(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 23/08 20060101AFI20240814BHJP
B60K 17/344 20060101ALI20240814BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20240814BHJP
B60W 10/119 20120101ALI20240814BHJP
【FI】
B60K23/08 C
B60K17/344 C
B60K17/348 B
B60W10/119
(21)【出願番号】P 2021141771
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有路 松生
(72)【発明者】
【氏名】高木 亮
(72)【発明者】
【氏名】前田 義紀
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 朋亮
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-32773(JP,A)
【文献】特開2011-255846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
B60K 17/344
B60K 17/348
B60W 10/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と連結された主駆動輪軸と、
プロペラ軸を介して前記原動機及び前記主駆動輪軸と連結された従駆動輪軸と、
前記プロペラ軸又は前記従駆動輪軸に配置され、原動機トルクのうち前記従駆動輪軸に伝達される駆動トルクであるカップリングトルクを制御することにより、前記主駆動輪軸にのみ前記原動機トルクを伝達する部分輪駆動状態と全輪駆動状態とを切り替える電子制御カップリングと、
を含む車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両制御装置は、
前記全輪駆動状態に切り替える車両加速の開始に先立ち、前記カップリングトルクがプレトルクとして前記従駆動輪軸に伝達されるように前記電子制御カップリングを制御し、
前記電子制御カップリングの等価剛性値が前記従駆動輪軸の等価剛性値以上かつ前記主駆動輪軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内で前記プレトルクを決定する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
原動機と連結された主駆動輪軸と、
プロペラ軸を介して前記原動機及び前記主駆動輪軸と連結された従駆動輪軸と、
前記プロペラ軸又は前記従駆動輪軸に配置され、原動機トルクのうち前記従駆動輪軸に伝達される駆動トルクであるカップリングトルクを制御することにより、前記主駆動輪軸にのみ前記原動機トルクを伝達する部分輪駆動状態と全輪駆動状態とを切り替える電子制御カップリングと、
を含む車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両制御装置は、
前記全輪駆動状態に切り替える車両加速の開始に先立ち、前記カップリングトルクがプレトルクとして前記従駆動輪軸に伝達されるように前記電子制御カップリングを制御し、
前記電子制御カップリングの等価剛性値が前記従駆動輪軸の等価剛性値以上かつ前記プロペラ軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内で前記プレトルクを決定する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
前記プレトルクは、前記車両の車体速度が高い場合には、前記車体速度が低い場合と比べて大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記プレトルクは、前記車両の操向輪の切れ角が大きい場合には、前記切れ角が小さい場合と比べて大きくなるように修正される
ことを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロペラ軸を介して互いに連結された主駆動輪軸及び従駆動輪軸と、電子制御カップリングと、を備える車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前輪軸と後輪軸とを連結するプロペラ軸を備えない電動四輪駆動車両の制御装置が開示されている。この制御装置によれば、アクセルペダルをオフとする減速時に、バックラッシュに起因するギアのガタ詰めのために、前輪軸に負のモータトルクが付与され、かつ、後輪軸に微小な正のモータトルクが付与される。また、車両状態が緩減速から再加速に変化する場合には、前輪側のガタが詰まる際の衝撃緩和のために、前輪軸に付与される正のモータトルクが徐々に増やされる。この際に、後輪軸に付与されるモータトルクは、衝撃緩和のための前輪側のモータトルクの増加抑制分を補うように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロペラ軸を介して互いに連結された主駆動輪軸及び従駆動輪軸と電子制御カップリングとを備える車両では、電子制御カップリングによって従駆動輪軸に駆動トルクを配分することにより、主駆動輪軸のみ駆動される部分輪駆動状態から全輪駆動状態に切り替えることが可能である。