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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】レンチウイルスベクター産生の増強方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240815BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240815BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N15/867 Z ZNA
C12N5/10
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020549114
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019036929
(87)【国際公開番号】W WO2020059848
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018176230
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「HTLV-1 感染疾患機序における自然免疫の役割解明と疾患リスク予知への応用」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 昇司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 尚人
(72)【発明者】
【氏名】芳田 剛
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/054467(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/092094(WO,A1)
【文献】TaKaRa,TaKaRa, pHEK293 Ultra Expression Vector I(製品コード 3390), pHEK293 Ultra Expression Vector II(製品コード 3392), 説明書,2016年12月,pp. 1-11,インターネット: <URL: http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/3390_3392_j.pdf>, 検索日 2019.12.06
【文献】Biochem. J.,2012年,Vol. 443,pp. 603-618
【文献】VIROLOGICA SINICA,2014年,Vol. 29, No. 6,pp. 343-352
【文献】Biotechnol. Prog.,2011年,Vol. 27, No. 3,pp. 751-756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 7/00-7/08
C12N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHTLV-1 TaxおよびNF-κB RelAからなる群から選択される1つまたは複数を発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項2】
レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHTLV-1 TaxまたはNF-κB RelAを発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、請求項1に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項3】
レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHTLV-1 TaxおよびNF-κB RelAの2種類を発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、請求項1に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項4】
レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHIV-1 TatおよびNF-κB RelAの2種類を発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項5】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項6】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項5記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項7】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、請求項5記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項8】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項5記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項9】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項7または8に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項10】
Taxがレンチウイルスベクター中に取り込まれない、請求項1~3および5~9のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項11】
Tatがレンチウイルスベクター中に取り込まれない、請求項4~9のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項12】
レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびHTLV-1 TaxおよびNF-κB RelAからなる群から選択される1つまたは複数をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項13】
レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびHTLV-1 TaxまたはNF-κB RelAをコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、請求項12に記載の293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項14】
レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックス、ならびにHTLV-1 TaxおよびNF-κB RelAの2種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、請求項12に記載の293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項15】
レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドであって目的導入遺伝子の上流にCMVプロモーターを含むプラスミドを含むパッケージングミックス、ならびにHIV-1 TatおよびNF-κB RelAの2種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項16】
HTLV-1 TaxおよびNF-κB RelAからなる群から選択される2種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターが別々のベクターである、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項17】
HIV-1 TatおよびNF-κB RelAからなる群から選択される2種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターが別々のベクターである、請求項15記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項18】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、請求項12~17のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項19】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項18記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項20】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、請求項18記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項21】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項18記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項22】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項20または21に記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項23】
請求項12~22のいずれか1項に記載のキットに含まれるプラスミドおよびベクターを含む293T細胞。
【請求項24】
発現させるプロモーターを活性化させる因子がNF-κB RelAである、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項25】
発現させるプロモーターを活性化させる因子がNF-κB RelAを含むものである、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンチウイルスベクターの効率的な産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)由来のレンチウイルスベクターは、インビトロおよびインビボの両方において、分裂細胞および非分裂細胞に外来遺伝子を形質導入するための貴重なツールである。レンチウイルスベクターの安全性と利便性は、種々の方法によって、改善されてきた(非特許文献1)。水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)偽装型のレンチウイルスベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーターの制御下でHEK293T細胞内で産生され、広範囲の細胞への非常に効率的な形質導入を媒介することができる(非特許文献2)。造血幹細胞およびT細胞を標的とするレンチウイルスベクターの最近の臨床応用は、かなり成功している(非特許文献3)。インビボ実験および非分裂細胞の形質導入には、高力価のレンチウイルスベクターが必要となることが多く、このためには大型培養で製造し、超遠心分離によって濃縮し、次いでクロマトグラフィーおよび限外濾過によって精製しなければならない(非特許文献4)。この手順は、大量のプラスミドおよび細胞培養材料ならびに濃縮および精製のための装置を用いるベクター調製の高コストのため、現在、大きな障害となっている。培養上清からのレンチウイルスベクターの濃縮および精製のための手順を改善するために多くの努力が払われてきたが、ベクターの実際の産生を増強するための簡単な方法についての報告は比較的少ない。細胞内自然免疫応答をブロックすることにより、ウイルスベクター産生が増加すること(非特許文献5)、および免疫応答タンパク質Siglec-9の安定した発現が、トランスフェクション効率を上昇させることによってレンチウイルスベクター産生を増強することが示された(非特許文献6)。他の研究者は、カフェイン(非特許文献7)または酪酸ナトリウム(非特許文献8)を培養培地に添加して、レンチウイルスベクターの力価を増加させることについて研究を行った。しかしながら、高力価のレンチウイルスベクターを調製するには、さらに改善が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Matrai et al., Molecular therapy : the journal of the American Society of Gene Therapy 18, 477-490, doi:10.1038/mt.2009.319 (2010).
【文献】Burns, J. C. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 90, 8033-8037 (1993).
【文献】Dunbar, C.E. et al., Science 359, doi:10.1126/science.aan4672 (2018).
【文献】McCarron, A. et al., Journal of biotechnology 240, 23-30, doi:10.1016/j.jbiotec.2016.10.016 (2016).
【文献】de Vries et al., Gene therapy 15, 545-552, doi:10.1038/gt.2008.12 (2008).
【文献】Shoji, T. et al., Cytotechnology 67, 593-600, doi:10.1007/s10616-013-9679-7 (2015).
【文献】Ellis, B. L. et al., Human gene therapy 22, 93-100, doi:10.1089/hum.2010.068 (2011).
