IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】がん細胞療法用のp21発現単球
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/15 20150101AFI20240814BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20240814BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240814BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61K35/15
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
C12N5/0786
A61K35/76
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022503543
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070379
(87)【国際公開番号】W WO2021013764
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】19305963.1
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516365507
【氏名又は名称】アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ペルフェッティーニ,ジャン-リュック
(72)【発明者】
【氏名】アルシュ,アワテフ
(72)【発明者】
【氏名】ドイチュ,エリック
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521667(JP,A)
【文献】Investigative Ophthalmology & Visual Science,2014年,Vol.55, Abstract No.1857
【文献】Journal of Controlled Release,2016年,Vol.240,pp.527-540
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質をコードするベクターを含む遺伝子改変された単球、および薬学的に許容しうる賦形剤を含む、リンパ系もしくは骨髄系のがんまたは固形がんを患う哺乳動物の処置用の、医薬組成物。
【請求項2】
前記単球が、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21をその発現を可能にする調節エレメントの制御下にコードする複製欠損組換えウイルスを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ウイルスが複製欠損レンチウイルスである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記複製欠損レンチウイルスが、HIV-1ベースの自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクターである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
静脈内注入可能な形態または灌流形態に製剤化されている、請求項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
形質導入された単球を1mL当たり30×10~10個含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記単球が、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21をその発現を可能にする調節エレメントの制御下にコードするSleeping Beautyトランスポゾン系を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記p21タンパク質が、配列番号2またはその機能的バリアントもしくはフラグメントである、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ウイルスまたは前記トランスポゾン系が、配列番号5の核酸を含む、請求項2~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ウイルスまたは前記トランスポゾン系が、配列番号5の核酸を、SFFVプロモーターの制御下に含む、請求項2~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
患者のヘマトクリットを高める薬剤、化学療法剤、細胞特異的抗体、または免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を有効量でさらに含む、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
白血病を患う哺乳動物の処置用の、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
1回の注入用量当たり50×10個の単球を含み、疾患の進行が軽減されるまで毎週投与される、請求項1~12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1~13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物と、有効量のヘマトクリットを高める薬剤、化学療法剤、細胞特異的抗体、または免疫チェックポイント阻害剤(ICI)とを含む、リンパ系もしくは骨髄系のがんまたは固形がんを患う哺乳動物の処置のために同時または連続的に使用するため、組み合わせ製品。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項15に記載の組み合わせ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
マクロファージによる腫瘍細胞のプログラムされた細胞除去(PrCR)を容易にする有効標的の特定には、非常に高い関心が持たれる。本発明者は、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質が、マクロファージ仲介PrCRの強力なレギュレーターであることを確認した。本発明者はまた、p21過剰発現単球の養子移植が、マクロファージのPrCR、および抗炎症性表現型から炎症促進性表現型への移行をインビボで誘導し、がんの進行を遅らせ、がん細胞を移植したマウスの全生存を顕著に向上することを示した。したがって、本発明は、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質を過剰発現する単球を含む処置用組成物、およびがん、特に白血病を患う哺乳動物を処置するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
自然および適応免疫系両方のエフェクター細胞は、適正に活性化されたとき、がん細胞をうまく攻撃する能力を有する。過去には、ネガティブな適応免疫レギュレーター(例えば細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)およびプログラム細胞死タンパク質1(PD-1))を阻害すること、または操作された患者自身の免疫細胞(例えばキメラ抗原受容体(CAR)T細胞)の養子移植を用いて患者の通常の免疫応答能力を向上させることが提案されている。そのような処置は、固形がんおよび血液疾患の処置において大きな進歩をもたらした(Pardoll DM., Nat Rev Cancer (2012) およびSharma SH et al, Cell (2015))。
【0003】
しかしながら、がんの新たな治療法を開発するために、免疫調節をよりよく理解する必要がある。
【0004】
