(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/20 20060101AFI20240815BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240815BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20240815BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240815BHJP
【FI】
C25B1/20
C25B9/00 C
C02F1/20 A
C02F1/461 101Z
(21)【出願番号】P 2019199829
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月17日に発行された、Heliyon,第4巻,第11号,No.e00923(発行元Elsevier Ltd.)で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206656
【氏名又は名称】林 修身
(72)【発明者】
【氏名】佐野 吉彦
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特許第0172112(JP,C1)
【文献】特開昭57-177980(JP,A)
【文献】特開2002-306118(JP,A)
【文献】特開昭54-125198(JP,A)
【文献】特開2013-028523(JP,A)
【文献】特開昭51-077586(JP,A)
【文献】特開昭52-063900(JP,A)
【文献】特開昭60-161787(JP,A)
【文献】特公昭48-002679(JP,B1)
【文献】特開平05-058601(JP,A)
【文献】特開2012-057230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C02F 1/20-1/26
C02F 1/30-1/38
C02F 1/46-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマグネシウムイオンを含む
海水を電解することによって、水に対して難溶性のマグネシウム水酸化物を生成させて回収するマグネシウムの回収方法であって、
アノードとカソードとを有する電解槽を、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画し、該カソード側槽に前記
海水を導入
する一方、前記アノード側槽に塩素イオンを含まない非塩素系電解水を導入して、前記カソード側槽から前記アノード側槽への陰イオンの移動を制限した状態で電解を行う
ことを特徴とするマグネシウムの回収方法。
【請求項2】
前記非塩素系電解水が、硫酸ナトリウム水溶液である
ことを特徴とする請求項
1に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項3】
前記硫酸ナトリウム水溶液の濃度が、重量濃度5%以上である
ことを特徴とする請求項
2に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項4】
前記マグネシウム水酸化物を回収するための電解によって前記アノード側槽の
前記非塩素系電解水から前記カソード側槽に移動した陽イオンを含む再生用水溶液を、陽イオン交換膜にて区画された再生槽の一方の区画に導入し、前記マグネシウム水酸化物を回収するための電解を終了した前記非塩素系電解水を前記再生槽の他方の区画に導入して、前記陽イオンを前記再生用水溶液から該非塩素系電解水に移行させて再生させる再生工程を含む
ことを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項5】
前記
海水に溶解している炭酸ガスの濃度を低減する炭酸ガス除去工程を含み、該炭酸ガス除去工程にて炭酸ガスの濃度が低減された
前記海水を電解してマグネシウムを回収する
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項6】
前記炭酸ガス除去工程が、前記
海水を加熱する加熱工程を含む
ことを特徴とする請求項
5に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項7】
前記炭酸ガス除去工程が、前記
海水を電解することによって炭酸カルシウムを生成させる工程を含む
ことを特徴とする請求項
5または請求項
6に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項8】
マグネシウムを回収する電解において海水1リットル当りに印加する電気量を12000クーロン以下とする
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項9】
前記アノードを構成する電極が、イオン化傾向が銀より小さい物質を有する不溶性電極である
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項10】
アノードとカソードとを有する電解槽と、
前記アノードと前記カソードに電解用電力を供給可能な電源手段と、
電解によって生成する難
水溶性のマグネシウム水酸化物を回収可能な回収手段と、
を備えるマグネシウム回収装置であって、
前記電解槽が、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画され、
前記アノード側槽に塩素イオンを含まない非塩素系電解水を供給するとともに、海水を前記カソード側槽に供給するための供給手段を備える
ことを特徴とするマグネシウム回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置として、流入口と、流出口と、上壁面と下壁面とにアノードとカソードと、を有するとともに、上部側と下部側とを仕切る隔壁および隔膜とを有する電解処理容器を、海中に投入して電気分解(電解)を行い、カソード電解水中にマグネシウムを水酸化マグネシウムとして析出させて回収するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、電解によってカソード電解水中に生成した陰イオンである水酸化物イオンが隔膜を通過してアノード電解水に移動可能であるので、マグネシウム水酸化物の生成効率が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、マグネシウム水酸化物の生成効率を向上させることのできるマグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のマグネシウムの回収方法は、
少なくともマグネシウムイオンを含む海水を電解することによって、水に対して難溶性のマグネシウム水酸化物を生成させて回収するマグネシウムの回収方法であって、
アノードとカソードとを有する電解槽を、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画し、該カソード側槽に前記海水を導入する一方、前記アノード側槽に塩素イオンを含まない非塩素系電解水を導入して、前記カソード側槽から前記アノード側槽への陰イオンの移動を制限した状態で電解を行う
ことを特徴としている。
この特徴によれば、カソード側槽で発生した水酸化物イオンがアノード側槽へ移動してしまうことを防いで、カソード側槽における水酸化物イオン濃度を効率良く高められるため、マグネシウム水酸化物の生成効率を向上させることができる。また、海水から安価にマグネシウムを回収できるとともに、電解によってアノード側において、有害な塩素ガスが発生してしまうことを防止できるので、塩素ガスの処理コストによってマグネシウムの回収コストが上昇してしまうことも抑えることができる。
