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  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240814BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240814BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240814BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240814BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 D
C22C38/38
H01F1/147 175
H01F41/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021536310
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 KR2019018034
(87)【国際公開番号】W WO2020130646
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165643
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン,オ‐ヨル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ‐シン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン‐テ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】川崎製鉄技報Vol.29(1997)No.3、p.153-158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D8/12,9/46
C22C38/00-38/60
H01F1/12-1/38,1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板表面に位置するグルーブ、
前記グルーブ上に位置する金属酸化物層、および
前記グルーブ下部に位置する不連続的に分散分布する金属酸化物系アイランドを含み、
前記グルーブ下部に位置する前記金属酸化物系アイランドの平均球形度は0.5~0.9であり、
前記グルーブ下部に位置する前記金属酸化物系アイランドの密度は0超過0.25個/μm以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
圧延垂直方向に対して、グルーブが2~10個断続的に存在することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記グルーブの長さ方向と鋼板の圧延方向は75~88°の角度をなすことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
冷延板を製造する段階、
前記冷延板にレーザを照射してグルーブを形成する段階、および
前記冷延板表面に形成された酸化層を一部除去して酸化層の厚さを1~5nmで残留させる段階、
を含み、
前記酸化層の厚さを1~5nmで残留させる段階以後、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階をさらに含み、
前記1次再結晶焼鈍する段階以後、焼鈍分離剤を塗布し、2次再結晶焼鈍する段階をさらに含み、
前記2次再結晶焼鈍する段階で、鋼材およびグルーブの表面に金属酸化物層を形成し、前記金属酸化物層上に絶縁コーティング層を形成する段階を含み、
製造された方向性電磁鋼板は、電磁鋼板表面に位置するグルーブ、グルーブ上に位置する金属酸化物層、およびグルーブ下部に位置する不連続的に分散分布する金属酸化物系アイランドを含み、
前記グルーブ下部に位置する金属酸化物系アイランドの平均球形度は0.5~0.9であり、
前記グルーブ下部に位置する前記金属酸化物系アイランドの密度は0超過0.25個/μm 以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記グルーブを形成する段階で、レーザの走査速度は10m/s以上であることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記グルーブを形成する段階で、グルーブに向かって、圧延方向と70゜以下の角度でガスを噴射することを特徴とする請求項4又は5に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記噴射するガスの圧力が0.02kg/cm以上であることを特徴とする請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記噴射するガス中の水分の含量が50wt%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記グルーブを形成する段階以後、冷延板表面に4~10nm厚さの酸化層が存在することを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、グルーブを形成した後、酸化層を一部除去してアイランドを適切に形成させることによって、磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は変圧器などの電磁気製品の鉄心材料として使用される。このため機器の電力損失を減らすことによってエネルギー変換効率を向上させるよう鉄心素材の鉄損に優れ、積層および巻取り時に占積率の高い鋼板が要求される。
