(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
B65H 54/32 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B65H54/32
(21)【出願番号】P 2020151139
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】川合 雅士
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恭平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-141773(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取機であって、
前記糸を巻き取る巻取機構と、
巻き取られる前記糸をトラバースするトラバース機構と、を備え、
前記トラバース機構は、
駆動軸の回転を生成する駆動部と、
前記駆動部の前記駆動軸の回転を円軌道の回転に変換するクランク部と、
前記クランク部の前記円軌道の回転を往復動に変換する回転往復変換部と、を有し、
前記クランク部は、
前記駆動軸と接続して回転し、前記駆動部の動力を伝達する第1動力伝達部と、
前記回転往復変換部に動力を伝達する第2動力伝達部と、を有し、
前記第1動力伝達部
の回転軸と前記第2動力伝達部との間の距離が変更可能であり、
前記回転往復変換部は、前記糸を係止するトラバースガイドを有し、
前記第1動力伝達部
の前記回転軸と前記第2動力伝達部との距離を変更させる変更装置と、
前記変更装置の動作を制御する制御装置と、を備え
、
前記制御装置は、コンピュータシステムであり、所望のタイミングでトラバース幅を変更するように前記変更装置を制御する、糸巻取機。
【請求項2】
前記第2動力伝達部を前記第1動力伝達部
の前記回転軸に向かって付勢する弾性部材と、
前記弾性部材の付勢方向に抗する方向に前記第2動力伝達部を移動させる移動部材と、を有する、請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記変更装置は、前記移動部材に対して、前記弾性部材の付勢方向に抗する方向へ流体を送り、
前記流体の圧力調整によって前記移動部材を移動させる、請求項2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記第2動力伝達部は、前記第1動力伝達部の
前記回転軸に直交する方向に沿って移動可能に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記クランク部は、前記第1動力伝達部に沿った方向から見て円形状を呈している、請求項1~4のいずれか一項に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パッケージ形成期間中にパッケージに接触するローラと、トラバース装置と、パッケージ形成期間中に、ローラとトラバース装置との間にある糸のフリーレングスを変更可能とするフリーレングス変更手段と、を備えた糸巻取機が記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数の巻取ボビンを同軸上に装着支持するボビンホルダと、糸ガイドを有し、糸ガイドを往復運動させることで各巻取ボビンに対して各糸条を綾振る複数のトラバース装置と、を備えた糸巻取機が記載されている。特許文献2のトラバース装置は、糸ガイドが取り付けられる無端ベルトと、無端ベルトの少なくとも一部がボビンホルダの長手方向に対して実質的に平行となるように無端ベルトを支持する一対の支持ユニットと、無端ベルトを駆動するモータと、を備えたベルト式トラバース装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-234755号公報
【文献】特開2010-163250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糸巻取機では、トラバース装置によってトラバースされた糸を巻き取って巻取パッケージを形成する。巻取パッケージでは、糸のトラバースの折り返し位置となるパッケージの両端部(糸の折返し部)に糸が溜まることで両端部の高さが中央部より高くなる、いわゆる耳高(耳立)現象が生じ得る。耳高現象が発生した巻取パッケージは、後工程において解舒する際に、解舒不良が発生し得る。そのため、糸巻取機では、耳高現象の発生を抑制することが求められている。そして、耳高現象の発生を抑制するためには、トラバース幅を変更することと、そのトラバース幅の変更を制御できることが必要となる。
【0006】
特許文献1に記載されているような糸巻取機では、ローラとトラバース装置との間の距離(フリーレングス)を変更することによって、トラバースガイドの往復動の範囲を変更することなく、トラバース幅を変更することができる。しかしながら、ローラとトラバース装置との移動距離のために糸巻取機が大型化となる。糸巻取機が設置される工場等によっては、糸巻取機を設置できるスペースに制限があるため、糸巻取機の省スペース化が望まれている。
