(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】鋳型造型用組成物
(51)【国際特許分類】
B22C 1/18 20060101AFI20240814BHJP
B22C 1/02 20060101ALI20240814BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B22C1/18 B
B22C1/02 C
B22C1/10 A
(21)【出願番号】P 2020154395
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020001022
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】青沼 宏明
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 由光
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-025963(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/098129(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110405135(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライアッシュ(成分C)を含有
し、
前記無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウムおよびメタケイ酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有する鋳型造型用組成物。
【請求項2】
当該鋳型造型用組成物中の前記無機粘結剤の含有量に対する前記フライアッシュの含有量の質量比(成分C/成分B)が0.1以上3.5以下である、請求項1に記載の鋳型造型用組成物。
【請求項3】
当該鋳型造型用組成物中の前記耐火性骨材100質量部に対する前記無機粘結剤(不揮発分)の含有量が、0.1質量部以上5質量部以下である、請求項1又は2に記載の鋳型造型用組成物。
【請求項4】
前記無機粘結剤
がメタケイ酸ナトリウム
水和物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の鋳型造型用組成物。
【請求項5】
前記鋳型造型用組成物が無機コーテッドサンドである、請求項1から4のいずれか1項に記載の鋳型造型用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型造型用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造時に発生する有機粘結剤の熱分解ガスに由来する鋳物のガス欠陥および臭気を低減する観点から、無機粘結剤である水ガラスを用いる場合がある。当該水ガラスを硬化させる方法として、有機エステルや炭酸ガスなどを用いる鋳型の造型法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、無機粘結剤を用いた鋳型は、一般に強度が低いという課題がある。
無機粘結剤を用いた場合の鋳型強度が低下するという課題に対して、耐火性粒子と水ガラスと非晶形二酸化珪素(非晶質シリカ)を混合した鋳型造型用組成物が提案されている(特許文献1)。
さらに、流動性を高めることによって鋳型強度を高めることを目的に、耐火性粒子を無機粘結剤で被覆した常温流動性を有する無機コーテッドサンドが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】:社団法人日本鋳物協会編、鋳物便覧改定4版、丸善株式会社、昭和61年1月20日発行、p.146~147
【特許文献】
【0005】
【文献】特表第2008-511447号公報
【文献】国際公開第2014/098129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討により、従来の無機粘結剤を用いた鋳型造型用組成物は、鋳型強度が低いという課題の他に、複雑で薄肉の形状をもった鋳型を製造すると、鋳造時に鋳型が高温の溶融金属に曝されて変形し、鋳物の寸法精度の点で改善の余地があることが新たに見出された。
さらに、この課題は、鋳型強度を向上させる非晶質シリカを、無機粘結剤を含有する鋳型造型用組成物に含有させた場合においても、発生することが見出された。
【0007】
本発明は、鋳型強度を向上させ、鋳造時に起こる鋳型の変形を抑制する鋳型造型用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライアッシュ(成分C)を含有する鋳型造型用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳型強度を向上させ、鋳造時に起こる鋳型の変形を抑制できる鋳型造型用組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例における鋳型の変形の測定方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。また、本明細書中において、数値範囲を示す「A~B」は断りがなければA以上B以下の範囲を表し、両端の値をいずれも含む。また、各実施形態に記載される構成・要素は発明の効果を損なわない限りにおいて適宜組み合わせることもできる。
