(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】老化細胞死誘導薬としてのアジスロマイシンおよびロキシスロマイシン誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7056 20060101AFI20240814BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/222 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/4375 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/4402 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/609 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20240814BHJP
A61K 31/7052 20060101ALI20240814BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240814BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240814BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240814BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240814BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240814BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240814BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240814BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240814BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20240814BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240814BHJP
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A61P 25/16 20060101ALI20240814BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240814BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240814BHJP
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A61P 29/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20240814BHJP
A61Q 9/02 20060101ALI20240814BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240814BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240814BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240814BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61K31/7056
A61K8/60
A61K31/122
A61K31/222
A61K31/357
A61K31/36
A61K31/375
A61K31/436
A61K31/4375
A61K31/44
A61K31/4402
A61K31/47
A61K31/4706
A61K31/4709
A61K31/4745
A61K31/609
A61K31/65
A61K31/7048
A61K31/7052
A61K45/00
A61K47/54
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/14
A61P19/02
A61P19/04
A61P19/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P27/12
A61P29/00
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61Q5/02
A61Q9/02
A61Q19/08
A61Q19/10
C12N5/071
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2021518508
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 US2019054231
(87)【国際公開番号】W WO2020072598
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-29
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519333480
【氏名又は名称】ルネラ・バイオテック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リサンティ,マイケル・ピイ
(72)【発明者】
【氏名】ソッジャ,フェデリカ
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09180134(US,B1)
【文献】国際公開第2018/129007(WO,A1)
【文献】特表2006-513157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0190415(US,A1)
【文献】ERYTHROMYCIN SERIES XII. ANTIBACTERIAL IN VITRO EVALUATION OF 1 0-DIHYDRO-1 0-DEOXO-1 1 -AZAERYTHROMYCIN A : SYNTHESIS AND STRUCTURE-ACTIVITY RELATIONSHIP OF ITS ACYL DERIVATIVES,THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,vol.XL, no.7,1987年,pp.1006-1015
【文献】AN EFFICIENT SYNTHESIS OF DES-N-METHYL-N-ACETYL ERYTHROMYCIN DERIVATIVES VIA THE N-OXIDE,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1997年,pp.1203-1206
【文献】Azithromycin and Roxithromycin define a new family of "senolytic" drugs that target senescent human fibroblasts,AGING,2018年11月12日,vol.10,no.11,pp.3294-3307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 8/00- 8/99
A61K 45/00-45/08
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、および下式:
【化1】
(式中、R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく
、膜標的化シグナル
、水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルケン、環式アルケン、アルキン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、エステル、アミン、アミド、単環式アレン、多環式アレン、ヘテロアレン、フェノール、および安息香酸から選択され
、
前記膜標的シグナルは、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択され、
R1およびR2の少なくとも一方は、
前記膜標的化シグナ
ルである。)
を有する化合物から選択される少なくとも1つの老化細胞死誘導薬を含む、老化細胞の細胞死を誘導するためのおよび/または老化細胞の増殖を阻害するための老化細胞死誘導組成物。
【請求項2】
下式
【化2】
式中、R1およびR2は同じであっても異なっていてもよく、膜標的化シグナル
、水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルケン、環式アルケン、アルキン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、エステル、アミン、アミド、単環式アレン、多環式アレン、ヘテロアレン、フェノール、および安息香酸から選択され
、
前記膜標的シグナルは、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択され、
R1およびR2の少なくとも一方は、
前記膜標的化シグナ
ルである
から選択される式を有する、薬学上有効な量の化合物をさらに含む、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項3】
R1およびR2の少なくとも一方はミリスチン酸である、請求項1または2に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項4】
R1およびR2の少なくとも一方は、
前記短鎖脂肪酸
または前記中鎖脂肪
酸である、請求項1または2に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項5】
前記化合物は式
【化3】
式中、R1はメチルであって、R2は
前記膜標的化シグナルであるか、またはR1は
前記膜標的化シグナルである
を有する、請求項2に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項6】
前記化合物は式
【化4】
式中、R1はO-CH2-O-(CH
2)
2-OCH
3であって、R2は
前記膜標的化シグナルであるか、またはR1は
前記膜標的化シグナルである
を有する、請求項2に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項7】
前記化合物は式
【化5】
式中、R1は
【化6】
であって、R2は
前記膜標的化シグナルであるか、またはR1は
前記膜標的化シグナルである、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項8】
前記老化細胞死誘導薬がアジスロマイシンである、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項9】
