(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】雨水利用発電システム
(51)【国際特許分類】
F03B 13/08 20060101AFI20240814BHJP
E03B 11/12 20060101ALI20240814BHJP
E03B 3/03 20060101ALI20240814BHJP
E02B 9/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F03B13/08
E03B11/12
E03B3/03 Z
E02B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020142321
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】渡部 陽介
(72)【発明者】
【氏名】平野 尭将
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-155631(JP,A)
【文献】特開2009-257005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/08
E03B 11/12
E03B 3/03
E02B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の上部に降り注いだ雨水を利用して発電を行う雨水利用発電システムであって、
複数の建物の上部に降り注いだ雨水を、前記複数の建物のうちいずれか1つの第1建物の上部に設けられた雨水貯留部に集約管路を経由して集約する雨水集約設備と、
前記雨水貯留部より下方に設けられ、前記雨水貯留部から自然流下させた雨水の水力を利用して発電する水力発電機と、
を備え、
前記雨水貯留部は、前記複数の建物のうち少なくと
も前記第1建物を除いた他の第2建物の上部よりも低い位置に配置されて
おり、
前記第2建物の上部と前記第1建物の前記雨水貯留部とに接続される前記集約管路は、
前記第2建物において上部から下部に配管された第1縦管と、
前記第2建物と前記第1建物との間で地表面又は地下を通過する横管と、
前記第1建物において下部から前記雨水貯留部に鉛直上方に向かって配管された第2縦管と、
を有し、
前記水力発電機は、前記第1建物に設置されていることを特徴とする雨水利用発電システム。
【請求項2】
前記第1建物
の上部、および前記第2建物
の上部は、それぞれの屋上であることを特徴とする請求項1に記載の雨水利用発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水利用発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、利用する規模が小規模であっても風力や太陽光などの自然の力を利用した発電が行われている。そして、近年では、自然の力を利用した発電のうち建物に降り注いだ雨水を利用し、この雨水を建物上部から落下させて建物下部に設置される発電機で発電する方法(小水力発電)も行われている。
このような建物に降り注いだ雨水を利用する発電で使用される動力源、すなわち水車について様々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-237997号公報
【文献】登録実用新案第3171044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような雨水を利用した発電方法では、以下のような問題があった。
一般的に水力発電による発電出力は、水の有する位置エネルギーを運動エネルギーに変換させてエネルギーを得ている。一方、建物としては建物の高さ(落差)が高く、かつ敷地面積(雨が降る面積)を大きくして流量を増大できる建物はほとんど存在しないという現状がある。すなわち、建物高さ(落差)もしくは敷地面積(流量)のどちらかが不十分なため、得られる発電出力が小さいことから小水力発電設備を設置できない建物が多く、実現が難しいという問題があった。
【0005】