【0012】
<鋳型造型用組成物>
本実施形態において、鋳型造型用組成物は、耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライアッシュ(成分C)を含有する。かかる鋳型造型用組成物の具体例として、以下の態様1および態様2が挙げられる。
【0013】
(態様1)
本態様は、耐火性骨材と無機粘結剤水溶液とフライアッシュを混合して得られた鋳型造型用組成物であって、鋳型造型用組成物を加熱された成形金型に充填し、加熱硬化させることで鋳型を造型するものである。
本態様では、具体的には、無機粘結剤水溶液が、湿潤な状態で耐火骨材と混練して使用され、無機粘結剤水溶液が液体として耐火性骨材に付着した形態である。
【0014】
(態様2)
本態様は、無機コーテッドサンドであり、さらに具体的には、耐火性骨材と前記耐火性骨材の表面に形成された無機粘結剤層とを有する無機コーテッドサンドである。本態様において、無機粘結剤層は、無機粘結剤およびフライアッシュを含む。
鋳型強度を向上する観点及び生産性に優れる観点から、態様2の無機コーテッドサンドが好ましい。
【0015】
次に、鋳型造型用組成物に含まれる成分をさらに具体的に説明する。以下の構成は、前述の態様1および態様2のいずれにも適用できる。
(耐火性骨材:成分A)
耐火性骨材の材料として、天然砂および人工砂からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0016】
天然砂としては、例えば、石英質を主成分とする珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0017】
人工砂としては、例えば、合成ムライト砂、SiO2を主成分とするSiO2系の鋳物砂、Al2O3を主成分とするAl2O3系の鋳物砂、SiO2/Al2O3系の鋳物砂、SiO2/MgO系の鋳物砂、SiO2/Al2O3/ZrO2系の鋳物砂、SiO2/Al2O3/Fe2O3系の鋳物砂、スラグ由来の鋳物砂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。ここで、主成分とは、砂の含有成分の中で最も多い成分をいう。
人工砂とは、天然より産出する鋳物砂ではなく、人工的に金属酸化物の成分を調製し、溶融または焼結した鋳物砂のことを表す。また、使用済みの耐火性骨材を回収した回収砂や、回収砂に再生処理を施した再生砂なども使用できる。
【0018】
耐火性骨材は、耐火性骨材の流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、好ましくは粒子状である。
また、耐火性骨材の平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上である。また、耐火性骨材の平均粒子径が上記下限値以上であると、鋳型の製造の際に、無機粘結剤層の使用量を減らすことができるため、無機コーテッドサンドの再生がより容易となるという点においても好ましい。
耐火性骨材の平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、好ましくは2mm以下であり、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。また、耐火性骨材の平均粒子径が上記上限値以下であると、鋳型の製造の際に、空隙率が小さくなり、鋳型強度を高められるという点においても好ましい。
【0019】
(平均粒子径の測定方法)
粒子の粒子投影断面からの球形度=1の場合は直径(mm)を測定し、一方、球形度<1の場合はランダムに配向させた粒子の長軸径(mm)と短軸径(mm)を測定して(長軸径+短軸径)/2を求め、任意の100個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して平均粒径(mm)とする。長軸径と短軸径は、以下のように定義される。粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最小となる粒子の幅を短軸径といい、一方、この平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を長軸径という。
粒子の長軸径と短軸径は、光学顕微鏡またはデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により該粒子の像(写真)を撮影し、得られた像を画像解析することにより求めることができる。
【0020】
(無機粘結剤:成分B)
本実施形態において、無機粘結剤としては水溶性のケイ酸塩が好ましい。そのようなケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸アンモニウム等を挙げられる。
本実施形態においては、生産性に優れる観点および入手容易性の観点から、無機粘結剤は、ケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