プログラムされた細胞除去(PrCR)は、標的細胞が認識され貪食される、マクロファージ仲介免疫監視のプロセスである(Jaiswal et al., Trends Immunol (2010) )。プログラムされた細胞死を死細胞除去に関連付ける重要なメカニズムとして最初に記載されたが(Arandjelovic and Ravichandran, Nat Immunol (2015))、PrCRは生きた腫瘍細胞のクリアランスにも関連付けられている(Majeti et al., Cell (2009))。
【0005】
PrCRの効率は、マクロファージによる貪食促進(「eat me」)シグナルの認識と、標的がん細胞による抗貪食(「don't eat me」)経路活性化によるマクロファージの抑制とのバランスによって決まる(Chao et al., Nat Rev Cancer (2011))。マクロファージからの「eat me」シグナル カルレティキュリン(CRT)の分泌が、標的がん細胞上のアシアログリカンの結合を介しPrCRを促進する最初のシグナルであると、最近確認された(Feng et al., Nat Comm (2018))。一方、膜貫通タンパク質CD47が、マクロファージ膜上に発現する貪食抑制性受容体であるシグナル制御タンパク質α(SIRPα)を結合し活性化することによってPrCRを阻害する「don't eat me」シグナルとして確認された(Jaiswal et al., Cell (2009))。CD47遮断モノクローナル抗体によってCD47-SIRPα系を遮断すると、腫瘍細胞の貪食が選択的に誘導されること、ならびにリンパ腫、膀胱がん、結腸がん、膠芽腫、乳がん、急性リンパ性白血病および急性骨髄性白血病のさまざまな前臨床モデルにおいて有効であることが研究により示されている(Weiskopf K. Eur J Cancer (2017))。より最近になって、CD47遮断とリツキシマブの組み合わせの、再発または難治性非ホジキンリンパ腫患者における効果の有望性が示されており(Advani R. et al., N Engl J Med (2018))、PrCRを展開させるためにマクロファージ免疫チェックポイント(MIC)を標的化することが実質的な処置好適状況を表すという事実が明らかにされている。
【発明の概要】
【0006】
したがって、マクロファージによる腫瘍細胞のプログラムされた細胞除去(PrCR)を容易にする有効標的の特定には、非常に高い関心が持たれる。本発明はこの必要に対処する。
【0007】
発明の詳細な説明
後に記載する実施例に開示されるように、本発明者は、初代ヒトマクロファージにおいて、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21の枯渇は、その貪食能力を阻害し、したがってその免疫監視を減弱させることを見出した(図1jおよび1k)。本発明者は、p21タンパク質がマクロファージ仲介PrCRの強力なレギュレーターであることを初めて確認した。本発明者は、p21過剰発現がマクロファージ免疫チェックポイント(MIC)インヒビターとして作用し、その結果、腫瘍細胞が認識され、貪食され、破壊されることを示した。
【0008】
したがって、本発明者は、p21過剰発現単球の養子移植がマクロファージPrCR、および抗炎症性表現型から炎症促進性表現型への移行をインビボで誘導し、がんの進行を遅らせ、がん細胞が移植されたマウスの全生存を著しく増加させることを示した(図1r)。
【0009】
本発明は、細胞組成物、およびそれをがん処置、とりわけがん免疫療法に使用することのできる医薬組成物中に組み込むことに関する。具体的には、本発明は、単核貪食細胞系の細胞の単離、培養、活性化および遺伝子改変、ならびに細胞療法、例えば養子免疫療法におけるその使用に関する。
【0010】
単核貪食細胞系の細胞は、末梢血単球、その骨髄または血液前駆体、および組織マクロファージを含む。単球は骨髄において形成され、成熟後に骨髄を出て、末梢血を経て組織に至る。血液中に循環するヒト単球は、半減期が約3日である。単球は、組織に達するとマクロファージと呼ばれる。組織マクロファージの総数は、循環単球の数を、およそ400のファクターで大きく上回る。マクロファージは体内のあらゆる場所で見られるが、肝臓(クッパー細胞)、リンパ節、肺、腹膜およそ皮膚(ランゲルハンス細胞)に特に多い。全身的循環から組織への単球の移動は不可逆的である。
【0011】
単球およびマクロファージは、急性期の免疫反応の誘導、造血の調節、免疫系活性化、凝固、微生物や腫瘍細胞の破壊、ならびに組織修復および瘢痕形成を含む、数多くの重要な機能を有することが知られている。
【0012】
単球-マクロファージは、ヒトにおいていくつかの種類のがんの治療のための養子免疫療法において用いることもできる。これら細胞は典型的には、患者の循環血液から精製し、エクスビボで培養し、分化を誘導し殺腫瘍力を高めるようインターフェロンγで活性化した後、患者に再注入することができる。適当なベクターを用いてエクスビボで単球由来マクロファージ細胞に遺伝子を導入することも可能であり、それによって、細胞傷害性や免疫系刺激に関してより優れた性質を細胞に付与することができる。
【0013】
したがって、本発明は第一の側面において、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質を過剰発現する単球を含む医薬組成物に関する。該単球は、組織に移植されるとマクロファージへと分化しうる。
【0014】
該医薬組成物を、以下、「本発明の組成物」、「本発明の医薬組成物」、または「本発明の細胞組成物」と称する。
【0015】
特に、本発明は、がん、特に白血病を処置するために患者の免疫および造血系を強化することを意図した医薬を製造するための、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質を過剰発現する単球の使用に関する。
【0016】
本書において用語「p21タンパク質」は、サイクリン依存性キナーゼインヒビター1と互換的であり、これは「p21Cip1」、「p21Waf1」、「Waf1」、「CDKN1A」、「CAP20」、「CIP1」、「MDA-6」、「SDI1」および「CDK相互作用タンパク質1」とも呼ばれる。このタンパク質はサイクリン-CDK1、CDK2およびCDK4/6複合体に結合してその活性を阻害し、したがって、G1およびS期の細胞周期進行のレギュレーターとして機能する。CDK複合体へのp21結合は、他のCIP/CDKインヒビターであるp27およびp57と相同であるp21のN末端ドメインを介して起こる。それは通常、p53活性の主要な標的として、DNA損傷の細胞周期停止への関連付けに関与する。該タンパク質は、ヒトにおいて6番染色体(6p21.2)上に位置する配列番号1(NM_078467)のCDKN1A遺伝子によってコードされる。マウスにおいては該タンパク質は、配列番号3(NM_007669)のCDKN1A遺伝子によってコードされる。ヒトp21タンパク質は配列番号2(NP_000380)のアミノ酸配列を有し、マウスp21タンパク質は配列番号4(NP_031695)のアミノ酸配列を有する。
【0017】
本書において用語「p21タンパク質」は、前記p21タンパク質の機能的なバリアントおよび/またはフラグメントをも包含する。
【0018】
「機能的バリアント」は、例えば、ヒトまたはマウス以外の動物種(例えば、ウマ、イヌ、ネコまたはウシ由来)の野生型p21タンパク質である。該タンパク質は現在、よく特徴付けられており、その配列は通常のデータベースで容易に検索することができる。「機能的バリアント」はまた、天然p21タンパク質の変異バージョンであって、対応する種の野生型タンパク質(ヒト処置用には配列番号2、マウス処置用には配列番号4等)とのアミノ酸配列同一性パーセンテージが少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%であるものでもある。
【0019】
本発明において、前記2つの相同配列の間の同一性パーセンテージは、配列全体のグローバルアラインメントによって決定され、該アラインメントは、Needleman and Wunsch (1970)に開示されるものなどの当業者によく知られるアルゴリズムによって行われる。したがって、2つのアミノ酸配列または2つのヌクレオチド配列間の配列比較は、例えば、10の「Gap open」パラメータ、0.5の「Gap extend」パラメータおよび「Blosum 62」行列を用いて「needle」ソフトウェアといった当業者に知られる任意のソフトウェアを用いることによって行うことができる。
