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  • 特許-表面被覆切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240815BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20240815BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
C23C16/40
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021004849
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109499
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】真田 智啓
(72)【発明者】
【氏名】小林 航
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196726(JP,A)
【文献】特開2012-144766(JP,A)
【文献】特開2014-188626(JP,A)
【文献】特開2013-111720(JP,A)
【文献】特開2020-131320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
C23C 16/36 - 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体と該工具基体の表面に被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
1)前記被覆層は、その平均層厚が7.0~27.0μmであり、前記工具基体の側から工具表面に向かって、順に、下部層、中間層、上部層を有し、
2)前記下部層は、その平均層厚が3.0~20.0μmであって、TiCN層を含むTi化合物層を有し、
3)前記中間層は、その平均層厚が2.0~10.0μmであって、Al層を含み、該Al層は前記下部層の側の平均結晶粒子幅が1.0μm以下であり、前記上部層の側の平均結晶粒子幅が0.3μm以上であって、かつ、前記下部層の側の平均結晶粒子幅より大きく、
4)前記上部層は、その平均層厚が1.0~7.0μmであって、前記中間層に最も近い側にTiCN層を含むTi化合物層を有し、前記TiCN層の前記中間層の側の平均結晶粒子幅が前記中間層Al層の前記上部層の側の平均結晶粒子幅より小さい、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記上部層の上部に表面層を有し、その平均層厚が0.3~3.0μmであって、前記表面層はα-Al層を含み、前記α-Al層の平均結晶粒子幅が0.1~2.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記表面被覆工具の逃げ面とすくい面が交わる刃先稜線部は、前記上部層または前記中間層が露出していることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削工具の切削性能の改善を目的として、従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金等の工具基体の表面に、Ti化合物等の被覆層を蒸着法により被覆形成した被覆工具がある。これは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られているが、さらなる被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工具基体の表面に該工具基体の側から、平均結晶粒幅が0.1~1μmの柱状晶で構成される下層TiCN層と、Al層と、平均結晶粒幅が前記下層TiCN層の平均結晶幅がより大きい柱状晶にて構成される上層TiCNを有した被覆工具が記載され、該被覆工具は工具基体との初期欠損が抑制されて優れた耐摩耗性を有しているとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、すくい面、逃げ面、並びに、前記すくい面と前記逃げ面との交差部で面取りエッジを伴う切れ刃を有する工具基体と、第1層および第2層を有する被覆層とを備え、前記第2層が、内側アルミニウム酸化物層、中間層、および外側アルミニウム酸化物層からなるサンドイッチ構造を含み、前記内側アルミニウム酸化物層が、前記外側アルミニウム酸化物層の開口を通じて露出されており、前記開口が、切れ刃の少なくとも一部の幅を越え、かつ、直交する方向で切れ刃の少なくとも一部に沿って延在している被覆工具が記載され、該被覆工具は耐クレータ摩耗性、耐フランク摩耗性、エッジ靱性、耐フレーキング性、および塑性変形に対する耐性のうち、一つ以上の改善が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-196726号公報