このように全輪駆動状態に切り替わる車両加速時には、ギアのガタ詰まりに起因する衝撃(ガタ打ちショック)が発生する。このようなガタ打ちショックを抑制するための対策は、主駆動輪軸等のトルク伝達経路上の軸におけるねじり振動を抑制しつつなされることが望まれる。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、プロペラ軸を介して互いに連結された主駆動輪軸及び従駆動輪軸と電子制御カップリングとを備える車両において、全輪駆動状態に切り替わる車両加速時に、ねじり振動を抑制しつつガタ打ちショックを好適に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る車両制御装置は、原動機と連結された主駆動輪軸と、プロペラ軸を介して原動機及び主駆動輪軸と連結された従駆動輪軸と、プロペラ軸又は従駆動輪軸に配置され、原動機トルクのうち従駆動輪軸に伝達される駆動トルクであるカップリングトルクを制御することにより、主駆動輪軸にのみ原動機トルクを伝達する部分輪駆動状態と全輪駆動状態とを切り替える電子制御カップリングと、を含む車両を制御する。車両制御装置は、全輪駆動状態に切り替える車両加速の開始に先立ち、カップリングトルクがプレトルクとして従駆動輪軸に伝達されるように電子制御カップリングを制御し、電子制御カップリングの等価剛性値が従駆動輪軸の等価剛性値以上かつ主駆動輪軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内でプレトルクを決定する。
【0007】
本開示の他の態様に係る車両制御装置は、原動機と連結された主駆動輪軸と、プロペラ軸を介して原動機及び主駆動輪軸と連結された従駆動輪軸と、プロペラ軸又は従駆動輪軸に配置され、原動機トルクのうち従駆動輪軸に伝達される駆動トルクであるカップリングトルクを制御することにより、主駆動輪軸にのみ原動機トルクを伝達する部分輪駆動状態と全輪駆動状態とを切り替える電子制御カップリングと、を含む車両を制御する。車両制御装置は、全輪駆動状態に切り替える車両加速の開始に先立ち、カップリングトルクがプレトルクとして従駆動輪軸に伝達されるように電子制御カップリングを制御し、電子制御カップリングの等価剛性値が従駆動輪軸の等価剛性値以上かつプロペラ軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内でプレトルクを決定する。
【0008】
プレトルクは、車両の車体速度が高い場合には、車体速度が低い場合と比べて大きくてもよい。
【0009】
プレトルクは、車両の操向輪の切れ角が大きい場合には、切れ角が小さい場合と比べて大きくなるように修正されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
電子制御カップリングの等価剛性値は、カップリングトルクに応じて変化する。本開示の一態様に係る車両制御装置によれば、電子制御カップリングの等価剛性値が従駆動輪軸の等価剛性値以上かつ主駆動輪軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内でプレトルクが決定される。これにより、電子制御カップリングによるねじり振動の減衰効果の確保に適した剛性のバランスを、電子制御カップリングとその周囲の主駆動輪軸及び従駆動輪軸との間で実現できるようになる。そして、このように決定されるプレトルクが上記車両加速の開始に先立って従駆動輪軸に伝達されるように電子制御カップリングが制御される。これにより、ガタ詰めのためのプレトルクの付与に伴うねじり振動を好適に抑制しつつ、ガタ打ちショックを抑制できる。
【0011】
また、本開示の他の態様に係る車両制御装置によれば、電子制御カップリングの等価剛性値が従駆動輪軸の等価剛性値以上かつプロペラ軸の等価剛性値以下となるトルク範囲内でプレトルクが決定される。このように決定されるプレトルクの利用によっても、ガタ詰めのためのプレトルクの付与に伴うねじり振動を好適に抑制しつつ、ガタ打ちショックを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示す車両におけるガタ打ちショックの発生箇所の一例を表した模式図である。
【
図3】ガタ詰め用のプレトルクtpre発生時の電子制御カップリング周りのトルクフローを説明するための図である。
【
図4】
図3に示すプレトルクtpreを利用した加速時の前輪軸周りの各構成要素のギア間の関係を説明するための図である。
【
図5】電子制御カップリングを単体で見たときのねじり特性の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示す特性上の代表的なカップリング指令トルク値における電子制御カップリングのねじりバネ定数の数値例を示す表である。
【
図7】車両のトルク伝達経路上の各構成要素の等価剛性値をカップリング指令トルクとの関係で表した図である。
【
図8】プレトルクtpreの決定に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】プレトルクtpreのベース値tprebと車体速度Vxとの関係の一例を示す図である。
【
図10】補正係数Kstrと前輪の切れ角との関係の一例を示す図である。
【
