(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】回転検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G01D5/245 W
(21)【出願番号】P 2023109104
(22)【出願日】2023-07-03
(62)【分割の表示】P 2019140143の分割
【原出願日】2019-07-30
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】小関 栄男
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-1506(JP,A)
【文献】特開2000-161989(JP,A)
【文献】特開2016-144335(JP,A)
【文献】特開2002-286742(JP,A)
【文献】特開2006-10556(JP,A)
【文献】特開昭58-117718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
G01B 7/00-7/34
G01P 3/00-3/80
G01R 33/00-33/18
H03K 3/00-3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材の回転を検出する回転検出装置であって、
前記回転部材において、回転軸を中心とする第1円周上に磁石が設置されており、
大バルクハウゼンジャンプを発現する細長の磁性素子と前記磁性素子に巻回されたコイルとを有する発電センサが、前記第1円周と軸を同じくする第2円周の接線上に接点を中心として設置されており、
前記磁石が前記発電センサに最接近したときの前記発電センサとの対向方向が前記磁石の着磁方向となるように、前記磁石が着磁されており、
前記磁石が前記発電センサから離れた位置から前記発電センサの一端部に接近
し、磁界強度が所定の値に達する際に前記発電センサから
所定閾値以上のパルス電圧が出力され、前記磁石が前記一端部から前記発電センサの他端部にかけて前記発電センサ付近を
前記第1円周に沿って移動する際には前記発電センサから
前記所定閾値以上のパルス電圧が出力されない、
回転検出装置。
【請求項2】
周方向両方向に回転可能な前記回転部材の回転方向を、前記発電センサから出力されたパルス電圧の極性により検出する請求項1に記載の回転検出装置。
【請求項3】
前記磁石の着磁方向が前記回転軸の軸方向である、請求項1又は2に記載の回転検出装置。
【請求項4】
前記磁石の着磁方向が前記回転軸の径方向である、請求項1又は2に記載の回転検出装置。
【請求項5】
前記磁石の中心と前記磁性素子の中心とが前記磁石の着磁方向に沿って対向した状態において、前記磁性素子を長手方向に半分に分けたときの一方と他方が互いに正反対の方向に磁化される、請求項1~4のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材の回転を検出する回転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性素子が特許文献1及び特許文献2に記載され
ている。特許文献1に記載の磁性素子は、結晶質金属からなるワイヤ形状をしたものでウ
ィーガンドワイヤとして知られる。特許文献2に記載の磁性素子は、非結晶質金属からな
るワイヤ形状又はリボン形状をなしている。
【0003】
大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性素子を回転検出に用いた技術が特許文献3~
6に記載されている。特許文献3においては、1つの磁石の単一磁極面の中心から放射線
状に伸びる磁束線が、1つの磁性素子により検出される。特許文献4によれば、1つの磁
性素子、1つの励磁器磁石、正転反転を識別する追加センサ要素(例えばホール素子)が
設けられる。特許文献5によれば、磁性素子に巻かれたコイルに電流を流す励磁機能によ
って磁性素子の磁区方向を識別し、補正が行われる。特許文献6によれば、磁性素子とコ
イルとによる3つの磁気検出部と、1回転で2周期の交番磁界を印加するための4つの磁
気発生部とが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭53-137641号公報
【文献】特開平5-195170号公報
【文献】特開2000-161989号公報
【文献】特許第4712390号公報
【文献】特開2012-225917号公報
【文献】特許第5511748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によれば、回転方向の検出は可能であっても回転数を正確に検出できない場合
がある。あるいは、回転方向及び回転数を検出できたとしても、部品点数が比較的多くな
ったり、識別に必要な要素(ホール素子、励磁機能)に電力を供給しなければいけないこ
とから構造が複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、回転の検出が可能かつ比較的簡単な構造の回転検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る回転検出装置の回転検出対象となる回転部材において、回転軸を中心とする第1円周上に磁石が設置されており、大バルクハウゼンジャンプを発現する細長の磁性素子と前記磁性素子に巻回されたコイルとを有する発電センサが、前記第1円周と軸を同じくする第2円周の接線上に接点を中心として設置されており、前記磁石が前記発電センサに最接近したときの前記発電センサとの対向方向が前記磁石の着磁方向となるように、前記磁石が着磁されている。前記磁石が前記発電センサから離れた位置から前記発電センサの一端部に接近し、磁界強度が所定の値に達する際に前記発電センサから所定閾値以上のパルス電圧が出力され、前記磁石が前記一端部から前記発電センサの他端部にかけて前記発電センサ付近を前記第1円周に沿って移動する際には前記発電センサから前記所定閾値以上のパルス電圧が出力されない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転の検出が可能かつ比較的簡単な構造の回転検出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)第1実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第1実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図2】(A)回転部材が0度位置にあるときの上面図である。(B)回転部材が90度位置にあるときの上面図である。(C)回転部材が180度位置にあるときの上面図である。(D)回転部材が270度位置にあるときの上面図である。
