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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】紙容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 3/14 20060101AFI20240814BHJP
   A47G 19/00 20060101ALI20240814BHJP
   A47G 19/22 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240814BHJP
   B65D 3/22 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B65D3/14 A
A47G19/00 G
A47G19/22 N
B32B29/00
B65D3/22 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021529914
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020249
(87)【国際公開番号】W WO2021002113
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019123476
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012039(JP,A)
【文献】特開2014-037265(JP,A)
【文献】特開2015-227171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 3/14
B65D 3/22
A47G 19/00
A47G 19/22
B32B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器であって、
前記胴部は、胴部ブランクの両側端部が重ね合わされたサイドシール部を有する筒状の本体部を有する胴部ピースから形成され、
前記底部は、底部ブランクの中央の前記胴部の下部を閉塞する平板部と、当該平板部の外周縁から連続して下方に折れ曲げられたのりしろ部とを有する底部ピースから形成され、
前記胴部ピースと前記底部ピースとは、前記のりしろ部が前記本体部の内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して、一体的に結合されてなり、
前記胴部ブランクは、少なくとも容器内面側の表面に樹脂材料による止水薄層を有し、
前記止水薄層を形成する樹脂材料が、ガラス転移点が0℃以上、かつ、融点とガラス転移点との差が50℃以下のものであり、
前記サイドシール部と前記ボトムシール部とが積重するボトム段差部分における前記平板部と平行な切断面において、前記のりしろ部と前記サイドシール部の端縁の段差とによって形成される領域で胴部と底部とが密に接していることを特徴とする紙容器。
【請求項2】
前記胴部ピースが、前記本体部と、前記本体部の下端部から連続して内側上方に折り返された環状の裾部とを有し、
前記胴部ピースと前記底部ピースとは、前記のりしろ部が前記本体部と前記裾部との間に挟み込まれた状態で圧着されたボトムシール部を介して、一体的に結合されてなることを特徴とする請求項1に記載の紙容器。
【請求項3】
前記底部ブランクが、少なくとも容器内面側の表面に樹脂材料による止水薄層を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紙容器。
【請求項4】
前記止水薄層の厚みが5~15μmであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の紙容器。
【請求項5】
前記止水薄層を形成する樹脂材料が、ポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の紙容器。
【請求項6】
前記ボトム段差部分の前記平板部と平行な切断面における、前記のりしろ部と前記サイドシール部の端縁の段差によって形成される領域の面積が、0.03mm 2 以下であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の紙容器。
【請求項7】
前記止水薄層が、原紙に樹脂材料をコーティングしてなるコーティング層よりなることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原紙の表面に樹脂材料による止水薄層が積層された胴部ブランクおよび底部ブランクから形成された、液洩れが防止される紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胴部と底部とからなり上部が開口された紙容器(紙製カップ)が使用されている。この紙製カップは、飲料水等の液体を収容してもその外部に液体が漏れないことが求められることから、胴部ブランクおよび底部ブランクとして、原紙の容器内面側の表面に樹脂材料による止水層が積層されたものが用いられている。