図11】最終カップリング指令トルクの選択に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図11に示す処理の動作を説明するためのタイムチャートである。
【
図13】ガタ詰めのためのプレトルクtpreの有無及び大きさの違いが車両の前後加速度Gxに与える影響について説明するための図である。
【
図15】ガタ詰めのためのプレトルクtpreの有無及び大きさの違いが車両の前後輪軸のトルクに与える影響について説明するための図である。
【
図16】プレトルクtpreの決定に関する処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図17】本開示に係る車両構成の他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。ただし、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略又は簡略する。以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0014】
1.車両構成
図1は、実施の形態に係る車両10の構成の一例を概略的に示す図である。車両10は、原動機12と、前輪軸14と、後輪軸16と、プロペラ軸18と、電子制御カップリング20とを備えている。
【0015】
原動機12は、一例として内燃機関であり、変速機22と組み合わされている。原動機12は、例えば、内燃機関に代わりに電動モータであってもよいし、内燃機関と電動機との組み合わせであってもよい。
【0016】
変速機22は、一例として、前輪用ディファレンシャルギア24を含んで構成されている。前輪用ディファレンシャルギア24を含む変速機22は、トランスファー26に連結されている。トランスファー26は、原動機12が発生するトルクを前輪軸14と後輪軸16とに分配するための機構である。
【0017】
前輪軸14は、より詳細には左右一対のドライブシャフトである。原動機12のトルク(以下、単に「原動機トルク」とも称する)は、変速機22(前輪用ディファレンシャルギア24を含む)を介して前輪軸14に伝達される。このように、前輪軸14は、原動機12と連結されている。
【0018】
後輪軸16は、より詳細には左右一対のドライブシャフトである。後輪軸16は、プロペラ軸18を介して原動機12及び前輪軸14と連結されている。より詳細には、プロペラ軸18の一端はトランスファー26に連結され、他端は後輪用ディファレンシャルギア28を介して後輪軸16と連結されている。なお、前輪軸14及び後輪軸16は、それぞれ、本開示に係る「主駆動輪軸」及び「従駆動輪軸」の一例に相当する。
【0019】
図1に示す例では、電子制御カップリング(以下、単に「カップリング」とも称する)20は、プロペラ軸18上に配置されている。カップリング20は、原動機12のトルクのうち後輪軸16に伝達される駆動トルクである「カップリングトルク」を制御する。カップリング20は、典型的には、湿式多板クラッチを含み、後述のECU30の制御によって当該クラッチの押し付け力を調整することで、カップリングトルク(すなわち、当該クラッチの伝達トルク)を制御することができる。カップリングトルクは、プロペラ軸18及び後輪用ディファレンシャルギア28を介して後輪軸16に伝達される。このようなカップリングトルクの制御の結果として、前輪軸14及び後輪軸16に対する原動機トルクの配分率を変更できる。より詳細には、原動機トルクの100%を前輪軸14に付与する状態(前輪駆動状態;部分輪駆動状態)から、プロペラ軸18を介して前輪軸14と後輪軸16とが直結された状態(配分率50:50)までの間で配分率を変更できる。二輪駆動状態(前輪駆動状態)と四輪駆動状態(全輪駆動状態)との切り替えは、アクセルペダル3の踏み込み量及び車体速度Vx等の所定の条件に基づいて行われる。
【0020】
車両10は、さらに、車両10を制御する電子制御ユニット(ECU)30を備えている。ECU30は、本開示に係る「車両制御装置」の一例に相当する。ECU30は、プロセッサと記憶装置とを有する。記憶装置は、原動機12及びカップリング20の各種制御に用いられるマップを含む各種のデータ及び各種の制御プログラムを記憶している。プロセッサが記憶装置から制御プログラムを読み出して実行することにより、上記の各種制御のためのECU30による各種の処理が実現される。なお、ECU30は複数であってもよい。
【0021】
また、ECU30は、車両10に搭載された各種センサからセンサ信号を取り込む。各種センサは、例えば、車輪速センサ32と、アクセルポジションセンサ34と、ブレーキポジションセンサ36と、切れ角センサ38とを含む。車輪速センサ32は、車輪1及び2のそれぞれに対して設けられており、車輪1又は2の回転速度を検出する。アクセルポジションセンサ34及びブレーキポジションセンサ36は、それぞれ、アクセルペダル3及びブレーキペダル4の踏み込み量を検出する。切れ角センサ38は、車両10の操向輪に相当する前輪1の切れ角を検出する。
【0022】
2.ガタ詰め制御
上述した車両10における原動機12から各車輪軸14及び16までのトルク伝達経路上の各構成要素(前輪軸14、後輪軸16、プロペラ軸18、変速機22、ディファレンシャルギア24及び28、並びにトランスファー26)の間は、ギアを介して連結されている。このため、各ギア間のバックラッシュ(ガタつき)に起因し、車両10の加減速に伴って各ギア間のガタが詰まる際に(すなわち、ギアの歯面同士が接触する際に)、衝撃(ガタ打ちショック)が車両10に発生する。