【
図3】右回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図4】左回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図6】(A)第2実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第2実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図7】右回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図8】左回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図9】回転座標におけるパルス信号の位置を示す説明図である。
【
図10】(A)第3実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第3実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図11】右回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図12】左回転時の回転位置と磁界との関係を示す説明図である。
【
図13】回転座標におけるパルス信号の位置を示す説明図である。
【
図14】(A)第4実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第4実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図15】回転座標におけるパルス信号の位置、基準位置、領域を示す説明図である。
【
図16】(A)第5実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第5実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図17】第5実施形態の変形例を示す説明図である。
【
図18】第5実施形態の変形例を示す説明図である。
【
図19】(A)第6実施形態に基づく回転検出装置の斜視図である。(B)第6実施形態に基づく回転検出装置の上面図である。
【
図20】第6実施形態の変形例を示す説明図である。
【
図21】第6実施形態の変形例を示す説明図である。
【
図22】磁気センサの他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明
する実施の形態によって限定されるものではない。本発明の発明者はまず、以下に説明す
る第1及び第2の実施形態について鋭意検討を行った。
【0011】
[第1実施形態]
図1において、円板状の回転部材10は、回転部材10の中心を通り、かつ回転部材1
0の厚さ方向に延びる回転軸10aを基準として周方向に回転する。回転部材10の外周
部には磁石40が設けられている。回転部材10が回転すると、磁石40により円11が
描かれる。磁石40は、一例として、略円柱状であり、当該略円柱の軸方向に着磁されて
いる。磁石40の軸方向すなわち着磁方向は、回転軸10aと平行である。磁石40は、
N極が回転軸方向上方を向き、S極が回転軸方向下方を向いている。
【0012】
回転部材10の回転軸方向上方には、磁気センサ20が配置されている。磁気センサ2
0は、回転部材10の回転を検出する回転検出装置内に設けられ、大バルクハウゼンジャ
ンプを発現する細長の磁性素子21と、磁性素子21に巻回されたコイル22とを備えて
いる。
【0013】
磁性素子21は、例えばワイヤ形状、リボン状、成膜タイプとすることができるが、こ
れらに限定されず、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性体であればよい。磁性素子
21の長手方向を、磁気異方性の磁化容易方向とすることができる。磁性素子21は、芯
部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。一例として、芯部は弱
い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト層であり、表皮部は強い磁界を与えないと磁化
方向が反転しないハード層である。コイル22には、磁性素子21に大バルクハウゼンジ
ャンプが発現したときにパルス信号が誘発される。
【0014】
なお、上述の回転検出装置は、コイル22に接続され、同コイルに生じた信号を処理す
る回路(不図示)をも備えている。
【0015】
磁気センサ20は、円11上のある接点における接線20aと平行に、かつその接点の
回転軸上方に配置されている。また、磁性素子21の長手方向中心は、上記接点から回転
軸上方に間隔を置いて位置している。すなわち磁気センサ20は磁石が描く円11と同軸
の円13上にある。
【0016】
磁性素子21の長手方向に関して、
図1(B)の紙面左方向をマイナス方向と呼び、紙
面右方向をプラス方向と呼ぶ。ハード層とソフト層の磁化方向が同方向(例えば、マイナ
ス方向)であるときに、その方向とは反対方向(例えば、プラス方向)の外部磁界強度が
増加してソフト層の磁化方向が反転する磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転
する。このとき、大バルクハウゼンジャンプが発現し、当該磁性素子に巻かれたコイルに
パルス信号が誘発される。ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「動作磁界」
と呼ぶ。
【0017】
上述の外部磁界強度がさらに増加し、ハード層の磁化方向が反転する磁界強度に達する
と、ハード層の磁化方向も反転する。ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「
安定化磁界」と呼ぶ。
【0018】
大バルクハウゼンジャンプが発現するためには、ハード層とソフト層の磁化方向が一致
していることを前提として、ソフト層のみ磁化方向が反転することが必要である。ハード
層とソフト層の磁化方向が単一磁区を形成していない不一致の状態で、ソフト層のみ磁化
