(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/10 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B23H7/10 D
(21)【出願番号】P 2022510020
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021010973
(87)【国際公開番号】W WO2021193323
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020051994
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】入江 章太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大輝
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-148621(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068679(WO,A1)
【文献】特開平04-183527(JP,A)
【文献】特開平6-55359(JP,A)
【文献】特開平5-312657(JP,A)
【文献】国際公開第95/14548(WO,A1)
【文献】特許第6292731(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極(12)が巻かれたワイヤボビン(30)と、前記ワイヤボビンに巻かれた前記ワイヤ電極を回転により加工対象物(25)に向けて送る第1のローラ(32A)と、前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を回転により回収箱(24)に送る第2のローラ(32B)と、前記第1のローラを回転させる第1のモータ(38A)と、前記第2のローラを回転させる第2のモータ(38B)と、を備えるワイヤ放電加工機(10)の制御装置(16)であって、
前記第1のモータおよび前記第2のモータのうちの選択された一方である選択されたモータ(38’)の駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する取得部(58)と、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架するように前記第1のモータおよび前記第2のモータを制御する送りモータ制御部(64)と、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架しているときに前記取得部が取得する前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、張架した
前記ワイヤ電極の張力を推定する推定部(60)と、
を備え
、
前記推定部は、前記ワイヤ電極が張架しているときの前記外乱負荷と予め決められた所定の負荷との差分(D
1
)、および前記ワイヤ電極が張架しているときの前記トルク指令と、予め決められた所定のトルク指令との差分(D’
1
)の少なくとも一方に基づいて前記張力を推定する、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
前記所定の負荷は、前記第1のローラと前記第2のローラとの間で前記ワイヤ電極が撓むように前記第1のモータおよび前記第2のモータを回転させた場合における前記選択されたモータの前記外乱負荷であり、
前記所定のトルク指令は、前記第1のローラと前記第2のローラとの間で前記ワイヤ電極が撓むように前記第1のモータおよび前記第2のモータを回転させた場合における前記選択されたモータの前記トルク指令である、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項3】
請求項
1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
前記所定の負荷は、前記第1のローラと前記第2のローラとの間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極が断線した場合における前記選択されたモータの前記外乱負荷であり、
前記所定のトルク指令は、前記第1のローラと前記第2のローラとの間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極が断線した場合における前記選択されたモータの前記トルク指令である、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項4】
請求項
1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
前記ワイヤ放電加工機は、前記第2のローラと共に前記ワイヤ電極を挟持することで前記ワイヤ電極に摩擦力を印加するピンチローラ(42)をさらに備え、
前記所定の負荷は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極から前記ピンチローラを離した場合における前記選択されたモータの前記外乱負荷であり、
前記所定のトルク指令は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極から前記ピンチローラを離した場合における前記選択されたモータの前記トルク指令である、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項5】
請求項
1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
前記ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤボビンに接続され、前記ワイヤ電極を送出方向に送り出す回転方向とは反対方向のトルクである逆トルクを所定の大きさで発生させるトルク発生機構(35)をさらに備え、
前記所定の負荷は、前記第1のモータと前記第2のモータとの各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、前記トルク発生機構の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、の差分(D
2)であり、
前記所定のトルク指令は、前記第1のモータと前記第2のモータとの各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、前記トルク発生機構の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、の差分(D’
2)である、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項6】
請求項
5に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
前記外乱負荷と前記逆トルクとの相関関係である第1の相関関係および前記トルク指令と前記逆トルクとの相関関係である第2の相関関係の少なくとも一方を特定する関係特定部(68)をさらに備え、
前記関係特定部は、前記トルク発生機構の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、前記トルク発生機構の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、に基づいて前記第1の相関関係を特定し、前記トルク発生機構の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、前記トルク発生機構の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、に基づいて前記第2の相関関係を特定し、
前記推定部は、前記トルク発生機構の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、前記トルク発生機構の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータの前記外乱負荷と、の前記差分を前記第1の相関関係に基づいて推定し、前記トルク発生機構の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、前記トルク発生機構の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータの前記トルク指令と、の前記差分を前記第2の相関関係に基づいて推定する、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項7】