【文献】Ansorge. S. et al., The journal of gene medicine 11, 868-876, doi:10.1002/jgm.1370 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンチウイルスベクターは、細胞内での安定した発現のために外来遺伝子を送達するための貴重なツールである。レンチウイルスベクター含有培地からレンチウイルスベクターを精製する技術の開発には多大な進歩があった。しかし、産生細胞からのレンチウイルスベクターの産生を増加させる方法については十分検討されていない。
【0005】
本発明は、293T細胞において、レンチウイルスベクターの産生を増強させる方法および増強させるための試薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)のTaxタンパク質(以下、「HTLV-1 Tax」または「Tax」と表記)は、HTLV-1のLTR駆動転写を促進し、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)/活性化転写因子(ATF)、核内因子-B(NF-κB)およびアクチベータータンパク質-1(AP-1)1を含む細胞転写因子を活性化するトランス作用性タンパク質である。本発明者らは、HTLV-1 Taxが、HEK293T細胞におけるCMVプロモーター駆動遺伝子発現を増強することを見出し、この知見をレンチウイルスベクター産生に利用した。
【0007】
本発明者らは、少量のTaxを同時発現させると、産生細胞におけるGagの発現およびレンチウイルスベクター粒子の放出の両方が著しく増加し、形質導入効率が10倍を超えて増加することを見出し、産生細胞におけるプロモーター活性化により、高力価のレンチウイルスベクターを調製する本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時にプロモーターを活性化する因子を発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
[2] プロモーターを活性化する因子が、CMVプロモーターを活性化する因子である、[1]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[3] プロモーターを活性化する因子が、HTLV-1 Tax、HIV-1 Tat、NF-κB RelA、AP-1及びCREB/ATFからなる群から選択される1つまたは複数である、[1]または[2]の方法。
[4] レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスを293T細胞にコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHTLV-1 TaxまたはNF-κB RelAを発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、[1]~[3]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[5] レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスで293T細胞をコトランスフェクトするときに、同時に293T細胞中でHTLV-1 Tax、HIV-1 TatおよびNF-κB RelAからなる群から選択される2種類、あるいはHTLV-1 Tax、HIV-1 TatおよびNF-κB RelAの3種類を発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、[1]~[3]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[6] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、[4]または[5]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[7] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、[6]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[8] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、[6]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[9] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、[6]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[10] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[8]または[9]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[11] Taxがレンチウイルスベクター中に取り込まれない、[3]~[10]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
【0009】
[12] レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびプロモーターを活性化する因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[13] プロモーターを活性化する因子が、CMVプロモーターを活性化する因子である、[12]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[14] プロモーターを活性化する因子が、HTLV-1 Tax、HIV-1 Tat、NF-κB RelA、AP-1及びCREB/ATFからなる群から選択される1つまたは複数である、[12]または[13]のキット。
[15] レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびHTLV-1 TaxまたはNF-κB RelAをコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、[12]~[14]のいずれかの293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[16] レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックス、ならびにHTLV-1 Tax、HIV-1 TatおよびNF-κB RelAからなる群から選択される2種類、あるいはHTLV-1 Tax、HIV-1 TatおよびNF-κB RelAの3種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む、[12]~[14]のいずれかの293T細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[17] HTLV-1 HIV-1 Tax、TatおよびNF-κB RelAからなる群から選択される2種類、あるいはHTLV-1 Tax、HIV-1 TatおよびNF-κB RelAの3種類をコードする遺伝子を含む発現ベクターが別々のベクターである、[16]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[18] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、[15]~[17]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[19] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、[18]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[20] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、[18]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[21] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、[18]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[22] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[20]または[21]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[23] [15]~[22]のいずれかのキットに含まれるプラスミドおよびベクターを含む293T細胞。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-176230号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
