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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】セットナット及びダブルナット
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/18 20060101AFI20240815BHJP
   F16B 39/34 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
F16B39/18
F16B39/34 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023197210
(22)【出願日】2023-11-21
【審査請求日】2023-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511008713
【氏名又は名称】岡田 泰一
(74)【代理人】
【識別番号】100214581
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰一
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第218377276(CN,U)
【文献】特開2017-036758(JP,A)
【文献】実公昭48-030758(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/12
F16B 39/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの雄螺子部に螺合する雌螺子孔を中心軸に沿って有する下ナット及び上ナットからなり、前記下ナット及び前記上ナットを重ねてそれぞれの雌螺子孔を前記ボルトの雄螺子部にそれぞれ螺合させることにより、前記ボルトからの脱落を防ぐよう構成されたセットナットであって、
前記下ナットでは、
前記雌螺子孔の一方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に突出するとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状突条部が設けられ、
前記環状突条部では、突出方向にある先端の面である先端面に、傾斜が増大する傾斜面及び傾斜が減少する傾斜面によりなされる凹凸である第1凹凸傾斜面が設けられ、
前記上ナットでは、
前記雌螺子孔の他方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に段差状に窪むとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状段差部が設けられ、
当該中心軸は、前記環状突条部及び前記環状段差部の中心軸と一致しており、
前記環状段差部では、窪んだ前記段差状の部位、かつ、前記雌螺子孔と連接する部位の面である天井面に、傾斜が増大する傾斜面及び傾斜が減少する傾斜面によりなされる凹凸である第2凹凸傾斜面が設けられ、
前記環状段差部は、前記環状突条部が前記中心軸に沿う方向に嵌合可能なように前記環状突条部の形状に対応する形状をなしており、
前記第2凹凸傾斜面は、前記第1凹凸傾斜面に対応する形状をなしており、前記螺合させることで、対向する前記第1凹凸傾斜面及び前記第2凹凸傾斜面を摺り上げて前記第1凹凸傾斜面及び前記第2凹凸傾斜面を固定することを特徴とする
セットナット。
【請求項2】
ボルトの雄螺子部に螺合する雌螺子孔を中心軸に沿って有し、2つ重ねてそれぞれの雌螺子孔を前記ボルトの雄螺子部にそれぞれ螺合させることにより、前記ボルトからの脱落を防ぐよう構成された同一形状のナットを2つ重ねたダブルナットであって、
前記雌螺子孔の一方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に突出するとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状突条部が設けられ、
前記環状突条部では、突出方向にある先端の面である先端面に、傾斜が増大する傾斜面及び傾斜が減少する傾斜面によりなされる凹凸である第1凹凸傾斜面が設けられ、
前記雌螺子孔の他方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に段差状に窪むとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状段差部が設けられ、
