(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】多関節型ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B25J19/00 C
B25J19/00 F
(21)【出願番号】P 2022563730
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041817
(87)【国際公開番号】W WO2022107704
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020193395
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 伯弥
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-85393(JP,A)
【文献】特開2013-6241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
該ベースに対して所定の軸線回りに±180°よりも小さい回転角度範囲にわたって回転可能に支持されたアームと、
該アームの前記回転角度範囲外において、前記ベースから前記軸線に平行に立ち上がる中空の支柱とを備え、
該支柱の内部を経由して前記ベースから前記アームに線条体が配線され、
前記支柱の側面に埋め込まれ、前記回転角度範囲を超えて回転した前記アームの側面を突き当てるストッパを備え
、
該ストッパに前記アームが接触したときに前記ストッパを変形させ、または該ストッパに前記アームが接触したことに応じて該アームを駆動するモータにブレーキをかけることにより、前記アームの運動エネルギを低減する多関節型ロボット。
【請求項2】
前記ストッパが、前記支柱の前記側面に着脱可能に取り付けられている請求項1に記載の多関節型ロボット。
【請求項3】
前記支柱の前記側面に、該支柱の内部空間に貫通する開口部が設けられ、
前記ストッパが、前記開口部を閉塞する位置に取り付けられている請求項2に記載の多関節型ロボット。
【請求項4】
前記ストッパと前記支柱との間に挟まれて前記開口部を全周にわたって密封するシール部材を備える請求項3に記載の多関節型ロボット。
【請求項5】
前記アームの側面または前記ストッパの表面の一方が、前記軸線に沿う方向の途中位置において外側に突出する凸形状を有し、他方が、前記軸線に沿う方向に凹凸のない平坦な形状を有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の多関節型ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多関節型ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、床面に設置されたベースの後方に中空の支柱を配置し、鉛直な軸線回りにベースに対して回転可能に支持されたアームに、支柱の内部を経由してケーブルを配線したスカラロボットが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
これらのスカラロボットにおいては、アームの旋回角度を制限するためのストッパが、アームの下面に締結されたボルト頭部と、ベースの側面に固定されたゴム製の弾性部とによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-140456号公報
【文献】特開2015-85393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可搬重量の大きいスカラロボットの場合には、ボルト頭部を利用したストッパでは、運動エネルギを十分に吸収することができない。また、大きな運動エネルギを吸収可能な大型のストッパを設置するスペースには限りがあり、アームの旋回角度範囲をより狭く制限してしまう場合がある。
したがって、アームの旋回角度範囲をより広く確保しながら、大きな運動エネルギを吸収可能なストッパを備える多関節型ロボットが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ベースと、該ベースに対して所定の軸線回りに±180°よりも小さい回転角度範囲にわたって回転可能に支持されたアームと、該アームの前記回転角度範囲外において、前記ベースから前記軸線に平行に立ち上がる中空の支柱とを備え、該支柱の内部を経由して前記ベースから前記アームに線条体が配線され、前記支柱の側面に埋め込まれ、前記回転角度範囲を超えて回転した前記アームの側面を突き当てるストッパを備え、該ストッパに前記アームが接触したときに前記ストッパを変形させ、または該ストッパに前記アームが接触したことに応じて該アームを駆動するモータにブレーキをかけることにより、前記アームの運動エネルギを低減する多関節型ロボットである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットを示す側面図である。
【
図2】
図1のロボットの第1アームの回転角度範囲と線条体配線用の支柱との位置関係を示す平面図である。
【
図3】
図1のロボットの支柱内への線条体の取付を説明する部分的な縦断面図である。
【
図4】
図3の線条体を支柱内に固定した状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図5】
図1のロボットの支柱と、支柱に組み込まれるストッパとを説明する部分的な斜視図である。
【
図6】
図1のロボットの支柱の凹部と、凹部に組み込まれるストッパおよびガスケットを示す縦断面図である。
【
図7】
図1のロボットのストッパとの関係を説明するストッパの側面図および第1アームの部分的な横断面図である。
【