【0020】
p21タンパク質の「機能的フラグメント」とは、マクロファージによる腫瘍細胞のプログラムされた細胞除去(PrCR)を向上させるp21タンパク質の機能を維持する、野生型p21タンパク質またはその機能的バリアントの任意のフラグメントである。
【0021】
好ましい一態様において、本発明の医薬組成物に含まれる単球は、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21をコードする複製欠損組換えウイルス、またはp21をコードする遺伝子をその発現を可能にする調節エレメントの制御下に含む非ウイルス組換え核酸を含む。該組換えウイルスまたは核酸は、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質の過剰発現を可能にする。前記組換え核酸は好ましくはDNAプラスミドである。ミニサークルと称されるスーパーコイル型最小DNAベクターからのp21遺伝子の非ウイルスSleeping Beauty安定転移を用いることもできる。単球の遺伝子操作は、単球におけるインビトロ翻訳p21mRNAの非ウイルス導入を用いて行うこともできる。
【0022】
本書において「サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質を過剰発現する」とは、本発明の組成物に含まれるマクロファージにおけるp21タンパク質の全発現レベルが、通常の未処理マクロファージにおけるものよりも高いことを意味する。過剰発現は、ウエスタンブロットといった、タンパク質レベルを測定することのできる任意の通常の方法で検出することができる。本発明の組成物中での使用のために、マクロファージは、最終的なp21発現が未処理対照マクロファージの少なくとも2倍または3倍となるように遺伝子操作される。単球ゲノム中のp21遺伝子の安定な組み込みは、組織に移植された分化マクロファージにおけるサイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質発現の持続を確実なものとする。さらに組織におけるマクロファージの長寿命を考慮すると、p21タンパク質発現の持続性はさらに確実である。
【0023】
ベクター(プラスミドまたはウイルスまたはインビトロ翻訳mRNA)の使用は、標的細胞中のp21をコードする核酸の投与の改善を可能にし、該細胞中の該核酸の安定性の向上も可能にし、それによって長時間持続する効果を得ることができる。
【0024】
好ましい一態様において、前記ベクターは、マクロファージのトランスフェクションに有効であることが示されているアデノウィルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)等からなる群から選択される(Singh G. et al, F1000 research 2015)。
【0025】
好ましくは、前記ウイルスは欠損ウイルスである。用語「欠損ウイルス」とは、標的細胞中で複製することができないウイルスをいう。したがって、本発明において用いられる欠損ウイルスのゲノムは、一般に、少なくとも感染細胞中での該ウイルスの複製に必要な配列を欠く。該領域は、除去(完全に、または部分的に)され、非機能的とされ、または他の配列で、特に組換え核酸で置き換えられうる。しかしながら好ましくは、欠損ウイルスは、ウイルス粒子の殻形成に必要なゲノムの配列を維持する。
【0026】
特に、AAVベクターは、i)合成遺伝子の発現を長期間持続する、ii)病原性反応のリスクが低い(人工的に作製され、毒性でないからである)、iii)免疫原性反応をあまり引き起こさない、およびiv)ヒトゲノムと一体化しない、といった、いくつかの利点を有する。遺伝子発現効率を高めるため、および意図しないウイルス拡散を防ぐために、AAVの遺伝子操作を行うことができる。そのような遺伝子操作は、E1領域の欠失、E1領域の欠失とE2もしくはE4領域の欠失との組み合わせ、またはシス作用性の末端逆位反復配列およびパッケージングシグナルを除く全アデノウイルスゲノムの欠失を包含する。そのようなベクターは、本発明に好ましいものとして包含される。ミニサークルと称されるスーパーコイル型最小DNAベクターからのp21遺伝子の非ウイルスSleeping Beauty安定転移を用いることもできる。単球の遺伝子操作は、単球におけるインビトロ翻訳p21mRNAの非ウイルス導入を用いて行うこともできる。これら2つの方法において、プラスミドは、エレクトロポレーションによる単球のトランスフェクションによって送達される。
【0027】
本発明の細胞組成物を調製するための他の好ましいベクターは、アデノウイルスベクターである。実際、Haddada H. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun (1993)に、アデノウイルスが非常に効果的に単球-マクロファージ系の細胞を感染させ、その中で安定に維持され、治療用遺伝子を発現させることができることが示されている。構造および性質がいくぶん相違するが、ヒト、特に非免疫抑制対象に対して病原性でない、さまざまな血清型のアデノウイルスが存在する。さらに、そのようなウイルスは、それが感染した細胞のゲノムに組み込まれず、大きな外来DNAフラグメントを含むことができる。さまざまな血清型のなかで、本発明においては、アデノウイルス2型または5型(Ad2またはAd5)を使用することが好ましい。Ad5アデノウイルスの場合、複製に必要な配列はE1AおよびE1B領域である。これら配列は好ましくは、本発明において使用される組換え核酸から欠失される。
【0028】
本発明の細胞組成物を調製するための他の好ましいベクターは、レンチウイルスである。HIVのようなレンチウイルスは、非分裂および分裂細胞に感染し宿主細胞ゲノムに組み込まれる能力を有する。このような性質のゆえに、HIVベースのレンチウイルスベクターは、遺伝子治療用の良い送達系候補として提案されているが、それを臨床試験に使用する試みにおいて、ヒトにおいて増殖能を持つレトロウイルスの発生を招く遺伝子組換えのリスクを包含する、安全性についての懸念が持たれている。より安全なHIVベースのレンチウイルスベクター系を開発するために、パッケージングおよびウイルス遺伝子の遺伝子成分におけるさらなる改変が行われている。現在、標的遺伝子を分化した単球由来マクロファージに効率的に導入するための、安全なHIVベースのレンチウイルスベクターが数多くデザインされている(Leyva F. et al, BMC biotechnology (2011))。任意のそのようなベクターを本発明において使用することができる。
【0029】
好ましいレンチウイルスベクターは、哺乳動物に安全に投与されるように改変されているものである。そのようなベクターは、例えば、Neschadim A. et al. Biol Blood Marrow Transplant. 2007 Dec;13(12):1407-16に開示されるような、ヒトまたは哺乳動物の遺伝子治療において有用であることが知られているHIV/SIVベクターである。使用のために最も興味深いベクターは、HIVおよびSIVベースのレンチウイルス自己不活性型ベクター(Neschadim A. et al. Biol Blood Marrow Transplant. 2007 Dec;13(12):1407-16.)、アデノウイルスベクター(Haddada H. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun (1993))、およびsleeping Beautyトランスポゾン非ウイルスベクター(Aronovich et al. Human. Molecular. Genetics (2011))である。
【0030】
実施例において用いられるベクター、すなわちp21タンパク質をコードするHIV-1ベースの自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクターを使用することができる。このベクターは、単独のp21タンパク質、またはAIP(アリール炭化水素受容体相互作用タンパク質)といった他のタンパク質またはFlagタグもしくはヘマグルチニン(HA)タグといった小さいタンパク質タグと融合したp21タンパク質をコードすることができる。