当該中心軸は、前記環状突条部及び前記環状段差部の中心軸と一致しており、
前記環状段差部では、窪んだ前記段差状の部位、かつ、前記雌螺子孔と連接する部位の面である天井面に、傾斜が増大する傾斜面及び傾斜が減少する傾斜面によりなされる凹凸である第2凹凸傾斜面が設けられ、
前記環状段差部は、前記環状突条部が前記中心軸に沿う方向に嵌合可能なように前記環状突条部の形状に対応する形状をなしており、
前記第2凹凸傾斜面は、前記第1凹凸傾斜面に対応する形状をなしており、前記螺合させることで、対向する前記第1凹凸傾斜面及び前記第2凹凸傾斜面を摺り上げて前記第1凹凸傾斜面及び前記第2凹凸傾斜面を固定することを特徴とする
ダブルナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトとの間において被締結体を締結する際にボルトから緩んで脱落してしまうのを防ぐセットナット及びダブルナットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に構造物や機械部材を強固に固定するために、溶接かボルトナット締めが行われる。しかし、溶接を行い固定した場合は分解修理できないという問題がある。また、ボルトナット締めを行い固定した場合は、分解修理できるものの、稼働中に振動によるナットの緩みが生じてしまい機械部材等に不具合が起こる危険がある。これら原因を除去するためにあらゆる緩み防止のボルトやナットが考案されている。
【0003】
現在多く用いられている代表的な緩み止めナットは、第1ナット及び第2ナットからなるセットナットであり、第1ナット及び第2ナットに凹面及び凸面を挿入し、凸面の軸偏心を利用して凹面の側面に負荷をかけてナットの緩みを防止する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この方式の緩み止めナットでは、凹面ナットの側壁に多くの負荷(圧力)がかかり側壁の変形が生じる場合があり、補強のために凹ナット下部に座金状の円形が付帯される。これはこれとして十分に一般化して利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-006516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるような緩み止めナットでは、軸偏心を利用して凹面の側面に負荷をかけることから、第1ナット及び第2ナットの重心がずれてしまうという問題がある。このような緩み止めナットが軸を中心に高速回転される場合には、凹面の側面に加重がかかり、緩み止めナットの円滑な回転が阻害され、ぶれが発生してしまう。また、特許文献1に開示されるような緩み止めナットでは、軸偏心を利用して凹面の側面に負荷をかけることで第1ナット及び第2ナットを偏心嵌合することから、偏心方向に隙間が生じてしまうという問題もある。このため、このような緩み止めナットの隙間にゴミや水気が入ってしまうおそれがあり、緩み止めナットの材質によっては腐食につながるおそれがある。
【0007】
そこで、発明者は、特許文献1に開示されるような緩み止めナットに勝るとも劣らない緩み止めナットについて長年の検討研究を行い、本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、施工容易なものでありながら、2つ重ねたナットを嵌合しても重心のずれが生じない緩み止めナットであるセットナット及びダブルナットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、ボルトの雄螺子部に螺合する雌螺子孔を中心軸に沿って有する下ナット及び上ナットからなり、前記下ナット及び前記上ナットを重ねてそれぞれの雌螺子孔を前記ボルトの雄螺子部にそれぞれ螺合させることにより、前記ボルトからの脱落を防ぐよう構成されたセットナットにおいて、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、前記下ナットでは、前記雌螺子孔の一方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に突出するとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状突条部が設けられ、前記環状突条部では、突出した部位の面である先端面に、傾斜面によりなされる凹凸である凹凸傾斜面が設けられる。前記上ナットでは、前記雌螺子孔の他方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に段差状に窪むとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状段差部が設けられ、前記環状段差部では、前記段差状に窪み、かつ、前記雌螺子孔と連接する部位の面である天井面に、凹凸傾斜面が設けられる。前記環状段差部は、前記環状突条部が前記中心軸に沿う方向に嵌合可能なように前記環状突条部の形状に対応する形状をなしており、前記天井面に設けられる凹凸傾斜面は、前記先端面に設けられる凹凸傾斜面に対応する形状をなしている。