【0023】
図2は、
図1に示す車両10におけるガタ打ちショックの発生箇所の一例を表した模式図である。
図2には、前輪軸14周りの各構成要素のギア間の関係が例示されている。
図2では、説明の便宜上、噛み合っているギア間のバックラッシュの存在が、同図中に「フローティング」と付して示すように、紙面上下方向の隙間として表現されている。具体的には、
図2には、変速機22の出力軸22aに固定されたギア22bと、このギア22bと噛み合うギア(前輪用ディファレンシャルギア24の回転軸24aに固定されたギア)24bとの間のバックラッシュが表されている。また、トランスファー26の回転軸26aに固定されたギア26bと、このギア26bと噛み合うプロペラ軸18のギア18aとの間のバックラッシュが表されている。
図2に示す「フローティング」が発生している状態とは、噛み合っているギアの歯面同士が接触していない状態のことである。
【0024】
図2に示すようなフローティング状態は、例えば、アクセルペダルが踏まれていない二輪駆動状態での惰性走行中、又は車両停止状態において発生し得る。このようなフローティング状態において、加速要求に伴って原動機トルクに応じた駆動トルクが
図2に示す正方向に作用すると、フローティング状態となっているギア22bとギア24bとの間、及びギア26bとギア18aとの間において、ガタが詰まることに起因してガタ打ちショックが発生する。また、駆動トルクが発生してから各部のガタの詰まりに要する時間が経過するまでの間は、駆動トルクはトルク伝達経路の下流側に伝達されない。つまり、各部のガタの詰まりに要する期間は、駆動トルクの応答遅れ期間に相当する。
【0025】
後述の「プレトルクtpre」の利用なしに車両加速時にガタが詰まると、
図2を参照して説明したように、ガタ打ちショックが発生する。より詳細には、
図2に示す例では、ガタ打ちショックは、主に(換言すると、トランスファー26側のギア26bとプロペラ軸18のギア18aとのガタの詰まりと比べて)変速機22側のギア22bと前輪用ディファレンシャルギア24のギア24bとのガタの詰まりに起因して発生する。これは、二輪駆動状態(すなわち、カップリング20がカップリングトルクを発生させていない状態)では、トルク伝達経路上のトランスファー26の下流側(すなわち、カップリング20の上流側のプロペラ軸18の部位)が回転フリー状態となるためである。
【0026】
図3は、ガタ詰め用のプレトルクtpre発生時の電子制御カップリング20周りのトルクフローを説明するための図である。本実施形態では、上述のガタ打ちショックを抑制するために、プレトルクtpreとしてのカップリングトルクが発生するようにカップリング20を制御する「ガタ詰め制御」を実行する。
【0027】
ガタ詰め制御は、車両加速時に、二輪駆動状態(前輪駆動状態)から四輪駆動状態(全輪駆動状態)に切り替わる時のガタ打ちショックの抑制のために実行される。ここでいう「車両加速時」は、より詳細には、直進中又は旋回中にアクセルペダルがオフとされている惰性走行状態(コースティング状態)からのチップイン加速時と、発進加速時とを含む。下記の説明における「車両加速」は、このような車両加速のことである。
【0028】
より具体的には、ガタ詰め制御では、ECU30は、車両加速の開始に先立ち、プレトルクtpreを発生させるように、カップリング20(より詳細には、カップリング20のクラッチの押し付け力)を制御する。その結果、
図3に示すように、後輪軸16を駆動する力となるプレトルクtpre(カップリングトルク)がカップリング20の下流側に発生する。そして、このプレトルクtpreの反力トルク(すなわち、プレトルクtpreと逆向きのトルク)がカップリング20の上流側(すなわち、トランスファー26の側)に作用する。
【0029】
図4は、
図3に示すプレトルクtpreを利用した加速時の前輪軸14周りの各構成要素のギア間の関係を説明するための図である。
図3に示すプレトルクtpreがガタ詰めのために作用すると、上記の反力トルクがプロペラ軸18からトランスファー26に向けて作用する。
図4に示すように、この反力トルクの方向は、原動機トルクに基づく駆動トルクを正方向とすると、その逆方向(すなわち、負方向)となる。このような反力トルクの作用により、
図4中の2か所のガタが詰まることになる。したがって、このようにガタ詰めがなされている状態で加速要求に応じた駆動トルクが原動機12から印加されても、ガタ打ちショックは、発生しなくなる又は少なくとも緩和される。また、ガタが詰まっているので、上述の駆動トルクの応答遅れが解消される又は減少するので、加速応答性も向上する。
【0030】
<プレトルクtpreの決定手法>
本件発明者らは、鋭意研究により、ガタ詰めのためのプレトルクtpre(ガタ詰めトルク)に、次のような適正範囲(後述のトルク範囲B1又はB2)が存在することを見出した。
【0031】
まず、
図5は、電子制御カップリング20を単体で見たときのねじり特性の一例を示す図である。
図5の縦軸はカップリングトルク(Nm)であり、横軸はカップリング差動角(カップリング20のねじり角;deg)である。より詳細には、縦軸は、カップリング指令トルク、すなわち、カップリング20に要求されるカップリングトルクの指令値である。なお、
