(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】コンクリートの施工タイミングの予測方法、予測装置およびコンクリートの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/10 20060101AFI20240814BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20240814BHJP
G08C 17/00 20060101ALI20240814BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240814BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240814BHJP
【FI】
E04G21/10 Z ESW
E04G21/02 103Z
G08C17/00 Z
G06Q10/04
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2020190276
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 喜昭
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮介
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-073962(JP,A)
【文献】特開2019-073898(JP,A)
【文献】特開2020-110999(JP,A)
【文献】竹本 喜昭,外6名,“超高平滑性コンクリートスラブの機械化施工”,清水建設研究報告[online],第97号,2019年12月,pp.75-83,[2024年7月10日検索],<URL: https://www.shimztechnonews.com/tw/sit/report/vol97/pdf/97_008.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04G 21/06-21/10
G01N 33/38
G06Q 10/04
G06Q 50/08
G08C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための方法であって、
各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得するステップと、
1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に温度計を挿入するステップと、
挿入した温度計を用いてコンクリートの初期温度を測定するステップと、
予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求めるステップと、
求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定するステップと、
推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、挿入した温度計を用いてコンクリートの温度を測定するステップと、
予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求めるステップと、
求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップと、
2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップを有することを特徴とするコンクリートの施工タイミングの予測方法。
【請求項2】
所定の貫入抵抗値は1(N/mm
2)であり、所定の減算時間は60分であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの施工タイミングの予測方法。
【請求項3】
複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための装置であって、
各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得する手段と、
1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に挿入されるとともに、コンクリートの初期温度を測定する温度計と、
予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求める手段と、
求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定する手段と、
推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、コンクリートの温度を測定する温度計と、
予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求める手段と、
求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段と、
2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段を有することを特徴とするコンクリートの施工タイミングの予測装置。
【請求項4】
所定の貫入抵抗値は1(N/mm