反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さく、上
記回路が回転検出に用いることは困難である。
【0019】
図2に、回転部材の回転に伴う磁石40と磁気センサ20との位置関係を示す。磁石4
0のN極面から漏洩する磁束線の方向を矢印41により示す。磁石40から漏洩する磁束
線41は、磁石40の単一磁極面の中心より放射状に延びる。矢印41のグラデーション
は磁束密度を表し、濃いほど磁束密度が大きいことを示す。同図(A)に、磁石40の中
心と磁性素子21の中心とが回転軸方向に対向した状態を示す。この状態を0度位置と呼
ぶ。回転部材10が、0度位置から紙面右回りに、90度回転した状態、180度回転し
た状態、及び270度回転した状態をそれぞれ、同図(B)、(C)及び(D)に示す。
回転部材10の回転に応じて、磁性素子の長手方向に印加される磁界Haが変化する。
【0020】
図3に、回転部材10が右回転したときの回転位置と、磁界Haとの関係を示す。磁界
Hは上記プラス方向を正とする。両図において、H
1は、ソフト層の磁化方向がマイナス
方向からプラス方向へと反転する動作磁界であり、H
2は、ハード層の磁化方向がマイナ
ス方向からプラス方向へと反転する安定化磁界である。また、-H
1は、ソフト層の磁化
方向がプラス方向からマイナス方向へと反転する動作磁界であり、-H
2は、ハード層の
磁化方向がプラス方向からマイナス方向へと反転する安定化磁界である。
【0021】
0度位置では、磁界強度の強い磁束線41が磁性素子21の中央部に印加される。磁性
素子21を長手方向に関して半分に分けたときに、マイナス方向側の部分は、ソフト層も
ハード層も磁化方向がマイナス方向に揃っている。磁性素子21のプラス方向側の部分は
、ソフト層もハード層も磁化方向がプラス方向に揃っている。
【0022】
回転部材10が右回転して約50度位置となると、磁性素子21の全体がマイナス方向
に磁化された状態となる。この状態を
図3の符号Asで示す。
【0023】
回転部材10がさらに右回転すると、
図2(B)に示す90度位置を経て、
図2(C)
に示す180度位置となる。この180度位置では、磁性素子21に対しプラス方向及び
マイナス方向の磁束線が印加されるが、磁界強度が非常に弱いため、磁性素子21は全体
としてマイナス方向に磁化されたままである。
【0024】
回転部材10がさらに右回転し、約240度位置となると、磁界Haが動作磁界H1に
達し、ソフト層の磁化方向がマイナス方向からプラス方向へと反転する。このとき、大バ
ルクハウゼンジャンプが発現し、コイル22に正パルス信号Aが誘発される。この正パル
ス信号は右回転であることを示す信号であることから、この正パルス信号を右回転信号と
も呼ぶ。
【0025】
回転部材10がさらに右回転し、約310度位置となると、磁界Haが安定化磁界H2
に達する。このとき、ハード層の磁化方向がマイナス方向からプラス方向へと反転する。
すなわち、磁性素子21は、全体としてプラス方向に磁化された状態となる。
【0026】
回転部材10が約310度位置から、さらに右回転して0度位置となるまでは、磁性素
子21には、(1)ハード層がプラス方向に磁化され、ソフト層がマイナス方向に磁化さ
れた部分と、(2)ソフト層もハード層もマイナス方向に磁化された部分とが混在する。
【0027】
上記(1)の部分が生じるときに大バルクハウゼンジャンプが発現して負パルス信号A
’が生じる。しかし、(1)の部分は磁性素子21の軸長の一部に過ぎないため、負パル
ス信号A’のノイズレベルは極端に小さい。負パルス信号A’は、閾値設定により検出対
象から除外できるため、
図3に示していない。
【0028】
図4に、回転部材10が左回転したときの回転位置と磁界Haとの関係を示す。
図3を
参照しながら説明した右回転の場合とは逆の現象が左回転において起きる。左回転の際の
回転角度を負の値で表す。すなわち、回転部材10は、
図2(A)に示す0度位置から、
図2(D)に示す-90度位置と、
図2(C)に示す-180度位置と、
図2(B)に示
す-270度位置とを順に経て、最終的に0度位置へと左回転する。
【0029】
まず、約-50度位置において磁性素子21全体がプラス方向に磁化された状態となる
。この状態を符号Csで示す。約-240度位置において、磁界Haが-H1に達する。
このとき、ソフト層のみ磁化方向がマイナス方向に反転し、大バルクハウゼンジャンプが
発現する。そして、コイル22に負パルス信号Cが誘発される。この負パルス信号は左回
転であることを示す信号であることから、この負パルス信号を左回転信号とも呼ぶ。この
負パルス信号(左回転信号)Cは、右回転信号Aと大きさが等しい。
【0030】
回転部材10がさらに左回転し、約-310度位置から0度位置の間において、正パル
ス信号C’が生じる。この正パルス信号C’は、右回転時における負パルス信号A’と大
きさが等しい。正パルス信号C’も負パルス信号A’と同様、閾値設定により検出対象か
ら除外できるため、
図4に示していない。
【0031】
図5に、回転部材10の回転位置と磁界Haとの関係を、右回転及び左回転の両方につ
いて示す。右回転時の約50度位置において、磁性素子21の全体がマイナス方向に磁化
された状態(符号As)となり、約240度位置において大きな正パルス信号Aがコイル
22に生じる。また、左回転時の約-50度位置において、磁性素子21の全体がプラス
方向に磁化された状態(符号Cs)となり、約-240度位置において大きな負パルス信
号Cがコイルに22に生じる。
【0032】
図1に示した構成によれば、磁石の円運動でその漏洩磁界が磁性素子の延伸方向を通過
する。よって磁性素子が大バルクハウゼン現象を発現し、コイルに生じる信号から、回転
方向が右回転なのか左回転なのかを識別することができる。なお、これまでに示した角度
の具体的な値は例であり、磁性素子の素性によって異なる。以下で説明する角度も同様で
あり、限定的なものではない。
【0033】
図5に示しているように、回転部材が0度位置から約240度位置まで右回転すると右
回転信号であるパルス信号Aが生じる。さらに右回転が進み、約310度位置となると、
ソフト層もハード層もプラス方向に磁化される。その後、回転部材が左回転に転じた場合
、約-240度位置で左回転信号であるパルス信号Cが出力される。
【0034】
これに対し、右回転時に約240度位置でパルス信号Aが生じた直後に、左回転に転ず
る場合もあり得る。この場合、約310度位置を経ていないことから、ソフト層とハード
層の磁化方向が不一致である。この状態で左回転により-240度位置となってもパルス
