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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】電線ターミナルおよび電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/2433 20180101AFI20240814BHJP
   H01R 4/2455 20180101ALI20240814BHJP
【FI】
H01R4/2433
H01R4/2455
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020145251
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040500
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】本目 英貴
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-105996(JP,A)
【文献】実開平04-072553(JP,U)
【文献】実開昭54-184491(JP,U)
【文献】特開2019-021462(JP,A)
【文献】特開平10-162872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/2433
H01R 4/2455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手端子と嵌合する端子部、および電線を圧接する圧接部を含む端子本体と、
第1位置において前記電線が挿入される電線挿入スロットを含み、前記電線挿入スロットに挿入された前記電線が前記圧接部に圧入される第2位置に移動可能な押圧部と、を備え
前記端子本体は、
前記押圧部を前記第1位置に係止する第1係止部と、
前記押圧部を前記第2位置に係止する第2係止部と、を備えた電線ターミナル。
【請求項2】
前記押圧部は、挿入される前記電線を前記電線挿入スロットの内側に保持可能に案内する挿入口を備える、
請求項1に記載の電線ターミナル。
【請求項3】
前記挿入口は、前記電線挿入スロットの後端から前端の方向に向かうにつれて次第に前
記電線挿入スロットの横断面中心へ近接しているガイドを含む、
請求項2に記載の電線ターミナル。
【請求項4】
前記押圧部は、前記ガイドよりも前方で前記圧接部に前記電線を押圧する押圧板を含み

前記押圧板の少なくとも一部は、前記ガイドの前端に隣接している、
請求項3に記載の電線ターミナル。
【請求項5】
少なくとも2つの前記押圧板が、前記電線の延出する方向に並んでいる、請求項4に記
載の電線ターミナル。
【請求項6】
前記押圧部は、前記電線挿入スロットをなすチャンネル状の部材に相当する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の電線ターミナル。
【請求項7】
前記端子本体は、板材を用いて成形され、
前記圧接部は、前記電線が配置される溝が形成された1以上の壁を含み、
前記1以上の壁の少なくとも1つは、前記板材の折り曲げによる屈曲部を介して連続し
た状態で前記電線の延出する方向に並ぶ連設部からなる、
請求項1から6のいずれか一項に記載の電線ターミナル。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の1以上の電線ターミナルと、
前記電線ターミナルを収容するハウジングと、を備える、電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に圧接する圧接端子を含む電線ターミナル、およびかかる電線ターミナルを備えた電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すような圧接コネクタが知られている。圧接コネクタは、圧接部を備えた端子と、端子を保持するハウジングとを備えている。圧接部に形成されている溝の内側へ電線を圧入することで、絶縁被覆に食い込んだ圧接部を芯線に導通させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-125431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の端子接続構造によると、端子の圧接部に対して電線が直接押し込まれる。圧接部に対して電線を押し込む際に電線に作用する負荷を考慮すると、典型的な径の電線と比べて剛性が低い細径の電線を当該端子接続構造に適用することは難しい。
