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特許7538321黒色クロム層を堆積させるための電気めっき浴、堆積方法およびかかる層を備える基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】黒色クロム層を堆積させるための電気めっき浴、堆積方法およびかかる層を備える基板
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/08 20060101AFI20240814BHJP
   C25D 3/06 20060101ALI20240814BHJP
   C25D 3/10 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C25D3/08
C25D3/06
C25D3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023501839
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2021085194
(87)【国際公開番号】W WO2022123008
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】20213572.9
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベルケム エズカヤ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ヴァハター
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヨナート
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107099824(CN,A)
【文献】特表2014-513214(JP,A)
【文献】特開2020-158863(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024729(WO,A1)
【文献】特表2019-516016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/08
C25D 3/06
C25D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色クロム層を堆積させるための電気めっき浴であって、
(A)電気めっき浴の全体積を基準にして、5g/L~35g/Lの範囲の総濃度の三価クロムイオン、
(B)電気めっき浴の全体積を基準にして5g/L~200g/Lの範囲の総濃度の前記三価クロムイオン用の1つまたは2つ以上の錯化剤、
(C)電気めっき浴の全体積を基準にして30g/L~250g/Lの範囲の総濃度の前記電気めっき浴用の1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物、
(D)前記電気めっき浴の全体積を基準にして105mmol/L~245mmol/Lの範囲の総量のチオシアン酸、その塩、エステルおよび/または異性体、
(E)前記電気めっき浴の全体積を基準にして、100mmol/L~950mmol/Lの範囲の総量の、式(I)
-S-(CH-CH(NH)-R (I)
[式中、
- Rは、分岐または非分岐C1~C4アルキルであり、
- Rは、COOH、その塩および(CH-OHからなる群から選択され、
- nは、1~4の範囲の整数であり、
- mは、1~4の範囲の整数である]
の1つまたは2つ以上の化合物、その塩および/またはスルホキシド
を含み、(E)/(D)のモル比が、0.9以上である、電気めっき浴。
【請求項2】
ハロゲンアニオンをさらに含む、請求項1記載の電気めっき浴。
【請求項3】
(E)(D)モル比が、0.9~2.65の範囲である、請求項1または2記載の電気めっき浴。
【請求項4】
が、メチル、エチル、n-プロピルまたはイソプロピルである、請求項1からまでのいずれか1項記載の電気めっき浴。
【請求項5】
が、COOHおよび/またはその塩である、請求項1からまでのいずれか1項記載の電気めっき浴。
【請求項6】
nが、1または2である、請求項1からまでのいずれか1項記載の電気めっき浴。
【請求項7】
(E)において、前記式(I)の化合物がメチオニンを含む、請求項1からまでのいずれか1項記載の電気めっき浴。
【請求項8】
基板上に黒色クロム層を電気めっきする方法であって、
(a)前記基板を準備する工程、
(b)前記基板と請求項1からまでのいずれか1項記載の電気めっき浴とを接触させる工程、
(c)前記黒色クロム層が前記基板上に電気めっきされるように電流を流す工程、
(d)工程(c)から得られた前記基板を30℃~100℃の範囲の温度で熱処理する工程
を含む、方法。
【請求項9】
工程(d)において、水中で前記熱処理を行う、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色クロム層を堆積させるための非常に特殊な電気めっき浴、そのそれぞれの方法および上記黒色クロム層をその上に有するそれぞれの基板に関する。上記黒色クロム層を備える基板は、装飾目的に極めて適している。
【0002】
発明の背景
クロムコーティングは、その誕生当初から、光学的用途にとって非常に魅力的であるため、黒色クロムコーティングには高い関心が示されていた。
【0003】
均一な黒色六価クロムコーティングから始まり、今日では、環境に対するより高い受容性から三価クロムコーティングへと焦点が大きく移行している。数年前から、例えば自動車用装飾部品のための暗色、さらにはニュートラルな濃い暗色(ニュートラルブラックとも呼ばれる)の三価クロムコーティングに対する需要がますます高まっている。しかしながら、このようなニュートラルブラックの色調は、場合によっては冷たすぎると認識されることがあるため、濃い黒色の色調自体を損なうことなく、僅かな暖かみを加え、より暖かい黒色の色調を作り出す、若干の色調の変更が求められることが多い。原則として、ニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調はどちらも、よく似てはいるが、業界において強く求められている。
【0004】
しかしながら、黒色度は大きく異なり、これは堆積パラメーターおよび浴の成分に依存する。
【0005】
多くの場合、三価クロムコーティングによって得られる黒色は、ニュートラルブラックまたはウォームブラックの色調のいずれかを満たし、例えば自動車産業における装飾部品の要件を満たすのに十分な黒さではなかった。他の場合では、暗さは満たされているが、全体的な光学的印象は十分でない。さらに他の場合では、経時的な色安定性が不十分であった。
【0006】
国際公開第2012/150198号は、暗色クロム層を電着させるための方法およびめっき浴に関する。
【0007】
国際公開第2017/053655号は、活性炭フィルターによって明度Lを調整する方法と、ワークピース上の暗色電気めっき三価クロム層とに関する。
【0008】
中国特許第107099824号明細書は、黒色クロム電気めっき溶液、複合めっき層およびその調製方法に関する。この黒色クロム電気めっき溶液によって形成された三価黒色クロムコーティングは、濃い黒色および強く均一な被覆性を有する。
【0009】
特開2014100809号公報は、黒色めっき皮膜を有する車両用装飾部品およびその製造方法に関する。
【0010】
米国特許出願公開第2020/094526号明細書は、3.0以下のb値を示す黒色クロムめっき層を備える黒色めっき樹脂部品に関する。
【0011】
米国特許出願公開第2020/094526号明細書によると、ニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調に関して著しい進展が遂げられた。しかしながら、これら全ての試みにおいて、工業的利用には更なる改善が必要とされる。例えば、多くの場合、所望の色調は、最終的に所望の色調をもたらす自然な色のエージングを開始するために、許容できないほど長いアイドル時間によってのみ得られる。他の場合では、所望の色調が幾らか迅速に得られるが、ヘイズ形成、焼けおよびスキップめっきのために幾何学的に精緻な基板への堆積は可能でない。
【0012】
このため、上記問題を克服するために利用可能な方法およびめっき浴をさらに改善する大きな需要がある。
【0013】
発明の概要