前記老化細胞死誘導薬がロキシスロマイシンである、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項10】
前記老化細胞死誘導薬がテリスロマイシンである、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項11】
治療量の、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびチゲサイクリンのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項12】
治療量の、ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、イリノテカン、ソラフェニブ、ニクロサミド、スチリペントール、クロロキン、およびラパマイシンのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項13】
治療量の、ミトリボシン、ミトケトシン、およびミトフラボシンのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項14】
ビタミンC、ベルベリン、カフェ酸フェニルエステル、シリビニン、ブルチエリジン、およびメリチジンのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の老化細胞死誘導組成物。
【請求項15】
化粧品、丸剤、ローション、シャンプー、クリーム、石鹸、皮膚洗浄剤、ひげ剃り用剤、アフターシェーブローション、ゲル、スティック、ペースト、スプレー、エアロゾル、パウダー、リキッド、水性懸濁液、水溶液、フォーム、経皮パッチ、チンキ、および蒸気のうちの少なくとも1つの形態である、請求項1に記載の老化細胞死誘導組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、老化細胞に選択的に細胞死を誘導する化合物である老化細胞死誘導薬に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物が年齢に伴う加齢を受けるので、多くの遺伝的、表現型的および代謝的欠陥が集積する。この集積は様々な細胞種での老化の徴候を含む。集積した欠陥の全体像は、加齢の「集積損傷」仮説に一致する。
【0003】
老化は、通常の年齢に伴う加齢の明らかな特徴である。老化には、p16-INK4A、p19-ARF、p21-WAFおよびp27-KIP1などのCDK阻害剤の誘導、ならびにSASP(細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype)の誘発、そして重要なリソソーム酵素(β-ガラクトシダーゼ)および確立された加齢色素であるリポフスチンの誘導による不可逆的な細胞周期の休止を含む可能性がある。興味深いことに、SASPはIL-1βおよびIL-6などの幅広い炎症性サイトカインの分泌をもたらし、老化細胞に老化表現型をある細胞種から別の細胞種へ、慢性炎症を介して全身へ「伝染的に」拡散させる。このような慢性炎症はまた、癌の発生、ならびに腫瘍の再発および転移も促進し得る。
【0004】
老化細胞を検出および標識するためのトランスジェニックプローブとしてp16-IN4KAのプロモーターを用い、いくつかの研究グループが現在、老化細胞がリアルタイムの一時的様式で遺伝的に除去され得るマウス加齢モデルを作出している。それは抗加齢療法として使用できないが、老化細胞の除去が生物に治療利益を持ち得るかどうかの示唆は得られる。これまでに大きな有望性を示す結果が得られ、老化細胞の遺伝的除去が健康寿命および寿命を実際に延長し得ることが示されている。
【0005】
この遺伝学的データの結果として、多数の製薬会社が老化細胞を標的とし得る「老化細胞死誘導」薬の開発に積極的に取り組んでいる。理論上、このような老化細胞死誘導薬は、加齢に関連する様々な影響を取り消す(undue) 可能性を有する。しかしながら、創薬は時間も費用もかかる過程であり、詳細な臨床試験を要し、可能性のある多くの理由のうちの1つのために上手くいかないリスクもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、老化細胞死誘導活性も有する、1以上の治療に関して既に承認されている化合物の特定が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
簡単な概要
本開示は、老化細胞死誘導薬として使用され得る、老化細胞死誘導活性を有する化合物に関する。多くのFDA承認薬が様々な程度の老化細胞死誘導活性を有している。このような化合物を特定し、老化細胞の阻害に対するそれらの選択性を改善することで、抗加齢薬治験へのそれらの利用可能性は劇的に加速化される。本明細書には、ヒト線維芽細胞において老化を誘導するツールとしての制御されたDNA損傷の使用の後に特定される、このような化合物の特定が記載される。DNA損傷剤としての使用の歴史が長いBrdU処置、化合物を老化細胞死誘導活性に関してスクリーニングするための有効なプラットフォームとして使用することができる。より具体的には、BrdU処置は、培養細胞において老化を高い効率で再現性よく誘導することを可能とする。
【0008】
老化細胞死誘導活性を特定するためのプラットフォームとしてのBrdU処置を使用し、本発明者らは、老化細胞死誘導薬としての有効性を有する臨床承認薬として、エリスロマイシン系の2つのマクロライド抗生物質、具体的には、アジスロマイシンおよびロキシスロマイシンを特定した。これらの複雑な相互作用の高い特異性の直接的裏づけという点で、親マクロライド化合物であるエリスロマイシン自体には、本明細書に開示されているスクリーニングアッセイで老化細胞死誘導活性が無い。しかしながら、テリスロマイシン(別のマクロライド)もまた、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの化学的類似体または誘導体と同様に老化細胞死誘導活性を示す。本明細書では、「誘導体」および「類似体」という用語は互換的に使用することに留意されたい。老化細胞死誘導薬を特定するためには、本明細書に記載されるようなスクリーニング法が使用されてきた。さらに、老化細胞死誘導薬は、老化細胞死誘導活性を改善するために1以上の標的化シグナルで修飾してもよく、老化細胞をより有効に根絶するためにミトコンドリア生合成阻害剤などの他の治療薬と併用してもよい。
【0009】
本アプローチは、様々な形態をとり得る。いくつかの実施形態は、治療量の、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、アジスロマイシン類似体、ロキシスロマイシン類似体、およびテリスロマイシン類似体から選択される少なくとも1つの老化細胞死誘導薬を含む老化細胞死誘導組成物の形態をとり得る。本開示は、「誘導体」および「類似体」という用語を互換的に使用するが、一般的な用法は異なる場合がある。例えば、複数の実施形態は、薬学上有効な量の、以下のうちの1つから選択される式の形態であり得る。
【0010】
【0011】
このような実施形態では、R1およびR2は官能基を表し、R1およびR2の少なくとも一方が膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルの一方である限り、同じ基であっても異なる基であってもよい。それ以外の点で、R1およびR2は、水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステル、エステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式アレン、多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体から選択される。いくつかの実施形態では、R1およびR2の少なくとも一方は、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択される膜標的化シグナルである。R1およびR2の少なくとも一方は、トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジから選択されるミトコンドリア標的化シグナルである、請求項1の老化細胞死誘導組成物。老化細胞死誘導組成物のいくつかの実施形態では、R1およびR2の少なくとも一方は、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体から選択されるTPP誘導体である。
【0012】
いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導化合物は、アジスロマイシン誘導体または類似体であり得る。例えば、老化細胞死誘導組成物は、式
【0013】
【0014】
を有する化合物であり得、式中、R1はメチルであって、R2は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうちの1つであるか、またはR1は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうち1つであって、NH-R2はN(CH3)2であるかのいずれかである。当然のことながら、これらの官能基は、本明細書の他所に記載されているように異なっていてもよい。この技術用語の一般的な用法の下、塩基化合物(例えば、アジスロマイシン)からの単一の置換は類似体と呼ばれ、塩基化合物に対してなされた1以上の修飾は誘導体と見なされ得る。簡単にするために、本開示では、「類似体」および「誘導体」という用語を互換的に使用する。
【0015】
いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導化合物は、ロキシスロマイシン誘導体または類似体であり得る。例えば、老化細胞死誘導組成物は、式
【0016】
【0017】
を有する化合物であり得、式中、R1はO-CH2-O-(CH2)2-OCH3であって、R2は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうちの1つであるか、またはR1は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうちの1つであって、NH-R2はN(CH3)2であるかのいずれかである。当然のことながら、これらの官能基は、本明細書の他所に記載されているように異なっていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導化合物は、テリスロマイシン誘導体または類似体であり得る。例えば、老化細胞死誘導組成物は、式
【0019】
【0020】
を有する化合物であり得、式中、R1は
【0021】
【0022】
であって、R2は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうちの1つであるか、またはR1は膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルのうちの1つであって、NH-R2はN(CH3)2であるかのいずれかである。
【0023】
