IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人秋田大学の特許一覧 ▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図1
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図2
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図3
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図4
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図5
  • 特許-掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/12 20060101AFI20240815BHJP
   C09K 8/035 20060101ALI20240815BHJP
   C09K 8/52 20060101ALI20240815BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240815BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240815BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20240815BHJP
   E21B 21/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C09K8/12
C09K8/035
C09K8/52
C08L67/04
C08L1/00
C08L5/00
E21B21/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021524900
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022090
(87)【国際公開番号】W WO2020246541
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019107351
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長縄 成実
(72)【発明者】
【氏名】向井 竜太郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0108713(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0081585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K8
C08L
E21B
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有する掘削流体であって、
前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、
前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれ
前記生分解性繊維がポリヒドロキシアルカノエートからなる繊維であり、
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、掘削流体。
【請求項2】
前記増粘剤が前記生分解性多糖類である、請求項1に記載の掘削流体。
【請求項3】
前記生分解性繊維の繊維長が3mm以上100mm以下である、請求項1又は2に記載の掘削流体。
【請求項4】
前記生分解性繊維の含有量が、前記増粘剤100重量部に対して、5重量部以上500重量部以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の掘削流体。
【請求項5】
前記生分解性多糖類が、カルボキシメチルセルロース、ポリアニオニックセルロース、キサンタンガム及びグアガムよりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~のいずれか一項に記載の掘削流体。
【請求項6】
坑井に掘削流体を送入しながら前記坑井を掘削し、生じた掘屑を坑井外に排出する工程を有し、
前記掘削流体は、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有し、
前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、
前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれ
前記生分解性繊維がポリヒドロキシアルカノエートからなる繊維であり、
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、掘削方法。
【請求項7】
前記増粘剤が前記生分解性多糖類である、請求項に記載の掘削方法。
【請求項8】
前記掘削が海洋環境におけるライザー掘削又はライザーレス掘削である、請求項又はに記載の掘削方法。
【請求項9】
前記掘削が海洋環境におけるライザーレス掘削である、請求項又はに記載の掘削方法。
【請求項10】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維を含有する、掘削流体添加剤。
【請求項11】
前記掘削が海洋環境におけるライザー掘削又はライザーレス掘削である、請求項10に記載の掘削流体添加剤。
【請求項12】
前記掘削が海洋環境におけるライザーレス掘削である、請求項10に記載の掘削流体添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削流体、掘削方法及び掘削流体添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削流体は、掘削泥水ともよばれ、石油採掘等のため坑井に送入し、坑井内部を流動させて坑底やビットの周辺から掘屑(カッティングス)を除去し、地表に運ぶ;ドリルビットの潤滑剤や冷却剤として用いる;及び坑井の安定性を維持する;等の様々な目的のために用いられる流体である。
