(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】密度情報取得装置、含侵情報取得装置、密度情報取得方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20240815BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20240815BHJP
G01J 5/00 20220101ALN20240815BHJP
【FI】
G01N25/18 H
G01N25/18 J
G01J5/48 A
G01J5/00 101Z
(21)【出願番号】P 2020087427
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(72)【発明者】
【氏名】宮地 耕平
(72)【発明者】
【氏名】野中 眞一
(72)【発明者】
【氏名】柴本 直紀
(72)【発明者】
【氏名】村中 泰之
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178970(JP,A)
【文献】特開平03-189547(JP,A)
【文献】特開2011-185852(JP,A)
【文献】米国特許第05586824(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G01J 5/48
G01J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射し当該試料を加熱する加熱部と、
前記試料の裏面側から前記領域の温度分布を検知する検知部と、
前記検知部によって検知された温度分布に基づいて、前記一方向における前記試料の密度の分布に関する情報を取得する取得部と
を備える密度情報取得装置。
【請求項2】
前記加熱部は、
光源と、
前記光源から照射される光を透過させシート光に変形する変形部と
を有する請求項1記載の密度情報取得装置。
【請求項3】
前記変形部および前記試料を相対移動させ、前記試料における前記領域の位置を前記一方向と交差する向きに移動させる移動体を有する請求項2記載の密度情報取得装置。
【請求項4】
前記試料は繊維を含む複合材料であり、
前記取得部は、前記密度に関する情報として、前記試料における前記繊維の状態を示す情報を前記一方向に沿う
予め定めた位置において取得する
請求項1記載の密度情報取得装置。
【請求項5】
前記複合材料は、前記繊維に含侵される樹脂を含み、
前記取得部は、前記繊維の状態を示す情報として、前記樹脂の含侵度を示す情報を取得する
請求項4記載の密度情報取得装置。
【請求項6】
前記検知部によって検知された温度分布に基づいて、前記試料の厚み方向熱拡散率を取得する熱拡散率取得部を備える
請求項1乃至5のいずれか1項記載の密度情報取得装置。
【請求項7】
前記加熱部は、前記試料の前記表面と直交する向きに沿って当該試料に光を照射する請求項1乃至6のいずれか1項記載の密度情報取得装置。
【請求項8】
光源と、
繊維および当該繊維に含侵される樹脂を含む試料の表面における一方向に延びる領域に、前記光源からの光を周期的に照射し当該試料を加熱する加熱体と、
前記試料の裏面側から前記領域における温度分布の変化の応答の遅れを検知する検知体と、
前記加熱体および前記試料を相対移動させ、当該試料における前記領域の位置を前記一方向と交差する向きに変位させる変位体と、
前記検知体によって検知された応答の遅れに基づいて、前記一方向における前記繊維の含侵度の分布を示す情報を取得する取得体と
を備える含侵情報取得装置。
【請求項9】
試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射し当該試料を加熱するステップと、
前記試料の裏面側から前記領域の温度分布を検知するステップと、
検知された温度分布に基づいて、前記一方向における前記試料の密度の分布に関する情報を取得するステップと
を備える密度情報取得方法。
【請求項10】
コンピュータに、
試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射することで加熱された当該試料の裏面側から、当該領域の温度分布を検知する機能と、
検知された温度分布に基づいて、前記一方向における前記試料の密度の分布に関する情報を取得する機能と