請求項
5または
6に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
巻回された前記ワイヤ電極を含む前記ワイヤボビンの半径(R
2)を前記ワイヤ電極の送り量に基づいて逐次算出する算出部(62)と、
算出された前記半径に応じて前記トルク発生機構の前記所定のトルクを変更することにより、前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を一定の大きさに逐次調整するトルク発生機構制御部(66)と、をさらに備える、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項8】
請求項
1~
6のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機の制御装置であって、
巻回された前記ワイヤ電極を含む前記ワイヤボビンの半径(R
2)を前記ワイヤ電極の送り量に基づいて算出し、算出した前記半径に応じた前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を逐次算出する算出部(62)をさらに備える、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項9】
ワイヤ電極(12)が巻かれたワイヤボビン(30)と、前記ワイヤボビンに巻かれた前記ワイヤ電極を回転により加工対象物(25)に向けて送る第1のローラ(32A)と、前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を回転により回収箱(24)に送る第2のローラ(32B)と、前記第1のローラを回転させる第1のモータ(38A)と、前記第2のローラを回転させる第2のモータ(38B)と、を備えるワイヤ放電加工機(10)の制御装置(16)であって、
前記第1のモータおよび前記第2のモータのうちの選択された一方である選択されたモータ(38’)の駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する取得部(58)と、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架するように前記第1のモータおよび前記第2のモータを制御する送りモータ制御部(64)と、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架しているときに前記取得部が取得する前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、張架した前記ワイヤ電極の張力を推定する推定部(60)と、
を備え、
前記取得部は、前記第1のモータの前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータの前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの2つを取得し、
前記推定部は、取得された前記第1のモータの前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータの前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの1つに基づいて前記張力を推定すると共に、取得されたもう1つに基づいて前記張力をさらに推定し、
前記ワイヤ放電加工機の制御装置は、
前記推定部が推定した2つの前記張力同士の乖離が予め決められた閾値を超えたか否かに基づくことで、異常が発生したか否かを推定する異常推定部(70)をさらに備える、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項10】
ワイヤ電極(12)が巻回されたワイヤボビン(30)と、前記ワイヤボビンに巻かれた前記ワイヤ電極を回転により加工対象物に向けて送る第1のローラ(32A)と、前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を回転により回収箱(24)に送る第2のローラ(32B)と、前記第1のローラを回転させる第1のモータ(38A)と、前記第2のローラを回転させる第2のモータ(38B)と、を備えるワイヤ放電加工機(10)について、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で張架する前記ワイヤ電極の張力を推定する推定方法であって、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架するように前記第1のモータおよび前記第2のモータを制御しつつ、前記第1のモータおよび前記第2のモータのうちの選択された一方である選択されたモータ(38’)について、駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する送りモータ制御ステップと、
前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架しているときの前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、前記張力を推定する推定ステップと、
を含
み、
前記推定ステップでは、前記ワイヤ電極が張架しているときの前記外乱負荷と予め決められた所定の負荷との差分(D
1
)、および前記ワイヤ電極が張架しているときの前記トルク指令と、予め決められた所定のトルク指令との差分(D’
1
)の少なくとも一方に基づいて前記張力を推定する、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法に関する。特に、ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を推定するワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機は、ワイヤ電極の張力を検出するテンションセンサを備えることが一般的である。テンションセンサの一例として、例えば特開2002-340711号公報には「ワイヤ電極張力センサ」が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
一般的なワイヤ放電加工機は、テンションセンサによってワイヤ電極の張力を検出している。ここで、仮に、テンションセンサなしでワイヤ電極の張力を推定することができれば、ワイヤ放電加工機の構成からテンションセンサを省略することが可能になると考えられる。また、ワイヤ放電加工機の構成からテンションセンサを省略することができれば、ワイヤ放電加工機の機械的構造の簡素化および部品の低コスト化の面で有利になると考えられる。
【0004】
そこで、本発明は、ワイヤ電極の送り機構に含まれるモータから得る情報に基づいてワイヤ電極の張力を推定するワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の一つの態様は、ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンに巻かれた前記ワイヤ電極を回転により加工対象物に向けて送る第1のローラと、前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を回転により回収箱に送る第2のローラと、前記第1のローラを回転させる第1のモータと、前記第2のローラを回転させる第2のモータと、を備えるワイヤ放電加工機の制御装置であって、前記第1のモータおよび前記第2のモータのうちの選択された一方である選択されたモータの駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する取得部と、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架するように前記第1のモータおよび前記第2のモータを制御する送りモータ制御部と、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架しているときに前記取得部が取得する前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、張架したワイヤ電極の張力を推定する推定部と、を備える。
【0006】
