(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】反射防止フィルム及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 1/11 20150101AFI20240814BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240814BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240814BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B1/11
G02B1/14
G02B1/18
G02F1/1335
(21)【出願番号】P 2023113507
(22)【出願日】2023-07-11
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一生
(72)【発明者】
【氏名】横井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】大井 達也
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-029126(JP,A)
【文献】国際公開第2021/106788(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0052510(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/11
G02B 1/14
G02B 1/18
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層及び反射防止層をこの順に有する反射防止フィルムであって、
前記反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体であり、
前記プライマー層は、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜であり、かつ酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が22重量%以上であり、
前記プライマー層の厚みが、0.5nm以上20nm以下であ
り、
前記反射防止層は、屈折率1.9以上の高屈折率層を有し、
前記高屈折率層の材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、又はアンチモンドープ酸化スズである、反射防止フィルム。
【請求項2】
前記プライマー層は、酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が60重量%以下である、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記反射防止層の前記プライマー層側とは反対側に配置された防汚層を更に備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径1.0μm未満の粒子を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記透明フィルム基材の前記ハードコート層側とは反対側に配置された粘着剤層を更に備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
画像表示パネルと、前記画像表示パネルの視認側に配置された、請求項1に記載の反射防止フィルムとを備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが配置されている。反射防止フィルムは、透明フィルム基材上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
例えば、特許文献1では、ハードコート層上に酸化インジウムスズ(ITO)を含むプライマー層を設け、その上に複数の薄膜からなる反射防止層を形成した反射防止フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プライマー層として一般的なITO膜が設けられた反射防止フィルムを、硫酸等の酸と接触させると、層間剥離(例えば、反射防止層とハードコート層との間の層間剥離)が発生しやすくなることが、本発明者らの検討により判明した。このため、プライマー層として一般的なITO膜が設けられた反射防止フィルムは、耐酸性(酸による腐食に耐える性質)が必要とされる用途に適用することが困難となる可能性がある。なお、耐酸性が必要とされる用途としては、バッテリー液に硫酸が使用されている自動車向け用途(車載用途)等が挙げられる。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、耐酸性に優れる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0008】
[1]透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層及び反射防止層をこの順に有する反射防止フィルムであって、
前記反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体であり、
前記プライマー層は、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜であり、かつ酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が15重量%以上である、反射防止フィルム。
【0009】
[2]前記プライマー層は、酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が60重量%以下である、前記[1]に記載の反射防止フィルム。
【0010】
[3]前記プライマー層の厚みが、0.5nm以上20nm以下である、前記[1]又は[2]に記載の反射防止フィルム。
【0011】
[4]前記反射防止層の前記プライマー層側とは反対側に配置された防汚層を更に備える、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の反射防止フィルム。
【0012】
[5]前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径1.0μm未満の粒子を含む、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の反射防止フィルム。