図5は、カップリング20の差動回転数が2rpmの時のデータを示している。
【0032】
図5に示すように、カップリング20のねじり特性(ねじりバネ特性)の勾配は、カップリング指令トルクの領域によって異なる。具体的には、勾配は、カップリング指令トルクが高いほど大きくなり、逆に、カップリング指令トルクが低いほど小さくなっている。
図6は、
図5に示す特性上の代表的なカップリング指令トルク値における電子制御カップリング20のねじりバネ定数の数値例を示す表である。
図6に示すように、カップリング20の単体のねじりバネ定数(Nm/deg又はNm/rad)は、カップリング指令トルクに応じて異なるものとなっている。より詳細には、このねじりバネ定数は、低トルク域ではカップリング指令トルクの変化に対して大きく変化し、高トルク域ではカップリング指令トルクに対する変化率が低下している。
【0033】
上述のように、
図5に示すカップリング20のねじり特性は、使用されるカップリング指令トルクによってねじりバネ定数(すなわち、ねじりバネ剛性)が変化する非線形特性となる。このことは、次に
図7を参照して説明されるように、ガタ詰め制御において指令されるプレトルクtpreの値によって、車両10のトルク伝達経路(ドライブライン)の剛性バランスが変化することを意味する。
【0034】
次に、
図7は、車両10のトルク伝達経路上の各構成要素の等価剛性値をカップリング指令トルクとの関係で表した図である。
図7では、前輪軸(主駆動輪軸)14、後輪軸(従駆動輪軸)16、プロペラ軸18、及びカップリング20の等価剛性値(Nm/rad)の大小関係が比較されている。ここで、同一軸上にないこれらの構成要素14、16、18及び20の剛性の値を同一の基準で比較して評価するために、
図7に示す等価剛性値は、各構成要素間のギア比を考慮して算出されている。一例として、
図7は、車輪軸(ドライブシャフト)上の値に換算された等価剛性値を示している。なお、横軸は、対数表示されたカップリング指令トルクである。
【0035】
図7に示すように、軸部材である前輪軸14、後輪軸16、及びプロペラ軸18の等価剛性値は、カップリング指令トルクによらずに一定である。より詳細には、二輪駆動状態での車両10の駆動に用いられる前輪軸(主駆動輪軸)14の等価剛性値は、後輪軸(従駆動輪軸)16の等価剛性値と比べて高くなっている。また、これら3つのうちでプロペラ軸18の等価剛性値が最も高くなっている。
【0036】
その一方で、
図5に示す非線形特性を有するカップリング20の等価剛性値は、
図7に示すように、カップリング指令トルクの増加に伴って後輪軸16から前輪軸14までの等価剛性値の範囲(剛性範囲A1)を通過するように増加している。また、
図7より、カップリング20の等価剛性値は、カップリング指令トルクの増加に伴って後輪軸16からプロペラ軸18までの等価剛性値の範囲(剛性範囲A2)を通過するように増加している。以下、これらの「剛性範囲A1及びA2」にそれぞれ対応するカップリング指令トルクの範囲を「トルク範囲B1及びB2」と称する。
【0037】
本件発明者らは、ガタ打ちショックを好適に抑制するためには、ガタ詰め制御におけるプレトルクtpreをトルク範囲B1又はトルク範囲B2内で決定するのが良いことを見出した。そこで、本実施形態では、プレトルクtpreがトルク範囲B1内に収まるように決定される。なお、プレトルクtpreをトルク範囲B1又はトルク範囲B2内で決定するのが良い理由については、
図13~
図15を参照して後述される。
【0038】
<ECUによる処理>
図8は、プレトルクtpreの決定に関する処理の一例を示すフローチャートである。一例として、このフローチャートの処理は、車両10の走行中に常時(繰り返し)行われているものとする。
【0039】
図8では、ECU30は、まずステップS100において、車両10の車体速度Vxを読み込む。ECU30は、次のような手法を用いて、車体速度Vxを常時演算している。すなわち、二輪駆動状態では、車体速度Vxは、例えば、車輪速センサ32によって検出される非駆動論(車両10では後輪2)の車輪速(車輪速センサ値)に基づいて演算できる。また、全輪駆動状態では、車体速度Vxは、例えば、すべての車輪1及び2の車輪速(車輪速センサ値)のうち最も低い車輪速に基づいて演算できる。
【0040】
次いで、ステップS102において、ECU30は、車体速度Vxに応じたプレトルクtpreのベース値tprebを設定する。
【0041】
図9は、プレトルクtpreのベース値tprebと車体速度Vxとの関係の一例を示す図である。ベース値tprebは、例えば、車両10の走行抵抗(ロードロード;単位はN)の後輪軸(従駆動輪軸)16の分担分を、カップリング20が配置されているプロペラ軸18のトルク値に換算したものに相当する。このベース値tprebは、車体速度Vxが高い場合には、車体速度Vxが低い場合と比べて大きくなるように設定されている。より詳細には、
図9に示す設定例では、ベース値tprebは、車体速度Vxが高いほど大きくなる。なお、
図9に示す設定に用いられる走行抵抗の値は、車両10の直進時に得られるものである。
【0042】
ECU30の記憶装置には、
図9に示すような関係を定めたマップが格納されている。ECU30は、ステップS100で取得した車体速度Vxに応じたベース値tprebを当該マップから取得する。
【0043】
