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▶ ザ・カウンシル・オヴ・ザ・クイーンズランド・インスティテュート・オヴ・メディカル・リサーチの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】免疫応答のモジュレート
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240814BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240814BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240814BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
A61K39/395 V
A61P43/00 111
A61P37/06
C07K16/18
C12N15/12 ZNA
C07K14/47
C12N15/13
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020563433
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 AU2019050049
(87)【国際公開番号】W WO2019217990
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】2018901677
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】504200892
【氏名又は名称】ザ・カウンシル・オヴ・ザ・クイーンズランド・インスティテュート・オヴ・メディカル・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ウン, スザンナ シュー スーゼン
(72)【発明者】
【氏名】エングウェルダ, クリスティアン ロバート
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-173187(JP,A)
【文献】特表平08-504602(JP,A)
【文献】 European Journal of Immunology,2016年,46 (S1), p. 181の130
【文献】Cell Death and Disease,2015年,6,e1669
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-51/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における自己免疫性疾患又は炎症性状態の治療において使用するための組成物であって、NKG7活性を阻害する化合物を含み、前記化合物がNKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である、組成物。
【請求項2】
前記抗体が、NKG7の細胞外ループ1又は細胞外ループ2に結合する、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記自己免疫性疾患又は炎症性状態が、移植片対宿主病(GVHD)、関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、ループス、神経炎症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病及び全身性炎症反応症候群(SIRS)から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
同種異系間移植片を受ける移植片レシピエントにおける移植片対宿主病(GVHD)のリスクを低下させるのに使用するための組成物であって、NKG7活性を阻害する化合物を含み、前記化合物がNKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である、組成物。
【請求項5】
NKG7活性を阻害する前記化合物が、前記同種異系間移植片を受ける前に、前記移植片レシピエントに投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
NKG7活性を阻害する前記化合物が、前記同種異系間移植片を受けるときに又は受けた後に、前記移植片レシピエントに投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
自己免疫性疾患又は炎症性状態の処置のための医薬の製造におけるNKG7の活性を阻害する化合物の使用であって、前記化合物がNKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である、使用
【請求項8】
前記抗体が、NKG7の細胞外ループ1又は細胞外ループ2に結合する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記自己免疫性疾患又は炎症性状態が、移植片対宿主病(GVHD)、関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、ループス、神経炎症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病及び全身性炎症反応症候群(SIRS)から選択される、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
同種異系間移植片を受ける移植片レシピエントにおける移植片対宿主病(GVHD)を予防するための医薬の製造における、NKG7活性を阻害する化合物の使用であって、前記化合物がNKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免疫応答をモジュレートするための方法及び組成物、自己免疫性及び炎症性障害並びにがん等の疾患を処置又は予防する方法と共に、抗原に対する免疫応答を増強する方法及び感染性疾患の処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、病原体、損傷した細胞又は刺激物等の有害な刺激に対する血管性組織の複雑な生物学的応答の一部である。炎症は、生物による、傷害性刺激を除去し、治癒過程を惹起するための保護的な試みである。炎症なしに、創傷及び感染が治癒することはないであろう。同様に、進行性の組織破壊は、生物の生存を危うくするであろう。しかし、慢性炎症は、関節リウマチ、粥状動脈硬化、さらにはがん等、多数の疾患をもたらす場合もある。
【0003】
自己免疫性障害は、免疫系が、健康な体組織を誤って攻撃し、それを破壊する場合に発生する状態である。80種を超える異なる種類の自己免疫性障害が存在する。自己免疫性障害患者において、系は、正常であれば無視する筈の正常体組織に対して反応する。
【0004】
がん免疫療法は、腫瘍特異的モノクローナル抗体及び他の免疫系成分の受動的投与、腫瘍細胞に対する特異的T細胞媒介性免疫応答を誘発又は増大するための能動的免疫化、ex vivo改変されたT細胞の養子移入、並びに免疫モジュレート剤による免疫応答性の非特異的増強を含む、多様な種類の処置アプローチを包含する。免疫療法は、広範囲のがんの管理に大きな影響を既に有していたが、がん免疫療法の分野は、複雑であり、急速に発展している。免疫療法は、従来の化学療法とは、その作用機序や生じる応答の種類が異なり、多くの能動的免疫療法が、複数の成分(例えば、抗原、アジュバント及び送達媒体)を取り込む。
【0005】
頑強な治療活性は、免疫化が、全般的な免疫応答性の増強及び免疫抑制的機序(これにより腫瘍は免疫寛容原性環境を促進する)の克服に向けられた他の免疫調節性戦略と組み合わされることを要求することがますます認識されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、依然として、自己免疫性及び炎症性疾患並びにがんの処置において、並びに免疫化の際に患者の免疫応答をモジュレートする方法の必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、免疫細胞におけるナチュラルキラー細胞顆粒タンパク質7(NKG7)の発現を調査し、NKG7発現の損失が、炎症促進性サイトカインの血中濃度低下及び抗炎症性サイトカインの増加をもたらすことを決定した。
【0008】
したがって、一態様では、本開示は、対象における免疫応答をモジュレートする方法であって、対象に、NKG7活性をモジュレートする化合物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0009】
一部の実施形態では、化合物は、NKG7の活性を阻害する。
【0010】
一実施形態では、化合物は、NKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である。
【0011】
一部の実施形態では、化合物は、NKG7活性を増加させる。
【0012】
一実施形態では、化合物は、NKG7に結合してNKG7活性を増加させる抗体である。
【0013】
一部の実施形態では、化合物は、NKG7ポリペプチド又はその断片である。
【0014】
一部の実施形態では、NKG7活性をモジュレートする抗体は、NKG7の細胞外ループ1又は細胞外ループ2に結合する。特定の一実施形態では、抗体は、配列番号11、12、13又は14における1つ又は複数のアミノ酸を含むエピトープに結合する。
【0015】
別の態様では、本開示は、対象細胞におけるNKG7の発現をモジュレートすることにより、対象における免疫応答をモジュレートする方法、及び/又は自己免疫性疾患若しくは炎症性状態を処置若しくは予防する方法であって、NKG7遺伝子、又はNKG7遺伝子のNKG7調節エレメントをコードする他のDNA配列を編集し、対象細胞におけるNKG7遺伝子の発現又は機能のモジュレーションをもたらすステップを含む方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、方法は、対象から得られた細胞においてex-vivoで実行され、編集ステップは、1つ又は複数のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを細胞に導入して、NKG7遺伝子若しくはNKG7遺伝子の調節エレメントをコードする他のDNA配列の内に若しくはその付近に1つ若しくは複数の変異若しくはエクソンの発現又は機能の永続的な欠失、挿入、補正又はモジュレーションをもたらす、又はNKG7遺伝子若しくはNKG7遺伝子の調節エレメントをコードする他のDNA配列の発現若しくは機能に影響を与える、1つ又は複数の一本鎖切断(SSB)又は二本鎖切断(DSB)をNKG7遺伝子又はNKG7遺伝子の調節エレメントをコードする他のDNA配列の内に又はその付近に引き起こすステップを含み、方法は、細胞を対象に戻すステップを含む。
【0017】
別の実施形態では、方法は、in vivoで実行され、編集ステップは、対象に遺伝子編集系をin vivoで送達することにより実行される。
【0018】
一部の実施形態では、遺伝子編集系は、CRISPR/Cas9遺伝子編集系である。
【0019】
別の態様では、本開示は、対象における自己免疫性疾患又は炎症性状態を処置又は予防する方法であって、対象にNKG7活性を阻害する化合物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0020】
一部の実施形態では、自己免疫性疾患又は炎症性状態は、移植片対宿主病(GVHD)、関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、ループス、神経炎症、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病及び全身性炎症反応症候群(SIRS)から選択される。
【0021】
一実施形態では、自己免疫性疾患又は炎症性状態は、関節リウマチである。
【0022】
別の実施形態では、自己免疫性疾患又は炎症性状態は、炎症性腸疾患(IBD)である。
【0023】
一実施形態では、炎症性腸疾患は、クローン病である。
【0024】
別の実施形態では、炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎である。
【0025】
別の態様では、本開示は、同種異系間移植片を受ける移植片レシピエントにおける移植片対宿主病(GVHD)のリスクを低下させる方法であって、NKG7活性を阻害する化合物を、移植片レシピエントに投与するステップを含む方法を提供する。
【0026】
一部の実施形態では、NKG7活性を阻害する化合物は、同種異系間移植片を受ける前に、移植片レシピエントに投与される。
【0027】
一部の実施形態では、NKG7活性を阻害する化合物は、同種異系間移植片を受けるときに又は受けた後に、移植片レシピエントに投与される。
【0028】
一実施形態では、化合物は、NKG7に結合してNKG7活性を阻害する抗体である。
【0029】
別の態様では、本開示は、対象におけるがんを処置する方法であって、対象に、対象におけるNKG7活性を増加させる化合物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0030】
一部の実施形態では、化合物は、NKG7に結合してNKG7活性を増加させる抗体である。
【0031】
一部の実施形態では、対象は、がん免疫療法で処置される。
【0032】
一部の実施形態では、がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤療法及び抗体療法から選択される。
【0033】
一態様では、本開示は、対象におけるワクチン抗原に対する免疫応答を増強する方法であって、対象に、
i)NKG7活性を増加させる化合物と、
ii)ワクチン抗原と
を投与するステップを含む方法を提供する。
【0034】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号1、3、5、7又は9のうちのいずれか1つに対し少なくとも90%同一であり、NKG7活性を有する、アミノ酸配列を含む。
【0035】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号2、4、6、8又は10のうちのいずれか1つから選択される配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされる。
【0036】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号1、3、5、7又は9のうちのいずれか1つから選択され、1個又は数個のアミノ酸の置換又は欠失又は付加を有する、配列からなる。
【0037】
一態様では、本開示は、自己免疫性疾患又は炎症性状態を処置又は予防するための医薬組成物であって、NKG7活性を阻害する化合物と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0038】
別の態様では、本開示は、がんを処置するための医薬組成物であって、NKG7活性を増加させる化合物と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0039】
別の態様では、本開示は、自己免疫性疾患又は炎症性状態の処置のための医薬の製造におけるNKG7の活性を阻害する化合物の使用を提供する。
【0040】
別の態様では、本開示は、がんの処置のための医薬の製造におけるNKG7の活性を増加させる化合物の使用を提供する。
【0041】
別の態様では、本開示は、NKG7活性を増加させる化合物を含む免疫原性組成物を提供する。
【0042】
本明細書を通して、単語「を含む(comprise)」、又は「を含む(comprises)」若しくは「を含む(comprising)」等の変化形は、記述されているエレメント、整数若しくはステップ、又はエレメント、整数若しくはステップの群の包含を暗示すると理解されるであろうが、他のいかなるエレメント、整数若しくはステップ、又はエレメント、整数若しくはステップの群の除外を暗示するとは理解されないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】ナイーブ及びドノバンリーシュマニア(Leishmania donovani)感染C57BL/6マウスの肝臓(急性、消散感染の部位)及び脾臓(慢性感染の部位)由来の、並びに感染中及び処置後の内臓リーシュマニア症(VL)患者の末梢血単核細胞(PBMC)由来の、CD4T細胞。マウス細胞は、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって単離し、患者細胞は、磁気活性化細胞選別(MACS)によって単離した(A~C)。感染したマウス及びヒトのデータセットと、対応するナイーブ細胞集団(マウス)又は薬物処置30日後の対応する細胞集団(患者)のいずれかとの比較は、それぞれ脾臓、肝臓及びPBMC由来のCD4T細胞における1816種、2748種及び5784種の差次的に発現された遺伝子を同定した(D及びE)。