本発明は、細径の電線にも適用可能な程に電線への負荷を軽減しつつ、電線を圧接部に十分に圧接可能な電線ターミナル、およびそれを備えた電気コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電線ターミナルは、相手端子と嵌合する端子部、および電線を圧接する圧接部を含む端子本体と、第1位置において電線が挿入される電線挿入スロットを含み、電線挿入スロットに挿入された電線が圧接部に圧入される第2位置に移動可能な押圧部と、を備える。
【0006】
本発明の電線ターミナルにおいて、押圧部は、挿入される電線を電線挿入スロットの内側に保持可能に案内する挿入口を備えることが好ましい。
さらに、挿入口は、電線挿入スロットの後端から前端の方向に向かうにつれて次第に電線挿入スロットの横断面中心へ近接しているガイドを含むことが好ましい。
【0007】
本発明の電線ターミナルにおいて、押圧部は、ガイドよりも前方で圧接部に電線を押圧する押圧板を含み、押圧板の少なくとも一部は、ガイドの前端に隣接していることが好ましい。
さらに、少なくとも2つの押圧板が、電線の延出する方向に並んでいることが好ましい。
【0008】
本発明の電線ターミナルにおいて、押圧部は、電線挿入スロットをなすチャンネル状の部材に相当することが好ましい。
【0009】
本発明の電線ターミナルにおいて、端子本体は、板材を用いて成形され、圧接部は、電線が配置される溝が形成された1以上の壁を含み、1以上の壁の少なくとも1つは、板材の折り曲げによる屈曲部を介して連続した状態で電線の延出する方向に並ぶ連設部からなることが好ましい。
【0010】
本発明の電線ターミナルにおいて、端子本体は、押圧部を第1位置に係止する第1係止部と、押圧部を第2位置に係止する第2係止部と、を備えることが好ましい。
【0011】
本発明の電気コネクタは、上述の電線ターミナルと、電線ターミナルを収容するハウジングと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電線ターミナルに押圧部を備え、第1位置にある押圧部の電線挿入スロットの内側に電線を挿入した後、電線が圧接部に圧入される第2位置に向けて押圧部を押し込むので、電線および圧接部に押圧部を介して印加される外力が、押圧部が延在する電線挿入スロットの方向に分散される。しかも、電線挿入スロットの内側に電線を直線状に延びた状態に維持しつつ、押圧部の第2位置への移動により圧接を行えるので、電線の延出方向に応力を分散させて電線の応力低減を図ることができる。
細径の電線が採用されているために電線の剛性が低い場合であっても、電線挿入スロットの内側に電線が直線状に維持されるから、電線への負荷を軽減しつつ、安定して圧接を行うことができる。そのため、電線の折損等を生じることなく、接続品質(電気的接触性能)を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る電気コネクタを示す斜視図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3図1に示す電気コネクタに備わる電線ターミナルの斜視図である。押圧部は第2位置にある。
図4】(a)は、電線が挿入される前の電線ターミナルを示す斜視図である。押圧部は第1位置にある。(b)は、電線を示す斜視図である。(c)は、絶縁被覆から露出した芯線に対して圧接される電線ターミナルの縦断面図である。
図5図4(a)に示す電線ターミナルの端子本体の一部の斜視図である。
図6図4(a)に示す電線ターミナルの押圧部の斜視図である。
図7】(a)は、押圧部が第1位置にある状態の電線ターミナルの縦断面図である。(b)は、(a)のVIIb矢印の向きから見た後面図である。
図8】(a)は、第1位置にある押圧部の電線挿入スロットに電線が挿入された状態の電線ターミナルの縦断面図である。(b)は、(a)のVIIIb-VIIIb線断面図である。
