(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】防汚層付き光学フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/18 20150101AFI20240814BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20240814BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B1/18
B32B38/10
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2022181317
(22)【出願日】2022-11-11
【審査請求日】2023-10-12
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】角田 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-012092(JP,A)
【文献】特開2019-155636(JP,A)
【文献】特開2019-111665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B1/10-1/18
B32B1/00-43/00
G02B5/30
H05B33/00-33/28;44/00;45/60;H10K50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールトゥロール方式で防汚層付き光学フィルムを製造する方法であって、
透明基材フィルムの厚さ方向一方面側に防汚層を形成する防汚層形成工程と、
前記防汚層に、粘着面を有する剥離フィルムの前記粘着面を貼り合わせる第1貼合せ工程と、
前記剥離フィルムを前記防汚層から剥離する剥離工程と、
前記防汚層に、粘着面を有する保護フィルムの前記粘着面を貼り合わせる第2貼合せ工程と、を含み、
前記防汚層に対する前記剥離フィルムの粘着力が0.008N/50mm以上0.1N/50mm以下であり、
前記保護フィルムは前記防汚層から剥離除去可能である、防汚層付き光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記防汚層形成工程では、ドライコーティング法によって前記防汚層を形成する、請求項1に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
透明基材フィルムと、防汚層と、保護フィルムとをこの順で備え、
前記保護フィルムが、前記防汚層側に粘着面を有し、当該粘着面で前記防汚層に貼着しており、
前記防汚層に対する前記保護フィルムの粘着力が0.008N/50mm以上0.1N/50mm以下であり、
前記保護フィルムは前記防汚層から剥離除去可能であり、前記保護フィルムを備える状態での前記防汚層の厚さに対する、前記保護フィルムを除去した後の前記防汚層の厚さの比率が、0.9
2以上1.0以下であり、
前記保護フィルムを除去した後の前記防汚層のF強度比が0.18以上0.98以下であり、前記F強度比は、フッ素原子を4.96質量%含む標準サンプルとしてのガラスについて蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度(F強度)に対する、前記防汚層について前記蛍光X線分析と同一条件の蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度(F強度)の比率である、防汚層付き光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚層付き光学フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルディスプレイなどのディスプレイにおける画像表示側の外表面には、防汚性の観点から、例えば、防汚層付き光学フィルムが貼り合わせられる。防汚層付き光学フィルムは、透明基材フィルムと、当該透明基材フィルムの一方面側の最表面に配置された防汚層とを備える。防汚層により、ディスプレイの外表面において、手脂などの汚染物質の付着が抑制され、また、付着した汚染物質が除去されやすくなる。このような防汚層付き光学フィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防汚層付光学フィルムの製造過程において、防汚層は、例えば、ウェットコーティング法またはドライコーティング法により、撥水性の高い材料から形成される。しかしながら、当該防汚層の露出表面には、高撥水性材料が防汚層組織に充分に定着していないために白濁している部分(材料未定着部分)が生ずる場合があるという知見を、本発明者らは得た。この不具合は、防汚層がドライコーティング法によって形成される場合に、特に生じやすい。一方、防汚層は、膜強度および防汚機能の観点から、充分な厚さで形成される必要がある。しかし、形成される防汚層が厚いほど、上述の材料未定着部分も厚く形成される傾向がある。防汚層の表面における白濁の形成は、透明外観性の観点から好ましくない。
【0005】
本発明は、防汚層において良好な透明外観性を実現するのに適した防汚層付き光学フィルムの製造方法および防汚層付き光学フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、ロールトゥロール方式で防汚層付き光学フィルムを製造する方法であって、透明基材フィルムの厚さ方向一方面側に防汚層を形成する防汚層形成工程と、前記防汚層に、粘着面を有する剥離フィルムの前記粘着面を貼り合わせる第1貼合せ工程と、前記剥離フィルムを前記防汚層から剥離する剥離工程と、前記防汚層に、粘着面を有する保護フィルムの前記粘着面を貼り合わせる第2貼合せ工程とを含み、前記防汚層に対する前記剥離フィルムの粘着力が0.008N/50mm以上である、防汚層付き光学フィルムの製造方法を含む。
【0007】
本発明の防汚層付き光学フィルム製造方法の第1貼合せ工程では、防汚層組織に充分に定着していない防汚層材料(未定着材料)が、剥離フィルムの粘着面に付着する。その後の剥離工程では、防汚層に対する粘着力が0.008N/50mm以上の剥離フィルムが、当該防汚層から剥離される。剥離フィルムの剥離時には、未定着材料の少なくとも一部が剥離フィルムに伴って防汚層から除去される。このように、防汚層形成工程後に上記の第1貼合せ工程と剥離工程とが実施されることは、防汚層表面から未定着材料を除去するのに適する。そして、第2貼合せ工程では、未定着材料の除去を経た防汚層が、保護フィルムによって被覆されて保護される。したがって、本製造方法は、防汚層において、未定着材料に起因する白濁を抑制して良好な透明外観性を実現するのに適する。
【0008】
本発明[2]は、前記防汚層形成工程では、ドライコーティング法によって前記防汚層を形成する、上記[1]に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法を含む。
【0009】
このような構成は、防汚層が積層される下地に対する防汚層の高い接合力を確保するのに好ましく、従って、防汚層の耐剥離性を確保するのに好ましい。防汚層の耐剥離性が高いことは、防汚層の防汚機能の維持に役立つ。本製造方法は、防汚層がドライコーティング法によって形成される場合であっても、防汚層において良好な透明外観性を実現するのに適する。
【0010】
本発明[3]は、透明基材フィルムと、防汚層と、保護フィルムとをこの順で備え、前記保護フィルムが、前記防汚層側に粘着面を有し、当該粘着面で前記防汚層に貼着しており、前記保護フィルムを備える状態での前記防汚層の厚さに対する、前記保護フィルムを除去した後の前記防汚層の厚さの比率が、0.9以上1.0以下である、防汚層付き光学フィルムを含む。
【0011】
このような防汚層付き光学フィルムは、防汚層表面に未定着材料が残存する場合に、保護フィルムを防汚層から剥離することによって、当該防汚層表面から未定着材料を除去するのに適する。したがって、本防汚層付き光学フィルムは、防汚層において、未定着材料に起因する白濁を抑制して良好な透明外観性を実現するのに適する。
【0012】
本発明[4]は、前記防汚層がドライコーティング膜である、上記[3]に記載の防汚層付き光学フィルムを含む。
【0013】
このような構成は、防汚層が積層される下地に対する防汚層の高い接合力を確保するのに好ましく、従って、防汚層の耐剥離性を確保するのに好ましい。防汚層の耐剥離性が高いことは、防汚層の防汚機能の維持に役立つ。
【0014】
本発明[5]は、前記保護フィルムを除去した後の前記防汚層のF強度比が0.18以上である、上記[3]または[4]に記載の防汚層付き光学フィルムを含む。
【0015】
このような構成は、防汚層において防汚機能および防汚耐久性を確保するのに好ましい。
【0016】