【0013】
[6]前記透明フィルム基材の前記ハードコート層側とは反対側に配置された粘着剤層を更に備える、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の反射防止フィルム。
【0014】
[7]画像表示パネルと、前記画像表示パネルの視認側に配置された、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムとを備える、画像表示装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐酸性に優れる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る反射防止フィルムの他の例を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る画像表示装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0018】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長550nmの光に対する屈折率である。層状物(より具体的には、透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層、反射防止層、防汚層、粘着剤層等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。反射防止フィルムを構成する各層の厚み(膜厚)の数値は、何ら規定していなければ、層を厚み方向に切断した断面の画像から無作為に測定箇所を10箇所選択し、選択した10箇所の測定箇所の厚みを測定して得られた10個の測定値の算術平均値である。
【0019】
薄膜(層)の「主成分」は、何ら規定していなければ、重量基準で、薄膜中に最も多く含まれる成分を意味する。「固形分」とは組成物中の不揮発成分であり、例えば、溶媒以外の成分である。
【0020】
粒子の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトウェア(例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0021】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、何ら規定していなければ、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0023】
<第1実施形態:反射防止フィルム>
本発明の第1実施形態に係る反射防止フィルムは、透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層及び反射防止層をこの順に有する反射防止フィルム(積層体)である。反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体である。プライマー層は、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜であり、かつ酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が15重量%以上である。
【0024】
以下、プライマー層中の酸化インジウムと酸化スズの合計(100重量%)に対する酸化スズの量(単位:重量%)を、単に「プライマー層中の酸化スズの量」又は「酸化スズの量」と記載することがある。
【0025】
第1実施形態に係る反射防止フィルムは、上述した構成を備えるため、耐酸性に優れる。その理由は、以下のように推測される。
【0026】
第1実施形態に係る反射防止フィルムでは、ハードコート層と反射防止層との密着性を高めるためのプライマー層として、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜が設けられている。また、第1実施形態に係る反射防止フィルムのプライマー層では、酸化スズの量が15重量%以上である。このため、第1実施形態に係る反射防止フィルムでは、プライマー層が、酸に対して腐食しにくくなる傾向がある。よって、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、酸と接触しても、ハードコート層と反射防止層との密着性が確保されるため、耐酸性に優れる。
【0027】
また、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、上述した構成を備えるため、紫外線が照射された際の層間の密着性を確保できる。以下、紫外線が照射された際の層間の密着性を確保できる性質を、「耐候性」と記載することがある。
【0028】
第1実施形態において、耐酸性により優れる反射防止フィルムを得るためには、プライマー層中の酸化スズの量が、18重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、22重量%以上であることが更に好ましく、24重量%以上であることが更により好ましく、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上又は40重量%以上であってもよい。
【0029】
第1実施形態において、透明性に優れる反射防止フィルムを得るためには、プライマー層中の酸化スズの量が、60重量%以下であることが好ましく、55重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることが更に好ましく、45重量%以下であってもよい。
【0030】
以下、第1実施形態に係る反射防止フィルムの構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
図1に示す反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、プライマー層13及び反射防止層14をこの順に有する。プライマー層13は、ハードコート層12及び反射防止層14の両方と接している。プライマー層13は、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜であり、かつ酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が15重量%以上である。
【0031】
