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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】皮内鍼
(51)【国際特許分類】
   A61D 7/00 20060101AFI20240815BHJP
   A61H 39/08 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
A61D7/00 Z
A61H39/08 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020011553
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021115299
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(73)【特許権者】
【識別番号】390024545
【氏名又は名称】セイリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】川口 博明
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-291839(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024589(WO,A1)
【文献】特開2015-186581(JP,A)
【文献】実開昭50-34291(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 7/00
A61H 39/08
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の皮膚に刺入される鍼体を先端に有する胴体部を備え、
前記鍼体と前記胴体部との間に、他の部分よりも折れやすい折れ部が介在し、
前記折れ部が折れることで、前記胴体部から前記鍼体が分離し、
前記鍼体が前記胴体部から分離されて前記動物の皮内に留置され、
前記折れ部の、前記先端から後端の方向に垂直な断面の面積は、
前記胴体部の前記鍼体を除く他の部分の、前記先端から後端の方向に垂直な断面の面積よりも小さい、
皮内鍼。
【請求項2】
生分解性素材で形成されている、
請求項1に記載の皮内鍼。
【請求項3】
前記生分解性素材は、
澱粉を含む、
請求項に記載の皮内鍼。
【請求項4】
動物のストレス軽減用である、
請求項1からのいずれか一項に記載の皮内鍼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮内鍼に関する。
【背景技術】
【0002】
伴侶動物及び産業動物等のヒトと関わる動物は、輸送ストレス、暑熱ストレス、睡眠障害、繁殖障害及び授乳障害等のストレスに晒されることが多い。例えば、動物を輸送した場合、ヒトと同様に乗り物酔い等の過剰なストレス反応を呈する動物が少なくない。伴侶動物であるイヌでは、自動車等による輸送の際に、嘔吐や元気消失等の乗り物酔いに類似した症状を呈することが知られている。産業動物であるブタでは、輸送ストレスによる下痢等の体調の悪化の問題に加え、価格低下の原因となる肉質の低下(ムレ肉及びフケ肉)又は膵膠浸潤による内蔵廃棄処分を引き起こし、経済的損失に発展する。子牛では下痢又は発熱等、体調が悪化し、馬は輸送熱を発症する。
【0003】
近年、動物を人間の利益のために利用する際に、動物が感じる苦痛の回避及び除去等に極力配慮しようという動物福祉に対する関心が世界的に高まってきている。例えば、特許文献1には、動物の輸送開始前に、経絡等の動物の体表面の所定の部位に物理刺激を与えることを特徴とする動物の輸送ストレスを軽減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/024589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された動物の輸送ストレスを軽減する方法では、動物に物理刺激を与えるために円皮鍼が用いられている。円皮鍼は粘着テープで動物の体表面に貼り付けられる。動物の体表面には体毛があるため、粘着テープが貼り付かないことがある。この場合、確実に円皮鍼の効果を得るためには貼り付ける箇所を剃毛する必要がある。また、貼り付いた粘着テープが剥がれやすいことがある。輸送の途中で粘着テープが剥がれると輸送ストレスを十分に軽減できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より簡便に、かつより確実に動物にかかるストレスを軽減することができる皮内鍼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る皮内鍼は、