図2A】ウォーターフォール(waterfall)プロットは、慢性シグネチャーにおける上方調節された遺伝子(マウス脾臓及びヒト末梢血単核細胞(PBMC)から単離されたCD4T細胞の間で共通の差次的に発現された遺伝子)を示す(A)。
図2B-2C】NKG7は、マウス脾臓から単離されたCD4T細胞において最も上方調節された遺伝子であった。細胞マップは、遺伝子オントロジーに基づく細胞局在化情報:細胞区画情報を呈する(B)。NKG7は、膜タンパク質をコードすることが知られている。NKG7発現の増加は、内臓リーシュマニア症患者(VL)及び固有(endemic)対照(EC)のPBMCから単離されたCD4T細胞、並びにドノバンリーシュマニア(L. donovani)感染マウスの脾臓及び肝臓由来のFoxp3CD4従来T細胞(Tconv)及びFoxp3CD4調節性T細胞(Tregs)における、リアルタイムqPCRによって検証された(C)。
図3A-3B】がんゲノムアトラス(Cancer Genome Atlas)(TCGA)由来のデータは、様々ながん、最も著しくは、腎臓の腎明細胞癌(KIRC)及び神経膠芽腫(GBM)由来の腫瘍内のNKG7の差次的発現を示す(A;http://firebrowse.org/から適応)。発現データは、腫瘍生検から得られるが、がんリスクを付与するNKG7における変異部位の証拠は殆どない(B;http://www.cbioportal.org/ outputから適応)。
図3C】皮膚の皮膚性黒色腫コホート(TGCA:SKCM)由来の患者の、高NKG7発現者(expressor)(最高四分位)及び低NKG7発現者(最低四分位)への層別化は、高NKG7発現を有する群における生存確率の有意な増加を明らかにする(C;網掛け区域は、信頼区間を示す)。
図4】マウスモデルB6.Nkg7-creを作製し(A)、B6.膜tdTomato/膜GFP(mT/mG)と交雑して、レポーターマウスNkg7-cre×mT/mGを産生した(B)。代用マーカーGFPによって決定された、Cre発現(+)マウスにおけるNkg7の発現は、ナイーブ状態のナチュラルキラー細胞において示される。
図5】B6N.Nkg7-KOマウスに、ドノバンリーシュマニアを感染させた。感染後(p.i.)14日目に、Nkg7欠乏の効果を定量化した。Nkg7が欠乏したマウスは、C57BL/6N(野生型)マウスと比較して、より低い脾臓及び肝臓重量を示した(A)。Nkg7欠乏マウスにおける寄生生物負荷は、野生型マウスと比較して顕著に上昇した(B)。炎症促進型サイトカインのインターフェロン(IFN)γ、腫瘍壊死因子(TNF)及びIL-6のレベルもまた、野生型マウスと比較して、Nkg7欠乏マウスの血清において、より低いことが見出された(C)。
図6A-6B】NKG7は、ヒト(A)及びマウス(B)タンパク質に関して、膜貫通予測プログラムTMpred(https://embnet.vital-it.ch/software/TMPRED_form.html)によって確認される、4個の膜貫通領域を含有することが報告された。
図6C】NKG7タンパク質の予測されるモデルは、ヒト及びマウスNKG7の両方に存在する、矢印によって同定される2個の細胞外ループを明らかにする(C)。
図7】C57BL/6N(B6N;野生型)及びB6N.Nkg7-/-マウス由来の脾臓単核細胞を、精製されたモノクローナル抗マウス(α)-CD3+α-CD28+組換え(r)IL-2(Th0条件)、リポ多糖(LPS)又はODN 1826(CpG)のいずれかで24時間刺激した。より高いレベルの抗炎症性サイトカイン、インターロイキン(IL)-10が、LPS及びCpGウェルから収集された上清において、サイトメトリービーズアレイ(CBA)によって検出された。n=3(3回複製)。統計的有意性は、シダックの多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)を使用して決定した。**及び***は、それぞれ<0.01及び0.001のp値を示す。
図8】折れ線グラフは、ドノバンリーシュマニア感染中の示されている時点における、各細胞サブセット内のGFP発現細胞の割合の変化を示す。統計的有意性は、ダン(Dunn)の多重比較検定によるクラスカル・ワリス検定を使用して決定した。は、p値を示し、エラーバーは、平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。
図9】野生型(WT;C57BL/6N)及びNkg7欠乏(B6N.Nkg7-/-)マウスに、ドノバンリーシュマニアを感染させた。Nkg7欠乏は、脾臓及び肝臓における有意に増加した寄生生物負荷をもたらした(リーシュマン・ドノバン単位(Leishman-Donovan Unit)(LDU)として表現)(A)。Nkg7欠乏マウスは、p.i.14日目に有意に少ない炎症促進性サイトカインを産生した(B)。CD4T細胞は、WT又はNkg7欠乏マウスのいずれかから磁気活性化細胞選別によって精製し、Rag1-/-マウスに移入した。レシピエントマウスにその後、ドノバンリーシュマニアを感染させた。p.i.14日目の肝臓における寄生生物負荷の評価は、WT CD4T細胞を受けたRag1-/-マウスと比較して、Nkg7欠乏CD4T細胞を受けたRag1-/-マウスの肝臓において増加した寄生生物負荷を示した。この結果は、Nkg7欠乏マウスにおいて観察された表現型が、少なくとも一部には、CD4T細胞によって媒介されることを示す(C)。統計的有意性は、多重比較による二元配置分散分析(ANOVA)(A及びB)又はマン・ホイットニー検定(C)を使用して決定した。次の場合にp値が示されている;p<0.05、**p<0.01、***p<0.001及び****p<0.0001。エラーバーは、平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。データは1回の実験の代表であり、この場合、系統当たり時点当たりn=3又は4回の生物学的複製である。
図10】野生型(WT;C57BL/6N)又はNkg7欠乏(B6N.Nkg7-/-)マウスは、B16F10又はLWT1細胞のいずれかを受け、肺を14日後に採集して、肺転移の数を決定した。どちらの場合も、Nkg7欠乏マウスは、増加した肺転移を示した(A)。ナチュラルキラー(NK)細胞を、WT又はNkg7欠乏マウスのいずれかから選別し、Rag2γc-/-マウスに移入した。次に、レシピエントマウスに、1×10個又は1×10個のB16F10細胞のいずれかを注射した。Nkg7欠乏NK細胞を受けたRag2γc-/-マウスは、WT NK細胞を受けたマウスと比較して、増加した肺転移を示し、全身性Nkg7欠乏マウスで為された観察と一貫した。この結果は、B16F10細胞を注射した全身性Nkg7欠乏マウスにおける肺転移の増加が、NK細胞によって媒介されることを示す(B)。統計検定は、独立t検定を使用して実行した。次の場合にp値が示されている;p<0.05及び****p<0.0001。
図11】野生型(WT;C57BL/6N)又はNkg7欠乏(B6N.Nkg7-/-)マウスに、デキストラン硫酸ナトリウム(dextran sodium sulfate)(DSS)を含有する飲料水を6日間与えた。Nkg7欠乏マウスは、WTマウスと比較して、重症度の低い疾患を示す、より低い疾患活動性指標(DAI)を有することが見出された。少ない程度の体重減少(出発体重の%として表現)も、WTマウスと比べて、Nkg7欠乏マウスにおいて観察された(A)。Nkg7欠乏マウスは、DSSの初期投与7日後に測定した場合、WTマウスと比較して、増加した結腸の長さを有した。結腸短縮は、炎症増加に関連する(B)。結腸切片のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色は、DSSの初期投与後7日目に、WTマウスにおける陰窩(crypt)の完全損失を示す(C)。結腸切片の組織学的スコアリングは、Nkg7欠乏マウスが、結腸の中央部及び遠位切片の両方で、WTマウスよりも少ない炎症を有したことを示す(D)。統計的有意性は、シダックの多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)(A及びD)又は独立t検定(B)を使用して決定した。次の場合にp値が示されている;p<0.05、**p<0.01、***p<0.001及び****p<0.0001。エラーバーは、平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。データは、2回の実験の代表であり、この場合、群当たりn=8~10回の生物学的複製である。
図12】野生型(WT;C57BL/6N)又はNkg7欠乏(B6N.Nkg7-/-)マウスに、ルシフェラーゼ発現プラスモディウム・ベルゲイ(Plasmodium berghei)ANKA(PbA)を感染させた。Nkg7欠乏マウスは、WTマウスと比較して、増加したレベルの寄生された赤血球細胞(pRBC)を示した(A)。Nkg7欠乏マウスは、WTマウスよりも低い実験的脳性マラリア(ECM)スコアを記録した(B)。WTマウスは、p.i.7~8日目の間に感染に屈した一方、Nkg7欠乏マウスは、最大p.i.14日目まで生存した(C)。バイオルミネセンスイメージングは、Nkg7欠乏マウスと比較して、WTマウスの全身(D)及び脳(E)における増加したバイオルミネセンス、したがって、寄生生物負荷を示す。統計検定は、シダックの多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)(A)、ログランク(マンテル・コックス(Mantel-Cox))検定(C)又はマン・ホイットニー検定(D及びE)を使用して実行した。次の場合にp値が示されている;p<0.05及び***p<0.001。エラーバーは、平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。群当たりn=5匹のマウス。
【発明を実施するための形態】
【0044】
一般技法及び定義
他に特に定義されていなければ、本明細書で使用されている技術及び科学用語は、当業者(例えば、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、細胞生物学、生化学及び化学分野の)によって一般的に理解されるものと同じ意義を有すると解釈されるものとする。
【0045】
他に断りがなければ、本開示で利用されている組換えタンパク質、細胞培養及び免疫学的技法は、J.Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons(1984年)、J.Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbour Laboratory Press(2001年)、T.A.Brown(編集者)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、1及び2巻、IRL Press(1991年)、D.M.Glover及びB.D.Hames(編集者)、DNA Cloning: A Practical Approach、1~4巻、IRL Press(1995年及び1996年)、並びにF.M.Ausubelら(編集者)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(現在までの最新版を含む1988年)、Ed Harlow及びDavid Lane(編集者)Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory(1988年)、並びにJ.E.Coliganら(編集者)Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons(現在までの最新版を含む)に記載されているもの等、当業者に知られている標準手順である。
【0046】
用語「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X若しくはY」のいずれかを意味すると理解されるものとし、両方の意義又はいずれか一方の意義に対し明示的な支持を提供すると解釈されるものとする。
【0047】
本明細書において、用語「疾患」又は「状態」は、正常機能の破壊又は正常機能に対する干渉を指し、いかなる特異的な状態、疾患又は障害にも限定されない。
【0048】
本明細書において、用語「処置すること」、「処置する」又は「処置」は、本明細書に記載されている化合物又は分子を投与して、疾患又は状態の少なくとも1つの症状を低下、予防又は排除することを含む。
【0049】
本明細書において、用語「予防すること」、「予防する」又は「予防」は、疾患又は状態の少なくとも1つの症状の発症の停止又は妨害に十分な、治療有効量の化合物又は分子を投与することを含む。
【0050】
本明細書において、用語「対象」は、ヒト、例えば、哺乳動物を含むいずれかの動物を意味すると解釈されるものとする。例示的な対象は、ヒト、マウス及びラットを含むがこれらに限定されない。一例では、対象は、ヒトである。別の例では、対象は、マウスである。
【0051】
「投与すること」は、本明細書において、広く解釈されるべきであり、本明細書に記載されている化合物又は分子を対象に投与することと共に、本明細書に記載されている化合物又は分子を細胞に与えることを含む。
【0052】
NKG7
活性化されたナチュラルキラー(NK)細胞及びT細胞は、多くの細胞溶解性成分及び表面抗原を共有する。差次的及びサブトラクティブハイブリダイゼーション戦略の組合せにより、Turmanら(1993年)は、NKG7をコードするcDNA(OMIMエントリー606008)を単離した。推論される148アミノ酸I型複合的膜貫通タンパク質は、シグナル配列と、複数のT細胞エピトープを有するがN-グリコシル化部位又はシステイン残基がない38残基外部ドメインと、数個のリン酸化部位を有する64アミノ酸細胞質ドメインとを有する。
【0053】
現在まで、タンパク質レベルでのNKG7の発現については十分に記載されていない。それは主に、モノクローナル抗体を含む試薬及びマウスモデルの不足による。よって、NKG7の機能、その機能の根底にある分子機序、及びそれが物理的に相互作用する他の分子の理解には乖離が存在する。そこで、本開示において、NKG7が、炎症促進性及び抗炎症性サイトカインのモジュレーターであることが実証された。したがって、NKG7活性のモジュレーションは、免疫応答を増加させることが望ましい治療適用において、例えば、がん免疫療法において使用し、免疫原に対する免疫応答を誘導することができると共に、自己免疫性疾患、炎症性状態及び移植片対宿主病の処置及び予防における等の抗炎症療法において使用することができる。
【0054】
ヒトNKG7アミノ酸配列の例は、配列番号1、3及び5に提示されており、それらの核酸コード配列は、配列番号2、4及び6に提示されている。マウスのアミノ酸及び核酸NKG7配列の例は、配列番号7、8、9及び10に提示されている。
【0055】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号1、3、5、7又は9のうちのいずれか1つに対し少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含むことができる。一部の実施形態では、NKG7は、配列番号1、3、5、7又は9のいずれかに対し少なくとも85%又は少なくとも86%、87%、88%若しくは89%、又は少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であるアミノ酸配列を含むことができる。
【0056】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号2、4、6、8又は10のうちのいずれか1つを含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ得る。
【0057】
