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特許7538325ゼオライト膜複合体、分離装置、膜反応装置およびゼオライト膜複合体の製造方法
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  • 特許-ゼオライト膜複合体、分離装置、膜反応装置およびゼオライト膜複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、分離装置、膜反応装置およびゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240814BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240814BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240814BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240814BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240814BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
C01B39/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023505247
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006116
(87)【国際公開番号】W WO2022190793
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021038089
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小林 航
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-016858(JP,A)
【文献】特開2019-181456(JP,A)
【文献】特開2021-024801(JP,A)
【文献】特開2020-023488(JP,A)
【文献】特開2012-066183(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108439425(CN,A)
【文献】国際公開第2019/219629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C01B33/20-39/54
C04B38/00-10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体であって、
多孔質の支持体と、
前記支持体上に設けられ、ETL型ゼオライトからなるゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜の表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍以上であるゼオライト膜複合体
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記X線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上であるゼオライト膜複合体
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜におけるケイ素/アルミニウムのモル比が3以上であるゼオライト膜複合体
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜におけるCFガスの透過量が10nmol/m・s・Pa以下であるゼオライト膜複合体
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜がルビジウムを含むゼオライト膜複合体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜におけるアルカリ金属/アルミニウムのモル比が、0.01~1であるゼオライト膜複合体。
【請求項7】
分離装置であって、
請求項1ないしのいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体と、
複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給する供給部と、
を備え、
前記ゼオライト膜複合体は、前記混合物質中の透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する分離装置
【請求項8】
膜反応装置であって、
請求項1ないしのいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体と、
原料物質の化学反応を促進させる触媒と、
前記ゼオライト膜複合体および前記触媒を収容する反応器と、
前記原料物質を前記反応器に供給する供給部と、
を備え、
前記ゼオライト膜複合体は、前記原料物質が前記触媒存在下で化学反応することにより生成された生成物質を含む混合物質のうち、透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する膜反応装置
【請求項9】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)多孔質の支持体上に、ETL型ゼオライトからなる種結晶を付着させる工程と、
b)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からETL型ゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備え、
