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特許7538264PCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法
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  • 特許-PCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】PCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20240814BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240814BHJP
   E01D 19/06 20060101ALI20240814BHJP
   E01C 11/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 Z
E01D19/06
E01C11/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023006035
(22)【出願日】2023-01-18
(65)【公開番号】P2024101864
(43)【公開日】2024-07-30
【審査請求日】2024-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 英男
(72)【発明者】
【氏名】稲益 茜
(72)【発明者】
【氏名】浦川 洋介
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183404(JP,A)
【文献】特開2007-177436(JP,A)
【文献】特開昭61-155504(JP,A)
【文献】特開2012-225144(JP,A)
【文献】特開2010-071059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/06-19/12
E01D 21/00-22/00
E01C 11/02-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の伸縮装置の伸縮遊間部を挟んで対向する橋桁側及び橋台側の両側の床版が一体化されたPCa伸縮床版を吊り上げ設置するためのPCa伸縮床版の架設治具であって、
格子状に組まれた鋼材からなり、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する架設治具フレームと、前記架設治具フレームから下方に突出する接合ピースを備え、
前記架設治具フレームは、前記接合ピースを介して前記PCa伸縮床版の最上面以外の箇所で接合されていること
を特徴とするPCa伸縮床版の架設治具。
【請求項2】
前記架設治具フレームは、前記伸縮装置のフェイスプレートのボルト孔にも接合されていること
を特徴とする請求項1に記載のPCa伸縮床版の架設治具。
【請求項3】
前記架設治具フレームは、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する下側鋼材と、前記下側鋼材に直交するように組まれた上側鋼材と、を有し、
少なくとも前記下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のPCa伸縮床版の架設治具。
【請求項4】
前記下側鋼材の橋台の端部の上面にも、嵩上げピースが接合されていること
を特徴とする請求項3に記載のPCa伸縮床版の架設治具。
【請求項5】
橋梁の伸縮装置の伸縮遊間部を挟んで対向する橋桁側及び橋台側の両側の床版が一体化されたPCa伸縮床版を橋梁の遊間部に架設して設置するPCa伸縮床版の架設方法であって、
請求項1に記載のPCa伸縮床版の架設治具を前記PCa伸縮床版に接合した状態で前記PCa伸縮床版の高さ調整を行って前記遊間部に架設して設置すること
を特徴とするPCa伸縮床版の架設方法。
【請求項6】
前記架設治具フレームは、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する下側鋼材と、前記下側鋼材に直交するように組まれた上側鋼材と、を有し、
前記下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されており、
前記PCa伸縮床版と隣接する他のPCa床版上にジャッキを設置して、前記ジャッキで前記嵩上げピースを押し下げして高さ調整を行うこと
