(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】橋梁の床版免震構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20240815BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E01D19/04 101
E01D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020209804
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-12-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年6月8日、令和2年度高速道路料佐研究発表会(大阪)ホームページにおけるプログラムの公開、令和2年7月17日、令和2年度高速道路料佐研究発表会(大阪)における公開、令和2年9月30日、第1回道路・交通工学研究部会における公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】松村 政秀
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155182(JP,A)
【文献】特開2007-211561(JP,A)
【文献】特開2006-266011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0241084(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
E01D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する下部構造間に架設され、前記下部構造上に設置された桁支承に支持された主桁部材と、
前記主桁部材の上面にすべり面を介して載置され、床版支承に水平支持された可動床版からなる床版構造と、
を備えた橋梁に設けられた床版免震構造であって、
前記床版構造への作用地震力を前記すべり面と前記床版支承とで免震支持することを特徴とする橋梁の床版免震構造。
【請求項2】
前記床版構造は、前記可動床版の橋軸方向の両端に、前記主桁部材の両端部から延びた張り出し床部を有し、該張り出し床部で前記床版支承によって支持された請求項1に記載の橋梁の床版免震構造。
【請求項3】
前記床版構造は、さらに前記主桁部材の橋軸方向の両端にそれぞれ位置する固定床版を有し、前記可動床版が前記固定床版間に挟まれた全長にわたり前記主桁部材上に載置され、
前記固定床版は、前記主桁部材上面に載置固定され、
前記可動床版は、橋軸方向の両端部が前記床版支承によって支持された請求項1に記載の橋梁の床版免震構造。
【請求項4】
前記床版構造は、前記主桁部材の全長が前記主桁部材の全長とほぼ等しく、
前記可動床版の橋軸方向の両端部が前記床版支承によって支持された請求項1に記載の橋梁の床版免震構造。
【請求項5】
前記すべり面は、前記主桁部材の上面に取り付けられた一方の摩擦板と、前記可動床版の底面に取り付けられた他方の摩擦板との間に形成された接触摩擦面である請求項1に記載の橋梁の床版免震構造。
【請求項6】
前記接触摩擦面は、ステンレス鋼板とポリテトラフルオロエチレン樹脂板との間に形成された請求項5に記載の橋梁の床版免震構造。
【請求項7】
前記床版支承は、復元力を有する支承である請求項1に記載の橋梁の床版免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁の床版免震構造に係り、新設橋梁において、橋梁の床版と桁上面との間にすべり面を形成して床版を可動化し、可動化した床版を地震時に水平支持することにより、橋梁上部構造における耐震性能を向上させるとともに、既設橋梁の上部構造の更新においても橋梁免震構造化を低コストで実現することができる橋梁の床版免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁において免震構造を導入する場合、上部構造と下部構造の接続位置である支承位置に、免震ゴム支承、すべり支承、球面すべり支承等を単独で、あるいは組み合わせて構成された免震装置が組み込まれた免震支承が採用されている(特許文献1)。
たとえば、特許文献1には、すべり構造を併せ持つ従来のゴム支承に比べて耐震性能、支承部材の耐久性を向上させたゴム支承からなる免震支承が開示されている。このゴム支承は、支承内部にノックオフ部材を内蔵し、供用時に発生する交通振動等の各種の振動に対してすべり支承が応答して変位するのを押さえることができるため、すべり部材の摩耗等を防止することができる。
