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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023071488
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2020510858の分割
【原出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2023083559
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018064008
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 侑右
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】竹村 知晃
(72)【発明者】
【氏名】山崎 望
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-512521(JP,A)
【文献】特開2012-050538(JP,A)
【文献】国際公開第00/74579(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00 - A61B 18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なシャフト部と、
前記シャフト部の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体と、を有し、
前記拡張体は、前記シャフト部に連結された複数の線材部と、少なくとも1つの前記線材部によって形成され生体組織を把持する基端側把持部と先端側把持部とを有し、
前記拡張体の拡張時に、前記基端側把持部と前記先端側把持部とが嵌り合う、または、周方向に交互に位置し、
前記拡張体は、前記生体組織に形成された貫通孔に挿通された状態で拡張することにより、前記基端側把持部と前記先端側把持部とで前記生体組織を把持すると共に、径方向にさらに拡張することにより、前記貫通孔を径方向に押し広げるように構成されている医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織にエネルギーを付与する維持処置要素を備える医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患の一つとして、慢性心不全が知られている。慢性心不全は、心機能の指標に基づいて収縮不全と拡張不全に大別される。拡張不全に罹患した患者は、心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下する。これにより、患者は、肺水腫などの心不全症状を呈することとなる。また、肺高血圧症等により右心房側の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下することで心不全症状を呈するような心臓疾患もある。
【0003】
近年、これらの心不全患者に対し、上昇した心房圧の逃げ道となるシャント(貫通孔)を心房中隔に形成し、心不全症状の緩和を可能にするシャント治療が注目されている。シャント治療は、経静脈アプローチで心房中隔にアクセスし、所望のサイズの貫通孔を形成する。このような心房中隔に対するシャント治療を行うための医療デバイスとして、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8882697号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の医療デバイスは、シャフト部の先端部に設けられる拡張体であるバルーンにより、シャント孔を大きくし、バルーンに設けた電極によって、シャント孔を維持する。しかし、この医療デバイスは、貫通孔の拡張時には当該貫通孔をバルーンで塞いでいるため、血行動態を確認することができない。このため、バルーンを抜去した後に血行動態を確認することとなり、貫通孔による治療効果をすぐに確認することができない。
【0006】
貫通孔の拡張時において血行動態を確認するため、拡張体を線材で形成し、拡張体の線材間の空間から血液を流通可能とすることが考えられる。しかし、拡張体を線材で形成した場合、拡張時に線材が周方向にねじれて、拡張力が生体組織に十分に伝わらない可能性がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、線材で形成された拡張体において、線材の周方向へのねじれを抑制できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、長尺なシャフト部と、前記シャフト部の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体と、を有し、前記拡張体は、前記シャフト部に連結された複数の線材部と、少なくとも1つの前記線材部によって形成され生体組織を把持する基端側把持部と先端側把持部とを有し、前記拡張体の拡張時に、前記基端側把持部と前記先端側把持部とが嵌り合う、または、周方向に交互に位置し、前記拡張体は、前記生体組織に形成された貫通孔に挿通された状態で拡張することにより、前記基端側把持部と前記先端側把持部とで前記生体組織を把持すると共に、径方向にさらに拡張することにより、前記貫通孔を径方向に押し広げるように構成されている