【0011】
また、上記の目的を達成するために、ボルトの雄螺子部に螺合する雌螺子孔を中心軸に沿って有し、2つ重ねてそれぞれの雌螺子孔を前記ボルトの雄螺子部にそれぞれ螺合させることにより、前記ボルトからの脱落を防ぐよう構成された同一形状のナットを2つ重ねたダブルナットにおいて、次のような解決手段を講じた。
【0012】
すなわち、前記雌螺子孔の一方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に突出するとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状突条部が設けられ、前記環状突条部では、突出した部位の面である先端面に、傾斜面によりなされる凹凸である凹凸傾斜面が設けられる。前記雌螺子孔の他方側の開口周縁に、前記中心軸に沿う方向に段差状に窪むとともに当該中心軸を中心に周方向に延びる環状段差部が設けられ、前記環状段差部では、窪んだ前記段差状の部位、かつ、前記雌螺子孔と連接する部位の面である天井面に、凹凸傾斜面が設けられる。前記環状段差部は、前記環状突条部が前記中心軸に沿う方向に嵌合可能なように前記環状突条部の形状に対応する形状をなしており、前記天井面に設けられる凹凸傾斜面は、前記先端面に設けられる凹凸傾斜面に対応する形状をなしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下ナット及び上ナットからなるセットナットを用意する場合、下ナットの環状突条部の先端面を、上ナットの環状段差部に嵌入させた状態で各ナットの雌螺子孔をボルトの雄螺子部に螺合させることで、下ナットの先端面及び上ナットの先端面すなわち互いの凹凸傾斜面が摺り上がり、互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定されるようになる。
【0014】
また、同一形状の2つのナットからなるダブルナットを用意する場合、一方のナットの環状突条部の先端面を、他方のナットの環状段差部に嵌入させた状態で各ナットの雌螺子孔をボルトの雄螺子部に螺合させることで、下ナットの先端面及び上ナットの先端面すなわち対向する互いの凹凸傾斜面が摺り上がり、互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定されるようになる。
【0015】
このように、セットナット及びダブルナットは、被締結体及びボルトを介して上下に負荷(圧力)がかかることで固定され、偏心嵌合での固定でないため左右(側面)には負荷がかからない。
【0016】
これにより、セットナット及びダブルナットは、固定された状態においても2つのナットの重心は一致する(重心はずれない)。また、固定された状態においても2つのナットの間で隙間を生じさせない。
【0017】
さらに、セットナット及びダブルナットでは、下ナットまたは一方のナットの環状突条部の先端面を、上ナットまたは他方のナットの環状段差部に嵌入させた状態でボルトを介して被締結体を挟んだ上で各ナットの雌螺子孔をボルトの雄螺子部に螺合させるだけで固定できるので、容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態1に係る凹ナットを下方から見た斜視図である。
図2】本発明の実施形態1に係る凸ナットを上方から見た斜視図である。
図3図1に示す凹ナットの正面図である。
図4図1に示す凹ナットの底面図である。
図5図2に示す凸ナットの正面図である。
図6図2に示す凸ナットの平面図である。
図7】本発明の実施形態1に係るセットナットとボルトとの間に被締結体を締結した状態を示す一部断面が表示された正面図である。
図8】本発明の実施形態2に係るダブルナットを構成するナットを上方から見た斜視図である。
図9】本発明の実施形態2に係るダブルナットを構成するナットを下方から見た斜視図である。
図10図8に示すナットの正面図である。
図11図8に示すナットの平面図である。
図12図8に示すナットの底面図である。
図13図8に示すナットの左側面図である。