紙容器は、図1および図2に示されるように、胴部ピース15および底部ピース25が貼り合わせられて形成されており、胴部10に縦方向に伸びるサイドシール部18を有すると共に、胴部10および底部20に周方向に伸びるボトムシール部28を有する。そして、サイドシール部18は、胴部ブランク11を筒状に巻き、図3Bに示されるように、両側端部12,12を重ね合わせてヒートシールにより貼り合わせることにより形成されているため、胴部ブランク11の側端部の端部11Eの周辺において段差を有しており、一方、ボトムシール部28においては底部ブランク21の外周縁を下方に折り曲げたのりしろ部23と段差を有する胴部ブランク11とを圧着することになる結果、サイドシール部18の段差とボトムシール部28とが交差するボトム段差部分29においては、のりしろ部23とサイドシール部18の端縁の段差(端部11Eを含む段差)によって形成される領域にいわゆる三角地帯と呼ばれる空隙Sが形成されてしまう。この空隙Sは、紙容器に充填した液体が洩れ出す主要因と考えられている。紙容器の液漏れは、胴部ピース15を胴部ブランク11の下端部を折り返した裾部14を有するものとし、この裾部14にのりしろ部23を挟み込んだ状態でボトムシール部28を形成することによりある程度は解消することができるが、その効果は十分ではなく、むしろ、ボトム段差部分29においては、胴部ブランク11および底部ブランク21が最大5枚積重されることとなるためにボトムシール部28の形成時に、ボトム段差部29以外のボトムシール部28(3枚積重される箇所)と同程度の圧力を十分に行き渡らせることができず、空隙の形成を抑制することが難しい、という問題がある。更に、従来の紙容器においては、止水層がガラス転移点0℃未満のマイナス温度域にある樹脂材料から形成されており、この樹脂材料のガラス転移点と融点との差も大きかった。そのため、ボトムシール部28の形成(圧着)後、圧力から開放される時点では、止水層の樹脂材料がガラス転移点以上の温度、すなわちゴム状態であるので、圧着前の状態に復元しようとする弾性特性が発揮され、ボトム段差部29に空隙Sが形成されてしまう、という問題もある。
このような問題を解決するために、例えば、止水層を形成する樹脂材料を溶融して空隙Sに充填して液漏れ経路を塞ぐことなどが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-091323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年の環境対応要請の強化に従って、止水層に使用される樹脂材料の量を低減することが求められている。
しかしながら、従来、止水層は例えば厚み20μm程度の樹脂を押出ラミネートなどのラミネート加工によって形成しているが、樹脂材料の使用量の低減を目的としてこの止水層の厚みを例えば10μm程度と薄くすると、空隙Sに充填する十分な量の樹脂材料を確保することができず、その結果、液漏れ経路を確実に塞ぐことができないと考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その目的は、樹脂材料の使用量を少量に低減させることができながら、サイドシール部とボトムシール部とが積重するボトム段差部分においてサイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に空隙を生じさせずに液洩れ経路の発生を抑止することができて高い液漏れ防止性能が得られる紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の紙容器は、胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器であって、
前記胴部は、胴部ブランクの両側端部が重ね合わされたサイドシール部を有する筒状の本体部を有する胴部ピースから形成され、
前記底部は、底部ブランクの中央の前記胴部の下部を閉塞する平板部と、当該平板部の外周縁から連続して下方に折れ曲げられたのりしろ部とを有する底部ピースから形成され、
前記胴部ピースと前記底部ピースとは、前記のりしろ部が前記本体部の内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して、一体的に結合されてなり、
前記胴部ブランクは、少なくとも容器内面側の表面に樹脂材料による止水薄層を有し、
前記止水薄層を形成する樹脂材料が、ガラス転移点が0℃以上、かつ、融点とガラス転移点との差が50℃以下のものであり、