【発明の効果】
【0011】
また、上記のように構成した医療デバイスは、基端側把持部と先端側把持部とが嵌り合う、または周方向に交互に位置する関係となることで、凹凸構造が形成され、この凹凸構造により、基端側把持部と先端側把持部とで生体組織を把持した際における周方向への位置ずれを抑制し、拡張体の周方向へのねじれを抑制して、拡張力を生体組織に確実に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施例の拡張体を有する医療デバイスの全体構成を表した正面図である。
図2】拡張体付近の拡大斜視図である。
図3】拡張体付近の拡大正面図である。
図4図3のA-A’断面図であって、基端側把持部が開口部に進入する前後の状態を表した説明図である。
図5】基端側把持部と先端側面部とで生体組織を把持するパターンを示す把持部及び生体組織の概念的な断面図であって、把持部から牽引シャフト側を見た断面図である。
図6】医療デバイスによる処置方法のフローチャートである。
図7】本実施形態の処置方法の説明図であって、心房中隔の貫通孔に拡張体を配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図8】拡張体を心房中隔に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図9】心房中隔において拡張体を拡径させた状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図10】第1の変形例に係る線材部の把持部付近拡大斜視図である。
図11】第2の変形例に係る線材部の把持部付近拡大斜視図である。
図12】第3の変形例に係る線材部の先端側面部が凹状である場合の線材部の把持部における断面図であって、把持部から牽引シャフト側を見た断面図である。
図13】第4の変形例に係る線材部の先端側面部が鋸状部を有する線材部の把持部付近拡大斜視図である。
図14】第2の実施形態の医療デバイスのうち、拡張体付近の拡大正面図である。
図15】第2の実施形態の医療デバイスの拡張体における基端側把持部と先端側把持部との関係を示す拡大斜視図である。
図16】第5の変形例に係る線材部の把持部付近拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体内腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0014】
以下の実施形態における医療デバイスは、患者の心臓Hの心房中隔HAに形成された貫通孔Hhを拡張し、さらに拡張した貫通孔Hhをその大きさに維持する維持処置を行うことができるように構成されている。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体21と、シャフト部20の基端部に設けられる操作部23とを有している。拡張体21には、前述の維持処置を行うための維持処置要素(エネルギー伝達要素)22が設けられる。
【0016】
シャフト部20は、先端部に拡張体21を保持しているアウターシャフト31と、アウターシャフト31を収納する収納シース30と、を有している。収納シース30は、アウターシャフト31に対して軸方向に進退移動可能である。収納シース30は、シャフト部20の先端側に移動した状態で、その内部に拡張体21を収納することができる。拡張体21を収納した状態から、収納シース30を基端側に移動させることで、拡張体21を露出させることができる。
【0017】
アウターシャフト31の内部には、牽引シャフト33が収納されている。牽引シャフト33は、アウターシャフト31の先端から先端側に突出しており、その先端部が先端部材35に固定されている。牽引シャフト33の基端部は、操作部23より基端側に導出されている。牽引シャフト33の先端部が固定されている先端部材35は、拡張体21には固定されていなくてよい。これにより、先端部材35は、拡張体21を圧縮方向に牽引することが可能である。また、拡張体21を収納シース30に収納する際、先端部材35を拡張体21から先端側に離すことによって、拡張体21の延伸方向への移動が容易になり、収納性を向上させることができる。
【0018】
操作部23は、術者が把持する筐体40と、術者が回転操作可能な操作ダイヤル41と、操作ダイヤル41の回転に連動して動作する変換機構42とを有している。牽引シャフト33は、操作部23の内部において、変換機構42に保持されている。変換機構42は、操作ダイヤル41の回転に伴い、保持する牽引シャフト33を軸方向に沿って進退移動させることができる。変換機構42としては、例えばラックピニオン機構を用いることができる。
【0019】