一部の実施形態では、NKG7は、配列番号1、3、5、7及び9のうちのいずれか1つから選択され、1個又は数個のアミノ酸の置換又は欠失又は付加を有する、配列からなる。
【0058】
「NKG7活性」は、本明細書において、炎症促進性及び/又は抗炎症性サイトカインの産生を調節するNKG7の能力を指す。特に、NKG7活性は、対象におけるインターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子(TNFα)及びIL-6等の炎症促進性サイトカインの発現を誘導若しくは上方調節するNKG7の能力、及び/又は抗炎症性サイトカインの発現を阻害若しくは低下させるNKG7の能力を指す。
【0059】
したがって、用語「NKG7活性をモジュレートすること」は、所望の治療成果に応じて、炎症促進性サイトカイン発現を誘導する及び/又は抗炎症性サイトカイン発現を調節するNKG7の能力を増加させること又はこれを阻害することのいずれかを指す。一部の実施形態では、NKG7活性をモジュレートすることは、例えば、NKG7に結合してNKG7活性をモジュレートする抗体等、NKG7に直接的に結合する化合物により達成することができる。一部の実施形態では、NKG7活性をモジュレートすることは、例えば、NKG7発現をモジュレートした結果として、NKG7活性もモジュレートするsiRNA分子(例えば、一部の実施形態では、低下したNKG7発現は、対象における低下したNKG7活性をもたらす)等、NKG7の発現をモジュレートする化合物を使用することにより達成される。
【0060】
NKG7発現及び/又は活性のレベルは、当技術分野で知られているいずれか適した手段を使用して決定することができる。例えば、NKG7の発現及び/又は活性のレベルは、NKG7に結合する抗体を使用したイムノアッセイによって決定することができる。その代わりに又はそれに加えて、NKG7の発現及び/又は活性のレベルは、当技術分野で知られている核酸検出方法によって決定することができる。一部の実施形態では、NKG7活性は、例えば、対象由来の血液試料における等、対象由来の試料における炎症促進性サイトカイン及び/又は抗炎症性サイトカインのレベルを測定することにより決定される。例えば、NKG7活性は、IL-6、INF-γ及びTNFα等の炎症促進性サイトカインのレベルを測定することにより、及び/又はIL-10、IL-4若しくはIL-13等の抗炎症性サイトカインのレベルを測定することにより、決定することができる。
【0061】
用語「NKG7活性を増加させること」は、本明細書において、NKG7発現又は活性を上方調節し、よって、炎症促進性サイトカインの増加及び/又は抗炎症性サイトカインの減少をもたらすことができる化合物の使用を指す。例えば、一部の実施形態では、NKG7活性を増加させる化合物は、NKG7に結合する、小分子、NKG7リガンド又はアゴニスト抗体となることができる。一部の実施形態では、NKG7活性を増加させる化合物は、NKG7活性を有する、NKG7ポリペプチド又はその断片となることができる。
【0062】
よって、用語「NKG7活性を阻害すること」は、本明細書において、NKG7発現又は活性を減少又は下方調節し、よって、炎症促進性サイトカインの減少及び/又は抗炎症性サイトカインの増加をもたらすことができる化合物の使用を指す。例えば、一部の実施形態では、NKG7活性を阻害する化合物は、NKG7に結合する、小分子、NKG7リガンド又は抗体となることができる。一部の実施形態では、NKG7活性を阻害することができる化合物は、NKG7の発現を阻害又は下方調節する核酸分子となることができる。例えば、核酸分子は、siRNA、二本鎖RNA、アンチセンス核酸又はmiRNAとなることができる。
【0063】
化合物
本開示によって企図される「化合物」は、天然化合物、化学的小分子化合物又は生物学的化合物又は巨大分子を含む種々の形態のいずれかを取ることができる。例示的な化合物は、抗体又は抗体の抗原結合断片、核酸、ポリペプチド、ペプチド及び小分子を含む。
【0064】
用語「タンパク質」は、単一のポリペプチド鎖、即ち、ペプチド結合によって連結された一連の近接アミノ酸、又は互いに共有結合若しくは非共有結合により連結された一連のポリペプチド鎖(即ち、ポリペプチド複合体)を含むと解釈されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、適した化学結合又はジスルフィド結合を使用して共有結合により連結することができる。非共有結合による結合の例は、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力及び疎水性相互作用を含む。
【0065】
用語「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」は、前述の段落から、ペプチド結合によって連結された一連の近接アミノ酸を意味すると理解されるであろう。
【0066】
当業者であれば、「抗体」が一般に、複数のポリペプチド鎖で構成された可変領域、例えば、VLを含むポリペプチド及びVHを含むポリペプチドを含むタンパク質であると考慮されることに気づくであろう。抗体はまた、一般に、定常ドメインを含み、定常ドメインの一部は、重鎖の場合、定常断片又は結晶化可能断片(Fc)を含む定常領域へと配置することができる。VH及びVLは相互作用して、1個又は少数の密接に関係する抗原に特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。一般に、哺乳動物由来の軽鎖は、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかであり、哺乳動物由来の重鎖は、α、δ、ε、γ又はμである。抗体は、いずれの型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものとなることもできる。用語「抗体」は、ヒト化抗体、霊長類化(primatized)抗体、ヒト抗体及びキメラ抗体も包含する。
【0067】
本明細書において、用語「Fv」は、複数のポリペプチドで構成されるか単一のポリペプチドで構成されるかにかかわらず、VL及びVHが会合し、抗原結合部位を有する、即ち、抗原に特異的に結合することができる複合体を形成した、いずれかのタンパク質を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位を形成するVH及びVLは、単一のポリペプチド鎖又は異なるポリペプチド鎖に存在することができる。さらに、本開示のFv(と共に本開示のいずれかのタンパク質)は、同じ抗原に結合する場合も結合しない場合もある、複数の抗原結合部位を有することができる。この用語は、抗体に直接的に由来する断片と共に、組換え手段を使用して産生された斯かる断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。一部の例では、VHは、重鎖定常ドメイン(CH)1に連結されない、及び/又はVLは、軽鎖定常ドメイン(CL)に連結されない。例示的なFv含有ポリペプチド又はタンパク質は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)若しくはより高次の複合体、又はその定常領域若しくはドメイン、例えば、CH2若しくはCH3ドメインに連結された前述のうちのいずれか、例えば、ミニボディ(minibody)を含む。「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価抗原結合断片からなり、酵素パパインにより完全抗体を消化してインタクトな軽鎖及び重鎖部分からなる断片を生じることによって産生することができる、又は組換え手段を使用して産生することができる。抗体の「Fab’断片」は、ペプシンで完全抗体を処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖並びにVH及び単一の定常ドメインを含む重鎖部分からなる分子を生じることにより得ることができる。この様式で処理した抗体1個当たり2個のFab’断片が得られる。Fab’断片は、組換え手段によって産生することもできる。抗体の「F(ab’)2断片」は、2個のジスルフィド結合によって一体に保持された2個のFab’断片の二量体からなり、酵素ペプシンで完全抗体分子を処理することにより、その後の還元なしで得られる。「Fab2」断片は、例えば、ロイシンジッパー又はCH3ドメインを使用して連結された2個のFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域が、適した可動性ポリペプチドリンカーによって共有結合により連結された、抗体の可変領域断片(Fv)を含有する組換え分子である。
【0068】
本明細書において、化合物又はその抗原結合部位と抗原との相互作用を参照した用語「結合する」は、相互作用が、抗原における特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。
【0069】
本明細書において、用語「特異的に結合する」又は「特異的に、結合する」は、本開示の化合物が、代替抗原又は細胞との反応又は会合よりも高頻度で、それよりも急速に、それよりも多い持続時間で、及び/又はそれよりも多い親和性で、特定の抗原又は特定の抗原を発現する細胞と反応又は会合することを意味すると解釈されるものとする。例えば、化合物は、多重反応性(polyreactive)天然抗体によって(即ち、ヒトにおいて天然で見出される種々の抗原に結合することが知られている天然起源の抗体によって)一般的に認識される他のサイトカイン受容体又は抗原への結合よりも実質的に多い親和性で(例えば、20倍又は40倍又は60倍又は80倍~100倍又は150倍又は200倍)、NKG7に結合する。
【0070】
一部の実施形態では、NKG7に結合する抗体は、例えば、二特異性抗体が2種類の抗原に結合するように、2種の異なる抗体の2個の異なる断片で構成された二特異性抗体等の多特異性抗体となることができる。例えば、二特異性抗体は、NKG7に結合する断片と、第2の抗原に結合する第2の断片とを含むことができる。第2の抗原は、例えば、NK細胞におけるCD56、又はCD4T細胞若しくはCD8T細胞に特異的なマーカー等、例えば免疫細胞のマーカーとなることができる。二特異性抗体の調製のための技法は、当技術分野でよく知られている。
【0071】
NKG7に結合する抗体は、市販されている。例えば、ポリクローナル抗NKG7抗体が利用でき(HPA071454;Sigma Aldrich)、NKG7に結合するモノクローナル抗体も市販されている(抗TIA-1(抗NKG-7);IM2550;Beckman Coulter)。
【0072】
指定の抗原に結合する抗体を作製及び単離するための方法は、当技術分野でよく知られている。
【0073】
用語「単離されたタンパク質」又は「単離されたポリペプチド」は、その派生起源又は供給源のため、そのネイティブ状態では自身に付随する天然で会合している成分と会合していない、タンパク質又はポリペプチドであり;同じ供給源由来の他のタンパク質を実質的に含まない。タンパク質は、天然で会合している成分を実質的に含まない状態にすることができる、又は当技術分野で知られているタンパク質精製技法を使用した単離によって実質的に精製することができる。「実質的に精製された」とは、タンパク質が、混入物を実質的に含まない、例えば、混入物を少なくとも約70%又は75%又は80%又は85%又は90%又は95%又は96%又は97%又は98%又は99%含まないことを意味する。
【0074】
用語「組換え」は、人工の遺伝的組換えの産物を意味すると理解されるものとする。したがって、抗体抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質の文脈において、この用語は、B細胞成熟中に発生する天然の組換えの産物である、対象の身体内の天然起源の抗体を包含しない。しかし、斯かる抗体は、単離される場合、抗体抗原結合ドメインを含む単離されたタンパク質と考慮されるべきである。同様に、タンパク質をコードする核酸が単離され、組換え手段を使用して発現される場合、その結果得られるタンパク質は、抗体抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質である。組換えタンパク質は、例えば、それが発現される細胞、組織又は対象内に存在する場合、人工組換え手段によって発現されたタンパク質も包含する。
【0075】
本明細書において、用語「抗原結合部位」は、抗原に結合又は特異的に結合することができるタンパク質によって形成された構造を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位は、一連の近接アミノ酸である必要も、単一のポリペプチド鎖におけるアミノ酸である必要さえもない。例えば、2本の異なるポリペプチド鎖から産生されたFvにおいて、抗原結合部位は、抗原と相互作用し、一般に、各可変領域におけるCDRのうちの1つ又は複数に存在するが必ずしもそうであるとは限らない、VL及びVHの一連のアミノ酸で構成される。一部の例では、抗原結合部位は、VH又はVL又はFvである。
【0076】
本明細書において、用語「エピトープ」(同義語、「抗原決定基」)は、抗体の抗原結合部位を含むタンパク質が結合するNKG7の領域を意味すると理解されるものとする。この用語は、タンパク質が接触する特異的な残基又は構造に必ずしも限定されない。例えば、この用語は、タンパク質によって接触されるアミノ酸にまたがる領域、及び/又はこの領域の5~10若しくは2~5若しくは1~3アミノ酸外側を含む。一部の例では、エピトープは、NKG7がフォールドしたときに互いに近くに位置する一連の不連続アミノ酸、即ち、「立体構造エピトープ」を含む。当業者であれば、用語「エピトープ」が、ペプチド又はポリペプチドに限定されないことにも気づくであろう。例えば、用語「エピトープ」は、糖側鎖、ホスホリル側鎖又はスルホニル側鎖等、分子の化学的に活性な表面グルーピングを含み、ある特定の例では、特異的な三次元構造特徴及び/又は特異的な電荷特徴を有することができる。
【0077】
本開示の一部の実施形態では、本明細書に記載されている治療及び/又は予防方法は、NKG7の発現を低下させるステップが関与する。例えば、斯かる方法は、NKG7をコードする核酸の転写及び/又は翻訳を低下させる化合物を投与するステップが関与することができる。一例では、NKG7活性を阻害する化合物は、核酸、例えば、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉RNA、siRNA又はマイクロRNAである。
【0078】
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するために有用である。理論に限定されるものではないが、この技術は、目的の遺伝子又は目的の遺伝子の一部のmRNA、この場合は、NKG7をコードするmRNAと本質的に同一である配列を含有するdsRNA分子の存在に頼る。簡便には、dsRNAは、組換えベクター宿主細胞において単一のプロモーターから産生することができ、この際、センス及びアンチセンス配列は、センス及びアンチセンス配列がハイブリダイズしてdsRNA分子を形成することを可能にする無関係配列によってフランキングされ、無関係配列は、ループ構造を形成する、例えば、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)となる。本開示に適したdsRNA分子の設計及び産生は、十分に当業者の技能範囲内にあり、国際公開第99/32619号、国際公開第99/53050号、国際公開第99/49029号及び国際公開第01/34815号を特に考慮する。RNAiのための斯かるdsRNA分子は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)及び二機能性shRNAを含むがこれらに限定されない。
【0079】
例示的な低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19~21個の近接ヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。例えば、siRNA配列は、ジヌクレオチドAAで開始し、約30~70%(例えば、30~60%、例えば、40~60%、例えば約45%~55%)のGC含量を含み、例えば、標準BLAST検索によって決定される通り、siRNA配列が導入されるべき哺乳動物のゲノムにおける標的以外のいずれかのヌクレオチド配列に対し高いパーセンテージ同一性を持たない。
【0080】
