(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】数値制御装置、製造機械、および製造機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G05B19/18 X
(21)【出願番号】P 2022541528
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028588
(87)【国際公開番号】W WO2022030437
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020132799
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-309002(JP,A)
【文献】特開2015-197684(JP,A)
【文献】特開平06-075618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
G05B 19/04-19/05
G05B 23/00-23/02
G05B 9/00- 9/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いて製造物を製造する製造機械においてアラームの原因となる事象が発生した場合に前記製造機械を停止させるための複数の停止条件を前記製造物の製造工程および前記事象に関連付けて記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記複数の停止条件のうちの少なくとも1つの停止条件の選択を受け付ける受付部と、
前記製造物の製造中に前記事象が発生した場合に、前記受付部が受け付けた前記少なくとも1つの停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで前記製造機械の動作制御を実行する制御部と、
を備えた数値制御装置。
【請求項2】
前記動作制御は、前記製造を継続する継続制御、または前記製造物から前記工具を逃がす逃し制御のいずれかである請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの停止条件は、複数の停止条件である請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された数値制御装置を備えた製造機械。
【請求項5】
制御装置が、
工具を用いて製造物を製造する製造機械においてアラームの原因となる事象が発生した場合に前記製造機械を停止させるための、前記製造物の製造工程および前記事象に関連付けて記憶された複数の停止条件のうちの少なくとも1つの停止条件の選択を受け付けることと、
前記製造物の製造中に前記事象が発生した場合に、受け付けた前記少なくとも1つの停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで前記製造機械の動作制御を実行することと、
を含む
制御装置による製造機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置、製造機械、および製造機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造機械の運転中に異常が検出された場合、異常が検出されたことを示すアラームが発せられる。アラームが発せられると、例えば、アラームの原因となる事象の異常の度合いに応じて、製造機械の運転の停止方法が決定される。
【0003】
特許文献1には、検出された異常のレベルに応じて、工作機械の運転を即時停止するか、加工プログラムの実行中のブロックに係る動作の終了後に運転を停止するか、または加工プログラムを最後まで実行した後に運転を停止するかを決定する工作機械に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の製造機械では、発生した事象の異常の度合いに応じて製造機械の停止方法があらかじめ定められているため、機械の動作状況に合わせて適切なタイミングで運転を停止することができない場合がある。そのため、アラームが発生した場合に、機械の動作状況に合わせてより適切なタイミングで製造機械の運転を停止させる技術が望まれている。
【0006】
本発明は、アラームの原因となる事象が発生した場合に、適切なタイミングで製造機械を停止させることができる数値制御装置、製造機械、および製造機械の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
数値制御装置が、工具を用いて製造物を製造する製造機械においてアラームの原因となる事象が発生した場合に製造機械を停止させるための複数の停止条件を製造物の製造工程および事象に関連付けて記憶する記憶部と、記憶部に記憶された複数の停止条件のうちの少なくとも1つの停止条件の選択を受け付ける受付部と、製造物の製造中に事象が発生した場合に、受付部が受け付けた少なくとも1つの停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで製造機械の動作制御を実行する制御部と、を備える。