信号Cは生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0035】
0度位置から右回転して約240度位置となり、その後、約240度位置から左回転し
て0度位置となった場合、実際の回転数は0であるが、回転検出装置においては回転数が
1として検出される。すなわち回転数が正確に検出されない。これは、十分な大きさの右
回転信号Aが生じるものの、十分な大きさの左回転信号Cが生じないためである。0度位
置から右回転して約240度位置となり、その後、約240度位置から左回転して0度位
置となる往復運動がn回生じた場合、実際の回転数は0であるが、回転検出装置において
は回転数がnとして検出される。このように、
図1に示した構成によれば、回転数を正確
に検出することができない場合がある。
【0036】
[第2実施形態]
図6に本実施形態を示す。
図1の構成に加えて、磁気センサ30が設けられている。磁
気センサ20を第1の磁気センサと呼び、磁気センサ30を第2の磁気センサと呼ぶ。第
2の磁気センサ30は、第1の磁気センサ20と同様、大バルクハウゼンジャンプを発現
する細長形状の磁性素子31と、磁性素子31に巻回されたコイル32とを備えている。
以下において、接線20aを第1接線20aと呼び、その接点を第1接点と呼ぶ。
【0037】
第2の磁気センサ30は、円13上の第2接点における第2接線30aと平行に、かつ
その接点の回転軸上方に配置されている。また、磁性素子31の長手方向中心は、第2接
点から回転軸上方に間隔を置いて位置している。第1接点と第2接点とは回転軸10aに
関して180度をなす。第1の磁気センサ20及び第2の磁気センサ30は、回転軸10
aに垂直な同一平面上にある。
【0038】
図7に、右回転時の回転位置と、磁界Ha及び磁性素子31の長手方向に印加される磁
界Hbとの関係を示す。また、
図8に、左回転時の回転位置と磁界Ha及びHbとの関係
を示す。両図とも、実線は磁界Haの変化を示し、破線は磁界Hbの変化を示す。
【0039】
回転部材10が右回転して約230度位置となると、磁性素子31の全体がマイナス方
向に磁化された状態となる。この状態を
図7の符号Bsで示す。回転部材10がさらに右
回転して約60度位置となると、磁性素子31のソフト層の磁化方向が反転し、コイル3
2に正パルス信号(右回転信号)Bが生じる。
【0040】
回転部材10が左回転して約-230度位置となると、磁性素子31の全体がプラス方
向に磁化された状態となる。この状態を
図8の符号Dsで示す。回転部材10がさらに左
回転して約-60度位置となると、磁性素子31のソフト層の磁化方向が反転し、コイル
32に負パルス信号(左回転信号)Dが生じる。
【0041】
前述のとおり、2つの磁気センサ20及び30が回転軸に関して180度をなす位置に
設けられている。そのため、回転部材が回転することにより両磁気センサに対し互いに位
相が180度ずれた交番磁界が印加され、両磁気センサから出力されるパルス信号も18
0度、位相がずれたものになる。そのため、4種類の信号、すなわち、右回転信号A及び
Bと左回転信号C及びDとが得られ、回転方向を識別することができる。しかし、回転数
を正確に検出できない場合がある。以下に説明する。
【0042】
図9は、
図7に示した右回転と
図8に示した左回転とを重ね合わせて、回転座標に置き
換えた図である。右回転時に約240度位置で信号Aが出力されてから、符号Rに示すよ
うにさらに180度右回転して60度位置となれば、次の信号Bが出力される。
【0043】
しかし、右回転時に約240度位置で信号Aが出力された直後に、
図9の符号Lで示す
ように左回転となった場合は、約-240度位置に到達しても信号Cが出力されないか、
あるいは出力されたとしても大きさが小さく、検出が困難である。右回転時に約-50度
位置を経ていないためである。左回転がさらに進むと、約-60度位置で信号Dが生じる
。結果的に、約240度位置で左回転となってから、左回転信号が出力されるまで、-1
80°-αとなる。絶対値の合計が360°+αとなる。αは、一例として120°であ
る。すなわち特許文献4と同じ現象で回転数を正確に検出することができない。
【0044】
ここで、「-180°-α」は
図9の軌跡Lが描いている角度である。「360°+α
」は
図9の軌跡LとRが描いている角度の総和である。
図9の例では、240度位置から
軌跡Rに沿って180度分右回転を続けた場合に、次の信号Bが出力される。その一方で
、240度位置から左回転に変わった場合には軌跡Lに沿って300度分左回転した場合
に、次の信号Dが出力される。つまり、信号Bと信号Dとの間に180+300=480
度の差がある。
【0045】
多回転エンコーダの回転検出装置として回転量のカウント漏れが発生しないようにする
ためには、最終パルスからの検出範囲が360度未満である必要がある。しかし、上記の
例では480度であるため、カウント漏れが発生する。
【0046】
なお、最終パルスからの検出範囲がこの例のように360度を超えると、
図9でいえば
Csの位置(-50度位置)に、信号Aの位置(240度位置)から右回転で来ても左回
転で来てもカウント数が変化せずカウント漏れとなる。例えば0°の位置を回転数の境界
とすれば、本来、左回転では回転数を-1カウントしなければならない。
【0047】
[第3実施形態]
これまでに説明した第1及び第2の実施形態を踏まえた第3実施形態を以下に説明する
。
図10に示すように、回転部材10の外周部には磁石40に加えて磁石50が設けられ
ている。磁石40を第1の磁石40と呼び、磁石50を第2の磁石50と呼ぶ。第2の磁
石50は、第1の磁石40と同様、回転軸方向に着磁され、回転軸上方がN極、回転軸下
方がS極である。第1の磁石40と第2の磁石50とは回転軸10aに関して180度を
なすように配置されている。第1の磁石40及び第2の磁石50の単一磁極面は、大きさ
も方向もほぼ同じ磁界を発生させる。この磁界強度は、安定化磁界の強度以上である。回
転部材10が回転すると、第1の磁石40によって円11が描かれ、第2の磁石50によ
っても円11が描かれる。
【0048】
また、第1の磁気センサ20に対応する第1接線20a上の第1接点と、第2の磁気セ
ンサ30に対応する第2接線30a上の第2接点との位置関係が、第2実施形態とは異な
っている。具体的には、回転軸方向上方から両磁気センサを見たときに、第2接点は、第
1接点を、回転軸10aを基準として90度左回転させた位置にある。すなわち、両磁気
センサは、回転軸10aを基準として90度の位相角をなすように配置されている。