【0003】
坑井掘削時において、カッティングスの沈降、堆積及び不十分なホールクリーニングは、ドリルストリングの揚降作業等の非生産時間の増加、早期のビット摩耗、及び掘削編成(ドリルストリングの先端)の抑留(言い換えれば、動かなくなる現象)等の掘削障害の原因になる。
【0004】
カッティングスの運搬(カッティングストランスポート)は、掘削流体の流体特性、坑井の傾斜角、ドリルパイプの回転速度、流速、坑井の形状及びその他の掘削パラメータに依存する。そのため、カッティングストランスポート改善のため、掘削流体に加重剤、分散剤、増粘剤及び繊維等の添加剤を加えることが挙げられる。
【0005】
特許文献1及び2には、坑井からカッティングスを排出するため、このような添加剤として、ポリオレフィン、ポリエステル及びナイロンからなる群から選択される親水性繊維が記載されている。
【0006】
本開示にて用いる次の用語について予め説明する。
ドリルビット:掘削刃に相当するものである。
ドリルパイプ:ドリルビットに回転動力を伝えるパイプである。ドリルパイプは、ドリルパイプ内に掘削流体を流してドリルビット掘削部に送り、掘削流体を坑井内で流動させることができる。
アニュラス部:ドリルパイプ外側の掘削流体が流れ得る領域をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6,164,380号明細書
【文献】米国特許第6,016,872号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ドリルパイプ内及びドリルビットの周辺等の高せん断速度領域にある掘削流体の粘度は低い方が、ドリルパイプ内の圧力損失を小さくでき、ドリルビットからの掘削流体の噴流推力を大きくできるため、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの効率化のため有利である。また、使用後の掘削流体からカッティングスを除去する場合にも効率的に除去できる。
【0009】
一方で、アニュラス部等の低せん断速度領域にある掘削流体の粘度は高い方が、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの効率に有利である。
【0010】
従来の掘削流体では、高せん断速度領域にある掘削流体の粘度を低く保とうとすると、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度の方が低下しやすい。低せん断速度領域にある掘削流体の粘度が低下しすぎると、掘削流体に求められるレオロジー特性である擬塑性流体又はビンガム流体の性質からも乖離してしまい、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力は不十分である。
【0011】
特に、石油開発、天然ガス開発又は地熱開発のために行われる坑井掘削、特に地熱開発のために行われる坑井掘削では、地層の温度及び/又は地層の圧力条件により、カッティングストランスポートの効率に不利になる低粘性又は低比重の掘削流体を使用せざるを得ない状況が起こり得る。このような状況下の坑井掘削では、アニュラス部等の低せん断速度領域にある掘削流体の粘度が低下しやすいと、よりカッティングストランスポート及びホールクリーニングの効率に特に不利になる。
【0012】
また、従来の添加剤を添加した掘削流体では、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度を高くしようとすると、高せん断速度領域にある掘削流体の粘度も高くなり、高くなりすぎれば流動性を失ってしまう。そのため、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力は不十分である。
【0013】
さらに、坑井掘削は、平地、山地、河川、運河、及び海洋等のあらゆる環境下で、地表面より下の構造を形成するために行われるものであるところ、生分解性に乏しい添加剤が環境中に廃棄又は投棄されること、及び残留すること等による環境負荷は大きい。
【0014】
本発明は、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力に優れ、環境負荷が小さい掘削流体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の第一は、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有する掘削流体であって、前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれる、掘削流体に関する。
【0016】
前記掘削流体において、前記増粘剤が前記生分解性多糖類であってよい。
【0017】
前記掘削流体において、前記生分解性繊維がポリヒドロキシアルカノエートからなる繊維であってよい。
【0018】
前記掘削流体において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、下記一般式(1)で示される3-ヒドロキシアルカン酸を含んでよい。
[-CHR-CH-CO-O-] (1)
一般式(1)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。
【0019】
前記掘削流体において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であってよい。
【0020】
前記掘削流体において、前記生分解性繊維の繊維長が3mm以上100mm以下であってよい。
【0021】
前記掘削流体において、前記生分解性繊維の含有量が、前記増粘剤100重量部に対して、5重量部以上500重量部以下であってよい。
【0022】
前記掘削流体において、前記生分解性多糖類が、カルボキシメチルセルロース、ポリアニオニックセルロース、キサンタンガム及びグアガムよりなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0023】