【0007】
特許文献2に記載されているようなベルト式トラバース装置では、モータの正転・逆転や回転数を切り替えることにより、トラバース幅やトラバース周期を変更することができる。そのため、ベルト式トラバース装置では、糸の巻取り中にトラバース幅を変更し、両端部と中央部とにおいて高さの差が生じることを抑制することで、耳高現象の発生を抑制し得る。しかしながら、ベルト式トラバース装置の能力はモータの性能によるところがあり、トラバース幅が狭くなったり、糸巻取速度が高速化すると正転・逆転の切り替えの周期を短く(切り替え頻度を高く)する必要があるため、現在のモータの性能では所望のトラバース周期に対応できない場合がある。そのため、ベルト式トラバース装置では、耳高現象の発生を効果的に抑制できなくなるおそれがある。
【0008】
本発明の一側面は、省スペース化が図れると共に、モータの性能によることなく、所望のトラバース周期に対応しながら、所望のトラバース幅に変更できる糸巻取機を提供することを目的とする。
【0009】
また、所望のトラバース幅に変更することを制御することにより巻取パッケージにおける耳高現象の発生を抑制できる糸巻取機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る糸巻取機は、糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取機であって、糸を巻き取る巻取機構と、巻き取られる糸をトラバースするトラバース機構と、を備え、トラバース機構は、駆動軸の回転を生成する駆動部と、駆動部の駆動軸の回転を円軌道の回転に変換するクランク部と、クランク部の円軌道の回転を往復動に変換する回転往復変換部と、を有し、クランク部は、駆動軸と接続して回転し、駆動部の動力を伝達する第1動力伝達部と、回転往復変換部に動力を伝達する第2動力伝達部と、を有し、第1動力伝達部と第2動力伝達部との間の距離が変更可能であり、回転往復変換部は、糸を係止するトラバースガイドを有する。
【0011】
本発明の一側面に係る糸巻取機では、クランク部の回転運動を回転往復変換部で往復動に変換している。これにより、糸巻取機では、駆動部において正転・逆転の切り替えを行う必要がない。したがって、糸巻取機では、モータの性能によることなく所望のトラバース周期で糸を巻き取ることができる。
【0012】
また、糸巻取機では、第1動力伝達部と第2動力伝達部との間の距離が変更可能である。第1動力伝達部と第2動力伝達部との間の距離を変更すると、第2動力伝達部の回転半径(回転軌道)が変わる。これにより、回転往復変換部の往復動する範囲、すなわちトラバース幅が変わる。つまり、第2動力伝達部の回転半径を小さくするとトラバース幅が小さくなり、第2動力伝達部の回転半径を大きくするとトラバース幅が大きくなる。したがって、糸巻取機では、所望のトラバース幅で糸を巻き取ることができる。また、糸巻取機では、ローラとトラバース装置との間の距離を変更させなくても、トラバース幅を変更することができ、省スペース化を図ることができる。
【0013】
一実施形態においては、第1動力伝達部と第2動力伝達部との距離を変更させる変更装置と、変更装置の動作を制御する制御装置と、を備えていてもよい。この構成では、制御装置によって変更装置を制御することにより、第1動力伝達部の回転軸と第2動力伝達部との距離を所望のタイミングで変更することができる。そのため、糸巻取機では、所望のタイミングでトラバース幅が変更されるように変更装置を制御することにより、耳高現象の発生を抑制できる。
【0014】
一実施形態においては、第2動力伝達部を第1動力伝達部に向かって付勢する弾性部材と、弾性部材の付勢方向に抗する方向に第2動力伝達部を移動させる移動部材と、を有していてもよい。この構成では、弾性部材によって第2動力伝達部が第1動力伝達部に向かって付勢されているため、弾性部材の付勢力によって、第2動力伝達部と第1動力伝達部との間の距離を短く、すなわちトラバース幅を小さくすることができる。そのため、糸巻取機では、トラバース幅の変更を迅速に行うことができる。
【0015】
一実施形態においては、変更装置は、移動部材に対して、弾性部材の付勢方向に抗する方向へ流体を送り、流体の圧力調整によって移動部材を移動させてもよい。この構成では、第2動力伝達部の移動を精度良く行うことができる。
【0016】
一実施形態においては、第2動力伝達部は、第1動力伝達部の回転軸に直交する方向に沿って移動可能に設けられていてもよい。この構成では、第2動力伝達部を第1動力伝達部の回転軸に直交する方向に沿って直線的に移動させることによって、トラバース幅を変更できる。そのため、糸巻取機では、トラバース幅の変更を迅速に行うことができる。したがって、糸巻取機では、糸を高速で巻き取る場合であっても、トラバース幅の変更に対応することができる。