2)であり、所定の減算時間は60分であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートの施工タイミングの予測装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のコンクリートの施工タイミングの予測方法を用いて施工タイミングを予測するステップと、コンクリートを打設するステップと、予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を実施するステップとを有することを特徴とするコンクリートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンクリートスラブなどのコンクリートの施工タイミングの予測方法、予測装置およびコンクリートの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートスラブは、打設作業→均し作業→あま出し作業→押え作業という手順により施工されている。より具体的には、プラントからミキサー(アジテータ車)で運ばれたコンクリートを型枠上に打設し、全体を決められた高さになる様に均してゆく。コンクリートは時間の経過とともに硬化が進み、作業者が上に乗ることができる硬さになってから、ブリーディング水や端部の処理などを行い、鏝で表面を繰返し押えてゆく。
【0003】
あま出しから押えに至る作業は、コンクリート表面の平滑性、緻密化に必要な作業であり、スラブの良し悪しに大きな影響を与える。この押え作業は、熟練作業者がコンクリート表面を触った硬さ、見た目の色、ブリーディング水の発生具合などの感覚で判断している。近年の作業者不足により、この感覚による施工は成り立たなくなりつつあり、コンクリートスラブの施工品質の低下につながるおそれがある。特に、近年は建設業の労働者不足を補う目的で施工の機械化が求められており、人による作業と比較して重量やパワーが大きくなり、施工タイミングの管理は極めて重要となっている。
【0004】
コンクリートの硬化具合を把握する従来の方法としては、例えば特許文献1、2に記載の方法が知られている。特許文献1の方法は、コンクリートサンプルから粗骨材を除去したモルタルを試験体とし、規定の侵入針を垂直に刺した際の貫入抵抗値を求めるJISの貫入抵抗試験(JIS A 1147:2007)データを基として、試験体に設置した導電率計(抵抗値計でもよい)から得られる時間と導電率の関係を記録しつつ、その波形の変曲点となる時刻とコンクリートの注水時刻から、コンクリートの硬化速度の係数Aを求めることで、以降のコンクリートの貫入抵抗値における時刻を算出する方法である。また、特許文献2は、コンクリートの導電率計もしくは抵抗値計から得られる測定波形が変化する時刻からコンクリートの作業タイミングを予測する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-73898号公報
【文献】特開2019-73962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の特許文献1の方法は、導電率が変化するタイミングを待つ必要があり、見落としがないようにするためには、変化を見極めるまで測定者が拘束されるか、自動化する必要がある。また、コンクリートの導電率と硬化程度の関係は、コンクリートの作業者や施工現場ではイメージが湧きにくく取り組みにくい傾向がある。また、実際の施工現場で貫入抵抗値を測定しながら施工タイミングを管理する方法は、確実ではあるが粗骨材を除去する作業や使用した器具を洗浄する作業、時間ごとに貫入抵抗値を測定する手間がかかる。このため、手間をかけずにコンクリートの施工タイミングを容易に予測することができる方法が求められていた。
【0007】
これに対し、本発明者は、
図1に示すようにコンクリート温度を測定することで近似式の傾きAと切片Bを算出し、このAとBを用いて
図2に示すように押え作業の時刻を事前に予測する方法を開発した。この方法を見出すに至った検討内容および具体的手順について以下に説明する。
【0008】
夏期、中間期(春)、冬期における打設後のコンクリートの経過時間と貫入抵抗値の間には、高い相関があり、これらの関係は以下に示すような対数近似式で表すことができる。したがって、傾きAと切片Bが得られれば、貫入抵抗値から経過時間を算出できる。
【0009】
経過時間の対数値=A×(貫入抵抗値の対数値)+B ・・・式(1)
【0010】
傾きAが大きいほど経過時間の対数値が大きくなるため、コンクリートの硬化速度が遅くなることになる。つまり、気温の高い夏期はAが小さく、気温の低い冬期はAが大きくなる傾向がある。また、切片Bは、貫入抵抗値の対数値が0.0(ゼロ)の値であり、これは貫入抵抗値が1(N/mm2)であることを意味する。
【0011】
打設現場に到着したアジテータ車(コンクリートミキサー)からサンプルを採取し、貫入抵抗値を実際に測定して得たコンクリート初期温度と傾きAおよび切片Bの関係を調べると、コンクリート初期温度と傾きAとの相関はあまりよくないが、コンクリート初期温度と切片Bとはよい相関であることが分かった。切片Bは、上記のように貫入抵抗値の対数値が0.0、つまり貫入抵抗値が1(N/mm2)の値であるため、上記の式(1)に当てはめることで傾きAに関係なく経過時間の対数値を算出することができ、この値の指数値を求めることで経過時間を得ることができる。すなわち、コンクリート初期温度を測定することで、貫入抵抗値1(N/mm2)までの経過時間を算出できる。算出した経過時間を、アジテータ車のミルシートなどに記載されているコンクリートの注水時刻に加算することで、貫入抵抗値1(N/mm2)に対応する時刻を算出することができる。
【0012】
貫入抵抗値は、コンクリートがまだ十分に柔らかい段階(例えば測定値が得られる程度の0.01~0.1(N/mm2)程度)では測定値にばらつきがあるため、傾きAは安定しない傾向がある。また、コンクリート温度は、周囲の気温や日射から影響を受け、夏期や中間期は時間経過とともに徐々に温度が上昇する。一方で、冬期のコンクリート温度は、初期から徐々に低下することもある。したがって傾きAの決定は、できるだけ多くのデータが得られた時点が望ましい。
【0013】
切片Bの値から算出した全試験サンプルの貫入抵抗値1(N/mm2)における経過時間は、最も短い時間で129分、最も長いのは545分であった。押え作業の開始を、例えば貫入抵抗値0.5(N/mm2)に対応する時刻からに計画している場合は、作業タイミングの時刻予測はそれよりも前に算出する必要がある。一方、あまりにも早い段階での時刻予測は、精度が悪くなる可能性がある。そこで、貫入抵抗値1(N/mm2)におけるコンクリート温度を以下の(1)~(4)の方法で予測する。
