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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240814BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240814BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D119:00
B62D101:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020190048
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079086
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-103428(JP,A)
【文献】特開2005-096725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0389508(US,A1)
【文献】特開2018-052205(JP,A)
【文献】特開2020-142596(JP,A)
【文献】特開2020-069863(JP,A)
【文献】特開2019-199172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 119/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、反力モータによってそのステアリング操作部材に操作反力を付与する反力付与機構と、その操作反力を制御する操作コントローラとを有する操作装置と、
転舵モータによって車輪を転舵する転舵アクチュエータと、その転舵アクチュエータによる車輪の転舵量を制御する転舵コントローラとを有する転舵装置と、
前記操作コントローラと前記転舵コントローラとを通信可能に接続する通信線と
を備えて車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記操作コントローラが、
前記ステアリング操作部材の操作量,当該車両の走行速度および前記ステアリング操作部材に加えられる操作力に基づいて、操作反力を変化させる基本反力制御と、
前記転舵装置の状態に応じて、操作反力の大きさを変更する反力変更処理と
を実行し、
前記転舵コントローラが、転舵装置の状態に基づいて状態コードを決定するとともにその状態コードを前記通信線を介して前記操作コントローラに送信し、前記操作コントローラが、受信した状態コードに応じて前記反力変更処理を実行するように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記状態コードが、前記転舵装置において発生している現象に応じて類型化されている請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記状態コードが、
それぞれが前記現象である、転舵モータの過熱現象、転舵モータのドライバに電源から導入される電圧が降下している現象、溝,縁石等の転舵障壁によって車輪の転舵が阻害されているという現象に応じて類型化されている請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記状態コードが、前記現象の種別と前記現象の程度とに基づいて序列が設定されている請求項2または請求項3に記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記転舵コントローラが、複数の前記状態コードが送信可能であっても、前記序列のより高い単一の状態コードしか送信しないように構成された請求項4に記載のステアリングシステム。
【請求項6】
前記操作コントローラが、前記反力変更処理において、
前記転舵コントローラが送信する前記状態コードが、序列が上がるように変更されたときには、変更前の前記状態コードに基づく操作反力の変更量に、変更後の前記状態コードに基づく操作反力の変更量を上乗せするように、操作反力の大きさを変更するように構成された請求項5に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、ステアリングホイール等のステアリング操作部材と車輪とが機械的に連結されておらず、運転者の操作力に依ることなく、電動モータを有する転舵アクチュエータによって車輪を転舵するステアリングシステム、すなわち、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムが検討されている。ステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、一般的に、運転者に操作感を与えるべく、ステアリング操作部材に操作反力を付与するための反力付与機構が採用される。下記特許文献に記載されているステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、特定の現象が生じているときに、転舵アクチュエータの負荷を考慮して、ステアリング操作部材の操作を制限すべく、反力付与機構による操作反力を増加させる制御を実行するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-83059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されているステアリングシステムでは、転舵アクチュエータによる転舵の制御と、反力付与機構による操作反力の制御とを、1つのコントローラによって行っているが、システムの簡素化,汎用性の向上等の理由で、それらの制御を、2つのコントローラによって別々に行うことも検討されている。