無機コーテッドサンドの場合、無機粘結剤としては、無機コーテッドサンドの生産性および鋳型の生産性を向上する観点から、メタケイ酸ナトリウムまたはその水和物がさらに好ましく、メタケイ酸ナトリウム水和物がよりさらに好ましい。
【0021】
ケイ酸ナトリウムとして、具体的には、ケイ酸ナトリウム1号~5号からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。ここで、ケイ酸ナトリウムは、SiO2/Na2Oのモル比により1号~5号に分類されており、ケイ酸ナトリウム1号~3号についてはJIS-K-1408に規定されている。各号におけるSiO2/Na2Oのモル比は、具体的には以下の通りである。
ケイ酸ナトリウム1号:SiO2/Na2Oのモル比=2.0~2.3
ケイ酸ナトリウム2号:SiO2/Na2Oのモル比=2.4~2.6
ケイ酸ナトリウム3号:SiO2/Na2Oのモル比=2.8~3.3
ケイ酸ナトリウム4号:SiO2/Na2Oのモル比=3.3~3.5
ケイ酸ナトリウム5号:SiO2/Na2Oのモル比=3.6~3.8
また、2種以上のケイ酸ナトリウムを混合することで、SiO2/Na2Oのモル比を所望の程度に調整してもよい。
【0022】
メタケイ酸ナトリウム水和物としては、生産性に優れる観点および入手容易性の観点から、メタケイ酸ナトリウム5水和物およびメタケイ酸ナトリウム9水和物から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0023】
無機粘結剤中のケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウムの含有量は、鋳型強度を向上する観点、生産性に優れる観点および入手容易性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは実質的に100質量%である。ここで「実質的」とは、意図せずに含まれる成分、例えば、原料であるケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウム中に含まれるケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウム以外の成分を含むことを意味する。
無機粘結剤中のケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウムの含有量は、無機粘結剤中の水以外の成分全体に対する、ケイ酸ナトリウム及びメタケイ酸ナトリウムの含有量をいう。
【0024】
態様1において、無機粘結剤は、取り扱い性向上の観点から、水溶液で使用することが好ましい。中でも、無機粘結剤がケイ酸塩を含むとき、ケイ酸塩を水溶液で使用することがより好ましい。
無機粘結剤水溶液の濃度は、鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上である。
また、無機粘結剤水溶液のハンドリング性を向上させる観点、および、鋳型強度を向上させる観点から、無機粘結剤水溶液の濃度は、好ましくは60質量%以下である。
ここで、無機粘結剤水溶液の濃度は、具体的には、無機粘結剤水溶液に含まれる不揮発分の濃度である。
【0025】
鋳型造型用組成物中の無機粘結剤(不揮発分)の含有量は、鋳型強度を向上させる観点から、耐火性骨材100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上、さらにより好ましくは0.7質量部以上である。
また、鋳型の充填性を向上させる観点から、鋳型造型用組成物中の無機粘結剤(不揮発分)の含有量は、耐火性骨材100質量部に対して好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらにより好ましくは2質量部以下である。
【0026】
(フライアッシュ:成分C)
フライアッシュは、JIS A 6201にて規定されるフライアッシュI種又はII種であり、化学組成が石炭灰ハンドブック第5版(編集・発行 日本フライアッシュ協会、2010年10月発行)IV-7ページの表「(1)石炭灰の化学的組成統計値の国内海外合計」の組成範囲に入るものである。
鋳型強度を高める観点から、フライアッシュは、粒径の細かいJIS A 6201にて規定されるフライアッシュI種のフライアッシュを含むことが好ましく、より好ましくはJIS I種のフライアッシュである。
【0027】
また、フライアッシュの平均粒径d50は、鋳型強度を高める観点から、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1μm以上であり、また、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。
フライアッシュの平均粒径d50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザー回折法により測定できる。
【0028】
鋳型造型用組成物中の無機粘結剤の含有量(不揮発分)に対するフライアッシュの含有量の質量比(成分C/成分B)は、鋳型の変形を抑制する観点、および、鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらにより好ましくは0.4以上、よりいっそう好ましくは0.6以上、さらにまた好ましくは1.1以上、殊更好ましくは1.5以上である。
