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特許7538029樹脂構造物製造方法、および、樹脂構造物製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】樹脂構造物製造方法、および、樹脂構造物製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/44 20060101AFI20240814BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20240814BHJP
   B29C 39/26 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B29C39/44
B29C39/24
B29C39/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020213790
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099792
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河野 務
(72)【発明者】
【氏名】小林 将人
(72)【発明者】
【氏名】田村 幸三
(72)【発明者】
【氏名】芝山 慎一
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-501987(JP,A)
【文献】実開昭58-189163(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/44
B29C 39/24
B29C 39/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で金型を用いて樹脂構造物を製造する樹脂構造物製造方法であって、
金型の傾斜角度をパラメータとして、真空中での金型への樹脂注入プロセスにおける樹脂流動解析を行い、
前記樹脂流動解析の結果から求められるボイドの発生を抑制することができる前記金型の傾斜角度の時間変化に関するデータを出力し、
前記金型を傾斜させる制御装置に前記データを入力し、前記データに基づいて前記金型を傾斜させて樹脂構造物を製造する、
ことを特徴とする樹脂構造物製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂構造物製造方法であって、
前記樹脂流動解析の結果から求められるボイドの発生を抑制することができる前記金型の傾斜角度の時間変化に関するデータを記録媒体に出力し、当該記録媒体を介して前記データを前記制御装置に入力する、
ことを特徴とする樹脂構造物製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂構造物製造方法であって、
前記樹脂流動解析の結果から求められるボイドの発生を抑制することができる前記金型の傾斜角度の時間変化に関するデータの入出力を、ネットワークを介して行う、
ことを特徴とする樹脂構造物製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂構造物製造方法であって、
前記樹脂流動解析の結果から求められるボイドの発生を抑制することができる前記金型の傾斜角度の時間変化に関するデータを、手入力により前記制御装置に入力する、
ことを特徴とする樹脂構造物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂構造物製造方法、および、樹脂構造物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中において金型の空間内に樹脂を注ぎ込んで樹脂の構造体を形成して、樹脂構造物を製造する方法が知られている。この製造方法により製造された樹脂構造物は、例えば、電力機器の樹脂絶縁層形成などの用途に用いられている。この製造方法では、製造プロセスの初期段階で真空容器内は減圧されているが、減圧された空気が残留している。そして、真空中での樹脂構造物の製造においては、金型空間内の残留空気を樹脂と置換する必要があり、この置換ができないと残留空気が樹脂構造物にボイドを発生させる問題がある。このとき、樹脂材料の構造体の形状が複雑になると、金型空間内の残留空気と樹脂との置換が難しくなり、ボイドが発生しやすい。なお、ボイドが発生すると樹脂絶縁性能の低下や外観不良の問題が生じる。
【0003】
そこで、真空中でボイド発生を抑制して樹脂構造物を製造する方法として、真空容器内で金型傾斜角度を変更しながら、金型に樹脂を注ぎ込む方法が考えられる。ここで、真空容器内で型を回転させながら樹脂を注ぎ込む例として、例えば特許文献1に記載のものがある。これは、樹脂中の充填材の分布を制御することを目的に、真空容器内の回転機構で型を回転させて1G以上の遠心力を発生させる製造方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-176969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、真空容器内の回転機構で型を回転させて樹脂中の充填材の分布を制御することを可能とする製造方法に関するものであり、ボイドを抑制することについての記載はないと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、真空容器内での適切な金型傾斜によりボイドの発生を抑制して、絶縁性能の向上や製品外観を向上した樹脂構造物を製造する方法、および、当該樹脂構造物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の樹脂構造物製造方法が提供される。