図9】(a)は、電線が圧接部に圧入される第2位置に押圧部が移動した状態の電線ターミナルの縦断面図である。(b)は、(a)のIXb矢印の向きから見た後面図である。(c)は、(a)のIXc-IXc線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔電気コネクタの構成〕
図1および図2に示す電気コネクタ1は、電線Wを圧接可能な1以上の電線ターミナル2と、電線ターミナル2を収容するハウジング3とを備えている。
電線ターミナル2(図3)は、端子部11および圧接部12を含む端子本体10と、圧接部12に対して電線Wを押圧可能な押圧部20とを備えている。
【0015】
電気コネクタ1は、例えば、自動車に装備される機器の接続に用いられる。但し、電気コネクタ1の用途は限定されない。
【0016】
電線ターミナル2の端子部11が、図示しない相手端子に嵌合される側を「前」、その反対側であって、電線Wが引き出される側を「後」と定義する。
また、「上」および「下」は、図2の紙面の上側および下側に従うものとする。
【0017】
ハウジング3は、電線ターミナル2をそれぞれ収容可能な複数の収容部31と、収容部31の後方で複数の電線Wを支持可能な電線支持部32とを備えている。複数の収容部31にそれぞれ電線ターミナル2を収容することが可能である。ハウジング3は、全体として略直方体の形状を呈する。
各収容部31は、ハウジング3の前端部3Aから後方へ互いに平行に延びている。収容部31は、ハウジング3の下側にも設けられているが、その図示を省略する。電線支持部32は、収容部31から後方に連なり、ハウジング3の後端部3Bまで延在している。
【0018】
収容部31は、前端部3Aから後方に延びる収容孔311と、収容孔311から後方に連なり、後端部3Bまで延びる収容溝312とを含んでいる。収容孔311は、収容する端子部11の形状に倣い、横断面が矩形状に形成されている。収容溝312は上方に開放されている。
【0019】
収容孔311の内側に後方から端子部11が挿入されるとともに、収容溝312の内側に上方から圧接部12および押圧部20が配置される。端子部11の上壁に形成された突起11Aが、収容孔311の内側から、ハウジング3の上壁に形成された係止孔301に係止されることで、ハウジング3からの電線ターミナル2の離脱が規制されている。
【0020】
収容部31に収容された電線ターミナル2には、電線Wが圧接により接続される。電線ターミナル2に接続された電線Wは、収容溝312に沿って後方に引き出され、電線支持部32により支持される。
端子部11は、収容孔311の前端をなす挿入孔311Aを通じて挿入される図示しない相手端子と嵌合する。相手端子は、例えば、平板状のタブ端子である。相手端子の先端部は、端子部11の接点部11Bに接触導通する。
【0021】
〔電線ターミナルの構成〕
以下、電線ターミナル2について具体的に説明する。本実施形態の電線ターミナル2は、細径の電線Wが採用される場合でも安定した接続を提供する。
図3および図4(a)に示すように、電線ターミナル2は、端子部11および圧接部12が一体成形された端子本体10と、端子本体10とは別体であって、圧接部12に対して電線Wを圧接可能な押圧部20とを備えている。端子本体10および押圧部20のいずれも、例えば銅合金、アルミニウム合金等の金属薄板(板材)を用いた打ち抜きや折り曲げ等の加工により成形されている。
【0022】
図3は、電線ターミナル2に電線Wが接続された状態を示している。図4(a)は、電線Wが接続される前の電線ターミナル2を示している。押圧部20は、図4(a)に示す第1位置P1から、図3に示す第2位置P2へと移動可能である。
【0023】
(電線)
電線Wは、図4(b)に示すように、芯線W1と、芯線W1を包囲する絶縁被覆W2とを備えている。また、電線Wは、さらに絶縁被覆W2を包囲する外皮(図示せず)を備えても良い。なお、図4(b)に示すように、芯線W1と、芯線W1を包囲する絶縁被覆W2とは、ともに圧接部12と押圧部20の間の電線挿入経路Rに挿入されても良いし、あるいは、図4(c)に示すように、芯線W1が絶縁被覆W2の前端よりも前方へ露出しており、圧接部12と押圧部20の間の電線挿入経路Rに挿入されても良い。電線Wのうち、電線挿入経路Rに挿入される部分(芯線W1および、存在する場合は、更に絶縁被覆W2)のことを電線挿入部W0と称する。
なお、芯線W1は、単一の金属線であってもよいし、撚線であってもよい。
【0024】
(端子本体の端子)