2つのコントローラを採用するシステムにおいて、操作反力を増加させるための上記制御を実行する場合、転舵の制御を行うコントローラから、操作反力の制御を行うコントローラへ、上記特定の現象に対する転舵装置の状態として、転舵アクチュエータに関する種々のパラメータ、すなわち、車輪の転舵速度,電動モータへの供給電流,電動モータの温度、バッテリから導入される電圧等についての情報を送信しなければならない。このことは当該システムの通信の負担増となるため、その負担を軽減することが、2つのコントローラによって構成されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムの実用性の向上に繋がる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアバイワイヤ型のステアリングシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のステアリングシステムは、
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、反力モータによってそのステアリング操作部材に操作反力を付与する反力付与機構と、その操作反力を制御する操作コントローラとを有する操作装置と、
転舵モータによって車輪を転舵する転舵アクチュエータと、その転舵アクチュエータによる車輪の転舵量を制御する転舵コントローラとを有する転舵装置と、
前記操作コントローラと前記転舵コントローラとを通信可能に接続する通信線と
を備えて車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記操作コントローラが、
前記ステアリング操作部材の操作量,当該車両の走行速度および前記ステアリング操作部材に加えられる操作力に基づいて、操作反力を変化させる基本反力制御と、
前記転舵装置の状態に応じて、操作反力の大きさを変更する反力変更処理と
を実行し、
前記転舵コントローラが、転舵装置の状態に基づいて状態コードを決定するとともにその状態コードを前記通信線を介して前記操作コントローラに送信し、前記操作コントローラが、受信した状態コードに応じて前記反力変更処理を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、転舵装置の状態を示すコードを転舵コントローラから操作コントローラに送信するだけで、そのコードを受信した操作コントローラは、そのコードに基づいて、操作反力の大きさを変更する処理(以下、「反力変更処理」という場合がある)を実行することができる。そのため、本ステアリングシステムは、通信の負担が小さいシステムとなる。
【発明の態様】
【0007】
操作反力は、一般的に、ステアリング操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)の操作量に応じて変化し、また、例えば、当該車両の走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)や、操作部材に加えられる操作力に基づいて変化させることが可能である。本発明に係る反力変更処理によって実現される操作反力の変更は、そのような操作反力の変化とは別のもの若しくは別のレベルのものであり、端的に言えば、転舵装置の状態に応じた変更を意味する。したがって、操作量等に応じた変化と、反力変更処理で実現される操作反力の変更とが同時に行われてもよい。
【0008】
「状態コード」は、例えば、転舵装置において発生している現象に応じて類型化されてもよい。具体的には、例えば、転舵装置すなわち転舵モータの過熱現象、転舵モータのドライバ(インバータ等の駆動回路)に電源から導入される電圧が降下している現象、溝,縁石等の転舵障壁によって車輪の転舵が阻害されているという現象等に応じて類型化されていてもよいのである。簡単に言えば、状態コードは、現象の種別に応じて類型化されてもよいのである。
【0009】
状態コードが類型化されている場合、現象の種別と、現象の程度(転舵モータの温度,電圧の高さ,転舵障壁による転舵の阻害度等)によって、状態コードには、序列が設定されていてもよい。詳しくは、状態コードが、例えば、対処の必要度,緊急度,重要度といった観点での順序付けがなされていてもよいのである。つまり、状態コードに優先度が設定されていてもよいのである。
【0010】
互いに種別の異なる複数の現象が生じることもあり得、その場合には、状態コードに序列が設けられているのであれば、例えば、転舵コントローラは、より序列の高い状態コードを送信することが望ましい。複数の状態コードを送信するのではなく、単一の状態コードを送信することで、簡便にかつ適切に、反力変更処理を実行することが可能である。なお、転舵コントローラが送信する状態コードが、序列が上がるように変更されたときには、操作コントローラは、変更前の状態コードに基づく操作反力の変更量に、変更後の状態コードに基づく操作反力の変更量を上乗せするように、反力変更処理を実行することが可能である。このような反力変更処理によれば、序列が上がったにも拘わらず操作反力が小さくなるといったことを、回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例のステアリングシステムの全体構成を模式的に示す図である。
図2】操作反力の一成分であるアシスト依拠減少成分を、ステアリング操作部材に加えられる操作トルクとの関係で示すグラフである。
図3】実施例のステアリングシステムにおいて実行される操作プログラムのフローチャートである。
図4】実施例のステアリングシステムにおいて実行される転舵プログラムのフローチャートである。
図5】転舵プログラムを構成する状態特定処理サブルーチンのフローチャートである。
図6】操作プログラムを構成する操作反力決定処理サブルーチンのフローチャートである。
図7】それぞれが操作反力決定処理サブルーチンを構成する通常処理サブルーチンおよび第1類型処理サブルーチンのフローチャートである。