次いで、ステップS104において、ECU30は、修正後プレトルクtprecを算出する。修正後プレトルクtprecは、ベース値tprebに、操向輪である前輪1の切れ角の補正係数Kstrを乗じることによって算出される。
図10は、補正係数Kstrと前輪1の切れ角との関係の一例を示す図である。補正係数Kstrは、前輪1の切れ角が大きい場合には、切れ角が小さい場合と比べて大きくなるように、例えば実験により決定されている。補正係数Kstrを用いてベース値tprebを補正する理由は、前輪1の切れ角が増えると、直進時と比べて走行抵抗が増えるためである。
図10に示す一例では、補正係数Kstrは、1.0を基準値とし、切れ角の増加に伴って大きくなる範囲を有するように設定されている。
【0044】
次いで、ステップS106において、ECU30は、修正後プレトルクtprecがトルク範囲B1(
図7参照)内に収まっているか否かを判定する。トルク範囲B1は、事前に特定され、ECU30の記憶装置に格納されている。
【0045】
ステップS106において修正後プレトルクtprecがトルク範囲B1内に収まっている場合には、ECU30は、修正後プレトルクtprecを最終的なプレトルクtpreとして決定する。
【0046】
一方、ステップS106において修正後プレトルクtprecがトルク範囲B1内に収まっていない場合には、ECU30は、トルク範囲B1内に収まるように修正後プレトルクtprecを修正し、当該修正後の値を最終的なプレトルクtpreとして決定する。具体的には、修正後プレトルクtprecがトルク範囲B1の上限値を超えている場合には、当該上限値が最終的なプレトルクtpreとして決定される。また、修正後プレトルクtprecがトルク範囲B1の下限値未満の場合には、当該下限値が最終的なプレトルクtpreとして決定される。
【0047】
次に、
図11は、最終カップリング指令トルクの選択に関する処理の一例を示すフローチャートである。一例として、このフローチャートの処理は、
図8に示す処理と並行して、車両10の走行中に常時(繰り返し)行われているものとする。
【0048】
図11では、ECU30は、まずステップS200において、
図8に示す処理により決定されたプレトルクtpreを読み込む。
【0049】
次いで、ステップS202において、ECU30は、通常の全輪駆動(AWD)制御のために別途演算されるカップリング指令トルクであるトルクtoutを読み込む。ここでいう通常のAWD制御とは、発進時のトラクション確保、及び旋回時の軌跡のトレース性確保等の本来のAWD機能の実現のためにカップリングトルクを後輪軸16に付与する制御のことである。なお、運転者によるブレーキペダル4の操作に伴う制動時には、車輪速の落ち込みを回避するため、トルクtoutは印加されない。
【0050】
次いで、ステップS204において、ECU30は、AWD制御用のトルクtoutがプレトルクtpre未満であるか否かを判定する。その結果、トルクtoutがプレトルクtpre以上である場合には、ECU30は、ステップS206においてトルクtoutをカップリング20にそのまま指令する。すなわち、トルクtoutが最終カップリング指令トルクとして選択される。
【0051】
一方、ステップS204においてトルクtoutがプレトルクtpre未満である場合には、処理はステップS208に進む。ステップS208では、ECU30は、トルクtoutの下限をプレトルクtpreでガードする処理を実行し、プレトルクtpreをカップリング20に指令する。すなわち、プレトルクtpreが最終カップリング指令トルクとして選択される。
【0052】
図12は、
図11に示す処理の動作を説明するためのタイムチャートである。なお、プレトルクtpreは上述のように車体速度Vxに応じて変化するが、
図12では、説明の簡素化のために、プレトルクtpreは、時間経過に対して一定で表されている。
【0053】
図12中の時点t0は、オフ状態からのアクセルペダルの踏み込みがなされ、全輪駆動状態に切り替える車両加速が開始される時点に相当する。この時点t0よりも前の期間(すなわち、車両10がコースティング状態にある期間)では、プレトルクtpreが最終カップリング指令トルクとなっている。
【0054】
時点t0を経過すると、AWD制御用のトルクtoutがゼロから増加していく。時点t0より後の時点t1は、トルクtoutとプレトルクtpreとが等しくなる時点に相当する。時点t1以前の期間中には、時点t0より後であっても、プレトルクtpreが最終カップリング指令トルクとなる。一方、時点t1を経過すると、トルクtoutがプレトルクtpreを上回るので、トルクtoutが最終カップリング指令トルクとなる。
【0055】
図12に表されているように、
図11に示す処理によれば、全輪駆動状態に切り替える車両加速の開始に先立ち、プレトルクtpreをガタ詰めトルクとして後輪軸16に付与することができる。
【0056】
付け加えると、プレトルクtpreは、アクセルペダルオフの期間中(時点t0より前)及び加速開始初期(時点t0から時点t1まで)にのみ付与されてもよいし、或いは、これらの期間のみに限らず、二輪駆動状態時にも付与されてもよい。
【0057】
3.作用効果
まず、
図13~
図15を参照して、ガタ詰めのためのプレトルクtpreの有無及び大きさの違いが車両10の前後加速度Gx並びに前後輪軸14及び16のトルクに与える影響について説明する。