293T細胞でレンチウイルスのパッケージングに必要な複数のプラスミドをコトランスフェクトするときに、HTLV-1 TaxもしくはNF-κB RelAを単独で同時発現させるか、あるいはHTLV-1 TaxとNF-κB RelA、HTLV-1 TaxとHIV-1 Tat、もしくはNF-κB RelAとHIV-1 Tatの2者を、あるいはHTLV-1 TaxとNF-κB RelAとHIV-1 Tatの3者を同時に発現させることにより、レンチウイルスベクターの産生を増強することができる。この本発明の方法により、レンチウイルスベクター産生が改善され、容易にかつ安全にレンチウイルスベクターを産生することができる。その結果、細胞培養およびトランスフェクション手順のコストの低減に貢献し、現在の濃縮および精製技術と組み合わせることにより、多種多様なインビトロおよびインビボでの応用に用いることができる。
【0011】
さらに、本発明の方法においては、Taxタンパク質がレンチウイルスベクター粒子に取り込まれないため、調製物の安全性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1-1】代表的な第一世代、第二世代および第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構造を示す図である。
図1-2】VSV-G及びrevが1つのプラスミド中に含まれる第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構造を示す図である。
図2】TaxがHEK293T細胞においてCMVプロモーターを強く活性化することを示す図である。
図3】レンチウイルスベクター産生細胞におけるTaxの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
図4】レンチウイルスベクター産生細胞におけるTax発現およびGag発現のレベルを示す図である。
図5】Taxによる産生細胞からのウイルス放出の増強を示す図である。
図6】Taxがレンチウイルスベクター粒子に取り込まれる可能性は低いことを示す図である。
図7-1】HTLV-1 Tax(A)、HIV-1 Tat(B)またはNF-κB RelA(C)を単独で同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強効果を示す図である。
図7-2】HTLV-1 TaxとHIV-1 Tat(A)、HTLV-1 TaxとNF-κB RelA(B)、またはNF-κB RelAとHIV-1 Tat(C)の2者を、あるいはHTLV-1 Tax、NF-κB RelA、HIV-1 Tatの3者(D)を同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強効果を示す図である。
図8】pSVプラスミドの構造を示す図である。
図9】実施例2で用いたトランスファープラスミドの構造を示す図である。
図10】HIV-1 TatまたはNF-κB RelAの単独で又は同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強の結果を示す図である。
図11】実施例3で用いたトランスファープラスミドの構造を示す図である。
図12】レポーター遺伝子としてVenusを用いた場合の力価測定法の概要を示す図である。
図13】レポーター遺伝子としてVenusを用いた場合の力価測定の結果(力価の絶対値)を示す図である。
図14】レポーター遺伝子としてVenusを用いた場合の力価測定の結果(力価の増加程度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、レンチウイルスベクターの産生方法であり、レンチウイルスベクターの産生量を増強する方法である。
【0014】
本発明の方法においては、レンチウイルスベクターを産生する能力を有するパッケージング細胞として、293T(HEK293T)細胞を用い、293T細胞中でレンチウイルスを産生する際に、プロモーターに作用し、プロモーターを活性させる因子を共発現させる。プロモーターは限定されないが、例えば、CMVプロモーターが挙げられる。プロモーターを活性化する因子として、Tax、NF-κB RelA、HIV-1 Tat(以下、「HIV-1 Tat」または「Tat」と表記)、AP-1、CREB/ATF等が挙げられ、それらの1つ、を共発現させても、2個、3個、4個または5個の複数を組み合わせて共発現させてもよい。本発明においては、かかるプロモーターを活性化する因子として、Tax、NF-κB RelAおよびTatから選ばれる1つ以上の因子を共発現させることが好ましい。
【0015】
また、本発明の方法においては、レンチウイルスベクターを産生する能力を有するパッケージング細胞として、293T(HEK293T)細胞を用い、293T細胞中でレンチウイルスを産生する際に、Tax、NF-κB RelAなどの転写因子、Tatあるいはそれらの組み合わせを共発現させる。
【0016】
レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)を基に開発された。
レンチウイルスベクターを製造するためには、HIV-1プロウイルスゲノムを複数のプラスミドに分割して含ませ、各プラスミドを細胞にコトランスフェクト(同時(共)トランスフェクト)させればよい。この際、ウイルスゲノムのすべてを複数のプラスミドに分割して含ませる必要はなく、アクセサリー遺伝子等の遺伝子を除いたウイルスゲノムの一部を含んでいればよい。すなわち、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミドおよびレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミド(レンチウイルスベクタープラスミド)をパッケージング細胞にコトランスフェクトすればよい。レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質として、パッケージングに必要なgag、pol、tat、rev等のタンパク質、VSV-G(G glycoprotein of vesicular stomatitis virus:水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)等のエンベロープ(env)タンパク質が挙げられる。VSV-Gは、広範囲な宿主域を持ち、物理的な強度が高いという点で好ましいが、他のエンベロープを用いることができる。gag遺伝子は、内部構造(細胞間質、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)タンパク質をコードし、pol遺伝子は、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードし、env遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。また、レンチウイルスベクタープラスミドは、パッケージングシグナル(Ψ)を含み目的遺伝子を挿入したプラスミドである。
【0017】
パッケージングに必要なgag、pol、tat、rev等のタンパク質をコードする核酸、VSV-G等のエンベロープ(env)タンパク質をコードする核酸は、複数のプラスミド、例えば、3~5個のプラスミド、好ましくは3または4個のプラスミドに分割して含ませ、それらの複数のプラスミドとレンチウイルスベクタープラスミドをコトランスフェクトすればよい。