図8】操作反力決定処理サブルーチンを構成する第2類型処理サブルーチンのフローチャートである。
図9】操作反力決定処理サブルーチンを構成する第3類型処理サブルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアリングシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例
【0013】
[A]ステアリングシステムのハード構成
車両に搭載される実施例のステアリングシステムは、図1に模式的に示すように、それぞれが転舵輪である2つの車輪10を転舵するためのシステムであり、機械的に互いに独立した操作装置12および転舵装置14を備えたステアバイワイヤ型のステアリングシステムである。
【0014】
操作装置12は、a)運転者によって操舵操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール20と、b)先端にそのステアリングホイール20が取り付けられたステアリングシャフト22と、c)そのステアリングシャフト22を回転可能に保持するとともに、インパネリインフォースメント(図示を省略)に支持されるステアリングコラム24と、d)そのステアリングコラム24に支持された電動モータである反力モータ26を力源として、操舵操作に対する反力(厳密には、反トルクであるが、以下、慣用されている「操作反力」という文言を用いることとする)FCTを、ステアリングシャフト22を介して、ステアリングホイール20に付与する反力付与機構28とを含んで構成されている。この反力付与機構28は、減速機等を含む一般的な構造のものであるため、反力付与機構28の具体的な構造についての説明は、省略する。
【0015】
操作装置12は、ステアリングホイール20の操作角δをステアリング操作量として検出する操作角センサ30を有している。ちなみに、車両の直進状態においてステアリングホイール20がとる姿勢を中立姿勢とした場合に、その中立姿勢からの回転角が、ステアリングホイール20の操作角δである。また、ステアリングシャフト22には、トーションバー32が組み込まれており、そのトーションバー32の捩じれ量に基づいて、運転者によってステアリングホイール20に加えられる操作力としての操作トルクTqを検出するための操作トルクセンサ34を有している。
【0016】
車輪10の各々は、ステアリングナックル40を介して転向可能に車体に支持されている。転舵装置14は、ステアリングナックル40を回動させることで、車輪10の各々を一体的に転舵する。転舵装置14は、主要構成要素として、転舵アクチュエータ42を有している。転舵アクチュエータ42は、a)両端がリンクロッド44を介して左右のステアリングナックル40にそれぞれ連結されるステアリングロッド46と、b)そのステアリングロッド46を左右に移動可能に支持するとともに、車体に固定的に保持されたハウジング48と、c)電動モータである転舵モータ50を駆動源として、ステアリングロッド46を左右に移動させるためのロッド移動機構52とを含んで構成されている。ロッド移動機構52は、ステアリングロッド46に螺設されたボール溝と、そのボール溝とベアリングボールを介して螺合するとともに転舵モータ50によって回転させられるナットとによって構成されるボールねじ機構を主体とするものであり、一般的な構造のものであるため、ロッド移動機構52についてのここでの詳しい説明は省略する。
【0017】
転舵装置14は、ステアリングロッド46の中立位置(車両の直進状態において位置する位置)からの移動量を検出することで、車輪10の転舵量としての転舵角θを検出するための転舵角センサ54を有している。また、転舵アクチュエータ42のハウジング48には、転舵モータ50近傍の部分の温度(以下、便宜的に、「モータ温度」と呼ぶ場合がある)を検出するための温度センサ56が設けられている。
【0018】
操作装置12の制御、詳しくは、操作反力FCTの制御、すなわち、操作装置12の反力モータ26の制御は、当該操作装置12のコントローラである操作コントローラとしての操作電子制御ユニット(以下、「操作ECU」と言う場合がある)60によって実行される。操作ECU60は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、反力モータ26のドライバ(反力モータ26は3相ブラシレスモータであるため、具体的には、インバータである)等によって構成されている。
【0019】
同様に、転舵装置14の制御、詳しくは、転舵角θの制御、すなわち、転舵装置14の転舵モータ50の制御は、当該転舵装置14のコントローラである転舵コントローラとしての転舵電子制御ユニット(以下、「転舵ECU」と言う場合がある)62によって実行される。転舵ECU62は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、転舵モータ50のドライバ(転舵モータ50は3相ブラシレスモータであるため、具体的には、インバータである)等によって構成されている。なお、転舵ECU62は、転舵モータ50に電流を供給するために、バッテリから当該転舵ECU62に導入される電圧(以下導入電圧」という場合がある)V、端的に言えば、バッテリの電圧Vを検出するための電圧センサ64を有している。
【0020】
後に詳しく説明するが、操作ECU60,転舵ECU62は、互いに情報を送受信しながら制御処理を実行する。そのため、操作ECU60,転舵ECU62は、通信線としてのCAN(car area network or controllable area network)66に接続させられている。
【0021】
[B]ステアリングシステムの制御