また、反射防止フィルム10は、反射防止層14のプライマー層13側とは反対側に配置された防汚層19を更に備える。つまり、反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、プライマー層13、反射防止層14及び防汚層19をこの順に有する。
【0032】
反射防止層14は、プライマー層13側から、高屈折率層15、低屈折率層16、高屈折率層17及び低屈折率層18の4層をこの順に有する。高屈折率層及び低屈折率層の詳細については、後述する。なお、反射防止フィルムの反射防止層は、反射防止層14のような4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、又は6層以上の積層構成であってもよい。反射防止フィルムの反射防止層は、好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層との交互積層体である。空気界面での反射を低減するためには、反射防止フィルムの反射防止層は、最外層(ハードコート層12から最も離れた層)が低屈折率層であることが好ましい。
【0033】
第1実施形態に係る反射防止フィルムは、
図1に示す反射防止フィルム10とは異なる層構成であってもよい。例えば、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、
図2に示すように、透明フィルム基材11のハードコート層12側とは反対側に配置された粘着剤層21を更に備える、反射防止フィルム20であってもよい。
【0034】
粘着剤層21を構成する粘着剤は、特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、変性ポリオレフィン、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等のポリマーをベースポリマーとする透明な粘着剤を、適宜に選択して用いることができる。粘着剤層21の厚みは、特に限定されないが、薄層性及び接着性を両立させる観点から、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0035】
粘着剤層21の透明フィルム基材11側とは反対側の主面には、はく離ライナー(不図示)が仮着されていてもよい。はく離ライナーは、例えば、反射防止フィルム20を後述する画像表示パネル101(
図3参照)と貼り合わせるまでの間、粘着剤層21の表面を保護する。はく離ライナーの構成材料としては、アクリル、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル等から形成されたプラスチックフィルムが好適に用いられる。はく離ライナーの厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。はく離ライナーの表面には、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理に使用される離型剤の材料としては、シリコーン系材料、フッ素系材料、長鎖アルキル系材料、脂肪酸アミド系材料等が挙げられる。
【0036】
以上、図面を参照しながら第1実施形態に係る反射防止フィルムの構成について説明したが、本発明に係る反射防止フィルムは、上述した構成に限定されない。
【0037】
例えば、本発明に係る反射防止フィルムは、防汚層を備えていない反射防止フィルムであってもよい。また、本発明に係る反射防止フィルムは、上述した構成に含まれる層(透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層、反射防止層及び防汚層)とは異なる光学機能層を備えていてもよい。
【0038】
次に、第1実施形態に係る反射防止フィルムの要素について説明する。
【0039】
[透明フィルム基材]
透明フィルム基材は、例えば可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。透明フィルム基材を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。透明フィルム基材の材料としては、透明性及び強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びセルロース樹脂からなる群より選択される一種が好ましく、PET、COP、及びTACからなる群より選択される一種がより好ましく、TACが更に好ましい。つまり、透明フィルム基材としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、及びセルロース樹脂フィルムからなる群より選択される一種のフィルムが好ましく、PETフィルム、COPフィルム、及びTACフィルムからなる群より選択される一種のフィルムがより好ましく、TACフィルムが更に好ましい。
【0040】
透明フィルム基材の厚みは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。透明フィルム基材の厚みは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0041】
透明フィルム基材の一方の主面又は両主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0042】
透明フィルム基材の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、反射防止フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上100%以下である。
【0043】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムの硬度や弾性率等の機械的特性を高める層である。ハードコート層は、例えば、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)の硬化物からなる。硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層の硬度を高める観点から、硬化性樹脂としては、アクリル樹脂及びウレタンアクリレート系樹脂からなる群より選択される一種以上が好ましく、ウレタンアクリレート系樹脂がより好ましい。
【0044】
