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特許7538424衣類用材料および衣類用材料を有する衣類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】衣類用材料および衣類用材料を有する衣類
(51)【国際特許分類】
   A41C 3/00 20060101AFI20240815BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240815BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20240815BHJP
【FI】
A41C3/00 A
A41C3/00 Z
A41C3/00 B
A41D31/00 502F
A41D31/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021039168
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2021193230
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020099069
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】立入 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】岡本 智子
(72)【発明者】
【氏名】北川 由香
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-078311(JP,A)
【文献】実開平03-099709(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C 1/00- 5/00
A41D31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶樹脂を成形したガラス転移点が25~45℃の範囲内にある樹脂シートを含み、
前記樹脂シートを挟むように、その表面および裏面に生地が配置されている衣類用材料であって、
前記衣類用材料は、少なくとも一方向において、35℃における10%伸長時の引張応力到達率が32%以上かつ圧迫圧力到達率が50%以上であり、
前記生地は、少なくとも一方向において、35℃における20%伸長時の引張応力値が9.8N以下かつ圧迫圧力が4.0kPa以下であることを特徴とする衣類用材料。
【請求項2】
前記樹脂シートは、ガラス転移点が28℃以下であることを特徴とする、請求項1記載の衣類用材料。
【請求項3】
前記樹脂シートは、厚みが0.1mm以上3.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1または2記載の衣類用材料。
【請求項4】
厚みが0.2mm以上5.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の衣類用材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の衣類用材料を有していることを特徴とするカップ部を有する衣類。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の衣類用材料を、カップ部、土台部およびバック部の少なくとも一箇所に有していることを特徴とする、請求項5記載のカップ部を有する衣類。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の衣類用材料を有していることを特徴とするボトム衣類。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の衣類用材料を、ウエスト部および裾部の少なくとも一方に有していることを特徴とする、請求項7記載のボトム衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類用材料および衣類用材料を有する衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形状記憶合金からなるメッシュやプレートを、被服用芯材等として衣類に用い、衣類の形状を保持して、型くずれ防止や、サポート(補整・補強)を行おうとする技術が提案されている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平6-34327号公報