前記原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が10~100であり、アルカリ金属/アルミニウムのモル比が15~100であり、水/アルミニウムのモル比が2000~10000であるゼオライト膜複合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、分離装置、膜反応装置およびゼオライト膜複合体の製造方法に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2021年3月10日に出願された日本国特許出願JP2021-38089からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトには様々な構造のものが知られており、その1つとしてETL型ゼオライトがある。米国特許第4581211号明細書(文献1)、並びに、Abraham Araya、他5名による「Synthesis, properties, and catalytic behavior of zeolite EU-12」(ZEOLITES、1992年、12巻、24-31頁)(文献2)、および、Juna Bae、他4名による「EU-12: A Small-Pore, High-Silica Zeolite Containing Sinusoidal Eight-Ring Channels」(Angew. Chem. Int. Ed.、2016年、55巻、7369-7373頁)(文献3)では、水熱合成によってETL型ゼオライト結晶(EU-12)の粉末を合成する手法が開示されている。
【0003】
ところで、本願発明者がEU-12合成用の原料溶液を用いて、支持体上にゼオライト膜を形成したところ、緻密性が低いETL型ゼオライトの膜となり、所望の分離性能を得ることができなかった。したがって、緻密性を向上したETL型ゼオライトの膜を有するゼオライト膜複合体が求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ゼオライト膜複合体に向けられており、緻密性を向上したETL型ゼオライトの膜を有するゼオライト膜複合体を提供することを目的としている。
【0005】
本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、多孔質の支持体と、前記支持体上に設けられ、ETL型ゼオライトからなるゼオライト膜とを備える。前記ゼオライト膜の表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍以上である。
【0006】
本発明によれば、緻密性を向上したETL型ゼオライトの膜を有するゼオライト膜複合体を提供することができる。
【0007】
好ましくは、前記X線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上である。
【0008】
好ましくは、前記ゼオライト膜におけるケイ素/アルミニウムのモル比が3以上である。
【0009】
好ましくは、前記ゼオライト膜におけるCFガスの透過量が10nmol/m・s・Pa以下である。
好ましくは、前記ゼオライト膜がルビジウムを含む。
好ましくは、前記ゼオライト膜におけるアルカリ金属/アルミニウムのモル比が、0.01~1である。
【0010】
本発明は、分離装置にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る分離装置は、上述のゼオライト膜複合体と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給する供給部とを備える。前記ゼオライト膜複合体は、前記混合物質中の透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する。
【0011】
本発明は、膜反応装置にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る膜反応装置は、上述のゼオライト膜複合体と、原料物質の化学反応を促進させる触媒と、前記ゼオライト膜複合体および前記触媒を収容する反応器と、前記原料物質を前記反応器に供給する供給部とを備える。前記ゼオライト膜複合体は、前記原料物質が前記触媒存在下で化学反応することにより生成された生成物質を含む混合物質のうち、透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する。
【0012】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)多孔質の支持体上に、ETL型ゼオライトからなる種結晶を付着させる工程と、b)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からETL型ゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを備える。前記原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が10~100であり、アルカリ金属/アルミニウムのモル比が15~100であり、水/アルミニウムのモル比が2000~10000である。
【0013】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ゼオライト膜複合体の断面図である。
図2】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
図3】ゼオライト膜の表面から得られるX線回折パターンを示す図である。
図4】ゼオライト膜の表面を示すSEM画像である。
図5】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
図6】分離装置を示す図である。
図7】混合物質の分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に設けられたゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。図2では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、図2では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0016】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。図1に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、図1中の左右方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。図1に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内周面上に形成され、貫通孔111の内周面を略全面に亘って被覆する。
【0017】
支持体11の長さ(すなわち、図1中の左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0018】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0019】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0020】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメータ、パームポロメータまたはナノパームポロメータにより測定することができる。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば20%~60%である。