本アプローチの好ましい実施形態では、老化細胞死誘導組成物は、ミトコンドリア取り込みおよびその結果として化合物の老化細胞死誘導活性を改善するために少なくとも1つの官能基標的化シグナルを有する。上記の一般式を用い、R1およびR2の少なくとも一方は、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択される膜標的化シグナルであるか、または2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体から選択されるミトコンドリア標的化シグナルであるかのいずれかである。
【0024】
いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導組成物はまた、1以上の付加的治療薬も含み得る。例えば、いくつかの実施形態は、治療量の、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびチゲサイクリンのうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの実施形態は、治療量の、ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、イリノテカン、ソラフェニブ、ニクロサミド、スチリペントール(stirpentol)、クロロキン、およびラパマイシンのうちの少なくとも1つを含み得る。また、いくつかの実施形態は、治療量の、ミトリボシン、ミトケトシン、ミトフラボシン、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPP;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPP;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;p-キシリレンビス-TPP;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体のうちの少なくとも1つを含み得る。当然のことではあるが、TPP誘導体は老化細胞死誘導化合物の誘導体または類似体とコンジュゲートしてもよく、標的化シグナルとして機能し、また、別の治療化合物として存在してもよい。いくつかの実施形態は、ビタミンC、ベルベリン、カフェ酸フェニルエステル、シリビニン、ブルチエリジン、およびメリチジンのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0025】
老化細胞死誘導組成物の形態をとる実施形態は、例えば、化粧品、丸剤、ローション、シャンプー、クリーム、石鹸、皮膚洗浄剤、ひげ剃り用剤、アフターシェーブローション、ゲル、スティック、ペースト、スプレー、エアロゾル、パウダー、リキッド、水性懸濁液、水溶液、フォーム、経皮パッチ、チンキ、および蒸気を含む様々な形態で作製可能である。これらの形態は限定されない例であるものとする。
【0026】
本アプローチの実施形態は、老化療法において使用するための組成物の形態をとってもよい。このような組成物は、治療量の上述のような老化細胞死誘導薬を含む。例えば、老化細胞死誘導薬は、(i)パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択される膜標的化シグナル;ならびに(ii)トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジから選択されるミトコンドリア標的化シグナルのうちの少なくとも1つを有する、アジスロマイシン類似体、ロキシスロマイシン類似体、およびテリスロマイシン類似体のうちの1つであり得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、老化療法において使用するための組成物はまた、治療量の、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびチゲサイクリンのうちの少なくとも1つも含み得る。いくつかの実施形態は、治療量の、ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、イリノテカン、ソラフェニブ、ニクロサミド、スチリペントール(stirpentol)、クロロキン、およびラパマイシンのうちの少なくとも1つを含み得る。また、いくつかの実施形態は、治療量の、ミトリボシン、ミトケトシン、ミトフラボシン、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPP;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPP;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;p-キシリレンビス-TPP;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体のうちの少なくとも1つを含み得る。加えて、いくつかの実施形態は、ビタミンC、ベルベリン、カフェ酸フェニルエステル、シリビニン、ブルチエリジン、およびメリチジンのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0028】
本アプローチは、対象において老化細胞の細胞死を誘導するための方法の形態をとり得る。このような実施形態では、治療量の老化細胞死誘導薬が対象に投与される。老化細胞死誘導薬は、上述のようなアジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、アジスロマイシン類似体、ロキシスロマイシン類似体、およびテリスロマイシン類似体のうちの少なくとも1つであり得る。誘導体または類似体は、膜標的化シグナルおよびミトコンドリア標的化シグナルなどの1以上の標的化シグナルを含み得る。本方法は、1以上の付加的治療薬を投与することを含み得る。例えば、治療量の、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびチゲサイクリンのうちの少なくとも1つが老化細胞死誘導薬とともに投与され得る。別の例として、治療量の、ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、イリノテカン、ソラフェニブ、ニクロサミド、スチリペントール(stirpentol)、クロロキン、およびラパマイシンのうちの少なくとも1つが投与され得る。さらなる例として、治療量の、ミトリボシン、ミトケトシン、ミトフラボシン、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPP;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPP;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;p-キシリレンビス-TPP;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体のうちの少なくとも1つが投与され得る。別の例として、治療量の、ビタミンC、ベルベリン、カフェ酸フェニルエステル、シリビニン、ブルチエリジン、およびメリチジンのうちの少なくとも1つが投与され得る。治療薬が老化細胞死誘導薬と併用投与されてもよく、またはいくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬の前に投与しても後に投与してもよい。
【0029】
本アプローチのいくつかの実施形態は、対象において加齢性疾患の発症を遅延させるための方法の形態をとり得る。加齢性疾患は、アテローム性動脈硬化症、関節炎、癌、心血管疾患、白内障、認知症、糖尿病、抜け毛、高血圧症、炎症性疾患、腎疾患、筋萎縮、神経疾患、変形性関節症、骨粗鬆症、肺疾患、椎間板変性、および脱毛症のうちの少なくとも1つであり得る。例えば、加齢性疾患は、軽度認知障害、運動ニューロン機能不全、アルツハイマー病、パーキンソン病、および黄斑変性などの神経疾患であり得る。このような実施形態では、治療量の、本明細書に記載されるような老化細胞死誘導薬が対象に投与され得る。いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬は、本明細書に記載されるような別の治療薬とともに投与され得る。老化細胞死誘導薬は、加齢性疾患の発症時、すなわち、診断時または診断のすぐ後に投与され得る。あるいは、老化細胞死誘導薬は、通常には診断後に投与してよく、頻度および用量は、当技術分野で公知の技術を用いて決定することができる。いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬は、発症前、特に、対象において加齢性疾患が予測されるまたは発生する可能性がある場合に(例えば、遺伝子マーカーまたは他の生物学的マーカーによる)投与され得る。
【0030】
本アプローチはまた、加齢性疾患の発症の遅延において使用するための組成物の形態をとり得る。例えば、限定されるものではないが、本アプローチは、アテローム性動脈硬化症、関節炎、癌、心血管疾患、白内障、認知症、糖尿病、抜け毛、高血圧症、炎症性疾患、腎疾患、筋萎縮、神経疾患、変形性関節症、骨粗鬆症、肺疾患、椎間板変性、および脱毛症の発症を遅延させるために使用され得る。このような実施形態では、本明細書に記載されるように、治療量の、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、アジスロマイシン類似体、ロキシスロマイシン類似体、およびテリスロマイシン類似体のうちの少なくとも1つを含む老化細胞死誘導薬が投与され得る。いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬は、本明細書に記載されるように別の治療薬とともに投与され得る。
【0031】
本アプローチはまた、化合物を老化細胞死誘導活性に関してスクリーニングするための方法の形態をとり得る。このような実施形態では、細胞集団が第1の期間、DNA損傷剤に曝されて老化細胞集団が生成される。DNA損傷剤の例はブロモデオキシウリジン(BrdU)であるが、他のDNA損傷剤も本アプローチから逸脱することなく使用可能である。この老化細胞集団の少なくとも一部が第2の期間、候補化合物で処理されて処理細胞集団が形成される。候補化合物は、老化細胞死誘導活性に関してスクリーニングされる化合物である。この処理細胞集団が、老化細胞死誘導活性の少なくとも1つのマーカーに関して分析される。老化細胞死誘導活性のマーカーの例には、細胞生存率、好気性解糖、自食、阻害活性、および細胞増殖低下が含まれる。例えば、自食性LC3タンパク質は、本明細書に記載されるように定量的に測定可能である。スルホローダミンBアッセイおよび細胞により誘導される電気インピーダンスの測定も、老化細胞死誘導活性に関して細胞集団を分析するために使用可能なアッセイの例である。第1の期間は変更可能であり、下記の実施形態では約8日であった。第2の期間も変更可能であり、本明細書に記載の実施形態では、約3日~約5日であった。いくつかの実施形態では、BrdUは第2の期間の前に洗い流してもよい。
【0032】
本アプローチのさらなる実施形態は、当業者が以下の詳細な説明を読めば認識できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本アプローチの実施形態に従って老化細胞死誘導薬をスクリーニングおよび特定するための方法を示す。