【0014】
(1)傾きBから算出した貫入抵抗値1(N/mm2)における経過時間から所定の減算時間(例えば60分)を引く。
(2)(1)の経過時間における、コンクリート温度の実測値とコンクリート初期温度の差を求める。
(3)(1)の経過時間で、(2)で求めた温度が変化したことになるため、温度変化の割合を算出する。
(4)(3)で求めた温度変化の割合を用いて貫入抵抗値1(N/mm2)におけるコンクリート予測温度を求める。
【0015】
なお、現時点における傾きAの算出では、貫入抵抗値1(N/mm2)の経過時間から60分を引いた時間のコンクリート温度測定値である関係を採用することが望ましい。また、気温の変動幅が大きい時期は温度変化が大きいため、減算時間は60分よりも30分、20分などできるだけ短い方が望ましい。
【0016】
以上より、押え作業の施工タイミングは、次のステップ1~6の手順で予測可能である。すなわち、まずステップ1において、コンクリートの注水時刻を取得するとともに、コンクリートの初期温度を測定する。次に、ステップ2において、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式(1)の切片Bと、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片Bを求める。ステップ3において、求めた切片Bを、上記の近似式(1)に当てはめることで、貫入抵抗値1(N/mm2)に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から貫入抵抗値1(N/mm2)に達するまでの経過時間を推定する。ステップ4において、推定した経過時間から60分を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、コンクリートの温度を測定する。ステップ5において、上記の近似式(1)の傾きAと、貫入抵抗値1(N/mm2)に達するまでの経過時間から60分を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾きAを求める。ステップ6において、求めた傾きAと切片Bを用いて上記の近似式(1)を決定し、決定した近似式(1)に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を押え作業の施工タイミングとして予測する。
【0017】
ところが、この方法は、多くのアジテータ車がコンクリートを搬入し、型枠内にスラブとして打設してゆく施工現場においては、どの位置のコンクリートの時刻なのかが把握しにくいという問題がある。
【0018】
一方、上記の従来の特許文献2の方法は、打設したコンクリートから直接測定データを得る場合、打設範囲の近くに導電率計などの測定装置を設置する必要があり、作業の邪魔となる可能性があり、高価な測定装置が破損したりコンクリートで汚れたりするおそれがある。これを避けるには、アジテータ車からコンクリートサンプルをバケツなどの容器に受けて別の場所で測定することになるが、サンプル採取に手間がかかり、実際のスラブに打設したコンクリートとは若干ではあるが条件が異なる。理想的には、実際のコンクリートを測定することが望ましい。このため、多くのアジテータ車でコンクリートを搬入する施工現場において、各打設範囲ごとの施工タイミングを容易に予測することができる方法が求められていた。
【0019】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、多くのアジテータ車でコンクリートを搬入する施工現場において、各打設範囲ごとの施工タイミングを容易に予測することができるコンクリートの施工タイミングの予測方法、予測装置およびコンクリートの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法は、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための方法であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得するステップと、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に温度計を挿入するステップと、挿入した温度計を用いてコンクリートの初期温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求めるステップと、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定するステップと、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、挿入した温度計を用いてコンクリートの温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求めるステップと、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップと、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップを有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測方法は、上述した発明において、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置は、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための装置であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得する手段と、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に挿入されるとともに、コンクリートの初期温