また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、及び熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。反射防止フィルムの生産性向上の観点から、硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化型の樹脂組成物が好ましい。紫外線硬化型の樹脂組成物には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー及び紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される一種以上が含まれる。紫外線硬化型の樹脂組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0045】
また、硬化性樹脂組成物は、微粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物に微粒子を配合することにより、ハードコート層における、硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整及び防眩性の調整が可能となる。微粒子としては、例えば、金属(又は半金属)の酸化物粒子、ガラス粒子、及び有機粒子が挙げられる。金属(又は半金属)の酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、及び酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、及びポリカーボネートが挙げられる。
【0046】
また、硬化性樹脂組成物は、上記微粒子として、個数平均一次粒子径が1.0μm未満の粒子(以下、「ナノ粒子」と記載することがある)を含んでいてもよい。つまり、ハードコート層は、ナノ粒子を含んでいてもよい。ハードコート層がナノ粒子を含む硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、ハードコート層の表面に、微細な凹凸が形成され、ハードコート層と、その上に形成される層(例えばプライマー層)との密着性が向上する傾向がある。
【0047】
密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の個数平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下であることが好ましく、25nm以上70nm以下であることがより好ましく、30nm以上60nm以下であることが更に好ましい。
【0048】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属(又は半金属)の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。つまり、ナノ粒子としては、酸化シリコンの粒子(シリカ粒子)が好ましい。ナノ粒子としての無機酸化物粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0049】
ハードコート層におけるナノ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ナノ粒子の量が5重量部以上であれば、ハードコート層上に形成される層との密着性をより向上させることができる。ハードコート層におけるナノ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0050】
ハードコート層の厚みは、ハードコート層の硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。ハードコート層の厚みは、反射防止フィルムの柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、更により好ましくは30μm以下である。
【0051】
ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側に設けられる層(例えば、後述するプライマー層)とハードコート層との密着性を高めるためには、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面は、プラズマ処理されていることが好ましい。
【0052】
[プライマー層]
プライマー層は、ハードコート層と反射防止層との密着性を高めるための層である。本実施形態では、プライマー層が酸化インジウムスズ(ITO)を主成分とする薄膜である。プライマー層がITOを主成分として含むことにより、ハードコート層と反射防止層との密着性を高めつつ、透明性に優れるプライマー層が得られる。また、プライマー層がITOを主成分として含むことにより、反射防止フィルムに適度な帯電防止性を持たせることができる。
【0053】
プライマー層は、酸化インジウム及び酸化スズ以外の酸化物を含んでいてもよいが、ハードコート層と反射防止層との密着性をより高めるためには、プライマー層中のITOの含有率は、プライマー層の全量に対して、90重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。以下、ITOを主成分とする薄膜を、「ITO層」と記載することがある。
【0054】
ハードコート層と反射防止層との密着性を高めつつ、プライマー層の透明性を確保するためには、プライマー層の厚みは、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上10nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上10nm以下であることが更に好ましい。
【0055】
[反射防止層]
反射防止層は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0056】
反射防止層を構成する薄膜の材料としては、金属(又は半金属)の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体である。
【0057】
高屈折率層は、屈折率が、例えば1.9以上であり、好ましくは2.0以上である。高屈折率層の材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ(Nb2O5等)、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタン及び酸化ニオブからなる群より選択される一種以上が好ましい。低屈折率層は、屈折率が、例えば1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。低屈折率層の材料としては、酸化シリコン(SiO2等)、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6超1.9未満の中屈折率層が設けられてもよい。