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密度情報取得装置、含侵情報取得装置、密度情報取得方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、繊維を含む複合材料に対して光を照射し複合材料を加熱する加熱部と、複合材料において加熱部によって加熱された領域の温度分布を検知する検知部と、検知部によって検知された温度分布に基づいて、複合材料における繊維の含有率に関する情報を取得する取得部とを備える含有率情報取得装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、複合材料などの製品の製造工程において、品質管理のため製品の密度に関する情報を非接触で取得することが求められることがあった。
【0005】
本明細書に開示される技術は、上記課題を解決するためになされたものであり、試料の密度に関する情報を非接触で取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射し当該試料を加熱する加熱部と、前記試料の裏面側から前記領域の温度分布を検知する検知部と、前記検知部によって検知された温度分布に基づいて、前記一方向に沿う予め定めた位置における前記試料の密度に関する情報を取得する取得部とを備える密度情報取得装置である。
ここで、前記加熱部は、光源と、前記光源から照射される光を透過させシート光に変形する変形部とを有するとよい。
また、前記変形部および前記試料を相対移動させ、前記試料における前記領域の位置を前記一方向と交差する向きに移動させる移動体を有するとよい。
また、前記試料は繊維を含む複合材料であり、前記取得部は、前記密度に関する情報として、前記試料における前記繊維の状態を示す情報を前記一方向に沿う前記予め定めた位置において取得するとよい。
また、前記複合材料は、前記繊維に含侵される樹脂を含み、前記取得部は、前記繊維の状態を示す情報として、前記樹脂の含侵度を示す情報を取得するとよい。
また、前記検知部によって検知された温度分布に基づいて、前記試料の厚み方向熱拡散率を取得する熱拡散率取得部を備えるとよい。
また、前記加熱部は、前記試料の前記表面と直交する向きに沿って当該試料に光を照射するとよい。
【0007】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、光源と、繊維および当該繊維に含侵される樹脂を含む試料の表面における一方向に延びる領域に、前記光源からの光を周期的に照射し当該試料を加熱する加熱体と、前記試料の裏面側から前記領域における温度分布の変化の応答の遅れを検知する検知体と、前記加熱体および前記試料を相対移動させ、当該試料における前記領域の位置を前記一方向と交差する向きに変位させる変位体と、前記検知部によって検知された応答の遅れに基づいて、前記一方向に沿う複数の位置における前記繊維の含侵度を示す情報を取得する取得体とを備える含侵情報取得装置である。
【0008】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射し当該試料を加熱するステップと、前記試料の裏面側から前記領域の温度分布を検知するステップと、検知された温度分布に基づいて、前記一方向に沿う予め定めた位置における前記試料の密度に関する情報を取得するステップとを備える密度情報取得方法である。
【0009】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、コンピュータに、試料の表面における一方向に延びる領域に光を照射することで加熱された当該試料の裏面側から、当該領域の温度分布を検知する機能と、検知された温度分布に基づいて、前記一方向に沿う予め定めた位置における前記試料の密度に関する情報を取得する機能とを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示される技術によれば、試料の密度に関する情報を非接触で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る繊維状態評価装置を示す概略構成図である。
【
図3】繊維状態評価装置における測定試料周辺の構成を示す図である。
【
図4】厚み方向熱拡散率の測定原理を示す説明図である。
【
図5】測定試料の試料評価について説明するための図である。
【
図6】繊維状態評価装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】コンピュータのハードウェア構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態について詳細に説明する。