を特徴とする請求項5に記載のPCa伸縮床版の架設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の床版取替工事では、図7(a)に示すように、橋梁の遊間部の橋桁側(主桁側)にプレキャスト床版(以下、PCa床版10という)を設置する端部床版据付工程を行った後、図7(b)に示すように、橋台側のパラペットにコンクリートを打ち増し、図7(c)に示すように、伸縮装置2を設置し、2次コンクリートを打設していた。このため、コンクリートを打設する度に、養生期間が必要となり、床版取替工事において伸縮装置設置工程が長期化し、床版取替工事全体の工期短縮の障害となっていた。
【0003】
そこで、近年、床版取替工事において、現場での伸縮装置設置工程の工期を短縮する観点から、橋梁の床版間に一定間隔で設けられる伸縮装置を工場製作時にPCa床版と一体で製作する工法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、橋台3に支持された橋梁端部から、その橋台3の背面の土工路盤30上に延長された延長床版10を有し、その延長床版10の先端を、土工路盤30上に設置した固定床版11に一体成型された延長床版受け部11a上に滑動可能に載荷させ、固定床版11と延長床版10との間に伸縮装置13を備え、延長床版10は、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版15をもって構成し、そのプレキャストコンクリート版15間を非接着の突合せ接合構造とした橋梁と土工部分の伸縮連結構造が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0018]~[0027]、図面の図1図3等参照)。
【0005】
この特許文献1の橋梁と土工部分の伸縮連結構造は、延長床版を、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版をもって構成し、該プレキャストコンクリート版間を非接着の突合せ接合構造とし、該プレキャストコンクリート版間を道路軸方向に向けたアンボンドPC緊張材をもって緊張することによって連結したことにより、土工部分の路盤の沈下や不陸の発生、更には活荷重による橋梁の屈伸の繰り返しに対して、柔軟にしかも局部的に急激な折れ曲がり段差が生じることなく順応することとなり、従来のようにひび割れなどの損傷が発生せず、車の走行性を大きく損なわないとされている。
【0006】
また、特許文献2には、温度変化等による道路橋軸方向の伸縮を吸収する構成にした橋脚上の道路継目部構築工法において、前記道路継目部30を、前側主桁12a側の床版2aの端部から接続部36aを介して後側主桁12b側に延設されているプレキャスト製の前側延長床版32aと、後側主桁12b側の床版21bの端部から接続部36bを介して前側主桁12a側に延設されているプレキャスト製の後側延長床版32bと、該前側延長床版32aと後側延長床版32bとの間に配設された伸縮装置33をとから構成し、これらが通し桁18を基盤とし、該通し桁18上に敷き並べる橋脚上の道路継目部構築工法が開示されている(特許文献2の明細書の段落[0019]~[0027]、図面の図1図2等参照)。
【0007】
この特許文献2の道路継目部構築工法は、道路継目部において、前後の横桁に掛け渡された通し桁を基盤とし、該通し桁上に前後の延長床版及び伸縮装置を配設し、これら前後の延長床版及び伸縮装置の実効上の耐荷重強度を増加させているので、走行車両の輪荷重を受けても発生する段差を減少させることができる。これにより、車両走行時における振動及び騒音が無くなり、周辺環境及び二輪車等の安全走行性を改善することができる。また、道路継目部におけるひび割れを防いで維持管理コストを低減することもできる。さらに、伸縮装置の隙間を大きく確保しても道路継目部の段差はさほど大きくならないので、該隙間を大きく確保して道路橋軸方向の伸縮を十分に吸収することが可能になるとされている。
【0008】
さらに、特許文献3には、橋台と、地盤上の延長部に延びる延長部との間に伸縮装置を設けた延長床版タイプの伸縮継手部材3および4は舗装部5の厚さ内に配置され、伸縮継手部材3と4の対向する側の側部に互いに噛み合う櫛形部3aと4aが設けられ、櫛形部3aと4aの互いに噛み合う位置を、桁遊間部2を挟んで床版部1Aまたは1Bの一方に偏って設けられ、伸縮継手部材の橋軸方向の側部に配置された一定長の舗装部は、舗装材からなるプレキャスト版によって形成されてた延長舗装タイプの伸縮装置が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1,6、明細書の段落[0025]~[0047]、図面の図3図4等参照)。