本発明[6]は、前記保護フィルムを除去した後の前記防汚層のF強度比が0.98以下である、上記[3]から[5]のいずれか一つに記載の防汚層付き光学フィルムを含む。
【0017】
このような構成は、防汚層付き光学フィルムの薄型化の観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の防汚層付き光学フィルムの製造方法の一実施形態における一部の工程を表す。
図1Aは、透明基材フィルムを用意する工程を表し、
図1Bは、ハードコート層を形成する工程を表し、
図1Cは、密着層を形成する工程を表し、
図1Dは、反射防止層を形成する工程を表す。
【
図2】
図1Dに示す工程の後に続く工程を表す。
図2Aは、防汚層を形成する工程を表し、
図2Bは、防汚層に剥離フィルムを貼り合わせる工程を表し、
図2Cは、防汚層から剥離フィルムを剥離する工程を表す。
【
図3】
図2Cに示す工程の後に続く工程であって、保護フィルムを貼り合わせる工程を表す。
【
図4】本発明の防汚層付き光学フィルムの一の変形例を表す。本変形例では、反射防止層は設けられていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1Aから
図3は、本発明の防汚層付き光学フィルムの製造方法の一実施形態の工程図である。防汚層付き光学フィルムの製造方法は、ロールトゥロール方式で実施され、本実施形態では、用意工程(
図1A)と、ハードコート層形成工程(
図1B)と、密着層形成工程(
図1C)と、反射防止層工程(
図1D)と、防汚層形成工程(
図2A)と、第1貼合せ工程(
図2B)と、剥離工程(
図2C)と、第2貼合せ工程(
図3)とを含む。本実施形態では、
図3に示す光学フィルムZが製造される。具体的には、以下のとおりである。
【0020】
まず、用意工程では、
図1Aに示すように、透明基材フィルム11を用意する。透明基材フィルム11は、本実施形態では、ロールトゥロール方式で本製造方法を実施できるように長尺形状を有する。
【0021】
透明基材フィルム11は、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。透明基材フィルム11の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、およびポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これら材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。透明基材フィルム11の材料としては、透明性および強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、およびセルロース樹脂からなる群より選択される一つが用いられ、より好ましくは、PET、COP、およびTACからなる群より選択される一つが用いられる。
【0022】
透明基材フィルム11における厚さ方向Dの一方面としての表面11a(後述のハードコート層12が積層される表面)は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0023】
透明基材フィルム11の厚さは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。透明基材フィルム11の厚さは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0024】
透明基材フィルム11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。このような構成は、タッチパネルディスプレイなどのディスプレイの表面に光学フィルムZが備えられる場合に当該光学フィルムZに求められる透明性を、確保するのに適する。透明基材フィルム11の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0025】
次に、ハードコート層形成工程では、
図1Bに示すように、透明基材フィルム11の表面11a(厚さ方向Dの一方面)上に、ハードコート層12を形成する。ハードコート層12は、光学フィルムZの使用時の露出表面(
図2Cに示す光学フィルムZでの図中上面)に擦り傷が形成されにくくするための層である。ハードコート層形成工程は、ロールトゥロール方式で実施される。
【0026】
ハードコート層12は、例えば、透明基材フィルム11上に硬化性樹脂組成物(ワニス)を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥および硬化させることによって形成できる。硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂と溶剤とを含有する。ハードコート層12は、硬化性樹脂組成物(具体的には硬化性樹脂)の硬化物である。
【0027】
硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、ウレタン樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。これら硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層12の高硬度の確保の観点からは、硬化性樹脂としては、好ましくはアクリルウレタン樹脂が用いられる。
【0028】
また、硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、および、熱硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂組成物が紫外線化性樹脂を含有する場合には、紫外線照射によって上記塗膜を硬化させる。硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合には、加熱によって上記塗膜を硬化させる。高温加熱せずに硬化可能であるために光学フィルムZの製造効率向上に役立つ観点から、硬化性樹脂としては、好ましくは紫外線硬化性樹脂が用いられる。紫外線硬化性樹脂には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー、および紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される少なくとも一種類が含まれる。紫外線硬化性樹脂を含有する組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0029】
硬化性樹脂組成物が含有する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジクロロメタン、およびクロロホルムが挙げられる。
【0030】
硬化性樹脂組成物は、微粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物に対する微粒子の配合は、ハードコート層12における硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整、および防眩性の付与に、役立つ。微粒子としては、例えば、金属酸化物粒子、ガラス粒子、および有機粒子が挙げられる。金属酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、および酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル・スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、およびポリカーボネートが挙げられる。
【0031】
ハードコート層12の厚さは、ハードコート層12の硬度の確保による防汚層15表面の硬度の確保の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。ハードコート層12の厚さは、光学フィルムZの柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
【0032】
ハードコート層12における厚さ方向Dの一方面としての表面12a(後述の密着層13が積層される表面)は、必要に応じて表面改質処理される。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。ハードコート層12と密着層13との間において高い密着力を確保する観点からは、表面12aは、好ましくはプラズマ処理される。表面12aをプラズマ処理する場合、不活性ガスとして例えばアルゴンガスを用いる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば10W以上であり、また、例えば10000W以下である。
【0033】
次に、密着層形成工程では、