【文献】特開2016-502936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、耐欠損性を低下させることなく、優れた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具は、
工具基体と該工具基体の表面に被覆層を有し、
1)前記被覆層は、その平均層厚が7.0~27.0μmであり、前記工具基体の側から工具表面に向かって、順に、下部層、中間層、上部層を有し、
2)前記下部層は、その平均層厚が3.0~20.0μmであって、TiCN層を含むTi化合物層を有し、
3)前記中間層は、その平均層厚が2.0~10.0μmであって、Al層を含み、該Al層は前記下部層の側の平均結晶粒子幅が1.0μm以下であり、前記上部層の側の平均結晶粒子幅が0.3μm以上であって、かつ、前記下部層の側の平均結晶粒子幅より大きく、
4)前記上部層は、その平均層厚が1.0~7.0μmであって、前記中間層に最も近い側にTiCN層を含むTi化合物層を有し、前記TiCN層の前記中間層の側の平均結晶粒子幅が前記中間層の前記Al層の前記上部層の側の平均結晶粒子幅より小さい、
ことを特徴とする。
【0008】
さらに、前記実施形態に係る表面被覆切削工具は、以下(1)~(2)の各事項の一つ以上を満足してもよい。
【0009】
(1)前記上部層の上部に表面層を有し、その平均層厚が0.3~3.0μmであって、前記表面層はα-Al層を含み、前記α-Al層の平均結晶粒子幅が0.1~2.0μmであること。
【0010】
(2)前記表面被覆工具の逃げ面とすくい面が交わる刃先稜線部は、前記上部層または前記中間層が露出していること。
【発明の効果】
【0011】
前記によれば、耐欠損性、耐摩耗性に優れた表面被覆切削工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具の縦断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、耐欠損性、耐摩耗性に優れた表面被覆切削工具を得るべく鋭意検討した。その結果、被覆層が、Alを含む中間層を、TiCNを含むTi化合物を有する下部層と、TiCNを含むTi化合物を有する上部層で挟む積層構造を有し、前記中間層における下部層の側と上部層の側の平均結晶粒子幅がそれぞれ所定の値であって、この平均結晶粒子幅と上部層の中間層側の平均結晶幅との間に所定の関係があるとき、表面被覆切削工具が耐摩耗性を向上しつつ耐欠損性も抑制するという新規な知見を得た。
【0014】
以下では、本発明の実施形態の被覆工具について詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)と下限値(L)の単位は同じである。
【0015】
1.被覆層
本実施形態において、工具基体上の被覆層は、その平均層厚が7.0~27.0μmである。平均層厚をこの範囲とする理由は、平均層厚が7.0μm未満では、薄いため長期の使用にわたっての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、27.0μmを超えると、被覆層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなるためである。
【0016】
そして、本実施形態の被覆層(6)は、図1に示すように中間層(3)としてAlを含む層を工具基体側のTiCN層を含むTi化合物を有する層(下部層(2))と工具基体(1)の表面の側のTiCN層を含む層(上部層(4))により挟む積層構造を有しており、さらに、上部層の上にAl層を有する表面層(5)を更に有していてもよい。
なお、表面層の平均層厚は、前述の被覆層の平均層厚が7.0~27.0μmには含まれない。
【0017】
以下、積層構造を構成する各層について説明する。なお、以下で述べる化合物の組成は、化学量論的組成に限定されるものではない。
【0018】
(1)下部層
下部層である工具基体側のTi化合物層は、TiCN層のみであっても、TiCN層の他に、他のTi化合物層、すなわち、Tiの炭化物、窒化物、炭酸化物および炭窒酸化物層のうちの1または2以上を有してもよい。すなわち、TiCN層の他にTi化合物層を有していてもよい。そして、TiCN層とTi化合物層との平均層厚の比は、特に制約はないが、TiCN層が下部層の層厚の8割以上を占めることが好ましい。
【0019】
下部層は、その平均層厚が3.0~20.0μmであることが好ましい。その理由は、3.0μm未満であると下部層が有する優れた耐摩耗性が十分に発揮されず、一方、20.0μmを超えると被覆層内での剥離が起こりやくなるためである。