【
図2】
図2は、MRC-5線維芽細胞におけるDNA合成低下の結果を示す。
【
図3A】
図3Aは、MRC-5線維芽細胞におけるアジスロマイシンに関するSRBアッセイからの結果を示す。
【
図3B】
図3Bは、BrdU前処理有りおよび無しの場合それぞれの、100μMアジスロマイシンで処理したMRC-5線維芽細胞の画像を示す。
【
図3C】
図3Cは、BrdU前処理有りおよび無しの場合それぞれの、100μMアジスロマイシンで処理したMRC-5線維芽細胞の画像を示す。
【
図4】
図4は、MRC-5線維芽細胞におけるロキシスロマイシンに関するSRBアッセイからの結果を示す。
【
図5】
図5は、MRC-5線維芽細胞における50μMアジスロマイシンに関する自食誘導の結果を示す。
【
図6A】
図6Aは、72時間のアジスロマイシン処理の後のMRC-5細胞に関する代謝フラックス解析からの細胞外酸性化速度を示す。
【
図6B】
図6Bは、72時間のアジスロマイシン処理の後のMRC-5細胞に関する代謝フラックス解析からの細胞外酸性化速度を示す。
【
図7A】
図7Aは、72時間のアジスロマイシン処理の後のMRC-5細胞に関する代謝フラックス解析からの酸素消費速度を示す。
【
図7B】
図7Bは、72時間のアジスロマイシン処理の後のMRC-5細胞に関する代謝フラックス解析からの酸素消費速度を示す。
【
図8】
図8は、老化を誘導するために8日間BrdUで前処理した後に5日間アジスロマイシンに曝した老化ヒト皮膚細胞における老化細胞死誘導活性を示す。
【
図9A】
図9Aは、BrdU前処理、BrdU前処理とアジスロマイシン、アジスロマイシン単独、および対照を比較した、MRC-5細胞株のxCELLigenceリアルタイム細胞健康モニタリングから得られた代表的な細胞追跡を示す。
【
図9B】
図9Bは、同じ株の最終細胞指数をまとめたものである。
【
図10A】
図10Aは、BrdU前処理、BrdU前処理とロキシスロマイシン、ロキシスロマイシン単独、および対照を比較した、MRC-5細胞株の最終な細胞指数結果を示す。
【
図10B】
図10Bは、BrdU前処理、BrdU前処理とロキシスロマイシン、ロキシスロマイシン単独、および対照を比較した、MRC-5細胞株のxCELLigenceリアルタイム細胞健康モニタリングから得られた代表的な細胞追跡を示す。
【
図11A】
図10Aは、BrdU前処理、BrdU前処理とテリスロマイシン、テリスロマイシン単独、および対照を比較した、MRC-5細胞株の最終細胞指数の結果を示す。
【
図11B】
図11Bは、BrdU前処理、BrdU前処理とテリスロマイシン、テリスロマイシン単独、および対照を比較した、MRC-5細胞株のxCELLigenceリアルタイム細胞健康モニタリングから得られた代表的な細胞追跡を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の説明は、本アプローチの例示的実施形態を実施する、現在企図されている様式を含む。以下の説明は、限定の意味で解釈されるべきではなく、単に本発明の一般原則を説明するために示されるものである。
【0035】
本明細書に記載されるように、本アプローチは、老化を誘導するためのスクリーニングアッセイの開発、ならびに老化細胞死誘導活性、すなわち、老化細胞の選択的阻害、および老化細胞の細胞死の誘導を備えた化合物を特定するためのその使用に関する。本アプローチは、いくつかの実施形態において、加齢および加齢関連障害の治療のための老化細胞死誘導活性を有する臨床承認治療薬を特定および転用するために使用することができる。
図1は、本アプローチによるスクリーニング法を示す。ステップS101で、正常な線維芽細胞を選択する。次に、ステップS102で、それらの細胞をDNA損傷剤に曝して老化を誘導する。例えば、ブロモデオキシウリジンが損傷剤として使用可能である。これらの老化細胞をステップS103において、候補処理化合物で処理する。当然のことではあるが、その老化細胞の一部を用いて複数の候補処理化合物がスクリーニングされ、この工程は化合物濃度および処理期間の変形形態を含み得る。最後に、ステップS104で、処理細胞が老化細胞死誘導活性のマーカーに関して分析される。正常細胞および/または非処理老化細胞もまた対照として分析され得る。使用する老化細胞死誘導活性マーカーは様々であってよく、例えば、細胞生存率、好気性解糖、自食、阻害活性、および細胞増殖低下を含み得る。
【0036】
BrdUとしても知られるブロモデオキシウリジン(5-ブロモ-2’-デオキシウリジン)は、老化を誘導するために使用することができる。BrdUは、増殖中の細胞を特定するために慣用される、ヌクレオシドチミジンの類似体である。BrdUは、制御されたDNA損傷を誘導し、高い効率で細胞を老化に向かわせる。本アプローチのBrdUアッセイでは、制御されたDNA損傷および老化を誘導するために、正常な線維芽細胞が100μMのBrdUの存在下で長期培養(8日)を受ける必要がある。例証的実施形態において、本発明者らは、BrdUに基づくアッセイにおいて、2つの無関連の正常な非不死化ヒト線維芽細胞株、MRC-5肺細胞(スクリーニング用)とBJ皮膚細胞(バリデーション用)を使用した。次に、正常線維芽細胞と老化線維芽細胞の同質遺伝子的に一致した培養物を、老化細胞死誘導活性を有する薬物を特定するための薬物スクリーニングに使用することができる。老化細胞死誘導活性は、当技術分野でSRBアッセイとしても知られるスルホローダミンBアッセイを用いて検出することができる。このアッセイでは、組織培養ディッシュと結合して残存し、細胞生存率のサロゲートマーカーであるタンパク質の量を測定する。このアプローチは、例えば抗生物質などの臨床承認薬を含む化合物を迅速にスクリーニングするために使用することができる。例えば、本明細書に記載の実施形態において、本アプローチは、他の化合物の中でもアジスロマイシンおよびロキシスロマイシンを含むエリスロマイシン系メンバーをスクリーニングするために使用することができる。当然のことではあるが、本アプローチは他の化合物をスクリーニングするために使用することもできる。
【0037】
機構的に、本アプローチは、「正常」線維芽細胞と「老化」線維芽細胞の応答を直接、対照して比較する。老化線維芽細胞を優先的に死滅させるが正常線維芽細胞は死滅させない薬物は、老化細胞死誘導活性陽性と見なすことができる。本明細書に記載する実施形態において、このアプローチを用い、本発明者らは、老化線維芽細胞を優先的に標的化した2つのエリスロマイシン系メンバー、アジスロマイシンおよびロキシスロマイシンを特定した。以下の表1は、2種類の濃度のエリスロマイシン、アジスロマイシン、およびロキシスロマイシンの結果を示し、アジスロマイシンおよびロキシスロマイシンが100μMで老化細胞死誘導活性を有することを示す。アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの化学類似体だけでなく、別のマクロライドであるテリスロマイシンもまた有益な老化細胞死誘導活性を示した。しかしながら、エリスロマイシン自体は老化細胞死誘導活性を示さなかった。
【0038】
【0039】
開示されている実施形態においてスクリーニングされたいくつかのエリスロマイシン系メンバーの正確な化学構造を化合物I~IVとして以下に示す。エリスロマイシン系の化合物の構造は顕著な類似性を有するが、老化細胞死誘導活性はアジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンに存在することに留意されたい。
【0040】
【0041】
さらに、本発明者らは、BrdUにより誘導されるDNA損傷の使用が細胞老化を誘導するために十分であるとバリデートした。
図2は、MRC-5線維芽細胞におけるDNA合成低下の結果を示す。2日のBrdU処理は、Muse細胞周期キットを用いて測定した場合に、MRC-5線維芽細胞におけるDNA合成を約70%、有意に低下させた。8日のBrdU処理の後にMRC-5細胞は、細胞老化のバイオマーカーであるβ-ガラクトシダーゼに関して陽性染色された。このデータに関して、n=3;および
*はp<0.05を示す。
図2の挿入図は、BrdUで処理した細胞におけるβ-ガラクトシダーゼ陽性を示す。これらの結果は、S期の細胞の数およびβ-ガラクトシダーゼ活性の誘導の両方における約70%の低下により明らかなように、BrdUで処理した細胞は細胞周期の休止を受けていたことを実証する。これらの結果から、MRC-5細胞のBrdU処理が有効にDNA合成を阻害し、β-ガラクトシダーゼを誘導することが確認され、これらは両方とも老化の特徴である。
【0042】
一実施形態では、アジスロマイシンは、老化MRC-5ヒト肺線維芽細胞において老化細胞死誘導活性を示した。MRC-5細胞を8日間BrdUで前処理し(老化誘導のため)、その後、BrdUを洗い流し、さらに5日間アジスロマイシンに曝した。その後、細胞生存率に及ぼす薬物の効果を決定するためにSRBアッセイを行った。
図3Aは、対照(BrdU単独)に対する、100μMおよび50μM濃度のアジスロマイシンで処理した、BrdU処理MRC-5線維芽細胞に関するSRBアッセイからの結果を示す。100μMのアジスロマイシンは、正常MRC-5肺線維芽細胞の生存率に効果を示さなかったが、老化MRC-5線維芽細胞を選択的に死滅させた。アジスロマイシンはこの濃度で、5日後に、対照細胞に影響を及ぼすことなく老化細胞の約50%を有効かつ選択的に除去した。しかしながら、アジスロマイシンは、50μMでは効果が無かった。これらの実験を独立に少なくとも3回繰り返し、非常に類似した結果を得た。このデータに関して、
**はp<0.01を示す。
図3Bおよび3Cは、BrdU前処理有りおよび無しの場合のそれぞれの、100μMアジスロマイシンで処理したMRC-5線維芽細胞の画像である。これらの画像は、アジスロマイシンが正常細胞にはほとんど効果がないが、老化細胞には細胞死を誘導したことを示す。
図3Bおよび3Cの右上のスケールバーは20μmを表す。
【0043】
比較すると、同じ濃度のロキシスロマイシンはより有効に老化MRC-5線維芽細胞を死滅させた(約70%)が、正常MRC-5線維芽細胞の生存率には小さな効果しかなかった。一実施形態では、MRC-5細胞を8日間BrdUで前処理し(老化を誘導するため)、その後、BrdUを洗い流し、さらに5日間ロキシスロマイシンに曝した。5日の曝露の後、細胞生存率に及ぼす薬物の効果を決定するためにSRBアッセイを行った。
図4は、ロキシスロマイシンで処理したMRC-5線維芽細胞に対するSRBアッセイからの結果を示す。このデータは、5日後に50%を超える老化細胞を除去したことから、100μM濃度のロキシスロマイシンがMRC-5細胞に対して有効かつ選択的な効果を有したことを示す。しかしながら、ロキシスロマイシンは、50μM濃度では効果が無かった。これらの実験を独立に少なくとも3回繰り返し、非常に類似した結果を得た。
図4で、
*はp<0.05を示す。
【0044】
図3Aおよび4のデータは、アジスロマイシンもロキシスロマイシンも50μMで老化細胞生存率に有意な効果を示さなかったことを示す。これは老化細胞死誘導効果が濃度依存的であることを示す。当然のことではあるが、少なくとも当技術分野における通常の技量を有する者は、当技術分野で知られ、利用可能な方法を用いて、老化細胞死誘導活性を有する薬物に関して適当な濃度を決定することができる。供試濃度に基づけば、アジスロマイシン毒性は、老化細胞表現型を選択的に標的化するために最高の特異性を示した。