【0003】
ところで、既存橋梁において、その長寿命化、耐久性向上を図るために、例えば、耐久性能の低下が顕著な老朽化した鉄筋コンクリート床版や鋼桁の補修や取替等の各種の更新工事が行われている。このタイミングで床版の一部に免震構造を組み込むことで工期短縮やコスト縮減が可能となる。この先行類似技術の一例として特許文献2に開示された既存橋梁の免震化工法がある。この免震化工法では、既存支承を改良してすべり支承にするとともに、すべり支承近傍の上部構造と下部構造との間に免震装置を増設するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-20604号公報
【文献】特許第3025177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された免震支承も、橋梁の長大化や重量増加に伴って大型化する必要がある。このため、免震支承に組み込まれる免震装置、免震構造の大型化も求められ、下部構造や基礎構造の大型化につながる場合もあり、工事費の増加が見込まれる。
【0006】
また、鋼桁橋において長大化に対応可能な免震支承を導入した場合、鋼桁上部構造は、鉄筋コンクリート橋やプレストレストコンクリート橋に比べ、比較的剛性が小さいため、床版を支持する鋼桁自体が振動しやすくなり、それが経年による疲労損傷の発生の要因にもなり、上部構造の損傷を招きやすいという問題があった。
【0007】
このような状況に対して、地震時における鋼桁橋の挙動の検討によれば、比較的剛性の低い鋼桁橋では、上部構造全体を支持する免震ゴム支承を用いなくても上部構造の一部の免震化を図ることで、上部構造全体の応答低減を期待できる可能性があることが確認されている。そこで、上部構造の鋼桁や支承の損傷を低減する免震層を、上部構造を支持する下部構造上面の支承位置ではなく、上部構造としての床版を可動とし、地震時に床版を水平支持させるようにした免震支持機能を持たせて設けることが可能でかつ有効であるとの知見を得た。
【0008】
このような面的な免震支持機能を、上述したような橋梁更新工事において敷設される床版部分に免震構造を付加することで、橋梁上部構造の揺れおよび地震時応答の低減が図れるようにすれば、特許文献2に係る発明のように、既存の桁支承に免震装置を付加したり、既存の支承を免震支承へ取り替えることも不要となる。
【0009】
また、床版取替等の橋梁更新工事が、橋台上あるいは橋梁上面から施工できれば、特許文献2に開示されたような橋脚上部での高所作業も回避でき、安全な工事によって橋梁の耐震性能と耐久性能をともに向上できる。
【0010】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、橋梁新設工事において、橋梁上部構造、特に床版の免震化を図り、また床版の免震化を既存床版の更新工事にあわせて行うことで、新設橋梁、既存橋梁の耐震性、耐久性向上を安全かつ低コストで実現するようにした橋梁の床版免震構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の橋梁の床版免震構造は、対向する下部構造間に架設され、前記下部構造上に設置された桁支承に支持された主桁部材と、前記主桁部材の上面にすべり面を介して載置され、床版支承に水平支持された可動床版からなる床版構造とを備えた橋梁に設けられた床版免震構造であって、前記床版構造への作用地震力を前記すべり面と前記床版支承とで免震支持することを特徴とする。
【0012】
前記床版構造は、前記可動床版の橋軸方向の両端に、前記主桁部材の両端部から延びた張り出し床部を有し、該張り出し床部で前記床版支承によって支持されたことが好ましい。
【0013】
前記床版構造は、さらに前記主桁部材の橋軸方向の両端にそれぞれ位置する固定床版を有し、前記可動床版が前記固定床版間に挟まれた全長にわたり前記主桁部材上に載置され、前記固定床版は、前記主桁部材上面に載置固定され、前記可動床版は、橋軸方向の両端部が前記床版支承によって支持されたことが好ましい。
【0014】
前記床版構造は、前記主桁部材の全長が前記主桁部材の全長とほぼ等しく、前記可動床版の橋軸方向の両端部が前記床版支承によって支持されたことが好ましい。
【0015】
前記すべり面は、前記主桁部材の上面に取り付けられた一方の摩擦板と、前記可動床版の底面に取り付けられた他方の摩擦板との間に形成された接触摩擦面であることが好ましい。