実施例のステアリングシステムでは、一般的なステアバイワイヤ型のステアリングシステムと同様に、操舵操作に応じた車輪の転舵制御(以下、単に「転舵制御」と略す場合がある)と、操作反力の制御(以下、単に「反力制御」という場合がある)とを実行する。但し、本実施例のステアリングシステムでは、転舵装置14の状態に応じて操作反力の大きさを変更する処理(以下、「反力変更処理」という場合がある)をも実行する。以下に、転舵制御,基本的な反力制御である基本反力制御,反力変更処理について順次説明し、その後に、それらの制御のフローを簡単に説明する。
【0022】
(a)転舵制御
転舵制御は、ステアリングホイール20に対する操舵操作に応じた車輪10の転舵を実現させるための制御である。操作ECU60は、操作角センサ30を介して、ステアリングホイール20の操作角δを検出し、次式に従って、その検出した操作角δに、設定されているステアリングギヤ比RGを乗ずることによって、車輪10の転舵角θの目標となる目標転舵角θ*を決定する。
θ*=RG×δ
操作ECU60は、その決定した目標転舵角θ*に関する情報を、CAN66を介して、転舵ECU62に送信する。
【0023】
転舵ECU62は、目標転舵角θ*に関する情報を受信するとともに、転舵角センサ54を介して、実際の車輪10の転舵角θ(以下、「実転舵角θ」という場合がある)を検出する。転舵ECU62は、目標転舵角θ*に対する実転舵角θの偏差である転舵角偏差Δθを、次式に従って決定する。
Δθ=θ*-θ
そして転舵ECU62は、転舵角偏差Δθに基づくフィードバック制御則に従って、つまり、次式に従って、転舵モータ50に供給する電流ISを決定する。ちなみに、下記式の第1項,第2項,第3項は、それぞれ、比例項,積分項,微分項であり、GP,GI,GDは、それぞれ、比例項ゲイン,積分項ゲイン,微分項ゲインである。
S=GP×Δθ+GI×∫Δθdt+GD×dΔθ/dt
転舵ECU62は、決定した電流ISを、転舵モータ50に供給する。
【0024】
(b)基本反力制御
反力制御は、運転者にステアリング操作に対する操作感を付与するための制御である。基本反力制御においては、操作ECU60は、操作反力FCTを、2つの成分である転舵力依拠成分FS,アシスト依拠減少成分FAに基づいて、次式に従って決定する。
CT=FS-FA
【0025】
転舵力依拠成分FSは、車輪10を転舵するために必要な転舵力に関する成分であり、次式に従って決定される。
S=fSA(δ,v)+fF(dδ,v)
【0026】
上記式の第1項であるfSA(δ,v)は、ステアリングホイール20の操作角δと車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)vとをパラメータとするセルフアライニング依拠関数であり、車輪10に作用するセルフアライニングトルクに基づく成分と考えることができる。セルフアライニング依拠関数fSA(δ,v)によれば、転舵力依拠成分FSは、車速vが高くなればなる程大きく、操作角δが大きくなればなる程大きくなるように決定される。
【0027】
上記式の第2項であるfF(dδ,v)は、操作角δの変化速度である操作速度dδと車速vとをパラメータとする路面摩擦依拠関数であり、路面の摩擦に起因して車輪10に作用する力に基づく成分と考えることができる。路面摩擦依拠関数fF(dδ,v)によれば、例えば、いわゆる据え切り等を考慮して、転舵力依拠成分FSは、車速vが低くなればなる程大きく、操作速度dδが大きくなればなる程大きくなるように決定される。
【0028】
基本反力制御における上述の転舵力依拠成分FSの決定は、すでに知られた技術であるため、ここでの詳しい説明については、省略することとする。なお、車速vは、車輪10に設けられた車輪速センサによって検出された車輪回転速度に基づいて、ブレーキシステムの電子制御ユニットであるブレーキECU(図示を省略)によって決定される。ブレーキECUもCAN66に接続されており、操作ECU60は、CAN66を介してブレーキECUから送信されてくる情報に基づいて、車速vを取得する。また、操作ECU60は、検出した操作角δの変化に基づいて、操作速度dδを特定する。
【0029】
アシスト依拠減少成分FAは、いわゆるパワーステアリングの操作感を運転者に付与するための成分と考えることができる。パワーステアリングでは、一般的には、操作トルクTqに応じたアシストトルクを、ステアリングシャフト22に付与するようにされている。そのアシストトルクを模すようにして、アシスト依拠減少成分FAは、次式に従って決定される。
A=fT(Tq)
T(Tq)は、操作トルクTqをパラメータとするアシスト関数であり、そのアシスト関数によれば、アシスト依拠減少成分は、操作トルクTqが大きくなる程大きくなるように決定される。模式的には、操作トルクTqに基づき、図2(a)のグラフに示すように決定される。
【0030】
基本反力制御における上述の転舵力依拠成分FSの決定は、すでに知られた技術であるため、ここでの詳しい説明については、省略することとする。操作ECU60は、操作トルクセンサ34を介して、操作トルクTqを検出する。
【0031】
以上のようにして決定した操作反力FCTに基づき、操作ECU60は、反力モータ26に供給する電流ICを、次式に従って決定し、その決定した電流ICを、反力モータ26に供給する。なお、次式におけるαは、設定されている電流決定係数である。
C=α×FCT
【0032】
以上のような、基本反力制御によれば、転舵装置14側からCAN66を介して情報を受け取ることなく、操作反力FCTを適切に制御でき、操作装置12と転舵装置14との間の通信の負担が小さい制御が実現される。
(c)反力変更処理
i)反力変更処理の意義