【文献】特許第2634338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの技術によると、衣類が型くずれすることなく、かつ、違和感を感じさせずに、着用者の身体の形状を美しく整えたり、身体の動きに応じたぴったりとしたフィット感を得ることが可能となるとのことである。例えば、特許文献1においては、ガラス転移点が体温以上の形状記憶樹脂からなるメッシュを用いることで、着用時にガラス領域となるので剛性が高まり、形状保持力を高め、型くずれした場合には、ゴム領域まで加熱することによって形状を復元することを可能とする衣服用芯材が提案されている。しかし、これらの技術におけるサイズ許容性は大きいものではなく、記憶処理された所定の形状を維持するに過ぎないものである。
【0005】
本発明は、着用者の身体形状に沿うように変形するにもかかわらず、変形の度合いが大きい場合であっても過度に圧がかからずに、衣類と身体との間の隙間の発生や身体へのくいこみといった問題を抑制することが可能な衣類用材料を提供することを目的とする。また、前記衣類用材料を用いた、サイズ適合率の高い衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の衣類用材料は、
形状記憶樹脂を成形したガラス転移点が25~45℃の範囲内にある樹脂シートを含み、
前記樹脂シートを挟むように、その表面および裏面に生地が配置されており、
前記衣類用材料は、少なくとも一方向において、35℃における10%伸長時の引張応力到達率が32%以上かつ圧迫圧力到達率が50%以上であり、
前記生地は、少なくとも一方向において、35℃における20%伸長時の引張応力値が9.8N以下かつ圧迫圧力が4.0kPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の衣類用材料によれば、着用者の身体形状に沿うように変形するにもかかわらず、変形の度合いが大きい場合であっても過度に圧がかからずに、衣類と身体との間の隙間や身体へのくいこみを抑制することができ、サイズ適合率の高い衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係るブラジャー100を示す斜視図である。
図2図2(a)(b)は、着用評価におけるバストの形状を示す図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係るブラジャー200A~200Dを示す斜視図である。
図4図4は、本発明の第3の実施形態に係るブラジャー300A~300Dを示す斜視図である。
図5図5は、本発明の第4の実施形態に係るガードル400A~400Cを示す斜視図である。
図6図6は、引張応力および圧迫圧力の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の衣類用材料において、前記樹脂シートは、ガラス転移点が28℃以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の衣類用材料において、前記樹脂シートは、厚みが0.1mm以上3.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
本発明の衣類用材料は、厚みが0.2mm以上5.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
本発明のカップ部を有する衣類は、前記本発明の衣類用材料を有しており、前記衣類用材料を、カップ部、土台部およびバック部の少なくとも一箇所に有していることが好ましい。
【0013】
本発明のボトム衣類は、前記本発明の衣類用材料を有しており、前記衣類用材料を、ウエスト部および裾部の少なくとも一方に有していることが好ましい。
【0014】
本発明の衣類用材料、および、本発明の衣類用材料を有する衣類について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。なお、以下で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。
【0015】