【0031】
特に好ましい態様において、本発明の組成物は、レンチウイルス感染を阻害する因子の分解を誘導するために、SIVmac-VPXを含むウイルス様粒子(VLP)をも含む(Berger G., Gene Therapy (2009))。SIVmac-VPXは、レトロウイルス複製に必要なdNTPを加水分解するHIV-1抑制因子として確認されたSAMHD1を分解する(Lahouassa et al., Nat Immunol (2012))。
【0032】
より一層好ましい態様において、本発明の細胞組成物に含まれる単球は、p21タンパク質をコードする下記配列番号5の核酸配列を含むSINレンチウイルスベクターによって形質導入されている:
【0033】
前記のように、p21をコードする遺伝子は、その発現を可能にする調節エレメントの制御下に置かれる。調節エレメントは通常、転写プロモーター配列からなる。これは、天然にp21の発現に関与する配列であって、単球-マクロファージにおいて機能することができるものでありうる。それはまた、由来の異なる配列(他のタンパク質の発現に関与するもの、または合成遺伝子)であることもできる。それは特に、真核生物またはウイルス遺伝子のプロモーター配列でありうる。例えば、それは、感染させるのが望ましい単球のゲノムに由来するプロモーター配列でありうる。同様に、それは、ウイルスのゲノムに由来するプロモーター配列でありうる。これに関連して、プロモーターE2F1(E2プロモーター結合因子1)、またはEFS(伸長因子1αショート)、SFFV(サイレンシングが起こり易い脾フォーカス形成ウイルス)、CMV(サイトメガロウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)等のプロモーター遺伝子を例として挙げることができる。さらに、発現配列は、アクチベーター配列、調節配列等の付加によって改変しうる。
【0034】
ベクターおよび調節配列の選択にあたり、当業者は、本発明のマクロファージによるp21の最終的な発現を、mockトランスフェクション対照マクロファージと比較して少なくとも2または3倍高めるべきであることを考慮すべきである。
【0035】
コーディング配列および適当な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを作製する方法は、当分野においてよく知られている。該方法は、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、およびインビボ組換え/遺伝子組換えを包含する。核酸は、当分野において利用可能なさまざまな技術を用いて、相当高い純度で単離および入手され、次いで適当な宿主細胞に導入されうる。
【0036】
アデノウイルス、レンチウイルスまたはAAV由来のベクターの作製、その中への異種核酸配列の組み込みの方法はすべて、文献に記載されており、本発明において使用することができる。分子生物学において従来用いられる方法、例えばプラスミドDNAの予備抽出、塩化セシウム勾配を用いるプラスミドDNAの遠心分離、アガロースまたはアクリルアミドゲル電気泳動、電気的溶出によるDNA断片精製、タンパク質のフェノールまたはフェノール-クロロホルム抽出、塩類媒体中でのDNAのエタノールまたはイソプロパノール沈殿、大腸菌の形質転換等が、当業者によく知られ、多くの文献に記載されている[Maniatis T. et al., “Molecular Cloning, a Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1982; Ausubel F. M. et al. (eds), “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, New York, 1987]。
【0037】
ウイルスのゲノムを遺伝子改変したら、ウイルスを標準的な分子生物学の方法にしたがって増幅し、回収し、精製する。
【0038】
本発明の医薬組成物は、p21タンパク質を過剰発現する単球を含む。
【0039】
本書において用語「単球由来マクロファージ」とは、実施例に記載する条件で末梢血単球(PBMC)またはその骨髄もしくは血液前駆体からマクロファージへと培養され分化されている単球細胞をさす(Andressen R. et al., Cancer Res. 1990; Bartholeyns J et al., Anticancer Res. (1991)参照)。前駆体として、多能性幹細胞、骨髄幹細胞(CFU-GEMM)、骨髄単球幹細胞(CFU-GM)、CFU-M、単芽球または前単球を使用することもできる。単球の静脈内注入は、骨髄、脾臓および肝臓におけるその生着およびマクロファージへの分化を誘導した。
【0040】
PBMCは血液中に見られるので、PBMCサンプルは、完全に無害で非侵襲的な、対象からの採血によって得ることができる。
【0041】
PBMC/単球-マクロファージ細胞またはその前駆体の回収および単離は、当業者に知られる任意の方法で行いうる。さまざまな方法が、物理的分離ステップ(遠心分離、細胞ソーティング(FACS)等)、および免疫学的化合物(細胞マーカーに特異的な抗体等)または生化学的化合物(膜受容体リガンド)を用いての選択等を伴いうる。単離した細胞の培養を、補充、特に血清およびアミノ酸の補充がなされた当業者に知られるさまざまな培地(例えばRPMI、IMDM)中で行いうる。細胞の培養は、実施例に記載されるように、無菌条件で、好ましくは37℃で行う。細胞の培養は、培養プレート、または好ましくはテフロンバッグ中で行いうる。
【0042】
好ましい一態様において、本発明の組成物に含まれる細胞は、PBMCを、その分化を可能にする適当な条件下に培養することにより得たものである。ヒト血液単球のマクロファージへの分化は、例えばインビトロで3つの異なる方法を用いて、すなわち、1)ヒト血清(HS)、2)顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含むウシ胎児血清(FBS)、または3)マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含むFBS中でPBMCを培養することによって、誘導することができる。
【0043】
特定の一態様において、組換え核酸による、PBMC細胞から精製された単球の形質導入がエクスビボで行われ、その後、形質導入された細胞はエクスビボでマクロファージへと分化/培養される。この態様において、本発明の細胞組成物は、p21タンパク質を過剰発現する分化したマクロファージを含む。
【0044】
他の特定の一態様において、本発明の組換え核酸は、細胞に、それがエクスビボでマクロファージへと分化/培養されてから導入されている。この態様においても、本発明の細胞組成物はp21タンパク質を過剰発現する分化したマクロファージを含むが、マクロファージへの細胞分化は本発明の組換え核酸による形質導入に先立って行われている。
【0045】
他の特定の一態様において、本発明の組換え核酸は、エクスビボで単球段階にある細胞に導入されている。細胞はその後、対象に投与され、そこでマクロファージへの分化が起こる。この態様において、本発明の細胞組成物は、p21タンパク質を過剰発現する未分化単球を含む。
【0046】
他の特定の一態様において、インサイチュで循環マクロファージをトランスフェクトするために、組換え核酸をインビボで投与することが可能である。
【0047】
本書において用語「インビトロ」および「エクスビボ」は等価であり、その通常の宿主生物(例えば動物またはヒト)から単離されている生物学的成分(例えば細胞または細胞集団)を用いて行われる研究または実験をいう。一方、用語「インビボ」または「インサイチュ」は、完全体としての生きた生物(例えばヒト)において、生きた対象に本発明の組成物を投与して行われる研究をいう。
【0048】
他の一態様においては、本発明の細胞組成物は、エクスビボで形質転換されているがエクスビボでマクロファージに分化させられていないPBMCから精製された単球を含む。分化は宿主中でインビボで起こりうる。この場合、本発明の組成物は80%を超える単球、より好ましくは90%を超える単球、より一層好ましくは99%を超える単球を含む。これは、本発明の細胞組成物が、他の細胞を含むとしても殆ど含まないことを意味する。