本発明のもう一つの態様は、ワイヤ電極が巻回されたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンに巻かれた前記ワイヤ電極を回転により加工対象物に向けて送る第1のローラと、前記加工対象物を通過した前記ワイヤ電極を回転により回収箱に送る第2のローラと、前記第1のローラを回転させる第1のモータと、前記第2のローラを回転させる第2のモータと、を備えるワイヤ放電加工機について、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で張架する前記ワイヤ電極の張力を推定する推定方法であって、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架するように前記第1のモータおよび前記第2のモータを制御しつつ、前記第1のモータおよび前記第2のモータのうちの選択された一方である選択されたモータについて、駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する送りモータ制御ステップと、前記第1のローラおよび前記第2のローラの間で前記ワイヤ電極が張架しているときの前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、前記張力を推定する推定ステップと、を含む。
【0007】
本発明の態様によれば、ワイヤ電極の送り機構に含まれるモータから得る情報に基づいてワイヤ電極の張力を推定するワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態のワイヤ放電加工機の全体構成図である。
【
図2】実施の形態のワイヤ放電加工機が備えるワイヤ電極の送り機構の簡易構成図である。
【
図3】実施の形態のワイヤ放電加工機の制御装置の簡易構成図である。
【
図4】ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンの簡易構成図である。
【
図5】実施の形態の推定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第1のモータの外乱負荷と、トルク発生機構が発生するトルクと、の相関関係を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のワイヤ放電加工機の制御装置および推定方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。ただし、既知の事項については、その説明を割愛することがある。
【0010】
[実施の形態]
図1は、実施の形態のワイヤ放電加工機10の全体構成図である。
図1のうち、矢印で示されたX方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。
【0011】
ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12と加工対象物25との間(極間)に放電を発生させることで加工対象物25に放電加工を施す工作機械である。
【0012】
本実施の形態のワイヤ放電加工機10は、加工機本体14と、制御装置16と、を備える。加工機本体14は、ワイヤ電極12による放電加工を実行する機械である。制御装置16は、一般には数値制御装置とも称される、加工機本体14を制御する装置であって、本実施の形態では特に、ワイヤ電極12の張力を推定するものである。
【0013】
これらのうち、加工機本体14は、加工槽18と、支持台20と、送り機構22と、回収箱24と、を備える。加工槽18は、加工液を貯留する槽である。加工液は、誘電性を有する液体であって、それは例えば脱イオン水である。支持台20は、加工槽18内に配置されることで加工液に浸漬される台座であって、X方向およびY方向に延在する面を有する。支持台20は、この面により加工対象物25を加工液中で支持する。
【0014】
支持台20に関連し、ワイヤ放電加工機10は、支持台20をX方向、Y方向、およびZ方向に沿って移動させる支持台移動機構をさらに備えてもよい。支持台移動機構は、本実施の形態では詳細な説明を割愛するが、それは例えば複数のサーボモータを含んで構成される。
【0015】
送り機構22は、支持台20に支持された加工対象物25をワイヤ電極12が通過するように、送出方向に沿ってワイヤ電極12を送る機構である。また、回収箱24は、加工対象物25を通過したワイヤ電極12を収容するものである。なお、「送出方向」とは、以下で追って説明するワイヤボビン30から見て第1のローラ32Aに向かう方向であり、第1のローラ32Aから見て第2のローラ32Bに向かう方向であり、第2のローラ32Bから見て回収箱24に向かう方向である。
【0016】
図2は、実施の形態のワイヤ放電加工機10が備えるワイヤ電極12の送り機構22の簡易構成図である。
【0017】
送り機構22について、さらに説明する。送り機構22は、ワイヤ電極12を加工対象物25に向かって送る供給系統26と、加工対象物25を通過したワイヤ電極12を回収箱24に向かって送る回収系統28と、を有する。
【0018】
供給系統26は、ワイヤボビン30と、第1のローラ32Aと、第1のダイスガイド34Aと、トルク発生機構35と、第1のモータ38Aと、を備える。ワイヤボビン30は、回転可能なボビンであって、ワイヤ電極12が引き出し可能に巻かれている。第1のローラ32Aは、ワイヤボビン30から引き出されるワイヤ電極12が架け渡される回転可能なローラである。第1のダイスガイド34Aは、ワイヤ電極12を第1のローラ32Aから加工対象物25の方へと案内するダイスガイドであって、加工槽18内に配置される。第1のモータ38Aは、第1のローラ32Aを自己の回転軸と一体的に回転させるモータであって、それは例えば第1のローラ32Aに接続されるサーボモータである。
【0019】
トルク発生機構35は、本実施の形態において「逆トルク」と称するトルクを所定の大きさで発生させると共に、該トルクをワイヤボビン30に印加する機構である。ここで、逆トルクとは、ワイヤ電極12を送出方向に沿って送る回転方向とは反対方向のトルクのことである。本実施の形態のトルク発生機構35は、トルクモータ36を有しており、該トルクモータ36によって上記の逆トルクを所定の大きさでワイヤボビン30に印加する。なお、トルク発生機構35の構成は、所定の大きさの逆トルクを発生可能な構成であれば、トルクモータ36を有する構成に限定されない。
【0020】
第1のモータ38Aには、不図示のエンコーダが設けられる。これにより、第1のモータ38Aについて、回転軸の回転速度を検出することができる。なお、以下では、「第1のモータ38Aの回転軸の回転」を指して、単に「第1のモータ38Aの回転」とも記載する。
【0021】
以上が、供給系統26の構成である。なお、供給系統26は、
図2のように、ワイヤボビン30と第1のローラ32Aとの間においてワイヤ電極12が架け渡されるローラである補助ローラ40をさらに備えてもよい。供給系統26に備わる補助ローラ40の数は1つでもよいし、複数でもよい。また、供給系統26は、
図1のX-Y平面に平行な方向に沿って第1のダイスガイド34Aを移動させる不図示の第1のダイスガイド移動機構を備えてもよい。第1のダイスガイド移動機構は、本実施の形態では詳細な説明を割愛するが、それは例えばサーボモータを含んで構成される。
【0022】
続いて、送り機構22の回収系統28の構成を説明する。回収系統28は、第2のダイスガイド34Bと、第2のローラ32Bと、第3のローラ42と、第2のモータ38Bと、を備える。第2のダイスガイド34Bは、加工対象物25を通過したワイヤ電極12を案内するダイスガイドであって、加工槽18内に配置される。また、第2のローラ32Bおよび第3のローラ42は、第2のダイスガイド34Bを通過したワイヤ電極12を挟持し合う回転可能なローラである。これらのうち、第3のローラ42は、一般にはピンチローラとも称されるローラであって、挟持とその解除とを行うために、第2のローラ32Bに対して離接可能に設けられる。第2のモータ38Bは、本実施の形態ではサーボモータである。第2のモータ38Bの回転軸は、第2のローラ32Bに接続される。これにより、第2のモータ38Bに駆動電流を供給したとき、第2のモータ38Bの回転軸と第2のローラ32Bとが一体的に回転するようになる。
【0023】
第2のモータ38Bには、第1のモータ38Aと同様に、エンコーダが設けられる。第2のモータ38Bに設けたエンコーダにより、第2のモータ38Bの回転軸の回転速度が検出される。なお、以下では、第1のモータ38Aおよびトルクモータ36と同様に、「第2のモータ38Bの回転軸の回転」を指して、単に「第2のモータ38Bの回転」とも記載する。