前記サイドシール部と前記ボトムシール部とが積重するボトム段差部分における前記平板部と平行な切断面において、前記のりしろ部と前記サイドシール部の端縁の段差とによって形成される領域で胴部と底部とが密に接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の紙容器によれば、胴部ブランクが樹脂材料による止水薄層を有し、サイドシール部とボトムシール部とが積重するボトム段差部分における切断面において、底部ブランクののりしろ部とサイドシール部の端縁の段差とによって形成される領域で胴部と底部とが密に接していることにより、ボトム段差部分に係る当該領域に空隙が生じることを抑止することができるので、従来と製造工程を変更することなしに、しかも樹脂材料の使用量を少量に低減させながら、サイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に空隙を生じさせずに液洩れ経路の発生が抑止されて高い液漏れ防止性能を得ることができる。
また、胴部ピースと底部ピースとが、底部ブランクののりしろ部が胴部ブランクの本体部と裾部との間に挟み込まれた状態で圧着されたボトムシール部を介して一体的に結合されることにより、裾部によって底部ピースの底端部が確実に包み込まれるのでより高い液漏れ防止性能を得ることができながら、ボトム段差部分においてサイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に空隙が生じることを抑止することができる。
また、底部ブランクが樹脂材料による止水薄層を有することにより、紙容器に飲料水等の液体を収容してもその外部に液体が漏れず、高い液漏れ防止性能を確実に得ることができる。
また、止水薄層の厚みが5~15μmであることにより、止水薄層を形成する樹脂材料の量を低減させることができながら、止水薄層の厚みが極めて薄いので、ボトム段差部分におけるサイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に空隙が生じることをより確実に抑制することができる。
また、止水薄層を形成する樹脂材料が、ガラス転移点が0℃以上のものであることにより、ボトムシール部の加熱圧着後に、止水薄層を形成する樹脂材料がガラス転移点以下の温度に至り易い、すなわち、止水薄層がガラス状態となり易く、従って、常温まで冷却されたときにもボトム段差部分において胴部と底部とが密に接した加熱圧着時の形状が保持されやすく、その結果、サイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に液洩れ経路が発生することを確実に抑止することができる。
また、止水薄層を形成する樹脂材料が融点とガラス転移点との差が50℃以下のものであることにより、ボトムシール部の加熱圧着のためには樹脂材料を融点以上に加熱する必要があるところ、樹脂材料の融点とガラス転移点との差が小さいほど加熱圧着後にガラス転移点以下の温度に至り易い、すなわち、止水薄層がガラス状態となり易いので、常温まで冷却されたときにもボトム段差部分において胴部と底部とが密に接した加熱圧着時の形状が保持されやすく、その結果、サイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に液洩れ経路が発生することをより確実に抑止することができる。
また、止水薄層を形成する樹脂材料がポリオレフィン樹脂を含有することにより、ボトムシール部の加熱圧着の前後における止水薄層のゴム状態からガラス状態への拙速な変化を確実に得ることができるので、ボトム段差部分において胴部と底部とが密に接した加熱圧着時の形状が常温時にも保持されやすく、その結果、サイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に液洩れ経路が発生することをより確実に抑止することができる。
また、ボトム段差部分における切断面における、サイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域の面積が、0.03mm2 以下となる程度の密接度を有することにより、サイドシール部とボトムシール部とが積重するボトム段差部分においてサイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に液洩れ経路が発生することを確実に抑止することができる。
また、止水薄層が原紙に樹脂材料をコーティングしてなるコーティング層よりなることにより、サイドシール部とボトムシール部とが積重するボトム段差部分においてサイドシール部の端縁の段差とのりしろ部とによって形成される領域に液洩れ経路が発生することをより確実に抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る紙容器の構成を示す説明用斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る紙容器の胴部ピースおよび底部ピースの位置関係を、ボトム段差部分を含む断面(鎖線を含む断面)で切断して示す縦断面図(図1の矢視A-A線断面図)である。
図3A】本発明の紙容器のボトム段差部分の切断面の構成の一例を示す断面図である。
図3B】従来の紙容器のボトム段差部分の切断面の構成の一例を示す断面図である。
図4】実施例1に係るボトム段差部分の切断面のマイクロスコープ画像である。
図5】実施例2に係るボトム段差部分の切断面のマイクロスコープ画像である。