すなわち、樹脂構造物製造方法は、真空中で金型を用いて樹脂構造物を製造する樹脂構造物製造方法である。樹脂構造物製造方法は、金型の傾斜角度をパラメータとして、真空中での金型への樹脂注入プロセスにおける樹脂流動解析を行い、前記樹脂流動解析の結果から求められるボイドの発生を抑制することができる前記金型の傾斜角度の時間変化に関するデータを出力し、前記金型を傾斜させる制御装置に前記データを入力し、前記データに基づいて前記金型を傾斜させて樹脂構造物を製造する。
【0008】
本発明の第2の観点によれば、以下の樹脂構造物製造装置が提供される。すなわち、樹脂構造物製造装置は、真空容器と、金型と、金型角度変更部材と、を備える。真空容器には、真空軸受けが設けられている。金型は、真空容器の内部に配置される。金型角度変更部材は、真空軸受けに挿通されており、真空容器の外部からの動力に基づいて金型を傾斜させる。
【0009】
本発明の第3の観点によれば、以下の樹脂構造物製造装置が提供される。すなわち、樹脂構造物製造装置は、真空容器と、金型と、複数の油圧シリンダと、を備える。金型は、真空容器の内部に配置される。複数の油圧シリンダは、駆動して金型を傾斜させることができるように、真空容器の下部にそれぞれ設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、真空容器内での適切な金型傾斜によりボイドの発生を抑制して、絶縁性能の向上や製品外観を向上した樹脂構造物を製造する方法、および、当該樹脂構造物の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係り、樹脂構造物の製造システムの一例を示す図である。
図2】流動解析方法に用いる計算機とネットワーク環境の一例を示す図である。
図3】樹脂構造物の製造に用いる金型の一例を示す図である。
図4】金型の空間内における樹脂の挙動解析を説明するための図である。
図5図4の拡大領域(部分観察領域)において、金型の空間内における樹脂の挙動解析を説明するための図である。
図6図4の拡大領域(部分観察領域)において、金型を傾斜させた場合での樹脂の挙動解析を説明するための図である。
図7】ボイドが発生しやすいと考えられる金型の構造の例について説明するための図である。
図8】第2実施形態に係り、外部からの動力で駆動する部材を用いて真空容器内の金型を傾斜させる樹脂構造物製造装置の一例を示す図である。
図9】第3実施形態に係り、外部からの動力で駆動する部材を用いて真空容器内の金型を傾斜させる樹脂構造物製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施する上で好適となる実施形態について図面を用いて詳細に説明する。尚、下記はあくまでも実施の例に過ぎず、発明の内容が下記の具体的態様に限定されるものではない。本発明は、下記態様を含めて種々の態様に変形することが無論可能である。
【0013】
本実施形態の樹脂構造物の製造システムについて、図1を参照しながら説明する。このシステムでは、真空容器1の内部に設置した金型11の空間15に樹脂12を注ぎ込んで樹脂12の構造体を形成することによって、樹脂構造物が製造される。本実施形態で製造された樹脂構造物は、例えば、電力機器の樹脂絶縁層などの用途に用いられる。
【0014】
樹脂構造物の製造にあたって、金型11の空間15への樹脂12の注入は、真空容器1の上部に形成された樹脂注入口2を介して行われる。すなわち、樹脂注入口2には、中空部分が形成されたホース部材が挿通され、当該ホース部材は、金型11の上部に接続される。従って、真空容器1の外部から供給される樹脂12は、ホース部材を通って金型11の空間15へ注入される。なお、ホース部材は、可撓性を有しており、任意に変形することができる。
【0015】
ところで、樹脂構造物の製造時では、真空容器1の内部は減圧されているが、真空容器1の内部に減圧された空気が残留している。従って、樹脂構造物を形成する場合、金型11の空間15中の残留空気を樹脂12と置換する必要があり、この置換ができないと残留空気が製造する樹脂構造物にボイドとして残る。このとき、樹脂12の構造体の形状が複雑になると、金型11の空間15中の残留空気を樹脂12と置換することが難しくなるので、ボイドが発生しやすくなる。なお、ボイドが発生すると樹脂絶縁性能の低下や外観不良などの問題が生じる。
【0016】
そこで、真空中でボイド発生を抑制して樹脂構造物を製造する方法として、真空容器1の内部で金型11の傾斜角度を適切に変更しながら、金型11に樹脂12を注ぎ込む方法が考えられる。そして、金型11の適切な傾斜角度を決めるために、金型11の内部を可視化することが必要になると考えられる。しかしながら、実際の金型11は金属製であり、内部は可視化できない(つまり、視認できない)。また、一般的に、金型11の内部での樹脂12の挙動が複雑であるので、単純な実験以外の手段により、金型11の内部を可視化する必要があると考えられる。
【0017】