【0021】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
ゼオライト膜12は、微細孔(マイクロ孔)を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質を含む混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。
【0023】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmである。ゼオライト膜12の厚さは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。ゼオライト膜12を薄くすると後述の高透過性物質の透過量が増大する。ゼオライト膜12の厚さは、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上である。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0024】
ゼオライト膜12を構成するゼオライト粒子の粒径は、例えば0.01μm~20μmであり、好ましくは0.05μm~10μmであり、より好ましくは0.1μm~5μmである。ゼオライト粒子の粒径は、ゼオライト膜12の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により3000倍にて観察し、任意の20個のゼオライト粒子について、それぞれの粒径(短径と長径の算術平均)を求め、求めた20個のゼオライト粒子の粒径を算術平均することによって求められる。
【0025】
ゼオライト膜12は、構造がETL型であるゼオライトにより構成される。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「ETL」であるゼオライトからなる。ゼオライト膜12の表面から得られる、後述の図3のX線回折パターンは、ETL型ゼオライトの構造から想定されるX線回折パターンとピークの位置が一致する。ゼオライト膜12は、典型的には、ETL型ゼオライトのみから構成されるが、製造方法等によっては、ゼオライト膜12においてETL型ゼオライト以外の物質が僅かに(例えば、1質量%以下)含まれていてもよい。
【0026】
ETL型ゼオライトの最大員環数は8であり、ここでは、8員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。8員環細孔とは、酸素原子が後述するT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数が8個である微細孔である。ETL型ゼオライトは3種類の8員環細孔を有し、それらの細孔径は、0.27nm×0.50nm、0.28nm×0.46nm、0.33nm×0.48nmであり、平均細孔径は、0.39nmである。ゼオライト膜12の平均細孔径は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0027】
ゼオライト膜12を構成するETL型ゼオライトの一例は、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がケイ素(Si)とアルミニウム(Al)とからなるアルミノケイ酸塩ゼオライトである。T原子の一部は、他の元素(ガリウム、チタン、バナジウム、鉄、亜鉛、スズ等)に置換されていてもよい。これにより、細孔径や吸着特性を変えることが可能となる。
【0028】
ゼオライト膜12におけるケイ素/アルミニウムのモル比(ケイ素原子のモル数をアルミニウム原子のモル数で除して得た値である。以下同様。)は、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上である。これにより、ゼオライト膜12の耐熱性および耐酸性を向上することができる。ケイ素/アルミニウムのモル比の上限は、特に限定されないが、例えば10万である。ケイ素/アルミニウムのモル比は、EDS(エネルギー分散型X線分光)分析により測定可能である。後述する原料溶液中の配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるケイ素/アルミニウムのモル比を調整することが可能である(他の元素の比率についても同様である。)。もちろん、ETL型ゼオライトは、アルミノケイ酸塩型には限定されない。
【0029】
典型的には、ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含む。ゼオライト膜12におけるアルカリ金属/アルミニウムのモル比は、好ましくは0.01~1であり、より好ましくは0.1~1である。これにより、ETL型ゼオライトの構造が安定なものになる。ゼオライト膜12が複数種類のアルカリ金属を含む場合、アルカリ金属/アルミニウムのモル比は、ゼオライト膜12に含まれる全アルカリ金属の合計のアルミニウムに対するモル比である。アルカリ金属は、例えばルビジウム(Rb)またはナトリウム(Na)である。ゼオライト膜12は、ルビジウムおよびナトリウムの両方を含んでいてもよい。ゼオライト膜12は、カリウム(K)、セシウム(Cs)等の他のアルカリ金属を含んでいてもよい。また、一部またはすべてのカチオンは、イオン交換等によりプロトン(H)やアンモニウムイオン(NH )等に置換されていてもよい。
【0030】
ゼオライト膜12の一例は、構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)と呼ばれる有機物を用いて製造される。この場合、ゼオライト膜12の形成後にSDAがほとんど、もしくは完全に除去されることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12において細孔が適切に確保される。SDAとして、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム等を用いることができる。ゼオライト膜12は、SDAを用いることなく製造されてもよい。
【0031】
ゼオライト膜12におけるCFガスの透過量は、好ましくは10nmol/m・s・Pa以下であり、より好ましくは5nmol/m・s・Pa以下であり、さらに好ましくは1nmol/m・s・Pa以下である。このように、CFガスがゼオライト膜12をほとんど透過しないことから、ゼオライト膜12が高い緻密性を有しているといえる。本実施の形態では、ゼオライト膜12がSDAを含んでいない状態でCFガスの透過量が測定されるが、CFガスは、原則としてETL型ゼオライトの細孔を通過不能であるため、CFガスの透過量の測定時にゼオライト膜12がSDAを含んでいてもよい。