【0016】
前記接触摩擦面は、ステンレス鋼板とポリテトラフルオロエチレン樹脂板との間に形成されたことが好ましい。
【0017】
前記床版支承は、復元力を有する支承であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の橋梁の床版免震構造の第1実施形態が組み込まれた単径間鋼桁橋(以下、鋼桁橋)の全体形状を示した全体斜視図。
【
図2】
図1に示した鋼桁橋の全体形状を示した側面図(a)、平面図(b)、床版下面図(c)。
【
図3】
図1に示した鋼桁橋桁端の床版の一部を切欠いて各支承部分の構成を示した部分斜視図。
【
図4】
図1に示した鋼桁橋桁端の各支承部分の構成を示した部分側面図。
【
図5】
図1に示した実施形態の変形例としての各支承部分の構成を示した部分側面図。
【
図6】
図5に示した鋼桁橋の橋軸直角方向の各部材の配置例を、IV-IV断面線に沿って示した部分断面図。
【
図7】本発明の橋梁の床版免震構造の第2実施形態が組み込まれた鋼桁橋の全体形状を示した全体斜視図。
【
図8】
図7に示した鋼桁橋の全体形状を示した側面図(a)、平面図(b)、床版下面図(c)。
【
図9】
図7に示した鋼桁橋桁端の床版の一部を切欠いて各支承部分の構成を示した部分斜視図。
【
図10】
図7に示した鋼桁橋桁端の各支承部分の構成を示した部分側面図。
【
図11】本発明の橋梁の床版免震構造の第3実施形態が組み込まれた鋼桁橋の全体形状を示した全体斜視図。
【
図12】
図11に示した鋼桁橋の全体形状を示した側面図(a)、平面図(b)、床版下面図(c)。
【
図13】
図11に示した鋼桁橋桁端の床版の一部を切欠いて各支承部分の構成を示した部分斜視図。
【
図14】
図11に示した鋼桁橋桁端の各支承部分の構成を示した部分側面図。
【
図15】
図14に示した各支承部分の変形例の構成を示した部分側面図。
【
図16】床版取替工事における床版構造の免震化の作業工程を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の橋梁の床版免震構造の第1~3実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各実施形態では、説明の簡単化のために単径間の鋼桁橋を例として示しているが、本発明は連続径間の橋梁にも適用可能なことは言うまでもない。
[第1実施形態の床版免震構造]
図1は、本発明の第1実施形態による橋梁の床版免震構造が組み込まれた単径間からなる鋼桁橋の全体形状を示している。
図2(a)は、鋼桁橋1の側面の全体形状を示し、
図2(b)は、主桁10と橋台2の支承座面3上の各支承4,40の平面配置例を示し、
図2(c)は、プレキャストコンクリート製床版20(以下、PCa床版20と記す。)の下面の構成を示している。
図3は、以下で詳述する主桁10の端部およびPCa床版20の端部での支持状態を拡大して示している。なお、各添付図面において、発明の特徴に直接影響のない、各種の横架部材、補剛部材、付属構造物としての防護柵、高欄等、下部構造の一部の図示を省略している。
【0020】
(主桁支持構造(桁支承)の構成)
本実施形態の鋼桁橋1では、
図2(b)に示したように、対向する橋台2間に4本の主桁10(
図3には3本の主桁10の端部が示されている。)が並列して架設され、橋梁の主構造となっている。各主桁10の両端は、主桁支持構造として、橋台2の支承座面3に設置された、桁支承としての水平力分散ゴム支承4によりそれぞれ独立して支持されている。この桁支承は、常時における上部構造荷重を支持する公知の支承構造であり、橋梁の構造形式に応じて、公知の各種の支承構造を採用できる。たとえば、実施形態における水平力分散ゴム支承4以外に、固定ゴム支承、可動ゴム支承の組み合わせ、ピン支承、ローラー支承の組み合わせ等を適宜採用できる。
【0021】
さらに主桁上フランジ上面11には、
図2(a)、(c)に示したように、主桁10の桁長より長い全長を有するPCa床版20が、主桁10の両端部からその一部を張り出すようにして載置されている。PCa床版20の両端部は、橋台2のパラペット5近傍まで延在し、伸縮装置6(エクスパンションジョイント)を介して橋台2のパラペット5側に連接されている。
【0022】
本実施形態のPCa床版20は、工場製造時に橋軸直角方向に所定のプレストレスが導入された、橋軸方向に所定単位寸法で製造された床版ユニットを、公知の接合方法により、構造的に橋軸方向に一体化するように接合、敷設することで構築された版構造体である(