【0008】
製造機械の制御方法は、制御装置が、工具を用いて製造物を製造する製造機械においてアラームの原因となる事象が発生した場合に製造機械を停止させるための、製造物の製造工程および事象に関連付けて記憶された複数の停止条件のうちの少なくとも1つの停止条件の選択を受け付けることと、製造物の製造中に事象が発生した場合に、受け付けた少なくとも1つの停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで製造機械の動作制御を実行することと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、アラームの原因となる事象が発生した場合に、適切なタイミングで製造機械を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】製造機械のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】数値制御装置の機能の一例を示すブロック図である。
【
図4】停止条件の設定画面の表示例を示す図である。
【
図6】停止条件のさらに別の例を説明する図である。
【
図7】エンドミルによる加工中にファンの異常が発生した場合の動作制御の一例を説明する図である。
【
図8】ドリルによる穴あけ加工中にドリルが工具寿命に到達した場合の動作制御の一例を説明する図である。
【
図9】ねじ切り工具によるねじ切り加工中にクーラントの異常が発生した場合の動作制御の一例を説明する図である。
【
図10】数値制御装置において実行される動作制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図11】複数の停止条件が設定された場合の例を説明する図である。
【
図12】複数の停止条件が設定された場合の動作制御の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、製造機械のハードウェア構成の一例を示す図である。製造機械1は、工具を用いて製造物の製造を行う機械である。製造機械1は、例えば、製造物を切削加工する工作機械である。工作機械は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、複合加工機である。
【0013】
製造機械1が工作機械である場合、工具は、例えば、ドリル、エンドミル、バイト、および、ねじ切り工具である。製造機械1が工作機械である場合、製造とは切削などの機械加工を行うことである。
【0014】
製造機械1は、製造物に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機であってもよい。また、製造機械1は、製造物を積層造形(Additive Manufacturing)する3Dプリンタであってもよい。
【0015】
製造機械1がワイヤ放電加工機である場合、製造機械1はワイヤと製造物との間で放電を行い製造物の切断などを行う。製造機械1がワイヤ放電加工機である場合、製造とはワークに対して放電加工を行うことである。また、ワイヤは工具に含まれる概念である。
【0016】
製造機械1が3Dプリンタである場合、製造機械1は、例えば、製造物を積層造形により製造する。製造機械1が3Dプリンタである場合、製造とは積層造形により製造物を製造することである。3Dプリンタに用いられる、例えば、レーザヘッドなどのヘッド部分は工具に含まれる概念である。
【0017】
以下では、工作機械を例に本実施形態の製造機械1について説明する。なお、以下の説明では、製造物をワークと称する。
【0018】
製造機械1は、数値制御装置2と、表示装置3と、入力装置4と、サーボアンプ5およびサーボモータ6と、スピンドルアンプ7およびスピンドルモータ8と、センサ9と、周辺機器10とを備える。
【0019】
数値制御装置2は、製造機械1の全体を制御する装置である。
【0020】
数値制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)11と、バス12と、ROM(Read Only Memory)13と、RAM(Random Access Memory)14と、不揮発性メモリ15とを備えている。
【0021】
CPU11は、システムプログラムに従って数値制御装置2の全体を制御するプロセッサである。CPU11は、バス12を介してROM13に格納されたシステムプログラムなどを読み出す。また、CPU11は、加工プログラムに従って、サーボモータ6およびスピンドルモータ8などを制御し、ワークの切削加工を実行する。
【0022】
バス12は、数値制御装置2内の各ハードウェアを互いに接続する通信路である。数値制御装置2内の各ハードウェアはバス12を介してデータをやり取りする。
【0023】