【0009】
この特許文献3の延長舗装タイプの伸縮装置は、伸縮継手部材が床版部または橋台部の上に配置されているため、車両通過時の騒音や振動、輪荷重による伸縮継手部材の変形、さらには伸縮継手部から床版部下への漏水による橋桁等の劣化を抑制することができるとされている。
【0010】
特許文献1~3に記載された伸縮装置の伸縮遊間部を挟んで対向するPCa床版同士が一体された床版(以下、PCa伸縮床版という)は、吊り上げ時に、伸縮遊間部での変形を抑制できるような吊り上げ方法や架設治具(吊上げ治具)、及び運搬方法の開発が必要である。しかし、特許文献1~3には、伸縮遊間部での変形を抑制できるような吊り上げ方法や架設治具、及び運搬方法については何ら言及されていない。
【0011】
また、床版の高さ調整は、通常高さ調整ボルト等で行うが、調整ボルトのためのボルト孔を設けると後からモルタル等で埋める必要があるため、その境界部が耐久性の面で問題となることが懸念されている。このため、最終的な仕上がりで露出する伸縮部のコンクリート表面にボルト孔となるインサートや金具が設けられていないことが要望されている。その上、PCa伸縮床版は、伸縮遊間部を挟んで対向する2つのPCa床版の高さ調整をそれぞれ行う必要であり、設置作業や高さ調整作業に手間と時間がかかってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-240348号公報
【文献】特開2015-71059号公報
【文献】特開2021-25251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、吊上げ及び運搬時に伸縮遊間部での変形を抑制できるとともに、設置時にジャッキでそのまま高さ調整できて工期を短縮できるPCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係るPCa伸縮床版の架設治具は、橋梁の伸縮装置の伸縮遊間部を挟んで対向する橋桁側及び橋台側の両側の床版が一体化されたPCa伸縮床版を吊り上げ設置するためのPCa伸縮床版の架設治具であって、格子状に組まれた鋼材からなり、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する架設治具フレームと、前記架設治具フレームから下方に突出する接合ピースを備え、前記架設治具フレームは、前記接合ピースを介して前記PCa伸縮床版の最上面以外の箇所で接合されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に係るPCa伸縮床版の架設治具は、請求項1に係るPCa伸縮床版の架設治具において、前記架設治具フレームは、前記伸縮装置のフェイスプレートのボルト孔にも接合されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係るPCa伸縮床版の架設治具は、請求項1又は2に係るPCa伸縮床版の架設治具において、前記架設治具フレームは、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する下側鋼材と、前記下側鋼材に直交するように組まれた上側鋼材と、を有し、少なくとも前記下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係るPCa伸縮床版の架設治具は、請求項3に係るPCa伸縮床版の架設治具において、前記下側鋼材の橋台の端部の上面にも、嵩上げピースが接合されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係るPCa伸縮床版の架設方法は、橋梁の伸縮装置の伸縮遊間部を挟んで対向する橋桁側及び橋台側の両側の床版が一体化されたPCa伸縮床版を橋梁の遊間部に架設して設置するPCa伸縮床版の架設方法であって、請求項1に記載のPCa伸縮床版の架設治具を前記PCa伸縮床版に接合した状態で前記PCa伸縮床版の高さ調整を行って前記遊間部に架設して設置することを特徴とする。
【0019】
請求項6に係るPCa伸縮床版の架設方法は、請求項5に係るPCa伸縮床版の架設方法において、前記架設治具フレームは、前記PCa伸縮床版の両側の最上面に当接する下側鋼材と、前記下側鋼材に直交するように組まれた上側鋼材と、を有し、前記下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されており、前記PCa伸縮床版と隣接する他のPCa床版上にジャッキを設置して、前記ジャッキで前記嵩上げピースを押し下げして高さ調整を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1~4に係る発明によれば、吊上げ及び運搬時に伸縮遊間部での変形を抑制できるとともに、設置時にそのまま吊り上げてジャッキ等でそのまま高さ調整でき、床版取替工事の伸縮装置設置工程を短縮することができる。