【0032】
図3は、ゼオライト膜12の表面にX線を照射して得られるX線回折パターンの一例を示す図である。X線回折パターンは、後述するようなSDAがほとんどまたは完全に除去されたゼオライト膜12の表面に、X線回折装置の線源としてCuKα線を照射して取得されたものを用いる。X線回折パターンのピークの強度が異なるため、SDAを除去する前のゼオライト膜12をX線回折パターンの取得に用いることはできない。既述のように、ゼオライト膜12から得られるX線回折パターンは、ETL型ゼオライトの構造から想定されるX線回折パターンとピークの位置が一致する。
【0033】
ゼオライト膜12では、X線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍以上である。2θ=9.9°付近のピークは、2θ=9.9°±0.2°の範囲に存在するピークであり、ETL型ゼオライトの(002)面に由来する。2θ=19.8°付近のピークは、2θ=19.8°±0.2°の範囲に存在するピークであり、(004)面に由来する。2θ=7.9°付近のピークは、2θ=7.9°±0.2°の範囲に存在するピークであり、(021)面に由来する。
【0034】
このように、ゼオライト膜12では、ETL型ゼオライトの(002)面に由来するピークの強度、および、(004)面に由来するピークの強度が比較的高く、ゼオライト膜12は、その構成粒子のc軸が膜表面に略垂直な方向に配向した配向膜となっている。ゼオライト膜12では、ゼオライト粒子の結晶方位が揃うため、ゼオライト粒子同士が略面状に接合しやすくなる。したがって、ゼオライト膜12では、図4に示すSEM画像のように、互いに隣接するゼオライト粒子間に隙間が生じにくく、緻密性が向上する。その結果、ゼオライト膜複合体1では、高い分離性能が実現される。
【0035】
X線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度は、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上であることが好ましく、3.0倍以上であることがより好ましい。これにより、ゼオライト膜12における緻密性がさらに向上する。図3の例では、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度よりも大きく、全てのピークのうち、最大となっている。これらのピークの強度比の上限は特に限定されないが、例えば、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度は、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1000倍以下である。なお、ピークの強度は、X線回折パターンにおける底部のライン、すなわち、バックグラウンドノイズ成分を除いた高さを用いるものとする。X線回折パターンにおける底部のラインは、例えば、Sonneveld-Visser法またはスプライン補間法により求められる。
【0036】
次に、図5を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される(ステップS11)。種結晶は、例えば、水熱合成にてETL型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。ETL型ゼオライトの粉末は、任意のまたは公知の製造方法(例えば、上記文献1、文献2または文献3の手法)により生成されてよい。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。種結晶としては、SDAを含有したETL型ゼオライトを用いてもよく、SDAを含有しないETL型ゼオライトを用いてもよい。SDAを含有しないETL型ゼオライトは、典型的には、SDAを用いて合成した後、焼成等によりSDAを除去することにより得られる。
【0037】
続いて、種結晶を分散させた分散液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる(ステップS12)。あるいは、種結晶を分散させた分散液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。このとき、支持体11におけるゼオライト膜12を形成すべき部分において、単位面積当たりに付着する種結晶の質量が所定値以上となるように、例えば、分散液における種結晶の濃度等が調整される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0038】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、ケイ素源、アルミニウム源、アルカリ金属源、SDA等を、溶媒である水に溶解・分散させることにより作製する。ケイ素源は、例えばコロイダルシリカ、フュームドシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ素アルコキシド、水ガラス等である。アルミニウム源は、例えば水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミニウムアルコキシド等である。アルカリ金属源は、例えばルビジウム源またはナトリウム源等を含み、ルビジウム源およびナトリウム源の両方を含んでいてもよい。また、アルカリ金属源は、ルビジウムとナトリウム以外のアルカリ金属を含む化合物を含んでいてもよい。ルビジウム源は、例えば水酸化ルビジウム、塩化ルビジウム等である。ナトリウム源は、例えば水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム等である。SDAは、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化コリン等である。
【0039】
原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比は10~100であり、好ましくは10~75であり、より好ましくは15~50である。アルカリ金属/アルミニウムのモル比(原料溶液に含まれる全アルカリ金属の合計のアルミニウムに対するモル比である。)は15~100であり、好ましくは15~80であり、より好ましくは20~70である。水/アルミニウムのモル比は2000~10000であり、好ましくは2500~10000であり、より好ましくは3000~8000である。SDA/アルミニウムのモル比は、例えば2~100であり、好ましくは3~70であり、より好ましくは3~50である。原料溶液は、SDAを含まなくてもよい。原料溶液には、他の原料が混合されてよく、原料溶液の溶媒には、水以外が用いられてもよい。