本発明の衣類用材料は、人体の体温付近で柔軟性を発現して変形可能な樹脂シート(以下、感温柔軟樹脂シートと呼ぶことがある。)の表面および裏面に生地を配置した複合材料である。前記衣類用材料(複合材料)は、少なくとも一方向において、35℃における10%伸長時の引張応力到達率が32%以上かつ圧迫圧力到達率が50%以上である。そして、前記感温柔軟樹脂シートの両面に配置される生地は、少なくとも一方向において、35℃における20%伸長時の引張応力値が9.8N以下かつ圧迫圧力が4.0kPa以下である。
【0016】
従来より、インナーウエアには、着用者の身体形状にフィットさせるために、伸縮性の素材が多く用いられている。しかし、容易に伸びてしまう素材であると、適正な着用位置からのずれが生じたり、所望の体形補整効果が得られない。反対に、伸長に力が必要な伸びにくい素材であると、着用時の締め付けが強くなりすぎたり、衣類が身体にくいこんでしまう。そのため、フィット性が求められる衣類においては、着用部位や着用者の体形に合わせて、適切な伸縮性の素材を、サイズ設定毎に調整して用いている。通常、サイズは段階をつけて設定されているため、前記段階の境界付近の体形を有している着用者の場合、大きめのサイズで合わせようとすると、身体との間に浮きが生じたり、着用時に衣類にシワが生じ、小さめ(きつめ)のサイズで合わせようとすると、くいこみ等により、身体に沿わないというのが実情であった。
【0017】
また、一般的な補整下着は、周径を小さめにして作られている。そして、着用時には小さめの周径部分を伸長させて、戻る力で着用圧をかけて身体に沿わせている。また、体形補整に使用されるボーンや、ウレタン等からなる厚みのあるパッドは、身体の中心方向に力がかかる。これらの補整手段は、部材自体の形をキープさせて身体の形状を整えるものであり、着用者の体形に合わせようとするものではないため、必ずしも身体にぴったりと沿うわけではなかった。
【0018】
本発明は、少なくとも一方向において特定範囲の引張応力到達率と圧迫圧力到達率とを有する、感温柔軟樹脂シートと生地とを組み合わせた複合材料を用いることにより、着用時には柔らかくなり、身体の形状に沿い、さらに、着用圧をあまりかけることなく沿った状態を保つことができる衣類を得ることができたものである。着用時に、感温柔軟樹脂シートにおける樹脂の特性を妨げずに、かつ、衣類用材料が伸びすぎないようにするには、感温柔軟樹脂シートに特定範囲の引張応力値と圧迫圧力とを有する生地を組み合わせて用い、衣類用材料(複合材料)を特定範囲の引張応力到達率と圧迫圧力到達率にすることが重要である。なお、衣類用材料は、全方向に変形することが求められている用途に限らず、例えば、ある特定の方向に伸びることが求められている用途も多く存在する。そのため、本発明の衣類用材料は、少なくとも一方向において特定範囲の引張応力到達率と圧迫圧力到達率であればよい。身体の形状に沿わせたい方向に、特定範囲の引張応力到達率と圧迫圧力到達率を有する方向を沿わせることで、着用時に過度に圧がかからずに、衣類と身体との間の隙間や身体へのくいこみを抑制することができる、サイズ適合率の高い衣類を提供することができる。
【0019】
本発明における引張応力到達率および圧迫圧力到達率とは、後に詳述する方法によって測定した値であり、各到達率が高いほど、伸度の違いによる引張応力および圧迫圧力の変化が少なく、柔らかく変形し、圧力も小さく軽い着用感が得られる。本発明の衣類用材料を用いると、強い圧をかけなくても衣類と身体との間に隙間ができず、衣類が浮かない。また、身体に合わせて伸長するため、ダーツ等を設けなくても、シワがなく曲面に沿わせることもできるので、1つのサイズでの許容範囲を広げることができ、くいこみや浮きがなくフィット可能な、サイズ適合率の高い衣類を得ることができる。
【0020】
本発明の衣類用材料を用いた衣類は、マタニティ用衣類として特に好適に用いることができる。マタニティ用衣類の着用者は、体型変化幅が大きいが、本発明の衣類用材料を体型変化の大きい箇所に用いると、産前産後の長期間にわたり、着用感に優れた状態を維持することができる。
【0021】
感温柔軟樹脂シートは、厚みが0.1mm以上3.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。0.1mmより薄いと、両側の生地の物性値の影響のほうが大きくなり、感温柔軟樹脂シートの性能が発揮できなくなる場合がある。3.0mmより厚いと、感温柔軟樹脂そのものによる引張応力値と圧迫圧力が大きくなり、さらに両側の生地の物性値がプラスされて身体の立体形状に沿いにくくなる場合がある。また、感温柔軟樹脂シートは、孔をあけたりメッシュ状に形成して、通気性を備えたものとすることも好ましい。