操作反力FCTは、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムにおいて、運転者に対して適切な操作感を与えるための役割を果たすが、別の役割を持たせることも可能である。詳しく言えば、例えば、転舵アクチュエータ42、特に、転舵モータ50が過熱した場合に、転舵モータ50を保護するために、当該転舵モータ50の出力を制限すること、すなわち、車輪10の転舵を制限することが望まれる。また、転舵モータ50に電流を供給するための電源であるバッテリの電圧、すなわち、転舵ECU62に導入される電圧(以下、「導入電圧」という場合がある)Vが降下した場合も、転舵アクチュエータ42の負担を軽減すべく、車輪10の転舵を制限することが望まれる。さらには、縁石,溝等の障壁によって車輪10の転舵が阻害されている場合には、その障壁の存在を運転者に認識させる必要もある。そのような転舵制限,転舵障壁の認識のために、操作反力FCTを、上記基本反力制御において発生させられる大きさから変更すること、詳しく言えば、大きくすることが可能である。つまり、反力変更処理は、転舵装置14の状態に基づいて転舵制限を運転者に課す役割や、転舵装置14の状態に基づいて転舵障壁を運転者に認識させる役割を、操作反力FCTに持たせることができるのである。
【0033】
ii)通信上の負担
これまで検討されてきた反力変更処理は、それぞれ検出された転舵モータ50のモータ温度T,導入電圧V,転舵角θの変化速度である転舵速度dθ,転舵モータ50への供給電流IS等に基づいて行っていた。そのような反力変更処理を実施例のステアリングシステムで実行する場合、普通に考えれば、モータ温度T,導入電圧V,転舵速度dθ,供給電流ISの検出は、転舵ECU62によって行われ、一方、反力変更処理は、操作ECU60によって行われる。つまり、検出されたモータ温度T,導入電圧V,転舵速度dθ,供給電流ISに関する情報を、随時、通信線であるCAN66を介して、転舵ECU62から操作ECU60に送信しなければない。このような多大な情報の送受信は、当該システムにおける通信上の負担となる。この負担は、ひいては、当該ステアリングシステムの制御の遅延や、CAN66に接続されている他のシステムにおける制御の障害ともなりかねないのである。
【0034】
iii)転舵装置の状態のコード化
上記通信上の負担に鑑み、本実施例のステアリングシステムでは、転舵ECU62は、モータ温度T,導入電圧V,転舵速度dθ,供給電流ISに基づいて、転舵装置14の状態をコード化し、1つの状態コードを、CAN66を介して、操作ECU60に送信する。操作ECU60は、送られてきた状態コードに基づき、予め設定されている規則に従って、操作反力FCTを変更する。
【0035】
状態コードは、下記表に示すようなものであり、転舵装置14において発生している現象に応じて類型化され、かつ、その現象の種別とその現象の程度(症状の程度と考えることもできる)とに基づいて序列が設定されている。換言すれば、現象への対処の必要度,対処の緊急度,対処することの重要性といった観点での順序付けがなされている。
【表1】
【0036】
対象となる現象の種別は、モータ温度Tが高くなっている過熱状態(第1類型),導入電圧Vが低くなっている低電圧状態(第2類型),転舵障壁が存在している障壁存在状態(第3類型)であり、対象となる現象が生じていない場合が通常状態である。状態コードは、通常状態が“0”とされ、過熱状態が“1*”,低電圧状態が“2*”,障壁存在状態が“3*”とされている(*は、何某かの程度を表す)。状態コードにおいて、現象の程度は、軽度が“*L”,中程度が“*M”,重度が“*H”とされている(*は、何某かの種別を表す)。
【0037】
表の下に向かうほど序列が高くなるように状態コードが設定されており、序列の低い方から具体的に列挙すれば、状態コードは、通常状態“0”,軽度過熱状態“1L”,中程度過熱状態“1M”,重度過熱状態“1H”,軽度低電圧状態“2L”,中程度低電圧状態“2M”,重度低電圧状態“2M”,軽度障壁存在状態“3L”,重度障壁存在状態“3H”の9つが設定されている。
【0038】
転舵ECU62は、モータ温度T,導入電圧V,転舵速度dθ,供給電流ISに基づいて、転舵装置14の現時点での状態を特定し、状態コードを決定する。具体的に言えば、温度センサ56を介して検出されたモータ温度Tが、軽度閾温度TLより高く中程度閾温度TM以下である場合に、軽度過熱状態“1L”に、中程度閾温度TMより高く重度閾温度TH以下である場合に、中程度過熱状態“1M”に、重度閾温度THより高い場合に、重度過熱状態“1H”に、それぞれ状態コードを決定する。また、電圧センサ64を介して検出された導入電圧Vが、軽度閾電圧VLより低く中程度閾電圧VM以上である場合に、軽度低電圧状態“2L”に、中程度閾電圧VMより低く重度閾電圧VH以上である場合に、中程度低電圧状態“2M”に、重度閾電圧VHより低い場合に、重度低電圧状態“2H”に、それぞれ状態コードを決定する。さらに、転舵速度dθが閾速度dθTHより低い場合、つまり、転舵角θが実質的に変化していないとみなせる場合において、転舵モータ50への供給電流ISが、軽度閾電流ISLよりも大きく重度閾電流ISH以下であるときに、軽度障壁存在状態“3L”に、重度閾電流ISHよりも大きいときに、重度障壁存在状態“3H”に、それぞれ状態コードを決定する。
【0039】
転舵装置14が、2つ以上の状態コードが決定される状態となることもあり得る。しかし、通信の負担を軽減する観点から、2つ以上の状態コードが決定される場合であっても、転舵ECU62は、より序列の高い状態コード、換言すれば、序列が最高の状態コードのみを、現時点での状態コードとして決定し、その1つの状態コードについての情報を、操作ECU60に送信する。なお、以下、状態コードについての情報の送受信を、単に、状態コードの送受信という場合があることとする。
【0040】
iv)状態コードに依拠した操作反力の変更
簡単に言えば、操作ECU60は、状態コードに応じて、基本反力制御による操作反力FCTを変更する。言い換えれば、基本反力制御によって決定されるであろう操作反力FCTが状態コードに応じた分だけシフトするように、操作反力FCTを決定する。
【0041】
