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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】分析用接触液、および分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240815BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240815BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 A
G01N1/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022128877
(22)【出願日】2022-08-12
(65)【公開番号】P2024025434
(43)【公開日】2024-02-26
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジア シェイン
(72)【発明者】
【氏名】笹井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】田中 利夫
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-102686(JP,A)
【文献】特開平04-218393(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125942(WO,A1)
【文献】特表2017-520394(JP,A)
【文献】特表2016-520000(JP,A)
【文献】特開2015-068797(JP,A)
【文献】特開2015-210104(JP,A)
【文献】特開2001-027589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
G01N 1/00
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の生物由来物質を捕集した撥水性を有するフィルタ(30)の表面に接触される分析用接触液であって、
親水化成分を含んでおり
前記フィルタ(30)は、表面が分極した撥水性を有する静電フィルタであり、
前記分析用接触液は、前記親水化成分としてスルホコハク酸塩を含む水溶液であり、
前記スルホコハク酸塩の質量パーセント濃度が、0.03%以上である
分析用接触液。
【請求項2】
培養液を含んでいる
請求項1に記載の分析用接触液。
【請求項3】
前記スルホコハク酸塩の質量パーセント濃度が、0.2%未満である
請求項またはに記載の分析用接触液。
【請求項4】
空気中の生物由来物質を捕集した撥水性を有するフィルタ(30)の表面に、親水化成分を含む分析用接触液(L)を接触させる工程を含み、
前記フィルタ(30)は、表面が分極した撥水性を有する静電フィルタであり、
前記分析用接触液は、前記親水化成分としてスルホコハク酸塩を含む水溶液であり、
前記スルホコハク酸塩の質量パーセント濃度が、0.03%以上である
生物由来物質の分析方法。
【請求項5】
前記フィルタ(30)は、該フィルタ(30)を通過する空気の流速が0.05m/sである場合の圧力損失が、100Pa以下である
請求項に記載の生物由来物質の分析方法。
【請求項6】
前記フィルタ(30)は、ポリプロピレンを含んでいる
請求項またはに記載の生物由来物質の分析方法。
【請求項7】
前記分析用接触液(L)を接触させた前記フィルタ(30)で前記生物由来物質を培養させる工程を含む
請求項またはに記載の生物由来物質の分析方法。
【請求項8】
前記分析用接触液(L)中に前記フィルタを入れる工程を含む
請求項またはに記載の生物由来物質の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物由来物質の分析用接触液、および生物由来物質の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、空中浮遊菌の測定方法および装置が開示されている。この装置では、フィルタを収容したホルダにポンプ手段により空気を吸引する。その結果、空気中の浮遊菌がフィルタに捕集される。その後、ホルダ内に培養液を注入し、フィルタ上で菌を培養させる。その後、フィルタ上のコロニーを計測することで、室内の汚染度合いを評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2695531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、特許文献1に記載のようなフィルタは撥水性を有する。このため、生物由来物質を捕集したフィルタに培養液などの液体が十分に馴染まないことがあった。この場合、生物由来物質を精度よく分析することができない。