【0049】
本発明の細胞組成物に含まれるPBMCから精製された単球は、個体の末梢血から通常の方法で回収された単球細胞である。PBMCから精製された単球は、マーカーCD14、CD11bおよびCD16について陽性であり、マーカーCD56(これはNK細胞のマーカーである)、CD3(T細胞のマーカー)およびCD20(B細胞のマーカー)について陰性である。好ましくは、本発明の細胞組成物は、90%を超える、好ましくは95%を超える、理想的には99%を超える、そのような細胞を含む。マーカーの存在は、任意の通常の方法によって、例えばサイトメトリー(FACS)によって評価することができる。
【0050】
本発明の細胞組成物の静脈内注入後に組織において分化したマクロファージは、マーカーCD14、CD11b、CD71、CD163およびCD206について陽性であり、マーカーCD56(これはNK細胞のマーカーである)、CD3(T細胞のマーカー)およびCD20(B細胞のマーカー)について陰性である単球由来細胞である。好ましくは、本発明の細胞組成物は、90%を超える、好ましくは95%を超える、理想的には99%を超える、そのような細胞を含む。マーカーの存在は、任意の通常の方法によって、例えばサイトメトリー(FACS)によって評価することができる。
【0051】
本発明の組換え核酸による、本発明の組成物に含ませる細胞の形質転換は、当業者が調節する条件下に無菌培地中で行われる。特に、感染多重度は、使用するベクターに応じて調節されなければならない。SIVウイルスを用いる例が、後に記載する実施例に示される。
【0052】
レンチウイルスベクターを使用する場合、本発明の組成物に含ませる細胞を、例えば50~250pfu/細胞、より好ましくは50~100pfu/細胞の精製ウイルスと接触させる。形質転換条件により、組換え核酸の挿入によって改変される細胞のパーセンテージは30~95%でありうる。
【0053】
それによって得られた改変細胞は、次いで、直接に使用する目的のために包装し、および/または後で使用する目的のために貯蔵することができる。直接に再投与するためには、細胞を通常、リン酸緩衝液または生理食塩液に、投与当たり30×10~10細胞の濃度で懸濁させる。貯蔵のためには、細胞を、好ましくはグリセロール、DMSO等の保存剤の存在下に、凍結しうる。
【0054】
本発明にしたがってエクスビボで、特に前記組換えウイルスベクターを用いて、形質転換された細胞は、医薬組成物、特に患者の免疫および造血系を強化することが意図される組成物の製造のための選択薬である。
【0055】
本発明の組成物の細胞は、患者自身に由来する(したがって組成物は自家細胞を含む)、またはドナーに由来する(したがって組成物は同種細胞を含む)ものでありうる。同種細胞の場合は、ドナーと細胞を受け取る患者との間でHLA適合およびマッチングが必要である。
【0056】
医薬組成物は、前記の形質転換された細胞を有効成分として含む。医薬組成物さらに薬学的に許容しうる賦形剤を含む。
【0057】
用語「薬学的に許容しうる賦形剤」とは、一般に安全、非毒性で望ましい、医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、動物に対する使用およびヒトに対する薬学的使用のために許容しうる賦形剤を包含する。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアロゾル組成物の場合に気体でありうる。がん処置用の組成物は通常、非経口、局所、静脈内、腫瘍内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻内または筋肉内手段によって投与することができる。典型的な投与経路は静脈内または腫瘍内であるが、他の経路も同様に有効でありうる。
【0058】
本発明の組成物は、静脈内投与用に、液体形態にありうる。したがって、本発明の組成物は、細胞以外に、本発明の細胞の生物学的活性に影響しない薬学的に許容しうる希釈剤を含みうる。そのような希釈剤の例には、リン酸緩衝生理食塩液、リンガー液、デキストロース溶液、ハンクス液がある。医薬組成物または製剤はさらに、他の担体、佐剤、または無毒性、非処置活性、非免疫原性の安定剤等を含みうる。
【0059】
好ましい一態様において、本発明の組成物は液体形態にある。
【0060】
本発明の医薬組成物は、単独で、または別の医薬組成物もしくは別の活性物質と組み合わせて投与することができる。特に、本発明の医薬組成物は、本発明の細胞組成物と別の活性物質とを同じ容器中に組み合わせたものとして含むことができる。
【0061】
該活性物質は、例えば化学療法剤であることができる。化学療法剤の例は、アルデスロイキン、アルトレタミン、アミフォスチン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クラドリビン、シサプリド、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ドロナビノール、デュオカルマイシン、エトポシド、フィルグラスチム、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、グラニセトロン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロンα、イリノテカン、ランソプラゾール、レバミソール、ロイコボリン、メゲストロール、メスナ、メトトレキサート、メトクロプラミド、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、オメプラゾール、オンダンセトロン、パクリタキセル(Taxol(商標))、ピロカルピン、プロクロルペラジン、リツキシマブ、サプロイン(saproin)、タモキシフェン、タキソール、トポテカン塩酸塩、トラスツズマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビン酒石酸塩を含むが、それに限定されない。
【0062】
本書において用いられる用語「組み合わせて」とは、本発明の細胞と別の活性物質とを同時に投与する必要があることを意味するものではない。それらを異なる時間間隔でまたは別個の容器において投与する任意の使用または形態も、該用語の範囲に含まれる。
【0063】
他の一態様において、本発明の細胞組成物は、化学療法剤、例えば前記の化学療法剤と組み合わされる。
【0064】
他の一態様において、本発明の細胞組成物は、患者のヘマトクリットを高める有効量の薬剤、例えばエリスロポエチン刺激剤(ESA)と組み合わされる(またはそれを含む)。そのような薬剤は当分野において知られ使用されており、例えばAranesp(登録商標)(ダルベポエチンアルファ)、Epogen(登録商標)NF/Procrit(登録商標)NF(エポエチンアルファ)、Omontys(登録商標)(ペギネサチド)、Procrit(登録商標)等を包含する。
【0065】
他の併用処置は、細胞特異的抗体、例えば腫瘍細胞マーカーに対し選択的な抗体、照射、手術、および/またはホルモン遮断との投与を包含する。
【0066】
したがって、本発明の細胞組成物は、有効量の前記細胞特異的抗体と組み合わされる(またはそれを含む)。
【0067】
数多くの抗体が現在がん処置のために臨床使用されており、さまざまな臨床開発段階にある抗体もある。例えば、B細胞悪性腫瘍の処置について、数多くの抗原および対応するモノクローナル抗体がある。標的抗原の1つはCD20である。リツキシマブは、CD20抗原に対するキメラ非複合体化モノクローナル抗体である。CD20は、B細胞活性化、増殖および分化において重要な機能的役割を有する。CD52抗原は、慢性リンパ性白血病の治療に適応されるモノクローナル抗体アレムツズマブの標的である。CD22は、多くの抗体の標的であり、毒素との組み合わせでの、化学療法抵抗性ヘアリー細胞白血病における有用性が最近示されている。CD20を標的とする2つの新たなモノクローナル抗体トシツモマブおよびイブリツモマブが米国食品医薬品局に提出されている。これら抗体は放射性同位体と複合体化される。アレムツズマブ(キャンパス)が慢性リンパ性白血病の治療に使用され;ゲムツズマブ(マイロターグ)が急性骨髄性白血病の治療に有用性が見出され;イブリツモマブ(ゼヴァリン)が非ホジキンリンパ腫の治療に有用性が見出され;パニツムマブ(ベクティビックス)が結腸がんの治療に有用性が見出されている。
