(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】臍帯間葉系幹細胞及びその細胞シートの作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240814BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240814BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240814BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240814BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240814BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240814BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12M1/00 A
C12M3/00 A
A61K35/51
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61L27/38 100
A61L27/38 120
(21)【出願番号】P 2020572810
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2020073812
(87)【国際公開番号】W WO2020173280
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】201910149006.8
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510280589
【氏名又は名称】京東方科技集團股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BOE TECHNOLOGY GROUP CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.10 Jiuxianqiao Rd.,Chaoyang District,Beijing 100015,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ,ドンファ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,デェファ
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ,ユーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ,シュァイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シュリン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シァォフゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ファン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107189982(CN,A)
【文献】特開2016-096732(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105420179(CN,A)
【文献】KURAMOTO, G., et al.,958: The harvesting, transplant, and tracking of stem cell sheets for the prevention of uterine scarring.,American Journal of Obstetrics and Gynecology,2019年,Vol.220, No.1,S616-S617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.臍帯組織ブロックを培養容器に広げるステップ、
b.完全合成培地をバッチ供給で添加するステップ、
c.培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得るステップを含
み、
ステップbにおいて、前記完全合成培地を12-36時間の間隔で、2-5バッチで前記培養容器に添加し、
最後の添加以外の添加において、前記完全合成培地を前記臍帯組織ブロックの濡れを維持し且つ臍帯組織ブロックを覆わない量で添加し、
最後の添加において、前記完全合成培地を前記臍帯組織ブロックを覆う量で添加する、
臍帯間葉系幹細胞を作製する方法。
【請求項2】
ステップbにおいて、前記完全合成培地を3又は4バッチで培養容器に添加する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
ステップbにおいて、前記完全合成培地
を約24時間の間隔でバッチで添加する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップaは、
a1.ウォートンジェリーを臍帯組織から分離すること、
a2.前記ウォートンジェリーを切り刻み、組織ブロックを得ること、及び
a3.前記組織ブロックを培養容器に広げることを含む、請求項1-
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップcは、
c1.前記組織ブロックの周囲に培養容器に付着している細胞があった場合、前記組織ブロックを取り除き、適量の完全合成培地を前記培養容器に添加して培養を続けること、
c2.培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得ることを含む、請求項1-
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(1)ウォートンジェリーを臍帯組織から分離するステップ、
(2)前記ウォートンジェリーを切り刻み、組織ブロックを得るステップ、
(3)前記組織ブロックを培養容器に広げるステップ、
(4)適量の完全合成培地をステップ(3)に記載の組織ブロックに滴下し、培養を行うステップ、
(5)適量の完全合成培地をステップ(4)に記載の組織ブロックに滴下し、培養を続けるステップ、
(6)適量の完全合成培地を組織ブロックを覆うように前記培養容器に添加し、培養を続けるステップ、
(7)前記組織ブロックの周囲に培養容器に付着している細胞があった場合、前記組織ブロックを取り除き、適量の完全合成培地を前記培養容器に添加して培養を続けるステップ、
(8)培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップcの後に、前記臍帯間葉系幹細胞の継代を行うステップをさらに含む、請求項1-