本開示の第二は、坑井に掘削流体を送入しながら前記坑井を掘削し、生じた掘屑を坑井外に排出する工程を有し、前記掘削流体は、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有し、前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれる、掘削方法に関する。
【0024】
前記掘削方法において、前記増粘剤が前記生分解性多糖類であってよい。
【0025】
前記掘削方法において、前記掘削が海洋環境におけるライザー掘削又はライザーレス掘削であってよい。
【0026】
前記掘削方法において、前記掘削が海洋環境におけるライザーレス掘削であってよい。
【0027】
本開示の第三は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維を含有する、掘削流体添加剤に関する。
【0028】
前記掘削流体添加剤において、前記掘削が海洋環境におけるライザー掘削又はライザーレス掘削であってよい。
【0029】
前記掘削流体添加剤において、前記掘削が海洋環境におけるライザーレス掘削であってよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力に優れ、環境負荷が小さい掘削流体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】2.5g/Lの生分解性多糖類、及び0g/L、0.5g/L及び1.0g/Lの平均繊維長15mmの生分解性繊維を含有する掘削流体(比較例1-1、実施例1-1及び実施例1-2)について、各せん断速度におけるせん断応力を両対数グラフにプロットした結果である。縦軸がせん断応力(Shear Stress)(Pa)、横軸がせん断速度(Shear Rate)(1/s)である。
図2】2.5g/Lの生分解性多糖類、及び0g/L、0.5g/L及び1.0g/Lの平均繊維長15mmの生分解性繊維を含有する掘削流体(比較例1-1、実施例1-1及び実施例1-2)について、各せん断速度における粘度を両対数グラフにプロットした結果である。縦軸が粘度(Viscosity)(mPa・s)、横軸がせん断速度(Shear Rate)(1/s)である。
図3】1.0g/Lの生分解性多糖類、及び0g/L及び1.0g/Lの平均繊維長14mmの生分解性繊維を含有する掘削流体(比較例A-2及び実施例A-1)について、各せん断速度におけるせん断応力を両対数グラフにプロットした結果である。縦軸がせん断応力(Shear Stress)(Pa)、横軸がせん断速度(Shear Rate)(1/s)である。
図4】1.0g/Lの生分解性多糖類、及び0g/L及び1.0g/Lの平均繊維長14mmの生分解性繊維を含有する掘削流体(比較例A-2及び実施例A-1)について、各せん断速度における粘度を両対数グラフにプロットした結果である。縦軸が粘度(Viscosity)(mPa・s)、横軸がせん断速度(Shear Rate)(1/s)である。
図5】カッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度の評価に用いたフローループ試験機1の模式図を示す図面である。
図6】カッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度の観察区画11を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[掘削流体]
本開示の掘削流体は、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有する掘削流体であって、前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれる。
【0033】
(水)
掘削流体に含まれる水は、特に限定されるものではなく、従来公知の水系掘削流体に含まれる水を用いることができる。例えば、清水;海水を含むブライン;水道水;地下水;及び雨水等の平地、山地、河川、運河、及び海洋等のあらゆる環境で行われる坑井掘削により坑井に侵入し得る水等が挙げられる。
【0034】
(生分解性繊維)
掘削流体に含まれる生分解性繊維は、生分解性を有する繊維であれば特に限定されない。生分解性とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
【0035】
また、繊維とは、細くて長いという形態的特徴を示すものである。本開示において用いる繊維は、その繊度が100μm以下であってよく、繊維長は、繊度との相対関係により決定されるが、繊維長が3mm以上であってよい。
【0036】
生分解性繊維の繊度はデニール(D)又はdtexで表される。デニール(D)は9,000mの長さ当たりの重量をg単位で表した数字で表示し、dtexは10,000mの長さ当たりの重量をg単位で表した数字で表示する。生分解性繊維の繊度は、1dtex以上が好ましく、3dtex以上がより好ましく、5dtex以上がさらに好ましい。また、生分解性繊維の繊度は、100dtex以下が好ましく、50dtex以下がより好ましく、10dtex以下がさらに好ましい。
【0037】
生分解性繊維の繊維長は、100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましく、50mm以下がさらに好ましく、30mm以下が最も好ましい。また、生分解性繊維の繊維長は、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。繊維長が当該範囲にあることにより、掘削流体中の生分解性繊維の分散性に優れる。生分解性繊維の分散性が優れることは、繊維同士の相互作用、及び繊維とその他の成分との相互作用によるカッティングスの良好な支持、そして、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力の向上に寄与する。なお、本開示において、カッティングストランスポートとは、カッティングスを運搬することをいい、ホールクリーニングとは、坑井中にカッティングスを沈降及び堆積させず良好に坑井外に運搬することをいう。
【0038】