【0005】
本開示の目的は、空気中の生物由来物質を精度よく分析できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、空気中の生物由来物質を捕集した撥水性を有するフィルタの表面に接触される分析用接触液(L)であって、親水化成分を含んでいる。ここで、「生物由来物質」は、菌およびアレルゲンなど、生物の存在に起因して空気中を浮遊する物質を意味する。菌は、厳密には、細菌およびカビを含む。アレルゲンは、ダニ、花粉、生物の糞、動物の唾液などを含む。
【0007】
第1の態様では、撥水性を有するフィルタ(30)の表面に分析用接触液(L)に接触させると、分析用接触液(L)の親水化成分がフィルタ(30)に作用し、フィルタ(30)の撥水性が打ち消される。これにより、フィルタ(30)と培養液などの液体とが馴染みやすくなるので、生物由来物質を精度よく分析できる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、分析用接触液(L)は、水または生理食塩水を含んでいる。
【0009】
第2の態様では、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させる際、フィルタ(30)に水や生理食塩水を含ませることができる。フィルタ(30)は、親水化成分より撥水性が打ち消されるので、水や生理食塩水はフィルタ(30)に馴染みやすくなる。
【0010】
第3の態様は、第1または第2の態様において、分析用接触液(L)は、培養液を含んでいる。
【0011】
第3の態様では、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させる際、フィルタ(30)に培養液を含ませることができる。したがって、フィルタ(30)上で菌などを培養させることができる。フィルタ(30)は、親水化成分により撥水性が打ち消されるので、培養液はフィルタ(30)に馴染みやすくなる。
【0012】
第4の態様は、第1~第3のいずれか1つの態様において、前記親水化成分は、界面活性剤である。
【0013】
第4の態様では、分析用接触液(L)に含まれる界面活性剤によりフィルタ(30)の撥水性を打ち消すことができる。
【0014】
第5の態様は、第4の態様において、前記界面活性剤は、スルホコハク酸塩である。
【0015】
第5の態様では、分析用接触液(L)に含まれるスルホコハク酸塩によりフィルタの撥水性を打ち消すことができる。
【0016】
第6の態様は、第5の態様において、前記スルホコハク酸塩の質量パーセント濃度が、0.03%以上である。
【0017】
スルホコハク酸塩の濃度が0.03%未満であると、フィルタ(30)の撥水性を打ち消す効果が十分に得られない。第6の態様では、スルホコハク酸塩の濃度を0.03%以上とすることで、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。
【0018】
第7の態様は、第6の態様において、前記スルホコハク酸塩の質量パーセント濃度が、0.2%未満である。
【0019】
スルホコハク酸塩の濃度が0.2%以上であると、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させることで、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことがある。スルホコハク酸塩の濃度を0.2%未満とすること、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことを抑制できる。
【0020】
第8の態様は、空気中の生物由来物質を捕集した撥水性を有するフィルタ(30)の表面に、親水化成分を含む分析用接触液(L)を接触させる工程を含む生物由来物質の分析方法である。
【0021】
第8の態様では、撥水性を有するフィルタ(30)の表面に分析用接触液(L)を接触させると、分析用接触液(L)の親水化成分がフィルタ(30)に作用し、フィルタ(30)の撥水性が打ち消される。
【0022】
第9の態様は、第8の態様において、前記フィルタ(30)は、該フィルタ(30)を通過する空気の流速が0.05m/sである場合の圧力損失が、100Pa以下である。
【0023】
第9の態様では、フィルタ(30)の圧力損失が比較的小さい。このため、ポンプなど空気搬送装置によりフィルタ(30)上に生物由来物質を捕集する際、空気搬送装置の動力を低減できる。その結果、空気搬送装置の小型化できる。
【0024】