方向性電磁鋼板は熱延、冷延、および焼鈍工程を通じて2次再結晶された結晶粒が圧延方向に{110}<001>方向に配向された集合組織(一名「Goss Texture」とも言う)を有する機能性鋼板をいう。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損を低減させる方法として、磁区微細化方法が知られている。即ち、磁区をスクラッチやエネルギー的衝撃を与えて方向性電磁鋼板が有している大きな磁区を微細化させる方法である。この場合、磁区が磁化されその方向が変わる時、エネルギー的消耗量を磁区の大きさが大きかった時より減らすことができるようになる。磁区微細化方法としては、熱処理後にも改善効果が維持される永久磁区微細化と、改善効果が維持されない一時磁区微細化とがある。
回復(Recovery)が現れる熱処理温度以上の応力緩和熱処理後にも鉄損改善効果を示す永久磁区微細化方法は、エッチング法、ロール法、およびレーザ法に区分することができる。エッチング法は、溶液内選択的な電気化学反応で鋼板表面に溝(グルーブ、groove)を形成させるため溝形状を制御しにくく、最終製品の鉄損特性を幅方向に均一に確保するのが難しい。これと共に、溶媒として使用する酸容液によって環境親和的でない短所を有している。
【0004】
ロールによる永久磁区微細化方法は、ロールに突起形状を加工してロールや板を加圧することによって板表面に一定の幅と深さを有する溝を形成した後に焼鈍することによって溝下部の再結晶を部分的に発生させる鉄損改善効果を示す磁区微細化技術である。ロール法は、機械加工に対する安定性、厚さによる安定的な鉄損確保が得難い方法であり、信頼性に欠け、プロセスが複雑であり、溝形成直後(応力緩和焼鈍前)鉄損と磁束密度特性が劣化する短所を有している。
レーザによる永久磁区微細化方法は、高出力のレーザを高速で移動する電磁鋼板表面部に照射し、レーザ照射によって基地部の溶融を伴うグルーブ(groove)を形成させる方法である。しかし、このような永久磁区微細化方法も磁区を最小の大きさに微細化させるのは難しい。
【0005】
一時磁区微細化の場合、コーティングされた状態でレーザを加えた後、コーティングを再度行わないことに現在技術は集中しているため、レーザを一定以上の強度で照射しようとしない。これは一定以上に加えた場合、コーティングの損傷によって張力効果を十分に発揮しにくいためである。
永久磁区微細化の仕組みは、溝を彫って静磁エネルギーを受けることができる自由電荷面積を広げたことであるため、できる限り深い溝の深さが必要である。もちろん、深い溝の深さによって磁束密度の低下などの副作用も発生する。そのため、磁束密度劣化を減らすために適正な溝の深さとして管理するようになる。
【0006】
一方、磁区微細化技術で製造した方向性電磁鋼板は、成形および熱処理過程を経て変圧器鉄心などの製品に製造される。また、製品は比較的高温の環境で使用されるため鉄損特性だけでなく、絶縁コーティング層との密着性を確保することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題とするところは、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することであり、具体的には、グルーブを形成した後、酸化層を一部除去して、アイランドを適切に形成することによって、磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方向性電磁鋼板は、電磁鋼板表面に位置するグルーブ、グルーブ上に位置する金属酸化物層、およびグルーブ下部に位置する不連続的に分散分布する金属酸化物系アイランドを含み、グルーブ下部に位置するアイランドの平均球形度は0.5~0.9であることを特徴とする。
【0009】
グルーブ下部に位置するアイランドの密度は0.25個/μm以下であることがよい。
圧延垂直方向に対して、グルーブが2~10個断続的に存在することができる。
グルーブの長さ方向と鋼板の圧延方向は75~88°の角度をなすことが好ましい。
【0010】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、冷延板を製造する段階、冷延板にレーザを照射してグルーブを形成する段階、および冷延板表面に形成された酸化層を一部除去して酸化層の厚さを1~5nmで残留させる段階を含む事を特徴とする
【0011】
グルーブを形成する段階で、レーザの走査速度は10m/s以上であることがよい。
グルーブを形成する段階で、グルーブに向かって、圧延方向と70゜以下の角度でガスを噴射することができる。
【0012】
噴射するガスの圧力が0.02kg/cm以上であることがよい。
噴射するガス中の水分の含量が50wt%以下であることができる。