【0018】
コトランスフェクトの結果、レンチウイルスベクタープラスミドから転写された組換えウイルスRNAゲノムが、パッケージングシグナル(Ψ)の作用でパッケージングタンパク質に取り込まれ、ウイルスコアが形成される。
【0019】
このように、ウイルス形成に必須のタンパク質をコードする核酸が異なるプラスミドに分散して含まれる結果、相同組換えにより野生型HIV-1が生成されるのを防止する。細胞に感染したレンチウイルスベクターは細胞中で自己複製できないので、非再感染性であり、安全である。
【0020】
例えば、レンチウイルスベクタープラスミド、gag、pol、tat、rev等のタンパク質をコードする核酸を含むプラスミド、およびVSV-G等のエンベロープ(env)タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドを用いることができる。また、制御遺伝子であるrevやtatは他のプラスミドに分割してもよい。
【0021】
具体的には、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現プラスミド(エンベローププラスミド)の3つのプラスミドを用いることができる。さらに、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現プラスミド(エンベローププラスミド)、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドを用いてもよい。また、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドを用いてもよい。
【0022】
5'LTRおよび3'LTRは、改変されていてもよく、例えば、5'LTRおよび3'LTRのU3が欠失、あるいは変異していてもよく、この際、5'LTRのU3がCMVプロモーター等のプロモーターにより置換されていてもよい。
【0023】
細胞内でレンチウイルスベクターの産生に用いる上記の複数のプラスミドをレンチウイルス産生のためのパッケージングミックスという。
【0024】
好ましくは、レンチウイルスベクタープラスミド以外のプラスミドの3'末端側には、ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、poly A)を連結させる。ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)の由来は限定されず、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、例えばウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列やヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトやウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列等が挙げられる。ポリA付加配列を発現用カセットに含ませることにより、RNAの安定性や翻訳効率が向上する。
【0025】
上記のレンチウイルスベクタープラスミドは、パッケージングシグナル(Ψ)を含んだ両端のHIV-LTRの間に内部プロモーターと目的とする遺伝子が組込まれている。
【0026】
レンチウイルスベクタープラスミドおよびパッケージングプラスミドには、RRE(rev response element)が含まれていてもよい。
【0027】
また、各プラスミドの5'末端側にはプロモーターを連結させてもよい。さらに、上記のように、レンチウイルスベクタープラスミド中の目的遺伝子の上流にプロモーターを含む。用いるプロモーターは限定されず、CMVプロモーター、CMV-iプロモーター(hCMV + イントロンプロモーター)、SV40プロモーター、UbCプロモーター、EF1aプロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、組織特異的なプロモーター、tet発現制御プロモーター等を用いることができるが、この中でもCMVプロモーターが好ましい。
【0028】
vif、vpr、vpu、vpx、nef等のHIVのアクセサリー遺伝子の少なくとも1つは除かれているか不活性化されていることが好ましい。
【0029】
さらに、レンチウイルスベクタープラスミドは、cPPT(central polypurine tract)やWPRE(woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element)を含んでいてもよい。cPPTは逆転写効率を向上させ、WPREはRNAの発現効率を向上させる。
【0030】
プラスミド中の各エレメントは、機能的に連結している必要がある。ここで、機能的に連結しているとは、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、発現させようとする遺伝子の発現が増強されるように連結していることをいう。
【0031】
レンチウイルスベクターを産生するためのレンチウイルスベクターシステムは、相同組換えによる野生型ウイルスの発生を防止するために、第一世代レンチウイルスベクターシステム、第二世代レンチウイルスベクターシステム、第三世代レンチウイルスベクターシステムと改良されていった。
【0032】
上記の(1)~(3)の3つのプラスミドを用いるレンチウイルスベクターシステムが第二世代レンチウイルスベクターシステムであり、(A)~(D)の4つのプラスミドを用いるレンチウイルスベクターシステムが第三世代レンチウイルスベクターシステムである。
【0033】
第三世代レンチウイルスベクターシステムにおいては、レンチウイルスベクタープラスミドの5'LTRのU3をCMVプロモーターに置換し、3'LTRのU3に変異を加えてそのプロモーター活性を無力化してもよい。このようなレンチウイルスベクタープラスミドをSIN(self inactivating)プラスミドと呼ぶ。5'LTRのU3をCMVプロモーターに置換した場合、tatは不要であり、パッケージングプラスミドからtatを除くことができると報告されている(MIYOSHI et al., J. Virol., 70, 8150, 1998; Dull et al., J. Virol., 72, 8463, 1998.)。第三世代レンチウイルスベクターはtatを含んでいないtat非依存性レンチウイルスベクターシステムとされている。
【0034】
図1-1に、代表的な第一世代レンチウイルスベクターシステム、第二世代レンチウイルスベクターシステム、第三世代レンチウイルスベクターシステムの構成を示す(Biochem J. (2012)443, 603-618より改変)。また、図1-2にVSV-G及びrevが1つのプラスミド中に含まれる第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構成を示す。
【0035】
本発明においては、好ましくは第二世代レンチウイルスベクターシステム、または第三世代レンチウイルスベクターシステムを用いる。第二世代レンチウイルスベクターシステムはレンチウイルスベクターの産生量が高いという利点があり、第三世代レンチウイルスベクターシステムは安全性が高いという利点がある。
【0036】
本発明の方法においては、上記のレンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドを293T細胞でコトランスフェクトする際に、細胞中で同時にTax、NF-κB RelAなどの転写因子、Tat等を共発現させる。
【0037】
TaxはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)ウイルス遺伝子の転写活性化因子であり、AP-1、NF-κBおよびCREB/ATF等の転写因子を活性化し、活性化された転写因子がCMVプロモーター等のプロモーター中の結合配列に結合することによりプロモーターに作用して293T細胞にコトランスフェクトしたレンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドの発現を促進することにより、レンチウイルスベクターの産生を増強する。
【0038】