図6】比較例1に係るボトム段差部分の切断面のマイクロスコープ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔紙容器〕
本発明の一実施形態に係る紙容器1は、図1図2および図3Aに示されるように、逆円錐台筒形の胴部10およびこの胴部10の下部を閉塞する底部20とを有し、上部が開口されたものである。
胴部10は、扇形状の胴部ブランク11を巻いて両側端部12,12が重ね合わされヒートシールされた縦方向に伸びるサイドシール部18が形成された逆円錐筒状の本体部13と、本体部13の下端部から連続して内側上方に折り返された環状の裾部14とを有する胴部ピース15から形成されるものであって、上部が開口に構成されると供に、例えば開口の周縁部が外側に巻込まれてカール部19を構成している。
底部20は、底部ブランク21の中央の胴部10の下部を閉塞する平板部22と、この平板部22の外周縁から連続して下方に折れ曲げられたのりしろ部23とを有する底部ピース25から形成されている。
胴部ピース15および底部ピース25は、底部ピース25ののりしろ部23が胴部ピース15の本体部13と裾部14との間に挟み込まれた状態でヒートシールされた周方向に伸びるボトムシール部28を介して一体的に結合され、これにより胴部10の下部が底部20によって閉塞されている。底部ピース25が胴部ピース15の本体部13の下部内壁に底上げされた状態で接着されることによって、胴部ピース15の本体部13の下部、裾部14、および底部ピース25ののりしろ部23により、紙容器1の糸底2が形成されている。
【0010】
本発明の一実施形態に係る紙容器1においては、サイドシール部18において胴部ブランク11の側端部12同士が接着されると共に、ボトムシール部28において本体部13の下部または裾部14とのりしろ部23とが接着されており、さらに、サイドシール部18とボトムシール部28とが積重するボトム段差部分29における底部ピース25の平板部22と平行な切断面において、胴部ピース15のサイドシール部18の端縁の段差と底部ピース25ののりしろ部23とによって形成される領域でも、胴部10と底部20とが密に接している。
本発明において、「胴部と底部とが密に接している」とは、ボトム段差部分29の切断面において、底部ピース25ののりしろ部23と胴部ピース15のサイドシール部18の端縁の段差とによって形成される領域(以下、「特定の段差領域」ともいう。)、すなわち、底部ピース25ののりしろ部23の外周面または内周面と胴部ピース15の本体部13の止水薄層11bまたは裾部14の止水薄層11bと胴部ブランク11の側端縁11Eとの間の領域に、いわゆる三角地帯と称される空隙がほとんど形成されないことをいい、具体的には、特定の段差領域の面積が、ボトム段差部分29の任意の位置を平板部22と平行な面で切断し、その断面を上方(カール部19の方向、図2におけるX方向)から、デジタルマイクロスコープ「VHX-6000」(キーエンス社製)を用いて200倍の倍率で撮影した画像について、マイクロスコープの面積測定機能で計測したときに、0.03mm2 以下であることをいう。ここに、裾部14を有する胴部ピース15を使用した紙容器1においては、最大5枚のブランクが積重されて特定の段差領域は2箇所(のりしろ部23の外周面側と内周面側)に存在するが、いずれか一方の面積が大きい方が、0.03mm2 以下であることをいう。
本発明の紙容器1においては、特に、ボトム段差部分29の底部ピース25の平板部22から下方に1mmおよび3mm離間した位置を切断した切断面に係る特定の段差領域の面積がいずれも0.02mm2 以下とされることが好ましい。
【0011】
胴部ブランク11は、主材である原紙11aの少なくとも容器内面側の表面に樹脂材料による止水薄層11bを有するものであり、この止水薄層11b以外の層を有した3層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、原紙11aの容器外面側の表面に止水薄層11bと同じ樹脂材料よりなる薄層が設けられていてもよく、また、止水薄層11bと異なる樹脂材料よりなる薄層が設けられていてもよい。この容器外面側の薄層も、厚みが5~15μmであることが好ましい。底部ブランク21は、胴部ブランク11と同様の積層構造を有することができる。具体的には、底部ブランク21は、主材である原紙21aの少なくとも容器内面側の表面に樹脂材料による止水薄層21bを有するものとすることができる。
原紙11aおよび原紙21aは、それぞれ例えば坪量150~330g/m2 の紙材料よりなる。
【0012】
止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料は、ガラス転移点が0℃以上のものであることが好ましく、より好ましくはガラス転移点が30℃以上、特に好ましくはガラス転移点が50℃以上である。
また、止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料は、融点とガラス転移点との差が100℃以下のものが好ましく、より好ましくは70℃以下、特に好ましくは50℃以下のものである。