したがって、本発明の課題は、一方では(ニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調の両方に関して)迅速かつ安定した色調形成を可能にし、他方ではめっきの欠陥を生じることなく多様な基板形状への堆積を可能にし、ひいては優れた光沢を含む優れた光学的外観をもたらす電気めっき浴およびそれぞれの電気めっき方法を提供することであった。さらに、両方の色調を特別かつ容易に標的とすることができ、ひいてはこれらの色調が得られることが望ましい。
【0014】
発明の詳細な説明
前記課題は、本発明により、電気めっき浴およびそれぞれの電気めっき方法によって解決される。
【0015】
したがって、本発明は、黒色クロム層を堆積させるための電気めっき浴であって、
(A)三価クロムイオン、
(B)上記三価クロムイオン用の1つまたは2つ以上の錯化剤、
(C)任意に、上記電気めっき浴用の1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物、
(D)電気めっき浴の全体積を基準にして100mmol/L~250mmol/Lの範囲の総量のチオシアン酸、その塩、エステルおよび/または異性体(isoforms)、
(E)式(I)
-S-(CH-CH(NH)-R (I)
[式中、
- Rは、分岐または非分岐のC1~C4アルキルであり、
- Rは、COOH、その塩および(CH-OHからなる群から選択され、
- nは、1~4の範囲の整数であり、
- mは、1~4の範囲の整数である]
の1つまたは2つ以上の化合物、その塩および/またはスルホキシド
を含む、電気めっき浴に関する。
【0016】
独自の実験により、前記の課題が(D)の濃度に強く関連し、(D)の濃度を前記の濃度範囲に維持することによって解決され得ることが示された(下記実施例を参照されたい)。優れた光沢を有する所望の色調(ニュートラルブラックまたはウォームブラックのいずれか)を迅速に形成し、特別に標的とすることができる。さらに、精緻な形状を有する基板上にも形成することができ、めっきの欠陥がない、非常に均一な堆積品質が得られる。しかしながら、(D)について上記で定義される比較的狭い濃度範囲を維持した場合にのみ、これらの優れた結果が得られることがさらに判明した。
【0017】
非常に好ましくは、黒色クロム層は装飾クロム層である。典型的な用途は自動車部品、最も好ましくは車の内装用である。本発明の電気めっき浴は、かかる黒色クロム層、最も好ましくは本明細書全体を通して定義されるような黒色クロム層を得るために非常に適している。
【0018】
本発明との関連での黒色クロム層は、特に明記しない限り、好ましくは国際照明委員会によって1976年に導入されたL表色系によって定義されるのが非常に好ましい。
【0019】
黒色クロム層が50以下、好ましくは49以下、より好ましくは48以下、さらにより好ましくは47以下、さらによりいっそう好ましくは46以下、さらに好ましくは45以下、最も好ましくは43以下のL値を有する本発明の電気めっき浴が一般に好ましい。50以下のL値は通常、黒色および暗色として十分に認識される。概して、L値(好ましくは上記で定義される)が低いほど、黒色/暗色の色調の印象が強くなる。
【0020】
黒色クロム層が-1.5~+3の範囲、好ましくは-1~+2.5の範囲、最も好ましくは-0.5~+2の範囲のa値を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましくは、a値は少なくとも正である。最も好ましくは、これはニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調に当てはまる。
【0021】
ニュートラルブラックの色調とウォームブラックの色調との区別は、典型的には僅かに異なるb値に基づく。
【0022】
場合によっては、黒色クロム層がニュートラルブラックのクロム層である本発明の電気めっき浴が好ましい。すなわち、より好ましくは、黒色クロム層が-2.5~+2.9の範囲、好ましくは-2~+2の範囲、より好ましくは-1.5~+1.5の範囲、最も好ましくは-1~+1の範囲のb値を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0023】
ニュートラルブラックの色調については、最も好ましくは、L値は45以下、より好ましくは44以下、さらにより好ましくは43以下、さらによりいっそう好ましくは42以下、最も好ましくは41以下である。
【0024】
他の場合では、黒色クロム層がウォームブラックの色調を有するクロム層である本発明の電気めっき浴が好ましい。すなわち、より好ましくは、黒色クロム層が+3~+6の範囲、好ましくは+3.5~+5.8の範囲、最も好ましくは+4~+5.5のb値を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0025】
本発明との関連では、ニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調の両方を特別に標的として得ることができ、非常に有益である。
【0026】
化合物(A)および一般的な浴用化合物:
本発明の電気めっき浴は、好ましくは水性であり、すなわち水を含み、電気めっき浴の全体積を基準にして、好ましくは少なくとも55体積%以上、より好ましくは65体積%以上、さらにより好ましくは75体積%以上、さらによりいっそう好ましくは85体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上、最も好ましくは95体積%以上が水である。最も好ましくは、水が唯一の溶媒である。
【0027】
電気めっき浴は、酸性であり、好ましくは1.5~5.0、より好ましくは2.0~4.6、さらにより好ましくは2.4~4.2、よりいっそう好ましくは2.7~3.8、最も好ましくは3.0~3.5の範囲のpHを有する本発明の電気めっき浴が好ましい。pHは、好ましくは塩酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムで調整される。
【0028】
本発明の電気めっき浴は、(A)三価クロムイオンを含む。
【0029】
三価クロムイオンが電気めっき浴の全体積を基準にして5g/L~35g/L、好ましくは6g/L~32g/L、より好ましくは7g/L~29g/L、さらにより好ましくは8g/L~26g/L、さらによりいっそう好ましくは9g/L~23g/L、最も好ましくは10g/L~22g/Lの範囲の総濃度を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0030】
好ましくは、三価クロムイオンは三価クロム塩、好ましくは無機クロム塩および/または有機クロム塩、最も好ましくは無機クロム塩に由来する。好ましい無機クロム塩は、塩化物アニオンおよび/または硫酸アニオン、好ましくは硫酸アニオンを含む。非常に好ましい無機クロム塩は、塩基性硫酸クロムである。好ましい有機クロム塩は、カルボン酸アニオン、好ましくはギ酸アニオン、酢酸アニオン、リンゴ酸アニオンおよび/またはシュウ酸アニオンを含む。
【0031】
最も好ましくは三価クロム塩に由来する硫酸イオンを含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0032】
酸化数+6のクロムを含む化合物を実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。このため、電気めっき浴は六価クロムを実質的に含まず、好ましくは全く含まない。
【0033】
コバルトイオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましくは、黒色クロム層はコバルトを実質的に含まず、好ましくは全く含まないか、または本明細書において以下で定義される量で含むのみである。非常に稀な場合に限り、電気めっき浴および黒色クロム層がそれぞれコバルトを含んでいることが好ましいこともあるが、これはあまり好ましいものではない。しかしながら、黒色の外観に必要ではないものの、比較的少量のコバルトを許容することはできる。このような場合、コバルトイオンが電気めっき浴の全体積を基準にし、かつ元素のコバルトを基準にして1mg/L~500mg/L、好ましくは2mg/L~400mg/L、より好ましくは3mg/L~300mg/L、さらにより好ましくは4mg/L~200mg/L、さらによりいっそう好ましくは5mg/L~100mg/L、最も好ましくは6mg/L~50mg/Lの範囲で存在する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0034】
ニッケルイオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。場合によっては、最大150ppmの典型的なNi汚染が観察されるが、これは基本的に許容可能であり、したがってニッケルイオンを実質的に含まないとみなされる。このため、場合によっては、本発明の電気めっき浴は、電気めっき浴の総重量をベースとして0ppm~200ppm、好ましくは1ppm~150ppm、最も好ましくは2ppm~100ppmの範囲の濃度でニッケルイオンを含むのが好ましい。好ましくは、黒色クロム層はニッケルを実質的に含まず、好ましくは全く含まない。
【0035】
環境上問題のある、このようなニッケルイオンおよびコバルトイオンを回避することが一般に好ましい。これにより、一般に廃水処理および浴の処分の複雑さが低減される。加えて、ニュートラルブラックの色調およびウォームブラックの色調を得るためにニッケルもコバルトも必要とされない。
【0036】
フッ化物イオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましくは、黒色クロム層はフッ素を実質的に含まず、好ましくは全く含まない。
【0037】
フッ素を含有する化合物を実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。これには、最も好ましくはフッ素含有表面活性化合物が含まれる。これらは、環境上の制約が増大することから、特に望ましくない。
【0038】
リン酸アニオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まず、より好ましくはリン含有化合物を実質的に含まず、好ましくは全く含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましくは、黒色クロム層はリンを実質的に含まず、好ましくは全く含まない。しかしながら、これは黒色クロム層上に堆積される後続の層、例えばパッシベーション層中のリンを除外するものではない。
【0039】
ハロゲンアニオン、好ましくは塩化物アニオンをさらに含む本発明の電気めっき浴が好ましい。本発明との関連では、これが好ましく、それぞれの電気めっき浴は塩化物含有浴と名付けられる。塩化物イオンおよび硫酸イオンを含む本発明の電気めっき浴がより好ましい。
【0040】
塩化物イオンが電気めっき浴の全体積を基準にして50g/L~200g/Lの範囲、好ましくは60g/L~185g/Lの範囲、より好ましくは70g/L~170g/Lの範囲、さらにより好ましくは80g/L~155g/Lの範囲、最も好ましくは90g/L~140g/Lの範囲の濃度を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。塩化物イオンは、好ましくは塩化物塩および/または塩酸、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化クロム(少なくとも全塩化物イオンの一部として)および/またはそれらの混合物に由来する。通常、塩化物イオンは、好ましくは前述したような伝導性塩のアニオンとして存在する。非常に好ましい伝導性塩は塩化アンモニウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムであり、塩化アンモニウムが最も好ましい。
【0041】
臭化物アニオンをさらに含む本発明の電気めっき浴が好ましい。これにより、通常、望ましくない六価クロム種のアノード形成が回避される。好ましくは、臭化物イオンは、電気めっき浴の全体積を基準にして3g/L~20g/Lの範囲、好ましくは4g/L~18g/Lの範囲、より好ましくは5g/L~16g/Lの範囲、さらにより好ましくは6g/L~14g/Lの範囲、最も好ましくは7g/L~12g/Lの範囲の濃度を有する。臭化物イオンは、好ましくは臭化物塩、好ましくは臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウムおよび/またはそれらの混合物に由来する。
【0042】
塩化物イオン、臭化物イオンおよび硫酸イオンを含む本発明の電気めっき浴がより好ましく、本明細書全体を通して好ましいと定義される濃度を有するのが最も好ましい。
【0043】
場合によっては、好ましくは電気めっき浴の全体積を基準にして0.1mmol/L~10mmol/L、好ましくは0.4mmol/L~8mmol/L、より好ましくは0.6mmol/L~6mmol/L、さらにより好ましくは0.8mmol/L~5mmol/L、最も好ましくは1mmol/L~4mmol/Lの範囲の濃度でFe(II)イオンをさらに含む本発明の電気めっき浴が好ましい。このことは、本発明の電気めっき浴が塩化物イオンを含む場合に特に好ましい。このため、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオンおよびFe(II)イオンを含む本発明の電気めっき浴が最も好ましく、本明細書全体を通してそれらについて好ましいと定義される濃度を有するのが最も好ましい。Fe(II)イオンは、好ましくはそれぞれの鉄塩、好ましくは硫酸鉄(II)塩に由来する。通常、鉄イオンは、電気めっき性能および本発明によって得られる堆積黒色クロム層に対して幾つかの有益な効果を有する。多くの場合、より厚い層厚を可能にする電気めっき速度の増加が観察される。好ましくは、黒色クロム層は鉄を含み、より好ましくは本明細書全体を通して定義される通りである。
【0044】
三価クロムイオンおよびFe(II)イオン(存在する場合)がめっき浴内の唯一の遷移金属であり、最も好ましくはクロムイオンおよび鉄イオン(存在する場合)がめっき浴内の唯一の遷移金属である本発明の電気めっき浴がさらに非常に好ましい。既に前記したNi汚染が例外であり、これは一般に許容可能であり、したがって好ましくは含まれる。
【0045】
場合によっては、(D)および(E)とは異なる少なくとも1つの硫黄含有化合物をさらに含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0046】
場合によっては、サッカリンおよび/またはその塩をさらに(すなわち(D)および(E)に加えて)含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0047】
場合によっては、最も好ましくは前記のサッカリンおよび/またはその塩に加えて、硫黄含有ジオールをさらに(すなわち(D)および(E)に加えて)含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0048】
少なくとも1つの表面活性化合物をさらに含む本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましい表面活性化合物は、カチオン性またはアニオン性表面活性化合物、好ましくはアニオン性表面活性化合物を含む。好ましいアニオン性表面活性化合物は、スルホサクシネート、8個~20個の脂肪族炭素原子を有するアルキルベンゼンスルホネート、8個~20個の炭素原子を有するアルキルスルフェート、および/またはアルキルエーテルスルフェートを含む。好ましくは、少なくとも1つの表面活性化合物は、フッ素原子を含まない。
【0049】
好ましいスルホサクシネートは、ジアミルスルホコハク酸ナトリウムを含む。
【0050】
8個~20個の脂肪族炭素原子を有する好ましいアルキルベンゼンスルホネートは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む。
【0051】
8個~20個の炭素原子を有する好ましいアルキルスルフェートは、ラウリル硫酸ナトリウムを含む。
【0052】
好ましいアルキルエーテルスルフェート脂肪アルコールは、ラウリルポリエトキシ硫酸ナトリウムを含む。
【0053】
少なくとも1つの表面活性化合物が電気めっき浴の全体積を基準にして0.001g/L~0.05g/L、好ましくは0.005g/L~0.01g/Lの範囲の総濃度を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0054】