【0049】
図11に、右回転時の回転位置と磁界Ha及びHbとの関係を示す。また、
図12に、
左回転時の回転位置と磁界Ha及びHbとの関係を示す。両図とも、第1磁石40が第1
磁気センサ20に印加する磁界Haを実線で示し、第1磁石40が第2磁気センサ30に
印加する磁界Hbを破線で示す。また、第2磁石50が第1磁気センサ20に印加する磁
界Haを一点鎖線で示し、第2磁石50が第2磁気センサ30に印加する磁界Hbを二点
鎖線で示す。
【0050】
図11において、右回転時に第1磁気センサ20に生じる正パルス信号を符号Aで示し
、信号Aの出力の前提となる安定化磁界を符号Asで示す。さらに、第2磁気センサ30
に生じる正パルス信号を符号Bで示し、信号Bの出力の前提となる安定化磁界を符号Bs
で示す。
【0051】
図12において、左回転時に第1磁気センサ20に生じる負パルス信号を符号Cで示し
、信号Cの出力の前提となる安定化磁界を符号Csで示す。さらに、第2磁気センサ30
に生じる負パルス信号を符号Dで示し、信号Dの出力の前提となる安定化磁界を符号Ds
で示す。
【0052】
第1磁気センサ20及び第2磁気センサ30には、互いに180度位相をもった位置に
配置された第1磁石40と第2磁石50との磁界が印加される。したがって、1回転で信
号が2回出力されることになる。また磁気センサ20と磁気センサ30の信号は、設置位
置の関係から90度位相となる。
【0053】
図11に示すように、信号Bは、約50度位置と約230度(50°+180°)位置
とで出力され、信号Aは、約140度位置と約320度(120°+180°)とで出力
される。各信号が出力される約110度前に、安定化磁界を経ている。
【0054】
図12に示すように、信号Dは約-50度位置と約-230度(-50°-180°)
位置とで出力され、信号Cは約-140度(-50°-90°)位置と約-320度(-
140°-180°)位置とで出力される。各信号が出力される約110度前に、安定化
磁界を経ている。
【0055】
図13は、
図11と
図12を重ね合わせて、回転座標に置き換えた図である。信号Aが
出力されてから、符号Rに示すように右回転し、次の信号Bが検出されるまでは+90度
となる。信号Aが出力された直後に左回転したとき(
図6の符号L)には、次の信号は信
号Dである。安定化磁界Dsを経ていることから、この信号Dは評価できるパルス信号と
なる。結果的に左回転信号が出力されるまでは約-190°となる。このように、判定で
きる位置の範囲は360度未満となり、回転数を正確に検出することができる。
【0056】
改めて、右回転の場合を説明する。第1磁石40が磁気センサ20の真下にあり、第2
磁石50が回転軸中心をはさんだ反対側にある状態を0度回転位置とする。磁気センサ2
0、30は無磁化状態とする。
【0057】
右回転して30度回転位置となると、符号Asで示すように磁界Haが安定化磁界に到
達し、センサ20は正パルスAのセット状態(ハード層とソフト層が負方向に磁化された
状態)になる。印加磁界ゼロの状態であったセンサ30は、磁石50の接近により少しず
つ外部磁界が与えられ始める。
【0058】
右回転して50度位置になると、磁気センサ30は、磁石50の接近により磁界Hbが
動作磁界に到達する。しかし、磁気センサ30はセット状態(ハード層とソフト層が負方
向に磁化された状態)にないため、正パルスBは出力されない(定常的に右回転している
場合は、磁気センサ30が正パルスBのセット状態にあるため、正パルスBが出力される
。)。
その一方で、磁気センサ20は、磁石40が遠ざかり、印加磁界Haがほとんどない状態
となる。
【0059】
右回転して120度回転位置になると、符号Bsで示すように磁界Hbが安定化磁界に
到達し、センサ30は正パルスBのセット状態(ハード層とソフト層が負方向に磁化され
た状態)になる。印加磁界ゼロの状態であったセンサ20は、磁石50の接近により少し
ずつ外部磁界が与えられ始める。なお、磁石40は両センサから離れているため、両セン
サに磁界を与えない状態となる。
【0060】
右回転して140度回転位置になると、磁気センサ20は、磁石50の接近により印加
磁界Haが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ20は、上述のとおりセット状態にあ
る。そのため、140度回転位置で正パルスAが出力される。なお、磁石40は両センサ
から離れたままであるため、両センサに磁界を与えない状態となる。
【0061】
右回転して210度回転位置になると、符号Asで示すように磁界Haが安定化磁界に
到達し、センサ20は正パルスAのセット状態(ハード層とソフト層が負方向に磁化され
た状態)になる。他方、印加磁界ゼロの状態であったセンサ30は、磁石40の接近によ
り少しずつ外部磁界が与えられ始める。
【0062】
右回転して230度回転位置になると、磁気センサ30は、磁石40の接近により印加
磁界Hbが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ30は、上述のとおりセット状態にあ
る。そのため、230度位置で正パルスBが出力される。なお、磁気センサ20は磁石5
0が遠ざかり、印加磁界がほとんどない状態となる。
【0063】
右回転して300度回転位置になると、符号Bsで示すように磁界Hbが安定化磁界に
到達し、センサ30は正パルスBのセット状態(ハード層とソフト層が負方向に磁化され
た状態)になる。他方、印加磁界ゼロの状態であった磁気センサ20は、磁石40の接近
により少しずつ外部磁界が与えられ始める。なお、磁石50は両センサから離れており、
磁界を与えない状態となる。
【0064】
右回転して320度回転位置になると、磁気センサ20は、磁石40の接近により印加
磁界Haが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ20は、上述のとおりセット状態にあ
る。そのため、320度回転位置で正パルスAが出力される。なお、磁石50は両センサ
から離れたままであるため、両センサに磁界を与えない状態となる。
【0065】
0度位置となると、磁気センサ20は磁石40により正パルスAを出力したため、未セ
ット状態(ハード層とソフト層とで磁化方向が異なる状態)にある。磁気センサ30は、
磁石40により正パルスBのセット状態にある。
【0066】
続いて、左回転の場合を改めて説明する。これまでの右回転によって得られたセット状
態は左回転では無効となる。
【0067】