そこで、本実施形態では、金型11の内部を可視化する手段として、図1に示す流動解析方法が用いられる。そして、この流動解析方法により、金型11の傾斜角度の時間変化に関するデータが算出される。なお、流動解析方法は、計算機(25、26)を用いて行う。
【0018】
本実施形態での流動解析方法の具体的な説明をする前に、先ず、図2を参照しながら、流動解析方法に用いる計算機(25、26)の構成について説明する。図2は、流動解析方法に用いる計算機とネットワーク環境の一例を示す図である。本実施形態では、図2に示すように、流動解析方法には、2台の計算機(第1の計算機25、第2の計算機26)が用いられ、それぞれの計算機(25、26)を複数人で利用することにより、複数人で流動解析方法が行われるようになっている。
【0019】
それぞれの計算機(25、26)は、プロセッサと、データ保存装置と、を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの適宜の演算装置とすることができる。データ保存装置は、HDD(Hard Disk Drive)などの適宜の記憶装置とすることができる。また、それぞれの計算機(25、26)は、ユーザインタフェースとして、キーボードなどの適宜の入力装置を備える。
【0020】
データ保存装置には、流動解析方法を行うためのプログラムが記録される。データ保存装置に記録されたプログラムをプロセッサが実行することにより、流動解析方法が実行されて、金型11の傾斜角度の時間変化に関するデータが算出される。そして、プロセッサは、前記のプログラムを実行して、算出した当該データを、計算機(25、26)のデータ保存装置に記録する。なお、算出した当該データは、1台の計算機だけに保存されてもよく、複数の計算機に保存されてもよい。
【0021】
そして、本実施形態では、計算機(25、26)は、ネットワークを介して後述する製造装置の数値制御装置3(制御装置)に接続されており、算出したデータ(金型11の傾斜角度の適切な時間変化に関するデータ)は、LAN回線27や無線回線などのネットワークを経由して、計算機(25、26)から数値制御装置3に出力される。従って、当該データの入出力が簡易に実行されるようになっている。
【0022】
なお、本実施形態では、2台の計算機(25、26)が用いられているが、例えば複数人で流動解析方法を行わない場合では、計算機は1台であってもよく、1台の計算機により流動解析方法が実行されてもよい。また、計算機を3台以上設けて、複数人で流動解析方法が行われてもよい。また、ユーザによる計算機の操作により、ネットワークを介した数値制御装置3に対するデータの出力が実行されてもよいし、算出したデータが自動的に数値制御装置3へ出力されるように計算機が構成されていてもよい。
【0023】
次に、流動解析方法の内容について具体的に説明する。流動解析方法は、図1に示すステップ1001~ステップ1006からなる解析方法である。各ステップについて詳しく説明する。
【0024】
ステップ1001では、製品構造のデータが、ユーザによって計算機(25、26)に入力される。製品構造のデータは、製造する樹脂構造物の大きさや形状に関するデータであり、このデータには、例えば、製造する樹脂構造物の注型部の寸法などが含まれる。
【0025】
ステップ1002では、プロセス条件(金型11の傾斜角度の時間変化に関するデータなど)が、ユーザによって計算機(25、26)に入力される。このステップ1002では、経験に基づくデータが入力される。従って、ユーザは、樹脂構造物を製造するときの金型11の傾斜について、経験に基づいた妥当性があるデータを入力することができる。ここで、「金型11の傾斜角度の時間変化に関するデータ」は、樹脂構造物の製造時における金型11の傾斜角度の時間変化を定めたデータであり、本明細書の説明において、当該データを、単に傾斜角データと呼ぶことがある。
【0026】
ステップ1003では、金型11に注入する樹脂12の粘度や発熱反応などの物性値が、ユーザによってデータベース(図1において物性DB)に入力される。データベースには、樹脂12の物性値などが記憶され、計算機(25、26)は、流動解析方法において、データベースから計算に必要なデータを適宜に取得することができる。
【0027】
なお、上記したステップ1001からステップ1003は、ステップ1004において用いるデータを入力(準備)するための処理であるので、ステップ1001からステップ1003は、必ずしもこの順番で処理が実行されなくてもよい。
【0028】
ステップ1004では、上記のステップ1001~1003で入力(準備)されたデータを用いて、計算機(25、26)が、真空中での樹脂注入プロセスにおける樹脂流動解析を実行する。このステップ1004は、樹脂流動解析により、上記したステップ1002で入力した傾斜角データで金型11を傾斜させる場合における、金型11の内部を可視化するステップである。
【0029】
ステップ1004における樹脂流動解析は、連続の式(1)、ナビエストークスの式(2)、エネルギ保存式(3)に後述する樹脂(例えば、後述する熱硬化性樹脂)の粘度などの物性値を入力することにより、樹脂材料の流動に伴う、速度、圧力、温度を計算する。
【0030】
すなわち、この樹脂流動解析では、一般的に下記の式(1)~(3)が用いられる。
∂ρ/ ∂t + ∇・ρu = 0 ‥‥‥ (1)
∂u /∂t + (u・∇)u =‐1/ρ∇P +η/ρ∇2u + g ‥‥‥ (2)
ρC(∂T /∂t +∇・Tu )=λ∇2T +ρdQ /dt +ηγ2 ‥‥‥ (3)