生分解性繊維の繊度及び繊維長の測定方法としては、無作為に抽出した50~100本の繊維の直径及び長さをそれぞれ繊度測定器DENICON-DC21(サーチ株式会社製)によって測定し、その平均値を算出する方法が挙げられる。したがって、繊度は平均繊維径、繊維長は平均繊維長と言い換えることができる。
【0039】
また、掘削流体に含まれる生分解性繊維は、非水溶性であることが好ましい。少なくとも掘削作業中、掘削流体中で繊維形状を保持する必要がある。
【0040】
生分解性繊維としては、微生物、植物及び動物等の生物資源(バイオマス)由来の繊維が挙げられる。生物資源(バイオマス)由来の繊維には、生物資源(バイオマス)が有する繊維を抽出したもの、及び生物資源(バイオマス)が有するモノマーを化学合成したものが含まれる。
【0041】
生分解性繊維としては、例えば、ポリヒドロキシアルカノエート及びポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル;又はセルロース等の多糖類を含む、単繊維又は複合繊維が挙げられる。これらの中でも、生分解性繊維としては、ポリヒドロキシアルカノエートからなる繊維(単繊維又は複合繊維を含む)が好ましい。ポリヒドロキシアルカノエートは生分解機構が最も明らかにされており、環境中における適切な分解速度を有するため、環境調和型の材料として有用なためである。
【0042】
ポリヒドロキシアルカノエートが、下記一般式(1)で示される3-ヒドロキシアルカン酸を含むことがより好ましい。適切な成形加工性と良好な生分解性とを両立することが可能なためである。
[-CHR-CH-CO-O-] (1)
一般式(1)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。
【0043】
さらに、ポリヒドロキシアルカノエートが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であることが最も好ましい。特に、生分解性に優れ、環境負荷が小さく、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力に優れるためである。
【0044】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維を掘削流体に添加することにより、ドリルビットの周辺等の高せん断速度領域にある掘削流体の粘度を低く保ったまま(言い換えれば、流動性を保ったまま)、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度(及びせん断応力)を高くできるため、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力を十分に向上することができる。
【0045】
また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維は、特に生分解性に優れるため、廃棄又は投棄されること、及び残留することによる環境負荷が小さい。具体的には、例えば、海水中に存在する微生物により水と二酸化炭素に分解され海水中に残存しなくなるという優れた海水分解特性を有するため、海洋中に投棄しても環境負荷が小さい。
【0046】
掘削流体における生分解性繊維の含有量は、特に限定されない。生分解性繊維の含有量は、下記増粘剤100重量部に対して、5重量部以上500重量部以下であってよく、10重量部以上500重量部以下であってよく、10重量部以上100重量部以下であってよく、15重量部以上50重量部以下であってよく、20重量部以上40重量部以下であってよい。掘削流体における増粘剤に対する生分解性繊維の含有量が当該範囲にあることにより、掘削流体中の生分解性繊維の分散性に優れる。生分解性繊維の分散性が優れることは、繊維同士の相互作用、及び繊維とその他の成分との相互作用によるカッティングスの良好な支持、そして、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力の向上に寄与する。
【0047】
生分解性繊維の含有量は、掘削流体における生分解性繊維の含有量として、0.1g/L以上20g/L以下が好ましく、0.2g/L以上15g/L以下がより好ましく、0.4g/L以上10g/L以下がさらに好ましく、0.5g/L以上5g/L以下が最も好ましい。生分解性繊維の含有量が当該範囲にあることにより、掘削流体中の生分解性繊維の分散性に優れる。
【0048】
(増粘剤)
増粘剤は、生分解性多糖類を含むものであって、添加により掘削流体の粘度を増加するものであれば、特に限定されない。
【0049】
また、生分解性多糖類は、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれるものである。
【0050】
増粘剤は、前記生分解性多糖類であってよく、前記生分解性多糖類以外の成分を含んでよい。前記生分解性多糖類以外の成分としては、無機鉱物及び有機コロイド(ポリマー類)等が挙げられる。無機鉱物としては、ベントナイト及びセピオライト等が挙げられ、有機コロイド(ポリマー類)としては、ポリアクリルアミド及びアクリルアミドとアクリル酸の共重合体を含むPHPA(Partical Hydrolized Poly Acrylamide)ポリマー等が挙げられる。ベントナイトの市販品としては「テルゲル」、セピオライトの市販品としては「サーモゲル」、PHPA(Partical Hydrolized Poly Acrylamide)ポリマーの市販品としては「テルコート」(いずれも株式会社テルナイト製)が挙げられる。
【0051】
増粘剤が前記生分解性多糖類のみからなる場合は、特に生分解性に優れ、環境に残存することが無いことから、最も環境負荷が小さい点で好ましい。
【0052】
掘削流体における無機鉱物の含有量は、0.01g/L以上、1g/L以上、10g/L以上、20g/L以上、又は30g/L以上であってよく、100g/L以下、80g/L以下、又は60g/L以下であってよい。
【0053】
掘削流体における有機コロイド(ポリマー類)の含有量は、0.01g/L以上、0.5g/L以上、又は1g/L以上であってよく、10g/L以下、5g/L以下、又は3g/L以下であってよい。
【0054】