【0021】
特に、請求項2に係る発明によれば、架設治具フレームは、伸縮装置のフェイスプレートのボルト孔にも接合されているので、さらに吊上げ及び運搬時に伸縮遊間部での変形を抑制することができる。
【0022】
特に、請求項3に係る発明によれば、下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されているので、隣接するPCa床版上にジャッキを設置することができ、ジャッキで精密に高さ調整を行うことが容易となる。
【0023】
特に、請求項4に係る発明によれば、下側鋼材の橋台側の端部の上面にも、嵩上げピースが接合されているので、橋台側にも高さスペースが足りない場合にもジャッキを設置することができ、ジャッキで精密に高さ調整を行うことが容易となる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、架設治具で伸縮遊間部での変形を抑制しつつ運搬して現場に搬入できるとともに、そのまま架設治具ごとPCa伸縮床版を吊り上げて、架設治具で高さ調整を行って橋梁の遊間部にPCa伸縮床版を設置することができる。このため、床版取替工事において、現場での伸縮装置設置工程を短縮することができる。
【0025】
特に、請求項6に係る発明によれば、下側鋼材の橋桁側の端部の上面には、嵩上げピースが接合されているので、隣接するPCa床版上にジャッキを設置することができ、ジャッキで精密に高さ調整を行うことが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版を示す斜視図である。
図2図2は、同上のPCa伸縮床版を示す側面図である。
図3図3は、同上のPCa伸縮床版の吊上げ時の問題点を示す説明図であり、(a)がそのまま吊上げる場合、(b)鋼材をあてがう場合を示している。
図4図4は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版の架設治具を示す斜視図である。
図5図5は、同上のPCa伸縮床版の架設治具を示す側面図である。
図6図6は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法を説明するための説明図であり、(a)が高さ調整工程を示す説明図であり、(b)が充填材充填工程を示す工程説明図である。
図7図7は、従来の床版取替工事の工程説明図であり、(a)が端部床版据付工程を示し、(b)が橋台端部施工工程を示し、(c)が伸縮装置設置工程及び2次コンクリート打設工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るPCa伸縮床版の架設治具及びPCa伸縮床版の架設方法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
<PCa伸縮床版>
先ず、図1図2を用いて、本発明の実施形態に係るPCa伸縮床版10について説明する。図1は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版10を示す斜視図であり、図2は、PCa伸縮床版10を示す側面図である。
【0029】
図1図2に示すように、本実施形態に係るPCa伸縮床版10は、橋桁側(主桁側)のプレキャスト床版である第1床版11と、橋台側のプレキャスト床版である第2床版12を有し、これらの第1床版11と第2床版12との間の遊間部G1に伸縮装置13が一部埋設されて設置されている。つまり、PCa伸縮床版10は、伸縮装置13の伸縮遊間部(G1)を挟んで対向する第1床版11と第2床版12とが伸縮装置13を介して一体化されている。
【0030】
この伸縮装置13は、フィンガージョイントタイプの伸縮装置であり、鋼板からなるフィンガープレートである左右一対のフェイスプレートを有しており、第1フェイスプレート131が第1床版11に図示しない誘導板ごと埋設され、第2フェイスプレート132が第2床版12に図示しない誘導板ごと埋設されており、第1フェイスプレート131と第2フェイスプレート132は、フィンガージョイント部分で一定距離離間しおり、第1床版11と第2床版12との温度変化に伴う位置変動を許容する構成となっている。