用語「アンチセンス核酸」は、本開示のいずれかの例における本明細書に記載されているポリペプチドをコードする特異的mRNA分子の少なくとも部分と相補的であり、mRNA翻訳等の転写後事象に干渉することができる、DNA若しくはRNA又はそれらの誘導体(例えば、LNA又はPNA)、又はそれらの組合せを意味すると解釈されるものとする。アンチセンス方法の使用は、当技術分野で知られている(例えば、Hartmann及びEndres(編集者)、Manual of Antisense Methodology、Kluwer(1999年)を参照)。
【0081】
本開示のアンチセンス核酸は、生理的条件下で標的核酸にハイブリダイズするであろう。アンチセンス核酸は、構造遺伝子若しくはコード領域に、又は遺伝子発現若しくはスプライシングに及ぶ制御をもたらす配列に対応する配列を含む。例えば、アンチセンス核酸は、NKG7をコードする核酸の標的化コード領域、若しくは5’非翻訳領域(UTR)若しくは3’UTR、又はこれらの組合せに対応することができる。アンチセンス核酸は、一部には、転写中又は転写後にスプライシング除去され得るイントロン配列に対し、例えば、標的遺伝子のエクソン配列のみに対し相補的となることができる。アンチセンス配列の長さは、NKG7をコードする核酸の少なくとも19個の近接ヌクレオチド、例えば、少なくとも50ヌクレオチド、例えば、少なくとも100、200、500又は1000ヌクレオチドとなるべきである。遺伝子転写物全体に対し相補的な全長配列を使用することができる。標的化される転写物に対するアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも90%、例えば、95~100%となるべきである。
【0082】
別の例では、化合物は、核酸アプタマー(適応可能なオリゴマー)となることができる。アプタマーは、タンパク質又は小分子、例えば、NKG7等の特定の標的分子に結合する能力をもたらす二次及び/又は三次構造を形成することができる、一本鎖オリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドアナログである。よって、アプタマーは、抗体と類似したオリゴヌクレオチドと考慮される。一般に、アプタマーは、約15~約100ヌクレオチド、例えば、約15~約40ヌクレオチド、例えば約20~約40ヌクレオチドを含むが、その理由として、これらの範囲内に収まる長さのオリゴヌクレオチドは、従来の技法によって調製することができることが挙げられる。
【0083】
アプタマーは、アプタマーのライブラリーから単離又は同定することができる。アプタマーライブラリーは、例えば、ランダムオリゴヌクレオチドをベクター(又はRNAアプタマーの場合は発現ベクター)にクローニングすることにより産生され、この場合、ランダム配列は、PCRプライマーの結合部位をもたらす公知配列によってフランキングされる。所望の生物学的活性をもたらす(例えば、NKG7に特異的に結合する)アプタマーが選択される。例えば、SELEX(試験管内進化法(Sytematic Evolution of ligands by EXponential enrichment))を使用して、活性が増加したアプタマーが選択される。アプタマーライブラリーの産生及び/又はスクリーニングに適した方法は、例えば、Elloington及びSzostak、Nature 346:818~22、1990年;米国特許第5270163号;及び/又は米国特許第5475096号に記載されている。
【0084】
遺伝子編集によるNKG7活性のモジュレーション
一部の実施形態では、遺伝子編集系を使用して、NKG7の活性をモジュレートすることができる。一例では、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)(CRISPR)及びCRISPR関連9(Cas9)酵素は、CRIPR/Cas9として知られている技術に使用して、個々の細胞及び生物全体の内の遺伝子を編集することができる(Zhangら、2014年)。この技術を使用して、ヒト又は動物の生殖系列DNAからNKG7を欠失させることができる(Hultquistら、2016年)。その代わりに、CRISPR/Cas9を用いて、遺伝子転写及びしたがってタンパク質発現の増強又は限定のいずれかを行うように、NKG7遺伝子又は関連する調節性DNA領域を改変することができる(Ledford、2015年)。同様に、Cas9の不活性バージョンをCRISPRと共に使用して、DNAのカットを回避するが、その代わりに、遺伝子又はRNA標的に結合させて、遺伝子をサイレンシングすることができる(Dominguez、2016年)。当業者であれば、当技術分野で知られている他の遺伝子系又は技術を用いて、NKG7の活性を改変することもできる。斯かる系及び技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びメガヌクレアーゼを含むヌクレアーゼに基づくプラットフォームを含む。
【0085】
一部の実施形態では、NKG7の活性又は発現は、遺伝子編集系を使用して、in vitroで細胞においてモジュレートすることができる。
【0086】
他の実施形態では、対象から得られた細胞におけるNKG7活性又は発現をモジュレートするex vivo方法を実行することが望ましくなり得る。次に、このような改変された細胞を、対象におけるNKG7の活性又は発現をモジュレートすることによる治療活性のために患者に戻すことができる。
【0087】
別の実施形態では、当業者であれば、対象に投与される遺伝子編集系を使用して、in vivoで対象におけるNKG7の活性又は発現を改変することができる。遺伝子編集系の送達のための当技術分野で知られている技法は、ウイルスパッケージング、mRNA、プラスミド及びタンパク質に基づくアプローチ等のパッキングフォーマットを含む。
【0088】
スクリーニングアッセイ
本開示を踏まえると、当業者であれば、本明細書の実施例セクションに記載されているアッセイを含む、スクリーニングアッセイを実行して、NKG7に結合する及び/又はNKG7の活性をモジュレートする抗体及び分子を同定することができるであろう。例えば、当業者であれば、実施例1に記載されている方法に従って、被験化合物の存在下でT細胞活性化アッセイを実行することができる。よって、アッセイは、CPG又はLPS等の刺激による、マウス若しくはヒトT細胞、マウス脾細胞又はヒトPBMCの精製された集団の活性化、及びサイトカイン産生の増加又は阻害の検出が関与することができる。当技術分野で理解される通り、T細胞活性化アッセイは、限界希釈培養、ELISPOT、サイトカイン捕捉及びバイオセンサーアッセイ並びに市販のT細胞活性化アッセイ等の技法を利用することができる。他のアッセイは、T細胞に抗原を提示するAPCの変更された能力、又はサイトカインを産生する及び/又はB細胞、細胞傷害性T細胞若しくは抗原提示細胞等の他の免疫細胞の活性をモジュレートするヘルパーT細胞の能力の検出に基づくことができる。
【0089】
自己免疫性疾患及び炎症性状態の処置及び予防
自己免疫、炎症、アレルギー性障害、敗血症、GVHDにおける又は他の疾患状態の炎症性副作用の軽減における等、炎症促進性サイトカインの発現の阻害若しくは低下、及び/又は抗炎症性サイトカインの増加が治療上有益となる治療方法が、本明細書に開示されている。よって、一部の実施形態では、NKG7活性を阻害する化合物は、自己免疫性疾患及び/又は炎症性状態の処置又は予防のために対象に投与することができる。
【0090】
「自己免疫」又は「自己免疫性疾患又は状態」は、本明細書において、個体自身の組織から生じ、個体自身の組織を指向する疾患若しくは障害、又はそれらの同時分離(co-segregate)若しくは顕在化、又はその結果生じる状態を広く指し、これらを含む。本明細書における自己免疫性状態は、炎症性又はアレルギー性状態、例えば、関節リウマチ等、組織破壊を伴う可能性がある、自己抗原に対する宿主免疫反応によって特徴付けられる慢性疾患を含む。
【0091】
一部の実施形態では、自己免疫性疾患は、関節リウマチ、I型糖尿病、多発性硬化症、橋本(Hashinoto)甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(lupus erythromatosus)、胃炎、自己免疫性肝炎、溶血性貧血、自己免疫性血友病、自己免疫性リンパ増殖性症候群(ALPS)、自己免疫性網膜ぶどう膜炎、糸球体腎炎、ギラン・バレー症候群、乾癬、脱毛症及び重症筋無力症から選択される。
【0092】
本明細書で互換的に使用される「炎症性障害」、「炎症性状態」及び/又は「炎症」は、慢性又は急性炎症性疾患を広く指し、炎症性自己免疫性疾患及び炎症性アレルギー性状態を明確に含む。これらの状態は、例として、病原体、損傷した細胞又は刺激物等の有害な刺激に対する免疫応答調節不全によって特徴付けられる炎症性異常を含む。炎症性障害は、莫大な種類のヒト疾患の根底にある。炎症性過程に病原学的起源を持つ疾患は、がん、粥状動脈硬化、神経炎症及び虚血性心疾患を含む。炎症に関連する障害の例は、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、過敏症、骨盤炎症性疾患、再灌流傷害、サルコイドーシス、血管炎、間質性膀胱炎、正補体血症性(normocomplementemic)蕁麻疹様血管炎、心膜炎、筋炎、抗シンテターゼ症候群、強膜炎、マクロファージ活性化症候群、ベーチェット症候群、PAPA症候群、ブラウ症候群、痛風、成人及び若年性スチル病、クリオピリン症(cryropyrinopathy)、マックル・ウェルズ(Muckle-Wells)症候群、家族性寒冷誘導性自己炎症性症候群、新生児期発症多臓器性炎症性疾患、家族性地中海熱、慢性乳児性神経性、皮膚性及び関節症候群、全身性若年性特発性関節炎、高IgD症候群、シュニッツラー症候群、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPSP)、歯肉炎、歯周炎、肝炎、硬変、膵炎、心筋炎、血管炎、胃炎、痛風、痛風性関節炎、並びに乾癬、アトピー性皮膚炎、湿疹、酒さ、蕁麻疹及びざ瘡からなる群から選択される炎症性皮膚障害;並びに全身性炎症反応症候群(SIRS)、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む他の状態を含む。
【0093】
一部の実施形態では、自己免疫性及び/又は炎症性状態は、炎症性腸障害である。本明細書において、用語「炎症性腸障害」は、次の判断基準のうちの少なくとも1つによって診断される障害を含む;1)結腸の壁における炎症、及び/又は2)少なくとも1つの症状を訴える患者と組み合わせた、炎症の炎症性マーカーに関する検査結果が陽性の糞便試料。症状は、排便によって緩和される下腹部疼痛、便秘/下痢交代症、小口径の糞便の排泄、筋痙攣、下痢、便秘、切迫、鼓腸、疼痛を伴う若しくは伴わない水様下痢、膨満、悪心及び/又は失禁を含むがこれらに限定されない。炎症性腸障害は、炎症性過敏性腸症候群、クローン病、過敏性腸症候群-下痢、過敏性腸症候群-便秘、過敏性腸症候群-混合型、過敏性腸症候群-交代型、ディスペプシア、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、コラーゲン性大腸炎、不確定大腸炎、セリアック病及びそれらの組合せを含む。
【0094】
一部の実施形態では、炎症性腸障害は、炎症性腸疾患(IBD)である。炎症性腸疾患は、クローン病及び潰瘍性大腸炎の両方を含む。クローン病は、口から肛門に及ぶ胃腸管のいずれか一部が罹患し得る炎症性腸疾患である。クローン病は、腹部疼痛、重症下痢、疲労、体重減少及び栄養不良をもたらし得る、胃腸管の裏層の炎症を引き起こす。クローン病によって引き起こされた炎症は、異なる患者において胃腸管の異なる区域が関与し得る。クローン病に伴う炎症は、多くの場合、罹患した腸組織の層へと深く拡散する。クローン病は、有痛性及び衰弱性の両方となることができ、時に、生命にかかわる合併症をもたらし得る。合併症は、腸管閉塞、腸管における潰瘍、及び十分な栄養素を得る上での問題を含む。他の合併症は、胃腸管の外側で発生し、貧血、皮疹、関節炎、眼の炎症、及び疲労を含む。従来の処置は、症状の制御に役立つ場合があり、薬、栄養補助食品及び/又は外科手術を含む。一部の患者は、症状がない長い寛解期間を有し得るが、現在、クローン病の治癒法は存在しない。したがって、依然として、クローン病の管理及び処置のための方法の必要がある。
【0095】
潰瘍性大腸炎は、結腸としても知られている大腸の慢性疾患であり、それによると、結腸の裏層が炎症するようになり、膿汁及び粘液を産生する小さい開放創又は潰瘍を発生する。炎症及び潰瘍形成の組合せは、腹部不快感及び高頻度の結腸内容物排出を引き起こし得る。潰瘍性大腸炎のための現存する処置は、有意な副作用を伴う、高強度且つ長期にわたる併用薬物療法が関与する、又はさらには、結腸の一部を除去するための外科手術を要求する。よって、投与がより容易であり、この衰弱性状態を治癒することができる、潰瘍性大腸炎のためのより有効な処置の必要がある。
【0096】
一部の実施形態では、本開示は、移植片、特に、同種異系間移植片のレシピエントにおける移植片対宿主病を処置又は予防する方法を提供する。GVHDは、同種異系間組織移植後に一般的な合併症である。GVHDは一般的に、幹細胞又は骨髄移植に伴うが、この用語は、他の形態の組織グラフトにも適用される。組織(グラフト)における免疫細胞(白血球細胞)は、レシピエント(宿主)を「異物」として認識する。一実施形態では、GVHDは、急性GVHDである。急性又は劇症形態のこの疾患(aGVHD)は通常、移植後の最初の100日以内に観察され、関連する罹病率及び死亡率のため、移植に対する大きな課題である。急性移植片対宿主病は、肝臓、皮膚(発疹)、粘膜及び胃腸管への選択的損傷によって特徴付けることができる。最新の研究は、他の移植片対宿主病標的臓器が、免疫系(造血系、例えば、骨髄及び胸腺)それ自体、及び特発性肺臓炎の形態で肺を含むことを示す。急性GVHDは、臓器関与の数及び程度によってステージ分類及びグレード分類(0~IV)される。グレードIV GVHDを有する患者は通常、予後不良を有する。GVHDが重症であり、制御下に置くために、ステロイド及び追加的な薬剤が関与する高強度免疫抑制を要求する場合、患者は、免疫抑制の結果として重症感染を発症する場合があり、感染が原因で死亡する場合がある。
【0097】
がん免疫療法
本開示は、NKG7の活性をモジュレートすることにより、がん細胞に対する対象の免疫応答をモジュレートすることにより、対象におけるがんを処置する方法を提供する。よって、一部の実施形態では、NKG7のモジュレーターにより患者を処置することは、がん免疫療法の形態として使用することができる。当技術分野で知られている通り、がん免疫療法は、免疫系の成分が関与する又はこれを使用する、患者の処置に使用される治療法である。よって、一部の実施形態では、患者におけるNKG7活性を増加させるための化合物の投与は、患者におけるがん細胞に対する免疫応答の増加に使用することができる。
【0098】
一部の実施形態では、本明細書に開示されている処置方法は、他のがん免疫療法及び免疫療法剤と組み合わせて又は併せて使用することができる。
【0099】
免疫療法は、能動的、受動的又はハイブリッド(能動的且つ受動的)としてカテゴリー化することができる。これらのアプローチは、がん細胞が、腫瘍関連抗原(TAA)として知られている、免疫系によって検出され得る分子をその表面に有することが多いという事実を活用する;TAAは、タンパク質又は他の巨大分子(例えば、炭水化物)であることが多い。能動的免疫療法は、TAAを標的化することにより、腫瘍細胞を攻撃するように免疫系を方向付ける。受動的免疫療法は、現存する抗腫瘍応答を増強し、モノクローナル抗体、リンパ球及びサイトカインの使用を含む。
【0100】
これらのうち、複数の抗体療法が、広範囲のがんを処置するために、様々な法域で承認されている。細胞表面受容体は、抗体療法のための共通標的であり、CD20、CD274及びCD279を含む。がん抗原に結合されると、抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を誘導する、補体系を活性化する、又は受容体がそのリガンドと相互作用するのを防止することができ、これらは全て、細胞死をもたらすことができる。承認された抗体は、アレムツズマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、オファツムマブ及びリツキシマブを含む。
【0101】