【0068】
血管新生阻害剤も、本発明の組成物と組み合わせる(またはそれに含ませる)ことができる。
【0069】
他の一態様において、本発明の細胞組成物は、有効量の免疫チェックポイント調節剤、特に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)と組み合わされる(またはそれを含む)。
【0070】
「免疫チェックポイント阻害剤」(ICI)は、抗PD1抗体(例えばニボルマブまたはぺムブロリズマブまたはピディリズマブ)、抗PD-L1抗体(例えばアテゾリズマブまたはドュルバルマブ)、抗CTLA-4抗体(例えばイピリムマブまたはトレメリムマブ)、および抗PD-L2抗体を包含する。
【0071】
前記活性物質と本発明の医薬組成物との「併用投与」とは、該組換え細胞を用いる投与が、該活性物質と本発明の組成物の両方が処置効果を発揮しうるような時点で行われることを意味する。そのような併用投与は、本発明の調製物の投与に対して前記活性物質を、同時に(すなわち同じ時点で)、先に、または後から投与することを含みうる。当業者は、特定の薬剤と本発明の組成物の投与の、適当なタイミング、順序および用量を、困難なく決定しうる。
【0072】
得られたp21発現単球を含む本発明の細胞組成物の、それを必要とする対象におけるインビボ送達が、がん、特に白血病の簡単かつ有効な処置方法として本書において提案される。
【0073】
通常、前記対象はヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ等のペット、ウサギ、マウス、ラット等の実験動物等も処置されうる。
【0074】
したがって、本書において「それを必要とする対象」とは、がんを患う哺乳動物、好ましくはヒトを意味する。がんは、液体または固形がんであることができ、例えば原発または転移がんとしての、リンパ腫、白血病、がん腫、黒色腫、膠芽腫、肉腫、骨髄腫、結腸直腸腫瘍等であるが、それに限定されない。特定の一態様において、前記「それを必要とする対象」は、白血病を患うヒトまたは他の哺乳動物である。
【0075】
本発明は、本発明の細胞組成物を必要とする前記対象に、注入、好ましくは静脈内注入により投与する処置方法を包含する。全身的な注入は、灌流によって行うこともできる。そのような注入は処置対象にとり無害である。本発明の細胞組成物の静脈内投与により、インビボで対象の血液中に存在する腫瘍細胞の貪食を向上することができ、それによって対象における腫瘍細胞量を減少することができる。
【0076】
本発明のある特定の処置方法は、
1.単球もしくはその前駆体または多能性幹細胞を、血液、骨髄もしくは臍帯から、それを必要とする対象から、または健常ドナーから、取り出し単離すること;
2.上記細胞を、単球集団を取得/単離するために培養すること;
3.該細胞を上記に規定される組換え核酸で形質転換すること;
4.場合により、それにより得られた細胞を包装および/または貯蔵すること;そしてその後、
5.それを患者に投与すること
を含む。
【0077】
本発明の処置は、LAK、TILまたはNK(ナチュラルキラー)による他の養子免疫療法の処置と比較して、例えば細胞により放出される傷害性メディエーターが無いこと、細胞傷害性についてエフェクターと標的細胞との比が他の処置の場合よりも小さいこと、および有害な副作用をもたらすIL-2といったサイトカインの同時注入を要しないこと、といった多くの利点をもたらす。さらに、本発明の処置は前記に説明したように、限定され制御された細胞集団のみを感染させることを可能にし、感染多重度(細胞当たりのウイルス粒子数)の選択を可能にし、血液循環から組織への不可逆的な到達を可能にし、抗腫瘍および抗感染活性と免疫系刺激または調節活性との両面から、身体におけるマクロファージの中心的役割の利用を可能にする。さらに、PrCRマクロファージの炎症促進リプログラミングは、自然および適応抗がん免疫反応を向上し、それによって持続的な抗腫瘍増殖微小環境を確立する。さらに、マクロファージが非常に長寿命であることから、患者への処置を繰り返す必要を無くすことができる。
【0078】
したがって、本発明は、患者に対するダメージをより小さくし、費用をより抑え、再現性をより高めて、より効果的な処置を行う新たな可能性を提供する。
【0079】
本書において、「処置する」、「処置」等の用語は、疾患(例えば白血病)の症状および/またはそれに付随する症状を軽減または改善することをいう。疾患または状態を処置することは、該疾患、状態、またはそれに付随する症状が完全に解消されることを、除外するものではないが必要としないと理解されうる。
【0080】
本発明の処置剤の、例えばがん処置のための有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の医療処置、および処置が予防処置であるか治療処置であるか、を包含する多くの異なる因子によって変わる。処置用量は、安全性および有効性を最適化するために漸増することができる。
【0081】
予防適用のためには、医薬組成物または薬剤は、疾患に罹り易いまたは疾患のリスクのある患者に、疾患の生化学的、組織学的および/または行動学的症状、疾患の合併症、および疾患発症過程で現れる中間的な病理学的表現型を包含する疾患の、リスクを排除もしくは低減する、重篤度を低下する、または発症を遅延するのに十分な量で投与される。そのような予防適用において、比較液低い用量が長期間にわたり比較的長い時間間隔で投与されうる。患者によっては、処置を生涯にわたり受け続ける
【0082】
一方、治療適用においてはしばしば、疾患進行が軽減または終結するまで、好ましくは患者が疾患症状の部分または完全寛解を示すまで、比較的高い用量(50×10単球/注入用量/患者)が比較的短い時間間隔(典型的には週毎)で投与される必要がある。
例えば、本開示は下記の実施態様を提供する。
[1]
サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21タンパク質をコードするベクターを含む遺伝子改変された単球、および薬学的に許容しうる賦形剤、を含む医薬組成物。
[2]
前記単球が、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21をその発現を可能にする調節エレメントの制御下にコードする複製欠損組換えウイルスを含む、前記1に記載の医薬組成物。
[3]
前記ウイルスが複製欠損レンチウイルスである、前記2に記載の医薬組成物。
[4]
前記複製欠損レンチウイルスが、HIV-1ベースの自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクターである、前記3に記載の医薬組成物。
[5]
静脈内注入可能な形態または灌流形態に製剤化されている、前記1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]
形質導入された単球を1mL当たり30×10~10個含む、前記1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]
前記単球が、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21をその発現を可能にする調節エレメントの制御下にコードするSleeping Beautyトランスポゾン系を含む、前記1に記載の医薬組成物。
[8]
前記p21タンパク質が、配列番号2またはその機能的バリアントもしくはフラグメントである、前記1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]
前記ウイルスまたは前記トランスポゾン系が、配列番号5の核酸を、好ましくはSFFVプロモーターの制御下に含む、前記2~8のいずれかに記載の医薬組成物。
[10]
患者のヘマトクリットを高める薬剤、化学療法剤、細胞特異的抗体、または免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を有効量でさらに含む、前記1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]
