(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 11/065 20060101AFI20240814BHJP
F16K 27/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F16K11/065 Z
F16K27/00 A
(21)【出願番号】P 2021025205
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕正
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-145129(JP,A)
【文献】特開2007-023891(JP,A)
【文献】特開平08-219308(JP,A)
【文献】特開昭61-048675(JP,A)
【文献】特開昭50-009141(JP,A)
【文献】特開昭58-191377(JP,A)
【文献】実開昭60-073071(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 3/00- 3/36
11/00-11/24
27/00-27/12
31/00-31/05
F25B 31/00-31/02
39/00-41/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング側流路を備えるハウジングに形成された収容室内に収容されるスライド式切換弁であって、中空筒状の弁本体と、前記弁本体の内部にスライド自在に設けられた弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備え、
前記弁本体は、前記弁体のスライド方向と平行な側壁部と、この側壁部と交差する底部とを有し、樹脂成形により一体形成され、前記弁本体の前記側壁部に前記ハウジング側流路と連通する第1ポート、出口ポートおよび第2ポートが設けられるとともに、前記弁本体の前記底部に入口ポートが設けられ
、
前記弁本体の側壁部には、金属板からなる弁座部材がインサート成形により前記弁本体と一体に固定されていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記第1ポート、前記出口ポートおよび前記第2ポートが、前記弁体のスライド方向と平行な前記弁本体の側壁部において、該スライド方向に一直線状に設けられていることを特徴とする請求項
1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記駆動部が、ステータコイルにより回転されるマグネットロータと、
前記マグネットロータの回転により前記弁体をスライド駆動するネジ送り機構と、を含んで構成されることを特徴とする請求項1
または2に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機等の冷凍サイクルシステムに使用するのに適したスライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルなどにおいて冷媒の流路を切り換える切換弁として、筒状の弁本体と、弁本体内部にスライド自在に設けられた碗状の弁体と、弁本体を収容するハウジングと、を備えたスライド式切換弁が知られている(特許文献1)。弁本体およびハウジングには、圧縮機からの高温高圧の冷媒を弁本体内部の弁室に流入させる入口ポート(23,61)と、圧縮機に冷媒を戻す出口ポート(23,63)と、凝縮器および蒸発器に各々接続される第1、2接続ポート(25,62および26,64)と、の4個のポートが設けられている。そして、スライド移動する弁体によって、出口ポートと第1接続ポートとが連通されるか、または出口ポートと第2接続ポートとが連通されるかの切り換えが行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の切換弁において、4個のポートは、入口ポート、第1接続ポート、出口ポート、第2接続ポートの順で弁本体およびハウジングの一側面に並んで設けられており、入口ポートと第1接続ポートとの距離が近い。このため、出口ポートと第1接続ポートとが連通され、第1接続ポートに低い温度の冷媒が流れている状態において、入口ポートを流れる高温冷媒の熱が弁本体やハウジングを介して第1接続ポートの側に奪われることになり、冷媒の温度低下によって冷凍サイクルの運転効率の低下を招く可能性がある。
【0005】
本発明は、スライド式切換弁において、入口ポートを流れる高温冷媒の熱が第1ポート(または第2ポート)および出口ポート側に奪われることを抑制し、冷凍サイクルの熱効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスライド式切換弁は、ハウジング側流路を備えるハウジングに形成された収容室内に収容されるスライド式切換弁であって、中空筒状の弁本体と、前記弁本体の内部にスライド自在に設けられた弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備え、前記弁本体は、前記弁体のスライド方向と平行な側壁部と、この側壁部と交差する底部とを有し、樹脂成形により一体形成され、前記弁本体の前記側壁部に前記ハウジング側流路と連通する第1ポート、出口ポートおよび第2ポートが設けられるとともに、前記弁本体の前記底部に入口ポートが設けられ、前記弁本体の側壁部には、金属板からなる弁座部材がインサート成形により前記弁本体と一体に固定されていることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1ポート、前記出口ポートおよび前記第2ポートが、前記弁体のスライド方向と平行な前記弁本体の側壁部において、該スライド方向に一直線状に設けられていることを特徴とするスライド式切換弁が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスライド式切換弁によれば、ハウジングの底部に入口ポートが設けられていることで、側壁部に設けられる第1ポート、出口ポートおよび第2ポートを入口ポートから離すことができ、入口ポートを流れる高温冷媒の熱が弁本体やハウジングを介して第1ポート(または第2ポート)および出口ポート側に奪われることが抑制され、高温冷媒の温度が維持されやすくなり、冷凍サイクルの熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態のスライド式切換弁の第1状態の縦断面図である。
【
図2】実施形態のスライド式切換弁の第2状態の縦断面図である。
【
図4】実施形態のスライド式切換弁の外観斜視図の部分概略図である。
【
図5】実施形態のスライド式切換弁におけるハウジングの縦断面図である。
【
図6】実施形態のスライド式切換弁の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明のスライド式切換弁の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態のスライド式切換弁の第1状態の縦断面図、
図2は実施形態のスライド式切換弁の第2状態の縦断面図、
図3は
図1のA-A矢視断面図、
図4は実施形態のスライド式切換弁の外観斜視図の部分概略図、
図5は実施形態のスライド式切換弁におけるハウジングの縦断面図である。なお、以下の説明における「上下」の概念は
図1及び
図2の図面における上下に対応する。
【0012】
図1に示すように、このスライド式切換弁は、弁本体1と、弁体2と、ハウジング3と、ホルダ部4と、マグネットロータ5と、ステータコイル6とを備えている。
【0013】
弁本体1は樹脂成形により略円筒形状に形成されており、その内側に略円柱状の弁室1Aを有している。また、弁本体1は、軸線Xと平行な弁体2のスライド方向と平行な側壁部11と、この側壁部11と交差する底部12とを有している。そして、弁本体1の側壁部11には第1ポート13E、出口ポート13Sおよび第2ポート13Cが設けられ、さらに、弁本体1の前記底部12には、入口ポート13Dが設けられている。なお、第1ポート13E、出口ポート13Sおよび第2ポート13Cは、側壁部11の一部に弁体2のスライド方向に沿って一直線状に設けられている。また、弁本体1の弁室1A内には、弁本体1と共にインサート成形されて固定された薄型金属板からなる弁座部材14を備えるとともに、弁本体1の底部12とは反対側の端部にはケース15が固定されている。弁座部材14の軸線X側の面は弁体2が摺動する弁座面14Aとなるとともに、この弁座部材14には、第1ポート13Eに対向する開口14Eと、出口ポート13Sに対向する開口14Sと、第2ポート13Cに対向する開口14Cとが形成されている。また、弁本体1の外側面には弁本体側係合部としての係合突起1Bが形成されており、後述のハウジング側係合部としての係合溝3Bと係合することでハウジング3に対する弁本体1の回転位置が規制される。これにより、弁本体1の第1ポート13E,出口ポート13S、および第2ポート13Cと、後述のハウジング3側のハウジング側流路31E、31S、31Cとの相対位置の位置合わせを容易に行える等、ハウジング3に対する弁本体1の組付けが容易になっている。なお、弁本体1側に係合溝を設け、ハウジング3側の係合突起を設けることによりハウジング3に対する弁本体1の回転位置を規制してもよい。
【0014】
弁体2には膨出部21と膨出部21の片側に軸線Xに沿って延びる角丸角柱状(
図3参照)のガイド軸22とを有し、膨出部21の内側には椀状凹部21Aが形成されている。そして、弁体2は、
図1の下側の端部位置において、出口ポート13Sと第1ポート13Eとを椀状凹部21Aにより導通する。このとき、第2ポート13Cは弁室1A内で入口ポート13Dに導通する。また、弁体2は、
図2の上側の端部位置において、出口ポート13Sと第2ポート13Cとを椀状凹部21Aにより導通する。このとき、第1ポート13Eは弁室1A内で出口ポート13Dに導通する。また、弁体2のガイド軸22の中心には、軸線Xと同軸の雌ねじ部22aとそのねじ孔が形成されている。
【0015】
ハウジング3はアルミダイキャスト製で、軸線Xを中心とする略円筒形状の収容室3Aを有しており、この収容室3A内に弁本体1が収容されている。ハウジング3は、
図5に示すように、その内周に弁本体1の係合突起1Bと係合する係合溝3Bを有している。なお、弁本体1とハウジング3との間には所定位置でOリング10によりシールされている。また、ハウジング3には、収容室3Aの側壁部に開口するハウジング側流路31E,31S,31Cが形成され、弁本体1とハウジング3との間の間隙を介して、弁本体1側の第1ポート13E,出口ポート13S、および第2ポート13Cのそれぞれと連通している。また、弁本体1の底部12と対向する位置にハウジング側流路31Dの収容室3A側の開口が収容室3Aに向けて形成されている。そして、ハウジング側流路31Eは第1ポート13Eに連通し、ハウジング側流路31Sは出口ポート13Sに連通し、ハウジング側流路31Cは第2ポート13Cに連通し、ハウジング側流路31Dは入口ポート13Dに連通している。
