(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】張力推定装置、寿命評価装置及びロボットシステム
(51)【国際特許分類】
G01M 13/023 20190101AFI20240814BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01M13/023
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2022565302
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042594
(87)【国際公開番号】W WO2022113901
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020196020
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮太
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093360(JP,A)
【文献】特許第6694016(JP,B2)
【文献】特開2004-020388(JP,A)
【文献】特開2005-156394(JP,A)
【文献】米国特許第09205560(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/08
B25J 17/00
B25J 17/02
B25J 19/06
F16H 7/02
G01H 17/00
G01M 13/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトを介して動力を伝達する伝達機構と、
前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つのモータと、
前記少なくとも1つのモータの電流値及び回転速度のうちの少なくとも1つに基づいて、モータ発熱量を算出するモータ発熱量算出部と、
前記少なくとも1つのモータの電流値、回転速度及び前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つの軸の摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて、前記伝達機構の摩擦発熱量を算出する摩擦発熱量算出部と、
前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量に基づいて、前記ベルトの張力を推定するベルト張力推定部と、
前記伝達機構の移動速度に基づいて、空冷放熱量を算出する空冷放熱量算出部と、を備え、
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量、前記摩擦発熱量、及び前記空冷放熱量に基づいて、下記ベルト張力推定式によって前記ベルトの張力を推定する、張力推定装置。
【数1】
T;ベルトの推定張力
T
0
;ベルトの初期張力
F
n
;第nモータによって駆動する軸の摩擦発熱量
M
n
;第nモータのモータ発熱量
V
wcp
;伝達機構の移動速度率
m;任意の組み合わせの整数
a,b,c,d;係数
【請求項2】
前記ベルト張力推定式において、前記ベルトの初期張力と前記係数とのうちの少なくとも一方は、室温によって変化するパラメータである、請求項
1に記載の張力推定装置。
【請求項3】
前記ベルト張力推定式において、前記ベルトの初期張力と前記係数とのうちの少なくとも一方は、経時又は稼働時間によって変化するパラメータである、請求項
1又は
2に記載の張力推定装置。
【請求項4】
前記モータ発熱量、前記摩擦発熱量、及び前記空冷放熱量に基づいて、前記伝達機構の温度を推定する伝達機構温度推定部をさらに備え、
前記ベルト張力推定部は、前記伝達機構温度推定部によって推定された前記伝達機構の温度に基づいて、前記ベルトの張力を推定する、請求項
1~3のいずれか1項に記載の張力推定装置。
【請求項5】
前記伝達機構は、前記ベルトの張力変化に応じて寿命が変化する部材からなる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の張力推定装置。
【請求項6】
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量を用いた機械学習によって、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量から前記ベルトの張力を推定するための学習済みモデルを生成する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の張力推定装置。