図1、
図2(c))。PCa床版20は、本発明においては、後述するすべり面を介して主桁上面に敷設される免震機構を備えた可動床版として機能する。
【0023】
(床版-主桁間のすべり面の構成)
従来のPCa床版は、主桁上に設置され、主桁との一体化を図るために主桁上フランジ上面に配設された所定本数のスタッドジベルを介して主桁と構造的な一体化が図られる。これに対して、本発明ではPCa床版20と主桁上フランジ上面11間の全面にわたり、免震機構としてのすべり面を構成するすべり支承30が設けられている。本実施形態におけるすべり支承30には、接触すべり面を構成する一方の摩擦板としてのステンレス鋼板31(一例としてSUS316)と、他方の摩擦板としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂(以下、フッ素樹脂と記す。)板32とが用いられている。本実施の形態では、PCa床版の底面側(
図2(a)、(c)、
図3)に桁長にほぼ等しい長さの4列の細長い帯板状のステンレス鋼板31が取り付けられ、他方ステンレス鋼板31に相対する位置の各主桁10(鋼桁)の上フランジ上面に、そのほぼ全長にわたり細長い帯板状のフッ素樹脂板32が台座プレート33(一例として
図6参照)を介して取り付けられている(
図2(a)~(c)、
図3)。なお、ステンレス鋼板31、フッ素樹脂板32を取り付ける対象(床版底面21側、主桁上フランジ上面11側)が逆であってもよい。なお、
図2(c)には桁側のすべり支承30と床版支承40の位置が破線で示されている。
【0024】
常時に床版荷重、交通荷重等を受ける主桁上フランジ上面11側のフッ素樹脂板32には潤滑性、耐摩耗性、耐久性を向上させるために、フッ素樹脂単体板以外に、ポリアミド樹脂含浸板や、二硫化モリブデン充填、グラスファイバー、カーボンファイバー充填板等を用いることも好ましい。
【0025】
(床版支承の構成)
PCa床版20の橋軸方向の両端部は、
図2(a)、(b)、
図3、
図4に示したように、それぞれ橋軸方向に2基、橋軸直角方向に2基が並んだ4基の床版支承40で支持されている。これらの床版支承40は、上述した床版と主桁上フランジ上面11との間に位置するすべり支承30とともに、地震時の床版へ作用する水平荷重を支持する。各床版支承40は、たとえば
図4に示したように、橋台2の支承座面3から主桁10上に位置する床版下面21までの高さを有する。このため、本実施形態ではこの高さを確保するために支承座面3上に据え付けられた台座ブロック41上に公知の水平力分散ゴム支承42を設置固定し、さらにゴム支承42上に高さ調整ブロック43を積み上げた構造となっている。なお、床版支承40の設置数、その配列は床版重量、寸法、構造等に応じて適宜決定できることはいうまでもない。
【0026】
台座ブロック41及び高さ調整ブロック43は、本実施形態では鉄筋コンクリート製の円柱構造からなるが、それぞれのブロックの寸法形状、特に高さは、橋台2の支承座面3から床版下面までのクリアランス(高さ)、ゴム支承42の構造高さを考慮して適宜設定することができる。このとき台座ブロック41は、地震時に発生する水平せん断力を、ゴム支承42に確実に伝達し、ゴム支承42が十分に変形して対応可能な程度に剛性を有するように、その外形寸法および内部配筋を決定することが好ましい。なお、
図15各図を参照して後述するように、支承座面3上でゴム支承42を支持する部材、構造は、円柱構造の台座ブロック41に限られず、橋台2の一部を、十分剛性を有するブラケット状に拡幅し、そのブラケット48上にゴム支承42を設置して床版端部22の支持機能を確保することも好ましい。
【0027】
本実施形態では、さらに、
図2(b)、
図3に示したように、支承座面3上に設置された4基の床版支承40を囲むように、背面側のパラペット5を含むように鉄筋コンクリート壁46が構築され、この鉄筋コンクリート壁46で囲まれ、床版端部22で上面が覆われた空間が、内部に設置された床版支承40の維持点検エリア45として用いられている。この維持点検エリア45の高さは主桁10の桁高にもよるが、エリア45内で作業者が立って点検作業等を行える程度とすることができる。
【0028】
図5は、本実施形態の桁端支承部分の変形例を示している。