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記臍帯間葉系幹細胞のコンフルエントが約85%以上であるときに、臍帯間葉系幹細胞の継代を行う、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記完全合成培地が、10%のウシ胎児血清を含むDMEM/F12、αMEM、又はDMEMから選択される、請求項1-
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記完全合成培地が、無血清培地Lonza(12-725f)及び血清代替品Pall(15950-017)を含む、請求項1-
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(4)及び/又はステップ(5)において、前記培養時間は約24時間であり、且つ/或いは、前記完全合成培地の量は約20-100μlである、請求項
6-
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(6)において、前記培養時間は約3-5日であり、且つ/或いは、前記完全合成培地の量は約3mlである、請求項
6-
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
コーティング溶液を温度感受性培養皿に添加し、インキュベーションを行うステップ
であって、前記コーティング溶液が100%血清であり、コーティング時間は約12-24時間である、ステップ、
臍帯間葉系幹細胞を前記温度感受性培養皿に添加し、培養を行うステップ、
予冷された緩衝液を前記温度感受性培養皿に添加し、臍帯間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞によって分泌された細胞外基質を層状に離脱させ、臍帯間葉系幹細胞シートを得るステップを含む、臍帯間葉系幹細胞シートを作製する方法
であって、
前記臍帯間葉系幹細胞が、請求項1-12のいずれか一項に記載の方法によって作製される、方法。
【請求項14】
前記血清が、ヒト末梢血から単離された血清又はウシ胎児血清から選択される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
(1)前記コーティング溶液の量は約0.05-0.3ml/cm
2(培養皿の底の面積)、例えば、約0.09ml/cm
2、約0.14ml/cm
2、又は約0.25ml/cm
2であること
、
(2)コーティング条件は37℃、5%CO
2であること、の特徴のうちの1つ又は複数を有する、請求項
13又は14に記載の方法。
【請求項16】
(1)前記臍帯間葉系幹細胞の細胞懸濁液を、約1×10
6-1×10
7細胞/cm
2の密度で前記温度感受性培養皿に添加すること、
(2)前記細胞懸濁液は、臍帯間葉系幹細胞を含む完全合成培地であること、
(3)培養条件は約12-36時間であること、
(4)培養条件は37℃、5%CO
2であること、の特徴のうちの1つ又は複数を有する、請求項
13-
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記完全合成培地が、10%のウシ胎児血清を含むDMEM/F12、αMEM、又はDMEMから選択され、或いは、前記完全合成培地が血清代替品Pall(15950-017)を含む無血清培地Lonza(12-725f)である、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記緩衝液が、HBSS、PBS又は生理食塩水から選択される、請求項
13-
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記臍帯間葉系幹細胞シートを保存容器に移すステップをさらに含む、請求項
13-
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
はさみを使用してピペットチップの端部の約3分の1を切断し、短く切れたチップを使用してピペットにより臍帯間葉系幹細胞シートを吸引し、臍帯間葉系幹細胞シートを保存容器に移す、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記温度感受性培養皿中のコーティング溶液を、臍帯間葉系幹細胞シートと共に保存容器に入れる、請求項
19に記載の方法。
【請求項22】
シートスクレーパーを使用して前記臍帯間葉系幹細胞シートを掬い上げて保存容器に移す、請求項
19に記載の方法。
【請求項23】
請求項
13-
22のいずれか一項に記載の方法によって作製される、臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項24】
作製プロセス中に培養皿に接触しない表面及び培養皿に接触する基底面を有し、前記表面が比較的に滑らかであり、前記基底面が比較的に粗い、請求項
23に記載の臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項25】
実質的に一致の細胞方向性を示す単層又は多層相互接続細胞構造を有し、且つ臍帯間葉系幹細胞によって分泌された細胞外基質を実質的に保持している、請求項
23又は
24に記載の臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項26】
少なくとも基底面に細胞外基質が分布している、請求項
25に記載の臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項27】
フィブロネクチン及びインテグリンβ1に富む、請求項
23-
26のいずれか一項に記載の
臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項28】
前記細胞シートにおける
臍帯間葉系幹細胞が、様々な血管新生因子及び免疫調節因子を分泌することができ、例えば、前記血管新生因子及び免疫調節因子には、肝細胞増殖因子(HGF)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、及び血管内皮増殖因子(VEGF)のうちの1つ又は複数を含む、請求項
23-
27のいずれか一項に記載の
臍帯間葉系幹細胞シート。
【請求項29】
被験者の心臓組織損傷又は心臓機能低下に関連する疾患を治療するための組成物の作製における、請求項
23-
28のいずれか一項に記載の臍帯間葉系幹細胞シートの使用。
【請求項30】
前記疾患が心不全である、請求項
29に記載の使用。
【請求項31】
前記心不全が、急性虚血性心不全などの虚血性心不全である、請求項