一方、小水力発電では、発電に関わる設備の設置面積が小さくて済むことが利点である。ところが、建物の外側に設置する場合には、建物との調和を考慮し、景観を損ねないようにする必要があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、雨水のもつエネルギーを有効的に利用した発電を行うことができるうえ、建物の景観を良好にできる雨水利用発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る雨水利用発電システムは、建物の上部に降り注いだ雨水を利用して発電を行う雨水利用発電システムであって、複数の建物の上部に降り注いだ雨水を、前記複数の建物のうちいずれか1つの第1建物の上部に設けられた雨水貯留部に集約管路を経由して集約する雨水集約設備と、前記雨水貯留部より下方に設けられ、前記雨水貯留部から自然流下させた雨水の水力を利用して発電する水力発電機と、を備え、前記雨水貯留部は、前記複数の建物のうち少なくともの前記第1建物を除いた他の第2建物の上部よりも低い位置に配置されていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、複数の建物の上部に降り注いだ雨水を第1建物の上部に設けられる雨水貯留部に集約管路を通過させて集約し、雨水貯留部に貯留された雨水を自然流下させて水力発電機により発電することができる。このように本発明では、小水力発電に使用する雨水の流量を増大させることで、雨水のもつエネルギーを有効利用することができ、小水力発電による発電出力を増大させることができる。
また、本発明では、第1建物の上部に設けられる雨水貯留部が第2建物の上部よりも低い高さであるので、集約管路を使用して第2建物に降り注いだ雨水を第1建物の雨水貯留部に流入させる際に水頭差を利用した集約を行うことができる。このように本発明では、高さが低い建物であっても複数の建物に降り注いだ雨水を集約して発電出力を増大できるので、十分な発電量を確保することができる。
【0009】
また、本発明では、水頭差を利用した集約管路は建物内、あるいは建物に沿わせて配置することができ、第1建物と第2建物との間の管路も例えば地上又は地下に配管することが可能となるため、建物との調和を考慮した良好な景観を実現できる。
さらに、発電設備も複数の建物のうち1箇所の建物の近傍のみに配置することができることから、個々の建物に発電設備を設置する必要がなく、建物との調和を考慮した良好な景観を実現できる。
【0010】
また、本発明に係る雨水利用発電システムは、前記第1建物は、前記第2建物より高さが低く設定されていることが好ましい。
【0011】
この場合には、第1建物が他の第2建物よりも低い高さであるので、第1建物の上部に雨水貯留部を設置することができる。そして、集約管路を使用して第2建物の雨水を雨水貯留部に流入させる際に水頭差を利用した集約を行うことができる。つまり、第1建物と第2建物との距離が大きく離れていても無動力で効率よく雨水を第1建物の雨水貯留部に集約させることができる。
【0012】
また、本発明に係る雨水利用発電システムは、前記第2建物の上部と前記第1建物の前記雨水貯留部とに接続される前記集約管路は、前記第2建物において上部から下部に配管された第1縦管と、前記第2建物と前記第1建物との間で地表面又は地下を通過する横管と、前記第1建物において下部から前記雨水貯留部に配管された第2縦管と、を有することを特徴としてもよい。
【0013】
この場合には、第1建物と第2建物との間に設置される集約管路が地表面又は地下を通過する構成となるので、建物との調和を考慮した配置計画を行うことができ、建物の景観を損なうことを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の雨水利用発電システムによれば、雨水のもつエネルギーを有効的に利用した発電を行うことができるうえ、建物の景観を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態による雨水利用発電システムの概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す雨水利用発電システムにおいて、無降雨時の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態による雨水利用発電システムについて、図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態による雨水利用発電システム1は、
図1に示すように、一対の建物2、3の上部2a、3aに降り注いだ雨水Wを利用して発電を行うものである。一方の低層建物2(第1建物)の高さは、他方の高層建物3(第2建物)より低くなっている。本実施形態では、建物2、3の上部2a、3aは最上階の屋上部分となっている。ここで、雨水Wにおいて、低層建物2の上部2aに降り注いだ雨水を符号W2とし、高層建物3の上部3aに降り注いだ雨水を符号W3として、以下説明する。
【0018】