【0022】
感温柔軟樹脂シートは、形状記憶樹脂を成形したシートであることが好ましい。形状記憶樹脂としては、ノルボルネン系、トランスポリイソプレン系、スチレン-ブタジエン共重合体系、ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、乳酸系、アクリル系、アミド系からなる形状記憶樹脂群から選択される一種または二種以上を含む構造体を使用することができる。
【0023】
形状記憶樹脂(感温柔軟樹脂シート)のガラス転移点(Tg)は、25~45℃の範囲内にあればよいが、28℃以下にあることが好ましい。ガラス転移点が、体温より少し低いところにあると、着用により温められて身体にフィットさせることが可能となる。
【0024】
感温柔軟樹脂シートの表面および裏面に配置される生地は、少なくとも一方向において、35℃における20%伸長時の引張応力値が9.8N以下かつ圧迫圧力が4.0kPa以下である。衣類用材料(複合材料)の引張応力到達率や圧迫圧力到達率が上述の所定の範囲内であっても(柔軟性があっても)、引張応力や圧迫圧力の値が大きすぎると、感温柔軟樹脂シートの特性を阻害する場合がある。そのため、生地単体での引張応力値および圧迫圧力が、少なくとも一方向において前記の範囲にあることが必要である。前記生地としては、天竺、フライス、スムース、ダブルニット等の緯編組織を有する編物、トリコット、ラッセル等の経編組織を有する編物、平織、綾織、サテン等の組織を有する織物、不織布(繊維を物理的あるいは化学的に接着または絡み合わせて布状にしたもの)等を好適に用いることができる。前記生地の素材は用途に応じて選択することができる。前記生地の選択によって、肌触りを良くしたり、冷感特性や吸汗性を付与したりすることに加え、衣類用材料の意匠性を高めることもできる。また、感温柔軟樹脂シートの表側と裏側とに、異なる生地を使用すると、例えば、表面は意匠性を、裏面は吸汗性や肌触りなどを付与した衣類用材料とすることができる。
【0025】
例えば、一方向において引張応力値および圧迫圧力が本発明で規定する範囲内である生地を、感温柔軟樹脂シートの表面と裏面の両方に使用する場合、前記一方向の向きが揃うように、前記感温柔軟樹脂シートを挟み配置させることが好ましい。このように両面の生地を配置することで、少なくとも前記一方向において、引張応力到達率および圧迫圧力到達率が本発明で規定する所定範囲内である衣類用材料を得ることができる。衣類の部材としては、例えば、タテ方向には伸縮性が必要であるが、ヨコ方向には伸縮性を有しないことが求められるものがある。本発明の衣類用材料は、引張応力到達率および圧迫圧力到達率が前記所定範囲内ではない方向を一部に設けることで、上記のような伸縮方向特異性が求められる部材としても、好適に用いることができる。
【0026】
前記生地は、前記感温柔軟樹脂シートを挟み込むように配置されているが、前記生地と前記感温柔軟樹脂シートとは、単に重ね合わせた状態で用いてもよいし、全面を貼り合わせたり、点接着で相互に固定させてもよい。貼り合わせる際には、接着剤等を用いることもできるが、シート表面の樹脂を加熱溶融して、前記生地と接着させることもできる。
【0027】
前記感温柔軟樹脂シートと前記生地とを含む本発明の衣類用材料(複合材料)は、厚みが0.2mm以上5.0mm以下の範囲内にあることが好ましい。0.2mmより薄いと、感温柔軟樹脂シートの厚みが十分確保できず、その性能が発揮できなくなる場合がある。5.0mmより厚いと、身体の立体形状に沿いにくくなる場合がある。
【0028】
[評価試験1]高温環境伸長時の引張応力と圧力測定による柔軟性評価
本評価試験は、試験片を立体(人体)に沿わせて伸長させた際の引張応力と、試験片が立体(人体)に及ぼす圧迫圧力(圧縮応力)を測定するものである。中途伸長時の引張応力と圧力における、最終伸度の引張応力と圧力に対する到達率を出力する。到達率が高いほど、引張伸度による引張応力と圧力の変化が少なく、柔軟性がある。
【0029】
なお、引張応力と圧力の、インナーウェアにおける意味合いは以下のとおりである。引張応力が高いと、サイズ許容範囲内でもボリュームや形状が異なる様々な立体に沿いにくく、浮きやくいこみの原因となる。圧縮応力(=今回の試験では“圧迫圧力”で測定)が高いと圧迫度が大きく、圧迫感・窮屈感につながる。
【0030】
<測定方法>