端子部11には、図示しない相手端子を受容可能な空間10S(図2)を内包する筒の形状が与えられている。端子部11は、矩形状の横断面を呈する。端子部11に備わる上下左右の四方の壁のうち上壁11Uには、上述の突起11Aと、ストッパ突起11Cとが形成されている。ストッパ突起11Cは、上壁11Uの後端部に位置している。収容孔311への端子部11の挿入時にストッパ突起11Cがハウジング3の上壁に係止されることで、電線ターミナル2がハウジング3に対して位置決めされる。
【0025】
端子部11の下壁11Lにおいて、上壁11Uの後端部の位置よりも後方には、上述の接点部11B(図2)が形成されている。接点部11Bは、下壁11Lの前端側の位置に対して上方に隆起している。
接点部11Bの上方では、端子部11の両側の側壁110の上端に形成された一対の突片110Aが、前後方向D1に対して直交する幅方向D2の内側に折り曲げられて重ね合わせられている。両側の側壁110に架設されたこれらの突片110Aにより、端子部11および押圧部20の幅方向D2の剛性が確保されている。また、突片110Aの後方に押圧部20を端子本体10に対して位置決め可能である。
【0026】
(端子本体の圧接部)
図5は、端子本体10の一部を示している。具体的には、端子部11の接点部11Bと、接点部11Bから後方に、端子本体10の軸線の方向に沿って延在する圧接部12を示している。
圧接部12は、圧接時に絶縁被覆W2を貫通して芯線W1に導通する2つの圧接壁121と、これらの圧接壁121を支持する支持部120とを備えている。
支持部120は、上方が開放された略U字状の横断面を呈する。支持部120により圧接壁121の外周部が支持される。支持部120は、端子部11の下壁11Lおよび両側の側壁から後方に連続している。
【0027】
また、支持部120には、押圧部20を第1位置P1(図4(a))に係止する第1係止部123-1と、押圧部20を第2位置P2(図3)に係止する第2係止部123-2とが形成されている。
第1係止部123-1は、支持部120の両側の側壁120Aにそれぞれ、厚さ方向に貫通して形成された孔に相当する。第1係止部123-1は、両側の側壁120Aにおいて前後方向D1に離間した2箇所に配置されている。当該2箇所は、前後方向D1における2つの圧接壁121の間、および、後側の圧接壁121と支持部120の後端との間に選定されている。
第2係止部123-2は、両側の側壁120Aのそれぞれの下端から下部120Lにかけて形成された切欠に相当する。第2係止部123-2は、第1係止部123-1のそれぞれの直下に配置されている。
【0028】
なお、前後方向D1における第1係止部123-1および第2係止部123-2のそれぞれの数は適宜に定めることができる。前後方向D1において少なくとも1つの第1係止部123-1と、同じく前後方向D1において少なくとも1つの第2係止部123-2とが支持部120に形成されていれば許容される。第1係止部123-1および第2係止部123-2のそれぞれが、前後方向D1において2箇所以上にあれば、端子本体10に押圧部20をより安定して係止することができる。
【0029】
2つの圧接壁121は、支持部120の前後方向D1に離間している。2つの圧接壁121にそれぞれ形成された溝121A(スリット)の内側に電線挿入部W0が圧入により配置される。溝121Aは、前後方向D1から見ると略U字状を呈するが、例えば略V字状等、その他の形状であってもよい。また、2つの圧接壁121のそれぞれの溝121Aの形状が異なっていてもよい。例えば、一方の圧接壁121’は、略U字状の溝121A’を有し、他方の圧接壁121’’は、略V字状の溝121A’’を有してもよい。また、圧接壁121は、3つ以上備わっていてもよく、また、それらの溝121Aは、互いに異なる形状であってもよいし、2つ以上が同じ形状であってもよい。溝121Aの鋭利な内周縁121Z(図7(b))が芯線W1に接触導通する。その際、絶縁被覆W2も電線挿入部W0に含まれている場合は、内周縁121Zによって絶縁被覆W2が貫通される。図7(b)に示すように、溝121Aの両側の上端縁121Uは、電線挿入部W0が圧入される空隙121Gよりも幅が広い。
以下、前側の圧接壁121を第1圧接壁121-1と称し、後側の圧接壁121を第2圧接壁121-2と称する場合がある。