能動的細胞療法は通常、血液又は腫瘍からの免疫細胞の除去が関与する。腫瘍に特異的な免疫細胞は、培養され、患者に戻され、そこで腫瘍を攻撃する;その代わりに、免疫細胞は、腫瘍特異的受容体を発現するように遺伝子操作し、培養し、患者に戻すことができる。この方法において使用することができる細胞型は、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、細胞傷害性T細胞及び樹状細胞である。特異的な一種類の細胞療法は、CAR-T療法である。キメラ抗原受容体(CAR、これはキメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体又は人工T細胞受容体としても知られている)は、免疫エフェクター細胞に任意の特異性をグラフトする操作された受容体である。典型的には、このような受容体は、T細胞表面へのモノクローナル抗体の特異性のグラフトに使用され、受容体のコード配列の移入は、レトロウイルスベクターによって容易になる。この受容体は、異なる供給源由来のパーツで構成されるため、キメラと呼ばれる。CAR T細胞設計の基本原理は、抗原結合機能及びT細胞活性化機能を組み合わせる組換え受容体が関与する。CAR T細胞の一般前提は、特異的腫瘍細胞に標的化されたT細胞を迅速に作製することである。科学者は、患者からT細胞を除去し、T細胞を遺伝子操作し、次いで患者に戻して、がん細胞を標的化することができる。
【0102】
一部の実施形態では、がん免疫療法剤は、免疫チェックポイントモジュレート剤、がんワクチン、腫瘍溶解性ウイルス、サイトカイン及び細胞に基づく免疫療法のうちの1つ又は複数から選択することができる。
【0103】
一部の実施形態では、阻害性免疫チェックポイント分子は、プログラム死-リガンド1(PD-L1)、プログラム死1(PD-1)、プログラム死-リガンド2(PD-L2)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO)、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(TIM-3)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)、T細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)、B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、CD160、ヘルペスウイルスエントリーメディエーター(HVEM)、並びにIg及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)のうちの1つ又は複数から選択される。
【0104】
一部の実施形態では、本開示は、がんを有する個体における免疫応答又は機能を増加、増強又は刺激する方法であって、NKG7活性を増加させる化合物及び抗がん剤又は抗がん療法の有効量を個体に投与するステップを含む方法を提供する。他の態様では、本開示は、がんを有する個体における免疫応答又は機能を増加、増強又は刺激するための医薬の製造における、NKG7活性を増加させる薬剤の有効量の使用であって、NKG7活性を増加させる薬剤が、抗がん剤又は抗がん療法と組み合わせて使用される、使用を提供する。他の態様では、本開示は、がんを有する個体における免疫応答又は機能を増加、増強又は刺激するための医薬の製造における抗がん剤の有効量の使用であって、抗がん剤が、NKG7活性を増加させる化合物と組み合わせて使用される、使用を提供する。他の態様では、本開示は、抗がん剤又は抗がん療法と組み合わせた、免疫応答又は機能の増加、増強又は刺激における使用のためのNKG7活性を増加させる薬剤を含む医薬組成物を提供する。他の態様では、本開示は、NKG7活性を増加させる薬剤と組み合わせた、免疫応答又は機能の増加、増強又は刺激における使用のための抗がん剤を含む医薬組成物を提供する。
【0105】
一部の実施形態では、NKG7を増加させる化合物は、腫瘍関連抗原を含むがんワクチンと組み合わせて又は併せて使用することができる。一部の実施形態では、がんワクチンは、オンコファージ(Oncophage)、ヒトパピローマウイルスHPVワクチン、任意選択で、ガーダシル(Gardasil)若しくはサーバリックス(Cervarix)、B型肝炎ワクチン、任意選択で、エンゲリクス(Engerix)-B、レコンビバクス(Recombivax)HB若しくはツインリクス(Twinrix)、及びシプロイセル-T(プロベンジ(Provenge))のうちの1つ若しくは複数から選択される、又はヒトHer2/neu、Her1/EGF受容体(EGFR)、Her3、A33抗原、B7H3、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23(IgE受容体)、MAGE-3、C242抗原、5T4、IL-6、IL-13、血管内皮成長因子VEGF(例えば、VEGF-A)、VEGFR-1、VEGFR-2、CD30、CD33、CD37、CD40、CD44、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CD152、CD200、CD221、CCR4、HLA-DR、CTLA-4、NPC-1C、テネイシン、ビメンチン、インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)、アルファ-フェトプロテイン、インスリン様成長因子1(IGF-1)、炭酸脱水酵素9(CA-IX)、癌胎児性抗原(CEA)、グアニリルシクラーゼC、NY-ESO-1、p53、サバイビン、インテグリン.アルファ.v.ベータ.3、インテグリン.アルファ.5.ベータ.1、葉酸受容体1、膜貫通糖タンパク質NMB、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAP)、糖タンパク質75、TAG-72、MUC1、MUC16(又はCA-125)、ホスファチジルセリン、前立腺特異的膜抗原(PMSA)、NR-LU-13抗原、TRAIL-R1、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10b(TNFRSF10B又はTRAIL-R2)、SLAMファミリーメンバー7(SLAMF7)、EGP40汎癌腫(pancarcinoma)抗原、B細胞活性化因子(BAFF)、血小板由来成長因子受容体、糖タンパク質EpCAM(17-1A)、プログラム死-1、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、再生肝臓のホスファターゼ3(PRL-3)、前立腺酸性ホスファターゼ、ルイス-Y抗原、GD2(神経外胚葉起源の腫瘍表面に発現されるジシアロガングリオシド(disialoganglioside))、グリピカン-3(GPC3)及びメソテリンのうちの1つ若しくは複数から選択されるがん抗原を含む。
【0106】
一部の実施形態では、NKG7の活性を増加させる化合物とがん免疫療法剤は、対象に別々に投与される。一部の実施形態では、NKG7の活性を増加させる化合物とがん免疫療法剤は、同じ組成物の一部として一緒に投与される。
【0107】
NKG7の活性を増加させる化合物の使用が関与するがん免疫療法の方法は、単独で又は他の知られているがん療法レジメン(regime)の補助として実行することができることが認められるであろう。例えば、処置は、化学療法、放射線療法、幹細胞移植及び/又は免疫療法、例えば、モノクローナル抗体療法等の処置と併せて又はその後に実行することができる。脳腫瘍の処置において使用される化学療法剤の例は、テモゾロミド、BCNU(カルムスチン)、PCV(プロカルバジン、CCNV(ロムスチン)及びビンクリスチンの組合せ)、カルボプラチン、エトポシド、イリノテカン、シス-レチノイン酸(Retonoic acid)、サリドマイド、タモキシフェン及びCOX-2阻害剤を含む。他の知られている化学療法剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、メトトレキセート、フルダラビン、シタラビン、エトポシド、トポテカン、プレドニゾン、デキサメタゾン、ビンクリスチン及びビンブラスチンを含む。
【0108】
感染性疾患及びワクチン接種
一部の実施形態では、本開示は、感染性疾患の処置若しくは予防における免疫応答を増加若しくは増強する方法、及び/又は感染病原体由来のワクチン抗原に対する免疫応答を増強する方法を提供する。
【0109】
本明細書において、「ワクチン」は、その後の曝露又は病原体感染又は腫瘍に対してよりよく応答することができるような様式で免疫系を刺激する、免疫原性決定基(即ち、抗原)を含有するいずれかの組成物を指す。ワクチンが通常、免疫原性決定基及び任意選択でアジュバントを含有し、アジュバントが、免疫原性決定基に対する免疫応答を非特異的に増強するように機能することが認められるであろう。
【0110】
よって、一部の実施形態では、本開示は、NKG7活性を増加させる組成物を対象に投与することにより、対象におけるワクチン抗原に対する免疫応答を増強する方法を提供する。例えば、NKG7活性を増加させることにより、IL-6、IFN-γ及びTNF-α等の炎症促進性サイトカインの増加のため、抗原に対する免疫応答増強を達成することができる。よって、一部の実施形態では、NKG7活性を増加させる化合物は、ワクチン又はワクチン抗原と組み合わせて及び/又は併せて投与された場合に、アジュバント効果を有する。
【0111】
一部の実施形態では、NKG7活性を増加させる化合物を使用して、細菌、ウイルス及び/又は寄生生物病原体由来のワクチン抗原に対する免疫応答を増強することができる。
【0112】
一部の実施形態では、本開示は、感染病原体によって引き起こされる炎症性免疫応答を低下させる方法を提供する。例えば、全身性炎症性免疫応答を患う対象における炎症性免疫応答を低下させることが望ましくなり得る、及び/又は敗血症を有する患者における炎症性免疫応答を低下させることが望ましくなり得る。炎症性免疫応答は、NKG7発現又は活性を阻害する化合物を対象に投与することにより低下させることができる。
【0113】
組成物
NKG7活性をモジュレートする化合物を、許容できる担体又は希釈剤と共に含む組成物は、本明細書に開示されている方法において有用である。治療組成物は、適切な程度の純度を有する所望の化合物を、任意選択の薬学的に許容できる担体、賦形剤又は安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol,A.編(1980年))と混合することにより、凍結乾燥製剤、水性溶液又は水性懸濁液の形態で調製することができる。許容できる担体、賦形剤又は安定剤は、好ましくは、用いられる投薬量及び濃度において、レシピエントにとって無毒性であり、トリス、HEPES、PIPES、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウム塩化物;ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール等);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖、二糖及び他の炭水化物;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又はツイーン(TWEEN)(商標)、プルロニック(PLURONICS)(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性物質を含む。
【0114】
斯かる担体の追加的な例は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミン等の血清タンパク質、グリシン等の緩衝物質、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩、又はプロタミン硫酸塩等の電解質、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム(potassium hydrogen phosphate)、塩化ナトリウム、コロイド性シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、及びセルロースに基づく物質を含む。
【0115】
in vivo投与に使用されるべき治療組成物は、滅菌されるべきである。滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前又は後に、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。組成物は、全身性投与される場合、凍結乾燥形態で又は溶液中で貯蔵することができる。凍結乾燥形態の場合、組成物は典型的に、使用時における適切な希釈剤による再構成のための他の成分と組み合わせて製剤化される。液体製剤の例は、皮下注射のための単一用量バイアルに充填された、滅菌された清澄で無色の非保存(unpreserved)溶液である。
【0116】
組成物の単一又は複数の投与は、患者に要求され且つ患者が耐容性を示す、投薬量及び頻度に応じて投与される。投薬量及び頻度は典型的に、投与される特異的な治療剤又は予防剤、疾患又は状態の重症度及び種類、投与経路、並びに患者の年齢、体重、応答及び過去の病歴に応じて、各患者に特異的な因子に従って変動するであろう。適したレジメンは、当業者が斯かる因子を考慮することにより、また、例えば、文献に報告され、Physician’s Desk Reference(第56版、2002年)で推奨される投薬量に従うことにより、選択することができる。一般に、用量は、患者にとって許容できない毒性を生じることなく、疾患の症状又は徴候の処置又は寛解に十分である。
【0117】
いずれかの処置レジメンにおいて、治療組成物は、単独で、又は免疫抑制剤、寛容誘導剤、増強剤及び副作用緩和剤を含むがこれらに限定されない、他の治療剤、組成物若しくはその他を含有する組合せにおいて、患者に投与することができる。免疫抑制剤の例は、プレドニゾン、メルファラン(melphalain)、プレドニゾロン、デカドロン(DECADRON)(Merck、Sharp&Dohme、West Point、Pa.)、シクロホスファミド、シクロスポリン、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、アザチオプリン及びi.v.ガンマグロブリン、又はそれらの組合せを含む。好まれる増強剤は、モネンシン、塩化アンモニウム、ペルヘキシリン、ベラパミル、アマンタジン及びクロロキンを含む。これらの薬剤は全て、Physician’s Desk Reference、第41版、Publisher Edward R.Barnhart、N.J.(1987年)に開示されている用量範囲等、一般に認容される効果的な用量範囲内で投与される。
【実施例
【0118】
実施例1.方法及び材料
マウス
8~12週齢の雌マウスを使用した。C57BL/6J(野生型;WT)マウスは、ウォルター・イライザホール研究所(Walter and Eliza Hall Institute)(WEHI;Kew、VIC、豪州)から購入した。C57BL/6N及びB6N.Nkg7-KOマウスは、インハウスで繁殖させた。全マウスは、QIMR Berghofer医学研究所動物施設(Herston、QLD、豪州)において病原体がない条件下で収容した。実験使用は、「科学目的の動物管理及び使用のための豪州実施規範(Australian Code of Practice for the Care and Use of Animals for Scientific Purposes)」(豪州国立保健医療研究評議会(Australian National Health and Medical Research Council))に従い、QIMR Berghofer医学研究所動物倫理委員会(Herston、QLD、豪州;承認番号:A02-633M、A02-634M又はA1707615M)によって承認された。
【0119】
Nkg7-cre×B6.mT/mGマウスの作製
Nkg7プロモーターの制御下でcreリコンビナーゼを発現するC57BL/6Jマウス(B6J.Nkg7-cre)は、CRISPR/Cas9媒介性遺伝子編集を使用して、ウォルター・イライザホール研究所(WEHI)におけるメルボルン先進ゲノム編集センター(Melbourne Advanced Genome Editing Centre)(MAGEC)によって作製された。簡潔に説明すると、以前に記載された方法に基づき、シングルガイド(sg)RNA(配列:CATGGAGCCCTGCCGGTCCC)を使用して、Nkg7遺伝子座に二本鎖切断を誘導して、相同組換えを刺激し、ほぼ2kb相同性アームを含有する標的化ベクターを使用して、creリコンビナーゼコード配列を導入した。