【0024】
以上が、回収系統28の構成である。なお、回収系統28は、供給系統26と同様に、1以上の補助ローラ40をさらに備えてもよい。回収系統28に備わる補助ローラ40は、例えば第2のダイスガイド34Bと第2のローラ32B(第3のローラ42)との間に設けられ、ワイヤ電極12が架け渡される。また、回収系統28は、
図1のX-Y平面に平行な方向に沿って第2のダイスガイド34Bを移動させる不図示の第2のダイスガイド移動機構を備えてもよい。第2のダイスガイド移動機構は、前述の第1のダイスガイド移動機構と同様に、例えばサーボモータを含んで構成される。
【0025】
図3は、本実施の形態のワイヤ放電加工機10の制御装置16の簡易構成図である。
【0026】
続いて、ワイヤ放電加工機10の制御装置16の構成について説明する。制御装置16は、記憶部44と、表示部46と、操作部48と、アンプ50と、演算部52と、を備える。記憶部44は、情報を記憶するものであって、それは例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のハードウェアにより構成される。本実施の形態の記憶部44には、送り機構22を制御するための所定のプログラム54が予め記憶される。表示部46は、情報を表示するものであって、それは例えば液晶画面を備えたディスプレイ装置である。操作部48は、制御装置16に情報(指示)を入力するためにオペレータが操作するものであって、それは例えばキーボード、マウス、あるいは表示部46の画面(液晶画面)に取り付けられるタッチパネルにより構成される。
【0027】
アンプ50は、本実施の形態ではサーボアンプであって、第1のアンプ50Aと、第2のアンプ50Bと、第3のアンプ50Cと、を有する。これらのうち、第1のアンプ50Aおよび第2のアンプ50Bは、詳しくは後述する演算部52から出される指令に基づいて第1のモータ38Aおよび第2のモータ38Bをフィードバック制御するものである。また、第3のアンプ50Cは、演算部52から出される指令に基づいてトルクモータ36をフィードバック制御するものである。
【0028】
演算部52は、情報を演算により処理するものであって、それは例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアにより構成される。この演算部52は、モータ制御部56と、取得部58と、推定部60と、算出部62と、を備える。これらの各部は、演算部52が所定のプログラム54を実行することにより実現される。
【0029】
以下、演算部52が備える各部について、順を追って説明する。なお、以下において、前述の第1のモータ38Aと第2のモータ38Bとを特に区別せずに説明するときは、両者を指して単に「送りモータ38」とも記載する。同様に、第1のローラ32Aと第2のローラ32Bとを特に区別せずに説明するときは、両者を指して単に「送りローラ32」とも記載する。
【0030】
モータ制御部56は、アンプ50を介して送りモータ38およびトルクモータ36の各々を制御するものであって、以下で説明する送りモータ制御部64と、トルクモータ制御部(トルク発生機構制御部)66と、を有する。
【0031】
送りモータ制御部64は、送りモータ38とトルクモータ36とのうち、送りモータ38を制御するものである。送りモータ制御部64は、送りモータ38を予め決められた回転速度で回転させるために、第1のアンプ50Aおよび第2のアンプ50Bに対して指令を出す。以下、この指令により示される回転速度を「指令速度」とも称する。
【0032】
送りモータ制御部64は、第1のアンプ50Aに対しては第1のモータ38Aの指令速度(第1の指令速度)を指令し、第2のアンプ50Bに対しては第2のモータ38Bの指令速度(第2の指令速度)を指令する。第1の指令速度と第2の指令速度とでは、第2の指令速度の方が高速である。したがって、2つの送りモータ38の各々が指令速度で回転するとき、ワイヤ電極12は、第1のローラ32Aの方から第2のローラ32Bおよび第3のローラ42の方に引っ張られ、第1のローラ32Aと第2のローラ32Bとの間で張架する。
【0033】
ただし、第1のローラ32Aと第2のローラ32Bとにワイヤ電極12が架け渡された状態では、第2のモータ38Bの回転速度に連れられて第1のモータ38Aの回転速度が第1の指令速度を超えてしまうおそれがある。また、第1のモータ38Aの回転速度に連れられて第2のモータ38Bの回転速度が第2の指令速度未満になってしまうおそれがある。そこで、送りモータ制御部64は、第1のアンプ50Aおよび第2のアンプ50Bに対して、第1のモータ38Aおよび第2のモータ38Bに発生させるトルクを示す指令を出す。以下、この指令、あるいはこの指令により示されるトルクを「トルク指令」とも称する。
【0034】
送りモータ制御部64は、第1のアンプ50Aに対しては、ワイヤ電極12を送出方向に沿って送る回転方向とは反対方向のトルク(逆トルク)を示すトルク指令を出す。これにより、第1のアンプ50Aは、指令された逆トルクを第1のモータ38Aに発生させ、第1のモータ38Aの回転速度を第1の指令速度まで減速させることができる。また、送りモータ制御部64は、第2のアンプ50Bに対しては、ワイヤ電極12を送出方向に沿って送る回転方向のトルク(以下、便宜的に「順トルク」とも称する)を示すトルク指令を出す。これにより、第2のアンプ50Bは、指令された順トルクを第2のモータ38Bに発生させ、第2のモータ38Bの回転速度を第2の指令速度まで上昇させることができる。
【0035】
トルクモータ制御部66は、第3のアンプ50Cに対して所定の大きさの逆トルクを示すトルク指令を出すものである。所定の大きさは、演算部52に備わる他の各部が、あるいは操作部48を操作することでオペレータが、指定および変更可能である。以下、「所定の大きさの逆トルク」を、単に「所定の逆トルク」とも称する。トルクモータ制御部66から出されるトルク指令により、第3のアンプ50Cは、所定の逆トルクをトルクモータ36に発生させ、送りモータ38の回転に連れられてワイヤボビン30からワイヤ電極12が送出され過ぎてしまうことを防止することができる。
【0036】
次に、取得部58について説明する。取得部58は、本実施の形態では2つある送りモータ38のうちの一方である選択されたモータ38’の駆動電流に基づく外乱負荷をアンプ50から取得するものである。選択されたモータ38’は、ワイヤ放電加工機10のメーカーによって出荷段階までに選択されてもよいし、オペレータによってワイヤ放電加工機10を使用するときに適宜選択されてもよい。
【0037】
また、外乱負荷とは、選択されたモータ38’が外乱の影響を受けていない場合において指令速度で回転するときの駆動電流と、選択されたモータ38’が外乱の影響を受けている場合において指令速度で回転するときの駆動電流と、の差分である。
【0038】
例えば、第1のモータ38Aの回転速度が外乱によって第1の指令速度から乖離したとする。ここでの外乱としては、トルクモータ36の逆トルクによって第1のモータ38Aが受ける力、ワイヤ電極12の張力、および第3のローラ42がワイヤ電極12に印加する摩擦力がある。この場合には、前述の通り第1のアンプ50Aがトルク指令に基づいて駆動電流を調整する。第1のモータ38Aの外乱負荷は、その調整後の駆動電流に基づいて求まるものである。
【0039】
また、例えば、第2のモータ38Bの回転速度が外乱によって第2の指令速度から乖離したとする。ここでの外乱としては、トルクモータ36の逆トルクによって第2のモータ38Bが受ける力、ワイヤ電極12の張力、および第3のローラ42がワイヤ電極12に印加する摩擦力がある。この場合には、前述の通り第2のアンプ50Bがトルク指令に基づいて駆動電流を調整する。第2のモータ38Bの外乱負荷は、その調整後の駆動電流に基づいて求まるものである。
【0040】
推定部60は、ワイヤ電極12が張架しているときに取得部58が取得した外乱負荷に基づいて、ワイヤ電極12の張力を推定するものである。より具体的に、本実施の形態の推定部60は、2つの送りローラ32の間でワイヤ電極12が送られながら張架しているときの外乱負荷と、予め決められた所定の負荷と、の差分D1に基づいて張力を推定する。
【0041】
所定の負荷は、2つの送りローラ32の間のワイヤ電極12の張力がゼロになった場合における選択されたモータ38’の外乱負荷である。それは例えば、送りモータ38の回転速度を制御することによって第1のローラ32Aと第2のローラ32Bとの間でワイヤ電極12を撓ませたときに取得することができる。なお、所定の負荷は、ワイヤ電極12を撓ませたときに限定されず、第1のローラ32Aと第2のローラ32Bとの間で張架しつつ送られているワイヤ電極12が断線したときにも取得することができる。また、第2のローラ32Bと第3のローラ42とによるワイヤ電極12の挟持を解除したときにも取得することができる。