圧接部12は、少なくとも一つの圧接壁121を備えていれば足りる。圧接部12が2以上の圧接壁121を備えていると、電線挿入部W0の圧接をより安定して行うことができる。
【0030】
特に細径の電線Wに対応するため、圧接壁121は、電線Wの延出する方向(前後方向D1)に並ぶ一対の連設部121Bを含んで構成されている。複数の圧接壁121のいずれも一対の連設部121Bからなることが好ましい。
連設部121Bを含む圧接壁121によれば、圧接壁121が単一の壁からなる場合と比べて電線挿入部W0と接触する面積が拡大される。そのため、圧接壁121から加えられる荷重による電線挿入部W0の応力を電線Wの延出方向に分散させることができる。
【0031】
一対の連設部121Bは、金属薄板の折り曲げによる屈曲部121Cを介して連続し、互いに略平行に起立している。屈曲部121Cを含めた一対の連設部121Bの全体は、支持部120の下部120Lの打ち抜きおよび折り曲げ加工により形成されている。一対の連設部121Bは、下部120Lから支持部120の内壁に沿って起立している。屈曲部121Cは、圧接壁121の上端に、かつ、前後方向D1から見たときの溝121Aの両側に位置している。溝121Aの内側から幅方向D2に見たとき、連設部121Bは逆U字状に形成されている。
【0032】
屈曲部121Cには、支持部120の側壁の上端の切欠120Bに係止される係止片121Dが形成されている。また、連設部121Bにおける溝121Aの両側の起立部121Eには、支持部120の側壁120Aの切欠120Cに係合する凸部121Fが形成されている。係止片121Dおよび凸部121Fによる支持部120への係合により、圧接壁121の設置強度が確保されている。
【0033】
本実施形態の圧接壁121の構成は一例に過ぎず、支持部120の任意の領域を用いて適宜な形状の連設部121Bを圧接壁121に与えることができる。例えば、圧接壁121が、2つの屈曲部121Cを介して連続する4つの連設部121Bからなるものであってもよい。あるいは、圧接壁121が、支持部120の幅方向D2の一方側に位置する屈曲部を介して連続する一対の連設部121Bからなるものであってもよい。
【0034】
(押圧部)
押圧部20は、図6図7(a)および(b)に示すように、後方から前方に電線挿入部W0が挿入される電線挿入スロット21を備えたチャンネル状の部材に相当する。チャンネル状の部材は、幅方向D2に対向する一対の側壁22と、側壁22を上側で連結する連結部23とを備えている。
図4(a)に示すように、押圧部20は、支持部120の突片110Aよりも後方に配置される。
【0035】
電線挿入スロット21に電線挿入部W0を挿入するとき、図4(a)、図7(a)および(b)に示すように、押圧部20は端子本体10に対して第1位置P1にある。押圧部20に対して例えば治具や手指により上方から下方への外力を加えると、押圧部20が第2位置P2へ移動するのに伴い、圧接壁121に電線挿入部W0が圧入される。
【0036】
押圧部20の一対の側壁22は、圧接部12の支持部120の両側の側壁120Aの間に配置される。一対の側壁22には、押圧部20が第2位置P1へ移動したときに圧接壁121を受け入れる凹部24と、圧接壁121と干渉しない位置で電線挿入部W0を押圧する押圧板25とが形成されている。押圧板25は、後述するガイド27よりも前方に位置している。
凹部24は、圧接壁121の形状に倣い、側壁22の下端22Aから上方へ窪んでいる。凹部24の後側に隣接する位置で、一対の側壁22の下端22Aから上方へ矩形状の領域22Bが幅方向D2の内側に向けて折り曲げられる。一対の側壁22からそれぞれ幅方向D2の内側に折り曲げられた一対の矩形状の領域22Bは、概ね平坦な押圧板25をなす。押圧板25は、電線挿入経路Rの軸線(破線で示す)に対して平行に配置されている。
【0037】
押圧板25は、第1圧接壁121-1の後方と、第2圧接壁121-2の後方との2箇所に配置されている。
以下、2箇所の押圧板25のうち、前側の押圧板25を第1押圧板25-1と称し、後側の押圧板25を第2押圧板25-2と称する場合がある。
電線Wの延出方向に2以上の任意の数の押圧板25を並べることができる。押圧板25の数が増えると、押圧板25の電線挿入部W0への接触面積が増えるので、押圧板25の各々により電線挿入部W0を圧接壁121に押さえて電線挿入部W0の形状を安定させることができる。
【0038】
