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特許7538334抗癌活性を有する免疫調節タンパク質-siRNA複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】抗癌活性を有する免疫調節タンパク質-siRNA複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240814BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240814BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240814BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12N15/113 140Z
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
A61K47/64
A61K47/65
A61K31/713
A61P35/00
A61P35/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023511585
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 KR2020010897
(87)【国際公開番号】W WO2022034946
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ファ
(72)【発明者】
【氏名】クォン,イク チャン
(72)【発明者】
【氏名】キム,イン-サン
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァンミョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユス
(72)【発明者】
【氏名】コ,ヨン-ジ
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053720(WO,A1)
【文献】特開2018-065822(JP,A)
【文献】国際公開第2019/241430(WO,A2)
【文献】BIOMEDICAL REPORTS,2018年,9,pp.3-7
【文献】化学と生物,2009年,Vol. 47, No. 6,p. 436-440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫調節融合タンパク質(A);及びsiRNA(B);を含み、
前記免疫調節融合タンパク質(A)は、SIRPタンパク質と、リソソーム分解酵素で切断されるリンカーペプチドとが結合され
前記SIRPタンパク質は、配列番号3、5、7、9、11から選ばれるいずれか一つで表示されるアミノ酸配列で、前記リンカーペプチドは配列番号13で表示され、
前記siRNAはCD47 siRNAであることを特徴とする融合タンパク質-siRNA複合体。
【請求項2】
前記免疫調節融合タンパク質(A)は配列番号1で表示されることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質-siRNA複合体。
【請求項3】
前記siRNAは、配列番号1718で表示されることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質-siRNA複合体。
【請求項4】
前記融合タンパク質-siRNA複合体の平均分子量は、20000乃至60000であることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質-siRNA複合体。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項による融合タンパク質-siRNA複合体を有効成分として含む癌治療又は予防用薬学組成物。
【請求項6】
前記癌は、脳腫瘍、脊髓腫瘍、網膜細胞腫、口腔癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、咽頭癌、喉頭癌、頸部癌、頭頸部癌、黒色腫、皮膚癌、乳癌、甲状腺癌、悪性副腎腫瘍、内分泌癌、肺癌、胸膜腫瘍、呼吸器癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、肛門癌、肝癌、胆道癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、陰茎癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、絨毛上皮癌、卵巣癌、急性・慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を含む血液癌、骨腫瘍、軟部腫瘍、小児白血病及び小児癌からなる群から選ばれたいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の癌治療又は予防用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性を有する免疫調節タンパク質-siRNA複合体に関し、より具体的には、癌細胞の免疫回避メカニズムを抑制することによって大食細胞の食作用を増大させ、癌細胞の死滅を誘導することを特徴とする免疫調節タンパク質-siRNA複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、過去数年間、死亡原因の1位を占めている。このような癌を治療するために、多様な技術が開発されてきた。一例として、ドキソルビシンやパクリタキセルなどの抗癌剤があるが、これらは、癌細胞の成長を抑制又は死滅させるという効果を有する。しかし、このような抗癌剤は、癌細胞と正常細胞の全てに対して毒性を示すので、抗癌効果に比べて副作用が深刻であり、治療剤としての使用が難しいという問題を有する。
【0003】
上述した問題を解決するために、siRNAを活用した抗癌剤が活発に開発されている。siRNAは、特定の標的遺伝子の発現量を抑制することによって、関連遺伝子の活動を干渉する役割をするものとして知られている。したがって、siRNAの機能を積極的に活用する場合、副作用は最小化しながら、抗癌効能には優れた治療剤が開発されると期待した。そこで、腫瘍遺伝子(oncogene)、免疫細胞、腫瘍微細環境の調節因子などの多様な遺伝子を標的化するsiRNAを開発したが、siRNA自体は、生体内で安定的に存在できず、細胞内に伝達される効率が著しく低下するという短所を有していた。
【0004】