ROM13は、数値制御装置2全体を制御するためのシステムプログラム、および各種データを解析するための解析プログラムなどを記憶する記憶装置である。
【0024】
RAM14は、各種データを一時的に格納する記憶装置である。RAM14は、加工プログラムを解析して算出される工具経路に関するデータ、表示用のデータ、外部から入力されるデータなどを一時的に記憶する。RAM14は、CPU11が各種データを処理するための作業領域として機能する。
【0025】
不揮発性メモリ15は、製造機械1の電源が切られ、数値制御装置2に電源が供給されていない状態でもデータを保持する記憶装置である。不揮発性メモリ15は、例えば、SSD(Solid State Drive)で構成される。不揮発性メモリ15は、例えば、入力装置4から入力された工具補正データ、工具寿命データ、製造機械1を構成する部品の部品寿命データ、および、ネットワーク(不図示)を介して入力される加工プログラムなどを記憶する。
【0026】
数値制御装置2は、さらに、第1のインタフェース16と、第2のインタフェース17と、軸制御回路18と、スピンドル制御回路19と、第3のインタフェース20と、PLC(Programmable Logic Controller)21と、I/Oユニット22とを備えている。
【0027】
第1のインタフェース16は、バス12と表示装置3とを接続するインタフェースである。第1のインタフェース16は、例えば、CPU11が処理した各種データを表示装置3に送る。
【0028】
表示装置3は、第1のインタフェース16を介して各種データを受け、各種データを表示する装置である。表示装置3は、例えば、不揮発性メモリ15に記憶された加工プログラム、工具補正量に関するデータなどを表示する。表示装置3は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイである。
【0029】
第2のインタフェース17は、バス12と入力装置4とを接続するインタフェースである。第2のインタフェース17は、例えば、入力装置4から入力されたデータをバス12を介してCPU11に送る。
【0030】
入力装置4は、各種データを入力するための装置である。入力装置4は、例えば、工具の補正量に関するデータの入力を受け、入力されたデータを第2のインタフェース17を介して不揮発性メモリ15に送る。また、入力装置4は、アラームの原因となる事象が発生したときの製造機械1の停止条件の選択入力を受け、選択入力されたデータを第2のインタフェース17を介して不揮発性メモリ15に送る。入力装置4は、例えば、キーボード、およびマウスである。なお、入力装置4と表示装置3とは、例えば、タッチパネルのように1つの装置として構成されてもよい。
【0031】
軸制御回路18は、サーボモータ6を制御する制御回路である。軸制御回路18は、CPU11からの制御指令を受けてサーボモータ6を駆動させるための指令をサーボアンプ5に出力する。軸制御回路18は、例えば、サーボモータ6のトルクを制御するトルクコマンドをサーボアンプ5に送る。また、軸制御回路18は、サーボモータ6の回転速度を制御する回転速度コマンドをサーボアンプ5に送ってもよい。
【0032】
サーボアンプ5は、軸制御回路18からの指令を受けて、サーボモータ6に電力を供給する。
【0033】
サーボモータ6は、サーボアンプ5から電力の供給を受けて駆動するモータである。サーボモータ6は、例えば、刃物台、主軸頭、テーブルを駆動させるボールねじに連結される。サーボモータ6が駆動することにより、刃物台、主軸頭、テーブルなどの製造機械1の構成要素は、例えば、X軸方向、Y軸方向、またはZ軸方向に移動する。
【0034】
スピンドル制御回路19は、スピンドルモータ8を制御するための制御回路である。加工プログラムに基づいて穴の加工が行われる際、スピンドル制御回路19は、CPU11からの制御指令を受けてスピンドルモータ8を駆動させるための指令をスピンドルアンプ7に出力する。スピンドル制御回路19は、例えば、スピンドルモータ8のトルクを制御するトルクコマンドをスピンドルアンプ7に送る。また、スピンドル制御回路19は、スピンドルモータ8の回転速度を制御する回転速度コマンドをスピンドルアンプ7に送ってもよい。
【0035】
スピンドルアンプ7は、スピンドル制御回路19からの指令を受けて、スピンドルモータ8に電力を供給する。
【0036】
スピンドルモータ8は、スピンドルアンプ7から電力の供給を受けて駆動するモータである。スピンドルモータ8は、スピンドルに連結され、スピンドルを回転させる。
【0037】
第3のインタフェース20は、バス12とセンサ9とを接続するインタフェースである。第3のインタフェース20は、センサ9が検出したセンサデータをバス12を介してCPU11に送る。
【0038】
センサ9は、製造機械1の各構成要素に配置され、各構成要素から各種物理量を検出する。センサ9は、例えば、温度を検出する温度センサ、位置を検出する位置検出センサ、加速度を検出する加速度センサ、電流を検出する電流検出センサ、および液量計である。
【0039】