<繊維状態評価装置100の構成>
図1は、本実施の形態に係る繊維状態評価装置100を示す概略構成図である。
まず、
図1を参照して、本実施の形態が適用される繊維状態評価装置100の構成を説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態が適用される繊維状態評価装置100は、測定試料1を加熱する光源として機能するダイオードレーザ10と、ダイオードレーザ10のレーザ光を測定試料1へと導く導光部20と、測定試料1に対向して設けられる赤外線サーモグラフィ(ロックインサーモグラフィ)30と、赤外線サーモグラフィ30からの信号を受けるコンピュータ50と、周期的信号を発生させダイオードレーザ10およびコンピュータ50へと出力する周期的信号発生器70とを備える。
【0014】
ここで、導光部20は、ダイオードレーザ10から出射されたレーザ光を反射するミラー21と、ミラー21からのレーザ光のビーム径を拡大するビームエキスパンダ23と、ビームエキスパンダ23からのレーザ光をシート光に変化させるシリンダリカルレンズ25と、測定試料1を変位可能に支持するXYZステージ27とを有する。
【0015】
このように構成された繊維状態評価装置100においては、ダイオードレーザ10から出射されたレーザ光は、ミラー21、ビームエキスパンダ23、およびシリンダリカルレンズ25を経て測定試料1に照射される。この測定試料1においては、レーザ光が照射される箇所(領域)が周期的に加熱される。すなわち、測定試料1の表面における特定の領域が、スポット周期加熱される。
【0016】
また、ダイオードレーザ10のレーザ光により周期的に加熱された測定試料1の温度は、測定試料1の裏面から赤外線サーモグラフィ30によって測定される。なお、赤外線サーモグラフィ30は、ダイオードレーザ10によりスポット周期加熱される領域を含む予め定めた範囲を、赤外線画像として撮像(測定)する。この赤外線サーモグラフィ30には、周期的信号発生器70から周期的信号が入力される。また、赤外線サーモグラフィ30で測定された温度のデータである温度分布データは、コンピュータ50へと出力される。
【0017】
コンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30とあわせて、所定間隔のフレームレートに基づいて、赤外線画像の取り込みと演算とを連続的に実行し、時間の経過とともに変化する温度変化量から平均化した画像を作成する(ロックイン方式)。さらに説明をすると、赤外線サーモグラフィ30で得られたデータがコンピュータ50により演算処理され、測定試料1における繊維状態の評価を行う。
【0018】
なお、以下の説明においては、
図1における測定試料1の表面に沿う一方向、すなわち図中左右方向をx方向ということがある。また、
図1における図中上下方向をz方向ということがある。また、
図1における紙面奥行方向をy方向ということがある。
【0019】
<コンピュータ50の機能構成>
図2は、コンピュータ50の機能構成図である。
次に、
図1および
図2を参照して、本実施の形態が適用されるコンピュータ50の機能構成を説明する。
図2に示すように、本実施の形態が適用されるコンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30(
図1参照)から入力される温度分布データおよび周期的信号に基づいて位相遅れ分布を測定する位相遅れ分布測定部51と、測定された位相遅れに基づいて熱拡散率分布を算出する熱拡散率分布算出部53と、算出された熱拡散率分布に基づいて測定試料1(
図1参照)の試料評価(後述)を算出する試料評価算出部55と、算出された試料評価などを液晶ディスプレイ(不図示)に表示する算出結果表示部59とを備える。なお、熱拡散率分布算出部53は、後述する式(3)に基づいて熱拡散率を算出する。
【0020】
本実施の形態のコンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30により検出された測定試料1(
図1参照)の温度分布に基づいて、測定試料1の評価、さらに説明をすると測定試料1における繊維状態の評価を行う。ここで、繊維状態とは、測定試料1に含まれる繊維の状態をいう。付言すると、コンピュータ50は、測定試料1の試料評価(繊維状態の評価)として、含侵度(後述)および繊維分布(後述)を算出する。図示の試料評価算出部55は、測定試料1における含侵度を算出する含侵度算出部56と、測定試料1における繊維分布を算出する繊維分布算出58とを有する。含侵度および繊維分布は、繊維状態の状態を示す指標の一例である。