一対の側壁22における残余の領域22Cには、幅方向D2の外側に向けて突出した係止突起26Aが形成されている。係止突起26Aは、押圧部20の前端部20Aおよび後端部20Bにおける下端22Aの位置よりも下方に突出した凸部26の外側に形成されている。凸部26および係止突起26Aは、一対の側壁22における前後方向D1の2箇所に配置されている。
各係止突起26Aは、押圧部20が第1位置P1にあるとき、上述の第1係止部123-1(図4(a))に支持部120の内側から係合する。各係止突起26Aは、押圧部20が第1位置P1から第2位置P2に移動されると、第1係止部123-1から離脱し、支持部120の側壁120Aの下端を超えて第2係止部123-2に係合する。
【0039】
(電線挿入スロット)
電線挿入スロット21には、外皮から露出した電線挿入部W0が挿入される。電線挿入スロット21は、電線挿入経路Rの後端側をなすとともに、電線挿入経路Rの内側に電線挿入部W0を維持することで電線挿入部W0を直線的に延びた状態に保つ。電線挿入スロット21により、電線挿入部W0を極力直線的に延出した状態に維持することで、電線挿入部W0に掛かる負荷を抑えながら圧接を安定して行うことが可能である。
電線挿入スロット21は、電線挿入部W0の自重や変位変形により電線挿入部W0が電線挿入経路Rから離脱しないように、電線挿入部W0の外周部の周囲の少なくとも一部に配置される。
【0040】
本実施形態の電線挿入スロット21は、いずれも押圧部20の後端部に配置されたガイド27および保持部28を含む。電線挿入スロット21は、電線挿入部W0を電線挿入スロット21の内側の電線挿入経路Rに案内する挿入口210を備えている。挿入口210は、ガイド27、一対の側壁22、および保持部28から、電線挿入部W0を全周に亘り囲むように形成されている。
【0041】
ガイド27は、電線挿入部W0を電線挿入スロット21の横断面中心Xに向けて案内する。ガイド27は、連結部23の後端から、一対の側壁22の内側かつ前方に向けて屈曲した折り曲げ片からなる。電線挿入スロット21は、挿入口210からガイド27の前端27Aまで延在している。
【0042】
ガイド27は、挿入口210から第2押圧板25-2の近傍まで延びており、前方に向かうにつれて次第に電線挿入スロット21の横断面中心Xへ近接している。
ガイド27と、上述の第1押圧板25-1および第2押圧板25-2は、同じ高さに配置されている。ガイド27の前端27Aと第2押圧板25-2の後端とは隣接している。
【0043】
保持部28は、電線挿入スロット21への電線挿入部W0の挿入開始時から、電線挿入部W0を離脱させることなく電線挿入経路Rに保持するとともに、ガイド27と共に電線挿入部W0を直線的に延びた状態に維持する。ガイド27と、ガイド27に対して下方から対向する保持部28との間に電線挿入部W0が配置される。保持部28は、押圧部20の後端部20Bから適宜な範囲に亘り配置される。
【0044】
本実施形態の保持部28は、一対の側壁22の一方の側壁22の後端部から下側に連続する部分が、他方の側壁22に向けて折り曲げられてなる。保持部28は、電線挿入経路Rの軸線に対して平行に配置されている。
図7(b)に示すように、連結部23、一対の側壁22、および保持部28によって、長円状の挿入口210が区画されている。挿入口210は、挿入された電線挿入部W0を包囲することで電線挿入経路Rに保持する。
【0045】
電線挿入スロット21に挿入された電線挿入部W0は、ガイド27の前端27Aと保持部28との間に上下方向に位置決めされる。ガイド27の前端27Aから保持部28までの上下方向の寸法L1(図7(b))は、電線挿入部W0の外径に対応して設定される。一方、ガイド27の後端27Bから保持部28までの上下方向の寸法L2は、寸法L1よりも長い寸法L2に設定される。
【0046】
ガイド27の後端27Bおよび保持部28の後端28Bは、側壁22の後端22E(図7(a))に対して後方に突出している。そのため、電線挿入部W0の挿入開始時に、電線挿入部W0の位置をガイド27の後端27Bと保持部28の後端28Bとの間に定め易い。
【0047】
保持部28の位置に、保持部28に代わり、電線挿入経路Rの軸線に対してガイド27と対称形状のガイド(下側ガイド)が形成されていてもよい。その場合、上側のガイド27と、下側ガイドとによって電線挿入部W0を電線挿入経路Rの横断面中心Xに向けて案内することができる。