【0058】
高屈折率層及び低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。例えば、高屈折率層と低屈折率層の積層構成としては、ハードコート層側から、光学膜厚20nm以上55nm以下の高屈折率層、光学膜厚25nm以上55nm以下の低屈折率層、光学膜厚80nm以上270nm以下の高屈折率層、及び光学膜厚100nm以上150nm以下の低屈折率層からなる4層構成が挙げられる。
【0059】
反射防止層が、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層させた、4層の交互積層体である場合、反射防止層の構成としては、ハードコート層側から、厚み5nm以上20nm以下の酸化ニオブ薄膜、厚み10nm以上40nm以下の酸化シリコン薄膜、厚み65nm以上120nm以下の酸化ニオブ薄膜、及び厚み60nm以上100nm以下の酸化シリコン薄膜をこの順に備える構成が挙げられる。
【0060】
耐屈曲性に優れる反射防止フィルムを得るためには、反射防止層の厚みは、140nm以上280nm以下であることが好ましく、170nm以上280nm以下であることがより好ましく、180nm以上260nm以下であることが更に好ましく、190nm以上250nm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、「反射防止層の厚み」は、反射防止層を構成する各層の厚みの合計(合計厚み)である。
【0061】
[防汚層]
反射防止フィルムは、反射防止層のプライマー層側とは反対側に防汚層を備えることが好ましく、反射防止フィルムの最表層として防汚層を備えることがより好ましい。防汚層が設けられることにより、例えば、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減できるとともに、反射防止フィルムの表面に付着した汚染物質の除去が容易となる。
【0062】
反射防止層の反射防止性能の低下を抑制するためには、防汚層は、反射防止層の最表層(例えば低屈折率層)との屈折率差が小さいことが好ましい。防汚層の屈折率としては、1.6以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。
【0063】
防汚層の材料としては、フッ素含有化合物が好ましい。フッ素含有化合物は、防汚性に優れつつ、低屈折率化に寄与し得る。中でも、撥水性に優れ、高い防汚性を発揮できることから、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、炭素原子数1以上4以下の直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキレンオキシド単位を複数有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。炭素原子数1以上4以下の直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキレンオキシド単位としては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド単位(-CF2O-)、パーフルオロエチレンオキシド単位(-CF2CF2O-)、パーフルオロプロピレンオキシド単位(-CF2CF2CF2O-)、パーフルオロイソプロピレンオキシド単位(-CF(CF3)CF2O-)等が挙げられる。
【0064】
防汚層の厚みは、例えば、2nm以上20nm以下である。防汚層の厚みが大きいほど、防汚性が向上する傾向がある。防汚層の厚みは、5nm以上であることが好ましく、6nm以上であることがより好ましい。一方、防眩性を高める観点から、防汚層の厚みは、15nm以下であることが好ましい。
【0065】
[反射防止フィルムの好ましい態様]
耐候性及び透明性を確保しつつ、耐酸性に優れる反射防止フィルムを得るためには、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:プライマー層中の酸化スズの量が15重量%以上60重量%以下である。
条件2:上記条件1を満たし、かつプライマー層の厚みが0.5nm以上20nm以下である。
条件3:上記条件2を満たし、かつハードコート層が個数平均一次粒子径1.0μm未満の粒子を含む。
【0066】
[反射防止フィルムの製造方法]
次に、第1実施形態に係る反射防止フィルムの好適な製造方法について説明する。以下、第1実施形態に係る反射防止フィルムの好適な製造方法を、製造方法Mと記載することがある。
【0067】
製造方法Mは、例えば、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程を備える。製造方法Mは、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程以外の工程(他の工程)を備えていてもよい。他の工程としては、例えば、後述するハードコート層形成工程、ハードコート層の表面処理工程、及び防汚層形成工程が挙げられる。
【0068】
以下、製造方法Mの一例が備える各工程について説明する。
【0069】
(ハードコート層形成工程)
ハードコート層形成工程は、透明フィルム基材の一方の主面にハードコート層を形成する工程である。例えば、透明フィルム基材の一方の主面に硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)を塗布し、必要に応じて溶媒の除去及び樹脂の硬化を行うことにより、ハードコート層が形成される。ハードコート層形成用組成物は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。
【0070】
ハードコート層形成用組成物は、上記成分の他に、ナノ粒子、個数平均一次粒子径1.0μm以上の粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0071】
ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の塗膜の乾燥温度は、ハードコート層形成用組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃以上150℃以下である。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が熱硬化性樹脂である場合は、加熱によって塗膜を硬化させる。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって塗膜を硬化させる。照射光の積算光量は、好ましくは100mJ/cm2以上500mJ/cm2以下である。