図8】
図1のロボットのストッパの変形例を示す斜視図である。
【
図9】
図8のストッパと第1アームとの関係を説明するストッパの側面図および第1アームの部分的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係るロボット1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るロボット1は、
図1に示されるように、例えば、スカラロボットである。なお、本開示の構成はスカラロボットに限定されるものではなく、他の任意の軸構成の多関節型ロボットに適用することができる。
【0008】
本実施形態に係るロボット1は、床面に設置されるベース2と、鉛直な第1軸線A回りにベース2に対して回転可能に支持された第1アーム(アーム)3と、第1軸線Aに平行な第2軸線B回りに回転可能に支持された第2アーム4とを備えている。第2アーム4の先端には、鉛直な第3軸線Cに沿う方向に上下動および第3軸線C回りに回転駆動させられる、例えば、ボールネジスプラインシャフト5が設けられている。
【0009】
第1アーム3は、ベース2の上面に取り付けられている。第1アーム3は、
図2に実線で示されるように、ベース2に対して前方に延びる原点位置から、第1軸線A回りに±180°よりも小さい、例えば、±140°の回転角度範囲にわたって回転可能に支持されている。
ベース2には、第1アーム3の後方に離れた位置であって、
図2に鎖線で示す第1アーム3の回転角度範囲外の位置に、第1軸線Aに沿って鉛直方向にベース2の上面から立ち上がる支柱6が設けられている。
【0010】
支柱6は、ベース2に一体的に設けられ、支柱6の上部には、支柱6と第1アーム3との間に掛け渡される接続部7が設けられている。
ベース2、支柱6、接続部7および第1アーム3は中空構造を有している。また、第1アーム3の上面には、第1軸線A近傍に、接続部7の内部空間と第1アーム3の内部空間とを連絡する中空孔8が設けられている。
【0011】
接続部7は、支柱6の上部と第1アーム3の上面とを連結する連結部材9と、連結部材9の上部にボルトによって着脱可能に取り付けられるカバー部材10とを備えている。カバー部材10を連結部材9から取り外すことにより、支柱6の内部空間および第1アーム3の中空孔8を上方に露出させ、後述する線条体20の設置作業を容易にすることができる。
【0012】
線条体20は、ベース2の背面に設けられた配線板からベース2の内部、支柱6の内部および接続部7の内部を経由して中空孔8から第1アーム3内に導かれる。線条体20は、第2アーム4およびボールネジスプラインシャフト5を駆動するためのケーブルおよびボールネジスプラインシャフト5に取り付けられるツールを駆動するためのケーブルあるいはエアチューブ等を含んでいる。
【0013】
ロボット1に線条体20を設置するには、まず、連結部材9からカバー部材10が取り外された状態として、支柱6の内部空間および第1アーム3の中空孔8を露出させる。この状態で、支柱6の内部空間を経由してベース2側から線条体20を引き出し、
図3に示されるように、L字状の取付金具11に、ナイロンバンド等の結束具12により線条体20を結束する。そして、結束された状態の線条体20を、取付金具11とともに支柱6の内部空間内に戻し、
図4に示されるように、取付金具11を連結部材9に固定する。
【0014】
これにより、線条体20をロボット1に容易に固定することができる。なお、線条体20の先端側部分については、露出している第1アーム3の中空孔8から第1アーム3内に挿入し、より先端側に配置されている第2アーム4用のモータ13等に接続することにより、容易に設置することができる。
ベース2に対して第1アーム3を駆動するモータ14および減速機15は、ベース2内に配置され、第1軸線A上において、第1アーム3の下方から第1アーム3およびベース2に固定されている。
【0015】
本実施形態に係るロボット1は、
図5に示されるように、支柱6の側面に、ストッパ16を備えている。支柱6は、円筒状に形成され、第1軸線A回りの周方向の両側に、外周面の一部を切り欠いた形態の凹部6aをそれぞれ備えている。各凹部6aの底面は、それぞれ第1軸線Aに略平行な平面により構成されている。各凹部6aの底面には、支柱6の内部空間に連絡する開口部17と、開口部17の周囲に形成された複数のネジ孔18とが設けられている。
【0016】
各ストッパ16は、各凹部6aと相補的な形状を有し、各凹部6aに嵌め込まれた状態で各凹部6aを埋めて、支柱6の外周面である円筒面の一部となる円弧面からなる外面を有し、支柱6よりも肉厚の薄い金属材料により構成されている。各ストッパ16は、支柱6の各凹部6aに嵌め込まれることにより、各凹部6aの開口部17を閉塞し、ネジ孔18に締結される複数のボルト19によって、支柱6に着脱可能に取り付けられる。
【0017】
各ストッパ16と各凹部6aの底面との間には、
図5および
図6に示されるように、ガスケット(シール部材)21が挟まれている。ガスケット21を挟んだ状態で、各ストッパ16を各凹部6aに固定することにより、各凹部6aの開口部17が密封され、外部からの液体あるいは塵埃の支柱6内への侵入を防止することができる。
【0018】
各ストッパ16は、第1軸線Aに沿う方向の中央位置が、第1アーム3の側面の第1軸線Aに沿う方向の中央に一致する位置において支柱6の各凹部6aに埋め込まれている。
第1アーム3の両側面は、
図7の横断面に示されるように、第1アーム3の長さ方向の全長にわたって、第1軸線Aに沿う方向の中央に、最も外側に突出する稜線22を備えた凸形状を有している。凸形状は、例えば、174°~176°の角度で交差する2つの平面により構成されている。
第1アーム3の両側面の凸形状は、第1アーム3を鋳物で構成する場合の抜き勾配により構成されている。
【0019】