掘削流体における生分解性多糖類の含有量は、0.01g/L以上5g/L以下であるところ、0.01g/L以上5g/L未満が好ましく、0.05g/L以上4g/L以下がより好ましく、0.1g/L以上3g/L以下がさらに好ましい。掘削流体における生分解性多糖類の含有量が0.01g/L未満であると、掘削流体中の生分解性繊維の分散性に劣る。掘削流体における生分解性多糖類の含有量が5g/Lを超えると、生分解性繊維の配合によっても、低せん断速度領域の粘度(及びせん断応力)を高くすることができず、カッティングストランスポート及びホールクリーニングを効率的に行えない。
【0055】
生分解性多糖類は、生分解性を有する多糖類であって、水溶性を有し、添加により掘削流体の粘度を増加するものであれば、特に限定されない。
【0056】
ここで、水溶性とは、各多糖類の適切な溶解条件(溶解温度、濃度、又は攪拌時間等)によって、その形状を保持することも残留物を残すことも無く水に溶解することを指す。少なくとも掘削作業中、掘削流体に溶解すればよい。
【0057】
生分解性多糖類としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、及びポリアニオニックセルロース等のセルロース誘導体;キトサン等のグルコサミン;キサンタンガム;及びグアガム等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロース、ポリアニオニックセルロース、キサンタンガム及びグアガムよりなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。例えば、グアガムは低温条件における粘性と保湿性が最も優れており、カルボキシメチルセルロースは優れた粘性を有しつつ安価であり、ポリアニオニックセルロースは優れた粘性を有しつつ耐塩性が高く、キサンタンガムは少量で高い粘性を発現し、シアシニング性(せん断速度が上がると粘度が下がる特性)を有するためである。これらの多糖類は、掘削する坑生の環境や掘削条件、市場の流通状況等により適切に選択することができる。
【0058】
生分解性多糖類の重量平均分子量としては、200,000以上が好ましい。また、1,000,000以下であってよい。
【0059】
(任意成分)
本開示の掘削流体は、本発明の目的の範囲において、水、生分解性繊維及び増粘剤の他に、水、生分解性繊維及び増粘剤以外の任意成分を含有することができる。
【0060】
水、生分解性繊維及び増粘剤以外の任意成分としては、例えば、バライト等の加重剤;リグノスルホン酸誘導体及びフミン酸等の分散剤;KCl(塩化カリウム)等の泥岩水和膨潤抑制剤;脱水調整剤;泥壁強化剤;潤滑剤;界面活性剤;並びに苛性ソーダ等のpH調整剤等が挙げられる。
【0061】
本開示の掘削流体は、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度(及びせん断応力)を高く、かつ高せん断速度領域にある掘削流体の粘度(及びせん断応力)を低く保つことができるため、優れたカッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力を有する。また、ドリルパイプ及び坑井内壁とカッティングスとの摩擦を低減する効果も期待できる。さらに、前記のとおり環境負荷が小さく、処分が容易である。
【0062】
本開示の掘削流体のレオロジー特性は、非ニュートン性流体の一般的な流動方程式である、べき乗則(パワーローモデルとも称する)によって近似できる。
【0063】
掘削流体のレオロジー特性を表す代表的なレオロジーモデルの1つであるビンガム塑性モデルは下記数式(1)で表される。
【0064】
【数1】

【0065】
ここで、μは塑性粘度、τは降伏値で、一般に石油業界ではそれぞれPV(plastic viscosity)及びYP(yield point)と表現される。
【0066】
また、もうひとつの代表的なレオロジーモデルである、べき乗則(パワーローモデルとも称する)は下記数式(2)で表される。
【0067】
【数2】

【0068】
ここで、nはべき乗指数、Kはコンシステンシーインデックスである。
【0069】
一方、Herschel-Bulkley式(修正パワーローモデル)は、ビンガム塑性モデルのYPに相当する降伏応力τyを持ったモデルであり、下記数式(3)で表される。
【0070】
【数3】

【0071】
これはビンガム塑性モデルとパワーローモデルを組み合わせたそれらの中間的性質を持ったモデルであり、n=1のときビンガム塑性モデルに、τy=0のとき、べき乗則(パワーローモデル)に等しくなる。
【0072】
べき乗則(パワーローモデル)を示す前記数式(2)におけるn値が0により近く、K値がより大きい方が、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度は高く、高せん断速度領域にある掘削流体の粘度は低くなるので、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力に優れると評価できる。
【0073】
[掘削方法]
本開示の掘削方法は、坑井に掘削流体を送入しながら前記坑井を掘削し、生じた掘屑を坑井外に排出する工程を有し、前記掘削流体は、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有し、前記増粘剤が生分解性多糖類を含み、前記生分解性多糖類が、前記掘削流体において0.01g/L以上5g/L以下含まれるものである。
【0074】
坑井に掘削流体を送入しながら坑井を掘削し、生じた掘屑を坑井外に排出する工程について述べる。
【0075】
坑井を掘削する方法としては、具体的には、例えば、先端にドリルビットを備えるドリルパイプを坑井に入れ、ドリルビットにより地層を砕く又は削る方法が挙げられる。
【0076】
坑井に掘削流体を送入する方法としては、具体的には、例えば、掘削流体をドリルパイプ内側に圧送して、先端のドリルビットから噴出する方法が挙げられる。
【0077】
生じた掘屑を坑井外に排出する方法としては、具体的には、例えば、掘屑を掘削流体と共にドリルパイプ外側のアニュラス部を通じて、地表まで運搬し、坑井外に送る方法が挙げられる。アニュラス部は、前記のとおり、ドリルパイプ外側の掘削流体が流れ得る領域をいう。アニュラス部は、例えば、ドリルパイプと、ドリルパイプの外側に設けられるケーシングパイプ、ライザーパイプ、又は坑井壁面の地層とにより二重管構造を構成する場合、ドリルパイプと、ケーシングパイプ、ライザーパイプ又は坑井壁面の地層とにより形成される。