温度センサは、例えば、制御盤の内部、および切削液タンクに配置され、制御盤の内部、および切削液の温度を検出する。
【0040】
位置検出センサは、刃物台、主軸頭、テーブルなどの製造機械1の構成要素の位置を検出する。位置検出センサが検出するセンサデータを利用して、軸制御回路18はフィードバック制御を行ってもよい。
【0041】
また、位置検出センサは、スピンドルの回転角を検出するポジションコーダであってもよい。ポジションコーダは、スピンドルの回転角に応じて帰還パルスを出力する。スピンドル制御回路19は、ポジションコーダから出力される帰還パルスを利用してフィードバック制御を行ってもよい。
【0042】
加速度センサは、例えば、スピンドル付近に配置され、スピンドル付近に生じる振動を検出する。加速度センサが検出する振動の大きさに基づいて、例えば、製造機械1を構成する構成部品の劣化の度合いが判断される。
【0043】
電流検出センサは、例えばサーボモータ6およびスピンドルモータ8に配置され、サーボモータ6およびスピンドルモータ8に供給される電流を検出する。電流検出センサが検出する電流に基づいて、例えば、サーボモータ6、またはスピンドルモータ8の過負荷が検出される。
【0044】
液量計は、例えば、切削液タンクに収容されている切削液の液量を検出する。
【0045】
PLC21は、ラダープログラムを実行して周辺機器10を制御する制御装置である。PLC21は、I/Oユニット22を介して周辺機器10を制御する。
【0046】
I/Oユニット22は、PLC21と周辺機器10とを接続するインタフェースである。I/Oユニット22は、PLC21から受けた指令を周辺機器10に送る。
【0047】
周辺機器10は、製造機械1に設置され、製造機械1がワークの加工を行う際の補助的な動作を行う装置である。周辺機器10は、製造機械1の周辺に設置される装置であってもよい。周辺機器10は、例えば、工具交換装置、およびマニピュレータなどのロボットである。
【0048】
次に、数値制御装置2の機能について説明する。
【0049】
図2は、数値制御装置2の機能の一例を示すブロック図である。数値制御装置2は、例えば、制御部31と、記憶部32と、受付部33と、設定条件記憶部34と、データ取得部35と、判定部36と、報知部37とを備えている。
【0050】
制御部31、受付部33、データ取得部35、判定部36、および報知部37は、例えば、CPU11がROM13に記憶されているシステムプログラム、および各種データを用いて演算処理することにより実現される。CPU11は、作業領域としてRAM14を用いて演算処理を実行する。また、記憶部32、および設定条件記憶部34は、入力装置4などから入力されたデータ、またはCPU11による演算処理の演算結果がRAM14、または不揮発性メモリ15に記憶されることにより実現される。
【0051】
制御部31は、例えば、加工プログラムに従ってサーボモータ6、およびスピンドルモータ8を制御する。これにより、ワークの加工が行なわれる。
【0052】
制御部31は、ワークの加工中にアラームの原因となる事象が発生した場合、製造機械1の停止制御または動作制御を行う。
【0053】
停止制御は、製造機械1を即時停止させる制御である。つまり、停止制御は、工具によってワークの加工が実行されている途中であっても、製造機械1の運転を即時停止させる制御である。制御部31は、例えば、サーボモータ6において過負荷などの事象が生じた場合、停止制御を実行する。
【0054】
動作制御は、逃し制御と、継続制御とを含む。
【0055】
逃し制御は、工具によるワークの加工中であってもワークの加工を中止し、工具をワークから離間させる動作を行う制御である。逃し制御において停止条件が満たされた場合に製造機械1の運転が停止される。
【0056】
継続制御は、工具によるワークの加工を停止条件が満たされるまで継続する制御である。継続制御において停止条件が満たされた場合に製造機械1の運転が停止される。
【0057】
逃し制御または継続制御のいずれの動作制御が実行されるかは、ユーザによって選択された停止条件に基づいて決定される。
【0058】
記憶部32は、製造機械1においてアラームの原因となる事象が発生した場合に製造機械1の運転を停止させるための一または複数の停止条件を、製造機械1が行っている製造工程およびアラームの原因となる事象に関連付けて記憶する。ここで、製造工程とは、例えば、各種工具を用いた加工の種類を意味する。
【0059】
図3は、記憶部32に記憶された停止条件の一例を説明する図である。
【0060】
図3は、エンドミルによる加工中に、ファンの異常、工具寿命、部品寿命、またはクーラントの異常が発生した場合の停止条件を示している。ここで、ファンの異常とは、例えば、制御盤に設置された空冷用のファンが何らかの理由により停止することである。工具寿命とは、切削を行っているエンドミルの切削加工時間の合計があらかじめ設定された加工時間に到達することである。部品寿命とは、製造機械1を構成する、歯車などの部品の稼働時間があらかじめ定められた稼働時間に到達することである。
【0061】