図1Cに示すように、ハードコート層12の表面12a(厚さ方向Dの一方面)上に、密着層13を形成する。密着層13は、有機層(本実施形態ではハードコート層12)に対する無機酸化物層(本実施形態では後述の反射防止層14)の密着力を確保するための層である。このような密着層13の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、アルミニウム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム、パラジウム等の金属、これら金属の2種類以上の合金、および、これら金属の酸化物が挙げられる。有機層(本実施形態ではハードコート層12)および無機酸化物層(本実施形態では反射防止層14)の両方に対する密着性と、密着層13の透明性との両立の観点からは、密着層13の材料としては、好ましくは、インジウムスズ酸化物(ITO)または酸化シリコン(SiOx)が用いられる。密着層13の材料として酸化シリコンが用いられる場合、好ましくは、化学量論組成よりも酸素量の少ないSiOxが用いられ、より好ましくは、xが1.2以上1.9以下のSiOxが用いられる。
【0034】
密着層13は、例えば、ドライコーティング法で材料を成膜することによって形成する。ドライコーティング法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、およびCVDが挙げられ、好ましくはスパッタリング法が用いられる。
【0035】
スパッタリング法では、スパッタ室内に真空条件下でガスを導入しつつ、カソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出たターゲット材料を所定面上に堆積させる。成膜速度の観点から、スパッタリング法としては、反応性スパッタリングが好ましい。反応性スパッタリングでは、ターゲットとして金属ターゲットを用い、上述のガスとして、アルゴンなどの不活性ガスと酸素(反応性ガス)との混合ガスを用いる。不活性ガスと酸素との流量比(sccm)の調整により、成膜される無機酸化物に含まれる酸素の割合を調整できる。
【0036】
スパッタリング法を実施するための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、RF電源、および、MFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が挙げられる。スパッタリング法における放電電圧は、例えば200V以上であり、また、例えば1000V以下である。また、スパッタリング法が実施されるスパッタ室内の成膜気圧は、好ましくは0.01Pa以上、より好ましくは0.05Pa以上、更に好ましくは0.1Pa以上である。また、成膜気圧は、放電安定性の観点から、例えば2Pa以下である。
【0037】
密着層13の厚さは、ハードコート層12と反射防止層14との間の密着力の確保と、密着層13の透明性との両立の観点から、好ましくは1nm以上10nm以下である。
【0038】
次に、反射防止層形成工程では、
図1Dに示すように、密着層13における厚さ方向Dの一方面上に、反射防止層14を形成する。反射防止層14は、外光の反射強度を抑制するための層である。
【0039】
反射防止層14は、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを、厚さ方向に交互に有する。反射防止層14では、同層に含まれる複数の薄層(高屈折率層,低屈折率層)における複数の界面での反射光間の干渉作用により、正味の反射光強度が減衰される。また、反射防止層14では、各薄層の光学膜厚(屈折率と厚さとの積)の調整により、反射光強度を減衰させる干渉作用を発現させることができる。このような反射防止層14は、本実施形態において具体的には、第1高屈折率層14aと、第1低屈折率層14bと、第2高屈折率層14cと、第2低屈折率層14dとを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で有する。
【0040】
第1高屈折率層14a、第1低屈折率層14b、第2高屈折率層14c、および第2低屈折率層14dは、それぞれ、ドライコーティング法で材料を成膜することによって形成できる。ドライコーティング法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、およびCVDが挙げられ、好ましくはスパッタリング法が用いられる。スパッタリング法としては、成膜速度の観点から、反応性スパッタリングが好ましい。本工程でのスパッタリング法の条件は、密着層形成工程でのスパッタリング法の条件として上記したのと同様である。
【0041】
第1高屈折率層14aおよび第2高屈折率層14cは、それぞれ、波長550nmにおける屈折率が好ましくは1.9以上の高屈折率材料からなる。高屈折率と可視光の低吸収性との両立の観点から、高屈折率材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、インジウムスズ酸化物(ITO)、およびアンチモンスズ酸化物(ATO)が挙げられ、好ましくは酸化ニオブが用いられる。
【0042】
第1高屈折率層14aの光学膜厚(屈折率と厚さとの積)は、例えば20nm以上であり、また、例えば55nm以下である。第2高屈折率層14cの光学膜厚は、例えば60nm以上であり、また、例えば330nm以下である。
【0043】
第1低屈折率層14bおよび第2低屈折率層14dは、それぞれ、波長550nmにおける屈折率が好ましくは1.6以下の低屈折率材料からなる。低屈折率と可視光の低吸収性との両立の観点から、低屈折率材料としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)およびフッ化マグネシウムが挙げられ、好ましくは二酸化ケイ素が用いられる。
【0044】
第1低屈折率層14bの光学膜厚は、例えば15nm以上であり、また、例えば70nm以下である。第2低屈折率層14dの光学膜厚は、例えば100nm以上であり、また、例えば160nm以下である。
【0045】
反射防止層14の露出表面は、必要に応じて、表面改質処理される。表面改質処理としてプラズマ処理する場合、処理ガスとしては、例えば、酸素ガスおよびアルゴンガスが挙げられる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば10W以上であり、好ましくは50W以上である。同放電電力は、例えば10000W以下であり、好ましくは8000W以下であり、より好ましくは5000W以下、更に好ましくは4000W以下、特に好ましくは3000W以下である。
【0046】
次に、防汚層形成工程では、
図2Aに示すように、反射防止層14における厚さ方向Dの一方面上に、防汚層15を形成する。防汚層15は、防汚機能を有する層である。防汚層15の防汚機能には、光学フィルムZの使用時のフィルム露出面に対する手脂などの汚染物質の付着の抑制機能、および、付着した汚染物質を除去しやすくする機能が含まれる。
【0047】
防汚層15は、ドライコーティング法によって防汚層材料を反射防止層14上に成膜することによって形成する。すなわち、防汚層15は、ドライコーティング法によって形成された膜(ドライコーティング膜)である。ドライコーティング法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、およびCVDが挙げられる。防汚層15は、好ましくは、真空蒸着法で形成された膜(真空蒸着膜)である。防汚層15が、ドライコーティング膜(好ましくは真空蒸着膜)である構成は、下地に対する防汚層15の高い接合力の確保に適し、従って、防汚層15の耐剥離性の確保に適する。防汚層15の耐剥離性が高いことは、防汚層15の防汚機能の維持に役立つ。
【0048】
防汚層15の材料としては、好ましくは、フッ化アルキル基を末端に有する有機フッ素化合物が用いられる。当該有機フッ素化合物は、末端フッ化アルキル基に起因する高い疎水性と高い疎油性との重畳的発現により、防汚層15において優れた防汚性を発現させるのに適する。このような有機フッ素化合物としては、好ましくは、下記の一般式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物が用いられる。
【0049】
R1-R2-X-(CH2)m-Si(OR3)3 (1)
【0050】
一般式(1)において、R1は、アルキル基における一つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された、直鎖状または分岐状のフッ化アルキル基(炭素数は例えば1以上20以下)を表し、好ましくは、アルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基を表す。
【0051】
