(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】床面の施工方法、及び床面の検査装置
(51)【国際特許分類】
E04G 21/10 20060101AFI20240814BHJP
E04F 21/24 20060101ALI20240814BHJP
E04F 15/12 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
E04G21/10 Z
E04F21/24 C
E04F15/12 E
(21)【出願番号】P 2021045685
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-12-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (刊行物1) ▲1▼ 刊行物名 熊谷組技術研究報告 79号/2020 ▲2▼ 発行日 令和3年2月26日 ▲3▼ 発行所 福井県福井市大手三丁目2番1号 株式会社熊谷組 ▲4▼ 公開者 株式会社熊谷組 ▲5▼ 公開の内容 「床面の施工方法、及び床面の検査装置」 (刊行物2) ▲1▼ 開催日 令和2年11月13日 ▲2▼ 集会名、開催場所 熊谷組第84期全国建築技術発表会 株式会社熊谷組本社内 東京都新宿区津久戸町2番1号 ▲3▼ 公開者 阿部 高広 ▲4▼ 公開の内容 「床面の施工方法、及び床面の検査装置」
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高広
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-098194(JP,A)
【文献】特開2017-014860(JP,A)
【文献】特開2016-176203(JP,A)
【文献】特開2020-013659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/12
E04F 21/00、21/24
E04G 21/10
G01C 5/00、15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の床面の施工方法であって、
床材の表面と平行に延長する定形材と、当該定形材に沿って延長し、床材の表面に光を照射する光源とを備えた検査装置を床材打設後の表面に沿って接地させながら一方向に走査し、
前記定形材の接地面と前記床材の表面との間からの露光有無により床材表面の不陸を把握する検査工程を含むことを特徴とする床面の施工方法。
【請求項2】
前記床材は、既設の基礎スラブ上に打設されるSL材であって、
前記SL材の打設に際して、前記基礎スラブ上に当該基礎スラブの表面を複数範囲に区画する区画材を設置し、形成された区画ごとに前記SL材を打設して硬化後のSL材中に前記各区画材を埋め殺しの状態とする床材打設工程を含むことを特徴とする請求項1記載の床面の施工方法。
【請求項3】
コンクリート構造物の床面の検査装置であって、
前記床面と平行に延長し、前記床面と接地可能な接地面を有する所定長の定形材と、
前記定形材に沿って延長し、床材の表面に向けて光を照射可能な光源と、
を備えたことを特徴とする検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面の施工方法等に関し、特に高い表面精度が要求される床面の施工に好適な床面の施工方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばRC構造物における床スラブは、鉄筋を配筋した後にコンクリートを打設し、その表面をトンボ等の治具を用いて均すことにより、ある程度の表面精度を確保する。
一方、特許文献に示すように、当該構造物のフロアの用途によっては、床面の表面について極めて高い精度が要求される場合があり、このような場合には上記スラブを基礎(下地)として、その表面にセルフレベリング床材とも称される流動性の高いスラリーを流し込むことにより、その自己平滑性によって精度の高い床面を得ることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に係る施工方法にあっては、下地上に配設された仕切り材によって画定された範囲内にスラリーを打設した後に、仕切り材を取り外す作業を要することから、当該取り外しによって僅かながらスラリーが流動し、フロア全体の表面精度が低下する懸念がある。特に±1mm単位の極めて高い表面精度が要求されるフロアにおいては、スラリーの事後的な流動を含む上記工法は俄かに採用し難い。
【0005】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、極めて高い表面精度を実現可能な床面の施工方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の態様として、 コンクリート構造物の床面の施工方法であって、床材の表面と平行に延長する定形材と、当該定形材に沿って延長し、床材の表面に光を照射する光源とを備えた検査装置を床材打設後の表面に沿って接地させながら一方向に走査し、定形材の接地面と床材の表面との間からの露光有無により床材表面の不陸を把握する検査工程を含む態様とした。