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求める手段と、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定する手段と、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、コンクリートの温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求める手段と、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段と、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段を有することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測装置は、上述した発明において、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るコンクリートの施工方法は、上述したコンクリートの施工タイミングの予測方法を用いて施工タイミングを予測するステップと、コンクリートを打設するステップと、予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を実施するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法によれば、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための方法であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得するステップと、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に温度計を挿入するステップと、挿入した温度計を用いてコンクリートの初期温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求めるステップと、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定するステップと、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、挿入した温度計を用いてコンクリートの温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求めるステップと、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップと、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップを有するので、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻、1番目の打設範囲の初期温度、所定時刻におけるコンクリートの温度を測定することにより、各打設範囲について、その後の押え作業の施工タイミングを容易に予測することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測方法によれば、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であるので、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を容易に精度よく決定することができるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置によれば、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための装置であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得する手段と、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に挿入されるとともに、コンクリートの初期温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求める手段と、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定する手段と、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、コンクリートの温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求める手段と、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段と、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段を有するので、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻、1番目の打設範囲の初期温度、所定時刻におけるコンクリートの温度を測定することにより、各打設範囲について、その後の押え作業の施工タイミングを容易に予測することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測装置によれば、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であるので、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を容易に精度よく決定することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明に係るコンクリートの施工方法によれば、上述したコンクリートの施工タイミングの予測方法を用いて施工タイミングを予測するステップと、コンクリートを打設するステップと、予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を実施するステップとを有するので、施工前に予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を適正に行うことが可能となる。これにより、安定した品質のコンクリートを施工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、コンクリート温度による傾きAと切片Bの算出例を示す図である。
