(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】食品の粘度を増加させる添加剤としての、押し出された果物および/または野菜の廃棄物の使用
(51)【国際特許分類】
A23L 29/206 20160101AFI20240815BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20240815BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20240815BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240815BHJP
【FI】
A23L29/206
A23L21/10
A23L11/00 Z
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2021560460
(86)(22)【出願日】2020-04-04
(86)【国際出願番号】 PL2020050026
(87)【国際公開番号】W WO2020209738
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】521442040
【氏名又は名称】ルトカラ エスピー.ゼット オー.オー.
(74)【復代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】ウカ,ダリウシュ
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103564281(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第00912614(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0028426(US,A1)
【文献】特開昭61-260846(JP,A)
【文献】特開昭62-036155(JP,A)
【文献】特開平06-256402(JP,A)
【文献】特開昭63-216442(JP,A)
【文献】特公昭48-012992(JP,B1)
【文献】JAE-KWAN HWANG, et al.,Extrusion of Apple Pomace Facilitates Pectin Extraction,JOURNAL OF FOOD SCIENCE,1998年,Vol.63, No.5,pp.1-4
【文献】Acta Alimentaria,2014年,Vol.43, Issue.Supplement-1,pp.140-147,<DOI: 10.1556/aalim.43.2014.suppl.20>
【文献】Progress in Biotechnology,1996年,Vol.14,pp.425-437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の粘度を増加させるための添加剤として、テンサイ
パルプおよび/またはリンゴの絞りかすおよび/またはスグリの絞りかすおよび/またはチョークベリーの絞りかすおよび/または大豆の絞りかすから選択される、105℃~180℃で押し出された果物および/または野菜の廃棄物の使用
であって、得られた押し出し物の使用により、押し出されていない乾燥廃棄物の使用よりも食品の粘度が高くなる、使用。
【請求項2】
果物および/または野菜の廃棄物は、140℃~160℃の温度で押し出された、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
果物および/または野菜の廃棄物が、押し出される前に18~20重量%の含水率にされた、請求項1~2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の粘度を増加させるために添加剤として使われる、果物および/または野菜から押し出された廃棄物の使用に関する。
【0002】
ジャムおよび果物の砂糖漬け(preserves)は砂糖および/またはペクチンで濃くする。仮定として市販のジャムより健康的でおいしいと思われる手製のジャムを作る場合、ゲル化糖が使用される。最終製品は、市販の物よりもゲル化糖を多く含むことが多い。ゲル化混合物またはゲル化糖に必要な最低糖分は、1kgの果物当たり350gである。また、ほとんど全てのゲル化混合物およびゲル化糖はさらに、通常ソルビン酸またはソルビン酸カリウムである防腐剤を含む。ゲル化糖とゲル化混合物の代替案は、長時間(時には数日)にわたって果物を煮る、または果物から分泌された果汁を採取することである。この解決策は、満足できるものではない。第1に、上記解決策は、数日にわたって果物の1つのバッチを調理することを必要とし、また、第2に、栄養的価値はそのような長時間の調理の後に失われる。