【0008】
本発明の請求項2に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項1に記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記非塩素系電解水が、硫酸ナトリウム水溶液である
ことを特徴としている。
この特徴によれば、入手が容易であって安価な硫酸ナトリウムを使用することで、非塩素系電解水を使用することによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑えることができる。
【0009】
本発明の請求項3に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項2に記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記硫酸ナトリウム水溶液の濃度が、重量濃度5%以上である
ことを特徴としている。
この特徴によれば、アノード側からカソード側へ輸送される水素イオンによる中和反応を十分に防ぐことができる。
【0010】
本発明の請求項4に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項1~3のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記マグネシウム水酸化物を回収するための電解によって前記アノード側槽の前記非塩素系電解水から前記カソード側槽に移動した陽イオンを含む再生用水溶液を、陽イオン交換膜にて区画された再生槽の一方の区画に導入し、前記マグネシウム水酸化物を回収するための電解を終了した前記非塩素系電解水を前記再生槽の他方の区画に導入して、前記陽イオンを前記再生用水溶液から該非塩素系電解水に移行させて再生させる再生工程を含む
ことを特徴としている。
この特徴によれば、非塩素系電解水を再生して繰り返し使用でき、マグネシウムの回収コストを低減できる。
【0011】
本発明の請求項5に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項1~4のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記海水に溶解している炭酸ガスの濃度を低減する炭酸ガス除去工程を含み、該炭酸ガス除去工程にて炭酸ガスの濃度が低減された前記海水を電解してマグネシウムを回収する
ことを特徴としている。
この特徴によれば、回収されるマグネシウムに含まれる不純物であるカルシウムの量を低減でき、マグネシウムの純度を高めることができる。
【0012】
本発明の請求項6に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項5に記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記炭酸ガス除去工程が、前記海水を加熱する加熱工程を含む
ことを特徴としている。
この特徴によれば、溶解している炭酸ガスを簡便に除去できる。
【0013】
本発明の請求項7に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項5または請求項6に記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記炭酸ガス除去工程が、前記海水を電解することによって炭酸カルシウムを生成させる工程を含む
ことを特徴としている。
この特徴によれば、溶解している炭酸ガスを除去できる。
【0014】
本発明の請求項8に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項1~7のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法であって、
マグネシウムを回収する電解において海水1リットル当りに印加する電気量を12000クーロン以下とする
ことを特徴としている。
この特徴によれば、水溶液中に含まれるカルシウムの水酸化物がマグネシウム水酸化物とともに回収されてしまい、マグネシウムの純度が低下してしまうことを防ぐことができる。
【0015】
本発明の請求項9に記載のマグネシウムの回収方法は、請求項1~8のいずれかに記載のマグネシウムの回収方法であって、
前記アノードを構成する電極が、イオン化傾向が銀より小さい物質を有する不溶性電極である
ことを特徴としている。
この特徴によれば、電極を構成する物質のイオンが、マグネシウム回収後の水溶液中に含まれて、環境に与える影響が大きくなってしまうことを防ぐことができる。
【0016】
本発明の請求項10に記載のマグネシウム回収装置は、
アノードとカソードとを有する電解槽と、
前記アノードと前記カソードに電解用電力を供給可能な電源手段と、
電解によって生成する難水溶性のマグネシウム水酸化物を回収可能な回収手段と、
を備えるマグネシウム回収装置であって、
前記電解槽が、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画され、
前記アノード側槽に塩素イオンを含まない非塩素系電解水を供給するとともに、海水を前記カソード側槽に供給するための供給手段を備える
ことを特徴としている。
この特徴によれば、カソード側槽で発生した水酸化物イオンがアノード側槽へ移動してしまうことを防いで、カソード側槽における水酸化物イオン濃度を効率良く高められるため、マグネシウム水酸化物の生成効率を向上させることができる。また、海水から安価にマグネシウムを回収できるとともに、電解によってアノード側において、有害な塩素ガスが発生してしまうことを防止できるので、塩素ガスの処理コストによってマグネシウムの回収コストが上昇してしまうことも抑えることができる。
【0017】
尚、本発明は、本発明の請求項に記載された発明特定事項のみを有するものであって良いし、本発明の請求項に記載された発明特定事項とともに該発明特定事項以外の構成を有するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるマグネシウムの回収装置の構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態のマグネシウムの回収装置における電気分解槽の構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における電解スタック2に使用した流路を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における試験条件を示す表である。
【
図5】電流とマグネシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】電流とカルシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。
【
図7】マグネシウムイオンの濃度と単位体積電気量との関係を示すグラフである。
【
図8】カルシウムイオンの濃度と単位体積電気量との関係を示すグラフである。
【
図9】各流量と各単位体積電気量におけるマグネシウムイオンとカルシウムイオンの濃度測定値を示す表である。
【
図10】陽極側槽20aと陰極側槽20bのpH値の変化を示すグラフである。
【
図11】(a)は、単位体積電気量3600C/Lの沈殿物のマッピングSEM画像であり、(b)は、単位体積電気量14400C/Lの沈殿物のマッピングSEM画像である。
【
図12】(a)は、単位体積電気量3600C/Lの沈殿物のEDS分析結果であり、(b)は、単位体積電気量14400C/Lの沈殿物のEDS分析結果である。
【
