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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】状態判定装置及び状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/20 20190101AFI20240814BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20240814BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G06N20/20
B29C45/76
G05B23/02 T
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022547601
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032790
(87)【国際公開番号】W WO2022054782
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020152256
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 淳史
【審査官】▲はま▼中 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067136(JP,A)
【文献】特開2018-025945(JP,A)
【文献】特開2019-138152(JP,A)
【文献】特開2015-176175(JP,A)
【文献】特開2017-004509(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122798(WO,A1)
【文献】特開2021-015573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/20
B29C 45/76
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械に係る状態を判定する状態判定装置であって、
前記産業機械から取得した所定の物理量に係るデータと該産業機械に係る状態との相関性を学習した複数の学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかと、前記産業機械に係る状態を判定する際に用いる複数の前記学習モデルの指定と、指定された前記学習モデルによる推定結果を数値変換して統計量を算出する統計関数とを少なくとも含む統計条件を記憶する統計条件記憶部と、
前記産業機械に係る状態を示すデータとしての所定の物理量に係るデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータに基づいて、前記学習モデル記憶部に記憶された複数の前記学習モデルを用いて前記産業機械に係る状態を推定する推定部と、
前記統計条件記憶部を参照して状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかに基づいて用いる前記統計関数を取得し、取得した前記統計関数を用いて、前記推定部による複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して統計量を算出する数値変換部と、
を備える状態判定装置。
【請求項2】
前記統計条件は、前記産業機械の運転条件と関連付けて作成され、
前記数値変換部は、前記運転条件に基づいて用いる統計関数を取得する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項3】
前記統計関数は、加重平均、算術平均、重み付き調和平均、調和平均、刈り込み平均、対数平均、二乗和平均平方根、最小値、最大値、中央値、加重中央値、最頻値のいずれか1つである、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項4】
前記統計関数のパラメータは、所定の固定値、または、所定の関数を用いて算出された数値である、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項5】
前記データ取得部が取得したデータを用いた機械学習を行い、学習モデルを生成または更新する学習部を更に備える、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項6】
前記統計条件記憶部に記憶された統計条件の要素をオペレータが編集可能なインタフェースを提供する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記産業機械の動作状態に係る異常度を推定し、
前記数値変換部が前記統計関数を用いて前記推定部による複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して算出した統計量が予め定めた所定の閾値を超えた場合に警告メッセージを表示する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記産業機械の動作状態に係る異常度を推定し、
前記数値変換部が前記統計関数を用いて前記推定部による複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して算出した統計量が予め定めた所定の閾値を超えた場合に、前記産業機械の運転を停止、減速、または前記産業機械を駆動する原動機の駆動トルクを制限する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項9】
前記データ取得部が取得するデータは、有線または無線のネットワークによって接続された複数の産業機械から取得されるデータのうち少なくとも1つである、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項10】
産業機械に係る状態を判定する状態判定方法であって、
前記産業機械から取得した所定の物理量に係るデータと該産業機械に係る状態との相関性を学習した複数の学習モデルを予め記憶すると共に、