これを解決するために、siRNAを伝達するための伝達体として、リポソーム(liposome)、キトサンナノパーティクル(chitosan nanoparticle)、PLGA(poly lactic-co-glycolic acid)などの多様な物質を活用したナノ粒子が研究された。前記ナノ粒子は、siRNAのみを使用した場合に比べて安定性及び伝達性を高められるが、ナノ粒子自体が外部物質であるので、体内で毒性を誘発するという短所を有し、また、細胞内に物質が入り込むとしても細胞内のエンドソーム/リソソームで分解され、遺伝子導入(transfection)効率が相当低下するという短所を有する。したがって、最近は、生体内に存在する多様な物質(タンパク質、エキソソーム(exosome)、抗体など)を伝達体として用いることによって生体内の毒性を減少させ、siRNAを効果的に癌細胞内に伝達できる素材に対する研究が主になされているが、このような多くの努力にもかかわらず、物質の伝達効用性及びメカニズムに関する各問題によって未だに商用化されていない。例えば、エキソソームは、体内で容易に分解及び崩壊され、薬物を効果的に伝達するのに限界を有しており、抗体は相対的に大きいので、siRNAを細胞内に効果的に伝達できないという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国登録特許公報第10-1977532号
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2018-0134424号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題を勘案してなされたものであって、本発明の目的は、癌細胞受容体を介して癌細胞に特異的に伝達され、二重で癌細胞の免疫回避メカニズムを抑制することによって大食細胞の食作用を向上させる、優れた抗癌活性を有する融合タンパク質-siRNA複合体を提供することにある。
【0007】
本発明は、上記のような問題を勘案してなされたものであって、本発明の目的は、融合タンパク質-siRNA複合体を有効成分とする癌治療又は予防用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、免疫調節融合タンパク質(A);及びsiRNA(B);を含み、前記免疫調節融合タンパク質(A)は、SIRPαタンパク質と、リソソーム分解酵素で切断されるリンカーペプチドとが結合されたものであることを特徴とする融合タンパク質-siRNA複合体を提供する。
【0009】
前記SIRPタンパク質は、配列番号3、5、7、9、11から選ばれるいずれか一つで表示され、前記リンカーペプチドは配列番号13で表示され得る。
【0010】
前記免疫調節融合タンパク質(A)は配列番号1で表示され得る。
【0011】
前記siRNAは、CD47 siRNAであり得る。
【0012】
前記siRNAは、配列番号17又は18で表示され得る。
【0013】
前記融合タンパク質-siRNA複合体の平均分子量は、20kDa乃至60kDaであり得る。
【0014】
本発明は、前記他の目的を達成するために、前記融合タンパク質-siRNA複合体を有効成分として含む癌治療又は予防用薬学組成物を提供する。
【0015】
前記癌は、脳腫瘍、脊髓腫瘍、網膜細胞腫、口腔癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、咽頭癌、喉頭癌、頸部癌、頭頸部癌、黒色腫、皮膚癌、乳癌、甲状腺癌、悪性副腎腫瘍、内分泌癌、肺癌、胸膜腫瘍、呼吸器癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、肛門癌、肝癌、胆道癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、陰茎癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、絨毛上皮癌、卵巣癌、急性・慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を含む血液癌、骨腫瘍、軟部腫瘍、小児白血病及び小児癌からなる群から選ばれたいずれか一つ以上であり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、癌細胞で特異的に過剰発現される受容体によって細胞内に吸収され、癌細胞免疫防御機能を二重で制御することによって極大化された抗癌活性を有し、さらに、細胞毒性が少なく、伝達効率が高いので、副作用がほとんどないという長所を有する。
【0017】
また、癌細胞の死滅を直接誘導することなく、癌細胞の免疫を抑制することによって、患者の自己免疫(大食細胞の食作用)を通じて癌細胞を除去できるようにし、体への負担が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】融合タンパク質-siRNA複合体構造を概略的に示す図である。
図2】融合タンパク質-siRNA複合体構造の作動メカニズムを概略的に示す図である。免疫調節タンパク質とsiRNA抗癌剤が、癌細胞の同じ受容体を1)タンパク質レベルと2)mRNAレベルで二重で制御することによって癌免疫治療効率を極大化する。
図3】実施例1で製造された選別された形質転換体からコロニーを得た後、PCRを行い、ゲルイメージングシステム(Gel documentation)で分析した結果を示す図である。
図4】実施例1から分離・精製した融合タンパク質の結合をSDS-PAGEゲルで確認した結果を示す図であって、1レーン(lane)は、対照群(control)に対する結果で、2レーンは、融合タンパク質(SIRPα-linker)に対する結果である。
図5】実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体をアガロースゲル(agarose gel)で確認した結果を示す図である。
図6】実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体をHPLCで分析した結果を示す図である。
図7】実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体をパパイン酵素で処理した後、HPLCで分析した結果を示す図である。
図8】HT-29細胞での実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体の挙動を確認するための共焦点顕微鏡(confocal microscopy)の分析結果を示す図である。
図9】癌細胞(CT26.CL25)に、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を始めとした多様な試料をそれぞれ処理した後、HPRT遺伝子発現の沈黙効果を測定した結果を示す図である。