【0078】
坑井外に送られた掘屑を有する掘削流体を回収し、掘屑を除去し、必要に応じて掘削流体の成分を調整し、坑井に送入して、掘削に再度使用することもできる。このとき、掘削流体はドリルパイプ内側、ドリルビット、アニュラス部及び掘屑の除去装置を循環する。
【0079】
海洋環境において、掘屑を有する掘削流体が流れるアニュラス部を形成するために海底面と海上の掘削装置をつなぐパイプをライザーパイプといい、ライザーパイプを用いる掘削をライザー掘削という。
【0080】
ライザー掘削は、海洋環境において掘屑を有する掘削流体を回収できる、坑井が壊れにくいためより深い掘削が可能になる、及び坑井内の圧力調整が容易である等の利点がある。坑井内の圧力上昇により、坑井内から噴出物が噴出することを防ぐため、坑井の上部つまり坑口に、防噴装置(BOP)を設置してよい。
【0081】
坑井外に送られた掘屑を有する掘削流体を回収しない場合、ライザーレス掘削を用いることができる。ライザーレス掘削は、ライザーパイプを用いない掘削である。ライザーレス掘削においては、坑井に掘削流体を送入することで、生じた掘屑を坑井外に排出できる。排出された掘屑は回収されず海水中に廃棄される。ライザーレス掘削は、ライザー掘削と比較して、浅い掘削に適する、短時間で多くの場所を掘削できる等の利点がある。
【0082】
本開示の掘削方法において用いる、水、生分解性繊維、及び増粘剤を含有する掘削流体についての詳細な説明は、前記のとおりである。
【0083】
本開示の掘削方法は、カッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力に優れ、環境負荷が小さい掘削流体を用いるので、本開示の掘削方法を、坑井外に送られた掘屑を有する掘削流体を回収せずに、環境中に廃棄されるライザーレス掘削に適用することにより、従来の掘削方法に比べ、カッティングストランスポート及びホールクリーニングを効率的に行うことができる上、環境負荷も大きく低減することが可能である。
【0084】
以上のとおり、本開示の掘削方法は、ライザー掘削及びライザーレス掘削のいずれにも好適である。
【0085】
本開示の掘削方法を用いる環境は、特に限定されず、平地、山地、河川、運河、及び海洋等のあらゆる環境下で用いることができる。環境負荷の低減が特に要求される海洋環境において、本開示の掘削方法は好適に用いられる。また、地熱井掘削にも用いることができる。ただし、地熱地帯の地層は、石油・天然ガスに比べてはるかに高温で、地層の圧力が低いため、熱に弱い成分の掘削流体への配合は避ける必要がある。
【実施例
【0086】
以下に実施例で本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0087】
<実験1>
(増粘剤を含有するベース流体)
生分解性多糖類として、ポリアニオニックセルロース系ポリマー(テルポリマーH(主成分:ポリアニオニックセルロース系ポリマー)、(株)テルナイト製)を水道水に入れ、家庭用ミキサーで十分に攪拌して、溶解し、生分解性多糖類の濃度が、2.5g/L、5.0g/L、及び7.5g/Lのベース流体をそれぞれ調製した。
【0088】
(生分解性繊維)
生分解性繊維として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維を、平均繊維長5mm、15mm及び30mmに切断したものをそれぞれ準備した。
【0089】
当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維の繊度は10.0dtex、引張強度は1.3cN/dtex、伸度70.0%、及びヤング率は2.2Gpaである。
【0090】
(掘削流体)
各ベース流体に各生分解性繊維を入れ、同様に家庭用ミキサーで十分に攪拌して、表1、表2及び表3に示す生分解性繊維及び生分解性多糖類の濃度の試料をそれぞれ調製した。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
(分散性の評価)
掘削流体における生分解性繊維の分散性の評価は、各生分解性繊維を混合してから、12時間以上静置した後の各ベース流体について行った。肉眼で観察し、生分解性繊維全体が集合して底面に沈んだ状態、又は浮いた状態になったものを分散性に劣るとし、これらの状態にならなかったものを分散性に優れると評価した。
【0095】
生分解性繊維の濃度、及び増粘剤の濃度がそれぞれ高い程、生分解性繊維の分散性により優れるものになった。また、生分解性繊維の長さが長い程、生分解性繊維の分散性により優れるものになった。
【0096】
(レオロジー特性の評価)
2重円筒型回転粘度計であるVGメーター(model 35、Fann Instrument Company製)を用い、API(American Petroleum Institute)規格の掘削流体の標準試験法API RP13B(ISO 10414-1:2008)に従って、室温にて各せん断速度におけるせん断応力及び粘度を測定した。このせん断応力及び粘度からレオロジー特性の評価を行った。レオロジー特性は、非ニュートン性流体の一般的な流動方程式である、前記数式(2)べき乗則(パワーローモデルとも称する)によって近似したときのn値及びK値に基づいて評価した。n値及びK値は、API規格RP13Dに従ってせん断速度511(1/s)以上及び340(1/s)以下の場合に分けて求めた。平均繊維長15mmの生分解性繊維を用いた掘削流体の測定結果を表4、表5及び表6に、平均繊維長5mmの生分解性繊維を用いた掘削流体の測定結果を表7及び表8に、そして、平均繊維長30mmの生分解性繊維を用いた掘削流体の測定結果を表9に示す。
【0097】
2.5g/Lの生分解性多糖類、及び0g/L、0.5g/L及び1.0g/Lの平均繊維長15mmの生分解性繊維を含有する掘削流体(比較例1-1、実施例1-1及び実施例1-2)について、各せん断速度におけるせん断応力(Pa)及び粘度(mPa・s)をそれぞれ両対数グラフにプロットした結果を図1及び図2に示す。また、その結果を前記数式(2)べき乗則(パワーローモデルとも称する)によって近似したときの近似直線も図1及び図2に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