R2は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)基の繰り返し構造を少なくとも一つ含む構造を表し、好ましくは、PFPE基の繰り返し構造を二つ含む構造を表す。PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、直鎖状PFPE基の繰り返し構造、および、分岐状PFPE基の繰り返し構造が挙げられる。直鎖状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OCnF2n)p-で表される構造(nは、1以上20以下の整数を表し、pは、1以上50以下の整数を表す。以下同じ)が挙げられる。分岐状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OC(CF3)2)p-で表される構造、および、-(OCF2CF(CF3)CF2)p-で表される構造が挙げられる。PFPE基の繰り返し構造としては、好ましくは、直鎖状PFPE基の繰り返し構造が挙げられ、より好ましくは、-(OCF2)p-および-(OC2F4)p-が挙げられる。
【0052】
R3は、炭素数1以上4以下アルキル基を表し、好ましくはメチル基を表す。
【0053】
Xは、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、またはアミド基を表し、好ましくはエーテル基を表す。
【0054】
mは、1以上の整数を表す。また、mは、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下の整数を表す。
【0055】
このようなパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物のうち、好ましくは、下記の一般式(2)に示される化合物が用いられる。
【0056】
CF3-(OCF2)q-(OC2F4)r-O-(CH2)3-Si(OCH3)3 (2)
【0057】
一般式(2)において、qは、1以上50以下の整数を表し、rは、1以上50以下の整数を表す。
【0058】
また、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0059】
本工程では、防汚層15の後記の厚さT1(剥離工程後の防汚層15の厚さ)および厚さT2(保護フィルム除去後の防汚層15の厚さ,最終狙い厚さ)より大きな厚さT0を有する防汚層15を形成する。厚さT0は、厚さT1,T2より大きい限りにおいて、例えば6nm以上、好ましくは8nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは12nm以上、特に好ましくは15nm以上である。厚さT1と厚さT0との差(T0-T1)は、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.2nm以上、更に好ましくは0.3nm以上であり、また、好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下、更に好ましくは6nm以下である。厚さT0に対する厚さT1の比率(T1/T0)は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.85以上であり、また、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.94以下、更に好ましくは0.90以下である。厚さT0に関するこれら構成は、保護フィルム除去後の防汚層15において有意な厚さT2を得るのに好ましい。
【0060】
防汚層15の厚さの指標としてF強度比を用いる場合、本工程で形成される防汚層15のF強度比(F強度比R0)は、例えば0.20以上、好ましくは0.26以上、より好ましくは0.33以上、更に好ましくは0.39以上、特に好ましくは0.49以上である。後述の剥離工程後の防汚層15のF強度比(F強度比R1)の、F強度比R0に対する比率(R1/R0)は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.85以上であり、また、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.94以下、更に好ましくは0.90以下である(F強度比の当該比率(R1/R0)には、防汚層15の上記の厚さ比率(T1/T0)が反映されている。すなわち、F強度比の比率(R1/R0)と厚さ比率(T1/T0)とは同じである)。F強度比R0に関するこれら構成は、保護フィルム除去後の防汚層15において有意な厚さT2を得るのに好ましい。F強度比とは、測定対象膜について所定条件での蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度(F強度)の、フッ素原子を4.96質量%含む標準サンプルとしてのガラスについて同条件での蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度に対する比率である。標準サンプルとしてのガラスは、LGC Standards社製の「XRF-PF3」とする。F強度比の測定方法は、具体的には、実施例に関して後述するとおりである。
【0061】
また、本工程では、防汚層15の表面15aにおいて、防汚層材料が防汚層組織に充分に定着していない未定着部分(図示略)が生じる。表面15aにおいて、未定着部分は、白濁しており、色むらの原因となる。
【0062】
好ましくは、上述の密着層形成工程から防汚層形成工程までの一連のプロセスを、ロールトゥロール方式でワークフィルムを走行させながら一つの連続ラインで実施する。一つの連続ラインでのプロセス中、ワークフィルムは一度も大気中に出されず、好ましくは、ロール状に巻き回されない。
【0063】
次に、第1貼合せ工程では、
図2Bに示すように、防汚層15に剥離フィルム16を貼り合わせる。剥離フィルム16は、同フィルムの片面に粘着面16aを有する。本工程では、具体的には、ロールトゥロール方式の貼合せ装置により、防汚層15の表面15aに対して、剥離フィルム16の粘着面16aを貼り合わせる。本工程では、防汚層15の表面15aに剥離フィルム16の粘着面16a側が貼り合わされることにより、防汚層15における上述の未定着部分(防汚層材料)が粘着面16aに付着する。
【0064】
剥離フィルム16は、フィルム基材と、当該フィルム基材上の粘着剤層とを備える。粘着剤層におけるフィルム基材とは反対側の面が、粘着面16aを形成する。フィルム基材としては、例えば、透明基材フィルム11に関して上記した樹脂フィルムが挙げられる。フィルム基材の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。粘着剤層の材料としては、例えば、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル粘着剤、ポリウレタン粘着剤、ポリアミド粘着剤、エポキシ粘着剤、および、ビニルアルキルエーテル粘着剤が挙げられる。粘着剤層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0065】
貼合せ装置において、貼合わせ温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下である。また、本工程における貼合わせ圧力は、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、また、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下である。
【0066】
本工程で防汚層15に貼り合わされた剥離フィルム16が防汚層15に対して有する粘着力は、0.008N/50mm以上であり、好ましくは0.015N/50mm以上、より好ましくは0.02N/50mm以上である。このような構成は、後述の剥離工程において上述の未定着部分が剥離フィルム16に付着して防汚層15から除去されうる程度の、剥離フィルム16に対する未定着部分の良好な付着性を、確保するのに適する。また、同粘着力は、剥離フィルム16の剥離性の観点から、好ましくは0.1N/50mm以下であり、より好ましくは0.09N/50mm以下、更に好ましくは0.08N/50mm以下である。この粘着力は、実施例に関して後述する方法によって測定される。
【0067】
次に、剥離工程では、
図2Cに示すように、剥離フィルム16を防汚層15から剥離する。剥離速度は、例えば5~20m/分である。本工程は、ロールトゥロール方式で実施する。本工程では、剥離フィルム16の粘着面16aに付着している未定着部分(防汚層材料)の少なくとも一部が、剥離フィルム16と共に防汚層15から除去される。これにより、上述の未定着部分の少なくとも一部が防汚層15から除去される。上述の第1貼合せ工程と剥離工程とは、機能的に一連の工程として実施される。すなわち、第1貼合せ工程と剥離工程とは、防汚層15の表面15aの未定着部分を剥離フィルム16に転写する工程(転写工程)を構成する。
【0068】