ファンの異常、工具寿命、または部品寿命が発生した場合の停止条件は、早送り開始位置に到達すること、または加工終了位置に到達することである。
【0062】
早送り開始位置とは、エンドミルの加工経路において、アラームの原因となる事象の発生時のエンドミルの位置から見て、最初に早送りが行われる位置である。
【0063】
加工終了位置とは、アラームの原因となる事象の発生時に使用されているエンドミルによる加工が終了する位置である。
【0064】
クーラントの異常とは、例えば、加工中にノズルからのクーラントの噴射が停止する異常である。
【0065】
クーラントの異常が発生した場合の停止条件は、早送り開始位置に到達すること、または逃し動作完了位置に到達することである。
【0066】
逃し動作完了位置とは、例えば、エンドミルの先端がワークから100[mm]離間した位置である。
【0067】
ここで、
図2の説明に戻る。受付部33は、記憶部32に記憶された複数の停止条件のうちの1つの停止条件の選択を受け付ける。受付部33は、例えば、表示装置3に停止条件の設定画面を表示させ、入力装置4からアラームの原因となる事象および製造工程に対応する1つの停止条件の選択入力を受け付ける。
【0068】
図4は、受付部33が表示装置3に表示させる停止条件の設定画面の一例を示す図である。設定画面には、製造工程を選択するための製造工程選択部41と、事象を選択するための事象選択部42と、停止条件を選択するための停止条件選択部43とがプルダウンメニューにて表示されている。
【0069】
ユーザは、表示装置3に表示された設定画面により、製造工程、および事象に応じた停止条件を選択する。
【0070】
ここで、再び、
図2の説明に戻る。設定条件記憶部34は、受付部33が受け付けた停止条件を記憶する。つまり、設定条件記憶部34が、選択入力された停止条件を製造工程、および事象に関連付けて記憶することにより、所定の製造工程においてアラーム原因となる事象が発生した場合における停止条件が設定される。
【0071】
エンドミルによる加工中にファンの異常、工具寿命、および部品寿命が発生した場合の停止条件として「早送りの開始位置に到達」が設定された場合(
図3)、制御部31は継続制御によって、エンドミルがワークから離間し、早送りが開始される位置に到達するまで加工を継続する。エンドミルが早送り開始位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0072】
エンドミルによる加工中にファンの異常、工具寿命、および部品寿命が発生した場合の停止条件として「加工終了位置に到達」が設定された場合(
図3)、制御部31は継続制御によって、使用中のエンドミルによる加工が終了するまで加工を継続する。エンドミルが加工終了位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0073】
エンドミルによる加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として「早送り開始位置に到達」が設定された場合(
図3)、制御部31は継続制御によって、エンドミルがワークから離間し、早送りが開始される位置に到達するまで加工を継続する。エンドミルが早送り開始位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0074】
エンドミルによる加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として「逃し動作完了位置に到達」が設定された場合(
図3)、制御部31は、エンドミルの加工を中断し、逃し制御によってエンドミルをワークから離間させる動作を行う。エンドミルが逃し動作完了位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0075】
図5は、記憶部32に記憶された停止条件の別の例を説明する図である。
【0076】
図5は、ドリルによる穴あけ加工中に、ファンの異常、工具寿命、部品寿命、またはクーラントの異常が発生した場合の停止条件を示している。
【0077】
ファンの異常、工具寿命、または部品寿命が発生した場合の停止条件は、R点(リファレンス点)に到達すること、または穴加工の終了位置に到達することである。
【0078】
R点とは、穴を加工する際の基準となる位置であり、穴あけ加工における切削送りの開始位置である。
【0079】
穴加工の終了位置とは、ドリルによって複数の穴の加工が行われる場合に、このドリルによって加工される最後の穴のR点の位置である。
【0080】
クーラントの異常が発生した場合の停止条件は、R点に到達すること、または逃し動作完了位置に到達することである。逃し動作完了位置とは、例えば、R点である。
【0081】
ドリルによる穴あけ加工中にファンの異常、工具寿命、および部品寿命が発生した場合の停止条件として、「R点に到達」が設定された場合(