【請求項7】
前記機械学習によって生成された前記学習済みモデルを記憶する記憶部を備え、
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量に基づいて、前記記憶部に記憶された前記学習済みモデルを用いて、前記ベルトの張力を推定する請求項
6に記載の張力推定装置。
【請求項8】
前記機械学習は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量を入力データとし、前記ベルトの張力の実測値をラベルとしてお互いに関連付けた教師データを用いた教師あり学習である、請求項
6又は
7に記載の張力推定装置。
【請求項9】
ベルトを介して動力を伝達する伝達機構と、
前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つのモータと、
前記少なくとも1つのモータの電流値及び回転速度のうちの少なくとも1つに基づいて、モータ発熱量を算出するモータ発熱量算出部と、
前記少なくとも1つのモータの電流値、回転速度及び前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つの軸の摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて、前記伝達機構の摩擦発熱量を算出する摩擦発熱量算出部と、
前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量に基づいて、前記ベルトの張力を推定するベルト張力推定部と、
を備える張力推定装置と、
前記張力推定装置によって推定された前記ベルトの張力に基づいて、前記伝達機構の寿命を推定する寿命推定部と、を備える、寿命評価装置。
【請求項10】
前記張力推定装置は、前記伝達機構の移動速度に基づいて、空冷放熱量を算出する空冷放熱量算出部をさらに備え、
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量、前記摩擦発熱量、及び前記空冷放熱量に基づいて、前記ベルトの張力を推定する、請求項9に記載の寿命評価装置。
【請求項11】
前記ベルト張力推定部は、下記ベルト張力推定式によって前記ベルトの張力を推定する、請求項10に記載の寿命評価装置。
【数2】
T;ベルトの推定張力
T
0
;ベルトの初期張力
F
n
;第nモータによって駆動する軸の摩擦発熱量
M
n
;第nモータのモータ発熱量
V
wcp
;伝達機構の移動速度率
m;任意の組み合わせの整数
a,b,c,d;係数
【請求項12】
前記ベルト張力推定式において、前記ベルトの初期張力と前記係数とのうちの少なくとも一方は、室温によって変化するパラメータである、請求項11に記載の寿命評価装置。
【請求項13】
前記ベルト張力推定式において、前記ベルトの初期張力と前記係数とのうちの少なくとも一方は、経時又は稼働時間によって変化するパラメータである、請求項11又は12に記載の寿命評価装置。
【請求項14】
前記張力推定装置は、前記モータ発熱量、前記摩擦発熱量、及び前記空冷放熱量に基づいて、前記伝達機構の温度を推定する伝達機構温度推定部をさらに備え、
前記ベルト張力推定部は、前記伝達機構温度推定部によって推定された前記伝達機構の温度に基づいて、前記ベルトの張力を推定する、請求項10に記載の寿命評価装置。
【請求項15】
前記伝達機構は、前記ベルトの張力変化に応じて寿命が変化する部材からなる、請求項9~14のいずれか1項に記載の寿命評価装置。
【請求項16】
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量を用いた機械学習によって、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量から前記ベルトの張力を推定するための学習済みモデルを生成する、請求項9~15のいずれか1項に記載の寿命評価装置。
【請求項17】
前記張力推定装置は、前記機械学習によって生成された前記学習済みモデルを記憶する記憶部を備え、
前記ベルト張力推定部は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量に基づいて、前記記憶部に記憶された前記学習済みモデルを用いて、前記ベルトの張力を推定する請求項16に記載の寿命評価装置。
【請求項18】