【0045】
アジスロマイシンの表現型的効果および代謝効果をより良く機構的に理解するためにMRC-5線維芽細胞を用いてさらなる実験を行った。MRC-5細胞を50μMのアジスロマイシンで72時間処理した。次に、Muse自食LC3抗体に基づくキットを用いた自食性LC3タンパク質の検出により自食をモニタリングした。
図5は、これらの結果を示し、アジスロマイシンが自食性表現型の有力な誘導因子であることを実証する。
図5の
**はこのデータのp<0.01を示す。示されるように、アジスロマイシン処理はMRC-5細胞における自食に3倍を超える上昇をもたらした。
【0046】
本発明者らは次に、Seahorse XFe96代謝フラックス解析装置を用い、好気性解糖およびミトコンドリア代謝に対するアジスロマイシンの効果を測定した。25μM~100μMの範囲の濃度のアジスロマイシンによる72時間の処理の後、MRC-5細胞に対してSeahorse XFe96を用いた代謝フラックス解析を行い、細胞外酸性化速度(ECAR)を測定した。
図6Aおよび6Bはこの代謝フラックス解析からのECARデータを示し、見て取れるように、アジスロマイシンは全ての供試濃度で好気性解糖を上昇させた。
図6Aのデータは、40分の時点で、上から下へ、それぞれ100μM、50μM、25μMのアジスロマイシン濃度、および対照(すなわち、ビヒクル単独)を表す。
図6Bで、バーのデータは左から右へ、対照、100μM、50μM、および25μMを表す。このデータでは、n=3;
**はp<0.01を示し、
***はp<0.001を示す。
【0047】
本発明者らは又、酸素消費速度(OCR)に対するアジスロマイシンの効果を評価するために代謝フラックス解析を使用した。
図7Aおよび7Bに示される結果は、アジスロマイシンがMRC-5細胞におけるOCRに二相効果を有することを示す。このデータは、72時間、25~100μMの範囲の濃度のアジスロマイシンで処理した後に、MRC-5細胞に対してSeahorse XFe96を用いた代謝フラックス解析を行うことにより作成した。41分の時点で上から下へ、
図7Aのラインのデータは、対照(すなわち、ビヒクル単独)、ならびに25μM、50μM、および100μM濃度に関するものである。最高のアジスロマイシン濃度100μMは54分でミトコンドリア呼吸の増大を誘発したが、それより低い濃度(50μM)ではそれを有意に低下させたことに留意されたい。しかしながら、25μMは、OCRに対していずれの有意な効果も示さなかった。このデータに関して、n=3、および
*はp<0.05を示す。
【0048】
図7Bは、基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、および予備呼吸容量のOCRを示す。左から右へ、バーのデータは、対照、ならびに100μM、50μM、および25μMの濃度を表す。アジスロマイシンのミトコンドリア作用は濃度依存的で二相性であることに留意されたい。25μMで、アジスロマイシンはOCRに対して有意な効果を示さなかった。しかしながら、50μMでは、アジスロマイシンはミトコンドリア代謝を明らかに阻害し、特に、最大呼吸および予備呼吸容量に影響を及ぼした。これに対して、100μMでは、アジスロマイシンは最大呼吸を刺激し、予備呼吸容量は二倍を超えた。これはアジスロマイシン処理に対する、そのミトコンドリア阻害効果を克服するための細胞の代償応答を表し得る。
【0049】
アジスロマイシンの選択性および効力は、正常な非不死化BJヒト線維芽細胞を用いてバリデートした。BJ細胞を8日間BrdUで前処理した老化を誘導し、その後、BrdUを洗い流し、5日間アジスロマイシンに曝した。その後、細胞生存率に対するアジスロマイシンの効果を決定するためにSRBアッセイを行った。アジスロマイシンは、50μMで5日後に対照細胞の生存率を低下させることなく50%を超える老化細胞を除去したことから、BJ細胞に有効かつ選択的な効果を有した。これらの実験を独立に少なくとも3回繰り返し、非常に類似した結果を得た。結果を
図8に示す。
図8で、
**はp<0.01を示すことに留意されたい。
図8に見て取れるように、アジスロマイシンはBJ皮膚線維芽細胞においてより有効であり、わずか50μMで有意な老化細胞死誘導活性を示した。アジスロマイシンはまた、正常BJ皮膚線維芽細胞の生存率を、25%を超えて高めた。従って、アジスロマイシンは、2つの異なる解剖学的部位(肺組織および皮膚)に由来するヒト線維芽細胞において同等の選択性および老化細胞死誘導活性を示す。
【0050】
【0051】
MRC-5またはBJ線維芽細胞を使用するこの老化細胞死誘導アッセイ系を用いていくつかの他の薬物候補を試験するために本アプローチを使用した。これらの化合物は上記の表2に挙げられ、この表には使用した細胞株および試験に使用した化合物濃度の範囲も示されている。残念ながら、これらの他の薬物候補の中に、正常線維芽細胞対応物に効力を及ぼさずに特異的老化細胞死誘導活性を示したものは無かった。
【0052】
エリスロマイシン系は全体として老化細胞死誘導活性を示さなかったが、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンは特異的かつ選択的な老化細胞死誘導活性を示す。当然のことではあるが、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの多くの化学類似体および誘導体も老化細胞死誘導活性を有する。従来、「類似体」は、親化合物と異なる要素を1つだけ有し、「誘導体」は、別のものから化学的に誘導または合成されたものである。開示される誘導体の多くは、この用語の通常の用法の下で類似体と呼ぶこともあるが、本開示においては、これらの用語は互換的に使用される。例えば、標的化シグナル部分を付着させるために一置換を行った誘導体は類似体と見なす場合がある。当然のことではあるが、脂肪酸膜標的化シグナルまたはTPP誘導体ミトコンドリア標的化シグナルなどの標的化シグナルを有する誘導体は、ミトコンドリア取り込みの増大、および結果として効力の増強を示す。この効果は、癌幹細胞および老化細胞などのミトコンドリア生合成に強く依存する細胞において顕著である。以下の化合物V~VIIは、それぞれアジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの類似体の官能基の位置を示す一般構造式である。
【0053】
【0054】
各一般構造V~VIIは、符番された「R」で示され、「R基」と呼ばれる、コンジュゲーションまたは置換が可能な位置を有する。各R基は、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、安息香酸系誘導体、膜標的化シグナル、およびミトコンドリア標的化シグナルから選択され得る。炭素または窒素などの単一の原子に関しては、やはり原子価を満たす必要がある(例えば、それは1以上の付加的結合または水素原子を必要とする場合がある)と理解されるべきである。用語「誘導体」は、本明細書で使用する場合、類似の化合物から化学反応により誘導される化合物を指す。誘導体老化細胞死誘導化合物の1以上のR基は、老化細胞に対する化合物の選択性および有効性を増強するために、膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルで置換することができる。膜標的化シグナルとしては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸が含まれる。結果としてのコンジュゲートは、脂質化反応(例えば、ミリストイル化、パルミトイル化など)などの、脂肪酸による化学修飾を達成するための当技術分野で公知の技術に従って合成することができる。ミトコンドリア標的化シグナルとしては、例えば、親油性陽イオン、例えば、トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジが含まれる。TPP誘導体の非網羅的な例としては、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体が含まれる。誘導体は当技術分野で公知の技術を用いて合成することができる。当然のことではあるが、これらは例として示される非網羅的なリストである。
【0055】
本アプローチのさらなる適用において、老化細胞に対するアジスロマイシンの選択性は、xCELLigence系を用いてバリデートした。老化細胞は、タンパク質の合成および分泌の劇的な増加を含む、いわゆる、老化関連分泌表現型(SASP)下にあるので、本発明者らは、このタンパク質測定アッセイ系が供試化合物の老化細胞死誘導活性を過小評価しているかどうかを評価した。このxCELLigenceアッセイ系はタンパク質に依存せず、その代わりに、細胞増殖をリアルタイムで継続的に測定するために電気インピーダンスを用いる。
【0056】
図9Aおよび9Bは、アジスロマイシンに関するxCELLigenceアッセイからの代表的データを示す。
図9Aで追跡する代表的細胞は、老化細胞(BrdU処理/MRC-5線維芽細胞)が効果的に死滅化されたことを示す。308.44時間の位置で、上から下へ、曲線は、BrdU単独、アジスロマイシン単独、対照、およびBrdUとアジスロマイシンで処理された細胞を表す。対照に対する正規化細胞指数は処理直後に著しく高く、約235時間まではBrdU単独と一致していた。
図9Bは、最終細胞指数を平均±平均の標準誤差として強調した棒グラフを示す。見て取れるように、アジスロマイシンは、老化MRC-5細胞のおよそ97%を標的とした。これに対し、正常対照MRC-5細胞は、アジスロマイシンにより一過性の影響を受けるだけで、細胞増殖を介して急速に回復した。アジスロマイシンで処理した細胞株が示す回復は、ビヒクル単独の対照細胞レベルを、30%を超えるほどに上回るに過ぎなかった。このデータにより、アジスロマイシンが老化細胞を優先的に標的とし、それらのおよそ97%を除去し、ほぼ25分の1に老化細胞を減少させるという高い効率であることが確認される。
図9Aおよび9Bに示すデータに関して、
****はp<0.001を示す。よってリアルタイムxCELLigenceアッセイ系はより静的なSRBアッセイと言え、薬物スクリーニングにおいて化合物の可能性のある老化細胞死誘導効果のより直接的な可視化を与える。
【0057】
また、xCELLigenceアッセイをロキシスロマイシンおよびテリスロマイシンの老化細胞死誘導活性を確認するためにも使用した。
図10Aは、それぞれ対照、ロキシスロマイシン処理対照、BrdU処理対照、および90μMのロキシスロマイシンに曝したBrdU処理線維芽細胞に関して、最終細胞指数を平均±平均の標準誤差として示す。これらのアッセイには、MRC-5線維芽細胞を使用した。対照に比べ、ロキシスロマイシン処理は、正常線維芽細胞の生存率には最小の効果であったが、老化誘導のためにBrdUで処理した線維芽細胞の82%を標的とした。老化MRC-5細胞は老化誘導のために8日間BrdUで前処理した後、BrdUを洗い流し、さらに5日間、ロキシスロマイシンに曝した。これらの実験を独立に少なくとも3回繰り返し、非常に類似した結果を得た。
図10Aで、
*はp<0.01を示すことに留意されたい。ロキシスロマイシンに関するxCELLigenceアッセイからの代表的データを