【
図2】
図2は、押えタイミングの予測時刻の算出例を示す図である。
【
図3】
図3は、ワイヤレス温度計の例を示す図である。
【
図4】
図4は、気温とコンクリート温度の測定例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置の実施の形態を示す入出力画面図である。
【
図6】
図6は、施工範囲の表示例を示す図であり、(1)は携帯端末により施工範囲を確認する場合、(2)は時刻が記入された色紙を床に配置して施工範囲を確認する場合である。
【
図7】
図7は、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法の実施の形態を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法、予測装置およびコンクリートの施工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0032】
[コンクリートの施工タイミングの予測方法]
まず、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法の実施の形態について説明する。
【0033】
上述したように、上記の近似式(1)の傾きAと切片Bは、コンクリートの初期温度と打設した後の貫入抵抗値が1(N/mm2)となる時刻の60分前のコンクリートの温度を測定できれば得ることができる。したがって、測定データを無線通信回線で送信可能なワイヤレス温度計を、コンクリートを打設した範囲に設置すれば、離れた場所でもコンクリートの温度を取得することができる。
【0034】
温度計は、均した直後の十分に柔らかいコンクリートに設置するため、例えば
図3(1)に示すようなコンクリートに差し込む棒状のものが扱いやすいこともあって理想的であるが、例えば
図3(2)に示すような棒状のセンサー部をコンクリートに刺すことでも問題ない。温度計からのデータは、管理事務所のPC(パソコン)や作業員が携帯する携帯端末に送信されるように設定する。このようにすれば、温度計の設置場所に制限はなく、測定者も離れた場所でデータを得ることができる。ただし、温度計がデータを送信できる距離は製品によって異なることに留意する。無線送信式の温度計の送信距離は30m程度が理想的であるが、10m以上であればほとんどの場合で問題ない。
【0035】
コンクリート打設時の温度データの測定手順を以下に示す。
【0036】
(1)コンクリートを型枠上に打設し、表面を所定の高さに均した直後にワイヤレス温度計のセンサー部をコンクリートに刺す。このようにすれば、打設したコンクリートから温度データを直接得ることができる。センサー部を刺す深さは、内部の鉄筋を避けて50mm程度のセンサーが安定する深さがよい。
【0037】
(2)温度計の数は、多いほど細かくデータを得ることができるが、一方で管理手間が増えることになるため必要最小限の数が望ましい。基本的には、プラントから搬入されるコンクリートの品質は一定であることを前提としているが、打設したコンクリートの温度は直射日光や風などの現場の環境によって変化することが考えられる。例えば
図4に、日中の温度変化が大きい3月中旬の晴天の日にコンクリートスラブを打設した際の気温と、日射が当たっているコンクリート温度変化を示す。コンクリート温度は、4時間で15℃から30℃まで温度変化が見られており、周囲の気温よりも変化が大きくなることもある。コンクリートの硬化程度の予測は、基本的には1台目のアジテータ車のコンクリート温度で算出する場合は、数時間後のアジテータ車のコンクリート温度を測定することが望ましい。例えば、貫入抵抗値1(N/mm
2)における予測時刻が360分後(6時間後)と算出された場合、60分前は300分後(5時間後)となるため、5時間以降の温度変化は分からなくなる。このため、予測時刻の違いが大きくなる可能性がある。したがって、打設面積が大きくて5時間以上かかる場合や昼休みを挟む場合などは、5時間後以降のアジテータ車から打設されたコンクリートに2個目のワイヤレス温度計を設置するか、1時間あたりのアジテータ車台数を6台と計画している場合において、30台目以降のアジテータ車に温度計を設置するなどの方法を採用するとよい。また、施工エリアが分かれる場合は、各エリアの1台目とするなど管理しやすい方法を予め決めておくとよい。
【0038】
(3)コンクリート温度は、温度計を設置した初期と、貫入抵抗値1(N/mm2)の時刻から60分前に測定する。温度計の回収は、コンクリートが徐々に硬化して、人が上に乗ってあま出しや表面凹凸部の修正を始める貫入抵抗値0.5(N/mm2)となった時点がよい。この時点では、人が網下駄を履いて上に乗ると、コンクリート表面がわずかに変形する程度であるため、温度計のセンサー部を刺した穴も簡単に埋めることができる。また、温度計は抜きやすく、センサー部に付着したコンクリートも洗浄しやすい。
【0039】
(4)コンクリート温度を測定することで、
図1と
図2に示す方法を用いて注水時刻からの各作業の時間を算出することができる。この方法について、より具体的に説明する。まず、アジテータ車のミルシートなどを参照してコンクリートの注水時刻を記録する。上記の近似式(1)の切片B(切片情報)とコンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片Bを求める。求めた切片Bを上記の式(1)に代入して経過時間の対数値を求める。そして、この値の指数値をコンクリートの注水時刻に加算することで注水時刻から貫入抵抗値1(N/mm
2)(所定の貫入抵抗値)までの経過時間を算出する。