左回転して-30度回転位置となると、符号Csで示すように磁界Haが安定化磁界に
到達し、センサ20は負パルスCのセット状態(ハード層とソフト層が正方向に磁化され
た状態)になる。印加磁界ゼロの状態であったセンサ30は、磁石40の接近により少し
ずつ外部磁界が与えられ始める。なお、磁石50は両センサから離れているため、両セン
サに磁界を与えない状態となる。
【0068】
左回転して-50度位置になると、磁気センサ30は、磁石40の接近により磁界Hb
が動作磁界に到達する。しかし、磁気センサ30はセット状態(ハード層とソフト層が正
方向に磁化された状態)にないため、負パルスDは出力されない(定常的に左回転してい
る場合は、磁気センサ30が負パルスDのセット状態にあるため、負パルスDが出力され
る。)。なお、磁石50は両センサから離れたままであるため、両センサに磁界を与えな
い状態となる。
【0069】
左回転して-120度回転位置になると、符号Dsで示すように磁界Hbが安定化磁界
に到達し、センサ30は負パルスDのセット状態(ハード層とソフト層が正方向に磁化さ
れた状態)になる。印加磁界ゼロの状態であったセンサ20は、磁石50の接近により少
しずつ外部磁界が与えられ始める。
【0070】
左回転して-140度回転位置になると、磁気センサ20は、磁石50の接近により印
加磁界Haが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ20は、上述のとおりセット状態に
ある。そのため、-140度回転位置で負パルスCが出力される。なお、磁気センサ30
は、磁石40が遠ざかり、印加磁界Hbがほとんどない状態となる。
【0071】
左回転して-210度回転位置になると、符号Csで示すように磁界Haが安定化磁界
に到達し、センサ20は負パルスCのセット状態(ハード層とソフト層が正方向に磁化さ
れた状態)になる。印加磁界ゼロの状態であったセンサ30は、磁石50の接近により少
しずつ外部磁界が与えられ始める。なお、磁石40は両センサから離れているため、両セ
ンサに磁界を与えない状態となる。
【0072】
左回転して-230度回転位置になると、磁気センサ30は、磁石50の接近により印
加磁界Hbが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ30は、上述のとおりセット状態に
ある。そのため、-230度位置で負パルスDが出力される。なお、磁石40は両センサ
から離れたままであるため、両センサに磁界を与えない状態となる。
【0073】
左回転して-300度回転位置になると、符号Dsで示すように磁界Hbが安定化磁界
に到達し、センサ30は負パルスDのセット状態(ハード層とソフト層が正方向に磁化さ
れた状態)になる。他方、印加磁界ゼロの状態であった磁気センサ20は、磁石40の接
近により少しずつ外部磁界が与えられ始める。
【0074】
左回転して-320度回転位置になると、磁気センサ20は、磁石40の接近により印
加磁界Haが動作磁界に到達する。ここで磁気センサ20は、上述のとおりセット状態に
ある。そのため、-320度回転位置で負パルスCが出力される。なお、磁気センサ30
は、磁石50が遠ざかり、印加磁界がほとんどない状態となる。
【0075】
0度位置となると、磁気センサ20は磁石40により負パルスCを出力したため、未セ
ット状態(ハード層とソフト層とで磁化方向が異なる状態)にある。磁気センサ30は、
磁石50により負パルスDのセット状態にある。
【0076】
本実施形態では、以下のような順序である。括弧内の値はカウントされるパルス数変化
を示す。
右回転 As→C→B(+1)→Ds→Bs→D→A(+1)→Cs→As→C→B(
+1)→Ds→Bs→D→A(+1)→Cs→・・・
左回転 Cs→A→D(-1)→Bs→Ds→B→C(-1)→As→Cs→A→D(
-1)→Bs→Ds→B→C(-1)→As→・・・
【0077】
図13において右回転で「As→C→B(+1)→Ds」まで回転してからDsとBs
の間で反転し左回転で「Ds→B→C→As→」の順で反転しても反転後最初のCパルス
は出力されない。この場合は「Ds→B→C→As→Cs→A→D(-1)→」となり、
その先のDパルスが最初に出力される。反転位置がCsよりも先となるCsとAsの間の
場合は最初にCパルスが出力されるようになる。その結果、複雑なカウントになる。それ
にもかかわらず、1回転に4パルスが出力されるため、分解能が細かく、カウント漏れを
防止できる。
【0078】
[第4実施形態]
第3実施形態においては、磁気センサ20,30と磁石40,50とは、回転軸方向に
対向するが、第4実施形態においては、磁気センサ20,30と磁石40,50とは、法
線方向に対向する。
図14を参照しながら以下に説明する。
【0079】
磁石40、50はいずれも、着磁方向が円11の径方向となるように配置され、径方向
外側がN極であり、径方向内側がS極である。両磁石は、回転軸10aに関して180度
をなす。
【0080】
第1磁気センサ20は、第1接点P1と、第1接点P1を通る法線方向に対向している
。また、第2磁気センサ30は、第2接点P2と、第2接点P2を通る法線方向に対向し
ている。第1接点P1と第2接点P2とは回転軸10aに関して90度をなす。第1磁気
センサ20は第1接点P1を通る接線と平行に配置され、第2磁気センサ30は第2接点
P2を通る接線と平行に配置されている。この第4実施形態においても、第3実施形態に
おける
図11及び
図12と同様の信号が得られる。
【0081】
第3実施形態では、磁石と磁気センサとが回転軸方向に対向するため、法線方向(径方
向)のサイズを小さくすることができる。第4実施形態では、磁石と磁気センサとが法線
方向に対向するため、回転軸方向のサイズを小さくすることができる。両実施形態のいず
れにおいても、比較的簡単な構造の回転検出装置が実現される。
【0082】
なお、磁気センサ20、30は同一円上になくてもよく、磁石40、50は同一円上に
なくてもよい。実施形態3、4において
図13に示すパルス信号の位置関係を逸脱せず、
磁石40、50の回転運動と磁気センサ20、30の位置関係が守られる限りは磁気セン
サ20、30は同一平面及び又は同一半径の円周上に限定されたものではなく、また磁石
40、50も同一平面及び又は同一半径の円周上に限定されない位置関係にある。磁気セ
ンサの中心線20a、30aと平行した接線を描く回転運動で磁石が通過できればよい。
また、磁石を円柱形状としたが、他の形状でもよい。
【0083】
[第5実施形態]
第3及び第4の実施形態はともに、回転部材10の2か所の磁界発生部を個別の永久磁