また、鋳型の表面状態を良好にする観点から、上記質量比(成分C/成分B)は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2.8以下、さらにより好ましくは2.5以下である。
【0029】
鋳型造型用組成物中、耐火性骨材100質量部に対するフライアッシュの含有量は、鋳型の変形を抑制する観点、鋳型強度を向上させる観点、および、鋳型の充填性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.4質量部以上、さらにより好ましくは0.5質量部以上である。
また、鋳型の表面状態を良好にする観点から、鋳型造型用組成物中、耐火性骨材100質量部に対するフライアッシュの含有量は、好ましくは9質量部以下であり、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは6質量部以下、さらにより好ましくは5質量部以下である。
【0030】
(その他添加剤)
鋳型造型用組成物には、上述の成分の他、必要に応じて各種添加剤を含有させてもよい。その他添加剤としては、保湿剤、耐湿向上剤、耐火性骨材と無機粘結剤の結合を強化するカップリング剤、滑剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
(無機コーテッドサンド)
以下、態様2の無機コーテッドサンドについて説明する。
無機コーテッドサンド中の水分量は、高強度の鋳型を得る観点から、無機粘結剤100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。
また、成形金型への充填性の観点、および、高強度の鋳型を得る観点から、無機コーテッドサンド中の水分量は、無機粘結剤100質量部に対して、好ましくは180質量部以下であり、より好ましくは160質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下、さらにより好ましくは140質量部以下である。
【0032】
無機コーテッドサンドに含まれる無機粘結剤層中の水の含有量は、たとえば無機粘結剤の種類に応じて調整することができる。
【0033】
無機粘結剤がケイ酸ナトリウムであるとき、無機粘結剤層中の水の含有量は、高強度の鋳型を得る観点から、ケイ酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。
また、成形金型への充填性の観点及び高強度の鋳型を得る観点から、無機コーテッドサンドに含まれる無機粘結剤層中の水の含有量は、ケイ酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは55質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0034】
無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウムであるとき、高強度の鋳型を得る観点、および、簡便に鋳型を製造する観点から、無機粘結剤層中の水の含有量は、メタケイ酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは65質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは110質量部以上であり、また、流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、好ましくは180質量部以下、より好ましくは160質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、より更に好ましくは140質量以下である。
例えば、無機粘結剤層を構成する無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウム5水和物のみである場合の水の含有量は74質量部であり、メタケイ酸ナトリウム9水和物のみである場合の水の含有量は133質量部である。
【0035】
無機コーテッドサンドは、具体的には無機コーテッドサンドの粒子群で構成され、耐火性骨材は、具体的には耐火性骨材の粒子群で構成される。
【0036】
流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、無機コーテッドサンドは球状であることが好ましい。ここで、無機コーテッドサンドが球状とはボールのような丸い形状をしたものをいう。
より具体的には、流動性、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、無機コーテッドサンドの球形度は好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85以上、さらに好ましくは0.90以上、さらにより好ましくは0.95以上、殊更好ましくは0.97以上である。また、球形度の上限値については、具体的には1以下である。
【0037】