図5)、制御部31は継続制御によって、加工中の穴の加工を最後まで加工した後、早送りでドリルの引き抜き動作を行う。ドリルがR点に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0082】
ドリルによる穴あけ加工中にファンの異常、工具寿命、および部品寿命が発生した場合の停止条件として、「穴加工の終了位置に到達」が設定された場合(
図5)、制御部31は継続制御によって、使用中のドリルによるすべての穴の加工が完了するまで加工を継続する。ドリルが最後に加工された穴のR点に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0083】
ドリルによる穴あけ加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として、「R点に到達」が設定された場合(
図5)、制御部31は継続制御によって、加工中の穴を最後まで加工した後、ドリルをR点まで早送りにより移動させる。
【0084】
ドリルによる穴あけ加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として、「逃し動作完了位置に到達」が設定された場合(
図5)、制御部31は逃し制御により、加工中の穴の加工を中断し、ドリルを早送りにてR点に移動させる。
【0085】
図6は、記憶部32に記憶された停止条件のさらに別の例を説明する図である。
【0086】
図6は、ねじ切り工具によるねじ切り加工中に、ファンの異常、工具寿命、部品寿命、またはクーラントの異常が発生した場合の停止条件を示している。
【0087】
ファンの異常、工具寿命、または部品寿命が発生した場合の停止条件は、加工中のパスの加工終了位置に到達すること、または、ねじ切り加工終了位置に到達することである。
【0088】
ねじ切り加工終了位置とは、ねじ切り加工におけるすべてのパスのうち、最後のパスの加工終了位置である。
【0089】
クーラントの異常が発生した場合の停止条件は、加工中のパスの加工終了位置に到達すること、または逃し動作完了位置に到達することである。
【0090】
逃し動作完了位置とは、例えば、ねじ切り工具がねじ切り加工を中断して切り上げ(チャンファリング)を行ったときの切り上げ動作の終了位置である。切り上げ動作の終了位置は、例えば、ねじ切り工具の先端がワークから100[mm]離れた位置である。
【0091】
ねじ切り工具によるねじ切り加工中にファンの異常、工具寿命、または部品寿命が発生した場合の停止条件として、「加工中のパスの加工終了位置に到達」が設定された場合(
図6)、制御部31は継続制御によって、加工中のパスの加工を完了させる。ねじ切り工具が加工中のパスの加工終了位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0092】
ねじ切り工具によるねじ切り加工中にファンの異常、工具寿命、または部品寿命が発生した場合の停止条件として、「ねじ切り加工終了位置に到達」が設定された場合(
図6)、制御部31は継続制御によって、加工中のねじのすべてのパスの加工を完了させる。ねじ切り加工終了位置にねじ切り工具が到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0093】
ねじ切り工具によるねじ切り加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として、「加工中のパスの加工終了位置に到達」が設定された場合(
図6)、制御部31は継続制御によって、加工中のパスの加工を完了させる。ねじ切り工具が加工中のパスの加工終了位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0094】
ねじ切り工具によるねじ切り加工中にクーラントの異常が発生した場合の停止条件として「逃し動作完了位置に到達」が設定された場合(
図6)、制御部31は逃し制御によって、ねじ切り工具の切り上げ動作を行う。ねじ切り工具が逃し動作完了位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0095】
【0096】
データ取得部35は、実行中の加工プログラム、使用工具、アラームの原因となる事象などのデータを取得する。データ取得部35は、加工プログラムを解析し、実行中の製造工程に関するデータを取得する。データ取得部35は、例えば、実行中の製造工程がエンドミルによる加工、ドリルによる穴あけ加工、および、ねじ切り工具によるねじ切り加工のうちいずれの加工を行っているかを示すデータを取得する。また、データ取得部35は、製造機械1に配置されたセンサ9から出力されるセンサデータ、および発生したアラームに関する情報を取得する。
【0097】
判定部36は、例えば、データ取得部35によって取得されたデータに基づいて、実行中の製造工程を判定する。判定部36は、例えば、実行中の製造工程が、エンドミルによる加工であるか、ドリルによる穴あけ加工であるか、またはねじ切り工具によるねじ切り加工であるかを判定する。
【0098】