図13】各脱気処理した海水と脱気処理していない海水とのマグネシウムイオンと単位体積電気量との関係を示したグラフである。
【
図14】各脱気処理した海水と脱気処理していない海水とのカルシウムイオンと単位体積電気量との関係を示したグラフである。
【
図15】各脱気処理した海水の電気分解における、各単位体積電気量におけるマグネシウムイオンとカルシウムイオンの測定値を示す表である。
【
図16】(a)は、沸騰脱気処理した海水の沈殿物のマッピングSEM画像であり、(b)は、酸添加脱気処理した海水の沈殿物のマッピングSEM画像であり、(c)は、非脱気の海水の沈殿物のマッピングSEM画像である。
【
図17】(a)は、沸騰脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果であり、(b)は、酸添加脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果であり、(c)は、非脱気の海水の沈殿物のEDS分析結果である。
【
図18】本発明の第2実施形態におけるマグネシウムの回収装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施形態1】
【0020】
図1は、本発明のマグネシウムの回収方法を適用したマグネシウム回収装置の一例を示す装置構成図である。
【0021】
本実施形態1のマグネシウム回収装置は、
図1に示すように、電気分解を行うための電気分解槽(電解槽)である電解スタック2と、該電解スタック2に設けられた陽極2aと陰極2cに電気分解用の電力(電解電力)を供給するための直流電源装置(電源手段)1と、電解スタック2に供給される海水(海洋深層水)および重量濃度5%硫酸ナトリウム水溶液を貯留するための海水タンク7および硫酸ナトリウム水溶液タンク8と、電解スタック2において電解処理された処理済みの海水および硫酸ナトリウム水溶液を貯留するための陰極溶液タンク10および陽極溶液タンク9と、陰極溶液タンク10に貯留されている処理済みの海水を濾過して、該処理済みの海水に沈降せずに含まれているマグネシウム水酸化物である水酸化マグネシウムを回収するための濾過装置16と、から主に構成されており、連続的に電気分解を行うことが可能な装置とされている。
【0022】
電解スタック2の下方と硫酸ナトリウム水溶液タンク8および海水タンク7とは、導入配管13aおよび導入配管13cにて接続されており、硫酸ナトリウム水溶液タンク8および海水タンク7に貯留されている硫酸ナトリウム水溶液と海水とは、電解スタック2の下方から電解スタック2内部に導入されて、電解スタック2の上方から排出される。
【0023】
尚、導入配管13a,13cの経路上には、
図1に示すように、各導入配管13a,13cに対応して流量を可変可能なポンプ14a,14cが設けられており、該ポンプ14a,14cによって電解スタック2に供給される硫酸ナトリウム水溶液と海水の流量が、ポンプ14a,14cを動作させるためのインバータ電源6a,6cによって個別に調整可能とされている。本実施形態1では、後述するように、回収条件を検討するために流量を変化させる必要から流量を可変可能なポンプ14a,14cとして、例えば、MG204XPD17-10S,MAGPON GEAR(日機装エイコー株式会社商品名)を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、流量を可変不能なポンプを用いるようにしてもよい。また、インバータ電源6a,6cとしては、使用するポンプに応じて適宜に選定すればよい。
【0024】
また、導入配管13a,13cの経路上には、
図1に示すように、導入配管13c、13aを介して電解スタック2に供給される硫酸ナトリウム水溶液と海水の流量を計測するための流量計3a,3cが設けられているとともに、弁(バルブ)4a,4cが設けられている。尚、流量計3a,3cとしては、例えば、ハンディロガーGL200A(グラフテック社製商品名)を使用することができる。
【0025】
本実施形態1では、
図1に示すように、海洋深層水を貯留可能な予備海水タンク11が海水タンク7に接続されているとともに、海水タンク7と予備回数タンク11との間には、海洋深層水に含まれている二酸化炭素を脱気するための脱気処理装置12が設けられている。
【0026】
本実施形態1の脱気処理装置12は、海洋深層水(海水)を加熱沸騰させて二酸化炭素を脱気させる沸騰脱気系統と、海洋深層水(海水)に酸を添加して二酸化炭素を脱気させる酸添加脱気系統の2つの脱気処理系統を内部に有しており、これらを切り替えて使用可能とされている。
【0027】
一方、電解スタック2の上方と陽極溶液タンク9と陰極溶液タンク10とは、排出配管15aおよび排出配管15cにて接続されており、電解スタック2において電解処理されて排出された処理済みの硫酸ナトリウム水溶液と海水とが、陽極溶液タンク9と陰極溶液タンク10とに貯留される。
【0028】
尚、陰極溶液タンク10には、上記したように、濾過装置16が接続されており、陰極溶液タンク10において沈降せずに、処理済み海水に含まれている水酸化マグネシウムが濾過される。
【0029】
図2は、本実施形態1の電解スタック2の構成を示す図である。本実施形態1の電解スタック2は、
図2に示すように、陽極2aと陰極2cとを備えるとともに、陽極2aと陰極2cとの間に設けられたイオン交換膜2bにより区画された電気分解槽(電解槽)である。
【0030】
詳しくは、電解槽の中央に、陽イオン交換膜2bをシリコーンゴムで加圧することによって配置して、電解槽を陽極(アノード)側槽20aと陰極(カソード)側槽20bとに区画している。尚、本実施例では、陽イオン交換膜として、1価の陽イオンであるナトリウムイオンを交換可能なCMB(株式会社アストム社製商品名)を使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、陽極(アノード)側槽20aに導入する水溶液に溶解している電解質、特に陽イオンの価数に応じて、適宜に選択すればよい。
【0031】
また、電解スタック2の陽極(アノード)側槽20aに硫酸ナトリウム水溶液タンク8から供給される硫酸ナトリウム水溶液の濃度は、陽極側から陰極側へ輸送される水素イオンによる中和反応を防ぐのに十分な濃度とすることが好ましく、具体的には、電解スタック2の出口で得られる溶液中のpH値を測定することによる検討の結果、重量濃度5%の高濃度の硫酸ナトリウム水溶液とすればよい。
【0032】
電解スタック2に設けられている陽極2aと陰極2cとしては、電解によって水溶液に侵食されることがなく、電気電導度が高く、機械的強度に優れ、さらに価格が安いことが好ましいことから、チタン板に白金メッキを施した白金メッキチタン板を用いている。この白金電極は化学安定性が高く、電気分解によっても水溶液中に白金が溶解してしまうことがない。また、これら白金メッキ層の厚みも、メッキ層の欠落部(欠陥部)がないような適宜な厚みを有するものであればよい。尚、本実施形態1では、メッキによって白金層を表面に形成した電極としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、価格面や機械的強度が問題なければ、電極自体を全て白金板としてもよいし、電極をカーボン素材から構成してもよく、この場合にはカーボン素材の表面がナノポーラス金属等の導電性部材でコーティングされていることが好ましい。
尚、本実施形態では、電解スタック2に設けられている陽極2aとして白金メッキチタン板を使用した形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら陽極2aとしては、イオン化傾向が銀(Ag)以上であると電極が酸化されて溶解してしまうことから、イオン化傾向が銀(Ag)より小さい物質であれば、白金以外の物質、例えば、金(Au)や炭素(C)等の物質を、少なくとも表面に有する電極とすればよい。