【表8】

【0103】
【表9】

【0104】
実施例では、高せん断速度領域である170.23、340.46、510.69及び1021.38(1/s)のせん断速度において、比較例の各ベース流体と同等のせん断応力及び粘度を有したまま、低せん断速度領域である5.11及び10.21(1/s)のせん断速度において、比較例の各ベース流体よりも高いせん断応力及び粘度を有することが示された。
【0105】
また、せん断速度が5.11(1/s)び10.21(1/s)における挙動と、170.23、340.46、510.69及び1021.38(1/s)における挙動とを比較すると、異なる挙動(近似直線が異なる傾き)を示した(図1及び図2参照)。結果として、各グラフの形状から、非ニュートン性流体のうち、掘削流体の特性として有用とされる擬塑性(pseudoplastic)の特性を効果的に発現することが明確に判断できる(参考:レオロジー要論1968、小野木重治著)。
【0106】
以上より、実際に、実施例の掘削流体を用いて、ドリルパイプを使用して坑井掘削を行った場合、ドリルビットの周辺等の高せん断速度領域にある掘削流体の粘度を低く保ったまま(言い換えれば、流動性を保ったまま)、低せん断速度領域にある掘削流体の粘度(及びせん断応力)を高くできること、すなわち、優れたカッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力を有することを示す。
【0107】
一方、比較例の掘削流体は、生分解性繊維の配合によっても、高せん断速度領域及び低せん断速度領域のいずれもせん断応力及び粘度に変化はなかった。言い換えれば、レオロジー特性にほとんど影響を及ぼさなかった。
【0108】
<実験2>
(増粘剤を含有するベース流体)
生分解性多糖類として、ポリアニオニックセルロース系ポリマー(テルポリマーH(主成分:ポリアニオニックセルロース系ポリマー)、(株)テルナイト製)を水に入れ、試験用の掘削流体の調製用ミキサーとして一般的なHamilton Beach社製のミキサーで十分に攪拌して、溶解し、生分解性多糖類の濃度が、0.00g/L、及び1.0g/Lのベース流体をそれぞれ調製した。
【0109】
(生分解性繊維)
生分解性繊維として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維を、平均繊維長14mmに切断したものを準備した。
【0110】
当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる繊維の繊度は10.1dtex、引張強度は1.01cN/dtex、伸度95.2%、及びヤング率は2.0Gpaである。
【0111】
(掘削流体)
各ベース流体に各生分解性繊維を入れ、同様にHamilton Beach社製のミキサーで十分に攪拌して、表10に示す生分解性繊維及び生分解性多糖類の濃度の試料をそれぞれ調製した。
【0112】
【表10】

【0113】
(レオロジー特性の評価)
2重円筒型回転粘度計であるVGメーター(model 35、Fann Instrument Company製)を用い、API(American Petroleum Institute)規格の掘削流体の標準試験法API RP13B(ISO 10414-1:2008)に従って、室温にて各せん断速度におけるせん断応力及び粘度を測定した。このせん断応力及び粘度からレオロジー特性の評価を行った。レオロジー特性は、非ニュートン性流体の一般的な流動方程式である、前記数式(2)べき乗則(パワーローモデルとも称する)によって近似したときのn値及びK値に基づいて評価した。n値及びK値は、API規格RP13Dに従ってせん断速度511(1/s)以上及び340(1/s)以下の場合に分けて求めた。結果を表11に示す。
【0114】
各せん断速度におけるせん断応力(Pa)及び粘度(mPa・s)をそれぞれ両対数グラフにプロットした結果を図3及び図4に示す。
【0115】
【表11】

【0116】
実施例A-1の掘削流体は、高せん断速度領域である170.23、340.46、510.69及び1021.38(1/s)のせん断速度において、生分解性繊維を含まない比較例A-2のベース流体と同等又は若干高いせん断応力及び粘度を有したまま、低せん断速度領域である5.11及び10.21(1/s)のせん断速度において、比較例A-2のベース流体よりも特に高いせん断応力及び粘度を有することが示された。
【0117】
(カッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度)
カッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度は、フローループ試験機を用いて評価した。図面を参照して説明する。図5は、フローループ試験機1の模式図である。掘削流体(試料)2を、マッドタンク3からリターンタンク4へ送って、リターンタンク4内のヒーター4aで掘削流体(試料)の温度が30℃になるまで加温し、さらにマッドポンプ5を用いてアニュラーセクション6へ送り出した。このとき、アニュラーセクション6は、その下部(坑底)6aから上部(坑口)6bに向かう方向が鉛直上向き(ドリルパイプ10の傾斜角が0°)になる向きに設置した。
【0118】
リターンタンク4からアニュラーセクション6へ送る過程にあるカッティングスフィーダ7にて、掘削流体(試料)2と、カッティングス貯蔵槽8にあるカッティングス9とを混合した。カッティングス9と混合した掘削流体(試料)2をアニュラーセクション6の下部(坑底)6aから注入し、カッティングス運搬状況及びカッティングス挙動を観察し、カッティングス運搬速度を算出した。
【0119】
アニュラーセクション6は、坑井を模したものであり、全長9m、抗径(内径)0.127m(=5inch)のアニュラス部を模した円筒の内側に、0.0524m(=2.063inch)のドリルパイプ10が配置されている。
【0120】
カッティングス9は、直径3mmセラミックス製(赤白2種類)を用いた。視認性を高めるために白色のカッティングスに赤色のカッティングスを少量混入したものである。