状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかと、前記産業機械に係る状態を判定する際に用いる複数の前記学習モデルの指定と、指定された前記学習モデルによる推定結果を数値変換して統計量を算出する統計関数とを少なくとも含む統計条件を予め記憶しておき、
前記産業機械に係る状態を示すデータとしての所定の物理量に係るデータを取得するステップと、
前記取得するステップで取得したデータに基づいて、予め記憶してある複数の前記学習モデルを用いて前記産業機械に係る状態を推定するステップと、
予め記憶してある前記統計条件に含まれる状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかに基づいて用いる前記統計関数を取得し、取得した前記統計関数を用いて、前記推定するステップによる複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して統計量を算出するステップと、
を実行する状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械に係る状態判定装置及び状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機等の産業機械の保守は定期的あるいは異常発生時に行っている。産業機械を保守する際には、保守担当者は、産業機械の動作時に記録しておいた該産業機械の動作状態を示す物理量を用いることにより、該産業機械の動作状態の異常の有無を判定し、異常が生じた部品の交換などの保守作業を行なう。
【0003】
例えば、射出成形機が備える射出シリンダの逆流防止弁の保守作業としては、定期的に射出シリンダからスクリュを抜き出して、逆流防止弁の寸法を直接測定する方法が知られている。しかしながら、この方法では生産を一旦停止して、測定作業を行わなくてはならず、生産性が低下するという問題が有った。
【0004】
また、射出成形機の機種には、射出シリンダを備える射出装置、型締装置、成形品の突出し装置などの仕様が異なる多種多様なバリエーションがある。そのため、該バリエーションに対応した数だけ動作状態の異常の有無を判定する状態判定装置を用意したり、異常の有無の判定基準を用意したりする必要があった。
【0005】
この様な問題を解決するための従来技術として、射出シリンダからスクリュを抜き出す等、生産を一旦停止させることなく間接的に射出シリンダの逆流防止弁の摩耗量を検出して異常を診断する方法が知られている。この方法では、スクリュに加わる回転トルクの検出や、樹脂がスクリュ後方へ逆流する現象を検出して、射出成形機の動作状態の異常を診断する手法が採られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、駆動部の負荷や樹脂圧力などを教師あり機械学習によって異常を判定することが示されている。しかしながら、射出成形機の駆動部を構成する要素の諸元が異なる機械では、該機械より得られる測定値と機械学習時に入力した学習データの数値との乖離が大きく、正しく機械学習による異常の判定ができないという課題が生じる。
【0007】
そこで、特許文献2には、機械学習して導かれる異常度推定値に関して、1つの学習モデルより算出した異常度推定値に対して射出成形の機種や機材に関連づけられた補正係数を用いて、補正した異常度補正値を導くことが、示されている。また、特許文献3には、予め運転条件や環境条件など射出動作に係る条件に応じた複数の学習モデルを用意しておくことが示されている。この特許文献3に示されているものは、射出動作の状態に対する評価値を計算する際には、射出動作の条件や処理能力に基づき、複数の学習モデルより1つの学習モデルを選択することで、機械学習の判定精度を向上させている。更に、特許文献4には、複数の学習モデルを用意しておき、分類条件に従って分類された学習データと学習モデルとを関連づけておき、複数の学習モデルより1つの学習モデルを選択することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-202632号公報
【文献】特開2020-044718号公報
【文献】特開2019-067138号公報
【文献】特開2020-066178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、1つの学習モデルだけでは、多種多様な生産環境やオペレータの要望に広範囲に対応し、総合的に機械学習による異常の判定を行うことは困難である。一方で、複数の学習モデルを用意した場合、その内の1つを選択する方法は知られているが、複数の学習モデルを活用した総合的な異常の判定をするまでには至っていない。
すなわち、多種多様な生産環境やオペレータの要望に対応するため、複数の学習モデルより算出された「複数の状態判定結果(推定値)」を活用した総合的な判定、汎用的な判定を実現することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による状態判定装置では、機械学習によって推定される異常度について、産業機械を制御する制御装置より取得した時系列の物理量(電流、速度など)を産業機械に係る状態を示すデータとする。そして、この状態判定装置は、多種多様な複数の学習モデルを用いて、複数の推定値(異常度)を算出する。続いて、算出した複数の学習モデル毎の推定値に対して、産業機械の機種や機材、および学習モデルに関連づけられた統計関数を適用し、産業機械の異常度を評価する統計量を算出する。算出された統計量には複数の学習モデルの特性が考慮されているので、統計量によって多種多様な特性が反映された異常度を総合的に判定することが可能となる。
【0011】
具体的には、射出成形機の機種が異なっていたり(例:機械のサイズが小型/大型)、射出成形機の付帯設備や生産材である樹脂が異なっても、複数の学習モデル毎の推定値に機種や付帯設備などに関連づけられた統計関数を適用して算出された統計量に基づいて異常度を総合的に判定することができる。例えば、大型機用の学習モデルと、小型機用の学習モデルの2つを予め用意しておき、学習モデルの作成に用いた機種とは異なる中型機の異常度を判定する際には、学習モデルが算出した2つの推定値に、機械のサイズに対応した重み(例:機械のサイズが大型の学習モデルを70%、機械のサイズが小型の学習モデルを30%)を適用して導いた統計量を異常度とすることで、2つの学習モデルにより総合的に異常度を判定することが可能となる。