第10の態様は、第8または第9の態様において、前記フィルタ(30)は、ポリプロピレンを含んでいる。
【0025】
第10の態様では、フィルタ(30)がポリプロピレンを含むことで、フィルタ(30)の撥水性が強くなる。これに対し、親水化成分を含む分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させることで、この撥水性を打ち消すことができる。
【0026】
第11の態様は、第8~第10のいずれか1つの態様において、前記フィルタ(30)は、静電フィルタである。
【0027】
第11の態様では、フィルタ(30)が静電フィルタで構成されることで、フィルタ(30)の撥水性が強くなる。これに対し、親水化成分を含む分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させることで、この撥水性を打ち消すことができる。
【0028】
第12の態様は、第8~第11の態様において、前記分析用接触液(L)を接触させた前記フィルタ(30)で前記生物由来物質を培養させる工程を含む。
【0029】
第12の態様では、分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させることで、フィルタ(30)に培養液が馴染みやすくなる。このため、フィルタ(30)上で生物由来物質を確実に培養できる。
【0030】
第13の態様は、第8~第12の態様において、前記分析用接触液(L)中に前記フィルタを入れる工程を含む。
【0031】
第13の態様では、分析用接触液(L)中にフィルタ(30)を入れることで、フィルタ(30)のはっ撥水性を打ち消すとともに、フィルタ(30)で捕集した生物由来物質を分析用接触液(L)に溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、捕集装置の概略の構成図である。
図2図2は、生物由来物質の第1の例の分析方法のいくつかの工程の模式図である。
図3図3は、生物由来物質の第1の例の分析方法のいくつかの工程の模式図である。
図4図4は、実施形態の分析方法の評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0034】
(1)概要
本開示の分析用接触液(L)、および分析方法は、捕集装置(10)のフィルタ(30)に適用される。捕集装置(10)は、空気中の被捕集物を捕集する。被捕集物は、固体成分および気体成分を含む。固体成分は、生物由来物質をさらに含む。捕集装置(10)で捕集された被捕集物は、分析される。分析は、フィルタ(30)に捕集した生物由来物質の分析を含む。
【0035】
(2)捕集装置
捕集装置(10)は、対象空間(S)に設置される。対象空間は、例えば一般住宅の室内空間である。捕集装置(10)は、対象空間(S)の被捕集物を捕集する。被捕集物を分析することで、対象空間の空気の質を評価できる。
【0036】
図1に模式的に示すように、捕集装置(10)は、ケーシング(11)と、ファン(20)と、固体サンプラ(21)と、気体サンプラ(22)とを有する。
【0037】
ケーシング(11)の上部には、吸込口(12)が形成される。吸込口(12)は、図示を省略したシャッタにより開閉可能である。ケーシング(11)の側部には、吹出口(13)が形成される。ケーシング(11)の内部には、吸込口(12)から吹出口(13)までに亘って空気通路(15)が形成される。空気通路(15)には、空気流れの上流側から下流側に向かって順に、固体サンプラ(21)、気体サンプラ(22)、ファン(20)が配置される。
【0038】
固体サンプラ(21)は、フィルタ(30)を有する。フィルタ(30)は、空気中の固体成分を捕集する。具体的には、フィルタ(30)は、空気中の生物由来成分を捕集する。生物由来物質は、菌およびアレルゲンなど、生物の存在に起因して空気中を浮遊する物質である。菌は、厳密には、細菌およびカビを含む。アレルゲンは、ダニ、花粉、生物の糞、動物の唾液などを含む。複数の固体サンプラ(21)が、空気通路(15)に並列に設けられてもよい。
【0039】
気体サンプラ(22)は、空気中の気体成分を捕集する。気体サンプラ(22)は、空気中の気体成分を吸着する吸着部を含む。吸着部は、例えばホルムアルデヒドやアンモニアを吸着する。複数の気体サンプラ(22)が、空気通路(15)に並列に設けられてもよい。
【0040】
ファン(20)は、空気搬送装置の一例である。空気搬送装置は、例えばエアポンプであってもよい。ファン(20)は、空気通路(15)の空気を搬送する。
【0041】