図13~
図15には、一例として車速40km/hからの50%開度へのアクセルペダル3の踏み込みによるチップイン加速時の動作が表されている。なお、
図14(A)~
図14(C)は、それぞれ、
図13(A)~
図13(C)におけるアクセルペダル3の踏み込みタイミング(アクセルON)直後の波形を拡大して示している。また、
図15(A)~
図15(C)に示す前後輪軸14及び16のトルクは、それぞれ、左右の2本のドライブシャフトトルクの合算値である。
【0058】
図13(A)~
図13(C)を比較すると分かるように、プレトルクtpreの有無及び大きさの違いに起因して前後加速度Gxの立ち上がり方が異なるものとなる。
【0059】
具体的には、まず、プレトルクtpreが0Nmの例では、
図15(A)に示すように、アクセルペダルの踏み込み(0秒時点)の直後の前輪軸14のトルクの波形は0Nm付近で停滞している。これは上述のギアのフローティングの影響によるものである。このフローティングの影響は、
図14(A)に示すように、前輪軸14のトルクの波形から遅れたタイミングにおいて前後加速度Gxにも表れている。このように、0Nmのプレトルクtpreの例では、トルク及び前後加速度Gxの波形においてフローティング状態を明確に確認できる。このようなフローティング状態の存在は、上述したようにガタ打ちショックを招くことになる。
【0060】
次に、トルク範囲B2(
図7参照)の上限を超える50Nmのプレトルクtpreの例では、過大なプレトルクtpreの付与に伴って反力トルク(
図3参照)が過大となることに起因して、アクセルペダル3の踏み込み直後に次のような現象が生じている。すなわち、過大なプレトルクtpreに起因して、アクセルペダル3の踏み込み直後に、前輪軸14の周りのガタが速やかに詰まり、かつ、その後に前輪軸14のトルクの勾配が負に転じてしまっている(
図15(C)参照)。このような負のトルク勾配の発生は、過大なプレトルクtpreによる各ギアの歯面同士の接触時の衝撃に起因して、前輪軸14を含むトルク伝達経路にねじり振動が起きていることを示している。付け加えると、ねじり振動の影響により、後輪軸16のトルクも変動している。
【0061】
また、50Nmのプレトルクtpreの例では、ねじり振動の発生により、一度詰まったガタが再び生じてしまい、フローティングの発生に起因する前輪軸14のトルクの停滞(0Nm付近)が生じている(
図15(C)参照)。したがって、その後に当該フローティング状態が解消する際にガタ打ちショックが生じてしまう。
【0062】
さらに、50Nmの例のようにプレトルクtpreがトルク範囲B2を超えると、トルク伝達経路上の各構成要素の剛性(等価剛性値)は、高い順で、カップリング20、プロペラ軸18、前輪軸14、及び後輪軸16となる(
図7参照)。つまり、カップリング20の剛性が最も高くなる。このことは、上述のねじり振動現象が発生した際に、カップリング20を減衰要素として使えなくなることを意味する。より詳細には、減衰要素としてのカップリング20によるねじり振動の減衰効果は、カップリング20の多板クラッチの引き摺りとカップリング20の内部のフルードの粘性に起因して得られるものである。したがって、減衰効果は、カップリングの剛性(ねじり剛性)が他の構成要素14、16及び18の剛性よりも低いことを条件として得られることになる。
【0063】
次に、トルク範囲B1(及びB2)に含まれる25Nmのプレトルクtpreの例について説明する。この例に関する
図15(B)及び
図14(B)では、フローティング状態は見られない。したがって、ガタ打ちショックは生じておらず又は少なくとも良好に抑制されている。また、この例では、前輪軸14のトルクの波形に負勾配も見られない。つまり、ねじり振動も生じていない又は少なくとも良好に抑制されている。
【0064】
付け加えると、25Nmの例では、カップリング20の剛性が、他の構成要素のうちで剛性が最も低い後輪軸(従駆動輪軸)16の剛性と同等となる(
図7参照)。すなわち、この例では、カップリング20の等価剛性値が剛性範囲A1(及びA2)の下限値相当となっている。トルク範囲B1(トルク範囲B2も同様)内におけるカップリング20によるねじり振動の減衰効果は、この例において最も効果的に得られる。
【0065】
<まとめ>
以上説明したように、電子制御カップリング20のねじり特性(トルク-ねじり角特性)は非線形となる(
図5参照)。そして、カップリング20を含むトルク伝達経路上の各構成要素の等価剛性値とカップリング指令トルクとの関係は
図7に示すものとなる。
【0066】
トルク範囲B2に対応する剛性範囲A2の上限値がプロペラ軸18の等価剛性値となる理由は、上述のように、カップリング20を減衰要素として用いることを可能とするためである。また、剛性範囲A1(及びA2)の下限値を後輪軸(従駆動輪軸)16の等価剛性値とすることが妥当である理由として、例えば次の理由を挙げられる。すなわち、カップリング20の剛性が最も低くなると、ねじり振動に伴う実カップリングトルクの変動が過大となり、カップリング指令トルクの再現性を良好に確保することが難しくなるためである。
【0067】
以上のことから、広く言えば、プレトルクtpreは、トルク範囲B2(