【0020】
(2)中間層
中間層は、Al層を含み、その平均層厚は2.0~10.0μmであることが好ましい。その理由は、2.0μm未満であると中間層が発揮する熱的安定性および耐摩耗性が向上する働きが十分に発揮されず、一方、10.0μmを超えると被覆層内での剥離が起こりやくなるためである。
【0021】
中間層のAl層は、下部層の側の平均結晶粒子幅が1.0μm以下であり、上部層の側の平均結晶粒子幅が0.3μm以上であり、かつ、工具基体の側の平均結晶粒子幅よりも大きいことが好ましい。
【0022】
その理由は、Al層の下部層の側の平均結晶粒子幅が1.0μmを超えると被覆工具の耐摩耗性が損なわれ、一方、上部層の側の平均結晶粒子幅が0.3μm未満であると、中間層と上部層との付着強度が低下し、被覆工具の耐欠損性が低下し、かつ、上部層の側の平均結晶粒子幅が下部層の側の平均結晶粒子幅と同じか小さいときは、被覆工具の耐摩耗性が十分に向上しないためである。
【0023】
(3)上部層
上部層は、TiCN層を含むTi化合物層であって、TiCN層のみであっても、TiCN層の他に、他のTi化合物、すなわち、Tiの炭化物、窒化物、炭酸化物および炭窒酸化物層のうちの1または2以上を有してもよい。すなわち、TiCN層が中間層に最も近い側にあれば、TiCN層の他にTi化合物層を有していてもよい。そして、TiCN層とTi化合物層との平均層厚の比は、特に制約はないが、TiCN層が上部層の層厚の9割以上を占めることが好ましい。
【0024】
上部層は、その平均層厚が1.0~7.0μmであることが好ましい。その理由は、1.0μm未満であると、上部層が有する耐摩耗性が向上する働きが十分に発揮されず、一方、7.0μmを超えると、被覆層内での剥離が起こりやくなるためである。
【0025】
上部層のTiCN層の中間層の側の平均結晶粒子幅は、中間層のAl層の上部層の側の平均結晶粒子幅よりも小さいことが好ましい。これは、前記TiCN層の中間層の側の平均結晶粒子幅が中間層のAl層の上部層の側の平均結晶粒子幅以上の平均結晶粒子幅であると、上部層と中間層との付着強度が低下し、耐欠損性が低下するためである。
【0026】
(4)表面層
表面層の存在は必須ではないが、存在すると表面被覆切削工具の耐欠損性、耐摩耗性がより一層向上する。
表面層は、その平均層厚が0.3~3.0μmであって、α-Al層を含み、前記α-Al層の平均結晶粒子幅が0.1~2.0μmあることが好ましい。表面層にはα-Al層の他に、例えば、TiC層、TiN層を有してもよい。
【0027】
表面層の平均層厚を前記範囲とする理由は、0.3μm未満であると、表面層が有する耐溶着性向上の働きが十分に発揮されず、一方、3.0μmを超えると、上部層との間で剥離が生じやすくなるからである。α-Al層が表面層の層厚の5割以上を占めることが好ましい。
【0028】
また、表面層のα-Al層の平均結晶粒子幅を前記範囲とする理由は、0.1μm未満であると、表面層と表面層が有する耐溶着性向上の働きが十分に発揮されず、一方、2.0μmを超えると、上部層との付着強度が低下するためである。
【0029】
(5)刃先稜線部
逃げ面とすくい面が交わる刃先稜線部は、研磨により上部層(多層のときは一部の層であってもよい)または中間層が露出していてもよい。このようにすると加工中の被削材と工具との反応が抑制され、溶着が起こりにくくなるためである。
【0030】
研磨により上部層もしくは中間層を露出させるために、具体的には、研磨粒子を含有したナイロンブラシにて切れ刃稜線部を機械的に研磨するか、または、弾性砥石にて機械的に研磨することが好ましい。
【0031】
ここで、刃先稜線部とは、すくい面と逃げ面とが交差する稜を示すものであるが、このような稜は、上部層または中間層を露出させるためにホーニング処理により加工されているため現実には存在せず、したがって本実施形態においては、すくい面と逃げ面とをそれぞれ直線で近似し、その直線を延長したときに両延長線が交差する交点を刃先稜線とする。
【0032】
2.工具基体
(1)材質
工具基体は、この種の工具基体として従来公知の基材であれば、本発明の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用可能である。一例を挙げるならば、超硬合金(WC基超硬合金、WCの他、Coを含み、さらに、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、cBN焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0033】
(2)形状
工具基体の形状は、切削工具として用いられる形状であれば特段の制約はなく、インサートの形状、ドリルの形状が例示できる。
【0034】
3.平均層厚の測定