詳しく説明すれば、送られてきた状態コードが、過熱状態を示すコードである場合には、操作ECU60は、第1類型処理として、基本反力制御における上記アシスト依拠減少成分FAを減少させることで、操作反力FCTを大きくする。アシスト依拠減少成分FAは、上述したように、通常状態では、図2(a)に示すようなアシスト関数fT(Tq)に従って決定される。それに対して、過熱状態においては、操作ECU60は、図2(b)に示すように、操作トルクTqを減少トルクΔTqだけ減少させたものをパラメータとするアシスト関数fT(Tq-ΔTq)に従って、アシスト依拠減少成分FAを決定する。パラメータである操作トルクTqを減少させることで、アシスト依拠減少成分FAが減少させられ、その結果として、操作反力FCTが大きくなる。さらに言えば、減少トルクΔTqは、過熱状態の程度によって異なる値に決定される。具体的には、操作ECU60は、減少トルクΔTqを、軽度過熱状態“1L”である場合には、軽度時トルクΔTqLに、中程度過熱状態“1M”である場合には、軽度時トルクΔTqLよりも大きな中程度時トルクΔTqMに、重度過熱状態“1H”である場合には、中程度時トルクΔTqMよりも大きな重度時トルクΔTqHに、それぞれ決定する。つまり、程度が高くなる程、アシスト依拠減少成分FAがより減少させられることで、操作反力FCTがより増加させられるのである。
【0042】
送られてきた状態コードが、低電圧状態を示すコードである場合には、操作ECU60は、第2類型処理として、基本反力制御における上記アシスト依拠減少成分FAに上限を設けることで、操作反力FCTを大きくする。詳しくは、操作ECU60は、図2(c)に示すように、基本反力制御において決定されるアシスト依拠減少成分FAが上限値FALを上回った場合に、アシスト依拠減少成分FAを上限値FALに決定する。アシスト依拠減少成分FAにそのような制限が加えられることで、制限が加えられた範囲において、アシスト依拠減少成分FAが減少させられ、その結果として、操作反力FCTが大きくなる。さらに言えば、上限値FALは、低電圧状態の程度によって異なる値に決定される。具体的には、操作ECU60は、上限値FALを、軽度低電圧状態“2L”である場合には、軽度時値FALLに、中程度低電圧状態“2M”である場合には、軽度時値FALLよりも小さな中程度時値FALMに、重度低電圧状態“2H”である場合には、中程度時値FALMよりも小さな重度時値FALHに、それぞれ決定する。つまり、程度が高くなる程、アシスト依拠減少成分FAがより制限され、その制限に応じて操作反力FCTがより増加させられるのである。
【0043】
送られてきた状態コードが、障壁存在状態を示すコードである場合には、操作ECU60は、第3類型処理として、基本反力制御における操作反力FCTに、障壁依拠成分FBを加えることで、操作反力FCTを大きくする。つまり、次式に従って、操作反力FCTを決定する。
CT=FS-FA+FB
障壁依拠成分FBは、障壁存在状態の程度によって異なる値に決定される。具体的には、操作ECU60は、障壁依拠成分FBを、軽度障壁存在状態“3L”である場合には、軽度時成分FBLに、重度障壁存在状態“3H”である場合には、軽度時成分FBLよりも大きな重度時成分FBHに、それぞれ決定する。つまり、程度が高くなる程、追加される障壁依拠成分FBが大きくされることで、操作反力FCTがより増加させられるのである。
【0044】
先に説明したように、転舵装置14が、2以上の異なる2つの状態となる場合もあり、その場合でも、操作ECU60に対して、転舵ECU62からは、序列のより高い1つの状態コードしか送信されてこない。したがって、送信されてくる状態コードが序列の高いものに変わったとしても、操作反力FCTが減少してしまうことが起こり得る。
【0045】
そこで、本ステアリングシステムでは、現象の種別が異なる状態コードに変更された場合、その変更が序列が高くなるような変更であるときには、操作反力FCTが減少しないような方策が採られている。詳しく説明すれば、操作ECU60は、アシスト依拠減少成分FAを決定するための上記減少トルクΔTq,上記上限値FALの値を前回値ΔTqPR,前回値FALPRとして記憶しており、状態コードが、過熱状態“1*”から、低電圧状態“2*”若しくは障壁存在状態“3*”に変更されたときには、減少トルクΔTqを、前回値ΔTqPRに維持し、状態コードが、低電圧状態“2*”から障壁存在状態“3*”に変更されたときには、上限値FALを、前回値FALPRに維持する。それによって、序列が高くなるような上記変更における操作反力FCTの減少が防止されることになる。
【0046】
[C]ステアリングシステムの制御の流れ
本ステアリングシステムでは、上述の転舵制御,基本反力制御,反力変更処理は、操作ECU60が、図3にフローチャートを示す操作プログラムを、転舵ECU62が、図4にフローチャートを示す転舵プログラムを、それぞれ、短い時間ピッチ(例えば、数m~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。以下にそれらのプログラムに沿った処理を説明することで、本ステアリングシステムの制御の流れ、すなわち、転舵制御,基本反力制御,反力変更処理の流れについて、簡単に説明する。
【0047】
操作プログラムに沿った処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様である。)において、操作角センサ30を介してステアリングホイール20の操作角δが検出される。次のS2において、検出された操作角δに所定のステアリングギヤ比RGが乗じられることで、目標転舵角θ*が決定され、S3において、その目標転舵角θ*についての情報が、転舵ECU62に送信される。
【0048】