ファン(20)が運転されると、対象空間(S)の空気が吸込口(12)から空気通路(15)に流入する。この空気は、固体サンプラ(21)を通過する。固体サンプラ(21)では、空気中の生物由来物質などがフィルタ(30)に捕集される。固体サンプラ(21)を通過した空気は、気体サンプラ(22)を通過する。気体サンプラ(22)では、空気中の気体成分が吸着部に吸着される。気体サンプラ(22)を通過した空気は、吹出口(13)から対象空間(S)に流出する。
【0042】
以上のようにして、捕集装置(10)には、対象空間(S)の被捕集物が捕集される。具体的には、固体サンプラ(21)のフィルタ(30)には生物由来物質が捕集され、且つ気体サンプラ(22)の吸着部には、気体成分が捕集される。
【0043】
(2-1)フィルタの詳細
固体サンプラ(21)に用いられるフィルタ(30)は、撥水性を有する。具体的には、フィルタ(30)は、表面が分極した静電フィルタである。フィルタ(30)は、電気的に固体粒子を誘引するこのため、フィルタ(30)の撥水性が強くなる。
【0044】
フィルタ(30)は、ポリプロピレンを含む。フィルタ(30)は、それを通過する空気の流速が0.05m/sである場合の圧力損失が100Pa以下である。空気の流速は、フィルタを通過する空気の流量Qを、フィルタ(30)の表面積Aで割った値(Q/A)である。フィルタ(30)は、比較的圧力損失が低いので、ファン(20)の動力を低減できる。加えて、ファン(20)を小型化でき、さらには捕集装置(10)を小型化できる。このため、捕集装置(10)の搬送が容易になる。
【0045】
(3)生物由来物質の分析
捕集装置(10)は、例えば分析業者によって回収される。分析業者は、捕集装置(10)からフィルタ(30)を取り外し、フィルタ(30)に捕集した生物由来物質を分析する。具体的には、分析業者は、フィルタ(30)に捕集した菌やアレルゲンの数を計測する。
【0046】
(3-1)分析用接触液
生物由来物質の分析方法では、分析用接触液(L)を用いる。分析用接触液(L)は、フィルタ(30)に接触することでフィルタ(30)の撥水性を打ち消す機能を有する。言い換えると、フィルタ(30)は、所定の液体をフィルタ(30)に馴染ませる浸透機能を有する。所定の液体は、菌を培養するための培養液や、アレルゲンなどを溶出させるための溶液を含む。分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させることで、液体がフィルタ(30)に浸透しやすくなり、生物由来物質の分析の精度を向上できる。
【0047】
分析用接触液(L)は、親水化成分を含んでいる。本例の分析用接触液は、親水化成分として界面活性剤を含んでいる。本開示の界面活性剤は、スルホコハク酸塩(以下、SDSともいう)である。分析用接触液は、水を含んでいる。
【0048】
分析用接触液(L)中のSDSの濃度(質量%濃度)は、0.03%以上であることが好ましい。SDSの濃度が0.03%未満であると、フィルタ(30)の撥水性を打ち消す効果が十分に得られない。SDSの濃度を0.03%以上とすることで、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。
【0049】
分析用接触液(L)中のSDSの濃度(質量%濃度)は、0.2%未満であることが好ましい。SDSの濃度が0.2%以上であると、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させることで、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことがある。SDSの濃度を0.2%未満とすること、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことを抑制できる。
【0050】
(3-2)菌の分析方法の例
生物由来物質の分析方法の第1の例について説明する。本例では、生物由来物質としての菌を分析する。なお、以下の説明の「工程」に付した、「第1」、「第2」…は、工程を区別するために用いる語句であり、必ずしも工程の順序を意味するものではない。
【0051】
まず、第1工程では、上方が開放したシャーレなどの第1容器(41)に培養液(培地)を入れる。次いで、第2工程では、培養液が溜まった第1容器(41)に、菌を捕集したフィルタ(30)を設置する(図2(A)を参照)。次いで、第3工程では、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させる。厳密には、フィルタ(30)の上面に分析用接触液(L)を滴下する(図2(B)を参照)。次いで、第4工程では、ヘラなどを用いてフィルタ(30)の表面にある分析用接触液(L)をフィルタ(30)の全体に拡げる。その結果、分析用接触液(L)の親水化成分により、フィルタ(30)の撥水性を打ち消すことができる。よって、培養液がフィルタ(30)に浸透し易くなり、フィルタ(30)上の菌と培養液との接触を促進できる。