図10】癌細胞(CT26.CL25)に、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を始めとした多様な試料をそれぞれ処理した後、CD47遺伝子発現の沈黙効果を測定した結果を示す図である。
図11】実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)と比較例1のLipo-CD47 siRNA複合体の細胞毒性をCCK-8を通じて評価した結果を示す図である。
図12】実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)における大食細胞の食作用効果を分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の多くの側面及び多様な具現例に対してさらに具体的に説明する。
【0020】
本発明者等は、一般的な状態では細胞毒性や活性を全く示さないが、特定の細胞(癌細胞)の内部に伝達された後には毒性や活性を示す複合体を製造しようとした。このために、最も考慮した部分は、細胞内に伝達された後、細胞内に存在するリソソームによって分解されながら活性を示すことであった。したがって、このような問題を解決するために、優れた癌細胞標的能力、細胞内伝達能力を有しながら細胞毒性をほとんど示さない素材のために数多くの実験を行った結果、本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体が、癌細胞に特異的に伝達されながら、細胞内伝達効率にも優れるだけでなく、細胞内のリソソームによって分解され、癌細胞に対する大食細胞の食作用を増大させるという著しい効果を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明の一側面は、免疫調節融合タンパク質(A);及びsiRNA(B);を含み、前記免疫調節融合タンパク質(A)は、SIRPαタンパク質と、リソソーム分解酵素で切断されるリンカーペプチドとが結合されたものであることを特徴とする融合タンパク質-siRNA複合体に関し、具体的な構造は図1に概略的に示した。
【0022】
本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、癌細胞に特異的に反応しながら細胞内に入り込み、細胞内でリソソームによって自発的に切断されて活性化され得る。
【0023】
前記SIRPαタンパク質は、配列番号3、5、7、9、11から選ばれるいずれか一つで表示されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0024】
前記融合タンパク質は、タンパク質とsiRNA複合体を容易に構成するために、免疫調節融合タンパク質のC末端基にシステイン(cystein)アミノ酸を挿入し、タンパク質のチオール基とsiRNAとが1対1で結合されるように設計した。これにより、従来のタンパク質とsiRNAの単純な無作為結合によって生じ得る粒子間の異質性、分析の難しさ、大量生産及び品質管理の難しさなどの問題を解決し、よく定義された均一且つ単純な構造体(融合タンパク質-siRNA複合体)を得ることができる。したがって、無作為的な融合タンパク質とsiRNA複合体に比べて、本発明の融合タンパク質-siRNA複合体は、上述した構造的特徴により、今後の臨床適用に有利な効果を示すことができる。
【0025】
前記リンカーペプチドは、リソソーム内に存在する酵素によって容易に切断可能な配列であれば特に制限されなく、好ましくは5個乃至15個、より好ましくは7個乃至12個のアミノ酸で構成されてもよく、最も好ましくは、配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0026】
前記リソソーム分解酵素で切断されるリンカーペプチドは、配列番号13(GGFLGGGGCG)で表示されるアミノ酸配列を含むことができ、細胞内のリソソームに存在するカテプシンB(Cathepsin B)酵素によって切断される。また、これは、前記融合タンパク質の受容体媒介吸収(receptor mediated endocytosis)によって細胞内に吸収された後、エンドソーム脱出(endosomal escape)を促進させる機能を果たすことができる。エンドソーム内の分解は、siRNA伝達体の大きな限界点であり、これを克服することによって、細胞内に遺伝子を導入(transfection)する効率を向上させるという効果を有するようになる。
【0027】
また、免疫原性細胞死滅(Immunogenic cell death、ICD)は、細胞の死滅時、損傷可能パターン(Damage-associated molecular pattern、DAMP)を誘導することによって免疫反応を増幅させる役割を果たすが、このとき、免疫調節融合タンパク質及びsiRNAは、同じ標的を二重で制御することによって、従来のそれぞれのタンパク質とsiRNAが誘発し得る免疫反応より倍に増幅された効果を誘導することができる。
【0028】
本発明において、「siRNA(short interfering RNA)」とは、遺伝子の活性を抑制するRNAiを誘発できる二本鎖RNAを意味する。本発明において、siRNAは、CD47の活性を抑制できるsiRNAを意味するが、前記siRNAとしては、RNAiを誘発させるものであればいずれの形態も使用可能であり、例えば、化学合成、生化学的合成又は生体内合成によって収得されるsiRNA、或いは約40個以上の塩基の二本鎖RNAが体内で分解された10個以上の塩基対の二本鎖RNAなどを使用することができる。
【0029】
前記siRNAは、CD47の核酸配列の一部に対して約70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する配列で構成されてもよく、二本鎖部分を含むRNA又はその改変体を使用することもできる。相同性を有する配列部分は、通常、少なくとも20以上のヌクレオチドであって、好ましくは約23~30のヌクレオチドである。併せて、前記siRNAは、CD47の塩基配列のうち他のRNAとの相同性が最も低い領域に相補的に結合できる塩基配列で構成されることが好ましい。
【0030】
本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、siRNAを直接投与する場合に比べて細胞内伝達効率に著しく優れ、抗癌活性も著しく高いという大きな長所を有する。
【0031】
また、前記融合タンパク質-siRNA複合体は、生理学的溶液に容易に溶解されるので、吸収が容易であり、生体利用率に優れる。
【0032】
前記siRNAの塩基配列は、CD47遺伝子を沈黙できるもの、CD47遺伝子の発現を抑制できるものであれば特に制限されないが、サイレンシング(silencing)効果の面で配列番号17又は18であることが好ましく、前記siRNAの3’末端にはマレイミドが結合されていてもよい。