拡張体21についてより詳細に説明する。図2及び図3に示すように、拡張体21は、周方向に複数の線材部50を有している。本実施形態において線材部50は、周方向に4本が設けられている。線材部50は、それぞれ径方向に拡縮可能である。線材部50の基端部は、アウターシャフト31の先端部から先端側に延出している。線材部50の先端部は、先端部材35の基端部から基端側に延出している。線材部50は、軸方向の両端部から中央部に向かって、径方向に大きくなるように傾斜している。また、線材部50は、軸方向中央部に、拡張体21の径方向において谷形状の把持部51を有する。
【0020】
把持部51は、基端側把持部52と先端側把持部53とを有している。基端側把持部52は、先端側に向かって突出する凸部54を有している。凸部54には、維持処置要素22が配置される。先端側把持部53は、幅方向中央部がスリット状となっており、両側の腕部55と中央部の孔部56とを有している。
【0021】
図4(a)に示すように、基端側把持部52の凸部54は、生体組織を把持する方向である拡張体21の軸方向において、先端側把持部53の孔部56に対向している。図4(b)に示すように、基端側把持部52と先端側把持部53とが近づくと、凸部54は孔部56内に納まることができる。このように、生体組織を把持する方向において、基端側把持部52または先端側把持部53が進入可能な空間状の領域を開口部57と称する。
【0022】
開口部57は、基端側把持部52が進入可能な空間領域の外側に線材部50の面を有していてもよいし、有していなくてもよい。図2~4の例において開口部57は、空間領域の外側に線材部50の面を有していない。
【0023】
基端側把持部52に対して先端側把持部53が開口部57を有していることにより、基端側把持部52と先端側把持部53との間で、凹凸構造が形成される。これにより、把持部51で生体組織を把持した際に、基端側把持部52と先端側把持部53とが、拡張体21の周方向においては互いに支え合うので、両者の間で拡張体21の周方向への位置ずれを抑制できる。このため、拡張体21の拡張力を生体組織に対して確実に伝達することができる。基端側把持部52と先端側把持部53は、拡張体21の拡張時に生体組織を把持する。拡張体21の拡張時とは、拡張体21の拡張途中、拡張体21が拡張しきった瞬間、拡張体21が拡張しきって収縮するまでのいずれかを指す。また、図2に示すような拡張体21が生体内に挿入されていない状態において、拡張体21を拡張させた場合には、拡張体21の拡張途中、拡張体21が拡張しきった瞬間、拡張体21が拡張しきって収縮するまでのいずれかに、基端側把持部52と先端側把持部53の少なくとも一方(本実施形態では基端側把持部52)が開口部57に対向する。
【0024】
基端側把持部と先端側把持部との間に形成される凹凸構造について、より詳細に説明する。図5は基端側把持部300と先端側把持部301及び生体組織310を概念的に表しており、基端側把持部300と先端側把持部301とを有する線材は、便宜上断面円形状で表している。基端側把持部300と先端側把持部301とで生体組織を把持する第1のパターンとしては、図5(a)に示すように、基端側把持部300と先端側把持部301とに生体組織310が挟まれて変形し、基端側把持部300が先端側把持部301間に形成される開口部302の内部に進入する態様が考えられる。また、基端側把持部300と先端側把持部301とで生体組織を把持する第2のパターンとして、図5(b)に示すように、基端側把持部300と先端側把持部301とに生体組織310が挟まれて変形し、基端側把持部300が先端側把持部301間に形成される開口部302を突き抜けるように進入する態様も考えられる。いずれにおいても、基端側把持部300が進入可能な開口部302が形成されていることで、基端側把持部300を有する線材と先端側把持部301を有する線材とが、互いにその幅方向にずれにくいようにすることができる。
【0025】
また、基端側把持部300と先端側把持部301とで生体組織を把持する第3のパターン及び第4のパターンとして、図5(c)及び図5(d)に示すように、基端側把持部300が先端側把持部301間に形成される開口部302と対向しながら、進入はしていない態様が考えられる。これらは、生体組織310が硬く変形しにくい場合や、生体組織310の厚みが大きい場合に生じうる態様である。この場合、基端側把持部300は開口部302まで実際には進入しないが、生体組織310を把持する方向において、基端側把持部300が開口部302に向かっていることで、基端側把持部300を有する線材と先端側把持部301を有する線材とが、互いにその幅方向にずれにくいようにすることができる。
【0026】
このように、基端側把持部300と先端側把持部301とで生体組織を把持するいずれのパターンにおいても、基端側把持部300が開口部302に対して進入可能となる凹凸構造が形成されていることで、線材同士の位置ずれが防止される。また、これらのパターンは、基端側把持部300と先端側把持部301とが、拡張体21の周方向において交互に位置することで、凹凸構造を形成しているとも言える。ここで、拡張体21の周方向において交互に位置する基端側把持部300と先端側把持部301は、生体組織を把持する方向において離れている場合を含んでいる。
【0027】
本実施形態では、基端側把持部52に凸部54を、先端側把持部53に開口部57を、それぞれ設けているが、先端側把持部53に凸部54を、基端側把持部52に開口部57を、それぞれ設けてもよい。