剥離工程での未定着部分(防汚層材料)の除去により、防汚層15は薄くなる。本工程後の防汚層15の厚さT1は、防汚層15の防汚機能と防汚耐久性との両立の観点から、好ましくは4nm以上、より好ましくは6nm以上、更に好ましくは8nm以上、特に好ましくは10nm以上である。また、厚さT1は、光学フィルムZの薄型化の観点からは、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、更に好ましくは20nm以下である。
【0069】
防汚層15の厚さの指標としてF強度比を用いる場合、剥離工程後の防汚層15のF強度比(F強度比R1)は、防汚層15の防汚機能と防汚耐久性との両立の観点から、好ましくは0.080以上、より好ましくは0.125以上、更に好ましくは0.170以上、一層好ましくは0.180以上である。また、F強度比R1は、光学フィルムZの薄型化の観点からは、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.800以下、更に好ましくは0.600以下である。
【0070】
次に、第2貼合せ工程では、
図3に示すように、防汚層15に保護フィルム17を貼り合わせる。保護フィルム17は、同フィルムの片面に粘着面17aを有する。本工程では、具体的には、ロールトゥロール方式の貼合せ装置により、防汚層15の表面15aに対して、保護フィルム17の粘着面17aを貼り合わせる。上述の第1貼合せ工程と剥離工程の後に防汚層15の表面に未定着材料が残存する場合、本工程では、防汚層15の表面15aに保護フィルム17の粘着面17a側が貼り合わされることにより、防汚層15における残存未定着部分(防汚層材料)が粘着面17aに付着する。
【0071】
保護フィルム17は、フィルム基材と、当該フィルム基材上の粘着剤層とを備える。粘着剤層におけるフィルム基材とは反対側の面が、粘着面17aを形成する。フィルム基材としては、例えば、透明基材フィルム11に関して上記した樹脂フィルムが挙げられる。フィルム基材の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。粘着剤層の材料としては、例えば、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル粘着剤、ポリウレタン粘着剤、ポリアミド粘着剤、エポキシ粘着剤、および、ビニルアルキルエーテル粘着剤が挙げられる。粘着剤層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0072】
貼合せ装置において、貼合わせ温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下である。また、本工程における貼合わせ圧力は、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、また、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下である。
【0073】
本工程で防汚層15に貼り合わされた保護フィルム17が防汚層15に対して有する粘着力は、好ましくは0.008N/50mm以上、より好ましくは0.015N/50mm以上、更に好ましくは0.02N/50mm以上である。このような構成は、保護フィルム17の剥離時に上述の残存未定着部分が保護フィルム17に付着して防汚層15から除去されうる程度の、保護フィルム17に対する残存未定着部分の良好な付着性を、確保するのに適する。また、同粘着力は、保護フィルム17の剥離性の観点から、好ましくは0.1N/50mm以下であり、より好ましくは0.09N/50mm以下、更に好ましくは0.08N/50mm以下である。この粘着力は、実施例に関して後述する方法によって測定される。
【0074】
以上のようにして、光学フィルムZが製造される。光学フィルムZは、透明基材フィルム11と、ハードコート層12と、密着層13と、反射防止層14と、防汚層15と、保護フィルム17とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。光学フィルムZは、厚さ方向Dに直交する方向(面方向)に広がる形状を有する。また、光学フィルムZは、透明基材フィルム11側が例えば粘着剤を介して被着体に貼り合わされて、使用される。被着体としては、例えば、タッチパネルディスプレイなどのディスプレイにおける画像表示側に配置される透明カバーが挙げられる。光学フィルムZにおいては、保護フィルム17によって防汚層15を保護できる。したがって、光学フィルムZは、保護フィルム17が剥離されて防汚層付き光学フィルムとして使用される時まで、防汚層15の防汚機能の維持など、防汚層付き光学フィルムとしての耐久性を確保するのに適する。
【0075】
光学フィルムZにおいて、保護フィルム17を備える状態での防汚層15の厚さT1に対する、保護フィルム17を除去(剥離)した後の防汚層15の厚さT2の比率(T2/T1)は、好ましくは0.9以上、より好ましくは0.92以上であり、また、好ましくは1.0以下または0.99以下である。防汚層15の厚さの指標としてF強度比を用いる場合、保護フィルム17除去後の防汚層15のF強度比(F強度比R2)の、剥離工程後の上述のF強度比R1に対する比率(R2/R1)は、好ましくは0.9以上、より好ましくは0.92以上であり、また、好ましくは1.0以下または0.99以下である(F強度比の当該比率(R2/R1)には、防汚層15の厚さ比率(T2/T1)が反映されている。すなわち、F強度比の比率(R2/R1)と厚さ比率(T2/T1)とは同じである)。これら構成は、防汚層15の表面15aに未定着材料が残存する場合に、保護フィルム17を防汚層15から剥離することによって、当該防汚層表面15aから未定着材料を除去するのに適する。したがって、当該構成は、防汚層15において、未定着材料に起因する白濁を抑制して良好な透明外観性を実現するのに適する。
【0076】
保護フィルム17除去後の防汚層15の厚さT2は、防汚層15の防汚機能と防汚耐久性との両立の観点から、好ましくは6nm以上、より好ましくは8nm以上、更に好ましくは10nm以上である。また、厚さT2は、光学フィルムZの薄型化の観点からは、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、更に好ましくは20nm以下、一層好ましくは15nm以下である。
【0077】
防汚層15の厚さの指標としてF強度比を用いる場合、保護フィルム17除去後の防汚層15のF強度比R2は、防汚層15の防汚機能と防汚耐久性との両立の観点から、好ましくは0.18以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、一層好ましくは0.35以上、より一層好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.42以上である。また、F強度比R2は、光学フィルムZの薄型化の観点からは、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.66以下、一層好ましくは0.50以下である。
【0078】
防汚層15の表面15aの保護フィルム17剥離後の水接触角(純水接触角)は、好ましくは110°以上であり、より好ましくは111°以上、更に好ましくは112°以上、一層好ましくは113°以上、特に好ましくは114°以上である。表面15aにおける水接触角がこの程度に高い構成は、防汚層15において高い防汚性を実現するのに適する。同水接触角は、例えば130°以下である。水接触角は、防汚層15の表面15a(露出表面)に直径2mm以下の水滴(純水の液滴)を形成して、表面15aに対する当該水滴の接触角を測定することにより、求められる。表面15aの水接触角は、例えば、防汚層15の組成、表面15aの粗さ、ハードコート層12の組成、および、ハードコート層12の防汚層15側の表面の粗さの調整によって、調整できる。
【0079】
本製造方法の第1貼合せ工程(
図2B)では、上述のように、防汚層15の組織に充分に定着していない防汚層材料(未定着材料)が、剥離フィルム16の粘着面16aに付着する。剥離工程(
図2C)では、防汚層15に対する粘着力が0.008N/50mm以上の剥離フィルム16が防汚層15から剥離される。これにより、防汚層材料における上述の未定着部分の少なくとも一部が防汚層15から除去される。すなわち、本製造方法が防汚層形成工程(
図2A)後に第1貼合せ工程と剥離工程とを含むことは、前記未定着材料を防汚層15から除去するのに適する。そして、第2貼合せ工程(
図3)では、未定着材料の除去を経た防汚層15が、保護フィルム17によって被覆されて保護される。このような製造方法は、防汚層15において、未定着材料に起因する白濁を抑制して良好な透明外観性を実現するのに適する。
【0080】
光学フィルムZは、反射防止層14を備えない光学フィルムであってもよい。そのような光学フィルムZを製造するには、