Taxを共発現させるには、レンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドの他に、Taxタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを293T細胞に共トラスフェクトして、共発現させればよい。発現ベクターとてレンチウイルスベクター以外のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ガンマレトロウイルス等を用いることもできる。Tax発現ベクター中のプロモーターも限定されず、CMVプロモーター、CMV-iプロモーター(hCMV + イントロンプロモーター)、SV40プロモーター、EF1αプロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、組織特異的なプロモーター等を用いることができる。発現は一過性の発現でもよいし、恒常的な発現でもよい。恒常的な発現は、例えば、Taxタンパク質をコードする核酸を293T細胞のゲノムに組込めばよい。
【0039】
HTLV-1 Taxは強力なウイルストランス作用性タンパク質であるため、そのトランス作用性機能が十分であれば、レンチウイルスベクター粒子への組み込みは、標的細胞において望ましくない効果を引き出す可能性がある。本発明の方法においては、Taxはレンチウイルス粒子内への取り込みは認めない。
【0040】
さらに、レンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミド中のCMVプロモーター等のプロモーターに作用する転写因子を共発現させてもよい。
【0041】
CMVプロモーター等のプロモーターにAP-1、NF-κBおよびCREB/ATF認識部位が存在するため、Taxをレンチウイルスベクター産生に利用することができる。これは、Taxがこれらの転写因子をすべて活性化するためである。少量のTaxを同時発現させると、産生細胞におけるGagの発現およびレンチウイルスベクター粒子の放出の両方が著しく増加し、形質導入効率が10倍を超えて増加する。活性化される転写因子の候補として、AP-1、NF-κBおよびCREB/ATFが挙げられる。上記のように、Taxは、AP-1、NF-κBおよびCREB/ATF等の転写因子を活性化し、活性化された転写因子がCMVプロモーター等のプロモーターに作用する。これらの転写因子を共発現させてもよく、これらの転写因子を共発現させた場合293T細胞中の転写因子の量が増加し、Taxにより活性化されやすくなり、結果的に293T細胞にコトランスフェクトしたレンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドの発現が促進され、レンチウイルスベクターの産生が増強されると期待できる。この場合、NF-κBは、転写活性化ドメインを含むNF-κB RelAを発現させればよい。
【0042】
また、Taxと共に、あるいはTaxと転写因子と共に、Tatを共発現させてもよい。TaxとTatを共発現させることにより、レンチウイルス産生が相加的に増強される。第三世代のレンチウイルスベクターシステムにはTat非依存性レンチウイルスベクターシステムであるが、第三世代のレンチウイルスベクターシステムにおいても、TaxおよびTatの共発現によりレンチウイルスベクター産生が増強される。
【0043】
転写因子およびTatの発現は、Taxの発現と同様の方法で行うことができる。すなわち、各タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを293T細胞に共トラスフェクトして、共発現させればよい。この際、それぞれを含む異なる複数のベクターを用いてもよいし、Tax、転写因子およびTatの2つ以上または全部を含むベクターを用いて共発現させてもよい。各プラスミドの投入量は適宜設定すればよく、Tax、TatおよびNF-κB RelAをコードする核酸をベクター量換算で同量、あるいは2から3倍程度の量比になるようにトランスフェクトすればよい。例えば、12 well plateを用いて共トラスフェクトする場合、TaxまたはTatをコードする核酸を含むベクターは0.1μg/12 well程度、NF-κB RelAをコードする核酸を含むベクターは0.1~0.2μg/12 well程度トランスフェクトすればよい。
【0044】
また、Tax、転写因子およびTatの少なくとも1つを同時発現させる場合、レンチウイルスの産生量が増大するので、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドの量を減らすことができる。例えば、従来法(レンチウイルスベクターの作製方法 三好浩之 http://cfm.brc.riken.jp/wp-content/uploads/Subteam_for_Manipulation_of_Cell_Fate_J/Protocols_J_files/Lentiviral%20vector%20prep.pdf)に比較して、1/2~1/3量で用いても従来法と同等以上のレンチウイルス産生量を達成することができる。この理由として、レンチウイルスベクター構成要素を発現させるためのプラスミド量を減らすことでレンチウイルスベクター産生細胞の状態がよくなること、およびCMV enhancer/promoterを活性化するだけで十分な最大効果が得られることが考えられる。
【0045】
上記のように、レンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドをパッケージング細胞である293T細胞にコトランスフェクトし、さらに、Tax、あるいはTaxとTatおよび/または転写因子を共発現させればよい。具体的には、Tax単独、RelA単独、TaxとTatの2種類、TaxとRelAの2種類、TatとRelAの2種類、TaxとTatとRelAの3種類を共発現させればよい。
【0046】
293T(HEK293T)細胞は、ヒト胎児の腎由来の細胞株である293細胞(HEK293細胞)の派生株であり、SV40 Large T抗原を発現する細胞株である。293T細胞は、市販されており、ATCC(American Type Culture Collection)等から入手可能である。本発明においては、293T細胞由来の派生細胞も用いることができ、そのような細胞として、Lenti-X(商標)293T細胞(タカラバイオ株式会社)が挙げられる。本発明においては、このような293T細胞の派生株も293T細胞と呼ぶ。
【0047】
プラスミドによる293T細胞のトランスフェクトは、公知の方法で行うことができる。例えば、遺伝子導入試薬を用いた方法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。遺伝子導入試薬としては、ポリエチレンイミン(PEI、直鎖型もしくは分岐型)や市販の遺伝子導入試薬が挙げられる。市販の遺伝子導入試薬として、Lipofectamine(登録商標)、Lipofectamine plus(登録商標)、jet PEI(登録商標)、TransIT(登録商標)、Xfect(商標)、Transfectin-Lipid(登録商標)、Oligofectamine(登録商標)、siLentFect(登録商標)、DMRIE-C(登録商標)、Effectene(登録商標)、FuGENE(登録商標)等を挙げることができる。ポリエチレンイミン(PEI)には、直鎖PEIと1級、2級、3級アミンを含む分岐PEIとが存在するがいずれも用いることができる。また、PEIの分子量も限定されない。さらに脱アシル化等の化学修飾されたPEIも用いることができる。
【0048】
293T細胞にコトランスフェクト後、数日間の培養後に培養上清を回収し、培養上清からレンチウイルス粒子を回収する。293T細胞の培養に用いる培地、培養条件は通常の動物細胞の培養に用いる培地、条件である。レンチウイルスを産生するための培養期間は、例えば12~72時間、好ましくは24~48時間である。この際、十分なタイターのウイルスベクターを回収するために、培養上清のタイター(力価)を測定するのが好ましい。ここで、十分なタイターとは、1×105IFU/mL以上、好ましくは5×105IFU/mL以上をいう。タイターは、リアルタイムRT-PCR、P24の測定ELISA、フローサイトメトリー等を用いて測定することができる。また、得られたレンチウイルスベクターの量を細胞への形質導入効率により確認することができる。