図1に示した橋梁では、一方の床版端部22を4基の床版支承40で支持していたが、この変形例は径間が小さく、主桁高さが小さい橋梁を想定している。このため、一方の床版端部22を2基の床版支承40で支持することができる。またスペースの制約から維持点検エリアも設けていない。構造上の特徴として地震時に床版支承40と床版-桁間のすべり支承30とが機能する際のトリガーとして、床版支承40の近傍にノックオフ部材50が併設されている。このノックオフ部材50には、たとえば一部に弱部を形成した鋼製ピン等、公知の各種の構造形式の部材を用いることができる。さらに、地震時の主桁10、床版の橋軸方向、橋軸直角方向の変位量を規制する落橋防止装置51,52が支承座面3上に設置されている。これらの落橋防止装置51,52としては、鉄筋コンクリート構造、形鋼材、鋼線ケーブル等、公知の構造、装置を採用することができる。
【0029】
図6は、
図5中のIV-IV断面線に沿って、鋼桁橋1の橋軸直角方向の各部材の配置例を示している。同図に示したように、床版底面21にはステンレス鋼板31が取り付けられている。一方、床版を支持する各主桁10の上面にはすべり支承30としてのフッ素樹脂板32が支持部材としての台座プレート33に取り付けられ、台座プレート33が図示しない固定ボルト等により主桁上フランジ上面11に取り付けられる。
【0030】
[第2実施形態の床版免震構造]
第2実施形態の床版免震構造は、免震機構を備えた可動床版20Mと、主桁端部22に固定された固定床版20Fとから構成されている。以下、第2実施形態に係る床版免震構造の構成について、添付図面を参照して説明する。
【0031】
図7は、本発明の第2実施形態による橋梁の床版免震構造が組み込まれた単径間の鋼桁橋1の全体形状を示している。
図8(a)は、鋼桁橋1の側面の全体形状を示し、
図8(b)は、主桁10と橋台2上の各支承の平面配置例を示し、
図8(c)は、PCa床版20の下面の構成を示している。
図9は、以下詳述する主桁10およびPCa床版20の支承部分を拡大して示している。
【0032】
(主桁支持構造の構成)
本実施形態の鋼桁橋1も第1実施形態と同じく、
図8(b)に示したように、対向する橋台2間に4本の主桁10(
図9には3本の主桁10の端部が示されている。)が並列して架設されて構成された鋼桁橋1である。各主桁10は、両端が橋台2の背面側のパラペット5近傍まで延在する程度の桁長を有する。
【0033】
主桁支持構造も第1実施形態と同じく、橋台2の支承座面3に設置された水平力分散ゴム支承4によりそれぞれ独立して支持されている。主桁支持構造は、常時における主桁荷重を支持する公知の支承構造であり、橋梁の構造形式に応じて、公知の各種の支承構造を採用できる。
【0034】
さらに主桁上フランジ上面11には、
図8(a)、(c)に示したように、PCa床版20が設置されている。主桁10上のPCa床版20は、主桁10の橋軸方向の両端部において主桁10上に固定された固定床版20Fと、主桁10の両端に位置する固定床版20Fに挟まれた全長にわたって設置された可動床版20Mとから構成されている。固定床版20Fの橋軸方向の両端は、伸縮装置6を介して橋台2のパラペット5側に連接され、所定の橋長が確保されている。
【0035】
(床版-主桁間のすべり面の構成)
本実施形態では、可動床版20Mの下面全長と、可動床版20Mが載置される範囲の主桁上フランジ上面11との間に、免震機構としてのすべり面を構成するすべり支承30が設けられている。本実施形態におけるすべり支承30は第1実施形態と同じく、すべり面が、ステンレス鋼板31とフッ素樹脂板32とから構成され、本実施の形態でもPCa床版20の底面21側(
図8(a)、(c)、
図9)に、床版の橋軸方向長にほぼ等しい長さの4列のステンレス鋼板31が取り付けられ、他方ステンレス鋼板31に相対する位置の各主桁10(鋼桁)の上フランジ上面11の床版長に等しい範囲にわたりフッ素樹脂板32が台座プレート33(一例として
図6と同じく)を介して敷設されている(
図8(a)、(b)、
図9)。
【0036】
フッ素樹脂板32には第1実施形態と同じく、フッ素樹脂単体板以外に、ポリアミド樹脂含浸板や、二硫化モリブデン充填、グラスファイバー、カーボンファイバー充填板等を用いることが好ましい。
【0037】
(床版支承の構成)
床版20の橋軸方向の両端部21は、
図8(a)、(b)、
図9、
図10に示したように、橋軸直角方向に所定間隔をあけて載置された主桁10の間に設置された3基の床版支承40で支持されている。個々の床版支承40の構成は、第1実施形態における床版支承40と同一である。
【0038】
[第3実施形態の床版免震構造]
第3実施形態の床版免震構造は、主桁10上の床版20が、免震機構を備えた可動床版20Mのみから構成されている。第3実施形態の床版免震構造によれば、比較的小さい径間の橋梁における経済設計が可能となる。以下、第3実施形態に係る床版免震構造の構成について、添付図面を参照して説明する。