図1Dに示す工程において、防汚層15の耐剥離性を確保するための無機酸化物下地層18を、反射防止層14の代わりに形成するのが好ましい。このような工程の後に防汚層形成工程(
図2A)、第1貼合せ工程(
図2B)、剥離工程(
図2C)および第2貼合せ工程(
図3)を実施して得られる光学フィルムZを、
図4に示す。
【0081】
無機酸化物下地層18は、ドライコーティング法で材料を成膜することによって形成する。ドライコーティング法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、およびCVDが挙げられ、好ましくはスパッタリング法が用いられる。無機酸化物下地層18の材料としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)およびフッ化マグネシウムが挙げられ、好ましくは二酸化ケイ素が用いられる。また、無機酸化物下地層18の厚さは、防汚層15の耐剥離性の確保の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは65nm以上、更に好ましくは80nm以上である。無機酸化物下地層18の厚さは、例えば300nm以下である。
【実施例】
【0082】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。本発明は実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0083】
〔実施例1〕
以下の工程を順次に実施して、防汚層付き光学フィルムを製造した。
【0084】
まず、透明基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)の片面に、ハードコート層を形成した(ハードコート層形成工程)。具体的には、まず、紫外線硬化型のモノマーおよびオリゴマーの混合物(ウレタンアクリレートを主成分として含む)の酢酸ブチル溶液(品名「ユニディック17-806」,固形分濃度80質量%,DIC社製)100質量部(固形分換算)と、光重合開始剤(品名「IRGACURE906」,BASF社製)5質量部と、レベリング剤(品名「GRANDIC PC4100」,DIC社製)0.01質量部とを混合して、混合液を得た。次に、シクロペンタノン(CPN)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)との混合溶媒(CPNとPGMの質量比は45:55)の添加により、混合液の固形分濃度を36質量%に調整した。これにより、紫外線硬化性の樹脂組成物(ワニス)を調製した。次に、上記PETフィルムの片面に樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、この塗膜を、加熱により乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。加熱の温度は90℃とし、加熱の時間は60秒間とした。紫外線照射では、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算照射光量を300mJ/cm2とした。これにより、PETフィルム上に厚さ5μmのハードコート層(HC)を形成した。
【0085】
次に、ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、HC層付きPETフィルムのHC層表面を、1.0Paの真空雰囲気下でプラズマ処理した(HC層前処理工程)。このプラズマ処理では、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、放電電力を780Wとした。
【0086】
次に、プラズマ処理後のHC層付きPETフィルムのHC層上に、密着層と反射防止層とを順次に形成した(スパッタ成膜工程)。具体的には、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置により、HC層付きPETフィルムのHC層上に、密着層としての厚さ1.5nmのインジウムスズ酸化物(ITO)層と、第1高屈折率層としての厚さ12nmのNb2O5層と、第1低屈折率層としての厚さ28nmのSiO2層と、第2高屈折率層としての厚さ100nmのNb2O5層と、第2低屈折率層としての厚さ85nmのSiO2層とを、順次に形成した。密着層の形成では、ITOターゲットを用い、不活性ガスとしてのアルゴンガスと、アルゴンガス100体積部に対して10体積部の反応性ガスとしての酸素ガスとを用い、放電電圧を400Vとし、成膜室内の気圧(成膜気圧)を0.2Paとし、MFACスパッタリングによってITO層を成膜した。第1高屈折率層の形成では、Nbターゲットを用い、100体積部のアルゴンガスおよび5体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を415Vとし、成膜気圧を0.42Paとし、MFACスパッタリングによってNb2O5層を成膜した。第1低屈折率層の形成では、Siターゲットを用い、100体積部のアルゴンガスおよび30体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を350Vとし、成膜気圧を0.3Paとし、MFACスパッタリングによってSiO2層を成膜した。第2高屈折率層の形成では、Nbターゲットを用い、100体積部のアルゴンガスおよび13体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を460Vとし、成膜気圧を0.5Paとし、MFACスパッタリングによってNb2O5層を成膜した。第2低屈折率層の形成では、Siターゲットを用い、100体積部のアルゴンガスおよび30体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を340Vとし、成膜気圧を0.25Paとし、MFACスパッタリングによってSiO2層を成膜した。以上のようにして、HC層付きPETフィルムのHC層上に、密着層を介して反射防止層(第1高屈折率層,第1低屈折率層,第2高屈折率層,第2低屈折率層)を積層形成した。
【0087】
次に、反射防止層上に防汚層を形成した(防汚層形成工程)。具体的には、パーフルオロポリエーテル基含有のアルコキシシラン化合物を蒸着源として用いた真空蒸着法により、厚さ10nmの防汚層を反射防止層上に形成した。蒸着源は、信越化学工業社製の「KY1903-1」(パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン化合物,固形分濃度20質量%)を乾燥して得た固形分である。また、真空蒸着法における蒸着源の加熱温度は260℃とした。
【0088】
上述のHC層前処理工程から防汚層形成工程までの一連のプロセスは、ロールトゥロール方式でワークフィルムを走行させながら一つの連続ラインで実施した。このプロセス中、ワークフィルムは一度も大気中に出されていない。
【0089】
次に、防汚層の露出面に剥離フィルムを貼り合わせた(第1貼合せ工程)。具体的には、ロールトゥロール方式の貼合せ装置により、片面に粘着面を有する第1剥離フィルムの粘着面を、防汚層表面に貼り合わせた。使用装置において、貼合わせ圧力は0.2MPaとした。第1剥離フィルムは、以下のようにして作製した。
【0090】
まず、撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備える反応容器内で、ブチルアクリレート(BA)90質量部と、アクリル酸(AA)10質量部と、重合開始剤としての2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部と、酢酸エチル234質量部とを含む混合物を、63℃で約7時間、窒素雰囲気下にて撹拌し、反応させた(重合反応)。これにより、第1アクリルポリマーを含有する第1ポリマー溶液(固形分濃度30質量%)を得た。次に、このポリマー溶液を、酢酸エチルで20質量%に希釈した。次に、当該ポリマー溶液に、第1アクリルポリマー100質量部あたり、エポキシ架橋剤(品名「TETRAD-C」,三菱ガス化学社製)11質量部を加えた後、当該溶液を、25℃付近で約1分間、撹拌した。これにより、粘着剤組成物C1を得た。次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面に、粘着剤組成物C1を塗布して塗膜を形成した。次に、PET基材上の塗膜を、150℃で60秒間加熱し、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次に、粘着剤層の露出面に、片面にシリコーン処理を施したPET剥離ライナー(厚さ25μm)のシリコーン処理面を貼り合せた。以上のようにして、第1剥離フィルムを作製した。第1剥離フィルムの使用に際しては、粘着剤層からPET剥離ライナーを除去した。
【0091】
次に、ロールトゥロール方式で剥離フィルムを防汚層から剥離した(剥離工程)。本工程での剥離速度は10m/分とした。