リンパ系もしくは骨髄系のがんまたは固形がん、好ましくは白血病を患う哺乳動物の処置のための使用用である、前記1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]
1回の注入用量当たり50×10個の単球を含み、疾患の進行が軽減されるまで毎週投与される、前記11に記載の使用用の医薬組成物。
[13]
前記哺乳動物がヒトである、前記11または12に記載の使用用の医薬組成物。
[14]
前記1~9のいずれかに記載の医薬組成物と、有効量のヘマトクリットを高める薬剤、化学療法剤、細胞特異的抗体、または免疫チェックポイント阻害剤(ICI)とを、リンパ系もしくは骨髄系のがんまたは固形がんを患う哺乳動物の処置のための同時または連続的な使用のために含む、組み合わせ製品。
[15]
前記哺乳動物がヒトである、前記14に記載の組み合わせ製品。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1図1は、p21依存PrCRが、マクロファージの炎症促進リプログラミングを誘導すること(図1a~k)、および白血病の軽減を促進すること(図1l~r)を示す。
図2図2は、p21がSIRPa調節を介してマクロファージのプログラムされた細胞除去および白血病軽減をもたらすことを示し(図2aおよび2b)、p21が白血病軽減を促進することを確認する(図2cおよび2d)。
【実施例
【0084】
以下の実施例は、限定のためのものではなく、マクロファージにp21タンパク質発現導入することが可能であること、それがインビボで治療的価値を持つことを説明するためのものである。
【0085】
1.材料および方法
白血病細胞株との初代マクロファージの培養
バフィーコート由来の単球のマクロファージへの分化によって、単球由来マクロファージ(MDM)を得た。健常ドナー由来のバフィーコートを、フランス法にしたがうEFS-INSERM Conventionの一部としてのフランス血液バンク(Etablissement Francais du sang (EFS))を介して入手した。最初にプラスチックへの付着によって末梢血単核細胞(PBMC)から単球を分離し、その後疎水性テフロン皿(Lumox; Duthsher)において、15%の熱非働化ヒト血清ABを含むマクロファージ培地(200mM L-グルタミン、100Uペニシリン、100μgストレプトマイシン、10mM HEPES、10mMピルビン酸ナトリウム、50μM β-メルカプトエタノール、1%最小必須培地ビタミン、1%非必須アミノ酸を補充したRPMI1640)中で6~7日間培養した。その後、MDMを採取し、10%の熱非働性ウシ胎児血清(FBS)を含むマクロファージ培地に懸濁させた。この方法で得たMDMは、フローサイトメーターによる確認で、91~96%CD14陽性で、分化マーカー(C11bおよびCD71)およびM2マクロファージ極性化マーカー(CD163およびCD206)を発現していた。MDMの純度を、CD56(NK細胞)、CD3(T細胞)およびCD20(B細胞)のネガティブ染色によっても調節した。T細胞ネガティブ選択キット(STEM CELL)を用いて、非付着PBMCフラクションから初代血液リンパ球(PBL)を単離した。この方法で得たリンパ球は、90~97%CD3発現T細胞であり、10%FBSを含むRPMI培地中で培養した。分化したMDM(0.125×10)および生白血病細胞(0.125×10)(Jurkat、MT4、CEM、THP1、HEL-5320、K562またはCD34急性骨髄性白血病芽球(CD34AML))を、それぞれセルトラッカーグリーン(CMFDA)またはレッド(CMTMR)で1時間、予め標識した。健常ドナーから得たPBLを対照として用いた。MDMおよび白血病細胞をよく洗った後、8×ウェルチャンバースライドにおいて、10%FBSを補充したマクロファージ培地中で、ZVAD-fmk汎カスパーゼ阻害剤(100μM)の存在下または不存在下に250μlの総体積で8時間、共培養した。よく洗った後、マクロファージにより貪食されなかった白血病細胞を除去し、マクロファージを固定して(2%PFAによる)、共焦点顕微鏡分析を行った。PrCR+マクロファージのパーセンテージを、マクロファージ総数に対する白血病細胞(CMTMR)内在化マクロファージ(CMFDA)の数によって決定した。初代マクロファージと白血病細胞の共培養のすぐ後に、経時的なビデオ顕微鏡観察を行った。サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21についてサイレンシングされた初代マクロファージと白血病細胞の共培養を、MDMのp21サイレンシングの24時間後に行った。分化MDMのp21遺伝子サイレンシングは、Dharmaconから入手したon-target plus siRNA p21 n.12(配列番号6:5’ AGA CCA GCA UGA CAG AUU U 3’)である、50nMの、p21遺伝子に対するsiRNA(siRNA p21)のトランスフェクションによった。siRNAのトランスフェクションは、INTERFERinキット(Polyplus Transfection)を使用して行った。対照MDMには、等量のon-target plus non-targeting siRNA(siCo.)(Dharmacon)を加えた。白血病細胞との共培養の時間に相当するサイレンシングから24時間の後に、MDMにおけるp21遺伝子ノックダウン効率をウエスタンブロットによって評価した。マクロファージと白血病細胞の共培養の2時間後に、フローサイトメーターによるPrCRマクロファージのソーティングと行った。ソートされたPrCRマクロファージ(CMFDACMTMR)およびPrCRマクロファージ(CMFDA)を、さらに96時間培養し、その後、スカベンジャー受容体CD163膜発現の分析(フローサイトメーターによる)、IRF5発現の分析(ウエスタンブロットによる)および細胞上清中のサイトカイン分泌の分析(サイトカインマイクロアレイプロファイリングによる)を行った。
【0086】
p21過剰発現組換えヒト初代単球
精製された初代単球(15×10)に、150μg CAp24の、SFFVpプロモーター下にp21遺伝子をコードするHIV-1ベース自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクター(AIP-p21)、およびレンチウイルス感染の骨髄抑制因子SAMHD1タンパク質の分解を誘導するためのSIVmac-VPXを含むウイルス様粒子(VLP)を導入した。対照単球には、等量のAIPベクターおよびVLP-SIV-mac-VPXを導入した。形質導入は、1時間のスピノキュレーション(1200g、22℃)、および1時間の37℃によって行った。次いで、形質導入された単球(15×10)を、Cell Trace CFSE色素で1時間標識し、よく洗った後、1Gray(1Gy)照射した雄または雌のNSGマウス(6~8週齢)にX線照射の24時間後に静脈内注入した。p21単球移植の7日後に、MT4 mCherryT細胞(1×10)を静脈内注入した。マウスの全生存を白血病移植の15日後までモニターし、その際に何匹かのマウスを殺して、骨髄中のPrCRマクロファージ(CFSEmCherry)の存在を共焦点顕微鏡でモニターした。殺したマウスの脾臓および骨髄由来のソートされたPrCRマクロファージ(CFSEmCherry)およびPrCRマクロファージ(CFSE)上のCD163膜発現をフローサイトメーター分析することによって、PrCRマクロファージの炎症促進性活性化を決定した。
【0087】
このインビボセットアップモデルについて、NSGマウスモデルにおける単球のマクロファージへの分化が、単球移植の7日後の骨髄、脾臓および血液からのCFSE細胞の精製によって、および自己インビトロ分化マクロファージに関する分化マーカー(CD71、CD163およびCD14)の発現の評価によって、確認された。分化の7日後のp21発現アップレギュレーションをウエスタンブロットにより評価するために、いくつかのAIP-p21形質導入単球を並行してインビトロで培養した。
【0088】
マウス処置実験