ここで、無機コーテッドサンドの球形度は、光学顕微鏡またはデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により得られた粒子の像(写真)を画像解析することにより、粒子の粒子投影断面の面積及び該断面の周囲長を求め、次いで、〔粒子投影断面の面積(mm2)と同じ面積の真円の円周長(mm)〕/〔粒子投影断面の周囲長(mm)〕を計算し、任意の50個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して求めることができる。
【0038】
無機コーテッドサンドの平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、無機コーテッドサンドの平均粒子径が上記下限値以上であると、鋳型の製造の際に、無機粘結剤層の使用量を減らすことができるため、無機コーテッドサンドの再生がより容易となる点においても好ましい。
無機コーテッドサンドの平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。また、無機コーテッドサンドの平均粒子径が上記上限値以下であると、鋳型の製造の際に、空隙率が小さくなり、鋳型強度を高められる点においても好ましい。
無機コーテッドサンドの平均粒子径は、耐火性骨材の平均粒子径と同様の方法により測定することができる。
【0039】
<鋳型造型用組成物の製造方法>
本実施形態において、鋳型造型用組成物は、たとえば、耐火性骨材に、無機粘結剤水溶液及びフライアッシュを、撹拌しながら同時に又は順次添加する方法で製造される。原料成分を均一に混合する観点から、好ましくは、無機粘結剤水溶液はフライアッシュの前に耐火性骨材に添加される。
以下、鋳型造型用組成物の態様2すなわち無機コーテッドサンドの製造方法をさらに具体的に説明する。
【0040】
(無機コーテッドサンドの製造方法)
無機コーテッドサンドの製造方法は、たとえば無機粘結剤の種類に応じて選択することができる。
【0041】
無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウム水和物を含むとき、たとえば、メタケイ酸ナトリウム水和物の融点以上の温度にて、耐火性骨材とメタケイ酸ナトリウム水和物を混合して混合物を得る工程;および、該混合物をメタケイ酸ナトリウム水和物の融点未満の温度に冷却する工程、を含む製造方法により、乾態の無機コーテッドサンドを得ることができる。
かかる製造方法によれば、無機粘結剤層を結晶化させることができるため、従来の製造方法に比べて、流動性に優れた無機コーテッドサンドを得ることができる。また、メタケイ酸ナトリウム水和物の水溶液を用いることを要しないために、脱水工程の必要がなく、無機コーテッドサンドの製造方法を簡略化できる。
【0042】
混合物を得る工程では、具体的には、メタケイ酸ナトリウム水和物の融点以上の温度にて、耐火性骨材の表面に、流動化したメタケイ酸ナトリウム水和物を被覆する。
メタケイ酸ナトリウム水和物の融点以上の温度にて、耐火性骨材とメタケイ酸ナトリウム水和物を混合する方法としては、例えば、メタケイ酸ナトリウム水和物の融点以上の温度に加熱した耐火性骨材にメタケイ酸ナトリウム水和物を投入し、メタケイ酸ナトリウム水和物を融解させながら耐火性骨材とメタケイ酸ナトリウム水和物とを混合する方法;加熱融解させたメタケイ酸ナトリウム水和物を耐火性骨材に投入し、混合する方法が挙げられる。
これらの中でも、コーティング時間を短くできる観点から、加熱融解させたメタケイ酸ナトリウム水和物を耐火性骨材に投入し、混合する方法が好ましい。
同様の観点から、混合物を得る工程において、メタケイ酸ナトリウム水和物を予め水溶液にしないで混合することが好ましい。また混合物を得る工程が、水を意図的に添加する工程を含まないことが好ましい。
耐火性骨材とメタケイ酸ナトリウム水和物とを混合するときの攪拌速度や処理時間等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0043】
混合物を冷却する工程では、混合物を得る工程で得られた混合物をメタケイ酸ナトリウム水和物の融点未満の温度に冷却することにより、メタケイ酸ナトリウム水和物の流動性を低減させ、耐火性骨材の表面にメタケイ酸ナトリウム水和物を定着させることによって、メタケイ酸ナトリウム水和物層すなわち無機粘結剤層を形成する。
【0044】
次に、無機粘結剤がケイ酸ナトリウムを含むとき、たとえば、加熱した耐火性骨材に対して、無機粘結剤としての水ガラス水溶液を、必要に応じて添加剤とともに、混練または混合して均一に混和し、耐火性骨材の表面を水ガラス水溶液で被覆するとともに、水ガラス水溶液の水分を蒸散させることにより、常温流動性を有する乾態の無機コーテッドサンドを得ることができる。
【0045】
また、無機コーテッドサンドの製造において、フライアッシュの添加方法に制限はなく、たとえば、耐火性粒子を無機粘結剤で被覆した後、フライアッシュ、必要によりその他の化合物を一緒に被覆してもよい。
または、無機粘結剤及びフライアッシュ、必要によりその他の化合物を一緒に耐火性粒子に被覆してもよい。
または、無機粘結剤及びフライアッシュ、必要によりその他の化合物を一緒に耐火性粒子に被覆した後、更にフライアッシュを被覆してもよい。
フライアッシュの添加は、一括しておこなってもよいし、複数回に分けておこなってもよい。
【0046】
以上の方法により、無機コーテッドサンドを得ることができる。