続くS4において、操作反力FCTの決定処理(以下、「操作反力決定処理」という場合がある)が実行される。この処理についての詳細は、後に詳しく説明する。操作反力決定処理の後、S5において、決定された操作反力FCTに所定の電流決定係数αが乗じられることで、反力モータ26への供給電流ICが決定され、S6において、その電流ICが反力モータ26に供給される。
【0049】
転舵プログラムに沿った処理では、まず、S11において、操作ECU60から送信される目標転舵角θ*についての情報が受信される。続くS12において、転舵角センサ54を介して、実際の車輪10の転舵角である実転舵角θが検出され、S13において、受信された目標転舵角θ*から検出された実転舵角θが減じられることで、転舵角偏差Δθが決定される。そして、S14において、先に説明した転舵角偏差Δθに基づくフィードバック制御則に従った手法によって、転舵モータ50への供給電流ISが決定され、S15において、その電流ISが転舵モータ50に供給される。
【0050】
次のS16において、転舵装置14の状態を特定するための状態特定処理が実行される。この状態特定処理は、図5にフローチャートを示す状態特定処理サブルーチンが実行されることによって行われる。
【0051】
状態特定処理サブルーチンに沿った処理では、まず、S21において、温度センサ56を介して、転舵モータ50近傍の温度であるモータ温度Tが検出される。続くS22~S24において、検出されたモータ温度Tと、軽度閾温度TL,中程度閾温度TM,重度閾温度THとが比較され、S25~S28において、モータ温度Tが重度閾温度THより高い場合には、状態コードcodeが“1H”に、モータ温度Tが中程度閾温度TMより高く重度閾温度TH以下の場合には、状態コードcodeが“1M”に、モータ温度Tが軽度閾温度TLより高く中程度閾温度TM以下の場合には、状態コードcodeが“1L”に、モータ温度Tが軽度閾温度TL以下の場合には、状態コードcodeが“0”に、それぞれ、決定される。
【0052】
次に、S29において、電圧センサ64を介して、転舵ECU62に導入されるバッテリの電圧である導入電圧Vが検出される。続くS30~S32において、検出された導入電圧Vと、軽度閾電圧VL,中程度閾電圧VM,重度閾温度VHとが比較され、S33~S36において、導入電圧Vが重度閾電圧VHより低い場合には、状態コードcodeが“2H”に、導入電圧Vが中程度閾電圧VMより低く重度閾温度VH以上の場合には、状態コードcodeが“2M”に、導入電圧Vが軽度閾電圧VLより低く中程度閾電圧VM以上の場合には、状態コードcodeが“2L”に、それぞれ置き換えられ、導入電圧Vが軽度閾電圧VL以上の場合には、既に決定されている状態コードcodeが維持される。
【0053】
次に、S37において、実転舵角θの変化に基づいて転舵速度dθが特定され、その転舵速度dθが閾速度dθTHより低いか否か、言い換えれば、車輪10が実質的に転舵されているか否かが判定される。転舵速度dθが閾速度dθTHより低い場合には、S38,S39において、決定されている転舵モータ50への供給電流ISと、軽度閾電流ISL,重度閾電流ISHとが比較され、S40~S42において、供給電流ISが重度閾電ISHより大きい場合には、状態コードcodeが“3H”に、供給電流ISが軽度閾電流ISLより大きく重度閾電流ISH以下の場合には、状態コードcodeが“3L”に、置き換えられ、供給電流ISが軽度閾電流ISL以下の場合には、既に決定されている状態コードcodeが維持される。なお、S37において転舵速度dθが閾速度dθTH以上であると判定された場合にも、S42において、既に決定されている状態コードcodeが維持される。
【0054】
以上のようにして決定された状態コードcodeは、複数の現象が生じている場合であっても最も序列の高いものとなり、S43において、その状態コードcodeに関する情報が、操作ECU60に送信される。
【0055】
操作プログラムのS4の操作反力決定処理は、図6にフローチャートを示す操作反力決定処理サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに沿った処理では、まず、S51において、ブレーキECUから送られてくる情報に基づいて、当該車両の車速vが認定される。続くS52において、先に説明したように、セルフアライニング依拠関数fSA(δ,v)と路面摩擦依拠関数fF(dδ,v)とを利用して、転舵力依拠成分FSが決定される。次に、S53において、操作トルクセンサ34を介して、操作トルクTqが検出される。
【0056】
続くS54~S57は、転舵ECU62から送られてくる状態コードcodeに応じた処理である。S54の通常処理は、図7にフローチャートを示す通常処理サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに沿った処理では、まず、S541において、送られてきた状態コードcodeが“0”であるか否かが判定される。状態コードcodeが“0”である場合には、S542において、上述の減少トルクΔTqが0とされ、上述のアシスト依拠減少成分FAの上限が解除され(フローチャートでは、アシスト依拠減少成分FAの上限値FALが∞とされると表現している)、さらに、上述の障壁依拠成分FBが0に決定される。そして、S543において、後に詳しく説明する維持フラグFLが、“0”にリセットされる。なお、S541において状態コードcodeが“0”ではないと判定された場合には、S542,S543はスキップされる。
【0057】