その他、電線挿入スロット21をなすガイド27および保持部28には適宜な位置や形状を与えることができる。例えば、ガイド27は側壁22から連続していてもよい。
【0048】
〔電線圧接の手順〕
図7図9を参照して、電線ターミナル2に電線Wを圧接する手順を説明する。手順の概略としては、図7に示すように第1位置P1に押圧部20がある状態にて、図8に示すように電線挿入スロット21に電線挿入部W0を挿入した後、図9に示すように、押圧部20を押下して押圧部20を第2位置P2まで移動せしめることで、電線挿入部W0を圧接壁121に圧接する。
【0049】
図7(a)および(b)に示すように、電線挿入部W0が挿入される前、押圧部20は第1位置P1にあり、電線挿入スロット21に電線挿入部W0を挿入可能である。このとき、押圧部20の係止突起26Aが第1係止部123-1(図8(b))に係止されていることで、押圧部20は第1位置P1に維持された状態で端子本体10に組付けられている。そのため、端子本体10と押圧部20との相対位置がずれることなく、電線挿入スロット21の奥まで電線挿入部W0をスムーズに挿入することができる。
【0050】
図7(a)に二点鎖線で電線挿入部W0を示している。電線挿入部W0の外径よりも大きい挿入口210を通じて電線挿入部W0を電線挿入スロット21に容易に挿入することができる。
挿入口210から前方へ向けて電線挿入部W0を移動させると、電線挿入部W0は、挿入口210の内側に維持されつつ、ガイド27により電線挿入スロット21の横断面中心Xに向けて案内される。二点鎖線で示すように、電線挿入部W0の前端がガイド27の前端27Aに到達し、ガイド27の前端27Aと、それよりも後方の保持部28とによって上下方向に位置決めされるとき、電線挿入部W0は、ガイド27および保持部28により、電線挿入経路Rの軸線上に直線的に延出した状態に維持され、かつ、電線挿入部W0の下端は、圧接壁121の溝121Aの上端縁121U(図7(b))と略同じ高さにある。電線挿入部W0の前端がガイド27の前端27Aを超えても、ガイド27に同じ高さで隣接する第2押圧板25-2と、保持部28とによって電線挿入部W0は引き続き、直線的に延出した状態に維持される。
【0051】
電線挿入部W0をさらに前進させると、図8(a)に示すように、電線挿入部W0の前端が、第2圧接壁121-2、第1押圧板25-1、および第1圧接壁121-1の順に通過する。図8(b)に示すように、電線挿入部W0は圧接壁121の上端縁121Uに配置される。電線挿入部W0は、電線延出方向に並んだ一対の連設部121Bにより安定して支持される。
なお、電線挿入部W0は、前方に位置する突片110Aと、挿入口210に対して外皮の径が大きいことに基づいて前後方向D1に位置決めされる。
【0052】
保持部28、ガイド27、および第2押圧板25-2に加え、第2圧接壁121-2、第1押圧板25-1、および第1圧接壁121-1によっても電線挿入部W0が支持されるので、電線挿入部W0は、後端から前端までの全長に亘り、電線挿入経路Rの軸線上を真っ直ぐに延びた状態に維持される。
しかも、図8(a)に示すように、第2押圧板25-2、第2圧接壁121-2、第1押圧板25-1、および第1圧接壁121-1が、電線挿入部W0の径方向の両側に、交互に配置されているので、電線挿入部W0は径方向の両側から安定して支持され、より十分に直線状に維持される。
【0053】
図9(a)~(c)は、押圧部20が端子本体10および電線挿入部W0に対して第1位置P1から第2位置へと押し込まれて移動し、電線挿入部W0の圧接壁121への圧入によって圧接がなされた状態を示している。
押圧部20は、係止突起26Aが第2係止部123-2に係止されるまで押し込まれると第2位置P2に移動する。それに伴い、第1押圧板25-1および第2押圧板25-2が電線挿入部W0を第1圧接壁121-1および第2圧接壁121-2に対して押圧することで、電線挿入部W0が圧接壁121の溝121Aの内側に圧入される。このとき、第1圧接壁121-1および第2圧接壁121-2に、直線状に延びた状態で配置された電線挿入部W0が、電線挿入経路Rの軸線に対して平行に維持されつつ押し下げられる。そのため、電線挿入部W0の応力を電線延出方向に分散させて応力低減を図りつつ、電線挿入部W0に対して垂直な圧接壁121の溝121Aに電線挿入部W0を安定して圧入することができる。そうすると、圧接の状態が安定するので、電線Wと電線ターミナル2との接続品質の向上に寄与することができる。