図14】本発明の実施形態2に係るダブルナットとボルトとの間に被締結体を締結した状態を示す正面図である。
図15】本発明の実施形態2に係るダブルナットとボルトとの間に被締結体を締結した状態を示す一部断面が表示された正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係るセットナット及びダブルナットを詳細に説明する。ただし、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。つまり、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、以下の実施形態においては、各構成要素の縮尺、寸法等が誇張或いは矮小化されて示されている場合、及び一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0020】
また、以下の図面は模式的なものであり、説明の都合上、一部の構成等が省略される場合がある。また、一つまたは複数の実施形態について共通する部分には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
[実施形態1]
【0021】
図1は、本発明の実施形態1に係る凹ナット1Bを下方から見た斜視図である。図2は、本発明の実施形態1に係る凸ナット1Aを上方から見た斜視図である。図3は、図1に示す凹ナット1Bの正面図であり、図4は、図1に示す凹ナット1Bの底面図である。図5は、図2に示す凸ナット1Aの正面図であり、図6は、図2に示す凸ナット1Aの平面図である。
【0022】
凹ナット1B及び凸ナット1Aは、上ナット及び下ナットとも称され、この順に重ねて用いられることでセットナットとして機能する。尚、凸ナット1Aは、下ナットと称される場合以外に、Aナットと称することもできる。凹ナット1Bは、上ナットと称される場合以外に、Bナットと称することもできる。
【0023】
凸ナット1A及び凹ナット1Bは、所謂六角ナットであり、平面視で六角形状をなすナット本体4を有している。凸ナット1A及び凹ナット1Bは、該ナット本体4の中央に、中心軸Cに沿って貫通する雌螺子孔4aを有し、該雌螺子孔4aは、後述するボルト2の雄螺子部2aに螺合可能になっている。
【0024】
下ナットである凸ナット1Aでは、雌螺子孔4aの一方側(図2及び図5の上側)の開口周縁に、中心軸Cに沿う方向に突出するとともに該中心軸Cを中心に周方向に延びる環状突条部5が設けられている。
【0025】
環状突条部5は、例えば図2及び図5に示されるように、該環状突条部5の突出方向に雌螺子孔4aの中心軸Cと平行に延びる外周面5aと、突出方向(図2及び図5の上方向)の先端の面である先端面5bとを備える。環状突条部5の外周及び内周は、例えば図6に示されるように、その中心軸C方向から見て真円形状をなしている。尚、環状突条部5の内周面には、雌螺子孔4aの螺子山に連続する螺子山が形成されている。
【0026】
先端面5bは、外周面5aに連続するように、かつ、該中心軸Cを中心に周方向に延びるように設けられている。先端面5bには、例えば図2に示されるように、複傾斜面によりなされる凹凸(凹凸傾斜面)が設けられている。尚、凹凸傾斜面の凹部は、図5に示すように、外周面5aの上部の一部を削いだような形に対応するものであるが、なだらかに減少する傾斜を有する傾斜面を設けることで得られる。このように、凹凸傾斜面の凹部は、減少する傾斜を有する傾斜面によりなされる凹部である。反対に、凹凸傾斜面の凸部は、増大する傾斜を有する傾斜面によりなされる凸部である。
【0027】
図6に示す例では、先端面5bには、傾斜面51~56が設けられ、傾斜面51及び傾斜面52と連続する境界付近(図6で境界線付近)は例えば凹部となっており、例えば傾斜面51及び傾斜面56と連続する境界付近(図6で境界線付近)は、凸部となっている。このように、図6の境界線付近は、凹凸傾斜面の凸部または凹部となっている。
【0028】
尚、図6を用いて説明した傾斜面の数及び凹凸の数は一例である。凹凸が交互に現れるように設けられれば、その数は問われないが、凸ナット1Aの大きさに応じて好適な数が限定される。例えば凸ナット1Aの大きさが小さい場合には、その数は少なくなり、凸ナット1Aの大きさが大きい場合にはその数を多くすることができる。また、傾斜面の傾斜を増大または減少することで凹凸傾斜面の凸部または凹部を設けることができれば、その傾斜は一定の角度である必要はない。
【0029】
また、上ナットである凹ナット1Bでは、雌螺子孔4aの他方側(図1及び図3の下側)の開口周縁には、中心軸Cに沿う方向に段差状に窪むとともに該中心軸Cを中心に周方向に延びる環状段差部6が設けられている。