【0028】
拡張体21を形成する線材部50は、例えば、円筒から切り出した平板形状を有する。拡張体21を形成する線材は、厚み50~500μm、幅0.3~2.0mmとすることができる。ただし、この範囲外の寸法を有していてもよい。また、線材部50はその他にも円形の断面形状や、それ以外の断面形状を有していてもよい。
【0029】
維持処置要素22は、基端側把持部52の凸部54に設けられているので、把持部51が心房中隔HAを把持する際、維持処置要素22からのエネルギーは、心房中隔HAに対して右心房側から伝達される。
【0030】
維持処置要素22は、例えば、外部装置であるエネルギー供給装置(図示しない)から電気エネルギーを受けるバイポーラ電極で構成される。この場合、各線材部50に配置された維持処置要素22間で通電がなされる。維持処置要素22とエネルギー供給装置とは、絶縁性被覆材で被覆された導線(図示しない)により接続される。導線は、シャフト部20及び操作部23を介して外部に導出され、エネルギー供給装置に接続される。
【0031】
維持処置要素22は、他にも、モノポーラ電極として構成されていてもよい。この場合、体外に用意される対極板との間で通電がなされる。また、維持処置要素22は、エネルギー供給装置から高周波の電気エネルギーを受給して発熱する発熱素子(電極チップ)でもよい。この場合、各線材部50に配置された維持処置要素22間で通電がなされる。さらに、維持処置要素22は、マイクロ波エネルギー、超音波エネルギー、レーザー等のコヒーレント光、加熱した流体、冷却された流体、化学的な媒体により加熱や冷却作用を及ぼすもの、摩擦熱を生じさせるもの、電線等を備えるヒーター等のように、貫通孔Hhに対してエネルギーを付与可能なエネルギー伝達要素により構成することができ、具体的な形態は特に限定されない。
【0032】
線材部50は、金属材料で形成することができる。この金属材料としては、例えば、チタン系(Ti-Ni、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)の合金、銅系の合金、ステンレス鋼、βチタン鋼、Co-Cr合金を用いることができる。なお、ニッケルチタン合金等のバネ性を有する合金等を用いるとよりよい。ただし、線材部50の材料はこれらに限られず、その他の材料で形成してもよい。
【0033】
シャフト部20は、アウターシャフト31の内部にインナーシャフト32を有しており、インナーシャフト32の内部に牽引シャフト33が収納されている。牽引シャフト33及び先端部材35には、軸方向に沿ってガイドワイヤルーメンが形成されており、ガイドワイヤ11を挿通させることができる。
【0034】
シャフト部20の収納シース30、アウターシャフト31、インナーシャフト32は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、PEEK、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0035】
牽引シャフト33は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、比較的剛性の高い樹脂材料などの長尺状の線材に、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などの樹脂材料を被覆したもので形成することができる。
【0036】
先端部材35は、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料またはこれらの混合物、あるいは2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成することができる。
【0037】
医療デバイス10を使用した処置方法について説明する。本実施形態の処置方法は、心不全(左心不全)に罹患した患者に対して行われる。より具体的には、図7に示すように、心臓Hの左心室の心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房HLaの血圧が高まる慢性心不全に罹患した患者に対して行われる処置の方法である。
【0038】
図6に示すように、本実施形態の処置方法は、心房中隔HAに貫通孔Hhを形成するステップ(S1)と、貫通孔Hhに拡張体21を配置するステップ(S2)と、拡張体21によって貫通孔Hhの径を拡張させるステップ(S3)と、貫通孔Hh付近における血行動態を確認するステップ(S4)と、貫通孔Hhの大きさを維持するための維持処置を行うステップ(S5)と、維持処置が施された後の貫通孔Hh付近における血行動態を確認するステップ(S6)と、を有している。
【0039】
術者は、貫通孔Hhの形成に際し、ガイディングシース211及びダイレータ212が組み合わされたイントロデューサ210を心房中隔HA付近まで送達する。イントロデューサ210は、例えば、下大静脈Ivを介して右心房HRaに送達することができる。また、イントロデューサ210の送達は、ガイドワイヤ11を使用して行うことができる。術者は、ダイレータ212にガイドワイヤ11を挿通し、ガイドワイヤ11に沿わせて、イントロデューサ210を送達させることができる。なお、生体に対するイントロデューサ210の挿入、ガイドワイヤ11の挿入等は、血管導入用のイントロデューサを用いるなど、公知の方法で行うことができる。