また、陰極側は還元反応となるので、電解スタック2に設けられている陰極2cはいずれの金属も使用できる。
【0033】
ここで、本実施形態1において、電解スタック2に使用した流路を
図3に示す。流路は、厚み5mmの板状のシリコーンゴムの中央部を、
図3に示すように、くりぬいて流路としたものを使用し、その一方面に電極が配置され、他方面に陽イオン交換膜が配置される。
【0034】
具体的には、一方面の中央部に白金メッキチタンが配置されたシリコーンゴム板を2枚作成し、2枚のシリコーンゴム板の上記他方面間に陽イオン交換膜2bを挟んで圧着固定することによって
図2に示される電解スタック2を形成している。
【0035】
よって、流路の中央となる部分の一方面に電極が配置されていることにより、該電極が配置された範囲が電解によって化学反応が起こる領域となる。尚、化学反応が起こる領域の寸法は、長さ600mm、奥行き5mm、幅20mmである。
【0036】
尚、
図3では、流路が水平方向となるように図示しているが、本実施形態1では、流路が地面に対して略垂直となるように配置して、各水溶液を下方から重力の逆方向に供給しており、このようにすることで、流路を水平配置した場合に、陰極側槽20bでの水酸化マグネシウムの生成よって生じた流路の詰まりの発生を防ぐことができた。
【0037】
上記のようにして形成したシリコーンゴム製の電解スタック2の陽極側槽20aに硫酸ナトリウム水溶液を導入するとともに陰極側槽20bに海水を導入しつつ、陽極2aと陰極2cとに電流を流すと電気分解反応が起こる。水の電気分解により陰極2cで生成する水酸化物イオンと海水中のマグネシウムイオンとが反応し、水酸化マグネシウムとして析出する。
【0038】
更に、本実施形態1では陽イオン交換膜2bを用いているため、陰極2cで生成する陰イオンである水酸化物イオンが陽イオン交換膜2bを通過できず、陽極側槽20aに移動することができないので、陰極側槽20bのpH値を、少ない電力量にて効率良く上昇させることが可能となり、水酸化マグネシウムを効率良く生成させることができる。また、陰極側槽20bに導入される海水に含まれる陰イオンである塩素イオンについても、水酸化物イオンと同じく陽イオン交換膜2bを通過できず、陽極側槽20aに移動することができないため、陽極側槽20aに塩素イオンが含まれない状態にて電気分解が行われるようになるので、陽極2aにおいて塩素ガスが発生してしまうことがなく、陽極2aにおいては酸素ガスが発生する。尚、陰極2cでは、水素ガスが発生する。
【0039】
次に、上記した本実施形態1の装置を使用して、マグネシウムの回収条件について試験した。尚、本試験においては、海水と硫酸ナトリウム水溶液の流量を同じに設定し、
図4に示すように、20ml/分、40ml/分、60ml/分の3組の流量を選定した。更に、各流量に合わせて海水の単位体積あたりの電気量を変えて試験を行った。また、本試験では、限界電流密度を越えないように電気量を設定したため、陽イオン交換膜2bの境界層に水の解離が発生しない。試験条件の詳細を
図4に示す。海水単位体積あたりの電気量(以下、単位体積電気量と称す)は、3600C(クーロン)/L(リットル)、7200C/L、10800C/L、14400C/Lを選定した。
【0040】
また、試験においては、脱気処理装置16の効果を後述する比較において明確となるように、脱気処理装置16を作動させず、非脱気の海水を使用して実施した。
【0041】
試験において、沈殿物を含む電解処理後の海水は、電解が定常状態に達した後で、ガラス製ビーカで電解スタック2の出口から採取した。電解処理後の海水中の化学反応が充分に反応するまで、ビーカを密封し30分間放置した。その後,充分に反応した溶液をろ紙で濾過して沈殿物を水溶液から分離した。海水中の塩化ナトリウムなどの水溶性化合物が沈殿物に付着しないように純水で3回洗い流した。次に、沈殿物を乾燥させた後に走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析(EDS)にて表面状態および構成元素の分析を行った。ろ過した水溶液は,希釈装置で各イオンに合わせて超純水を用いて適切な倍率に希釈した。希釈した溶液は誘導結合プラズマ(ICP)によって各元素の濃度分析を行った。
【0042】
図5は、電流とマグネシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。
図5に示すように、マグネシウムイオン濃度は流量の低下と共に減少する。これは、電気量が同じ場合、陰極2cで生成した水酸化物イオンの量も同じため、流量を低下させると、単位体積に含まれる水酸化物イオンが多くなるためである。一方で、マグネシウムイオンの濃度は印加した電流の増加と共に減少する。これは,印加した電流を増加させると、電極反応によって生成した水酸化物イオンの量も増加し、水酸化物イオンと反応して水酸化マグネシウムとなったマグネシウムイオンも増加するためである。
【0043】
図6は、電流とカルシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。カルシウム濃度と流量の関係はマグネシウムイオンと同じように流量の低下と共に減少した。更に,カルシウムの生成反応は
図6に示すように2段階に分かれる。1段階は水酸化マグネシウムの生成と同時に軽微に減少する。これは、電気分解を行うと共に、陰極側槽20bの海水のpH値が上昇し、海水中に存在する炭酸系イオンが炭酸イオンに変換された後、カルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムとして沈殿したためである。2段階ではマグネシウムイオンと水酸化物イオンの反応によって、マグネシウムイオンが消費された後にカルシウムの濃度が減少する。これは、水酸化マグネシウムの反応が進むにつれて海水中のマグネシウムイオンが比例して減少し、カルシウムイオンの割合が多くなったために、カルシウムイオンと水酸化物イオンとの化学反応が起こり始め、カルシウムイオンは水酸化カルシウムとして沈殿することで、カルシウムイオンの濃度が減少する。
【0044】
図9は、各流量と各単位体積電気量におけるマグネシウムイオンとカルシウムイオンの濃度測定値を示す表であり、該測定値に基づくグラフを
図7および
図8に示す。
【0045】
図7は、測定したマグネシウムイオンの濃度と単位体積電気量との関係を示すグラフである。横軸を単位体積電気量とすると、流量によらず同じ単位体積の電気量の下でイオン濃度が一致する。これは、陰極2cでの水酸化物イオンの生成が電流と比例するため、マグネシウムイオンの濃度変化が体積電気量に依存することが解る。一方、未脱気の海水の場合には、海水中のマグネシウムイオンが、単位体積電気量が10000C/L~14400C/Lの間、より詳しくは、グラフの傾斜により計算すると約12000C/Lにてほぼ完全に回収できることが解る。
【0046】
図8は、測定したカルシウムイオンの濃度と単位体積電気量との関係を示すグラフである。カルシウムイオンは、マグネシウムイオンと異なり、単位体積電気量が少なく、電気分解の初期の段階である場合に濃度が少し減少するものの、3600C/L~7200C/Lまでの間については、ほぼ変化せず、10000C/L(より詳しくは10800C/L)から大きく減少している。これは、電気分解の初期の段階においては、後述するように、水酸化マグネシウムの生成と並行して、水酸化物イオンの生成によるpH値の上昇によって、海水に含まれる二酸化炭素とカルシウムとが反応して炭酸カルシウムが析出してカルシウムイオンの濃度が少し減少したものである。そして、海水に含まれる二酸化炭素が全て消費された後は炭酸カルシウムが析出しないので、カルシウムイオンは減少せず、水酸化マグネシウムが析出し、マグネシウムイオンがほぼ消費される10000C/L(より詳しくは10800C/L)近くまでは、カルシウムイオンの濃度は、ほぼ減少せず、海水中のほぼ全てのマグネシウムイオンが消費された後に、カルシウムイオンが水酸化カルシウムとして消費されることで減少することが解る。