【0030】
環状段差部6は、環状突条部5が中心軸Cに沿う方向に嵌合可能なように、環状突条部5の形状に対応する形状をなしている。具体的には、環状段差部6は、例えば図1及び図3に示されるように、該環状段差部6の窪んだ方向(図1及び図3で上方向)に雌螺子孔4aの中心軸Cと平行に延び、外周面5aに対応する形状をなす内周面6aと、該環状段差部6の窪んだ段差状の部位、かつ、雌螺子孔4aと連接する部位の面である天井面6bとを備える。環状段差部6の外周及び内周は、例えば図4に示されるように、その中心軸C方向から見て真円形状をなしている。
【0031】
天井面6bは、内周面6aに連続するように、かつ、該中心軸Cを中心に周方向に延びるように設けられている。また、天井面6bには、例えば図1図3に示されるように、傾斜面によりなされる凹凸(凹凸傾斜面)が設けられている。天井面6bに設けられる凹凸傾斜面は、先端面5bに設けられる凹凸傾斜面に対応する形状をなしている。
【0032】
尚、天井面6bに設けられる凹凸傾斜面の凸部は、図3に示すように、内周面6aの上部の一部を削いだような形に対応するものであるが、なだらかに減少する傾斜を有する傾斜面を設けることで得られる。また、天井面6bに設けられる凹凸傾斜面の凸部は、先端面5bに設けられる凹凸傾斜面の凹部に対応する。つまり、例えば図3に示すように、凹凸傾斜面の凸部は、減少する傾斜を有する傾斜面によりなされ、凹凸傾斜面の凹部は、増大する傾斜を有する傾斜面によりなされる。
【0033】
図4に示す例では、天井面6bには、傾斜面61~66が設けられ、傾斜面61及び傾斜面62と連続する境界付近(図4で境界線付近)は例えば凹部となっており、例えば傾斜面61及び傾斜面66と連続する境界付近(図4で境界線付近)は、凸部となっている。このように、図4の境界線付近は、凹凸傾斜面の凸部または凹部となっている。
【0034】
尚、図4を用いて説明した傾斜面の数及び凹凸の数は一例である。凹凸が交互に現れるように設けられれば、その数は問われないが、凹ナット1Bの大きさに応じて好適な数が限定される。例えば凹ナット1Bの大きさが小さい場合には、その数は少なくなり、凹ナット1Bの大きさが大きい場合にはその数を多くすることができる。また、傾斜面の傾斜を増大または減少することで凹凸傾斜面の凸部または凹部を設け、凹凸傾斜面に対応する形状をなしていれば、その傾斜は一定の角度である必要はない。
次に、本発明の実施形態1に係る凹ナット1B及び凸ナット1Aからなるセットナットの使用方法について詳述する。
【0035】
図7は、本発明の実施形態1に係るセットナットとボルト2との間に被締結体3を締結した状態を示す一部断面が表示された正面図である。図7には、セットナットを用いて、ボルト2との間においてワッシャー7を介して被締結体3を締結した状態が示されている。
該被締結体3は、厚みを有する鋼板であり、ボルト2の雄螺子部2aを挿通可能な貫通孔3aが形成されている。
【0036】
まず、セットナットすなわち凹ナット1B及び凸ナット1Aを用意する。次に、凸ナット1Aの環状突条部5(の先端面5b)を凹ナット1Bの環状段差部6に嵌入させ、ボルト2を介して被締結体3を挟む。そして、凹ナット1B及び凸ナット1Aのそれぞれの雌螺子孔4aをボルト2の雄螺子部2aに螺合させると、凹ナット1Bの天井面6b及び凸ナット1Aの先端面5bすなわち対向する互いの凹凸傾斜面が摺り上がり、互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定される。
【0037】
このように、本発明の実施形態1によれば、ボルト2を介して凹ナット1B及び凸ナット1Aを螺合することで、凹ナット1B及び凸ナット1Aは、被締結体3及びボルト2を介して上下に負荷(圧力)がかかり、対向する互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定されるため緩まなくなる。
【0038】
また、本発明の実施形態1によれば、凹ナット1B及び凸ナット1Aは、上下に負荷(圧力)がかかることで固定され、偏心嵌合での固定でないため左右(側面)には負荷がかからないことから、固定された状態においても凹ナット1B及び凸ナット1Aの重心は一致する(重心はずれない)。これにより、凹ナット1B及び凸ナット1Aが中心軸Cを中心に高速回転されたとしても、凹ナット1B及び凸ナット1Aは、円滑に回転することができるのでぶれが起こらない。
【0039】