【0040】
次に、注水時刻に対して、算出した貫入抵抗値1(N/mm
2)の経過時間から60分(減算時間)を引いた時間を加算した時刻を算出し、その時刻におけるコンクリート温度を測定する。次に、上記の近似式(1)の傾きA(傾き情報)と、貫入抵抗値1(N/mm
2)に達するまでの経過時間から60分を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾きAを求める。次に、
図2に示すような各押え作業における開始時刻を算出し、コンクリートスラブ施工の押えタイミングを管理する。これにより、各作業時刻(施工タイミング)および時間を施工前に予測することが可能となる。
【0041】
上記の
図1および
図2は、上記の方法をPCや携帯端末上で実現するための入出力画面をイメージしている。
図1の左側には、4つの項目からなる入力セルが設けられている。各セルは、ミルシートからコンクリートの「注水時刻」を入力するためのセル(1)と、現場のコンクリートからコンクリート初期温度の「測定時刻」を入力するためのセル(2)と、「コンクリート初期温度」を入力するためのセル(3)と、現場のコンクリートから貫入抵抗値1(N/mm
2)の60分前の時刻における「コンクリート温度」を入力するためのセル(4)である。各セルに対する入力データは、演算部の演算処理に使用される。入力するデータは、上記の4つのデータであり、その他の項目は後述の出力部において自動的に算出され、傾きAと切片Bを得ることができる。
【0042】
図1の右側には、複数の項目からなる出力セルが設けられている。各セルは、「切片B」、「貫入抵抗値1(N/mm
2)までの経過時間」、「貫入抵抗値1(N/mm
2)から60分前の時刻」、「貫入抵抗値1(N/mm
2)のコンクリート予測温度」、「傾きA」を出力するためのセルからなる。各セルには、演算部の演算処理によって算出された算出値が出力される。
【0043】
入力セルの「注水時刻」、「測定時刻」、「コンクリート初期温度」の3つの項目を入力すると、演算部の演算処理により、「切片B」が算出されるとともに、「貫入抵抗値1(N/mm2)までの経過時間」、「貫入抵抗値1(N/mm2)から60分前の時刻」が算出される。これらの算出値は出力セルに瞬時に出力表示される。その後、貫入抵抗値1(N/mm2)から60分前の時刻においてコンクリート温度を測定し、この測定値を入力セルの「コンクリート温度」に入力すると、演算部の演算処理により、「貫入抵抗値1(N/mm2)のコンクリート予測温度」、「傾きA」が算出される。これらの算出値は出力セルに瞬時に出力表示される。なお、図の例では、注水時刻8:00、測定時刻9:31、コンクリート初期温度15.0℃、コンクリート温度29.2℃を入力して、切片B=5.82、傾きA=0.10が算出された場合を示している。
【0044】
上記の傾きAと切片Bが算出されると、演算部の演算処理により、
図2に示すように各作業ごとの開始時刻が自動的に算出される。したがって、利用者は、この画面を通じて、各作業の時刻を容易に把握することができる。この例の場合は、コンクリート初期温度を9:31に測定し、12:37にその時のコンクリート温度を測定した時点で、人が上に乗れる時刻13:14以降の時刻が算出される。作業終了は14:43であり、押え過ぎによる剥がれやひび割れ、色むらなどの不具合が発生しにくくなり、これ以降の作業がなくなることで時間短縮にもつながる。
【0045】
次に、多くのアジテータ車が稼働する施工現場における施工タイミングの予測方法について説明する。
図5は、9時から1台目(1番目)のアジテータ車によるコンクリート打設を開始し、3時間後の12時から1時間の昼休みを挟んで、13時から打設を再開したケースを想定した場合の入出力画面の例である。この図は、矩形のコンクリート打設範囲を平面で概略的に示したものであり、全体は格子状分割によって複数の矩形の打設範囲に区画されている。コンクリート打設は、図の矢印に示すように、左上の区画から順に右に進めていき、右端の区画から下に移動して左に進み、左端の区画から下に移動して右に進む向きに設定している。各区画は、1台のアジテータ車で打設される打設範囲である。
【0046】
図の例では、13時からの打設を19台目のアジテータ車から行うようにしており、19台目の打設範囲に温度計を刺した場合の、各アジテータ車の打設範囲とその作業時刻を表示する例を示している。各アジテータ車の打設範囲に、アジテータ車のミルシート、もしくはプラントから送られてくる各アジテータ車のコンクリート注水時刻を記入すれば、1台目のアジテータ車の打設範囲から算出した各作業の経過時間を加算するだけで、各作業の時刻を算出することができる。
【0047】
(5)2本目の温度計を19台目のアジテータ車の打設範囲に設置した場合は、20台目以降の注水時刻に19台目の温度測定値から得た各作業の時間を加算すればよい。一方、何らかの事情で3台目のアジテータ車の打設範囲から経過時間を算出した場合、1台目、2台目のアジテータ車の注水時刻に加算すれば各作業時刻が得られる。ただし、あまり多くの台数を遡って算出すると、特に硬化速度の速い夏期においては、実際の作業時刻が予測時刻より早く来てしまう可能性があるので、可能な限り時刻の予測は、温度測定の対象とするアジテータ車よりも後とすることが望ましい。
【0048】
このようにすれば、
図1および
図2で算出した押え作業に関する時刻を視覚的に分かりやすく表示することができる。コンクリートの打設範囲における施工時刻を作業者により分かりやすくするためには、
図5の画面表示を、例えば
図6(1)に示すように携帯端末のディスプレイに表示する。このようにすれば、作業をしながら施工範囲を確認することができる。また、
図6(2)のようにスラブの施工範囲の脇に、時刻を書いた紙(色紙)などを配置することによって表示してもよい。この紙を用いた方法は、より簡易で確実な方法である。
【0049】
(具体的な予測手順)
次に、本実施の形態に係る予測方法により、コンクリートスラブ施工時の押えタイミングを予測する場合の手順について説明する。
【0050】