【0047】
次に、陽極側槽20aと陰極側槽20bのpH値の変化を
図10に示す。単位体積電気量の増加と共に陽極2aにおいて水素イオンが発生するため、陽極側槽20aの硫酸ナトリウム水溶液のpH値は低下する。一方、陰極2cにおいては、単位体積電気量の増加と共に水酸化物イオンが生成することで陰極側槽20bの海水のpH値は上昇する。
【0048】
図10に示すように、pH値は、電解スタック2に入力した単位体積電気量(C/L)に依存することが解る。更に、水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの溶解度積が異なり、反応に必要なpH環境も異なるため、陰極側槽20bの海水のpH値の変化は2段階に分かれている。陰極側槽20bの海水のpH値は単位体積電気量3600C/Lと10000C/Lの間の条件下で9.8に留まり、10000C/L(より詳しくは10800C/L)以上となると再び増加する。
これは、3600C/L~10000C/L(より詳しくは10800C/L)の区間で水酸化マグネシウムの生成より水酸化物イオンが消耗されたため、陰極側槽20bの海水のpH値が9.8に留まる。10000C/Lを超える際にマグネシウムイオンの減少につれて水酸化カルシウムの生成が始まり、pH値が上昇する。
【0049】
次に、回収した沈殿物についての分析結果を示す。沈殿物の成分を検証するために、電気分解を行った際に陰極側槽20bで生成した沈殿物を走査電子顕微鏡(SEM)により表面状態の観察を行うと同時に、エネルギー分散型X線分析(EDS)にて構成元素の成分分析を行い、エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果にもとづいて、SEM画像のマッピングを行った。
【0050】
図11(a)は、流速40ml/分で単位体積電気量3600C/Lの沈殿物のマッピングSEM画像であり、
図11(b)は、流速40ml/分で単位体積電気量14400C/Lの沈殿物のマッピングSEM画像である。尚、マッピングSEM画像においては、薄いグレーの部分で平滑性を有している部分がマグネシウム化合物であり、濃いグレーの部分で、比較的大きな結晶となって平滑性を有していない部分がカルシウム化合物である。
【0051】
図7、
図8や、後述の脱気による試験結果である
図12、
図13、
図14等より、
図11(a)のカルシウム化合部は、炭酸カルシウムであり、
図11(b)のカルシウム化合物は、水酸化カルシウムと考えられる。また、
図8に示されるように、単位体積電気量3600C/Lと単位体積電気量7200C/Lとの比較で、カルシウムイオン濃度はほとんど減少していないため、単位体積電気量7200C/Lの場合も、単位体積電気量3600C/Lの
図11(a)と同じような沈殿物のマッピングSEM画像が得られると考えられる。
単位体積電気量12000C/Lでは、マグネシウムは完全に回収できる。ただし、海水中のマグネシウムだけではなくカルシウムも析出してしまい、回収するマグネシウムの純度が低くなってしまう。そのため、後工程で、マグネシウムの精製が必要となる。
また、単位体積電気量10800C/Lでは、マグネシウムは、ほぼ全量が回収できる。海水中のマグネシウムだけではなくカルシウムの析出があるものの、析出するカルシウムの量は少量であり、マグネシウムの純度は高い。よって、該単位体積電気量近辺が、マグネシウムの回収率が高いとともに、カルシウムの析出も少ないので、高効率でかつ高純度のマグネシウムを回収できることから工業用マグネシウム用途としては十分に実用的なマグネシウムが得られる単位体積電気量である。
また、単位体積電気量3600C/L~7200C/Lの範囲では、マグネシウムの回収率は、上記した単位体積電気量10800C/Lの場合よりも少ないが、カルシウムの析出は殆どなく、マグネシウムの純度は最も高い。医薬品や試薬等の用途でマグネシウムの純度が求められる場合に有効な単位体積電気量である。
【0052】
次に、エネルギー分散型X線分析(EDS)の成分分析の結果を
図12に示す。尚、エネルギー分散型X線分析(EDS)測定には炭素を含むシールが必要であるため、沈殿物中の炭素含有量は測定していない。従って、EDS分析結果における百分率は、炭素を除いた値を表示している。
【0053】
図12(a)は、流速40ml/分で単位体積電気量3600C/Lの沈殿物のEDS分析結果であり、
図12(b)は、流速40ml/分で単位体積電気量14400C/Lの沈殿物のEDS分析結果である。
【0054】
図12からも解るように、EDS分析結果では陽イオンであるカルシウムイオンとマグネシウムイオンのみが検出されている。これは、陰極側槽20bの海水に存在する溶解性の高い化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどがろ過中に純水に洗い流されたためである。また、
図10に示したように、単位体積電気量3600C/Lと10000C/L(より詳しくは10800C/L)の間に海水のpH値の上昇がなく、電気分解によって生成された水酸化物イオンが水酸化マグネシウムの生成化学反応に消耗されたためと判断できる。
【0055】
更に、カルシウムイオンはマグネシウムイオンがほぼ回収された後に減少し始めるため、2段階で生成したカルシウム化合物物は水酸化カルシウムであると判断できる。
【0056】
次に、海水中の二酸化炭素の脱気より、回収される水酸化マグネシウムの純度を向上できることについて以下に説明する。
【0057】
上述したように、陰極側槽20bにおいて電気分解によって水酸化物イオンが生成してpH値が上昇すると、海水中のマグネシウムイオンが析出するのと並行して炭酸マグネシウムが析出して、回収するマグネシウムイオンに炭酸マグネシウムが混入して水酸化マグネシウムの純度が低下する。
【0058】
このため、炭酸マグネシウムが混入してしまうことを防ぐために、海水中の二酸化炭素である炭酸系イオンを取り除く脱気処理を行うことが有効である。
【0059】
これら脱気処理としては、気体である二酸化炭素の溶解度はヘンリーの法則によって液温が上昇すると低下するので、電解スタック2に供給する前の海水を加熱沸騰して二酸化炭素を脱気する沸騰脱気処理と、炭酸系イオンの存在比が溶液中のpH値より変化するため、海水のpH値を、酸を添加して酸性に変えることで炭酸系イオンを二酸化炭素として脱気する酸添加脱気処理とを行った。
【0060】
よって、本実施形態1では、前述したように、脱気処理装置12には、沸騰脱気処理を行う沸騰脱気系統と、酸添加脱気処理を行う酸添加脱気系統の2つの脱気処理系統が設けられており、各脱気処理を切り替えて行うことが可能とされている。
【0061】
尚、本実施形態1の脱気処理装置12としては、2系統を有する形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらのいずれか一方の系統のみを有するものであっても良いし、更には、2系統の両方の処理を重複して実施できるものであってもよい。
【0062】
沸騰脱気処理としては、海水を100℃で5分間加熱して処理する。また、酸添加脱気処理としては、塩酸の添加によって海水のpH値を3まで低下させ、重炭酸イオンを二酸化炭素へ変換させて海水から除去する。尚、酸添加の場合には、電気分解によって生成する水酸化物イオンにより中和されることになる。
【0063】
尚、本実施形態1では、脱気処理装置12で脱気処理した海水を、海水タンク7に24時間(1日)程度、貯留してから電解スタック2に供給して電気分解を行った。
【0064】