温度35℃、湿度50%に設定した環境実験室内で測定を行った。2方向に引っ張りが可能な引張試験機を用い、100cmの面積の試験片を、最大20%まで引っ張り戻した時の引張応力(N)および中心部の圧力(kPa)を、以下の方法で5%間隔で読み取った。図6(a)は試験の状態を上から見た状態の説明図であり、図6(b)は横から見た状態の説明図である。つかみ部分を含む14cm×14cmの試験片(生地、樹脂シート)60を用意した。10cm×10cmのつかみ距離となるよう試験片の四辺をチャック62でつかみ、対向する一組のチャック(例えば、ヨコ方向)のチャック間距離を広げるようにして一方向に引っ張り、対向するもう一組のチャック(タテ方向)間距離はそのままでヨコ方向の引張伸度に応じて平行移動する。この時、試験片60と試験台(ステージ)64との間に曲面体(直径10cm、中心高2cmの半球体)66を設置し、曲面体66と試験片60との接点(中央部)にエアパックセンサー68をセットし、引張応力を測定すると同時に圧迫圧力も測定した。
【0031】
1.0mm/secで5%分(5mm)引張り、装置停止5秒後に数値を読み取る。引張長さ20%(20mm)まで同様に数値を読み取り、その後は1.0mm/secで5%分(5mm)戻しながら、同様に数値を読み取った。20%伸長時の引張応力に対する10%伸長時の引張応力を算出し、引張応力到達率とした。また、20%伸長時の圧力に対する10%伸長時の圧力を算出し、圧迫圧力到達率とした。これらの到達率の値が高いほど、引張伸度による応力変化が少なく、柔軟性がある試験片であるといえる。なお、本評価においては、14cm×14cmの試験片を用いたが、測定対象の試験片の大きさが足りない場合は、換算することで評価することが可能である。判定においては、35℃における10%伸長時の引張応力到達率が32%以上かつ圧迫圧力到達率が50%以上であるものを「G」、それ以外のものを「NG」とした。
【0032】
感温柔軟樹脂シートとしては、「形状記憶シート」(三井化学株式会社製、ガラス転移点28℃、厚み0.5mm、破断強度(23℃、MD/TD)が4MPa/2MPa、破断伸び(23℃、MD/TD)が330%/270%、ヤング率(23℃、MD/TD)が31MPa/13MPa)を用いた。使用した側生地は、表1に示すとおりである。また、表2は、従来の衣類用材料である。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
Fのダブルラッセルは、ダブル組織でかつ両面をつなぎ合わせるための間の糸を含めて厚みが出るようにした構造体である。Gのボンディング不織布は、両側に上記側生地D(トリコット)とE(トリコット)をボンディングしたポリエステル不織布である。
【0036】
感温柔軟樹脂シートのタテ方向(MD方向)に生地Aをタテ方向に貼り合わせた複合材料、感温柔軟樹脂シートのタテ方向(MD方向)に生地Bをタテ方向に貼り合わせた複合材料、感温柔軟樹脂シートのタテ方向(MD方向)に生地Cをヨコ方向に貼り合わせた複合材料、衣類用材料FおよびGについて、引張応力到達率および圧迫圧力到達率を測定した。結果を表3に示す。なお、感温柔軟樹脂シートと生地との貼り合わせには、接着剤等は使用せず。加熱圧着により感温柔軟樹脂自体の表面が側生地に溶けて付着することを利用した。生地Aおよび生地Cとの接着は、家庭用アイロン中温(140~160℃)で、上部から強めに体重をかけて接着した。生地Bは、プレス機(180℃30秒)で接着した。
【0037】
【表3】
【0038】
また、感温柔軟樹脂シートに貼り合わせる生地単体について、上記と同様の方法で、20%伸長時の引張応力および圧迫圧力を測定した。判定においては、35℃における20%伸長時の引張応力値が9.8N以下かつ圧迫圧力が4.0kPa以下であるものを「G」、それ以外のものを「NG」とした。結果を表4に示す。
【表4】
【0039】
[評価試験2]高温環境伸長時の感温柔軟樹脂の形状ひずみと圧迫評価
評価試験1における圧力到達率の違いが、着用時の身体へのくいこみや圧迫度に影響があるのかを、材料レベルでモデル的に評価した。試験片を人体(スポンジで代用)に沿わせた際の、くいこみ(圧迫)度を画像で比較した。評価試験1で用いた引張試験機を用い、ステージに高さ28mmのスポンジ(食器・調理器具用ハードスポンジ、JIS K7312-1996 附属書2 スプリング硬さ試験タイプC試験方法にてHsC2/30)を置き、25mm巾の短冊状の試料を、前記スポンジ表面(幅6cm)をまたぐように置き、前記スポンジをまたぐ方向に、引張間隔100mmの20%まで引張った。前記スポンジへのくいこみの状態を、試料の無伸長時、10%伸長時、20%伸長時の3条件での画像を得た。画像取得は写真撮影により行い、撮影においては、各状態で(伸長させたまま)1分間経過した時にカメラのシャッターを押して撮影した。その後、パソコン上で写真を実物大にし、写真画像上におけるスポンジへのくいこみ・圧迫量(mm)を読み取ることで各素材、各伸長条件でのくいこみ圧迫率(くいこみ圧迫実測値(mm)/スポンジ厚(28mm)×100)を算出した。10%伸長時から20%伸長時にかけての圧迫変化率も求めた。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