【0031】
勿論、本発明に係る伸縮装置は、図示したフィンガージョイントタイプの荷重支持型の伸縮装置に限られず、ゴムジョイントタイプの突き合わせ型の伸縮装置とすることができる。伸縮装置の伸縮遊間部(伸縮装置の遊間部)を挟んで対向する橋桁側及び橋台側の両側の床版が一体化されたPCa伸縮床版には、本発明を適用することができるからである。
【0032】
但し、伸縮装置13は、伸縮自在のゴム材からなる止水板133を有しており、止水板133の一端が第1床版11に固定され、他端が第2床版12に固定されている。つまり、第1床版11と第2床版12とは、伸縮装置13を介して一体化されているものの、コンクリートとしては別体であるため、図3(a)に示すように、PCa伸縮床版10を揚重機等で吊り上げた場合、第1床版11と第2床版12の間の遊間部G1を境に反対方向に回転モーメントが作用してしまう。
【0033】
そこで、図3(b)に示すように、PCa伸縮床版10の上面に鋼材をあてがって固定し、回転モーメントが作用しないように吊り上げることが考えられる。図3は、PCa伸縮床版10の吊上げ時の問題点を示す説明図であり、(a)がそのまま吊上げる場合、(b)鋼材をあてがう場合を示している。
【0034】
しかし、伸縮装置13のフェイスプレート(第1フェイスプレート131,第2フェイスプレート132)の上面及びこれと面一な第1床版11と第2床版12の最上面11a,12aは、最終的に車両が走行する橋梁の仕上げ面として舗装されずに露出する面である。そのため、PCa伸縮床版10を吊り上げるためのインサートや吊り金具を設置すると設置後に斫り取ったり、モルタル等の充填材で埋めたりするなどの後処理が必要になる。
【0035】
そこで、本実施形態に係るPCa伸縮床版10は、最終的に露出する第1床版11と第2床版12の最上面11a,12aには、吊上げ用のインサートや吊り金具は設けられていない。つまり、後で詳述するように、舗装下となる第1床版11の段部上面11b及び第2床版12の橋台側の側面12bにインサート(図示せず)が埋設されている。
【0036】
また、伸縮装置13のフェイスプレート(第1フェイスプレート131,第2フェイスプレート132)(図示形態では、幅1m)は、プレキャスト床版である第1床版11と第2床版12のコンクリート打設時に既成品の鋼板の一部である誘導板等をプレキャストコンクリートに埋設するため、プレキャストコンクリートが硬化するまでの間フェイスプレートを吊り下げ支持する必要がある。そこで、第1フェイスプレート131及び第2フェイスプレート132には、吊下げ支持するための雌ねじが形成されたボルト孔131a,132aが各フェイスプレートの両端部にそれぞれ穿設されている。
【0037】
なお、図1図2に示すように、第1床版11の他のPCa床版との間詰め部側には、第1床版11の配筋のピッチに応じた所定ピッチで上下二段の複数の先端拡径鉄筋14(エンドバンド(登録商標)鉄筋)が突設されている。この先端拡径鉄筋14は、異形鋼棒14aの先端に筒状の筒状鋼材14bがカシメ止められて圧着されており、筒状鋼材14bの支圧力で異形鋼棒14aへのコンクリートの付着力を補い、間詰め部の間隔を狭くするためのものである。
【0038】
また、同様に第2床版12の下面には、橋台のパラペットと接合するための増打ち部の間隔(高さ)を狭く(低く)するために、先端拡径鉄筋15が突設されている。
【0039】
[PCa伸縮床版の架設治具]
次に、図4図5を用いて、本発明の実施形態に係るPCa伸縮床版の架設治具1(以下、単に架設治具1ともいう)について説明する。図4は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版の架設治具1を示す斜視図であり、図2は、PCa伸縮床版の架設治具1を示す側面図である。
【0040】
図4図5に示すように、PCa伸縮床版の架設治具1は、鋼材が格子状に組まれた架設治具フレーム2を基体とする治具であり、PCa伸縮床版10の最上面11a,12aに当接することで前述の吊上げ及び運搬時に伸縮装置13の遊間部G1での変形を抑制する機能を有している。また、PCa伸縮床版の架設治具1は、後述のように、PCa伸縮床版10を橋梁の遊間部に設置する際の高さ調整治具としても機能する。
【0041】
((架設治具フレーム))
架設治具フレーム2は、前述のPCa伸縮床版10の両側(第1床版11と第2床版12)の最上面11a,12aに当接する所定ピッチで配置された複数本(図示形態では5本)の下側鋼材3,・・・,3と、下側鋼材3に直交するように組まれた複数本(図示形態では2本)の上側鋼材4と、から構成されている。