【0033】
本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、癌細胞で特異的に発現される受容体に対して結合するので、癌細胞特異的な伝達効率が高い。また、融合タンパク質-siRNA複合体は、CD47受容体と結合し、癌細胞内で分解されながらCD47遺伝子を沈黙させ、癌細胞内で癌細胞の免疫作用を抑制することによって、大食細胞が食作用を通じて癌細胞を攻撃できるようになる。すなわち、本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、従来の抗癌剤や伝達体と異なり、大食細胞が癌細胞を除去できるように癌細胞の免疫作用を阻害するものであるので、癌細胞を直接死滅させることなく、自己免疫で抗癌効果を示すことができる。このような融合タンパク質-siRNA複合体の作動メカニズムを図2に概略的に示した。
【0034】
そこで、本発明の融合タンパク質-siRNA複合体は、癌の発生時、前記癌細胞に特異的に結合し、細胞内に伝達され、癌細胞の免疫を抑制することによって大食細胞の食作用を増大させ、癌細胞を除去できることを多様な実験を通じて確認した。
【0035】
本発明の他の側面は、前記融合タンパク質-siRNA複合体を有効成分とする癌治療又は予防用薬学組成物に関する。
【0036】
また、本発明は、前記融合タンパク質-siRNA複合体を有効成分として含む癌治療又は予防用動物用薬学組成物に関する。
【0037】
また、本発明は、ヒト、又はヒトを除いた動物に前記組成物を投与し、癌を治療するための方法を提供する。
【0038】
また、本発明は、癌治療又は予防用医薬、又は動物用医薬を製造するための前記融合タンパク質-siRNA複合体の新規用途を提供する。
【0039】
本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、多様な経路を介して投与が可能であり、これらのそれぞれを単独で投与する場合に比べて、癌細胞に対する薬理効果に著しく(1.5倍~2倍以上)優れることを確認した。
【0040】
具体的には、本発明の複合体は、siRNA又はSIRPαタンパク質を単独で使用する場合に比べて、癌細胞特異的な細胞内伝達が容易であり、潜在的安定性に非常に優れる。さらに、統制されない複製の危険性がなく、siRNA伝達のためのウイルス或いは非ウイルスベクターを用いなくてもよいので、形質注入による干渉と潜在的な副作用による憂いがなくなり、非常に安定的であると言える。さらに、ベクターなどの伝達体を用いる場合に比べて合成が非常に低廉であり、伝達効率にも非常に優れるので(低い濃度のsiRNAとSIRPαタンパク質を投与し、最大の予防又は治療効果を達成する)、経済的側面で相当大きな利点を有する。
【0041】
癌細胞を死滅させる場合は、特定の癌細胞への局所的な治療(抗癌剤など)のみではその効果を達成しにくく、体への負担も大きくなる。しかし、本発明の複合体のように、癌細胞自体の免疫を抑制することによって、患者本人による自己免疫で癌が除去されるので、体への負担が少なく、副作用がほとんどなく、さらに、優れた抗癌効果を提供できるという点で大きな利点を提供する。
【0042】
前記癌は、通常の癌を意味し、脳腫瘍、脊髓腫瘍、網膜細胞腫、口腔癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、咽頭癌、喉頭癌、頸部癌を含む頭頸部癌、黒色腫を含む皮膚癌、乳癌、甲状腺癌、悪性副腎腫瘍を含む乳癌、内分泌癌、肺癌、胸膜腫瘍、悪性副腎腫瘍を含む呼吸器癌、食道癌、胃癌、小腸の悪性腫瘍、大腸癌、肛門癌、肝癌、胆道癌又は膵臓癌を含む消化器癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌又は陰茎癌を含む泌尿器癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、絨毛上皮癌又は卵巣癌を含む婦人科癌、急性又は慢性白血病、悪性リンパ腫又は多発性骨髄腫を含む血液癌、骨腫瘍又は軟部腫瘍を含む骨又は軟部腫瘍、及び小児白血病又は小児固形腫瘍を含む小児癌などであってもよく、これらの再発癌も含み、再発癌は、通常の癌の治療後に再発した癌を意味する。
【0043】
本発明において、「複合体」とは、下記の融合タンパク質及びsiRNAを含み、これらの遺伝的融合や化学的結合で形成された共有結合複合体を意味する。
【0044】
また、前記「遺伝的融合」とは、タンパク質をコーディングするDNA配列の遺伝的発現を通じて形成された線形の共有結合からなる連結を意味する。
【0045】
前記化学的結合は、当業界で一般的に使用されるものであれば特に制限されないが、好ましくは、融合タンパク質のシステイン残基とsiRNAとを結合するために、siRNAの末端にマレイミド基を含む誘導体をリンカーで結合することであってもよく、前記融合タンパク質に存在するシステイン残基のチオールがsiRNAマレイミド基と反応しながら結合を形成することを意味する。
【0046】
また、前記融合タンパク質-siRNA複合体は、前記融合タンパク質とsiRNAとを混合して製造したとき、前記混合比率が1:1~1:10であることが好ましく、1:1未満である場合は、確実に複合体を形成できないので、効果的に癌細胞に伝達されないという問題を有する。
【0047】
したがって、前記融合タンパク質-siRNA複合体を投与することによって、従来のsiRNA(CD47 siRNA)、或いは前記SIRPαタンパク質のみを投与するときに比べて癌細胞に伝達される効率が増加し、大食細胞の食作用増加効果に著しく(1.5倍~3倍以上)優れることを確認した。
【0048】
本発明の薬学組成物は、投与のために、前記記載の有効成分以外に、さらに薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで薬学組成物に製剤化したものであり得る。
【0049】
液状溶液に製剤化される組成物において、許容可能な薬剤学的担体としては、滅菌及び生体に適したものとして、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。
【0050】
また、前記癌治療又は予防用薬学組成物は、前記有効成分以外に、薬剤学的に適切で、且つ生理学的に許容される補助剤を使用して製造され得る。前記補助剤としては、賦形剤、崩壊剤、甘味剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤沢剤、滑沢剤又は香味剤などの可溶化剤を使用することができる。
【0051】