本態様によれば、定形材の接地面と床材の表面との間からの露光有無により不陸を把握可能であるため、不陸の発生が一定幅を有する面として認識可能となり、その後の補修作業によって表面精度を容易に向上させることができる。
また、他の態様として、床材は、既設の基礎スラブ上に打設されるSL材であって、SL材の打設に際して、基礎スラブ上に当該基礎スラブの表面を複数範囲に区画する区画材を設置し、形成された区画ごとにSL材を打設して硬化後のSL材中に各区画材を埋め殺しの状態とする床材打設工程を含む形態であっても良い。
本態様によれば、硬化後のSL材中に各区画材を埋め殺しの状態とすることから、SL材の事後的な流動がなく、表面精度を向上させることができる。
また、他の構成として、コンクリート構造物の床面の不陸検査装置であって、床面と平行に延長し、床面と接地可能な接地面を有する所定長の定形材と、定形材に沿って延長し、床材の表面に向けて光を照射可能な光源とを備えた構成とした。
本構成によれば、定形材の接地面と床面との間からの露光有無により不陸を把握可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1,
図2を参照して、コンクリート構造物の床面施工までの全体工程を説明する。
図1のS1に示すように鉄骨注及び鉄骨梁等のコンクリート構造物の躯体となる建て込みの完了後には、基礎スラブ1となる鉄筋3が配筋される。S2に示すように、鉄筋3の配筋後には基礎スラブ1となるコンクリートC1が打設される。
【0009】
S3に示すように、コンクリートC1の打設に際しては、打設後の全範囲を含むように、コンクリートC1内のエア抜きを目的として、例えば長さ3m程度の振動タッピングを用いて、コンクリート表面のタッピングを行う。これにより、基礎スラブ自体を平滑化し、表面精度の向上を図る。なお、後工程のセルフレベリング材(以下、SL材とも言う。)の打設を前提とすれば、基礎スラブ1自体の表面精度を向上させる必要はないとの検討もあり得るが、±1mmの要求精度を満足するためには、基礎スラブ1自体の不陸がSL材の流動性を阻害し、SL材硬化後の表面精度に影響を及ぼすことから、基礎スラブ1自体の表面精度を当該打設時に高く設定するのが望ましい。
【0010】
図1のS4及び
図2(b)に示すように、コンクリートC1の硬化後にはその表面に例えば1m幅の格子状となるように墨打ちを行うと共に、例えばレーザー測定器を用いてコンクリートC1表面のレベル測定を行う。当該レベル測定にあっては、墨打ちにより形成された格子(以下、グリッドと言う場合がある)の交点Pを複数の測定点として設定し、レーザー測定器から各測定点の相対的なレベルを測定する。このとき、コンクリートC1表面における許容し得るレベル差は±8mm程度であって、当該範囲以内のレベル差であれば、SL材の自己平滑性によってレベル差を充分に吸収することが可能となる。なお、より精密なレベル測定を行う場合には、観測点及び測定点を増加させることによりレベル差を減少させることが可能である。また、許容以上のレベル差が存在する場合、その範囲において補修作業を行う。
【0011】
S5に示すように、基礎スラブ1の形成後には、基礎スラブ1上に例えば5mm角のアルミ製の定規Dを所定間隔(本例では2m)で配置する。定規Dは1本辺りの長さが例えば3mであって、
図2に示すように、基礎スラブ1上にモルタルを介して互いに平行となるように複数配置される。定規Dの表面D1の高さは、床面の設定厚を考慮して規定される。
【0012】
図2に示すように、本例においては、基礎スラブ1の表面からの設定厚を10mmとしているため、基礎スラブ1の表面に厚さが5mmとなるようにモルタル打設し、当該モルタル上に定規Dを設置することにより、定規Dの表面D1を基礎スラブ1の表面から10mmの位置に設定する。なお、定規Dの高さ設定においては、平行に配列された複数の定規D同士の高さをレーザー測定器等により測定し、モルタルの増加、或いは切削により互いの高さを厳密に調整するのが望ましい。
図2(b)に示すように、基礎スラブ1上に互いに平行に配列された複数の定規Dによって、基礎スラブ1の表面に定規Dの長さ方向に沿った複数の区画Rが形成され、当該各区画R内にSL材が打設される。
【0013】
S6に示すように、区画Rの形成後にはSL材のフロー試験を実行する。SL材は、例えば石膏系やセメント系のSL材であって、上記区画への打設に要する時間(可使時間)や材料種類、組成、水比、気温等の条件を加味して、必要なフロー値が設定される。
【0014】
S7に示すように、フロー試験の完了後には、上記区画RごとにSL材を打設する。具体的には、1の区画の容積に概ね対応する量のSL材を基礎スラブ1上に流し込むと共に、少なくとも定規Dの間隔(本例では2m)よりも僅かに長い均し具(トンボ)Tを用いてSL材表面を定規Dの表面D1と面一となる位置において平滑化する。