30に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2019年2月28日に提出された出願番号がCN201910149006.8であり、発明の名称が「臍帯間葉系幹細胞及びその細胞シートの作製方法」である中国特許出願の優先権を主張する。前記中国特許出願に開示された内容を完全にここに引用して本願の一部として扱う。
【0002】
本開示は、再生医療及び細胞生物学の分野、特に臍帯間葉系幹細胞を作製する方法、及び臍帯間葉系幹細胞シート及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
臍帯間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells,MSC)は、新生児の臍帯組織に存在する多機能幹細胞の一種であり、多くの種類の組織細胞に分化することができ、幅広い臨床応用の可能性がある。現在、臍帯組織の分離には、酵素消化と組織ブロック付着の2つの一般的な方法がある。酵素消化は、コストがかかり、操作が複雑で制御が難しく、細胞損傷や細胞変異を引き起こしやすいため、臨床応用におけるリスクが高い。組織ブロック付着法は、操作が簡単であり、コストが低く、細胞への損傷が少なく、臨床応用に適している。しかし、従来の組織ブロック付着で臍帯間葉系幹細胞を得るときに、周期が長く、初代細胞数が少なく、純度が低く、臨床応用に使用できる細胞数が国際基準を満たせないため、臨床応用が困難である。したがって、当技術分野では、臍帯間葉系幹細胞を高収率で作製する方法が必要である。
【0004】
さらに、現在、臍帯間葉系幹細胞の自身組織修復における基礎研究及び臨床応用は、主に細胞懸濁液の直接注射又は組織工学足場材料と組み合わせた後の移植を採用しているが、どちらも一定の制限がある。幹細胞懸濁液の直接注射は、多数の幹細胞が失われ、細胞の利用率が低くなり、幹細胞の組織修復機能が制限される。細胞と組織工学足場材料と組み合わせた後の移植は、細胞が失われる問題を解決したが、足場材料は生体内でさまざまな程度の炎症を引き起こす可能性があり、且つ材料の分解生成物が局所組織の微小環境を変化させ、より深刻な病変を引き起こす可能性がある。
【0005】
細胞シート(cell sheet)技術は、幹細胞の移植と応用における新技術である。細胞シートは、細胞自体によって分泌される細胞外基質により内因性の足場を形成し、細胞間及び細胞と細胞外基質との間の相互作用及び遺伝情報の伝達を促進する。ある意味で、細胞シート工学は、胚発生組織形成のプロセスを最大限にシミュレートすることができ、その機能と価値はすべての外因性生物学的足場材料をはるかに超えている。
【発明の概要】
【0006】
第1の様態において、本開示は、培地をバッチで添加することにより、細胞収率(即ち、1世代あたりの細胞増殖倍数)を著しく改善する、臍帯間葉系幹細胞を作製する方法を提供する。具体的には、本開示の臍帯間葉系幹細胞を作製する方法は、以下のステップを含む:a.臍帯組織ブロックを培養容器に広げるステップ、b.完全合成培地をバッチ供給で添加するステップ、c.培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得るステップ。
【0007】
ある実施形態では、ステップbにおいて、前記完全合成培地を2-5バッチで前記培養容器に添加し、最後の添加以外の添加において、前記完全合成培地を前記臍帯組織ブロックの濡れを維持し且つ臍帯組織ブロックを覆わない量で添加し、最後の添加において、前記完全合成培地を前記臍帯組織ブロックを覆う量で添加する。
【0008】
ある実施形態では、ステップbにおいて、前記完全合成培地を3又は4バッチで培養容器に添加する。
【0009】
ある実施形態では、ステップbにおいて、前記完全合成培地を12-36時間の間隔、例えば、約24時間の間隔でバッチで添加する。
ある実施形態では、ステップaは、
a1.ウォートンジェリーを臍帯組織から分離すること、
a2.前記ウォートンジェリーを切り刻み、組織ブロックを得ること、及び
a3.前記組織ブロックを培養容器に広げることを含む。
【0010】
ある実施形態では、ステップcは、
c1.前記組織ブロックの周囲に培養容器に付着している細胞があった場合、前記組織ブロックを取り除き、適量の完全合成培地を前記培養容器に添加して培養を続けること、
c2.培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得ることを含む。
【0011】
ある実施形態では、前記方法は、
(1)ウォートンジェリーを臍帯組織から分離するステップ、
(2)前記ウォートンジェリーを切り刻み、組織ブロックを得るステップ、
(3)前記組織ブロックを培養容器に広げるステップ、
(4)適量の完全合成培地をステップ(3)に記載の組織ブロックに滴下し、培養を行うステップ、
(5)適量の完全合成培地をステップ(4)に記載の組織ブロックに滴下し、培養を続けるステップ、
(6)適量の完全合成培地を組織ブロックを覆うように前記培養容器に添加し、培養を続けるステップ、
(7)前記組織ブロックの周囲に培養容器に付着している細胞があった場合、前記組織ブロックを取り除き、適量の完全合成培地を前記培養容器に添加して培養を続けるステップ、
(8)培養容器に付着している細胞を分離し、臍帯間葉系幹細胞を得るステップを含む。
【0012】
ある実施形態では、ステップ(7)に記載の培養容器に付着している細胞は、P0世代の臍帯間葉系幹細胞である。ある実施形態では、ステップ(7)に記載の培養容器に付着している細胞のコンフルエンスが約80%以上(例えば、約85%以上、約90%以上、又は約95%以上)である場合、細胞を培養容器から分離し、P0世代の臍帯間葉系幹細胞を得ることができる。
【0013】
ある実施形態では、前記完全合成培地は、10%のウシ胎児血清を含むDMEM/F12、αMEM又はDMEMから選択される。
【0014】
ある実施形態では、前記完全合成培地は、血清代替品を含む無血清培地である。
【0015】
ある実施形態では、前記完全合成培地は、無血清培地Lonza(12-725f)及び血清置換Pall(15950-017)を含む。
【0016】
ある実施形態では、前記方法は、ステップ(1)の前に、以下のステップをさらに含む:(i)新鮮な臍帯組織を提供する;(ii)臍帯組織を洗浄して血液汚れを除去する。ある実施形態では、臍帯組織は、PBS緩衝液又は生理食塩水で洗浄される。ある実施形態では、PBS緩衝液又は生理食塩水は、ストレプトマイシン及びペニシリンを含まない。
【0017】
ある実施形態では、ステップ(1)において、ウォートンジェリーを以下のステップによって分離する:臍帯組織の外膜及び血管を除去し、ウォートンジェリーを剥がす。
【0018】
ある実施形態では、ステップ(2)において、滅菌はさみを使用し、前記ウォートンジェリーを組織ブロックに切り刻む。
【0019】
ある実施形態では、前記組織ブロックの体積は約1-2mm3である。
【0020】
ある実施形態では、ステップ(3)において、前記培養容器は細胞培養皿である。
【0021】
ある実施形態では、前記培養容器は、直径100mmの細胞培養皿である。