また、本発明の癌治療又は予防用薬学組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤に製剤化することができる。さらに、該当分野の適切な方法でRemington’s Pharmaceutical Science、Mack Publishing Company、Easton PAに開示されている方法を用いて、各疾患又は成分によって好ましく製剤化することができる。
【0052】
また、本発明の癌治療又は予防用薬学組成物は、癌細胞の受容体を標的とし、既に癌細胞に対する特異性を有しているので、投与経路に特に制限はなく、好ましくは、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、腹腔内、胸骨内、経皮、鼻側内、鼻腔、吸入、局所、直腸、経口、眼球内又は皮内経路を介して通常の方式で投与できるが、最も好ましくは、静脈内注射を介して注入されてもよく、特にこれに制限されない。目的によって、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与が行われ得る。
【0053】
前記「薬学組成物」、「医薬」、「動物用薬学組成物」又は「動物用医薬」は、有効成分として、融合タンパク質-siRNA複合体以外に、薬学組成物などの製造に通常的に使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。
【0054】
前記「担体」は、細胞又は組織内への化合物の付加を容易にする化合物である。前記「希釈剤」は、対象化合物の生物学的活性形態を安定化させるだけでなく、化合物を溶解させるようになる水で希釈される化合物である。
【0055】
本発明の薬学組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油を挙げることができる。製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調剤される。
【0056】
本発明で使用される用語である「投与」は、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0057】
前記薬学組成物、医薬、動物用薬学組成物又は動物用医薬の使用量は、患者又は治療対象動物の年齢、性別、体重によって変わってもよく、何よりも、治療対象個体の状態、治療対象疾患の特定のカテゴリー又は種類、投与経路、使用される治療剤の属性に依存的であり得る。
【0058】
前記薬学組成物、医薬、動物用薬学組成物又は動物用医薬は、体内での活性成分の吸収度、排泄速度、患者又は治療対象動物の年齢、体重、性別及び状態、治療する疾病の重症度などによって適宜選択されるが、一般には、1日に0.0001mg/kg乃至1,000mg/kg、好ましくは0.001mg/kg乃至500mg/kg、さらに好ましくは0.001mg/kg乃至250mg/kgで投与することが好ましい。このように剤形化された単位投与型製剤は、必要によって一定の時間間隔で数回投与することができる。
【0059】
前記薬学組成物、医薬、動物用薬学組成物又は動物用医薬は、個別的に予防剤又は治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次的に又は同時に投与することができる。
【0060】
前記癌の治療方法は、ヒト、又はヒトを除いた動物、特に哺乳動物に前記組成物を投与することであって、例えば、癌疾患を有する治療対象個体に前記組成物を投与することである。
【0061】
前記癌は、通常の癌を意味し、脳腫瘍、脊髓腫瘍、網膜細胞腫、口腔癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、咽頭癌、喉頭癌、頸部癌を含む頭頸部癌、黒色腫を含む皮膚癌、乳癌、甲状腺癌、悪性副腎腫瘍を含む乳癌、内分泌癌、肺癌、胸膜腫瘍、悪性副腎腫瘍を含む呼吸器癌、食道癌、胃癌、小腸の悪性腫瘍、大腸癌、肛門癌、肝癌、胆道癌又は膵臓癌を含む消化器癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌又は陰茎癌を含む泌尿器癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、絨毛上皮癌又は卵巣癌を含む婦人科癌、急性又は慢性白血病、悪性リンパ腫又は多発性骨髄腫を含む血液癌、骨腫瘍又は軟部腫瘍を含む骨又は軟部腫瘍、及び小児白血病又は小児固形腫瘍を含む小児癌などであってもよく、これらの再発癌も含み、再発癌は、通常の癌の治療後に再発した癌を意味する。
【0062】
前記治療のための投与量、投与方法及び投与回数は、前記薬学組成物、医薬、動物用薬学組成物又は動物用医薬の投与量、投与方法及び投与回数を参考にすることができる。
【実施例
【0063】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれによって制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0064】
実施例1.SIRPαタンパク質と、リソソーム分解酵素で切断されるリンカーペプチドとが融合された免疫調節融合タンパク質(SIRPα-linker)の製造
【0065】
まず、免疫調節融合タンパク質を発現するためのベクターを製作するために、COSMOGenetech(Seoul、South korea)を通じて免疫調節融合タンパク質(配列番号1)を暗号化する遺伝子(配列番号2)を合成し、これを含むベクターの提供を受けた。前記ベクターを鋳型とし、下記の表1に開示されたプライマーを用いて重合酵素連鎖反応(PCR:polymerase chain reacttion)を行った。その結果、免疫調節タンパク質(SIRPαタンパク質)(配列番号3)を暗号化する遺伝子(配列番号4)に、リンカーペプチド(配列番号13)を暗号化する遺伝子(GGT GGC TTT CTG GGT GGC GGT GGC TGC GGT;配列番号14)が融合された免疫調節融合タンパク質が導入された遺伝子(配列番号2)を獲得した。前記増幅された免疫調節融合タンパク質遺伝子をpet28aベクターのNde1とHindIII制限酵素部位に挿入し、発現ベクターを製造した。
【0066】
前記配列番号3で表示される免疫調節タンパク質(A)の代わりに、配列番号3で表示される変異体(variant)SIRPαタンパク質、配列番号11で表示される野生型(wild type)SIRPαタンパク質、配列番号12で表示される野生型SIRPgタンパク質、配列番号13で表示されるSIRPg変異体1タンパク質、又は配列番号14で表示されるSIRPg変異体2を使用して融合タンパク質をそれぞれ製造し、実質的にこれらのそれぞれを使用して実施例1のように融合タンパク質を製造したとき、融合タンパク質が製造されることを確認した。
【0067】
【表1】
【0068】