Gustave Roussy Instituteの動物施設において、NSGマウスを病原体不在条件下に飼育し維持した。French Institutional Animal Committeにより定められたガイドラインに従って動物実験を行った。レンチウイルスベクター形質導入およびmCherry発現についてのフローサイトメーターソーティングを経た、mCherry蛍光遺伝子を安定に発現するMT4白血病T細胞(1×10)を、雌または雄のマウス(6~8週齢)に静脈内注入した。白血病生着を、骨髄、脾臓、肝臓および血液中のmCherryMT4 T細胞の存在によって、ならびに体重減少、骨髄浸潤および顕著な脾腫により特徴付けられる疾患進行、および全生存によって、注入の4週間後まで評価した。
【0089】
SIRPa cDNAクローニング
ホモサピエンスSIRPa貪食インヒビターを発現するcDNAを、HIV-1ベース自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクター(pRRLEF1-PGK-GFP)の制限部位MlulとNhelの間にクローン化した。
hsSIRPa cDNAの配列を配列番号7に示す。
【0090】
p21およびSIRPa発現レンチウイルスベクターによる単球の形質導入
精製初代単球(10)に、100μg CAp24の、SFFVpプロモーター下にp21遺伝子をコードするHIV-1ベース自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクター(AIP-p21)、および/または100μg CAp24の、EF1プロモーター下にSIRPa遺伝子をコードするHIV-1ベース自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクター(PRRL-SIRPa)を、レンチウイルス感染の骨髄抑制因子SAMHD1タンパク質の分解を誘導するためのSIVmac-VPXを含むウイルス様粒子(VLP)の存在下に導入した。対照単球には、等量のAIPおよび/またはPRRLベクターおよびVLP-SIV-mac-VPXを導入した。形質導入は、ポリブレン(10μg/ml)の存在下に37℃で3時間行った。その後、メインの特許材料および方法について前記したように、形質導入された単球(10)をCell Trace DFSE色素で1時間標識し、よく洗ってから、1Gray照射した雄または雌のNSGマウス(6~8週齢)にX線照射の24時間後に静脈内注入し、またはインビトロでマクロファージへと分化させた。
【0091】
2.結果
本発明者は、マクロファージがPrCRを調節しうる分子メカニズムを調べた。本発明者は、広範な生きた白血病細胞(赤色蛍光セルトラッカーCMTMRで標識した)のパネルの、初代抗炎症性腫瘍促進性ヒト単球由来マクロファージ(MDM)(緑色蛍光セルトラッカーCMFDAで標識した)による貪食を評価した(図1a)。
【0092】
本発明者は共焦点顕微鏡を用いて、MIC阻害剤の不存在下、ヒト初代マクロファージと、急性Tリンパ芽球(Jurkat、CEMまたはMT4細胞、図1bおよび1c)、急性骨髄性細胞(THP1細胞、図1c)、急性巨核芽球細胞(UT-7細胞、図示せず)、赤芽球(HEL-5320、図1c)、慢性骨髄性リンパ芽球(K562細胞、図1c)、および急性骨髄性白血病患者の血液から精製された初代形質転換CD34芽球(図1d)の共培養中に、生腫瘍細胞の貪食が既に顕著に増加し、一方、自己または異種の生きた非形質転換末梢血リンパ芽球(PBL)は影響を受けなかった(図1c)ことを観察した。汎カスパーゼ阻害剤(ZVAD)は、標的細胞の貪食を低下させなかった(図1c)。これらの結果は、マクロファージがMIC阻害の不存在下にPrCRを自然にも展開しうることを示している。
【0093】
本発明者は次いで、MT4細胞は取り込まれると速やかにリソソームによって分解されることを観察した(図1eおよび1f)。本発明者は、PrCRが貪食性マクロファージの抗炎症性表現型から炎症促進性表現型への機能的リプログラミングを誘導しうることも明らかにした(細胞ソートされた貪食性「PrCR」マクロファージよる、IRF5転写因子の発現増加(図1g)、CD163スカベンジャー受容体の膜発現低下(図1h)、および炎症性サイトカイン(例えばMCP-1、SerpinおよびIL-8)の放出(図1i)によって明らかにされた)。
【0094】
本発明者はさらに、初代ヒトマクロファージにおいて過剰発現されるサイクリン依存性キナーゼインヒビターp21がPrCRのマスターレギュレーターであることを示した。これは、p21枯渇ヒト初代マクロファージによる生MT4細胞の貪食が抑制されることによって明らかにされている(図1jおよび1k)。これらの結果は全体として、p21発現が、PrCR誘導を介するマクロファージの炎症促進リプログラミングを起こさせることを示した。
【0095】
そして、p21過剰発現組換えヒト初代単球(p21EHM)の養子移植を介してPrCRを操作することの治療的処置の可能性が認識された。HTLV-1形質転換MT4細胞の移植前にNOD/SCIDマウスにp21EHMを養子移植することの生物学的効果が決定された。対照マウスは白血病を発症した(移植マウスにおける、体重減少(図1l)、骨髄浸潤(図1m)、および顕著な脾腫(図1n)によって示された)。移植マウスにCFSE標識p21EHMを移植後、そのマクロファージへの分化がインビボで観察され(図1o、一部は図示せず)、MT4貪食マクロファージの存在が移植マウスにおいて検出された:骨髄中(図1p)、肝臓中および脾臓中(図示せず)。
【0096】
また、MT4貪食マクロファージが、抗炎症性表現型から炎症促進性表現型への移行を受けることが観察された(CD163の膜発現の低下、ならびにIFNγおよびIL-1βの分泌の増加によって示された;図1q、一部は図示せず)。興味深いことに、p21EHMに基づく細胞処置は、処置マウスにおいて疾患進行の遅延をもたらし、全生存を顕著に向上した(図1r)。
【0097】
これらのデータは全体として、p21EHM養子移植が、マクロファージPrCR誘導を介して造血器腫瘍を処置する新規な処置法を表すことを示した。
【0098】
p21とプログラムされた細胞除去の間の分子的関連をさらに特徴付けるために、貪食阻害剤SIRPaの発現に対するp21発現の影響を決定した。初代ヒト単球に、p21および/またはSIRPaを発現するレンチウイルスベクターで、それぞれ対応する空の対照ベクターpCo.と組み合わせるかまたはそれを伴わずに、同時に形質導入した(pAIPおよび/またはpRRL)。単球の画分をインビトロで7日間、マクロファージへと分化させ、p21およびSIRPaの発現をウエスタンブロットによって決定した(図2a)。各条件において形質導入効率を検証した。p21の過剰発現がSIRPa発現を抑制したことが検出され、したがって、p21発現がSIRPa発現をネガティブに調節することが明らかにされた(図2a)。次いで、これら形質導入のプログラムされた細胞除去に対する影響を調べるために、形質導入マクロファージを、mCherry蛍光タンパク質を発現する白血病MT4細胞と共培養し、mCherryMT4細胞を貪食するマクロファージ(PrCRマクロファージ)の頻度を蛍光顕微鏡を用いて分析した(図2b)。p21およびSIRPaの発現増加はそれぞれ、mCherryMT4細胞の貪食を増加および低下することが観察された。さらに、p21について形質導入されたマクロファージにおけるSIRPa発現増加はこのプロセスを阻害し、したがって、p21がSIRPa発現調節を介してマクロファージのプログラムされた細胞除去を起こさせることが示された。次いで、これら調節の白血病進行に対する影響が分析された。形質導入された単球(図2aに示される)がNOD/SCIDマウスに養子移植され、1週間後にmCherryMT4細胞が注入され(図2c)、移植マウスの全生存が分析された(各群においてn=5マウス)(図2d)。P値がマンテル-コックス検定によって計算され、分析群間の統計学的有意性が明らかにされた(***p<0.001)。これらの結果は全体として、p21過剰発現単球(p21EHM)の養子移植は、マクロファージのSIRPa依存性プログラムされた細胞除去の調節を介して白血病進行を遅延しうることを確認した。
【0099】
参考文献
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
【配列表】
0007538210000001.app