石40及び50で構成した。これに対し、第5実施形態においては、少なくとも2か所の
磁界発生部を、回転部材の表面中央に設置された1つの磁石とヨークによって構成する。
【0084】
図16に示すように、回転部材10の表面中央に磁石60が配置されている。磁石60
は、略円柱状であり、その軸が回転軸と同軸であり、かつその軸方向に着磁されている。
磁石60の回転軸方向上方にはヨーク70が配置されている。このヨーク70は、直方体
状であり、その長さ方向が回転軸10aと垂直になるように配置されている。磁石60の
中心とヨーク70の中心とはいずれも回転軸10a上に位置しているが、これに限定され
るわけではない。
【0085】
ヨーク70の長さ方向両端部表面70a及び70bは、回転部材10に設けられた2つ
の磁界発生部である。両磁界発生部は、回転軸10aに関して180度をなしている。回
転部材10が回転すると、ヨーク70も回転し、該ヨークの両磁界発生部により円11が
描かれる。
【0086】
第1磁気センサ20及び第2磁気センサ30の位置関係は、第3実施形態における
図1
0と同様である。第1磁気センサは円11の第1接点と回転軸方向に対向し、第2磁気セ
ンサは円11の第2接点と回転軸方向に対向している。
【0087】
磁気センサと対峙する2か所に存在するヨーク70の長さ方向両端部表面は、磁石60
から磁力が誘導されて単一極磁面となる。1つの磁石60とヨーク70とにより、第3及
び第4の実施形態と同様な回転検出装置となる。本実施形態によれば、第3及び第4の実
施形態よりも磁石の数が少なくて済むという利点がある。
【0088】
あるいは、
図17に示すように、ヨーク70と磁石60とが回転軸10aに垂直な同一
平面上にあってもよい。ヨーク70の略中央に穴部71が設けられ、その穴部71を取り
囲むようにリング状の磁石60が配置されている。リング状の磁石60の中心とヨーク7
0の穴部71の中心とはいずれも回転軸10a上にある。ヨーク70が回転すると、該ヨ
ークの長さ方向両端部表面により円11が描かれる。このような回転軸貫通型すなわち中
空タイプも可能である。
【0089】
図18に示すように、ヨーク70の長さ方向両端部を回転軸方向下方に折り曲げること
により、長さ方向両端部表面70c及び70dを構成してもよい。ヨーク70は、本体部
と長さ方向両端部とにより全体として略U字状となる。そして、回転部材10が回転する
と、ヨーク70も回転し、長さ方向両端部表面70c及び70dにより円が描かれる。こ
の円の径方向外側に第1磁気センサ20及び第2磁気センサ30が配置される。すなわち
、第1磁気センサ20は、対応する第1接点と法線方向に対向し、第2磁気センサ30は
、対応する第2接点と法線方向に対向している。両磁気センサの位置関係は
図14と同様
である。
【0090】
[第6実施形態]
本実施形態では、略直方体形状の磁石を、その長さ方向が回転軸に垂直となるように配
置し、長さ方向両端部表面を2つの磁界発生部とする。
図19に示すように、回転部材1
0の表面に略直方体形状の磁石60が配置されている。この磁石60は、長さ方向が回転
軸10aと垂直になるように配置されている。磁石60の中心は回転軸10a上にある。
この磁石60は、厚さ方向すなわち回転軸方向に着磁されている。
【0091】
磁石60の長さ方向両端部表面60a及び60bが、2つの磁界発生部であり、回転軸
10aに関し180度をなす。回転部材10が回転すると、磁石60の長さ方向両端部表
面60a及び60bにより、円11が描かれる。
【0092】
第1磁気センサ20及び第2磁気センサ30の位置関係は、
図10と同様である。第1
磁気センサ20は対応する第1接点と回転軸方向に対向し、第2磁気センサ30は対応す
る第2接点と回転軸方向に対向している。磁気センサに磁界を印加させる長さ方向両端部
表面60a及び60bはいずれも単一磁極面である。1つの磁石60により、第3及び第
4の実施形態と同様の回転検出装置となる。本実施形態によれば、第5実施形態のヨーク
が不要であり、構成部品が少なくて済む。より簡単な構造となる利点がある。
【0093】
図20に示すように、磁石60の略中央に穴部61を設けてもよい。穴部61の中心は
回転軸10a上とすることができる。この構造により、回転軸貫通型すなわち中空タイプ
も可能な構造となる。
【0094】
図21においては、磁石60の長さ方向両端部が回転軸下方に折り曲げられ、長さ方向
両端部表面60c及び60dが形成されている。磁石60は、本体部と長さ方向両端部と
により全体が略U字状である。回転部材10が回転すると、これら両端部表面により円1
1が描かれる。第1磁気センサ20は円11上の第1接点と法線方向に対向し、第2磁気
センサ20は円11上の第2接点と法線方向に対向している。
【0095】
第3から第6の実施形態において、第1磁気センサ及び第2磁気センサが回転軸に関し
てなす角度が90度としたが、これに限定されない。信号A~Dに重なりがなければ、そ
の他の角度でもよい。
【0096】
[回転数、回転方向を判定する方法]
以下、第3から第6の実施形態における回転数、回転方向を判定する方法について、理
解を容易にするため、連続する信号を2つとして説明する。
【0097】
判定する方法は、メモリを含む信号処理回路により行われる。この回路は、識別機能と
参照機能と演算機能とを有する。まず、識別機能により2つの磁気センサからの信号を、
A、B、C、Dの4つに識別する。次に、参照機能にて、回転数及び回転方向の計数を開
始する初期状態で記憶された1つ前の(最後に検出された)履歴信号と、その後の回転に
伴う信号を順次、メモリに書き込む。メモリに格納された過去と現在の連続する2つの信
号を、予め設定した4種類のコード化したテーブルで検索し、一致したカウント値を返す
。信号が入力される毎に検索を行い、その結果のカウント値を演算機能にて、順次加減算
する。加減算された数値は、その時点での回転数と回転方向を表すことになる。然るに、
連続しない1つの信号のカウント値は0とする。一例として
図15に示すように、信号B
と信号Dとの間に規準位置を設定した場合、4種類のコード化したパターンを(コード:
カウント)、(AB:0.25)(CB:0.5)(BC:-0.5)(DC:-0.2
5)とすれば、回転方向及び回転数を正確にカウントできる。
【0098】
[1回転内の位置と回転数を同期する方法]
回転検出装置をモータの多回転用として用いる場合、モータ駆動システムの停電中は、
図15を参照しながら述べた方法で回転数を検出し、システム起動時に回転数カウンタの