【0072】
(ハードコート層の表面処理工程)
ハードコート層の表面処理工程では、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面を表面改質処理する。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。表面改質処理がプラズマ処理である場合、不活性ガスとしては、例えばアルゴンガスが使用される。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば50W以上300W以下である。また、プラズマ処理における圧力条件は、例えば0.1Pa以上2.5Pa以下である。
【0073】
(プライマー層形成工程)
プライマー層形成工程は、ハードコート層上にプライマー層を形成(成膜)する工程である。プライマー層の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。生産性を高める観点から、プライマー層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0074】
ロールトゥロール方式のスパッタ法では、長尺のフィルム(例えば、ハードコート層が形成された透明フィルム基材)を長手方向(MD方向)に搬送しながら、例えば、プライマー層及び反射防止層を連続成膜できる。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、及び必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。プライマー層としてITO層を成膜する場合、スパッタ法によるITO層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタのいずれでも実施できる。
【0075】
スパッタ法を実施するための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、RF電源、及び、MFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が挙げられる。スパッタ法における放電電力は、例えば1kW以上100kW以下であり、好ましくは1kW以上50kW以下である。スパッタ法を実施する際の成膜ロールの表面温度は、例えば-25℃以上25℃以下であり、好ましくは-20℃以上0℃以下である。スパッタ法を実施する際の成膜室内の圧力は、好ましくは0.01Pa以上10Pa以下であり、より好ましくは0.05Pa以上5Pa以下であり、更に好ましくは0.1Pa以上1Pa以下である。
【0076】
(反射防止層形成工程)
反射防止層形成工程は、プライマー層上に反射防止層を成膜する工程である。反射防止層の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。生産性を高める観点から、プライマー層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。反射防止層形成工程でスパッタ法を実施する際は、例えば、上述した(プライマー層形成工程)で説明した条件の中で成膜条件を適宜設定することができる。
【0077】
(防汚層形成工程)
防汚層形成工程は、反射防止層のプライマー層側とは反対側に防汚層を形成する工程である。防汚層形成工程では、例えば、フッ素含有化合物を材料として用い、ドライコーティング法で防汚層を形成する。ドライコーティング法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、及びCVD法が挙げられ、真空蒸着法が好ましい。
【0078】
<第2実施形態:画像表示装置>
次に、本発明の第2実施形態に係る画像表示装置について説明する。第2実施形態に係る画像表示装置は、画像表示パネルと、画像表示パネルの視認側に配置された、第1実施形態に係る反射防止フィルムとを備える。以下、第1実施形態と重複する内容については説明を省略する。
【0079】
図3は、第2実施形態に係る画像表示装置の一例を示す断面図である。
図3に示す画像表示装置100は、画像表示パネル101と、画像表示パネル101の視認側(
図3中の上方側)に配置された、第1実施形態に係る反射防止フィルムの一例である反射防止フィルム10とを備える。画像表示装置100では、反射防止フィルム10の透明フィルム基材11と画像表示パネル101とが粘着剤層21を介して貼り合わせられている。
【0080】
画像表示パネル101としては、液晶セル、有機ELセル等の画像表示セルを含む画像表示パネルが例示できる。
【0081】
第2実施形態に係る画像表示装置は、画像表示パネルの視認側に反射防止フィルムが配置されているため、外光の反射が低減され、視認性に優れる。また、第2実施形態に係る画像表示装置は、第1実施形態に係る反射防止フィルムを備えるため、耐酸性に優れる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<実施例1の反射防止フィルムの作製>
[ハードコート層形成工程]
個数平均一次粒子径50nmのシリカ粒子を含有するウレタンアクリレート系の紫外線硬化型樹脂組成物(荒川化学工業社製「ビームセット577」)と、この紫外線硬化型樹脂組成物の固形分100重量部に対して、シリコーン樹脂粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「トスパール130」、平均粒子径:3.0μm、屈折率:1.43、真比重:1.32)0.1重量部と、架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(積水化成品工業社製「テクポリマー SSX-103」、平均粒子径:3.0μm、屈折率:1.50、真比重:1.20)4.0重量部と、チクソトロピー剤(クニミネ工業社製「スメクトンSAN」、有機粘土である合成スメクタイト)2.0重量部と、光重合開始剤(IGM Resins社製「Omnirad127」)3.0重量部と、シリコーン系レベリング剤(共栄社化学社製「ポリフロー LE303」)0.15重量部とを混合し、酢酸ブチルで希釈して、固形分濃度40重量%のハードコート層形成用組成物HC1を得た。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(富士フイルム社製「フジタック TG60UL」、厚み:60μm)の一方の主面に、上記手順で得られたハードコート層形成用組成物HC1を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度60℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を300mJ/cm2とした。これにより、TACフィルム上に厚み6μmのハードコート層を形成した。
