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  • 特許-建物構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/18 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
E04B1/18 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020208286
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095135
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】東 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 信行
(72)【発明者】
【氏名】荒木 爲博
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 好徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】張 子龍
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105447(JP,A)
【文献】特開2019-173403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下階部に対してセットバックされる上階部を有し、
前記上階部を有さない低層建物部の低層柱と、前記上階部を有する高層建物部の高層柱との間の接続梁架設部位に接続梁が架設されて、前記低層建物部と前記高層建物部とが一体の柱梁架構として構成され、
前記接続梁架設部位のうち、一部の前記接続梁架設部位では前記接続梁が架設されずに省略され、
前記接続梁架設部位のうち、建物外周部に位置する外周側接続梁架設部位では前記接続梁としての外周接続梁が架設され、建物内部に位置する内部側接続梁架設部位では前記接続梁としての内部接続梁が架設されずに省略される建物構造。
【請求項2】
前記外周接続梁が、建物外周部における前記外周側接続梁架設部位とは異なる部位に架設される外周梁よりも低剛性に構成される請求項記載の建物構造。
【請求項3】
前記外周接続梁が、梁せいよりも梁幅の大きな扁平梁に構成される請求項記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下階部に対してセットバックされる上階部を有し、前記上階部を有さない低層建物部の低層柱と、前記上階部を有する高層建物部の高層柱との間の接続梁架設部位に接続梁が架設されて、前記低層建物部と前記高層建物部とが一体の柱梁架構として構成される建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の建物構造は、建築基準法上の斜線制限下で有効に床面積を確保するのに用いられるもので、市街地等に建てられる超高層マンション等の高層建物で多用されている。
このような建物構造では、上階部を有さない低層建物部の低層柱と上階部を有する高層建物部の高層柱とで負担する鉛直荷重に差があるので、低層柱と高層柱とで軸方向の変位量に差が生じる。
そのため、その低層柱と高層柱との軸方向の変位量の差に起因して、低層柱と高層柱との間の接続梁架設部位に架設される全ての接続梁に曲げ応力やせん断応力、引張応力等の応力が付加されるが、その応力を負担させるべく、接続梁を大断面化すると、建築コストの増加や建物内部のプランニングの自由度の低下を招くことになる。
【0003】
そこで、上記のような弊害を抑制するための技術として、低層柱と高層柱との間の接続梁架設部位以外の建物躯体を完成させて低層柱と高層柱の夫々に軸方向の変位を生じさせた後、接続梁架設部位に接続梁を架設する施工方法が開示されている(下記特許文献1参照)。
また、同じ目的の技術として、低層柱と高層柱との間の接続梁架設部位に架設される接続梁を、曲げ応力を伝達しないピン接合梁とする建物構造も開示されている(下記特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平02-066237号公報
【文献】特許第5851162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の前者の技術では、低層柱と高層柱との間の接続梁架設部位が後施工部位となるので、施工効率が低下することになり、建築コストの増加を抑制する効果は限定的となる。また、特許文献1,2記載の後者の技術では、接続梁に対して曲げ応力が付加されるのは抑制できるものの、せん断応力や引張応力等の応力は付加されるので、少なからず接続梁を大断面化する必要が残ることになり、建築コストの増加やプランニングの自由度の低下を抑制する効果は限定的となる。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、上階部を有さない低層建物部の低層柱と上階部を有する高層建物部の高層柱との軸方向の変位量の差に起因する建築コストの増加やプランニングの自由度の低下を効果的に回避することのできる建物構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、下階部に対してセットバックされる上階部を有し、