対照的に、場合によっては、塩化物イオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まず、好ましくはハロゲンアニオンを含まない本発明の電気めっき浴が好ましい。本発明との関連では、これはあまり好ましくはなく、それぞれの電気めっき浴は、塩化物不含有浴と名付けられる。このような場合には、本発明の電気めっき浴は、不足する塩化物イオンを補うために硫酸イオンを含むのが好ましい。さらにより好ましくは、本発明の電気めっき浴は、クロム塩に由来する硫酸イオンに加えて、最も好ましくは導電性塩によって硫酸イオンを含む。非常に好ましい導電性塩は硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムまたはそれらの混合物である。この特定の場合、電気めっき浴は、好ましくは場合によっては臭化物イオンを実質的に含まず、好ましくは全く含まない。しかしながら、幾つかの稀な場合では、かかる電気めっき浴が鉄イオン、好ましくはFe(II)イオンを、最も好ましくは上で定義される濃度で含むことが好ましい。
【0055】
化合物(B):
本発明の電気めっき浴は、(B)上記三価クロムイオン用の1つまたは2つ以上の錯化剤を含む。かかる化合物は、三価クロムイオンを溶液中に保持する。好ましくは、1つまたは2つ以上の錯化剤は、(D)および(E)の化合物ではなく、したがって好ましくは(D)および(E)とは異なる。
【0056】
1つまたは2つ以上の錯化剤が有機酸および/またはその塩、好ましくは有機カルボン酸および/またはその塩、最も好ましくは1つ、2つもしくは3つのカルボン酸基を含む有機カルボン酸および/またはその塩を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0057】
有機カルボン酸および/またはその塩(好ましくは、さらには1つ、2つもしくは3つのカルボン酸基を含む有機カルボン酸および/またはその塩)は、好ましくは置換基で置換されているか、または非置換である。好ましい置換基は、アミノ基および/またはヒドロキシル基を含む。好ましくは、置換基はSH基を含まない。
【0058】
より好ましくは、有機カルボン酸および/またはその塩(好ましくは、さらには1つ、2つもしくは3つのカルボン酸基を含む有機カルボン酸および/またはその塩)は、アミノカルボン酸(好ましくはα-アミノカルボン酸)、ヒドロキシルカルボン酸および/またはその塩を含む。好ましい(α-)アミノカルボン酸は、グリシン、アスパラギン酸および/またはその塩を含む。好ましくは、アミノカルボン酸(好ましくは、それぞれα-アミノカルボン酸)は、(E)による化合物ではなく、より好ましくは硫黄含有アミノカルボン酸ではなく(好ましくは、それぞれ硫黄含有α-アミノカルボン酸ではない)、最も好ましくはメチオニンではない。1つまたは2つ以上の錯化剤が式(E)の化合物とは別個であることが好ましい。
【0059】
1つまたは2つ以上の錯化剤が、ギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グリシン、アスパラギン酸および/またはその塩、好ましくはギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸および/またはその塩、より好ましくはギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸および/またはその塩、さらにより好ましくはギ酸、酢酸および/またはその塩、最も好ましくはギ酸および/またはその塩を含む本発明の電気めっき浴がより好ましい。このことは、最も好ましくは本発明の電気めっき浴が塩化物イオンを含む場合に当てはまる。対照的に、本発明の電気めっき浴が塩化物を含まない場合、好ましくは1つまたは2つ以上の錯化剤が、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸および/またはその塩、最も好ましくはリンゴ酸および/またはその塩を含む。
【0060】
1つまたは2つ以上の錯化剤が電気めっき浴の全体積を基準にして5g/L~200g/Lの範囲、好ましくは8g/L~150g/Lの範囲、より好ましくは10g/L~100g/Lの範囲、さらにより好ましくは12g/L~75g/L、さらによりいっそう好ましくは15g/L~50g/Lの範囲、最も好ましくは20g/L~35g/Lの範囲の総濃度を有する本発明の電気めっき浴が好ましい。このことは、最も好ましくは電気めっき浴が塩化物イオンを含む場合に当てはまるが、一般に塩化物無含有電気めっき浴にも当てはまる。
【0061】
本発明の電気めっき浴が特に塩化物を含まない場合、1つまたは2つ以上の錯化剤は、電気めっき浴の全体積を基準にして5g/L~100g/Lの範囲、好ましくは5.5g/L~75g/Lの範囲、より好ましくは6g/L~50g/Lの範囲、さらにより好ましくは6.5g/L~25g/L、さらによりいっそう好ましくは7g/L~18g/Lの範囲、最も好ましくは7.5g/L~13g/Lの範囲の総濃度を有する。このことは、好ましくはシュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸およびその塩、最も好ましくはリンゴ酸およびその塩に当てはまる。
【0062】
(B)/(A)が1~1.5の範囲、好ましくは1.1~1.4の範囲、最も好ましくは1.2~1.3の範囲のモル比を形成する本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0063】
化合物(C):
本発明の電気めっき浴は、(C)任意に、上記電気めっき浴用の1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物を含む。最も好ましくは、本発明の電気めっき浴は、1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物を含む(すなわち任意ではない)。後者の場合、上記電気めっき浴用の1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物が(B)とは別個である(すなわち異なる)本発明の電気めっき浴が好ましい。このような場合、1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物は、カルボン酸を含まず、好ましくは有機酸を含まない。このような場合、これらは(B)に含められる。
【0064】
多くの場合、1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物がホウ素含有化合物、好ましくはホウ酸および/またはホウ酸塩、最も好ましくはホウ酸を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましいホウ酸塩は、ホウ酸ナトリウムである。
【0065】
1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物が、電気めっき浴の全体積を基準にして30g/L~250g/Lの範囲、好ましくは35g/L~200g/Lの範囲、より好ましくは40g/L~150g/Lの範囲、さらにより好ましくは45g/L~100g/Lの範囲、最も好ましくは50g/L~75g/Lの範囲の総濃度を有する本発明の電気めっき浴が非常に好ましい。このことは、さらにより好ましくは上記ホウ素含有化合物、さらによりいっそう好ましくは上記ホウ酸塩に加えた上記ホウ酸、最も好ましくは上記ホウ酸に当てはまる。最も好ましくは、1つまたは2つ以上のpH緩衝化合物は、ホウ酸を含むが、ホウ酸塩を含まない。このため、(C)が好ましくは電気めっき浴の全体積を基準にして35g/L~90g/L、好ましくは40g/L~80g/L、より好ましくは50g/L~70g/L、最も好ましくは56g/L~66g/Lの範囲の総量でホウ酸を含む本発明の電気めっき浴が最も好ましい。
【0066】
幾つかの他の場合では、本発明の電気めっき浴は、別個のpH緩衝化合物を明確に含まない。むしろ、上記三価クロムイオン用の1つまたは2つ以上の錯化剤は、三価クロムイオンの錯化剤として働くだけでなく、さらにpH緩衝化合物として働くような量で存在し、そのように選択される。本発明との関連では、これはあまり好ましくはないが、可能である。
【0067】
化合物(D):
本発明の電気めっき浴は、(D)チオシアン酸、その塩、エステルおよび/または異性体を、電気めっき浴の全体積を基準にして100mmol/L~250mmol/Lの範囲の総量で含む。本発明者らの独自の実験では、この化合物が前記の濃度範囲とともに必須であることが示されている。好ましくは、上記の濃度はSCNをベースとし、すなわち一塩基性チオシアネートをベースとする。「チオシアン酸」の「酸」という用語は、その脱プロトン化/解離形態を含む。
【0068】