【0084】
[ハードコート層の表面処理工程]
次いで、ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、1.0Paの真空雰囲気下、ハードコート層が形成されたTACフィルムを搬送しながら、ハードコート層の表面をプラズマ処理した。プラズマ処理する際は、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、放電電力を100Wとした。これにより、TACフィルムと、プラズマ処理されたハードコート層とを備える積層体(以下、「光学フィルムF1」と記載することがある)を得た。
【0085】
[プライマー層形成工程]
次いで、光学フィルムF1をロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、アルゴンガスと酸素ガスとを100:13の体積比で導入し、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、スパッタ法により、ハードコート層上に厚み1.5nmのITO層(プライマー層)を形成した。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを85:15の重量比で含有するITOターゲットを用いた。また、スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源とし、放電電力を4.5kWとし、成膜室内の圧力を0.2Paとした。
【0086】
[反射防止層形成工程]
プライマー層の形成に続いて、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いてプライマー層形成後の光学フィルムF1を搬送しながら、スパッタ法により、プライマー層上に、第1層:厚み12nmのNb2O5層(屈折率:2.33)、第2層:厚み27nmのSiO2層(屈折率:1.46)、第3層:厚み108nmのNb2O5層、及び第4層:厚み86nmのSiO2層をこの順に成膜した。これにより、プライマー層上に、4層構成(第1層、第2層、第3層及び第4層からなる4層構成)の反射防止層を形成した。第1層~第4層の各層の成膜では、いずれも、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、電源をMFAC電源とし、成膜室内の圧力を0.7Paとした。また、第1層の成膜では、Nbターゲットを用い、アルゴンガスと酸素ガスとを100:5の体積比で導入し、放電電力を13.0kWとした。第2層の成膜では、Siターゲットを用い、アルゴンガスと酸素ガスとを100:33の体積比で導入し、放電電力を25.5kWとした。第3層の成膜では、Nbターゲットを用い、アルゴンガスと酸素ガスとを100:13の体積比で導入し、放電電力を27.5kWとした。第4層の成膜では、Siターゲットを用い、アルゴンガスと酸素ガスとを100:30の体積比で導入し、放電電力を20.5kWとした。
【0087】
[防汚層形成工程]
コーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」、有効成分:パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物)を乾燥して固化したものを蒸着源として用い、蒸着源の加熱温度を260℃にして、真空蒸着法により反射防止層上に厚み8nmの防汚層を形成した。これにより、TACフィルムと、ハードコート層と、プライマー層と、反射防止層と、防汚層とをこの順に備える反射防止フィルム(実施例1の反射防止フィルム)を得た。
【0088】
<実施例2の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程において、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを80:20の重量比で含有するITOターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例2の反射防止フィルムを得た。
【0089】
<実施例3の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程において、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを75:25の重量比で含有するITOターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例3の反射防止フィルムを得た。
【0090】
<実施例4の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程において、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを70:30の重量比で含有するITOターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例4の反射防止フィルムを得た。
【0091】
<実施例5の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程において、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを60:40の重量比で含有するITOターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例5の反射防止フィルムを得た。
【0092】
<比較例1の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程において、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを90:10の重量比で含有するITOターゲットを用いたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、比較例1の反射防止フィルムを得た。
【0093】