また、本発明の実施形態1によれば、凹ナット1B及び凸ナット1Aは、上下に負荷(圧力)がかかることで固定され、偏心嵌合での固定でないため左右(側面)には負荷がかからない。これにより、固定された状態においても凹ナット1B及び凸ナット1Aの間で隙間を生じさせない。つまり、固定された状態において凹ナット1B及び凸ナット1Aの隙間に水気やゴミは入り難いので、腐食につながるおそれを低減できる。
【0040】
また、本発明の実施形態1によれば、凹ナット1B及び凸ナット1Aをボルト2に螺合させる際、凸ナット1Aの環状突条部5を凹ナット1Bの環状段差部6に嵌入させ、ボルト2を介して被締結体3を挟んだ上で螺合させるだけで固定できる。つまり、本発明の実施形態1に係るセットナットは、容易に施工することができる。
尚、本発明の実施形態1では、所謂六角ナットに本発明の構造を適用したが、その他の種類のナットに本発明の実施形態1の構造を適用することもできる。
【0041】
また、本発明の実施形態1では、セットナットすなわち凹ナット1B及び凸ナット1Aは、例えばSUSなどの金属で形成されるが、これに限らない。炭素鋼で形成されてもよく、合金鋼やステンレス鋼等のその他合金属材、ゴム、プラスチック、セラミック等の非金属材で形成されてもよく同様の効果を得ることができる。
[実施形態2]
【0042】
実施形態1では、凹ナット1B及び凸ナット1Aからなるセットナットについて説明した。実施形態2では、同一形状のナットを2つ重ねて用いるダブルナットについて説明する。
【0043】
図8は、本発明の実施形態2に係るダブルナットを構成するナット1Cを上方から見た斜視図である。図9は、本発明の実施形態2に係るダブルナットを構成するナット1Cを下方から見た斜視図である。図10は、図8に示すナット1Cの正面図であり、図11は、図8に示すナット1Cの平面図である。図12は、図8に示すナット1Cの底面図であり、図13は、図8に示すナット1Cの左側面図である。この実施形態2では、凹ナット1Bに設けられていた環状段差部6及び凸ナット1Aに設けられていた環状突条部5が、ダブルナットを構成する2つのナット1Cのそれぞれに構成されている。尚、この点以外は実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の部分には同じ符号を付している。
【0044】
ナット1Cは、同一形状のナットを2つ重ねたダブルナットとして用いられる。ナット1Cは、所謂六角ナットであり、平面視で六角形状をなすナット本体4を有している。ナット1Cは、該ナット本体4の中央に、中心軸Cに沿って貫通する雌螺子孔4aを有し、該雌螺子孔4aは、後述するボルト2の雄螺子部2aに螺合可能になっている。
【0045】
ナット1Cでは、雌螺子孔4aの一方側(図8図10及び図13の上側)の開口周縁に、中心軸Cに沿う方向に突出するとともに該中心軸Cを中心に周方向に延びる環状突条部5が設けられている。
【0046】
環状突条部5は、例えば図8図10及び図13に示されるように、該環状突条部5の突出方向に雌螺子孔4aの中心軸Cと平行に延びる外周面5aと、突出方向(図8図10及び図13の上方向)の先端の面である先端面5bとを備える。また、環状突条部5の外周及び内周は、例えば図11に示されるように、その中心軸C方向から見て真円形状をなしている。尚、環状突条部5の内周面には、雌螺子孔4aの螺子山に連続する螺子山が形成されている。
【0047】
先端面5bは、外周面5aに連続するように、かつ、該中心軸Cを中心に周方向に延びるように設けられている。また、先端面5bには、例えば図8図10及び図13に示されるように、傾斜面によりなされる凹凸(凹凸傾斜面)が設けられている。尚、凹凸傾斜面の凹部は、図10及び図13に示すように、外周面5aの上部の一部を削いだような形に対応するものであるが、なだらかに減少する傾斜を有する傾斜面を設けることで得られる。このように、凹凸傾斜面の凹部は、減少する傾斜を有する傾斜面によりなされる凹部である。反対に、凹凸傾斜面の凸部は、増大する傾斜を有する傾斜面によりなされる凸部である。
【0048】
図11に示す例では、先端面5bには、傾斜面51~56が設けられ、傾斜面51及び傾斜面52と連続する境界付近(図11で境界線付近)は例えば凹部となっており、例えば傾斜面51及び傾斜面56と連続する境界付近(図11で境界線付近)は、凸部となっている。このように、図11の境界線付近は、凹凸傾斜面の凸部または凹部となっている。
【0049】
尚、図11を用いて説明した傾斜面の数及び凹凸の数は一例である。凹凸が交互に現れるように設けられれば、その数は問われないが、ナット1Cの大きさに応じて好適な数が限定される。例えばナット1Cの大きさが小さい場合には、その数は少なくなり、ナット1Cの大きさが大きい場合にはその数を多くすることができる。また、傾斜面の傾斜を増大または減少することで凹凸傾斜面の凸部または凹部を設けることができれば、その傾斜は一定の角度である必要はない。