グルーブを形成する段階以後、冷延板表面に4~10nm厚さの酸化層が存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、グルーブを形成した後、酸化層を一部除去することによって、磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の圧延面(ND面)の模式図である。
図2】本発明の一実施形態によるグルーブの模式図である。
図3】本発明の一実施形態によるグルーブの断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語はただ特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0016】
ある部分が他の部分「の上に」または「上に」あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあり得るか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分「の真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
異なる定義をしない限り、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態によって磁区微細化された方向性電磁鋼板10の模式図を示す。
図1に示したとおり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板10は、電磁鋼板の一面または両面に、圧延方向(RD方向)と交差する方向に形成された線状のグルーブ20が形成されている。
本発明の一実施形態では、レーザを通じてグルーブを形成し、グルーブ形成過程で存在する酸化層を一部除去することによって、以後、2次再結晶焼鈍過程で均一な金属酸化物層を形成し、究極的に磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させることができる。この時、金属酸化物層はフォルステライト(Forsterite、FeMgSiO)層になり得る。
【0018】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、冷延板を製造する段階、冷延板にレーザを照射してグルーブを形成する段階、および冷延板表面に形成された酸化層を一部除去して酸化層の厚さを1~5nmで残留させる段階を含む。
以下では各段階別に具体的に説明する。
【0019】
まず、冷延板を製造する。本発明の一実施形態では冷延板製造以後、磁区微細化方法にその特徴があるのであって、磁区微細化の対象になる冷延板は方向性電磁鋼板分野で使用する冷延板を制限なく使用することができる。特に、方向性電磁鋼板の合金組成とは関係なく本発明の効果が発現される。したがって、方向性電磁鋼板の合金組成に関する具体的な説明は省略する。一例として、冷延板は重量%で、C:0.10%以下、Si:1.0~6.5%、Mn:0.005~3.0%、Nb+V+Ti:0.015%以下、Cr+Sn:1.0%以下、Al:3.0%以下、P+S:0.09%以下、希土類およびその他不純物総合:0.3%以下、および残部はFeからなる。
冷延板製造方法についても方向性電磁鋼板分野で使用する冷延板製造方法を制限なく使用することができ、これに関する具体的な説明は省略する。
【0020】
その次に、冷延板にレーザを照射してグルーブを形成する。
冷延板表面に500W~10KWの平均出力のTEMoo(M≦1.25)レーザビームを冷延板表面に照射することによってグルーブを形成することができる。レーザの発振方式は制限なく使用することができる。即ち、連続発振またはパルス発振(Pulsed mode)を使用することができる。このように表面ビーム吸収率が鋼板の溶融熱以上になるようにレーザを照射して、図1および図2に示したグルーブ20を形成する。
この時、レーザの走査速度(scanning rate)は10m/s以上であることができる。レーザの走査速度が過度に遅ければ、グルーブが適切に形成されない虞がある。さらに具体的に、レーザの走査速度は10m/s~30m/sであることがよい。
【0021】
グルーブを形成する段階で、グルーブに向かって、圧延方向(RD方向)と70゜以下の角度でガスを噴射することができる。この時の角度は圧延垂直面(TD面)を基準にしたものである。ガスを適切に噴射することによって、溶融物がグルーブ内で凝固するのを防止することができる。角度が過度に大きいと、適切な溶融物の除去が行われない虞がある。
この時、ガスの圧力は0.02kg/cm以上であることがよい。ガスの圧力が過度に小さければ、適切な溶融物の除去が行われない虞がある。さらに具体的に、ガスの圧力は0.02~0.2kg/cmであることがよい。
噴射するガス中の水分の含量が50wt%以下であることができる。水分の含量が過度に高ければ、ガス噴射によって、鋼板表面に不均一で、厚い酸化層が形成される。この酸化層は以後2次再結晶焼鈍過程で不均一な金属酸化物層を形成して、最終的に密着性および磁性に悪影響を与える虞がある。さらに具体的に、噴射するガス中の水分の含量が25wt%以下であることがよい。
【0022】