動物の皮膚に刺入される鍼体を先端に有する胴体部を備え、
前記鍼体と前記胴体部との間に、他の部分よりも折れやすい折れ部が介在し、
前記折れ部が折れることで、前記胴体部から前記鍼体が分離し、
前記鍼体が前記胴体部から分離されて前記動物の皮内に留置され、
前記折れ部の、前記先端から後端の方向に垂直な断面の面積は、
前記胴体部の前記鍼体を除く他の部分の、前記先端から後端の方向に垂直な断面の面積よりも小さい。
【0010】
また、前記皮内鍼は、
生分解性素材で形成されている、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記生分解性素材は、
澱粉を含む、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記皮内鍼は、
動物のストレス軽減用である、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より簡便に、かつより確実に動物にかかるストレスを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る皮内鍼を示す図である。
図2】耳介を有する動物の耳尖の位置を例示する図である。(A)はイヌの耳尖の位置を示す。(B)はブタの耳尖の位置を示す。
図3図1に示す皮内鍼の胴体部の断面を示す図である。
図4図1に示す皮内鍼の胴体部及び折れ部の断面を示す図である。
図5】皮膚に刺入された図1に示す皮内鍼が折れて鍼体が皮内に留置される態様を示す図である。
図6図1に示す皮内鍼に使用される装着装置を示す図である。(A)は皮内鍼を装備する前の装着装置の状態を示す。(B)は皮内鍼を装備した後の装着装置の状態を示す。
図7】本発明の実施の形態に係る皮内鍼の変形例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態に係る皮内鍼の別の変形例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態に係る皮内鍼の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態)
実施の形態に係る皮内鍼10は、動物にかかるストレスを予防、軽減又は解消するために使用される。皮内鍼10の使用対象となる動物は、好ましくは哺乳類であって、特に好ましくはヒトを除くほ乳類である。動物としては、伴侶動物(ペット及び介護動物)、家畜、競走馬、実験動物及び展示動物等が挙げられる。好適には、動物は、ブタ、イヌ、ウシ、ネコ、サル、ウサギ、リス、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ヒツジ及びヤギ等である。
【0017】
図1に示すように、皮内鍼10は、鍼体1を先端に有する胴体部2を備える。鍼体1の先端10aは鋭利で、鍼体1は動物の皮膚に刺入される。皮内鍼10は、鍼体1が経絡(つぼ)を刺激する体表面(皮膚)に刺入される。皮内鍼10が刺入される動物における部位は、鍼体1が経絡を刺激するのであれば特に限定されない。耳介を有する動物の場合、経絡としては、左右の耳介の背面に沿った耳尖部の血管上である耳尖が特に好ましい。耳尖は、イヌの場合は左右の耳介それぞれ図2(A)に示す位置の1点であって、ブタの場合は左右の耳介それぞれ図2(B)に示す位置の3点である。
【0018】
図1に戻って、先端10aの形状は動物の皮膚に刺さる形状であれば特に限定されない。皮内鍼10における先端10aの反対側の一端を終端10bとすると先端10aから終端10bまでの長さL1は10~50mm、15~30mm又は18~25mmである。L1は、20~30mmであってもよく、20mm又は30mmであってもよい。先端10aから後端10bの方向dにおける鍼体1の長さL2は、動物の大きさ又は刺入される動物の部位に応じて適宜設定されるが、例えば1~10mm、1.5~8mm、2~5mm、好ましくは2~3mmである。
【0019】