【0017】
一実施形態においては、クランク部は、第1動力伝達部に沿った方向から見て円形状を呈していいてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によれば、省スペース化が図れると共に、モータの性能によることなく、所望のトラバース周期に対応しながら、所望のトラバース幅に変更することができる。
【0019】
また、トラバース幅の変更を制御することにより、巻取パッケージにおける耳高現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る糸巻取機の正面図である。
【
図4】
図4は、糸巻取機の一部を拡大して示す図である。
【
図5】
図5は、トラバース機構を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、トラバース装置を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、トラバース装置の断面構成を示す図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、クランクピンの動きを示す図である。
【
図10】
図10は、クランクピンの位置とトラバース幅との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、クランクピンの位置とトラバース幅との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る糸巻取機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明においては、図面で規定する第1方向D1(左右方向であり、矢印側が右)、第2方向D2(前後方向であり、矢印側が後)、及び、第3方向D3(上下方向であり、矢印側が上)を説明に用いる。
【0022】
[第1実施形態]
図1に示される糸巻取機1は、スパンデックス紡糸等の糸Y(
図4参照)を複数同時に紡出する紡糸装置(図示省略)を備える紡糸設備(図示省略)に適用される。糸巻取機1は、上記紡糸装置から紡出された糸Yを巻取ボビンBに巻き取って、巻取パッケージPを形成する。本実施形態では、糸巻取機1は、複数(例えば、10個)の巻取パッケージPを同時に形成可能である。
【0023】
図1に示されるように、糸巻取機1は、支持機構2と、巻取機構3と、トラバース機構4と、を備えている。
【0024】
支持機構2は、第1方向D1の一端部に配置されている。支持機構2には、糸巻取機1が設置される工場内に配置された空気圧送装置(図示省略)から供給される空気の空気圧を調整してトラバース装置5(ロータリーユニオン54)に空気(流体)を供給するための空気圧調整装置(変更装置)21、及び、各部に動力を供給するための駆動モータ等が収容されている。また、支持機構2には、制御装置22が設けられている。制御装置22は、糸巻取機1における各種動作を制御する部分であり、集積回路を実装したプロセッサあるいはそれを装備したコンピュータシステムである。
【0025】
巻取機構3は、糸Yを巻き取って巻取パッケージPを形成する。巻取機構3は、タッチローラ31と、ボビンホルダ32,33と、ターレット34と、を有している。
【0026】
タッチローラ31は、巻取パッケージPに接触するローラである。タッチローラ31は、揺動アーム(図示省略)に回転自在に支持されている。
図2に示されるように、タッチローラ31は、第1方向D1に沿って配置されている。
図3及び
図4に示されるように、タッチローラ31は、巻取パッケージPに接触して回転し、トラバース装置5によってトラバースされた糸Yを巻取パッケージPの外周(外層)に送る。タッチローラ31は、揺動アームの揺動によって、巻取位置にある巻取パッケージP(巻取ボビンB)に接近する方向、或いは、巻取パッケージPから離隔する方向へ移動可能に設けられている。
【0027】
図1及び
図3に示されるように、ボビンホルダ32,33は、巻取ボビンBを支持する。ボビンホルダ32,33は、巻取ボビンBを回転駆動させて糸Yを巻取ボビンBに巻き取らせる。ボビンホルダ32,33は、第1方向D1に沿って配置されている。ボビンホルダ32,33は、ターレット34に片持ち支持されている。すなわち、ボビンホルダ32,33の一端は、ターレット34に固定されている。ボビンホルダ32,33は、ターレット34の回転軸を中心として対称となる位置に配置されている。ボビンホルダ32,33は、駆動モータ(図示省略)によって、回転駆動する。
【0028】
図3に示されるように、ターレット34は、支持機構2に支持されている。ターレット34は、支持機構2に対して回転可能に設けられている。ターレット34は、駆動モータ(図示省略)によって回転軸を中心に回動する。ターレット34は、ボビンホルダ32,33を支持している。ターレット34は、ボビンホルダ32,33の位置を切り替える。ターレット34自身を半回転させることによって、ボビンホルダ32,33の一方が上方の巻取位置に、他方が下方の待機位置となるように、2本のボビンホルダ32,33の位置を切り替えることができる。