図1に示したとおり、圧延垂直方向に対して、グルーブを2~10個断続的に形成することができる。但し、これに限定されるのではなく、グルーブを連続的に形成することも可能である。
図1および図2で示したとおり、グルーブ20の長さ方向(X方向)と圧延方向(RD方向)は75~88°の角度をなすことができる。上記の角度を形成すると、方向性電磁鋼板の鉄損を改善するのに寄与することができる。
【0023】
グルーブの幅(W)は10~200μmであることがよい。グルーブ20の幅が狭すぎるか又は広すぎる場合、適切な磁区微細化効果が得られなくなる虞がある。
また、グルーブの深さ(H)は鋼板厚さの3~5%であることがよい。グルーブの深さ(H)が過度に浅ければ、適切な鉄損改善効果を得にくい。グルーブの深さ(H)が過度に深ければ、強いレーザ照射によって鋼板10の組織特性を大きく変化させるか、多量のヒルアップおよびスパッタを形成して磁性を劣化させる虞がある。したがって、前述の範囲でグルーブ20の深さを制御することが好ましい。
グルーブを形成する段階以後、レーザから発生する熱および空気中の酸素および水分、噴射ガス内の酸素および水分によって鋼板表面が一部酸化されて酸化層が形成される。具体的に、酸化層の厚さは4~10nmになることができる。また、酸化層は鋼板全面に対して不均一に形成され、上記の酸化層の厚さは鋼板全体表面に対する平均厚さを意味する。
酸化層が過度に厚く形成された場合、後述の酸化層除去段階で酸化層を除去しても酸化層が厚く残留する虞がある。
【0024】
グルーブ下部および側部には、レーザの熱影響による再凝固層が形成される。再凝固層は厚さが6.5μm以下であることがよい。再凝固層が過度に厚く形成された時、熱影響部増加によって密着性および鉄損が劣位になる虞がある。再凝固層は平均粒径が1~10μmである再結晶を含み、製造中の電磁鋼板の全体組織と区分される。
その次に、冷延板表面に形成された酸化層を一部除去して酸化層の厚さを1~5nmで残留させる。
酸化層を除去しない時、不均一な酸化層が厚く残留し、2次再結晶焼鈍過程で形成される金属酸化物層が不均一で厚く形成されて、磁性および金属酸化層と基地組織の密着性を劣化させる原因になる。
【0025】
ブラシや酸洗を通じてグルーブ形成過程で形成されたヒルアップまたはスパッタを除去する技術が知られているが、溶融物が凝固したヒルアップまたはスパッタの除去と酸化層の除去はヒルアップまたはスパッタ以外に酸化層を共に除去する面で全く異なる。
酸化層除去方法としては、研磨紙または研磨ロールを用いて研磨ロール(紙)と酸化層との摩擦を通じて除去することができる。
酸化層の厚さを1nm~5nmで残留させる。酸化層の厚さを過度に厚く残留させた場合、金属酸化物層が不均一で厚く形成されて、磁性および密着性を劣化させる原因になる。酸化層の厚さを過度に薄く残留させた場合、適切な金属酸化物層が形成されなくて磁性および密着性を劣化させる原因になる。さらに具体的には、酸化層を2~5nm残留させることができる。
酸化層を残留させる段階以後、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階をさらに含む。
【0026】
1次再結晶焼鈍する段階は方向性電磁鋼板分野で広く知られているので、詳しい説明は省略する。1次再結晶焼鈍過程で脱炭、または脱炭および窒化を含むことができ、脱炭または脱炭と窒化のために湿潤雰囲気で焼鈍することができる。1次再結晶焼鈍する段階での均熱温度は800~950℃であることがよい。
1次再結晶焼鈍する段階以後、焼鈍分離剤を塗布し、2次再結晶焼鈍する段階をさらに含むことができる。焼鈍分離剤については広く知られているので、詳しい説明は省略する。一例として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を使用することができる。
【0027】
2次再結晶焼鈍の目的は大きく見れば、2次再結晶による{110}<001>集合組織形成、1次再結晶焼鈍時に形成された酸化層とMgOの反応によるガラス質被膜形成で絶縁性を付与し磁気特性を害する不純物を除去することである。2次再結晶焼鈍方法としては、2次再結晶が起こる前の昇温区間では窒素と水素の混合ガスとして維持して粒子成長抑制剤である窒化物を保護することによって2次再結晶がよく発達し得るようにし、2次再結晶が完了した後、均熱段階では100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去する。
2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の均熱温度で行うことができる。
【0028】
2次再結晶焼鈍過程で焼鈍分離剤内のMgO成分が鋼板表面に形成された酸化層と反応して鋼板およびグルーブの表面に金属酸化物層が形成できる。図3には金属酸化物層30を概略的に示した。本発明の一実施形態で2次再結晶焼鈍前にグルーブが形成されるため、鋼板だけでなくグルーブの表面にも金属酸化物層30が形成できる。
本発明の一実施形態で、グルーブ形成以後に鋼板の表面に酸化層を一部除去するため、酸化層の厚さが薄くて、焼鈍分離剤内のMgOが酸化層を浸透または通過して金属酸化物層30下部にアイランド40が形成できる。このアイランド40はフォルステライトを含むことができる。
【0029】