鍼体1及び胴体部2の任意の位置における方向dに垂直な断面は円形である。方向dに垂直な1点鎖線X-X’で皮内鍼10を切断し、矢視したときの胴体部2の断面を図3に示す。胴体部2の太さ、すなわち方向dに垂直な方向の幅W1は、例えば0.5~3mm、0.8~2.5mm、1~2mm又は1.2~2mmである。
【0020】
鍼体1と胴体部2との間に、他の部分よりも折れやすい折れ部3が介在する。図1に示すように、折れ部3は、鍼体1と胴体部2との間で細く狭まっている部分である。折れ部3が折れることで、胴体部2から鍼体1が分離する。鍼体1が胴体部2から分離されて動物の皮内に留置される。
【0021】
好ましくは、折れ部3の方向dに垂直な断面の面積は、胴体部2の他の部分の方向dに垂直な断面の面積よりも小さい。図4は、方向dに垂直な2点鎖線Y-Y’で皮内鍼10を切断し、矢視したときの折れ部3の断面を示す。図4では、折れ部3の断面が図1の1点鎖線X-X’における胴体部2の断面に重ねられている。折れ部3の方向dに垂直な断面は円形で、折れ部3の方向dに垂直な方向の幅をW2とすると、W2/W1は、0.1~0.8、0.2~0.7、0.3~0.6又は0.4~0.5である。
【0022】
好適には、鍼体1、胴体部2及び折れ部3を含む皮内鍼10全体は、生分解性素材で形成されている。生分解性素材は、例えば自然分解性素材である。好ましくは、生分解性素材は可食性素材である。可食性素材は、動物が摂取しても無害又はほとんど健康被害がない素材である。生分解性素材としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、澱粉、変性澱粉、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸(PGA)、変性ポリビニルアルコール、セルロースアセテート及びカゼイン等が例示される。好ましくは、生分解性素材は澱粉である。生分解性素材として澱粉を採用した場合、皮内鍼10は澱粉固形物で形成される。
【0023】
生分解性素材が澱粉を含む場合、澱粉の含有量は皮内鍼10の硬さ等に基づいて適宜設定される。澱粉の含有量は、折れ部3の折れやすさを考慮して調整されてもよい。澱粉の含有量は、好ましくは70重量%以上である。
【0024】
生分解性素材は加工澱粉を含んでもよい。加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉及び澱粉グルコール酸ナトリウム等が例示される。
【0025】
皮内鍼10は、滅菌又は殺菌することができる。皮内鍼10は好ましくは高温で滅菌される。滅菌の温度及び時間は、皮内鍼10が滅菌されれば特に限定されない。滅菌の温度は、例えば100~200℃、110~180℃又は120~150℃である。好ましくは、滅菌の温度は、120℃又は121℃である。滅菌の時間は、10~60分、15~40分又は20~30分である。好適には、皮内鍼10は高圧蒸気滅菌機を用いて、120℃で20分間滅菌される。なお、滅菌又は殺菌された皮内鍼10は、内部が滅菌又は殺菌された容器等に包装されて、滅菌又は殺菌された状態を維持したまま提供されてもよいし、皮内鍼10が容器等に包装された状態で容器とともに皮内鍼10が滅菌又は殺菌されてもよい。
【0026】
続いて、皮内鍼10の使用方法について説明する。皮内鍼10は、図5に示すように、鍼体1が皮膚S上の経絡を刺激する位置に刺入される。鍼体1が皮膚Sに刺さった際に皮内鍼10にかかる荷重によって折れ部3が折れる。折れ部3が折れることによって、胴体部2から鍼体1が分離する。この結果、鍼体1が皮内に留置される。
【0027】
皮内鍼10は、任意の方法で皮膚Sへ刺入される。好ましくは、皮内鍼10は装着装置を介して皮膚Sに刺入される。装着装置は、皮内鍼10の先端10aを皮膚Sに押し付ける装置であれば特に限定されない。例えば、耳介を有する動物の耳尖に皮内鍼10を刺入する場合、装着装置は、皮内鍼10を保持する第1の部材と、第1の部材を受ける第2の部材と、を備える。第1の部材は、先端10aを第2の部材に向けて、皮内鍼10を保持する。第1の部材において皮内鍼10が保持された面と第2の部材との間に耳介を挟み、第1の部材を第2の部材の方向に押し付けることで、皮内鍼10が皮膚Sに刺入され、鍼体1が皮内に留置される。
【0028】
図6(A)は、皮内鍼10の装着装置として一例としての装着装置100を示す。装着装置100は、土台20と、土台20の上面に固定された操作部30と、ピンチ40とを備える。
【0029】