ここで、被覆層を構成する各層の平均層厚は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)等を用いて、被覆層を任意の位置の縦断面(工具基体の表面に概ね垂直な面)で切断して観察用の試料を作製し、その縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、あるいはSEMまたはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)装置を用いて複数箇所(例えば、5箇所)で観察して、平均することにより得ることができる。
【0035】
すなわち、平均層厚を測定する層の工具基体の側の境界を工具基体の表面に沿って、50~100μmの間隔で2点求める。この求めた2点を直線で結び、この直線に対して垂直二等分線を工具の表面側(被覆層の表面側)に向かって引き、この直線上の当該層の境界点を求める。この境界点と前記直線と垂直二等分線との交点との間の距離を層厚とし、同様の測定を5箇所以上に行って、平均層厚を求める。
【0036】
4.平均結晶粒幅の測定
各層の平均粒子幅は、以下の手順によって算出する。観察視野を複数として、それぞれの結果を平均し平均結晶粒子幅とすることが好ましい。
【0037】
(1)観察視野の決定
被覆層断面を研磨し、この研磨した面をSEMで観察する。隣接する層同士は組成が異なるためコントラストの違いがあり、隣接する層を区別し両者の境界を視認することができる。表面層は必ずしも存在しないが、以下の説明では、表面層が存在する場合を説明する。
具体的には、まず、被覆層の全体が観察できる倍率で隣接する2層間の各々の境界のおよその位置を特定する。
【0038】
次に、この2層間の特定した各境界のおよその位置に合わせて工具基体の表面と概ね平行な方向に、それぞれの境界が10μmの長さとなる観察視野の倍率まで観察倍率をあげる。
【0039】
(2)前記(1)で決めた観察視野における界面の決定
前記(1)で定めた観察視野の電子顕微鏡画像において、コントラストが異なる2つの層の境界上に線をそれぞれ引く。この線は全部で3本あり、それぞれを隣接する層の界面とする。
この界面とした線の長さは、10μmを少し超える程度であるが、どのくらい超えるかは、2つの層の境界の形状により決める。
【0040】
(3)前記(2)で作成し界面とした線の長さを測定
前記(2)で作成した界面上の線を以下のようにそれぞれ100等分し、等分した各点において隣接する点同士を直線で結び、この隣接する点同士の距離を測定し、その距離の和を3本あるそれぞれの線の長さとみなす。具体的には、前記(2)で作成した層の境界上の線の両端の点を直線で結び、この直線を100等分した各点において、この直線に対して垂直な直線を作成し、この垂直な直線のそれぞれと前記(2)で作成した界面上の線との交点の位置を定め、隣接する前記交点同士を直線で結び長さを求める。
【0041】
すなわち、
L1:中間層のAl層と下部層側で隣接する層との長さ
L2:中間層のAl層と上部層側で隣接する層(TiCN層)との長さ
L3:表面層のα-Al層と上部層側で隣接する層との長さ
とする。
このとき、隣接する点同士の距離(長さ)は、電子顕微鏡の拡大倍率により定められる縮尺を用いることで測定できる。
【0042】
(4)平均結晶粒の算出
(4-1)下部層側の中間層のAl層の平均粒子幅算出
前記(3)で作成した、下部層側で隣接する層と中間層のAl層との界面とした線の両端を結んだ直線に垂直な方向を、工具の表面方向と定義する。
この工具の表面方向(中間層の内部)に向かって、下部層側で隣接する層と中間層のAl層との界面とした線を0.2μm平行移動させる。
そして、この平行移動した線が横切る結晶粒の数(N1)を数える。
次に、前記(3)で求めたL1をN1で除して、その値を、中間層のAl層の下部層側の平均結晶粒子幅とする。
【0043】
(4-2)上部層側の中間層のAl層の平均粒子幅の算出
前記(3)で作成した、中間層のAl層と上部層側で隣接する層(TiCN層)との界面とした線の両端を結んだ直線に垂直な方向を、工具の表面方向と定義する。
この工具の表面方向の反対方向(すなわち、工具基体の表面方向で、中間層の内部)に向かって、中間層のAl層と上部層側で隣接する層との界面とした線を0.2μm平行移動させる。
そして、この平行移動した線が横切る結晶粒の数(N2)を数える。
次に、前記(3)で求めたL2をN2で除して、その値を、中間層のAl層の上部層側の平均結晶粒子幅とする。
【0044】
(4-3)上部層(TiCN層)の中間層側の平均粒子幅の算出
前記(3)で作成した、中間層のAl層と上部層側で隣接する層との界面とした線の両端を結んだ直線に垂直な方向を、工具の表面方向と定義する。
この工具の表面方向に(上部層の内部)向かって、中間層のAl層と上部層との界面とした線を0.2μm平行移動させる。
そして、この平行移動した線が横切る結晶粒の数(N3)を数える。