【0012】
そして、本発明の一態様は、産業機械に係る状態を判定する状態判定装置であって、前記産業機械から取得した所定の物理量に係るデータと該産業機械に係る状態との相関性を学習した複数の学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかと、前記産業機械に係る状態を判定する際に用いる複数の前記学習モデルの指定と、指定された前記学習モデルによる推定結果を数値変換して統計量を算出する統計関数とを少なくとも含む統計条件を記憶する統計条件記憶部と、前記産業機械に係る状態を示すデータとしての所定の物理量に係るデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得したデータに基づいて、前記学習モデル記憶部に記憶された複数の前記学習モデルを用いて前記産業機械に係る状態を推定する推定部と、前記統計条件記憶部を参照して状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかに基づいて用いる前記統計関数を取得し、取得した前記統計関数を用いて、前記推定部による複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して統計量を算出する数値変換部と、を備える状態判定装置である。
【0013】
そして、本発明の他の態様は、産業機械に係る状態を判定する状態判定方法であって、前記産業機械から取得した所定の物理量に係るデータと該産業機械に係る状態との相関性を学習した複数の学習モデルを予め記憶すると共に、状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかと、前記産業機械に係る状態を判定する際に用いる複数の前記学習モデルの指定と、指定された前記学習モデルによる推定結果を数値変換して統計量を算出する統計関数とを少なくとも含む統計条件を予め記憶しておき、前記産業機械に係る状態を示すデータとしての所定の物理量に係るデータを取得するステップと、前記取得するステップで取得したデータに基づいて、予め記憶してある複数の前記学習モデルを用いて前記産業機械に係る状態を推定するステップと、予め記憶してある前記統計条件に含まれる状態を判定する対象となる前記産業機械の機種及び該産業機械に取り付けられた機材の少なくともいずれかに基づいて用いる前記統計関数を取得し、取得した前記統計関数を用いて、前記推定するステップによる複数の学習モデル毎の推定結果を数値変換して統計量を算出するステップとを実行する状態判定方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様により、複数の学習モデルより得られた推測値に基づいて、統計処理された統計量が算出されることによって、産業機械に係る状態について総合的な判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態による状態判定装置の概略的なハードウェア構成図である。
図2】射出成形機の概略構成図である。
図3】第1実施形態による状態判定装置を概略的に説明する図である。
図4】1つの成形品を製造する成形サイクルの例を示す図である。
図5】統計条件の例を示す図である。
図6】第2実施形態による状態判定装置を概略的に説明する図である。
図7】統計条件を指定する操作画面を表示装置に表示した例を示す図である。
図8】異常が発生したときに表示される警告の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の一実施形態による状態判定装置の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。本実施形態による状態判定装置1は、例えば制御用プログラムに基づいて産業機械を制御する制御装置として実装することができる。また、本実施形態による状態判定装置1は、制御用プログラムに基づいて産業機械を制御する制御装置に併設されたパソコンや、有線/無線のネットワークを介して制御装置と接続されたパソコン、セルコンピュータ、フォグコンピュータ6、クラウドサーバ7の上に実装することができる。本実施形態では、状態判定装置1を、ネットワーク9を介して制御装置3と接続されたパソコンの上に実装した例を示す。なお、本発明の状態判定装置がその状態判定の対象とする産業機械としては、射出成形機、工作機械、鉱山機械、木工機械、農業機械、建設機械などが例示される。以下では、産業機械の一例として、射出成形機を例に説明する。
【0017】
本実施形態による状態判定装置1が備えるCPU11は、状態判定装置1を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、バス22を介してROM12に格納されたシステム・プログラムを読み出し、該システム・プログラムに従って状態判定装置1全体を制御する。RAM13には一時的な計算データや表示データ、及び外部から入力された各種データ等が一時的に格納される。
【0018】
不揮発性メモリ14は、例えば図示しないバッテリでバックアップされたメモリやSSD(Solid State Drive)等で構成され、状態判定装置1の電源がオフされても記憶状態が保持される。不揮発性メモリ14には、インタフェース15を介して外部機器72から読み込まれたデータ、入力装置71を介して入力されたデータ、ネットワーク9を介して射出成形機4から取得されたデータ等が記憶される。記憶されるデータには、例えば制御装置3により制御される射出成形機4に取り付けられた各種センサ5により検出された、駆動部のモータ電流、電圧、トルク、位置、速度、加速度、金型内圧力、射出シリンダの温度、樹脂の流量、樹脂の流速、駆動部の振動や音等の物理量に係るデータが含まれていてよい。不揮発性メモリ14に記憶されたデータは、実行時/利用時にはRAM13に展開されても良い。また、ROM12には、公知の解析プログラムなどの各種システム・プログラムが予め書き込まれている。
【0019】
インタフェース15は、状態判定装置1のCPU11と外部記憶装置等の外部機器72と接続するためのインタフェースである。外部機器72側からは、例えばシステム・プログラムや射出成形機4の運転に係るプログラムやパラメータ等を読み込むことができる。また、状態判定装置1側で作成・編集したデータ等は、外部機器72を介して図示しないCFカードやUSBメモリ等の外部記憶媒体に記憶させることができる。