<参考例1の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程を以下の手順に変更したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、参考例1の反射防止フィルムを得た。
【0094】
[参考例1のプライマー層形成工程]
光学フィルムF1をロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、アルゴンガスと酸素ガスとを100:9の体積比で導入し、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、スパッタ法により、ハードコート層上に厚み3.0nmのSiOx層(x<2)を形成した。プライマー層(SiOx層)の形成には、ターゲット材料として、Siターゲットを用いた。また、スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源とし、放電電力を4.5kWとし、成膜室内の圧力を0.7Paとした。
【0095】
<参考例2の反射防止フィルムの作製>
プライマー層形成工程を以下の手順に変更したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、参考例2の反射防止フィルムを得た。
【0096】
[参考例2のプライマー層形成工程]
光学フィルムF1をロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、アルゴンガスと酸素ガスとを100:10の体積比で導入し、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、スパッタ法により、ハードコート層上に厚み1.5nmのTiOx層(x<2)を形成した。プライマー層(TiOx層)の形成には、ターゲット材料として、Tiターゲットを用いた。また、スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源とし、放電電力を4.5kWとし、成膜室内の圧力を0.7Paとした。
【0097】
<測定方法及び評価方法>
[酸化スズの量の測定方法]
測定対象の反射防止フィルム(詳しくは、実施例1~5及び比較例1の反射防止フィルムのいずれか)のプライマー層中の酸化スズの量は、以下に示す手順で測定した。まず、測定対象の反射防止フィルムのプライマー層の成膜条件と同じ条件で、光学フィルムF1のハードコート層上に厚み1.5nmのプライマー層を成膜した。次いで、得られたプライマー層の元素組成を、走査型蛍光X線分析装置(リガク社製「ZSX PrimusII」)を用いて測定した。そして、酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量(単位:重量%)を算出した。
【0098】
[耐酸性の評価方法]
評価対象の反射防止フィルム(詳しくは、実施例1~5、比較例1並びに参考例1及び2の反射防止フィルムのいずれか)の防汚層表面に、硫酸水溶液(キシダ化学社製「37%(1+3)-硫酸」、硫酸の濃度:37重量%、水の濃度:63重量%)をスポイトで1滴滴下し、温度23℃かつ相対湿度50%の雰囲気下に22時間静置した。次いで、防汚層表面を水洗し、反射防止フィルム中の層間剥離の有無を目視で確認した。層間剥離が無かった場合、A(耐酸性に優れている)と評価した。一方、層間剥離が有った場合、B(耐酸性に優れていない)と評価した。
【0099】
[耐候性の評価方法]
まず、評価対象の反射防止フィルム(詳しくは、実施例1~5、比較例1並びに参考例1及び2の反射防止フィルムのいずれか)のTACフィルム側の主面に、粘着剤を介して厚み5mmのガラス板を貼り合わせて、評価用試料を得た。次いで、評価用試料を、耐候性評価装置(岩崎電気社製「アイスーパー SUV-W161」)に投入し、下記の条件で防汚層側から紫外線を照射した。
【0100】
(紫外線照射条件)
ブラックパネル温度(BPT):85℃
相対湿度:45%
紫外線強度:150mW/cm2
照射時間:32.5時間
【0101】
次いで、紫外線照射後の反射防止フィルムの防汚層側に100個のマス目を形成し、JIS K5400(クロスカット試験法)に従って、碁盤目剥離試験を実施した。そして、剥がれたマス目の個数をカウントし、以下の基準に従い、耐候性を判定した。なお、「剥がれ」とは、1マスの面積の1/4以上の剥離があった場合を意味する。
A:剥がれたマス目の個数が、9個以下であった。
B:剥がれたマス目の個数が、10個以上であった。
【0102】
判定結果がAの場合、「耐候性に優れている」と評価した。一方、判定結果がBの場合、「耐候性に優れていない」と評価した。
【0103】
<結果>
実施例1~5、比較例1並びに参考例1及び2について、プライマー層を構成する酸化物の種類、酸化スズの量、耐酸性の評価結果、及び耐候性の評価結果を表1に示す。なお、表1において、「-」は、測定しなかったことを意味する。
【0104】
【0105】
表1に示すように、実施例1~5では、プライマー層中の酸化スズの量が15重量%以上であった。実施例1~5では、耐酸性の評価結果がAであった。よって、実施例1~5の反射防止フィルムは、耐酸性に優れていた。
【0106】
表1に示すように、比較例1では、プライマー層中の酸化スズの量が15重量%未満であった。比較例1では、耐酸性の評価結果がBであった。よって、比較例1の反射防止フィルムは、耐酸性に優れていなかった。
【0107】
なお、耐候性については、プライマー層としてTiOx層を設けた参考例2以外は、全てA(耐候性に優れている)であった。
【0108】
以上の結果から、本発明によれば、耐酸性に優れる反射防止フィルムを提供できることが示された。
【符号の説明】
【0109】
10、20 反射防止フィルム
11 透明フィルム基材
12 ハードコート層
13 プライマー層
14 反射防止層
19 防汚層
21 粘着剤層
100 画像表示装置
101 画像表示パネル
【要約】
【課題】耐酸性に優れる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置を提供する。
【解決手段】反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、プライマー層13及び反射防止層14をこの順に有する。反射防止層14は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体である。プライマー層13は、酸化インジウムスズを主成分とする薄膜であり、かつ酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量が15重量%以上である。
【選択図】
図1