(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
F21S 45/60 20180101AFI20240814BHJP
【FI】
F21S45/60
(21)【出願番号】P 2020182525
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】古井 崇嗣
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107646(JP,A)
【文献】特開平07-272686(JP,A)
【文献】特開2005-123657(JP,A)
【文献】特開2008-052920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 45/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターレンズに発熱線を配設した車両用灯具であって、
前記アウターレンズが、灯具ボディに溶着される溶着脚を含み、
前記発熱線は、前記アウターレンズの周縁部において、前記溶着脚の内側に周設され、
前記発熱線は、所定割合の樹脂成分を含む金属ペーストを前記アウターレンズに直接塗布してなることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記発熱線の少なくとも一部が、前記アウターレンズと灯具ボディとの間に形成された灯室側に露出している請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記樹脂成分が、所定の温度で熱硬化する樹脂である請求項1
または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記発熱線が所定の温度を超えないように制御する制御手段を備えた請求項1~
3のいずれか一項に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターレンズにデフロスタ用の発熱線を配設した車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アウターレンズに発熱線を配設し、灯具表面に積もった雪を融雪できる車両用灯具が知られている。例えば、特許文献1には、ディスペンサーから導電性ペーストと封止剤を吐出させ、導電性ペーストを封止剤で被覆しつつランプレンズに塗布して線ヒータを形成した融雪構造が提案されている。また、特許文献2には、導電性ペーストをランプレンズに転写し、転写した導電性ペーストをレジストで被覆した融雪構造が提案されている。特許文献3には、インナーパネルに発熱体を設け、インナーパネルをランプボディに取り付けた車両用灯具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、引用文献1~3の発明によれば、封止剤、レジストなどによって導電性部材を被覆したり、インナーパネルを介装する必要があるため、デフロスタを設ける際に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、デフロスタを設ける際の手間とコストを削減できる車両用灯具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の車両用灯具は、アウターレンズに発熱線を配設し、発熱線は、所定割合の樹脂成分を含む金属ペーストをアウターレンズに直接塗布してなることを特徴とする。
【0009】
このとき、発熱線の少なくとも一部が、アウターレンズと灯具ボディとの間に形成された灯室側に露出するように構成されている。
【0010】
また、発熱線は、アウターレンズの周縁部に配設されている。
【0011】
さらに、前記樹脂成分は、熱硬化性の樹脂である。
【0012】
その他、発熱線が所定の温度を超えないように制御する制御手段を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両用灯具によれば、アウターレンズに樹脂成分を含有する金属ペーストを直接塗布することとしたため、アウターレンズへの配設が容易であるとともに、樹脂成分によって発熱線に耐久性が付与される。このため、発熱線を被覆する必要が無くなり、その結果、発熱線を被覆する手間が省けて製造コストも削減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態を示す車両用標識灯を備えた車両の概要図である。
【
図2】車両用標識灯の(a)正面図、(b)A-A線断面図である。
【
図4】(a)車両用標識灯のアウターレンズに金属ペーストを塗布する様子を示す説明図、(b)塗布された金属ペーストの構成を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をブレーキランプ、バックアップランプ、サイドターンシグナルランプなどの車両用標識灯に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、特に発熱の少ない標識灯に好適に用いることが可能であるが、前照灯などにも採用可能である。
【0016】