【0040】
支持体11の原料溶液への浸漬後、水熱合成により支持体11上の種結晶を核としてETL型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にETL型のゼオライト膜12が形成される(ステップS13)。水熱合成時の温度は、好ましくは110~230℃である。水熱合成時間は、好ましくは5~100時間である。水熱合成時間が短いほど、ゼオライト膜複合体1の製造コストを削減することができる。
【0041】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12が純水で洗浄される。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば100℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を酸化性ガス雰囲気下で加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAが燃焼除去される(ステップS14)。これにより、ゼオライト膜12内の微細孔が貫通する。好ましくは、SDAはおよそまたは完全に除去される。SDAの除去における加熱温度は、例えば400~1000℃である。加熱時間は、例えば1~100時間である。酸化性ガス雰囲気は、酸素を含む雰囲気であり、例えば大気中である。以上の処理により、緻密なゼオライト膜12が形成され、分離性能が高い上記ゼオライト膜複合体1が製造される。
【0042】
ゼオライト膜12は、必要に応じてイオン交換されてもよい。交換するイオンとしては、プロトン、アンモニウムイオン、Na、K、Li等のアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+等のアルカリ土類金属イオン、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Ag等の遷移金属イオンが挙げられる。
【0043】
次に、図6および図7を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。図6は、分離装置2を示す図である。図7は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0044】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質(以下、「高透過性物質」とも呼ぶ。)を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、高透過性物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質(以下、「低透過性物質」とも呼ぶ。)を濃縮する目的で行われてもよい。
【0045】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0046】
混合物質は、例えば、水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)、酸素(O)、水(HO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、窒素酸化物、アンモニア(NH)、硫黄酸化物、硫化水素(HS)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。上述の高透過性物質は、例えば、H、He、N、O、CO、NHおよびHOのうち1種類以上の物質であり、好ましくはHOである。
【0047】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等のNO(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0048】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等のSO(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0049】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF)、二フッ化硫黄(SF)、四フッ化硫黄(SF)、六フッ化硫黄(SF)または十フッ化二硫黄(S10)等である。
【0050】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、ノルマルブタン(CH(CHCH)、イソブタン(CH(CH)、1-ブテン(CH=CHCHCH)、2-ブテン(CHCH=CHCH)またはイソブテン(CH=C(CH)である。
【0051】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH)、酢酸(C)、シュウ酸(C)、アクリル酸(C)または安息香酸(CCOOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(CS)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0052】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CHCH(OH)CH)、エチレングリコール(CH(OH)CH(OH))またはブタノール(COH)等である。
【0053】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CSH)または1-プロパンチオール(CSH)等である。
【0054】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0055】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CHO)、メチルエチルエーテル(COCH)またはジエチルエーテル((CO)等である。
【0056】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CHCO)、メチルエチルケトン(CCOCH)またはジエチルケトン((CCO)等である。
【0057】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CHCHO)、プロピオンアルデヒド(CCHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(CCHO)等である。