【0020】
インタフェース20は、状態判定装置1のCPU11と有線乃至無線のネットワーク9とを接続するためのインタフェースである。ネットワーク9は、例えばRS-485等のシリアル通信、Ethernet(登録商標)通信、光通信、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の技術を用いて通信をするものであって良い。ネットワーク9には、射出成形機4を制御する制御装置3やフォグコンピュータ6、クラウドサーバ7等が接続され、これらの装置は、状態判定装置1との間で相互にデータのやり取りを行っている。
【0021】
表示装置70には、メモリ上に読み込まれた各データ、プログラム等が実行された結果として得られたデータ、後述する機械学習装置2から出力されたデータ等がインタフェース17を介して出力されて表示される。また、キーボードやポインティングデバイス等から構成される入力装置71は、作業者による操作に基づく指令,データ等をインタフェース18を介してCPU11に渡す。
【0022】
インタフェース21は、CPU11と機械学習装置2とを接続するためのインタフェースである。機械学習装置2は、機械学習装置2全体を統御するプロセッサ201と、システム・プログラム等を記憶したROM202、機械学習に係る各処理における一時的な記憶を行うためのRAM203、及び学習モデル等の記憶に用いられる不揮発性メモリ204を備える。機械学習装置2は、インタフェース21を介して状態判定装置1で取得可能なデータ(例えば、射出成形機4に取り付けられた各種センサ5により検出された駆動部のモータ電流、電圧、トルク、位置、速度、加速度、金型内圧力、射出シリンダの温度、樹脂の流量、樹脂の流速、駆動部の振動や音等の物理量に係るデータ等)を観測することができる。また、状態判定装置1は、機械学習装置2から出力される処理結果をインタフェース21を介して取得し、取得した結果を記憶したり、表示したり、他の装置に対してネットワーク9等を介して送信する。
【0023】
図2は、射出成形機4の概略構成図である。射出成形機4は、主として型締ユニット401と射出ユニット402とから構成されている。型締ユニット401には、可動プラテン416と固定プラテン414が備えられている。また、それぞれ可動プラテン416には可動側金型412が、固定プラテン414には固定側金型411が取り付けられている。一方、射出ユニット402は、射出シリンダ426と、射出シリンダ426に供給する樹脂材料を溜めるホッパ436と、射出シリンダ426の先端に設けられたノズル440とから構成されている。1つの成形品を製造する成形サイクルでは、型締ユニット401で、可動プラテン416の移動によって型閉じ・型締めを行い、射出ユニット402で、ノズル440を固定側金型411に押し付けてから、ノズル440を介して樹脂を金型内に射出する。これらの動作は制御装置3からの指令により制御される。
【0024】
また、射出成形機4の各部には物理量を検出するセンサ5が取り付けられており、駆動部のモータ電流、電圧、トルク、位置、速度、加速度、金型内圧力、射出シリンダ426の温度、樹脂の流量、樹脂の流速、駆動部の振動や音等の物理量がセンサ5で検出される。センサ5で検出された物理量は制御装置3に送られる。制御装置3では、検出された各物理量が図示しないRAMや不揮発性メモリ等に記憶され、必要に応じてネットワーク9を介して状態判定装置1へ送信される。
【0025】
図3は、本発明の第1実施形態による状態判定装置1が備える機能を概略的なブロック図として示したものである。本実施形態による状態判定装置1が備える各機能は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11及び機械学習装置2が備えるプロセッサ201がそれぞれシステム・プログラムを実行し、状態判定装置1及び機械学習装置2の各部の動作を制御することにより実現される。
【0026】
本実施形態の状態判定装置1は、データ取得部100、データ抽出部110、推定指令部120、数値変換部140を備える。また、機械学習装置2は、推定部207を備える。更に、状態判定装置1のRAM13乃至不揮発性メモリ14には、データ取得部100が制御装置3等から取得したデータを記憶するための領域としての取得データ記憶部300と、数値変換部140による数値変換に用いる統計条件を予め記憶する統計条件記憶部310が予め用意されている。また、機械学習装置2のRAM203乃至不揮発性メモリ204上には、後述する学習部が作成した産業機械から取得した所定の物理量に係るデータと該産業機械に係る状態との相関性を学習した複数の学習モデル214を記憶するための領域として学習モデル記憶部210が予め用意されている。
【0027】
データ取得部100は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、インタフェース15、18又は20による入力制御処理とが行われることで実現される。データ取得部100は、射出成形機4に取り付けられたセンサ5で検出された駆動部のモータ電流、電圧、トルク、位置、速度、加速度、金型内圧力、射出シリンダ426の温度、樹脂の流量、樹脂の流速、駆動部の振動や音等の物理量に係るデータを取得する。データ取得部100が取得する物理量に係るデータは、所定周期毎の物理量の値を示す、いわゆる時系列データであって良い。また、データ取得部100は、ネットワーク9を介して射出成形機4を制御する制御装置3から直接データを取得しても良い。データ取得部100は、外部機器72や、フォグコンピュータ6、クラウドサーバ7等が取得して記憶しているデータを取得しても良い。データ取得部100は、射出成形機4による1つの成形サイクルを構成する工程毎にそれぞれ物理量に係るデータを取得するようにしても良い。図4は、1つの成形品を製造する成形サイクルを例示する図である。図4において、網掛け枠の工程である型閉じ工程、型開き工程、突き出し工程は、型締ユニット401の動作で、白抜き枠の工程である射出工程、保圧工程、計量工程、減圧工程、冷却工程は、射出ユニット402の動作で行われる。データ取得部100は、これらの工程ごとに区別できるように物理量に係るデータを取得する。データ取得部100が取得した物理量に係るデータは、取得データ記憶部300に記憶される。
【0028】