電気分解としては、流量40ml/分で電気分解スタック2の陰極側槽20bの排出口から採取した水溶液をろ過し沈殿物と水溶液を分離させた後に、水溶液を誘導結合プラズマ(ICP)にて成分分析を行った。また沈殿物を、走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析(EDS)にて表面状態および構成元素の分析を行った。
【0065】
図15は、各脱気処理した海水の電気分解における、各単位体積電気量におけるマグネシウムイオンとカルシウムイオンの測定値を示す表であり、
図13は、各脱気処理した海水と脱気処理していない海水とのマグネシウムイオンと単位体積電気量との関係を示したグラフであり、
図14は、各脱気処理した海水と脱気処理していない海水とのカルシウムイオンと単位体積電気量との関係を示したグラフである。尚、非脱気については、
図9における流量40ml/分の測定データを使用している。
【0066】
図13のグラフから、沸騰脱気処理した海水中の水酸化マグネシウムの生成速度は非脱気の海水よりわずかに速いことが解る。更に、
図14のグラフから、沸騰脱気処理された海水は単位体積電気量0C/Lと7200C/Lの間にカルシウムイオンが減少していない。そのため、非脱気の海水における1段階で生成したカルシウム化合物は、海水のpH値の上昇によって生成した炭酸カルシウムであることが解る。
【0067】
よって、
図13のグラフは、海水に含まれるカルシウムイオンによる炭酸カルシウムの影響をほぼ含まず、海水中のマグネシウムイオンだけを回収するのに電気量が使用されているものと捉えることができ、この
図13のグラフから、海水のマグネシウムの電解における単位体積電気量を10000C/L(より詳しくは10800C/L)程度に留めておくことで、海水中のほぼ全てのマグネシウムを回収しつつ、水酸化カルシウムの析出による純度低下が著しく少ない、高純度の水酸化マグネシウムを回収することができることが解る。
【0068】
一方、
図14のグラフに示すように、酸添加脱気処理の場合は、1段階で生成した炭酸カルシウムがわずかに減少した。海水に酸を添加することで二酸化炭素の存在比が高くなる。しかし、一部の炭酸は溶解性より外部に放出されたが、全ての二酸化炭素を除去することができるわけではない。したがって、電気分解を行う場合には水の電気分解によって溶液のpH値が再び上昇するため、二酸化炭素はまた炭酸イオンに戻って、カルシウムイオンと反応し、炭酸カルシウムとして沈殿したもの考えられる。
【0069】
このように、炭酸カルシウムの混入を防ぐ脱気処理としては、沸騰脱気処理が優れているものの、海水を沸騰させるには、多くのエネルギーが必要となるとともに装置が大型となって処理コストが増大してしまう畏れがあるのに対し、酸添加脱気処理は、酸を添加するだけであるので、処理コストの上昇を抑えることができるので、いずれの脱気処理を選択するかは、回収したい水酸化マグネシウムの純度と、許容できる処理コストとの兼ね合いから適宜に選択すればよい。また、沸騰脱気処理や酸添加脱気処理に限らず、その他の脱気方法でもよい。
【0070】
次に、脱気処理した海水の沈殿物のマッピングSEM画像を
図16に示す。
図16(a)は、沸騰脱気処理した海水の沈殿物のマッピングSEM画像であり、
図16(b)は、酸添加脱気処理した海水の沈殿物のマッピングSEM画像であり、
図16(c)は、非脱気の海水の沈殿物のマッピングSEM画像であり、
図11(a)と同じ画像である。尚、
図16に示す各マッピングSEM画像の単位体積電気量は3600C/Lであり、単位体積電気量が7200C/Lでも同様のマッピングSEM画像となる。
【0071】
図16(c)に示すように、脱気処理なしの海水の沈殿物の表面にはカルシウム化合物が点在しているが、
図16(a),(b)には濃いグレーの部位はほぼ存在しておらず沸騰脱気処理や添加脱気処理した海水の沈殿物では、カルシウム化合物が明らかに減少していることが解る。
【0072】
また、
図17に、脱気処理した海水の沈殿物のエネルギー分散型X線分析(EDS)の成分分析の結果を示す。
図17(a)は、沸騰脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果であり、
図17(b)は、酸添加脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果であり、
図17(c)は、非脱気の海水の沈殿物のEDS分析結果である。
【0073】
図17(c)に示す脱気処理なしの海水の沈殿物のEDS分析結果と、
図17(a)の沸騰脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果や、
図17(b)の酸添加脱気処理した海水の沈殿物のEDS分析結果とを比較すると、脱気処理した海水の沈殿物のカルシウム元素の存在比が顕著に減少した。これにより、炭酸カルシムの生成に対して、沸騰法と酸添加法が有効であることが証明できた。また、このEDS分析結果によって、脱気処理を行った沈殿物のマグネシウムイオンとカルシウムイオンのモル比は、沸騰脱気処理が30.54:0.41であり,酸添加法が31.23:0.28である。そのため、脱気処理によって、純度99%のマグネシウム化合物が回収できることが解る。更に、炭酸カルシウムを含まないマグネシウム化合物にはマグネシウムと酸素のモル比が1:2であるため、マグネシウム化合物は水酸化マグネシウムであることが解る。
【実施形態2】
【0074】
図18は、実施形態2のマグネシウム回収装置の構成を示す図である。本実施形態2のマグネシウム回収装置の特徴点は、主に、以下の2点である。
【0075】
第1点は、前述した実施形態1では、水酸化マグネシウムの沈殿物に混入する炭酸カルシウムを低減するために、海水中に含まれる重炭酸イオンとして含まれる二酸化炭素を脱気することで炭酸カルシウムを低減しているのに対し、本実施形態2では、第1段階の電解によって海水中に含まれる重炭酸イオンとして含まれる二酸化炭素を、炭酸カルシウムとして除去している点。
【0076】
第2点は、電解において陽極側槽20aにて使用した硫酸ナトリウム水溶液を再生して再使用している点。
【0077】
本実施形態2のマグネシウム回収装置は、
図18に示すように、主に、2つの電解スタック(電解槽)21,22と、1つの再生槽30とから構成されている。尚、
図18における「P」は、ポンプを示し、「FM」は流量計を示す。尚、
図18では、紙面の都合上、
図1に示した直流電源装置1や、ポンプを駆動するインバータ電源6a,6c等については記載を省略している。
【0078】
2つの電解スタック21,22は、実施形態1において用いた
図2、
図3に示すように、陽イオン交換膜2bにて陽極側槽20aと陰極側槽20bに区画された電解スタック2と同一の構成を有している。
【0079】
そして、第1電解を行う第1電解スタック21と第2電解を行う第2電解スタック22とは、
図18に示すように、第1電解スタック21の陽極側槽20aの硫酸ナトリウム水溶液が第2電解スタック22の陽極側槽20aに導入され、第1電解スタック21の陰極側槽20bの海水が第2電解スタック22の陰極側槽20bに導入されるように直列に配管接続されている。
【0080】
尚、第1電解スタック21の陰極側槽20bと第2電解スタック22の陰極側槽20bを繋ぐ配管経路上には、第1濾過装置40が設けられており、第1電解スタック21における電気分解によって析出した水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムとが、該第1濾過装置40によって濾過され、濾過後の海水が第2電解スタック22の陰極側槽20bに供給されるようになっている。
【0081】
また、本実施形態2のマグネシウム回収装置には、
図18に示すように、