【0022】
ある実施形態では、組織ブロックを約2-30mmの間隔で培養容器内に均一に広がる。
【0023】
ある実施形態では、ステップ(4)-(7)において、培養条件は、37℃及び5%CO2である。
【0024】
ある実施形態では、ステップ(4)-(7)において、培養は、37℃及び5%CO2のインキュベーター内で行われる。
【0025】
ある実施形態では、ステップ(4)において、前記培養時間は約24時間である。
【0026】
ある実施形態では、ステップ(4)において、前記完全合成培地の量は、約20-100μlである。
【0027】
ある実施形態では、ステップ(5)において、前記培養時間は約24時間である。
【0028】
ある実施形態では、ステップ(5)において、前記完全合成培地の量は、約20-200μlである。
【0029】
ある実施形態では、ステップ(6)において、前記培養時間は約3-5日である。
【0030】
ある実施形態では、ステップ(6)において、前記完全合成培地の量は約3mlである。
【0031】
ある実施形態では、ステップ(7)において、前記完全合成培地の量は約5mlである。
【0032】
ある実施形態では、前記方法は、ステップ(7)の後、以下のステップをさらに含む:細胞コンフルエンスが約85%以上(例えば、約90%以上、約95%以上、又は約100%以上)である場合、細胞の継代を行う。
【0033】
ある実施形態では、継代は、約1×106/mlの細胞密度で行われる。
【0034】
細胞の継代方法は、当業者にはよく知られている。例えば、この方法は、細胞を培養容器から分離し、細胞を培地中に均一に分散させ、次いで培養容器に接種することを含み得る。適量の培地を添加し、細胞増殖状態に応じて1-5日ごとに適量の新鮮な培地を交換する。細胞が70-100%のコンフルエンスまで増殖したら、継代操作を繰り返す。細胞が継代されるたびに、世代数は1ずつ増加する。臍帯間葉系幹細胞は、壁に付着して増殖し、線維状であり、一致な形状を示す。
【0035】
ある実施形態では、培養容器から細胞を分離する方法は、トリプシン及び類似物の消化、セルスクレーパーの使用を含むが、これらに限定されない。
【0036】
ある実施形態では、細胞は、攪拌、ボルテックスなどによって培地中に均一に分散され、次いで接種される。
【0037】
必要に応じて、培養により臍帯間葉系幹細胞を取得した後、MTT法、WST法、DNA含有量検出法、ATP検出法などにより細胞増殖曲線を求め、臍帯間葉系幹細胞の増殖活性を評価することができる。さらに、前記単離培養された臍帯間葉系幹細胞は、フローサイトメトリーによって細胞表面マーカーを検出すること、三向分化検出及びPCR法によって細胞発現遺伝子を検出するによって、同定することができる。
【0038】
ある実施形態では、前記方法は、ステップ(8)の後、前記臍帯間葉系幹細胞を凍結保存するステップをさらに含む。
【0039】
ある実施形態では、凍結保存は、約2×106/mlの細胞密度で実施される。
【0040】
第2の様態において、本開示は、臍帯間葉系幹細胞シートを作製する方法を提供し、この方法は以下の特徴がある:酵素と類似物を用いて消化せずに、臍帯間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞が増殖過程で分泌した細胞外基質及び増殖因子を完全に保持して培養皿の表面から分離し、臍帯間葉系幹細胞シートを得る。
【0041】
具体的には、本開示の臍帯間葉系幹細胞シートを作製する方法は、以下のステップを含む:
血清を含むコーティング溶液を温度感受性培養皿に添加し、インキュベーションを行うステップ、
臍帯間葉系幹細胞を前記温度感受性培養皿に添加し、培養を行うステップ、
予冷された緩衝液を前記温度感受性培養皿に添加し、臍帯間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞によって分泌された細胞外基質を層状に離脱させ、臍帯間葉系幹細胞シートを得るステップ。
【0042】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞は、本開示の第1の様態の方法によって作製される。
【0043】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞は、世代数P0-P20の臍帯間葉系幹細胞、例えば、世代数P2-P10の臍帯間葉系幹細胞である。
【0044】
ある実施形態では、臍帯間葉系幹細胞の細胞懸濁液を温度感受性培養皿に添加して培養を行う。
【0045】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞は、世代数P0-P20の臍帯間葉系幹細胞である。ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞は、世代数P2-P10の臍帯間葉系幹細胞である。
【0046】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞は、第1の様態に記載の方法によって作製される。
【0047】
本明細書に記載の「温度感受性培養皿」は、表面が温度感受性ポリマー材料でコーティングされた培養皿を指し、当該ポリマー材料は、分子鎖の伸びが温度によって異なり、親水性又は疎水性を示し、当該ポリマー材料の親水性又は疎水性は、外部温度によって変化することができる。温度感受性培養皿の表面が親水性である場合、細胞及び細胞によって分泌される細胞外基質との接着性が弱くなり、細胞は層状に脱落する。特定の実施形態では、温度がポリマー物質の下限臨界溶液温度(LCST)よりも低くなると、当該温度感受性培養皿の表面は親水性になるので、細胞は層状に脱落する。
【0048】
本開示は、温度感受性培養皿を利用することにより、酵素と類似物を用いて消化せず且つ物理的に剥離せずに、層状に形成した間葉系幹細胞を温度感受性培養皿の底から剥離し、細胞外基質の完全な結着を保持している細胞シートになることを達成した。
【0049】
ある実施形態では、前記血清は、ヒト末梢血から単離された血清又はウシ胎児血清(FBS)から選択される。ある実施形態では、前記ヒト末梢血から単離された血清は、自体の血清であり、即ち、自体末梢血から単離された血清である。本明細書に記載の「自体」とは、当該ヒト末梢血から単離された血清が被験者から分離され取得し、且つ当該血清を使用して得られた臍帯間葉系幹細胞シートが同じ被験者に投与されること、即ちドナーとレセプターが同じであることを意味する。そのような実施形態では、理論に拘束されることなく、自体血清の使用は、被験者からの免疫応答を低減又は排除することが期待されると考えられている。
【0050】