また、判定部36は、データ取得部35がセンサ9から取得したセンサデータに基づいて、製造機械1においてアラームの原因となる事象が発生したか否か、また、どのような事象が発生したかを判定する。判定部36は、例えば、ファンの停止、工具寿命、部品寿命、クーラントの異常、サーボモータ6の過負荷などが起こったか否かを判定する。
【0099】
報知部37は、判定部36によってアラームの原因となる事象が発生したと判定された場合、アラームを発生させる。報知部37は、例えば、表示装置3に発生したアラームの種類を表示させてユーザにアラームの発生を報知する。
【0100】
次に、ワークの加工中にアラームの原因となる事象が発生した場合における製造機械1の動作例について説明する。
【0101】
図7は、エンドミルによる加工中にファンの異常が発生した場合の動作制御の例を説明する図である。ここで、停止条件には、「早送り開始位置に到達」が設定されているものとする。
【0102】
判定部36は、データ取得部35が取得するセンサデータに基づいて、エンドミル51が位置Pe1を加工中にファンの異常が発生したと判定する。停止条件は、早送り開始位置に到達することである。そのため、制御部31は、継続制御によって切削送りによる加工を継続する。エンドミル51が早送り開始位置Pe2に到達すると、判定部36は停止条件が満たされたと判定し、制御部31は製造機械1の運転を停止させる。
【0103】
図8は、ドリルによる穴あけ加工中にドリルが工具寿命に到達した場合の動作制御の例を説明する図である。ここで、停止条件には、「R点に到達」が設定されているものとする。
【0104】
判定部36は、データ取得部35が取得するセンサデータに基づいて、ドリル52による穴あけ加工中に位置Pd1において穴あけ工具が工具寿命に到達したと判定する。停止条件は、R点に到達することである。そのため、制御部31は、継続制御によって穴あけ加工終了位置Pd2まで切削送りによる穴あけ加工を継続する。ドリル52が加工終了位置Pd2まで到達すると、制御部31は、早送りでドリル52の引き抜き動作を行う。ドリル52がR点に到達すると、判定部36は停止条件が満たされたと判定し、制御部31は製造機械1の運転を停止させる。
【0105】
図9は、ねじ切り工具によるねじ切り加工中にクーラントの異常が発生した場合の動作制御の例を説明する図である。ここで、停止条件には、「逃し動作完了位置に到達」が設定されているものとする。
【0106】
判定部36は、データ取得部35が取得するセンサデータに基づいて、ねじ切り工具53によるねじ切り加工中に位置Ps1においてクーラントの異常が発生したと判定する。停止条件は、逃し動作完了位置Ps2に到達することである。そのため、制御部31は、逃し制御によりねじ切り工具53の逃し動作を行う。ねじ切り工具53が逃し動作完了位置Ps2まで到達すると、判定部36は停止条件が満たされたと判定し、制御部31は製造機械1の運転を停止させる。
【0107】
次に、数値制御装置2において実行される動作制御の流れについて説明する。
【0108】
図10は、数値制御装置2において実行される動作制御の流れを説明する図である。製造機械1においてワークが加工されている間、データ取得部35は、アラームの原因となる事象の発生に係るデータを取得する(ステップS01)。
【0109】
次に、判定部36は、データ取得部35が取得したデータに基づいて、アラームの原因となる事象が発生しているか否かを判定する(ステップS02)。アラームの原因となる事象が発生していない場合(ステップS02においてNoの場合)、データ取得部35はデータの取得を続ける。
【0110】
アラームの原因となる事象が発生していると判定された場合(ステップS02においてYesの場合)、報知部37は、アラームの発生を報知する(ステップS03)。
【0111】
次に、判定部36は、発生した事象によって製造機械1の運転を即時停止させるか否かを判定する(ステップS04)。判定部36が製造機械1の運転を即時停止させると判定した場合(ステップS04においてYesの場合)、制御部31は製造機械1の運転を停止させ(ステップS07)、処理を終了させる。
【0112】
判定部36が製造機械1の運転を即時停止させないと判定した場合(ステップS04においてNoの場合)、制御部31は、設定条件記憶部34に記憶された停止条件に基づいて、製造機械1の動作制御を実行する(ステップS05)。つまり、制御部31は、継続制御、または逃し制御を実行する。
【0113】
次に、判定部36は、動作制御により、製造機械1が停止条件を満たしたか否かを判定する(ステップS06)。製造機械1が停止条件を満たしていないと判定された場合(ステップS06においてNoの場合)、制御部31は引き続き、動作制御を実行する(ステップS05)。
【0114】
判定部36によって製造機械1が停止条件を満たしたと判定された場合(ステップS06においてYes)、制御部31は製造機械1の運転を停止させる(ステップS07)。
【0115】