前記機械学習は、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量を入力データとし、前記ベルトの張力の実測値をラベルとしてお互いに関連付けた教師データを用いた教師あり学習である、請求項16又は17に記載の寿命評価装置。
【請求項19】
前記寿命推定部によって推定された前記伝達機構の寿命に基づいて、前記伝達機構の残存寿命を算出する残存寿命算出部をさらに備える、請求項
9~18のいずれか1項に記載の寿命評価装置。
【請求項20】
前記寿命推定部によって推定された前記伝達機構の寿命に基づいて、前記伝達機構の推定交換日を算出する交換日算出部をさらに備える、請求項
9~19のいずれか1項に記載の寿命評価装置。
【請求項21】
複数のモータと、複数の可動部と、前記複数のモータのうちの少なくとも1つの動力をベルトを介して前記複数の可動部のうちの少なくともいずれかに伝達する1以上の伝達機構と、を有するロボットと、
前記ロボットの前記複数のモータを制御する制御装置と、
請求項
9~
20のいずれか1項に記載の寿命評価装置と、を備える、ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力推定装置、寿命評価装置及びロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットにおいては、ロボットの駆動系の寿命を推定することによって、ロボットが故障する前に、故障を予見することが重要である。例えば、特許文献1には、ロボットを構成する構成部材の温度を推定することによって、構成部材の寿命を精度良く評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
垂直多関節ロボット等の多軸を備えるロボットとして、モータの動力を、ベルトを介して可動部に伝達する伝達機構を備えるものが知られている。このような伝達機構にベルトを有するロボットにおいては、ロボットの動作によって、ロボットを構成する部材の温度が上昇すると、部材(主に鋳物等の金属)が膨張することによってベルトの軸間距離が大きくなる。その結果、ベルトの張力が上昇し、伝達機構を含む駆動系の寿命が低下するおそれがある。そのため、ベルトを介してモータの動力を可動部に伝達する伝達機構を備える機械においては、動作によって生じるベルトの張力変化を考慮した上で、駆動系の寿命を推定する必要がある。
【0005】
したがって、ベルトの張力を精度良く推定することができる張力推定装置、ベルトの張力から伝達機構の寿命を精度良く評価できる寿命評価装置及びロボットシステムが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の張力推定装置の一態様は、ベルトを介して動力を伝達する伝達機構と、前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つのモータと、前記少なくとも1つのモータの電流値及び回転速度のうちの少なくともいずれか1つに基づいて、モータ発熱量を算出するモータ発熱量算出部と、前記少なくとも1つのモータの電流値、回転速度及び前記ベルトに近接して配置される少なくとも1つの軸の摩擦係数のうちの少なくともいずれか1つに基づいて、前記伝達機構の摩擦発熱量を算出する摩擦発熱量算出部と、前記モータ発熱量及び前記摩擦発熱量に基づいて、前記ベルトの張力を推定するベルト張力推定部と、を備える。
【0007】
本開示の寿命評価装置の一態様は、前記張力推定装置と、前記張力推定装置によって推定された前記ベルトの張力に基づいて、前記伝達機構の寿命を推定する寿命推定部と、を備える。
【0008】
本開示のロボットシステムの一態様は、複数のモータと、複数の可動部と、前記複数のモータのうちの少なくともいずれかの動力をベルトを介して前記複数の可動部のうちの少なくともいずれかに伝達する1以上の伝達機構と、を有するロボットと、前記ロボットの前記複数のモータを制御する制御装置と、前記寿命評価装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
一態様によれば、ベルトの張力を精度良く推定することができる張力推定装置、ベルトの張力から伝達機構の寿命を精度良く評価できる寿命評価装置、及び、これらを備えるロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ロボットシステムの一実施形態を示す全体構成図である。
【
図2】
図1に示すロボットの第2アーム部の内部構成を示す図である。
【
図3】ロボットシステムにおける張力推定装置及び寿命評価装置の第1実施形態を示す構成ブロック図である。
【