ある実施形態では、前記コーティング溶液は100%血清である。コーティング溶液に含まれる接着因子の量とコーティング時間は、細胞シートの形成に直接影響する。たとえば、接着因子が少なすぎると細胞がうまく接着せず、接着因子が多すぎると、細胞の増殖を妨げるので、接着因子の量とその作用時間をうまく制御することは細胞シートの形成にとって極めて重要である。本出願の発明者は、100%血清により12-24時間のコーティングを行うと、コーティングシステム中の接着因子の含有量は、細胞付着だけでなく、細胞増殖にも適し、シートの形成に促進することを予期せず発見した。
【0051】
ある実施形態では、前記コーティング溶液は、少なくとも10%(v/v)(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%)血清の基本培地を含む。ある実施形態では、前記基本培地は、DMEM/F12、αMEM又はDMEMから選択される。そのような実施形態では、前記血清はFBSである。
【0052】
他の実施形態では、前記基本培地は、Lonza(12-725f)などの無血清培地(SFM)である。そのような実施形態では、前記血清は、ヒト末梢血に由来する血清である。
【0053】
ある実施形態では、前記コーティング溶液の量は、約0.05-0.3ml/cm2(培養皿の底の面積)、例えば、約0.09ml/cm2、約0.14ml/cm2、又は約0.25ml/cm2である。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が100mmである場合、前記コーティング溶液の量は約5mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が60mmである場合、前記コーティング溶液の量は約3mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が35mmである場合、前記コーティング溶液の量は約2mlである。
【0054】
ある実施形態では、コーティング時間は約12-24時間である。ある実施形態では、コーティング条件は、37℃、5%CO2である。
【0055】
ある実施形態では、前記コーティング溶液は、温度感受性培養皿に加えられる;温度感受性培養皿は、37℃、5%CO2インキュベーターに入れられ、約12-24時間インキュベートされる;任意で、温度感受性培養皿に残っているコーティング溶液を捨てる。
【0056】
ある実施形態では、臍帯間葉系幹細胞の細胞懸濁液は、約1×106-1×107細胞/cm2(例えば、約2×106-4×106細胞/cm2、約2.5×106-6.0×107細胞/cm2、約5.5×106-6.5×106細胞/cm2)の密度で前記温度感受性培養皿に加えられる。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が100mmである場合、接種細胞濃度は約6×107-7×107細胞/mlであり、接種体積は約5mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が60mmである場合、接種細胞濃度は約2×107-4×107細胞/mlであり、接種体積は約3mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が35mmである場合、接種細胞濃度は約8×106-1.5×107細胞/mlであり、接種体積は約2mlである。
【0057】
ある実施形態では、前記細胞懸濁液は、臍帯間葉系幹細胞を含む完全合成培地である。ある実施形態では、前記完全合成培地は、10%のウシ胎児血清を含むDMEM/F12、αMEM、又はDMEMから選択される。他の実施形態では、前記完全合成培地は、血清代替品を含む無血清培地、例えば、血清代替品Pall(15950-017)を含む無血清培地Lonza(12-725f)である。
【0058】
ある実施形態では、培養条件は12-36時間である。ある実施形態では、培養条件は、37℃、5%CO2である。
【0059】
ある実施形態では、前記緩衝液は、HBSS、PBS又は生理食塩水から選択される。ある実施形態では、4℃の予冷された緩衝液(例えば、HBSS、PBS、又は生理食塩水)が加えられる。予冷された緩衝液を加えた後、層状の臍帯間葉系幹細胞は、温度感受性培養皿の底面から徐々に分離し、細胞外基質の完全な結着を保持している細胞シートになる。
【0060】
ある実施形態では、前記予冷された緩衝液の量は、約0.05-0.3ml/cm2(培養皿の底の面積)、例えば、約0.09ml/cm2、約0.14ml/cm2、又は約0.25ml/cm2である。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が100mmである場合、緩衝液の量は約5mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が60mmである場合、緩衝液の量は約3mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が35mmである場合、緩衝液の量は約2mlである。
【0061】
ある実施形態では、前記方法は、前記臍帯間葉系幹細胞シートを保存容器に移すステップをさらに含む。ある実施形態では、前記保存容器は細胞培養皿である。
【0062】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートを以下のステップによって保存容器に移すことができる:はさみ(例えば、滅菌されたはさみ)を使用し、ピペットチップ(例えば、1mlチップ)の端部の約1/3を切り刻む;この短く切れたチップを使用してピペットでシートを吸引し、シートを保存容器に移す。
【0063】
他の実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートを以下のステップによって保存容器に移すことができる:前記温度感受性培養皿内の液体を、細胞シートと共に保存容器に注ぐ。温度感受性培養皿を注ぐと、皿の底から剥がれた細胞シートが液体の流れとともに保存容器に流れ込む。この移送ステップでは、細胞シートが液体に浮いているため、細胞シートが温度感受性培養皿や保存容器の端に直接付着することなく、細胞シートの破れや損傷を防ぐことができる。
【0064】
ある実施形態では、移送される細胞シートがある温度感受性培養皿における液体量(即ち、緩衝液の量)は、約0.05-0.4ml/cm2(培養皿の底の面積)、例えば、約0.09-0.18ml/cm2、約0.14-0.24ml/cm2、又は約0.25-0.38ml/cm2に維持される。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が100mmである場合、前記液体量は約5-10mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が60mmである場合、前記液体量は約3-5mlである。ある実施形態では、温度感受性培養皿の直径が35mmである場合、前記液体量は約2-3mlである。
【0065】