以上説明したように、本実施形態に係る数値制御装置2は、複数の停止条件のうちの1つの停止条件の入力を受け付ける受付部33を備えている。そのため、ユーザが、工具の種類、および製造工程の種類などに応じて、アラーム発生時の最適な停止条件を設定することができる。
【0116】
また、数値制御装置2では、アラームの原因となる事象の発生後に加工を継続する継続制御、または、逃し制御が行われる。したがって、本実施形態の数値制御装置2では、アラームの原因となる事象、および製造工程に応じて、適切なタイミングで製造機械1の運転を停止させることができる。
【0117】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について図面を用いて説明する。
【0118】
第2の実施形態の製造機械1では、停止条件として複数の停止条件を設定することが可能であり、複数の停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで動作制御が行われる点で、第1の実施形態の製造機械1とは異なる。以下では、第1の実施形態と異なる構成について説明し、第1の実施形態と同じ構成については説明を省略する。
【0119】
図11は、製造工程、および事象に応じた2つの停止条件がユーザによって選択され設定された場合の例を説明する図である。
【0120】
図11に示す例では、エンドミルによる加工中のファンの異常が発生した場合の複数の停止条件として、「早送り開始位置に到達」、および「オーバーヒート直前」が選択されている。つまり、受付部33は、記憶部32に記憶された複数の停止条件のうち2つの停止条件の選択を受け付ける。設定条件記憶部34は、受付部33によって受け付けられた2つの停止条件を記憶する。ただし、受付部33が受け付け、設定条件記憶部34に記憶される停止条件は、3つ以上であってもよい。
【0121】
オーバーヒート直前とは、例えば、制御盤内の温度が所定のしきい値に達することを意味する。しきい値は、製造機械1の動作制御に影響を及ぼす可能性のある制御盤内の温度を考慮して決定される。なお、
図11に示す「(逃し動作完了位置に到達)」、「(逃し制御)」は、「オーバーヒート直前」の停止条件が満たされた場合に、逃し動作完了位置に到達するまで逃し制御を行うことを意味する。
【0122】
次に、エンドミルによる加工中のファンの異常が発生した場合の停止条件として、「早送り開始位置に到達」、および「オーバーヒート直前」が選択されている場合の動作制御の例について説明する。
【0123】
図12は、エンドミル51による加工中にファンの異常が発生した場合における停止条件として、「早送り開始位置に到達」、および「オーバーヒート直前」が設定されている場合の動作制御の一例を説明する図である。
【0124】
判定部36は、エンドミル51による加工中、データ取得部35が取得するセンサデータに基づいて、アラームの原因となる事象が発生したか否かを判定する。ここで、エンドミル51が位置Pe3を加工中にファンの異常が発生したとする。また、エンドミル51による加工中にファンの異常が発生した場合の停止条件は、「早送り開始位置に到達」、および「オーバーヒート直前」である。そのため、制御部31は、継続制御により、エンドミル51が早送り開始位置に到達するか、または、オーバーヒート直前になるまで、切削送りによる加工を継続する。
【0125】
その後、エンドミル51が位置Pe4の加工中に、判定部36によって制御盤内の温度がオーバーヒート直前まで達したと判定されたとする。この場合、制御部31はエンドミル51の逃し制御を行う。逃し制御においてエンドミル51が逃げ完了位置Pe5に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0126】
一方、制御盤内の温度がオーバーヒート直前まで達しない場合、制御部31はエンドミル51による加工を続ける。その後、エンドミル51が早送り開始位置に到達することによって停止条件が満たされると、制御部31は、製造機械1の運転を停止させる。
【0127】
以上説明したように、本実施形態では、受付部33が複数の停止条件を受け付け、受付部33が受け付けた複数の停止条件のうちの一の停止条件が満たされるまで製造機械1の動作制御が実行される。そのため、製造機械1の動作状況に合わせて適切なタイミングで製造機械1の運転を停止させることができる。
【符号の説明】
【0128】
1 製造機械
2 数値制御装置
3 表示装置
4 入力装置
5 サーボアンプ
6 サーボモータ
7 スピンドルアンプ
8 スピンドルモータ
9 センサ
10 周辺機器
11 CPU
12 バス
13 ROM
14 RAM
15 不揮発性メモリ
16 第1のインタフェース
17 第2のインタフェース
18 軸制御回路
19 スピンドル制御回路
20 第3のインタフェース
21 PLC
22 I/Oユニット
31 制御部
32 記憶部
33 受付部
34 設定条件記憶部
35 データ取得部
36 判定部
37 報知部
41 製造工程選択部
42 事象選択部
43 停止条件選択部
51 エンドミル
52 ドリル
53 ねじ切り工具