独自の実験によると(本明細書において以下の「実施例」を参照されたい)、濃度が100mmol/Lよりも顕著に低い場合、十分に黒色のクロム層は得られない。最も重要なことは、(D)の濃度が100mmol/L未満である場合、本発明の方法における熱処理が、最終的な色の形成に大きな影響を及ぼさないことである。さらに、望ましくない高い光沢が得られ、黒色クロム層の黒色の光学的外観が否定的に損なわれ始める。
【0069】
さらに、(D)の濃度が250mmol/Lを大幅に超える場合、特に精緻な表面形状を有する基板上でのめっき欠陥の数が増加する。独自のハルセル実験により、(D)の濃度が高すぎると、得られる電流密度が許容できないほど小さな範囲になることが示された。しかしながら、これは技術的要求を考慮すると許容可能ではない。さらに、(D)の濃度が250mmol/Lを大幅に超える場合、過度に低い光沢が得られ、黒色クロム層の許容できないくすんだ知覚がもたらされる。
【0070】
対照的に、これらの問題は本発明によって克服される。
【0071】
(D)がチオシアン酸、その塩および/またはエステルを上記総量で含み、最も好ましくはチオシアン酸および/またはその塩を上記総量で含む本発明の電気めっき浴が好ましい。好ましくは、塩はチオシアン酸カリウムおよび/またはチオシアン酸ナトリウムを、最も好ましくは上記の総量で含む。
【0072】
電気めっき浴の全体積を基準にして105mmol/L~245mmol/L、好ましくは110mmol/L~240mmol/L、より好ましくは115mmol/L~230mmol/L、さらにより好ましくは120mmol/L~220mmol/L、さらによりいっそう好ましくは125mmol/L~210mmol/L、最も好ましくは130mmol/L~200mmol/Lの範囲の総量で(D)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。また、上記のこれらの好ましい濃度範囲は、以下でさらに言及する全ての濃度範囲と同様にSCNに基づいており、すなわち一塩基性チオシアネートに基づいたものである。さらに、上記の濃度を自由に組み合わせて、明確に開示されていない濃度範囲を形成し得ることが明らかに好ましい。これには、最も好ましくは本明細書全体を通して明確に言及されていない下限と上限との更なる組合せが含まれる。
【0073】
場合によっては、電気めっき浴の全体積を基準にして130mmol/L~250mmol/L、好ましくは150mmol/L~245mmol/L、より好ましくは175mmol/L~240mmol/L、最も好ましくは191mmol/L~235mmol/Lの範囲の総量で(D)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、ニュートラルブラックの色調にとって特に好ましい濃度範囲である。
【0074】
幾つかの他の場合では、電気めっき浴の全体積を基準にして100mmol/L~205mmol/L、好ましくは105mmol/L~200mmol/L、より好ましくは110mmol/L~190mmol/L、さらにより好ましくは115mmol/L~180mmol/L、最も好ましくは120mmol/L~174mmol/Lの範囲の総量で(D)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、ウォームブラックの色調にとって特に好ましい濃度範囲である。
【0075】
化合物(E):
本発明の電気めっき浴は、(E)式(I)
-S-(CH-CH(NH)-R (I)
[式中、
- Rは、分岐または非分岐C1~C4アルキルであり、
- Rは、COOH、その塩および(CH-OHからなる群から選択され、
- nは、1~4の範囲の整数であり、
- mは、1~4の範囲の整数である]
の1つまたは2つ以上の化合物、その塩および/またはスルホキシド
を含む。
【0076】
本発明との関連で、その「スルホキシド」は、二重結合を介して硫黄原子に化学的に結合した酸素を表し、すなわち、上記式(I)の化合物は、R-S(=O)-(CH-CH(NH)-R構造を含む。
【0077】
電気めっき浴の全体積を基準にして100mmol/L~950mmol/L、好ましくは135mmol/L~800mmol/L、より好ましくは150mmol/L~650mmol/L、さらにより好ましくは165mmol/L~550mmol/L、さらによりいっそう好ましくは180mmol/L~500mmol/L、最も好ましくは195mmol/L~450mmol/Lの範囲の総量で(E)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0078】
場合によっては、電気めっき浴の全体積を基準にして100mmol/L~450mmol/L、好ましくは120mmol/L~400mmol/L、より好ましくは140mmol/L~350mmol/L、さらにより好ましくは150mmol/L~310mmol/L、さらによりいっそう好ましくは170mmol/L~270mmol/L、最も好ましくは190mmol/L~230mmol/Lの範囲の総量で(E)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、ウォームブラックの色調にとって特に好ましい濃度範囲である。
【0079】
他の場合では、電気めっき浴の全体積を基準にして200mmol/L~950mmol/L範囲、好ましくは220mmol/L~750mmol/L、より好ましくは250mmol/L~580mmol/L、さらにより好ましくは280mmol/L~530mmol/L、さらによりいっそう好ましくは311mmol/L~490mmol/Lの範囲、最も好ましくは330mmol/L~420mmol/Lの総量で(E)を含む本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、ニュートラルブラックの色調にとって特に好ましい濃度範囲である。
【0080】
(E):(D)のモル比が0.9以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、最も好ましくは1.2以上である本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0081】
(E):(D)のモル比が0.9~2.65、好ましくは1~2.6、より好ましくは1.05~2.55、さらにより好ましくは1.1~2.5、よりいっそう好ましくは1.15~2.45、最も好ましくは1.2~2.40の範囲である本発明の電気めっき浴がより好ましい。
【0082】
場合によっては、(E):(D)のモル比が0.9~2.5、好ましくは1~2、より好ましくは1.1~1.8、さらによりいっそう好ましくは1.15~1.5、最も好ましくは1.2~1.3の範囲である本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、場合によってはウォームブラックの色調にとって好ましいモル範囲である。
【0083】
他の場合では、(E):(D)のモル比が1.6~2.65、好ましくは1.9~2.6、より好ましくは2.05~2.55、さらにより好ましくは2.1~2.5、さらによりいっそう好ましくは2.15~2.45、最も好ましくは2.2~2.4の範囲である本発明の電気めっき浴が好ましい。これらは、場合によってはニュートラルブラックの色調にとって好ましいモル範囲である。
【0084】
が、メチル、エチル、n-プロピルまたはイソプロピル、好ましくはメチルまたはエチル、最も好ましくはメチルである本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0085】
が、COOHおよび/またはその塩である本発明の電気めっき浴が好ましい。前述のように、COOHには、その脱プロトン化/解離形態も含まれる。
【0086】
nが、1または2、好ましくは2である本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0087】
mが、1または2である本発明の電気めっき浴が好ましい。
【0088】
(E)において、式(I)の化合物がメチオニンを含む本発明の電気めっき浴が好ましい。最も好ましくは、式(E)の化合物はメチオニンである。
【0089】
電気めっきの方法:
本発明は、基板上に黒色クロム層を電気めっきする方法であって、
(a)基板を準備する工程、
(b)基板と本発明による電気めっき浴、好ましくは本明細書全体を通して好ましいと記載されている電気めっき浴とを接触させる工程、
(c)黒色クロム層が基板上に電気めっきされるように電流を流す工程、
(d)工程(c)から得られた基板を30℃~100℃の範囲の温度で熱処理する工程