【0049】
本発明の方法により、レンチウイルスの産生量は、細胞、例えばルシフェラーゼレポーターアッセイによるMT-4細胞への形質導入効率を指標にした場合に、少なくとも3倍、好ましくは5倍、さらに好ましくは8倍、さらに好ましくは12倍、さらに好ましくは14倍、さらに好ましくは16倍、さらに好ましくは18倍、さらに好ましくは20倍、さらに好ましくは22倍、さらに好ましくは24倍増強される。Tax、Tat、転写因子の2種類または3種類を共発現させた場合の増強効果が大きく、TaxおよびTatを共発現させた場合には少なくとも5倍、TaxおよびRelAを共発現させた場合には少なくとも12倍、TatおよびRelAを共発現させた場合には少なくとも16倍、TaxおよびTatおよびRelAを共発現させた場合には、少なくとも22倍増強される。
【0050】
回収したレンチウイルスベクターは、超遠心分離等により濃縮、精製して用いることもできる。
得られたレンチウイルスベクターは、凍結保存すればよい。
【0051】
このようにして得られたレンチウイルスベクターは、増殖中の細胞、増殖停止中の細胞を問わず哺乳類細胞への遺伝子導入に用いることができ、導入した遺伝子は宿主細胞のゲノムに安定に組込まれ、長期間の遺伝子発現が可能になる。従って、遺伝子治療用ベクターとして好適に用いることができる。
【0052】
本発明は、293T細胞を用いたレンチウイルスベクターの産生を増強するための試薬またはキットを包含する。
【0053】
該試薬またはキットは、上記のレンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミドおよびレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミド(レンチウイルスベクタープラスミド)を含むパッケージングミックスとHTLV-1 Taxを発現する発現ベクターを含む。該試薬またはキットは、さらにAP-1、NF-κBおよびCREB/ATFからなる群から選択される転写因子を発現する発現ベクターおよび/またはHIV-1 Tatを発現する発現ベクターを含んでいてもよい。
【実施例
【0054】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[実施例1] HTLV-1 Taxによるレンチウイルスベクター産生の増強
材料および方法
細胞
10%ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク)で細胞株HEK293T(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)を培養した。MT-4細胞は、10%FBS、100U/mlのペニシリンおよび100μg/ mlのストレプトマイシンを補充した完全RPMI 1640培地(ナカライテスク)中に維持した。
【0056】
プラスミド
pCSII-CMV-MCS-IRES2-Bsd、pCAG-HIVgp、pCMV-VSV-G-RSV-Revは、文部科学省国立バイオ・リソース・プロジェクトを通じて理研BRCより提供された。pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdを生成するために、pCSII-CMV-MCS-IRES2-BsdおよびpCMV-lucをXhoIおよびNotIで消化した。次いで、pCMV-luc由来のホタルルシフェラーゼ遺伝子を保持するXhoI-NotIフラグメントをpCSII-CMV-MCS-IRES2-BsdのXhoI-NotI部位に挿入した。得られたプラスミドをpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdと命名した。pHCMV-VSV-GはDr. I.S.Y. Chenより供与された。pCMVdeltaR8.2、pCMV-Neo-Bam-Tax、pCMV-Neo-Bamは、Yamaoka, S. et al., Cell 93, 1231-1240 (1998); Naldini, L. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 93, 11382-11388 (1996);Hironaka, N. et al., Neoplasia 6, 266-278, doi:10.1593/neo.03388 (2004); Baker, S. J. et al., Science 249, 912-915 (1990) に記載の方法で調製した。
また、pH2RneoTax、pSV2TatおよびpRC/CMVRelAは、それぞれ、Yamaoka et al., EMBO J. 15, 873-87, 1996; Subramani S et al., Mol. Cell. Biol., 1, 854, 1981;Schmitz and Baeuerle, EMBO J., 10, 3805-3817,1991に記載の方法で調製した。
【0057】
ウエスタンブロッティング
溶解緩衝液(25mM Tris, pH7.8, 8mM MgCl2,1mM DTT、1%Triton-X100,15%グリセロール)を用いて細胞溶解物を調製した。タンパク質濃度はBradfordアッセイによって決定した。タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に移し、Taxに対するマウスモノクローナル抗体(MI73)(Mori, K. et al., The Journal of general virology 68 (Pt 2), 499-506, doi:10.1099/0022-1317-68-2-499 (1987).)、HIV-1 p24に対するマウスモノクローナル抗体(39/5.4A、Abcam, Inc.)、シクロフィリンAに対するウサギポリクローナル抗体(BML-SA296、Enzo Life Sciences、Inc.)またはαチューブリンに対するマウスモノクローナル抗体(DM1A、Sigma-Aldrich Co.)と反応させた。その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ウサギ抗マウスIgG(A206PS、American Qualex International Inc.)またはヤギ抗ラットIgG(sc-2006、Santa Cruz Biotechnology)と共に膜をインキュベートし、Western Lightning Plus-ECL(PerkinElmer)によりタンパク質を視覚化した。
【0058】
ウイルス液の準備
Taxの存在下でのレンチウイルスベクターの産生のために、PEI(ポリエチレンイミン)を用いて6-well plate当たり1.4μgのpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd、0.9μgのpCMVdeltaR8.2および0.4μgのpHCMV-VSV-GをpCMV-Neo-Bam-Taxおよび/またはpCMV-Neo-Bamとコトランスフェクトした。上清中のウイルスを、トランスフェクションの48時間後に収穫した。上清中のHIV-1キャプシド(CA)の量を、HIV-1 CA(p24)ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)(ZeptMetrix Corporation)によって定量した。
また、Tax、TatまたはRelAを単独で、2種類を組合せて、あるいは3種類すべてを共発現させた。Tax、TatまたはRelA単独共発現、Tax、TatおよびRelAのうち2者共発現、Tax、TatおよびRelA3者共発現での第3世代レンチウイルスベクター産生量への効果は、PEIを用いて24-well plate当たり0.14μgのpCAG-HIVgp、0.14μgのpCMV-VSV-G-RSV-Rev、0.24μgのpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdと、それぞれの発現ベクターあるいはそのコントロール空ベクター(EV1、EV2およびEV3)を0.05μgコトランスフェクトした。
【0059】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