前記His-タグは、後で前記遺伝子が融合タンパク質として発現されるとき、発現された融合タンパク質のC-末端に付着し、タンパク質の精製及び確認を可能にするという特徴を有する。前記配列番号7、8を使用して遺伝子を獲得し、これをpet28aベクターのNde1とHindIII制限酵素部位に挿入し、pET-His発現ベクターも製造した。
【0069】
その後、大腸菌BL21(DE3、Novagen社)に、CaClバッファーを使用してコンピテント(competent)細胞を作った。その後、42℃で2分間放置する熱衝撃方法を用いて前記コンピテント細胞を前記それぞれの発現ベクターに形質転換した。前記形質転換体から融合タンパク質を発現させる形質転換体を選別した後、12時間にわたって30℃の培養器で培養した。その後、前記培養された形質転換体を4,000gで10分間遠心分離し、上澄み液を除去した後、沈殿物内で細胞を回収した。回収した各細胞は、超音波破砕装置(sonicatior)を使用して破砕した。前記収得された細胞溶解物を4℃、14,000rpmで20分間再び遠心分離することによって上澄み液を収得し、IMACキットHisタグ吸着カラム(Bio-Rad Laboratories、米国)が装着された高速タンパク質液体クロマトグラフィー(Fast Protein Liquid Chromatography)(Bio-Rad Laboratories、米国)を用いて、上記のように収得された上澄み液から過剰発現された配列番号1のアミノ酸配列を有する融合タンパク質を分離した。
【0070】
実施例2.融合タンパク質-siRNA複合体の製造
【0071】
5’-GGG AUA UUA AUA CUA CUU CAG UAC AA(DNA)-3’(配列番号17)の配列を有するセンス鎖と、5’-UGU ACU GAA GUA UUA AUA UCC CCG-3’(配列番号18)の配列を有するアンチセンス鎖のsiRNA(CD47 siRNA)を使用し、これは、mbiotech(IDT korea、Gyeonggi、South korea)に依頼して購入した。前記配列番号17において、26番目と27番目の塩基配列はDNAである。
【0072】
前記siRNAと融合タンパク質(実施例1)の複合体が形成されるために、前記収得したsiRNAセンス鎖の3’末端にマレイミドを導入し、具体的には、前記siRNAとマレイミド-NHSをpH8.3、0.1MのHEPES緩衝液下で4時間にわたって反応させ、NAPカラムでsiRNAのみを精製した後で凍結乾燥した。
【0073】
HEPES緩衝液(pH7.4)の存在下で、前記実施例1から製造された融合タンパク質に、前記マレイミドが導入されたsiRNAを1:1のモル比で添加した後、反応が完了すると、30kアミコンチューブを使用して精製することによって融合タンパク質-siRNA複合体を製造した。
【0074】
前記siRNAに導入されたマレイミドと、前記融合タンパク質の末端に存在するシステインのチオール基とが1:1で結合され、融合タンパク質-siRNA複合体を形成する。前記融合タンパク質-siRNA複合体は、NAP-10カラムを用いて精製した後で凍結乾燥した。
【0075】
試験例1.融合タンパク質(SIRPα-linker)の発現確認
【0076】
実施例1で製造された、選別された形質転換体からコロニーを抽出し、前記表1のプライマーを使用してPCRを行った。これから収得したPCR産物に対してゲルイメージングシステム(Geldoc-it 300、UVP、CA、USA)で測定した。確認されたバンドは、約400bpで入れた遺伝子配列のバンドと一致することを確認した。
【0077】
また、実施例1から分離・精製した融合タンパク質を、SDS-PAGE用バッファー(0.5M Tris-[0113]HCl(pH6.8)、10%のグリセロール、5%のSDS、5%のβ-メルカプトエタノール、0.25%のブロモフェノールブルー)に希釈し、100℃で15分間沸かして変形させた後、15%のSDS-PAGEゲルで電気泳動した。
【0078】
図3は、実施例1で製造された、選別された形質転換体からDNAを分離し、PCRを行い、ゲルイメージングシステム(Gel documentation)で分析した結果を示し、これにより、形質転換体に正常に融合タンパク質を暗号化する遺伝子が挿入されたことを確認した。
【0079】
図4は、実施例1から分離・精製した融合タンパク質のSDS-PAGEで確認した結果を示し、1レーンは、発現ベクターを入れていない対照群に対する結果で、2レーンは、融合タンパク質(SIRPα-linker)に対する結果である。これにより、融合タンパク質が発現ベクターによって正常に発現されることを確認した。
【0080】
試験例2.融合タンパク質-siRNA複合体の合成確認
【0081】
融合タンパク質-siRNA複合体が実施例2から正常に合成されたかどうかを確認しようとした。
【0082】
図5は、実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体の結合を、6X DNAゲルローディングダイ(gel loading dye)(Thermo Scientific、MA、USA)を通じて染色した後、1%のアガロースゲルにローディングして確認した。1レーンは、CD47 siRNAを対照群とした結果で、2レーンは、融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-Cd47sirna)に対する結果である。これにより、融合タンパク質-siRNA複合体が正常に形成されたことを確認した。
【0083】
試験例3.融合タンパク質-siRNA複合体の酵素特異性分析
【0084】
実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体が、意図したとおりにリソソーム内の分解酵素によって切断されるかどうかを確認しようとした。まず、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体をパパイン(papain)酵素で処理し、常温で10分間酵素反応させた後、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー;high-performance liquid chromatography)を行った。
【0085】
HPLC用試料は、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体を30Kアミコンチューブ(Merck Millipore、MS、USA)で精製及び濃縮して収得した。前記試料をc-18カラム(Xbridge C18、Waters、MS、USA)に加えて吸着させ、0.1%のTFA/ACN溶液、5%乃至95%の濃度勾配溶液で30分間溶出させ、HPLC(Agilent Technologies、CA、USA)で分析した。対照群として、パパイン酵素で処理していない実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体を使用した。