また、得られた無機コーテッドサンドは、単独で、もしくはその他の公知の耐火性骨材やその他の添加剤と組み合わせて、所望の鋳型に造型することができる。
【0047】
<鋳型>
本実施形態において、鋳型は、前述の本実施形態における鋳型造型用組成物を用いて作製される。
鋳型の製造方法は、たとえば、鋳型造型用組成物の態様に応じて選択される。
【0048】
態様1の鋳型造型用組成物を用いる場合、鋳型の製造方法として、鋳型造型用組成物を加熱された成形金型に充填して加熱硬化させる方法、鋳型造型用組成物と有機エステルを混合して鋳型を硬化させる自硬性鋳型の造型方法、鋳型造型用組成物に炭酸ガスを通気させて鋳型を硬化させる方法などを用いることができる。
【0049】
態様2の無機コーテッドサンドを用いる場合、鋳型の製造方法としては、加熱された成形金型を用いた造型方法、加熱された成形金型にさらに水蒸気を通気した後、熱風を通気する造型方法等が挙げられる。
無機粘結剤層がメタケイ酸ナトリウム水和物を含む場合は、無機コーテッドサンドを加熱された成形金型に充填して造型する方法が好ましい。無機粘結剤層がケイ酸ナトリウムを含む場合は、無機コーテッドサンドに水を添加し混練した後に、加熱された成形金型へ充填して造型する方法、または無機コーテッドサンドを加熱された成形金型へ充填した後に、水蒸気を通気して、さらにその後に熱風を通気して造型する方法が好ましい。
【0050】
無機粘結剤層がメタケイ酸ナトリウム水和物を含むとき、加熱された成形金型を用いた造型方法では、たとえば、まず、無機コーテッドサンドを、目的とする鋳型を与える成形金型に充填する。
ここで、鋳型生産性を向上させる観点から、好ましくは無機コーテッドサンドを充填する前に成形金型を予め加熱により保温する。このときの加熱温度は、鋳型生産性を向上させる観点から及び鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、また、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下である。
【0051】
無機コーテッドサンドの充填後、水蒸気を通気させずに加熱された成形金型で無機コーテッドサンドを硬化させる。無機粘結剤層がメタケイ酸ナトリウム水和物を含むとき、無機コーテッドサンドに水を添加して混練する工程や、水蒸気を通気する工程を用いることなく無機コーテッドサンドを硬化させることができるため、水蒸気を通気させる設備等が不要となる。
加熱温度は、鋳型生産性を向上させる観点、及び、鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、また、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下である。また、加熱する時間は安定した鋳型強度を得る観点から、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは60秒以上であり、また、好ましくは600秒以下である。
【0052】
また、無機粘結剤層がケイ酸ナトリウムを含むとき、無機コーテッドサンドに水を添加して混練した後に加熱された成形金型に充填する。また、水蒸気を通気する造型方法では、たとえば、目的とする鋳型を与える成形金型内に無機コーテッドサンドを充填した後に、水蒸気を吹き込む。水蒸気の通気により無機コーテッドサンドの充填相が湿らされて湿潤状態となる。そして、90~200℃に加熱された成形金型内に熱風を通気して無機コーテッドサンドを乾燥して硬化させる。
【0053】
また、本実施形態における無機コーテッドサンドは、積層造型法に用いることもできる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
<1> 耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライッアシュ(成分C)を
含有する鋳型造型用組成物。
<2> 耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライッアシュ(成分C)を
含有し、該無機粘結剤の含有量に対する該フライッアシュの含有量の質量比(成分C/成
分B)が0.1以上3.5以下であり、該耐火性骨材100質量部に対する該無機粘結剤
(不揮発分)の含有量が、0.1質量部以上5質量部以下である、<1>に記載の鋳型造
型用組成物。
<3> 耐火性骨材(成分A)、無機粘結剤(成分B)及びフライッアシュ(成分C)を
含有し、該無機粘結剤の含有量に対する該フライッアシュの含有量の質量比(成分C/成
分B)が0.4以上3以下であり、該耐火性骨材100質量部に対する該無機粘結剤(不
揮発分)の含有量が、0.5質量部以上3質量部以下である、<1>または<2>に記載
の鋳型造型用組成物。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
はじめに、以下の例で鋳型造型用組成物の製造に用いた材料を示す。
【0056】
(材料)
・耐火性骨材
エスパール#60L(山川産業社製、人工アルミナ砂、平均粒子径:241μm)
・無機粘結剤
メタケイ酸ナトリウム9水和物(Na2SiO3・9H2O)(日本化学工業社製)
1号50水ガラス(SiO2/Na2O=2.1)(富士化学社製)