図4】ロボットシステムにおける張力推定装置及び寿命評価装置の第2実施形態を示す構成ブロック図である。
【
図5】ロボットシステムにおける張力推定装置及び寿命評価装置の第3実施形態を示す構成ブロック図である。
【
図6】伝達機構の温度とベルトの張力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の張力推定装置、寿命評価装置及びロボットシステムの実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、ロボットシステム1は、ロボット2と、ロボット2を制御するロボット制御装置3と、ロボット制御装置3に接続された表示部4と、を備える。
【0012】
本実施形態のロボット2は、複数の可動部を備える垂直多関節ロボットである。詳しくは、ロボット2は、可動部としてのJ1軸2a、J2軸2b、J3軸2c、J4軸2d、J5軸2e、J6軸2fの6つの軸を有する6軸垂直多関節ロボットである。ロボット2は、床面等に設置される基部21と、基部21上に設けられる第1旋回部22と、第1旋回部22に取り付けられる第1アーム部23と、第1アーム部23に取り付けられる第2旋回部24と、第2旋回部24に取り付けられる第2アーム部25と、第2アーム部25の先端に取り付けられる手首ユニット26と、を有する。
【0013】
第1旋回部22は、基部21に対して、J1軸2aによって水平方向に回転可能である。第1アーム部23は、第1旋回部22に対して、J2軸2bによって前後方向に揺動可能である。第2旋回部24は、第1アーム部23に対して、J3軸2cによって上下方向に揺動可能である。第2アーム部25は、第2旋回部24に対して、J4軸2dによって、第2アーム部25の長手方向の軸周りに回転可能である。手首ユニット26は、第2アーム部25に対して、J5軸2eによって上下方向に揺動可能であり、且つ、J6軸2fによって、J5軸2eに交差する軸周りに回転可能である。
【0014】
ロボット2は、J1軸2aからJ6軸2fをそれぞれ駆動するためのモータ(
図1においては図示せず)と、モータの動力を各軸に伝達する伝達機構とを軸毎にそれぞれ備えている。例えば、
図2は、ロボット2の第2アーム部25の内部を示している。第2アーム部25の内部には、J5軸2eの周りに手首ユニット26を揺動させるJ5軸モータ5が配置されている。J5軸モータ5の動力は、伝達機構6を介してJ5軸2eに伝達される。
【0015】
伝達機構6は、J5軸モータ5の出力軸5aに取り付けられる第1プーリ61と、J5軸2eに取り付けられる第2プーリ62と、第1プーリ61及び第2プーリ62に架け渡されるベルト63と、第2プーリ62の回転を減速させる減速機64と、を有する。出力軸5a及びJ5軸2eは、それぞれ軸受(図示せず)によって回転可能に支持されている。これらの伝達機構6における軸受(図示せず)は、ベルトの張力変化に応じて寿命が変化する部材である。
【0016】
なお、
図2に示すように、第2アーム部25の内部には、J5軸モータ5に近接して、J6軸2fを駆動するためのJ6軸モータ7も設けられている。J6軸モータ7の動力は、図示しない伝達機構を介して、J6軸2fに伝達される。さらに、
図1に示すように、第2旋回部24には、J4軸2dを駆動するためのJ4軸モータ8が設けられている。
【0017】
ロボット2が備える伝達機構の寿命は、伝達機構が配置される構成部位の温度の影響を受ける。例えば、
図2に示す第2アーム部25内の伝達機構6の場合、伝達機構6の寿命は、第2アーム部25自体の温度の影響を受ける。すなわち、ロボット2が駆動することによって第2アーム部25の温度が上昇すると、第2アーム部25を構成する部材(主に鋳物等の金属)が膨張し、
図2に示すJ5軸モータ5の出力軸5aとJ5軸2eとの軸間距離Lが大きくなる。それに伴って、ベルト63の張力が大きくなり、第1プーリ61及び第2プーリ62に掛かる負荷が増大する。その結果、伝達機構6の寿命が低下する。
【0018】
ロボット2の構成部位の温度上昇は、その構成部位の内部に配置されるモータが発する熱のみならず、構成部位に近接して配置される他の構成部位が発する熱によっても、発生し得る。例えば、
図2に示す第2アーム部25の場合、第2アーム部25の温度上昇は、第2アーム部25の内部に配置されるJ5軸モータ5が発する熱の他に、J6軸2fを駆動するJ6軸モータ7が発する熱、摩擦部位であるJ4軸2d、J5軸2e及びJ6軸2fのそれぞれの動作によって生じる摩擦熱によっても、発生し得る。したがって、第2アーム部25内の伝達機構6のベルト63の張力及び伝達機構6の寿命を推定する際には、ベルト63に近接して配置されるこれらの構成部位が発する熱も考慮する必要がある。