【0021】
<測定試料1周辺の構成>
図3は、繊維状態評価装置100における測定試料1周辺の構成を示す図である。
次に、
図3を参照して、測定試料1の構成および繊維状態評価装置100における測定試料1周辺の構成を説明する。
【0022】
まず、測定試料1の構成について説明をする。
図3に示すように、測定試料1は、平板状の部材である。測定試料1の材質は、特に限定されないが、例えば炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastics(CFRP)、炭素繊維強化プラスチック)などの複合材料で構成される。測定試料1は、ダイオードレーザ10によってレーザ光が照射される側、すなわち図中上側の面である上面11と、ダイオードレーザ10によってレーザ光が照射される側とは反対側、すなわち図中下側の面である下面13とを有する。この下面13は、赤外線サーモグラフィ30と対向する面である。付言すると、赤外線サーモグラフィ30は、測定試料1の下面13における熱分布を測定する。
【0023】
次に、繊維状態評価装置100における測定試料1周辺の構成を説明する。
まず、シリンダリカルレンズ25は、測定試料1の上面11と対向する位置に設けられる。シリンダリカルレンズ25は、ダイオードレーザ10からのレーザ光を変形する光学部材である。さらに説明をすると、シリンダリカルレンズ25は、ダイオードレーザ10からのレーザ光と直交する仮想面において、一方向(図中x方向)にレーザ光を拡散させつつ、一方向と交差する方向(図中y方向)ではレーザ光の寸法を維持する。このことにより、シリンダリカルレンズ25は、レーザ光の光路をシート状(平面状)に変形する。
【0024】
このシリンダリカルレンズ25により、測定試料1の上面11に光照射領域HAが形成される。この光照射領域HAは、例えば光強度が最大強度となる加熱中心HPと所定の関係の光強度(例えば加熱中心HPの1/e2)となる領域である。図示の光照射領域HAは、長軸がx方向に沿う略楕円形状あるいは略長方形状)である。付言すると、光照射領域HAは、測定試料1の上面11において一方向に長い形状である。この光照射領域HAにより、測定試料1の上面11においてライン加熱が可能となる。
【0025】
XYZステージ27は、測定試料1を支持するとともに、光照射領域HAの長手方向と交差する向きにおいて、測定試料1の位置を変更可能である。図示の例においては、XYZステージ27は、y方向に測定試料1を移動可能である(図中矢印D1参照)。この測定試料1の移動により、測定試料1における光照射領域HAの位置が変更される。すなわち、XYZステージ27が測定試料1を移動させることにより、測定試料1における異なる領域が測定可能となる。
【0026】
なお、ダイオードレーザ10から出射するレーザ光は、断面略円形であり、例えば直径が0.1μm~1mmである。また、光照射領域HAのx方向の長さは、例えば10mm~1000mmである。なお、光照射領域HAのy方向の長さは、x方向の長さよりも短ければよく、例えば0.1μm~100mmである。また、赤外線サーモグラフィ30により撮像される領域(略長方形)の寸法(一辺)は、10mm~1000mmである。この撮像される領域は、光照射領域HAの全体を含む寸法、すなわち光照射領域HAよりも大きくてもよいし、光照射領域HAの一部を含む寸法、すなわち光照射領域HAよりも小さくてもよい。
【0027】
なお、例えば測定試料1が、加熱/加圧などによる成形(硬化)前の未硬化物である場合、すなわち中間基材である場合などにおいて、測定試料1の上面11に凹凸が存在する場合がある。このように凹凸がある上面11に対して斜めにダイオードレーザ10の光を照射すると、凸部によってレーザ光の一部が遮蔽され、凹部にレーザ光が照射されないことがある。そこで図示の例においては、ダイオードレーザ10からシリンダリカルレンズ25に向かうレーザ光が、測定試料1の上面11に対して直交する向きである。付言すると、上記構成により、光照射領域HAにおける光強度のばらつきが低減され得る。
【0028】
<測定原理>