図10Bに示す。249時間の時点で上から下へ、ラインは対照、BrdU単独、ロキシスロマイシン(90μM)を伴う対照、およびBrdUとロキシスロマイシンを表す。見て取れるように、ロキシスロマイシンは、老化線維芽細胞の細胞指数に継続的な低下を生じた。これらのデータにより、ロキシスロマイシンは強い老化細胞死誘導活性を有することが確認される。
【0058】
同じアプローチを用いてテリスロマイシンに関する老化細胞死誘導活性も確認した。
図11Aは、最終細胞指数を平均±平均の標準誤差として強調したものであり、
図11Bは、代表的なxCELLigenceデータを示す。テリスロマイシン処理は90μMの濃度であった。
図11Aは、テリスロマイシンは100%の老化細胞を標的とし、正常MRC-5細胞への影響は無視できるものであったことを示す。
図11Bは、243.5時間の時点で上から下へ、対照、テリスロマイシン処理を伴う対照、BrdUを伴う対照、およびBrdUとテリスロマイシンを示す。これらのデータにより、テリスロマイシンは強い老化細胞死誘導活性を有することが実証される。
【0059】
よって、本アプローチは、老化表現型のヒト線維芽細胞を標的とする化合物を系統的に特定するための老化細胞死誘導スクリーニング法を提供する。上記および図面に開示されたデータに示されるように、本アプローチは臨床承認薬をスクリーニングするために使用可能であり、当然のことではあるが、その範囲は限定されず、他の化合物のスクリーニングにも使用可能である。これらの結果は、2種類の十分に確立された非不死化ヒト線維芽細胞株、MRC-5および/またはBJ細胞を用いて得たものである。当然のことではあるが、他のヒト細胞も、老化の誘導が確認される限り、使用可能である。細胞周期の休止および老化を誘導するために、線維芽細胞をBrdU(DNA損傷剤)に100μMの濃度で8日間曝した。当然のことではあるが、他のDNA損傷剤も本アプローチから逸脱することなく使用可能である。濃度および曝露期間は変更可能であるが、当然のことではあるが、老化誘導が確認されなければならない。BrdU処理および洗浄の後に、線維芽細胞を試験薬または化合物に曝した。上述の結果において、試験化合物曝露は5日間であった。しかしながら、試験化合物の時間および濃度は変更可能である。薬物処理の後、細胞の付着を、ハイスループット分析を可能とするプレートリーダーを用いたSRBアッセイ系によって評価してもよい。上記のxCELLigenceアッセイも使用可能である。
【0060】
本アプローチのスクリーニング法を用い、本発明者らは、3種類の臨床承認済みのマクロライド抗体、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンが、老化細胞に対して高い選択性のある老化細胞死誘導活性を有することを実証した。これに対し、化学構造は類似であると考えられることが多い親化合物であるエリスロマイシンは、老化線維芽細胞に対して毒性を示さなかった。アジスロマイシンの化学的効果の代謝分析は、アジスロマイシンが自食および解糖の両方の開始を誘導したことを示した。さらに、アジスロマイシンは、高用量(100μM)でミトコンドリア活性を増強したが、低用量(50μM)では反対の効果を有し、明らかな二相効果を示した。これらの代謝効果は、アジスロマイシンの特異性の高い老化細胞死誘導活性を裏づけ得る。
【0061】
要約すると、本アプローチは、既存の臨床承認抗生物質および他の薬物など、老化細胞死誘導活性を有する化合物を特定するためのスクリーニング法を提供する。本アプローチは、例えば、老化線維芽細胞を標的化するために使用できる抗加齢薬としての薬物転用のために使用可能である。本アプローチを、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの選択的老化細胞死誘導活性を実証するために使用した。上記の一般化学式を用いて形成され得るものなどのこれらの化合物の化学類似体もまた老化細胞死誘導活性を有する。特に、膜標的化シグナルおよび/またはミトコンドリア標的化シグナルの付加を含む誘導体は、老化細胞死誘導効果が増強されている。
【0062】
よって、本アプローチは、化合物を老化細胞死誘導活性に関してスクリーニングするための方法の形態をとり得る。細胞集団を、その細胞集団に老化を生じさせるまたは誘導するためにブロモデオキシウリジン(BrdU)に曝せばよい。当業者ならば細胞集団とBrdU濃度が与えられれば適当な曝露期間を決定することができるが、いくつかの実施形態では、曝露は上記のように100μMのBrdU濃度で約8日間であってよい。老化細胞集団は、処理細胞集団を生成するために候補化合物で処理することができる。処理期間はいくつかの実施形態では約3~5日であり得るが、変更可能である。いくつかの実施形態では、非処理対照部分および所望により、異なる処理化合物、異なる化合物濃度、および/または異なる処理期間で処理される部分を考慮して、老化細胞集団の一部を処理してもよい。BrdUは、処理前に洗い流してもよい。当然のことではあるが、処理化合物、濃度、および処理期間は変更可能である。処理後に、細胞集団を老化細胞死誘導活性の指標またはマーカーに関して分析してもよい。例えば、本明細書に記載の、および/または当技術分野で公知のアッセイを用いて、細胞集団を細胞生存率、好気性解糖、自食、阻害活性、自食性LC3タンパク質の定量的測定、および細胞増殖低下に関して分析してもよい。老化細胞死誘導活性を分析するために、さらなる例としてスルホローダミンBアッセイおよび細胞により誘導される電気インピーダンスの測定の一方または両方を用いてもよい。当然のことではあるが、当業者ならば、処理化合物の老化細胞死誘導活性を評価するために本明細書に記載のアッセイに変更を加えることができる。
【0063】
本アプローチはまた、治療量の少なくとも1つの老化細胞死誘導薬を有する老化細胞死誘導組成物の形態をとってもよい。老化細胞死誘導薬は、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、アジスロマイシン類似体、ロキシスロマイシン類似体、およびテリスロマイシン類似体であり得る。治療量は当業者により本開示および当技術分野で知られ、利用可能な方法を用いて決定可能であることと理解されるべきである。いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬は、(i)パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択される膜標的化シグナル;または(ii)トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジから選択されるミトコンドリア標的化シグナルのいずれかであり得る少なくとも1つの標的化シグナルで置換されてもよい。この標的化シグナルの置換は、老化細胞死誘導薬のミトコンドリア取り込みを増強することにより老化細胞死誘導活性を増強する。例えば、上記化合物IV~VIのいずれかに示されるR基は標的化シグナルを含み得る。いくつかの実施形態では、標的化シグナルは、置換位置のうちの一箇所で老化細胞死誘導化合物に結合されているTPP誘導体であり得る。TPP誘導体の例としては、限定されるものではないが、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体が含まれる。当然のことではあるが、TPP誘導体での置換は共有結合を必要とする場合がある。
【0064】
いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬は、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびチゲサイクリンを含むテトラサイクリン化合物を含み得る。これらのミトコンドリア生合成阻害剤は、酸化的代謝を阻害し、さらに老化細胞死誘導活性を増幅するために使用することができる。データおよびさらなる例は、全内容が本明細書の一部として援用される2018年4月20日に出願された国際出願第PCT/US2018/028587号に記載されている。いくつかの実施形態では、老化細胞死誘導薬としては、解糖阻害剤、例えば、ピルビニウム、アトバコン、ベダキリン、イリノテカン、ソラフェニブ、ニクロサミド、スチリペントール(stirpentol)、クロロキン、およびラパマイシンを含み得る。上述のように、老化細胞死誘導薬で処理された老化細胞は解糖表現型へ移行する。解糖阻害剤の導入は、これらの細胞から機能的代謝経路を奪い、療法は老化細胞集団における細胞死の誘導を促進する。
【0065】
本アプローチの下、いくつかのミトコンドリア生合成阻害剤が老化細胞死誘導薬とともに使用可能である。ミトコンドリア阻害剤のさらなる例としては、ミトリボシン、酸化的代謝阻害剤および解糖代謝阻害剤、リパーパシン(repurposcins)、アンチミトシン、ミトケトシン、ミトフラボシン、ミトフラビン、TPP誘導体、MDIVI-1誘導体、クロラムフェニコール、ピューロマイシンおよび他のタンパク質合成阻害剤(例えば、アミノグリコシドおよびラパマイシン類似体を含む)、抗寄生虫薬(例えば、パモ酸ピルビニウム、およびニクロサミド)、クロロキン、スチリペントール、カフェ酸フェニルエステル(CAPE)、ビタミンC、2-デオキシ-グルコース(2-DG)、MCT1阻害剤(AZD3965およびAR-C155858)、D-グルコサミン、ケルセチン、およびカルベジロールが含まれる。後段にミトコンドリア生合成阻害治療薬の特定のカテゴリーを記載する。簡略化のため、関連の同時継続出願は、本明細書に完全に示されている場合と同様に本明細書の一部として援用される。
【0066】
ミトコンドリア生合成阻害剤の第1のカテゴリーは、2018年3月14日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際出願第PCT/US2018/022403号に記載されているようなミトリボシンである。援用されている参照には、ミトリボシン化合物の選択に関するデータが含まれている。一般に、ミトリボシンは、抗癌および多くの場合には抗微生物活性、化学療法増感効果、放射線増感効果、および光増感効果、ならびに抗加齢効果を有するミトコンドリア阻害化合物である。これらの化合物は、ミトコンドリアリボソームの大サブユニットまたは小サブユニットの一方(または場合によっては両方)に結合し、ミトコンドリア生合成を阻害する。ミトリボシン群の例は、一般化学構造および特定の化合物とともに、援用されている出願に記載され、ミトリボサイクリン、ミトリボマイシン、ミトリボスポリン、およびミトリボフロキシンを含む。例証的ミトリボシンを化合物VIII~XVIIとして以下に示す。
【0067】
【0068】
ミトケトシンは、老化細胞死誘導活性を増強するために使用され得るもう1つのカテゴリーのミトコンドリア生合成阻害剤である。これらは、ACAT1/2およびOXCT1/2の一方と結合し、ミトコンドリアATP生産を阻害する非発癌性化合物である。これらの化合物は2018年6月25日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際出願第PCT/US2018/039354号にさらに詳しく記載されている。一般に、ミトケトシンは、ケトンの再利用を担うミトコンドリア酵素を標的とし、抗癌および抗生特性を有する。これらの化合物は、OXCT1/2およびACAT1/2の活性触媒部位の一方または両方に結合してミトコンドリア機能を阻害する。
【0069】