S55の第1類型処理は、図7にフローチャートを示す第1類型処理サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに沿った処理では、まず、S551において、送られてきた状態コードcodeが“1L”,“1M”,“1H”のいずれかであるか否かが、つまり、過熱状態を示すコードであるか否かが判定される。状態コードcodeが“1L”,“1M”,“1H”のいずれかである場合には、S552において、先に説明したように、減少トルクΔTが、過熱状態の程度に応じて、具体的には、軽度である場合には、軽度時トルクΔTqLに、中程度である場合には、中程度時トルクΔTqMに、重度である場合には、重度時トルクΔTqHに、それぞれ決定される。そして、S553において、上述のアシスト依拠減少成分FAの上限が解除され、障壁依拠成分FBが0に決定される。なお、S551において状態コードcodeが過熱状態を示すものではないと判定された場合には、S552,S553はスキップされる。
【0058】
S56の第2類型処理は、図8にフローチャートを示す第2類型処理サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに沿った処理では、まず、S561において、送られてきた状態コードcodeが“2L”,“2M”,“2H”のいずれかであるか否かが、つまり、低電圧状態を示すコードであるか否かが判定される。状態コードcodeが“2L”,“2M”,“2H”のいずれかである場合には、S562において、今回の処理において状態コードの序列が高い方に変更されたか否か、つまり、今回、状態コードが過熱状態を示すものから低電圧状態を示すものに変わったか否かが判定される。状態コードが過熱状態を示すものから低電圧状態を示すものに変わった場合には、S563において、維持フラグFLが“1”にセットされる。維持フラグFLは、初期値が“0”とされ、減少トルクΔTq、または、減少トルクΔTqとアシスト依拠減少成分FAの上限値FALとの両方が、前回の当該プログラムの実行における値、すなわち、前回値ΔTqPR,前回値FALPRを引き継ぐべき場合に、“1”とされるフラグである。今回、状態コードが過熱状態を示すものから低電圧状態を示すものに変わったのではない場合には、S563はスキップされる。
【0059】
続くS564において、維持フラグFLが“1”であるか否かが判定され、維持フラグFLが“1”である場合には、S565において、減少トルクΔTqが前回値ΔTqPRと、維持フラグFLが“0”である場合には、S566において、減少トルクΔTqが0とされる。次のS567では、先に説明したように、アシスト依拠減少成分FAの上限値FALが、低電圧状態の程度に応じて、具体的には、軽度である場合には、軽度時値FALLに、中程度である場合には、中程度時値FALMに、重度である場合には、重度時値FALHに、それぞれ決定される。そして、S568において、障壁依拠成分FBが0に決定される。なお、S561において状態コードcodeが低電圧状態を示すものではないと判定された場合には、S562以降のステップはスキップされる。
【0060】
S57の第3類型処理は、図9にフローチャートを示す第3類型処理サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに沿った処理では、まず、S571において、送られてきた状態コードcodeが“3L”,“3H”のいずれかであるか否かが、つまり、障壁存在状態を示すコードであるか否かが判定される。状態コードcodeが“3L”,“3H”のいずれかである場合には、S572において、今回の処理において状態コードの序列が高い方に変更されか否か、つまり、今回、状態コードが過熱状態若しくは低電圧状態を示すものから障壁存在状態を示すものに変わったか否かが判定される。状態コードが過熱状態若しくは低電圧状態を示すものから障壁存在状態を示すものに変わった場合には、S573において、維持フラグFLが“1”にセットされる。今回、状態コードが過熱状態若しくは低電圧状態を示すものから障壁存在状態を示すものに変わったのではない場合には、S573はスキップされる。
【0061】
続くS574において、維持フラグFLが“1”であるか否かが判定され、維持フラグFLが“1”である場合には、S575において、減少トルクΔTq,アシスト依拠減少成分FAの上限値FALが、それぞれ前回値ΔTqPR,前回値FALPRとされ、維持フラグFLが“0”である場合には、S576において、減少トルクΔTqが0とされ、アシスト依拠減少成分FAの上限が解除される。次のS577では、先に説明したように、障壁依拠成分FBが、障壁存在状態の程度に応じて、具体的には、軽度である場合には、軽度時成分FBLに、重度である場合には、重度時成分FBHに、それぞれ決定される。なお、S571において状態コードcodeが障壁存在状態を示すものではないと判定された場合には、S572以降のステップはスキップされる。
【0062】
図6にフローチャートを示す操作反力決定サブルーチンに沿った処理では、S57の第3類型処理の後、S58において、アシスト依拠減少成分FAが、先に説明したように、アシスト関数fT(Tq-ΔTq)を利用して決定される。続くS59では、決定されたアシスト依拠減少成分FAが上限値FALより大きいか否かが判定され、大きい場合には、S60において、アシスト依拠減少成分FAが上限値FALとされる。
【0063】
そして、S61において、操作反力FCTが、転舵力依拠成分FSからアシスト依拠減少成分FAを減じたものに障壁依拠成分FBを加えることで、決定され、S62において、現時点で決定されている減少トルクΔTq,アシスト依拠減少成分FAの上限値FALが、それぞれ、次回の当該プログラムの実行における前回値ΔTqPR,前回値FALPRとして記憶される。
【符号の説明】
【0064】
10:車輪 12:操作装置 14:転舵装置 20:ステアリングホイール〔ステアリング操作部材〕 26:反力モータ 28:反力付与機構 42:転舵アクチュエータ 50:転舵モータ 60:操作電子制御ユニット(操作ECU)〔操作コントローラ〕 62:転舵電子制御ユニット(転舵ECU)〔転舵コントローラ〕 66:CAN〔通信線〕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9