データ抽出部110は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理が行われることで実現される。データ抽出部110は、データ取得部100が取得した物理量に係るデータから、機械学習装置2による推定処理等の機械学習に係る処理に用いるデータを取得データ記憶部300より抽出する。データ抽出部110によるデータの抽出は、統計条件記憶部310に記憶される統計条件に基づいて行われる。
【0029】
統計条件は、産業機械の現在の状態の推定結果をどのようにして算出するのかを定義する。統計条件は、産業機械に係る状態を判定する際に用いる複数の学習モデルの指定と、指定した学習モデルによる推定結果を数値変換して統計量を算出する統計関数とを少なくとも含む。統計条件は、産業機械の機種(規模等)や産業機械に取り付けられた機材の種類毎に作成されていてよい。統計条件に含める統計関数としては、例えば加重平均、算術平均、重み付き調和平均、調和平均、刈り込み平均、対数平均、二乗和平均平方根、最小値、最大値、中央値、加重中央値、最頻値等、判定する状態と、各学習モデルとの関係を考慮した所定の統計関数を設定できるようにして良い。例えば、産業機械の機種と、それぞれの学習モデルの推定結果との相関性に応じて重みを変化させた加重平均を用いるようにして良い。また、複数の学習モデルの推定結果の内の1つでも所定の状態(例えば異常状態)であることを示した時に、産業機械の状態が異常状態になったものと判定する場合には、複数の学習モデルの推定結果の内の最大値(又は最小値)を選択して用いるようにして良い。また、複数の学習モデルの推定結果の内に、推定結果の平均値より大きく外れている外れ値が含まれる場合に外れ値を除いて判定する場合には、複数の学習モデルの推定結果の中央値や最頻値を用いるようにしても良い。図5は、射出成形機の機種及びスクリュ径と統計関数とを関連付けた統計条件を例示する図である。図5の例では、例えば射出成形機(スクリュ径は任意)の機種が30t規模の場合、学習モデルa及び学習モデルbとの推定結果を用い、学習モデルaによる推定結果に対する重みを0.30、学習モデルbによる推定結果に対する重みを0.70とした加重平均を算出し、これを当該射出成形機の状態を判定するための推定値として定義している。また、100t規模の射出成形機であって、スクリュ径が30mmである場合、学習モデルa,b,cによる推定結果を用い、これらの推定結果の刈り込み平均を算出し、これを当該射出成形機の状態を判定する推定値として定義している。統計関数の演算に用いる学習モデルによる推定結果に係る重み等のパラメータは、上述したように重み等の固定値で定義しても良い。また、重み等のパラメータは、予め実験等で決められた所定の値(ハイパーパラメータ)を引数とする三角関数、双曲線関数、シグモイド関数等の関数を用いて算出するようにしても良い。例えば、50t規模の射出成形機であって、スクリュ径が25mmである場合、学習モデルa,bによる推定結果を用いて、これらの加重平均を算出する際にハイパーパラメータxを引数とする双曲線関数の一種であるtanh(x)を加重平均の重みを算出する関数f(x)とする。この場合、学習モデルaによる推定結果に対する重みは関数f(x)が算出した値、学習モデルbによる推定結果に対する重みの値は1-f(x)とした加重平均を算出し、これを当該射出成形機の状態を判定するための推定値として定義している。なお、図5の例にある学習モデルに係る重みを算出する関数f(x),g(x),h(x)は、上述した関数tanh(x)の他に、ハイパーパラメータxを引数とするsin(x)やcos(x)等の三角関数、シグモイド関数であっても良い。この時の関数の引数であるハイパーパラメータxについては、例えばオペレータが操作画面にて手動で設定したり、実験を行って予め定めるようにしてもよい。これにより、重み等のパラメータをアナログ的に調整しやすいメリットがある。また、重み等のパラメータは、ユーザ設定画面から直接設定できるようにしても良い。
【0030】
このような統計条件が記憶される統計条件記憶部310を参照することで、データ抽出部110は、産業機械に係る状態を判定するために必要な複数の学習モデルを特定する。そして、特定した複数の学習モデルにおける推定処理を実行するために必要なデータを、データ取得部100が取得したデータを記憶した取得データ記憶部300から抽出する。
【0031】
なお、図5の例では、射出成形機の機種及びスクリュ径毎の統計条件を示したが、例えば省エネ運転、安定性重視運転、生産性重視運転などのように稼働状況が異なる場合に異なる統計条件を設定したり、所定の製品を生産開始してからの所定期間(例えば、最初の100成形サイクル)とそれ以降を異なる状況と考えて異なる統計条件を設定したり、季節(夏季/冬季等)毎に統計条件を設定したりする等、判定対象の環境の状況毎に統計条件を作成しても良い。また、これらを組み合わせた状況を産業機械の運転条件として定義して、この運転条件に対して、それぞれ統計条件を作成しても良い。これは、例えば生産開始直後は、生産が安定せずに不良品の発生率が大きいため学習モデルによる推定値にばらつきが生じるのに対して、生産が安定した状態ではチョコ停などの異常も生じ難く、動作状態が推定値に安定して反映される。そのため、前者の場合には、生産品の精度を重視した学習モデルの重みを小さく、学習データのバラツキや変動の影響を受け難い(異常な状況に鈍感な)学習モデルの重みを大きくすることで学習モデルによる推定値のばらつきから生じる誤判定を軽減し、後者の場合には、生産品の精度を重視した学習モデルや、生産効率を重視した学習モデルの重みを大きくすることで、些細な異常が生じた場合であっても統計量(異常度)が即座に大きく変動するので、異常を早期発見できる。また、産業機械の動作は温度や湿度の影響を受けるので、季節ごとに実験を行い判定する対象となる状態に対する学習モデルの推定値の相関性を調べ、その結果に応じて学習モデルの推定値に対する重みを設定することで、判定の精度を向上させることができる。
このように、射出成形機の機種やスクリュ径など射出成形機の差異に対応した複数の学習モデルの推定結果を用いるように統計条件を定義することによって、学習モデルの作成に用いた射出成形機とは異なる種類の射出成形機の異常状態の判定を可能とする。