図2(a)に示すように、上記均し作業においては、トンボTの両端部を定規D間に架け渡し、定規Dの表面D1をガイドとしてSL材の表面高さがD1と面一となるように平滑化する。以後、全ての区画について同様にSL材を打設することにより、基礎スラブ1上の全領域にSL材の打設が完了する。また、このとき、隣り合う区画Rを区切る定規Dは、除去されることなくSL材の硬化と共に埋め殺しとなる。このように、本例では定規Dを除去することなく埋め殺しにするため、除去後の空隙に対してSL材が流動することを防止でき、表面精度を向上可能となる。
【0015】
S8に示すように、全ての区画Rに対するSL材の打設,硬化完了後には、表面精度の検査作業が行われる。なお、当該検査に先立っては、再度墨打ちによりグリッドを形成しておくことが望ましい。
【0016】
図3は、当該検査作業に好適な検査装置10の概要を示す図である。同図に示すように検査装置10は、定形性を有する定規(本例では左官用定規)12と、当該定規12の側面に沿って取り付けられたアングル14と、アングル14の底面に配設された光源16とを備える。定規12は、長さが例えば3mに設定されているが、検査対象となる床面の寸法に応じて適宜変更可能である。アングル14は、定規12の側面と平行な取り付け面14aと取り付け面14aに対して直交する底面14bとを有するL字状であって、定規12の長さに対応して、又は所定を有して延長する。光源16は、蛍光管型の照明であって、定規12の長さに概ね対応する寸法に設定される。なお、光源16を長さ方向に複数接続しても良い。光源16は、例えばLEDを内蔵しており、作業性、携帯性を考慮して充電地式のものが好ましい。
【0017】
図3に示すように、上記検査装置10による検査作業は、検査装置10の光源16をSL材の打設により形成された床面20側に向け、定規12の接地面としての底面12cを床面20に接した状態で一方向に走査するように摺動させることにより行われる。このように、床面20に対して検査装置10を接地させた場合、床面20の表面精度が担保されている範囲においては、光源16からの光が床面20と定規12によって遮られるため、操作方向側から検査装置10側を視認すると光源16から照射された光は視認できないこととなる。
【0018】
一方、床面20の表面精度が悪く、所謂不陸が発生している範囲では、光源16からの光が床面20と定規12の底面12cとの間から露光する状態となるため、検査装置10側を視認すると、光源16から照射された光が不陸の範囲に渡って一定の長さを有する帯状の光として認識可能となる。
【0019】
図2(b)に示すように、上記検査装置10を用いて、床面20のX方向及びY方向に向けて走査することにより、床面20の全範囲における不陸を精密に把握することが可能となる。
即ち、従来型のレーザー測定器による検査工程にあっては、±1mmの要求精度を満たそうとすると、膨大な数の測定点を設け、かつ、複数の観測点からの観測を行う必要があり、また、得られるレベル差は相対的であるため、その処理業務が過度な負担となり得る。
一方、上記検査装置10によれば、一方向への走査によって、連続的或いは局所的に発生したごく僅かな不陸を連続した帯状の光、或いは、光点として一括して認識可能となるため、光が露光した箇所と対応するグリッドを記録するのみで不陸の補正作業が容易に可能となる。つまり、検査装置10によれば、不陸の発生を点として把握するのではなく、一定の幅を有する面として把握できることから、検査業務を極めて効率的に行うことが可能となる。
なお、検査作業の結果、不陸を把握した場合には、その地点のグリッドを座標等として記録しておき、後に補修作業を行うことにより、露光が生じない極めて表面精度の高い床面20を形成することができる。また、床面20の形成後には、例えば仕上げ材としてのフロアタイル等が敷設される。
【0020】
以上の通り、本例における床面の施工方法は、基礎スラブを形成する工程(S1~S4)、基礎スラブ1上にSL材を打設し、床面20を形成する工程(S5~S7)、及び床面20の表面精度を担保する検査工程(S8)からなり、定規Dを除却することなく埋め殺し、さらに、検査装置10の露光による検査を行うことによって、極めて表面精度の高い床面20を得ることが可能となる。
【0021】
なお、上述の例では、基礎コンクリートC1の打設によって基礎スラブ1を形成後、基礎スラブ1上にスラリーとしてのSL材を打設することによって表面精度の高い床面20を得るものとしたが、SL材を打設することなく基礎コンクリートC1自体の表面精度を向上させても良い。具体的には、基礎スラブ1の鉄筋3の配筋時に例えばL字のアングル等の治具によって定規Dを配列し、コンクリートC1を定規Dの表面D1と同一高さとなるまで打設して床面を形成しても良い。この場合、コンクリートC1自体が床材となり、コンクリートC1の表面を検査装置10によって検査し、把握された不陸を補修することにより、別途SL材を用いずとも極めて表面精度の高い床面を得ることが可能となる。
【0022】
以上、本発明を実施形態を通じて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0023】
1 基礎スラブ,1C コンクリート,3 鉄筋,10 検査装置,16 光源,
20 床面,D 定規,D1 表面,R 区画