ここで,ρ;密度,P:圧力,u:流速,C:比熱, g:重力加速度,γ:せん断速度,T:温度,λ:熱伝導率,η:粘度 (せん断),ε:ひずみ速度テンソルを示す。
【0031】
真空中での樹脂構造物の製造には、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂を含んだ熱硬化性樹脂)が多く用いられており、上記した式(2)、(3)の粘度は、発熱反応を考慮した粘度式が用いられる。そして、一例として、発熱式としてKamal式(4)~(8)を、粘度式として発熱反応に伴って値が変化する粘度式(9)~(11)を用いることで、上記の式(2)、(3)で用いる粘度が求められる。なお、発熱式、粘度式は式(4)~(11)だけに限定されるものではなく、樹脂温度を含む式を任意に用いることができる。また、粘度は簡易的に一定値を用いて、樹脂の発熱は無視して計算することもできる。
【0032】
下記に式(4)~(11)を示す。
dA/dt =( K1+ K2AM) (1- A)N ‥‥‥(4)
K1=Ka exp(-Ea /T) ‥‥‥(5)
K2=Kb exp(-Eb /T) ‥‥‥(6)
A=Q/Q0 ‥‥‥(7)
dQ/dt=Q0(K1+K2AM)(1-A)N ‥‥‥(8)
η=ηm(Agel/Agel-A)(D+EA) ‥‥‥(9)
ηm0/((1+η0・γ/τ)(1-n) ‥‥‥(10)
η0=Fexp(G/T) ‥‥‥(11)
ここで,A:反応率,t:時間,T:温度,dA/dt :反応速度,K1, K2 :温度の関数となる係数,N,M, Ka,Ea,Kb,Eb:材料固有の係数,Q :任意時刻までの発熱量,Q0 :反応終了時までの総発熱量,dQ/dt :発熱反応速度,η:粘度,Agel:ゲル化時の反応率,η0:初期粘
度,γ:せん断速度τ,D,E,n,F,G:材料固有の係数を表す。
【0033】
なお、樹脂流動解析に用いるKamal式や係数、粘度式や求められる粘度に関するデータが、上記したステップ1003で用いるデータベースに登録されてもよく、計算機(25、26)は、樹脂流動解析において、データベースに登録されたデータを利用してもよい。
【0034】
このように(つまり、上記した式(1)~(3)等を適宜に用いて)、ステップ1004では、計算機(25、26)は、ステップ1002で入力した傾斜角データで金型11を傾斜させる場合における金型11内の樹脂12の流れの解析を行い、この解析によって金型11内の樹脂流動の挙動の可視化を行う。そして、計算機(25、26)は、ステップ1005において、ステップ1004で計算された結果に基づいてボイド発生の有無を評価する。
【0035】
ステップ1005において、ボイドが発生すると評価された場合、ステップ1001やステップ1002が再度行われる。すなわち、ユーザは、ステップ1001で入力する製品構造のデータやステップ1002で入力する傾斜角データなどを見直して、変更したデータを計算機(25、26)に入力する。ここで、入力するデータは、樹脂構造物が適切に製造されると考えられる範囲で見直して変更することができる。そして、ステップ1004において、変更した内容(見直した内容)での樹脂流動解析が再度実行され、ステップ1005において、ボイドの発生の有無が再度評価される。
【0036】
その一方、ステップ1005において、ボイドが発生しないと評価された場合、ステップ1006において、ボイドが発生しないと評価された金型11の傾斜角度の時間変化に関するデータ(つまり、ボイドが発生しないと評価された傾斜角データ)が出力される。この傾斜角データは、ステップ1002で入力されたデータに樹脂流動解析(つまり、金型11の内部における樹脂流動の可視化)を行い、金型11を傾斜させた場合にボイドが発生しないと評価されたデータである。
【0037】
なお、ステップ1001からステップ1005の処理においては、最適化計算を行う最適化ソフトが用いられてもよく、これにより、金型11の傾斜角度の時間変化の最適解(つまり、最適な傾斜角データ)を自動的に求めてもよい。ここで、真空容器1と金型11の寸法などから傾斜角度の最大と最小の角度(つまり、傾斜させることができる角度の範囲)を事前にソフトウェアに入力できるものとする。また、ステップ1001やステップ1002では、適切なデータの探索に、適宜の探索アルゴリズム(例えば、遺伝的アルゴリズム)が用いられてもよい。
【0038】
ステップ1006から出力される傾斜角データは、樹脂構造物を製造する製造装置の数値制御装置3に入力される。数値制御装置3は、金型11の傾斜を制御することができるコンピュータであり、演算装置と、傾斜角データに基づいて金型11の適切な傾斜を実行するためのプログラムが記憶された記憶装置と、データの入出力を行うためのインタフェースと、を備える。なお、ステップ1006から出力される傾斜角データ(つまり、流動解析方法により算出された傾斜角データ)は、上記で説明したように、計算機(25、26)のデータ保存装置に記録される(図1のフローチャートのENDに対応)。
【0039】
上記で説明したように、本実施形態では、オンラインにより、計算機(25、26)と数値制御装置3が接続されており、上記のステップ1006において出力される解析結果のデータ(つまり、傾斜角データ)が、ネットワークを介して製造装置の数値制御装置3に入力される。しかしながら、その一方で、傾斜角データを入出力する方法に関しては、例えば、下記のような方法も挙げることができる。