【0019】
ロボット制御装置3は、ロボット2に電気的に接続され、ロボット2の動作を統括的に制御する。ロボット制御装置3は、ロボット2のモータ等の各部を制御する制御装置31と、ロボット2の伝達機構6に設けられるベルト63の張力を推定する張力推定装置32と、ロボット2の伝達機構6の寿命を推定する寿命評価装置33と、を有する。
【0020】
表示部4は、例えば液晶表示画面によって構成される。表示部4は、ロボット制御装置3に有線又は無線によって接続され、ロボット制御装置3から送信される各種情報を画面表示する。
【0021】
次に、ロボット制御装置3に設けられる張力推定装置32及び寿命評価装置33について
図3を参照して説明する。
図3に示すように、張力推定装置32は、モータ発熱量算出部321と、摩擦発熱量算出部322と、空冷放熱量算出部323と、ベルト張力推定部324と、を有する。
【0022】
モータ発熱量算出部321は、制御装置31から入力されるモータの状態量に基づいて、モータ発熱量を算出する。モータ発熱量算出部321には、張力推定対象であるベルトに近接して配置される少なくとも1つのモータのモータ電流値及びモータ回転速度のうちの少なくとも1つが、制御装置31から入力される。本実施形態では、
図3に示すように、モータ電流値及びモータ回転速度の両方の値が制御装置31から入力されるように構成されている。
【0023】
なお、ベルトに近接して配置されるモータとは、モータの駆動によって生じる熱がベルトの張力に影響を与えるほどにベルトの近くに配置されるモータのことである。例えば、
図2に示すロボット2の第2アーム部25の場合、ベルト63の近くにJ5軸モータ5及びJ6軸モータ7が配置されている。ベルト63の張力は、これらのJ5軸モータ5及びJ6軸モータ7の発熱の影響を受ける。したがって、第2アーム部25のベルト63の張力を推定する場合には、J5軸モータ5及びJ6軸モータ7のモータ電流値及びモータ回転速度のうちの少なくとも1つがモータ発熱量算出部321に入力される。
【0024】
モータ発熱量算出部321は、入力されるモータ電流値及びモータ回転速度のうちの少なくとも1つに基づいて、下記式(1)によって、算出対象である軸を駆動するモータのモータ発熱量を算出する。
Mn=a×Cn+b×Vn+c×(Vn)2 ・・・(1)
Mn;Jn軸モータのモータ発熱量[W]
Cn;Jn軸モータのモータ電流値[Ap]
Vn;Jn軸モータのモータ回転速度[rpm]
a,b,c;係数
【0025】
摩擦発熱量算出部322は、制御装置31から入力されるモータ電流値、モータ回転速度及び張力推定対象であるベルトに近接して配置される少なくとも1つの軸の摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて、伝達機構における摩擦発熱量を算出する。摩擦発熱量算出部322に入力されるモータ電流値及びモータ回転速度は、張力推定対象であるベルトに近接して配置される少なくとも1つのモータのモータ電流値及びモータ回転速度である。例えば、
図2に示すロボット2の第2アーム部25の場合では、J5軸モータ5及びJ6軸モータ7のモータ電流値及びモータ回転速度である。軸は、駆動によって摩擦熱を発生する部位である。例えば、
図2に示すロボット2の第2アーム部25の場合では、J4軸2d、J5軸2e及びJ6軸2fの駆動によって発生する摩擦熱が、ベルト63の張力に影響を与える可能性がある。
【0026】
図3に示すように、摩擦発熱量算出部322には、上記したモータ電流値、モータ回転速度及び軸の摩擦係数のうちの少なくとも1つが、制御装置31から入力される。軸の摩擦係数は、各軸に固有の値であり、制御装置31の図示しない記憶部に、軸毎の値として予め記憶されている。摩擦発熱量算出部322は、これらのモータ電流値、モータ回転速度及び摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて、下記式(2)によって、伝達機構における摩擦発熱量を算出する。
F
n=k
1×C
nV
n+k
2×V
n+k
3×(V
n)
2 ・・・(2)
F
n;Jn軸モータによって駆動する軸の摩擦発熱量[W]
C
n;Jn軸モータのモータ電流値[Ap]
V
n;Jn軸モータのモータ回転速度[rpm]
k;摩擦係数
【0027】
空冷放熱量算出部323は、伝達機構の移動速度に基づいて、伝達機構の空冷放熱量を算出する。空冷放熱量は、ロボット2の動作によってアーム部が空気中で移動することによって、周辺空気との間に相対速度が発生するために生じる放熱量である。空冷放熱量は、伝達機構の移動速度率(Vwcp)に比例する。伝達機構の移動速度率(Vwcp)は、下記式(3)によって算出される。ロボット2において、J1軸2a~J6軸2fの微小角度変化量より、アーム部の速度は一意に定まる。