次に、前記(3)で求めたL2をN3で除して、その値を、上部層の中間層側の平均結晶粒子幅とする。
【0045】
(4-4)表面層の平均粒子幅の算出
前記(3)で作成した、表面層のα-Al層の上部層側で隣接した層との界面とした線の両端を直線で結ぶ。この直線に垂直な方向を、工具の表面方向と定義する。
この工具の表面方向に向かって、表面層のα-Al層と上部層側で隣接した層の界面とした線を表面層のα-Alの平均層厚の半分だけこのα-Al層の内部に向かって平行移動させる。
そして、この平行移動した線が横切る結晶粒の数(N4)を数える。
次に、前記(3)で求めたL3をN4で除して、その値を、表面層の平均結晶粒子幅とする。
【実施例
【0046】
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明の被覆工具の実施例として、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体は前述のものであればよく、また、工具としてドリル、エンドミル等に適用した場合も同様である。
【0047】
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意した。これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形した。この圧粉成形体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.06mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α、βを製造した。
【0048】
次に、この工具基体α、βの表面に、表2で示す条件により下部層、上部層、表面層を成膜した。また、中間層は、表3に示す成膜条件により成膜を行った。成膜された被覆層の構成を表4に、その平均層厚、平均粒子幅等を表5に示す。
【0049】
ここで、表3に示す中間層を成膜の成膜条件について、説明を加えると、この成膜条件は、次の第1~3段階から構成した。すなわち、第1段階では0.1μmの層厚に、続く第2段階も1.0μmの層厚になるよう成膜時間を定めて成膜し、最後の第3段階の成膜にて狙い層厚(表5に示す平均層厚)になるよう成膜時間を調整した。
【0050】
第1段階は、概ね次のとおりであった。
反応ガス組成(容量%):AlCl:0.5~2.0%、CO:0.5~1.5%、
CO:0.5~1.5%、Ar:25~35%、
:残り
反応雰囲気温度:950~1000℃
反応雰囲気圧力:7~10kPa
【0051】
第2段階は、概ね次のとおりであった。
反応ガス組成(容量%):AlCl:1.0~3.0%、CO:0.5~2.0%、
HCl:1.0~3.0%、HS:0.1~0.3%、
:残り
反応雰囲気温度:950~1000℃
反応雰囲気圧力:7~10kPa
【0052】
第3段階は、概ね次のとおりであった。
反応ガス:AlCl 1.0~1.8%、CO 3.0~5.0%、
HCl 1.0~3.0%、HS 0.5~1.0%、H 残り
反応雰囲気温度:950~1000℃
反応雰囲気圧力:7~10kPa
【0053】
次いで、本発明工具の一部については切れ刃稜線部の被覆層について磨粒子を含有したナイロンブラシもしくは弾性砥石にて機械的に研磨を行い、表5に示した中間層もしくは上部層が露出している本発明被覆工具1 ~ 9 を製造した。
【0054】
一方、比較のために、この工具基体α、βの表面に、表2で示す条件により下部層、上部層、表面層を成膜した。また、中間層は、表3に示す成膜条件により成膜を行った(実施例と同様に3段階の成膜操作を行った)。なお、比較工具の一部については切れ刃稜線部の被覆層について磨粒子を含有したナイロンブラシもしくは弾性砥石にて機械的に研磨を行い、表6に示した中間層もしくは上部層が露出している比較被覆工具1 ~ 9 を製造した。成膜された被覆その構成を表4に、その平均層厚、平均粒子幅等を表6に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
次いで、実施例1~9および比較例1~9について、以下の切削条件で、加工試験を実施した。
【0062】
切削条件(湿式切削)
被削材: 外径200mmSCM435の4本スリット入り丸棒
切削速度: 200m/min.
切り込み: 3.0mm
送り: 0.35 mm/tooth.
切削時間 8 min
切削試験の結果を表7に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
表7の結果から明らかなように、実施例は、良好な切削性能を示すが、比較例は、短時間で被覆層が剥離し、あるいは、チッピングが発生し、短時間で寿命に至っている。
【符号の説明】
【0065】
1 工具基体
2 下部層
3 中間層
4 上部層
5 表面層
6 被覆層
図1