他の実施形態では、シートスクレーパーを使用して前記臍帯間葉系幹細胞シートを掬い上げて保存容器に移し得る。前記シートスクレーパーは、専門なシートスクレーパーやセルスクレーパーなどの細胞に使用できる任意のスクレーパー製品である。
【0066】
第3の様態では、本開示は、第2の様態に記載の方法によって作製される臍帯間葉系幹細胞シートを提供する。本開示の方法によって作製された臍帯間葉系幹細胞シートは、臍帯間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞が増殖過程に分泌したすべての細胞外基質及び増殖因子を含む。また、酵素及び類似物を用いて消化しなく物理的に剥離もしないため、本開示の臍帯間葉系幹細胞シートにおける臍帯間葉系幹細胞の密度が高く、シートの厚さが均一であり、縁がきれいである。本開示の臍帯間葉系幹細胞シートは、血管新生及び免疫調節を含む様々なサイトカインを分泌し、組織及び器官の修復に関与することができる。
【0067】
必要に応じて、臍帯間葉系幹細胞シートを作製した後、細胞シートの表面構造を走査型電子顕微鏡で観察することができる。さらに、細胞シートから分泌されるサイトカインの数と、細胞シートにおける細胞外基質に含まれるタンパク質とを検出することができる。
【0068】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートは、作製プロセス中に培養皿に接触しない表面及び培養皿に接触する基底面を有し、前記表面は比較的滑らかであり、前記基底面は比較的粗い。
【0069】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートは、実質的に一致の細胞方向性を示す単層又は多層相互接続細胞構造を有し、且つ臍帯間葉系幹細胞によって分泌された細胞外基質を実質的に保持している。
【0070】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートは、少なくともその基底面に分布している細胞外基質(例えば、実質的に連続した一層の細胞外基質)を有する。ある実施形態では、前記細胞外基質は、ポリアミノ酸、コラーゲン、多糖類、フィブロネクチン、ビトロン、及びラミニンのうちの少なくとも1つを含み、例えば、フィブロネクチン及びラミニンの混合物であってもよい。ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートに含まれる臍帯間葉系幹細胞の間の接続位置には前記物質を含む。
【0071】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートは、オフホワイトであり、緻密な構造を有し、そして滑らかで平坦な表面を有する。
【0072】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シートは、フィブロネクチン及びインテグリンβ1に富む。
【0073】
ある実施形態では、前記臍帯間葉系幹細胞シート中の網膜色素上皮細胞は、様々な血管新生因子及び免疫調節因子を分泌することができる。例えば、前記血管新生因子及び免疫調節因子には、肝細胞増殖因子(HGF)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)及び血管内皮増殖因子(VEGF)の1つ又は複数を含み得る。
【0074】
第4の様態では、本開示は、被験者の心臓組織損傷又は心臓機能低下に関連する疾患を治療する方法に関する。この方法は、本開示の第2の様態の臍帯間葉系幹細胞シートを被験者の損傷部位に局所的に適用するステップを含む。
【0075】
ある実施形態では、前記疾患は心不全である。ある実施形態では、前記心不全は、急性虚血性心不全などの虚血性心不全である。
【0076】
第5の様態では、本開示は、被験者の心臓組織損傷又は心臓機能低下に関連する疾患の治療における、本開示の第2の様態の臍帯間葉系幹細胞シートの使用に関する。
【0077】
第6の様態では、本開示は、被験者の心臓組織損傷又は心臓機能低下に関連する疾患を治療するための組成物の作製における、本開示の第2の様態の臍帯間葉系幹細胞シートの使用に関する。
【0078】
第5及び第6の様態のある実施形態では、前記疾患は心不全である。ある実施形態では、前記心不全は、急性虚血性心不全などの虚血性心不全である。
【0079】
本開示は、培地をバッチで添加することで、間葉系幹細胞の細胞収率を著しく改善した。細胞収率が高いほど、より多くの細胞を得ることができ、臨床治療の投与量を満たすのが容易になる。
【0080】
本開示は、温度感受性培養皿を利用し、且つ温度感受性培養皿をコーティングするプロセス中の血清の量及びコーティング時間を制御することによって、酵素及び類似物を用いて消化せず且つ物理的に剥離せずに、臍帯間葉系幹細胞と臍帯間葉系幹細胞が増殖過程で分泌した細胞外基質及び増殖因子を完全に保持して培養皿の表面から分離し、シート状の細胞シートを得る。この方法で得られた細胞シートは、高い細胞密度、一致の厚さ、及び完全な構造を有する。本開示の方法によって作製された臍帯間葉系幹細胞シートは、豊富な天然細胞外基質を有し、フィブロネクチン及びラミニンの大部分を保持していることができ、体内に移植するときに縫合する必要はない。シートにおける接着分子と細胞外基質は、患部組織に直接付着できるため、細胞の100%を体の損傷した部分に作用させることによって、組織への細胞移植の再生修復効果が改善され、移植された細胞の活性がよりよく保持される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】
図1は、初代の0日目、初代の5日目、及び臍帯間葉系幹細胞P0の代表的な写真を示している。その中で、初代は臍帯組織ブロックを指し、P0は組織ブロックから遊走し且つ継代されていない臍帯間葉系幹細胞を指す。
【
図2】
図2は、4倍の対物レンズと10倍の対物レンズの下での5日目の臍帯間葉系幹細胞P2の代表的な写真を示している。
【
図3】
図3は、臍帯間葉系幹細胞の表面マーカーのフローサイトメトリー検出の結果を示している。
【
図4】
図4は、臍帯間葉系幹細胞の脂肪形成分化及び骨形成分化機能の試験結果を示している。
【
図5】
図5は、臍帯間葉系幹細胞シートの代表的な写真を示している。
【
図6】
図6は、臍帯間葉系幹細胞シートの走査型電子顕微鏡画像を示している。
図6A:細胞シートの表面(上面)。
図6B:細胞シートの基底面。
【
図7】
図7は、臍帯間葉系幹細胞シートの免疫蛍光イメージング写真を示している。
図7A:フィブロネクチン。
図7B:インテグリンβ1.
【
図8】
図8は、ELISA法を使用し、臍帯間葉系幹細胞シートの培養上清中のサイトカインの発現を検出した結果を示している。
【
図9】
図9は、構築された心不全のマウス疾患モデルの特徴づけを示している。
図9A:疾患モデルマウスの心臓写真;
図9B:疾患モデルマウスのECG結果。
【
図10】
図10は、さまざまな時点でのマウス心エコー図の結果を示している。