【0040】
S1のステップにおいて、術者は、右心房HRa側から左心房HLa側に向かって、穿刺デバイス(図示しない)を貫通させ、貫通孔Hhを形成する。穿刺デバイスとしては、例えば、先端が尖ったワイヤ等のデバイスを使用することができる。穿刺デバイスは、ダイレータ212に挿通させて心房中隔HAまで送達する。穿刺デバイスは、ダイレータ212からガイドワイヤ11を抜去した後、ガイドワイヤ11に代えて心房中隔HAまで送達することができる。
【0041】
S2のステップにおいては、まず、予め挿入されたガイドワイヤ11に沿って、医療デバイス10を心房中隔HA付近に送達する。このとき、医療デバイス10の先端部は、心房中隔HAを貫通して、左心房HLaに達するようにする。また、医療デバイス10の挿入の際、拡張体21は、収納シース30に収納された状態となっている。
【0042】
次に、図8に示すように、収納シース30を基端側に移動させることにより、拡張体21を露出させる。これにより、拡張体21は拡径し、把持部51は心房中隔HAを把持する。この際、心房中隔HAは、基端側把持部52と先端側把持部53とによって把持される。前述のように、生体組織の把持方向において、基端側把持部52と開口部57とが対向しているので、基端側把持部52と先端側把持部53とが拡張体21の周方向に支持し合う力が作用し、拡張体21のねじれを抑制できる。
【0043】
S3のステップにおいて、術者は、把持部51によって心房中隔HAが把持された状態で操作部23を操作し、牽引シャフト33を基端側に移動させる。これにより、図9に示すように、拡張体21は径方向にさらに拡張し、把持した貫通孔Hhを径方向に押し広げる。この際にも、拡張体21のねじれが抑制されていることにより、拡張力を心房中隔HAに対して確実に伝達できる。
【0044】
貫通孔Hhを拡張させたら、S4のステップにおいて血行動態の確認を行う。術者は、図7に示すように、下大静脈Iv経由で右心房HRaに対し、血行動態確認用デバイス220を送達する。血行動態確認用デバイス220としては、例えば、公知のエコーカテーテルを使用することができる。術者は、血行動態確認用デバイス220で取得されたエコー画像を、ディスプレイ等の表示装置に表示させ、その表示結果に基づいて貫通孔Hhを通る血液量を確認することができる。
【0045】
次に、S5のステップにおいて、術者は、貫通孔Hhの大きさの維持するために維持処置を行う。維持処置では、維持処置要素22を通して貫通孔Hhの縁部に高周波エネルギーを付与することにより、貫通孔Hhの縁部を高周波エネルギーによって焼灼(加熱焼灼)する。維持処置要素22を通して貫通孔Hhの縁部付近の生体組織が焼灼されると、縁部付近には生体組織が変性した変性部が形成される。変性部における生体組織は弾性を失った状態となるため、貫通孔Hhは拡張体21により押し広げられた際の形状を維持できる。
【0046】
維持処置要素22は、基端側把持部52の凸部54に配置されている。このため、凸部54が心房中隔HAに押し付けられることで、維持処置要素22が生体組織に埋没した状態で、維持処置が行われる。これにより、維持処置時に維持処置要素22が血液に触れないようにし、電流が血液に漏洩して血栓等を生じることを抑制できる。
【0047】
維持処置後には、S6のステップにおいて再度血行動態を確認し、貫通孔Hhを通る血液量が所望の量となっている場合、術者は、拡張体21を縮径させ、収納シース30に収納した上で、貫通孔Hhから抜去する。さらに、医療デバイス10全体を生体外に抜去し、処置を終了する。
【0048】
線材部の変形例について説明する。図10に示すように、線材部60は、2本の基端側腕部64と、3本の先端側腕部65を有している。基端側腕部64の先端側の面は、生体組織を把持する基端側把持部62であり、基端側把持部62には、維持処置要素22が設けられている。また、先端側腕部65の基端側の面は、生体組織を把持する先端側把持部63である。先端側腕部65の間には、開口部67が形成される。基端側腕部64と先端側腕部65は、線材部60の幅方向において重なり合わないように形成されている。このため、基端側把持部62は、生体組織を把持する方向において、先端側腕部65間に形成される開口部67に対向する。このように、線材部60により多くの腕部を形成することで、基端側把持部62と開口部67の凹凸構造を、線材部60の幅方向に複数形成してもよい。
【0049】
図11に示すように、線材部60において、維持処置要素22が設けられる部分は平面状に形成し、維持処置要素22より基端側の部分に複数の基端側腕部64が形成されていてもよい。この場合、基端側腕部64の基端側把持部62と、基端側把持部62が進入可能な開口部67は、把持部61の上部に形成される。また、維持処置要素22が設けられる領域の下部に、さらに腕部68を形成するようにしてもよい。これにより、把持部61を変形しやすくし、生体組織を把持しやすくすることができる。また、基端側腕部64間に維持処置要素22を配置する面を形成してもよい。また、基端側腕部64間に維持処置要素22を配置する面を設けつつ、その領域の下部に腕部68を形成してもよい。