【0039】
図11は、本発明の第3実施形態による橋梁の床版免震構造が組み込まれた単径間の鋼桁橋1の全体形状を示している。
図12(a)は、鋼桁橋1の側面の全体形状を示し、
図12(b)は、主桁10と橋台2上の各支承の平面配置例を示し、
図12(c)は、PCa床版20の下面の構成を示している。
図13は、以下詳述する主桁10およびPCa床版20の支承部分を拡大して示している。
【0040】
(主桁支持構造の構成)
本実施形態の鋼桁橋1も第2実施形態と同じく、
図12(b)に示したように、対向する橋台2間に4本の主桁10(
図13には3本の主桁10の端部が示されている。)が並列して架設されて構成された鋼桁橋1である。各主桁10は、両端が橋台2の背面側のパラペット5近傍まで延在する程度の桁長を有する。
【0041】
主桁支持構造も第2実施形態と同じく、橋台2の支承座面3に設置された水平力分散ゴム支承4によりそれぞれ独立して支持されている。主桁支持構造は、常時における主桁荷重を支持する公知の支承構造であり、橋梁の構造形式に応じて、公知の各種の支承構造を採用できる。
【0042】
さらに主桁上フランジ上面11には、
図12(a)、(c)に示したように、PCa床版20が設置されている。PCa床版20は、床版全長にわたりすべり面が形成された可動床版20Mである。可動床版20Mの橋軸方向の両端は、伸縮装置6を介して橋台2のパラペット5側に連接され、床版長と橋長とがほぼ等しい橋梁となっている。
【0043】
(床版-主桁間のすべり面の構成)
本実施形態においても、第2実施形態と同様に、可動床版20Mの下面全長と、可動床版20Mが載置される主桁上フランジ上面11との間に、免震機構としてのすべり面を構成するすべり支承30が設けられている。本実施形態におけるすべり支承30も第1,2実施形態と同じく、すべり面がステンレス鋼板31とフッ素樹脂板32とから構成され、本実施の形態でもPCa床版20の底面21側(
図12(a)、(c)、
図13)に、床版の橋軸方向長にほぼ等しい長さの4列のステンレス鋼板31が取り付けられ、他方ステンレス鋼板31に相対する位置の各主桁10(鋼桁)の上フランジ上面11の床版長に等しい範囲にわたりフッ素樹脂板32が台座プレート33(一例として
図6と同じく)を介して敷設されている(
図12(a)、(b)、
図13)。
【0044】
フッ素樹脂板32には第1、2実施形態と同じく、フッ素樹脂単体板以外に、ポリアミド樹脂含浸板や、二硫化モリブデン充填、グラスファイバー、カーボンファイバー充填板等を用いることが好ましい。
【0045】
(床版支承の構成)
床版20の橋軸方向の両端部21は、
図12(a)、(b)、
図13、
図14に示したように、橋軸直角方向に所定間隔をあけて載置された主桁10の桁端の横桁15より外側(パラペット5側)位置の各主桁10の間に設置された3基の床版支承40で支持されている。個々の床版支承40の構成は、第1、2実施形態における床版支承40と同一である。
(床版支承の支持構造)
【0046】
図15各図は、第2実施形態における床版支承40の支持構造の変形例を示している。
図15(a)に示した床版支承40は、上面にゴム支承42が載置固定される鉄筋コンクリート製のブラケット48からなり、橋台2のパラペット5の構築時にパラペット5と構造的に一体となる鉄筋コンクリート構造として構築される。この例では、ゴム支承42は直接床版端部21を支持するため、床版20のすべり変位が直接入力されて免震機能が発揮される。
【0047】
図15(b)に示した床版支承40は、ゴム支承42が橋台2の支承座面3上に直接載置固定され、ゴム支承42上に取り付けられたプレキャストコンクリート製の支持プレート49を介して床版端部21が支持されている。この例では、ゴム支承42が剛性の高い橋台2上に直接載置固定されているため、支持プレート49を介して入力される床版20のすべり変位に対して、ゴム支承42が適正に応答して免震機能が発揮される。
【0048】
以上の第1~3実施形態の説明では、同一の主桁形状、桁本数の場合における各免震機構、支承構造を備えた単径間鋼桁橋について説明したが、径間数、鋼製主桁の形状、構造、桁本数に関して本発明の特徴が制限されることはない。各実施形態で説明された本発明の特徴を包括的に述べると、すべり面が主桁上面と床版との間(接触面)に形成されることで、床版が免震機構を備えた可動床版となり、この可動床版の免震機構がすべりと水平支持により発現される点にある。