次に、本実施の形態における測定方法の原理を説明する。本実施の形態においては、測定試料1の厚み方向熱拡散率の分布から、測定試料1の試料評価を算出する。以下では、測定試料1の厚み方向熱拡散率の測定原理について説明をした後、測定試料1の試料評価の測定原理について具体的に説明をする。
【0029】
<厚み方向熱拡散率>
図4は、厚み方向熱拡散率の測定原理を示す説明図である。具体的には、
図4(a)は測定試料1および加熱光を示す概略図であり、
図4(b)は位相遅れの周波数依存性を示す図である。
まず、
図4(a)および(b)を参照しながら、測定試料1の熱拡散率の測定原理について説明する。
【0030】
図4(a)に示すように、本実施の形態においては、厚みd(mm)が一定の測定試料1に対して、周波数を変化させながら加熱光を照射し、測定試料1の裏面側から赤外線サーモグラフィ30により温度分布を測定する。付言すると、ここでは位相遅れの周波数依存性を検知する。
【0031】
以下、具体的に説明をする。薄型試料である測定試料1が周期的な点熱源によって加熱される場合、温度波は測定試料1内を球状に伝搬する。ここで、加熱される測定試料1のサイズを無限大とし境界面での反射を無視すると、熱源から距離r離れた点での交流温度Tacは、以下に示す式(1)で表わされる。
【0032】
【0033】
ここで、T0は定数(Km)、fは加熱周波数(Hz)、tは時間(s)、Dは熱拡散率(mm2/s)、μは熱拡散長(m)である。また、温度応答との位相遅れθの関係は式(2)で表わされる。
【0034】
【0035】
式(1)および式(2)により厚み方向の熱拡散率Ddは、以下に示す式(3)で表わされる。
【0036】
【0037】
本実施の形態においては、測定試料1における複数点をライン加熱によって同時に周期加熱し、各点での厚み方向熱拡散率を算出することで厚み方向熱拡散率分布を算出する。言い替えると、測定試料1における一方向に長い領域を周期加熱し、一方向における位置に応じた厚み方向熱拡散率を算出することで、測定試料1を評価する。なお、測定試料1における複数点の同時計測を行うことにより、計測時間が短縮され、装置の簡略化が可能となる。
【0038】
<試料評価>
次に、測定試料1の試料評価について説明をする。以下ではまず測定試料1の構成について説明をした後、測定試料1の試料評価について詳細に説明をする。
まず、測定試料1の構成について説明をする。測定試料1は、上記のように炭素繊維強化樹脂により構成される。この測定試料1は、炭素繊維(強化材)にエポキシ樹脂等の樹脂(母材)を含浸させて構成される。さらに説明をすると、図示の例における測定試料1は、従来のCFRPのように繊維長が相対的に長い連続繊維ではなく、相対的に繊維長の短い不連続繊維を用いた不連続繊維CFRPにより構成されている。
【0039】
この不連続繊維CFRPは、短時間で複雑な形状を成形可能であるため、量産化に適している。一方で、不連続繊維CFRPの製造工程においては、例えば加圧(プレス)前の中間基材の段階で、炭素繊維に樹脂が充分に含侵していない未含侵部が現れることがある。ここで、製造工程におけるプレス成形時には、繊維は樹脂とともに流動する。そのため未含侵部があると、繊維の流動が十分でない箇所が現れ、結果として成形品に空隙を形成したり、プレス機器に負荷を与えたりすることとなる。
【0040】
そこで、本実施の形態の測定試料1の評価においては、測定試料1の厚み方向熱拡散率分布測定を行い、含侵度を算出する。さらに説明をすると、図示の例の測定試料1の評価においては、厚み方向熱拡散率分布の測定を行うことで、含侵度とともに炭素繊維分布量を算出する。
【0041】
ここで、含侵度は、測定試料1に含まれる一の材質(母材、樹脂)の含侵の程度を示す。以下の説明においては、含侵度を良/不良で表す。すなわち、含侵度が良好であることは、測定試料1における対象とする材質(樹脂)が相対的に多く含まれることを示す。さらに説明をすると、含侵度が良好であることは、測定試料1における樹脂の体積分率が高く、空隙が小さいことを示す。一方、含侵度が不良であるとは、測定試料1における対象とする材質が相対的に少なく含まれることを示す。さらに説明をすると、含侵度が不良であることは、測定試料1における樹脂の体積分率が低く、空隙が大きいことを示す。なお、含侵度は、定量的に数値で算出されてもよい。また、含侵度は、測定試料1の密度に関する情報として捉えることができる。
【0042】