基準位置からの変位角度を判別する必要がある。しかし、信号A、B、C、Dは1回転に
それぞれ2箇所存在するため、
図15においては、最後の検出信号が信号Aの場合は領域
3、4または領域7、8の二択となる。同様に、最後の検出信号がBの場合は領域1、2
または領域5、6の二択となり、最後の検出信号がCの場合は領域2、3または領域6、
7の二択となり、最後の検出信号がDの場合は領域1、8または領域4、5の二択となっ
てしまう。さらに最後の検出信号がBまたはDの場合は、基準位置をまたいだ範囲の検出
となるため、基準位置の信号Bよりの位置にいるのか、信号Dよりの位置にいるのかは判
定できない。つまり回転数を特定できない。そこで1回転アブソリュート型の位置センサ
を外付けすることでどの領域に位置しているかを判別し、回転数を確定することができる
。
【0099】
[回路の他の実施例]
回路には電源を供給する必要がある。各実施形態の回転検出装置は、磁性素子を使用し
ている。そのため、その大バルクハウゼンジャンプによる出力信号は、既に知られている
ように起電力であり、回路の電源として活用できる。すなわち、回路に磁気センサの出力
を整流器とコンデンサーにて処理する機能を追加することで、2つの磁気センサから回路
に電力を供給することができる。よって、例えばモータの多回転エンコーダーのバッテリ
ーレス化に応用可能となる。リードスイッチは、磁界を感知する無電源のセンサであり、
位置センサにリードスイッチを利用すれば、メーター(流量、水道、風量、ガス)でもバ
ッテリーを使用しなくてすむ。例えば自転車等の車輪の回転数等で1回転の位置同期が必
要ない用途にも電源の供給をしなくて良い。この電力を利用しデータを無線で送ることも
可能である。
【0100】
[磁気センサの他の実施例]
図22に、第1磁気センサ20の他の実施例を示す。大バルクハウゼンジャンプを発現
する磁性素子21にコイル22を巻き、さらに磁性素子の両端部に対し、軟磁性材料から
なる部品23a及び23bを磁性素子21に装着する。
図22では軟磁性材料の部品から
磁性素子の両端が露出しているが、露出していなくもよい。軟磁性材料の部品23a及び
23bは、材質、形状、位置に関して等価であることが好ましい。部品例として、一般的
に市販されているEMS(電磁感受性、Electromagnetic Susceptibility)対策用のフェ
ライトコアが利用可能である。第2磁気センサ30についても、磁性素子31にコイル3
2を巻き、磁性素子の両端部に軟磁性材料の部品33a、33bを装着する。この軟磁性
部材により、磁性素子の端部の発生する反磁界が抑制され、出力信号(電力量)を大きく
することができる。換言すれば、磁性素子の線長も短くできることになり、磁気センサが
小型となる。
【0101】
磁界発生部は、2か所に限られず、3か所以上でもよい。N箇所とした場合、N°/3
60°の位置に磁界発生部を均等に設置すれば、同様の機能を果たす。
【0102】
説明を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を記載しているが、各構成は、符
号によって示された対応箇所の構成に限定されるものではない。
【0103】
これまでに説明した実施形態に関し、以下の付記を開示する。
【0104】
[付記1]
回転部材の回転を検出する回転検出装置であって、
大バルクハウゼンジャンプを発現する細長の磁性素子と前記磁性素子に巻回されたコイ
ルとを有する第1磁気センサ及び第2磁気センサを備え、
前記回転部材には、略同じ磁界強度を有する少なくとも2つの磁界発生部が設けられ、
前記回転部材が回転すると前記少なくとも2つの磁界発生部により円が描かれ、前記少な
くとも2つの磁界発生部の単一磁極部からの磁界が前記第1磁気センサ及び第2磁気セン
サにより検出され、
前記第1磁気センサ及び第2磁気センサが、前記円に同軸となる円の第1接線及び第2
接線とそれぞれ平行になるように配置され、
前記第1接線上の第1接点と前記第2接線上の第2接点とが前記回転部材の回転軸に関
して一定の位相角をなし、
前記第1磁気センサ及び第2磁気センサがそれぞれ、前記第1接点及び第2接点と、法
線方向又は前記回転軸方向に対向している、
回転検出装置。
【0105】
[付記2]
前記少なくとも2つの磁界発生部が、別個の永久磁石により構成されている、付記1に
記載の回転検出装置。
【0106】
[付記3]
前記少なくとも2つの磁界発生部が、前記回転部材の中心に設けられた単一の磁石に接
するように設けられた略直方体状のヨークの長さ方向両端部である、付記1に記載の回転
検出装置。
【0107】
[付記4]
前記少なくとも2つの磁界発生部が、長さ方向が前記回転軸と垂直になるように設置さ
れた略直方体状の磁石の長さ方向両端部である、付記1に記載の回転検出装置。
【0108】
[付記5]
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサに接続され、前記回転部材の回転方向に応
じた前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサからの計4種類の信号を受信し、前記信
号に基づいて前記回転部材の回転数と回転方向とを決定する回路をさらに備える付記1~
4のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【0109】
[付記6]
前記回路は前記信号を電力として動作する、付記5に記載の回転検出装置。
【0110】
[付記7]
外付けの位置センサをさらに備え、
前記回路は、前記位置センサに接続され、前記位置センサの出力信号に基づいて前記回
転部材の回転数と回転方向とを補正する、
付記5又は6に記載の回転検出装置。
【0111】
[付記8]
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサが、前記磁性素子の両端部に設けられた軟
磁性部材をさらに備える、付記1~7のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【0112】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるも
のではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0113】
10 回転板
10a 回転軸
11 磁石又は磁界発生源が描く円
12 接線
13 磁気センサが配置される円
20、30 磁気センサ
21、31 磁性素子
22、32 コイル
40 磁石
70 ヨーク