を含む、方法に関する。
【0090】
その好ましい変形を含む、本発明の電気めっき浴に関する前記の特徴は、好ましくは本発明の電気めっきの方法、最も特には上記方法の工程(b)に同様に当てはまる。さらに、L値に関する前記の事柄は、最も好ましくは工程(c)において電気めっきされた黒色クロム層に当てはまる。
【0091】
工程(a)において基板を準備する。
【0092】
場合によっては、基板がプラスチック基板を含み、好ましくはプラスチック基板である本発明の方法が好ましい。他の場合では、基板が金属基板を含み、好ましくは金属基板である本発明の方法が好ましい。
【0093】
多くの場合、工程(a)において、基板が熱可塑性基板、好ましくは非晶質熱可塑性基板および/または半結晶性熱可塑性物質を含む本発明の方法が好ましい。
【0094】
工程(a)において、基板がブタジエン部分、好ましくはポリブタジエンを含む本発明の方法がより好ましい。
【0095】
工程(a)において、基板がニトリル部分を含む本発明の方法も好ましい。
【0096】
工程(a)において、基板がアクリル部分を含む本発明の方法も好ましい。
【0097】
工程(a)において、基板が重合スチレンを含む本発明の方法が非常に好ましい。
【0098】
工程(a)において、基板がアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン-ポリカーボネート(ABS-PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)またはそれらの混合物、好ましくはアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)および/またはアクリロニトリルブタジエンスチレン-ポリカーボネート(ABS-PC)を含む本発明の方法が最も好ましい。かかるプラスチック基板、特にABSおよびABS-PCは、典型的には自動車部品等の装飾用途に使用される。
【0099】
ポリエーテルケトン(PEK)が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)および/またはそれらの混合物、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)および/またはそれらの混合物を含む本発明の方法が好ましい。
【0100】
場合によっては、基板が金属基板であり、好ましくは鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、それらの混合物および/またはそれらの合金を含む本発明の方法が好ましい。鉄を含む非常に好ましい金属基板は、鋼である。それらの混合物は、好ましくは複合材を含む。
【0101】
工程(b)の前に、少なくとも1つの金属層を堆積させる少なくとも1つの金属めっき工程、最も好ましくは少なくとも1つのニッケル層を堆積させる少なくとも1つのニッケルめっき工程をさらに含む本発明の方法が好ましい。多くの場合、2つまたはさらには3つのかかる金属めっき工程が好ましくは含まれる。
【0102】
最も好ましくは、少なくとも1つのニッケル層は、少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または(好ましくはまたは)少なくとも1つのサテンニッケル層、最も好ましくは少なくとも1つの光沢ニッケル層を含む。
【0103】
少なくとも1つのニッケル層が、少なくとも1つの半光沢ニッケル層を含み、好ましくは上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層に加えて少なくとも1つの半光沢ニッケル層を含む本発明の方法がより好ましい。少なくとも1つの半光沢ニッケル層は、好ましくは任意である。最も好ましくは(適用される場合)、上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層の前に少なくとも1つの半光沢ニッケル層を堆積させる。
【0104】
少なくとも1つのニッケル層が、少なくとも1つのMPSニッケル層を含み、好ましくは上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層に加えて少なくとも1つのMPSニッケル層を含み、最も好ましくは、上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層、さらには上記少なくとも1つの半光沢ニッケル層に加えて少なくとも1つのMPSニッケル層を含む本発明の方法も好ましい。本発明との関連で、MPSは、MPSニッケル層が非導電性微粒子を含み、これが後続のクロム層、好ましくは黒色クロム層にミクロ細孔を生じることを表す。少なくとも1つのMPSニッケル層は、好ましくは任意である。
【0105】
場合によっては、MPSニッケル層が黒色クロム層に隣接する本発明の方法が好ましい。
【0106】
他の場合では、黒色クロム層が少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または少なくとも1つのサテンニッケル層に隣接する本発明の方法が好ましく、これが多くの場合に好ましく、最も好ましくは少なくとも1つの光沢ニッケル層と組み合わせる。
【0107】
好ましくは、黒色クロム層は層スタックの一部である。
【0108】
工程(b)において、好ましくは少なくとも1つのニッケル層(好ましくは上で好ましいと定義される)を有する基板を本発明の電気めっき浴と、好ましくは浸漬によって接触させる。
【0109】
工程(c)中の接触が1分間~30分間、好ましくは2分間~20分間、より好ましくは3分間~15分間、さらにより好ましくは4分間~10分間、最も好ましくは5分間~8分間の範囲である本発明の方法が好ましい。
【0110】
工程(c)において電気めっき浴が25℃~60℃、好ましくは28℃~50℃、より好ましくは30℃~47℃の範囲の温度を有する本発明の方法が好ましい。このことは、最も好ましくは電気めっき浴が塩化物イオンを含む場合に当てはまる。
【0111】
場合によっては、工程(c)において本発明の電気めっき浴が35℃~65℃、好ましくは40℃~63℃、より好ましくは45℃~61℃、最も好ましくは50℃~59℃の範囲の温度を有する本発明の方法が好ましい。このことは、最も好ましくは電気めっき浴が塩化物無含有電気めっき浴である場合に当てはまる。
【0112】
工程(c)において電流を流す。
【0113】
電流が好ましくは3A/dm~30A/dm、より好ましくは4A/dm~25A/dm、さらにより好ましくは5A/dm~20A/dm、最も好ましくは6A/dm~18A/dmの範囲の直流である本発明の方法が好ましい。
【0114】
場合によっては、電流が好ましくは3A/dm~20A/dm、より好ましくは4A/dm~15A/dm、最も好ましくは5A/dm~10A/dmの範囲の直流である本発明の方法が好ましい。このことは、最も好ましくは電気めっき浴が塩化物無含有電気めっき浴である場合に当てはまる。
【0115】
工程(c)において少なくとも1つのアノードが利用される本発明の方法が好ましい。少なくとも1つのアノードは、グラファイトアノード、貴金属アノードおよび混合金属酸化物アノード(MMO)からなる群から選択される。
【0116】
好ましい貴金属アノードは、白金めっきチタンアノードおよび/または白金アノードを含む。
【0117】
好ましい混合金属酸化物アノードは、酸化白金被覆チタンアノードおよび/または酸化イリジウム被覆チタンアノードを含む。
【0118】
電気めっき黒色クロム層が0.05μm~1μm、好ましくは0.1μm~0.8μm、より好ましくは0.125μm~0.6μm、最も好ましくは0.15μm~0.5μmの範囲の層厚を有する本発明の方法が好ましい。
【0119】
工程(d)の熱処理が、本発明の方法との関連で最も重要である。これにより、所望の黒色の色調を迅速かつ直接的に形成することができる。工程(d)において適用される温度は、工程(c)において電気めっき浴に利用される温度ではない。工程(c)および(d)は、別個の工程である。
【0120】
熱処理が32℃~99℃の範囲、より好ましくは45℃~92℃の範囲、さらにより好ましくは52℃~88℃の範囲、最も好ましくは60℃~84℃の範囲の温度である本発明の方法が好ましい。
【0121】
工程(d)において、好ましくは32℃~99℃の範囲、より好ましくは45℃~92℃の範囲、さらにより好ましくは52℃~88℃の範囲、最も好ましくは60℃~84℃の範囲の温度を有する水中で熱処理が行われる本発明の方法がより好ましい。
【0122】