前記上階部を有さない低層建物部の低層柱と、前記上階部を有する高層建物部の高層柱との間の接続梁架設部位に接続梁が架設されて、前記低層建物部と前記高層建物部とが一体の柱梁架構として構成され、
前記接続梁架設部位のうち、一部の前記接続梁架設部位では前記接続梁が架設されずに省略され、
前記接続梁架設部位のうち、建物外周部に位置する外周側接続梁架設部位に前記接続梁としての外周接続梁が架設され、建物内部に位置する内部側接続梁架設部位では前記接続梁としての内部接続梁が架設されずに省略される点にある。
【0008】
本構成によれば、負担する鉛直荷重に差がある低層柱と高層柱との間の接続梁架設部位のうちの一部の接続梁架設部位では接続梁が省略されることで、低層柱と高層柱との間で軸方向の変位量に差が生じることを積極的に許容する建物構造とすることができる。
よって、低層柱と高層柱との軸方向の変位量の差に起因する付加応力に対応する対策を講じる必要がなく、低層柱と高層柱との軸方向の変位量の差に起因する建築コストの増加やプランニングの自由度の低下を効果的に回避することができる。
しかも、一部の接続梁架設部位にて接続梁が省略されることで、建築コストを低下させることができるとともに、建物内部空間に接続梁の無い空間を新たに創出してプランニングの自由度を向上させることができる。
【0010】
更に、本構成によれば、建物外周部の外周接続梁よりも建物全体の構造バランスに与える影響の小さい建物内部の内部接続梁を省略するので、建物全体の構造バランスを極力維持しながら、上記第1特徴構成による効果を得ることができる。
【0011】
本発明の第特徴構成は、前記外周接続梁が、建物外周部における前記外周側接続梁架設部位とは異なる部位に架設される外周梁よりも低剛性に構成される点にある。
【0012】
本構成によれば、接続梁架設部位のうち、建物外周部の外周側接続梁架設部位に省略せずに架設される外周接続梁を、建物外周部の他の部位に架設される外周梁よりも低剛性に構成することで、低層柱と高層柱との間で軸方向の変位量に差が生じることを一層積極的に許容する形態で、低層柱と高層柱との軸方向の変位量の差に起因して外周接続梁に導入される応力を低減することができる。
【0013】
本発明の第特徴構成は、前記外周接続梁が、梁せいよりも梁幅の大きな扁平梁に構成される点にある。
【0014】
本構成によれば、接続梁架設部位のうち、建物外周部の外周側接続梁架設部位に省略せずに架設される外周接続梁を扁平梁とすることで、外周接続梁を低剛性に構成しながら、外周接続梁の下端等の室内側への出っ張りを少なくして室内側を納まり良く仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の建物構造を模式的に示す軸組図
図2】本発明の建物構造を模式的に示す梁伏図
図3】本発明の建物構造の別実施形態を模式的に示す梁伏図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の建物構造の実施形態について図面に基づいて説明する。
この建物構造は、斜線制限等を受ける高層建物等に好適に適用されるものであり、図1図2に示すように、下階部Dに対してセットバックされる上階部Uを有し、下階部Dを有して上階部Uを有さない前方側(図中左側)の低層建物部1と、下階部D及び上階部Uを有する後方側(図中右側)の高層建物部2とが一体の一つの建物として構成される。本実施形態では、下部基礎K1と上部基礎K2との間に免震層を有する免震建物として構成され、免震層における各柱3,4の直下位置に積層ゴム支承等の免震支承Mが備えられる。
【0017】
下階部Dには、各階の床を形成するコンクリート製のスラブ(図示省略)が低層建物部1と高層建物部2とに亘って連続する状態で備えられ、上階部Uにも、各階の床を形成するコンクリート製等のスラブ(図示省略)が備えられる。
以下、低層建物部1と高層建物部2との並び方向をX方向と称し、平面視でX方向に直交する方向をY方向と称して説明を加える。
【0018】
低層建物部1は、各階にてX方向及びY方向に所定の柱スパンで配置される多数の低層柱3と、各階にて低層柱3どうしの間にX方向及びY方向に架設される多数の梁5とを有する柱梁架構にて構成される。
高層建物部2は、各階にてX方向及びY方向に所定の柱スパンで配置される多数の高層柱4と、各階にて高層柱4どうしの間にX方向及びY方向に架設される多数の梁5とを有する柱梁架構にて構成される。高層柱4は、低層柱3に比べて多くの鉛直荷重を負担するため、低層柱3に比べて軸方向の変形量が大きくて軸方向の変位量が大きい柱となる。
【0019】
そして、この建物構造では、図2に示すように、低層建物部1の低層柱3と高層建物部2の高層柱4との間の各階の接続梁架設部位6にX方向に延びる梁5としての接続梁7が架設されて、低層建物部1と高層建物部2とが一体のラーメン構造の柱梁架構として構成されるとともに、接続梁架設部位6のうちの一部の接続梁架設部位6では接続梁7(図2中の仮想線で示された梁)が架設されずに省略される。ちなみに、接続梁架設部位6及び接続梁7は、低層建物部1において高層建物部2の境界部に隣接する部位に位置しており、低層建物部1に含まれる。