【0003】
この理由で、ペクチンを加えるのはさらにより優れた解決策である。ペクチンは、家庭と業界の両方で一般に使用されている。
【0004】
ペクチンは、多数の植物の細胞壁に確認される炭水化物の混合物である。ペクチンは、一般に可変組成の多糖およびオリゴ糖である。ペクチンは、主にα-1,4-グリコシド結合によって連結されたDガラクツロン酸ユニットを含み、大部分はメチル基でエステル化されたポリウロナイドである。栄養的には、人間にとって、ペクチンは食物繊維(ballasts)である。栄養の点では、ペクチンは可溶性食物繊維フラクション(soluble dietary fiber fraction)である。多くの微生物がペクチンを分解することができる。ペクチンには、エステル化の程度によって2つのフラクションがある:
-ガラクツロン酸残留物のカルボキシ基の>50%がエステル化されている、高メチル化HM(または高エステル化 HE)
-エステル化の程度が50%未満である、低メチル化LM(または低エステル化LE)。
【0005】
ペクチンの共通の特徴は酸性条件下でゲルを形成する能力を有することである。ゲル化能力は、ペクチンメチル化の程度による。ペクチンは増粘剤として食品産業で使用される。数ある中で、ペクチンはジャムおよび果物スプレッド(fruit spreads)の固化の原因である。
【0006】
ペクチンは3つの主な炭水化物の種類からなる:
-ホモガラクツロナン酸―ガラクツロン酸残体で構成される多糖
-ラムノガラクツロナンI(rhamnogalacturonate I)―二量体(ラムノース+ガラクツロン酸)からなる多糖
-ラムノガラクツロナン-II(rhamnogalacturonate II)―分枝多糖。
様々な植物中のペクチン含量:
りんご:1~1.5%
アンズ:1%
チェリー:0.4%
オレンジ:0.5~3.5%
ニンジン:1.4%
柑橘類の皮:30%
【0007】
GB 461200特許明細書には、リンゴの絞りかす(pomace)からペクチンを生産する方法が開示され、方法は、絞りかすを希塩酸を用いて抽出する工程、抽出物を濃縮する工程、アルコールを用いてペクチンを沈殿する工程、乾燥させる工程、および粉砕する工程からなる。しかしながら、上記抽出プロセスの条件は、配糖体の加水分解およびアグリコン分解を含む。
【0008】
ジャーナルであるInnovative Food Science Emerging Technologies 4 (2003) 99-1077およびWO 01788 53A1特許明細書には、塩酸でpH2.8に酸性化したリンゴの絞りかすエキスからペクチンとポリフェノールを回収するプロセスが開示され、上記エキス、吸着樹脂ベッド(アンバーライトXAD 16HP)で吸着させ、上記吸着樹脂ベッドから、ペクチンが水で脱着されおよびポリフェノールがメタノールで脱着され、抽出される。ペクチン画分は濃縮され、ペクチンをエタノールで沈殿させ、そして乾燥させ、溶剤はポリフェノールのメタノール溶液から蒸留される。また、残基は、約33%のフロリジンおよび少なくとも20%のケルセチン配糖体を含む約12%のポリフェノール濃縮物を産出するように凍結乾燥される。リンゴの絞りかす、または絞りかすの種芯または茎のインレーの一部から得られる液体および固体のポリフェノール濃縮エキスは、フルーツ調理物(fruits preparation)を豊かにするために使用される。
【0009】
ペクチンは家庭と業界の両方で一般に使用されているが、砂糖を使用する必要がまだある。さらに、果物の絞りかすのような完全に天然な原料の使用にもかかわらず、多くの複雑な技術プロセスおよび化学プロセスを行う必要がある。
【0010】
知られているように、砂糖は特に多量になると、食品の成分としては望ましくない。砂糖漬けの作り方において、家庭レベルでは、我々がある程度の影響力を有するが、一般的に消費されている市販品の場合はそうではない。
【0011】