Vwcp=(アーム部の特定位置の速度)/(アーム部の特定位置の最高速度) ・・・(3)
【0028】
ベルト張力推定部324は、モータ発熱量算出部321によって算出されたモータ発熱量と、摩擦発熱量算出部322によって算出された摩擦発熱量と、空冷放熱量算出部323によって算出された空冷放熱量とに基づいて、下記式(4)に示すベルト張力推定式によって伝達機構におけるベルトの張力を算出する。T
0及びa,b,c,dは、ロボット2の動きに依存しない機種固有の係数である。
【数1】
T;ベルトの推定張力
T
0;ベルトの初期張力
F
n;Jn軸モータによって駆動する軸の摩擦発熱量[W]
M
n;Jn軸モータのモータ発熱量[W]
V
wcp;伝達機構の移動速度率
m;任意の組み合わせの整数
a,b,c,d;係数
【0029】
例えば、ロボット2において、第2アーム部25の伝達機構6のベルト63の張力は、ベルト63に近接して配置されるJ5軸モータ5及びJ6軸モータ7のモータ発熱量と、ベルト63に近接して配置される軸であるJ4軸2d、J5軸2e及びJ6軸2fの摩擦発熱量との影響を受ける。したがって、この場合では、上記式(4)において、モータ発熱量Mは、J5軸モータ5及びJ6軸モータ7のモータ発熱量が使用され、摩擦発熱量Fは、J4軸2d、J5軸2e及びJ6軸2fの摩擦発熱量が使用される。
【0030】
ここで、ロボット2が、以下の動作をしたときの第2アーム部25内の伝達機構6のベルト63の張力を推定する場合について説明する。
【表1】
【0031】
このようなロボット2の動作において、J5軸2eを駆動するJ5軸モータ5のモータ発熱量M5と、J6軸2fを駆動するJ6軸モータ7のモータ発熱量M6とは、a=0.5、b=0.005、c=0.000005であるとき、式(1)から、M5=25[W]、M6=22.5[W]である。
【0032】
また、J4軸2dにおいて、モータ電流速度の平均に対する摩擦係数ka4が0.005、モータ平均回転速度に対する摩擦係数kb4が0.10、モータ回転速度2乗平均に対する摩擦係数kc4が0.0001であるとき、式(2)から、J4軸2dの摩擦発熱量F4=450[W]である。同様にして、J5軸2eにおいて、モータ電流速度の平均に対する摩擦係数ka5が0.0001、モータ平均回転速度に対する摩擦係数kb5が0.02、モータ回転速度2乗平均に対する摩擦係数kc5が0.00001であるとき、J5軸2eの摩擦発熱量F5=54.4[W]である。J6軸2fにおいて、モータ電流速度の平均に対する摩擦係数ka6が0.001、モータ平均回転速度に対する摩擦係数kb6が0.08、モータ回転速度2乗平均に対する摩擦係数kc6が0.00001であるとき、J6軸2fの摩擦発熱量F6=153.8[W]である。
【0033】
これらの値を式(4)に代入すると、ベルト63の張力Tが得られる。なお、式(4)において、T0=150[N]、m1=4・5・6、m2=5・6、m3=4・5・6、a4=0.1、a5=0、a6=1.2、b5=0.5、b6=0.5、c=0.8、d=-0.5、Vwcp=0.1であるとき、ベルト63の張力T=200.8[N]と推定される。これによって、張力推定装置32は、ベルトの張力を精度良く推定することができる。
【0034】
式(4)のベルト張力推定式において、ベルトの初期張力T
0と係数a,b,c,dとのうちの少なくとも一方は、室温によって変化するパラメータである。ベルト張力推定式に室温によって変化するパラメータを含むことによって、室温を考慮したベルトの張力を推定することができる。そのため、ベルトの張力をより精度良く推定することができる。室温は、
図3に示すように、ロボット制御装置3に設けられる室温入力部34によって入力される。室温入力部34による室温の入力は、オペレータの手入力によって行われるようにしてもよいし、温度センサ(図示せず)の検出値が自動的に入力されるようにしてもよい。
【0035】
また、式(4)のベルト張力推定式において、ベルトの初期張力T
0と係数a,b,c,dとのうちの少なくとも一方は、ロボット2の経時又は稼働時間によって変化するパラメータであってもよい。ベルトの張力は経時変化によって低下する場合があるためである。ロボット2の稼働時間は、
図3に示すように、制御装置31からベルト張力推定部324に入力される。例えば、ロボット2が稼働した後の1時間[h]毎のベルトの張力低下をA[N/h]とすると、経時変化を含むベルトの推定張力は、下記式(5)によって算出することができる。