【0029】
トラバース機構4は、糸Yをトラバース(綾振り)する。トラバース機構4は、糸Yの走行方向において、巻取機構3のタッチローラ31の上流側に配置されている。
図1、
図2及び
図5に示されるように、本実施形態では、トラバース機構4は、トラバース装置5を複数(例えば、10個)備えている。トラバース装置5の数は、巻取ボビンB(巻取パッケージP)の数に対応している。複数のトラバース装置5は、ハウジング6に収容されている。ハウジング6は、支持機構2に固定されている。複数のトラバース装置5は、ハウジング6において、第1方向D1において所定の間隔をあけて配列されている。
【0030】
図4、
図6及び
図7に示されるように、トラバース装置5は、往復両スライダクランク部(回転往復変換部)51と、クランクディスク(クランク部)52と、駆動モータ(駆動部)53と、ロータリーユニオン54と、を有している。
【0031】
図6に示されるように、往復両スライダクランク部51は、ガイドサポート511,512と、スライダガイド513,514と、スライダ515と、トラバースガイド516と、固定部517と、を有している。往復両スライダクランク部51は、クランクディスク52の回転運動を、スライダ515の往復動に変換する。
【0032】
ガイドサポート511,512は、スライダガイド513,514を支持する。ガイドサポート511,512は、例えば直方体形状を呈している。ガイドサポート511,512は、ハウジング6に固定されている。ガイドサポート511,512は、第3方向D3に沿って配置されている。ガイドサポート511,512は、第1方向D1において、所定の間隔をあけて対向して配置されている。
【0033】
スライダガイド513,514は、スライダ515を所定方向へ案内する。スライダガイド513,514は、例えば棒状を呈している。スライダガイド513,514は、ガイドサポート511,512に支持されている。スライダガイド513,514は、第1方向D1に沿って配置されている。スライダガイド513,514の一端は、ガイドサポート511に固定され、スライダガイド513,514の他端は、ガイドサポート512に固定されている。すなわち、スライダガイド513,514は、ガイドサポート511と、ガイドサポート512とに掛け渡されている。スライダガイド513,514は、第3方向D3において、所定の間隔をあけて対向して配置されている。
【0034】
スライダ515は、トラバースガイド516を所定方向へ移動させる。スライダ515は、例えば直方体形状を呈している。スライダ515は、スライダガイド513,514において、移動(摺動)自在に設けられている。スライダ515は、スライダガイド513,514を内挿している。スライダ515は、スライダガイド513,514の長手方向、すなわち第1方向D1に沿って移動する。スライダ515は、第3方向D3に沿って配置されており、スライダガイド513とスライダガイド514とにわたって設けられている。
【0035】
スライダ515には、長穴518が設けられている。長穴518は、スライダ515を厚み方向(第2方向D2)に貫通している貫通穴である。長穴518は、スライダ515が配置されている方向、すなわち第3方向D3に沿って配置されている。長穴518の幅は、後述するクランクピン523の外径以上であり、クランクピン523の外径と略同等である。
【0036】
トラバースガイド516は、糸Yを係止する。トラバースガイド516は、糸Yを係止した状態で、トラバース方向(第1方向D1に相当)においてトラバース幅で往復動することによって、下流方向に送られる糸Yをトラバースする。トラバースガイド516は、固定部517を介してスライダ515に固定されている。固定部517は、例えば直方体形状を呈している。トラバースガイド516は、スライダ515の移動に伴って移動する。
【0037】
クランクディスク52は、ディスク部(第1動力伝達部)521と、接続部(第1動力伝達部)522と、クランクピン(第2動力伝達部)523と、ピストン(移動部材)524と、ばね(弾性部材)525と、を有している。クランクディスク52は、駆動モータ53の駆動軸531(後述)の回転を円軌道の回転に変換する。
【0038】
ディスク部521は、例えば円盤形状を呈している。すなわち、ディスク部521は、ディスク部521の回転軸Axに沿った方向から見て円形状を呈している(
図8参照)。ディスク部521は、回転軸Axを中心に回転する。
【0039】
接続部522は、駆動モータ53の駆動軸531に接続されている。接続部522は、駆動モータ53の動力を伝達する。接続部522は、ディスク部521と一体に設けられている。接続部522が駆動モータ53によって回転駆動されると、ディスク部521が回転する。