ダブルラッセルFは、10%伸長の時点でスポンジくいこみ圧迫率が5.4%、20%伸長で25.0%となった。ボンディング不織布Gは、10%伸長の時点でスポンジくいこみ圧迫率が26.8%、20%伸長でさらにくいこんで44.6%となった。それに比べ、厚み0.5mmの感温柔軟樹脂シートに生地A(スムース)を貼り合わせた複合材料は、10%伸長時ではくいこみがなく、20%伸長時でも5.4%しかくいこまなかった。また、10%伸長時から20%伸長時にかけての圧迫変化率も、ボンディング不織布Gでは17.9%であるのに対して、前記複合材料は5.4%と大きな違いがみられる。感温柔軟樹脂に生地Aを貼り合わせた複合材料は、衣類に用いた場合に、着用者の体型を変化させた際であっても、身体へのくいこみや圧迫感の抑制が可能であった。一方、衣類用材料FおよびGは、衣類に用いた場合に、着用者の体型を変化させた際の身体へのくいこみや圧迫感が大きくなった。表5に示す結果からは、感温柔軟樹脂に生地Aを貼り合わせたもの(本発明品)は、着用者の身体形状に沿うように変形する変形の度合いが大きい場合であっても過度に圧がかからず、身体へのくいこみの問題を抑制可能であることが、数値(スポンジへのくいこみの大きさ)として確認された。
【0042】
感温柔軟樹脂シートに貼り合わせる生地を変えて、同様にくいこみ圧迫率および圧迫変化率を求めた結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
生地C(ダブルニット)を貼り合わせた複合材料は、10%伸長時ではくいこみがなく、20%伸長時でも3.6%しかくいこまなかった。それに対して生地D(トリコット)、生地E(トリコット)をそれぞれ貼り合わせた複合材料は、いずれも、10%伸長の時点でスポンジにくいこみが発生し、20%伸長でいずれも14%を超えるくいこみとなった。同じ感温柔軟樹脂シートを用いても、貼り合わせる生地の特性によって、着用時のくいこみ発生に変化が生じる可能性があることがわかる。感温柔軟樹脂に生地Cを貼り合わせた複合材料は、衣類に用いた場合に、着用者の体型を変化させた際であっても、身体へのくいこみや圧迫感の抑制が可能であった。一方、感温柔軟樹脂に生地Dを貼り合わせた複合材料および感温柔軟樹脂に生地Eを貼り合わせた複合材料は、衣類に用いた場合に、着用者の体型を変化させた際の身体へのくいこみや圧迫感が大きくなった。表6に示す結果からは、感温柔軟樹脂に生地Cを貼り合わせたもの(本発明品)は、着用者の身体形状に沿うように変形する変形の度合いが大きい場合であっても過度に圧がかからず、身体へのくいこみの問題を抑制可能であることが、数値(スポンジへのくいこみの大きさ)として確認された。
【0045】
(第1の実施形態)
図1に、本発明のカップ部を有する衣類に係るブラジャー100を示す。図中、斜線を付した部分が、本発明の衣類用材料を有している箇所である。ブラジャー100は、ブラジャーの上カップに、感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、上カップの形状が、着用者のバスト上部形状に変形し、浮きもくいこみもなく、着用者のバスト上部形状に沿い、カップがバストにジャストフィットする。
【0046】
[評価試験3]感温柔軟樹脂使いブラジャーの着用評価
評価試験2のスポンジへのくいこみ発生量(圧迫度)と人体へのくいこみ発生量との相関を確認した。3D計測装置でバスト周辺を撮影し、ブラジャーとバストの境目のモアレ縞のスムーズさ等でフィット度を比較した。0.5mmの厚みの感温柔軟樹脂シートの両面に上記のBの生地(トリコット)を貼りつけた衣類用材料を上カップに使用したブラジャー(実施例1)と、従来の不織布(ボンディング不織布G)を用いたカップを有するブラジャー(比較例)について、評価を行った結果を図2に示す。図2(a)は比較例、図2(b)は実施例1のブラジャーを着用した際のモアレ縞である。