【0050】
また、ナット1Cでは、雌螺子孔4aの他方側(図9図10及び図13の下側)の開口周縁には、中心軸Cに沿う方向に段差状に窪むとともに該中心軸Cを中心に周方向に延びる環状段差部6が設けられている。
【0051】
環状段差部6は、環状突条部5が中心軸Cに沿う方向に嵌合可能なように、環状突条部5の形状に対応する形状をなしている。具体的には、環状段差部6は、例えば図9図10及び図13に示されるように、該環状段差部6の窪んだ方向(図9図10及び図13で上方向)に雌螺子孔4aの中心軸Cと平行に延び、外周面5aに対応する形状をなす内周面6aと、該環状段差部6の窪んだ段差状の部位、かつ、雌螺子孔4aと連接する部位の面である天井面6bとを備える。環状段差部6の外周及び内周は、例えば図12に示されるように、その中心軸C方向から見て真円形状をなしている。
【0052】
天井面6bは、内周面6aに連続するように、かつ、該中心軸Cを中心に周方向に延びるように設けられている。また、天井面6bは、には、例えば図9図10及び図13に示されるように、傾斜面によりなされる凹凸(凹凸傾斜面)が設けられている。天井面6bに設けられる凹凸傾斜面は、先端面5bに設けられる凹凸傾斜面に対応する形状をなしている。
【0053】
図12に示す例では、天井面6bには、傾斜面61~66が設けられ、傾斜面61及び傾斜面62と連続する境界付近(図12で境界線付近)は例えば凹部となっており、例えば傾斜面61及び傾斜面66と連続する境界付近(図12で境界線付近)は、凸部となっている。このように、図12の境界線付近は、凹凸傾斜面の凸部または凹部となっている。
【0054】
尚、図12を用いて説明した傾斜面の数及び凹凸の数は一例である。凹凸が交互に現れるように設けられれば、その数は問われないが、ナット1Cの大きさに応じて好適な数が限定される。例えばナット1Cの大きさが小さい場合には、その数は少なくなり、ナット1Cの大きさが大きい場合にはその数を多くすることができる。また、傾斜面の傾斜を増大または減少することで凹凸傾斜面の凸部または凹部を設け、凹凸傾斜面に対応する形状をなしていれば、その傾斜は一定の角度である必要はない。
次に、本発明の実施形態2に係るダブルナットの使用方法について詳述する。
【0055】
図14は、本発明の実施形態2に係るダブルナットとボルト2との間に被締結体3を締結した状態を示す正面図である。図15は、本発明の実施形態2に係るダブルナットとボルト2との間に被締結体3を締結した状態を示す一部断面が表示された正面図である。
図14及び図15には、2つのナット1Cを重ねたダブルナットを用いてボルト2を介して被締結体3を締結した状態が示されている。
【0056】
まず、ナット1Cを2つ用意する。次に、用意した2つのナット1Cのうち一方のナット1Cの環状突条部5を、他方のナット1Cの環状段差部6に嵌入させて2つのナット1Cを重ね合わせた後、ボルト2を介して被締結体3を挟む。そして、2つのナット1Cのそれぞれの雌螺子孔4aをボルト2の雄螺子部2aに螺合させると、重ね合わせた2つのナット1Cにおいて対向する天井面6b及び先端面5bすなわち対向する互いの凹凸傾斜面が摺り上がり、互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定される。
【0057】
このように、本発明の実施形態2によれば、ボルト2を介してダブルナットを螺合することで、ダブルナットを構成する対向する2つのナット1Cは、被締結体3及びボルト2によって上下に負荷(圧力)がかかり、対向する互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定されるため緩まなくなる。
【0058】
また、本発明の実施形態2によれば、ダブルナットを構成する対向する2つのナット1Cは、上下に負荷(圧力)がかかることで固定され、偏心嵌合での固定でないため左右(側面)には負荷がかからないことから、固定された状態においても2つのナット1Cの重心は一致する(重心はずれない)。これにより、2つのナット1Cが中心軸Cを中心に高速回転されたとしても、2つのナット1Cは、円滑に回転することができるのでぶれが起こらない。
【0059】