雨水利用発電システム1は、低層建物2の上部2a及び高層建物3の上部3aに降り注いだ雨水W2、W3を、低層建物2の上部2aに設けられた雨水貯留部6に集約管路7を経由して集約する雨水集約設備4と、雨水貯留部6より下方に設けられ、雨水貯留部6から 自然流下させた雨水Wの水力を利用して発電する水力発電機5と、を備えている。高層建物3に降り注いだ雨水W3は、集約管路7を経由して高層建物3の上部3aから雨水貯留部6に送水される。
【0019】
雨水貯留部6は、低層建物2の上部2aに設置又は構築される鋼製やコンクリート製の貯留槽である。雨水貯留部6では、低層建物2の上部2aで集積される雨水W2及び高層建物3の上部3aで集積される雨水W3が例えば各建物2、3の屋上に設けられるルーフドレイン(図示省略)によって集約されて貯水される。雨水貯留部6は、低層建物2と高層建物3から雨水W2、W3が送り込まれる流入口と、水力発電機5に向けて雨水Wを排出する排水口と、を有している。
【0020】
集約管路7は、例えば鋼管が採用され、高層建物3の上部3aから雨水貯留部6まで接続されている。集約管路7は、高層建物3内において上部3aから下部3bまで延在して鉛直方向に配管された第1縦管71と、高層建物3と低層建物2との間で地表面又は地下を通過させて略水平方向に配管された横管72と、低層建物2内において下部2bから上部2aの雨水貯留部6まで延在して鉛直方向に配管された第2縦管73と、を有している。横管72は、上流側端部72aが第1縦管71の下端に連結され、下流側端部72bが第2縦管73の下端に連結されている。第1縦管71が低層建物2より高い高層建物3に設けられているので、第1縦管71の上端部の雨水流入部71aは、第2縦管73の雨水流出部73a(雨水貯留部6の流入口)よりも高い位置となる。
【0021】
雨水貯留部6の排水口には、低層建物2内において上部2aから下部2bまで鉛直方向に延在する排水管8が接続されている。排水管8の下部における管途中には、排水された雨水Wが水力発電機5の水車を回転させるように接続されている。つまり水力発電機5は、雨水貯留部6の排出口の鉛直方向の下方に設けられている。排水管8は、水力発電機5よりもさらに先まで延び、適宜な排水箇所で発電後の雨水Wが排出される。なお、水力発電機5は、雨水貯留部6の排出口の高さより下方の位置であればよく、排出口の直下である必要はない。
【0022】
図2に示すように、無降雨時には、第1縦管71内の第1水頭71cと、第2縦管73の雨水流出部73aとが同じ高さとなり、集約管路7における雨水W3の移動が停止される。
【0023】
一方、降雨時において、
図1に示すように、高層建物3の上部3aに降り注いで集積された雨水W3は、集約管路7の第1縦管71の雨水流入部71aと、第2縦管73の雨水流出部73aとの水頭差により、無動力により高層建物3の上部3aから雨水貯留部6へ移動する。低層建物2の上部2aに降り注いで集積された雨水W2は、不図示のルーフドレインにより雨水貯留部6へ送られる。このように低層建物2と高層建物3の両方に降り注いだ雨水W2、W3が雨水貯留部6に集約される。
そして、雨水貯留部6に貯水されている雨水Wは、排水管8から自然流下して水力発電機5の水車を回転させて発電することができる。
【0024】
ここで、水力発電機5における発電機出力の一例を示す。例えば、高層建物3の敷地寸法が60m×60mで高さが30mであり、低層建物2の敷地寸法が90m×120mで高さが15mであるとする。この場合において、有効落差H(m)から流量Q(m3/s)の雨水を自然流下させたときの発電機出力P(kW)は、9.8×H×Q×σの式で求められる。ここで、σは水車効率及び発電機効率である。時間当たりの降水量を10mm/hとすると、発電出力Pは5.88σkWとなる。
そして、高層建物3と低層建物2のそれぞれが単独で発電する場合(各建物2、3のそれぞれに排水管と水力発電機を設けた場合)には、高層建物3の発電出力が2.94σkWとなり、低層建物2の発電出力が4.41σkWとなる。
【0025】
このように、高層建物3によって得られる発電出力が小さい場合には、高層建物3においては小水力発電設備を設置することは採算が合わないことが考えられる。すなわち、高層建物3のみでは発電ができず、低層建物2のみの発電となる。したがって、本実施形態のように高層建物3の流量を低層建物2に移動させて発電することで得られる発電出力の方が大きくなる。
【0026】
次に、上述した雨水利用発電システム1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態では、
図1に示すように、雨水集約設備4において、低層建物2及び高層建物3の上部2a、3aに降り注いだ雨水W2、W3を低層建物2の上部2aに設けられる雨水貯留部6に集約管路7を通過させて集約する。さらに雨水利用発電システム1では、雨水貯留部6に貯留された雨水Wを自然流下させて水力発電機5により発電することができる。このように、小水力発電に使用する雨水の流量を増大させることで、雨水のもつエネルギーを有効利用することができ、小水力発電による発電出力を増大させることができる。