図3には、アイランド40を概略的に示した。図3に示したとおり、金属酸化物層30下部に金属酸化物層30と分離されてアイランド40が形成される。アイランド40は金属酸化物層30と類似の合金成分からなっているので、電磁鋼板基地組織とは区分される。
アイランド40が不連続的に適切に形成されることによって、金属酸化物層30と鋼板の密着性を向上させるのに寄与することができる。具体的に、グルーブ下部に金属酸化物を含むアイランドの密度が0.25個/μm以下である。この時、基準は鋼板圧延方向(RD方向)および厚さ方向(ND方向)を含む断面(TD面)からグルーブ20下部に5μm以内の深さ面積に対するアイランドの密度を意味する。
【0030】
グルーブ20下部に位置するアイランド40は平均球形度(短軸/長軸)が0.5~0.9であり得る。この時、基準は鋼板圧延方向(RD方向)および厚さ方向(ND方向)を含む断面(TD面)である。グルーブ20が形成されていない表面下部に位置するアイランド40は上記の平均粒径の計算から除外する。アイランド40の平均球形度を制御することによって、磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させることができる。さらに具体的には、グルーブ20下部に位置するアイランド40は平均球形度(短軸/長軸)が0.6~0.8である。
2次再結晶焼鈍する段階以後、金属酸化物層上に絶縁コーティング層を形成する段階をさらに含むことができる。
【0031】
絶縁コーティング層を形成する方法は特に制限なく使用することができ、一例として、リン酸塩を含む絶縁コーティング液を塗布する方式で絶縁被膜層を形成することができる。このような絶縁コーティング液はコロイダルシリカと金属リン酸塩を含むコーティング液を使用するのが好ましい。この時、金属リン酸塩はAlリン酸塩、Mgリン酸塩、またはこれらの組み合わせであってもよく、絶縁コーティング液の重量に対するAl、Mg、またはこれらの組み合わせの含量は15重量%以上であることができる。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、電磁鋼板10の表面に位置するグルーブ20、グルーブ20上に位置する金属酸化物層30、およびグルーブ下部に位置するアイランド40を含む。
【0032】
グルーブ下部に位置するアイランド40の平均球形度(短軸/長軸)は0.5~0.9であることができる。アイランド40の平均球形度を制御することによって、磁性向上と共に絶縁コーティング層との密着性を向上させることができる。さらに具体的に、グルーブ20下部に位置するアイランド40は平均球形度が0.6~0.8であることがよい。平均球形度が0.6未満である場合、フォルステライトと基地部との密着性が劣位であることにより絶縁コーティング後にフォルステライト亀裂や破れによって密着試験時シリンダーの直径が20mm以上となった。
グルーブ20下部のアイランド40の密度は0.25個/μm以下であることができる。この時、基準は鋼板圧延方向(RD方向)および厚さ方向(ND方向)を含む断面(TD面)からグルーブ20下部に5μm以内の深さ面積に対するアイランドの密度を意味する。さらに具体的に、グルーブ20下部にアイランド40の密度が0.1個/μm以下であることができる。
以下では、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、このような実施例はただ本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
【実施例
【0033】
冷間圧延した厚さ0.27mmの冷延板を準備した。この冷延板に1.0kWのGaussian modeの連続波レーザを走査速度10m/sで照射して、RD方向と85°角度のグルーブを形成した。グルーブ形成時、上部に0.02kg/cmの圧力で水分を除去した乾燥空気を圧延方向と70゜角度で噴射した。その後、鋼板の全体表面を研磨布を用いて研磨して酸化層の厚さを下記表1のように5nm以下に調節した。酸化層の厚さが5nmを超過する場合、密着性が劣位になる。その後、1次再結晶焼鈍し、MgO塗布後2次再結晶した後、絶縁コーティング層を形成した。
密着性は製品板を多様な直径を有する棒状のシリンダーに板を曲げることによって、絶縁コーティング層が剥離および亀裂しない最小の直径を表した。密着性が優れているほど棒状の直径は次第に減少するようになる。
【0034】
【表1】
表1に示したとおり、グルーブ形成以後、酸化層を適切に除去した実施例が比較例に比べて密着性に優れ、また、鉄損が優れるのを確認することができる。
また、実施例1~10はグルーブ下部のアイランド40の平均球形度がそれぞれ0.5~0.90、密度が0.25個/μm以下である時、鉄損と密着性を確認した。
反面、比較例はアイランド40の平均球形度が0.5未満であるのを確認し、また、アイランド40の密度が0.25個/μm超過で多数形成されるのを確認した。
【0035】
本発明は実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、上記の実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0036】
10:方向性電磁鋼板
20:グルーブ
30:金属酸化物層
40:アイランド

図1
図2
図3