図1,2に示す車両用標識灯1は、車体51に取り付けられる灯具ボディ4と、ポリカーボネートやアクリル等の透明樹脂材料からなるアウターレンズ2と、雪52を融かすためのデフロスタとして機能する発熱線3と、発熱線3の温度を測定する温度センサ8と、温度センサ8の測定結果に基づいて発熱線3への給電制御を行う制御部9を備える。また、アウターレンズ2と灯具ボディ4との間には灯室5が形成され、灯室5内には、LEDなどの光源6を搭載した基板7が配置されている。
【0017】
図2(a)に示すように、アウターレンズ2の周縁部には、発熱線3が配設されている。発熱線3は、アウターレンズ2の周縁に沿って略環状に配設された環状部3aと、環状部3aの端部に設けられた給電部3bを備える。また、発熱線3は、アウターレンズ2の表面において、灯室側に露出するように設けられ、発熱線3の周囲を取り囲むように、溶着脚2aが突出形成されている。
【0018】
発熱線3は、車両用標識灯1の意匠性や配光性能を阻害しない領域S(
図3参照)内に配設されている。領域Sは、アウターレンズ2の外周から2cm以内の範囲であって、アウターレンズ2と灯具ボディ4が溶着される領域と重畳している。アウターレンズ2と灯具ボディ4を熱板溶着して締結する際には、溶着脚2aは300℃前後に加熱され、溶着脚2aからの周辺樹脂部への伝達温度は90℃程度となる。しかし、溶着時においても、領域Sの温度は、発熱線3が融解しない温度(120℃以下)に抑えられる。
【0019】
図4に示すように、発熱線3は、4軸のディスペンサー11からアウターレンズ2に金属ペースト31を供給し、金属ペースト31をアウターレンズ2に直接塗布することによって形成する。金属ペースト31は、80℃~130℃の熱により硬化し、硬化後は発熱線3として機能する。金属ペースト31の熱硬化温度を80℃~130℃とすることで、樹脂基材であるアウターレンズ2の耐久性を維持しつつ、塗布することが可能となる。発熱線3の配線厚みDは0.02mm~1mm、配線幅Wは0.5mm~5mmが好ましい。
【0020】
金属ペースト31には、硬化前の重量比で、50~80重量%の金属と3重量%以上の樹脂が配合(含有)されている。
【0021】
含有される金属は、常温での電気抵抗率が3.0×10-8Ω・m以下である銀や銅などの金属が好ましい。あるいは、上記電気抵抗率の条件(3.0×10-8Ω・m以下)を満たすならば金属以外の炭素材料(カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトなど)、導電性高分子なども選択可能である。また、金属ペースト31は、ディスペンサー11で所望の発熱線3を塗布できるよう、金属粒子の大きさが最長部分で10μm以下であることが好ましい。
【0022】
含有される樹脂は、ポリエステル、エポキシ、ウレタン、その他保護膜も兼ねる樹脂を選択できる。これらの樹脂成分を金属ペースト31に含有させることにより、発熱線3に別途皮膜を設けなくても、発熱線3に十分な耐熱性および耐湿性などの耐久性が付与される。
【0023】
制御部9は、発熱線3に、融雪に必要な25W以上の電力を供給している。また、温度センサ8から入力した温度情報に基づいて、発熱線3の温度が80℃以下となるように発熱線3供給電力を制御する。制御部9は、発熱線3の温度が80℃を超えた場合には、25Wを下回るように供給電力を制御することも可能である。
【0024】
続いて、本願の金属ペースト31に関する試験結果を以下に記載する。これらの試験では、硬化後膜厚が20μm以上の銀ペースト、銅ペーストを使用している。
【0025】
(耐熱性試験)
硬化後の金属ペースト31を、80℃~110℃下で1000時間、耐熱試験を実施した。1mm2×100マス切り込みの碁盤目密着性で、剥離が無く、試験前と比較して体積抵抗率の変化が±10%以内となった。
【0026】
(耐湿性試験)
硬化後の金属ペースト31を、60℃、湿度95%下で1000時間、耐湿試験を実施した。1mm2×100マス切り込みの碁盤目密着性で、剥離が無く、試験前と比較して体積抵抗率の変化が±10%以内となった。
【0027】
以上の構成の車両用標識灯1によれば、発熱線3を被覆するPETやPCなどの樹脂による保護フィルムや、塗料タイプの保護膜などを設けることなく、耐熱性・耐湿性などの耐久性を備えるため、デフロスタ取り付け時に保護膜を設ける手間を省き、製造コストを削減することが可能となる。また、温度センサ8と制御部9を設けたため、発熱線3を適切な温度に保ち、より耐久性を向上させることが可能となる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。例えば、温度センサ8の代わりに電流・電圧センサを設け、制御部9は発熱線3が80℃以下となるように電流値・電圧値を所定の範囲内に制御することとしても良い。また、ディスペンサー11の可動軸を適宜、増加減少させることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 車両用標識灯
2 アウターレンズ(a:溶着脚)
3 発熱線(a:環状部、b:給電部)
4 灯具ボディ
5 灯室
6 光源
7 基板
8 温度センサ
9 制御部
11 ディスペンサー
31 金属ペースト
51 車体
S 領域
D 配線厚み
W 配線幅