【0052】
次いで、第5工程では、第1容器(41)を所定の環境条件下で静置する。これにより、フィルタ(30)上の菌が繁殖し、フィルタ(30)上にコロニー(C)が形成される(図2(C)を参照)。次いで、第6工程では、分析業者が、フィルタ(30)上のコロニー(C)の数を計測する。以上により、フィルタ(30)に捕集された菌の数を特定でき、さらには対象空間(S)の菌の数を特定できる。
【0053】
以上のように、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させると、フィルタ(30)上の菌と培養液の接触を促すことができる。これにより、フィルタ(30)上の菌の培養を促すことができ、菌の計測の精度を向上できる。
【0054】
本例に用いられる分析用接触液(L)のSDSの濃度は、0.03%以上であるため、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。本例に用いられる分析用接触液(L)のSDSの濃度は、0.2%未満であるため、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことを抑制できる。したがって、フィルタ(30)に捕集された菌を精度よく分析できる。
【0055】
(3-3)アレルゲンの分析方法の例
生物由来物質の分析方法の第2の例について説明する。本例では、生物由来物質としてのアレルゲンを分析する。
【0056】
まず、第11工程では、蓋(43)を有する第2容器(42)に分析用接触液(L)を入れる(図3(A)を参照)。第2容器(42)に分析用接触液(L)以外の他の液体を混入してもよい。次いで、第12工程では、分析用接触液(L)を含む溶液が入った第2容器(42)に、アレルゲンを捕集したフィルタ(30)を入れる(図3(B)を参照)。分析用接触液(L)とフィルタ(30)とが接触することで、分析用接触液(L)によりフィルタ(30)の撥水性が打ち消される。このため、フィルタ(30)と溶液とが馴染みやすくなり、フィルタ(30)上のアレルゲンが溶液中に溶出しやすくなる。
【0057】
次いで、第13工程では、第2容器(42)からフィルタ(30)を取り出す(図3(C)を参照)。次いで、第14工程では、溶液中のアレルゲンを所定の方法にて計測する。アレルゲンを計測する方法としては、例えば蛍光抗体法のような、抗体抗原反応を利用した方法がある。
【0058】
以上のように、フィルタ(30)に分析用接触液(L)を接触させると、フィルタ(30)上のアレルゲンを溶液に溶出させやすくなる。これにより、フィルタ(30)上のアレルゲンの計測の精度を向上できる。
【0059】
本例の分析方法は、菌の測定にも利用できる。具体的には、分析用接触液(L)を含む溶液が入った第2容器(42)に、菌を捕集したフィルタ(30)を入れる。分析用接触液(L)とフィルタ(30)とが接触することで、分析用接触液(L)によりフィルタ(30)の撥水性が打ち消される。このため、フィルタ(30)と溶液とが馴染みやすくなり、フィルタ(30)上の菌が溶液中に溶出しやすくなる。次いで、第2容器(42)からフィルタ(30)を取り出し、溶液中の菌を所定の方法にて計測する。これにより、フィルタ(30)上の菌の計測の精度を向上できる。
【0060】
本例に用いられる分析用接触液(L)のSDSの濃度は、0.03%以上であるため、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。本例に用いられる分析用接触液(L)のSDSの濃度は、0.2%未満であるため、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことを抑制できる。以上により、フィルタ(30)に捕集されたアレルゲンや菌を精度よく分析できる。
【0061】
(3-4)分析用接触液の検証結果
分析用接触液(L)の効果を検証した結果について、図4を参照しながら説明する。図4の横軸は、所定の対象空間(試験空間)の空気中の菌のコロニー数の基準値である。基準値は、空気中の菌のコロニー数を標準的な方法(多孔板衝突法)で計測した結果である。基準値は、試験空間の空気中の菌の真値を表すといえる。これに対し、縦軸は、フィルタ(30)上において菌を培養してコロニー数を計測した実測値である。図4の白抜きの丸は、比較例の分析方法により得た試験空間のコロニー数である。比較例の分析方法は、分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させないことを除くと、上記実施形態の第1の例の分析方法と同じである。比較例で測定したコロニー数は、真値に対して大きな誤差があった。具体的には、比較例の測定結果の真値に対する誤差は、マイナス方向に約78%であった。言い換えると、真値に対する比較例の測定結果の割合である抽出率は22%であった。この結果から、比較例では、フィルタ(30)の撥水性の影響によりフィルタ(30)に培養液が十分に馴染まず、このことに起因してコロニー数の実測値が真値よりも大きく減少したことがわかる。