果実または野菜の絞りかすを食品に加えることも知られているが、絞りかす中のペクチンの低可用性のため、この原料を多量に加える必要があり、その結果、料理の味が変わることが多い。ジャムの中でも濃くするのがより難しいチェリージャムの場合は、リンゴの絞りかすを大量に含むと、望ましいチェリー味がなくなる。
【0012】
食品用および飼料用の原料と生物由来の材料を、高圧下かつ高温で押し出し機を介して、冷却チャンバー(cooling chamber)へポンプする工程は、押し出しと呼ばれる。押し出しは栄養素の消化率を改善するために使用される。
【0013】
押し出し法では以下のようなものが得られる:
-スナック、チップス、シリアルなどの朝食成分、
-ペットおよび魚用飼料
-調理の必要がないインスタントヌードル
-カリカリのパン、
-インスタント飲料および赤ちゃん用の栄養食品、
-複数成分の、高度加工の肉の類似品。
【0014】
精巧な化学処理の使用または砂糖の添加を必要としない、完全に天然な増粘剤を求める必要はまだ残っている。
【発明の開示】
【0015】
記述された最先端技術に照らして、本発明の目的は、示された不便を克服し、複合化学処理の使用を必要としない、完全に天然な粘度を増加させる、食品用の増粘剤を提供することである。また、上記増粘剤は添加糖がなくても、食料粘性を増加する効果を発揮するであろう。
【0016】
驚くことに、化学処理を施しておらず、適切な押し出し処理を行った一部の果物および野菜の廃棄物は、食品の粘度を増加させる優れた添加剤であることが分かった。したがって/その結果、廃棄物は、液体食品の粘度を増加させるために、既知の増粘剤の代わりに使用できる。
【0017】
したがって、本発明は、食品の粘度を増加させる添加剤としての、果物および/または野菜から押し出された廃棄物、すなわちテンサイの絞りかす(marc)および/またはリンゴの絞りかすおよび/またはスグリの絞りかすおよび/またはチョークベリーの絞りかすおよび/または大豆の絞りかすの使用に関する。
【0018】
好ましくは、使用時に使用される果物および/または野菜の廃棄物は、105℃~約180℃の温度、より好ましくは140℃~160℃の範囲で押し出される。
【0019】
好ましくは、使用時に使用される果物および/または野菜の廃棄物含水率を、押し出される前に18~20重量%の範囲にした。
【0020】
選択された果物および/または野菜の乾燥廃棄物は、市販の乾燥物に水を加えるか、または新鮮な絞りかす(pomace)および絞りかす(marc)を18~20%の含水率に乾燥させることにより、18~20%の含水率にされ、加熱したスクリュー式押し出し機に供給される。この押し出し機が、105℃~180℃の温度に加熱される。押し出し工程は、押し出し物を連続的に回収し、次で冷却し、風乾または乾燥させ、その後粉砕し篩いにかけるように行われる。
【0021】
水を加えた後、および押し出し工程の前に、果物の絞りかすは、約1時間放置するのが好ましい。
【0022】
得られた押し出し物は、ジャムを濃くする性能に関して試験された。得られた結果は、選択された製品がペクチンおよび砂糖を完全に置き換えることができることを示している。果物、およびその原料に応じて押し出し物の使用量を変えることで、期待通りの粘度のジャムおよび砂糖漬けが得られる。結果として生じる増粘剤は完全に天然なものであり、化学処理工程は行われていない。その上に、これまで十分に活用されていなかった原料に基づき十分な価値のある(full value)増粘剤が達成された。予想外にも、選択された果物および/または野菜から押し出された廃棄物は、押し出されていない廃棄物と比較して、ジャムなどの食品を濃くする性能が高いことが分かった。加えて、本発明にかかる押し出し物の添加によるジャムをゲル化する能力と、原料のペクチン含有量との間に厳密な相関性はない。したがって、ジャムを濃くする性能は、押し出された原料中のペクチンの実用性の増加によるものではないと仮定することができる。廃棄物の原料に含まれるペクチンの量が多いほど、果物を濃くする性能が高いという仮定は、予想に反していることは分かっている。オレンジの絞りかすは、ペクチンが多く含まれているため理論上は最適な原料となるはずであるが、実際には使用できないことが分かった。
【0023】
得られた押し出し物は、水を含む飲食物、特に好ましくはジャム、ケチャップ、マスタード、ソース、ゼリー、スープ、プリン、乳製品、ヨーグルトなどの粘度を増加させる添加剤として使用することができる。砂糖あるいは化学処理されたペクチンまたは他の増粘剤の代わりに、テンサイの絞りかす、リンゴの絞りかす、スグリの絞りかす、チョークベリーの絞りかす、大豆の絞りかす、またはそれらの混合物の押し出された完全に天然な廃棄物を使用することで、飲食物の粘度を増加させるだけではなく、その味の種類を増やし、中に追加の栄養素、ビタミン、ミネラルを提供することができる。したがって、本発明にかかる押し出し物を使用することで、より環境に優しく、健康的な改良された飲食物が提供される。