【0027】
また、本実施形態では、低層建物2の上部2aに設けられる雨水貯留部6が高層建物3の上部3aよりも低い高さであるので、集約管路7を使用して高層建物3に降り注いだ雨水W3を低層建物2の雨水貯留部6に流入させる際に水頭差を利用した集約を行うことができる。このように本実施形態では、高さが低い建物(低層建物2)や発電に十分な量の流量を確保できない(降雨面積が狭い)建物(高層建物3)であっても各建物2、3に降り注いだ雨水W2、W3を集約して発電出力を増大できるので、十分な発電量を確保することができる。
【0028】
また、本実施形態では、水頭差を利用した集約管路7は建物内、あるいは建物に沿わせて配置することができ、低層建物2と高層建物3との間の管路も地上又は地下に配管することが可能となるため、建物との調和を考慮した良好な景観を実現できる。
さらに、発電設備も複数の建物のうち低層建物2の近傍のみに配置することができることから、個々の建物に発電設備を設置する必要がなく、建物との調和を考慮した良好な景観を実現できる。
【0029】
また、本実施形態では、雨水貯留部6が設けられる低層建物2が高層建物3よりも低い高さであるので、低層建物2の上部2aに雨水貯留部6を設置することができる。そして、集約管路7を使用して高層建物3の雨水W3を雨水貯留部6に流入させる際に水頭差を利用した集約を行うことができる。つまり、低層建物2と高層建物3との距離が大きく離れていても無動力で効率よく雨水W3を低層建物2の雨水貯留部6に集約させることができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、建物2、3同士の間に設置される集約管路7が地表面又は地下を通過する構成となるので、建物との調和を考慮した配置計画を行うことができ、建物の景観を損なうことを抑制できる。
【0031】
上述のように本実施形態による雨水利用発電システムでは、雨水のもつエネルギーを有効的に利用した発電を行うことができるうえ、建物の景観を良好にできる。
【0032】
以上、本発明による雨水利用発電システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0033】
例えば、本実施形態では、2つの建物(低層建物2、高層建物3)を対象としているが、複数の建物の上部に降り注ぐ雨水を集約管路7、7Aを通じて1つの建物の雨水貯留部6に集約する構成あればよく、3つ以上の建物を集約管路で接続する構成であってもかまわない。
【0034】
また、本実施形態では、複数の建物のうち少なくとも1つの第1建物(低層建物2)が他の第2建物(高層建物3)より高さが低く設定され、雨水貯留部6が第1建物に設けられた構成とし、この場合には第2建物の雨水を無動力で集約管路7に流通させて第1建物に移動させることができるが、複数の建物の高さに高低差をもたせた構成であることに限定されることはない。要は、雨水貯留部6の高さの複数の建物の上部よりも低い位置に配置されていればよいのであって、複数の建物が同じ高さであってもかまわない。
【0035】
また、実施形態では、低層建物2と高層建物3との間に配管される集約管路7の横管72が地表面又は地下を通過する構成としているが、この位置の配管であることに制限されることはなく、例えば景観的に問題なければ人や車両が下方を走行可能な地上からの高さに設けられていてもよい。
【0036】
さらに、雨水貯留部6の形状、大きさ(容量)は、複数の建物から集約する雨水の水量等の条件に応じて適宜設定することができる。
また、雨水貯留部6の設置位置は、建物(本実施形態では低層建物2)の屋上(上部)に配置した一例としているが、この位置に限定されることはなく、例えば低層建物2の最上階の建物内の上部に雨水貯留部6が設けられていてもよい。
【0037】
また、上述した雨水利用発電システム1、1Aは、既設の建物に対して後付けにより設けてもよいし、新設の建物に予め集約管路や雨水貯留部を組み込んで構築するものであってもかまわない。
【0038】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0039】
1、1A 雨水利用発電システム
2 低層建物(第1建物)
2a 上部
3 高層建物(第2建物)
3a 上部
4 雨水集約設備
5 水力発電機
6 雨水貯留部
7、7A 集約管路
8 排水管
71 第1縦管
72 横管
73 第2縦管
W、W2、W3 雨水