また、稼働状況や環境状況の差異に対応した複数の学習モデルの推定結果や、生産品の精度や生産効率の差異に対応した複数の学習モデルの推定結果を用いるように統計条件を定義することによって、多種多様な生産環境やオペレータの要望に対応した総合的な判定、汎用的な判定を可能とする。
【0032】
また、統計条件は図5に例示されるようなテーブル形式で表現しても良いが、例えば数式等の他の形式で表現するようにしても良い。いずれの表現を用いる場合においても、統計条件は、使用する複数の学習モデルと、該学習モデルによる推定結果に適用する統計関数とを関連づけて定義しておけば良い。これにより、複数の学習モデルの推定結果に統計関数を適用して算出した統計量に基づいて産業機械に係る状態を総合的に判定することが可能となる。
【0033】
推定指令部120は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、インタフェース21を用いた入出力処理が行われることで実現される。推定指令部120は、統計条件記憶部310を参照して、推定処理を行わせる学習モデルを特定する。そして、特定した学習モデルのそれぞれを用いた推定処理を実行するように機械学習装置2に指令する。
【0034】
数値変換部140は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行することによって、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、インタフェース21を用いた入出力処理が行われることで、実現される。数値変換部140は、統計条件記憶部310を参照して、機械学習装置2から取得した複数の学習モデルによる推定結果としての値を用いて統計関数の演算を行う。そして、その演算結果を産業機械に係る状態を判定するための推定値として出力する。数値変換部140が出力する推定値は、表示装置70に表示出力するようにしても良い。この時、推定値をそのまま表示出力するようにしても良いし、予め定めた閾値と比較した状態判定や、状態の分類判定を行い、その判定結果を出力するようにしても良い。また、動作状態の判定対象である射出成形機4の制御装置3や、ネットワーク9を介してフォグコンピュータ6やクラウドサーバ7等の上位装置に対して送信出力しても良い。
【0035】
一方、機械学習装置2が備える推定部207は、図1に示した機械学習装置2が備えるプロセッサ201がROM202から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてプロセッサ201によるRAM203、不揮発性メモリ204を用いた演算処理が行われることで実現される。推定部207は、推定指令部120からの指令に基づいて、学習モデル記憶部210の中から複数の学習モデル214を選択し、それぞれの学習モデル214を用いた推定処理を実行する。そして、複数の推定結果を数値変換部140へと出力する。
【0036】
学習モデル記憶部210には、予め複数の学習モデル214が記憶されている。学習モデル214は、予め作成した学習モデルを記憶させておく。それぞれの学習モデル214は、異なる状況で学習が行われたものであり、多種多様な異なる特徴をもつ。例えば、射出成形機の状態判定に用いる学習モデルは、成形サイクルの工程(射出工程、保圧工程、計量工程、減圧工程、冷却工程等)毎に異なる物理量に係るデータ(射出工程では射出速度と金型内圧力、計量工程ではスクリュ回転速度、スクリュトルク、シリンダ内圧力等)を取得して学習データとし、それぞれの工程ごと(動作状況ごと)に作成した学習モデルであって良い。射出成形機の状態判定に用いる学習モデルは、射出成形機を構成する機材の種類(モータ、ギア等)、生産材の種類、付帯設備の種類(金型、金型温調機、樹脂乾燥機等)等の構成の状況が異なるごとに物理量に係るデータを取得して学習データとし、それぞれの構成の状況ごとに作成した学習モデルであって良い。射出成形機の状態判定に用いる学習モデルは、射出成形機を動作させる生産環境(電力供給の安定性、夏季や冬季の季節要因)が異なるごとに物理量に係るデータを取得して学習データとし、それぞれの環境の状況ごとに作成した学習モデルであって良い。これらの状況の違いにより、それぞれの学習モデルには、好適な機種、好適な環境の差異が生じる。
【0037】
産業機械に係る状態判定に用いる学習モデルは、教師あり学習(多層パーセプトロン、回帰結合ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等)、教師なし学習(オートエンコーダ、k平均法、敵対的生成ネットワーク等)、強化学習(Q学習等)等の異なる学習方法のために作成されたものであって良い。また、それぞれのアルゴリズムにおける構成要素(ハイパーパラメータの種類や機械学習時の最適化関数の種類など)が異なるものであって良い。これらの違いにより、それぞれの学習モデルは、学習処理及び推定処理時の計算負荷(計算時間)、推定値の精度、学習データに対するロバスト性(安定性、頑健性)に差異が生じる。
【0038】
産業機械に係る状態判定に用いる学習モデルは、圧縮した状態で記憶させておき、演算時に解凍して使用しても良い。これにより、メモリを効率的に使用したり、少ないメモリ量で対応したりできるので、コスト削減のメリットがある。また、学習モデルを暗号化して記憶するようにしても良い。学習モデルを暗号化して記憶しておくと、セキュリティや情報秘匿の観点で好ましい。
【0039】
上記構成を備えた本実施形態による状態判定装置1を用いた推定処理の例を示す。この例では、予め学習モデル記憶部210に、学習モデルaと学習モデルbが少なくとも記憶されているものとする。学習モデルaは、30t規模の射出成形機から射出工程において取得された射出速度と金型内圧力の時系列データを学習データとし、その時の動作が正常であったか、或いは異常であったかを示すデータをラベルデータとした教師あり学習を行うことで作成されたものである。学習モデルbは、30t規模の射出成形機から計量工程において取得されたスクリュ回転速度、スクリュトルク、シリンダ内圧力の時系列データを学習データとし、その時の動作が正常であったか、或いは異常であったかを示すデータをラベルデータとした教師あり学習を行うことで作成されたものである。また、統計条件記憶部310には、図5に例示される統計条件が予め記憶されているものとする。この場合において、50t規模の射出成形機にスクリュ径が20mmのスクリュを取り付けた場合の動作状態の判定を行う。
【0040】