【0016】
ホルダ部4は主に樹脂製であり、略円柱状の弁ガイド部41と、弁ガイド部41の上端部に形成された軸受部42と、弁ガイド部41の外周にインサート成形により設けられた金属製で略円盤状の固定蓋43とで構成されている。そして、ホルダ部4は固定蓋43を介して弁本体1のケース15の上端部に溶接により固定されている。なお、ハウジング3の上端部と固定蓋43との間には、ハウジング3と弁本体1とを固定するCリング20が嵌合されている。
図3に示すように、弁ガイド部41には、軸線Xと同軸で角丸の角柱空洞のガイド孔41aが形成されている。そして、ガイド孔41a内に、弁体2のガイド軸22が挿通されている。
【0017】
また、固定蓋43には、弁本体の弁室1A及びケース15の内部を密閉するキャン44が固定されており、このキャン44内にマグネットロータ5が収容されている。マグネットロータ5の中心にはロータ軸51が取り付けられ、ロータ軸51の弁体2側の外周には、弁体2のガイド軸22の雌ねじ部22aに螺合する雄ねじ部51aが形成されている。また、このロータ軸51はホルダ部4の軸受部42にて軸支されている。これによりマグネットロータ5は、キャン44内で回動自在に支持されている。なお、ガイド孔41aの上部において、軸受部42とロータ軸51のフランジ部53との間、および、マグネットロータ5と軸受部42との間には摺動ワッシャ46,47が配設されている。
【0018】
ステータコイル6は、樹脂製のボビン61にコイル62,62を巻装することで、軸線X方向に一対のコイル部を積層して構成され、ボビン61には、磁極歯63aを持つ継鉄(ヨーク)63がモールド成形により一体に組み付けられている。また、ステータコイル6は、中央に軸線Xを中心とする円柱形状の嵌挿孔6Hを有しており、この嵌挿孔6Hの内周面の一部に継鉄63の磁極歯63aが配置されている。そして、ステータコイル6は、嵌挿孔6H内に弁本体1のキャン44が嵌挿されることで弁本体1に装着されている。これにより、ステータコイル6の磁極歯63aがキャン44の外周面に対向配置される。
【0019】
以上の構成により、ステータコイル6のコイル62へのパルス出力の印加によりコイル62が磁力線を発生する。これにより、磁極歯63aの磁極(N、S極)が交互に変化し、マグネットロータ5に対して磁気吸引力及び磁気反発力を発生し、マグネットロータ5とロータ軸51が回転する。これによりロータ軸51の雄ねじ部51aと、弁体2のガイド軸22の雌ねじ部22aとによるネジ送り機構により、弁体2が軸線X方向にスライドし、
図1の第1状態から
図2の第2状態へ、あるいは、
図2の第2状態から
図1の第1状態へと、流路が切換られる。このように、ロータ軸51、マグネットロータ5、及びネジ送り機構が「駆動部」を構成している。
【0020】
ハウジング側流路31Dは、圧縮機の吐出口に接続され、高温高圧の冷媒を弁本体1の弁室1Aに導入し、ハウジング側流路31Sは、圧縮機の吸入口に接続され、圧縮機に冷媒を戻す。また、ハウジング側流路31Eは、冷凍サイクルの蒸発器に連通され、ハウジング側流路31Cは、冷凍サイクルの凝縮器に連通される。そして、
図1の第1状態では、入口ポート13Dから流入する高温冷媒は、弁室1Aを介して第2ポート13Cへ流れ、
図2の第2状態では、入口ポート13Dから流入する高温冷媒は、弁室1Aを介して第1ポート13Eへ流れる。
【0021】
以上のように、このスライド式切換弁によれば、弁本体1の底部12に入口ポート13Dが設けられているので、側壁部11に設けられる第1ポート13E、出口ポート13Sおよび第2ポート13Cの位置を、入口ポート13Dから離すことができる。これにより、入口ポート13Dを流れる高温冷媒の熱が弁本体やハウジングを介して、第1ポート13E、または第2ポート13C、および出口ポート13S側に奪われることが抑制される。したがって、高温冷媒の温度が維持されやすくなり、冷凍サイクルの熱効率を向上させることができる。また、この実施形態では、弁本体1が熱抵抗の大きな樹脂により形成されているので、入口ポート13Dを流れる高温冷媒の熱が奪われることをさらに抑制することができ、さらに、冷凍サイクルの熱効率を向上させることができる。
【0022】
図6は実施形態のスライド式切換弁の変形例を示す縦断面図であり、この変形例で
図1及び
図2との違いは、ハウジング3′の構成である。このハウジング3′では弁本体1の入口ポート13Dへ冷媒を導入するための流路が横から形成されている点である。この変形例でも、冷凍サイクルの熱効率の向上に寄与する弁本体1の作用効果は前記実施形態と同様である。
【0023】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
1 弁本体
1A 弁室
11 側壁部
12 底部
13E 第1ポート
13C 第2ポート
13S 出口ポート
13D 入口ポート
2 弁体
21 膨出部
22 ガイド軸
22a 雌ねじ部
3 ハウジング
31E ハウジング側流路
31C ハウジング側流路
31S ハウジング側流路
31D ハウジング側流路
4 ホルダ部
41 弁ガイド部
42 軸受部
43 固定蓋
5 マグネットロータ
51 ロータ軸
51a 雄ねじ部
6 ステータコイル