【0040】
例えば、上記のステップ1006において出力されて計算機(25、26)のデータ保存装置に記録される解析結果のデータ(傾斜角データ)を、適宜の記録媒体に出力し、当該記録媒体を介して当該データを数値制御装置3に入力することができる。ここで、記録媒体としては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、USBメモリなどを用いることができる。なお、USBメモリは、USBフラッシュメモリ、または、USBフラッシュドライブ(USB Flash Drive)と呼ばれることもある。また、例えば、記録媒体としてCDやDVDを用いる場合、CDやDVDの読み込みや書き込みに使用する装置(CD-Rドライブ、CD-RWドライブ、DVD-Rドライブ、DVD-RWドライブなど)が適宜に用いられる。また、例えば、記録媒体としてUSBメモリを用いる場合、計算機(25、26)や数値制御装置3には、USBメモリを接続するためのポートが形成される。
【0041】
このデータ入出力に関する手法によれば、ユーザは、解析結果のデータを記録媒体に取り出すことができ、記録媒体に保存された当該データを数値制御装置3に入力することができる。
【0042】
また、上記のステップ1006において出力される解析結果のデータ(傾斜角データ)は、ユーザによる手入力により数値制御装置3に入力されてもよい。この場合、例えば、計算機(25、26)にユーザインタフェースとしてのディスプレイが設けられ、計算機(25、26)のデータ保存装置に記録される解析結果のデータが当該ディスプレイに表示されるように、計算機(25、26)が構成されていてもよい。そして、ユーザは、ディスプレイに表示される傾斜角データを参照して、数値制御装置3に傾斜角データを手入力してもよい。なお、計算機(25、26)のディスプレイとは異なる別の適宜のディスプレイに傾斜角データが表示されてもよい。
【0043】
このデータ入出力に関する手法によれば、ユーザは、手入力に基づいて、製造装置の数値制御装置3に解析結果のデータを直接的に入力することができる。
【0044】
本実施形態では、ステップ1006において出力した傾斜角データに基づく金型11の傾斜を実現するための構成として、製造装置は、モータ5と、真空軸受け6と、回転軸7(金型角度変更部材)と、を備える。モータ5は、真空容器1の外部に配置される。真空軸受け6は、真空容器1に設けられる。回転軸7は、モータ5を駆動源として回転する軸であり、真空軸受け6に挿通されている。この回転軸7は、回転することによって金型11を傾斜させることができるように、例えば金型11や後述する金型設置台10に接続されて設けられる。なお、モータ5の駆動は、コントローラとして構成されたモータ制御装置4によって制御される。
【0045】
数値制御装置3にステップ1006において出力される傾斜角データが入力された場合、数値制御装置3は、傾斜角データに対応する傾斜角度に金型11を傾斜させるための信号(つまり、金型11の傾斜角度を傾斜角データに基づく傾斜角度にするための回転軸7の回転を実現させるための信号)を、モータ制御装置4に出力する。そして、モータ制御装置4は、入力された信号に基づいてモータ5を駆動させて回転軸7を回転させ、傾斜角データに対応する傾斜角度に金型11を傾斜させる。本実施形態では、このようにして、樹脂構造物の製造時において、金型11の傾斜角度が傾斜角データに基づく所定の角度になるように金型11を傾斜させている。従って、本実施形態では、真空軸受け6に挿通され、モータ制御装置4によって制御される外部のモータ5で駆動する回転軸7によって、真空容器1の内部において金型11の傾斜角度を高精度に再現する製造装置が実現している。
【0046】
なお、本実施形態では、真空容器1の内部には、金型11の設置台である金型設置台10が設けられ、金型11は、金型固定用ねじ8によって金型設置台10に固定される。この金型設置台10には、金型11を着脱しやすくするために、金型設置台10上で金型11をスライドさせるのに利用する金型スライド機構9が適宜に設けられてもよい。
【0047】
以上の説明より、流動解析方法に基づいて算出されたボイドの発生がないと評価された傾斜角データを、製造条件として用いて樹脂構造物を製造することが可能になるので、ボイド発生を抑制して、絶縁性能の向上や製品外観の向上を図った樹脂構造物を製造する方法が実現される。
【0048】
次に、金型11の空間15における樹脂12の挙動解析に基づいて、金型11の傾斜角度を評価した事例(つまり、金型11を可視化して、金型11の傾斜角度を評価した事例)について説明する。図3を参照しながら、先ず、この事例に用いた金型11の構造について説明する。
【0049】
図3に示す金型11の断面図において、金型11には、製造される樹脂構造物の内側空間を区画する部分(図3において、内側空間区画部13として示されている)が形成されており、この金型11において、内側空間区画部13は、金型11の上下方向に延びるように形成されている。そして、内側空間区画部13には、金型11の上下方向に対して垂直する方向に突出する突出部分14が形成されている。
【0050】
図3のA-A’断面図に示すように、突出部分14は、断面円状に形成されており、突出部分14の周囲には、金型11の空間15が形成されている。この突出部分14の周囲の空間15に流れる樹脂12により、製造される樹脂構造物において突出する部分(製品凸部と呼ぶことがある)が形成される。