操作部30は、ガイド部材31と、ストッパー32と、を備える。ガイド部材31は中空構造で、ストッパー32が内部に配置されている。ストッパー32は、L字に折れ曲がった棒からなる部材である。ストッパー32の一端であるつまみ部32aは、ガイド部材31に設けられたガイド穴31aから土台20の上面に対して垂直な方向に突出している。ガイド穴31aは、ピンチ40の方向につまみ部32aを案内する。つまみ部32aをガイド穴31aに沿ってスライドさせることで、ピンチ40に対するストッパー32の位置を変えることができる。
【0030】
ストッパー32の他端である止め部32bは、ガイド部材31に設けられた穴からピンチ40に向かって土台20の上面に水平な方向に突出している。つまみ部32aをピンチ40の方向にスライドさせると、止め部32bがピンチ40に近づき、ピンチ40に達するようになる。
【0031】
ガイド穴31aは、ピンチ40側の一端に土台20に向かって拡張された位置決め部31bを有している。ピンチ40側の一端でつまみ部32aを土台20の上面に水平な方向に倒すと、つまみ部32aが位置決め部31bに嵌り、ピンチ40に対するストッパー32の位置が固定される。
【0032】
ピンチ40は、受け部材41と、押し部材42と、弾性部材43と、を備える。受け部材41は、土台20の上面に固定されている。受け部材41の上に押し部材42が位置する。受け部材41は、操作部30側の一端41aと他端41bとの間で軸44を介して押し部材42に回動可能に結合されている。一端41aは、押し部材42の一端42aに対向し、他端41bは、押し部材42の他端42bに対向している。
【0033】
他端42bは、弾性部材43によって、他端41bの方向、すなわち土台20の方向に付勢されており、他端42bは他端41bに接近した状態で維持される。一端42aに土台20への方向の力を加えると、一端42aが一端41aに接近するとともに、軸44を支点として、他端42bが他端41bから離れる。
【0034】
一端42aが一端41aに接近した状態で、つまみ部32aをピンチ40の方向にスライドさせ、つまみ部32aを位置決め部31bに固定すると、図6(B)に示すように、止め部32bと土台20との間に一端41a及び一端42aが挟まれる。これにより、他端42bが他端41bから離れた状態が維持される。他端42bの他端41bに対向する面には、皮内鍼10の終端10bを差し込む穴が設けられている。他端42bが他端41bから離れた状態で他端42bの当該穴に皮内鍼10を固定する。
【0035】
皮内鍼10を固定した押し部材42と受け部材41との間に、動物の耳介を挿入し、位置決め部31bにあるつまみ部32aを土台20に対して垂直な方向に起こすと、一端42aに対する土台20への方向の力が解除され、弾性部材43によって、他端42bが他端41bの方向に戻る。皮内鍼10の先端10aが皮膚に刺さり、折れ部3が折れる。この結果、鍼体1が動物の皮内に留置される。
【0036】
皮内鍼10による軽減の対象となるストレスは、何らかの身体の変調をもたらす任意のストレスである。例えば、ストレスは、輸送ストレス、暑熱ストレス、睡眠障害、繁殖障害及び授乳障害等である。ストレスの強度は、例えば、急性ストレスに対する生理学的反応の指標を用いて評価することができる。生理学的反応の指標としては、個体差が少なく、他の生理学的反応の影響を受けにくく、ストレスの強度に応じて迅速に反応するものが好ましく用いられる。ストレスの強度の評価に好ましく用いられる生理学的反応の指標としては、血中コルチゾール濃度、血中アドレナリン濃度、血中ノルアドレナリン濃度及び血中ドーパミン濃度等が挙げられる。
【0037】
例として、輸送ストレスを軽減する場合、動物への皮内鍼10の使用は、輸送開始前の所定時間に行うのが好ましい。輸送開始前のどのタイミングで皮内鍼10の使用を開始するかは、動物の種類、輸送手段の種類や輸送手段の内部環境等によるが、例えば、子牛の場合だと、輸送開始約60分前程度前に使用を開始することが好ましい。また、小型~中型のブタの場合、輸送開始直前、例えば30~60分程度前の使用が好ましい。なお、皮内鍼10の使用は、輸送中も継続して行ってもよい。輸送手段は、例えば、自動車、鉄道、船舶及び航空機等が挙げられるが、輸送手段についても特に制限はなく、通常、動物の輸送に用いられる任意の輸送手段において、皮内鍼10を使用できる。
【0038】
皮内鍼10は、粘着テープ等で動物の皮膚に貼り付けなくても、鍼体1が動物の皮内に留置されて動物の経絡を刺激することができる。よって、動物にかかるストレスをより簡便に、かつより確実に軽減することができる。下記実施例に示すように、経絡を刺激することで、輸送に伴うストレスによって生じる膵膠浸潤を予防することができる。