【0050】
図12に示すように、線材部70が弧状の断面形状を有するようにして、先端側把持部72が基端側に向かう凹状の開口部74を有していてもよい。この場合に、図12(a)に示すように、基端側把持部71も弧状の断面形状を有するようにして、開口部74に進入可能な凸部73を形成することができる。また、図12(b)に示すように、先端側把持部72については、図12(a)の場合と同様、弧状の断面形状を有するように形成して開口部74を形成し、基端側把持部71については、図3と同様平板状として、開口部74に進入可能な凸部73を形成してもよい。これらの場合、拡張体21の拡張時において、基端側把持部71と先端側把持部72とは、互いに嵌り合う構造となっている。
【0051】
図13に示すように、先端側把持部53に形成される腕部55が、細かい山形状と谷形状とを繰り返す形状を有する鋸状部55aを有するようにしてもよい。これにより、基端側把持部52と先端側把持部53とで心房中隔HAを把持した際に、鋸状部55aがすべり止めとして機能し、両者がよりずれにくくなって、拡張体21の周方向へのねじれをさらに抑制できる。
【0052】
次に、第2の実施形態の医療デバイス15について説明する。本実施形態の医療デバイス15は、拡張体100以外の構成は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。図14に示すように、拡張体100は、周方向に複数の線材部103を有している。線材部103は、アウターシャフト31の先端部から先端側に向かって延び、先端部材35の基端部から基端側に向かって延びる。
【0053】
基端部101から先端側に向かって延びる線材部103は、径方向に拡張する傾斜状であり、その中間部には、2本の線に分岐する分岐部104を有している。分岐部104で分岐した分岐線103aは、隣接する線材部103から延びる分岐線103aと合流部105で合流する。分岐線103aにより線材部103は、周方向に隣接する線材部103と連結されている。合流部105より先端側には、基端側把持部106が形成される。基端側把持部106は、それぞれ2本の分岐線103a,103aが合流した線材部103の一部分である。拡張体100のうち、基端部101から基端側把持部106までは、基端側拡張部100aである。先端部102から基端側に向かって延びる線材部103は、基端部101から先端側に向かって延びる線材部103と、拡張体100の軸方向中央位置を含み拡張体100の軸方向と直交する平面に対して、対称な形状を有しており、分岐部104及び合流部105によって、周方向に隣接する線材部103と連結される。合流部105より基端側には、先端側把持部107が形成される。先端側把持部107は、それぞれ2本の分岐線103a,103aが合流した線材部103の一部分である。拡張体100のうち、先端部102から先端側把持部107までは、先端側拡張部100bである。基端側把持部106や先端側把持部107には、スリット孔106a,107aが形成されており、これらが屈曲しやすくして、拡張体100の中央部を谷形状に形成している。
【0054】
基端部101から先端側に延びる線材部103の周方向位置と、先端部102から基端側に延びる線材部103の周方向位置とは異なる。このため、拡張体100の拡張時に、基端側把持部106と先端側把持部107は、周方向に交互に位置し、これによって凹凸形状を形成している。拡張体100の中央部において、基端側把持部106と先端側把持部107との間には分岐線103aが形成され、周方向に異なる位置に配置される基端側把持部106と先端側把持部107とを連結している。
【0055】
このような形状を有する線材部103は、1本の金属製円筒部材をレーザーカット等することで形成することができる。
【0056】
図15に示すように、基端側把持部106は、拡張体100の軸方向において、周方向に隣接する線材部103である先端側把持部107間に形成される先端側開口部109に対向する。また先端側把持部107は、拡張体100の軸方向において、周方向に隣接する線材部103である基端側把持部106間に形成される基端側開口部108に対向する。これにより、基端側把持部106と先端側把持部107との間で凹凸構造が形成されている。この凹凸構造により、拡張体100が径方向に拡張した際に、周方向に対するねじれを抑制することができる。また、線材部103が周方向に隣接する線材部103と連結されていることによっても、線材部103の周方向へのねじれを抑制することができる。
【0057】
以上のように、上述の実施形態に係る医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体21と、を有し、拡張体21は、径方向に拡縮可能な線材部50を有し、線材部50は、生体組織を把持する基端側把持部52と先端側把持部53とを有し、拡張体21の拡張時に、基端側把持部52と先端側把持部53の少なくとも一方の面部は、開口部57に対向する。これにより、本実施形態の医療デバイス10は、基端側把持部52と先端側把持部53とが拡張体21の軸方向において直接対向しないので、基端側把持部52と先端側把持部53とで生体組織を把持した際における周方向への位置ずれを抑制し、拡張体21の周方向へのねじれを抑制して、拡張力を生体組織に確実に伝達できる。