このように構成された本実施形態に係るロボット1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係るロボット1によれば、
図2に示されるように、通常の動作状態においては、第1アーム3は±140°の回転角度範囲内において動作し、第1アーム3の側面が支柱6のストッパ16に触れることはない。
【0020】
しかしながら、何らかの原因によってキャリブレーションが失われた場合等には、第1アーム3は通常の回転角度範囲を超えて動作することがあり、その結果、第1アーム3のいずれかの側面が、支柱6に埋め込まれたストッパ16に接触することが考えられる。
この場合には、第1アーム3の凸形状の側面は、最も突出した稜線22位置においてストッパ16に接触してこれを変形させる。そして、第1アーム3が停止するまでの間、第1アーム3の側面がストッパ16の外面に徐々にめり込んでいく。
【0021】
すなわち、第1アーム3の運動エネルギは、ストッパ16を変形させることによって吸収される。この場合において、本実施形態に係るロボット1によれば、第1アーム3が停止するまでには、第1アーム3の側面とストッパ16の外面とが広い範囲において接触する。したがって、ロボット1の可搬重量が大きく、あるいは動作速度が高い場合であっても、第1アーム3の運動エネルギを十分に吸収して、より確実に停止させることができるという利点がある。
【0022】
また、本実施形態に係るロボット1によれば、線条体20を配線するための支柱6にストッパ16を組み込んでいるので、支柱6の外側にストッパ16の設置のための空間を設ける必要がなく、第1アーム3の回転角度範囲が制限されることを最小限に抑えることができる。
また、ストッパ16を支柱6の凹部6aに、ボルト19によって着脱可能に取り付けているので、変形したストッパ16を容易に交換することができる。
【0023】
また、支柱6の凹部6aからストッパ16を取り外すことにより、凹部6aの底面に設けた開口部17を開放することができる。これにより、ベース2から支柱6の内部空間を経由して支柱6の上方に線条体20を取り出す作業および線条体20の配線作業を、開放された開口部17を利用して容易に行うことができるという利点がある。
【0024】
また、本実施形態に係るロボット1によれば、ストッパ16を支柱6の凹部6aに埋め込むことにより、支柱6の外周面とストッパ16の外面が滑らかに接続する単一の円筒面を構成するので、ストッパ16の上部に、液体や塵埃が溜まる段部が形成されないという利点がある。これにより、段部に溜まった液体や塵埃が取り扱うワークに付着するなどの問題の発生を低減することができる。特に、ワークが食品である場合に有効である。
【0025】
また、本実施形態においては、第1アーム3の後方において立ち上がる支柱6を経由して、第1アーム3の上面側から第1アーム3内に線条体20を配線しているので、第1アーム3下方の減速機15等を中空構造とする必要がない。これにより、ベース2の大型化およびコストアップを防止することができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、第1アーム3を鋳物により構成する場合の抜き勾配による側面の凸形状を利用して、ストッパ16の外周面を平坦な形状とした。これに代えて、
図8および
図9に示されるように、第1アーム3の側面を平坦な形状として、ストッパ16の外面を中央において最も外側に突出する凸形状としてもよい。
【0027】
この場合においても、
図8に示されるように、凹部6aに埋め込まれた状態のストッパ16の上縁を支柱6の外周面に一致させる形状とすることにより、上端に段差が生じないようにして、塵埃や液体が溜まることを防止することが好ましい。
【0028】
また、本実施形態においては、ストッパ16を金属材料により形成したが、金属材料は任意の種類のものを用いてもよい。また、金属材料に代えて、プラスチックあるいはゴム等の樹脂材料を使用してもよい。
【0029】
また、第1アーム3を接触させることによるストッパ16の変形により第1アーム3の運動エネルギを吸収することとしたが、これに加えて、第1アーム3がストッパ16に接触した衝撃を検出してモータにブレーキをかけることにより、運動エネルギを低減してもよい。
【0030】
また、本実施形態においては、支柱6を円筒状に形成したが、これに代えて、他の任意の筒状に形成してもよい。
また、凹部6aの底面に開口部17を設けたが、開口部17はなくてもよい。開口部17をなくすことにより、凹部6aの底面全体によってストッパ16を支持でき、より剛性の低い弾性材料等からなるストッパ16を用いた場合に好適である。
【0031】
また、本実施形態においては、ベース2に対して第1軸線A回りに回転する第1アーム3を停止させるストッパ16を例示したが、第1アーム3に対して第2アーム4を停止させるストッパ24についても同様の構造を採用してもよい。
すなわち、
図1に示されるように、第2アーム4の下面から下向きに、第2軸線Bに平行に中空の支柱23を立て、支柱23の端面と第1アーム3の下面とを中空の接続部25によって接続する。支柱
23の両側面には、第1アーム3に対して第2アーム4が回転角度範囲を超えて回転したときに、第1アーム3の側面を突き当てるストッパ24がそれぞれ組み込まれていればよい。
【0032】
第1アーム3内を通過してきた線条体20は、
図1に破線で示されるように、接続部25および支柱23の内部空間を経由して第2アーム4内に配置されている第2アーム4用のモータ13あるいはボールネジスプラインシャフト用のモータに接続される。図中、符号26は減速機である。
【符号の説明】
【0033】
1 ロボット(多関節型ロボット)
2 ベース
3 第1アーム(アーム)
6 支柱
16 ストッパ
17 開口部
20 線条体
21 ガスケット(シール部材)
A 第1軸線(軸線)