なお、圧接壁121の一対の連設部121Bにより電線挿入部W0への負荷が分散される点でも、電線挿入部W0の応力低減が図られる。
【0054】
押圧部20は、係止突起26Aが第2係止部123-2に係止されることで、圧接壁121に電線挿入部W0を圧入したまま、第2位置P2に維持される。押圧部20に用いられる金属は、樹脂に比べて特性の経年変化が小さく、剛性を維持する。金属部材である押圧部20により、電線挿入部W0は圧接壁121から離脱することなく、圧接壁121に圧入された状態に維持される。そのため、電気コネクタ1として十分な機械的強度を保ち、長期信頼性の向上に寄与することができる。
【0055】
〔本実施形態による主な効果〕
以上で説明した本実施形態の電線ターミナル2およびそれを備えた電気コネクタ1によれば、電線ターミナル2に押圧部20を備え、第1位置P1にある押圧部20の電線挿入スロット21の内側に電線挿入部W0を挿入した後、第2位置P1に向けて押圧部20を押し込むので、電線挿入部W0および圧接壁121には、押圧部20を介して外力が印加される。そのため、押圧部20が延在する電線挿入スロット21の方向に電線挿入部W0の応力が分散されるので、押圧部20を介在させずに電線挿入部W0が圧接治具等により圧接壁121に対して直接的に加圧される場合と比べて、電線挿入部W0の応力を低減することができる。
【0056】
しかも、電線挿入スロット21の内側に電線挿入部W0を直線状に延びた状態に維持しつつ、押圧部20の第2位置P1への移動により圧接を行えるので、電線挿入部W0の応力を電線延出方向に分散させて電線挿入部W0の応力低減を図ることができる。
以上によれば、細径の電線Wが採用されているために電線挿入部W0の剛性が低く、電線挿入部W0単体では、その形状を直線状に維持することが難しい場合であっても、電線挿入スロット21の内側に電線挿入部W0が直線状に維持されるから、電線挿入部W0への負荷を軽減しつつ、安定して圧接を行うことができる。そのため、電線挿入部W0の折損等を生じることなく、接続品質を確保することができる。
【0057】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
上記実施形態の押圧部20は、第1位置P1から第2位置P2へ端子本体10に対して下方へとスライド変位する。そのため、第1位置P1と第2位置P2との間の押圧部20の移動方向は、電線挿入経路Rに対して垂直な方向に設定されている。しかし、押圧部20の移動方向は、必ずしもこれに限らない。例えば、押圧部20が端子本体10に対して所定の軸を中心に回動することで、第1位置P1から第2位置P2へと移動するように構成されている場合は、押圧部20の移動方向は、軸回り方向に設定されている。
【符号の説明】
【0058】
1 電気コネクタ
2 電線ターミナル
3 ハウジング
3A 前端部
3B 後端部
10 端子本体
10S 空間
11 端子部
11A 突起
11B 接点部
11C ストッパ突起
11L 下壁
11U 上壁
12 圧接部
20 押圧部
20A 前端部
20B 後端部
21 電線挿入スロット
22 側壁
22A 下端
22B 領域
22C 領域
22E 後端
23 連結部
24 凹部
25,25-1,25-2 押圧板
26 凸部
26A 係止突起
27 ガイド
27A 前端
27B 後端
28 保持部
28B 後端
31 収容部
32 電線支持部
110 側壁
110A 突片
120 支持部
120A 側壁
120B 切欠
120C 切欠
120L 下部
121,121-1,121-2 圧接壁
121A 溝
121B 連設部
121C 屈曲部
121D 係止片
121E 起立部
121F 凸部
121G 空隙
121U 上端縁
121Z 内周縁
123-1 第1係止部
123-2 第2係止部
210 挿入口
301 係止孔
311 収容孔
311A 挿入孔
312 収容溝
D1 前後方向
D2 幅方向
L1,L2 寸法
P1 第1位置
P2 第2位置
R 電線挿入経路
W 電線
W0 電線挿入部
W1 芯線
W2 絶縁被覆
X 横断面中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9