【0086】
図6は、実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体をHPLCで分析した結果を示す図で、図7は、実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体をパパイン酵素で処理した後、HPLCで分析した結果を示す図である。
【0087】
図6及び図7に示したように、実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体であるときには検出されないが、パパイン酵素で処理した後にはSIRPαタンパク質が検出された。これを通じて、パパイン酵素によって実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体内に存在するリンカーペプチドが分解され、SIRPαタンパク質が分離されることが分かる。
【0088】
試験例4.融合タンパク質-siRNA複合体の細胞内伝達能の検証
【0089】
生体外で(In vitro)、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体が細胞内に効果的に摂取されるかどうかを確認しようとした。まず、ヒト由来大腸癌細胞であるHT-29細胞を35mmのカバーガラスボトムディッシュに2x10個ずつ分注した。これに、SIRPαタンパク質(SIRPα)、CD47 siRNA、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-Cd47 siRNA)をそれぞれ投与し、37℃で一日中培養した。前記細胞にtoto3染色薬を使用し、CD47 SiRNAを赤色に染色した。次に、前記細胞に実施例2から分離・精製した融合タンパク質-siRNA複合体を100pmol/mlの濃度で処理し、4時間にわたって二酸化炭素培養器によって37℃で培養した。その後、前記細胞を固定液で処理し、FITCが付いたHis-タグ抗体を使用し、SIRPαタンパク質を緑色に染色した。これに、4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4’,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)溶液で10分間処理することによって細胞の核を染色し、これらのそれぞれの蛍光を共焦点顕微鏡で測定した。
【0090】
比較例では、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体とCD47抗体(Ab)とを混合した混合液を使用した。
【0091】
図8は、HT-29細胞での実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体の挙動を確認するための共焦点顕微鏡の分析結果を示す図である。図面において、青色は細胞の核を示し、赤色はCD47 siRNAを示し、緑色はSIRPαタンパク質を示す。
【0092】
図8に示したように、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体は、細胞内に十分に吸収されることを確認した。その一方で、CD47 siRNAが単独で使用される場合は、細胞内に全く吸収されないことを確認した。
【0093】
また、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体をCD47抗体と共に処理する場合、細胞内に吸収される量が著しく低下することが分かる。これを通じて、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体が、CD47受容体に結合しながら細胞内に陥入されることが分かる。
【0094】
すなわち、生体外(in vitro)実験を通じて、本発明に係る実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体は、癌細胞の表面に存在する受容体に特異的に結合すると同時に、効果的に癌細胞内に吸収され、CD47受容体と結合しながら癌細胞の免疫回避メカニズムを抑制することを確認した。
【0095】
試験例5.HPRTとCD47遺伝子の沈黙効果確認
【0096】
実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体がHPRTとCD47遺伝子(gene)に対して沈黙効果を有するかどうかを確認しようとした。
【0097】
ネズミの大腸癌細胞であるCT26.CL25を無血清培地に分注し、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体を投与した後で4時間にわたって培養した。前記培養液を除去した後、血清培地に変えてから2日間さらに培養した。培養が完了した細胞を回収し、RNA抽出キット(Rneasy Plus mini kit、Qiagen、Mettmann、Germany)を用いてRNAを分離した。前記分離されたRNAに対して、HPRT遺伝子プライマー(F:GGC TAT AAG TTC TTT GCT GAC CTG C、R:GCT TGC AAC CTT AAC CAT TTT GGG)とCD47遺伝子プライマー(F:AGG AGA AAA GCC CGT GAA G、R:TGG CAA TGG TGA AAG AGG TC)を用いてRT-PCRを行った。前記増幅されたPCRから1μgを採取し、GoScript逆転写システム(reverse transcription system)を用いてcDNA合成を行った。前記合成されたcDNAは、1%のアガロースゲルで分離し、遺伝子染色検出(gene stain detection)溶液を用いてイメージ装備で観察した。
【0098】
本実験では、細胞レベルでHPRTとCD47遺伝子の沈黙効果を検証するために、何ら処理もしていないPBS群、単独siRNAのみを処理した群、スクランブル(Scramble)RNAを処理した群、Lipoタンパク質とsiRNAの複合体(比較例1)を処理した群、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を投与した群(-)、及び実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)とCD47抗体(Ab)を共に投与した群(+)に分けて実験した。
【0099】