リパーパシンおよびアンチミトシンは、本アプローチとともに使用可能な第3のカテゴリーのミトコンドリア生合成阻害剤である。2018年11月29日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際特許出願第PCT/US2018/062956号は、リパーパシンをさらに詳しく記載している。一般に、「リパーパシン」は、化合物をミトコンドリアに標的化するために化学的に修飾された、内因性抗ミトコンドリア特性を有する化合物である。リパーパシンのカテゴリーであるアンチミトシンは、2018年5月18日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際特許出願第PCT/US2018/033466号にさらに詳しく記載されている。内因性抗ミトコンドリア特性を有する既存の抗生物質は、ミトコンドリアを標的とし、ミトコンドリア生合成を阻害するように化学的に修飾することができる。用語「アンチミトシン」は、広義に、抗生物質をミトコンドリアに標的化するように化学的に修飾されている、内因性抗ミトコンドリア特性を有する抗生物質を指す。これまで、抗生物質の内因性抗ミトコンドリア活性は、望まない副作用であると考えられていた。実際に、可能性のあるいくつかの抗生物質が過度の抗ミトコンドリア特性のために治験から除外されており、研究者は抗ミトコンドリア活性を潜在的欠点と見ていた。しかしながら、本アプローチの下では、抗生物質の内因性抗ミトコンドリア活性が全く新しい治療薬の基本発明となり得る。アンチミトシンは、ミトコンドリア標的化シグナル(例えば、化学部分)で化学的に修飾された、内因性抗ミトコンドリア特性を有する抗生物質であり得る。化学修飾は、例えば、共有結合または非共有結合的結合によるものであり得る。いくつかの実施形態では、抗生物質は、テトラサイクリン系、エリスロマイシン(erthyromycin)系のメンバー、クロラムフェニコール、パモ酸ピルビニウム、アトバコン、およびベダキリンのうちの1つである。ミトコンドリア標的化シグナルは、膜標的化シグナルおよびミトコンドリアリボソーム標的化シグナルを含む群から選択される少なくとも1つの化合物または部分であり得る。膜標的化シグナルの例としては、短鎖(例えば、鎖内の炭素原子が6個未満の)脂肪酸および中鎖(例えば、鎖内の炭素原子が6~12個の)脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、およびオレイン酸が含まれる。ミトコンドリアリボソーム標的化シグナルの例としては、トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)およびグアニジニウムに基づく部分が含まれる。TPPおよびグアニジニウムは、生細胞においてミトコンドリア標的化シグナル(MTS)として機能的に挙動する非毒性の化学部分である。いずれも抗生物質に、多くの場合には炭素スペーサーアームまたは連結鎖の使用を介して結合させてよい。
【0070】
ミトフラボシンおよびミトフラビンは、本アプローチ下で使用可能な第4のカテゴリーのミトコンドリア生合成阻害剤である。これらの化合物は、2018年10月23日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際特許出願第PCT/US2018/057093号にさらに詳しく記載されている。ミトフラボシンは、フラビン含有酵素に結合し、ミトコンドリアATP生産を阻害する化合物である。ジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)は、ミトフラボシンの一例である。当然のことではあるが、ミトフラボシンは、アンチミトシンに関して上記されたものなどのミトコンドリア標的化シグナルで修飾してもよい。また、ミトコンドリア機能を阻害するリボフラビンの誘導体であるミトフラビンも、ミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾してもよい。例えば、ロゼオフラビン[8-デメチル-8-(ジメチルアミノ)-リボフラビンまたは8-ジメチルアミノリボフラビン]は、リボフラビンの誘導体である天然の抗菌化合物であり、これはCSCの標的化およびミトコンドリア生合成の阻害に関するその可能性を最適化するように化学的に修飾することができるる。ルミクロム(7,8-ジメチルアロキサジン)は、リボフラビン分解の蛍光性の光生成物であり、これもまた、CSCの標的化に関するその可能性を最適化するために化学的に修飾することができる。リボフラビンの他の一般的誘導体としては、アロキサジン、ルミフラビン、1,5-ジヒドロリボフラビンおよび1,5-ジヒドロフラビンが含まれる。これらの各リボフラビン誘導体は、ミトコンドリア標的化シグナルで化学的に修飾してミトフラビンを形成することができ、本アプローチに従ってミトコンドリア生合成阻害剤として使用可能である。
【0071】
第6のカテゴリーのミトコンドリア生合成阻害剤は、癌細胞(塊状癌細胞、癌幹細胞、および活動的癌幹細胞)における取り込みに強い優先性を示すだけでなく、これらの細胞においてミトコンドリア生合成も破壊するTPP誘導体化合物である。これらのTPP誘導体化合物は、2018年11月21日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用される国際特許出願第PCT/US2018/062174号にさらに詳しく記載されている。TPP誘導体に関して使用する場合、当技術分野で知られるような誘導体は、親化合物から、ある原子を別の原子または原子群で置換することによって合成され得る化合物である。例えば、TPPの誘導体は、ブテンにより連結された2つのホスホニウム基を含む2-ブテン-1,4-ビス-TPPである。次に、2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体は、1以上のフェニル基の、ハロゲンまたは有機化合物などの別の化合物での置換を含み得る。当業者にはこの説明で十分であるはずであるので、簡潔にするために、本開示では、可能性のある誘導体の全てを特定しない。本アプローチに従ってミトコンドリア生合成阻害剤として使用可能なTPP誘導体化合物の他の例としては、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPP;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPP;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;p-キシリレンビス-TPP;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体が含まれる。当然のことではあるが、上記のリストはTPP誘導体の網羅的リストではない。
【0072】
本アプローチにおいて使用可能な別のカテゴリーのミトコンドリア生合成阻害剤として、2018年12月18日に出願され、全内容が本明細書の一部として援用され国際特許出願第PCT/US2018/066247号に記載されているようなMDIVI-1誘導体である。ミトコンドリア分裂阻害剤-1(Mitochondrial division inhibitor-1)(mDIVI-1)は、DRP1を選択的かつ可逆的に阻害する小分子である。MDIVI-1は、結合して、ミトコンドリア周囲のリング様構造へのDRP1の自己集合およびそのGTP加水分解触媒能の両方を抑制することでDRP1を標的化することが示されている。本アプローチは、以下に示す一般式XVIIIを有するミトコンドリア分裂阻害剤1(mitochondrial fission inhibitor 1)(mDIVI-1)誘導体
【0073】
【0074】
またはその薬学上許容される塩の形態をとり得、ここで、R1~R8のそれぞれは水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、安息香酸系誘導体、およびミトコンドリア標的化シグナルからなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのR基は、上記のものなどの標的化シグナルである。
【0075】
本アプローチ下で老化細胞死誘導薬の活性を増強するために使用可能な他のミトコンドリア生合成阻害剤の例としては、ビタミンC、ベルベリン、カフェ酸フェニルエステル、シリビニン、ブルチエリジン、およびメリチジンが含まれる。
【0076】
当然のことではあるが、老化細胞死誘導組成物は広範な有利な使用を有する。例えば、老化細胞死誘導組成物は、例えば老化細胞の細胞死を誘導すること、および/または老化細胞の増殖を阻害することによる老化細胞の処置を構成する老化療法において使用可能である。老化細胞死誘導組成物は、アテローム性動脈硬化症、関節炎、癌、心血管疾患、白内障、認知症、糖尿病、抜け毛、高血圧症、炎症性疾患、腎疾患、筋萎縮、変形性関節症、骨粗鬆症、肺疾患、椎間板変性、および脱毛症などの加齢性疾患の発症および/または進行を遅延させるために使用可能である。軽度認知障害、運動ニューロン機能不全、アルツハイマー病、パーキンソン病、および黄斑変性などの神経疾患もまた、老化細胞死誘導組成物の使用によって治療するまたは遅延させることができる。いくつかの場合で、老化細胞死誘導組成物は加齢性疾患を治療するために使用可能である。
【0077】
老化細胞死誘導薬は多くの形態をとり得る。例えば、老化細胞死誘導薬は、化粧品、丸剤、ローション、シャンプー、クリーム、石鹸、皮膚洗浄剤、ひげ剃り用剤、アフターシェーブローション、ゲル、スティック、ペースト、スプレー、エアロゾル、パウダー、リキッド、水性懸濁液、水溶液、フォーム、経皮パッチ、チンキ、および蒸気の形態をとり得る。例えば、脱毛を治療するための老化細胞死誘導組成物は、毛髪、頭皮、および/または皮膚用の局所適用の形態をとり得る。当然のことではあるが、当業者は、ここで繰り返す必要のない、当技術分野で知られ、利用可能な方法を用いて、老化細胞死誘導薬の形態を選択することを熟知している。
【0078】
上述のように、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、およびテリスロマイシンの誘導体は、本アプローチから逸脱することなく老化細胞死誘導薬として使用可能である。いくつかの実施形態では、誘導体は、1以上の置換標的化シグナルを含み得る。アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、またはテリスロマイシンへの膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルの付加は、得られるコンジュゲートのミトコンドリア取り込みを著しく高め、結果として老化細胞死誘導活性を向上させる。例えば、以下に示す化合物XIX~XXIは、1以上の官能基Rが標的化シグナルである誘導体を表す。
【0079】