図10A:モデリング前;
図10B:モデリング後1週間;
図10C:モデリング後4週間。左側:対照群の動物、右側:細胞シート移植群の動物。
【
図11】
図11は、モデリング前後のマウスの左室駆出率の経時的な曲線を示している。
【
図12】
図12は、モデリング前後のマウスの左室短軸短縮指数の経時的な曲線を示している。
【
図13】
図13は、モデリング前後のマウスの左室内径の経時的な曲線を示している。
【
図14】
図14は、モデリング前後のマウスの左室容積の経時的な曲線を示している。
【
図15】
図15は、実験終了時(モデリング後28日目)のマウス心臓組織切片のマッソン染色結果を示している。左側:対照群の動物、右側:細胞シート移植群の動物。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明は、実施例に基づいて以下に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0083】
実施例1.臍帯間葉系幹細胞の単離及び培養
ペニシリン-ストレプトマイシン二重抗体を含まない1xPBS緩衝液で新鮮な臍帯を繰り返し洗浄し、血液の汚れを取り除く。臍帯の外膜と血管を除去し、臍帯組織内のウォートンジェリー様組織を得る。滅菌はさみで1-2mm
3の組織ブロックに切り刻み、100mmの培養皿に平らに広げ、各組織ブロックに20-100ulの完全合成培地を添加し、37℃、5%CO
2インキュベーターに入れる。24時間後、20-200ulの完全合成培地を滴下する。48時間後、培養皿に3mlの完全合成培地を加える。3-5日後、細胞が遊走し、培地を交換して組織ブロックを除去し、各培養皿に5mlの培地を添加する。細胞が85%のコンフルエンスまで増殖すると、継代を行い、細胞継代密度は1×10
6になる。細胞が継代されるたびに、世代数は1ずつ増加する。臍帯間葉系幹細胞は、壁に付着して増殖し、線維状であり、一致の形状を示す。臍帯間葉系幹細胞のP0及びP2世代の代表的な写真を
図1-2に示す。試験後、この方法の細胞収率は8.3倍であり、一般的な方法の細胞収率は3-5倍である。
【0084】
実施例2.臍帯間葉系幹細胞の同定
2.1臍帯間葉系幹細胞の表面マーカーの同定
臍帯間葉系幹細胞を培養液に分散させて遠心分離し、血清又は血清タンパク質含有量が1-20%である等張生理学的溶液を使用し、購入した試薬の指示に従って細胞表面マーカータンパク質を染色する。CD73、CD90、CD105、CD34、CD11B、CD19、CD45、HLA-DRを含むが、それらに限定されない。なかでも、CD73、CD90、CD105の表現型は陽性であり、比率は95%以上であり、CD34、CD11B、CD19、CD45、HLA-DRの表現型は陰性であり、比率は2%以下である必要がある。結果を
図3に示し、その中で、CD105/CD34 99.64%/0.02%、CD105/CD31 99.04%/0.00%、及びCD105/CD117 95.53%/0.51%。
【0085】
2.2臍帯間葉系幹細胞の三向誘導分化
実施例1で作製した臍帯間葉系幹細胞を、三向誘導分化試薬の明細書の比率に従って適切な培養容器に接種し、骨形成誘導試験の細胞が50-90%のコンフルエンスまで増殖し、脂肪誘導試験の細胞が90%以上のコンフルエンスまで増殖したら、骨形成及び脂肪形成誘導培地をそれぞれ添加する。軟骨形成誘導では、一定数の細胞を遠心チューブの底まで遠心分離した後、軟骨形成誘導培地を加え、細胞クラスターがボールになった後、細胞ボールをチューブの底から取り出し、誘導培地と完全に接触させる。
【0086】
7日以上誘導培養されたときに、細胞をテストする。骨形成誘導には、アリザリンレッド、抗オステオカルシン染色を使用できるが、これらに限定されない。脂肪誘導には、オイルレッドO、抗mFABP4染色を使用できるが、これらに限定されない。軟骨誘導には、アルシアンブルー、サフラニンO、抗アグリカン染色を使用できるが、これらに限定されない。
骨形成分化(アリザリンレッド染色)と脂肪形成分化(オイルレッドO染色)の結果を
図4に示す。
【0087】
実施例3.臍帯間葉系幹細胞シートの作製
1.血清コーティング:100%血清によって温度感受性培養皿をコーティングし、異なる培養皿への添加量は次のとおりである:35mm/2ml、60mm/3ml、100mm/5ml。コーティング時間と温度:12-24時間、37℃、5%CO2インキュベーター。
【0088】
2.細胞培養:コーティングが完了したら、培養皿内の液体を捨て、実施例1で得られた臍帯間葉系幹細胞に接種する。細胞接種濃度:35mm皿の接種細胞濃度:8×106-1.5×107細胞/ml、60mm皿の接種細胞濃度:2×107-4×107細胞/ml、100mm皿の接種細胞濃度:6×107-7×107細胞/ml。37℃、5%CO2インキュベーターで12-36時間インキュベートする。
【0089】
3.シート剥離:インキュベーターから温かい皿を取り出し、培地を吸引して捨てる。4℃の予冷されたHBSS溶液を加える:35mm/2ml、60mm/3ml、100mm/5ml;10-30分後に、シート状の臍帯間葉系幹細胞は皿の端から脱落し、細胞外基質の完全な結着を保持している細胞シートになる。細胞シートのマクロ外観を
図5に示し、臍帯間葉系幹細胞シートは、オフホワイトであり、緻密な構造を有し、そして滑らかで平坦な表面を有する。
【0090】
4.シートの移動:完全に剥がした細胞シートを一般的な培養皿に移し、HBSS溶液を添加して膜を2-3回洗浄する:35mm/2ml、60mm/3ml、100mm/5ml。
【0091】
5.準備したダイヤフラムを4℃で一時保管する。
【0092】
実施例4.臍帯間葉系幹細胞シートの構造的特徴づけ
本例では、走査型電子顕微鏡法と免疫蛍光イメージングを使用し、作製された臍帯間葉系幹細胞シートの構造を特徴付けた。
【0093】
まず、実施例3に記載の方法により、臍帯間葉系幹細胞シートを作製した。細胞シートが温度感受性インテリジェント培養皿の底から分離され、形成されたシートが細胞外基質の完全な接続を保持している。細胞シートを2.5%グルタルアルデヒドで固定し、アルコール勾配で脱水し風乾した後、走査型電子顕微鏡で撮影した。
図6に示すように、細胞シートには、培養皿と接触していない表面(上面、
図6A)と培養皿と接触している基底面(下面、
図6B)を有し、両者の構造に違いがある:表面は、細胞の自然な沈降により、形成された表面は比較的滑らかであり;基底面は、温かい皿材料と接触して比較的粗い。その構造的特徴により、基底面はより大きな摩擦を提供することができ、適用中に細胞シートを適用部位によりよく付着させることに有益である。
【0094】
さらに、臍帯間葉系幹細胞シートにおけるフィブロネクチン及びインテグリンβ1の発現状況を免疫蛍光法によって検出した。シートを固定液で固定し、次に凍結切片化し、フルオレセイン標識フィブロネクチン及びインテグリンβ1抗体で染色し、免疫蛍光イメージング分析に供した。結果を