【0058】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類の液体を含む混合液であるものとして説明する。
【0059】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、ハウジング22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、ハウジング22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、ハウジング22の外部に配置されてハウジング22に接続される。
【0060】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、図6中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外周面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からの液体の流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111への液体等の流入および流出は可能である。
【0061】
ハウジング22の形状は特に限定されないが、例えば、略円筒状の筒状部材である。ハウジング22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。ハウジング22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。ハウジング22の長手方向の一方の端部(すなわち、図6中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。ハウジング22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。ハウジング22の内部空間は、ハウジング22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0062】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外周面とハウジング22の内周面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、液体が透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外周面およびハウジング22の内周面に全周に亘って密着する。図6に示す例では、シール部材23は、封止部21の外周面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外周面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外周面との間、および、シール部材23とハウジング22の内周面との間は、シールされており、液体の通過はほとんど、または、全く不能である。
【0063】
供給部26は、混合液を、供給ポート221を介してハウジング22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、ハウジング22に向けて混合液を圧送するポンプを備える。当該ポンプは、ハウジング22に供給する混合液の温度および圧力をそれぞれ調節する温度調節部および圧力調節部を備える。第1回収部27は、例えば、ハウジング22から導出された液体を貯留する貯留容器、または、当該液体を移送するポンプを備える。第2回収部28は、例えば、ハウジング22内におけるゼオライト膜複合体1の外周面の外側の空間(すなわち、2つのシール部材23に挟まれている空間)を減圧する真空ポンプと、気化しつつゼオライト膜複合体1を透過したガスを冷却して液化する液体窒素トラップとを備える。
【0064】
混合液の分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(図7:ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類の液体を含む混合液が、ハウジング22の内部空間に供給される。例えば、混合液の主成分は、水(HO)およびエタノール(COH)である。混合液には、水およびエタノール以外の液体が含まれていてもよい。供給部26からハウジング22の内部空間に供給される混合液の圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~2MPaであり、当該混合液の温度は、例えば、10℃~200℃である。
【0065】
供給部26からハウジング22に供給された混合液は、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合液中の透過性が高い液体である高透過性物質は、気化しつつ各貫通孔111の内周面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外周面から導出される。これにより、高透過性物質(例えば、水)が、混合液中の透過性が低い液体である低透過性物質(例えば、エタノール)から分離される(ステップS22)。
【0066】
支持体11の外周面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28へと導かれ、第2回収部28において冷却されて液体として回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約50Torr(約6.67kPa)である。透過物質には、上述の高透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過した低透過性物質が含まれていてもよい。
【0067】
また、混合液のうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過した物質を除く液体(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される液体の圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。第1回収部27により回収された不透過物質は、例えば、供給部26に循環されて、ハウジング22内へと再度供給されてもよい。
【0068】
図6に示す分離装置2は、例えば、膜反応装置として利用されてもよい。この場合、ハウジング22は反応器として利用される。ハウジング22の内部には、供給部26から供給される原料物質の化学反応を促進させる触媒が収容される。当該触媒は、例えば、供給ポート221と第1排出ポート222の間に配置される。好ましくは、当該触媒は、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12近傍に配置される。当該触媒は、原料物質の種類、および、原料物質に生じさせる化学反応の種類に応じて、適切な材料および形状のものが使用される。原料物質は、1種類、または、2種類以上の物質を含む。膜反応装置は、原料物質の化学反応を促進するために、反応器(すなわち、ハウジング22)や原料物質を加熱するための加熱装置をさらに備えていてもよい。