図9は、癌細胞(CT26.CL25)に、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を始めとした多様な試料をそれぞれ処理した後、HPRT遺伝子発現の沈黙効果を測定した結果を示す。これにより、HPRT遺伝子の発現量には変化がほとんど表れないことが分かる。
【0100】
図10は、癌細胞(CT26.CL25)に、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を始めとした多様な試料をそれぞれ処理した後、CD47遺伝子発現の沈黙効果を測定した結果を示す。これにより、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)は、リポフェクタミン(lipofectamine)-siRNA複合体と類似するレベルでCD47遺伝子発現を減少させることを確認した。
【0101】
その一方で、CD47抗体が共に投与された群(+)や、siRNA単独で処理された群では、CD47遺伝子発現が減少しないことを確認した。
【0102】
すなわち、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)は、CD47遺伝子の発現を減少させるのに効果的であることを確認した。
【0103】
試験例6.細胞内毒性の確認
【0104】
実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)の細胞内毒性を確認しようとした。このために、ネズミの大腸癌細胞(CT26.CL25)に、0nM、50nM、100nM、200nM、400nM、800nMの濃度で実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)と比較例1のLipo-CD47 siRNA複合体をそれぞれ処理した後、72時間にわたって培養した。次に、CCK-8(cell counting kit-8)を用いて分析した。
【0105】
図11は、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)と比較例1のLipo-CD47 siRNA複合体の細胞毒性をCCK-8を通じて評価した結果を示す。これにより、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を高濃度(800nM)で処理した場合にも、80%以上の細胞生存率(cell viability、%)を維持していることを確認した。
【0106】
その一方で、比較例1のLipo-CD47 siRNA複合体は、200nMの濃度で毒性を示すことが確認された。
【0107】
試験例7.大食作用増大効果の確認
【0108】
実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)が大食細胞の食作用を増大させることを検証しようとした。
【0109】
まず、CT26.CL25細胞に、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)を200pmol/mlの濃度で処理し、2日間、10%のFBS及び1%の抗真菌性抗生物質(antibiotics antimycotics)を含むRPMI 1640培地(Welgene、Gyeongsan、South Korea)に培養した。培養が完了した後、CT26.CL25細胞をpH rodo(pHrodo Red、Invitrogen、CA、USA)で染色し、これに、実験ネズミ(C57bl/6、オス、6週齢)の骨髓から抽出した大食細胞(Bone marrow-derived macrophage、BMDM)を投与し、これらを共にRPMI 1640培地で3時間にわたって培養した。このとき、前記大食細胞は、Green cell tracker(Thermo Fisher scientific、MS、USA)で染色し、これらのそれぞれの蛍光を蛍光顕微鏡(Nikon、Japan)で測定した。
【0110】
対照群として、何ら処理もしていないSIRPαタンパク質のみを処理した群を使用した。
【0111】
図12は、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47 siRNA)における大食細胞の食作用効果を分析した結果を示す。これにより、実施例2から製造された融合タンパク質-siRNA複合体(SIRPα-CD47
siRNA)は、siRNAを単独で使用したときよりも大食細胞の食作用をさらに向上させることが確認された。
【0112】
上述した結果を通じて、一般的な条件では、本発明に係る融合タンパク質-siRNA複合体は、免疫調節タンパク質SIRPαとsiRNAが細胞に対して毒性を示さない。腫瘍細胞が存在すると、腫瘍細胞の表面に存在する受容体に特異的に反応しながら細胞内に吸収される。細胞内に吸収された融合タンパク質-siRNA複合体は、細胞内に存在する分解酵素によって免疫調節タンパク質SIRPαとsiRNAに容易に分解され、癌細胞の免疫を抑制し、CD47遺伝子の沈黙を誘導すると共に、癌細胞に対する大食細胞の食作用を向上させ、極大化された抗癌効果を誘導することを確認した。また、siRNAの細胞内伝達能力が単独で使用されるときに比べて、細胞内に伝達されるsiRNA量が増大し、CD47遺伝子に対する沈黙効果も向上することが分かる。
【0113】
腫瘍細胞に過剰に存在する免疫調節関連受容体を用いて腫瘍細胞に特異的に伝達するだけでなく、関連メカニズムを抑制することができ、また、これに、同じ受容体を標的化する治療剤を融合させ、二重治療効果を示す新しい二重制御型免疫調節タンパク質標的siRNA合成体に関する。
【0114】
免疫調節機能タンパク質を伝達体として用いることによって、siRNAを癌細胞受容体を介して特異的に伝達するだけでなく、免疫関連受容体の遺伝子を標的化することによって、これを二重で制御する二重制御型siRNAベースの抗癌免疫治療技法である。
【0115】
免疫調節タンパク質にsiRNAを結合し、腫瘍細胞内に入り込みながら自発的にリソソーム内で切断されて活性化されるタンパク質-siRNA複合体を提供する。本発明の免疫調節タンパク質-siRNA複合体は、癌細胞の伝達能力を向上させただけでなく、タンパク質及びsiRNAを通じて免疫防御メカニズムを二重で制御することによって抗癌治療を極大化することができる。
【0116】
前記免疫調節タンパク質-siRNA複合体は、腫瘍細胞で過剰発現する受容体を媒介体として細胞内に吸収され、リソソーム(lysosome)で分解されながら薬効を作動する。これにより、正常細胞の無分別な毒性を減少できるだけでなく、細胞内で効率的にsiRNAが作動し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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