また、本発明の実施形態2によれば、ダブルナットを構成する対向する2つのナット1Cは、上下に負荷(圧力)がかかることで固定され、偏心嵌合での固定でないため左右(側面)には負荷がかからない。これにより、固定された状態においても2つのナット1Cの間に隙間を生じさせない。つまり、固定された状態において2つのナット1Cの隙間に水気やゴミは入り難いので、腐食につながるおそれを低減できる。
【0060】
また、本発明の実施形態2によれば、ダブルナットを構成する重ね合わせた2つのナット1Cをボルト2に螺合させる際、一方のナット1Cの環状突条部5を他方のナット1Cの環状段差部6に嵌入させ、ボルト2を介して被締結体3を挟んだ上で螺合させるだけで固定できる。つまり、本発明の実施形態2に係るダブルナットは、容易に施工することができる。
尚、本発明の実施形態2では、所謂六角ナットに本発明の構造を適用したが、その他の種類のナットに本発明の実施形態2の構造を適用することもできる。
【0061】
また、本発明の実施形態2では、ダブルナットを構成する2つのナットは、例えばSUSなどの金属で形成されるが、これに限らない。炭素鋼で形成されてもよく、合金鋼やステンレス鋼等のその他合金属材、ゴム、プラスチック、セラミック等の非金属材で形成されてもよく同様の効果を得ることができる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0062】
例えば、図7または図15に示される被締結体3に、上述した環状突条部5と同様のもの、すなわち先端面に凹凸傾斜面が設けられた環状突条部を設けてもよい。この場合には、該被締結体3が下ナット(凸ナット1Aまたは一方のナット1C)の機能を有することになるので、下ナット(凸ナット1Aまたは一方のナット1C)が不要になる。
【0063】
つまり、この場合、該被締結体3の貫通孔3aを通るボルト2を介して、該被締結体3の環状突条部を、上ナット(凹ナット1Bまたは他方のナット1C)のみに嵌入し、螺合させばよい。これにより、上ナットの天井面6b及び被締結体3の先端面すなわち対向する互いの凹凸傾斜面が摺り上がり、互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定される。
【0064】
したがって、ボルト2を介して、該被締結体3と、上ナットとを螺合することで、該被締結体3と、上ナットとは、ボルト2を介して上下に負荷(圧力)がかかり、対向する互いの凹凸傾斜面による頂点付近で固定されるため緩まなくなる。
【0065】
ここで、例えば該被締結体3が、先端面に凹凸傾斜面が設けられた環状突条部を有する、ナット固定方式の車両のホイールであり、該上ナットが、天井面に凹凸傾斜面が設けられたホイールナットとすることもできる。このような場合、例えばプレス成型により図2に示す凸ナット1A(下ナット)の環状突条部5を有するホイールを成型加工し、ボルトに対して図1に示す凹ナット1B(上ナット)を締結すればよい。このホイールを車体に固定した時には、振動に対しても該上ナットは緩まなくなるので、このホイールは走行中など振動が発生する使用場面において外れ難くなる。尚、該被締結体3をナット固定方式の車両のホイールとし、該上ナットをホイールナットとすることは一例であり、その他の組み合わせにおいて適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、ボルトとの間において被締結体を締結する際にボルトから緩んで脱落してしまうのを防ぐセットナットやダブルナットに適している。
【符号の説明】
【0067】
1A 凸ナット
1B 凹ナット
1C ナット(ダブルナット)
2 ボルト
2a 雄螺子部
3 被締結体
3a 貫通孔
4 ナット本体
4a 雌螺子孔
5 環状突条部
5a 外周面
5b 先端面
6 環状段差部
6a 内周面
6b 天井面
7 ワッシャー
51~56、61~66 傾斜面
C 中心軸
【要約】
【課題】施工容易なものでありながら、2つ重ねたナットを嵌合しても重心のずれが生じない緩み止めナットであるセットナット及びダブルナットを提供する。
【解決手段】セットナットは、凹ナット1B及び凸ナット1Aからなる。凸ナット1Aでは、雌螺子孔4aの一方側の開口周縁に、中心軸Cに沿う方向に突出する環状突条部5が設けられ、環状突条部5では、突出方向にある先端面5bに、傾斜面によりなされる凹凸である凹凸傾斜面が設けられる。凹ナット1Bでは、雌螺子孔4aの他方側の開口周縁に、中心軸Cに沿う方向に段差状に窪む環状段差部6が設けられ、環状段差部6では、天井面6bに、凹凸傾斜面が設けられる。天井面6bに設けられる複数の傾斜面は、先端面5bに設けられる複数の傾斜面に対応する形状をなしている。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15