【0121】
図6は、アニュラーセクション6のうち、カッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度の観察区画11を説明する図面である。アニュラーセクション6のうち、中央部分の1mの観察区画11を流れるカッティングス9をビデオカメラ12(Sony製、FDR-X3000R、記録画素数:1920×1080、フレームレート:120fps、動画記録フォーマット:XAVC S HD、画角設定:広角)で撮影し、数値解析ソフトであるMATLABを用いてカッティングス9の挙動や速度を解析した。解析は、対象のフレームから色のしきい値を利用して抽出した赤色要素を対象に行った。
【0122】
掘削流体(試料)2の流量は、50、40、30、25及び20m/h;カッティングス9の注入量は、掘進率10m/hに相当する2.1L/min;並びに、ドリルパイプ10の回転速度は、0rpm(回転なし)及び60rpmの条件にて観察した。なお、ドリルパイプ10の回転速度0rpm(回転なし)で3分間、その後60rpmにて3分間観察した。
【0123】
カッティングス運搬状況を解析し、評価した結果は表12に示す。評価基準は以下のとおりである。
×:全てのカッティングスが滞留又は沈降した。
△:一部のカッティングスが滞留又は沈降した。
〇:全てのカッティングスが滞留又は沈降せずに円滑に運搬された。
【0124】
【表12】

【0125】
表12に示すように、実施例の掘削流体を用いた場合、すべての流量において、すべてのカッティングスが滞留又は沈降せずに円滑に運搬された。一方、比較例の掘削流体を用いた場合には、流量が多い場合には比較的円滑に運搬される傾向となったが、流量が少ない場合には、一部のカッティングスが滞留又は沈降した。
【0126】
カッティングス挙動を解析し、評価した結果は表13に示す。評価基準は以下のとおりである。
×:カッティングスの変位方向(垂直方向及び水平方向)並びに流速は不均一で不安定であった。
〇:カッティングスの変位方向(垂直方向及び水平方向)、並びに流速は一様で安定していた。
【0127】
【表13】

【0128】
表13に示すように、実施例の掘削流体を用いた場合、流量20m/hにおいて不安定になったが、流量25~50m/hにおいて、すべてのカッティングスが安定して、垂直方向に運搬された。一方、比較例の掘削流体を用いた場合には、流量30又は25m/h以下において不安定な状態となった。なお、本開示において、垂直方向とは鉛直上向きであり、前記のとおり、アニュラーセクション6は、鉛直上向き(ドリルパイプ10の傾斜角が0°)に設置したため、アニュラーセクション6の下部(坑底)6aから上部(坑口)6bに向かう方向でもある。水平方向とは、前記垂直方向と直角をなす方向である。
【0129】
ドリルパイプ10の回転速度0rpm(回転なし)及び60rpmのそれぞれにおける、カッティングスの運搬速度は、単位時間あたりの垂直方向の変位量から算出した。結果は表14及び表15に示す。
【0130】
【表14】

【0131】
【表15】

【0132】
表14及び表15に示すように、実施例の掘削流体を用いた場合、ドリルパイプ10の回転速度0rpm(回転なし)及び60rpmのいずれの条件においても、比較例A-2の掘削流体を用いた場合に比べ、すべての流量において、カッティングスの運搬速度が速い。また、比較例A-2の運搬速度に対する実施例A-1の運搬速度の比率(増加率(%))が示すように、特に、流量が少ない場合に、増加率が高く、実施例の掘削流体による優れた運搬速度を有することが分かる。なお、比較例A-1及び比較例A-3は、不安定な挙動であったことから、運搬速度の算出はできなかった。
【0133】
ここで、掘削流体の流量とせん断速度の関係について説明する。管内における流量及びせん断速度は、それぞれ半径方向において分布が存在し、ニュートン流体の場合、ドリルパイプが無い管内においては、せん断速度は流路の中心付近で0(最小)、管壁部位で最大となる。掘削流体の代表的な非ニュートン流体(ビンガム塑性)の場合、ニュートン流体の分布とは厳密には異なるものの、せん断速度が流路の中心付近で最小、管壁部位で最大となる傾向はニュートン流体と同様であるあるため、計算の単純化を目的として、管内流動の簡易解析モデルとしてニュートン流体モデルを用いることが出来る。
【0134】
さらに、ニュートン流体モデルを用いることにより、図5に示すフローループ試験機1を用いた場合、掘削流体の流量と流速分布との関係は下記数式(4)で、掘削流体の流量とせん断速度の最大値との関係は下記数式(5)で示すことが出来る。下記数式(5)に基づけば、実験2におけるカッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度の評価条件では、掘削流体(試料)2の流量50、40、30、25及び20(m/h)は、それぞれ管内におけるせん断速度の分布範囲が0~145、0~116、0~87、0~72.5、0~58(1/s)に相当する。なお、坑井掘削におけるアニュラス部のせん断速度は、10~100(1/s)程度であるとされる(参考:沖野文吉、ボーリング用泥水<新版>、1981年5月25日、第26頁)
【0135】
【数4】

【0136】
【数5】

【0137】
表11、12、13及び14から明らかなように、実施例の掘削流体は、特に低流量の条件において(つまり、低せん断速度領域に近い条件である程)、優れたカッティングス運搬状況、カッティングス挙動、及びカッティングス運搬速度を示す。この傾向は、低せん断速度及び高せん断速度領域の両方で、カッティングスをスムーズに運搬できることを示しており、実施例の掘削流体によれば、優れたカッティングストランスポート及びホールクリーニングの能力を有することが分かる。
【符号の説明】
【0138】
1 フローループ試験機
2 掘削流体(試料)
3 マッドタンク
4 リターンタンク
5 マッドポンプ
6 アニュラーセクション
7 カッティングスフィーダ
8 カッティングス貯蔵槽
9 カッティングス
10 ドリルパイプ
11 観察区画
12 ビデオカメラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6