【0120】
creリコンビナーゼ配列を検出するためのフォワード(ACGACCAAGTGACAGCAATG)及びリバース(GCTAACCAGCGTTTTCGTTC)プライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、標的化ベクターの組込みに関して生存可能な子供(pup)をスクリーニングした。creリコンビナーゼ配列が存在する301bpアンプリコンを検出した。cre配列を発現するF0マウスを、戻し交雑のために選択し、これにより、ヘテロ接合型F1マウスを得た。上述のPCRを使用して、cre配列に関してF1マウスをスクリーニングした。ロングレンジ(long-range)PCRによるさらなる検証を実行して、標的化ベクターの正確な位置的組込みを検証した。
【0121】
B6J.Nkg7-creマウスを、mT/mG(B6.129(Cg)-Gt(ROSA)26Sortm4(ACTB-tdTomato,-EGFP)Luo/J)マウスと1回交雑させて、Nkg7レポーター系統(Nkg7-cre.mT/mG)を作製した。B6N.Nkg7-/-(Nkg7tm1.1(KOMP)Vlcg)マウスは、トランス-NIHノックアウトマウスプロジェクト(trans-NIH Knockout Mouse Project)(KOMP)の一部として、カリフォルニア大学デービス校(University of California Davis)(UC Davis、Davis CA、米国)によって作製され、KOMPリポジトリ(http://www.komp.org/)から得られた。
【0122】
マウスにおけるリーシュマニア感染
ドノバンリーシュマニア寄生生物(エチオピア系統、Lv9、MHOM/ET/67/HU3)を、Rag1-/-マウスにおける継代によって維持した。継代マウスを安楽死させ、脾臓を切除して、5mlの滅菌ロズウェルパーク記念研究所培地(Roswell Park Memorial Institute Medium)(RPMI;Life Technologies、Carlsbad CA、米国)+100μg/mlペニシリン及びストレプトマイシン(PS;Gibco(登録商標)、Life Techonologies);RPMI/PS)培地に入れた。切除した脾臓を、ガラス組織グラインダーを使用してホモジナイズし、細胞懸濁液を、ブレーキをオフにして115×gで5分間室温にて遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、ペレットを廃棄した。上清を1960×gで15分間室温にて遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを1mlの赤血球細胞溶解バッファーのハイブリ・マックス(Hybri-Max)(商標)(Sigma-Aldrich(登録商標)、St.Louis MO、米国)において5分間インキュベートし、その後に、滅菌RPMI/PSを添加し、寄生生物を1960×gで15分間室温にて遠心分離した。上清を廃棄した後に、ペレットに滅菌RPMI/PSを添加し、1960×gで15分間室温にて遠心分離ステップを反復した。上清を廃棄した後に、寄生生物ペレットを滅菌RPMI/PSに再懸濁した。寄生生物懸濁液を、1mlシリンジ(Terumo(登録商標)、Somerset NJ、米国)に取り付けた26G×1.5インチ(1 1/2”)針を通して吸い上げ、均質な懸濁液が達成されるまで反復して分注した。2μlの寄生生物懸濁液をトーマ(Thoma)細胞計数チャンバー(Weber Scientific International、West Sussex、英国)にロードし、4×4グリッドにおいて寄生生物を3回複製して計数した。平均計数を使用して、次の方程式を使用して寄生生物/mlの数を決定した:
【数1】
【0123】
脾臓単一細胞懸濁液の調製
CO窒息によりマウスを屠殺した。矢状中央部(mid-sagittal)切開を腹腔に入れた。脾臓を切除し、秤量し、RPMI/PS培地中に収集した。脾臓は、5cc/mLシリンジプランジャー(Terumo(登録商標)Medical)の背部を使用して、イージーストレイナー(EASYstrainer)(商標)100μm滅菌フィルター(Greiner Bio-One、Kremsmunster、オーストリア)に機械的に通過させた。細胞をRPMI/PSに再懸濁し、エッペンドルフ(Eppendorf)遠心機5810 R(Fisher Scientific、ThermoFisher Scientific)において350×gで遠心分離し、赤血球細胞溶解バッファーのハイブリ・マックス(商標)(Sigma-Aldrich(登録商標))において7分間室温にてインキュベートすることにより溶解させた。細胞をDPBS(1×)(Gibco(登録商標))及びトリパンブルー染色(Invitrogen(商標))に希釈し、製造業者のプロトコールの通りにカウンテス(Countess)II FL(Invitrogen(商標))を使用して計数した。
【0124】
肝臓単一細胞懸濁液の調製
CO窒息によりマウスを屠殺した。矢状中央部切開を腹腔に入れた。肝臓を1×リン酸緩衝食塩水(PBS)で灌流した。切除した肝臓を秤量し、PBSにおける1%(v/v)FBS中に収集し、イージーストレイナー(商標)100μm滅菌フィルター(Greiner Bio-One)に機械的に通過させた。ホモジナイズした肝臓を、エッペンドルフ遠心機5810 R(Fisher Scientific、ThermoFisher Scientific)において390gで遠心分離することにより、1×PBSにおいて2回洗浄した。33%(v/v)パーコール(Percoll)(商標)密度勾配培地(GE Healthcare、Little Chalfont、英国)及びブレーキをオフにした575gで15分間室温の遠心分離を使用して、肝細胞をリンパ球から分離して除去した。赤血球細胞溶解バッファーのハイブリ・マックス(商標)(Sigma-Aldrich(登録商標))を各ペレットに添加し、7分間室温にてインキュベートした。この操作に続いて、上述の通りに1×PBSにおいて単一回の洗浄を行った。細胞を、DPBS(1×)(Gibco(登録商標)、Life Technologies(商標))及びトリパンブルー染色(Invitrogen(商標))に希釈し、製造業者のプロトコールの通りにカウンテスII FL(Invitrogen(商標))を使用して計数した。
【0125】
CD4 T細胞移入
製造業者の説明書に従ってCD4+T細胞単離キット、マウス及びLSカラム(Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、ドイツ)を使用した磁気活性化細胞選別(MACS)によって、ドナーマウスからCD4T細胞を単離した。5×10個の細胞/mlとなるように、単離された細胞を希釈した。200μlの細胞懸濁液を各レシピエントRag1-KOマウスにi.v.注射した(マウス当たり1×10個の細胞)。
【0126】
RT-qPCRによるマウスの脾臓又は肝臓組織における寄生生物負荷の決定
皮膚掻爬ブレードを使用して、死後に各マウスの肝臓及び脾臓からおよそ10~20mgの組織片を採取した。組織を収集して、150μlのクイックエクストラクト(QuickExtract)(商標)DNA抽出溶液(Epicentre、Madison WI、米国)に入れ、65℃で30分間インキュベートし、ボルテックスにかけ、98℃で16分間インキュベートして、DNAを抽出した。製造業者の説明書の通りにキュービット(登録商標)2.0蛍光光度計(Invitrogen(商標))においてキュービット(Qubit)(登録商標)dsDNA高感度(HS)アッセイキットを使用して、各試料におけるDNAの量を定量化した。20ng/μl(脾臓)又は7.5ng/μl(肝臓)となるように、ウルトラピュア(UltraPure)(商標)DNase/RNaseフリー蒸留水(Invitrogen(商標))に試料を希釈した。Khareら(2016年)によって以前に記載された、ドノバンリーシュマニアGP63特異的プライマー及びタックマン(TaqMan)MGBプローブ、5’-FAM標識レポーター色素、非蛍光クエンチャーを含有する反応マスターミックス、並びにマウスGapdhタックマンプローブを含有する別の反応マスターミックスを、製造業者の説明書に従ってゴータック(GoTaq)(登録商標)プローブqPCRマスターミックス(Promega、Madison WI、米国)を使用して調製した。クワントスタジオ(QuantStudio)5リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、Foster City CA、米国)におけるゴータック(登録商標)プローブqPCRマスターミックスのための製造業者の推奨プログラム設定を使用して、6μlの反応マスターミックス及び4μlの鋳型DNAを含有する10μlの総反応容量のランを行った。マウスGapdhに対するドノバンリーシュマニアGP63のCt値の倍数変化として寄生生物負荷を決定し、2-ΔCT(Schmittgenら、2008年)として表現した。
【0127】
フローサイトメトリー
全フローサイトメトリー染色は、ファルコン(Falcon)(登録商標)96ウェル透明丸底組織培養(TC)処理細胞培養マイクロプレート(Corning Inc.、Corning NY、米国)内で実行した。単一細胞懸濁液を、50μlのトルステイン(TruStain)fcX(商標)(抗マウスCD16/32;クローン:93)及びゾンビ・アクア(Zombie Aqua)(商標)固定可能生存率色素カクテル(両者共にBioLegend製、San Diego CA、米国)と共に15分間室温にてインキュベートした。575g、1分間、4℃でのエッペンドルフ遠心機5810 R(Fisher Scientific、ThermoFisher Scientific)において遠心分離することにより、細胞を染色バッファー(1×PBS、0.02%(v/v)FBS、5mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.01%(w/v)NaN)で1回洗浄した。次に、ペリジニンクロロフィルタンパク質複合体(PerCP)-シアニン(Cy)5.5コンジュゲート抗マウスCD11b(クローン:M1-70)、アロフィコシアニン(APC)コンジュゲート抗マウスTCRγδ(GL3)、アレクサフルオロ(Alexa Fluor)(登録商標)700コンジュゲート抗マウスCD8a(53-6.7)、APC-Cy7コンジュゲート抗マウスNK1.1(PK136)、パシフィックブルー(Pacific Blue)コンジュゲート抗マウスI-A/I-E(M5.114-15.3)、ブリリアントバイオレット(Brilliant Violet)(商標)605コンジュゲート抗マウスLy6C(HK1.4)、ブリリアントバイオレット(商標)650コンジュゲート抗マウス/ヒトB220(RA3-6B2)、ブリリアントバイオレット(商標)785コンジュゲート抗マウスCD11c(N418)及びフィコエリトリン(PE)-Cy7コンジュゲート抗マウスF4/80(BM8)(全てBiolegend製、San Diego CA、米国)並びにブリリアントウルトラバイオレット(Brilliant Ultraviolet)(商標)395コンジュゲート抗マウスCD4(GK1.5)及びブリリアントウルトラバイオレット(商標)737コンジュゲート抗マウスTCRβ(BD Biosciences製、San Diego CA、米国)を含有する蛍光コンジュゲート抗体のカクテル50μlと共に、試料を30分間インキュベートした。上述の染色バッファーによる2回の洗浄後に、20分間にわたるBDサイトフィックス(Cytofix)(商標)固定バッファーセット(サイトカインに対する抗体でその後に染色する細胞のため)又は30分間にわたるBD Pharmingen(商標)転写因子バッファーセット(転写因子に対する抗体でその後に染色する細胞のため)(両者共にBD Biosciences製)のいずれかの100μlの固定バッファーと共に、試料をインキュベートした。次に、575gで1分間4℃にて遠心分離することにより、それぞれのキットのパーム/ウォッシュ(Perm/Wash)(商標)バッファーで細胞を2回洗浄し、その後に、細胞内分子に対する蛍光コンジュゲート抗体を含有するカクテル50μlと共に細胞を35分間インキュベートした。全染色は、室温にて暗所で実行した。試料を染色後に1%(w/v)PFAに再懸濁し、4℃で貯蔵し、その後、BD FACSディーバ(BD FACSDiva)(商標)V8.0によるBD LSRフォーテッサ(BD LSRFortessa)(商標)(特注研究製品;BD Biosciences)において画像取得し、フロージョー(FlowJo)v10 OSX(FlowJo、LLC、Ashland OR、米国)において解析した。グラフパッドプリズム(GraphPad Prism)7(GraphPad Software、La Jolla CA、米国)においてグラフ作成及び統計解析を実行した。p値≦0.05を統計的に有意であると考慮した。
【0128】
t分布型確率的近傍埋め込み(tSNE)
Ashurstによって書かれたプロトコール及びRスクリプトに概要を述べる通りにtSNEを実行した。簡潔に説明すると、フロージョーv10 OSX(FlowJo、LLC)を使用して、試料は、最後の共通集団においてゲーティングした。次に、双指数関数(Biexponential)スケールを目的の全フルオロフォアに対して適用した。幅基底を増加させることにより、スケールを調整して、ネガティブデータの拡散を低下させた。試料毎のゲーティングされた集団は、試料番号を割り当て、フロージョーv10 OSX(FlowJo、LLC)において50,000事象にダウンサンプリングした。次に、全試料由来のダウンサンプリングされた集団は、単一のファイルへと連結させた。目的のマーカーをtSNEパラメーターとして選択し、次の設定を適用した:
反復:1000
困惑(Perplexity):30
エータ(Eta)(学習率)200
シータ(Theta):0.5
【0129】
連結されたファイル内の各試料は、以前に割り当てた試料番号及び各試料に観察されるtSNEパラメーターに基づいて区別した。Ashurst(2017)によって書かれたスクリプトへの入力としてエクスポートされたチャネル値を使用して、Rにおいてカラー化tSNEプロットを作製した。
【0130】
サイトメトリービーズアレイ(CBA)
製造業者の説明書の通りにBDサイトメトリービーズアレイ(CBA)マウス炎症キット又はマウスTh1/Th2/Th17サイトカインキット(BD Biosciences)を使用して、サイトカインレベルを評価した。マウス血液由来の血清又は血漿試料は、そのままで(neat)使用した一方、上清は、大部分のサイトカインの検出のため、1×PBSに1:5希釈した。上清は、IFNγの検出のため、1×PBSに1:50希釈した。BD(商標)CBA FCAPアレイソフトウェアv3.0(BD Biosciences)を使用して、CBAデータを解析した。
【0131】
マイクロアレイ
バッファーRLTに貯蔵された、FACS(商標)選別されたマウス脾臓及び肝臓CD4T細胞を、QIAシュレッダー(QIAshredder)カラムにおいてホモジナイズし、その後、製造業者の説明書に従ってRNイージーミニ(RNeasy Mini)キット(全てQIAGEN(登録商標)製、Hilden、ドイツ)を使用してRNA抽出を行った。マウス全ゲノム(WG)-6 v2.0発現ビーズチップ(BeadChip)キット(Illumina、San Diego CA、米国)を使用して、試料のランを行った。ルミ(Lumi)パッケージ(Duら、2008年)を使用して、品質管理を評価し、R(https://www.r-project.org/)においてランした。リマ(Limma)(Ritchieら、2015年)を使用して、差次的遺伝子発現を解析した。
【0132】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのCD4 T細胞の単離