レンチウイルスベクターを感染させた24穴プレート中の約2×105個のMT4細胞は、感染24時間後に回収し、溶解緩衝液(25mMトリスpH7.8, 8mM MgCl2, 1mM DTT, 1%Triton-X100, 15%グリセロール)で溶解後、ルシフェラーゼ活性を測定した。ホタルルシフェラーゼ活性は、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステム(Promega Corp.)に従って測定した。
ルシフェラーゼの活性は、Bradfordアッセイによって決定されたタンパク質濃度に対して標準化された。
【0060】
レンチウイルスベクターの精製
2mlの20%スクロース溶液をモデルSW55超遠心チューブの底に入れ、2mlのレンチウイルスベクター含有培養上清で重層した。次いで、試料を4℃、35,000rpmで60分間遠心分離した。ペレット化可能画分をPBS(-)に再懸濁し、ウエスタンブロッティングを行った。
【0061】
結果
HTLV-1 Taxは、レンチウイルスベクター産生を強く増強する。
HEK293T細胞によるレンチウイルスベクターの産生は、ホタルルシフェラーゼ(pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd)、パッケージングプラスミド(pCMV deltaR8.2)および水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質を発現するプラスミド(pHCMV-VSV-G)を発現することができるレンチウイルストランスファーベクターをHEK293T細胞にCV(control vector:空ベクター)とコトランスフェクトすることにより行った。
【0062】
さらに、AP-1、NF-κBおよびCREB/ATFを同時に活性化するタンパク質は、効率的にレンチウイルス産生を増加させると仮定した。そのような候補タンパク質は、HTLV-1 Taxであり、AP-1、NF-κBおよびCREB/ATF19を含むいくつかの細胞転写因子を活性化することがよく知られている(Currer et al., Frontiers in Microbiology, 3, article 406, 2012)。以前の研究は、TaxがHEK293細胞でCMVプロモーターを活性化したが、HEK293T細胞では活性化しなかったことを報告している(Lwa, T.R. et al., Biotechnology progress 27, 751-756, doi:10.1002/btpr.571 (2011).)。しかし、本発明者らは、TaxがHEK293T細胞においてCMVプロモーターを強く活性化することを見出した。具体的には、約2×105個のHEK293T細胞に、レポーターベクターとして0.1μgのpCMV-lucおよび0.2μgのpCMV-Neo-Bam-Tax(Tax)または対照ベクター(CV)としてpCMV-Neo-Bamによりコトランスフェクトした。30μgの細胞溶解物を、抗HTLV-1Taxまたは抗-α-チューブリン抗体を用いたウエスタンブロッティングに供した(図2下のパネル)。図2上のパネルは、ルシフェラーゼアッセイの結果をCVと比較した倍数で示す。バーは、3つの独立した実験から計算された標準誤差を示す。
【0063】
およそ1.5×106個のHEK293T細胞に、0.4μgのpHCMV-VSV-G、0.9μgのpCMVΔR8.2および1.4μgのpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdを、CVまたは順次増量させたpCMV-Neo-Bam-Taxのいずれかとコトランスフェクトした。エフェクタープラスミドの総量は0.4μgに調整した。トランスフェクションの48時間後に、レンチウイルスベクター含有培養上清を採取した。培養上清に曝露されたMT-4細胞における形質導入効率を、曝露の24時間後に評価した。ルシフェラーゼ活性はタンパク質濃度を用いて補正し、結果を対照(0μgのpCMV-Neo-Bam-Tax)と比較して倍数として示す。3回の独立した実験から計算された平均値および標準誤差が示されている。以後、レポーターアッセイの結果はタンパク質濃度を用いて補正した。レンチウイルスベクター産生細胞におけるTaxの共発現は、図3の感染細胞におけるルシフェラーゼ活性が示すように、レンチウイルスベクター産生の最大12倍の増加が認められた。
【0064】
トランスフェクションの48時間後に図3に示すトランスフェクト細胞を回収した。 同じセットの30μgの溶解産物を、抗HTLV-1 Taxおよび抗-α-チューブリン抗体または抗HIV-1p24および抗シクロフィリンA抗体を用いたウエスタンブロッティングに供した。図4に示すように、ウエスタンブロッティングにより、産生細胞におけるTax発現の用量依存的増加が確認された。産生細胞におけるGagの発現レベルは、レンチウイルスベクター形質導入の結果とよく相関した。
【0065】
Taxが産生細胞からのウイルス放出を増加させるかどうかを評価するために、特異的ELISAを用いてHIV-1 Gagの濃度を測定した。トランスフェクトした細胞の上清中のGagタンパク質の量をHIV-1 CA(p24)ELISAで定量し、その結果を対照(0μgのpCMV-Neo-Bam-Tax)と比較した倍数で示す。3つの独立した実験から計算された平均値および標準誤差が示されている。図5に示すように、上清中のGagの量は、Taxの存在下で同様に上昇し、産生細胞における形質導入効率およびGag発現レベルとよく相関した(図3および4)。
【0066】
最後に、安全性と汚染除去の観点から、Taxがレンチウイルスベクター粒子に組み込まれているかどうかを検討した。
【0067】
HTLV-1 Taxは強力なウイルストランス作用性タンパク質であるため、そのトランス作用性機能が十分であれば、レンチウイルスベクター粒子への混入は、標的細胞において望ましくない効果を引き出す可能性がある。
【0068】
培養上清中のウイルス粒子を、スクロースクッションを通してペレットとして超遠心分離によって回収した。すなわち、20%スクロースによる超遠心分離により、レンチウイルス粒子を回収した。次いで、細胞溶解物およびペレット化ウイルス粒子の両方をウエスタンブロッティングに供した。同じセットの30μgの溶解産物を、抗HTLV-1 Taxおよび抗-α-チューブリン抗体もしくは抗HIV-1p24および抗シクロフィリンA抗体でウエスタンブロッティングに供した。図6に示すように、Taxタンパク質は、超遠心分離によって得られたペレットにおけるウエスタンブロッティングによって検出されなかった。この結果は、Taxがレンチウイルスベクター粒子に取り込まれる可能性が著しく低いことを示唆している。
【0069】
本実施例は、HTLV-1 Taxなどの転写活性化因子の共発現が、産生細胞におけるウイルスタンパク質の発現を増強することによってレンチウイルスベクター産生を大幅に改善することを示した(図2~6)。Taxは、CMVプロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子発現を増強し(図2)、さらに産生細胞におけるGag発現を増強した。これは、レンチウイルスベクター形質導入の結果とよく相関した(図3および4)。本実施例における実験環境において、CMVプロモーターは、レンチウイルストランスファーベクター(pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd)、パッケージングプラスミド(pCMVdeltaR8.2)およびエンベロープを発現するプラスミド(pHCMV-VSV-G)を駆動する。したがって、これらの結果は、これらのプラスミドからの遺伝子発現の増強が、レンチウイルスベクターの効率的な産生をもたらしたことを強く示唆する。しかしながら、正式には、Taxが、ある種の宿主HIV-1依存性因子の発現を活性化し、次いで、増強されたレンチウイルス発現に寄与する可能性もあり得る。注目すべきことに、Tax発現ベクター0.4μgをコトランスフェクトした場合、レンチウイルスベクター産生はピークから低下した(図3)。この結果は、過剰量のプラスミドは、レンチウイルスベクター産生に悪影響を及ぼし得ることを示す。実際、このような条件下では、産生細胞におけるGagの発現は減少した(図4)。
【0070】
[実施例2] HTLV-1 Tax、TatまたはNF-κB RelAの単独で又は同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強