図2に示す電解スタック2から電極を取り除いた形態、つまり、陽イオン交換膜に仕切られた2つの区画を有する再生槽30が設けられており、該再生槽30の一方の区画に第2電解スタック22の陽極側槽20aから排出された硫酸ナトリウム水溶液が供給され、該再生槽30の他方の区画に第2電解スタック22の陰極側槽20bから排出された海水が供給されるように接続されている。
【0082】
そして、再生槽30の一方の区画において再生された硫酸ナトリウム水溶液は、
図18に示すように、第1電解スタック21の陽極側槽20aに供給されて再使用される一方、再生槽30の他方の区画から排出された海水は海へ排水される。
【0083】
次に、本実施形態2のマグネシウム回収装置における処理の流れについて説明すると、第1電解スタック21の陰極側槽20bには、海水タンクに貯留された脱気処理されていない海水(海洋深層水)がポンプによって供給され、第1電解スタック21の陽極側槽20aには、再生された硫酸ナトリウム水溶液が供給される。尚、再生された硫酸ナトリウム水溶液について、硫酸ナトリウムの濃度を測定して、濃度が重量濃度5%に達していない不十分な濃度である場合には、硫酸ナトリウムを添加して十分な濃度に調整するようにしてもよい。
【0084】
そして、第1電解スタック21において、
図18に示すように、3600C/Lの単位体積電気量にて一次電解を実施する。3600C/Lにて電解する理由としては、実施形態1にて上述したように、カルシウムイオン濃度の変化を示す
図8のグラフにおいて3600~7200C/Lの期間においてはカルシウムイオン濃度がほぼ変化してしないことから、海水中に含まれる重炭酸イオン(二酸化炭素)による炭酸カルシウムの析出は、3600C/Lの単位体積電気量となるまでに既に完了していると考えられることに基づいている。
【0085】
つまり、3600C/Lの単位体積電気量にて一次電解を行うことで、海水中に重炭酸イオンとして含まれる二酸化炭素がほぼ全て炭酸カルシウムの析出に消費されるので、一次電解後の海水には、重炭酸イオン(二酸化炭素)がほぼ含まれておらず、該海水をさらに電気分解しても炭酸カルシウムが殆ど析出することがなく、これら炭酸カルシウムが殆ど析出することがない状態で二次電気分解を行って水酸化マグネシウムを析出させることができる。よって、実施形態2の一次電解(脱気(カルシウム除去)工程)は、本発明の炭酸ガス除去工程に該当する。
【0086】
これら一次電解された海水は、第1濾過装置40にて濾過されて、該一次電解にて析出した炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムとが海水から分離され、分離後の濾液である海水が第2電解スタック22の陰極側槽20bに供給される。
【0087】
そして、第2電解スタック22において、
図18に示すように、8400C/Lの単位体積電気量にて二次電解を実施する。8400C/Lにて電解する理由としては、実施形態1にて上述したように、一次電解と二次電解の合計単位体積電気量が12000C/Lを超えると、水酸化カルシウムの析出が多くなって回収される水酸化マグネシウムに水酸化カルシウムが混入してしまい、回収される水酸化マグネシウムの純度が低下してしまうことを防ぐためである。
なお、後工程で、水酸化カルシウムを取り除き、水酸化マグネシウムを精製する場合は、海水から完全にマグネシウムを回収できる合計単位体積電気量12000C/L以上(例えば、14400C/L)で電解してもよい。また、合計単位体積電気量10800C/Lにて電解した場合も、実施形態1にて説明したように、少量のカルシウム(水酸化カルシウム)の析出はあるため、さらに水酸化マグネシウムの純度を上げたい場合は、カルシウム(水酸化カルシウム)の析出が始める前の合計単位体積電気量7200C/Lにて電解してもよい。その場合は、海水からのマグネシウムの回収率は合計単位体積電気量10800C/Lの場合よりも少し下がることになるが、高純度でマグネシウム回収が可能となる。
【0088】
このようにして第2電解スタック22において二次電解を行った海水を第2濾過装置41にて濾過することで、海水中に含まれるほぼ全量のマグネシウムを不溶性の水酸化マグネシウムとして回収できるとともに、これら回収される水酸化マグネシウムには、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムが殆ど含まれないので、高純度の水酸化マグネシウムを回収できる。
【0089】
そして、二次電解を終えた海水及び硫酸ナトリウム水溶液は、
図18に示すように、再生槽30の各区画に供給される。
【0090】
この再生槽30では、
図18に示したように、第1電解および第2電解によって海水に移行したナトリウムイオンが、陽イオン交換膜を通過して硫酸ナトリウム水溶液側に戻るように移行することで、硫酸ナトリウム水溶液が再生されるとともに、第1電解および第2電解によって高濃度となった硫酸ナトリウム水溶液中の水素イオンが陽イオン交換膜を通過して海水側に移行して、第1電解および第2電解によって高濃度となった海水中の水酸化物イオンと反応して中和することで、海水のpH値を大きく低下させることができ、元の海水からマグネシウムを回収しただけの状態で、該pH値が低下した海水を海に排出することができる。
【0091】
以上、上記した実施形態によれば、陽イオン交換膜2bによってアノード2aを有するアノード側槽20aとカソード2cを有するカソード側槽20bとに区画し、カソード側槽20bに、マグネシウムイオンを含む水溶液である海水を導入して、カソード側槽20bからアノード側槽20aへの陰イオンである水酸化物イオンの移動を制限した状態で電解を行うことで、カソード側槽20bにおける水酸化物イオン濃度を少ない電力による電解にて効率良く高められるため、マグネシウム水酸化物の生成効率を向上させることができる。
【0092】
また、カソード側槽20bで発生した水酸化物イオンがアノード側槽20aに移動して、アノード側槽20aにて生成する陽イオンである水素イオンと接触して電解の電力効率が低下してしまうことも防ぐことができるので、電解の電力効率を向上させることができるとともに、マグネシウム水酸化物の生成が単位体積電気量に依存するようになるので、単位体積電気量によって電解による回収(析出)の状況を的確に把握することもできる。
【0093】
また、上記した実施形態によれば、少なくともマグネシウムイオンを含む水溶液として、容易に入手できて安価である海水を用いているので、安価にマグネシウムを回収できる。
【0094】
また、上記した実施形態によれば、陽イオン交換膜を用いることで、アノード側槽20aへの塩素イオンの移動を制限しているとともに、アノード側槽20aに、塩素イオンを含まない非塩素系電解水である硫酸ナトリウム水溶液を使用しているため、アノード側槽20aにおいて有害な塩素ガスが発生してしまうことを防止できるので、塩素ガスの処理コストや非塩素系電解水を使用することによってマグネシウムの回収コストが上昇してしまうことを抑えることができる。
【0095】
また、上記した実施形態2によれば、再生槽30において、電解によって硫酸ナトリウム水溶液から減少した陽イオンであるナトリウムイオンを、海水から硫酸ナトリウム水溶液に戻して再生し、該再生した硫酸ナトリウム水溶液を繰り返し使用することが可能となるので、マグネシウムの回収コストをより一層低減できる。
【0096】
また、上記した実施形態1によれば、脱気処理装置12において海水中に重炭酸イオンとして含まれている二酸化炭素を、沸騰脱気や酸添加脱気によって除去しているので、回収される水酸化マグネシウムに混入してしまう炭酸カルシウムの量を低減でき、回収される水酸化マグネシウムの純度を高めることができる。
【0097】
また、上記した実施形態1によれば、海水を加熱沸騰させる沸騰脱気を行うことで、溶解している炭酸ガスを簡便に除去できる。
【0098】