図7参照)内に収まるように決定されるのが良い。これにより、カップリング20とその周囲の構成要素14、16及び18との剛性のバランスを考慮して、カップリング20を適切にねじらせることができるので、ガタ詰めに伴って生じ得るねじり振動の減衰要素としてカップリング20を好適に利用できる。
【0068】
そのうえで、
図7に示すトルク範囲B2とトルク範囲B1とを比較したとき、トルク範囲B1の選択により、カップリング20の周囲の構成要素14、16及び18のうちで最も高いプロペラ軸18の等価剛性値(上限値)に対応するトルク値から離れたトルク範囲をプレトルクtpreの使用範囲として明確に特定できるようになる。換言すると、トルク範囲B1の選択により、トルク範囲B2の選択時と比べて、カップリング20による減衰効果の確保により適した剛性のバランスを、カップリング20とその周囲の構成要素14、16及び18との間で実現できるようになる。
【0069】
本実施形態のガタ詰め制御では、上述のようなトルク範囲B1内に収まるようにプレトルクtpreが決定される。これにより、全輪駆動状態に切り替わる車両加速時に、ガタ詰めに伴うねじり振動を好適に抑制しつつ、ガタ打ちショックを抑制できる。
【0070】
また、本実施形態のガタ詰め制御によれば、プレトルクtpre(より詳細には、ベース値tpreb)は、車体速度Vxが高い場合には、車体速度Vxが低い場合と比べて大きくなるように決定される。車両10の走行抵抗は、基本的に車体速度Vxの増加に伴って増加する。このため、本実施形態によれば、ガタ詰めのためのプレトルクtpreを、走行抵抗に応じた適切な大きさで、かつトルク範囲B1内で決定することができる。
【0071】
さらに、本実施形態によれば、走行抵抗に基づくベース値tprebは、操向輪である前輪1の切れ角が大きい場合には、切れ角が小さい場合と比べて大きくなるように修正される。このような切れ角に基づく修正は必ずしも行われなくてもよい。これに対し、当該修正を行うことにより、ガタ詰めのためのプレトルクtpreを、切れ角の考慮を伴うことでより正確に走行抵抗に応じた適切な大きさで、かつトルク範囲B1内で決定することができる。
【0072】
4.プレトルクtpreの他の決定手法
上述した実施の形態では、プレトルクtpreは、トルク範囲B1内に収まるように決定される。このような例に代え、プレトルクtpreは、カップリング20の等価剛性値が後輪軸(従駆動輪軸)16の等価剛性値以上かつプロペラ軸18の等価剛性値以下となるトルク範囲B2(
図7参照)内に収まるように決定されてもよい。
【0073】
図16は、プレトルクtpreの決定に関する処理の他の例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、以下に説明される点において、
図8に示すフローチャートの処理と相違している。
【0074】
具体的には、
図16では、ECU30は、ステップS104の後にステップS300に進む。ステップS300では、ECU30は、修正後プレトルクtprecがトルク範囲B2(
図7参照)内に収まっているか否かを判定する。トルク範囲B2は、事前に特定され、ECU30の記憶装置に格納されている。
【0075】
ステップS300において修正後プレトルクtprecがトルク範囲B2内に収まっている場合には、ECU30は、上述のステップS108の処理を実行する。一方、修正後プレトルクtprecがトルク範囲B2内に収まっていない場合には、ECU30は、ステップS302の処理を実行する。すなわち、ECU30は、トルク範囲B2内に収まるように修正後プレトルクtprecを修正し、当該修正後の値を最終的なプレトルクtpreとして決定する。
【0076】
以上説明した
図16に示す処理に従うガタ詰め制御によっても、全輪駆動状態に切り替わる車両加速時に、ガタ詰めに伴うねじり振動を好適に抑制しつつ、ガタ打ちショックを抑制できる。
【0077】
5.車両構成の他の例
図17は、本開示に係る車両構成の他の例を概略的に示す図である。
図17に示す車両40は、電子制御カップリングの配置場所において、
図1に示す車両10と相違している。すなわち、車両40では、電子制御カップリング42は、後輪軸(従駆動輪軸)44上に配置されている。より詳細には、カップリング42は、後輪軸44を構成する左右一対のドライブシャフトのそれぞれに対して配置されている。本開示に係るガタ詰め制御は、このような構成を有する車両40に対して同様に適用することができる。
【0078】
なお、上述した車両10及び40の例では、原動機12は前輪軸14の側に搭載され、前輪軸14が主駆動輪軸に相当し、後輪軸16が従駆動輪軸に相当している。本開示に係る「車両」は、このような例とは逆に、後輪軸の側に搭載された原動機と、主駆動輪軸に相当する後輪軸と、従駆動輪軸に相当する前輪軸とを備えるものであってもよい。本開示に係るガタ詰め制御は、このような構成を有する車両に対して同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 前輪
2 後輪
3 アクセルペダル
4 ブレーキペダル
10、40 車両
12 原動機
14 前輪軸(主駆動輪軸)
16、44 後輪軸(従駆動輪軸)
18 プロペラ軸
20、42 電子制御カップリング
22 変速機
24 前輪用ディファレンシャルギア
26 トランスファー
28 後輪用ディファレンシャルギア
30 電子制御ユニット(ECU)
32 車輪速センサ
34 アクセルポジションセンサ
36 ブレーキポジションセンサ
38 操向輪の切れ角センサ