図7に示すように、まず、例えば1台目のアジテータ車の打設範囲に、コンクリートを均した直後に温度計を設置する。また、コンクリート初期温度とその時刻を測定する(ステップS1)。
【0051】
次に、上述した方法により、貫入抵抗値1(N/mm2)までの経過時間を算出し、貫入抵抗値1(N/mm2)から60分前の時刻を算出する(ステップS2)。
【0052】
次に、貫入抵抗値1(N/mm2)から60分前の時刻におけるコンクリート温度を測定し、各作業開始時刻と作業終了時刻を算出する(ステップS3)。
【0053】
次に、2台目以降のアジテータ車の打設範囲の各作業開始時刻と作業終了時刻について、各アジテータ車の注水時刻に1台目のアジテータ車で得た経過時間を加算して算出する(ステップS4)。
【0054】
次に、携帯端末に表示させたり、紙に書くなどして、施工範囲と各作業時刻を施工現場に提示する(ステップS5)。
【0055】
次に、コンクリート上に人が乗ってあま出し作業ができるようになったら温度計を回収するとともに、予測・表示した時刻にしたがって各作業を進める(ステップS6)。
【0056】
このように、本実施の形態の予測方法によれば、コンクリートの初期温度と貫入抵抗値1(N/mm2)より60分前の時刻におけるコンクリート温度から、各アジテータ車の打設範囲における作業時刻を算出し、作業者に表示することができる。また、適当なアジテータ車の台数において温度計を追加することで、より正確な作業時刻の予測が可能となる。事前に作業範囲と作業時刻が分かるため、事前に作業の準備ができ、確実な施工が可能となり、無駄な作業がなくなることで時間短縮、省力化が期待できる。
【0057】
[コンクリートの施工タイミングの予測装置]
次に、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置の実施の形態について説明する。
【0058】
本実施の形態に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置は、上述したコンクリートの施工タイミングの予測方法を装置として具現化したものであり、例えば入力部、出力部、演算部、表示部、温度計からなる。入力部、出力部、演算部、表示部は、例えばCPUを有するコンピュータ、メモリ、ディスプレイ等のハードウェア、これらハードウェア上で稼働するコンピュータプログラム等のソフトウェアを用いて構成することができる。温度計は、上述したワイヤレス温度計で構成することができる。
【0059】
表示部は、
図5に示すような画面を表示するものであり、例えば、携帯端末のディスプレイ等で構成可能である。
【0060】
入力部は、
図5に示される<INPUT>の項目の部分である。すなわち、この入力部は、左上の1台目のアジテータ車の(1)注水時刻、1台目のアジテータ車の打設範囲に設置した1本目の温度計によって測定された(2)コンクリート初期温度、(3)その時の時刻、(4)貫入抵抗値1(N/mm
2)より60分前の温度、19台目のアジテータ車の(1)注水時刻、19台目のアジテータ車の打設範囲に設置した2本目の温度計によって測定された(2)コンクリート初期温度、(3)その時の時刻、(4)貫入抵抗値1(N/mm
2)より60分前の温度、その他のアジテータ車についての注水時刻である。各項目に対する入力データは、演算部の演算処理に使用される。
【0061】
出力部は、
図5に示される<OUTPUT>の項目の部分である。すなわち、この出力部は、各打設範囲における各作業開始時刻、作業終了時刻、各作業までの時間である。各項目には、演算部の演算処理によって算出された算出値が出力表示される。
【0062】
本実施の形態の予測装置によれば、コンクリートの初期温度と貫入抵抗値1(N/mm2)より60分前の時刻におけるコンクリート温度から、各アジテータ車の打設範囲における作業時刻を算出し、作業者に表示することができる。また、適当なアジテータ車の台数において温度計を追加することで、より正確な作業時刻の予測が可能となる。事前に作業範囲と作業時刻が分かるため、事前に作業の準備ができ、確実な施工が可能となり、無駄な作業がなくなることで時間短縮、省力化が期待できる。
【0063】
[コンクリートの施工方法]
次に、本発明に係るコンクリートの施工方法の実施の形態について、コンクリートスラブを施工する場合を例にとり説明する。
【0064】
まず、コンクリートスラブを施工する前に、上述したコンクリートの施工タイミングの予測方法を用いて各打設範囲の施工タイミングを予測する。これにより、各打設範囲の施工前に各押え作業の施工タイミングを把握することが可能となる。この結果、各打設範囲について例えば
図5に示すような施工タイミングの情報を得たものとする。
【0065】
次に、フレッシュコンクリートを型枠上に打設してコンクリートスラブを施工する。そして、
図5を参照して各打設範囲の施工タイミングを確認し、人が上に乗れる時刻になったら、作業員が硬化中のコンクリートスラブ上に乗り、ブリーディング水や端部の処理などの作業を行う。その後、円盤・あま出しを行い、金鏝1回目の開始時刻になったら、金鏝で表面を繰返し押えていく。その後、金鏝2回目の開始時刻になったら、金鏝で表面を仕上げていく。
【0066】
このように、本実施の形態によれば、施工前に予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートスラブの表面に対する押え作業を適正に行うことが可能となる。これにより、安定した品質のコンクリートスラブを施工することができる。
【0067】