【0051】
ここで、この事例の評価に用いた樹脂12の物性値や途中時間における樹脂充填領域の計算結果などを示す。樹脂12は、エポキシ樹脂を用いた。エポキシ樹脂の密度は、1500kg/m3、粘度は2Pa・s一定とした。熱計算は行わず、前記の式(1)(2)を用いた計算を行い、金型11の空間15における樹脂12の充填領域を出力した。金型11は、図1に示す真空容器1の中に配置して、初期の減圧後の金型11の空間15における残留空気の圧力は0.1気圧、樹脂注入口2の圧力は1気圧、樹脂12の充填時間を10sとした。
【0052】
この事例においては、真空容器1の上部に形成された樹脂注入口2に挿通され、金型11の上部に接続されたホース部材から、真空容器1の外部から金型11の空間15に樹脂12が注入された。そして、図4に示すように、金型11の上部から注入された樹脂12は、金型11の空間15において重力により下方へ流れ、下方に充填された。樹脂12が下方に充填された後、樹脂12は金型11の空間15において上方へ流れ、突出部分14の周囲の空間15にも樹脂12が充填された。
【0053】
ここで、ボイドが発生しやすい傾向がある突出部分14の周囲の空間15における樹脂12の充填挙動を説明するために、図4の部分観察領域16における解析結果として、部分観察領域16における樹脂12の流動挙動の時間変化を図5に示す。金型11の設置状態は、図4の場合と同一であり、図5において、金型11の傾斜角度は0°である。すなわち、図5は、傾斜角度0°の場合の樹脂12の充填挙動を示している。
【0054】
図5に示すように、突出部分14の下側の空間15と、突出部分14の上側の空間15と、を流れる樹脂12は、最終的に突出部分14の上側の空間で合流する。このように、2か所から流れる樹脂12が合流する場合、合流する個所(ボイド発生個所17)においては、残留空気(初期圧力0.1気圧)の逃げ場がなくなり、樹脂12との置換ができない。このため、残留空気がボイドとなって残留する結果となった。また、突出部分14の基端側よりも先端側にボイドが発生しやすい傾向が見られた。
【0055】
次に、金型をθ=30°傾斜させた場合の樹脂12の流動挙動の時間変化を図6に示す。図6に示すように、金型11を傾斜させることによって、金型11の下方から上方へ流れる樹脂12は、突出部分14の周りを伝わって上方に流れた。このとき、突出部分14の周りの空間15において、一様な樹脂12の流れが実現でき、ボイドが発生しない結果となった。従って、金型11を傾斜させることによってボイドの発生を抑制できることが、樹脂12の挙動解析(つまり、金型11の可視化)により明らかになった。
【0056】
なお、樹脂構造物にボイドを発生させやすい突出部分14は、例えば、図1図3図4に示すように、金型11の複数個所に形成される場合があるが、樹脂流動解析に基づいて傾斜角データを算出して金型11を適切に傾斜させることにより、製品全体のボイドの発生を抑制することができる。また、本計算では熱計算は行わず、発熱反応は考慮せず、粘度一定の解析を行ったが、本発明はこれだけに限定されるものではなく、熱計算、または発熱反応、または粘度変化の考慮をした解析によって、金型11の傾斜角度の適切な時間変化に関するデータ(傾斜角データ)を求めることができる。
【0057】
更に、上記した樹脂12の挙動解析の結果を踏まえると、下記のように考えることができる。突出部分14の近傍の空間15(つまり、製造される樹脂構造物の製品凸部が形成される空間15)において、2つの樹脂12の流れが合流する可能性がある個所に、ボイドが発生すると考えられる。そのため、次のように突出部分14の形状が定められることにより、製造する樹脂構造物の製品凸部にボイドが発生しやすくなると考えられる。
【0058】
すなわち、図7に例示されているように、突出部分14は、金型11の上下方向に対して垂直する方向に突出しており、製造する樹脂構造物の製品凸部を形成する空間15において、突出部分14の下側に第1空間15A、突出部分14の上側に第2空間15B、第1空間15Aと第2空間15Bを連通する第3空間15C、が区画されるように、突出部分14の形状が定められる。
【0059】
このように突出部分14の形状が定められる場合、金型11を傾斜させないことにより、2つの樹脂12の流れが合流して、製造される樹脂構造物の製品凸部にボイドが発生すると考えられる。そこで、このような場合であっても、樹脂流動解析に基づいて取得する傾斜角データを用いて金型11を適切に傾斜させることによって、樹脂12の流れの合流が発生しないようにすることができ、これにより、製造する樹脂構造物の製品凸部にボイドが発生することを抑制することができる。
【0060】
なお、製品凸部にボイドを発生させやすいと考えられる突出部分14の形状は、図に開示されている突出部分14の形状に限定されない。すなわち、図示されていない突出部分14であって、製造する樹脂構造物に製品凸部が形成される空間において、第1空間15Aと第2空間15Bと第3空間15Cを区画するように形状が定められた突出部分14も含まれる。このような場合であっても、上記と同様に傾斜角データに基づいて金型11を傾斜させることで、製造する樹脂構造物の製品凸部にボイドが発生することを抑制することができる。
【0061】