【0092】
次に、防汚層の露出面に保護フィルムを貼り合わせた(第2貼合せ工程)。具体的には、ロールトゥロール方式の貼合せ装置により、片面に粘着面を有する第1保護フィルムの粘着面を、防汚層表面に貼り合わせた。使用装置において、貼合わせ圧力は0.2MPaとした。第1保護フィルムとしては、第1剥離フィルムと同じものを用いた。
【0093】
以上のようにして、実施例1の光学フィルム(防汚層付き光学フィルム)を作製した。実施例1の光学フィルムは、透明基材フィルムと、ハードコート層と、密着層と、反射防止層と、防汚層と、保護フィルムとをこの順で備える。
【0094】
〔実施例2〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例2の光学フィルムを製造した。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第2剥離フィルムを用い、第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第2保護フィルムを用いた。第2剥離フィルムは、以下のようにして作製した(第2保護フィルムとしては、第2剥離フィルムと同様に作製したものを用いた)。
【0095】
まず、バインダ分散液と、滑り剤分散液と、導電性ポリマー水溶液とを用意した。バインダ分散液は、東洋紡社製の「バイナロールMD-1480」であり、バインダとしての飽和共重合ポリエステル樹脂の水分散液であり、ポリエステル樹脂濃度は25質量%であある。滑り剤分散液は、滑り剤としてのカルナバワックスの水分散液である。導電性ポリマー水溶液は、H.C.Stark社製の「Baytron P」であり、第1導電性ポリマーとしての0.5質量%のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)と、第2導電性ポリマーとしての0.8質量%のポリスチレンスルホネート(数平均分子量15万)(PSS)とを含む。次に、水とエタノールとの混合溶媒に、バインダ分散液を固形分量で100質量部と、滑り剤分散液を固形分量で30質量部と、導電性ポリマー水溶液を固形分量で50質量部と、メラミン系架橋剤とを加え、約20分間撹拌した。これにより、固形分濃度が約0.15%のコーティング材を得た。また、片面にコロナ処理が施された透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm,幅30cm,長さ40cm)を用意した。そして、このPETフィルムのコロナ処理面に上述のコーティング材をバーコーターで塗布して塗膜を形成した。次に、PETフィルム上の塗膜を、130℃で2分間加熱し、乾燥させた。このようにして、PETフィルムの片面に厚さ10nmの透明なトップコート層を有する基材(トップコート付き基材)を作製した。
【0096】
一方、撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備える反応容器内で、2-エチルヘキシルアクリレート100質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート4質量部と、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.15質量部と、重合溶媒としてのトルエン200質量部とを含む混合物を、70℃で6時間、窒素雰囲気下にて撹拌し、反応させた(重合反応)。これにより、第2アクリルポリマーを含有する第2ポリマー溶液を得た。次に、この第2ポリマー溶液に、第2アクリルポリマー100質量部あたり、イソシアネート架橋剤(品名「コロネートL」,東ソー社製)4質量部と、架橋触媒としてのジラウリン酸ジブチルスズ(1%酢酸エチル溶液)0.2質量部と、トルエンとを加えた後、当該溶液を、25℃付近で約1分間、撹拌した。これにより、粘着剤組成物C2(固形分濃度20質量%)を得た。次に、片面にシリコーン処理を施したPET剥離ライナー(厚さ25μm)のシリコーン処理面に、粘着剤組成物C2を塗布して塗膜を形成した。次に、PET剥離ライナー上の塗膜を、150℃で60秒間加熱し、厚さ15μmの粘着剤層を形成した。次に、粘着剤層の露出面に、上述のトップコート付き基材における、トップコート層が設けられていない面を、貼り合わせた後、50℃および相対湿度15%の環境下で、3日間養生(エージング)した。以上のようにして、第2剥離フィルム(第2保護フィルム)を作製した。このフィルムの使用に際しては、粘着剤層からPET剥離ライナーを除去した。
【0097】
〔実施例3〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例3の光学フィルムを製造した。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第3剥離フィルムを用い、第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第3保護フィルムを用いた。第3剥離フィルムは、粘着剤組成物C2の代わりに粘着剤組成物C3を用いたこと以外は、上述の第2剥離フィルムと同様にして作製した。粘着剤組成物C3は、固形分濃度を20質量%から25質量%に変えたこと以外は粘着剤組成物C2と同様にして、調製した。第3保護フィルムとしては、第3剥離フィルムと同様に作製したものを用いた。
【0098】
〔実施例4〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例4の光学フィルムを製造した。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第4剥離フィルムを用い、第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第4保護フィルムを用いた。第4剥離フィルムは、以下のようにして作製した(第4保護フィルムとしては、第4剥離フィルムと同様に作製したものを用いた)。
【0099】
まず、撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備える反応容器内で、ブチルアクリレート(BA)90質量部と、アクリル酸(AA)10質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)0.1質量部と、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部と、所定量の酢酸エチルとを含む混合物を、55℃で約8時間、窒素雰囲気下にて撹拌し、反応させた(重合反応)。これにより、第3アクリルポリマー(重量平均分子量220万)を含有する第3ポリマー溶液を得た。次に、このポリマー溶液に、第3アクリルポリマー100質量部あたり、イソシアネート架橋剤(品名「コロネートL」,東ソー社製)0.8質量部と、シランカップリング剤(品名「KBM403」,信越化学工業社製)0.2質量部とを加えて混合した。これにより、粘着剤組成物C4を得た。次に、片面にシリコーン処理を施した剥離ライナーとしての第1PETフィルム(品名「MRF38」,厚さ38μm,三菱化学ポリエステルフィルム社製)のシリコーン処理面に、粘着剤組成物C4を塗布して塗膜を形成した。次に、第1PETフィルム上の塗膜を、155℃で60秒間加熱し、厚さ23μmの粘着剤層を形成した。次に、粘着剤層の露出面に、シリコーン処理が施されていない第2PETフィルム(厚さ38μm)を基材として貼り合わせた。以上のようにして、第4剥離フィルムを作製した。第4剥離フィルムの使用に際しては、粘着剤層から、剥離ライナーとしての第1PETフィルムを除去した。
【0100】
〔実施例5〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例5の光学フィルムを製造した。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第5剥離フィルムを用い、第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第5保護フィルムを用いた。第5剥離フィルムとしては、東レフィルム加工社製の「トレファン BS MS06」(粘着剤層付き樹脂フィルム)を用いた。第5保護フィルムとしては、第5剥離フィルムと同様のものを用いた。
【0101】
〔実施例6〕
防汚層形成工程で形成した防汚層の厚さを10nmに代えて5.7nmとしたこと以外は、実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例6の光学フィルムを製造した。
【0102】