前述のように、熱処理は好ましくは水中で行われる。すなわち、好ましくは、本工程は処理組成物を含む処理コンパートメント内で行われる。好ましくは、処理組成物は水性であり、より好ましくは溶媒として水のみを含み、最も好ましくは本質的に水からなる。本質的に水からなるとは、先の方法工程からの僅かな汚染を除き、処理組成物の主成分が水であり、水のままであることを意味する。通常、上記汚染は本工程の目的で許容される。
【0123】
工程(d)において熱処理が、お湯による洗浄、最も好ましくは浸漬、さらに最も好ましくは処理組成物へ浸漬することによる、お湯での洗浄である本発明の方法がさらにより好ましい。
【0124】
工程(d)において無電流で熱処理を行う本発明の方法が好ましい。すなわち、本工程は好ましくは無電解である。
【0125】
本発明の方法は、好ましくは追加のすすぎ、洗浄、前処理および/または後処理等の更なる工程を除外するものではない。好ましくは、下記実施例で定義される工程は、本明細書全体を通して説明される一般的な方法にも同様に当てはまる。好ましい後処理工程は、好ましくは無機および/もしくは有機シーラントによるシーリング工程、および/または指紋防止組成物との接触工程を含む。
【0126】
黒色クロム層を備える基板:
本発明は、さらに、黒色クロム層を備える具体的に定義された基板であって、黒色クロム層が、Lb表色系に準拠して、50以下のL値と、60°の測定角を基準として、150~230、好ましくは160~220、より好ましくは165~210、最も好ましくは170~200の範囲の光沢度とを有する、基板に関する。
【0127】
本発明の電気めっき浴および本発明の方法に関する前記の事柄は、好ましくは本発明の具体的に定義される基板にも同様に当てはまる(技術的に適用可能な場合)。このことは、最も好ましくは本発明の電気めっき浴および本発明の方法について定義されるL値に当てはまる。しかしながら、本発明の基板の以下の特徴は、好ましくは本発明の方法にも当てはまる(本明細書において上記で既に言及されていない場合)。
【0128】
黒色クロム層が49以下、好ましくは48以下、より好ましくは47以下、さらにより好ましくは46以下、さらによりいっそう好ましくは45以下、最も好ましくは44以下のL値を有する本発明の基板が好ましい。
【0129】
黒色クロム層が、
-1.5~+3の範囲、好ましくは-1~+2.5の範囲、最も好ましくは-0.5~+2の範囲のa値、
および/または(好ましくはおよび)
-2.5~+6の範囲、好ましくは-2~+5.6の範囲、最も好ましくは-1.5~+5の範囲のb
を有する本発明の基板が好ましい。
【0130】
好ましくは、黒色クロム層は、コバルトを実質的に含まず、好ましくは全く含まないか、
または
コバルトを含み、黒色クロム層にコバルトよりも多くのクロムが存在する。後者は、好ましくはクロムとコバルトとの原子比(すなわちCr:Co)が1超、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、最も好ましくは4以上であることを意味する。これは、最も好ましくは黒色クロム層中のクロム原子およびコバルト原子の総量を基準とする。
【0131】
好ましくは、黒色クロム層は、黒色クロム層と基板との間の唯一の金属層ではない。
【0132】
黒色クロム層の下に少なくとも1つのニッケル層を備える本発明の基板が好ましい。
【0133】
少なくとも1つのニッケル層が、少なくとも1つの光沢ニッケル層または少なくとも1つのサテンニッケル層を含む本発明の基板が好ましい。これが最も好ましい。
【0134】
少なくとも1つのニッケル層が、少なくとも1つの半光沢ニッケル層を含み、好ましくは上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層に加えて少なくとも1つの半光沢ニッケル層を含む本発明の基板が好ましい。少なくとも1つの半光沢ニッケル層は、好ましくは任意である。最も好ましくは、少なくとも1つの半光沢ニッケル層は、(全ニッケル層のうち)基板に最も近いニッケル層である。
【0135】
少なくとも1つのニッケル層が、少なくとも1つのMPSニッケル層を含み、好ましくは上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層に加えて、少なくとも1つのMPSニッケル層を含み、最も好ましくは上記少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または上記少なくとも1つのサテンニッケル層、さらには上記少なくとも1つの半光沢ニッケル層に加えて、少なくとも1つのMPSニッケル層を含む本発明の基板が好ましい。本発明との関連で、MPSは微孔性を表す。
【0136】
上記少なくとも1つのMPSニッケル層が、片側で黒色クロム層に面し、反対側で上記少なくとも1つの光沢ニッケル層または上記少なくとも1つのサテンニッケル層に面する本発明の基板が好ましい。
【0137】
上記少なくとも1つの半光沢ニッケル層が、上記少なくとも1つの光沢ニッケル層または上記少なくとも1つのサテンニッケル層の下にある本発明の基板が好ましい。
【0138】
黒色クロム層が、層スタックの一部であり、層スタックが、黒色クロム層から基板への方向に沿って(隣接してまたは隣接せずに):
(i)黒色クロム層と、
(ii)任意に、少なくとも1つのMPSニッケル層と、
(iii)少なくとも1つの光沢ニッケル層および/または(好ましくはまたは)少なくとも1つのサテンニッケル層と、
(iv)任意に、少なくとも1つの半光沢ニッケル層と
を備える本発明の基板が好ましい。
【0139】
これにより、好ましくは、60°の測定角を基準として、最も好ましくは150~230の範囲の本発明との関連での非常に良好な光沢が可能となる。このことは、非常に最も好ましくは(iii)が光沢ニッケル層である場合に当てはまる。
【0140】
黒色クロム層が鉄を含み(すなわち、0at%を超える)、黒色クロム層中の全原子を基準にして、好ましくは最大15at%、より好ましくは最大12at%、さらにより好ましくは最大10at%、さらによりいっそう好ましくは最大8at%、最も好ましくは最大6at%含む本発明の基板が好ましい。
【0141】
場合によっては、層スタックは、好ましくはシーラント層および/または指紋防止層を、最も好ましくは黒色クロム層上に備える。両方が適用される場合、好ましくはシーラント層が初めに適用され、続いて指紋防止層が適用され、好ましくはこれが最も外側の層を形成する。
【0142】
以下、本発明を以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0143】
実施例
以下では、ハルセル電気めっきを行い、電流密度分布に応じた黒色クロム層の光学的外観を評価した。
【0144】
一般的手順:
基板として、銅パネル(99mm×70mm)を使用した。
【0145】
第1の工程では、銅パネルを室温(RT)にて100g/LのUniclean(登録商標) 279(Atotech Deutschland GmbHの製品)での電解脱脂によって洗浄した。その後、基板を水ですすぎ、10体積%HSOで酸洗いし、水ですすいだ。
【0146】
第2の工程では、洗浄した基板に、光沢ニッケル層(10分、4A/dm、UniBrite 2002、Atotechの製品)をニッケルめっき基板が得られるように堆積させ、水ですすいだ。
【0147】
第3の工程では、以下の電気めっき浴を利用して黒色クロム層を堆積させた:
(A)約20~25g/LのCr3+イオン(塩基性硫酸クロムとして提供される)、
(B)約30g/Lのギ酸、
(C)約60g/Lのホウ酸、
(D)Tbl.1のチオシアン酸カリウム、
(E)Tbl.1のメチオニン、
約10g/Lの臭化アンモニウム、
約100g/Lの塩化アンモニウム、
約100g/Lの塩化カリウム、および
約0.5g/LのFeSO・7H
【0148】
電気めっき浴は、少量(最大4g/L)のサッカリンおよび5g/L~50g/LのS含有ジオールをさらに含んでいた。コバルトイオンおよびニッケルイオンは存在しなかった。このため、黒色クロム層はコバルトおよびニッケルを含まなかった。しかしながら、更なる実験により、比較的少量のコバルトを許容し得ることが示された(図示せず)。
【0149】
pH値を3.2に調整した。
【0150】
化合物(D)および(E)を下記表1にまとめられる様々な濃度で利用した。
【0151】
特に明記しない限り、グラファイトアノードを有し、ニッケルめっき基板がカソードとして設置されたハルセルで各電気めっき浴を試験した。5Aの電流を35℃~45℃の範囲の温度で3分間流した(更なる詳細については表1を参照されたい)。