例えば、図7の下側に図示されている突出部分14の形状の一例のように、突出部分14の下側に第1空間15A、突出部分14の上側に第2空間15B、突出部分14の先端側に第3空間15Cを区画するように、突出部分14の形状が定められても、傾斜角データに基づいて金型11を傾斜させて樹脂12の合流が発生しないようにすることで、製品凸部にボイドが発生することを抑制することができる。
【0062】
また、図示された突出部分14には、傾斜が形成されているが、突出部分14に傾斜が形成されていない形状であっても、傾斜角データに基づいて金型11を傾斜させて樹脂12の合流が発生しないようにすることで、製品凸部にボイドが発生することを抑制することができる。また、突出部分14の形状が、先端側から見た場合において、例えば断面四角状に形成されている場合であっても、金型11を傾斜させて製品凸部にボイドが発生することを抑制することができる。
【0063】
なお、金型11の傾斜角度の範囲は、樹脂構造物を適切に製造することができれば特に限定されないが、金型11の傾斜角度の範囲は、一例として、下記のように定めることができる。すなわち、金型11を傾斜させた場合において、突出部分14の上側の第2空間15Bが突出部分14の下側の第1空間15Aよりも高くなっており、且つ、上側の第2空間15Bと下側の第1空間15Aの両方に樹脂12の流れが発生しないように、金型11の傾斜角度の範囲が定められる。
【0064】
また、金型11を傾斜させるタイミングは、樹脂構造物を適切に製造することができればよく、一例として、下記のタイミングにすることができる。すなわち、金型11を傾斜させるタイミングは、金型11の空間15において上方へ流れる樹脂12が突出部分14に差し掛かるタイミングにすることができる。
【0065】
次に、樹脂構造物の製造に用いることができる樹脂12の例について説明する。真空中での樹脂構造物の製造に用いられる樹脂12には、エポキシ(Epоxy)樹脂、フェノール(Phenоl)樹脂、ポリエステル(Polyester)樹脂などを主成分とする熱硬化性樹脂が用いられる。なお、この樹脂12(つまり、上記した熱硬化性樹脂)には、フィラーが充填されていても良い。フィラーとしては、例えばシリカ、マイカ、タルクなどの成分を含む無機材料、カーボンや高分子材料などの成分を含む有機材料、銅、アルミニウム、金、銀、鉄などの成分を含む金属材料を用いることができる。
【0066】
本実施形態では、真空容器1に真空軸受け6が設けられており、真空軸受け6に挿通された回転軸7を、モータ制御装置4により制御されるモータ5の動力に基づいて回転させることにより、金型11を適切な角度に傾斜させていた。しかしながら、本発明は、これだけに限定されるものではなく、例えば、下記の第2実施形態や第3実施形態で説明する構造であってもよい。
【0067】
第2実施形態について図8を参照しながら説明する。なお、上述した実施形態と同様の説明については省略する場合がある。第2実施形態では、真空軸受け6や回転軸7などは省略されており、金型11の適切な傾斜を実現させるための部材として、制御装置19と、油圧駆動源20と、複数の油圧シリンダ21と、が用いられている。
【0068】
制御装置19は、油圧駆動源20の動作を制御することができるコンピュータであり、プロセッサと記憶装置を備える。記憶装置には、入力される傾斜角データに基づいて、油圧駆動源20の動作を制御するためのプログラムが記憶され、当該プログラムは、プロセッサによって実行される。
【0069】
油圧駆動源20は、真空容器1の外部に設けられ、それぞれの油圧シリンダ21に作動油を供給することができる装置である。
【0070】
それぞれの油圧シリンダ21は、真空容器1の下部に設けられており、それぞれの油圧シリンダ21と真空容器1の間は、シール材などを用いて気体が通過しないようにシールされている。それぞれの油圧シリンダ21には、ピストンが収容されており、それぞれの油圧シリンダ21から真空容器1の内部へピストンロッドが伸びている。そして、それぞれのピストンロッドは、リンク機構18を介して金型設置台10の下部に接続されている。このリンク機構18は、ピストンロッドの往復運動を変換して、金型11を傾斜させる機構として構成されている。
【0071】
制御装置19は、入力される傾斜角データに基づいて、金型11を適切に傾斜させるための信号を油圧駆動源20に出力し、油圧駆動源20は、制御装置19から入力される信号に基づいて、単数ないし複数の油圧シリンダ21の動作を制御する。そして、油圧シリンダ21が動作することにより、傾斜角データに基づく金型11の傾斜が実行され、ボイドが発生しないように金型11を適宜に傾斜させながら樹脂構造物を製造することができる。なお、金型11を任意の方向と角度に傾斜させることができるように、複数の油圧シリンダ21を真空容器1の下部に設けることも可能である。本実施形態では、制御装置19によって制御される外部の油圧駆動源20で駆動する油圧シリンダ21によって、真空容器1の内部において金型11の傾斜角度を高精度に再現する製造装置が実現している。
【0072】
次に、第3実施形態について図9を参照しながら説明する。なお、上述した実施形態と同様の説明については省略する場合がある。図9に示すように、第3実施形態では、第1実施形態の場合における、モータ制御装置4と、モータ5と、回転軸7と、が省略されており、傾斜角データに基づく金型11の適切な傾斜を実現させるための部材として、ロボット制御装置22と、ロボット制御用モータ23と、ロボットアーム24(金型角度変更部材)と、が用いられている。
【0073】
ロボット制御装置22は、ロボット制御用モータ23の動作を制御するコントローラである。