〔実施例7〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例7の光学フィルムを製造した。スパッタ成膜工程中の第2低屈折率層の形成において、成膜気圧を0.25Paに代えて0.5Paとした。防汚層形成工程(真空蒸着法)において、蒸着源の加熱温度を260℃に代えて270℃とし、且つ、形成する防汚層の厚さを10nmに代えて16.1nmとした。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第2剥離フィルムを用いた。第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第2保護フィルムを用いた。
【0103】
〔実施例8〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例8の光学フィルムを製造した。スパッタ成膜工程中の第2低屈折率層の形成において、成膜気圧を0.25Paに代えて0.5Paとした。防汚層形成工程(真空蒸着法)において、蒸着源の加熱温度を260℃に代えて245℃とし、且つ、形成する防汚層の厚さを10nmに代えて16.8nmとした。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第2剥離フィルムを用いた。第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第2保護フィルムを用いた。
【0104】
〔実施例9〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例9の光学フィルムを製造した。スパッタ成膜工程中の第2低屈折率層の形成において、成膜気圧を0.25Paに代えて0.5Paとした。スパッタ成膜工程と防汚層形成工程との間に、下地層前処理工程を実施した。具体的には、形成された反射防止層の表面を、ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、真空雰囲気下でプラズマ処理(処理ガスは酸素ガス,放電電力は50W)した。防汚層形成工程(真空蒸着法)において、蒸着源の加熱温度を260℃に代えて270℃とし、且つ、形成する防汚層の厚さを10nmに代えて16.3nmとした。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第2剥離フィルムを用いた。第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第2保護フィルムを用いた。
【0105】
〔実施例10〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、実施例10の光学フィルムを製造した。スパッタ成膜工程中の第2低屈折率層の形成において、成膜気圧を0.25Paに代えて0.5Paとした。防汚層形成工程(真空蒸着法)において、蒸着源の加熱温度を260℃に代えて270℃とし、且つ、形成する防汚層の厚さを10nmに代えて17.0nmとした。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第3剥離フィルムを用いた。第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第3保護フィルムを用いた。
【0106】
〔比較例1〕
次のこと以外は実施例1の光学フィルムと同様にして、比較例1の光学フィルムを製造した。第1貼合せ工程において、第1剥離フィルムの代わりに第6剥離フィルムを用い、第2貼合せ工程において、第1保護フィルムの代わりに第6保護フィルムを用いた。第6剥離フィルムとしては、フタムラ化学社製の「FSA020」(粘着剤層付き樹脂フィルム)を用いた。第6保護フィルムとしては、第6剥離フィルムと同様のものを用いた。
【0107】
〈粘着力の評価〉
実施例1~10および比較例1の各製造方法において防汚層に貼り合わされた剥離フィルムが防汚層に対して示す粘着力を調べた。具体的には、まず、光学フィルム製造過程において、第1貼合せ工程後のワークフィルム(剥離フィルム付き光学フィルム)から、フィルム片(50mm×100mm)を切り出した。次に、フィルム片における透明基材フィルム側の面を、所定の粘着剤層を介してガラス板に貼り付けた(この粘着剤層は、上述の粘着剤組成物C4から形成された粘着剤層である)。これにより、測定試料を得た。次に、測定試料から剥離フィルムを剥離する剥離試験を実施し、剥離強度を粘着力(N/50mm)として測定した。本測定には、引張試験機(品名「オートグラフ AG-X plus」,島津製作所製)を使用した。本測定では、測定温度を25℃とし、防汚層表面に対する剥離フィルムの剥離角度を180°とし、剥離フィルムの引張速度を30cm/分とし、剥離長さを50mmとした。その結果を表1に示す。各光学フィルムにおいて、防汚層に対する保護フィルムの粘着力は、防汚層に対する剥離フィルムの測定粘着力と同様であると考えられる。
【0108】
〈防汚層のF強度比〉
実施例1~10および比較例1の各製造方法における第1貼合せ工程前の防汚層のF強度比R0と、剥離工程後の防汚層のF強度比R1とを、測定した。また、製造された光学フィルムから保護フィルムを除去した後の防汚層のF強度比R2も、測定した。F強度比とは、測定対象膜について所定条件での蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度(F強度)の、フッ素原子を4.96質量%含む標準サンプルとしてのガラスについて同条件での蛍光X線分析によって得られるフッ素(F)のX線強度に対する比率である。本測定には、走査型蛍光X線分析装置(品名「ZSX PrimusII」,リガク社製)を使用した。本測定では、LGC Standards社製の「XRF-PF3」を標準サンプルとし、測定径:30mm、測定線:F-Kα、フィルタ:OUT、スリット:標準、分光結晶:RX35(リガク社製)、検出器:PC、PHA:100-300、ピーク角度:38.794deg.(20sec)、B.G.角度:43.000deg.(10sec)の条件で、表面層中のフッ素原子強度及び標準サンプル中のフッ素原子強度をそれぞれ測定した。F強度比R0,R1,R2、F強度比R0に対するF強度比R1の比率(R1/R0)、および、F強度比R1に対するF強度比R2の比率(R2/R1)を表1に示す。F強度比の比率(R1/R0)には、第1貼合せ工程前の防汚層の厚さT0に対する、剥離工程後の防汚層の厚さT1の比率(T1/T0)が反映されている。すなわち、F強度比の比率(R1/R0)と厚さ比率(T1/T0)とは同じである。また、F強度比の比率(R2/R1)には、剥離工程前の防汚層の厚さT1に対する、保護フィルム除去後の防汚層の厚さT2の比率(T2/T1)が反映されている。すなわち、F強度比の比率(R2/R1)と厚さ比率(T2/T1)とは同じである。
【0109】
〈透明外観性〉
実施例1~10および比較例1の各製造方法における第2貼合せ工程後に、防汚層の透明外観性を評価した。具体的には、まず、防汚層表面において、白濁部分が形成されて色むらが生じているかどうかを、保護フィルム越しに目視観察によって確認した。目視観察では、防汚層表面に対する仰角約20°の方向からの観察を実施した。そして、防汚層の透明外観性について、色むらが生じていない場合を“良”と評価し、色むらが生じている場合を“不良”と評価した。その結果を表1に示す。
【0110】
〈防汚耐久性〉
実施例1~10および比較例1における各光学フィルムの防汚層の耐久性を、次のようにして調べた。まず、光学フィルムから保護フィルムを除去した後に防汚層表面の水接触角を測定し、次に、防汚層表面に対して消しゴム摺動試験を実施し、その後に、防汚層表面の水接触角を再び測定した。消しゴム摺動試験前後の各水接触角の測定においては、まず、光学フィルムの防汚層表面に、約1μLの純水の滴下によって水滴を形成した。次に、防汚層表面上の水滴の表面と防汚層表面とがなす角度を測定した。測定には、接触角計(品名「DMo-501」,協和界面科学社製)を使用した。消しゴム摺動試験では、Minoan社製の消しゴム(Φ6mm)を使用し、防汚層表面に対する消しゴムの荷重を1kg/6mmΦとし、防汚層表面上の消しゴムの摺動距離(往復動における片道)を20mmとし、消しゴムの摺動速度を40往復/分とし、防汚層表面に対して消しゴムを往復動させる回数は3000往復とした。
【0111】
防汚層表面において、消しゴム摺動試験を経ることによる水接触角の低下の程度は、防汚性低下の程度を示す。防汚層の防汚耐久性について、消しゴム摺動試験を経ることによる水接触角の低下が15°未満である場合を“優”と評価し、15°以上20°未満である場合を“良”と評価し、20°以上である場合を“不良”と評価した。その結果を表1に示す。
【0112】
【符号の説明】
【0113】
F 光学フィルム(防汚層付き光学フィルム)
D 厚さ方向
11 透明基材フィルム
12 ハードコート層
13 密着層
14 反射防止層
14a 第1高屈折率層
14b 第1低屈折率層
14c 第2高屈折率層
14d 第2低屈折率層
15 防汚層
15a 表面
16 剥離フィルム
16a 粘着面
17 保護フィルム
17a 粘着面
18 無機酸化物下地層