【0013】
止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料としてガラス転移点が0℃以上のものや融点とガラス転移点との差が50℃以下のものを用いることにより、特定の段差領域に空隙(三角地帯)が形成されることが抑止されるが、これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、紙容器1は、(1)融点以上の温度でボトムシール部28となる領域を含む領域の樹脂材料を加熱溶融し、(2)当該領域に圧力を付与して圧着してボトムシール部28を形成することにより、作製される。そして、上記のような樹脂材料を含有するコーティング剤の塗布により形成された止水薄層11b,21bを有する胴部ブランク11および底部ブランク21を用いた紙容器1においては、樹脂材料がガラス転移点0℃以上のプラス温度域にあるものやガラス転移点と融点との差が小さいものを用いると、上記(2)の圧着後、圧着時に付与されていたボトムシール部28への圧力から解放される時点の温度において止水薄層11b,21bがガラス状態にあることになる。従って、ボトムシール部28が圧力から開放された後もボトム段差部分29において胴部10と底部20とが密に接した圧着時の形状が保持されるので、特定の段差領域に空隙が形成されることが抑止され、特定の段差領域に液洩れ経路が発生することを抑止することができるものと推測される。また、ガラス転移点の影響に加え、止水薄層11b,21bの厚みが薄くなる程、樹脂材料の弾性特性の影響が小さくなり、原紙11a,21aの特性の影響が大きくなることも考えられる。
一方、従来一般的な紙容器においては、止水薄層がガラス転移点0℃未満のマイナス温度域にある樹脂材料から形成されたラミネート層から形成されており、樹脂材料のガラス転移点と融点との差も大きいために、上記(2)の圧着後、ボトムシール部が圧力から開放される時点の温度において止水薄層がガラス状態ではなくゴム状態にあることになり、従って、ボトムシール部が圧力から開放されると、圧着前の形状に復元しようとする弾性特性が発揮されて、特定の段差領域に空隙(三角地帯)が形成されるものと推測される。
【0014】
止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料としては、例えばポリプロピレン・変性ポリプロピレン・ポリエチレン・変性ポリエチレン・ポリエチレンイミン・エチレン酢酸ビニル共重合体・ポリオレフィンアイオノマー・エチレンアクリル酸共重合体・エチレンメタクリル酸メチル共重合体・エチレン塩化ビニル共重合体・エチレンメチルアクリレート共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル酸共重合体・スチレンアクリル酸共重合体などのアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体などのメタクリル酸樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンサクシネート・ポリ乳酸・ポリヒドロキシアルカン酸などのポリエステル樹脂、ナイロン6・ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、スチレンマレイン酸共重合体などのポリスチレン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などのフェノール樹脂など、耐水性とヒートシール性を兼ね備えた材料を用いることができる。また、上記材料を複数混合して用いてもよい。このうち、耐水性・ヒートシール性・ガラス転移点などの観点からポリオレフィン樹脂を用いることが好ましく、特にポリオレフィンアイオノマーを用いることが好ましい。止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料としては、同じ材料を用いることが好ましいが、異なる材料を用いてもよい。
【0015】
止水薄層11b,21bは、例えば原紙の表面に樹脂材料をコーティングにより被覆してなるコーティング層よりなる。なお、止水薄層11b,21bは、原紙の表面を完全に被覆した状態のものに限られず、一部原紙の表面が露出されていてもよい。
コーティング層は、樹脂材料をコーティング剤としてこれを水系媒体に分散させた塗布液を原紙の表面に塗布し、100℃程度で乾燥させることにより、得ることができる。
【0016】
胴部ブランク11は、少なくともサイドシール部18において本体部13の内面側となる側端部の端縁11Eの露出を防止する端部処理がなされているものであってもよい。側端部の端縁11Eが端部処理されている胴部ブランク11によれば、得られた紙容器1においてサイドシール部18およびボトムシール部28から液漏れを確実に抑制することができる。
胴部ブランク11の側端部の端縁11Eの端部処理としては、胴部ブランク11の側端部の外面側を略半分の厚みに切り欠き、略半分の厚みとなって残留した部分を外面側に折り返して切り欠かれた部分に隙間無く重ねて接着するスカイブ処理や、胴部ブランク11の端縁11Eを含む側端部に樹脂を塗布して断面を密閉する樹脂被覆処理が挙げられる。