【0040】
クランクピン523は、例えば柱状を呈している。クランクピン523は、往復両スライダクランク部51に動力を伝達する。
図7に示されるように、クランクピン523は、クランクディスク52の後方に突出している。クランクピン523は、ディスク部521の回転軸Axからずれた位置に配置される。クランクピン523は、接続部522との間の距離が変更可能である。本実施形態では、接続部522の回転軸とディスク部521の回転軸Axとが一致している。すなわち、クランクピン523は、ディスク部521の回転軸Axとの間の距離が変更可能である。
【0041】
クランクピン523の先端部(一部)は、スライダ515の長穴518内に位置している。クランクピン523は、ディスク部521のクランクピンガイド526に位置しており、クランクピンガイド526に沿って移動可能に設けられている。
図8に示されるように、クランクピンガイド526は、ディスク部521の回転軸Axと外縁との間において、ディスク部521の径方向(接続部522の回転軸に直交する方向)に沿って配置されている。
【0042】
ピストン524は、クランクピン523と一体に設けられている。ピストン524は、中空部527内に配置されている。ピストン524は、例えば、円柱状を呈している。中空部527は、ディスク部521の径方向に沿って配置されており、ピストン524を収容する空間を形成している。ピストン524は、中空部527に供給される空気の圧力に応じて、中空部527内において移動する。
【0043】
ばね525は、ピストン524と中空部527の上面との間に設けられている。ばね525は、ピストン524をディスク部521の回転軸Ax側に向かって付勢する。
図9(a)及び
図9(b)に示されるように、ピストン524は、中空部527内において移動可能に設けられている。ピストン524は、中空部527に供給される空気の圧力に応じて、中空部527内を移動する。ピストン524は、中空部527に所定圧力の空気が供給されると、ばね525の付勢力に抗する方向、すなわちディスク部521の外縁側に向かって移動する。ピストン524は、中空部527への空気の供給が停止されると(空気の圧力が減少すると)、ばね525の付勢力によって、ディスク部521の回転軸Ax側に向かって移動する。
【0044】
図9(a)に示されるように、クランクピン523は、ディスク部521の中空部527に空気が供給されると、ピストン524の移動に伴って回転軸Axから離隔する方向に移動する。クランクピン523は、最大で離隔位置まで移動する。離隔位置は、クランクピン523がディスク部521の回転軸Axから最も離れた位置である。
図9(b)に示されるように、クランクピン523は、初期状態(空気が供給されていない状態)では、初期位置に位置している。初期位置は、クランクピン523がディスク部521の回転軸Axに最も近接している位置である。クランクピン523は、空気の供給が停止されると(空気圧が減少すると)、ばね525の付勢力によって、初期位置側に移動する。
【0045】
駆動モータ53は、クランクディスク52を回転駆動させる。駆動モータ53は、例えば、インダクションモータである。駆動モータ53は、駆動軸531(
図7参照)の回転を生成する。駆動モータ53の動作は、制御装置22によって制御される。
図7に示されるように、駆動モータ53の駆動軸531には、ロータリーユニオン54の後述するシャフト部543が内挿されている。
【0046】
ロータリーユニオン54は、回転するクランクディスク52に空気を供給する。
図7に示されるように、ロータリーユニオン54は、本体部541と、回転部542と、シャフト部543と、を有している。本体部541は、空気圧調整装置21から空気が供給される。本体部541は、ハウジング6に対して固定されている。回転部542は、本体部541に対して回転可能に設けられている。回転部542には、シャフト部543が接続されている。
【0047】
シャフト部543は、第2方向D2に沿って配置されており、駆動モータ53の駆動軸531に内挿されていると共に、クランクディスク52の中空部527に先端(供給口)が位置している。本体部541は、空気圧調整装置21から供給された空気を流通させる流路544を有している。シャフト部543は、流路544と連通していると共に、空気を流通させてクランクディスク52の中空部527に空気を供給する流路545を有している。空気圧調整装置21は、制御装置22によって制御され、所定圧力の空気をロータリーユニオン54に供給する。制御装置22は、設定内容に基づいて空気圧調整装置21を制御し、ロータリーユニオン54に供給される空気の圧力を制御する。
【0048】