以上説明したように、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法によれば、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための方法であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得するステップと、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に温度計を挿入するステップと、挿入した温度計を用いてコンクリートの初期温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求めるステップと、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定するステップと、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、挿入した温度計を用いてコンクリートの温度を測定するステップと、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求めるステップと、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップと、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測するステップを有するので、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻、1番目の打設範囲の初期温度、所定時刻におけるコンクリートの温度を測定することにより、各打設範囲について、その後の押え作業の施工タイミングを容易に予測することができる。
【0068】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測方法によれば、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であるので、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を容易に精度よく決定することができる。
【0069】
また、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測装置によれば、複数の打設範囲に1台ずつ割り当てられたアジテータ車から所定の打設順でコンクリートを打設することによって施工中のコンクリートの表面に対する押え作業を実施する前に、各打設範囲の押え作業を行うのに好適な施工タイミングを予測するための装置であって、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻を取得する手段と、1番目の打設範囲について、表面を均した直後のコンクリートの内部に挿入されるとともに、コンクリートの初期温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の切片情報と、コンクリートの初期温度の関係に対して、測定した初期温度を当てはめることで、測定した初期温度に対応する切片情報を求める手段と、求めた切片情報を、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式に当てはめることで、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算することで、注水時刻から所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間を推定する手段と、推定した経過時間から所定の減算時間を減算して得られる時間を、コンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻において、コンクリートの温度を測定する温度計と、予め把握された所定の貫入抵抗試験により得られる貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式の傾き情報と、所定の貫入抵抗値に達するまでの経過時間から所定の減算時間を減算した時点におけるコンクリートの温度の関係に対して、測定したコンクリートの温度を当てはめることで、測定したコンクリートの温度に対応する傾き情報を求める手段と、求めた傾き情報と切片情報を用いて、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を決定し、決定した近似式に対して、押え作業の施工タイミングに対応する貫入抵抗値を当てはめることで、経過時間を求め、求めた経過時間をコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段と、2番目以降の打設範囲については、1番目の打設範囲における押え作業の施工タイミングに対応する時刻を、2番目以降の打設範囲に対応するアジテータ車のコンクリートの注水時刻に加算して得られる時刻を、2番目以降の打設範囲における押え作業の施工タイミングとして予測する手段を有するので、各アジテータ車のコンクリートの注水時刻、1番目の打設範囲の初期温度、所定時刻におけるコンクリートの温度を測定することにより、各打設範囲について、その後の押え作業の施工タイミングを容易に予測することができる。
【0070】
また、本発明に係る他のコンクリートの施工タイミングの予測装置によれば、所定の貫入抵抗値は1(N/mm2)であり、所定の減算時間は60分であるので、貫入抵抗値と経過時間の関係を表す近似式を容易に精度よく決定することができる。
【0071】
また、本発明に係るコンクリートの施工方法によれば、上述したコンクリートの施工タイミングの予測方法を用いて施工タイミングを予測するステップと、コンクリートを打設するステップと、予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を実施するステップとを有するので、施工前に予測した施工タイミングに基づいて、コンクリートの表面に対する押え作業を適正に行うことが可能となる。これにより、安定した品質のコンクリートを施工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係るコンクリートの施工タイミングの予測方法、予測装置およびコンクリートの施工方法は、コンクリートスラブの施工に有用であり、特に、多くのアジテータ車が稼働する施工現場において、各打設範囲のコンクリートスラブの押え作業の施工タイミングを予測するのに適している。