【0062】
図4の黒丸は、本実施形態の第1の例の分析方法により得た試験空間のコロニー数である。本試験の分析用接触液(L)は、親水化成分である界面活性剤として、0.05質量%濃度のスルホコハク酸塩を含んでいる。
【0063】
図4から明らかなように、本実施形態の第1の例で測定したコロニー数は、真値に対して大きな誤差はなかった。本実施形態の測定結果の真値に対する誤差は、プラス方向に約18%であった。言い換えると、真値に対する本実施形態の測定結果の割合である抽出率は118%であった。この結果から、本実施形態では、分析用接触液(L)をフィルタ(30)に接触させることで、フィルタ(30)の撥水性を打ち消すことができ、フィルタ(30)上で十分な菌を培養できたことがわかる。
【0064】
(4)実施形態の効果
本実施形態の分析用接触液(L)は、空気中の生物由来物質を捕集した撥水性を有するフィルタ(30)の表面に接触される。分析用接触液(L)は、親水化成分を含んでいる。このため、分析用接触液(L)によりフィルタ(30)の撥水性を打ち消すことができる。その結果、第1の例においては、フィルタ(30)と培養液とが馴染みやすくなり、フィルタ(30)上で菌を十分に培養できる。第2の例においては、フィルタ(30)と溶液とが馴染みやすくなり、溶液中にアレルゲンなどを確実に溶出させることができる。したがって、生物由来物質の分析の精度を向上できる。
【0065】
界面活性剤は、スルホコハク酸塩である。このため、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。
【0066】
スルホコハク酸塩の濃度は、0.03%以上であるため、フィルタ(30)の撥水性を十分に打ち消すことができる。スルホコハク酸塩の濃度は0.2%未満であるため、フィルタ(30)上の菌が死滅してしまうことを抑制できる。特にスルホコハク酸塩の濃度を0.5%とすることで、図4に示すように、真値に対して大きな誤差もなく菌数を計測できる。
【0067】
(5)変形例
上述した実施形態については、以下のような変形例の構成としてもよい。
【0068】
(5-1)
分析用接触液(L)は、生理食塩水を含んでいてもよい。生理食塩水は、菌の培養を促すことができる。
【0069】
(5-2)
親水化成分は、界面活性剤以外であってもよい。例えば親水化成分は、帯電防止剤や浸透剤であってもよい。
【0070】
(5-3)
界面活性剤は、SDSでなくてもよい。界面活性剤には、イオン性界面活性剤と非イオン界面活性剤とがある。イオン性界面活性剤は、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤に分類できる。SDSはこのうち陰イオン界面活性剤であるが、SDSの代わりに同じ陰イオン界面活性剤であるココイルグリシンK、ラウロイルアスパラギン酸Na、ラウロイルラクチレートNaなどを用いてもよい。また、陽イオン界面活性剤として、ココイルグリシンK、ラウロイルアスパラギン酸Na、ラウロイルラクチレートNaを用いてもよい。また、両性イオン界面活性剤として、ココアンホ酢酸Na、コカミドプロピルベタイン、リゾレシチンを用いてもよい。また、非イオン界面活性剤として、ポリソルべート20、ラウレス-4、ステアリン酸PEG-25を用いてもよい。
【0071】
(5-4)
第1の例の分析方法においては、第1容器(41)内の培養液に分析用接触液(L)を入れた後、フィルタ(30)を設置してもよい。あるいは、第1容器(41)内に培養液を含んだ分析用接触液(L)を入れた後、フィルタを設置してもよい。これらの分析方法においても、分析用接触液(L)とフィルタ(30)とが接触することで、フィルタ(30)の撥水性を打ち消すことができる。
【0072】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態の要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0073】
以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上に説明したように、本開示は、分析用接触液、および生物由来物質の分析方法について有用である。
【符号の説明】
【0075】
30 フィルタ
L 分析用接触液
図1
図2
図3
図4