【0047】
図中の領域Aの位置のブラジャーのカップ上辺部分のモアレ縞を比較すると、実施例1ではモアレ縞がスムーズであるが、比較例ではモアレ縞に曲線が滑らかに繋がらず、直線部(平坦部)ができてしまっており、カップ上辺部分と身体との間に浮きが生じていることがわかる。図中の領域Bの位置のブラジャーのカップ上辺部分のモアレ縞を比較すると、実施例1ではモアレ縞がスムーズであるが、比較例ではモアレ縞に凹部が見られ、カップ上辺部分の身体へのくいこみが生じていることがわかる。不織布使いは、カップ上辺に浮きが見られたり、くいこみが発生しているのに対し、感温柔軟樹脂(人体の体温付近で柔軟性を発現して変形可能な樹脂)シート使いは、浮きもくいこみもなく、カップ上辺が身体に沿っていることが示された。
【0048】
(第2の実施形態)
図3に、本発明のカップ部を有する衣類に係るブラジャー200A~200Dを示す。ブラジャー200Aは、ブラジャーのカップ部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、カップ全体の形状が、着用者の胸の形状に変形し、色々なバストボリュームの胸に沿い、カップのサイズ適合率が向上する。
【0049】
ブラジャー200Bは、ブラジャーのカップ部のカップくり部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、カップくりがバージスに沿い、カップのフィット性がよくなる。カップくり内側形状が、着用者の下バージス付近の形状に変形するので、色々なバストボリュームの胸に沿う。
【0050】
ブラジャー200Cは、ブラジャーのカップ部の脇上辺部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。また、ブラジャー200Dは、カップ中央~上部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。これらの箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、ストラップからの力がかかるところを変形させることができ、ストラップに近いところに隙間ができて前側がくいこむ、という現象を緩和することができる。これによって、いろいろなバストボリュームの胸に沿わせることができ、カップのサイズ適合率が向上する。
【0051】
(第3の実施形態)
図4に、本発明のカップ部を有する衣類に係るブラジャー300A~300Dを示す。ブラジャー300Aおよび300Bは、ワイヤーブラジャーの土台部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。ブラジャー300Bは、土台部が前中心側で重なった仕様の一例である。これらの箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、土台部がバージスに沿い、ワイヤー適合率が向上する。土台部形状が、着用者の体幹部の形状に変形するので、ワイヤーが着用者の望ましい位置に配置される。
【0052】
ブラジャー300Aにおいて、例えば、一方向において引張応力値および圧迫圧力が本発明で規定する範囲内である生地を有し、一方向において引張応力到達率および圧迫圧力到達率が本発明で規定する範囲内である衣類用材料を用いる場合は、次のように用いることが好ましい。この場合、本発明の衣類用材料は、前記の一方向が身体の周方向となるように配置するとよい。ブラジャーを身体に沿わせたい方向、すなわち、体形の変化に合わせた衣類の形状変化やサイズ適合性が求められる方向は、アンダーバスト部の周方向(身体の周方向)である。例えば、ブラジャー着用時の土台部の上下方向は、必ずしも衣類が伸びることは求められない。そのため、本発明で規定する物性値を有しているのが一方向のみである衣類用材料の場合、ブラジャーにおいて前記の方向に配置すれば十分である。この態様においても、アンダーバスト部の適合率が向上し、周径方向に伸びるので、くいこみや段差が少なく、色々な周径サイズの人に適合しやすい衣類が得られる。
【0053】
ブラジャー300Cは、ブラジャーのバック部に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、アンダーバスト部の適合率が向上する。周径方向に伸びるので、くいこみや段差が少なく、色々な周径サイズの人に適合しやすい。感温柔軟樹脂シートは、着用時に曲率が高くなる部分に用いることが効果的である。
【0054】