T’=T
0-At ・・・(5)
T’;経時変化を含むベルトの推定張力[N]
T
0;ベルトの初期張力[N]
A;1h当たりの経時変化[N/h]
t;稼働時間[h]
【0036】
これによって、式(4)のベルト張力推定式の係数がロボット2の経時又は稼働時間に応じて補正される。したがって、ベルト張力推定式にロボット2の経時又は稼働時間によって変化するパラメータを含むことによって、ロボット2の経時又は稼働時間を考慮したベルトの張力を推定することができる。そのため、ベルトの張力をより精度良く推定することができる。
【0037】
また、経時変化によるベルトの推定張力は、簡易的に下記式(6)によって算出してもよい。
T’=f(t)×T ・・・(6)
T’;経時変化を含むベルトの推定張力[N]
T;ベルトの推定張力[N]
f(t);稼働時間に依存する係数
【0038】
寿命評価装置33は、
図3に示すように、上記の張力推定装置32を含み、さらに、寿命推定部331と、残存寿命算出部332と、交換日算出部333とを有する。
【0039】
寿命推定部331は、張力推定装置32のベルト張力推定部324によって推定された張力推定値に基づいて、伝達機構の寿命を推定する。例えば、
図2に示す第2アーム部25の伝達機構6の場合、張力推定装置32によって推定されたベルト63の張力推定値から、伝達機構6の寿命を推定する。
【0040】
一般に、伝達機構の寿命は、ベルトの張力の3乗に比例するといわれている。寿命推定部331は、張力推定装置32によって得られたベルトの張力推定値に基づいて、下記式(7)によって伝達機構の寿命を推定する。例えば、ベルトの張力が250[N]であるときに、10000[h]稼働させると寿命が100[%]に到達する伝達機構の場合、ベルトの張力推定値が200[N]で5000[h]稼働した場合の伝達機構の寿命進行率(寿命推定値)は、下記式(7)から26[%]になる。これによれば、寿命推定部331は、現在の伝達機構の寿命が26%に達していると推定することができる。
【数2】
S
g;伝達機構の寿命推定値[%]
T;ベルトの推定張力[N]
t;稼働時間[h]
【0041】
残存寿命算出部332は、寿命推定部331によって算出された伝達機構の寿命推定値に基づいて、伝達機構の残存寿命を算出する。これによれば、寿命評価装置33は、伝達機構の残存寿命がどれ位であるのかをオペレータに通知することができる。詳しくは、残存寿命算出部332は、寿命推定部331によって算出された伝達機構の寿命推定値に基づいて、下記式(8)によって伝達機構の残存寿命Srを算出する。
Sr=100-Sg[%] ・・・(8)
Sr;残存寿命[%]
Sg;伝達機構の寿命推定値[%]
【0042】
残存寿命算出部332によって算出された残存寿命の情報は、表示部4に送られ、表示部4に表示される。表示部4は、残存寿命算出部332から送られた残存寿命の値そのものを表示してもよいし、算出された残存寿命の値が予め設定された閾値より小さくなった場合に警告を表示するようにしてもよい。残存寿命の値が閾値より小さくなったかどうかを判別する機能は、残存寿命算出部332が有してもよいし、表示部4が有してもよい。
【0043】
交換日算出部333は、寿命推定部331によって算出された伝達機構の寿命推定値に基づいて、伝達機構の推定交換日を算出する。これによれば、寿命評価装置33は、伝達機構が壊れる前に、伝達機構の交換日の目安をオペレータに通知することができる。詳しくは、交換日算出部333は、寿命推定部331によって算出された伝達機構の寿命推定値に基づいて、下記式(9)によって伝達機構の交換日(推奨交換日)を算出する。交換日算出部333によって算出された交換日の情報は、表示部4に送られ、表示部4に表示される。但し、伝達機構の交換日の算出方法は、下記式(9)に限定されるものではなく、他の任意の近似計算法を採用してもよい。
【数3】
D;交換日までの日数[日]
S
g(d);d日前の伝達機構の寿命推定値[%]
S
g(0);現在の伝達機構の寿命推定値[%]
S
g0;残存寿命の交換ライン[%]
a:係数
【0044】
以上のように、寿命評価装置33は、張力推定装置32によって得られたベルトの張力推定値から、伝達機構の寿命を精度良く評価することができる。寿命評価装置33は、張力推定装置32によって得られるベルトの張力に基づいて伝達機構の寿命を評価するため、ベルトの張力の増大によって伝達機構に掛かる負荷を考慮した精度の良い寿命を評価することができる。
【0045】