カラアザール医学研究センター(Kala-azar Medical Research Center)(Muzaffapur、Bihar、インド)においてVLと診断された症候性患者から血液を得た。患者は、顕微鏡による脾臓吸引液スメアにおけるアマスティゴートの検出、又はrk39尿試験紙検査の使用のいずれかにより診断された。入院日(0日目)及びAmBisome(Gilead Sciences、Inc.、Foster City CA、米国)による処置30日後に(30日目)、BDバキュテナー(BD Vacutainer)(登録商標)リチウムヘパリン(LH)170 I.U.プラス血液収集チューブ(BD Biosciences)において、患者当たりおよそ5mlの血液を収集した。フィコール・パクー(Ficoll-Paque)(商標)プラス(GE Healthcare)の上に血液を重層して、PBMCを単離した。血球計数器を使用して、PBMCを計数した。製造業者の説明書に従ってCD4マイクロビーズ(MicroBead)、ヒト(Miltenyi Biotec、Bergisch Gladback、ドイツ)を使用した磁気活性化細胞選別(MACS)によって、CD4T細胞を濃縮した。
【0133】
RNA配列決定
QIAシュレッダーカラムにおいて細胞をホモジナイズし、その後、製造業者の説明書に従ってRNイージーミニキット(両者共にQIAGEN(登録商標)製)を使用してRNA抽出を行った。NEBネクスト(NEBNext)(登録商標)ポリ(A)mRNA磁気単離モジュール(New England Biolabs Inc.、Ipswich MA、米国)を使用して、mRNAを単離した。イルミナ(Illumina)(登録商標)のためのNEBネクスト(登録商標)ウルトラ(Ultra)(商標)RNAライブラリープレップキット(New England Biolabs Inc.、Ipswich MA、米国)を使用して、ライブラリーを調製した。KAPAライブラリー定量化キット(Roche Sequencing、Pleasanton CA、米国)を使用してライブラリーを定量化し、RNA 6000ピコ(Pico)キット(Agilent Technologies、Santa Clara CA、米国)を使用してRNA統合性数(RIN)を得た。イルミナHiSeqプラットフォームにおける50bpシングルエンドmRNA配列決定によって、発現プロファイリングを実行した(豪州ゲノム研究施設(Australian Genome Research Facility)(AGRF)、Parkville VIC、豪州により実行)。
【0134】
バイオインフォマティクス解析
Galaxyプラットフォーム(https://galaxy-qld.genome.edu.au/galaxy/)[7]においてRNA-seqデータを処理した。FastQC(Andrews、2014年)を使用して品質管理を実行した。参照(STAR)(Dobinら、2013年)に対し整列されたスプライシングされた転写物を使用して、読み取りデータをマッピングし、転写物アセンブリー及び百万種のマッピングされた読み取りデータ当たりの転写物1キロベース当たりの読み取りデータ(RPKM)の推定のために、Cufflinks(Trapnellら、2010年)を使用した。適用可能であれば、Cuffmergeを使用して、複数の転写物アセンブリーを統合した(Trapnellら、2012年)。HTseqを使用して、マッピングされた読み取りデータを計数データに転換し、これを下流解析の入力として使用した(Andersら、2015年)。R(R Core Team、2017年、R Foundation for Statistical Computing:Vienna、オーストリア)においてランしたEdgeR(Robinsonら、2010年)を使用して、RNA-seqデータセットから差次的に発現された遺伝子のリストを作製した。インジェヌイティー・パスウェイ・アナリシス(Ingenuity Pathway Analysis)(IPA;QIAGEN(登録商標))を使用して、目的の遺伝子の上流調節因子を同定した。IPAにおいて予測された薬物に加えて、目的の遺伝子を薬物-遺伝子相互作用データベース(DGIdb)(Wagnerら、2016年)に提出して、現在利用できる薬物を同定した。各標的遺伝子に利用できるトランスジェニック又はノックアウトマウス系統の検索において、国際マウス系統資源(International Mouse Strain Resource)(IMSR)を使用した。アノテーション、可視化及び統合された発見のためのデータベース(Database for Annotation, Visualisation and Integrated Discovery)(DAVID;v6.8ベータ、国立アレルギー感染病研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)(NIAID)、国立衛生研究所(National Institutes of Health)(NIH)、Maryland、米国)を使用して、遺伝子オントロジー:細胞成分のデータに基づく機能アノテーションにより、標的遺伝子の局在化を決定した。タンパク質三次構造が分かっていない遺伝子のため、neXtProt(ベータ)[20]からヒトアミノ酸配列及びトポロジーを得た。次に、ヒトアミノ酸配列を国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)保存ドメイン検索に提出して、保存ドメイン及びそのタンパク質スーパーファミリーを同定した。遺伝子名をSTRING v10.0(Szklarczykら、2015年)に入力して、遺伝子近隣、遺伝子融合、遺伝子出現、遺伝子同時発現、実験(experiement)及びアノテートされた経路に基づきタンパク質-タンパク質相互作用を同定し、組み合わせたスコアを得た。このスコアは、Circos Table Viewer v0.63-9(Krzywinskiら、2009年)への入力として機能した。プリズム7(GraphPad Software)を使用して、グラフをプロットした。
【0135】
がんゲノムアトラス(TCGA)データセットの生存及び相関解析
TCGA研究ネットワーク(https://cancergenome.nih.gov/)によって以前に発表されたRNA-seqデータをダウンロードし、RにおいてTCGAbiolinksパッケージ(Colapricoら、2016年)を使用して処理した。簡潔に説明すると、転写物計数を遺伝子の長さによって正規化し、全試料にわたる発現平均の下四分位(<25%)における遺伝子をフィルタリング除去した。目的の遺伝子の発現値に従って試料をランク付けし、2群へと層別化し、それによると、最高四分位(>75%)は高発現者と命名し、最低四分位(<25%)は低発現者と命名した。これらの群の間の全生存を解析し、カプラン・マイヤー曲線としてプロットし、ログランク検定を使用してp値を決定した。次に、2種の目的の遺伝子の間で相関解析を実行し、関係性をrとして表現した。
【0136】
統計解析
プリズム7(GraphPad Software)を使用して統計解析を実行した。p値を決定し、それぞれp<0.05、0.01、0.001及び0.0001を表す*****及び****として示した。
【0137】
蛍光活性化細胞選別(FACS(商標))
FACSによって、雌Foxp3-RFP+/+マウスの脾臓及び肝臓から従来(Tconv)及び調節性(Treg)T細胞を選別した。製造業者の説明書に従ってCD4T細胞単離キット、マウス(Miltenyi Biotec)を使用したMACSによって、CD4T細胞を単離した。濃縮されたCD4T細胞を含有するフロースルーを、モノクローナル抗マウスフルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲートTCRβ(H57-597)及びアロフィコシアニン(APC)コンジュゲートCD4(GK1.5)(両者共にBioLegend製)で染色した。Tconv細胞は、TCRβCD4RFPとして同定した一方、Treg細胞は、TCRβCD4RFPとして同定した。選別後に、バッファーRLT(QIAGEN(登録商標))において細胞を-80℃で貯蔵した。
【0138】
リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)
ナイーブ又は感染Foxp3-RFP+/+マウスから選別されたFoxp3及びFoxp3細胞を、バッファーRLTにおいて貯蔵し、QIAシュレッダーカラム(両者共にQIAGEN(登録商標)製)においてホモジナイズした。製造業者の説明書に従ってRNイージーミニキット(QIAGEN(登録商標))を使用して、RNAを抽出した。ナノドロップ(Nanodrop)2000 UV-Vis分光光度計(Thermo Fisher Scientific)を使用して、RNAの濃度(ng/μl)及び試料純度(260/280比)を測定した。製造業者の説明書の通りに大容量(High-Capacity)cDNA逆転写キット(Applied Biosystems(商標))を使用して、抽出されたRNAを逆転写して相補的DNA(cDNA)にした。QuantiTectプライマーアッセイ(マウス(M. musculus)B2m、Hprt、Nkg7及びMap3k8に特異的;QIAGEN(登録商標))又はRT qPCRプライマーアッセイ(マウスCdkn1aに特異的;QIAGEN(登録商標))を、ゴータックqPCRマスターミックス(Promega Corporation)と共に、1μlの鋳型cDNAを含有する10μlの最終反応容量において使用した。クワントスタジオ5リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)において、マイクロシール(Microseal)(登録商標)「B」PCRプレート封着フィルム、接着性、オプティカル(Bio-Rad)で封着したハードシェル(Hard-Shell)(登録商標)384ウェルプレート、薄壁、スカーテッド(skirted)、クリア/クリア(Bio-Rad、Hercules CA、米国)において、RT-qPCRを実行した。2種の内部対照遺伝子:B2m及びHprtの平均と比べた比較C方法を使用して、相対的定量化を実行した。
【0139】
ヒト試料のため、CD4+T細胞は、製造業者の説明書に従ってCD4マイクロビーズ、ヒト(Miltenyi Biotec)を使用したMACSによって濃縮した。次に、RNAを抽出し、逆転写してcDNAにした。18SリボソームRNA(rRNA)と比べた比較C方法を使用して、相対的定量化を実行した。
【0140】
In vitro免疫刺激アッセイ
セクション:「脾臓単一細胞懸濁液の調製」に記載されている通り、マウスから脾臓単核細胞を単離した。4μg/ml精製抗マウス(α)-CD3(ウェルに2時間37℃で予めコーティング)+2μg/ml α-CD28+20ng/ml組換えマウス(r)IL-2(全てBioLegend製)、1μg/mlの大腸菌(E.coli)0111:B4由来のリポ多糖(LPS)(Sigma-Aldrich)、又は15μg/ml ODN 1826(CpG)(Sigma-Aldrich)のいずれかの存在下で、96ウェルU字底プレートの各ウェルにおいて4×10個の細胞を24時間37℃にて5%COにより培養した。全刺激物質は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;4.5g/L D-グルコース、L-グルタミン、110mg/L(1mM)ピルビン酸ナトリウム;Gibco)と10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)、0.05mM β-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich)、1×MEM非必須アミノ酸溶液(NEAA;Gibco)並びに100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(Gibco)で構成されたT細胞培地において調製した。T細胞培地は、対照条件として使用した。培養24時間目に、各ウェルから50μlの上清を収集し、さらなる使用まで-20℃で貯蔵した。マウス炎症BD(商標)サイトメトリービーズアレイ(CBA)キット(Becton Dickinson)を使用して、サイトカインレベルを測定した。
【0141】
転移モデル
マウスに、1×10個のB16F10細胞又は5×10個のLWT1細胞のいずれかを静脈内(i.v.)注射した。B16F10細胞を注射したマウスから注射後14日目に肺を採集した。LWT1細胞を注射したマウスから注射後14日目に肺を採集し、墨汁で灌流した。光学顕微鏡下で肺表面におけるコロニーを計数することにより、両方のモデルにおける転移性負荷を定量化した。
【0142】
NK細胞移入
Rag2γc-KOマウスの群に、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって単離された2×10個のC57BL/6N(B6N;野生型)又はB6N.Nkg7-KO NK細胞を静脈内(i.v.)注射した。6日後、ナイーブ又は養子性移入したRag2γc-KOマウスは、1×10個又は1×10個のB16F10細胞のいずれかを受けた。B16F10細胞を注射したマウスから注射後14日目に肺を採集した。光学顕微鏡下で肺表面におけるコロニーを計数することにより、転移性負荷を定量化した。
【0143】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎
2.5%DSS塩(MW約40,000;Alfa Aesar、MA、米国)を含有する飲料水の投与前に、マウスの出発体重を記録した。毎日大腸炎の症状に関してマウスをスコアリングし、ほぼ同時に体重を記録した。%体重減少が10%を超えた場合、毎日2回マウスをスコアリング及び秤量した。6日目にDSSを含有する飲料水を除去し、マウスに新鮮な飲料水を与えた。DSSの投与後7日目に全マウスを屠殺し、その際に、結腸を測定し、組織学切片のためホルマリンに保存した。次に、結腸を70%エタノールに移し、パラフィンに包埋し、その後、切片を作製した。ヘマトキシリン(Haemotoxylin)及びエオシン(H&E)染色した切片を、陰窩アーキテクチャ、陰窩膿瘍、組織損傷、炎症性細胞浸潤、及び粘膜固有層(laminar propria)好中球の量を含むパラメーターに関してスコアリングした。
【0144】
プラスモディウム・ベルゲイANKA感染及びバイオルミネセンスイメージング
ルシフェラーゼを発現するプラスモディウム・ベルゲイ(P. berghei)ANKA寄生生物を、C57BL/6J(野生型)継代マウスに腹腔内(i.p.)注射した。p.i.4日後、寄生生物血症が1~3%の間になったときに、継代マウスを安楽死させ、心臓穿刺により血液を収集して、5ml RPMI/PS+5U/mlヘパリンに入れた。5mlのRPMI/PSを添加し、338gで7分間室温にて遠心分離することにより、寄生生物接種材料を調製した。上清を廃棄し、計数のため1mlのRPMI/PSに赤血球細胞(RBC)ペレットを再懸濁した。計数のため0.1%トリパンブルー溶液(0.4%から1×PBSに希釈;MP Biomedicals Pty Ltd、Seven Hills NSW、豪州)においてRBCを調製した。5×10個のpRBC/mlを含有する寄生生物接種材料を調製し、マウスに、200μl(マウス当たり1×10個の寄生生物)をi.v.注射した。ヘキスト33342(Sigma-Aldrich)及びシト(Syto)(登録商標)84オレンジ蛍光核酸染色を使用したフローサイトメトリーにより、寄生生物血症をモニターした。毛皮のラフリング、背中を丸める、覚束ない足取りの存在、四肢麻痺及び痙攣を含む実験的脳性マラリア(ECM)の症状に関して、マウスを毎日スコアリングした。神経学的症状の発病において、イソテシア(IsoThesia)(登録商標)NXT(Henry Schein、Melville NY、米国)及び100μgのD-ルシフェリン(Caliper、Waltham MA、米国)i.p.を使用してマウスを麻酔し、バイオルミネセンスイメージングにおいてXenogen In Vivoイメージングシステム(IVIS(登録商標);PerkinElmer、Waltham MA、米国)セットを使用して1分間の持続時間にわたり撮像した。心臓を通して1×PBSでマウスを灌流し、バイオルミネセンスイメージングのため脳を採集した。リビングイメージ(Living Image)4ソフトウェア(PerkinElmer)を使用して、イメージング解析を実行した。
【0145】
実施例2.結果
感染におけるNKG7の差次的発現