第1に、化合物XIXは、いくつかの実施形態によるアジスロマイシン誘導体の一般式を示し、ここで、官能基R1またはR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルである。例えば、R1および/またはR2は、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、短鎖脂肪酸、および中鎖脂肪酸から選択される膜標的化シグナルであり得る。(当然のことながら、そのコンジュゲートは、パルミチン酸塩などの結合のために末端の水素が除去されている部分を含むと考えられる)。R1および/またはR2は、トリ-フェニル-ホスホニウム(TPP)、TPP誘導体、グアニジニウム、グアニジニウム誘導体、および10-N-ノニルアクリジンオレンジから選択されるミトコンドリア標的化シグナルであり得る。TPP誘導体の非網羅的な例としては、2-ブテン-1,4-ビス-TPP;2-クロロベンジル-TPP;3-メチルベンジル-TPP;2,4-ジクロロベンジル-TPP;1-ナフチルメチル-TPP;p-キシリレンビス-TPP;2-ブテン-1,4-ビス-TPPの誘導体;2-クロロベンジル-TPPの誘導体;3-メチルベンジル-TPPの誘導体;2,4-ジクロロベンジル-TPPの誘導体;1-ナフチルメチル-TPPの誘導体;およびp-キシリレンビス-TPPの誘導体が含まれる。いくつかの実施形態では、R1およびR2の一方だけが親化合物とは異なり、従って、この誘導体は類似体である。例えば、R1はメチルであり得、R2は標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、NH-R2は-N(CH3)2であり得る。いくつかの実施形態では、R1またはR2の一方が標的化シグナルであり得、R1およびR2の他方は、水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体からなる群から選択され得る。
【0080】
【0081】
化合物XXは、いくつかの実施形態によるロキシスロマイシン誘導体の一般式を示し、ここで、官能基R1またはR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルであり得る。例えば、R1および/またはR2は上述のような膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルであり得る。いくつかの実施形態では、R1およびR2の一方だけが親化合物とは異なり、従って、この誘導体は類似体である。例えば、R1はロキシスロマイシン中に存在するO-CH2-O-(CH2)2-OCH3などのメトキシであり得、R2は標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、NH-R2はN(CH3)2であり得る。いくつかの実施形態では、R1またはR2の一方は標的化シグナルであり得、R1およびR2の他方は水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0082】
【0083】
化合物XXIは、テリスロマイシン誘導体の一般式を示し、ここで、官能基R1またはR2は同じであっても異なっていてもよく、一方または両方が標的化シグナルであり得る。例えば、R1および/またはR2は、上述のような膜標的化シグナルまたはミトコンドリア標的化シグナルであり得る。いくつかの実施形態では、R1およびR2の一方だけが親化合物とは異なり、従って、この誘導体は類似体である。例えば、R1はアルキル-アリール基、例えば、
【0084】
【0085】
であり得、これはテリスロマイシンカルバマート環に存在し、R2は標的化シグナルであり得る。別の例として、R1は標的化シグナルであり得、-NH-R2は-N(CH3)2であり得る。いくつかの実施形態では、R1またはR2の一方は標的化シグナルであり得、R1およびR2の他方は水素、カルボキシル、アルカン、環式アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環式アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミン系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレン、ヘテロアレン、アレン系誘導体、ヘテロアレン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0086】
【0087】
以下の例、化合物XXIIはアジスロマイシン誘導体を示し、ここで、R1はメチルであり、R2は脂肪酸膜標的化シグナルである。この例において、R2は、膜標的化シグナルミリスチン酸由来の脂肪酸部分である。当然のことではあるが、化合物XXIIは、一例として、当技術分野で公知の脂質化技術であるミリストイル化(myrostoylation)により形成され得る。老化細胞死誘導化合物のこの例は、アジスロマイシンよりもミトコンドリア取り込みを増大させ、結果として、老化細胞死誘導活性を増強した。化合物XXIIは、老化細胞死誘導活性を有する本アプローチ化のアジスロマイシン誘導体の一例である。当然のことではあるが、老化細胞死誘導活性を有する他の多くの誘導体が本アプローチ下で作製可能である。
【0088】
【0089】
後段に、本明細書に開示される実験およびデータに関して使用した材料および方法を記載する。当然のことではあるが、これらの材料および方法は例証であり、当業者ならば本アプローチから逸脱することなく変更を加えることができる。MRC-5(ATCC(登録商標)CCL-171)ヒト肺線維芽細胞およびBJ(ATCC(登録商標)CRL2522)ヒト皮膚線維芽細胞はATCC(American Type Culture Collection)から購入した。Gibco銘柄の細胞培養培地(MEM)はLife Technologiesから購入した。ブロモデオキシウリジン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシンおよびエリスロマイシンはSigma-Aldrichから購入した。アジスロマイシン(Pfizerから)は、FDA承認を受けたものである。ロキシスロマイシン(GSKおよびSandozから)は米国では入手できないが、ニュージーランド、オーストラリアおよびイスラエルで臨床承認されている。
【0090】
MRC-5細胞またはBJ細胞を24ウェルプレートに播種した。翌日、そのプレートの半分を100μMのBrdUで処理し、対照ウェルはビヒクル単独(DMSO)で処理し、5%CO2加湿雰囲気中、37℃で8日間インキュベートした。8日のBrdU処理後、細胞を様々な試験化合物または薬物(例えば、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、エリスロマイシンなど)でさらに3~5日間処理した。BrdUは薬物処理前に洗い流す。
【0091】
スルホローダミンBアッセイ: プレートのインキュベーションの後、細胞生存率をスルホローダミンBアッセイ(SRB)により測定した。このアッセイは細胞のタンパク質含量の測定に基づく。細胞を10%トリクロロ酢酸(TCA)で4℃にて1時間固定し、一晩室温で乾燥させた。次に、プレートをSRBとともに30分間インキュベートし、1%酢酸で2回洗浄し、少なくとも1時間風乾した。最後に、タンパク質に結合した色素を10mM Tris、pH8.8溶液に溶解させ、プレートリーダーを用い540nmで読み取った。
【0092】
自食および細胞周期分析: 自食(Muse(商標)自食性LC3抗体ベースキット、Merck Milliporeを使用)および細胞周期(Muse(登録商標)細胞周期キット、Merck Millipore)試験を製造者の説明書に従って行った。
【0093】
Beta-Gal染色: BrdU処理MRC-5細胞のβ-ガラクトシダーゼ染色は、老化β-ガラクトシダーゼ染色キット(#9860、Cell Signalling Technology Inc.)により製造者のプロトコールに従って行った。
【0094】
Seahorse XFe96代謝フラックス解析: MCF7細胞の細胞外酸性化速度(ECAR)およびリアルタイム酸素消費速度(OCR)は、Seahorse細胞外フラックス(XF96)解析装置(Seahorse Bioscience、マサチューセッツ州、アメリカ)を用いて決定した。MRC-5細胞は、10%FBS(ウシ胎仔血清)、2mM GlutaMAX、および1%Pen-Strepを添加したMEM中で維持した。ウェル当たり40,000細胞をXF96ウェル細胞培養プレートに播種し、5%CO2加湿雰囲気中、37℃で一晩インキュベートした。翌日、細胞をアジスロマイシンで72時間処理した。試験前にプレートを予温したXFアッセイ媒体(OCR測定用として、XFアッセイ媒体に10mMグルコース、1mMピルビン酸塩を添加し、pH7.4に調整した)で洗浄した。次に、非CO2インキュベーター内、37℃にて、175μL/ウェルのXFアッセイ媒体中で1時間、細胞を維持した。インキュベーションの際、XFアッセイ媒体中、25μLの80mMグルコース、9μMオリゴマイシン、1M 2-デオキシグルコース(ECAR測定用)および25μLの10μMオリゴマイシン、9μM FCCP、10μMロテノン、10μMアンチマイシンA(OCR測定用)をXFe-96センサーカートリッジのインジェクションポートに添加した。試験中、この装置は所与の時点でこれらの阻害剤をウェルに注入するとともに、ECAR/OCRが継続的に測定された。ECARおよびOCR測定値はタンパク質含量(スルホローダミンBアッセイ)によって正規化させた。データセットは、一元配置ANOVAおよびスチューデントのt検定計算を用い、XFe-96ソフトウエアにより解析した。本明細書に開示されている結果については、全ての試験を少なくとも3反復で行った。
【0095】
xCELLigenceアッセイ系: xCELLigenceRTCA系(ACEA Biosciences Inc.)。簡単に述べれば、MRC-5肺線維芽細胞(ビヒクル単独および/または100μM BrdUで処理)を各ウェルに播種し、細胞により誘導される電気インピーダンスの測定によるRTCA(リアルタイム細胞分析)を用い、アジスロマイシンの有効性を評価するためにこれを使用した。このアプローチは細胞応答の誘導および速度の定量を可能とする。試験は、各条件につき4反復のサンプルを用い、独立に数回繰り返した。
【0096】
統計分析: 統計的有意性は、スチューデントのt検定を用いて決定し、0.05未満の値を有意と見なした。データは平均±SEMとして示す。
【0097】
本明細書に使用した技術用語は、単に特定の実施形態を説明することを目的とし、本アプローチの限定を意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうではないことを明らかに示さない限り、複数形も含むものとする。さらに、「を含む("comprises" and/or "comprising")」という用語は、明細書で使用する場合、記載の特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または成分の存在を指定するが、1以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または付加を排除しないことが理解されるであろう。
【0098】
本発明は、その趣旨またはその必須の特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具体化することもできる。従って、本実施形態は、あらゆる点で、例示的であって限定されないと考えられるべきであり、本発明の範囲は、以上の説明ではなく本願の特許請求の範囲によって示され、従って、特許請求の範囲の意味の中およびその均等性の範囲内にある変化は全てその中に包含されるものとする。