【0152】
めっき後に、1回目の測色(表1では「CM1」と略記)のために基板を水ですすぎ、乾燥させた。「CM1」後に、基板をそれぞれ70℃および80℃で10分間、お湯により洗浄し、乾燥させ、2回目の測色(表1では「CM2」と略記)を行った。
【0153】
第1の実験セット(表1では実施例E1.1~E1.7と略記)では、お湯による洗浄の直後にウォームブラックの色調(約+3~+6の範囲のb)が生じ、第2の実験セット(表1では実施例E2.1~E2.3と略記)では、お湯による洗浄の直後にニュートラルブラックの色調(bが約0または0未満)が生じた。測色計(コニカミノルタ株式会社のCM-700d;測定モード:SCI;観測者角度:10°;光源:D65)を用いて基板の左端から約3.5cm、下端から2cmの位置(およそ10A/dm~12A/dmの典型的な中電流密度(MCD)に相当する)でL色空間系に準拠した測色を行った。比較例を「CE」と略記する。
【0154】
前記の測色に加えて、局所的に存在する電流密度(表1では「ASD範囲」と略記)に応じて基板を光学的にも検査した。そのために、無欠陥黒色クロム層(すなわち、ヘイズおよび焼けのない均一な黒色クロム層を有する)の面積を決定し、対応する電流密度範囲(「ASD範囲」)として再計算した。再計算された電流密度の比較的広い範囲は、低電流密度から高電流密度にかけて無欠陥黒色クロム層が得られることが示されるため、より良好であるとみなされる。
【0155】
光沢は、反射率計(REFO 3-D、Dr. Lange)を用い、60°の測定角を基準として決定した。
【0156】
【表1】
【0157】
「評価」では、全体的性能を以下のように評価する:
+は測色(すなわち、CM1およびCM2)またはASD範囲のいずれかが要件を満たすことを表す;しかしながら、これは十分ではなく、したがって望ましくない;
++は測色(すなわち、CM1およびCM2)およびASD範囲の両方が要件を満たすことを表す;これは望ましい;
+++は測色(すなわち、CM1およびCM2)およびASD範囲の両方が要件を見事に満たすことを表す;これは非常に望ましい。
【0158】
-CE1から、十分に黒色/暗色の色調を得るためには或る特定の濃度の(D)が絶対に必要であることが示される。(D)の濃度は、100mmol/Lを大きく下回る。(D)の不足が比較的高濃度の(E)によって補償され得ないことがさらに示される。
【0159】
追加の比較例CE2~CE4を米国特許出願公開第2020/094526号明細書に基づいて実施した:
-CE2は、表1のサンプル番号5に対応し(表1の5から13までの全てのサンプルに相当する)、チオシアン酸の総量は、この場合も100mmol/L未満である(すなわち、100ml/L Trichrome Graphite Makeupおよび30ml/L Trichrome Graphite Maintenanceは、100mmol/L未満のチオシアン酸を生じる);測色CM1は、めっきの直後に54;0.5;3.8のL;a;bを示し、7~50のASD範囲を示した。ASD範囲は比較的広いが、めっき直後の色は十分に黒色/暗色ではない。
【0160】
米国特許出願公開第2020/094526号明細書の表1に示されるように、真に暗色の(またニュートラルブラックの)色調は、所定の条件下での18日間の待機時間を含む「加速試験」(米国特許出願公開第2020/094526号明細書の[0064]を参照されたい)によるL;a;b(高電流密度で測定される)が44;0.8;0.4の実施例番号7において得られるのみである。さらに、十分にウォームブラックの色調は、実施例番号6(周囲空気で18日間放置した)および実施例番号13(この場合も18日間の「加速試験」による)において得られるのみである。独自の実験から、10分間のお湯による洗浄がウォームブラックの色調またはニュートラルブラックの色調を得るためにCE2に大きな影響を及ぼさないことが示されている。したがって、米国特許出願公開第2020/094526号明細書の実施例5~13は、本発明者らの独自の観察結果によると少なくとも以下の不利点を有する:第一に、18日間または19日間のアイドル時間(またはエージング時間とも呼ばれる)は、業界の要件を考慮すると許容し難いとみなされる。第二に、適用するアイドル時間および条件に応じて、同じ化学組成であっても、異なる光学的結果がもたらされる。どちらも望ましくない。明確に定義された黒色の色調(ニュートラルブラックの色調またはウォームブラックの色調のいずれか)を迅速に得ることが望まれる。上記で示されるように、これは本発明によって達成することができる。
【0161】
このため、本発明者らの独自の実験から、100mmol/L未満の(D)、例えばチオシアネートの総濃度は、お湯による洗浄の影響を大きく受けるには低すぎることが明らかに示される。
【0162】
-CE3は、米国特許出願公開第2020/094526号明細書の表2のサンプル番号14に対応し、チオシアン酸の総量は、15g/L(すなわち、254mmol/L)であり、米国特許出願公開第2020/094526号明細書のサンプル番号5よりも顕著に高い。測色CM1は、約10A/dmでのめっきの直後に47;1.0;5.7のL;a;bを示し、米国特許出願公開第2020/094526号明細書の表2の番号14の「初期」に開示されるものと良好に一致している。しかしながら、お湯による洗浄にもかかわらず、本発明者らの実験では、ハルセル設定においてASD範囲が許容できないほど狭い(僅か約1のASD)ことも示された。対照的に、本発明の実施例から、250mmol/L未満のチオシアン酸濃度が所望の色調を可能にするだけでなく、ASD範囲をさらに広げることが明らかに示されている。このため、250mmol/Lを大幅に上回る総量は、基板上で可能な電流密度範囲に非常に否定的な影響を及ぼし、めっき欠陥の可能性を大きく増加させる。これは、驚くべきことに、本発明によって250mmol/Lを超えないことで解決することができる。
【0163】
-CE4は、米国特許出願公開第2020/094526号明細書の表2のサンプル番号17に対応し、チオシアン酸の総量は40g/L(すなわち、677mmol/L)である。CE3と比較して、チオシアン酸の総量は、さらに大幅に増加している。堆積は可能であるが、強く望ましくない白色ヘイズがハルセル基板の大部分を覆い、許容可能な電流密度範囲がCE3比較してさらに小さいことが示される。このため、CE4はCE3の所見を確認するものであり、CE4が顕著により広い電流密度範囲を必要とする精緻または複雑な基板の電気めっきには適さないという結論が支持される。
【0164】
本発明による実施例は、ニュートラルブラックの色調またはウォームブラックの色調のいずれかに具体的に対処し、許容可能な短い時間で得ることができることを示す。(D)の濃度は、お湯による洗浄による効果を得るのに十分に高いが、臨界濃度を超えず、比較的広い電流密度範囲が依然として保証される。
【0165】
加えて、実施例E1.1~E1.7について、お湯による洗浄後の光沢を決定したところ、以下の結果が得られた:E1.1:>210~230の範囲;E1.2~E1.6:185~210の範囲;E1.7:160~<185範囲。これらの結果から、光沢が(D)の濃度と間接的に相関することが示されている。この結果によると、非常に低濃度の(D)は、例えば210超の比較的高い光沢をもたらす(E1.1を参照されたい)。対照的に、実施例E1.2~E1.6のような範囲の(D)の濃度は、185~210の範囲の非常に望ましい光沢をもたらす。対照的に、E1.7のようなより高濃度の(D)は既に、160~<185の範囲の依然として許容可能ではあるが、既に減少した光沢を示す。これにより、顕著により高濃度の、特に250mmol/Lを超える(D)は、150を大幅に下回るまで光沢を低下させることで、それぞれの黒色クロム層の光沢を強く損ない、マットな/くすんだ表面の(望ましくない)印象の増加をもたらすことが示される。対照的に、(D)の濃度が過度に低い、すなわち100mmol/Lを(大幅に)下回る場合、光沢は比較的高い(例えば>230)が、黒色の色調が十分に暗色または黒色でないという印象をもたらすように光学的知覚を損なう。この知覚は望ましくない。
【0166】
塩化物イオンを含まないように電気めっき浴を変更した本発明による更なる実施例を行った(具体的なデータは示さない)。これらの実験では、ハルセル実験は行わず、同じハルセル基板を用いてビーカー内で電気めっき試験を行ったが、比電流密度を10A/dmとした。これらの実施例では、L;a;bが45;1.3;3.8のウォームブラックの色調が得られた。