データ抽出部110は、判定対象となる射出成形機に一致する統計条件を参照して、推定に用いるデータとして射出工程における射出速度と金型内圧力の時系列データと、計量工程におけるスクリュ回転速度、スクリュトルク、シリンダ内圧力の時系列データとを、推定に用いるデータとして抽出する。
次いで、推定指令部120は、データ抽出部110が抽出したデータを用いて、学習モデルa及び学習モデルbのそれぞれを用いた射出成形機の動作状態の推定処理を行うように機械学習装置2に対して指令する。
【0041】
この指令を受けて、推定部207は学習モデル記憶部210に記憶された学習モデルa及び学習モデルbを用いて推定処理を行い、その推定結果としてそれぞれの異常度を数値変換部140へと出力する。
数値変換部140は、統計条件記憶部310を参照し、50t規模の射出成形機におけるスクリュ径が20mmである統計関数として、学習モデルaの推定結果に対して重み0.4、学習モデルbの推定結果に対して重み0.6とした加重平均関数を用いた演算を行う。例えば、学習モデルaによる異常度の推定結果が0.7、学習モデルbによる異常度の推定結果が0.5であった場合、数値変換部140は、0.4×0.7+0.6×0.5=0.58を、スクリュ径が20mmのスクリュを取り付けた50t規模の射出成形機の状態を判定するための統計量として出力する。こうして出力された統計量には学習モデルaと学習モデルbのそれぞれの推定結果が反映されているので、統計量によって射出成形機の総合的な異常度の判定が可能となる。また、予め設定されている異常度の閾値Theを統計量が超えている場合には、射出成形機の動作に異常が発生していると判定して警報を出力する。図8は、表示装置70に表示される画面に対して統計量を異常スコアとしてプロットし、警告のメッセージ「異常を検出しました。射出シリンダを点検して下さい。」を警報として出力した画面の表示例である。そして、射出成形機の運転を停止、減速したり、射出成形機の駆動部を駆動させる原動機の駆動トルクを制限したりするようにしても良い。
【0042】
次に、本実施形態による状態判定装置1を用いた他の推定処理の例を示す。この例では、予め学習モデル記憶部210に、学習モデルaと学習モデルbが少なくとも記憶されているものとする。学習モデルaは、30t規模の射出成形機から射出工程において取得された射出速度と金型内圧力の時系列データを学習データとし、その時に成形された製品に成形不良があった場合、その成形不良の種類(ヒケ:成形品が凹んだ不良、そり:残留応力による成形品の変形、焼け:成形品の変色、ボイド:空孔、クラック:成形品の割れやひび)に応じたベクトル値(例えばヒケの不良があり、他の不良が無い場合には(1,0,0,0,0))をラベルデータとした教師あり学習を行うことで作成されたものである学習モデルbは、30t規模の射出成形機から計量工程において取得されたスクリュ回転速度、スクリュトルク、シリンダ内圧力の時系列データを学習データとし、その時に成形された製品に成形不良があった場合、その成形不良の種類(ヒケ:成形品が凹んだ不良、そり:残留応力による成形品の変形、焼け:成形品の変色、ボイド:空孔、クラック:成形品の割れやひび)に応じたベクトル値をラベルデータとした教師あり学習を行うことで作成されたものである。また、統計条件記憶部310には、図5に例示される統計条件が予め記憶されているものとする。この場合において、50t規模の射出成形機にスクリュ径が20mmのスクリュを取り付けた場合の成形品の不良状態の判定を行う。
【0043】
データ抽出部110は、判定対象となる射出成形機にあった統計条件を参照して、推定に用いるデータとして射出工程における射出速度と金型内圧力の時系列データと、計量工程におけるスクリュ回転速度、スクリュトルク、シリンダ内圧力の時系列データとを、推定に用いるデータとして抽出する。
次いで、推定指令部は、データ抽出部110が抽出したデータを用いて、学習モデルa及び学習モデルbのそれぞれを用いた成形品の不良状態の推定処理を行うように機械学習装置2に対して指令する。
【0044】
この指令を受けて、推定部207は学習モデル記憶部210に記憶された学習モデルa及び学習モデルbを用いて推定処理を行い、その推定結果としてそれぞれの不良状態を示すベクトル値を数値変換部140へと出力する。
数値変換部140は、統計条件記憶部310を参照し、50t規模の射出成形機におけるスクリュ径が20mmである統計関数として、学習モデルaの推定結果に対して重み0.4、学習モデルbの推定結果に対して重み0.6とした加重平均関数を用いた演算を行う。例えば、学習モデルaによる成形品の不良状態を示すベクトル値の推定結果がya=(0.10,0.20,0.20,0.30,0.20)、学習モデルbによる成形品の不良状態のベクトル値を示す推定結果がyb=(0.20,0.10,0.30,0.20,0.20)であった場合、数値変換部140は、0.4×ya+0.6×yb=(0.16,0.14,0.26,0.24,0.20)を、成形品の不良状態を判定するための統計量として出力する。ここで、数値変換部140が出力した成形品の不良状態を示すベクトル値の中で最も大きな値である0.26はベクトル内で3番目に位置するので、成形品の不良状態(ヒケ:成形品が凹んだ不良、そり:残留応力による成形品の変形、焼け:成形品の変色、ボイド:空孔、クラック:成形品の割れやひび)としては、「焼け:成形品の変色」と判定される。また、予め設定されている成形品の不良状態の閾値Thbを統計量が超えている成形不良の種類がある場合には、成形不良が発生していると判定して警報を鳴らしても良い。
【0045】
上記構成を備えた本実施形態による状態判定装置1は、複数の学習モデルより得られた推測値に基づいて、統計処理された統計量が算出されることによって、産業機械に係る状態について総合的な判断が可能となる。また、すべての機種、構成、稼働状況や生産開始からの期間、環境状況等の運転条件等に対して学習モデルを用意しなくともよい。この場合、いくつかの代表的な機種、構成等における学習モデルを予め用意しておき、その学習モデルと、他の機種、構成、運転条件等との関係を実験等で確認して統計条件を予め作成しておくことで、膨大な学習データを収集しなくてもある程度の精度を保った推定処理を行うことが可能となる。これによって、機械学習装置の運用におけるコストを低減することが可能となる。
【0046】