【0042】
(下側鋼材)
図4図5に示すように、下側鋼材3は、図示形態では前述のPCa伸縮床版10の橋軸方向の奥行に応じた2350mmのH形鋼であり、この下側鋼材3の橋桁側の端部3aの上面には、嵩上げピース5が接合されている。
【0043】
この嵩上げピース5も、下側鋼材3と同様に、図示形態ではH形鋼であり、嵩上げピース5の下フランジが、嵩上げピース5の端部が下側鋼材3の橋桁側の端部3aの上フランジの上面から突出した状態で溶接又はボルトやリベット等の機械的接合により接合されている。後述のように、隣接するPCa床版の上面からの上方距離を稼いでジャッキを載置するスペースを確保するためである。
【0044】
なお、図4図5に一点鎖線で示すように、下側鋼材3の橋台側の端部3bの上面にも、嵩上げピース5と同等のH形鋼等の鋼材からなる嵩上げピース5’が接合されていてもよい。橋台側にもジャッキを設置するスペースが足りない場合があるからである。
【0045】
また、図5に示すように、下側鋼材3の下フランジの側面には、下側鋼材3(架設治具フレーム2)から下方に突出する第1接合ピース6が溶接等で接合されている。この第1接合ピース6は、前述の第1床版11の段部上面11bに埋設されたインサートと接合するためのピースである。
【0046】
そして、図4図5に示すように、下側鋼材3の下フランジの側面には、下側鋼材3(架設治具フレーム2)から下方に突出する第2接合ピース7も溶接等で接合されている。この第2の接合ピース7は、前述の第2床版12の橋台側の側面12bに埋設されたインサートと接合するためのピースである。
【0047】
(上側鋼材)
図4図5に示すように、上側鋼材4は、図示形態ではPCa伸縮床版10の幅に応じた10m程度のH形鋼であり、上側鋼材4の上フランジの上面には、架設治具1ごと前述のPCa伸縮床版10を吊り上げるための左右一対の吊りピース41,41が溶接等で接合されている。この上側鋼材4は、架設治具1及びその架設治具1に接合されたPCa伸縮床版10を架設治具1ごと吊り上げる際にPCa伸縮床版10が撓んでPCa伸縮床版10の機能を損なわないように所定の剛性と強度を確保する機能を有してる。図示形態では、上側鋼材4として一本もののH形鋼を例示したが、中央でスプライスプレートで接合された分割されたH形鋼から構成してもよいことは言うまでもない。
【0048】
この吊りピース41は、揚重機等で吊り上げる際にワイヤロープ等を掛け止めるためのピースであり、中央にシャックル等を挿通するための吊り孔41aが穿設されている。
【0049】
なお、上側鋼材4の下フランジが、下側鋼材3の上フランジに溶接等で接合されており、上側鋼材4が撓んで複数本の各下側鋼材3のレベルが大きく違わないように、上側鋼材4を構成するH形鋼は、下側鋼材3のH形鋼より大きなサイズとなっている。
【0050】
[PCa伸縮床版の架設方法]
次に、図6を用いて、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法を説明する。図6は、本発明の実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法を説明するための説明図であり、(a)が高さ調整工程を示す説明図であり、(b)が充填材充填工程を示す工程説明図である。
【0051】
PCa伸縮床版10は、図6(a)に示すように、PCa伸縮床版10に架設治具1を接合した状態で工場等から現場に搬入される。具体的には、架設治具1の第1接合ピース6が、PCa伸縮床版10の第1床版11の段部上面11bに埋設されたインサートにボルト接合され、第2接合ピース7が、第2床版12の橋台側の側面12bに埋設されたインサートにボルト接合される。
【0052】
しかも、PCa伸縮床版10は、架設治具1の下側鋼材3が、伸縮装置13の第1フェイスプレート131及び第2フェイスプレート132のボルト孔131a,132aにも接合されている。このため、運搬時においてもPCa伸縮床版10が振動等で伸縮遊間部G1が伸縮して止水板133等が変形して損傷することを抑制することができるだけでなく、吊上げ時においてもPCa伸縮床版10が撓んで伸縮装置13等が損傷することを抑制することができる。
【0053】
そして、PCa伸縮床版10は、架設治具1が接合された状態で架設治具1の吊りピース41を用いてワイヤー等で架設治具1と一緒にPCa伸縮床版10を吊り上げ、そのまま橋梁の橋桁側と橋台側との間の遊間部G1に設置する。
【0054】