図7に示し、本開示の方法によって作製された細胞シートは、大量のフィブロネクチン(
図7A)及びインテグリンβ1(
図7B)を含む。
【0095】
フィブロネクチンは動物の組織や組織液に広く存在し、細胞の付着増殖を促進する機能があり、細胞の付着増殖は体の組織構造を維持・修復するために必要な条件である。インテグリンβ1はインテグリンファミリーの重要なメンバーであり、細胞と細胞の間、細胞と細胞外基質(ECM)間の相互接着、及び細胞とECMの間の双方向信号伝達を仲介するのに重要な役割を果たし、且つ組織修復と線維化形成と密接に関連している。前記結果は、本開示の臍帯間葉系幹細胞シートが、単に細胞の蓄積によって形成されるのではなく、細胞外基質の接続によって形成される緻密組織性及び生物学的活性を有するシートであることを示している。さらに、当該細胞シートにおける高レベルのフィブロネクチン及びインテグリンβ1の発現は、それが組織修復の機能を有し、例えば心臓、肝臓、膵臓、及び子宮などの組織の損傷に関連する疾患に使用し組織修復を達成できることを示している。
【0096】
実施例5.臍帯間葉系幹細胞シートの構造的特徴づけ
本開示の臍帯間葉系幹細胞シートの機能をさらに特徴づけるために、それによって分泌される以下のサイトカインを検出した:肝細胞増殖因子(HGF);インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)及び血管内皮増殖因子(VEGF)。HGFは間葉系幹細胞によって作製され、且つ上皮-間葉転換(EMT)プロセスに関与し、さまざまな組織や細胞に調節効果があり、細胞の動きと分裂を促進できる;IL-6とIL-8は、体の免疫応答反応の調節及び免疫細胞の様々な生理学的プロセスに関与する;VEGFは内皮細胞の増殖を促進し血管新生を誘発する機能を持っている。前記サイトカインは、細胞の増殖と分化を促進し、血管新生の過程を促進する機能を有しており、組織修復において重要な役割を果たしている。
【0097】
細胞シートの作製中に培養上清を採取し、ELISA法により上清中のサイトカインを検出した。検出結果を
図8に示す。その結果、前記4つのサイトカインはすべて上清に発現しており、HGFとIL-8の発現量が高かった。前記結果は、本開示の臍帯間葉系幹細胞シートが、血管新生因子及び免疫調節因子を含む様々なサイトカインを分泌できることを示し、高い生物学的活性及び機能を有し、局所血管新生及び組織修復プロセスを促進できることを証明している。さらに、高レベルのIL-8発現は、細胞シートが使用中に免疫応答を促進して細菌を阻害する機能を持って、細胞シートがその生物学的機能をよりよく実行するのに有益であることを示している。
【0098】
実施例6.心不全の治療における臍帯間葉系幹細胞シートの使用
本例では、心不全のマウス疾患モデルを構築し、本開示の臍帯間葉系幹細胞シートの心臓組織に対する修復機能をモデルで評価した。まず、雄のC57BL/6マウス(約12週齢)で、冠状動脈結紮によって急性虚血性心不全の動物モデルを構築した。具体的な手順は次のとおりである。
【0099】
(1)酸素と混合したイソフルラン(イソフルラン濃度は約3.5-5%)を使用してマウスを麻酔し、脱毛処理を行う。
(2)頸部透視により気管挿管を行い、換気装置を使用して麻酔ガスを送り込み、麻酔を維持し、マウスのECG信号を測定する。
(3)胸を開き、心臓を露出させ、7-0縫合糸を使用し、マウスの左前下行枝(左心耳の下端で約1.5mm)を結紮してモデリングする。
(4)胸部縫合及び術後処理。
【0100】
ステップ(3)でモデリングした後、マウスの左室壁が白くなることが観察された(
図9A)。心電図の結果は、STセグメントが上昇し、心筋梗塞の状態を示し(
図9B)、心不全動物モデルが正常にモデリングされたことを示している。臍帯間葉系幹細胞シート治療群のマウスの場合、ステップ(3)の後、直径約2-5mmの円形又は類似面積の適切な形状に切断された臍帯間葉系幹細胞シートをモデル動物の左室の表面に付着させた。3-5分間放置した後、前記手順(4)に進む。細胞シートが付着していない動物を対照として使用した。細胞シート治療群と対照群のそれぞれに10匹のマウスとした。
【0101】
モデリング前(
図10A)、モデリング後1週間(
図10B)、モデリング後4週間(
図10C)に、マウスに心エコー検査を行い、胸骨傍の短軸断面は左室乳頭筋の水平断面をマークポイントとして心エコー図を観察することができる。
図10Bと
図10Cの結果から、モデリング後、心不全モデル動物の心臓は明らかに動きが弱まっていることがわかる。また、対照群動物(左図)と比較し、細胞シート移植群動物(右図)は心臓の動きが強かった。
【0102】
心エコー図に基づいて、手術前後のマウスの左室駆出率の経時的な曲線(
図11)と左室短軸短縮指数の経時的な曲線(
図12)を算出してプロットした。左室駆出率は、左室機能を評価するための重要な指標である。
図11の結果に示すように、モデリング後に、心不全モデル動物の左室駆出率は著しく減少したが、細胞シート移植群の駆出率は対照群よりも著しく高かった。左室短軸短縮指数とは、左室の収縮期と拡張期の短軸の比率を指し、比率が大きいほど心臓の収縮機能が強くなる。
図12の結果に示すように、モデリング後に、心不全モデル動物の左室短軸短縮指数は著しく減少したが、細胞シート移植群動物の左室短軸短縮指数は対照群動物よりも著しく高かった。
【0103】
心エコー図に基づいて、左室内径の経時的な曲線(
図13)及び左室容積の経時的な曲線(
図14)を計算してプロットした。その両方も左室容積を表すために使用できる。動物モデルを作製した後、虚血性心不全のため、左室は代償性リモデリングを受け、心室容積が大きくなる。
図13と
図14の結果に示すように、モデリング後、細胞シート移植群の左室の内径と体積(収縮期と拡張期)は対照群よりも著しく低く、細胞シートの使用は、虚血性心不全によって引き起こされる左室リモデリングの抑制に大きな効果があり、心機能を大幅に改善できることを示している。
【0104】
実験の最後(モデリング後28日目)に、マウスを犠牲にし、心臓組織を採取して固定、切片化、染色を行った。切片の結果(
図15)は、対照群動物と比較し、間葉系幹細胞シート移植群のマウスの左室壁が厚く、心室リモデリングが軽く、線維化程度が少ないことを示した(マッソン染色、コラーゲンファイバーは青く見える)。前記結果は、細胞シートを移植したマウスの左室の線維化の程度が、対照群動物のそれよりも著しく低いことを示している。
【0105】
以上に本発明のある実施形態が記載されているが、当技術分野の当業者は、これらが単なる例であり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によって定義されることを理解すべきである。当業者は、本発明の原理及び本質から逸脱することなく、これらの実施形態に様々な変更又は置換を行うことができるが、これらの変更及び置換はすべて本発明の保護範囲内にある。