【0042】
すなわち、所定の負荷は、選択されたモータ38’が受ける外乱のうちの、ワイヤ電極12の張力以外の外乱により生じた外乱負荷の大きさを示すものである。そして、この外乱負荷を所定の外乱負荷として求まる差分D1は、ワイヤ電極12の張力のみにより生じる外乱負荷の大きさを示すものである。したがって、差分D1を求めることで、推定部60は、ワイヤ電極12の張力の大きさを容易且つ精度よく推定することができる。
【0043】
図4は、ワイヤ電極12が巻かれたワイヤボビン30の簡易構成図である。なお、
図2は、
図4の図中左側からの視点である。
【0044】
次に、算出部62について説明する。算出部62は、巻回されたワイヤ電極12を含むワイヤボビン30の半径R
2をワイヤ電極12の送り量に基づいて算出するものである。より具体的に、本実施の形態の算出部62は、以下の式(1)により逐次算出するものである。なお、以下において、R
1は半径R
2の初期値、φはワイヤ電極12のワイヤ径、Wはワイヤボビン30から送り済のワイヤ電極12のワイヤ長(前述の送り量)である。また、aはワイヤボビン30に巻かれたワイヤ電極12の空隙率であって、ワイヤ電極12の線間やワイヤ電極12とワイヤボビン30との間に生じる隙間を含めたワイヤ電極12の総体積に対する、該隙間の体積割合である。Lはワイヤボビン30の径方向と直交する幅である。これらのうち、R
1、φ、a、およびLは既知の値であり、オペレータが操作部48を介して予め指定可能である。R
1については、ワイヤ電極12の張力をゼロにすることで得た所定の負荷(F
M)、およびそのときの逆トルク(T
35)を後述の式(2)に代入することで求めてもよい。また、Wはワイヤボビン30の回転数から間接的に算出可能であるほか、第1のモータ38Aの回転数と第1のローラ32Aの径とから、あるいは第2のモータ38Bの回転数と第2のローラ32Bの径とから、算出可能である。式(1)は、端的に説明すると、ワイヤ電極12の送り出しに伴ってワイヤボビン30の半径R
2が徐々に小さくなっていくことを示している。
【数1】
【0045】
この式(1)により求まるワイヤボビン30の半径R
2は、トルク発生機構35の逆トルク(T
35)と、ワイヤ電極12の張力以外の外乱によって生じる外乱負荷(F
M)と、の間に、以下の式(2)により表される関係を有する。
【数2】
【0046】
式(2)は、仮にトルク発生機構35の逆トルクの大きさを一定とすると、張力以外の外乱によって生じる外乱負荷の大きさが半径R2の変化に応じて変化してしまい、所定の負荷と乖離するおそれがあることを示している。そこで、本実施の形態では、張力以外の外乱によって生じる外乱負荷がワイヤボビン30の半径R2に関わらず所定の負荷に一致するように、式(2)に基づいてトルク発生機構35の逆トルクの大きさを調整する。本実施の形態ではトルク発生機構35のトルクモータ36を制御することにより、逆トルクの大きさを容易且つ精度よく調整可能である。
【0047】
具体的に、本実施の形態では、算出部62が式(1)に基づいてワイヤボビン30の半径R2を算出し、さらに式(2)に基づいて該半径R2と所定の負荷とに応じた逆トルクの大きさを算出する。また、算出部62は、算出した逆トルクをトルクモータ制御部66に逐次通知する。トルクモータ制御部66は、通知された逆トルクに基づいて、トルク発生機構35のトルクモータ36を制御する。これにより、推定部60が推定に用いる所定の負荷と、張力以外の外乱によって生じる外乱負荷と、が乖離することを抑制することができる。
【0048】
以上が、本実施の形態の制御装置16の構成の一例である。続いて、上記の制御装置16により実行される、ワイヤ電極12の張力を推定する推定方法について説明する。
【0049】
図5は、本実施の形態の推定方法の流れを示すフローチャートである。
【0050】
本実施の形態の推定方法では、
図5のように、まず、送りモータ制御ステップが行われる。送りモータ制御ステップは、第1のローラ32Aおよび第2のローラ32Bの間でワイヤ電極12が張架するように第1のモータ38Aおよび第2のモータ38Bを制御しつつ、選択されたモータ38’の駆動電流に基づく外乱負荷を取得するステップである。本ステップは、送りモータ制御部64と、取得部58と、が協働することにより実行可能である。
【0051】
また、実施の形態の推定方法では、算出ステップと、トルクモータ制御ステップ(トルク発生機構制御ステップ)と、がさらに行われる。これらのうち、算出ステップは、ワイヤボビン30の半径R2、および該半径R2に応じたトルク発生機構35の逆トルクの大きさを、ワイヤ電極12の送り量Wに基づいて逐次算出するステップである。本ステップは、算出部62により実行される。
【0052】
トルクモータ制御ステップ(トルク発生機構制御ステップ)は、算出ステップでの算出結果に基づいてトルクモータ36(トルク発生機構35)の逆トルクを逐次調整するステップである。本ステップは、算出部62が算出ステップで行った算出の結果をトルクモータ制御部66に通知することで、トルクモータ制御部66により実行される。本ステップにより、第1のモータ38Aの外乱負荷のうちの張力以外の外乱により生じる外乱負荷の大きさが、所定の負荷になるように逐次調整される。
【0053】
推定ステップは、取得した外乱負荷に基づいてワイヤ電極12の張力を推定するステップである。本ステップは、推定部60により実行される。本実施の形態の推定部60は、前述の通り、外乱負荷と、所定の負荷と、の差分D1に基づいて張力を推定する。
【0054】
制御装置16は、以上の推定方法を実行することにより、ワイヤ電極12の張力を容易に推定することができる。また、推定された張力が精度のよい放電加工を実施するために必要な張力に対して許容範囲を超えて乖離した場合には、ワイヤ電極12の張架に関して異常が発生したと判断することもできる。
【0055】
このように、本実施の形態によれば、ワイヤ電極12の送り機構22に含まれる送りモータ38から得る情報に基づいてワイヤ電極12の張力を推定するワイヤ放電加工機10の制御装置16および推定方法が提供される。
【0056】
本実施の形態の制御装置16によれば、ワイヤ電極12の張力を検出するテンションセンサをワイヤ放電加工機10に備わせる必要がなくなる。したがって、本実施の形態の制御装置16によれば、ワイヤ放電加工機10の機械的構造の簡素化、小型化、および部品の低コスト化において、テンションセンサを構成から省略できる分だけ有利になる。
【0057】
[変形例]
以上、本発明の一例として実施の形態が説明された。上記実施の形態には、多様な変更または改良を加えることが可能である。また、その様な変更または改良を加えた形態が本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、請求の範囲の記載から明らかである。
【0058】
(変形例1)
実施の形態で説明した制御装置16および推定方法は、送りモータ38の外乱負荷に基づいて張力を推定するものであった。これに限定されず、制御装置16および推定方法は、外乱負荷ではなくトルク指令に基づいてワイヤ電極12の張力を推定するものであってもよい。
【0059】
すなわち、推定部60は、選択されたモータ38’の、ワイヤ電極12が張架しているときのトルク指令と、予め決められた所定のトルク指令と、の差分D’1に基づいて、張力を推定してもよい。所定のトルク指令は、ワイヤ電極12が撓んだとき、断線したとき、または第3のローラ42をワイヤ電極12から離した場合における、選択されたモータ38’のトルク指令である。
【0060】
ワイヤ電極12の張力は、差分D’1が大きいほど大きい。したがって、本変形例によれば、差分D’1の変化から、ワイヤ電極12の張力の変化を推定することができる。
【0061】
(変形例2)
所定の負荷は、送りモータ38の回転速度が一定の場合の、トルク発生機構35の逆トルクが所定の大きさのときの選択されたモータ38’の外乱負荷と、トルク発生機構35の逆トルクがゼロのときの選択されたモータ38’の外乱負荷と、の差分D2としても求まる。なお、本変形例において、「送りモータ38の回転速度が一定」とは、第1のモータ38Aの回転速度が第1の指令速度で一定であり、且つ、第2のモータ38Bの回転速度が第2の指令速度で一定であることを指す。実施の形態でも説明した通り、第1の指令速度と第2の指令速度とでは、第2の指令速度の方が高速である。