張力推定装置32のベルト張力推定部324は、モータ発熱量算出部321によって算出されるモータ発熱量と、摩擦発熱量算出部322によって算出される摩擦発熱量とを用いた機械学習によって、モータ発熱量及び摩擦発熱量からベルトの張力を推定するための学習済みモデルを生成するようにしてもよい。これによれば、種々のパターンのモータ発熱量及び摩擦発熱量のデータに基づく学習済みモデルを用いて、ベルトの張力を精度良く推定することが可能である。
【0046】
ベルト張力推定部324が学習済みモデルを生成する場合は、
図4に示すように、張力推定装置32は、機械学習によって生成された学習済みモデルを記憶する記憶部325を備えてもよい。この場合、ベルト張力推定部324は、モータ発熱量及び摩擦発熱量に基づいて、記憶部325に記憶された学習済みモデルを用いて、ベルトの張力を推定することができる。これによれば、記憶部325に記憶された学習済みモデルを用いたベルトの張力が推定されるため、最初から学習済みモデルを生成しなくても、ベルトの張力をさらに精度良く推定することができる。
【0047】
機械学習は、モータ発熱量及び摩擦発熱量を入力データとし、ベルトの張力の実測値をラベルとして互いに関連付けた教師データを用いた教師あり学習であってもよい。これによれば、ベルトの張力の実測値を正解として用いることによって、入力データに対するベルトの張力をより精度良く推定することができる。ベルトの張力の実測値は、
図4に示すように、ロボット制御装置3に設けられる実測値入力部35によって、オペレータの手入力によって入力される。
【0048】
なお、
図6に示すように、ベルトの張力と温度とは1対1の関係を有する。そのため、張力推定装置32のベルト張力推定部324は、上記式(4)を用いてベルトの張力推定値を算出することに代えて、伝達機構の温度からベルトの張力を推定してもよい。この場合の張力推定装置32は、
図5に示すように、伝達機構温度推定部326を備えることができる。
【0049】
伝達機構温度推定部326は、モータ発熱量算出部321によって算出されるモータ発熱量と、摩擦発熱量算出部322によって算出される摩擦発熱量と、空冷放熱量算出部323によって算出される空冷放熱量とに基づいて、下記式(10)によって伝達機構の温度を推定する。
【数4】
T
p;伝達機構の推定温度
T
r;室温
F
n;Jn軸モータによって駆動する軸の摩擦発熱量[W]
M
n;Jn軸モータのモータ発熱量[W]
W
1;空冷放熱量
W
2;他の発生源の発熱量
a,b,c,d,e,f,g;係数
m;任意の組み合わせの整数
【0050】
ベルト張力推定部324は、伝達機構温度推定部326によって推定された伝達機構の温度に基づいて、
図6のグラフからベルトの張力を推定する。これによれば、ベルトの張力を簡易的に推定することができる。伝達機構温度推定部326を備える張力推定装置32も、
図4に示した張力推定装置32と同様に、機械学習によって学習済みモデルを生成する構成を備えてもよい。
【0051】
以上の各実施形態において、モータ発熱量算出部321は、モータ電流値とモータ回転速度とに基づいてモータ発熱量を算出した。しかし、モータ発熱量算出部321は、モータ電流値とモータ回転速度とのうちの少なくとも一方に基づいて、モータ発熱量をより簡易的に算出してもよい。
【0052】
また、以上の各実施形態において、摩擦発熱量算出部322は、モータ電流値とモータ回転速度と伝達機構6の摩擦係数とに基づいて、伝達機構6における摩擦発熱量を算出した。しかし、摩擦発熱量算出部322は、モータ電流値とモータ回転速度と伝達機構6の摩擦係数とのうちの少なくとも一つに基づいて、伝達機構6における摩擦発熱量を簡易的に算出してもよい。
【0053】
以上の各実施形態において、張力推定装置32は、空冷放熱量算出部323を有しない簡易的な装置であってもよい。さらに、ベルト張力推定部324は、モータ発熱量と摩擦発熱量との2つの発熱量に基づいてベルトの張力を簡易的に推定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ロボットシステム
2 ロボット(機械)
2a J1軸(可動部)
2b J2軸(可動部)
2c J3軸(可動部)
2d J4軸(可動部)
2e J5軸(可動部)
2f J6軸(可動部)
31 制御装置
32 張力推定装置
321 モータ発熱量算出部
322 摩擦発熱量算出部
324 ベルト張力推定部
323 空冷放熱量算出部
325 記憶部
326 伝達機構温度推定部
33 寿命評価装置
331 寿命推定部
332 残存寿命算出部
333 交換日算出部
5 J5軸モータ(第1のモータ)
7 J6軸モータ(第2のモータ)
6 伝達機構
63 ベルト