【0039】
また、鍼体1が胴体部2から分離せずに、動物の体表面に保持された場合、皮内鍼10の終端10bが当該動物の近くの他の動物を傷つけるおそれがある。特に終端10bが眼に刺さると失明等の事故につながることがある。本実施の形態に係る皮内鍼10では、鍼体1と胴体部2とが分離するため、胴体部2による動物の傷害を避けることができ、より安全である。
【0040】
皮内鍼10は、生分解性素材で形成されてもよいこととした。これにより、動物が皮内鍼10を誤食又は誤嚥しても、動物の体内で速やかに分解されるため安全性が高い。また、生分解性素材で形成された鍼体1が皮内に残存しても、動物に悪影響を及ぼさない。胴体部2が散逸しても、生分解性素材で形成された胴体部2は分解されやすいため、環境への負担はほとんどない。生分解性素材は、澱粉を含んでもよいこととした。澱粉の含有量及び糊化度を調整することで任意の硬さを有する皮内鍼10を形成できる。
【0041】
なお、皮内鍼10は、鍼体1が耳尖を刺激するように用いられてもよいこととした。耳尖は、ストレスを軽減する効果が高いことに加え、口及び前肢が届きにくい部位であるため、動物が皮内鍼10を自ら除去したり、誤食又は誤嚥したりするおそれが低い点で好ましい。
【0042】
なお、鍼体1の形状は、動物の皮膚に刺さる形状であれば、特に限定されない。鍼体1の形状としては、松葉型、丸ノゲ型、ノゲ型及び柳葉型等が挙げられる。図7は、皮内鍼10の変形例である皮内鍼50を示す。皮内鍼50は、皮内鍼10における鍼体1に代えて、円柱を斜めに切断した形状の鍼体51を備える。また、図8は、皮内鍼10の変形例である皮内鍼60を示す。皮内鍼60は、皮内鍼10における鍼体1に代えて、鍼体の途中から順次細くなるスリオロシ型の鍼体61を備える。
【0043】
皮内鍼10において、鍼体1、胴体部2及び折れ部3の任意の位置における方向dに垂直な断面は円形であるとしたが、これに限定されない。方向dに垂直な断面は三角形、四角形、五角形等の多角形等であってもよいし、鍼体1、胴体部2及び折れ部3の方向dに垂直な断面が異なっていてもよい。
【0044】
皮内鍼10は全体が薄い平板の形状であってもよい。図9は、全体が薄い平板である皮内鍼70を示す。皮内鍼70は、皮内鍼10における鍼体1、胴体部2及び折れ部3に代えて、鍼体71、胴体部72及び折れ部73を備える。鍼体71と胴体部72との間に介在する折れ部73は、鍼体71及び胴体部72よりも折れやすい折れ筋である。折れ部73は、胴体部72よりも薄くなっている。
【0045】
なお、皮内鍼10は、動物のストレス軽減用鍼又は動物のストレス軽減用器材として使用してもよい。
【実施例
【0046】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0047】
体重が100~110kgである7~8ヶ月齢の豚を対照群(n=25)及び皮内鍼群(n=7)に分けた。対照群は無処置とした。皮内鍼群については、輸送30~60分前に両耳の耳尖に鍼を施術した。奄美市から鹿児島市に12時間以上の陸海輸送を経て、豚を搬送した。さらに、1日係留後、鹿児島市食肉センターで屠畜し、獣医師が内蔵を検査した。
【0048】
(結果)
膵膠浸潤による内蔵廃棄発生率(%)は、対照群で12%、皮内鍼群で0%であった。膵膠浸潤が防がれたため、皮内鍼によって輸送によるストレスが軽減されたことが示された。皮内鍼を刺入してから48時間経過しても、刺入箇所に炎症及び化膿等の有害な所見はなかった。
【0049】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、動物の健康維持、特にストレスによる体調悪化の治療又は予防に好適である。
【符号の説明】
【0051】
1,51,61,71 鍼体
2,72 胴体部
3,73 折れ部
10,50,60,70 皮内鍼
10a 先端
10b 終端
20 土台
30 操作部
31 ガイド部材
31a ガイド穴
31b 位置決め部
32 ストッパー
32a つまみ部
32b 止め部
40 ピンチ
41 受け部材
41a,42a 一端
41b,42b 他端
42 押し部材
43 弾性部材
44 軸
100 装着装置
S 皮膚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9