【0062】
差分D2を求める場合は、トルク発生機構35の逆トルクが所定の大きさのときの選択されたモータ38’の外乱負荷のほか、トルク発生機構35の逆トルクがゼロのときの選択されたモータ38’の外乱負荷を予め求めておく必要がある。ここで、トルク発生機構35の逆トルクがゼロのときの選択されたモータ38’の外乱負荷は、以下で説明するように、選択されたモータ38’の外乱負荷とトルク発生機構35のトルクとの相関関係(第1の相関関係)から推定することができる。
【0063】
図6は、選択されたモータ38’の外乱負荷と、トルク発生機構35のトルク(逆トルク)と、の相関関係を例示するグラフである。なお、
図6では、選択されたモータ38’が第1のモータ38Aである場合の相関関係を例示しており、トルク発生機構35が発生する逆トルクの所定の大きさを「T’
35」で示している。
【0064】
図6のように、上記の相関関係は、縦軸を外乱負荷(選択されたモータ38’の外乱負荷)とし、横軸をトルク発生機構35のトルク(逆トルク)とすることで、直線で表現することができる。
【0065】
図7は、変形例2の制御装置16の簡易構成図である。
【0066】
本変形例の制御装置16は、
図7のように、関係特定部68をさらに備えるという点で、実施の形態と相違する。この関係特定部68は、前述の相関関係(
図6の直線)を特定するものである。より具体的に、関係特定部68は、まず相関関係を示す直線の傾きを求めてから、その傾きに基づいて
図6の直線を特定することにより、相関関係を特定する。
【0067】
直線の傾きを求めるために、関係特定部68は、トルク発生機構制御部(トルクモータ制御部)66に対して、第1の大きさの逆トルクをトルク発生機構35(トルクモータ36)により発生させることを指令する。また、関係特定部68は、取得部58に対して、そのときの選択されたモータ38’の外乱負荷を取得することを指令する。なお、このときの逆トルクの大きさである第1の大きさは、ワイヤ電極12を送るときの所定の大きさでなくてもよいし、ゼロでなくてもよい。
【0068】
次に、関係特定部68は、トルク発生機構制御部66に対して、第2の大きさの逆トルクをトルク発生機構35により発生させることを指令する。また、関係特定部68は、取得部58に対して、そのときの選択されたモータ38’の外乱負荷を取得することを指令する。なお、このときの逆トルクの大きさである第2の大きさは、第1の大きさと異なっていればよく、ワイヤ電極12を送るときの所定の大きさでなくてもよいし、ゼロでなくてもよい。
【0069】
そして、関係特定部68は、トルク発生機構制御部66に指令した第1の大きさおよび第2の大きさと、取得部58が取得した2つの外乱負荷と、に基づいて、
図6の直線の傾きを求める。すなわち、一般によく知られているように、直線の傾きというのは、横軸の変化量に対する縦軸の変化量である。本変形例の場合、横軸の変化量は、トルク発生機構制御部66に指令した第1の大きさと第2の大きさとの差分である。また、縦軸の変化量は、トルク発生機構35の逆トルクが第1の大きさのときの選択されたモータ38’の外乱負荷と、トルク発生機構35の逆トルクが第2の大きさのときの選択されたモータ38’の外乱負荷と、の差分である。
【0070】
傾きが求まれば、相関関係を示す
図6の直線は容易に特定される。また、相関関係を示す直線が特定されれば、差分D
2は容易に求まる。推定部60は、差分D
2に基づいて所定の負荷を推定することにより、その所定の負荷に基づいて、ワイヤ電極12の張力を容易に推定することができる。
【0071】
このように、本変形例によれば、推定部60は、ワイヤ電極12を撓ませたり断線させたりすることなく求めた所定の負荷と、ワイヤ電極12が張架したときの選択されたモータ38’の外乱負荷と、に基づいて張力を推定することができる。
【0072】
(変形例3)
変形例2は、トルク指令に基づいて張力を推定する場合にも適用することができる。なお、その場合、変形例2における「外乱負荷」を「トルク指令」に、「所定の負荷」を「所定のトルク指令」に、「第1の相関関係」を「第2の相関関係」に、「差分D2」を「差分D’2」にそれぞれ置き換えて考えればよいため、ここでは説明を割愛する。
【0073】
本変形例によれば、推定部60は、ワイヤ電極12を撓ませたり断線させたりすることなく求めた所定のトルク指令と、ワイヤ電極12が張架したときの選択されたモータ38’のトルク指令と、に基づいて張力を推定することができる。
【0074】
(変形例4)
実施の形態では、ワイヤボビン30の半径R2の変化に応じてトルク発生機構35の逆トルクを調整することを説明した。これに限定されず、トルク発生機構35の逆トルクを所定の大きさで一定とし、ワイヤボビン30の半径R2の変化に応じて所定の負荷や所定のトルク指令が調整されるようにしてもよい。
【0075】
すなわち、トルク発生機構35の逆トルクが一定のときのワイヤボビン30の半径R2に応じた所定の負荷の大きさは、式(2)により逐次算出することができる。算出部62の算出結果に基づいて所定の負荷を逐次更新することにより、実施の形態と同様に、推定部60が推定に用いる所定の負荷と、張力以外の外乱によって生じる外乱負荷と、が乖離することを抑制することができる。これにより、推定部60は、所定の負荷に基づいて、ワイヤ電極12の張力を精度よく推定することができる。
【0076】
(変形例5)
ここまで、実施の形態および各変形例において、取得部58が外乱負荷およびトルク指令のいずれか一方を取得することと、取得された外乱負荷およびトルク指令のいずれか一方に基づいて推定部60が張力を推定すること、を説明した。これに限定されず、取得部58は、外乱負荷と、トルク指令と、の両方を取得してもよい。また、推定部60は、取得された外乱負荷と、トルク指令と、の各々に基づいて、張力を推定してもよい。この場合における推定の方法は、実施の形態および変形例1-4で説明した推定の方法の中から適宜選択されてもよい。
【0077】
本変形例では、外乱負荷に基づいて推定される張力と、トルク指令に基づいて推定される張力と、を得ることができる。推定部60は、推定した複数の張力の平均値を自身の推定結果として決定する。これにより、外乱負荷に基づいて推定される張力とトルク指令に基づいて推定される張力とのいずれか一方がノイズの影響を受けていたとしても、推定結果として得られる張力への該ノイズの影響を低減することが可能である。
【0078】
(変形例6)
図8は、変形例6の制御装置16の簡易構成図である。
【0079】
変形例5に関連し、制御装置16は、異常推定部70をさらに備えてもよい。異常推定部70は、外乱負荷とトルク指令とのそれぞれから張力が推定される場合に、その外乱負荷とトルク指令とのそれぞれに基づく張力同士の乖離が予め決められた範囲を超えたか否かを判定するものである。この判定により、異常推定部70は、例えば乖離が予め決められた範囲を超えた場合には、ワイヤ放電加工機10に不具合が発生した可能性があると推定する。
【0080】
これにより、張力を推定するのみならず、その推定した張力に基づいて、ワイヤ放電加工機10に不具合が発生した可能性があるか否かまでをも推定することができる。
【0081】
さらに、異常推定部70は、その乖離の推移を継続的に監視することで、乖離が予め決められた範囲を超えた原因を、さらに推定してもよい。例えば、異常推定部70は、予め決められた範囲を超えた乖離が一時的なものであれば、その乖離は単にノイズの影響によるものであると推定する。また、予め決められた範囲を超えた乖離が継続するようであれば、ワイヤ放電加工機10に故障箇所があると推定する。
【0082】
本変形例によれば、ワイヤ放電加工機10の保守が容易になる。なお、本変形例は、第1のモータ38Aと第2のモータ38Bとのうちの一方で推定した張力と、他方で推定した張力と、の乖離に基づいて異常を推定してもよい。この場合は、第1のモータ38Aと第2のモータ38Bとのうち、選択されたモータ38’ではない方の、外乱負荷およびトルク指令の少なくとも一方が必要になる。これは、選択されたモータ38’ではない方の送りモータ38の外乱負荷およびトルク指令の少なくとも一方を、取得部58にさらに取得させればよい。
【0083】
(変形例7)
上記の実施の形態および変形例は、矛盾の生じない範囲で任意に組み合わされてもよい。
【0084】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0085】
<第1の発明>