次いで、第3世代レンチウイルスベクターシステムpCAG-HIVgp、pCMV-VSV-G-RSV-Rev、pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdを用いて、以下の組み合わせの共発現によるレンチウイルスベクター産生増大効果を、MT4細胞におけるルシフェラーゼ活性を指標に検討した(図7)。
【0071】
図7-1に、Tax単独共発現(図7-1A)、Tat単独共発現(図7-1B)および RelA単独共発現(図7-1C)での第3世代レンチウイルスベクター産生量への効果を示す。
【0072】
図7-2に、Tax, Tat, RelAのうち2者共発現(図7-2A;TaxおよびTat、図7-2B;TaxおよびRelA、図7-2C;TatおよびRelA)での第3世代レンチウイルスベクター産生量への効果を示す。
【0073】
図7-2Dに、Tax、Tatおよび RelA3者共発現での第3世代レンチウイルスベクター産生量への効果を示す。
【0074】
図7-1に示すように、単独共発現の場合、Taxで4.8倍、Tatで5.1倍、RelAで15.6倍のレンチウイルスベクター産生増大効果が得られ、また、図7-2に示すように、2者共発現の場合、Tax + Tatで5.8倍、Tax + RelAで14.0倍、Tat + RelAで17.1倍のレンチウイルスベクター産生増大効果が得られ、3者共発現の場合、Tax + Tat + RelAで24.9倍のレンチウイルスベクター産生増大効果が得られた。倍率は空ベクター(EV1、EV2およびEV3)を用いた場合の値に対するfold inductionを示す。
【0075】
[実施例3] TatまたはNF-κB RelAの単独で又は同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強
(1) Human Embryonic Kidney (HEK) 293T細胞をコラーゲンでコートした24-wellプレートに、0.5 mLの10%牛胎児血清入りDMEMを用いて3.0 × 105 細胞/wellで播種・接着させた。
(2) 2時間後に、以下のプラスミドをOpti-MEM(Gibco) 900μLと混合し、1μg/μL Polyethylenimine (PEI)を30μL加え30分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 0.25 μg pCAG-HIVgp
(ii) 0.125 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 0.375 μg pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd
(iv) 0.05 μg pSV2TatもしくはpSV2
(v) 0.025 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV(Invitrogen社製)
pSVプラスミドの構造を図8に示す。
(3) 24時間後、培養液を交換した。
(4) 48時間後にレンチウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.22μmフィルター(Millex)濾過後、直ちにそのうち100μLを用いて2 × 105 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
(5) 24時間後、MT4細胞を遠心回収し、TritonX 1%を含むバッファー(25mMトリスpH7.8,8mM MgCl2,1mM DTT,1%Triton-X100,15%グルセロール)50μLで溶解した。遠心後、その20μLを用いて実施例2と同様にルシフェラーゼアッセイを行い、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステムに従って測定した。
【0076】
図9に(iii)のトランスファープラスミド(導入遺伝子を含むウイルスベクターのゲノムを発現)の構造を示す。図10にルシフェラーゼアッセイの結果を示す。図10に示すようにTat単独発現で4倍程度、RelA単独発現で5倍程度、両者共発現で11倍程度、感染標的細胞における遺伝子(ルシフェラーゼ)発現量が増加した。
【0077】
[実施例4] レポーター遺伝子としてVenusを用いた場合のTat、RelA、Tat+RelAを共発現させた場合の測定力価
(1) Human Embryonic Kidney (HEK) 293T細胞をコラーゲンでコートした24-wellプレートに、0.5 mLの10%牛胎児血清入りDMEMを用いて3.0 × 105 細胞/wellで播種・接着させた。
(2) 2時間後に、以下のプラスミドをOpti-MEM 900μLと混合し、1μg/μL Polyethylenimine (PEI)を30μL加え30分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 0.25 μg pCAG-HIVgp
(ii) 0.125 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 0.375 μg pCSII-CMV-HSVTK -IRES2-Venus
(iv) 0.05 μg pSV2TatもしくはpSV2
(v) 0.025 μg pRC/CMVhRelAもしくはpRC/CMV
【0078】
pCSII-CMV-HSVTK -IRES2-Venusは以下の方法により作製した。
CSII-CMV-RfA-IRES2-Venus (from Dr. Hiroyuki Miyoshi, RIKEN)のNheI認識サイトとBamHI認識サイトの間に、pNL4-3tk (Hori et al., JVI 2013) を鋳型にPCRにより増幅したHSV-1由来のTK (thymidine kinase) DNA断片を挿入した。
PCRで使用したプライマーは、以下の通りであった。
5’-TK in CSII NheI: GCTCTAGAGCTAGCATGGCTTCGTACCCCTGCCATCAACAC(配列番号3)
3’-TK in CSII BamHI: CGCGGATCCTCAGTTAGCCTCCCCCATCTCC(配列番号4)
(3) 24時間後、培養液を交換する。
(4) 48時間後にレンチウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.22μmフィルター濾過後、直ちに培養上清を8分の1から64分の1まで2倍ずつ段階希釈してそのうち10μL用いて1 × 105 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
(5) 48時間後、FACS解析装置(BECTON DICKINSON社のFACSCalibur)用いてVenus蛍光陽性細胞の割合を測定した。
【0079】
図11に(iii)のトランスファープラスミド(導入遺伝子を含むウイルスベクターのゲノムを発現)の構造を示す。
【0080】
図12にレポーター遺伝子としてVenusを用いた場合の力価測定法の概要を示す。
【0081】
図13及び図14に力価測定の結果を示す。図13は力価の絶対値(レンチウイルスベクターの力価)を示し、図14はコントロールベクターを用いた場合の力価を100%とした場合の力価の増加程度を示す。図13及び14に示すようにTat単独で3倍程度、RelA単独発現で4倍程度、両者共発現で6倍程度の力価上昇が見られ、2 × 107 Transduction Unit (TU)/mLの高力価を達成した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の方法により、遺伝子治療等に用い得る遺伝子導入用のレンチウイルスベクターを安全に高い効率で産生することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
配列番号1 プライマー
配列番号2 プライマー
配列番号3 プライマー
配列番号4 プライマー
【0084】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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