【0049】
[床版免震構造の各支持構造における支持条件適用の検証]
本発明の床版免震構造では、桁支承部分が常時の橋全体の鉛直荷重、供用時の交通荷重等の活荷重、温度荷重等による回転や水平変位を負担する。一方、桁が支持する床版全面あるいは大部分の床版との間にすべり面を設けて可動床版とし、地震時に床版支承で床版を支持するとともに床版へ作用する水平力を負担することを特徴としている。この場合、各支承における支持条件(構造、種類)を適切に設計することが床版免震構造を確実に機能させるための要素となる。そのために、各支承において各種の支持条件を設定した動的解析を行い、各支承においていかなる支持条件が適切であるかを検証した。
【0050】
(解析条件)
解析モデル:橋台上に支持されたバネ-マスモデル
バネki:桁支持、桁床版間、床版支持、マスmi:桁、床版
入力地震波:レベルII地震波
支承条件:弾性支持にゴム支承(分散ゴム支承、免震ゴム支承(HDR))、
すべり支承(摩擦係数μ=0.1)
解析条件・結果:以下の解析条件と得られた解析結果とから、[桁支持-高剛性弾性支持、桁床版間すべり、床版弾性支持]の支持条件において、床版免震構造全体での応答低減が最も得られることが認められた。
条件1[すべての支持構造-弾性支持]
×:床版が弾性支持され、桁床版間でエネルギー吸収がないため床版変形大。
条件2[桁支持-高剛性弾性支持、桁床版間、床版弾性支持]
×:床版が弾性支持され、桁床版間でエネルギー吸収がないため床版変形大。桁支承の反力増加
条件3[桁支持-高剛性弾性支持、桁床版間すべり、床版弾性支持]
○:桁床版間でエネルギー吸収あり。モデル全体としての応答低減。
条件4[桁支持-高剛性弾性支持、桁床版間すべり支承、床版HDR支持]
△:桁床版間にすべり生じないため桁支承の変位、反力増加→橋台の負担増
【0051】
[床版取替工事における床版免震構造化]
本発明の床版免震構造は、新設橋梁の設計段階において、可動床版等各部に所定の免震機構を備えることで実現することができることは言うまでもないが、既設橋梁の上部構造の更新工事における床版取替工事において本発明を適用することは、工事コスト面、更新後の構造面において有効である。以下、本発明の床版免震構造を、床版取替工事において導入する各作業の工程について、
図16のフローチャート、
図2各図他を参照して簡述する。
まず撤去工として、既存の鋼桁(主桁10)の上フランジ上面11に多数のジベル(図示せず)を介して一体固定されている既存の鉄筋コンクリート床版(図示せず)を撤去する。床版が撤去された鋼桁の上フランジ上面には床版コンクリート内に埋設されていたジベルが残存している。そこで、上面処理として、残存するジベルを溶断、除去してフランジ上面11を平滑化する。支承敷設工として、平滑化されたフランジ上面に、フッ素樹脂板32が取り付けられた台座プレート33(たとえば
図6)を、固定ボルト(図示せず)で取付固定して、フランジ上面11の橋軸方向の全長にわたってすべり支承30を敷設する。
【0052】
次いで、床版敷設工として、すべり支承30が敷設された桁上フランジ上面11に、下面にステンレス鋼板31が取り付けられた、完成時に版構造のPCa床版20となる床版ユニット(図示せず)を、橋軸方向に沿って敷き詰めるように敷設する。次いで、橋台2上の鋼桁端近傍に床版端部22を支持する床版支承40を設置する。主桁10上に橋軸方向に連続して並べて敷設された床版ユニットの間を床版の全長にわたり接合し、床版端部22を床版支承40上に支持させて一体化した床版構造を構築する。同時に床版下面21のすべり面(ステンレス鋼板31)も床版20と一体化させる。これにより、桁上フランジ上面11に載置されたPCa床版20の下面21と桁上フランジ上面11との間にすべり支承30が構築される。以上に説明したように、桁支承4は交換することなく、橋梁床版の更新工事に伴う橋梁上部構造の免震化が実現する。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 鋼桁橋
2 橋台
3 支承座面
4 桁支承(ゴム支承)
5 パラペット
6 伸縮装置
10 主桁
11 主桁上フランジ上面
20 プレキャストコンクリート床版(PCa床版)
20M 可動床版
20F 固定床版
21 床版下面
22 床版端部
30 すべり支承
31 ステンレス鋼板
32 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、フッ素樹脂)板
40 床版支承
42 ゴム支承