ワイヤ電極(12)が巻かれたワイヤボビン(30)と、前記ワイヤボビン(30)に巻かれた前記ワイヤ電極(12)を回転により加工対象物(25)に向けて送る第1のローラ(32A)と、前記加工対象物(25)を通過した前記ワイヤ電極(12)を回転により回収箱(24)に送る第2のローラ(32B)と、前記第1のローラ(32A)を回転させる第1のモータ(38A)と、前記第2のローラ(32B)を回転させる第2のモータ(38B)と、を備えるワイヤ放電加工機(10)の制御装置(16)であって、前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)のうちの選択された一方である選択されたモータ(38’)の駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する取得部(58)と、前記第1のローラ(32A)および前記第2のローラ(32B)の間で前記ワイヤ電極(12)が張架するように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を制御する送りモータ制御部(64)と、前記第1のローラ(32A)および前記第2のローラ(32B)の間で前記ワイヤ電極(12)が張架しているときに前記取得部(58)が取得する前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、張架したワイヤ電極(12)の張力を推定する推定部(60)と、を備える。
【0086】
これにより、ワイヤ電極(12)の送り機構(22)に含まれるモータ(38’)から得る情報に基づいてワイヤ電極(12)の張力を推定するワイヤ放電加工機(10)の制御装置(16)が提供される。
【0087】
前記推定部(60)は、前記ワイヤ電極(12)が張架しているときの前記外乱負荷と予め決められた所定の負荷との差分(D1)、および前記ワイヤ電極(12)が張架しているときの前記トルク指令と、予め決められた所定のトルク指令との差分(D’1)の少なくとも一方に基づいて前記張力を推定してもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0088】
前記所定の負荷は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で前記ワイヤ電極(12)が撓むように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を回転させた場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で前記ワイヤ電極(12)が撓むように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を回転させた場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0089】
前記所定の負荷は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)が断線した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)が断線した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0090】
ワイヤ放電加工機(10)は、前記第2のローラ(32B)と共に前記ワイヤ電極(12)を挟持することで前記ワイヤ電極(12)に摩擦力を印加するピンチローラ(42)をさらに備え、前記所定の負荷は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)から前記ピンチローラ(42)を離した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)から前記ピンチローラ(42)を離した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0091】
前記ワイヤ放電加工機(10)は、前記ワイヤボビン(30)に接続され、前記ワイヤ電極(12)を送出方向に送り出す回転方向とは反対方向のトルクである逆トルクを所定の大きさで発生させるトルク発生機構(35)をさらに備え、前記所定の負荷は、前記第1のモータ(38A)と前記第2のモータ(38B)との各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、の差分(D2)であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のモータ(38A)と前記第2のモータ(38B)との各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、の差分(D’2)であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0092】
第1の発明は、前記外乱負荷と前記逆トルクとの相関関係である第1の相関関係および前記トルク指令と前記逆トルクとの相関関係である第2の相関関係の少なくとも一方を特定する関係特定部(68)をさらに備え、前記関係特定部(68)は、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、に基づいて前記第1の相関関係を特定し、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、に基づいて前記第2の相関関係を特定し、前記推定部(60)は、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、の前記差分(D2)を前記第1の相関関係に基づいて推定し、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、の前記差分(D’2)を前記第2の相関関係に基づいて推定してもよい。これにより、ワイヤ電極(12)を撓ませる、あるいは断線させることなく、所定の負荷および所定のトルク指令を得ることができる。
【0093】
第1の発明は、巻回された前記ワイヤ電極(12)を含む前記ワイヤボビン(30)の半径(R2)を前記ワイヤ電極(12)の送り量に基づいて逐次算出する算出部(62)と、算出された前記半径(R2)に応じて前記トルク発生機構(35)の前記所定のトルクを変更することにより、前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を一定の大きさに逐次調整するトルク発生機構制御部(66)と、をさらに備えてもよい。これにより、推定部(60)は、所定の負荷および所定のトルク指令を一定に保ちながら、ワイヤ電極(12)の張力を精度よく推定し続けることができる。
【0094】
第1の発明は、巻回された前記ワイヤ電極(12)を含む前記ワイヤボビン(30)の半径(R2)を前記ワイヤ電極(12)の送り量に基づいて算出し、算出した前記半径(R2)に応じた前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を逐次算出する算出部(62)をさらに備えてもよい。これにより、推定部(60)は、トルク発生機構(35)の逆トルクを所定の大きさに保ちながら、ワイヤ電極(12)の張力を精度よく推定し続けることができる。
【0095】
前記取得部(58)は、前記第1のモータ(38A)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータ(38B)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの2つを取得し、前記推定部(60)は、取得された前記第1のモータ(38A)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータ(38B)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの1つに基づいて前記張力を推定すると共に、取得されたもう1つに基づいて前記張力をさらに推定し、第1の発明は、前記推定部(60)が推定した2つの前記張力同士の乖離が予め決められた閾値を超えたか否かに基づくことで、異常が発生したか否かを推定する異常推定部(70)をさらに備えてもよい。これにより、推定した張力に基づいて、異常が発生したか否かを推定することができる。
【0096】
<第2の発明>