【0058】
また、把持部51は、拡張体21の径方向に谷形状のであるようにすれば、把持部51で向かい合う基端側把持部52と先端側把持部53との間で凹凸構造が形成されるので、拡張体21の拡張時において両者の位置ずれを抑制し、拡張体21の周方向へのねじれを抑制できる。
【0059】
また、開口部57は、線材部50が有する孔部56で形成されるようにすれば、開口部57を簡単な構造で形成できる。
【0060】
また、開口部74は、線材部70が有する凹んだ形状で形成されるようにすれば、開口部74を簡単な構造で形成できる。
【0061】
また、基端側把持部52と先端側把持部53の一方には維持処置要素22が配置されるようにすれば、基端側把持部52と先端側把持部53の一方が生体組織に圧接することで、維持処置要素22が血液に露出しないようにすることができ、血栓発生を抑制できる。
【0062】
また、線材部103は拡張体100の周方向に複数が設けられ、拡張体100のうち基端側把持部106を有する基端側拡張部100aには、周方向に隣接し、分岐線103a,103aが合流した線材部103から形成される基端側把持部106間に基端側開口部108が形成され、拡張体100のうち先端側把持部107を有する先端側拡張部109には、周方向に隣接し、分岐線103a,103aの合流した線材部103から形成される先端側把持部107間に先端側開口部109が形成され、基端側把持部106は、先端側開口部109に対向し、先端側把持部107は、基端側開口部108に対向するようにすれば、基端側把持部106と先端側把持部107とがそれぞれ先端側開口部109と基端側開口部108に対向して位置ずれが抑制されるので、拡張体21の周方向へのねじれを抑制できる。
【0063】
また、線材部103は、基端側把持部106と先端側把持部107との間で分岐線103aに分岐し、周方向に異なる位置に配置された基端側把持部106と先端側把持部107とが、分岐線103aで連結されるようにすれば、線材部103同士が周方向に連結されるので、拡張体100の周方向へのねじれをさらに抑制できる。
【0064】
また、上述の実施形態に係る医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体21と、を有し、拡張体21は、シャフト部20に連結された複数の線材部50と、少なくとも1つの線材部50によって形成され生体組織を把持する基端側把持部52と先端側把持部53とを有し、拡張体21の拡張時に、基端側把持部52と先端側把持部53とが嵌り合う、または、周方向に交互に位置する。これにより、基端側把持部52と先端側把持部53とが嵌り合う、または周方向に交互に位置する関係となることで、凹凸構造が形成され、この凹凸構造により、基端側把持部52と先端側把持部53とで生体組織を把持した際における周方向への位置ずれを抑制し、拡張体21の周方向へのねじれを抑制して、拡張力を生体組織に確実に伝達できる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。
【0066】
例えば、第1実施形態の第5の変形例として、図16に示すように、先端側把持部53は、凸部54に配置される維持処置要素22と向き合う支持部58を有してもよい。支持部58は、先端側把持部53の両側に設けられる腕部55の間で、孔部56に囲まれる内部領域に向かって突出している。支持部58は、2つの腕部55の間に、2つの腕部55から間隔を空けて配置され、2つの腕部55と略平行に突出している。基端側把持部52と先端側把持部53とが近づき、基端側把持部52と先端側把持部53との間に生体組織が挟まれると、維持処置要素22が生体組織を先端側へ押圧する。このとき、持処置要素22に押圧された生体組織は、支持部58により支持されて、先端側へ逃げることが抑制される。このため、生体組織は、凸部54および孔部56の凹凸構造で挟まれつつ、維持処置要素22および支持部58の間に挟まれる。このとき、凸部54および孔部56の凹凸構造に生体組織が挟まれやすいように、支持部58は、ある程度撓んでもよい。以上のように、医療デバイス10は、支持部58が設けられることで、維持処置要素22の生体組織への密着性が向上する。
【0067】
なお、本出願は、2018年3月29日に出願された日本特許出願番号2018-064008号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0068】
10 医療デバイス
11 ガイドワイヤ
15 医療デバイス
20 シャフト部
21 拡張体
22 維持処置要素
23 操作部
30 収納シース
31 アウターシャフト
33 牽引シャフト
35 先端部材
36 先端側シース
40 筐体
41 操作ダイヤル
42 変換機構
50 線材部
51 把持部
52 基端側把持部
53 先端側把持部
54 凸部
55 腕部
57 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16