ブラジャー300Dは、ブラジャーの全体に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。衣類の全体に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いると、圧がかからずに衣類を身体にフィットさせることができる。したがって、ある部分にサイズを合わせると他の部分が合わない(きつい、ゆるい)、という状況を解決可能となり、身体の細かい変化に合わせて、オーダーメイド的なフィットをさせることができる。また、サイズを細かくする必要がなく、どこか部分的に圧をかけることなく、色々なサイズの人に適合しやすく、楽な着用感が得られる。補整下着のように、「あるべき姿に合わせる」のではない衣類を得ることができる。
【0055】
(第4の実施形態)
図5に、本発明のボトム衣類(ガードル、ショーツ等)に係るガードル400A~400Cを示す。ガードル400Aは、ボトム衣類のウエスト部に、感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、ウエストの周径方向に伸びて、ウエストへのくいこみが少なくなり、色々なウエストサイズの人に合いやすく、ウエストの適合率が向上する。既成のサイズでは、ヒップ/ウエストの両方では合わない体型の着用者にも、ヒップ/ウエストの両方でフィットさせることができる。
【0056】
ガードル400Bは、ボトム衣類の裾部に、感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。この箇所に本発明の衣類用材料を用いることで、ボトム衣類(ガードル、ショーツ等)の臀溝、鼠径部(ショート丈の裾)、脚回りの周方向(セミロング丈の裾)に伸びて、各部へのくいこみが少なくなり、色々な脚回りサイズの人に合いやすく、裾周りの適合率が向上する。なお、ヒップかぶりを良くするために前脚くりを浅くすると、前側でくいこみやすくなるが、この箇所に本発明の衣類用材料を用いると、くいこみを防ぐことができて好ましい。
【0057】
ガードル400Cは、ボトム衣類の全体に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いたものである。衣類の全体に感温柔軟樹脂シートを含む本発明の衣類用材料を用いると、圧がかからずに衣類を身体にフィットさせることができる。したがって、ある部分にサイズを合わせると他の部分が合わない(きつい、ゆるい)、という状況を解決可能となり、身体の細かい変化に合わせて、オーダーメイド的なフィットをさせることができる。また、サイズを細かくする必要がなく、どこか部分的に圧をかけることなく、色々なサイズの人に適合しやすく、楽な着用感が得られる。補整下着のように、「あるべき姿に合わせる」のではない衣類を得ることができる。この態様での設計指針としては、想定されるサイズよりも小さめで設計して、伸びを利用して単一サイズでカバー可能としてもよい。
【0058】
以上、実施の形態の具体例として、ブラジャーおよびガードルをあげて本発明を説明したが、本発明の衣類用材料を有している衣類は、これらの具体例で記載されたもののみに限定されるものではなく、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のような衣類以外にも、ボディスーツ、ブラキャミソール、ブラスリップ、セパレートタイプの水着のトップ部、レオタード、その他各種のカップ部を有する衣類、あるいは、ショーツ、ロングタイプのボトム、その他各種のボトム衣類に適用できる。マタニティ衣類にも好適に用いることができる。また、本発明の衣類用材料を用いる部分は、上述の具体例で提示した部分に限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の衣類用材料を有している衣類は、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のようなファンデーション衣類以外にも、スポーツ衣類、アウターなど、各種の衣類に適用できる。
【符号の説明】
【0060】
100、200A、200B、200C、200D、300A、300B、300C、300D ブラジャー
400A、400B、400C ガードル
60 試験片
62 チャック
64 試験台(ステージ)
66 曲面体
68 エアパックセンサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6