【0020】
具体的には、各階の接続梁架設部位6のうち、建物外周部に位置するY方向両端部の二箇所の外周側接続梁架設部位61では、外周柱としての低層柱3と高層柱4との間に接続梁7としての外周接続梁71が架設される。他方、建物内部に位置するY方向中央側の三カ所の内部側接続梁架設部位62では、内部柱としての低層柱3と高層柱4との間に接続梁7としての内部接続梁72が架設されずに省略される。
【0021】
つまり、建物外周部の外周接続梁71よりも建物全体の構造バランスに与える影響の小さい建物内部の内部接続梁72を省略することで、建物全体の構造バランスを極力維持しながら、低層柱3と高層柱4との間で軸方向の変位量に差が生じることを積極的に許容し、低層柱3と高層柱4との軸方向の変位量の差に起因する建築コストの増加やプランニングの自由度の低下を効果的に回避することができる。
【0022】
さらに、建物内部の内部接続梁72が省略されることで、建築コストを低下させることができるとともに、建物内部空間における中央側に接続梁7の無い空間を新たに創出してプランニングの自由度を向上させることができる。
【0023】
また、この建物構造では、建物外周部における外周側接続梁架設部位61とは異なる部位に架設される外周梁51や建物内部に架設される内部梁52が、梁幅(図2に示される幅)よりも梁せい(図1に示される幅)の大きい断面縦長矩形状等の通常の梁に構成されるのに対して、外周接続梁71が、梁せいよりも梁幅の大きな断面横長矩形状等の扁平梁に構成され、外周梁51や内部梁52よりも低剛性に構成される。
【0024】
このように、外周接続梁71を低剛性に構成することで、低層柱3と高層柱4との間で軸方向の変位量に差が生じることを一層積極的に許容する形態で、低層柱3と高層柱4との軸方向の変位量の差に起因して外周接続梁71に導入される応力を低減することができる。さらに、外周接続梁71を扁平梁とすることで、外周接続梁71を低剛性に構成しながら、外周接続梁71の下端等の室内側(居室空間の天井部等)への出っ張りを少なくして室内側を納まり良く仕上げることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、低層建物部1をマンション等の用途で利用する場合に隅柱により居室内からのコーナービューに支障が生じないように、外周接続梁71が接続されるY方向両端部の低層柱3が、建物外周部の隅(角)からY方向の中央側に少し偏倚させた位置に配置され、これに伴い、外周接続梁71が建物外周部に沿って平面視L字状に屈曲する屈曲梁に構成される。
【0026】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0027】
(1)前述の実施形態では、図2に示すように、下階部Dに対して上階部Uが一つの柱スパン(柱二本分)だけセットバックされることで低層建物部1のX方向の幅が一つの柱スパンに構成され、低層建物部1のX方向の柱スパンの全てに接続梁架設部位6を有する場合を例に示したが、例えば、図3に示すように、下階部Dに対して上階部Uが二つ(複数の一例)の柱スパン(柱三本分)だけセットバックされることで低層建物部1のX方向の幅が二つの柱スパンに構成されてもよい。
この場合、低層建物部1のX方向の二つの柱スパンのうち、高層建物部2に隣接する一つの柱スパンが接続梁架設部位6を有するものとなり、残りの柱スパンにはX方向及びY方向に梁5を架設することができる。
【0028】
(2)前述の実施形態では、低層建物部1の各階において一部の接続梁7が省略される場合を例に示したが、低層柱3と高層柱4との軸方向の変位量の差が特に大きくなる低層建物部1の一部の階(例えば、低層建物部1の上階側の階など)において一部の接続梁7が省略されてもよい。
【0029】
(3)前述の実施形態において、低層建物部1の階高の高い階や吹き抜けを有する階など、接続梁7の大断面化によるプランニングへの影響が少ない一部の階では、接続梁7を省略せずに大断面化するようにしてもよい。
【0030】
(4)前述の実施形態では、建物内部に位置する内部接続梁72が省略される場合を例に示したが、建物外周部に位置する外周接続梁71が省略されてもよい。
【0031】
(5)前述の実施形態では、外周接続梁71が、外周梁51よりも低剛性に構成される場合を例に示したが、外周梁51と同等の剛性又は外周梁51よりも高剛性に構成されてもよい。
【0032】
(6)前述の実施形態では、外周接続梁71を扁平梁にすることで外周梁51よりも低剛性に構成される場合を例に示したが、外周梁51よりも断面積を小さくしたり、外周梁51よりも剛性の低い材質にすることで構造にするとで外周梁51よりも低剛性に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0033】
D 下階部
U 上階部
1 低層建物部
2 高層建物部
3 低層柱
4 高層柱
51 外周梁
6 接続梁架設部位
61 外周側接続梁架設部位
62 内部側接続梁架設部位
7 接続梁
71 外周接続梁
72 内部接続梁
図1
図2
図3