ワイヤ電極(12)が巻回されたワイヤボビン(30)と、前記ワイヤボビン(30)に巻かれた前記ワイヤ電極(12)を回転により加工対象物(25)に向けて送る第1のローラ(32A)と、前記加工対象物(25)を通過した前記ワイヤ電極(12)を回転により回収箱(24)に送る第2のローラ(32B)と、前記第1のローラ(32A)を回転させる第1のモータ(38A)と、前記第2のローラ(32B)を回転させる第2のモータ(38B)と、を備えるワイヤ放電加工機(10)について、前記第1のローラ(32A)および前記第2のローラ(32B)の間で張架する前記ワイヤ電極(12)の張力を推定する推定方法であって、前記第1のローラ(32A)および前記第2のローラ(32B)の間で前記ワイヤ電極(12)が張架するように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を制御しつつ、前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)のうちの選択された一方である選択されたモータ(38’)について、駆動電流に基づく外乱負荷および予め決められた指令速度で回転させるためのトルク指令の少なくとも一方を取得する送りモータ制御ステップと、前記第1のローラ(32A)および前記第2のローラ(32B)の間で前記ワイヤ電極(12)が張架しているときの前記外乱負荷および前記トルク指令の少なくとも一方に基づいて、前記張力を推定する推定ステップと、を含む。
【0097】
これにより、ワイヤ電極(12)の送り機構(22)に含まれるモータ(38’)から得る情報に基づいてワイヤ電極(12)の張力を推定する推定方法が提供される。
【0098】
前記推定ステップでは、前記ワイヤ電極(12)が張架しているときの前記外乱負荷と予め決められた所定の負荷との差分(D1)、および前記ワイヤ電極(12)が張架しているときの前記トルク指令と、予め決められた所定のトルク指令との差分(D’1)の少なくとも一方に基づいて前記張力を推定してもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0099】
前記所定の負荷は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で前記ワイヤ電極(12)が撓むように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を回転させた場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で前記ワイヤ電極(12)が撓むように前記第1のモータ(38A)および前記第2のモータ(38B)を回転させた場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0100】
前記所定の負荷は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)が断線した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のローラ(32A)と前記第2のローラ(32B)との間で張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)が断線した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0101】
ワイヤ放電加工機(10)は、前記第2のローラ(32B)と共に前記ワイヤ電極(12)を挟持することで前記ワイヤ電極(12)に摩擦力を印加するピンチローラ(42)をさらに備え、前記所定の負荷は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)から前記ピンチローラ(42)を離した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷であり、前記所定のトルク指令は、張架しつつ送られている前記ワイヤ電極(12)から前記ピンチローラ(42)を離した場合における前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0102】
前記ワイヤ放電加工機(10)は、前記ワイヤボビン(30)に接続され、前記ワイヤ電極(12)を送出方向に送り出す回転方向とは反対方向のトルクである逆トルクを所定の大きさで発生させるトルク発生機構(35)をさらに備え、前記所定の負荷は、前記第1のモータ(38A)と前記第2のモータ(38B)との各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、の差分(D2)であり、前記所定のトルク指令は、前記第1のモータ(38A)と前記第2のモータ(38B)との各々が一定の回転速度で回転する場合において、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、の差分(D’2)であってもよい。これにより、張力が容易且つ精度よく推定される。
【0103】
第2の発明は、前記外乱負荷と前記逆トルクとの相関関係である第1の相関関係および前記トルク指令と前記逆トルクとの相関関係である第2の相関関係の少なくとも一方を特定する関係特定ステップをさらに含み、前記関係特定ステップでは、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、に基づいて前記第1の相関関係を特定し、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第1の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが第2の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、に基づいて前記第2の相関関係を特定し、前記推定ステップでは、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記外乱負荷と、の前記差分(D2)を前記第1の相関関係に基づいて推定し、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクが前記所定の大きさのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、前記トルク発生機構(35)の前記逆トルクがゼロのときの前記選択されたモータ(38’)の前記トルク指令と、の前記差分(D’2)を前記第2の相関関係に基づいて推定してもよい。これにより、ワイヤ電極(12)を撓ませる、あるいは断線させることなく、所定の負荷および所定のトルク指令を得ることができる。
【0104】
第2の発明は、巻回された前記ワイヤ電極(12)を含む前記ワイヤボビン(30)の半径(R2)を前記ワイヤ電極(12)の送り量に基づいて逐次算出する算出ステップと、算出された前記半径(R2)に応じて前記トルク発生機構(35)の前記所定のトルクを変更することにより、前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を一定の大きさに逐次調整するトルク発生機構制御ステップと、をさらに含んでもよい。これにより、推定ステップにおいて、所定の負荷および所定のトルク指令を一定に保ちながら、ワイヤ電極(12)の張力を精度よく推定し続けることができる。
【0105】
第2の発明は、巻回された前記ワイヤ電極(12)を含む前記ワイヤボビン(30)の半径(R2)を前記ワイヤ電極(12)の送り量に基づいて算出し、算出した前記半径(R2)に応じた前記所定の負荷および前記所定のトルク指令を逐次算出する算出ステップをさらに含んでもよい。これにより、推定ステップにおいて、トルク発生機構(35)の逆トルクを所定の大きさに保ちながら、ワイヤ電極(12)の張力を精度よく推定し続けることができる。
【0106】
前記送りモータ制御ステップでは、前記第1のモータ(38A)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータ(38B)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの2つを取得し、前記推定ステップでは、取得された前記第1のモータ(38A)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令、および前記第2のモータ(38B)の前記外乱負荷ならびに前記トルク指令のうちの1つに基づいて前記張力を推定すると共に、取得されたもう1つに基づいて前記張力をさらに推定し、第2の発明は、前記推定ステップで推定した2つの前記張力同士の乖離が予め決められた閾値を超えたか否かに基づくことで、異常が発生したか否かを推定する異常推定ステップをさらに含んでもよい。これにより、推定した張力に基づいて、異常が発生したか否かを推定することができる。