また、炭素繊維分布量は、測定試料1に含まれる一の材質(強化材、炭素繊維)の量を示す。以下の説明においては、炭素繊維分布量を多い/少ないで表す。すなわち、炭素繊維分布量が多いことは、測定試料1における対象とする材質(炭素繊維)が相対的に多く含まれる(密に分布する)ことを示す。さらに説明をすると、炭素繊維分布量が多いことは、測定試料1における炭素繊維の体積分率が高いことを示す。また、炭素繊維分布量が少ないことは、測定試料1における対象とする材質が相対的に少なく含まれる(疎らに分布する)ことを示す。さらに説明をすると、炭素繊維分布量が少ないことは、測定試料1における炭素繊維の体積分率が低いことを示す。なお、炭素繊維分布量は、定量的に数値で算出されてもよい。
【0043】
図5は、測定試料1の試料評価について説明するための図である。具体的には、
図5(a)は含侵CFRP110の概略断面図であり、
図5(b)は未含侵CFRP130の概略断面図である。
【0044】
図5(a)に示すように、含侵CFRP110、すなわち含侵度が良好な測定試料1においては、炭素繊維101の周囲を樹脂103が満たした材料構造となる。一方、
図5(b)に示すように、未含浸CFRP130、すなわち含侵度が不良な測定試料1においては、炭素繊維101の周囲の樹脂103が少なく、空隙105が存在する材料構造となる。なお、炭素繊維101は、含侵CFRP110および未含浸CFRP130の各々の内でランダムに分布しているため、炭素繊維101の重なりや厚み方向での分布量は、含侵CFRP110および未含浸CFRP130における位置によって変化する。付言すると、空隙105の体積分率は、1から炭素繊維の体積分率および樹脂の体積分率を減算した数値として表すことができる。また、空隙105は空気層として捉えることができる。
【0045】
上記のような含侵CFRP110および未含浸CFRP130において、ダイオードレーザ10によって上面11を加熱するときの熱伝導について検討する。
まず、
図5(a)に示す含浸CFRP110においては、上面11が加熱されることにともなう熱伝導は、主に炭素繊維101および樹脂103で行われる。そのため、含浸CFRP110を測定試料1として測定される熱拡散率は、炭素繊維101単体と樹脂103単体の間の数値となる。また、炭素繊維101の分布により、炭素繊維101が相対的に多く、密に分布している箇所では、測定される熱拡散率は炭素繊維101単体に近づく。一方、炭素繊維101の分布量が相対的に少なく、疎らに分布している箇所では、熱拡散率は樹脂103単体に近づく。さらに、
図5(b)に示す未含浸CFRP130においては、空隙105で熱伝導が阻害される。そのため、未含浸CFRP130で測定される熱拡散率は低くなり、樹脂103単体以下の数値となる。
【0046】
本実施の形態においては、上記のような熱伝導の特性を利用し、成形前CFRPである測定試料1の厚み方向熱拡散率分布を測定し、厚み方向熱拡散率の分布領域により含浸度を評価する。また、本実施の形態においては、測定試料1内の厚み方向熱熱拡散率分布の高低により、厚み方向の炭素繊維分布量を評価する。
【0047】
<動作>
図6は、繊維状態評価装置100(
図1参照)の動作を説明するフローチャートである。
次に、
図1および
図6を参照して、本実施の形態における繊維状態評価装置100の動作を説明する。
【0048】
まず、繊維状態評価装置100におけるダイオードレーザ10から出射されたレーザ光により、測定試料1の表面が周期的にライン加熱される(ステップ601)。
そして、赤外線サーモグラフィ30により測定される温度分布により、位相遅れ分布測定部51が位相遅れ分布を測定する(ステップ602)。
そして、この測定された位相遅れ分布に基づき、熱拡散率分布算出部53が厚み方向の熱拡散率分布を算出する(ステップ603)。
【0049】
そして、この算出された厚み方向の熱拡散率分布に基づき、試料評価算出部55が、測定試料1の試料評価を算出する(ステップ604)。
そして、算出結果表示部59が、測定試料1の算出結果を液晶ディスプレイなどの表示手段(不図示)に表示する(ステップ605)。
【0050】
<測定結果>
図7は、測定試料1の測定結果を示す図である。より具体的には、
図7(a)は含浸CFRP110の厚み方向熱拡散率分布を示す図であり、
図7(b)は未含浸CFRP130の厚み方向熱拡散率分布を示す図である。
次に、
図7(a)および(b)を参照して、測定試料1として含浸CFRP110および未含浸CFRP130を用いた測定結果を説明する。
【0051】