また、上記した実施形態2によれば、海水中に重炭酸イオンとして含まれている二酸化炭素を、第1電解を行って炭酸カルシウムとして回収することによって除去しているので、高純度の水酸化マグネシウムを回収できるとともに、炭酸カルシウムも回収することができる。
【0099】
また、上記した実施形態2によれば、海水の電解に印加する総単位体積電力量を14400(3600+10800)C/Lとしているので、海水に含まれるマグネシウムイオンのほぼ全量を回収できるとともに、海水中に含まれるカルシウムの水酸化物がマグネシウム水酸化物とともに回収されてしまい、マグネシウムの純度が低下してしまうことも防ぐことができる。
【0100】
また、上記した実施形態によれば、アノード2aとカソード2cを構成する電極が、表面に白金層を有するチタン電極であるので、電極を構成する金属イオンが、マグネシウム回収後の海水に含まれて、環境に与える影響が大きくなってしまうことを防ぐことができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0102】
例えば、上記実施形態では、少なくともマグネシウムイオンを含む水溶液を海水とした形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらマグネシウムイオンを含む水溶液を、例えば、マグネシウム鉱物等を処理することでマグネシウムイオンを含む水溶液としてもよいし、例えば、海水を逆浸透膜によって真水化処理した処理後の水溶液であってもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、少なくともマグネシウムイオンを含む水溶液である海水を連続して処理する形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら処理を、例えば、電解スタック2に海水を満たして電解を実施した後、電解後の海水を新たな海水に入れ替えて、電解スタック2に貯留可能な海水単位にてバッチ形態で処理するものであってもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、有害な塩素ガスを発生させないようにするために、アノード側槽20aに非塩素系電解水である硫酸ナトリウム水溶液を導入する形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、塩素ガスの処理が可能な場合や、生成する塩素ガスを利用したい場合においては、アノード側槽20aに、カソード側槽20bと同じく海水を導入するようにしてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、塩素ガスの発生を防止するための塩素イオンを含まない非塩素系電解水として、入手がし易く安価である硫酸ナトリウムを使用した形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら非塩素系電解水としては、ナトリウム以外の他の硫酸塩であってもよいし、ナトリウム硝酸塩やナトリウム以外の他の硝酸塩であってもよく、その水溶液をアノード側槽20aに導入して電解したときに、塩素ガスを発生しない水溶性塩の水溶液であればよい。尚、カソード側槽20bの導入される水溶液が、海水の場合のナトリウムイオンのような陽イオンを含む場合には、該陽イオンと共通の陽イオンを含む硫酸塩や硝酸塩とすればよい。これら硫酸塩や硝酸塩の水溶液が一般的であるが、硫酸塩や硝酸塩以外のリン酸塩、シュウ酸塩、クロム酸塩の水溶液であってもよい。また、これらの酸によって塩を形成する陽イオンとしては、種類を選ばず、ナトリウム、カリウム等のどのイオンでも可能である。ただし、一価の陽イオン交換膜を使用する場合は,一価の陽イオンにする必要がある。
【0106】
また、上記実施形態では、硫酸ナトリウム水溶液の重量濃度を5%とした形態を例示しているが、これらの濃度は、使用する非塩素系電解水の種類に応じて、適宜に決定すればよく、その濃度としては、アノード側槽20aにて生成する水素イオンがカソード側槽20bに殆ど移動せずに、非塩素系電解水に含まれる陽イオンだけがカソード側槽20bに移動する濃度とすればよい。
【0107】
また、上記実施形態2では、再生槽30の硫酸ナトリウム水溶液が供給される槽とは異なる槽に二次電解を終えた海水を供給した形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら二次電解を終えた海水に代えて、未処理の海水を供給してもよいし、或いは、ナトリウムイオン等の、電解によって非塩素系電解水において減少した陽イオンを高濃度に含む再生専用の水溶液を供給するようにしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態2では、排出する海水のpH値を調整していないが、pH値が高い場合には、酸を添加する等によってpH値を実際の海水に近い値に調整するようにしてもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、カソード2cに炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等の析出物が付着した場合に、極性を入れ替えて付着した析出物を剥離することを想定して、アノード2aとカソード2cの双方を白金メッキチタン電極とした形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、カソード2cについては、白金層を表面に有していない金属電極を用いてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、特に実施していないが、カソード側槽20bに供給される海水等の水溶液に、電極への析出物の付着を阻害可能な添加物を添加してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、特に実施していないが、第2電解スタック22と再生槽30との間に、第3電解スタックを設けて、該第3電解スタックに、第2電解後の海水と硫酸ナトリウム水溶液を供給して電解することで、海水中のカルシウムを水酸化カルシウムとして回収するようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、特に実施していないが、電解によって生成する水素や酸素を回収して利用してもよいことはいうまでもない。
【0113】
また、上記実施形態では、脱気処理装置16を専用に設けた形態を例示していが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、これら脱気処理を行う装置が、個別に設けられているものであってもよく、例えば、発電所の冷却に使用された海水を脱気処理済みの海水として使用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の活用例として、電解によってマグネシウムを回収した海水には、炭酸ガス(重炭酸イオン)が含まれていないため、該海水に工業的に生成する二酸化炭素を吸収させることに利用することも可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 直流電源装置
2 電解スタック
2a 陽極
2b 陽イオン交換膜
2c 陰極
3a 流量計
3c 流量計
4a 弁(バルブ)
4c 弁(バルブ)
6a インバータ電源
6c インバータ電源
7 海水タンク
8 硫酸ナトリウム水溶液タンク
9 陽極溶液タンク
10 陰極溶液タンク
11 予備海水タンク
12 脱気処理装置
13a 導入配管
13c 導入配管
14a ポンプ
14c ポンプ
16 濾過装置
20a 陽極(アノード)側槽
20b 陰極(カソード)側槽
21 第1電解スタック
22 第2電解スタック
30 再生槽
40 第1濾過装置
41 第2濾過装置