ナイーブ及びドノバンリーシュマニア感染C57BL/6マウスの肝臓及び脾臓から選別されたCD4T細胞を、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって単離した(図1A及び図1B)。肝臓は、急性消散感染の部位である(免疫が発生し、この臓器は再感染から保護される)一方、脾臓は、慢性感染、過剰(hyper)炎症及び感染後56日目までにC57BL/6マウスにおける機能不全CD4T細胞の部位である。全ゲノムマイクロアレイにより、これらの組織特異的CD4T細胞による遺伝子発現を決定した。同時的に、クリニックへの提示の際にドノバンリーシュマニアに感染した及び薬物処置30日後の内臓リーシュマニア症(VL)患者由来のCD4T細胞を単離し、RNAseqを使用してヒトVLに関連する差次的に発現された遺伝子(DEG)の同定に使用した。次に、感染マウス及びヒトデータセットと、対応するナイーブ細胞集団(マウス)又は薬物処置30日後の対応する細胞集団(患者)のいずれかとの比較を行ったところ、脾臓、肝臓及びPBMC由来のCD4T細胞における1816種、2748種及び5784種のDEGを見出した(図1D及び図1E)。
【0146】
各供給源由来のDEGを比較して、3種の供給源の間及び2種の哺乳動物宿主種にわたって共通であった、VLにおけるCD4T細胞のためのコア遺伝子シグネチャーを決定した。この遺伝子シグネチャーは、150種の遺伝子からなった。感染に対する組織特異的応答に基づき、CD4T細胞の慢性シグネチャーを、脾臓及びヒトPBMCにおいて同様に上方調節又は下方調節された遺伝子として同定した(図1、丸で囲む)一方、CD4T細胞の消散シグネチャーは、肝臓及びヒトPBMCにおける重複遺伝子として同定した。図1Eにおけるベン図から分かる通り、153種及び258種の差次的に発現された遺伝子は、それぞれドノバンリーシュマニア感染におけるCD4T細胞の慢性及び消散シグネチャーを表した。NKG7は、慢性シグネチャー由来の上位ランクの上方調節された遺伝子として同定された。
【0147】
慢性シグネチャーは、49種の上方調節された遺伝子を含み(図2A)、NKG7は、マウス脾臓から単離されたCD4T細胞における最も上方調節された遺伝子であり(丸で囲む)、この組織における炎症に強く関連した。遺伝子オントロジー(GO):細胞区画(CC)項から情報を抽出することにより、これらの分子の細胞局在化を決定した(図2B)。NKG7は、GO:CC項「原形質膜の複合的成分」に基づき、膜タンパク質をコードすることが知られている。その上、GO項「タンパク質結合」は、NKG7に関連した。NKG7発現の増加は、リアルタイムqPCRによって、内臓リーシュマニア症患者(VL)及び固有対照(EC)のPBMCから単離されたCD4T細胞、並びにドノバンリーシュマニア感染マウスの脾臓由来のFoxp3CD4従来T細胞(Tconv)及びFoxp3CD4調節性T細胞(Treg)において検証された(図2C)。差次的遺伝子発現解析データと一致して、NKG7は、EC試料と比較して、VL試料において有意に上方調節された(p=.0087)。その上、Nkg7は、感染中に脾臓及び肝臓におけるTconv及びTreg細胞において有意に上方調節された。しかし、肝臓由来のナイーブTconv細胞におけるNkg7の転写物発現は、ナイーブ脾臓Tconv細胞よりも高かった。
【0148】
がんにおけるNKG7発現
がんにおけるNKG7の潜在的な役割を調査するために、がんゲノムアトラス(TCGA)の一部である37種のがんデータセット由来のNKG7遺伝子発現レベルを得た。腫瘍内のNKG7の差次的発現は、腎臓の腎明細胞癌(KIRC)及び神経膠芽腫(GBM)において最も著しく見出された(図3A;http://firebrowse.org/から適応)。発現データは、腫瘍生検から得られたが、がんリスクを付与するNKG7における変異部位の証拠は殆どなかった(図3B;http://www.cbioportal.org/outputから適応)。さらに、遺伝子発現データは、現在まで、NKG7発現が、他の組織と比較して、骨髄及び免疫系において群を抜いて最高であったことを示唆する(https://www.proteinatlas.org/ENSG00000105374-NKG7/tissue)。
【0149】
NKG7発現の差が有益であるか有害であるか決定するために、そのNKG7発現に基づき、皮膚の皮膚性黒色腫コホート(TGCA:SKCM)由来の470種の患者試料を順序付けた。高NKG7発現(上位四分位「高NKG7」)及び低NKG7発現(最低四分位「低NKG7」)への患者の層別化は、高NKG7発現を有する群における生存確率の有意な増加を明らかにした(図3C(左);p<0.0001、網掛け区域は信頼区間を示す)。この結果は、NKG7標的化のより幅広い臨床的関連を示す。次に、SKCMデータセットにおけるNKG7発現及びCD4、CD8又はNCAM発現の間の相関解析を実行して、NKG7が、CD4発現、CD8発現又はNCAM発現に関連するか決定した。これらの結果は、NKG7発現が、CD4発現及びCD8発現に高度に相関したが、NCAM発現には相関しなかったことを示した。
【0150】
B6.Nkg7-creマウスにおけるNKG7発現
B6.Nkg7-creマウスを作製して、様々な文脈におけるNkg7の発現又は損失を特徴付けた(図4A)。Nkg7の発現を決定するために、B6.Nkg7-creマウスを、B6.膜tdTomato/膜緑色蛍光タンパク質(GFP)(mT/mG)マウスと交雑して、Nkg7レポーターマウスNkg7-cre×mT/mGを産生した(図4B)。代用マーカーGFPにより、Cre発現(+)マウスにおけるNkg7の発現を決定し、ナイーブ状態のナチュラルキラー細胞において検証された。t分布型確率的近傍埋め込み(t-SNE)を実行して、ナイーブ状態における重要免疫サブセットによるNkg7の発現を評価した。t-SNEプロットは、ナイーブ状態におけるGFPの発現が、NK細胞(NK1.1TCRβ)及びCD8T細胞(NK1.1TCRβCD4CD8)に限定されることを実証した(データ図示せず)。
【0151】
Nkg7-cre×mT/mGマウスに、ドノバンリーシュマニアを感染させ、感染後(p.i.)13、28及び58日目に、各免疫細胞サブセット内のGFP発現の変化を追跡した。NK細胞集団内のGFP発現は、感染の経過において減少した一方、GFPCD4及びCD8T細胞の割合は増加した(図8)。これらの観察は、脾臓及び肝臓の両方において一貫した。ダンの多重比較検定によるクラスカル・ワリス検定を使用して、統計的有意性を決定した。は、p値を示し、エラーバーは、平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。
【0152】
B6.Nkg7-koマウスのドノバンリーシュマニア感染
B6N.Nkg7-KOマウスに、ドノバンリーシュマニアを感染させ、内臓リーシュマニア症における宿主保護及び病理におけるNkg7欠乏の効果を測定した。感染後(p.i.)14日目におけるNkg7欠乏の効果を定量化し、Nkg7が欠乏したマウスが、対照(野生型)マウスと比較して、より低い脾臓及び肝臓重量を示すことが見出された(図5A)。これは、少ない組織損傷をもたらすより低い炎症レベルを示す。Nkg7欠乏マウスにおける寄生生物負荷は、野生型マウスと比較して、顕著に上昇し(図5B)、Nkg7欠乏が、弱められた炎症性応答、よって、寄生生物を排除する宿主免疫応答の損なわれた能力をもたらしたことを示唆する。これらの観察に合致して、炎症促進性サイトカイン、インターフェロン(IFN)γ、腫瘍壊死因子(TNF)及びIL-6のレベルは、対照マウスと比較して、Nkg7欠乏マウスの血清においてより低いことが見出された(図5C)。
【0153】
p.i.14、28及び58日目に、脾臓及び肝臓における寄生生物負荷を測定し(リーシュマン・ドノバン単位(LDU)として表現された寄生生物負荷)、p.i.14日目に加えて、p.i.28及び58日目における増加した肝臓寄生生物負荷(図9A)が見出された。しかし、以前に観察された通り、炎症促進性サイトカインIFNγ、TNF及びMCP-1の増加は、p.i.14日目に制限された(図9B)。次に、本発明者らは、観察された表現型に寄与した免疫細胞集団を同定しようと努力した。ドノバンリーシュマニア感染における宿主免疫応答におけるCD4T細胞の主要な役割を考慮して、C57BL/6N対照又はB6N.Nkg7-KOドナーのいずれかから、Rag1-KOマウスへと、CD4T細胞を移入した。Nkg7欠乏がCD4T細胞に制限された場合であっても、p.i.14日目の肝臓における増加した寄生生物負荷が観察され、Nkg7の非存在下での、寄生生物負荷の増悪へのその寄与を示唆する(図9C)。
【0154】
NKG7の膜貫通予測
NKG7は、膜貫通予測プログラムTMpredを使用して、膜貫通タンパク質であると確認された。ヒト(図6A)及びマウス(図6B)タンパク質のためのTMpredからの予測は、細胞外側で発現される可能性がある、4つの膜貫通ヘリックス及び2つの細胞外ループの存在を示した。NKG7タンパク質の予測されたモデルは、TMpredによる予測と一貫し、ヒト及びマウスNKG7の両方で保存された2つの細胞外ループ(矢印で示される)を示した(図6C)。ヒトNKG7細胞外ループのアミノ酸配列は、配列番号11及び12に提示し、マウスNKG7細胞外ループのアミノ酸配列は、配列番号13及び14に提示する。
【0155】
Nkg7欠乏は、in vitroで抗炎症性サイトカインインターロイキン(IL)-10の上昇したレベルをもたらす
免疫刺激物質の文脈におけるNkg7欠乏の効果を決定するために、本発明者らは、C57BL/6N(B6N;野生型)及びB6N.Nkg7-/--KOマウスから脾臓単核細胞を単離し、精製モノクローナル抗マウス(α)-CD3+α-CD28+組換え(r)IL-2(Th0条件)、リポ多糖(LPS)又はODN 1826(CpG)のいずれかによるin vitro刺激を24時間実行した。微生物関連分子パターン(MAMP):LPS及びCpGによる刺激は、B6Nウェルと比較して、B6N.Nkg7-/-ウェルから収集した上清における上昇したIL-10レベルをもたらした(図7)。
【0156】
Nkg7欠乏は、転移増加を促進する
がんの文脈におけるNkg7の役割を調査するため、B16F10又はLWT1細胞のいずれかを、C57BL/6N(B6N;野生型)及びB6N.Nkg7-KOマウスに移入した。Nkg7欠乏は、両方のモデルにおける肺転移増加をもたらした(図10A)。これらのモデル内の転移の制御におけるNK細胞の重要性を考慮し、B6N対照マウス又はB6N.Nkg7-KOマウスからNK細胞を単離し、Rag2γc-KOマウスに移入した。Nkg7欠乏がNK細胞に制限された場合であっても、同じ表現型(phenoptype)が観察され、Nkg7の非存在での、転移増加におけるその役割を示唆する(図10B)。Nkg7欠乏は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎における炎症を低下させる。
【0157】
C57BL/6N(B6N;野生型)及びB6N.Nkg7-KOマウスに、DSSを含有する飲料水を6日間与えて、大腸炎を誘導した。症状の重症度(疾患活動性指標(DAI)として報告)及び体重変化を毎日測定した。B6N.Nkg7-KOマウスは、野生型マウスと比較して、重症度の低い疾患及び減少した程度の体重減少を示した(図11A)。結腸の短縮は、炎症を示し、DSSの投与後7日目における結腸の長さの測定は、野生型マウスと比べて、B6N.Nkg7-KOマウスにおける少ない炎症を示した(図11B)。結腸切片の組織学的解析も、B6N.Nkg7-KOマウスにおける少ない炎症を示し、腸管陰窩は、大部分はインタクトであることが観察され(図11C)、切片は、より低い組織学的スコアを記録した(図11D)。
【0158】
B6.Nkg7-koマウスのプラスモディウム・ベルゲイANKA感染
炎症によって媒介される実験的脳性マラリア(ECM)の発症により、プラスモディウム・ベルゲイANKA感染は、C57BL/6N(B6N;野生型)マウスにおいて致死的である。C57BL/6N(B6N;野生型)及びB6N.Nkg7-KOマウスに、プラスモディウム・ベルゲイANKAを感染させて、Nkg7欠乏が、ECMに効果を有するか決定した。B6N.Nkg7-KOマウスは、増加した循環寄生赤血球細胞(pRBC)を有することが見出されたが(図12A)、このようなマウスは、野生型マウスと比較して、重症度の低いECM症状を示した(ECMスコアとして報告;図12B)。B6N.Nkg7-KOマウスはまた、最大でp.i.14日目まで生存したが、そのときに、貧血の症状を患っていたが、ECMではなかった(図12C)。逆に、野生型マウスは、p.i.7~8日目の間にECMに屈した。ルシフェラーゼ発現プラスモディウム・ベルゲイANKA寄生生物の使用は、バイオルミネセンスイメージングを使用した、全身及び脳の寄生生物負荷の測定を可能にした。B6N.Nkg7-KOマウスは、野生型マウスと比べて、減少した全身(図12D)及び脳(図12E)の寄生生物負荷を示した。
【0159】
要約
RNA-seqデータセットは、ドノバンリーシュマニア感染におけるヒト末梢血単核細胞(PBMC)及びマウス脾臓から単離されたCD4T細胞における最も差次的に発現された遺伝子のうちの1つであるとNKG7を同定した。本開示は、Nkg7プロモーターの下でCREを発現するマウスを含む、免疫標的としてのNKG7をさらに特徴付けるために必要とされるツールの作製について記載する。膜レポーターと交雑された、このB6.Nkg7-creマウスは、定常状態において、また、ドノバンリーシュマニア感染及び移植片対宿主病(GVHD)の文脈において、in vitro及びin vivoの両方でNkg7を発現する免疫細胞の同定を可能にした。
【0160】
さらに、CD4T細胞におけるNKG7発現のインデューサー及びサプレッサーが同定された。KOMPリポジトリから得られたNkg7-KOマウスを使用して、Nkg7の損失が、ドノバンリーシュマニア感染において血液における有意に低下した濃度の炎症促進性サイトカインをもたらすことが実証された。
【0161】
当業者であれば、本開示の幅広い一般範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して多数の変動及び/又は改変を為すことができることが認められるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で、制限的ではなく説明的として考慮されるべきである。
【0162】
本明細書に記述及び/又は参照されているあらゆる刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0163】
本願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、AU 2018901677に対する優先権を主張する。
【0164】
本明細書に含まれた文書、行為(act)、材料、装置、物品その他に関するいかなる記述も、単に、本発明の文脈の提供を目的とする。これは、本願の各請求項の優先日の前に存在したため、これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術の基礎の一部を形成する、又は本発明に関連する分野における共通一般知識であったことの承認として解釈されるべきではない。
【0165】
参考文献
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Zhang et al. (2014) Human MolecularGenetics, (R1): R40-6
【0166】
配列表の要点
配列番号1 - NKG7ポリペプチドのアミノ酸配列
配列番号2 - NKG7核酸コード配列
配列番号3 - NKG7ポリペプチドアイソフォーム1のアミノ酸配列
配列番号4 - NKG7アイソフォーム1の核酸コード配列
配列番号5 - NKG7ポリペプチドバリアントのアミノ酸配列
配列番号6 - NKG7ポリペプチドバリアントの核酸コード配列
配列番号7 - マウスのNKG7ポリペプチドのアミノ酸配列
配列番号8 - マウスのNKG7ポリペプチドの核酸コード配列
配列番号9 - マウスのNKG7ポリペプチドバリアントのアミノ酸配列
配列番号10 - マウスのNKG7ポリペプチドバリアントの核酸コード配列
配列番号11 - 細胞外ループ1の予測されるアミノ酸配列
配列番号12 - 細胞外ループ2の予測されるアミノ酸配列
配列番号13 - マウスの細胞外ループ1の予測されるアミノ酸配列
配列番号14 - マウスの細胞外ループ2の予測されるアミノ酸配列
図1
図2A
図2B-2C】
図3A-3B】
図3C
図4
図5
図6A-6B】
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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