【0017】
胴部ブランク11や底部ブランク21の止水薄層11b,21bの厚みは、5~15μmであることが好ましい。止水薄層11b,21bの厚みが過大である場合には、ボトム段差部分29における特定の段差領域に空隙(三角地帯)が形成されて液漏れ経路が発生してしまうおそれがある。一方、止水薄層11b,21bの厚みが過小である場合には、胴部ブランク11や底部ブランク21に十分な液漏れ防止性能が得られず、紙容器1に液体を収納したときにボトムシール部28やサイドシール部18から液漏れが発生してしまうおそれがある。
【0018】
〔紙容器の製造方法〕
上記のような紙容器1は、公知の手法によって製造することができる。例えば、原紙11a,21a上に止水薄層11b,21bが形成されたシート状材料から、胴部ブランク11および底部ブランク21を適宜の形状に打ち抜き、さらに底部ブランク21においては外周縁を絞り込みにより下方に折り曲げてのりしろ部23を形成して底部ピース25を作製する。
胴部ブランク11は、その側端部12,12を加熱して止水薄層11b,11bが内側となるよう胴巻きし、止水薄層11b,11bの溶融した樹脂材料によって側端部12,12同士を接着してサイドシール部18を形成し、筒状の本体部13を作製する。次いで、底部ピース25ののりしろ部23と胴部10に係る本体部13の下部をそれぞれ加熱し、止水薄層11b,21bの溶融した樹脂材料によって、底部ピース25ののりしろ部23を本体部13の下部の内壁に接着し、さらに、本体部13の下端を内部上方に折り返して裾部14を形成し、のりしろ部23の内周壁に接着することによって糸底2を形成し、形成された糸底2を加圧することにより、接着部分を圧着させてボトムシール部28を形成する。圧着方式には、ロールアウト(回転圧着)方式とエキスパンダ方式とがあり、いずれの方式でも、糸底2の内側に配置された加圧子を用いて底部ピース25ののりしろ部23と胴部ピース15の本体部13および裾部14を含む下部とが加圧される。さらに、胴部10の上側開口22側端部を外側に巻き込むいわゆるカーリング処理を施してカール部19を形成し、これにより、紙容器1を製造することができる。
サイドシール部18およびボトムシール部28における接着に係る加熱温度は、接着時に止水薄層11b,21bを形成する樹脂材料が融点以上となる温度であればよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係る紙容器1によれば、胴部ブランク11が樹脂材料による止水薄層11b,21bを有し、サイドシール部18とボトムシール部28とが積重するボトム段差部分29における切断面において、ボトム段差部分29における特定の段差領域で胴部10と底部20とが密に接していることにより、ボトム段差部分29において特定の段差領域に従来形成されていた空隙(三角地帯)が生じることを抑止することができるので、少量の樹脂材料を用いながら、ボトム段差部分29において特定の段差領域に液洩れ経路が発生することを抑止することができる。
【0020】
このような紙容器1は、各種の用途に供することができる。例えば、飲料用の容器、その他各種の内容物を充填するための容器として用いることができる。
【実施例
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
胴部ブランクとして、坪量280g/m2 の原紙Aの両面に、それぞれコート剤「ケミパール」(三井化学社製、ガラス転移点52℃、融点91℃)をコーティングした厚み10μmのコート層(内層および外層)を積層したものを用意した。また、底部ブランクとして、坪量200g/m2 の原紙Bの一面側にコート剤「ケミパール」(三井化学社製)をコーティングした厚み10μmのコート層(内層)を積層させたものを用意した。ここで、胴部ブランクおよび底部ブランクのコート層は、塗工方法:フレキソ印刷(凸版印刷)、塗工回数:3回で形成した。これらを用いて、公知の手法により、底部ブランクの外周縁を下方に折り曲げてのりしろ部を形成して底部ピースを作製し、胴部ブランクの両側端部を積重するよう筒状に組み立て、サイドシール部を熱および圧力によりシールし、この筒状体の内側の下部に底部ピースを嵌め込み、のりしろ部を胴部ピースの下端部を内側上方に向かって折り曲げた裾部により挟み込み、ボトムシール部を熱および圧力によりシールすることにより、カップ状紙容器〔1〕を作製した。
【0022】
〔実施例2〕
実施例1において、胴部ブランクの内層および外層、並びに、底部ブランクの内層の厚みを表1に示されるようにそれぞれ5μmに変更したこと以外は同様にして、カップ状紙容器〔2〕を作製した。
【0023】
〔実施例3〕
実施例1において、胴部ブランクの外層のさらに外側に、印刷層を設けたこと以外は同様にして、カップ状紙容器〔3〕を作製した。
【0024】
〔実施例4〕
実施例2において、胴部ブランクの外層のさらに外側に、印刷層を設けたこと以外は同様にして、カップ状紙容器〔4〕を作製した。