なお、本測定においては、測定試料1における炭素繊維の量を固定し、樹脂の量を変化させることで、含浸CFRP110および未含浸CFRP130を作成した。測定試料1の寸法は、100mm×100mmである。また、含浸CFRP110および未含浸CFRP130をそれぞれ2つずつ作製した。また、各測定試料1につき、y方向において10mm間隔で5箇所の測定を行った。また、光照射領域HAのx方向長さは68mmとした。赤外線サーモグラフィ30の撮影領域の寸法は、37mm×44mmである。また、撮影領域のx方向における複数の点(511点)で、厚み方向熱拡散率をそれぞれ算出した。
【0052】
また、含浸CFRP110および未含浸CFRP130は、プレス成形前であり厚みのばらつきが存在する。含浸CFRP110および未含浸CFRP130各々における測定箇所の両端から3回ずつ測定し,その平均値を測定箇所の厚みとし解析に用いた。測定された厚みは1.24~1.62mmの間で分布していた。
【0053】
図7(a)に示す含浸CFRP110においては、測定される厚み方向熱拡散率が、樹脂の熱拡散率と炭素繊維の熱拡散率間の値で分布することが確認される。これは、主な熱伝導が、炭素繊維および樹脂の部分で行われているためと考えられる。また、測定される厚み方向熱拡散率も一定ではなく分布が確認される。この厚み方向拡散率の位置依存性は、炭素繊維の分布量によるものと考えられる。
【0054】
次に、
図7(b)に示す未含浸CFRP130においては、測定される厚み方向熱拡散率が、樹脂の熱拡散率以下の値で分布することが確認される。これは、未含浸CFRP130内に空隙が存在することで熱伝導が阻害されるためと考えられる。また、測定される厚み方向熱拡散率は、常に樹脂の熱拡散率以下ではなく、局所的に厚み方向熱拡散率の高い箇所が存在することが確認される。この厚み方向熱拡散率が局所的に高い部分は、炭素繊維が重なっている部分と考えられる。
【0055】
上記の測定結果から、広域厚み方向熱拡散率測定より含浸・未含浸CFRPの繊維状態が評価可能であることが確認された。なお、上述のように試料評価算出部55の試料評価は、含侵度および繊維分布によって行う。そして、試料評価算出部55は、測定される厚み方向熱拡散が、樹脂の熱拡散率と炭素繊維の熱拡散率間の値との間に含まれる場合には含侵度が良好であり、樹脂の熱拡散率以下である場合には不良であると判断する。また、試料評価算出部55は、測定される厚み方向熱拡散が高いほど炭素繊維の分布が多いと判断する。したがって、試料評価算出部55は、
図7(a)に示す含浸CFRP110においては、含侵度が良好であり、炭素繊維の分布が多い箇所があると判断する。また、試料評価算出部55は、
図7(b)に示す未含浸CFRP130においては、含侵度が不良であり、炭素繊維の分布が多い箇所があると判断する。
【0056】
<コンピュータ50のハードウェア構成>
図8は、コンピュータ50のハードウェア構成例を示した図である。
図8に示すように、コンピュータ50は、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)501と、記憶手段であるメインメモリ503およびHDD(Hard Disk Drive)505とを備える。ここで、CPU501は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行する。また、メインメモリ503は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域である。HDD505は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。そして、コンピュータ50が備えるこれらの構成部材により、上記
図2などで説明した各機能構成が実行される。
【0057】
なお、コンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30など外部との通信を行うための通信インターフェイス(通信I/F)507を備えている。また、CPU501が実行するプログラム(例えば、上記試料評価を算出するプログラム)は、予めメインメモリ503に記憶させておく形態の他、例えばCD-ROM等の記憶媒体に格納してCPU501に提供したり、あるいは、ネットワーク(不図示)を介してCPU501に提供したりすることも可能である。
【0058】
<変形例>
上記の実施の形態においては、ダイオードレーザ10からシリンダリカルレンズ25に向かうレーザ光が、測定試料1の上面11に対して直交することを説明したが、これに限定されない。すなわち、測定試料1の上面11において光照射領域HAが一方向に長い形状であれば、ダイオードレーザ10からのレーザ光が、測定試料1の上面11に対して斜めの向きに照射されてもよい。