【0057】
・フライアッシュ
フライアッシュJIS I種相当 製品名「ファイナッシュ」(四国電力社製)
平均粒径d50(レーザー粒度回折):4.4μm
組成(蛍光X線分析):以下のとおり
成分 %
SiO2 57.7
Al2O3 26.2
Fe2O3 4.88
MgO 1.2
CaO 3.11
【0058】
・非晶質シリカ微粒子
デンカ溶融シリカ SFP-20M(平均粒子径d50:0.4μm)(デンカ社製)
【0059】
ここで、フライアッシュおよびデンカ溶融シリカの平均粒子径ならびにフライアッシュの組成分析は、それぞれ以下の方法でおこなった。
【0060】
<平均粒子径d50の測定>
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA-960V2(堀場製作所社製)を用いて、レーザー回折法により、無機微粒子の粒度分布を測定した。測定結果から、無機微粒子について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(d50、平均粒子径)を求めた。
【0061】
<蛍光X線分析方法>
フライアッシュを振動ミルで0.1μm以下に調整し、1050℃で1時間加熱した。その後、四ホウ酸リチウム5g、フライアッシュ0.5gを混合して1200℃で10分間加熱して溶融させた後、冷却してガラス状にした試料を調整した。試料は蛍光X線分析装置ZSX Primus II(リガク社製)を用いて、ファンダメンタル・パラメータ(Fundamental Parameter:FP)法にて蛍光X線分析を行い組成分析した。
【0062】
<実施例1~8、比較例1~5>
耐火性骨材としてエスパール#60L(100質量部)を攪拌機に投入した。次いで、80℃に加熱して溶融させたメタケイ酸ナトリウム9水和物(表1に示す量)を撹拌機に投入して4分間混練を行った。さらに、実施例1~8については表1に示す量のフライアッシュを投入し、比較例4~5については表1に示す量の非晶質シリカを投入して2分間混練を行い、各例の無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0063】
<実施例9、10、比較例6および7>
耐火性骨材としてエスパール#60L(100質量部)を攪拌機に投入した。次いで、1号50水ガラス(表2に示す量)を撹拌機に投入して2分間混練を行った。さらに、実施例9~10については表2に示す量のフライアッシュを投入し、比較例7については表2に示す量の非晶質シリカを投入して2分間混練を行い、各例の鋳型造型用組成物を得た。表2に、鋳型造型用組成物の配合組成を示す。
【0064】
(評価方法)
各例で得られた無機コーテッドサンドまたは鋳型造型用組成物を用いて以下の方法で鋳型を作製し、その変形を評価した。評価結果を各表にあわせて示す。
【0065】
(鋳型の作製)
22.3×22.3×180mm試験片(5本取り)金型を200℃に加熱した。実施例1~8、比較例1~5の無機コーテッドサンド、実施例9~10、比較例6~7の鋳型造型用組成物をCSR-43ブロー造型機を使用し、ブロー圧0.45MPaで充填した。その後、この成形金型で無機コーテッドサンド、鋳型造型用組成物を2分間静置することで硬化させ、各例の鋳型試験片を得た。
【0066】
(鋳型の曲げ強度)
あらかじめPBV抗折アタッチメントを取り付けた万能強度試験機PFG型(ジョージフィッシャー社製)を用いて、25℃にて上記鋳型試験片の曲げ強度を測定した。鋳型試験片は金型から取り出した直後のものと25℃/55%RHの恒温室で1.0時間(Hr)放置したものを用いた。
【0067】
(鋳型の変形)
図1(a)および
図1(b)は、鋳型の変形の測定方法を説明するための断面図である。上述の方法で得られた各例の鋳型試験片を、25℃/55%RHの恒温室で1時間放置した後、5×22.3×90mmの板状試験片10に切り出した。適当な大きさの鉄板の上に金属製(13mm×13mm、高さ13mm)の台座11a、11bを中心間距離が90mmになるように並べて、その上に板状試験片10を両端がそれぞれの台座の中心に位置するように乗せた(
図1(a))。さらに板状試験片10の中心に重り13(4.7g)を乗せた。その後、700℃で加熱したマッフル炉で板状試験片10を乗せた鉄板を5分間加熱した。5分経過後にマッフル炉から板状試験片10を取り出して1時間放置して冷却した。その後、板状試験片10の変形量を測定した。板状試験片10の両端を結んだ直線から湾曲部への最大垂直距離を変形量とした(
図1(b))。
【0068】
(鋳型の充填性)
鋳型の作製にて得られた鋳型試験片の重量(g)を測定し、試験片の体積(89.5cm3)で除した値を鋳型の充填性(密度)とした。
【0069】
【0070】
【0071】
表1および表2より、無機粘結剤の種類および耐火性骨材に対する無機粘結剤の添加量が同じ例の間、すなわち
実施例1、2、比較例1および4の間;
実施例3~5および比較例2の間;
実施例6~8、比較例3および5の間;ならびに
実施例9、10、比較例6および7の間
で比較したときに、各実施例においては、鋳型強度、試験片の変形抑制および鋳型への充填性の各効果のバランスに優れていた。
【符号の説明】
【0072】
10 板状試験片
11a、11b 台座
13 重り