それに加え、図6(a)に示すように、架設治具1の下側鋼材3の長さは、PCa伸縮床版10の橋軸方向の長さより十分長く、橋桁側の端部3aは、コンクリート等を充填する間詰め部を超え、隣接する他のPCa床版100の上方に達している。また、構台側の端部3bは、橋台のパラペット部分を超え、道路地盤の上方の広いスペースがある領域に達している。このため、油圧ジャッキ等を設置するスペースが確保し易い。
【0055】
その上、下側鋼材3の橋桁側の端部3aの上面には、嵩上げピース5が接合されているので、隣接する他のPCa床版100の上に油圧ジャッキを載置する高さを確保することができる。
【0056】
本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法では、図6(a)に示すように、矢印方向にジャッキで直接架設治具1を押し上げ、又は反対方向に下降させることでPCa伸縮床版10を高さ調整して、PCa伸縮床版10の水平を調整する。ジャッキで重量物であるPCa伸縮床版10を押し上げて傾きや高さを調整することができるため、短時間で精密に高さ調整を行うことができ、PCa伸縮床版10を正確に水平に設置することができる。
【0057】
しかも、このとき、PCa伸縮床版10は、伸縮装置13のフェイスプレート(第1フェイスプレート131,第2フェイスプレート132)の上面及びこれと面一な第1床版11と第2床版12の最上面11a,12aが架設治具1の下側鋼材3の下フランジに当接して支えられている。このため、図3で示した回転モーメントを防いで最上面の水平が狂うことを阻止することができる。よって、PCa伸縮床版10の設置工程を大幅に短縮することができる。
【0058】
その後、本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法では、図6(b)に示すように、橋台のパラペットとPCa伸縮床版10との間に鉄筋を配筋して型枠を設置し、モルタル等の充填材を充填・硬化させることでPCa伸縮床版10の設置工程が完了し、架設治具1を撤去する。
【0059】
以上説明した本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設治具1及び本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法によれば、運搬時においてもPCa伸縮床版10が振動等で伸縮遊間部G1が伸縮して止水板133等が変形して損傷することを抑制することができるだけでなく、吊上げ時においてもPCa伸縮床版10が撓んで伸縮装置13等が損傷することを抑制することができる。
【0060】
また、下側鋼材3の橋桁側の端部3aの上面には、嵩上げピース5が接合されているので、隣接する他のPCa床版100の上に油圧ジャッキを載置する高さを確保することができ、ジャッキの反力を水平で頑丈なPCa床版100から得ることができる。このため、PCa伸縮床版10の設置工程を大幅に短縮することができる。
【0061】
それに加え、本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設治具1及び本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法によれば、ジャッキで重量物であるPCa伸縮床版10を押し上げて傾きや高さを調整することができるため、短時間で精密に高さ調整を行うことができ、PCa伸縮床版10を正確に水平に設置することができる。このため、床版取替工事の伸縮装置設置工程を短縮することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態に係るPCa伸縮床版の架設治具及び本実機形態に係るPCa伸縮床版の架設方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0063】
1:架設治具(PCa伸縮床版の架設治具)
2:架設治具フレーム
3:下側鋼材
3a:橋桁側の端部
3b:橋台側の端部
4:上側鋼材
41:吊りピース
41a:吊り孔
5,5’:嵩上げピース
6:第1接合ピース(接合ピース)
7:第2接合ピース(接合ピース)
10:PCa伸縮床版
11:第1床版
11a:最上面
11b:段部上面
12:第2床版
12a:最上面
12b:橋台側の側面
13:伸縮装置
131:第1フェイスプレート
131a:ボルト孔
132:第2フェイスプレート
132a:ボルト孔
G1:伸縮遊間部(遊間部)
14:先端拡径鉄筋
14a:異形鋼棒
14b:筒状鋼材
15:先端拡径鉄筋
100:PCa床版
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7