅のクワガタを画定し、したがって、より脆弱でなく、衝撃の際に損傷を受ける可能性が低い。第2の部分38bの方位は、クワガタ16、18の幅をさらに増大させることを可能にし、これらを強化するだけでなく、ノッキング状態に関連して上述の幾何学的条件が適切に満たされること、すなわち、ノッキング状態におけるクワガタ上の振り石32の接触点と、そのクワガタの外壁38の端部40との間の距離が、振り石32と当該クワガタに最も近い接合部42との間の距離よりも実際にはるかに大きいことを確実にすることができる。
【0044】
したがって、
図4cから明らかなように、本発明による組立体は、スイスレバータイプ脱進機組立体と同等のレベルの信頼性を提供しながら、一方で、スイスレバータイプ脱進機組立体と比較して厚さを薄くしている。実際、アンクルフォークの内壁36の係合解除機能および衝撃機能は、アンクルフォークの外壁38によって提供されるオーバーバンク防止機能と同じレベルに位置しており、これらの機能は、ケン先付きの従来のレバー脱進機とは異なるレベルで実施される。
【0045】
図4bおよび
図4cを比較検討すると、従来のスイスレバー脱進機を上回る、本発明のさらなる利点に注目することができる。
図4bから明らかなように、ノッキングの瞬間におけるテン輪の伸びは、330度から340度(
図4bにおいて360°-α)のオーダーであるが、本発明の場合は、
図4cに示されるように、360度より大きくてもよく、このことから、伸びは360度+β(βは典型的には数度のオーダーの値を有する)であることが明らかになり、これは対応する振動子の等時性の観点からより好ましい。
【0046】
既に記載した構成のおかげで、従来のスイスレバー脱進機と比較して厚みが薄いが、少なくとも従来のスイスレバー脱進機と同等のレベルの信頼性を有する、本発明の構成に適合する脱進機を製造することができる。
【0047】
前述の記載は、非限定的な図示の方法で1つの特定の実施形態を記載することを目的としており、本発明は、例えば、アンクル10の幾何学的形状もしくはアンクルフォークの正確な形状、またはつば振り石の形状、またはつばに固定することを可能にするつば振り石の支持体の形状など、既に記載した特定の構成の使用に限定されない。実際、振り石は、任意の適切な手段によってつばに固定されてもよい。このような構成の一つを記載する欧州特許出願公開第2924517号明細書が特に知られている。それと同時に、振り石は、本発明の範囲から逸脱することなく、例えば、テン輪によって直接担持されてもよい。同様に、がんぎ車の回転軸、アンクルの回転軸、およびつばの回転軸は、本発明の実施形態に影響を与えることなく、同一平面上にあってもなくてもよい。
【0048】
アンクル10の幾何学的形状がより具体的に関係しているところで、
図5は、本発明のそれぞれの異なる変形実施形態による複数のアンクルの上方からの概略図を表し、本発明の構成に適合するアンクルを設計する際に、当業者が利用可能な柔軟性のアイデアを得ることを可能にする。
【0049】
当業者は、本発明の教示を適合させて、アンクルがケン先を持たないが、アンクルフォークの振り石が少なくとも部分的にアンクルフォークの内側に位置しているときにのみ、そのクワガタがつばの切欠部に入ることができるように配置される脱進機の製造を可能にする組立体を製造することに、特に困難は生じないであろう。