【0074】
ロボット制御用モータ23は、ロボットアーム24を動作させるための駆動源であり、真空容器1の外部に設けられる。
【0075】
ロボットアーム24は、ロボット制御用モータ23を駆動源として動作することができるように構成されている。ロボットアーム24は、真空軸受け6に挿通されており、金型設置台10に接して金型11を任意の方向に回転させることができるように設けられている。なお、図9には一つの軸しか開示されていないが、本実施形態では、ロボットアーム24は、多軸のロボットアーム(多関節ロボットアーム)とされている。
【0076】
ロボット制御装置22は、数値制御装置3から入力される傾斜角データに基づいて、金型11を適切に傾斜させるための信号をロボット制御用モータ23に出力し、ロボット制御用モータ23は、ロボット制御装置22から入力される信号に基づいて駆動して、ロボットアーム24を動作させる。そして、ロボットアーム24が動作することにより、傾斜角データに基づく傾斜角度に金型11を傾斜させることができ、ボイドが発生しないように金型11を適宜に傾斜させながら、樹脂構造物を製造することができる。
【0077】
本実施形態では、真空軸受け6に挿通され、ロボット制御装置22によって制御される外部のロボット制御用モータ23で駆動するロボットアーム24によって、真空容器1の内部において金型11の傾斜角度を高精度に再現する製造装置が実現している。また、多軸のロボットアーム24を用いることで、金型11を任意の方向と角度に容易に傾斜させることができる。
【0078】
なお、傾斜角データに基づく金型11の適切な回転が実行されればよく、ロボットアーム24の構造は、適宜に変更してもよい。例えば、ロボットアーム24のアームの数や軸の数、関節の形状などは適宜に変更してもよい。例えば、1軸のロボットアーム24を用いて、傾斜角データに基づく回転を実現させてもよい。また、例えば、ロボットアーム24は、直動関節を有して構成されていてもよい。
【0079】
また、ロボットアーム24は、金型11に接することによって、金型11を回転させることができるように設けられてもよい。金型設置台10や金型11に運動方向を変換する機構(例えば、リンクに係る機構)が、単数又は複数設けられてもよく、ロボットアーム24は、当該機構に接して金型11を傾斜させてもよい。
【0080】
以上、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0081】
真空容器1は、大気の侵入を防ぐことができる容器であり、真空容器1の内部空間は、例えば、真空ポンプを用いて減圧することによって真空にすることができる。
【0082】
金型11を加熱することにより、金型11内の樹脂12を加熱するためのヒータ装置が、金型11に取り付けられていてもよい。このヒータ装置は、演算装置と記憶装置とを備える適宜のコンピュータによって制御される構成とすることができる。この場合、ヒータ装置を適宜に動作させるためのプログラムが記録装置に記憶され、演算装置が当該プログラムを読み込んでヒータ装置を動作させる。当該コンピュータは、例えば、制御装置(3、19)とされていてもよい。その一方で、ヒータ装置は、ユーザによってON/OFF制御される構成でもよく、この場合、ON/OFFスイッチを真空容器1の外部に設けることができる。
【0083】
金型11への樹脂12の注入方法は、金型11を適切に傾斜させてボイド発生を抑制した樹脂構造物の製造が適切に実行されれば、特に限定されない。金型11への樹脂12の注入は、一例として、樹脂12をホース部材に送り出すためのポンプを真空容器1の外部に設け、当該ポンプを駆動させることにより、実行することができる。当該ポンプは、制御装置(3、19)によって制御されるように構成されてもよいし、制御装置(3、19)とは異なるコンピュータによって制御されるように構成されてもよい。この場合、制御装置(3、19)や当該コンピュータの記憶装置には、ポンプを適切に駆動させるためのプログラムが記憶され、制御装置(3、19)や当該コンピュータの演算装置が当該プログラムを読み込んでポンプの制御を行う。その一方で、ポンプは、ユーザの直接的な操作に基づいて駆動する構成であってもよい。
【0084】
流動解析方法を実行する計算機(25、26)は、樹脂構造物の製造装置の一部として構成されていてもよい。これにより、流動解析方法を実行する計算機(25、26)を備える樹脂構造物製造装置が提供される。
【0085】
プロセッサ(演算装置)の一例としてはCPUやGPUが考えられるが、所定の処理を実行する主体であれば他の半導体デバイスでもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 真空容器
2 樹脂注入口
3 数値制御装置(制御装置)
4 モータ制御装置
5 モータ
6 真空軸受け
7 回転軸(金型角度変更部材)
8 金型固定用ねじ
9 金型スライド機構
10 金型設置台
11 金型
12 樹脂
13 内側空間区画部
14 突出部分
15 金型の空間
16 部分観察領域
17 ボイド発生個所
18 リンク機構
19 制御装置
20 油圧駆動源
21 油圧シリンダ
22 ロボット制御装置
23 ロボット制御モータ
24 ロボットアーム(金型角度変更部材)
25 第1の計算機
26 第2の計算機
27 LAN
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9