【0025】
これらのカップ状紙容器〔1〕~〔4〕について、図2に示されるように、ボトム段差部分の、底部ピースの平板部から下方にt(t=1mm、3mm、5mm)離間した位置を平板部と平行な面で切断し、その断面を上方(図2に示すX方向)から、デジタルマイクロスコープ「VHX-6000」(キーエンス社製)を用いて200倍の倍率で画像を撮影したところ、いずれも、特定の段差領域に空隙(いわゆる三角地帯)がほとんど存在せず、胴部と底部とが密に接していることが確認された。特定の段差領域の面積を面積測定機能で計測した結果を下記表2に示す。特定の段差領域の面積は、2箇所のうちのいずれか一方の面積が大きい方の数値を示す。図4および図5に、それぞれカップ状紙容器〔1〕およびカップ状紙容器〔2〕に係るデジタルマイクロスコープ画像を示す。図4および図5において、特定の段差領域を符号Pで示す。
【0026】
〔実施例5〕
実施例1において、胴部ブランクおよび底部ブランクのコート層が、塗工方法:グラビア印刷(凹版印刷)、塗工回数:2回で形成したものであること以外は同様にして、カップ状紙容器〔5〕を作製した。
【0027】
〔比較例1〕
実施例1において、胴部ブランクとして、原紙Aの一面側に厚み20μmのポリエチレン樹脂(東ソー社製)によるラミネート層(内層)を積層させ、原紙Aの他面側に厚み15μmのポリエチレン樹脂(東ソー社製)によるラミネート層(外層)を押出ラミネートにより積層させたものを用いると共に、底部ブランクとして、原紙Bの一面側に厚み30μmのポリエチレン樹脂(東ソー社製)によるラミネート層(内層)を積層させたものを用いたこと以外は同様にして、カップ状紙容器〔6〕を作製した。
このカップ状紙容器〔6〕について、上記と同様にして、ボトム段差部分の、底部ピースの平板部から下方にt(t=1mm、3mm、5mm)離間した位置を平板部と平行な面で切断し、その断面を上方(図2に示すX方向)から、デジタルマイクロスコープ「VHX-6000」(キーエンス社製)を用いて200倍の倍率で画像を撮影したところ、いずれも、特定の段差領域に空隙(いわゆる三角地帯)が明瞭に存在することが確認された。特定の段差領域の面積を面積測定機能で計測した結果を下記表2に示す。特定の段差領域の面積は、2箇所のうちのいずれか一方の面積が大きい方の数値を示す。図6に、カップ状紙容器〔6〕に係るデジタルマイクロスコープ画像を示す。図6において、特定の段差領域を符号Sで示す。
【0028】
上記のカップ状紙容器〔1〕~〔6〕について、金属製の台上にカップ状紙容器を上方が開口する姿勢で載置し、カップ状紙容器全高の3分の2の高さまで検査液(0.05%スコアロール水溶液)を注入し、10分間自然放置後に、カップ状容器を取り除いた金属台の表面に検査液が存在するかどうかを観察する液漏れ試験を行った。台上に検査液が全く存在しない場合を「○」、台上に検査液が存在する場合を「×」として評価した。結果を表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
以上、本発明の一実施形態に係る紙容器について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更を加えることができる。
例えば、紙容器は、胴部ピースの下部が折り返されていない構成のものであってもよい。すなわち、胴部ピースが本体部の下端部から連続して内側上方に折り返された環状の裾部を有さず、胴部ピースと底部ピースとが、底部ピースののりしろ部が胴部ピースの本体部の下部にその内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して一体的に結合された構成を有していてもよい。このような紙容器のボトム段差部分においては、ブランクが最大3枚積重されているが、特定の段差領域に空隙はほとんど存在しない。
また例えば、止水薄層は、原紙の表面に押出ラミネート・ドライラミネートなどの種々のラミネート加工によって樹脂材料を積重した層であってもよい。
また例えば、紙容器は、コップ状のものに限定されず、胴部ピースと底壁ピースとの2ピースが貼り合わせられて一体に形成された、サイドシール部およびボトムシール部を有する紙製の容器であればよい。例えば胴部が直筒状のものであってもよい。
また例えば、胴部および底部よりなる紙容器をカップ本体として、このカップ本体の胴部の外周面を覆うよう例えばエンボス加工が施された紙製シートが巻付けられた構成のものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 紙容器
2 糸底
10 胴部
11 胴部ブランク
11a 原紙
11b 止水薄層
11E 側端縁
12 側端部
13 本体部
14 裾部
15 胴部ピース
18 サイドシール部
19 カール部
20 底部
21 底部ブランク
21a 原紙
21b 止水薄層
22 平板部
23 のりしろ部
25 底部ピース
28 ボトムシール部
29 ボトム段差部分
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6