トラバース装置5では、クランクディスク52が回転すると、スライダ515が往復動する。具体的には、トラバース装置5では、クランクディスク52が回転すると、当該回転に伴ってクランクピン523が回転する。クランクピン523は、スライダ515の長穴518に接触しつつ、長穴518内を往復動する。これにより、スライダ515がスライダガイド513,514に沿って往復動し、トラバースガイド516がトラバース幅において往復動する。トラバース装置5では、クランクディスク52の半回転の周期で、スライダ515の移動方向が切り替わる。
【0049】
トラバース装置5では、クランクピン523の位置を変更することによって、トラバース幅(トラバースガイド516の移動範囲)を変更可能である。すなわち、トラバース装置5では、クランクピン523の回転半径を変更することによって、トラバース幅を変更可能である。トラバース装置5では、クランクピン523の回転半径を小さくすると(回転軸Axとの間の距離を短くすると)トラバース幅が小さくなり、クランクピン523の回転半径を大きくする(回転軸Axとの間の距離を長くすると)とトラバース幅が大きくなる。
【0050】
図10に示されるように、トラバース装置5では、クランクピン523の位置を離隔位置(
図9(a))とすることにより、トラバース幅がW1となる。トラバース幅W1は、トラバース装置5において最も大きい幅である。
図11に示されるように、トラバース装置5では、クランクピン523の位置を初期位置(
図9(b))とすることにより、トラバース幅がW2となる。トラバース幅W2は、トラバース装置5において最も小さい幅である(W1>W2)。トラバース装置5では、クランクピン523の位置を変更(調整)することによって、トラバース幅W1とトラバース幅W2との間の範囲において、トラバース幅を変更することができる。
【0051】
糸巻取機1では、巻取パッケージPに対応するトラバース幅に応じてクランクピン523の位置を設定する。制御装置22は、クランクピン523の位置がトラバース幅に対応する位置となるように、空気圧調整装置21を制御する。糸巻取機1では、巻取パッケージPの形成中に、クランクピン523の位置を所望のタイミングで変更することによって、所望のタイミングでトラバース幅を変更する。具体的には、制御装置22は、空気圧調整装置21を制御することによって、トラバース装置5(ロータリーユニオン54)に供給する空気の圧力を制御する。これにより、トラバース装置5は、所望のタイミングでトラバース幅を変更する。トラバース装置5は、例えば、4往復に1回の周期で、トラバース幅を小さくする。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る糸巻取機1では、クランクディスク52の回転を往復動に変換している。これにより、糸巻取機1では、駆動モータ53において正転・逆転の切り替えを行う必要がない。また、糸巻取機1では、駆動モータ53の回転数を増加させることにより、トラバース装置5におけるトラバース速度を速くすることができる。したがって、糸巻取機1では、駆動モータ53の性能によることなく所望のトラバース周期で糸を巻き取ることができる。したがって、糸巻取機1では、クランクピン523の位置を変更することによって、トラバース幅を小さくすることができる。
【0053】
また、糸巻取機1では、トラバース装置5のディスク部521の回転軸Axとクランクピン523との間の距離が変更可能である。クランクピン523の位置を変更すると、クランクピン523の回転半径(回転軌道)が変わる。これにより、スライダ515の往復動する範囲、すなわちトラバース幅が変わる。つまり、糸巻取機1では、クランクピン523の回転半径を小さくするとトラバース幅が小さくなり、クランクピン523の回転半径を大きくするとトラバース幅が大きくなる。したがって、糸巻取機1では、所望のトラバース幅で糸を巻き取ることができる。また、タッチローラ31とトラバース装置5との間の距離を変更させなくても、トラバース幅を変更することができ、省スペース化を図ることができる。
【0054】
本実施形態に係る糸巻取機1では、ディスク部521の回転軸Axとクランクピン523との距離を変更させる変更装置と、変更装置の動作を制御する制御装置22と、を備えている。この構成では、制御装置22によって変更装置を制御することにより、ディスク部521の回転軸Axとクランクピン523との距離を所望のタイミングで変更することができる。そのため、糸巻取機1では、所望のタイミングでトラバース幅が変更されるように変更装置を制御することにより、耳高現象の発生を抑制できる。
【0055】
本実施形態に係る糸巻取機1は、クランクピン523をディスク部521の回転軸Axに向かって付勢するばね525と、ばね525の付勢方向に抗する方向にクランクピン523を移動させるピストン524と、を有している。この構成では、ばね525によってクランクピン523がディスク部521の回転軸Axに向かって付勢されているため、ばね525の付勢力によって、クランクピン523とディスク部521の回転軸Axとの間の距離を短く、すなわちトラバース幅を小さくすることができる。そのため、糸巻取機1では、トラバース幅の変更を迅速に行うことができる。
【0056】