【0069】
膜反応装置として使用される分離装置2では、原料物質が触媒存在下で化学反応することにより生成された生成物質を含む混合物質が、上記と同様にゼオライト膜12に供給され、当該混合物質中の高透過性物質がゼオライト膜12を透過することにより、高透過性物質よりも透過性が低い他の物質から分離される。例えば、混合物質は、当該生成物質と、未反応の原料物質とを含む流体であってもよい。また、混合物質は、2種類以上の生成物質を含んでいてもよい。高透過性物質は、原料物質から生成された生成物質であってもよく、生成物質以外の物質であってもよい。好ましくは、高透過性物質は、1種類以上の生成物質を含む。
【0070】
高透過性物質が、原料物質から生成された生成物質である場合、当該生成物質がゼオライト膜12により他の物質から分離されることにより、生成物質の収率を向上することができる。混合物質が2種類以上の生成物質を含んでいる場合、当該2種類以上の生成物質が高透過性物質であってもよく、当該2種類以上の生成物質のうち、一部の種類の生成物質が高透過性物質であってもよい。
【0071】
次に、ゼオライト膜複合体の実施例について説明する。
【0072】
<実施例>
(種結晶の作製)
アルミニウム源、ケイ素源、アルカリ金属源、構造規定剤(SDA)として、それぞれ水酸化アルミニウム、30%コロイダルシリカ、水酸化ルビジウム、水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成がモル比で1Al:30SiO:5RbO:5SDA:1500HOの原料溶液を調製した。この原料溶液を180℃で100h水熱合成した。水熱合成によって得られた結晶を回収し、純水にて十分に洗浄した後、100℃で完全に乾燥させた。X線回折測定の結果、得られた結晶はETL結晶であった。この結晶を10~20質量%となるよう純水に投入し、ボールミルによって粉砕し、種結晶とした。
【0073】
(ETL膜の作製)
モノリス形状の多孔質アルミナ支持体を、前述の種結晶を分散させた溶液に接触させて、セル内に種結晶を塗布した。その後、アルミニウム源、ケイ素源、アルカリ金属源、構造規定剤(SDA)として、それぞれ水酸化アルミニウム、30%コロイダルシリカ、水酸化ルビジウムと水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成がモル比で1Al:30SiO:15RbO:6NaO:10SDA:3000HOの原料溶液を調製した。この原料溶液に種結晶を塗布したアルミナ支持体を浸漬し、180℃で15h水熱合成した。水熱合成後、支持体上に形成されたETL型のゼオライト膜(以下、単に「ETL膜」という。)を純水にて十分に洗浄し、続いて、100℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ETL膜のN透過量を測定したところ、0.05nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、ETL膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。次に、ETL膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ETL膜内の細孔を貫通させた。得られたETL膜について、CFガスの透過量を測定したところ、10nmol/m・s・Pa以下であった。また、EDS分析により測定したETL膜のケイ素/アルミニウムのモル比は3以上であった。
【0074】
(ETL膜の評価)
50℃に加温した50質量%エタノール水溶液を循環ポンプで循環させることで、ETL膜をセットした分離用容器(図6の分離装置2参照)の供給側空間にエタノール水溶液を供給し、真空ポンプにて透過側空間を圧力制御器により50Torrに制御しながら減圧し、ETL膜および支持体を透過した蒸気を液体窒素トラップで回収した。液体窒素トラップで回収した液体の量と濃度を測定し、ETL膜の水選択性、および、水透過流束を求めた。ETL膜の水選択性は、回収した液体における水濃度(質量%)を、回収した液体におけるエタノール濃度(質量%)で除算して得た。水透過流束は、回収した液体における水の量から求めた。ETL膜の水選択性は50、水透過流束は0.3kg/m・hであった。このように、得られたETL膜は水選択性を示す膜であった。
【0075】
ETL膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度は、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上であった。なお、X線回折測定では、リガク社製のX線回折装置(装置名:MiniFlex600)を用い、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度0.5°/min、走査ステップ0.02°とした。また、発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mm、入射ソーラースリット5.0°、受光ソーラースリット5.0°とした。モノクロメーターは使用せず、CuKβ線フィルターとして0.015mm厚ニッケル箔を使用した。
【0076】
さらに、原料の混合比でケイ素/アルミニウムのモル比が10~100、アルカリ金属/アルミニウムのモル比が15~100、水/アルミニウムのモル比が2000~10000となるようにして調製した原料溶液を用いてETL膜の作製を行った場合には、ETL膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度は、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍以上であった。得られたETL膜は、緻密性が高く、水選択性を示す膜であった。特に、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上であるETL膜は、0.8倍以上1.0倍未満であるETL膜よりも、緻密性が高いことを確認した。
【0077】
<比較例>
(種結晶の作製)
実施例と同様に、種結晶を作製した。
【0078】
(ETL膜の作製)