また、作業者の安全を確保するために、複数の機械学習の出力として得られた異常度を統計処理して算出される統計量を基に、異常の状態を示す警告を表示装置に表示したり、統計量が所定の閾値を越えた場合に産業機械の運転を停止させたり、あるいは安全な状態で可動部が動作するように、可動部を駆動するモータを減速させたり、モータの駆動トルクを小さく制限することも可能となる。
【0047】
図6は、本発明の第2実施形態による状態判定装置1が備える機能を概略的なブロック図として示したものである。本実施形態による状態判定装置1が備える各機能は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11及び機械学習装置2が備えるプロセッサ201がそれぞれシステム・プログラムを実行し、状態判定装置1及び機械学習装置2の各部の動作を制御することにより実現される。
【0048】
本実施形態の状態判定装置1は、第1実施形態による状態判定装置1が備える各機能に加えて、更に学習指令部150を備える。また、機械学習装置2は、更に学習部206を備える。
【0049】
本実施形態によるデータ抽出部110は、推定処理を行う場合には第1実施形態によるデータ抽出部110と同様に機能する。一方、データ抽出部110は、オペレータ等から機械学習装置2による学習を進めるように指令されると、取得データ記憶部300から学習処理等の機械学習に係る処理に用いるデータを抽出する。データ抽出部110は、データ取得部100が取得したデータを記憶した取得データ記憶部300から、指定された1乃至複数の学習モデルの学習処理に必要とされるデータを抽出する。
【0050】
学習指令部150は、図1に示した状態判定装置1が備えるCPU11がROM12から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてCPU11によるRAM13、不揮発性メモリ14を用いた演算処理と、インタフェース21を用いた入出力処理が行われることで実現される。学習指令部150は、指定された1乃至複数の学習モデルのそれぞれについて、データ抽出部110が抽出したデータを用いた学習処理を実行するように機械学習装置2に指令する。
【0051】
一方、機械学習装置2が備える学習部206は、図1に示した機械学習装置2が備えるプロセッサ201がROM202から読み出したシステム・プログラムを実行し、主としてプロセッサ201によるRAM203、不揮発性メモリ204を用いた演算処理が行われることで実現される。学習部206は、学習指令部150からの指令に基づいて、学習モデル記憶部210の中から学習対象となる1乃至複数の学習モデル214を選択し、それぞれの学習モデル214を用いた学習処理を実行する。学習部206は、学習指令部150から指令された学習モデルが学習モデル記憶部210に記憶されていない場合に、新たに学習モデルを作成するようにしても良い。
【0052】
上記構成を備えた本実施形態による状態判定装置1は、オペレータからの指令に基づいて1乃至複数の学習モデル214の学習処理を進めることができる。学習を進めるために有用なデータが取得できた場合等に学習モデルを更新することで、推定処理における推定の精度をより向上させることが期待できる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
上記の実施形態では射出成形機を例に説明したが、状態判定の対象は他の産業機械であっても良い。例えば、工作機械では、主軸に組付ける切削工具、切削工具を冷却する加工液の種類や流量、ワーク材料、などに対応した複数の学習モデルより、主軸の異常度を判定しても良い。木工機械では、回転工具の種類、回転速度などに対応した複数の学習モデルより回転工具の異常度を判定しても良い。農業機械では、駆動部に掛かる駆動力、駆動部が備える機材、などに対応した複数の学習モデルより、駆動部の異常度を判定しても良い。建設機械や鉱山機械では、油圧シリンダに接続された油圧ホースの種類、原動機の出力、運転環境、などに対応した複数の学習モデルより、油圧シリンダの異常度を判定しても良い。
【0054】
また、上記の実施形態では機械学習装置2が状態判定装置1に内蔵された場合の実施形態について説明しているが、機械学習装置2は状態判定装置1とデータのやり取りが可能な状態で状態判定装置1の外部に設置しても良い。例えば、機械学習装置2をフォグコンピュータ6やクラウドサーバ7上に配置し、ネットワーク9を介して指令の送信や推定結果の受信を行うように構成しても良い。このように構成することで、機械学習装置2を複数の状態判定装置1で共有し、設置コストを低減させることが可能となる。
【0055】
更に、統計条件については、図7に例示されるように、オペレータの指定に基づいて設定できるようにしても良い。図7の例では、オペレータが統計関数として加重平均を指定し、その加重平均の重みとして学習モデル1(高精度モデル)による推定結果に対する重みを0.4(40%)、学習モデル2(高生産モデル)による推定結果に対する重みを0.6(60%)と指定する。これによって、指定された重みを用いて加重平均を算出し、この算出された加重平均を当該射出成形機の状態を判定する推定値として用いることを示す。その際には、どのような統計関数を用いるのか、統計関数のパラメータをどのように設定するのかも含めて、ユーザ設定画面上で指定できるようにして良い。このようにすることで、産業機械を用いているオペレータが、工場の環境などに合せて適切な統計条件を設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 状態判定装置
2 機械学習装置
3 制御装置
4 射出成形機
5 センサ
6 フォグコンピュータ
7 クラウドサーバ
9 ネットワーク
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 不揮発性メモリ
15,17,18,20,21 インタフェース
22 バス
70 表示装置
71 入力装置
72 外部機器
100 データ取得部
110 データ抽出部
120 推定指令部
140 数値変換部
150 学習指令部
201 プロセッサ
202 ROM
203 RAM
204 不揮発性メモリ
206 学習部
207 推定部
210 学習モデル記憶部
214 学習モデル
300 取得データ記憶部
310 統計条件記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8