本実施形態に係る糸巻取機1では、変更装置は、ピストン524に対して、ばね525の付勢方向に抗する方向へ流体を送り、流体の圧力調整によってピストン524を移動させる。この構成では、クランクピン523の移動を精度良く行うことができる。
【0057】
本実施形態に係る糸巻取機1では、クランクピン523は、ディスク部521の径方向に沿って移動可能に設けられている。この構成では、クランクピン523を径方向に沿って直線的に移動させることによって、トラバース幅を変更できる。そのため、糸巻取機1では、トラバース幅の変更を迅速に行うことができる。したがって、糸巻取機1では、糸Yを高速で巻き取る場合であっても、トラバース幅の変更に対応することができる。
【0058】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態について説明する。
図12及び
図13に示されるように、糸巻取機1Aは、支持機構2と、巻取機構3と、トラバース機構4Aと、を備えている。
【0059】
本実施形態では、トラバース機構4Aは、トラバース装置5Aを1個備えている。トラバース装置5Aは、ハウジング6において、第1方向D1の中央部に配置されている。
【0060】
図15に示されるように、トラバース装置5Aは、往復両スライダクランク部51Aと、クランクディスク52と、駆動モータ53と、ロータリーユニオン54と、を有している。
【0061】
図14及び
図15に示されるように、往復両スライダクランク部51Aは、固定部517Aを有している。固定部517Aは、スライダ515に固定されている。
図14に示されるように、固定部517Aは、第1方向D1に沿って配置されている。固定部517Aには、複数(例えば、10個)のトラバースガイド516が配置されている。トラバースガイド516は、固定部517Aが配置されている方向(第1方向D1)において、所定の間隔をあけて配置されている。すなわち、トラバースガイド516は、巻取ボビンBの位置に対応して配置されている。固定部517Aに固定されている複数のトラバースガイド516は、スライダ515の移動に伴って移動する。
【0062】
トラバース装置5Aでは、クランクディスク52が回転すると、スライダ515が往復動する。具体的には、トラバース装置5Aでは、クランクディスク52が回転すると、当該回転に伴ってクランクピン523が回転する。クランクピン523は、スライダ515の長穴518に接触しつつ、長穴518内を移動する。これにより、スライダ515がスライダガイド513,514に沿って往復動し、複数のトラバースガイド516がトラバース範囲において一斉に往復動する。トラバース装置5Aでは、クランクディスク52の半回転の周期で、スライダ515の移動方向が切り替わる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る糸巻取機1Aでは、巻取パッケージにおける耳高現象の発生を抑制できると共に、省スペース化及び糸巻取の高速化が図れる。また、糸巻取機1Aでは、トラバース装置5Aを1個だけ備えている。トラバース装置5Aでは、複数のトラバースガイド516が一斉駆動される。これにより、糸巻取機1の製造コスト、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0065】
上記実施形態では、クランクディスク52が回転軸Axに沿った方向から見て円形状を呈している形態を一例に説明した。しかし、クランクディスク52の形状はこれに限定されず、例えば、矩形状、多角形状等であってもよい。クランクディスク52は、高速回転する場合には円形状を呈していることが好ましい。
【0066】
上記実施形態では、長穴518が貫通穴である形態を一例に説明した。しかし、長穴518は、貫通穴でなく、例えば、凹部のような窪み等であってよい。
【0067】
上記実施形態では、クランクピン523と一体に設けられたピストン524を、空気圧によって移動させる形態を一例に説明した。しかし、クランクピン523の位置を変更させる手段これに限定されない。例えば、クランクピン523は、油圧によって位置が変更されてもよいし、電磁弁等によって位置が変更されてもよい。
【0068】
上記実施形態では、第1動力伝達部がディスク部521及び接続部522で構成されている形態を一例に説明した。しかし、第1動力伝達部は、接続部522のみで構成されていてもよい。この構成では、接続部522とクランクピン523とが、連結部材等で連結されていればよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1A…糸巻取機、3…巻取機構、4,4A…トラバース機構、21…空気圧調整装置(変更装置)、22…制御装置、51…往復両スライダクランク部(回転往復変換部)、52…クランクディスク(クランク部)、53…駆動モータ(駆動部)、516…トラバースガイド、521…ディスク部(第1動力伝達部)、523…クランクピン(第2動力伝達部)、Ax…回転軸、Y…糸。