【0059】
また、上記の実施の形態においては、シリンダリカルレンズ25を用いて光照射領域HAを一方向に長い形状とすることを説明したが、これに限定されない。例えば、シリンダリカルレンズ25に替えて、マスキング部材を設けることで、レーザ光の一部を遮蔽して光照射領域HAを一方向に長い形状としてもよい。また、光源として、ダイオードレーザ10に替えて、シート光を出射するシートレーザを用いてもよい。また、シリンダリカルレンズ25などを介さずに、測定試料1の上面11に対して斜めの向きに照射することで、光照射領域HAを一方向に長い形状としてもよい。
【0060】
上記の説明においては、算出結果表示部59が、試料評価として含侵度および繊維分布の算出結果をディスプレイ(不図示)に表示(出力)することを説明したがこれに限定されない。例えば、含侵度および繊維分布の算出結果を、コンピュータ50以外の他装置に送信する態様や、自装置で保存する態様であってもよい。
また、試料評価の算出結果を算出する過程で得られる、厚み方向熱拡散率についての情報を、試料評価の算出結果とともに、表示、送信、記憶する態様であってもよい。あるいは、試料評価の算出結果のうちの一部に関する情報を、表示、送信、記憶する態様であってもよい。
【0061】
また、上記の説明においては、未硬化物である測定試料1の試料評価として、含侵度および繊維分布を出力することを説明した。ここで、測定試料1は、未硬化物であっても、加熱/加圧などによる成形(硬化)後の硬化物であってもよい。ここで、測定試料1が硬化物である場合、測定試料1内に亀裂(割れ、クラック)が形成されている場合がある。この亀裂が形成されている領域においては、熱的に不連続となる。そして、この領域における上記の測定結果は、上記の空隙が形成されている場合と同様に、樹脂単体の熱拡散率よりも小さくなる。そこで、硬化物である測定試料1の試料評価において、上記測原理を用いた測定を行い、その測定結果を樹脂の熱拡散率と比較することにより、樹脂の割れ、あるいは不連続領域を検知することができる。
【0062】
また、例えば、含侵度および繊維分布を直接示さずに、得られた含侵度および繊維分布を、各々の閾値と比較して、各閾値を超えた場合に、含侵度および繊維分布のいずれが閾値を超えたことを示す情報を出力する態様であってもよい。また、
図7で示すように熱拡散率分布を示す情報をグラフなどにより出力してもよい。
【0063】
また、上記の説明においては、測定試料1として、炭素繊維強化樹脂を用いることを説明したが、これに限定されない。すなわち、互いに熱伝導率が異なる複数の種類の材料から構成される試料であればよい。また、測定試料1を、複合材料以外に用いてもよい。さらに、例えば、測定試料1としてガラス、半導体、高分子フィルム、液晶などを用いてもよい。このようにガラスなどを測定試料1とした場合には、測定試料1の内部に形成されたボイドやクラックの検知を行うことができる。言い替えると、測定試料1の試料評価として、測定試料1の密度に関する情報を取得することができる。なお、密度に関する情報とは、測定試料1の密度を把握可能な情報である。この密度に関する情報とは、測定試料1の密度の値以外に、密度の相対的な評価(例えば、粗密)や、測定試料1内部における空隙の有無なども含む。
【0064】
また、ダイオードレーザ10により実行される測定試料1の加熱は、レーザに限定されない。測定試料1を局所的に加熱することが可能であれば、誘導加熱や抵抗加熱など他の加熱方法を用いてもよい。
【0065】
なお、測定試料1は、試料の一例である。光照射領域HAは、領域の一例である。レーザ10は、加熱部および光源の一例である。赤外線サーモグラフィ30は、検知部および検知体の一例である。試料評価算出部55は、取得部および取得体の一例である。繊維状態評価装置100は、密度情報取得装置および含侵情報取得装置の一例である。シリンダリカルレンズ25は、変形部および加熱体の一例である。XYZステージ27は、移動体および変位体の一例である。熱拡散率分布算出部53は、熱拡散率取得部の一例である。
【0066】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…測定試料、10…ダイオードレーザ、25…シリンダリカルレンズ、30…赤外線サーモグラフィ、20…コンピュータ、50…コンピュータ、55…試料評価部、56…含侵度算出部、58…繊維分布算出