モノリス形状の多孔質アルミナ支持体を、前述の種結晶を分散させた溶液に接触させて、セル内に種結晶を塗布した。種結晶を作製したのと同じ組成の原料溶液を調製し、この原料溶液に種結晶を塗布したアルミナ支持体を浸漬し、180℃で15h水熱合成した。水熱合成後、ETL膜を純水にて十分に洗浄し、続いて、100℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ETL膜のN透過量を測定したところ、1nmol/m・s・Pa以上であった。これにより、ETL膜は、緻密性を有していないことが確認された。次に、ETL膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ETL膜内の細孔を貫通させた。得られたETL膜について、CFガスの透過量を測定したところ、50nmol/m・s・Paよりも大きかった。
【0079】
(ETL膜の評価)
50℃に加温した50質量%エタノール水溶液を循環ポンプで循環させることで、ETL膜をセットした分離用容器の供給側空間にエタノール水溶液を供給し、真空ポンプにて透過側空間を圧力制御器により50Torrに制御しながら減圧したところ、ETL膜および支持体をエタノール水溶液がそのまま透過してしまった。このように、得られたETL膜は緻密性が悪く、水選択性を示さない膜であった。
【0080】
ETL膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度は、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍未満であった。
【0081】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に設けられ、ETL型ゼオライトからなるゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12の表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の0.8倍以上である。このように、ゼオライト膜12は、その構成粒子のc軸が膜表面に略垂直な方向に配向した配向膜となっており、これにより、ゼオライト膜12の緻密性が向上する。その結果、緻密性を向上したETL型ゼオライトの膜を有するゼオライト膜複合体1を容易に提供することができる。
【0082】
好ましくは、X線回折パターンにおいて、2θ=9.9°付近に存在するピークの強度、および、2θ=19.8°付近に存在するピークの強度が、2θ=7.9°付近に存在するピークの強度の1.0倍以上である。これにより、ゼオライト膜12の緻密性をさらに向上することができる。
【0083】
好ましくは、ゼオライト膜12におけるケイ素/アルミニウムのモル比が3以上である。これにより、ゼオライト膜12の耐熱性および耐酸性を向上することができる。ゼオライト膜12におけるCFガスの透過量は、10nmol/m・s・Pa以下であることが好ましい。
【0084】
上述のゼオライト膜複合体1の製造方法は、多孔質の支持体11上に、ETL型ゼオライトからなる種結晶を付着させる工程と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成により種結晶からETL型ゼオライトを成長させて支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程とを備える。また、当該原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が10~100であり、アルカリ金属/アルミニウムのモル比が15~100であり、水/アルミニウムのモル比が2000~10000である。これにより、緻密性を向上したETL型ゼオライトの膜を有するゼオライト膜複合体1を容易に提供することができる。
【0085】
上述のように、分離装置2は、上記ゼオライト膜複合体1と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給する供給部26とを備える。ゼオライト膜複合体1は、当該混合物質中の透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する。これにより、高透過性物質を、他の物質から効率良く分離することができる。
【0086】
上述のように、膜反応装置は、上記ゼオライト膜複合体1と、原料物質の化学反応を促進させる触媒と、ゼオライト膜複合体1および当該触媒を収容する反応器(上述の例では、ハウジング22)と、原料物質を当該反応器に供給する供給部26とを備える。ゼオライト膜複合体1は、原料物質が触媒存在下で化学反応することにより生成された生成物質を含む混合物質のうち、透過性が高い高透過性物質を透過することにより他の物質から分離する。これにより、上記と同様に、高透過性物質を、他の物質から効率良く分離することができる。
【0087】
上記ゼオライト膜複合体1、分離装置2、膜反応装置およびゼオライト膜複合体1の製造方法では様々な変形が可能である。
【0088】
ゼオライト膜12におけるケイ素/アルミニウムのモル比が、3未満であってもよい。ゼオライト膜複合体1の使用上、問題がない場合には、ゼオライト膜12におけるCFガスの透過量が10nmol/m・s・Paより大きくてもよい。
【0089】
貫通孔を有する支持体11では、ゼオライト膜12が内周面または外周面のいずれに設けられてもよく、内周面および外周面の両方に設けられてもよい。
【0090】
ゼオライト膜複合体1は、上記製造方法以外の方法により製造されてもよい。
【0091】
ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、水を吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0092】
分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した浸透気化法以外に、蒸気透過法、逆浸透法、ガス透過法等によって混合物質の分離が行われてもよい。膜反応装置においても同様である。
【0093】
分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。膜反応装置においても同様である。
【0094】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0095】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、脱水膜として利用可能であり、さらには、水以外の様々な物質の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
S11~S14,S21,S22 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7