【0024】
本発明の目的は、その範囲を制限しない実施例によって説明されている。
【実施例】
【0025】
実施例1
本発明にかかる押し出し物を得るための手順は以下の通りであった:
I 押し出し条件の確立
1. 乾燥絞りかすまたはビートの絞りかすの水分量を試験する。水分量は、原料および産地によって異なり、果物の絞りかすの場合、8重量%~11重量%であった。
2. 10重量%、20重量%、30重量%の水分含量を得るのに必要な量の水を試料に加える。
3. 原料を水と一緒に1時間放置する。
4. 原料を二軸押し出し機に投入し、押し出しヘッドを連続実験で0℃、100℃、105℃、110℃、120℃、140℃、160℃、180℃、および190℃の温度に加熱し、スクリューを800rpmで回転させる。
5. 押し出し物を乾燥しおよび粉砕する
6. プラム、アプリコット、ストロベリーおよびラズベリーのジャムを濃くする試料の性能を試験する。
7. テンサイの絞りかす、リンゴの絞りかす、大豆の絞りかす、スグリの絞りかす、ニンジンの絞りかす、チコリの絞りかす、オレンジの絞りかす、ナシの絞りかすおよびチョークベリーを試験した。
【0026】
水分量が10%の場合、スクリューは原料を押し出し機の中で動かすことができなかった。このため、プロセスを中止した。水分量が30%の場合、押し出しは認められなかった。
【0027】
水の含有量が18重量%~20重量%の場合に最良な結果が得られた。そのため、廃棄物を18~20重量%の必要な湿度になるまで加水する、または乾燥させる必要があった。
【0028】
押し出しが105℃~約180℃の温度で行われることが分かった。上記押し出しは、140℃~160℃で最も有効であった。190℃より上では、絞りかすは焦げた(黒焦げになった)。最も有効と定めた範囲外では、押し出し生成物の増粘性が乏しくなった。
【0029】
押し出し物を回収し、翌日まで開放箱(open box)で放置した。その間に押し出し物を冷やして乾燥させた。翌日、押し出し物を粉砕して、篩いにかけ、更に試験行うために置いておいた。その後、試料が入ったジャムを調理した。
ジャム用の果物を次のグループに分けた:
-押し出された試料を、第1のグループに加えた
-乾燥させた絞りかすを、第2のグループに加えた
-乾燥した絞りかすおよび砂糖を、第3のグループに加えた
-押し出された試料および砂糖を、第4のグループに加えた
-ペクチンを、第5のグループに加えた
【0030】
比較のため、これらのグループに、同量の果物および添加剤を使用し、量は果物によって異なった。新鮮な果物および冷凍の果物の両方を調べ、冷凍の果物は異なる生産者から得たものであり、表にはA、B、Cと記した。
【0031】
結果を以下の表1にまとめる。「b」は添加剤なしを意味する。50.00~30,000mPasの範囲の動的粘度を、回転式粘度計を用いてブルックフィールド法(Brookfield method)により測定した。測定された粘度は、ゲル化能力、すなわちジャムのような食感を持つ生成物を生成する能力の指標であった。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
結果の提示
行った実験から、以下の結論および考察を得た:
-水の含有量が18重量%~20重量%の場合、最も良い結果を得た。
-押し出しは105℃~180℃の温度で行う必要がある、
-押し出し生成物には驚くべき特性がある:
a)一部の押し出し生成物、すなわちオレンジ、ニンジンおよびナシの特性は、原材料に比べて劣っている。
b)原料よりも特性が向上した押し出し生成物は、砂糖(一般的に使用される増粘剤)の添加により特性の劣化を示す。
c)ペクチンを最も多く含むオレンジの絞りかすは、押し出し後に特性の劣化を示す。
【0037】
本発明にかかる押し出し物を使用した増粘食品の特性について行われた試験で示されるように、特性は出発材料の糖分またはペクチン含有量のいずれにも依存せず、押し出し物を使用して水を含有する製品を増粘させるメカニズムは様々であるとともに未知のものであり、出発材料だけではなく適切に実施した押し出し方法にも左右される。